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「第二世代」バイオディーゼル燃料合成の触媒を開発 高活性・高再利用性の固定化触媒による省エネ合成が可能に

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理化学研究所(理研) 環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チームの山田陽一チームリーダー、自然科学研究機構 分子科学研究所の魚住泰広教授、中部大学の樫村京一郎講師、東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の和田雄二教授、九州大学の藤川茂紀准教授らの共同研究グループは、従来の均一系・不均一系触媒よりも高活性(少量の触媒量で高収率)で再利用性の高い固定化触媒[用語1]を開発し、それを用いて「第二世代バイオディーゼル燃料[用語2]」をカーボンニュートラル[用語3]・省資源・省エネで合成することに成功しました。本研究成果は、第二世代バイオディーゼル燃料の効率的な製造プロセス、さらには医薬品合成、有機半導体[用語4]などの有用物質合成の開発に貢献すると期待できます。

地球温暖化対策が喫緊の課題である現在、バイオディーゼル燃料は化石燃料の代替品として期待されています。とくに、第二世代の「炭化水素」は、第一世代の「脂肪酸メチルエステル」に比べてエネルギー効率が高く分解されにくいことから、効率的な製造法に向けて大きな期待が寄せられています。

今回、共同研究グループは、シリコンナノ構造体にロジウムナノ粒子を固定化した触媒(SiNA-Rh)を開発しました。このSiNA-Rhを既存の触媒の30~100分の一である1/2,000モル当量(0.05モル%)用いて、原料のバイオマス[用語5]由来の遊離脂肪酸を水素雰囲気下、マイクロ波照射[用語6]により温度を200 ℃に保ちながら還元反応を行ったところ、対応する炭化水素が90%以上の高収率で得られました。照射したマイクロ波は40 W程度であり、省エネ化が実現できました。さらに、実験を繰り返した結果、SiNA-Rhは高活性のまま20回の再利用が可能であることが分かりました。

本研究は、米国の科学雑誌『ACS Catalysis』に近日掲載予定です。

新たに開発した触媒(SiNA-Rh)を用いた第二世代バイオディーゼル燃料の合成

図. 新たに開発した触媒(SiNA-Rh)を用いた第二世代バイオディーゼル燃料の合成

共同研究グループ

理化学研究所 環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チーム

チームリーダー 山田陽一(やまだ よういち)

研究員 ヒヨル・ベク(Heeyoel Baek)

研究員 佐藤太久真(さとう たくま)

自然科学研究機構 分子科学研究所

教授 魚住泰広(うおずみ やすひろ)

中部大学 工学部

講師 樫村京一郎(かしむら けいいちろう)

講師 藤井隆司(ふじい たかし)

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

教授 和田雄二(わだ ゆうじ)

助教 椿俊太郎(つばき しゅんたろう)

九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所

准教授 藤川茂紀(ふじかわ しげのり)

背景

地球温暖化対策が喫緊の課題である現在、バイオディーゼル燃料は化石燃料を代替する燃料として利用拡大が期待されています。バイオディーゼル燃料は、第一世代の「脂肪酸メチルエステル」と第二世代の「炭化水素」に分類されます。

第一世代は、油脂や遊離脂肪酸とメタノールから触媒を用いて合成されてきましたが、分解されやすいためエンジンが傷みやすい、エネルギー効率が不十分などの問題がありました。第二世代は、一般的に使用されているディーゼル燃料やジェット燃料と同様の化学構造を持ち、これらの問題が解決されています。しかし、これまでの製造法では数モル%と高濃度の触媒を必要とし、触媒の再利用性が低く、20-40気圧の水素下で反応をする必要があり、また数百W程度の大きなエネルギーが必要であるため、より効率的な製造法が求められてきました。

研究手法と成果

共同研究グループは、第二世代バイオディーゼル燃料の合成に利用するため、シリコン基板を用いて太さがナノサイズの細長いワイヤーからなるシリコンナノ構造体を作製し、それにロジウムナノ粒子を担持することで触媒(SiNA-Rh)を調製しました(図1左)。SiNA-Rhの断面を走査型電子顕微鏡[用語7]で観察したところ、高さは5~10マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)、シリコンワイヤーの幅およびワイヤー間の幅はそれぞれ数十~数百ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)でした(図1中)。透過型電子顕微鏡[用語8]でさらに拡大すると、平均粒径4 nmのロジウムナノ粒子がシリコンナノ構造体に担持されていることが分りました(図1右)。

図1. シリコンナノ構造体担持ロジウムナノ粒子触媒(SiNA-Rh)の写真

図1. シリコンナノ構造体担持ロジウムナノ粒子触媒(SiNA-Rh)の写真

左: SiNA-Rhを上から見たところ。直径は2インチ(約5 cm)。
中: SiNA-Rh断面を走査型電子顕微鏡で見た写真。SiNA-Rhの高さは5~10μm、シリコンワイヤーの幅およびワイヤー間の幅はそれぞれ数十~数百nm。
右: 透過型電子顕微鏡写真を用いて、さらに拡大した写真。ロジウムナノ粒子(黒い粒状のもの、平均粒径4 nm)がシリコンナノ構造体に担持されている様子がわかる。スケールバーは20 nm。

次に、開発したSiNA-Rhを用いて、第二世代ディーゼル燃料の合成実験を行いました。合成実験では、バイオマス由来の遊離脂肪酸であるステアリン酸を基質(原料)とし、触媒のSiNA-Rhは原料に対して1/2,000モル当量(0.05モル%)を用いて、水素雰囲気下で、40 W程度のマイクロ波照射により温度を200 ℃に保ちながら、24時間還元反応を行いました。その結果、対応する炭化水素(ヘプタデカン)を90%以上という高収率で得ることに成功しました(図2)。

さらに、SiNA-Rh を20回再利用しても収率は80%以上を維持し、触媒活性の大きな低下は見られませんでした(図2)。また、共生成物として一酸化炭素が生成されましたが、二酸化炭素は検出されませんでした。一酸化炭素は、フィッシャートロプシュ法[用語9]による液体炭化水素合成の原料として利用することができます。使用した水素は、再生可能エネルギー[用語10]からの製造が実現しつつあります。従って、今回開発した第二世代触媒によるバイオディーゼル燃料合成プロセスは、バイオマス由来遊離脂肪酸と再生可能エネルギー由来水素によるカーボンニュートラルかつ省資源、省エネを実現したといえます。

図2. 遊離カルボン酸を基質(原料)とした第二世代バイオディーゼル燃料合成反応

図2. 遊離カルボン酸を基質(原料)とした第二世代バイオディーゼル燃料合成反応


今回開発したSiNA-Rh触媒を原料に対して1/2,000モル用いて、バイオマス由来の遊離カルボン酸と水素を反応させることで、第二世代バイオディーゼル燃料である炭化水素を合成した。その際、40W程度のマイクロ波を照射することで、反応温度を200 ℃に保った。

一方、同じ反応を通常の外部加熱により、200 ℃(オイルバス)および300 ℃(サンドバス)で24時間行っても反応は進行しないことが分かりました。また、マイクロ波照射条件で既存のロジウム触媒(Rh/C、Rh/Al2O3、Rh/Si、塩化ロジウム)を用いてもほとんど反応しないことが判りました。この理由としてシリコンのナノ構造体に起因したマイクロ波効果[用語11]の可能性を実験・計算にて検証しましたが、解明にはさらなる研究が必要と考えています。

今後の期待

本研究により、植物の二酸化炭素固定で生成したバイオマスを原料として、再生可能エネルギーから製造されつつある水素を用いて、マイクロ波による省エネ条件下、第二世代バイオディーゼル燃料と石油原料の一酸化炭素を生産することが可能になりました。

例えば、パーム油などの油脂は、収穫後速やかに搾油しないと分解が始まることから、マレーシアやインドネシアには、油脂分解により大量に生じた遊離脂肪酸が未使用のまま残っているといわれています。本手法を用いれば、この遊離脂肪酸が一つの工程でバイオエネルギーに変換できるため、その応用につながると期待できます。

また、世界最先端の技術を持つ日本のマイクロ波産業との連携を進めることで、産業応用を志向したバイオディーゼル燃料合成が可能になると期待できます。さらに、この反応プロセスを改良することで、医薬品合成、有機半導体などの有機機能性物質の合成に向けた、触媒とマイクロ波の連携による新しい化学プロセスを開発できると考えています。

用語説明

[用語1] 固定化触媒 : 触媒反応部位が不溶性の担体に固定化された触媒のこと。ここではロジウムナノ粒子がシリコンナノ構造体に固定されている。

[用語2] 第二世代バイオディーゼル燃料 : 第一世代バイオディーゼル燃料は、脂肪酸メチル(FAME, fatty acid methyl ester)であり、安定性、低温流動性などの面で問題がある。一方、脱酸素された炭化水素である第二世代バイオディーゼル燃料は、安定性が向上している。

[用語3] カーボンニュートラル : 地球上の生命循環において、二酸化炭素の吸収と排出の収支がゼロであること。化石燃料と異なり、バイオマス由来の燃料の利用はカーボンニュートラルとされる。

[用語4] 有機半導体 : 通常使われる半導体材料はシリコン(Si)などの無機化合物であり、優れた半導体特性を示す一方で、重くて硬く、製造に高価な真空プロセスが必要である。Siの同族元素である炭素(C)を基本とするのが有機半導体である。

[用語5] バイオマス : 再生可能な生物由来の有機性資源のうち化石資源を除いたもの。有機物であるバイオマスは、燃焼させると二酸化炭素を発生させる。しかし、この二酸化炭素に含まれる炭素は、そのバイオマスが生育過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素に由来する。よって、バイオマス資源の利用は全体としてみれば、大気中の二酸化炭素量を増加させていないといえる。

[用語6] マイクロ波照射 : 通常の外部加熱は、炎、蒸気、オイルバスなど熱伝導・対流を介して、物質の温度を上昇させる。よって物質の外部から温度が上昇する。一方、マイクロ波照射によるマイクロ波加熱は、いわゆる電子レンジの加熱方法と同様で、2.45 GHzのマイクロ波を照射することにより誘電加熱が起こり、物質の分子が振動して物質の外部から内部まで加熱が起こる。

[用語7] 走査型電子顕微鏡 : 絞った電子線ビームを試料に照射することで生じる二次電子線を検出して、表面像を取得する装置。試料表面の微細構造を観察するために用いられる。

[用語8] 透過型電子顕微鏡 : 通常の光学顕微鏡では可視光を試料に当てて観察するのに対し、電子顕微鏡では電子線を当てて観察する。電子線の波長は可視光よりもはるかに短いため、理論上0.1 nm程度の分解能が得られ、生体分子やその複合体の構造解析に用いられる。

[用語9] フィッシャートロプシュ法 : 一酸化酸素と水素から石油(炭化水素)を合成する化学プロセスのこと。

[用語10] 再生可能エネルギー : 太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどから作られるエネルギーのこと。

[用語11] マイクロ波効果 : 通常の外部加熱では反応が起こらないのに対し、マイクロ波照射により同じ温度で反応を行うと反応が進行するなど、熱では説明できない効果のこと。その効果に対する説明は、学術的な論争になっている。

論文情報

掲載誌 :
ACS Catalysis
論文タイトル :
Production of Bio Hydrofined Diesel, Jet Fuel, and Carbon Monoxide from Fatty Acids Using a Silicon Nanowire Array-Supported Rhodium Nanoparticle Catalyst under Microwave Conditions
著者 :
Heeyoel Baek, Keiichiro Kashimura, Takashi Fujii, Shuntaro Tsubaki, Yuji Wada, Shigenori Fujikawa, Takuma Sato, Yasuhiro Uozumi, and Yoichi M. A. Yamada
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系
教授 和田雄二

E-mail : yuji-w@apc.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2879

理化学研究所 環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チーム
チームリーダー 山田陽一

自然科学研究機構 分子科学研究所
教授 魚住泰広

中部大学 工学部
講師 樫村京一郎

九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所
准教授 藤川茂紀

取材申し込み先

理化学研究所 広報室 報道担当

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自然科学研究機構 分子科学研究所 研究力強化戦略室 広報担当

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超重原子核の新たな核分裂機構を解明 宇宙における元素生成の様相を理解するのに適用可能

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要点

  • ウランの核分裂とは劇的に異なり質量数にも顕著なピークが現れることを発見
  • 宇宙における元素生成の様相を理解するために適用可能な重要な結論を提示
  • ニホニウムなど新たな超重元素を合成する際にも重要な示唆を与える

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所の石塚知香子助教、張旋大学院生、千葉敏教授らは超重原子核[用語1]ではこれまでウランなどの場合に知られていた質量数[用語2]に加え、励起エネルギーが10 MeV程度では全く異なる質量数にも顕著なピークが現れることを発見した。長寿命放射性廃棄物LLFP[用語3] の短寿命化のために開発した動的モデルによりウラン領域から原子番号104~122の超重原子核の核分裂の系統的な計算により実現した。

本研究で用いたモデルで計算可能となった核分裂片[用語4]変形度[用語5]を調べ、ピークにおいては球形に近い原子核ができていることから、この新たなピークは二重魔法数[用語6]を有する質量数が208の鉛の同位体を中心としていることが明らかとなった。ただし、この新たなピークは励起エネルギーが30 MeVに上がると消失することも分かった。

励起エネルギーが10 MeV程度の超重原子核の核分裂は重力波[用語7]が検出され話題となっている中性子星とブラックホールの合体時に実現される環境で起きることが分っており、宇宙における元素生成の様相を理解するために適用可能な重要な結論である。特に鉛領域の元素は第三ピーク[用語8]と呼ばれ、元素合成モデルによって再現できたりできなかったりし、正確な核分裂データの提供で宇宙における元素合成モデルの検証も可能になると期待できる。 また、原子番号Z=113のニホニウムなど、新たな超重元素を合成する際にも核分裂は付随して生起する物理現象であり、超重原子核の核分裂を理解することは新元素合成のフロンティアの立場からも重要である。

研究成果は「Physical Review(フィジカルレビュー) C」のRapid Communicationとして現地時間1月27日にオンライン掲載された。

研究成果は文部科学省国家課題対応型研究開発推進事業原子力システム研究開発事業「高速炉を活用したLLFP核変換システムの研究開発」による。

背景

原子力発電所から排出される廃棄物の中には半減期が1,000万年を超えるような長寿命の核分裂生成物(LLFP)が存在する。そのような廃棄物をそのまま地層処分した場合、後世の人類のリスク要因となる可能性がある。そのため、LLFPのような物質を原子炉に再装荷して中性子吸収によって半減期のずっと短い原子核に変換することが重要な技術である。

このような技術を実現し、その効率を高めるために、LLFPがどの程度できるかという核分裂に関する情報が必要となる。そのために核分裂理論の高精度化が必須である。一方、地球上で安定に存在できる最も重い元素はウランであるが、それよりも遥かに重い未知の(準)安定元素を探して各国が新元素生成のために日夜しのぎを削っている。例えば原子番号113の元素がニホニウムと命名されたことは記憶に新しい。ニホニウムのような原子番号104以上の元素は超重元素に分類される。

超重元素は基本的には不安定であり短時間で核分裂する。この超重核の核分裂は重力波発生天体として注目されている中性子星同士の合体や中性子星とブラックホールの合体時に生成される金などの希少元素の合成過程に深く関与していると考えられている。

ただし、宇宙空間での元素合成で必要となる核分裂の励起エネルギーはたかだか10 MeV程度であり、新元素生成のための実験で到達するエネルギー(30 MeV以上)よりもずっと低い。そのため金などの起源を正確に見積もるためには理論モデルによる超重元素の核分裂の研究が必要不可欠である。しかしながら、様々な理論モデルで予想される超重元素核分裂の様相はモデルによって大きく異なることが知られており、モデル間での違いやモデル間で大きな差異が生じる理由の解明が大きな課題となっていた。

図1. 低励起状態のEx=10 MeV原子番号120、質量数302を持つ超重元素の核分裂片の変形度Q20(上)および質量数分布(下)の様子。
図1.
低励起状態のEx=10 MeV原子番号120、質量数302を持つ超重元素の核分裂片の変形度Q20(上)および質量数分布(下)の様子。

研究手法と成果

今回の研究では、LLFPの核変換のために開発した高い実験値再現性と予言性を持つ動的理論モデル(形状4次元ランジュバン模型[用語9])を用いて、最も原子番号の小さな超重元素であるハッシウム(Hs)から未知の超重元素(原子番号=122(Ubb))に対して核分裂の性質を系統的に調査した。

研究で用いた動的モデルはパラメータ調整をせずにウラン近傍の様々な核分裂の性質(核分裂片の質量数分布や運動エネルギー分布など)を説明できる非常に強力な理論モデルであり、得られる結果の信頼性も高い。

