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長寿命核分裂生成物の半減時間を9年以下に短縮 高速炉を用いた効率的な核変換法を提案

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要点

  • 高速炉を利用し4種類の長寿命核分裂生成物を効率的に短寿命化・減量
  • 新しいLLFPターゲット集合体を考案
  • LLFPターゲットおよび減速材の材料特性、製造性を実験により実証

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所の千葉敏教授、東北大学の若林利男名誉教授、東京都市大学 工学部 原子力安全工学科の高木直行教授、日本原子力研究開発機構の舘義昭博士らは、原子力発電所の放射性廃棄物に含まれる長寿命の核分裂生成物(LLFP)[用語1]であるセレン(79Se)、テクネチウム(99Tc)、パラジウム(107Pd)、ヨウ素(129I)の4種について高速炉[用語2]の炉心周辺に装荷することで、数10万年から1000万年以上の半減期を有するこれらの核種が半分になるのに要する時間を9年以下に短縮する方法を見出した。

この新LLFPターゲット集合体は、YD2およびYH2減速材[用語3]を組み合わせ、さらにLLFPのテクネチウムを熱中性子フィルター材料として使うことにより、隣接する燃料集合体の熱スパイク[用語4]を抑制しつつ、効率的な核変換を行うことができる。本方式はLLFPの同位体分離を要さないことも特徴である。

4核種の新LLFPターゲット集合体をナトリウム冷却MOX燃料(ウランとプルトニウムの混合酸化物)高速炉のブランケット領域に装荷した場合、サポートレシオ(SR)[用語5]1以上を確保しつつ、約8%/年の高い核変換率が達成できる。またLLFPターゲット、YH2およびYD2減速材の材料特性と製造の実験を通じLLFPターゲット集合体の実現性が明らかとなった。さらに、今後の効果的な再処理方法の実現により、これらの核種量を最終的に1/100程度まで低減させる可能性が拓かれた。

文部科学省国家課題対応型研究開発推進事業原子力システム研究開発事業により東工大が委託を受けた「高速炉を活用したLLFP核変換システムの研究開発」の成果で、成果は「Scientific Reports」に2019年12月16日にオンライン掲載された。

長寿命核分裂生成物の中性子捕獲反応

背景

高速炉は、余剰中性子を活用することにより、消費した以上の燃料を増殖したり、廃棄物として生成したLLFPやマイナーアクチニド(MA)[用語6]を低減するなど、さまざまな目的に活用できる。MAおよびLLFPの核変換に関する多くの研究が行われている。LLFPに関しては環境への影響を低減するという観点から重要な6核種の核変換研究が実施されている。6種のLLFPは79Se、93Zr(ジルコニウム)、99Tc、107Pd、129I、135Cs(セシウム)である。

本研究グループではこれまでにナトリウム冷却酸化物燃料高速炉の炉心周辺にYD2減速材を適切に配置したLLFPターゲット集合体を装荷することにより、これら6種のLLFPを同時に核変換しサポートレシオ(SR)を1以上とする方法を明らかにしてきた。

しかしながら、この方法の核変換率は低いため、大量のLLFPを装荷し繰り返し照射のためリサイクルする必要があった。これにより、リサイクル中にLLFPが失われる可能性がある。高い核変換率を達成することは、LLFPターゲットをリサイクルする際のロスの削減に重要である。

6種のLLFPすべてについて高い核変換率とサポートレシオ>1を同時達成することは困難である。特に135Csと93Zrは中性子吸収断面積が低いため非常に難しいと考えられている。そのため地層処分上も問題となる79Se(半減期33万年)、129I(同1570万年)に加えて99Tc(同21万年)および107Pd(同650万年)を高い核変換率を達成する対象核種として選択した。

高い核変換率を達成するためには、LLFPターゲット内の減速材の割合を増加させることにより、熱中性子の数を増やす必要がある。この目的のために、先行研究で用いられた重水素(D)に加えて、水素(H)を適用するシステムを考案した。重水素と水素を組み合わせることにより、LLFPターゲット集合体に隣接する燃料集合体内の燃料ピン出力増加増大(熱スパイク)を抑制しつつ、高い核変換率を達成することが必要となる。

今回の研究では、同位体分離を行うことなく4種の長寿命核分裂生成物(79Se、99Tc、107Pd、129I)を高速炉の炉心周辺に装荷して高い核変換率を達成する方法を明らかにした。さらに、LLFPおよび減速材の材料特性と製造に関する実験により、LLFP核変換ターゲットの実現可能性も明らかにした。

研究成果

解析にはモンテカルロコードのMVPコードとMVP-burnコード[用語7]を、核断面ライブラリーはJENDL-4.0[用語8]を使用した。図1に高速炉におけるLLFPターゲット集合体の装荷位置を、表1に本手法による放射能半減期間短縮の度合いを示す。

高速炉におけるLLFPターゲット集合体の装荷位置

図1. 高速炉におけるLLFPターゲット集合体の装荷位置

表1. 高速炉におけるLLFPの核変換による寿命短縮効果

LLFP核種
半減期
(年)
核変換率
(%/年)
サポートレシオ
SR
核変換による実効半減期(年)
核変換による寿命短縮比
 
A
 
 
B
B/A
79Se
33万年
10.4
28.2
6.3
1/52,000
99Tc
21万年
7.9
4.3
8.4
1/25,000
107Pd
650万年
8.0
1.8
8.3
1/782,000
129I
1,570万年
7.5
1.5
8.9
1/1,770,000

79Seの場合、高い核変換率と隣接する燃料集合体の出力ピークの低減の観点から、ZnSe(セレン化亜鉛)とYD2の体積比は1:9に設定され、核変換率は10.4%/年になった。また、SRは約28を達成したことがわかった。

99Tcの場合、隣接する燃料集合体の出力ピークを抑制するために、減速材としてYH2とYD2を混合する手段を取った。 YH2とYD2の体積比を6:4に変更し、99Tcと減速材(YH2 + YD2)の体積比を1:9に変更すると、変換率は7.9%/年だった。SRは4.3で、SR > 1を満たしている。

107Pdの場合、PdとYD2の体積比を1:9に設定することにより、変換率は8.0%/年だった。これは、高い変換率と隣接する燃料集合体の出力ピークの低減の観点からである。SRは1.8を達成することも分かった。

129Iについては、熱中性子フィルターを備えた新しい129Iターゲット集合体 (図2参照)を発明し、隣接する燃料集合体の出力ピークを抑制した。熱中性子フィルターとして、129Iターゲット集合体の外層がTcに置き換えられた。TcピンのTcの体積比を40%に変更し、BaI2とYH2の体積比を1:9に変更することにより、変換率は7.5%/年、SRは1.5だった。

LLFPターゲット集合体の129Iピンと99Tcピンの配置

図2. LLFPターゲット集合体の129Iピンと99Tcピンの配置

LLFP核変換ターゲットの実現可能性は、LLFPターゲット、YH2およびYD2減速材の材料特性と製造に関する実験を通じて明らかにした。

これらの結果、LLFPを同位体分離を行うことなく高速炉のブランケット」領域に装荷することにより、表1のように79Seは7年、99Tc、107Pd、129Iを9年以下の照射時間で半分に減量可能であることが示された。これは放射能半減に要する時間を、約1/2万から1/200万に短縮できることを意味する。また、照射したLLFPターゲットの再処理方法を効率化することにより最終的な廃棄物量として1/100まで低減可能となることが分った。これにより地層処分の負担となる長寿命の放射性廃棄物処理に対する重要な進展が得られた。