論文中では核分裂の様相の変遷を系統的に図示しているが、それらの中から超重元素の核分裂で最も特徴的な例を図1に示す。図1下段は原子番号120、質量数302の超重元素が核分裂した時にできる原子核の質量数分布を表している。ここで注目したいのは、超重元素の核分裂では、質量数132-144および208の近傍の核種が同じくらい高い割合で生成されている点である。

これらの質量数では二重魔法数を持つ錫132Sn(スズ、陽子数50、中性子数82)および鉛208Pb(陽子数82、中性子数132)が良く知られている。図1上段では各質量数の原子核の変形度を表す四重極モーメントQ20をカラーマップで示しており、青で示された質量数と変形度Q20を持つ核分裂片の密度は低く、カラーマップ上で黄色から赤になるにつれて、対応する質量数と変形度Q20を持った核分裂片の密度が上がる。図1上段からは質量数132-144および質量数208近傍で超重元素の核分裂の結果、変形度Q20≒0のほぼ球形の原子核が多く生成されることがわかる。

図1では中性子星とブラックホールの合体時に金などが作られる際に現れる低励起状態の超重元素の核分裂の様相を示した。また本研究では超重元素の温度が上がるにつれて二重魔法数の効果が小さくなり、新元素合成実験で到達する温度では魔法数の効果が消失する様子も明らかとなった。

超重元素の核分裂の大きな課題の一つは、モデルによって錫と鉛の影響の出方が大きく違うという謎を解明することであった。今回の研究では図2に示すようにモデルによるポテンシャルの取り扱いの違いに着目し、この謎に迫った。図2はいずれもポテンシャルの深さをカラーマップで示している。核分裂が起きるまでの間に二つの核分裂片間の距離は徐々に長くなる。その際に核分裂片の質量数を左右するのがポテンシャルの地形である。地面の上をボールが転がる場合と同じで、核分裂に至る核分裂片の質量数の変化(ボールの通り道)はポテンシャルの谷(地形の低い場所)によって本質的には決まる。図2上段の4次元ポテンシャルを最小化するような変形度の場合のポテンシャルの地形では鉛に繋がる谷が見えず、質量数132および170の近傍につながる経路しか見えない。一方、図2下段に示すように、動的モデルで核分裂直前のポテンシャルの地形を書いてみると、地形の中に赤実線で示したような鉛へ向かう経路(谷筋)がはっきりと見えている。このように原子核の形状を多次元で表現する際のポテンシャルの取り扱いが錫と鉛の生成量を大きく左右することを解明した。

図2. 質量数302、原子番号120の核種における核分裂片間の距離(横軸)と核分裂片の質量数(縦軸)の平面状でのポテンシャルの深さの様子。上段は核分裂片の変形度を調整し、ポテンシャルを最小にする場合、下段は我々が扱う動的モデルで核分裂する直前(変形度固定)の場合を示す。
図2.
質量数302、原子番号120の核種における核分裂片間の距離(横軸)と核分裂片の質量数(縦軸)の平面状でのポテンシャルの深さの様子。上段は核分裂片の変形度を調整し、ポテンシャルを最小にする場合、下段は我々が扱う動的モデルで核分裂する直前(変形度固定)の場合を示す。

以上のように、本研究では非常に予言力を持つ動的モデルを用いて、錫と鉛の二つの二重魔法数が超重元素の核分裂の様相を支配することを明らかにした。この成果は新元素合成過程の選定の効率化や宇宙空間における金などの希少元素の起源解明につながることが期待される。

用語説明

[用語1] 超重原子核 : 原子番号104以上の超重元素を構成する陽子と中性子からなる原子核のこと。

[用語2] 質量数 : 原子核の質量数は、原子核を構成する陽子の総数(原子番号)と中性子の総数の和として与えられる。

[用語3] LLFP : Long Lived Fission Products の略。使用済み核燃料に含まれる核分裂生成物のうち、特に半減期の長いセレン(79Se、半減期33万年)、ジルコニウム(93Zr、同153万年)、テクネチウム(99Tc、同21万年)、パラジウム(107Pd、同650万年)、スズ(126Sn、同23万年)、ヨウ素(129I、同1570万年)、セシウム(135Cs、同230万年)の7核種を示す。

[用語4] 核分裂片 : ある原子核が核分裂した瞬間に生成される原子核のことを核分裂片と呼ぶ。核分裂片の質量数は分裂の仕方によって非常に小さいものから元々の原子核と同じくらいのものまで様々であるが、原子核の魔法数(用語6参照)の影響が小さい場合には、核分裂で生成される二つの核分裂片の質量数はほぼ等しくなる。

[用語5] 変形度および原子核の四重極モーメントQ20 : 原子核の伸びを表す変形度は四重極モーメントQ20で記述され、負のQ20を持つ原子核はラグビーボールのような扁長な回転楕円体のように変形(プロレート変形)している。またQ20=0の場合には球形の原子核形状は球形である。四重極モーメントが正のQ20場合にはみかんのような扁平な回転楕円体のように原子核が変形(オブレート変形)している。

[用語6] 二重魔法数 : 原子核はある特定の陽子数や中性子数で特に安定となる性質があり、それぞれ陽子魔法数、中性子魔法数と呼ばれる。二重魔法数は陽子数と中性子数の両方が魔法数で非常に安定になる場合を指す。

[用語7] 重力波: : アインシュタインの一般相対性理論によれば、質量をもった物体が存在すると、それだけで時空がゆがむ。その物体が(軸対称ではない)運動をした際に高速で伝わる時空のゆがみを重力波という。重力波は非常に小さいため、中性子星同士の合体や中性子星とブラックホールの合体のように非常に大きな質量を持った天体の動的事象でないと観測が難しい。

[用語8] 第三ピーク : 太陽系の元素組成の質量数分布のうち、鉄よりも重い元素には中性子の魔法数に対応する3ヵ所ほど他の元素より高い組成を持つ部分がある。この3ヵ所を更に細かく見ると、元素の起源に由来して早い中性子捕獲過程(r過程)と遅い中性子捕獲過程(s過程)のピークに分けられる。このうち質量数200付近には白金のr過程第三ピークおよび鉛のs過程第三ピークが知られている。

[用語9] 4次元ランジュバン模型 : 4次元ランジュバン模型では、原子核の形状を二つの核分裂片の独立な変形度、核分裂片の質量非対称度、核分裂片間の距離の4つの変数で表す。この4変数で表される原子核の形状の時間変化を、揺動散逸定理に基づく運動方程式(ランジェバン方程式)を用いて解くことで核分裂を模擬する模型が4次元ランジュバン模型である。揺動散逸定理とは、熱平衡状態において微視的な粒子の運動と巨視的に観測できる運動の間の関係を示すものであり、ブラウン運動の記述として良く知られている。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review C
論文タイトル :
Effect of the doubly magic shell closures in 132Sn and 208Pb on the mass distributions of fission fragments of superheavy nuclei
著者 :
C.Ishizuka, X.Zhang, M.D.Usang, F.A.Ivanyuk and S.Chiba
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所

教授 千葉敏

E-mail : chiba.satoshi@lane.iir.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3066 / Fax : 03-5734-2959

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

次の時代を担う高校生が、“ありたい未来の形”を真摯に検討 科学イベント「サイエンスアゴラ2019」で、高校生を中心としたDLabのワークショップを開催

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2018年9月に発足した東京工業大学未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、「人々が望む未来社会とは何か」を、社会と一緒になって考え、デザインしていくための組織です。その大きな特徴は、既存の技術のあり方や“こうあるべき”という思い込みにとらわれず、広く社会と語り合いながら、“こうありたい”という豊かな未来社会像をともに描いていくこと。今回DLabは、2019年11月16日にテレコムセンタービルで行われた科学イベント「サイエンスアゴラ2019」に出展し、高校生が中心となって未来社会を考えるワークショップを実施しました。

よりよい未来づくりへ向けて議論が弾んだ当日の様子をレポートします。

ワークショップ全景

ワークショップ全景

高校生が「未来シナリオ」を実現する仕組みを考える

DLabでは学内外の有識者、企業の方、学生や一般の方など、さまざまな方を対象としたイベントやワークショップを行いながら、未来社会のあり方を検討してきました。「サイエンスアゴラ2019」で実施されたワークショップの主役となったのは、この未来の社会の担い手となっていく高校生です。

サイエンスアゴラは、毎年秋に国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の主催で行われるサイエンスコミュニケーションイベントです。東京臨海副都心エリアにある複数の会場で、各地の大学、研究機関や企業、さらに高校生・中学生の科学クラブなどが研究発表や製品紹介などを行い、多数の来場者が訪れます。今回は11月15日から3日間にわたって開催されました。

今回のワークショップ「こんな未来社会ってどう思う?」には、10名の高校生と東工大大学院生3名、東工大卒業生1名が参加。これまでのDLabの議論をもとにまとめた20点を超える「未来シナリオ」から、テーマとして2点を取り上げ、そのシナリオを実現する技術や仕組みについて考えていきました。

自由な発想でディスカッションを進める

今回のワークショップの議論テーマに選ばれた「未来シナリオ」は、「食料不足が解消される」「失敗や不確実なことをあえて生み出して活用するようになる」の二つです。まず東工大物質理工学院の磯部敏宏准教授が、二つのテーマの内容について、肥料の原料となるアンモニア合成技術の発見が食料不足の緩和に貢献した例なども交えて説明した後、高校生がそれぞれ考えてみたいテーマを選んで4 つのチームを組み、ディスカッションに入りました。

「失敗・不確実なことの活用」を実現する仕組みを検討する1チームでは、開発失敗作が大ヒット商品に生まれ変わった「ポスト・イット」や、実験用具の片付け忘れが大きな発見につながった高校生の例など、失敗が思わぬ成功につながった例を考えてみることから話し合いが始まりました。

「食料不足の解消」というシナリオの実現方法を検討する3チームでは、「食料が足りない地域に食べ物を送るだけでは永続的な問題解決にはつながらない」「世界レベルでの問題解決を考えるのなら、食べ物に関する宗教上の規制も考慮する必要がある」など、食料問題を巡る状況について考えながら解決策を話し合いました。

ワークショップのファシリテーターを務める東工大環境・社会理工学院の鼎信次郎教授と磯部准教授が各チームを回りアドバイスをし、ディスカッション半ばではQ&Aコーナーも設けられました。参加者からの質問に対し、解決策につながる具体的なヒントのほか、「今ある技術に縛られずに、科学が飛躍的に進歩するという前提で考えても大丈夫」など、自由な発想を促すよう助言しました。

鼎教授
鼎教授

磯部准教授
磯部准教授

参加者による投票で「対乾燥地域用ビオトープ」が1位に

全体発表

全体発表

最後は各チームで検討してきた「食料不足の解消」「失敗・不確実なことの活用」を実現する仕組みについて細部を詰めて意見をまとめ、全体に発表します。今まで食べられなかったものを食べる技術、枯れ葉や食べ残しなどを養分として砂漠で食物を育てる技術などユニークなアイデアが発表された後、参加者全員の投票によって1位を獲得したのは、大気を通さないバリアを張ったドーム内で水を循環させながら食料を育てる「対乾燥地域用ドーム型ビオトープ」でした。また、失敗を共有し、良い失敗と悪い失敗を区別しながら活用していく「ミスジャッジシステム」には特別賞が贈られました。

クラフィックレコーディングの制作風景
クラフィックレコーディングの制作風景

完成したクラフィックレコーディング
完成したクラフィックレコーディング

結果発表に続いて、磯部准教授が「海水を淡水にしたり、サボテンで水を集める技術などは、今、東工大で実際に研究が進められています。皆さんの考える未来と大学の研究がつながっていったら、よりよい未来が築けると改めて感じました」と感想を述べ、鼎教授が「“こういうことができたらいいな”という、自由な発想に基づく意見を聞くことができ、私自身にとっても非常に勉強になりました」と締めくくりました。

その後は各賞の賞品や参加賞が全員に配られ、各チームの議論や発表の要点を、イラストを交えて分かりやすく記録したグラフィックレコーディングの前に集まって記念撮影が行われました。参加した高校生からは「未来や技術と社会のかかわりについて考える良い機会になった」などの感想が寄せられました。

参加者全員での集合写真

参加者全員での集合写真

DLabイベント情報

2020年3月7日(土)に共創ワークショップ「覆水、別の盆 ― 思い通りにいかないことの先に「ちがう未来」が見えてくる」を開催しますので、ぜひご体験ください。

関連リンク

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お問い合わせ先

未来社会DESIGN機構事務局

TEL : 03-5734-3619

E-mail : lab4design@jim.titech.ac.jp

教育の質向上を目指して「令和元年度全学FD」を実施

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東京工業大学 教育・国際連携本部は、本学の教育改革が目指す「学生が自ら学び考える教育」をさらに推進するため、「Student-Centered Learning(学生本位の学び)の実現に向けて」を研修テーマに宿泊形式の全学FD(ファカルティ・ディベロップメント)※1 を、2019年11月25日~26日に東京都府中市にある研修施設クロス・ウェーブ府中にて開催しました。

※1 : FDはFaculty Developmentの略称で、教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取り組みの総称。

本研修は、全学から教員48名と、オブザーバーとして榎並和雅監事及び三矢麻理子監事が参加し、本学 教育革新センターと学務部の協力のもと開催されました。

全プログラムを終えて行ったアンケート(42名/回収率87.5%)では、参加教員の満足度は「満足」と「やや満足」を合わせて95.3%と高く、特にグループ活動(検討)やディスカッション(指定討論)が有益であったことが見て取れます。自由記述には、「普段お会いしない他学院の先生方と1つのテーマを通して話し合いの場を持てたことがよかった」「学院を超えた交流ができ、知見が深まった」等の感想が寄せられました。

参加者、講師陣及び運営教職員

参加者、講師陣及び運営教職員

1日目(11月25日)

初日は、グループ活動から開始し、「キャンパスでの英語学習環境を創る」「オンラインを授業内外で活用する」「TA(ティーチング・アシスタント)※2 と協力して授業を展開する」「研究室教育を通して学生を育てる」というテーマごとに、参加教員がグループを編成し、翌日のプレゼンテーションに向けて活発な意見交換と検討が展開されました。

※2 : TAとは、教育や授業の補助準備など、教育に関わる業務補助を行う学生のこと。

続くレクチャーでは、益一哉学長が「本学が目指す教育」と題して、本学の掲げる人材像、教育ポリシー、教育プログラムの全体像、本学の将来構想について講演しました。

グループ活動の様子
グループ活動の様子

益学長によるレクチャー
益学長によるレクチャー

水本哲弥理事・副学長(教育担当)からは、本学が取り組んでいる様々な教育改革の現状と課題について話題提供がありました。

学長、理事・副学長を囲んだ意見交換
学長、理事・副学長を囲んだ意見交換

レクチャーに続いて、サークルタイム「学長と理事・副学長を囲んで」と題して、参加教員から学長および理事・副学長へ本学の教育改革に関する質疑がなされ、活発な対話が繰り広げられました。

ネットワーキングブレイクを挟んで行われたディスカッション(指定討論)では、関西大学 教育推進部の森朋子教授より、「見える学力・見えにくい学力・見えない学力」という学力の3要素や、学習理論の観点に基づいた「これからの授業」についての講演がありました。この内容を受けるかたちで、講師と参加者とのディスカッションが行われ、今回のテーマである「Student-Centered Learningの実現に向けて」のもと、活発に意見が交わされました。

ディスカッションを終えた各グループは、翌日のプレゼンテーションの準備に向けて、引き続き、活発な意見交換と検討を展開していました。

加えて、初日を終える懇親会では、益学長や水本理事・副学長も輪に入り、和やかな雰囲気の中、学院および系・コースの垣根を超えた交流が見られました。

2日目(11月26日)

プレゼンテーションの様子
プレゼンテーションの様子

オリエンテーションの後、各グループはプレゼンテーションの最終準備に入りました。その後の各グループからの発表では、それぞれが教育現場で抱えている課題や改善案などが提示されると同時に、将来の展望や教育改革に対する提案が行われました。
発表後は質疑参加だけでなく、他のグループ発表に対してフィードバックシートを記入し、それを踏まえて自身の発表内容に関する再検討を行う、アクティブラーニング形式のワークショップを行いました。

昼食後は、保健管理センターの齋藤憲司教授から「多様化する学生の現在~Student-Centered Therapy(学生本位の対話療法)の現場から~」と題する、現代学生の気質と教職員の学生への関わり方についての講演が行われました。

お問い合わせ先

教育革新センター

E-mail : citl@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2993

山中一郎教授が触媒学会の2019年度学会賞(学術部門)を受賞

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東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の山中一郎教授が触媒学会の2019年度学会賞(学術部門)を受賞したと触媒学会が1月6日発表しました。授賞式は3月26日、第125回触媒討論会(工学院大学)で行われます。

触媒学会によると、学会賞(学術部門)は、「触媒に関する貴重な学術的研究をなし、その業績の特に顕著な者」に授与されます。受賞者は毎年2名以内で、同一人が重ねて受賞することはできません。

受賞題目

高難度反応を実現する電極触媒の開発と触媒作用の解明

受賞理由(抜粋)

水素と酸素から高濃度中性過酸化水素水が直接合成できる燃料電池型反応器
水素と酸素から高濃度中性過酸化水素水が
直接合成できる燃料電池型反応器

電極触媒を研究対象として、これまでの触媒反応では実現が困難あるいは不可能であった高難度反応を高い選択率で実現する道を拓いた。
具体的には新規Co-N-C化合物電極触媒と燃料電池反応を組み合わせることにより、外部電力を用いずに高濃度純過酸化水素水の直接合成に成功し、あるいは世界で初めてフェノールの電解カルボニル化による炭酸ジフェニル直接合成をPd−Au系アノードを開発することで実現し、それぞれの新電極触媒の作用機構を解明したなど、触媒化学と電気化学を協奏的に融合させた新しい学問領域を開拓し発展させており、本賞に値するものと認めた。

山中一郎教授は次のようにコメントしています。

山中一郎教授
山中一郎教授

触媒学会を中心に研究活動している科学者にとって大変栄誉ある賞をいただき、関係者に深く感謝いたします。

基幹化学産業を支えている触媒化学と電池やセンサーを牽引する電気化学、両学問領域は古くは乖離していました。電子移動を伴う化学反応という意味合いにおいては、単語が多少違うだけで根本的な化学的作用や反応機構は共通していると理解しています。これらを融合させることにより、これまで不可能と考えられ回避されてきた高難度反応を実現させることに成功しています。この研究過程で学生さんや助教の先生たちと真剣かつ真正面からの議論をして研究を推進し、何度となく破れ、再び立ち向かうことが楽しくて仕方がありません。共に立ち向かってくれた山中研チームメートに深く感謝しています。

現在、研究の方向性を地球温暖化の抑制に貢献すべく、CO2排出削減や省エネルギーに寄与できるエネルギー・物質変換触媒・電極触媒の開発と作用機構の解明を中心に置いています。安易な道は選ばず、不可能を可能にする応用化学を開拓し続けます。研究を始める学生さん、一緒に頑張りませんか。

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お問い合わせ先

物質理工学院 応用化学系

E-mail : yamanaka.i.aa@m.titech.ac.jp

本学学生チームが2019年iGEM世界大会で銀賞を受賞

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東京工業大学の学生チームが、国際的な合成生物学の大会である2019年のiGEM世界大会(The International Genetically Engineered Machine Competition)で、銀賞を受賞しました。

本大会は、高校生や大学生主体(高校生、学部生、大学院生に区分)のチームが、BioBrick(バイオブリック)と呼ばれる規格化された遺伝子パーツを組み合わせることにより、新しい人工生命システムの設計・構築を行います。2019年は、10月31日から11月4日にかけてボストンで開催され、世界の40以上の国・地域から353チームが参加し、競いました。

今回の東工大チームは、生命理工学院16名、情報理工学院・工学院各1名の学士課程学生計18名で構成されています。チームは、キリンの網目模様やシマウマの縞模様の形成に関係しているとされる、チューリングパターンについての研究を行いました。これらの模様は、コンピューター上でのシミュレーションでは容易に作ることが出来ますが、実際の細胞を用いて再現するのは困難です。そこで、これらの模様を再現できるような大腸菌を作ることによって、模様ができる仕組みの解明や、形態形成の理解につながると考えています。

ボストンのiGEM世界大会の会場で。左から田川准教授、齋藤さん、鶴田さん、髙橋さん、藤田さん

ボストンのiGEM世界大会の会場で。左から田川准教授、齋藤さん、鶴田さん、髙橋さん、藤田さん

参加学生

  • 髙橋萌さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)
  • 鶴田爽さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)
  • 町田亮人さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)
  • 松田涼利さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)
  • VOON YAN MINGさん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)
  • NG SIN YINGさん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)
  • 井澤和也さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程3年)
  • 中野真彰さん(工学院 電気電子系 学士課程3年)
  • 齋藤崇登さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程2年)
  • 加藤祐介さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程2年)
  • 北野優美さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程2年)
  • 田平彩乃さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程2年)
  • 伊達弘貴さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程2年)
  • 眞貝碧さん(生命理工学院 学士課程1年)
  • 油布稜平さん(生命理工学院 学士課程1年)
  • 黒石あかりさん(生命理工学院 学士課程1年)
  • 小川瑶葉さん(生命理工学院 学士課程1年)
  • 藤田創さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程4年)

指導陣

田川陽一准教授(生命理工学院 生命理工学系)

林宣宏准教授(生命理工学院 生命理工学系)

山村雅幸教授(情報理工学院情報理工学系)

松本義久准教授(科学技術創成研究院 先導原子力研究所)

西田暁史東工大特別研究員(情報理工学院)

安田翔也研究員(情報理工学院)

学生代表髙橋さんのコメント

私は1年生の時から3年間、iGEMチームに所属してきました。この3年間、つらいことも多々ありましたが、指導教員の先生をはじめメンバーや多くの皆様の支えがあってやってくることが出来ました。メンバー全員で努力して得ることのできた銀賞を誇りに思います。iGEM大会全体がScienceからモノづくりへの転換期を迎えています。長い歴史のある東工大チームですし、大変なことも多いかとは思いますが、その分得られることも大きいと思います。後輩たちには楽しんで活動を続けていってもらえればと思います。

東工大基金

iGEM東工大チームの活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

2月の学内イベント情報

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2月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

CERI寄附公開講座「ゴム・プラスチックの安全、安心―身の回りか最新の話題まで―」(2019年度 後期)

CERI寄附公開講座「ゴム・プラスチックの安全、安心―身の回りか最新の話題まで―」(2019年度 後期)

近年モノやシステムの安全・安心が社会の重要なテーマであり、様々な製品とそのもととなる材料においても安全・安心が求められる時代です。

そこで本講座では、広く社会に浸透し私たちの身の回りにある化学品を含むプラスチックやゴムとその関連製品の安全・安心を取上げ、それらに関する情報とやさしい科学を紹介し、正しい知識を広く一般の方に持ってもらうとともに、学生を含む専門家に対しては、最先端の安全性評価技術、劣化と寿命予測技術、耐性向上技術、さらには高性能・高強度化技術・材料に関する科学を紹介し、将来の安心・安全な材料の設計の基礎を学べるようにします。

日時
2019年11月23日(土)、11月30日(土)、12月21日(土)、2020年1月25日(土)、2月1日(土)、2月15日(土)、2月22日(土)全7回・14講座、各日13:20 - 14:50、15:05 - 16:35
会場
申込
必要(先着30名、各講義日の週の月曜日締切)

第8回 地球生命研究所 一般講演会「極限環境の生物たち ~生命の神秘に魅せられて~」

第8回 地球生命研究所 一般講演会「極限環境の生物たち ~生命の神秘に魅せられて~」

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)は、第8回 一般講演会を開催いたします。最先端の研究の息吹を感じることの出来る機会です。ぜひご参加ください。

日時
2020年2月4日(火) 19:00 - 20:30(開場18:30)
会場
申込
必要(先着350名)

ToTAL OPEN Talk and Discussion「LGBTは「フツウ」の人たち?― 日常の性差別について考えよう」

ToTAL OPEN Talk and Discussion「LGBTは「フツウ」の人たち?― 日常の性差別について考えよう」

ToTAL科目「リーダーシップ・グループワーク基礎F(TAL.W501)」のコンテンツの一つをOPENプログラムとし、一般学生の参加希望も受け付けます。

「あなたは同性婚に賛成ですか?反対ですか?」こんな質問を受けたことはありますか?現在、女性や性的少数者の権利をめぐる諸問題は、その国における「先進性」を測る尺度として機能し始め、「LGBT」という枠に当てはまらない人々の声も耳にすることが増えてきました。

そんな中、今回は「同性婚」からスタートし、どんな人が同性婚の議論からこぼれ落ちているのか、「フツウじゃない」とされる性関係や人種などに注目をした複合差別の議論に触れてみたいと思います。先ずは前知識の確認・共有として、日常にはどの様な性差別が潜んでいるのだろうといった身近の話から始め、同性婚に限らず、様々な性差別に関して共に考えてみましょう。

一橋大学大学院でジェンダー・セクシュアリティ研究専攻に所属する松田さんをゲストスピーカーに迎え、今回は、“OPEN Talk and Discussion”として、講義でもワークショップでもない、話題提供とディスカッションを中心に、カジュアルな雰囲気でコミュニケーションする2時間としたいと思います。

日時
2020年2月5日(水)18:00 - 21:00
会場
対象
  • ToTAL登録生
  • 本学一般学生(学部・大学院は問いません)
  • 本学以外の大学所属生(学部・大学院は問いません)

※ ToTAL講義の一環であり、かつ、人数に限りがあるため、応募者多数の場合は選抜となります。

申込
必要

東京工業大学 地球史資料館 第1回講演会「生命と地球の起源と進化の研究における東工大地球史資料館の役割」―地球から全宇宙まで、我々は何を明らかにしたか―

ToTAL OPENプログラム「未来洞察ワークショップ(社会課題の認知ワークショップⅡ)」

東京工業大学地球史資料館は、地球史40億年をカバーする世界に類を見ない岩石試料を所有しています。

本講演会では、それらの岩石試料を通じて明らかになった研究成果について、本学名誉教授の丸山茂徳先生が解説します。

また会場には、地球環境変動と生命進化を解明する鍵となった貴重な岩石が展示されています。

日時
2020年2月22日(土) 13:30
会場
申込
必要(先着30名)

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

オートファジーは凝集体でなく液滴状態のたんぱく質を分解する 細胞内の「ゴミ」は溜まる前の処理が大事

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ポイント

  • 選択的オートファジーは病原性のたんぱく質を分解することで疾病の発症を抑えていると考えられてきたが、液滴状態や凝集体などいろいろな状態を取るたんぱく質に対し、どの状態を効率的に分解できるのかよく分かっていなかった。
  • 液滴状態のたんぱく質を効率的に分解する選択的オートファジーの仕組みが明らかになった。
  • 凝集状態のたんぱく質が原因と考えられている神経変性疾患を予防、治療するためには、たんぱく質を液滴状態に変化させる薬剤の開発が重要であることが分かった。

概要

JST 戦略的創造研究推進事業において、微生物化学研究所の野田展生部長、山﨑章徳博士研究員(現 東京工業大学 科学技術創成研究院 特任助教)らは、オートファジーはたんぱく質が液-液相分離[用語1]した液体状の会合体(液滴[用語2])を選択的に分解するのが得意である一方、凝集、固体化したたんぱく質の分解が不得手であることを発見しました。

オートファジーは細胞内のたんぱく質を分解する仕組みの1つであり、特定のたんぱく質やオルガネラを狙い撃ちして分解する「選択的オートファジー[用語3]」も知られています。選択的オートファジーは病原性のたんぱく質を分解することで疾病の発症を抑えていると考えられてきましたが、どのような状態のたんぱく質を効率的に分解できるのか、よく分かっていませんでした。

本研究グループは、酵母Ape1たんぱく質の選択的オートファジーをモデル系として用い、Ape1の脂質膜による隔離過程を試験管内で人為的に再構成することに成功しました。そしてApe1が液滴を作った時にAtg8たんぱく質と受容体たんぱく質の働きで効率的に脂質膜に隔離されること、一方で凝集、固体化したApe1では脂質膜に隔離されなくなることを明らかにしました。

選択的オートファジーがたんぱく質液滴の分解に長けている一方、たんぱく質凝集体の分解が不得手であるという今回の発見は、神経変性疾患の予防、治療薬の開発を進める上で、オートファジーの活性化だけでは不十分であり、凝集体を液滴状態へと変化させる薬剤開発が重要であることを提起するものです。

本研究成果は、2020年1月29日(米国時間)に米国科学誌「Molecular Cell」のオンライン速報版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:
「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」(研究総括:田中啓二 東京都医学総合研究所 理事長)
研究課題名:
「オートファジーの膜動態解明を志向した構造生命科学」
研究代表者:
野田展生(微生物化学研究会 微生物化学研究所 部長)
研究期間:
平成25年4月~令和2年3月

研究の背景

オートファジーは酵母からヒトまで保存された細胞内の主要な分解経路であり、オートファゴソーム[用語4]と呼ばれる脂質膜の袋で分解対象を包み、分解の場であるリソソームへと輸送することで分解を行います。有害なたんぱく質凝集体や傷ついたミトコンドリアなどを狙い撃ちして分解するオートファジーも知られており、選択的オートファジーと呼ばれています。選択的オートファジーはさまざまな有害物や余剰物の分解を通して、細胞の恒常性維持に働いています。そしてその異常は神経変性疾患やがんなど、重篤な疾病を引き起こすことが知られています。

選択的オートファジーでは、特定のたんぱく質やオルガネラの表面でオートファゴソームの新生が進みます。その際、なるべく分解対象以外のたんぱく質やオルガネラが入らないように、オートファゴソームの前駆体(隔離膜)は分解対象と密着しながら伸長していきます。それぞれの分解対象にはそれを特異的に認識する受容体たんぱく質が存在することが知られており、受容体たんぱく質は隔離膜を覆っているAtg8たんぱく質と結合することで、分解対象を隔離膜に密着させる役割を担っていると考えられています。しかしながら隔離膜による分解対象の選択的な囲い込みが、Atg8たんぱく質と受容体だけで行えるのかどうかは分かっていませんでした。またたんぱく質は細胞内で液-液相分離し、液体状の会合体(液滴)を作ったり、それが固体化して凝集体になったりすることが知られていますが、選択的オートファジーがどのような状態のたんぱく質を標的にできるのか、これまでよく分かっていませんでした。

研究の内容

本研究グループは、出芽酵母Ape1たんぱく質の選択的オートファジーに着目し、まずApe1の性質について、蛍光顕微鏡を用いて酵母細胞内および試験管内で調べました。その結果、Ape1は試験管内で液-液相分離して液滴を作る性質があること(図1a中央)、さらに酵母細胞内でも液滴を作ることが分かりました。Ape1の選択的オートファジーでは、Atg19たんぱく質が受容体として機能することが知られています。Ape1液滴とAtg19の相互作用を調べた結果、試験管内および細胞内のどちらでもAtg19はApe1液滴表面に結合しました。一方、一部を欠いたAtg19変異体は、どちらの条件でもApe1液滴内部に浸潤することが分かりました。すなわちAtg19は浮輪のような領域を持っており、それによってApe1液滴内部に沈まずにApe1液滴の表面に集まる性質があることが分かりました(図1b)。

次に隔離膜によるApe1液滴の隔離過程を試験管内で再構成する実験を行いました。巨大脂質膜小胞にAtg8を結合させたのち、Ape1液滴とAtg19を添加したところ、Ape1液滴は脂質膜小胞に結合後、徐々に膜の嵌入を引き起こし、膜と密着しながら最終的に脂質膜小胞内へと取り込まれ、Ape1液滴の隔離過程は、Atg8と受容体Atg19だけで充分であることが分かりました(図1c)。またApe1液滴内部に浸潤するAtg19変異体を用いた場合、隔離は進行しなかったことから、Ape1液滴表面をAtg19が覆っていることが隔離のために重要と考えられます。

これまでの報告で、選択的オートファジーの標的とならなくなるApe1変異体がいくつか知られていました。そのうちの1つであるP22L変異体(Ape1のプロリン22番がロイシンに置換したもの)の性質を調べたところ、球状の液滴を形成せずに不定形の凝集体を形成することが分かりました(図1a右)。高速原子間力顕微鏡[用語5]で調べたところ、Ape1液滴の表面は活発に動いているのに対し、P22L変異体の凝集体表面は動きがほとんどなくなっていることが分かりました。そしてP22L変異体はAtg19存在下では、Atg8を結合させた脂質膜小胞により隔離されず、選択的オートファジーの標的となるためにはApe1は凝集体ではなく液滴を形成することが重要であることが分かりました(図1d)。