今後の展開

今後はLLFPのリサイクルを考慮した核変換システム全体の研究が必要であると考える。LLFP核変換ターゲットの分離と回収のロス率を考慮し長寿命核分裂生成物を1/100まで低減する高速炉LLFP核変換システムの構築を目指す。また、軽水炉の使用済み燃料に含まれるLLFPを処理するシステムの研究も進めていく予定である。

用語説明

[用語1] 核分裂生成物(LLFP) : Long Lived Fission Products の略。使用済み核燃料に含まれる核分裂生成物のうち、特に半減期の長いセレン(79Se、半減期33万年)、ジルコニウム(93Zr、同153万年)、テクネチウム(99Tc、同21万年)、パラジウム(107Pd、同650万年)、スズ(126Sn、同23万年)、ヨウ素(129I、同1570万年)、セシウム(135Cs、同230万年)の7核種を示す。本研究では、このうち135Cs、126Sn、93Zrを除く4核種を短半減期(または安定核種)に高核変換するシステムを提案した。

[用語2] 高速炉 : 核分裂で発生する中性子を減速させることなく次の核分裂に利用する原子炉。特にプルトニウムにおいて、核分裂の起きる中性子のエネルギーが高いほど吸収された中性子あたりに発生する中性子が多く、また燃料以外への中性子吸収が減少する。その分、原子炉の運転維持以外に利用できる余剰中性子が増し、核燃料の増殖や不要核種の変換に回すことが可能である。

[用語3] 減速材 : 核分裂で発生する中性子と衝突して中性子のエネルギーを減らすために用いられる物質。一般に中性子捕獲断面積や核分裂断面積は核分裂で発生する中性子の持つエネルギーより低いエネルギーで大きいため、中性子エネルギーの調整のために用いられる。YH2は水素化イットリウム、YD2は重水素化イットリウム。

[用語4] 熱スパイク : 高速炉では核分裂中性子を減速せずに使用するのが通常だが、今回の研究のように炉心に減速材を入れるとそれによってエネルギーの低い中性子が増える。熱スパイクはそれに伴う核分裂の増加によって局所的に発熱量が増える現象。熱スパイクがあると原子炉全体の出力が制限を受け、発電量や核変換量に悪い影響を及ぼす。

[用語5] サポートレシオ(SR) : サポートレシオは、原子炉内で同じ期間に核燃料で生成されたLLFPの量に対する変換されたLLFPの量の比として定義される。これが1以上であれば当該物質を減少させることが可能。

[用語6] マイナーアクチニド(MA) : プルトニウム以外の超ウラン元素の総称。ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどがあり、半減期が数万年以上のものが存在する。これらは使用済み核燃料に多く含まれ、これら放射性廃棄物の処理が課題となっている。

[用語7] モンテカルロコードのMVPコードとMVP-burnコード : 国内で開発された原子炉内での中性子及び光子の空間及びエネルギー分布を計算するためのコード(MVP)、及び中性子と炉内物質との相互作用によって起きる核変換を計算するためのコード(MVN-burn)。

[用語8] JENDL-4.0 : 原子力開発用の核データ(中性子と様々な原子核の相互作用確率や放射性原子核の崩壊確率等の総称)を特定の書式でまとめた日本の数値データライブラリーの最新版。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Study on method to achieve high transmutation of LLFP using fast reactor
著者 :
Toshio Wakabayashi, Yoshiaki Tachi, Makoto Takahashi, Satoshi Chiba & Naoyuki Takaki
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所

教授 千葉敏

E-mail : chiba.satoshi@iir.lane.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3066 / Fax : 03-5734-2959

東北大学

名誉教授 若林利男

E-mail : toshio.wakabayashi.c1@tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-7921

東京都市大学 工学部 原子力安全工学科

教授 高木直行

E-mail : ntakaki@tcu.ac.jp
Tel : 03-5707-0104

日本原子力研究開発機構 高速炉・新型炉研究開発部門 大洗研究所 高速炉サイクル研究開発センター 燃料材料開発部

材料試験課長 舘義昭

E-mail : tachi.yoshiaki@jaea.go.jp
Tel : 029-267-1919(5580)

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東北大学 総務企画部広報室

E-mail : koho@grp.tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-4816

東京都市大学 企画・広報室

E-mail : toshidai-pr@tcu.ac.jp
Tel : 03-5707-0104(代)

日本原子力研究開発機構 広報部報道課

E-mail : ono.norihisa@jaea.go.jp
Tel : 03-3592-2346 / Fax : 03-5157-1950


田中克典教授が日本化学会第37回学術賞を受賞

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1月7日、公益社団法人日本化学会が、2019年度各賞(日本化学会賞、学術賞、進歩賞、女性化学者奨励賞、化学技術賞、技術進歩賞、化学教育賞、化学教育有功賞、化学技術有功賞)受賞者を発表しました。

東京工業大学からは、物質理工学院 応用化学系の田中克典教授が、第37回学術賞を受賞しました。

同学会によると、学術賞は「化学の基礎または応用の各分野において先導的・開拓的な研究業績をあげた者」を表彰する賞です。

授賞式は、2020年3月23日(月)に行われます。

受賞テーマ

生体分子の化学修飾法による機能解明と治療への応用

受賞理由

生体分子のアミノ基を利用した効率的な化学標識・複合化法を実現し、分子イメージングや治療戦略を改革する独創的研究を展開した。さらに、タンパク質に複数種の糖鎖を均一に複合化させて、標的の細胞上で「パターン認識」を効果的に発揮させることにより、がん細胞を自在にターゲティングするとともに、その細胞内で触媒的に抗がん活性分子を合成して治療することを可能とした。これら「低毒性・高効率な万能標識法」、「糖鎖パターン認識」、ならびに「生体内合成化学治療法」の一連の成果は国際的にも高く評価されており、日本化学会学術賞に値するものと認められた。

今回の受賞について田中克典教授は次のようにコメントしています。

田中克典教授
田中克典教授

今回、日本化学会学術賞をいただき大変光栄に存じます。10年前には無駄だと言われ、不可能と言われてきた動物体内での天然物合成や創薬研究がやっと可能となってきました。これまで黙って見守ってくださり、ご指導くださった先生方やクレイジーなアイデアに付き合って実現してくれた共同研究者の皆さまに心からお礼申し上げます。ただ、これで研究は終わりではなく、私は医療診断の現場で使っていただいて初めて意味のある研究になると考えています。私達の一部の研究は国内外の診断法として使用され始めています。東京工業大学物質理工学院応用化学系では現場の治療にも展開して、社会に役立つ有機合成化学を実現したいと決意しております。

<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

物質理工学院 応用化学系 教授 田中克典

E-mail : tanaka.k.dg@m.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2449

資源化学研究所(現 化学生命科学研究所)創立80年記念式典・記念シンポジウムを開催

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挨拶を述べる東京工業大学 益学長
挨拶を述べる東京工業大学 益学長

2019年は、東京工業大学 科学技術創成研究院の化学生命科学研究所(化生研)の前身である資源化学研究所(資源研)が1939年に創立されて80年の節目にあたり、11月21、22日に記念式典とシンポジウムが開催されました。

資源研は、当時、建築材料研究所(現在のフロンティア材料研究所)の所長だった加藤与五郎教授がアルミナ製法の特許収入10万円を本学に寄付し、昭和天皇の勅令によって本学への附置が裁可された研究所です。

2016年に新しく開設された化生研が、11月21日に東京・神保町の如水会館で記念式典と祝賀会、22日には 本学すずかけ台キャンパス大学会館すずかけホールで記念シンポジウムを開きました。