図1. たんぱく質液滴選択的オートファジーの試験管内再構成

図1. たんぱく質液滴選択的オートファジーの試験管内再構成

(a)
Ape1たんぱく質は水溶液中で分散した状態(左)、液滴となった状態(中)、凝集状態(右)など多様な形態を取る。液滴状態が本来の状態であり、液-液相分離を阻害するタグを付加することで左の分散状態に、P22L変異を入れることで右の凝集状態となる。Ape1に融合させた蛍光たんぱく質の蛍光で観察した(スケールバー:10マイクロメートル)。
(b)
Ape1液滴とAtg19の相互作用実験。野生型Atg19はApe1液滴の表面に結合するが、「浮輪」領域を欠いたAtg19変異体はApe1液滴の内部に浸潤する。Ape1、Atg19はそれぞれ異なる蛍光たんぱく質が付加されている(スケールバー:2マイクロメートル)。
(c)
Ape1液滴選択的オートファジーの試験管内再構成実験。Atg8を結合させた巨大脂質膜小胞とAtg19とApe1液滴を混合すると、時間経過とともに液滴はリポソーム内に取り込まれる(300 minは別の脂質膜小胞の写真)。Ape1、Atg8、Atg19はそれぞれ異なる蛍光たんぱく質が付加されている。DICは微分干渉像を示す(スケールバー:2マイクロメートル)。
(d)
P22L変異を入れたApe1凝集体は長時間経過後も巨大脂質膜小胞に取り込まれない(スケールバー:5マイクロメートル)。

これらの結果は、選択的オートファジーは流動性を持った液滴状態のたんぱく質の分解を得意とする一方、流動性のない凝集状態のたんぱく質の分解は苦手であることを強く示唆しています(図2)。そして液滴状態のたんぱく質を効率よく認識するために、受容体は液滴内部に沈まない性質を持つことも分かりました。これまで選択的オートファジーは細胞にとって有害なたんぱく質凝集体を分解すると信じられてきましたが、実際はそれが苦手であり、凝集体化する前段階である液滴状態のたんぱく質を主に分解していると考えられます。

図2. 選択的オートファジーは液滴を効率的に分解する

図2. 選択的オートファジーは液滴を効率的に分解する

たんぱく質は分散した状態から液-液相分離することで液滴を形成する。液滴は高い流動性を持ち、固体よりも液体に近い性質を持つ。液滴は変異やストレス、時間経過などを経て流動性を失っていき、凝集体やアミロイド線維などへと変化することが知られている。選択的オートファジーは流動性の高い液滴の分解が得意であり、その際は受容体が液滴表面に集積し、隔離膜上のAtg8と結合することで、液滴表面に沿った隔離膜の伸長を可能にする。一方、選択的オートファジーは流動性を失った固体状態の凝集体や分散したたんぱく質の分解は不得手である。

今後の展開

選択的オートファジーはたんぱく質液滴の分解を得意としており、たんぱく質凝集体の分解が不得手であるという今回の発見は、これまでのオートファジーを標的とした創薬の考え方を根底から変え得る成果です。神経変性疾患など、病原性たんぱく質の蓄積が原因と考えられている疾病の予防、治療薬の開発は、オートファジーをいかに活性化するかに重点が置かれてきました。しかしながら今回の結果は、オートファジーの活性化だけでは不十分であり、病原性たんぱく質側をオートファジーにより分解されやすくするために液滴状態を保ったり、凝集状態から液滴状態へと変化させたりする薬剤の開発が重要であることを強く示唆するものです。従って液滴形成の仕組みである「液-液相分離」を標的とした創薬の発展が期待されます。

また、選択的オートファジーにおける標的たんぱく質の隔離のステップが、Atg8たんぱく質と受容体たんぱく質のみで行えることを初めて証明しました。オートファジーはミトコンドリアなどさまざまなオルガネラや病原性細菌なども選択的に分解しますが、これらについてもAtg8たんぱく質と受容体たんぱく質が同様のメカニズムで選択的隔離を担っている可能性が考えられます。さらに今回開発した試験管内再構成系を応用することで、さまざまな標的に関する選択的オートファジーのメカニズム研究が促進されることも期待されます。

付記

本研究は、東京工業大学 大隅良典栄誉教授、東京大学 鈴木邦律准教授らと共同で行いました。

用語説明

[用語1] 液-液相分離 : 均一な溶液が複数の液相に分離する現象であり、日常生活でも水と油の分離としてよく観察される。細胞内ではたんぱく質や核酸が液-液相分離することが知られている。

[用語2] 液滴 : たんぱく質や核酸が液-液相分離することで形成した液体状の会合体。液滴は膜のないオルガネラとも呼ばれ、細胞内でさまざまな機能を担っている。液滴は自発的に球形になる性質があり、内部流動性が高く、周囲とも活発な分子交換を行うなどの性質を持つ。

[用語3] 選択的オートファジー : 飢餓が引き金となり細胞内成分を非選択的に分解する一般的なオートファジーとは異なり、細胞が必要な時に特定の対象を分解するオートファジー経路。選択的オートファジーでは、分解対象の種類に応じたさまざまな受容体たんぱく質が存在し、それらはどれも分解対象とオートファゴソーム上のたんぱく質Atg8の両方に結合することで、分解対象をオートファゴソームに選択的に取り込ませると考えられている。

[用語4] オートファゴソーム : オートファジーが誘導されると、細胞質に新たに作り出される二重膜のオルガネラ。オートファゴソームが取り囲んだもの(さまざまなたんぱく質やオルガネラなど)はすべて分解の場であるリソソーム(酵母の場合は液胞)へと輸送され、リソソーム内の分解酵素群の働きで分解される。

[用語5] 高速原子間力顕微鏡(高速AFM) : 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)は、探針と試料の間に働く原子間力を元に分子の形状を可視化する顕微鏡である。高速AFMは溶液中で動いているたんぱく質などの生体分子をナノメートルの空間分解能とサブ秒という時間分解能で観察することが可能である。

論文情報

掲載誌 :
Molecular Cell
論文タイトル :
Liquidity is a critical determinant for selective autophagy of protein condensates
(たんぱく質会合体の選択的オートファジーには、会合体の持つ流動性が重要である)
著者 :

山﨑章徳、Jahangir MD Alam、能代大輔、平田恵理、藤岡優子、鈴木邦律、大隅良典、野田展生*(*責任著者)

DOI :
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お問い合わせ先

微生物化学研究会 微生物化学研究所 構造生物学研究部

部長 野田展生

E-mail : nn@bikaken.or.jp
Tel : 03-3441-4173 / Fax : 03-6455-7348

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター

特任助教 山﨑章徳

E-mail : yamasaki.a.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5879

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ

川口哲

E-mail : crest@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3524 / Fax : 03-3222-2064

取材申し込み先

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

微生物化学研究会 微生物化学研究所 知的財産情報室

E-mail : office@bikaken.or.jp
Tel : 03-3441-4173 / Fax : 03-3441-5811

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室

E-mail : info@edu.k.u-tokyo.ac.jp
Tel : 04-7136-5450


東京工業大学 社会人アカデミー 2020年度 開催講座 理工系一般プログラム

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東京工業大学社会人アカデミーは、例年4月~8月に一般の方を対象にした講座「理工系一般プログラム」を開催しています。2020年度は、「環境科学」、「環境工学(リサイクル)」、「環境工学(エネルギー)」、「食の安全と安心」の4コースを開講いたします。

理工系一般プログラムは、私たちを取り巻く生活環境に焦点を当て、受講者自身で、新たに問題と解決策について考えていただくための位置づけで実施しています。各コースとも大学・大学院レベルの講義内容となっており、一般社会人向けのプログラムですが受講の動機付けが明確であれば年齢等の受講資格は問いません。幅広い方々のお申込をお待ちしております。

各コースの詳細・お申し込み方法は社会人アカデミーのウェブサイトouterをご覧ください。

日時
2020年4月14日(火) - 8月21日(金)
場所

各コースの概要

環境科学 コース(コースレベル:初・中級)

環境科学コース パンフレット

“環境”に関して研究・教育を重ねてきた大学・研究機関のスペシャリストが講師を担当。理工系科目を専攻したことがない方々へもわかりやすい講義となっております。当コースを通して、科学的・合理的な環境観、柔軟な判断力を育てていただき、今私たちが直面している環境問題に対し、皆様自身による改善の一歩を手助けできればと思います。

受講期間:

2020年4月18日 - 6月27日
毎週土曜日 14:00 - 18:15 8日間

環境科学コースパンフレットのダウンロードPDF

環境工学(リサイクル) コース(コースレベル:中級)

環境工学(リサイクル) コース パンフレット

本コースでは、リサイクルシステムの実態や今後の方向性についての講義を行います。
主に当該分野のエンジニアを長く経験された方々が講師を担当。
仕事においてリサイクル等の知識が必要となる方はもちろん、これから環境問題の改善へ向けて取り組まれていく方へも有意義なコース構成となっています。

受講期間:

2020年4月17日 - 6月12日
毎週金曜日 18:30 - 20:30 全8回

環境工学(リサイクル)コースパンフレットのダウンロードPDF

環境工学(エネルギー) コース(コースレベル:中級)

環境工学(エネルギー) コース パンフレット

本コースでは、エネルギーシステムの実態や今後の方向性についての講義を行います。
主に当該分野のエンジニアを長く経験された方々が講師を担当。
仕事においてエネルギー等の知識が必要となる方はもちろん、これから環境問題の改善へ向けて取り組まれていく方へも有意義なコース構成となっています。

受講期間:

2020年2020年6月19日 - 8月21日
毎週金曜日 18:30 - 20:30 全8回

環境工学(エネルギー)コースパンフレットのダウンロードPDF

食の安全と安心 コース(コースレベル:基礎)

食の安全と安心コース パンフレット

食中毒、農薬、劣化、アレルギー、添加物、異物混入、バイオテクノロジー等、食品には様々な問題が内在しています。本コースでは、そうした問題に係る法改正や科学的な側面について、例年定評のある担当講師が分かりやすく基礎から講義を行います。
食品に関係するお仕事をされている方だけでなく、日常において“食”の衛生面に詳しくなりたい方にお薦めのコースです。

受講期間:

2020年4月14日 - 7月28日
毎週火曜日 18:30 - 20:30 全15回

食の安全と安心コースパンフレットのダウンロードPDF

問い合わせ先

東京工業大学社会人アカデミー事務室

E-mail : jim@academy.titech.ac.jp
Tel : 03-3454-8867/8722

ナノスケール構造体を手で操作できるネットワーク型VR環境を開発 AIを用いた予測制御技術により実際の手と遠隔仮想ハンドの同期を実現

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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と東京工業大学 情報理工学院情報工学系の小長谷明彦特任教授は、NEDOの研究プロジェクト「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」において、DNAオリガミで構成されるナノスケール構造体を仮想現実(VR)上の仮想分子として表現し、手で操作できるネットワーク型VR環境を開発しました。また、仮想分子や仮想ハンドの動作を遠隔のサーバーコンピューターを用いて高速に計算処理する技術や、人工知能(AI)による深層学習技術を用いて実際の手の動きを予測制御する技術の開発により、実際の手の動きと遠隔のサーバーコンピューター上で動作する仮想ハンドの動きを同期させることに成功しました。

仮想ハンドで仮想分子を操作している様子

図1. 仮想ハンドで仮想分子を操作

概要

仮想現実(VR)は、Society 5.0時代のサイバー空間と実空間を融合する新しいコンピューター利用環境として注目されています。VRを用いることで、実際には目で見ることができない分子構造を、コンピューターシミュレーションにより仮想分子としてサイバー空間上に創り出し、あたかも目の前に分子があるかのように表示することができます。また、市販のVRカメラと組み合わせることで、自分の手をVR空間上に仮想ハンドとして表示することが可能となります。これにより、目の前の仮想分子をつかみ、どのくらいの力をどの方向に加えると仮想分子がどのように変形するかをVRシミュレーションで確かめることができます。しかし、DNAオリガミ[用語1]などで構成されるナノスケール構造体をシミュレーションするためには高性能なサーバーコンピューターが必要でした。さらに遠隔のサーバーコンピューター上で動作させた場合、実際の手の動きに対して仮想ハンドの動きが遅れることで「VR酔い[用語2]」と呼ばれる現象が発生し、長時間のVR操作が難しいという問題がありました。

今般、NEDOと小長谷特任教授は、VRクライアントコンピューターとVRサーバーコンピューターから構成され、DNAオリガミで構成されるナノスケール構造体を手で操作できるネットワーク型仮想現実(VR)環境を開発しました。また、人工知能(AI)による深層学習技術を用いて、人間の手の動作を予測制御する技術を開発することにより、人間の手の動作と遠隔のVRサーバーコンピューター上での仮想ハンドの動作を一致させることに成功しました。これにより、大規模な分子の正確な立体構造や動きをより詳細に理解することが可能となり、より効率的な分子設計の研究開発が期待されます。この研究成果は、新しい分子人工筋肉や創薬などの有機物分子の研究開発に応用できるほか、クラウドを用いたVRゲームの開発やロボットの遠隔操作への応用も期待されます。

今回の成果

ネットワーク型VR環境の開発

DNAオリガミで構成されるナノスケール構造体をVR環境で実現するためには、1秒間に90フレーム以上のVR表示と大規模なVRシミュレーションを同時に実現する必要があり、高速な計算処理が必要となります。本研究では、VRの表示と操作を行うVRクライアントコンピューターとVRシミュレーションを実行するVRサーバーコンピューターを毎秒10ギガビット(10 Gbps)の転送速度を持つ高速ネットワークで結合したネットワーク型VR環境を構築しました。複数のGPUを用いたVRサーバーコンピューターを用いることにより、DNAオリガミのように40万原子を超すようなナノスケール構造体をVR上でシミュレーションすることが可能となりました。

ネットワーク型VR環境の開発

図2. ネットワーク型VR環境の開発

DNAオリガミ原子モデルの構築

分子人工筋肉[用語3]では、微小管[用語4]やDNAオリガミで構成されるナノスケール構造体を構築し、分子モーター[用語5]を使って分子部品を動かすことで筋肉のような収縮運動を実現しています。従来、ナノスケール構造体は研究者が実験的にしか作成することができなかったため、開発に数ヵ月単位の時間がかかっていました。本研究では、DNAオリガミのモデルをVR上に仮想分子として再現することで、DNAオリガミの詳細な構造を手で確かめながら設計することが可能となりました。

仮想ハンド予測制御技術の開発

前述したネットワーク型VR環境を用いると、大規模VRシミュレーションは可能となりますが、VRサーバーコンピューターとVRクライアントコンピューターの間にネットワークの遅延が生じます。VR環境では、通常、遅延が0.03秒を超えると利用者に違和感が生じ、VR酔いが発生すると言われています。本研究では、AIの深層学習技術を用いて利用者の手の動きを予測し、予測結果に基づいて遠隔のサーバーコンピューター上にある仮想ハンドを動かすことにより、遅延を解消しました。図3に示すように、通常は、実際の手(緑)より遅れて遠隔仮想ハンド(白)が動くため違和感が生じます(上図)。一方、AI予測制御を用いると実際の手の動き(緑)と遠隔仮想ハンドの動き(白)が一致するため違和感なく操作ができます(下図)。

AI予測制御による実際の手と遠隔仮想ハンドの同期

図3. AI予測制御による実際の手と遠隔仮想ハンドの同期

本研究成果は、1月29日(水)から31日(木)まで開催される「nano tech 2020(国際ナノテクノロジー総合展・技術会議)outer」のNEDOブースでデモ展示されます。(ブース番号:西1・2ホール AT-01)

用語説明

[用語1] DNAオリガミ : DNAを素材とした2次元または3次元の人工物。約7,000塩基の一本鎖DNAを数百本の短いDNA鎖を用いて部分的に二重らせんを形成することでさまざまな形状の人工物を数十ナノメートルというサイズで構築できる。分子人工筋肉では、6本のDNAオリガミを合体させ、さらにDNA修飾微小管と結合可能なDNA鎖を周囲に装備したDNAオリガミ分子部品を利用。

[用語2] VR酔い : VR環境を長時間体験することで発生する、乗り物酔いと似た症状。脳で認識する視覚情報と実際の手や体の動きが一致しないことが原因と考えられている。

[用語3] 分子人工筋肉 : 微小管、DNAオリガミおよび分子モーターを素材として作られた分子部品から構成される人工物。光を照射すると収縮運動する人工筋肉のプロトタイプがNEDO「分子人工筋肉プロジェクト」で開発されている。

分子人工筋肉の概略図

図4. 分子人工筋肉の概略図

[用語4] 微小管 : 細胞内では骨格構造として使われている直径25ナノメートルの筒状の蛋白質複合体。分子量約5万のαチューブリンとβチューブリンが結合したチューブリン二量体が直線状に重合した線維構造(プロトフィラメント)を構成し、およそ13本のプロトフィラメントが横に並んで管構造を形成します。分子人工筋肉では、部分的にDNA鎖で化学修飾した微小管分子部品を利用。

[用語5] 分子モーター : 化学エネルギー(アデノシン三リン酸:ATP)で駆動する分子。キネシン分子モーターは1つの分子でも微小管を動かすほどの駆動力を持つ。分子人工筋肉では、4つのキネシン分子を結合したキネシン分子部品を利用。

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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

タンパク質の構造や動きを解析する新技術を開発 情報・数理科学の応用によるNMR法の革新

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理化学研究所(理研) 生命機能科学研究センター 細胞構造生物学研究チームの葛西卓磨研究員(科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者)、木川隆則チームリーダー(東京工業大学 情報理工学院 特定教授)、東京工業大学 情報理工学院 情報工学系の小野峻佑准教授(JSTさきがけ研究者)らの共同研究グループは、核磁気共鳴(NMR)法[用語1]に情報・数理科学の手法を応用することで、従来は解析が困難だった重なり合うNMR信号[用語1]を分離し、タンパク質の構造や動きなどに関する情報を得る新たな方法「SiPex(Stable-isotope-assisted Parameter extraction)法」を開発しました。

本研究成果は、タンパク質の機能に関する基礎研究に貢献し、タンパク質と医薬品候補分子の結合状態の解析に基づく創薬研究を加速させると期待できます。 NMR法は、強い磁場中に置かれた原子核から発せられる信号(NMR信号)を観測し、分子の構造を解析する手法です。タンパク質の解析では、NMR法で観測可能な安定同位体[用語2]で標識した試料を用いることが標準的です。

今回共同研究グループは、先行研究で開発した「符号化標識法[用語3]」と数理科学の応用により、重なり合う複数のNMR信号からでも、アミノ酸の情報とタンパク質の性質の情報を取得することに成功しました。

本研究は、科学雑誌『Journal of Biomolecular NMR』のオンライン版(1月30日付)に掲載されました。

情報科学(符号化標識法)と数理科学(テンソル分解)を応用したSiPex法

図. 情報科学(符号化標識法)と数理科学(テンソル分解)を応用したSiPex法

共同研究グループ

理化学研究所 生命機能科学研究センター 細胞構造生物学研究チーム

研究員 葛西卓磨(かさい たくま)(科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者)

チームリーダー 木川隆則(きがわ たかのり)(東京工業大学 情報理工学院 特定教授)

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系

准教授 小野峻佑(おの しゅんすけ)(科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者)

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構

機構長 山本雅之(やまもと まさゆき)(東北大学 大学院医学系研究科 教授)

教授 小柴生造(こしば せいぞう)

京都大学大学院 情報学研究科

教授 田中利幸(たなか としゆき)

統計数理研究所

教授 池田思朗(いけだ しろう)

研究支援

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用(研究総括:雨宮慶幸、副研究総括:北川源四郎)」の研究課題「試料への情報の符号化を活用するNMR計測・解析法(研究者:葛西卓磨)」および「統合的凸最適化によるIn Handな成分分離型信号情報再構成(研究者:小野峻佑)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究(B)「立体構造とアミノ酸判別に基づくNMRシグナル帰属法の開発(研究代表者:葛西卓磨)」および新学術領域研究「スパースモデリングによるNMR計測・解析の高速高精度化(研究代表者:木川隆則)」、JST戦略的創造研究推進事業CREST「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」の研究課題「NMRと計算科学の融合によるin situ構造生物学の確立と真核細胞内蛋白質の動態研究への応用」による支援を受けて行われました。

背景

アミノ酸が連なってできたタンパク質は、その構造と動きによって分子機能が決まります。そのため、タンパク質の構造や動きの解析は、その機能を解明する上で重要です。核磁気共鳴(NMR)法は、強い磁場中に置かれた原子核に電磁波を照射すると、原子の置かれた状況によって特徴的な信号(NMR信号)が観測される物理現象(核磁気共鳴)を応用した、分子構造などの解析法です。生体環境に近い溶液中でタンパク質分子に含まれる原子を直接観測できるという特長から、タンパク質の構造・機能・動き・作用機序の解明に欠かせません。

NMR法でタンパク質の解析を行うには、まず、複数の原子から発せられるそれぞれのNMR信号が、どの原子に由来するかを決める「信号帰属」を行います。タンパク質の解析では、炭素-13(13C)や窒素-15(15N)の安定同位体でアミノ酸を標識し、信号帰属を効率良く行うことが標準的な方法となっています。

測定されたNMR信号は二次元平面上のスペクトル[用語4]で表すことができますが、複数の信号が同じ位置に重なると、信号帰属が困難になります。NMR信号の重なりは、異なる位置の原子に由来する信号が分離しにくい天然変性タンパク質[用語5]、信号の数が多い高分子量タンパク質、一つ一つの信号の広がりが大きくなってしまう生細胞内のタンパク質などで著しく生じ、タンパク質の一部の構造や動きについての情報しか得られず、解析は不完全なものになってしまいます。

信号が重なった場合にも信号帰属を補助する情報を提供し、重なった信号を分離しつつ、タンパク質の性質を解析する方法があれば、これまで解析が困難であったタンパク質の部位をもNMR法によって解析することができます。また、解析は可能であっても信号帰属に時間がかかっていたタンパク質を、迅速に解析できるようになることも期待されます。

研究手法と成果

葛西卓磨研究員らは、2015年に「符号化標識法」を開発しました注)。NMR解析における安定同位体標識の標準的な方法では、タンパク質中の安定同位体の有無の情報だけを利用するのに対し、符号化標識法では、アミノ酸の情報をタンパク質に「符号化」し、アミノ酸ごとに異なる安定同位体標識パターン(符号語)を割り当てたタンパク質試料を用います。一例としては、15Nでの三つの標識率(100%、75%、50%)と、13Cでの三つの標識率(100%、50%、0%)の組み合わせでアミノ酸を標識したタンパク質(標識体)を3パターン用意し、それぞれをNMRで計測します。これにより、観測されたNMRスペクトルから、アミノ酸の情報を「復号」して取り出せるようにしておきます(図1)。

注)
Kasai T, Koshiba S, Yokoyama J, Kigawa T (2015), Stable isotope labeling strategy based on coding theory. J Biomol NMR, 63:213-221

図1. 符号化標識法における安定同位体標識パターン(符号語表)の例

図1. 符号化標識法における安定同位体標識パターン(符号語表)の例


アミノ酸ごとに異なる安定同位体標識パターンを対応させる「符号語表」に従い、3パターンのタンパク質試料(標識体)を用意する。ユビキチンタンパク質に含まれる18種類のアミノ酸を判別可能な符号語表の一例を示す。アミノ酸の情報を「復号」するには、標識体ごとにNMR計測を行い、同位体の比率に伴うNMR信号の強度の違いを利用する。例えば標識体1では、15Nの標識率が100%であるアミノ酸は9種類まで絞られる。さらに、標識体2と標識体3の情報を合わせると、全ての標識体において15Nの標識率が100%の強度として観測されるNMR信号は、G(グリシン)に由来すると判断できる。

本研究で開発した「SiPex法」は、符号化標識法を応用したもので、この標識パターンを単にアミノ酸の情報を取り出すだけではなく、重なった信号を分離する手掛かりとしても用います。まず、符号化標識したタンパク質試料を用いて、アミノ酸の情報を得るための測定と、15N緩和速度[用語6]などタンパク質の性質を得るための測定を行い、これらを組み合わせて解析します。測定ごとに得られるNMRスペクトルは2次元ですが、それらを集めて、全体では4次元のテンソル[用語7]であると見なし、テンソル分解[用語7]という数理解析手法で信号ごとに分離します。分離された各成分の3次元目のシグナル強度にはアミノ酸の情報が含まれており、符号語表と照らし合わせて解析することで、アミノ酸の情報を復号することができます。また、各成分の4次元目の強度は、15N緩和速度の情報を持っており、タンパク質の動きの情報を取り出すことができます。このように、タンパク質のNMR解析において障害となっていた信号の重なりの問題を解決しつつ、信号帰属の助けとなるアミノ酸情報と、タンパク質の動きなど性質に関する情報を同時に取り出すことができるのが、SiPex法の特長です(図2)。

図2. 符号化標識法で得られたスペクトルを用いた、信号の分離と情報の取出し

図2. 符号化標識法で得られたスペクトルを用いた、信号の分離と情報の取出し


左図は、特定のアミノ酸に由来するNMR信号の分布(スペクトル)を、横軸を1H共鳴周波数、縦軸を15N共鳴周波数として表したもの。赤四角で囲んだ点は、二つのNMR信号が同じ位置で重なったものだが、テンソル分解により二つのアミノ酸情報に分離することができる。さらに、テンソル分解を利用して15N緩和速度を測定することで、タンパク質の動きの情報が得られる。

共同研究グループは、SiPex法の性能を評価するため、ユビキチンと呼ばれるタンパク質をモデルにした実証実験を行いました。従来のNMR法によるタンパク質の測定では、15~16番目のLE(ロイシン-グルタミン酸)というアミノ酸の並びと、25~26番目のNV(アスパラギン-バリン)というアミノ酸の並びに対応するシグナルが重なってしまうことが分かっています。SiPex法による解析でも、重なったシグナルが確かに二つの成分で構成されていることが分かり、それぞれの成分から正しいアミノ酸情報を取り出し、かつ、15N緩和速度の情報を取り出すことができました(図3)。このことは、従来の技術では解析が困難であったタンパク質に対して、SiPex法が有効であることを示しています。

図3. SiPexによるユビキチンタンパク質の重なった信号の分離と情報の取出し

図3. SiPexによるユビキチンタンパク質の重なった信号の分離と情報の取出し


84個のアミノ酸から成るユビキチンの変異タンパク質を用いたSiPex法の実証実験。重なり合った信号が、テンソル分解によりニつの成分に分けられた。各成分に含まれるアミノ酸情報を取り出すと、成分1に対応するのは25~26番目のNV(アスパラギン-バリン)であり、成分2に対応するのは15~16番目のLE(ロイシン-グルタミン酸)であることが分かった。また、15N緩和速度の情報を取り出すと、どちらも同じくらい動き(揺らぎ)のある領域であることが読み取れた。

今後の期待

SiPex法は、NMRを用いて信号の分離を行いながらタンパク質の情報を取得する新しい手法であり、タンパク質の構造、動き、他の分子との結合などの解析に用いることができます。符号化・復号という情報科学の手法と、テンソル分解という数理科学の手法を組み合わせて用いることで、タンパク質のNMR解析という生命科学の手法を革新したもので、異分野の研究者の共同研究によって実現されました。

SiPex法を用いることで、従来のNMR法では信号が重なることでタンパク質の性質に関する情報が得られなかったタンパク質の解析が可能になるだけでなく、SiPex法で得られるアミノ酸の情報は信号帰属にも有用なため、信号帰属が困難であったタンパク質の解析も可能になります。特に、天然変性タンパク質の解析や、生きている細胞内のタンパク質を直接観測し、解析するin-cell NMR法[用語8] などにおいて、解析可能なタンパク質の種類を増やすことにつながり、タンパク質の機能や作用機構の解明という基礎研究に役立ちます。また、信号帰属に役立つアミノ酸の情報と、タンパク質の性質に関する情報がリンクした形で得られるため、従来のNMR法で解析可能であったタンパク質についても、より迅速・効率的に解析することができます。生命科学における基礎研究の加速はもちろんのこと、医薬品候補分子との結合を迅速に評価し改善につなげる必要がある創薬研究など応用研究にも役立つと期待できます。

用語説明

[用語1] 核磁気共鳴(NMR)法、NMR信号 : 強い磁場中に置かれた原子核に電磁波を照射すると、核スピンの共鳴現象により、原子核の性質や周囲の環境に応じた周波数(共鳴周波数)の電磁波の吸収や放出が起こるが、その電磁波をNMR信号として捉えることで、物質の分子構造の解析や物性の解析を行う手法。分子の相互作用などの情報も得られるため、生命科学、医薬、化学、食品、材料物性といった幅広い分野で利用されている。NMRはNuclear Magnetic Resonanceの略。

[用語2] 安定同位体 : 原子番号が同じで質量の異なる同位体のうち、放射性崩壊を起こさず安定に存在するもの。タンパク質の主要な構成元素は水素、炭素、窒素であるが、それぞれ自然界では水素-1(1H)、炭素-12(12C)、窒素-14(14N)がほとんどを占めている。このうち、1HはNMR法で観測可能だが、12C、14Nは観測不能か困難である。そのため、物理化学的性質がほとんど変わらない安定同位体でありNMR観測が可能な13C、15Nに置き換えたタンパク質試料を用いることが標準的な方法となっている。安定同位体に置き換えることでNMR観測が可能になることから、興味のある原子を観測するための標識としても利用できる。

[用語3] 符号化標識法 : 葛西卓磨研究員らが2015年に発表したタンパク質の標識方法。少ない種類の標識体で20種類全てのアミノ酸を判別することを目指した。SiCode(Stable isotope encoding)法ともいう。

[用語4] スペクトル : 各周波数において、どれくらいの強度の信号が観測されたかを表すデータ。NMR法はラジオ波の周波数領域の電磁波を扱う分光法の一種であり、NMR信号を共鳴周波数ごとに分解したスペクトルで表すことができる。

[用語5] 天然変性タンパク質 : 溶液中での構造変化が大きく、タンパク質の一部、もしくは全体にわたって一定の構造をとらないタンパク質。従来の構造生物学では解析の対象になりにくかったが、近年では機能との関連が注目されている。

[用語6] 15N緩和速度 : タンパク質分子に含まれるアミド(-NH)基の窒素NMR信号の減衰の速さ(15N緩和速度)は、タンパク質の動きの大きさや速さを反映することが知られている。15N標識したタンパク質試料を用い、2次元NMRスペクトル上の各信号の減衰を測定する。タンパク質を構成するアミノ酸のほとんどにアミド基が含まれることから、タンパク質分子中のさまざまな箇所の動きを解析できる。

[用語7] テンソル、テンソル分解 : テンソルは、本研究においては数値を3次元以上に並べたもの。1個の数値(0次元)はスカラー、数値を1列(1次元)に並べたものはベクトル、数値を2次元に並べたものは行列と呼ばれる。テンソル分解(テンソル因子分解ともいう)は、テンソルをより単純な形で表すこと。本研究においては、テンソルをベクトルの直積の和というより単純な形で表す方法(polyadic decomposition)によってテンソル分解をしている。

[用語8] in-cell NMR法 : 水溶液中のタンパク質をNMR測定する通常の方法に対して、生きた細胞内に導入したタンパク質を測定する方法。細胞内はタンパク質や核酸などの生体分子が高濃度で存在する「分子混雑」の状態で、水溶液中とは異なった環境である。in-cell NMRは実際に機能している環境下のタンパク質の解析が可能な方法として注目されている。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Biomolecular NMR
論文タイトル :
Amino-acid selective isotope labeling enables simultaneous overlapping signal decomposition and information extraction from NMR spectra
著者 :
Takuma Kasai, Shunsuke Ono, Seizo Koshiba, Masayuki Yamamoto, Toshiyuki Tanaka, Shiro Ikeda, and Takanori Kigawa
DOI :
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お問い合わせ先

理化学研究所 生命機能科学研究センター 細胞構造生物学研究チーム

研究員 葛西卓磨

チームリーダー 木川隆則

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系
准教授 小野峻佑

E-mail : ono@c.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5089

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

中村幹

E-mail : presto@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3525 / Fax : 03-3222-2066

取材申し込み先

理化学研究所 生命機能科学研究センター センター長室 報道担当

山岸敦

E-mail : ayamagishi@riken.jp
Tel : 078-306-3095 / Fax : 078-306-3090

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

東工大リベラルアーツ初/発の研究組織「未来の人類研究センター」が発足 利他プロジェクトを推進

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東京工業大学は、2月1日、科学技術創成研究院(IIR)に4つ目の研究センターとして人文社会系の研究組織「未来の人類研究センター」を開設しました。ここにリベラルアーツ研究教育院(ILA)から多様な研究者が集結し、「利他プロジェクト」に取り組みます。

未来の人類研究センターとは
~理工系大学の中で生まれる人文社会系の知~

未来の人類研究センターは、リベラルアーツ研究を推進するため、科学技術創成研究院の中に設置された組織です。

科学技術創成研究院は、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授が率いる細胞制御工学研究センターなど、東工大が世界に誇るトップクラスの研究チームを集めた組織です。未来の人類研究センターは、こうした最先端の理工系研究と常に共にある人文系の研究センターです。