記念式典

11月21日の記念式典は、文部科学省研究振興局学術機関課の西井知紀課長、資源研時代から5大学附置研アライアンス・共同研究拠点事業を共同で実施している東北大学多元物質化学研究所の村松淳司所長、同じく北海道大学電子化学研究所の中垣俊之所長が来賓として出席しました。本学の益一哉学長、資源研元所長の吉田賢右氏、辰巳敬氏のほか、名誉教授並びに研究所の元教員、化生研の現教員など、80名以上が参加して、盛大に行われました。久堀徹・化生研所長が、資源研の附置から現在に至る歴史を紹介し、益学長は本学の附置研究所を含む研究改革の紹介と化生研への期待を述べました。

文科省の西井課長は、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士が東工大で学び資源研助手としてノーベル賞につながる研究に取り組んだことを紹介し、資源研の我が国の学術研究への貢献と資源研・化生研が共同利用・共同研究拠点として果たしてきた役割に対して謝意を述べました。引き続き、村松東北大多元研所長からアライアンス・共同研究拠点事業の紹介があり、名誉教授の先生方からは、その時々で資源研の教員がどのように基礎科学研究をはじめとする研究活動に向き合ってきたかが紹介されました。

資源研の歴史を紹介する久堀所長
資源研の歴史を紹介する久堀所長

祝辞を述べる文部科学省学術機関課 西井課長
祝辞を述べる文部科学省学術機関課 西井課長

記念シンポジウム

11月22日は、場所をすずかけ台キャンパスに移して、資源研出身で現在国立大学教授として活躍しているOB教員を講師として招き、化生研の教員も加えて、全12題の記念講演が行われました。OB教員、本学教員、化生研に所属する学生・教職員など250名以上が参加しました。文部科学省研究振興局学術機関課の吉居真吾課長補佐は、祝辞とともに、資源研での日々の研究活動は優れた研究成果を創出し、若手人材の育成にもつながっていると述べました。続いて、桑田薫副学長(研究企画担当)が本学を代表して挨拶しました。シンポジウムでは、資源研OB教員の講師から、それぞれ資源研時代の研究をその後どのように展開して研究の発展につなげたかという興味深い講演があり、現教員の大きな励みになりました。また、学生にとっても、資源研・化生研が我が国の化学分野の研究でどのように研究水準を維持し、貢献してきたのかを知るよい機会となりました。

二日間の創立80年記念行事は、資源研から化生研に至る東工大での化学研究の歴史を振り返る機会になり、現在の化生研教員にとっては、今後の研究所の発展の方向を見定める重要な情報交換・意見交換の場ともなりました。

記念式典・祝賀会に参加した関係者

記念式典・祝賀会に参加した関係者

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

E-mail : ken.kasei@jim.titech.ac.jp

廃棄グリセロールからDHAと水素の生産に成功 地球上に豊富に存在する安価な酸化銅を触媒に採用

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要点

  • 東工大のラマン分光技術と台湾科技大の触媒反応技術を組み合わせて実現
  • 触媒表面における化学反応メカニズムを解明、最適な反応条件を見つけ出す
  • 廃棄物の資源化、水素の産生により持続可能な社会構築に向け大きな貢献

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の林智広准教授らは台湾国立科学技術大学のジア-イン チャン准教授(Prof. Chia-Ying Chang)のグループとの国際共同研究により、バイオディーゼル燃料の生産過程で廃棄物となるグリセロール[用語1]から、付加価値の高いジヒドロキシアセトン(dihydroxyacetone、DHA)[用語2]と水素を選択的に生成する技術の開発に成功した。安価な触媒である酸化銅(CuO)を用いた電気化学的反応により達成した。

本研究グループは、東工大のラマン分光[用語3]技術と台湾科技大の触媒反応技術を組み合わせることにより、触媒表面における化学反応メカニズムを解明し、最適な反応条件を見つけ出した。この研究によって、廃棄物の資源としての再利用に加え、水素の産生という2つの異なる成果が生まれ、持続可能な社会の構築へ向けた大きな貢献が期待される。

研究成果は、オランダの科学誌「Applied Catalysis B: Environmental(アプライド・カタリスィス・エンバイロメンタル)」オンライン速報版に2019年12月19日(現地時間)に掲載された。

研究成果

本研究の成果はCuOという地球上に豊富に存在し、かつ安価な材料を触媒として、バイオディーゼル製造の際の廃棄物であるグリセリンから、化粧品、甘味料などに使用されるDHAおよび水素を選択的に製造する技術を確立したことである。特にCuO触媒表面における化学反応を、ラマン分光を用いてその場観察[用語4]することで、反応メカニズムの解明、反応選択性を最大化するための反応条件の最適化の2つを達成した。

研究の背景

バイオディーゼル燃料(BDF)はカーボンニュートラルな軽油代替燃料として注目されているが、その製造時には副産物として原料の10%程度のグリセロール(グリセリン)が生成される。このグリセロールには有効な応用用途がなく、付加価値が高い物質への転換方法が求められていた。この物質転換の研究には金、白金などの貴金属が触媒に用いられていたが、地球上により豊富に存在する安価な触媒が求められていた。

高速炉におけるLLFPターゲット集合体の装荷位置
図1.
本研究の成果によって可能となるバイオディーゼル燃料の生産と廃棄物再生プロセス。バイオディーゼル燃料生産(左)における副生産物であるグリセリンから付加価値の高いDHAと水素を生み出す(右)。

今後の展開

現在、本国際共同研究において、さらなる新触媒の開発、反応効率の向上という2つの観点から実用化に向けた研究が進んでいる。触媒の種類、溶液条件(特にpH値)などの違いによる反応経路の違いなどのデータが蓄積してきたことから、今後は機械学習などの情報科学的手法との融合により、最小限の実験で最適な物質変換条件を導出する技術の開発を行っている。

国際共同研究チーム

国際共同研究チーム

用語説明

[用語1] グリセロール : 廃食用油からバイオディーゼル燃料を製造する際に発生する副生成物であり、再利用のための研究が多く行われている。グリセリンとも呼ばれる。

[用語2] ジヒドロキシアセトン(dihydroxyacetone、DHA) : 最も小さな単糖の1つ。無害な肌の着色料、脂肪燃焼・筋肉増強のためのサプリメントの原料としても利用されることが多い。

[用語3] ラマン分光 : 光を用いて分子振動を観察することにより、分子種・その量を 解析する手法。空気中・液中の試料も測定可能であることから、化学反応のその場観察に用いられることも多い。

[用語4] その場観察 : 様々な環境での材料の変化や物質の状態をリアルタイムで評価すること。

論文情報

掲載誌 :
Applied Catalysis B: Environmental
論文タイトル :
Selective Electro-oxidation of Glycerol to Dihydroxyacetone by a Non-precious Electrocatalyst - CuO
著者 :
Chin Liu, Makoto Hirohara, Tatsuhiro Maekawa, Ryongsok Chang, Tomohiro Hayashi, Chia-Ying Chiang
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 材料系

准教授 林智広

E-mail : tomo@mac.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5400

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

AOTULE会議2019を開催 アジア・オセアニア12大学の教職員および学生計82名を招聘

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東京工業大学が加盟するアジア・オセアニア工学系トップ大学リーグ(The Asia-Oceania Top University League on Engineering 以下「AOTULE」(アオチュール))は2007年に発足し、アジアとオセアニアの13大学からなる連盟です。加盟する大学間の合同ワークショップや、学生・教職員の派遣交流などを通して、工学系の教育研究の質を向上させ、国際意識を養うことを目的としています。AOTULEは年に1度、加盟大学の代表が集まり、「系長会議」「スタッフ会議」「学生会議」を開催しています。2019年度は本学が主催し、11月25日から27日にかけて、教職員45名、学生37名、合計82名を招聘し、本学大岡山キャンパスなどで行われました。

AOTULE会議2019参加者

AOTULE会議2019参加者

概要

加盟大学と当日のプログラムは以下の通りです。

AOTULE加盟大学

1.
バンドン工科大学(インドネシア)
2.
チュラロンコン大学(タイ)
3.
ハノイ工科大学(ベトナム)
4.
インド工科大学マドラス校(インド)
5.
KAIST(韓国科学技術院)(韓国)
6.
南洋理工大学(シンガポール)
7.
国立台湾大学(台湾)
8.
香港科技大学(香港)
9.
メルボルン大学(オーストラリア)
10.
清華大学(中国)
11.
マラヤ大学(マレーシア)
12.
モラトゥワ大学(スリランカ)
13.
東京工業大学(日本)

プログラム

1日目(11月25日)
歓迎レセプション 於:本学百年記念館
2日目(11月26日)

開会式、招待講演
各種会議(系長会議、スタッフ会議、学生会議)
祝賀会 於:二子玉川エクセルホテル東急

3日目(11月27日)
運営委員会会議
表彰式および送別昼食会 於:本学百年記念館
都内観光(浅草、チームラボボーダレス)

開会式

2日目の11月26日午前にディジタル多目的ホールで行われた開会式は、本学の佐藤勲総括理事・副学長、および主催である本学工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の3学院を代表し、和田雄二物質理工学院長の歓迎の挨拶で始まりました。その後、AOTULE会長のインド工科大学マドラス校アショーク・クマール・ミシュラ教授が本会議への祝辞を述べました。

佐藤総括理事・副学長
佐藤総括理事・副学長

ミシュラ教授
ミシュラ教授

学生会議

学生会議では、2日目の午前中に、各加盟大学の代表学生たちが4つのテーマ別セッションに分かれて自分の研究発表を行いました。その後、参加学生全員を7つの複数大学混成チームに分け、“Actions towards Achieving the Sustainable Development Goals (SDGs) in Asia and Oceania”『アジア・オセアニア地域において持続可能な開発目標を達成するための活動』にそったテーマを決めて話し合いを重ね、最終日にグループ発表を行いました。本学代表の学生20名は、8月7日~8日に開催された第11回多専門領域にわたる国際学生ワークショップ(11th Multidisciplinary International Student Workshop (MISW 2019))で選抜されました。

個人発表のテーマ

セッション
テーマ
セッションA
  • Affordable and Clean Energy(エネルギーをみんなに、そしてクリーンに)
  • Sustainable Cities and Communities(住み続けられるまちづくりを)
セッションB
  • Clean Water and Sanitation(安全な水とトイレを世界中に)
  • Responsible Consumption and Production(つくる責任、つかう責任)
セッションC
  • Industry, Innovation and Infrastructure 1(産業と技術革新の基盤をつくろう 1)
セッションD
  • Industry, Innovation and Infrastructure 2(産業と技術革新の基盤をつくろう 2)

グループ発表では複数の審査員による審査が行われ、「産業と技術革新の基盤をつくろう」をテーマに議論し、独自の解決法を発表したグループに最優秀グループ賞が贈られました。

個人発表
個人発表

グループワーク
グループワーク

グループ発表
グループ発表

最優秀グループ賞受賞チーム
最優秀グループ賞受賞チーム

系長会議

司会のクロス教授
司会のクロス教授
講演する五十嵐氏
講演する五十嵐氏

2日目の11月26日には環境・社会理工学院 ジェフリー・クロス教授の司会により、各大学代表の系長がAOTULE発足から12年を振り返る発表をし、これからの12年間の本リーグの方向性、連携の可能性について、コンソーシアムの特長を生かした交流、二国間交流、新しい教育活動、教員交流などを討論しました。加盟校をさらに増やす提案があり、今後、アジア・オセアニア地域の工系大学間での交流がさらに活発化することが期待されます。

2日目の招待講演は、JXリサーチ代表取締役社長で、経団連の未来産業・技術委員会産学官連携推進部会長を務めている五十嵐仁一氏が“Society 5.0 - Seeking for the future Industry-Academia cooperation in Japan”『ソサエティ5.0 - 日本における未来の産学連携像を求めて』というテーマで話しました。

運営会議

運営会議
和田物質理工学院長

最終日の11月27日には、ホームページの新設や会計報告があった後、来年度以降の運営について議論しました。また、運営委員会の新役員が決定し、今後の方針が出されました。持ち回りで開催する来年の会議はKAISTが主催大学となりました。最後に、本会議の主催者である和田物質理工学院長が、来るべき12年間でさらにAOTULEが発展することを祈念するとコメントし、会議を締めくくりました。

歓迎レセプション・祝賀会・都内観光(ギャラリー)

初日 歓迎レセプション
初日 歓迎レセプション

2日目 祝賀会
2日目 祝賀会

最終日 都内観光(浅草)
最終日 都内観光(浅草)

最終日 チームラボボーダレス
最終日 チームラボボーダレス

問い合わせ先

工系国際連携室

E-mail : ko.intl@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3969

東工大グローバル水素エネルギー研究ユニット 第5回公開シンポジウム InfoSyEnergy研究/教育コンソーシアム発足講演

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東京工業大学のグローバル水素エネルギー研究ユニット(GHEU)は、将来の「水素社会」に向けて、水素の利用体系について総合的かつ技術的な検討を進め、産官学の連携の下、さまざまな活動を展開しています。

加えて、国内外の水素利用技術の現状と将来展望を関係者の間で共有するために、公開シンポジウムを1年に1回開催しています。

会場の様子

会場の様子

5回目となった今回のシンポジウムのテーマは「脱炭素に向けた水素導入の社会ビジョン」です。11月21日に東工大蔵前会館くらまえホールで開催し、来場者は今年も300人を超えて、308人となりました。

来場者の所属も多様で、大学や研究機関の関係者をはじめ、メーカーやエネルギー関連企業、建設会社、商社など幅広い分野にわたる企業の方々や、政府や自治体の方々など、多くの分野の方が集まりました。

講演の中でも、コストについての話題が多く出て、水素利用技術の実現に向けて現実味が増していることを感じる内容となりました。

また、シンポジウムの後には意見交換会の場も用意され、多数の方が参加。異分野の交流の輪が広がっていました。

開会のあいさつをする岡崎特命教授
開会のあいさつをする岡崎特命教授

最初に、グローバル水素エネルギー研究ユニットの岡崎健ユニットリーダー(東京工業大学 科学技術創成研究院 特命教授)が開会のあいさつをしました。

岡崎ユニットリーダーは、東京2020オリンピック・パラリンピックが水素を社会に導入するフラッグシップになっているが、その後にさらなる拡大に向けた努力が必要だと訴えました。

そして、「水素の量的かつ面的な拡大だけではなく、地産地消、分散電源、水素エネルギーに対する社会の理解も拡大する必要がある。CO2フリー水素の定義や認証、制度設計も重要だ。これらについて自由に発言をしてほしい。水素エネルギーの普及について多角的に議論したい」と呼びかけました。

今回は、脱炭素に向けた新しい社会ビジョンや国内の水素エネルギー戦略の最新情報について、二つの招待講演を実施しました。

招待講演

「プラチナ社会へのイノベーション ~2050年、脱炭素化への社会ビジョン~」

株式会社三菱総合研究所 理事長(東京大学 第28代総長) 小宮山 宏氏

講演する小宮山氏
講演する小宮山氏

東京大学総長を退任した後、現在は株式会社三菱総合研究所理事長を務めている小宮山宏氏を招き、新しい社会ビジョンとして提唱している「プラチナ社会」とは何かを語っていただきました。