私たちはどこから来て、私たちは何者で、私たちはどこへ行くのか。科学技術のよりよい可能性を引き出すためには、数十年、数百年先の人類を見据えた現実的かつ本質的な問いを設定し、理工系の最先端の研究と歩調を合わせながら、科学技術が人間にもたらす変化や守るべき価値、その可能性について多角的に探索する必要があります。こうした課題に応えるための研究組織が、「未来の人類研究センター」です。

センターには、ILAの教員が原則2年間所属します。第1期の所属メンバーは、伊藤亜紗准教授(芸術、センター長)、中島岳志教授(政治学、プロジェクトリーダー)、若松英輔教授(人間文化論)、磯﨑憲一郎教授(文学)の4名。ILAの國分功一郎教授(哲学)も連携して活動します。

最初の5年間は、「利他」をキーワードに、人間のあり方、社会のあり方を再定義する「利他プロジェクト」を推し進めます。自分でないもののために行動する「利他」の視点から、人類について、社会について、科学技術について、見つめなおしていきます。

利他プロジェクト

現代は、排他主義がはびこり、分断が加速する時代です。他者と競い合い、弱者を切り捨てる能力主義的な発想。得られる利益の量でつきあう相手を決める功利主義的な人間観。数値に置き換え可能なものばかりが評価され、そうでないものは切り捨てられる傾向。私たちをとりまくこの殺伐とした世界のなかで、もういちどよりよい社会を、より充実した生を構想するにはどうしたらよいでしょうか。

そこで手がかりになるのが、「利他」という視点です。自分のためではなく、自分でないもののために行動する。一見不合理にさえ思える、しかし私たちが確かに持っているはずのこの人間の性向のなかにこそ、人類について、社会について、科学技術について、まったく新しい仕方で考え直すヒントがあるのではないか、と未来の人類研究センターは考えています。能力主義とも、功利主義とも、数値による評価とも違う、人間の人間らしい側面を利他の光で深く照らし出すこと。それが、同センターのかかげる「利他学」です。

政治、経済、宗教、AI、環境、宇宙…研究の領域は多岐に及ぶでしょう。さまざまな分野の研究者や専門家との出会いを大切にしながら、貪欲に触手をのばし、利他学の領域を開拓していきます。その方法も、文献調査、フィールドワーク、実験、作品制作など、従来の人文社会系のディシプリン(学問分野)にとらわれない、東工大ならではの柔軟なアプローチを試みます。

センターでは、その研究成果を、シンポジウムや書籍、あるいはウェブ記事、ラジオといった多様な仕方で発信していきます。みなさまのお力を借りながら、人間を真の意味で自由にするような科学技術、人間がより人間らしく生きることのできる社会を実現するために、さまざまな種をまいていきます。科学技術創成研究院 未来の人類研究センター「利他プロジェクト」にどうぞご期待ください。

左から伊藤センター長、若松教授、磯﨑教授、中島教授(利他プロジェクトリーダー)

左から伊藤センター長、若松教授、磯﨑教授、中島教授(利他プロジェクトリーダー)

センター長 伊藤亜紗 准教授
センター長 伊藤亜紗 准教授

センター長 伊藤亜紗 准教授

未来の人類研究センターは、文/理、産/学、理論/現場といった壁を超えて、さまざまな知が出会う場です。それはつまり、センターが「非日常」の空間である、ということなのかもしれません。なぜなら人は、自分がその中にどっぷりつかっている視点や評価基準、価値観をいったん離れたときに初めて、異なる知に出会うことができるからです。目先の判断ではなく息の長い思考、ひとつの正解ではなく多様な知恵。「利他」の視点を通して、人類を見つめ直していきたいと思います。

お問い合わせ先

未来の人類研究センター

E-mail : fhrc@ila.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3892

東工大テニュアトラック教員 2019年度研究成果発表会 開催報告

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東京工業大学のテニュアトラック教員の2019年度研究成果発表会が12月13日、大岡山キャンパス大岡山西9号館で開催され、学内外から33名の参加がありました。

研究成果を発表するテニュアトラック教員、田中博人准教授

研究成果を発表するテニュアトラック教員、田中博人准教授

本学のテニュアトラック制度はグローバルエッジ研究院(2006年度から2013年度まで)による試行を経て、2011年度から全学的な運用が始まり、文部科学省科学技術人材育成事業「テニュアトラック普及・定着事業」の支援を受けて実施してきました。この支援事業が2019年度で最後となるのを受けて、2019年度のテニュアトラック教員である工学院 機械系の田中博人准教授をはじめ、過去に本事業によりテニュアを獲得した教員4名の特別講演を併せて実施しました。

佐藤勲総括理事・副学長の開会挨拶の後、本事業の総括メンターである中村聡副学長が司会を務め、物質理工学院 材料系、理学院 物理学系、工学院 機械系と幅広い分野の研究成果が発表され参加者との活発な質疑応答、意見交換が行われました。

最後に、来賓の科学技術振興機構・科学技術イノベーション創出基盤構築事業プログラム主管である東京工業大学 榎敏明 名誉教授がサイエンスマップを用いた日本の研究活動の現状について講演しました。

発表会終了後は、懇親会が開かれ、本学URA(リサーチ・アドミニストレーター)や様々な学院の教員が専門分野を超えてさらに交流を深める機会となりました。

登壇者と講演テーマ

  • 物質理工学院 材料系 松本英俊 准教授
    「ナノ材料の機能開拓に基づくエネルギー・環境材料の創製」

  • 物質理工学院 材料系 早水裕平 准教授
    「自己組織化ペプチドと原子層が生み出すバイオ・ナノ界面」

  • 工学院 機械系 葭田貴子 准教授
    「脳科学から人間機能の拡張へ」

  • 理学院 物理学系 宗宮健太郎 准教授
    「重力波の観測」

  • 工学院 機械系 田中博人 准教授
    「Aero/Aqua Biomimetics 空と海のバイオミメティクス」

発表会に参加した登壇者ら

発表会に参加した登壇者ら

テニュアトラック制度とは

文部科学省テニュアトラック普及・定着事業によると、「公正で透明性の高い選考により採用された若手研究者が、審査を経てより安定的な職(テニュアポスト)を得る前に、任期付の雇用形態で自立した研究者として経験を積むことができる仕組み」と説明されています。

教員の成果を公正に評価することが重要であり、研究成果発表会は審査・評価のため毎年、開催しています。

また、東工大は独自のテニュアトラック制度も運用しており、研究者のキャリアパスをサポートしています。

お問い合わせ先

テニュアトラック制度事務局

E-mail : tenure.track@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7620

TAIST-Tokyo Tech 学生交流プログラム2019 ~TAIST学生の受入れ~

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9月17日から11月28日までの73日間にわたり、12名のTAIST学生が東京工業大学に滞在しました。

TAIST (Thailand Advanced Institute of Science and Technology)-Tokyo Tech(タイスト-トーキョーテック、以下、TAIST)は、タイ政府からの要望により、タイにおける理工系分野での高度な「ものつくり人材」の育成と研究開発のハブ作りを目指して、2007年に設立された国際連携大学院プログラムです。本学の教員は、TAIST協力教員として、タイのパートナー大学の教員と連携しながら講義を実施し、TAIST学生の修士論文研究における副指導教員となって指導を行っています。

2015年度より、このTAISTを活用した派遣・受入プログラム「TAIST-Tokyo Tech学生交流プログラム」を実施しています。受入プログラムでは、TAIST学生を本学に受け入れ、修士論文研究における副指導教員の研究室で修士論文研究を進めます。

本受入プログラムは、本学の優れた研究環境のもと、本学学生と協働しながら研究活動に取り組むことにより、修士論文研究を飛躍的に発展させることを主目的としています。各TAIST学生は所属研究室で温かく迎え入れられ、研究室のゼミやイベント等にも参加しながら、修士論文研究に取り組みました。その他、TAIST協力教員の研究室訪問、キャンパスツアー、日本企業見学、本学学生との交流等のアクティビティにも参加し、希望者は本学の授業科目も履修するなど、短いながらも充実した滞在期間を満喫しました。

キャンパスツアーでスーパーコンピューターTSUBAMEを見学
キャンパスツアーでスーパーコンピューターTSUBAMEを見学

本学学生との休日アクティビティでお台場を観光
本学学生との休日アクティビティでお台場を観光

TAIST協力教員の研究室訪問では、教員から研究内容や実験設備についての説明を受け、TAIST学生たちは熱心に質問をしていました。また、訪問を受けた研究室に所属するTAIST学生も自ら積極的に英語で説明を行うなど、自身あるいは他の研究室の研究内容について、理解を深めることができました。また、本学学生が熱心に研究に取り組む姿にも、TAIST学生たちは、大いに刺激を受けていました。

日本企業見学では、TAIST賛助会員企業である三菱電機株式会社の東部研究所地区(神奈川県鎌倉市)を訪問し、最新のスマートハウスや、安全で安心なインフラを実現する革新的な情報通信技術、あらゆるユーザーが使いやすいユニバーサルデザインによる製品等を間近で見学することができました。実際に機器や製品を手に取って体験した際には驚きの声や楽しそうな歓声が上がっていました。

科学技術創成研究院 長谷川研究室にて説明を行うTAIST学生(左奥)
科学技術創成研究院 長谷川研究室にて
説明を行うTAIST学生(左奥)

三菱電機株式会社を訪問
三菱電機株式会社を訪問

プログラムの最後には帰国前報告会(研究成果発表会)が開催され、受入教員、TAIST協力教員、研究室のメンバー、TAIST賛助会員企業の方等が参加する中で研究成果の発表を行いました。各TAIST学生は、質問にも英語で的確に対応し、また、TAIST学生同士で質問や議論を行う場面も見られました。質疑応答の中で今後の研究の課題が明らかになり、学生たちは帰国後の研究への意欲がさらに高まったようでした。参加した本学教員からは、「TAIST学生が堂々と自信を持って英語でプレゼンテーションを行う姿に、今回の受入プログラムの成果を感じた」といった評価があり、また、TAIST賛助会員企業の方からも、「TAIST学生が皆優秀で、発表もレベルが高いこと、また、意識の高さが強く印象に残った」等の感想をいただきました。

帰国前報告会にて関連教職員、TAIST賛助会員企業の方々と

帰国前報告会にて関連教職員、TAIST賛助会員企業の方々と

懇親会にて水本理事を囲んで
懇親会にて水本理事を囲んで

報告会の最後にはTAIST運営委員会の花村克悟委員長(工学院 機械系・教授)により、プログラム修了証書が授与されました。続いて行われた懇親会では、水本哲弥理事・副学長(教育担当)より乾杯の挨拶があり、この2ヵ月半の滞在を振り返るとともに、TAIST学生に向けて、今後の活躍へのエールが送られました。

参加学生の声

  • 受入教員から多くのアドバイスをいただき、タイとは異なる日本の研究の進め方を体験できたことで、今後の自分の研究に役立つ多くの知見が得られました。研究室の仲間たちの一生懸命前向きに頑張る姿にも刺激を受けました。
  • 帰国前報告会で多くの聴衆を前にプレゼンテーションを行ったことは、今後の国際学会等での発表に向けた良い訓練になりました。英語で話すことにも自信が付きました。
  • 自分が今まで慣れ親しんできた居心地の良い環境を抜け出して、海外で留学生活を送るということは大きな試練でしたが、おかげで困難を乗り越える力や、柔軟性、異なる文化を持つ人々の多様な視点を理解し受け入れる力などを身に付けることができ、素晴らしい経験になりました。

今回本学を訪れた学生たちは、タイへ戻り、引き続きTAISTプログラムにおいて、修士論文研究の完成を目指します。TAISTを修了後は、本学をはじめとする国内外の大学の博士後期課程への進学や、グローバル企業への就職等、本学滞在で得た経験を活かし、世界を舞台に活躍することが期待されます。

派遣プログラムでは、本学の学生がタイにおいてTAIST学生と共に講義を受講し、タイの先端研究機関であるタイ国立科学技術開発庁(NSTDA)におけるインターンシップに参加します。

お問い合わせ先

国際部国際事業課 TAIST事務室

E-mail : taist@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7607

未来へのものつくりが体験できる!東工大の出張バイオコン 学士課程1年の7チームが科学技術館で

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東京工業大学の学生がバイオに関するものつくりを子どもたちに発表する講座「未来へのものつくりが体験できる!東工大の出張バイオコン」が12月7日、科学技術館(東京都千代田区・北の丸公園)で開かれました。生命理工学院の授業「バイオものつくり」の成果発表会「東工大バイオコン2019」で優秀な成績を収めた学士課程1年の7チーム計約40人が参加し、科学技術館の実験クラブ「サイエンス友の会」の33名の小学生と交流しました。

学生の説明に真剣に聞き入る子供たち
学生の説明に真剣に聞き入る子供たち

クイズ形式の説明に積極的に答える子供たち
クイズ形式の説明に積極的に答える子供たち

東工大生命理工学院では、学士課程の1年生がバイオに関するものつくりに独自のアイディアで取り組むコンテスト「東工大バイオコン」を毎年開催しています。これは今年度で15回目となる本学の名物コンテストです。バイオに関する様々なイベントを企画する学生サークルBCS(Bio Creative Staff、バイオ・クリエイティブ・スタッフ)のプロデュースの下、2019年度の「東工大バイオコン」で入賞した7チームの学生が「出張バイオコン」として本講座に参加しました。学生たちは、バイオに関する自分たちの作品の発表や展示を行いました。

テーマ
D班
かたつむりのフンでクレヨンをつくってみた!!
A班
昆虫の翅の“ダイヤモンド構造”
O班
ブルーベリーから作る変色絵の具
E班
スズメをつくってみた
R班
エセ科学検証~微生物と音~
I班
筋電を使って遊ぼう
M班
光合成スイッチ~見えないものを視覚で捉えよう~

本講座では、参加した小学生の投票によって選ばれる「ワクワク賞」、サイエンス友の会が選ぶ「科学技術館エデュケート賞」があり、7チームが成果を競いました。小学生が一番ワクワクする作品にワクワク賞が、また、「科学する心」を育てるような作品に科学技術館エデュケート賞が与えられました。会場は小学生やその保護者、東工大の学生やBCSのスタッフなどであふれかえり、盛り上がりのある会となりました。

受賞チームは以下の通りです。

ワクワク賞
1位
O班(テーマ名「ブルーベリーから作る変色絵の具」)
2位
E班(テーマ名「スズメをつくってみた」)
科学技術館エデュケート賞
I班(テーマ名「筋電を使って遊ぼう」)

E班の発表「スズメをつくってみた」
E班の発表「スズメをつくってみた」

A班の発表「昆虫の翅の“ダイヤモンド構造”」
A班の発表「昆虫の翅の“ダイヤモンド構造”」

参加した小学生たちは、講座が終わった後も興味のあった作品を見に行き、発表した学生たちと交流していました。小学校の理科の授業や実験教室では見られない、大学生による新しい発想の作品に興味津々の様子でした。子どもたちには本講座で「バイオ」という近年注目される分野の幅の広さや奥深さを知り、身近な題材でも「科学する」ことの面白さを体験してもらえました。

ブルーベリーから作った絵の具で色塗りをする子供たち
ブルーベリーから作った絵の具で色塗りをする子供たち

昆虫の翅の模型を真剣に作る子供たち
昆虫の翅の模型を真剣に作る子供たち

Bio Creative Staff(バイオ・クリエイティブ・スタッフ)とは

2009年に生命理工学部(当時)の学生を中心として創設した、東工大公認の技術(ものつくり)系サークルです。バイオの面白さや奥深さを子供たちに伝えることを目的として多岐に渡る活動をしています。

高校生が小中学生向けにバイオに関する教材の製作・発表を行うコンテスト「高校生バイオコン」の運営を中心に、子供向けの実験教室の主催、各科学イベントへの出展などに携わっています。

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東工大基金

Bio Creative Staffの活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

生命理工学院 バイオ創造設計室

E-mail : biocreat@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2487


東工大学生チームが情報セキュリティコンテストSECCON CTF 2019 国際大会で初優勝

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日本最大の情報セキュリティコンテスト「SECCON CTF 2019 —International—」 (セキュリティコンテスト キャプチャー ザ フラッグ2019 国際大会、セクコン)が12月21、22日、東京・秋葉原で行われ、東京工業大学の学生サークル「デジタル創作同好会traP(トラップ)」に所属する学生ら4人のチーム「NaruseJun」(ナルセジュン)が初優勝し、経済産業大臣賞を受賞しました。2018年は準優勝で、今回は雪辱を果たしました。