小宮山氏は、再生可能エネルギー由来の電力は、すでに低コストであり、再生可能エネルギー社会が目指すべき方向性で、中でも蓄エネルギー技術としての水素エネルギーの役割が重要であると話しました。さらに、水素利用技術についても触れ、製造コストを下げること、特に褐炭からの水素製造コストや水電解装置のコストを下げることができれば、今後の展開は大きく変わるという見方を示しました。

「水素社会実現に向けた経済産業省の取組」

経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギーシステム課
水素・燃料電池戦略室 課長補佐 宇賀山 在氏

講演する宇賀山氏
講演する宇賀山氏

経済産業省の宇賀山在氏を招き、日本の水素エネルギー戦略について、政策的な観点から最新情報を伝えていただきました。

国際水素サプライチェーン構築の一環として、日本とブルネイの水素プロジェクトや日本とオーストラリアの褐炭水素のプロジェクトが2020年度から実証フェーズに入り、どちらもキャリアに応じた特徴があり、いかに最適化するかが重要になると語りました。

パネル討論

「オリパラ後の水素導入拡大に向けた取り組みについて」

  • パネリスト
    前 東芝エネルギーシステムズ株式会社 水素・燃料電池技師長 中島良氏
    一般社団法人 日本ガス協会 企画ユニット 環境部長 深野行義氏
    一般社団法人 燃料電池開発情報センター 事務局長 羽藤一仁氏
    川崎重工業株式会社 技術開発本部 水素チェーン開発センター プロジェクト推進部 部長 新道憲二郎氏
    東京工業大学 工学院 機械系 平井秀一郎 教授
    東京工業大学 環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程/イノベーション科学系 梶川裕矢 教授

  • モデレータ
    東京工業大学 科学技術創成研究院 特命教授
    グローバル水素エネルギー研究ユニット 岡崎健ユニットリーダー

パネル討論の様子

パネル討論の様子

招待講演の後は、パネル討論が開かれました。岡崎ユニットリーダーがモデレータを務め、6人のパネリストがさまざまな話題を提供しました。

その中で、「オリパラ後のさらなる水素利活用を進めるには、ゴールの量的ポテンシャルをにらんだ上で『導入中間シナリオ』が必要」という意見や、「水素利用技術を導入する時期の初期はインセンティブ制度が重要」という指摘が出ました。

また、「大きなビジョンを描き水素をいろいろな形で使って需要をまとめる」ことの重要性や、「水素キャリアを合成メタンにすることで都市ガスのインフラを活用し社会コストを抑制しつつ脱炭素化に貢献できる」という考えも提示されました。

さらに、「オリパラを契機に水素の新しい魅力を考える必要がある」という声や、「水素エネルギーは国際的な安全保障にも寄与する」という見方など、いろいろな発言が次々に出ていました。

東工大 新エネルギー研究/教育コンソーシアム発足講演

「ビッグデータ科学を活用して新しいエネルギー社会をデザインする」
―東工大 InfoSyEnergy研究/教育コンソーシアムの設立―

  • 講演1: 「コンソーシアムが目指すエネルギー社会と研究概要」
    東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 伊原学 教授

  • 講演2: 「最適化アルゴリズムのエネルギーシステムへの展開の可能性」
    東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 小野功 准教授

  • 講演3: 「再生可能エネルギー大量導入に向けた連系用インバータによる系統安定化機能の開発」
    東京工業大学 工学院 電気電子系 河辺賢一 助教

  • 講演する伊原教授
    講演する伊原教授
  • 講演する小野准教授
    講演する小野准教授
  • 講演する河辺助教
    講演する河辺助教

本学は、新しいエネルギー社会構築に関する研究/教育コンソーシアム「InfoSyEnergy(インフォシナジー)研究/教育コンソーシアム」を新設します。このコンソーシアムは、ビッグデータ科学を活用して新しいエネルギー社会をデザインしていきます。

今回のシンポジウムでは、その概要と関連研究の紹介もしました。

まず、本学の水本哲弥理事・副学長(教育担当)があいさつをしました。

その中で、本学における三つの重点分野の一つがエネルギーであり、ビッグデータ科学を水素エネルギーなどいろいろなエネルギー研究に積極的に活用し、産業界も巻き込んで総合的なエネルギーの共同研究や特徴的な教育プログラムを実施するための組織として、この「InfoSyEnergy研究/教育コンソーシアム」を設立したと説明しました。

続いて、このコンソーシアムの代表を務める伊原教授が、「InfoSyEnergy研究/教育コンソーシアムが目指すエネルギー社会と研究概要」と題して、学内の60名以上の教授、准教授を中心に、ここで取り組んでいく9つの重点研究テーマについて説明しました。

10年以上の枠組みとして作ったこのコンソーシアムで、大学と企業が一緒になって、学理をベースにした共同研究の実施とビジョンの共有をしていきたいと抱負を語りました。

また、すでに10社以上のInfoSyEnergyコンソーシアムへの参画が決まっており、企業紹介がありました。

また、このコンソーシアムに参加する小野准教授が、「最適化アルゴリズムのエネルギーシステムへの展開の可能性」という題で、自身の研究を説明しました。

試行錯誤を通じて目的関数を最小にする解を探索する「進化計算」が、エネルギーシステムに展開できる可能性を示しました。

最後に、若手の河辺助教が登壇しました。「再生可能エネルギー大量導入に向けた連系用インバータによる系統安定化機能の開発」と題して、再生可能エネルギーが電力系統の安定性に与える影響を解説しながら、インバータ連系リソースが系統の安定化に貢献することを説明しました。

シンポジウム後には、東工大蔵前会館 ロイアルブルーホールにて意見交換会が行われ、本学の益一哉学長があいさつしました。シンポジウムの熱気が引き継がれ、活発な議論が交わされました。

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
グローバル水素エネルギー研究ユニット

E-mail : ghec@ssr.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3019

リーダーシップ教育院登録式 第2期(11月登録)生9名を迎えて開催

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東京工業大学リーダーシップ教育院(ToTAL)の第2期(11月登録)生の登録式およびオリエンテーションが12月2日、本学大岡山キャンパス本館で行われました。

登録生(前列)とリーダーシップ教育院の教員ら

登録生(前列)とリーダーシップ教育院の教員ら

祝辞を述べる益学長
祝辞を述べる益学長

2018年4月に設立されたリーダーシップ教育院は、卓越した専門性に加え、学術分野の枠を超えた多様な人々を巻き込んで将来の国際社会を牽引することができるリーダーシップを備えた人材の育成をミッションとする、大学院修士課程・博士後期課程一貫(5年間)の教育プログラムです。リーダーシップ教育院は、それまで培ってきた博士課程教育リーディングプログラムのリーダーシップ教育と、本学 リベラルアーツ研究教育院の知見を組み合わせることで、社会・経済の持続可能な発展を担う理工系人材を育成する、全く新しい教育プログラムを実現しています。

登録式は、プログラム第2期(11月登録)生の9名(うち5名が留学生または外国人学生)を迎えて行われました。益一哉学長の祝辞の中では、本学が2018年、文部科学大臣から指定国立大学法人の指定を受けたことが触れられ、「指定国立大学法人として高いレベルの教育を提供するプログラムの一つであるリーダーシップ教育院において、他の学生や教員と良好な関係を築きながら沢山のことを学んでほしい」との話がありました。

オリエンテーションで話し合う学生と教員
オリエンテーションで話し合う学生と教員

益学長の祝辞に続き、水本哲弥理事・副学長(教育担当)ならびに井村順一リーダーシップ教育院長からの挨拶とリーダーシップ教育院教員の紹介があり、益学長より登録生1人ひとりに対して登録許可書が授与されました。最後に、登録生が、自己紹介とリーダーシップ教育院における抱負を語りました。

登録式に先駆けて行われたオリエンテーションでは、登録生と教員が2つのグループに分かれ、学生が所属する学院の系・コースにおける専門教育に加えて受講する「社会課題の認知」「グローバルコミュニケーション」「リーダーシップ・フォロワーシップ養成、合意形成」「オフキャンパスプロジェクト(3ヵ月程度)」「幅広い教養」といったリーダーシップ教育院が提供するカリキュラムなどについて、教員から説明がありました。

リーダーシップ教育院のカリキュラム

リーダーシップ教育院のカリキュラム

異なる専門分野、文化的背景をもつ仲間と切磋琢磨する中で、志を立て成長してゆく学生達の今後の活躍にご期待下さい。

お問い合わせ先

リーダーシップ教育院(ToTAL)

E-mail : total.jim@total.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3755

本学教職員ら5名が第36回井上学術賞・井上研究奨励賞を受賞

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東京工業大学の教職員4名および本学学位取得者1名が2019年12月12日、公益財団法人井上科学振興財団(以下、井上財団)の第36回井上学術賞・井上研究奨励賞を受賞しました。

井上学術賞は、自然科学の基礎的研究で特に顕著な業績を挙げた50歳未満(申込締切日時点)の研究者に対して授与されるもので、賞状および金メダル、副賞200万円が贈呈されます。今回は、関係する38学会および井上財団の元選考委員や井上学術賞の過去の受賞者など155名に候補者の推薦依頼がなされ、32件の推薦を受け、選考委員会による選考を経て5件が採択されました。

井上研究奨励賞は、理学、医学、薬学、工学、農学等の分野で過去3年間に博士の学位を取得した37歳未満(申込締切日時点)の研究者のうち、優れた博士論文を提出した若手研究者に対して授与されるもので、賞状および銅メダル、副賞50万円が贈呈されます。今回は、関係242大学に候補者の推薦を依頼したうち38大学から133件の推薦があり、選考委員会における選考を経て40件が採択されました。

贈呈式は2020年2月4日(火)に行われます。

上記の賞を受賞した東工大関係者は以下のとおりです。

井上学術賞

笹川崇男 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 准教授

受賞テーマ:トポロジカル物質科学の開拓

笹川崇男 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 准教授

井上学術賞の受賞が決まり、大変嬉しく光栄に思います。

受賞内容の「トポロジカル物質科学の開拓」は、私が東京工業大学に着任して独立した研究室を主宰するようになってから始めた研究です。

まさに東工大で花を咲かせたテーマですので、喜びと感慨もひとしおです。

現時点の成果がまだまだ開花の段階であると思ってもらえるように、これからも学生さんたちや仲間の方たちと共に、楽しみながら研究を追求していきたいと思っています。

井上研究奨励賞

鳥海尚之 理学院化学系 特任助教

受賞テーマ:官能基の特性を利用したヘテロ芳香族分子の機能化

鳥海尚之 理学院化学系 特任助教

ベンゼン環に代表される芳香族性は、有機化学の根幹をなす概念の一つです。本研究では、高い塩基性・求核性を有する窒素原子の反応を足掛かりとして、外部刺激により芳香族性を制御することができる、新たなπ共役分子を開発しました。これらの分子は、透過性の高い近赤外領域において効率的な光吸収・発光を示すことから、バイオイメージングや有機薄膜太陽電池など、生命科学・物質科学への応用が期待できます。この度、このような名誉ある賞を頂きまして大変光栄に思っております。学部から博士課程まで6年間、多大なご支援、ご指導を賜りました東京大学 内山真伸 教授、理化学研究所 村中厚哉 専任研究員をはじめ、共同研究者の皆様および研究室の方々に心より感謝いたします。本受賞を励みとして、今後もよりいっそう研究に精進する所存です。

坂野遼平 情報理工学院 研究員

受賞テーマ:構造化オーバレイを用いた分散pub/subアーキテクチャ

坂野遼平 情報理工学院 研究員

このたびは、このような栄誉ある賞をいただけることになり、大変光栄です。

この10年でスマートフォンが爆発的に普及し、インターネットは私たちの生活になくてはならないものとなりました。有線/無線の通信速度が向上し、世界のインターネットトラフィックは月間100エクサバイトを超えてなお増大し続けています。このような流れは、いわゆるIoTの進展によっていっそう進むと考えられています。例えば自動運転の分野では、従来の地図データに歩行者や路面状況等のリアルタイムな情報を付加したダイナミックマップと呼ばれる技術の整備が進んでおり、多数のセンサや車両がネットワークを介して高度に連携する未来が近づいてきています。

億単位のデバイスが柔軟に情報交換をしながら連携するためにはどうしたらよいか…。博士後期課程では、そうしたIoTの「規模」の問題を解決すべく研究に取り組みました。特に、情報交換を担うメッセージングサーバにおけるスケーラビリティに着目し、多数のサーバで適切に処理を分担することで、より多くのデバイスが素早く情報交換を行える技術の実現を目指して研究を行いました。

ご指導いただきました首藤一幸准教授(本学 情報理工学院 数理・計算科学系)をはじめ、審査員の先生方、また議論させていただいたNTT未来ねっと研究所の皆様に、心より感謝申し上げます。本受賞を励みに、今後も研究活動に鋭意取り組んでまいります。

荻原直希 科学技術創成研究院 研究員

受賞テーマ:金属ナノ粒子と多孔性金属錯体の複合化による水の反応性の制御

荻原直希 科学技術創成研究院 研究員

多孔性金属錯体は金属イオンと有機配位子の自己集合により構築される多孔性材料であり、高い水吸着性を有することが知られております。本論文では、多孔性金属錯体に吸着された水分子が、バルク状態の水とは異なる物理的・化学的性質を示すことに着目し、その特異な水分子の反応性を理解することを目指しました。その目的の実現のために、高い触媒反応性を有する金属ナノ粒子に着目し、金属ナノ粒子と多孔性金属錯体が複合化された新たな評価物質系の構築を行いました。これにより、多孔性金属錯体に吸着された水分子は水性ガスシフト反応性を向上させる高活性な水として存在することを明らかにしました。さらに、多孔性金属錯体の細孔環境を適切にデザインすれば、水分子の反応性を系統的に制御できることも見出しました。

博士後期課程においてご指導いただきました京都大学の北川宏教授、小林浩和准教授をはじめ、共同研究者の皆様および研究生活を支えてくださった方々に心より御礼申し上げます。本受賞を励みとして、我が国の学術研究の発展に貢献出来るように、より一層研究活動に邁進していく所存です。

持田啓佑 国立研究開発法人理化学研究所 特別研究員(博士号の学位取得は東工大)

受賞テーマ:出芽酵母における小胞体と核の選択的オートファジーの研究

持田啓佑 国立研究開発法人理化学研究所 特別研究員(博士号の学位取得は東工大)

細胞内小器官である小胞体の一部がオートファジーで分解されていく現象は10年以上前に報告されていましたが、その詳細は不明でした。本研究では、小胞体の分解シグナルとして働く2つのタンパク質を同定し、その分解のメカニズムを明らかにすることが出来ました。また同定したタンパク質の一つを介して、細胞核の一部がオートファジーで分解されるという予想外の発見もありました。本研究にあたり、ご指導頂きました中戸川仁先生(東工大 生命理工学院 生命理工学系 准教授)および大隅良典先生(東工大 栄誉教授)、また共同研究者の皆様、研究を支えて頂きました研究室のメンバーに深く感謝申し上げます。