優勝したチームNaruseJun。左から藤原さん、福成さん、高山さん、黒岩さん、SECCON実行委員長の花田智洋氏

優勝したチームNaruseJun。左から藤原さん、福成さん、高山さん、黒岩さん、SECCON実行委員長の花田智洋氏

優勝して経済産業大臣賞を受賞したチームNaruseJun。左二人目から藤原さん、福成さん、高山さん、黒岩さん

優勝して経済産業大臣賞を受賞したチームNaruseJun。左二人目から藤原さん、福成さん、高山さん、黒岩さん

SECCONは攻撃と防御両方の視点を含むセキュリティの総合力を試すハッキングコンテストです。10月に世界64ヵ国・地域から799チーム2,347人が参加したオンライン予選を行いました。予選を勝ち抜いた日本、中国、韓国、ロシア、ウクライナなど世界9ヵ国・地域の14チームが国際大会に出場しました。4人一組で、難問を解きながら競い合いました。

NaruseJunは2017年のSECCON国内大会で準優勝と文部科学大臣賞(個人賞)を受賞、2018年のSECCON国際大会は初出場で準優勝でした。

優勝したNaruseJunのメンバー

  • 藤原裕大さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程3年)
  • 福成理紀さん(工学院 情報通信系 修士課程1年)
  • 高山柊さん(情報理工学院 数理・計算科学系 学士課程3年)
  • 黒岩将平さん(情報理工学院 情報工学系 修士課程1年)

藤原さん、福成さん、高山さんはtraPに所属し、黒岩さんはtraPのOBです。

チーム代表 黒岩将平さんの話

優勝の喜びを語る黒岩さん
優勝の喜びを語る黒岩さん

サイバーセキュリティー系コンテストの最高峰の1つであるSECCON CTF 2019国際大会で優勝することができ、大変嬉しく思います。東工大traPのCTFチームとしては、昨年に続き、2度目の国際大会出場でした。昨年は惜しくも準優勝であったため、今年は優勝できたことにチームとして成長を感じました。私は普段はソフトウェア工学の研究をしています。他のメンバーも、情報工学に関わる様々な分野で研究を行っています。各メンバーの専門分野に関する知識や経験を、うまく活かして戦えたからこその結果であると感じています。

デジタル創作同好会traPとは

ゲーム制作を中心に、プログラミング、DTM(音楽制作)、2Dイラスト、3Dモデル、ドット絵、競技プログラミング、CTF(コンピュータセキュリティ技術を競う競技)など幅広く取り組んでいます。デジタルコンテンツのチーム制作や技術共有を目的として、2015年4月に設立した東工大公認の技術(ものつくり)系サークルです。また、ゲーム制作者交流イベントや中高生向けのプログラミング教室を主催するなど外部との交流も積極的に行っています。

東工大基金

デジタル創作同好会traPの活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

留学生会が柔道部で柔道体験

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イベント参加者の集合写真

イベント参加者の集合写真

東京工業大学で学ぶ留学生が集まる東京工業大学留学生会(Tokyo Tech International Students Association、以下TISA=ティサ)と柔道部が合同で11月2日、「TISAと柔道部が一緒に柔道体験」(JUDO EXPERIENCE with TISA JEx and JUDO club)を開催しました。

計16人が集まり、日本の伝統的なスポーツである柔道を体験しながら、留学生と日本人学生の国際交流を図るイベントでした。

参加した留学生は柔道部の学生から柔道着の着方、ルール、受け身、基本的な技などを習い、試合形式の練習をしたり、柔道部員の練習試合を見学しました。

柔道場への礼
柔道場への礼

柔道部による説明を聞く参加者
柔道部による説明を聞く参加者

全員が流暢に英語を話せるわけではないものの、話す側はジェスチャーなどを交えて伝えようとし、聞く側は理解しようとする耳を持ち、それによってコミュニケーションをとることが出来ました。

また「柔道を体験してみたい」と参加した留学生は、柔道で大切とされる「礼儀」を感じとることができました。試合を始める前と終わった後の相手に対する礼、練習の始めと終わりに柔道場に対する礼の姿勢を体験しました。

留学生と柔道部員が笑顔で交流
留学生と柔道部員が笑顔で交流

柔道部員の練習試合
柔道部員の練習試合

留学生には日本文化を知るだけでなく、実際に体験できる機会となりました。また、日本人学生にとっては母語でない言語で相手にどう伝えるか工夫する場となりました。国際交流の場としてもいい機会になったようです。

参加した留学生のコメント

タラチャイ・ナッタノンさん(工学院 情報通信系 学士課程4年)

私は人工知能について研究しています。長期的な目標は人類をもっと幸せな世界へ導くAIを作ることです。

このイベントに参加したことで、柔道の楽しさを学び、おまけに柔道による小さな引っかき傷も得ることができました。 日本人学生、留学生と交流しながら、伝統的で実践的である柔道という日本の文化を体験しました。 TISAと柔道部のみなさんありがとう!

主催者のコメント

森響さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程2年、TISAイベントマネージャー)

私は生命理工学系2年です。TISAに入ろうと思ったのは、今回のようなイベントを企画することを通じて、国際交流の機会を持てればと思ったからです。

留学生にとっても、日本人学生にとっても楽しい経験になったかと思います。そして何より、自分自身も柔道体験と国際交流を楽しむことができました。 柔道部の方々が、準備や当日の進行など大きな役割を果たしてくれたことに感謝しています。

今後ともTISAとして留学生と日本人学生が楽しみながら交流できるイベントを企画していければと考えています。

キリルチュク・オレクシイさん(情報理工学院 情報工学系 修士課程2年 TISA・JExオフィサー)

私は情報工学系村山研究室の修士2年で人口知能の研究をしています。私はTISAに2019年夏ごろ参加しました。この経験を通じて、東工大における留学生コミュニティの支援とともにイベントを企画する能力やリーダーシップの技術を学んでいきたいです。

TISAの日本交流委員会(Japanese EXchange committee, JEx)オフィサーとして、初めて監督したイベントでした。同じTISAの森響さんが柔道部とのコミュニケーションに優れており、時間内にすべてを予約することができたため、イベントの計画が楽になりました!また、「d.school comes to Tokyo Tech 2019」(リーダーシップ教育院が2019年10月に開催した「デザイン思考」の本質を理解するワークショップ)で学んだファシリテーターのコツを試すこともできました。改善の余地はもちろんあるのですが、楽しいイベントだったと思います。

小野篤輝さん(物質理工学院応用化学系 学士課程4年、柔道部主将)

私は学士課程4年で、有機金属錯体の研究を行っています。研究のかたわら、部活動にも励んでおり、このような多文化交流イベントに参加しました。これからも積極的に国際交流を行い、東工大柔道部の魅力を発信していきたいです。

違う文化の人たちが柔道を楽しめたことを嬉しく思います。

東京工業大学留学生会(TISA)とは

TISAは、東工大留学生の学生生活の補助、および学内の国際交流を促進することを目的として、2007年に設立された学生団体です。学内の留学生との接点を増やしたい・異文化交流に興味がある・将来留学を考えている・語学力を伸ばしたい、そんな東工大生をいつでも歓迎しています。

東京工業大学柔道部とは

東京工業大学柔道部は長谷川博師範の下、部員10人で活動している、創部100年以上の歴史を誇る公認サークルです。

活動場所は、主に大岡山キャンパスの地下武道場で、現役部員の他にも多数の留学生が一緒に練習に参加し、柔道を通じた国際交流にも力を入れています。柔道を楽しむことを大切にしているため、経験者はもちろん初心者も気楽に参加できます。

東工大基金

柔道部の活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学留学生会(TISA)

E-mail : contact@mytisa.net

液-液相分離がオートファジーを制御する仕組みを発見 オートファジー研究は次のフェーズへ

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要点

  • 細胞内でオートファジーを担う構造体の集まる仕組みや実体は長らく不明であった。
  • 栄養飢餓になるとAtg13たんぱく質が脱リン酸化して他のAtgとともに液-液相分離した液滴を形成し、オートファジーの進行を担うことを明らかにした。
  • 液-液相分離がオートファジーを直接制御しているという全く新しい機序の発見により、オートファジーを制御する新たな薬の開発に道が拓けることが期待される。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの大隅良典栄誉教授、微生物化学研究所の野田展生部長、藤岡優子上級研究員、金沢大学の安藤敏夫特任教授、理化学研究所の岡田康志チームリーダー、東京大学の鈴木邦律准教授らの研究グループは、オートファジーの進行を担う構造体の実体が、Atgたんぱく質が液-液相分離[用語1]した液体状の会合体(液滴注[用語2])であることを発見しました。

オートファジーは細胞内のたんぱく質を分解する仕組みの1つです。これまでに、Atgたんぱく質が集まってPAS[用語3]と呼ばれる構造体を形成することが分かっていましたが、Atgたんぱく質が集まる仕組みや形成された構造体の状態はよく分かっていませんでした。

本研究グループは、Atg13たんぱく質の蛍光顕微鏡解析によりPASの性質を明らかにするとともに、試験管内でPASを再構成することに成功しました。そしてPASはAtg13が他のAtgたんぱく質とともに液-液相分離して形成された液滴の状態がその実体であり、この液滴がオートファジーを担うことを初めて明らかにしました。

液-液相分離がオートファジーを直接制御していることを明らかにした本研究の結果は、液-液相分離が細胞内の生命現象全般に広く関与していることを示唆しており、さまざまな細胞内現象について分子機構の見直しが進むことが期待されます。さらに、オートファジーが関係する病気に関して、液-液相分離の制御に着目したオートファジー特異的な制御剤の開発が期待されます。

本研究成果は、2020年2月5日(英国時間)に英国科学誌「Nature」のオンライン速報版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:
「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」(研究総括:田中啓二 東京都医学総合研究所 理事長)
研究課題名:
「オートファジーの膜動態解明を志向した構造生命科学」
研究代表者:
野田 展生(微生物化学研究会 微生物化学研究所 部長)
研究開発期間:
平成25年4月~令和2年3月

研究の背景

オートファジーは酵母からヒトまで保存された細胞内の主要な分解経路であり、有害なたんぱく質凝集体や傷ついたミトコンドリアなどの分解を通して、細胞の恒常性維持に働いています。そしてオートファジーの異常は神経変性疾患やがんなど、重篤な疾病を引き起こすことが知られています。これは生体にとって極めて基本的かつ重要な現象であり、そのメカニズムを知ることは疾病の治療や予防法の開発のために欠かせません。

オートファジーでは、オートファゴソームと呼ばれる脂質膜の袋を新生し、分解対象を包んで分解の場であるリソソームへ輸送し、分解を行います。オートファゴソームの新生はオートファジーの最も重要な過程であり、約20種類のAtgたんぱく質が担っています。酵母を用いた解析により、栄養飢餓でオートファジーが誘導されると、Atgたんぱく質が液胞膜の近傍に集合してPASと呼ばれる構造体が形成され、オートファゴソームを形成します。しかしさまざまなたんぱく質が高濃度でひしめき合う細胞質内で、散在していたAtgたんぱく質がどのように速やかに集合し、形成されたPASはどのような実体で、どのようにしてオートファゴソームの形成を担うのかは全く分かっていませんでした。

液-液相分離は均質の溶液が2つ以上の液相に分離する現象で、私たちの身近でもしばしば観察されます。近年、細胞内で核酸やたんぱく質が液-液相分離を起こして周囲とは異なる液相を形成し、細胞内で球状の液滴を形成することが分かってきました。細胞の中には核やミトコンドリアなどの「膜で仕切られたオルガネラ」があることは古くから知られていますが、核酸やたんぱく質の液滴は「膜のないオルガネラ」として、さまざまな役割を担っていると考えられるようになってきました。

膜のないオルガネラは環境の変化に際して迅速に形成、解消することが可能であり、必要に応じて形成されるオルガネラとしてさまざまな役割を担っていると考えられています。しかし液-液相分離がオートファジーの制御に果たす役割はこれまで全く知られていませんでした。

液-液相分離によるPASの形成モデル

図1. 液-液相分離によるPASの形成モデル


栄養豊富な条件では、Atgたんぱく質は細胞質中に分散しており、細胞質を満たしているさまざまなたんぱく質と混ざり合っている。栄養飢餓になりAtg13が脱リン酸化されると、Atg13は他のAtgたんぱく質とともに液-液相分離して液胞膜上に新たな液相(液滴)を形成する。この液滴がPASの実体であり、液滴からオートファゴソームの形成が進行する。

研究の内容

本研究グループは、PASを構成するたんぱく質の1つであるAtg13に着目し、蛍光顕微鏡を用いて酵母細胞内での振る舞いを詳細に調べました。その結果Atg13は細胞質とPASの間を活発に往来しており、さらにPASの内部でも動き回っていることが分かりました。PASが形成される過程を詳細に観察した結果、まず複数の小さな球状構造が液胞膜上に形成され、それが膜上を動き回りながら互いに融合して1つのPASになることが分かりました。これらの特徴は、PASが液-液相分離で形成された液体状の液滴であることを示しています。

次にAtg13を構成因子として含むAtg1複合体の挙動を試験管内で調べました。精製したAtg1複合体は試験管内で速やかに球状の液滴を形成し、液滴同士は活発に融合するなどの性質を示しました。高速原子間力顕微鏡[用語4]を用いた解析の結果、液滴ではAtgたんぱく質がランダムな配置で分布し、運動している様子が観察されたことから、液体様の構造であることが確かめられました。

栄養が豊富な環境にいる酵母ではAtg13はTORC1というリン酸化酵素によりリン酸化を受け、PASの形成を阻害し、酵母を栄養飢餓にさらすとAtg13がホスファターゼにより脱リン酸化を受け、PASの形成が促進されることが知られています。同様に試験管内においても、Atg13をTORC1によりリン酸化すると液滴形成が阻害され、ホスファターゼで脱リン酸化すると液滴形成が促進されました。この結果から、Atg13のリン酸化状態が液-液相分離の制御を通して、PASの形成とオートファジーの進行を制御していることが分かりました。

Atg1たんぱく質自体もリン酸化酵素であり、その活性化を通した他のAtgたんぱく質のリン酸化がオートファジーの進行に重要であることが分かっていました。今回の試験管内での解析の結果、Atg1複合体が液-液相分離し液滴を形成した場合のみ、Atg1の活性化が進行することが分かりました。Atg1の活性化を行うことが液滴を形成する意義の1つと考えられます。

酵母ではPASは常に液胞膜の上で形成されます。液胞膜に存在するVac8たんぱく質を欠損させたところ、PASが液胞膜から離れることが分かりました。さらに、試験管内でVac8たんぱく質を結合させた脂質膜にAtgたんぱく質液滴を添加すると、液滴が脂質膜に結合し、脂質膜上を動き回りながら互いに融合することが分かりました。これは酵母におけるPASの形成過程を再現していると考えられます。

これらの結果から、細胞が栄養飢餓を感知すると、Atgたんぱく質が液-液相分離を引き起こし液胞膜上に濃縮して、PASそのものである液滴を形成させ、オートファゴソーム形成に必要な因子の濃縮やAtg1の活性化を通してオートファゴソームの形成が進行することが明らかになりました。

PAS液滴の観察

図2. PAS液滴の観察


(a)酵母細胞内でPAS同士が融合して球形になる様子。Atg13に融合させた蛍光たんぱく質の蛍光で観察した(スケールバー:2マイクロメートル)。 (b)巨大リポソーム膜上でAtgたんぱく質液滴が融合する様子。上の写真2枚はAtg13の蛍光像を、下の2枚は微分干渉像を示す(スケールバー:10マイクロメートル)。 (c)高速原子間力顕微鏡によるAtgたんぱく質液滴の観察結果。液滴にはAtg17がランダムな向きで存在している様子が分かる。画像はFFTバンドパスフィルター処理を行っている(スケールバー:100ナノメートル)。

今後の展開

オートファジーが液-液相分離で制御されており、PASの実体がAtgたんぱく質の液滴であることを明らかにしたことは、これまでのオートファジー制御の考え方を根底から変え得る成果です。これまでのオートファジーのメカニズム研究は個別のAtgたんぱく質の解析が中心でしたが、新たに液-液相分離の考え方を導入することで、Atgたんぱく質が「集団としてどのように振る舞うのか」という新しい切り口からの研究が展開され、極めて複雑なオートファジーの仕組みの解明が一挙に進むことが期待されます。また「相分離状態の制御」という全く新しい視点からのオートファジー制御剤の開発を進めることで、オートファジーが関連するさまざまな疾病の治療や予防法の開発研究が促進されると期待されます。

今回の発見は液-液相分離が細胞内現象全般の制御に深く関わることを強く示唆するものです。本研究では高速原子間力顕微鏡を活用することで液滴に含まれるたんぱく質の形状を観察することに成功し、液滴と脂質膜の間の相互作用を試験管内で再現するなど、新たな手法の開発を通して広く生命科学全般の発展にも貢献すると考えられます。