関連リンク


胃切除術による腸内環境の変化を解明 胃切除後の合併疾患の克服へ

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要点

  • 腸内細菌は、胃切除を含む様々な治療と関連する可能性があることが知られていますが、治療による腸内環境への影響は詳細には明らかになっていませんでした。
  • 本研究では、便検体を用いたメタゲノム解析およびメタボローム解析により、健常者と胃切除術を受けた患者を比較し、胃切除術後の患者に特徴的な腸内細菌叢やその機能、代謝物質の変化を明らかにしました。
  • 胃切除後の患者にみられる腸内細菌の豊富さと多様さは、腸内細菌の代謝機能の変化を反映していると考えられます。
  • また、大腸がんに関連する細菌や代謝物質の量が、胃切除後の患者、特に胃全摘術後の患者では相対的に多いことも確認されました。
  • 便検体を用いた腸内環境の評価は今後、胃切除後の低栄養や貧血などの併発症の要因を解析する非侵襲な手法としての応用が期待されます。

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授と大阪大学 大学院医学系研究科の谷内田真一教授(ゲノム生物学講座・がんゲノム情報学、前国立がん研究センター研究所・ユニット長)、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授、国立がん研究センター・中央病院 内視鏡科の斎藤豊科長らの研究グループは、胃がんの治療として胃切除[用語1]の手術を受けた患者を対象に、凍結便を収集しメタゲノム解析[用語2]メタボローム解析[用語3]を行いました。

腸内細菌は、病気の発症や進行だけでなく術後の病状にも関与しています。本研究では、胃切除後の患者の併発症や栄養状態などの改善を目的として、これまでほとんど解明されていない、胃切除の影響による腸内細菌叢[用語4]の構造や代謝物質の変化を調べ、術後の併発症[用語5]との関連性を検討しました。その結果、胃切除術を受けた患者は健常者と比較して腸内環境に大きな違いがあり、大腸がんと関連する細菌や代謝物質が増加していることを明らかにしました。この成果は、便検体を用いて腸内環境を評価することにより、胃切除後の併発症の要因を理解し個々人の腸内環境を評価することで、胃切除後の併発症の予防や治療に貢献する医薬品などを生み出す可能性を示すものです。

本研究は1月17日に英国学会誌「Gut」に掲載されました。

背景

ヒト一人の細胞数が約37兆個であるのに対し、ヒト一人あたりの腸内細菌数はおよそ40兆個、重さにして約1~1.5 kgとされています。これらの腸内細菌叢の乱れが炎症性腸疾患[用語6]などさまざまな疾患と関係することが、最近になって分かってきました。また腸内細菌が、胃切除を含むさまざまな治療と関連する可能性があることも報告されています。胃切除は胃がんや重篤な肥満の治療法であり、欧米における肥満の治療のための胃切除手術の場合、術後の体重減少が腸内細菌叢の変化と関連することが報告されています。しかしながら、胃がんの治療のための胃切除による腸内環境への影響は、これまでほとんど明らかになっていませんでした。胃切除術後には、低栄養や貧血、ダンピング症候群などの併発症があります。また胃がんの患者は、腸内細菌との関連が指摘されている異時性大腸がんを術後に発症するリスクが高いことが知られています。したがって、胃切除術を受けた患者における腸内環境を探索することは重要と考えられました。

研究成果

研究グループでは、国立がん研究センター・中央病院 内視鏡科(斎藤豊科長ら)を受診し、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けた106名の受検者(胃切除した患者50人と健常者56人)を対象として、食事などの「生活習慣などに関するアンケート」調査、凍結便、大腸内視鏡検査所見などの臨床情報を収集しました。この凍結便に対して、東京工業大学(山田拓司准教授ら)や慶應義塾大学先端生命科学研究所(福田真嗣特任教授ら)と共同で、メタゲノム解析とメタボローム解析を行いました。その上で、胃切除した患者50人と健常者56人の腸内細菌叢を比較し胃切除後の患者に特徴的な細菌や代謝物質を探索しました。

その結果、胃がんの治療のための胃切除術と、それに伴う消化管の再建が、患者の腸内環境に大きな影響を与えることが明らかになりました。これを踏まえて、胃切除後の生理学的な変化が、腸内細菌叢や代謝物質にどのような変化をもたらし、それが術後の病態にどのように影響するのかという、それぞれの変化の関連性について検討しました(図1)。

本研究で行った解析では、胃切除後の患者は健常者と比較して、腸内細菌の種の豊富さ[用語7]種の多様性[用語8]の高さが確認されました(図2 A、B)。これらの違いは、胃切除による腸内環境の変化を反映している可能性があります。その変化の1つとして、胃切除後の患者では、口腔内でよく検出される細菌の相対的な量が多いことが確認されました(図2C)。

胃切除術は、栄養障害、貧血、下痢、ダンピング症候群[用語9]などを引き起こすなど、術後の患者の代謝に影響を及ぼすことも広く知られています。本研究の解析でも、術後の患者の代謝の変化に関連する、腸内細菌の代謝機能の変化が見られました。例えば、胃切除後の患者では、小腸でのビタミンB12の吸収不足が知られていますが、今回の解析でも、ビタミンB12が小腸で吸収されずに大腸まで残り、それを細菌が利用するべく、ビタミンB12の摂取能力を持つ細菌が増加することが観察されました。

胃がんの患者は、異時性大腸がん[用語10]を発症するリスクが高いことも報告されています。胃切除後の発がんメカニズムは、散発性大腸がん(通常の大腸がん)とは異なる可能性がありますが、本研究では、散発性大腸がんに関連することが知られている細菌の種類や代謝物質が胃切除後に多いことが観察されました。研究チームは最近、大腸がんの発生の初期にのみ増加する細菌を同定しています(Nature Medicine 2019年6月号)。今回の解析でも、その1つであるAtopobium parvulum(図2D)や、発がんの初期から関連することが知られているFusobacterium nucleatum(図2E)が、胃切除後の患者で増加していることが認められました。特に、胃全摘術を受けた患者では、Fusobacterium nucleatumの量が多いことも確認されました(図2F)。さらに、肝臓がんおよび散発性大腸がんにおいて発がん性が知られているデオキシコール酸も、胃切除後の患者の便中に多く含まれていました(図3B)。こうした結果は、胃切除後の患者に対する定期的な全身のフォローアップの重要性を示しています。

図1. 本研究によって得られた仮説の概略図

図1. 本研究によって得られた仮説の概略図

胃切除による生理学的な変化を灰色、本研究により明らかになった腸内環境の変化を青色、その腸内環境の変化による影響を赤色で示しています。実線の矢印は、本研究の結果から説明できる繋がりを表しています。破線の矢印は、それぞれの繋がりが先行研究によって得られた仮説であることを表しています。

図2. 胃切除後の患者の腸内細菌叢の変化

図2. 胃切除後の患者の腸内細菌叢の変化

腸内細菌の種の豊富さ(A)とその多様性(B)はどちらも、胃切除後の患者で多いことが確認されました。(D、E、F)は、大腸がんの発がんとの関連性が報告されている細菌の一部の相対的な存在量を表しています。発がんの初期にのみ量が多いAtopobium parvulum(D)と、発がんの初期に関係することが知られているFusobacterium nucleatum(E)は胃切除後の患者で多いことが分かりました。また、Fusobacterium nucleatumは胃を全摘出した患者で特に多いことが確認されました(F)。D、E、Fでは図中の外れ値を省略して表示しています。

図3. 散発性大腸がんと関連する代謝物質の変化

図3. 散発性大腸がんと関連する代謝物質の変化

メタボローム解析により、胆汁酸[用語11]と関連がある代謝物質が胃切除後の患者で変化していることが認められました。肝臓がんおよび散発性大腸がんで発がん性が知られているデオキシコール酸は、胃切除後の患者で多いことが確認されました。一次胆汁酸であるタウロコール酸とグリココール酸は肝臓で生成され、その後腸肝循環[用語12]によって腸管内へ移動され、腸内細菌によってコール酸と二次胆汁酸の1つであるデオキシコール酸へ代謝されることが知られています。図中の代謝物質の箱ひげ図は外れ値を省略して表示しています。