用語説明

[用語1] 液-液相分離 : 均一な溶液が複数の液相に分離する現象であり、日常生活でも水と油の分離としてよく観察される。細胞内ではたんぱく質や核酸が液-液相分離することが知られている。

[用語2] 液滴 : たんぱく質や核酸が液-液相分離することで形成した液体状の会合体。液滴は膜のないオルガネラとも呼ばれ、細胞内でさまざまな機能を担っている。液滴は自発的に球形になる性質があり、内部流動性が高く、周囲とも活発な分子交換を行うなどの性質を持つ。

[用語3] PAS(Pre-Autophagosomal Structure) : プレオートファゴソーム構造体の略。酵母において、栄養飢餓になると液胞近傍の1ヵ所にAtgたんぱく質が集まるが、この集まった構造を呼ぶ。オートファゴソームはPASを起点として形成されると考えられている。

[用語4] 高速原子間力顕微鏡(高速AFM) : 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)は、探針と試料の間に働く原子間力を元に分子の形状を可視化する顕微鏡である。高速AFMは溶液中で動いているたんぱく質などの生体分子をナノメートルの空間分解能とサブ秒という時間分解能で観察することが可能である。

論文情報

掲載誌 :
Nature
論文タイトル :
Phase separation organizes the site of autophagosome formation(相分離はオートファゴソーム形成の場を構築する)
著者 :
Yuko Fujioka, Jahangir Md. Alam, Daisuke Noshiro, Kazunari Mouri, Toshio Ando, Yasushi Okada, Alexander I. May, Roland L. Knorr, Kuninori Suzuki, Yoshinori Ohsumi, Nobuo N. Noda
DOI :
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山口昌英教授と須山輝明准教授が第13回「湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞」を受賞

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東京工業大学 理学院 物理学系の山口昌英教授と須山輝明准教授が第13回湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞を受賞し、受賞式が1月22日、京都大学 基礎物理研究所 湯川記念館で行われました。

湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞を受賞した山口昌英教授(中央)と須山輝明准教授(右から2人目)(京都大学基礎物理学研究所提供)

湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞を受賞した山口昌英教授(中央)と須山輝明准教授(右から2人目)(京都大学基礎物理学研究所提供)

湯川記念財団によると、木村利栄理論物理学賞は「重力・時空理論、あるいは場の理論、あるいはそれらと関連する分野の理論研究において顕著な業績を上げており、かつ、受賞以降も対象分野で中心的な役割を果たしていくことが期待される研究者」に対し毎年、贈られます。湯川記念財団は湯川秀樹博士のノーベル物理学賞受賞(1949年)を記念して、1956年設立された公益財団法人です。旧広島大学 理論物理学研究所 教授であった木村利栄氏の遺産が湯川記念財団に寄付され、これを木村基金として、2007年度、木村利栄理論物理学賞が設けられました。候補者の選考や木村基金の運用は京都大学 基礎物理学研究所に委託されています。

受賞した山口教授
受賞した山口教授

受賞した須山准教授
受賞した須山准教授

受賞研究課題

「宇宙原始揺らぎの非ガウス性の研究」

受賞理由(湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞Webページから)

宇宙論的観測の進展にともない、宇宙の大域的構造形成の標準的シナリオとして、インフレーション宇宙論が確立されようとしている。さらに、インフレーションモデルを特定し、宇宙初期の物理を解明する手段として、宇宙背景放射による初期揺らぎの観測の高精度化が進んできたが、今後は銀河サーベイや重力レンズ、21センチ線などの手段を用いて、3次元的な密度揺らぎが大きな体積にわたり高精度で得られる時代が訪れようとしている。

須山輝明氏と山口昌英氏はインフレーション中に生成される初期揺らぎの3点相関と4点相関の間にモデルの詳細に依存しない不等式が成立することを見いだした。特に単純な、インフレーションを起こす場のみに初期揺らぎが起因するモデルにおいては等号が成立する。そのため、この不等式に着目することで初期揺らぎの起源が単一の場によるものであるのか複数の場が寄与しているものであるのかが明白に区別できる。また、この不等式が成立しないということが判明した場合、インフレーション宇宙論を根底から覆すことになり、インフレーションモデルの試金石となる不等式であると言うこともできる。したがって、本不等式の検証は、現在進行している宇宙論的観測の主たる観測目標のひとつに掲げられている。彼らはその後、高橋智氏、横山修一郎氏らとの共同で、この不等式の適用範囲のさらなる拡張もおこなっている。

この「須山―山口不等式」と名付けられた関係式は、インフレーション宇宙論の観測的検証を語るうえで、欠くことのできない主要な関係式になっている。現在、初期揺らぎの3点相関や4点相関の非ガウス性は、宇宙背景放射の観測からは観測可能なほど大きくないということが明らかになってきている。しかし今後、3次元的な密度揺らぎの高精度観測が進むことが確実であり、より多くの揺らぎのモードが観測可能となる。それにより、飛躍的に高次相関の観測精度が高まることが期待される。そのような時代を迎え、この不等式の価値はさらに高まることは間違いないと考えられる。

両氏は共に受賞対象の研究以外にも、初期宇宙論の分野で多くの顕著な研究業績を挙げ、これまでも分野を牽引する研究を行ってきており、今後の活躍が十分に期待される。こうした理由から、木村利栄理論物理学賞の受賞にふさわしいと判断した。

受賞について山口昌英教授と須山輝明准教授は次のようにコメントしています。

山口昌英教授
山口昌英教授

山口昌英教授

大変重要な賞を頂き、身に余る光栄に存じます。須山氏を始めとしたこれまでの共同研究者の方々、諸先輩、学生諸氏など、多くの関係者の皆様に心からお礼申し上げます。

今後も、少しでも宇宙の謎が明らかになるよう研究を続けたいと思います。

須山輝明准教授
須山輝明准教授

須山輝明准教授

ここ数十年で宇宙に関する理論・観測が急速に進展しており、今では宇宙誕生直後の宇宙の進化が物理学に基づいて議論できるようになってきています。

しかし、まだ謎として残されていることもたくさんあり、研究者が日々邁進して解明に取り組んでいます。

この流れの中に身を置く者として、今回の木村利栄理論物理学賞という名誉な賞をいただいたことは、大変光栄なことだと思っています。

また、これまで研究を支えていただいた関係者の方には心からお礼を申し上げます。

今後も基礎科学の発展へ少しでも貢献できるよう励んでゆきたいと思います。

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お問い合わせ先

准教授 須山輝明

E-mail : suyama@phys.titech.ac.jp

物質・情報卓越教育院 第1回ビジネスモデル討論合宿・国際フォーラムを開催

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東京工業大学 物質・情報卓越教育院(TAC-MI)は、12月2日~6日まで「ヒルトン小田原リゾート&スパ」(神奈川県小田原市)で、ビジネスモデル討論合宿・国際フォーラム(TAC-MI 1st International Forum)を開催しました。

この討論合宿・国際フォーラムは、海外から参加した学生とグループ活動を行い、自分自身の知識・経験から気づいた課題について、未来社会での解決策を考えることで、俯瞰力・リーダーシップ力を鍛えるものです。また、海外アドバイザー教員や企業関係者、本学プログラム担当教員を前に英語での研究発表を行うことで、国際コミュニケーション力の向上を図ることを目的として、毎年1回開催するイベントです。

今年度は、本教育院の博士後期課程の学生は全員参加、修士課程の学生は任意の参加として、合計26名の学生が参加しました。また、物質・情報卓越教育院の海外プログラム担当者(海外アドバイザー教員)が指導する博士課程学生8名が海外から参加しました。12月4日からは本プログラムの連携企業関係者や本学プログラム担当教員、海外アドバイザー教員など約60名がグループワークの最終発表会及び国際フォーラムに参加しました。

TAC-MI International Forum 参加者集合写真

TAC-MI International Forum 参加者集合写真

1日目午前 出発式

1日目の12月2日、東京工業大学大岡山キャンパス西9号館で、出発式を行いました。前半は、山口猛央教育院長からの開会の挨拶に続き、本教育院のプログラム担当教員である環境・社会理工学院の西條美紀教授よりグループワークのガイダンスがありました。また、グループワークのメンバー発表があり、これから5日間を共に過ごすグループの仲間たちと自己紹介を行いました。出発式後半には、環境・社会理工学院の室町泰徳准教授が、グループワークのテーマに関連する話題として「未来のモビリティサービス」(Mobility Service in the Future)について講演しました。

出発式
出発式

室町准教授による講演
室町准教授による講演

1日目午後 サイトビジット

1日目の午後は、株式会社東芝の研究開発センター(神奈川県川崎市)及び日産自動車株式会社の先進技術開発センター(神奈川県厚木市)を訪問しました。東芝ではCO2削減、太陽電池を含むエネルギー及び社会インフラへの幅広い取り組み、自律型産業用ロボット開発の説明を受けました。日産自動車では、将来モビリティと車両電動化への総合研究所の取り組みについて俯瞰的な視野から説明がありました。学生たちにとっては、普段の研究から離れ、翌日からのビジネスモデル討論へのマインドセットになりました。

2日目・3日目 ビジネスモデル討論

2日目の12月3日と3日目の4日はビジネスモデル討論のグループワークを行いました。このグループワークは、これまでの研究経験を生かしつつ、リーダーシップを発揮して、社会課題の解決につながるビジネスを生み出すために、複合的で俯瞰力のある視野を持った人材を育成することを目的に実施されました。2日間のグループワークでは「未来のシェアリングエコノミーと物質・情報科学」 “Future sharing economy & materials and information science”をテーマに設定しました。6グループに分かれ、各グループは実在する社会課題に対し、理解を深め、異分野、異文化の知識を組み合わせ、持続可能な解決策を練り、成果を発表しました。

12月3日は、まず、社会課題のブレインストーミングから、身近にいる課題を持った人について考え、課題をグループ内で共有しました。そして、課題を持つ人の真の痛みを取り除くにはどのような未来が理想的なのかを考え、ポスターを制作し、解決策を提案しました。

グループでの話し合い
グループでの話し合い

ポスター制作
ポスター制作

12月4日は、西條教授及びファシリテーターとグループごとに面談を行い、最終プレゼンテーションに向けて、アドバイスを受けました。

西條教授との面談
西條教授との面談

最終発表に向けてのスライド制作
最終発表に向けてのスライド制作

最後に、本プログラムの連携企業関係者や本学プログラム担当者、海外アドバイザー教員など約60名の前で最終発表を行いました。

審査員による審査の結果、全6グループのプレゼンテーションの中で、最も素晴らしい提案を行ったグループにはベストソリューション賞(大賞)(Best Solution Award(Grand Winner))が、また最もチームワークを発揮したプレゼンテーションを行ったグループにはベストチームワーク賞(Best Teamwork Award)が、そして最もプレゼンテーション力があるプレゼンターにはベストプレゼンター賞(Best Presenter Award」が贈られました

グループワークの最終発表
グループワークの最終発表

Best Presenter Awardを受賞したポーリン・ファン・デールセンさんと水本理事・副学長
Best Presenter Awardを受賞した
ポーリン・ファン・デールセンさんと水本理事・副学長

Best Solution Awardを受賞したグループ3
Best Solution Awardを受賞したグループ3

Best Teamwork Awardを受賞したグループ2
Best Teamwork Awardを受賞したグループ2

4日目午前 国際フォーラム~海外アドバイザー教員による講演~

4日目の12月5日午前は、海外アドバイザー教員を招き講演会を開催し、先生方が率いるチームの研究成果を紹介しました。

本教育院では、海外アドバイザー教員との面談により自身の強み弱みを把握することを目的とした海外メンター制度があります。今回の国際フォーラムでは、5名の海外アドバイザー教員が参加し、12月4日及び6日の昼食の時間を利用し、物質・情報卓越教育院学生と海外アドバイザー教員との面談を行いました。面談の中で、研究発表を行った博士後期課程の学生に対して、海外アドバイザー教員からアドバイスと励ましの言葉がありました。

講演者
講演テーマ
J. M. ファン・ルイテンベーグ教授
ライデン大学(オランダ)
単一分子電子輸送の進歩と挑戦
Advances and challenges in single-molecule electron transport(スカイプ講演)
ハンツーユーゲン・ブット教授
マックス・プランク研究所(ドイツ)
接触角ヒステリシスの低い材料をめざして
Materials for low contact angle hysteresis
ピーター・グルッター教授
マギル大学(カナダ)
原子間力顕微鏡によって得られるエネルギー持続可能性のための材料の超高速時間分解能およびナノメートル空間分解能
Ultrafast time and nm spatial resolution of materials for energy sustainability by atomic force microscopy
セルゲイ・カザリアン教授
インペリアル・カレッジ・ロンドン(イギリス)
ポリマー、生体材料、動的システムへの分光イメージングの新たな応用
Emerging applications of spectroscopic imaging to polymers, biomaterials and dynamic systems
クリストファー・ケンパー・オーバー教授
コーネル大学(アメリカ)
液晶材料中のイオン電子伝導性の計算・実験に基づく研究
Ionic-electronic conductivity in liquid crystalline materials– A computational /experimental study
謝続明教授
清華大学(中国)
マルチボンドネットワーク(MBN)手法によって作成された超強靭なハイドロゲル
Super tough hydrogels created by Multi-bond Network (MBN) strategy
クリステル・ラベルティー・ロバート教授
ソルボンヌ大学(フランス)
バッテリーとその展望
Battery and perspective(スカイプ講演)

海外アドバイザー教員による講演
海外アドバイザー教員による講演

海外アドバイザー教員との面談
海外アドバイザー教員との面談

4日目午後・5日目午前 国際フォーラム ~学生による研究発表~

12月5日午後と、最終日の12月6日午前は、博士後期課程1年の物質・情報卓越教育院学生10名及び海外より参加した博士学生8名が、英語による研究発表を行いました。

発表及び質疑応答の内容は、本学及び企業のプログラム担当者が、1.専門・基礎知識、2.リーダーシップ力(プレゼンテーション力、コミュニケーション力)、3.課題解決力、4.知のプロフェッショナルとしての資質、の4つの観点より評価し、ポイントが高い学生に表彰を行います。また、この研究発表は本教育課程の関門の一つである「博士論文研究基礎力審査(Qualifying Examination)」の一部も兼ねているため、学生は緊張の面持ちの中、自身のこれまでの研究の意義と成果についてのプレゼンテーションを熱心に行い、発表後には活発な質疑応答が行われました。

12月6日15時より行われた閉会式では、学生発表の評価で最もポイントの高かった物質・情報卓越教育院学生及び海外学生、各1名にベストプレゼンテーション賞(Best Presentation Award)が贈られました。

博士後期課程学生による研究発表
博士後期課程学生による研究発表

研究発表後の質疑応答
研究発表後の質疑応答

Best Presentation Award受賞者の渡邊正理さんと山口教育院長
Best Presentation Award受賞者の渡邊正理さんと山口教育院長

Best Presentation Award受賞者のポーリン・ファン・デールセンさんと山口教育院長
Best Presentation Award受賞者の
ポーリン・ファン・デールセンさんと山口教育院長

企業メンターとの面談

国際フォーラム期間中、物質・情報卓越教育院学生と企業メンターとの面談も行われました。本教育院では1人の学生に対して、1人の企業メンターがつき、教育院登録当初から修了まで継続的に見守っていきます。学生は面談を通して、自身の強み弱みを把握するだけでなく、研究や発表、キャリアパスなど様々なアドバイスを受けました。

5日間を振り返って

5日間の合宿・国際フォーラムで、物質・情報卓越教育院の学生はグループワークをはじめ、食事の時間やフリータイムの時間を使い、海外学生との交流を深めました。また、学生だけでなく、参加した本学教員や海外アドバイザー教員、企業関係者など参加者全員が交流を深める良い機会となりました。新たな産学協創教育を進めていく上で、貴重な経験となりました。

物質・情報卓越教育院

物質・情報卓越教育院(TAC-MI)は、本学から申請した2018年度卓越大学院プログラム『「物質×情報=複素人材」育成を通じた持続可能社会の創造』が文部科学省に採択されたことにより、2019年1月に設立されました。

複眼的・俯瞰的視点から発想し、新社会サービスを見据え、情報科学を駆使して独創的な物質・情報研究を進める「複素人材」を産業界とともに育成します。

小田原城見学ツアー(12月6日午後)
小田原城見学ツアー(12月6日午後)

海外学生とのランチタイム
海外学生とのランチタイム

お問い合わせ先

物質・情報卓越教育院事務室

E-mail : tac-mi@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2943

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