今後の展開

本研究では、胃切除後の病態メカニズムを腸内環境の変化という観点から検討しました。その成果は、胃切除だけではなく、他の疾患の治療後の長期的な併発症にも応用可能なフレームワークの可能性を示しています。また、本研究成果は、胃切除後の患者に定期的に大腸内視鏡検査を行って、異時性大腸がんの発生を早期に発見する必要性がある可能性を示唆しています。本研究で明らかになった知見は、便検体を用いた腸内環境の観点から、胃切除後の低栄養や貧血などの病態を理解し、今後、その病態を非侵襲的に評価する手法として応用される可能性や、術後の栄養状態の改善などに腸内細菌の観点から介入し、それらを改善する医薬品や健康食品などを生み出す可能性があります。

支援事業

本研究は下記事業の支援を受けて行われました。

  • 日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「医と食をつなげる新規メカニズムの解明と病態制御法の開発」

    研究開発課題 : 生体試料(糞便や腸管粘膜等)のサンプリング法や解析法(特にメタゲノムならびにメタボローム解析)の標準化と臨床情報を含む統合的情報基盤の構築

    研究代表者 : 谷内田真一(大阪大学 大学院医学系研究科 がんゲノム情報学 教授、前 国立がん研究センター がんゲノミクス研究分野・特任ユニット長)

  • 日本医療研究開発機構 次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)

    研究開発課題 : “Microbiome-Based Precision Medicine”を見据えた腸内微生物叢の変動に基づく大腸がん発症機構の解明と予防・診断・治療技術の創出

    研究代表者 : 山田拓司(東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授)

  • 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ

    研究領域 : ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化

    研究課題名 : ヒト腸内環境ビッグデータ

    研究者 : 山田拓司(東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授)

  • 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 AIP加速課題

    研究課題名 : ヒト腸内環境ビッグデータを基軸としたMicrobiome-based Precision Medicine

    研究代表者 : 山田拓司(東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授)

用語説明

[用語1] 胃切除 : 胃がんの外科治療法で、主に幽門側胃切除術(胃の出口側の約3分の2を切除)と胃全摘術がある。最近では病的な肥満の治療としても使われる。

[用語2] メタゲノム解析 : 環境(例えば腸管内の便)中の細菌群集からDNAを丸ごと抽出し、ゲノム配列を次世代シークエンサーで網羅的に解読し(全ゲノムショットガンシークエンス解析と呼ぶ)、情報解析の専門家が系統組成(どのような種類の細菌がいるか?)と機能(どのような機能を有する細菌がいるか?)の解析を行う技術。

[用語3] メタボローム解析 : 糖やアミノ酸など体内にある代謝物質(メタボライト)数百種類以上の含有量を、質量分析計を用いて一度に丸ごと成分を分析する技術。

[用語4] 腸内細菌叢 : ヒトまたは動物の腸内に生息し、共生関係にある細菌の総称。

[用語5] 術後の併発症 : 病気の初期状態とは別に、外科的処置後に発生した他の症状または合併症。

[用語6] 炎症性腸疾患 : 宿主であるヒトの免疫システムの異常により、消化管で炎症が生じる腸疾患。主に潰瘍性大腸炎とクローン病に区別される。

[用語7] 種の豊富さ : 特定のサンプル、コミュニティ、またはエリア内で観察される種の数。Chao1インデックスは、コミュニティ内の種の豊富さを推定する方法の1つとして用いられる。

[用語8] 種の多様性 : 種の豊富さと、特定のコミュニティ内での分布を説明する指標。シャノンインデックスやシンプソンインデックスなどが広く用いられる。

[用語9] ダンピング症候群 : 胃切除後に、胃内の食物が急速に小腸に流れ込んでしまうために生じる一連の症状。冷や汗、動悸、めまい、顔面紅潮、全身倦怠感、全身脱力感、全身熱感など。晩期では、高血糖または低血糖が生じることがある。

[用語10] 異時性大腸がん : 原発がんの6ヵ月以上後に発生する大腸がん。

[用語11] 胆汁酸 : 酸は通常、肝臓でアミノ酸のグリシンとタウリンまたは硫酸塩に結合して、結合した胆汁酸を形成する。一次胆汁酸は、腸内細菌によって代謝されて、デオキシコール酸などの二次胆汁酸を形成する。

[用語12] 腸肝循環 : 肝臓で代謝される薬や生体物質などが胆汁とともに腸管から十二指腸に分泌され、その後腸管から吸収され、門脈を経て再び肝臓に排出される一連の循環サイクル。

論文情報

掲載誌 :
Gut
論文タイトル :
Influence of gastrectomy for gastric cancer treatment on faecal microbiome and metabolome profiles
著者 :

Pande Putu Erawijantari1, Sayaka Mizutani1,2, Hirotsugu Shiroma1, Satoshi Shiba3, Takeshi Nakajima4, Taku Sakamoto4, Yutaka Saito4, Shinji Fukuda5,6,7, Shinichi Yachida3,8*, Takuji Yamada1*

1School of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, Japan

2Research Fellow of Japan Society for the Promotion of Science, Tokyo, Japan

3Division of Cancer Genomics, National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan

4Endoscopy Division, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan

5Institute for Advanced Biosciences, Keio University, Yamagata, Japan

6Intestinal Microbiota Project, Kanagawa Institute of Industrial Science and Technology, Kanagawa, Japan

7Transborder Medical Research Center, University of Tsukuba, Ibaraki, Japan

8Department of Cancer Genome Informatics, Graduate School of Medicine, Osaka University, Osaka, Japan

*Corresponding authors(責任著者)

DOI :
<$mt:Include module="#G-11_生命理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授

山田拓司

E-mail : takuji@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3591 / Fax : 03-5734-3591

大阪大学 大学院医学系研究科 がんゲノム情報学 教授

谷内田真一

E-mail : syachida@cgi.med.osaka-u.ac.jp
Tel : 06-6879-3360 / Fax : 06-6879-3369

国立がん研究センター 中央病院 内視鏡科 科長

斎藤豊

E-mail : ysaito@ncc.go.jp
Tel :03-3542-2511 / Fax : 03-3542-3815

AMED事業に関すること

難治性疾患実用化研究事業

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E-mail : nambyo-info@amed.go.jp
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次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)

日本医療研究開発機構 戦略推進部 がん研究課

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E-mail : presto@jst.go.jp
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高効率で安定な固体触媒「Y3Pd2」を活用 鈴木カップリング反応の高活性化と安定性を実現

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要点

  • 炭素―炭素の結合の形成反応に高い活性と安定性をもつ固体触媒を発見
  • 触媒となる物質はY3Pd2という化合物で電子が陰イオンとして働く電子化物
  • 優れた特性はイオン化しやすい電子と負の電荷をもったパラジウムに起因

概要

東京工業大学 元素戦略研究センター長の細野秀雄栄誉教授、同センターの叶天南(Tian-Nan Ye)特任助教、北野政明准教授らは、金属間化合物[用語1]のなかで、電子が陰イオンとして働く電子化物(エレクトライド)[用語2]であるY3Pd2(イットリウム・パラジウム)が、鈴木カップリング反応[用語3]に対して高い活性と安定性をもつ固体触媒として機能することを見出した。

電子化物はこれまでアンモニアの合成や分解、オレフィン類[用語4]の選択的な水素化反応の触媒として有効に機能することが見出されてきたが、今回の研究成果により、電子化物の新たな適用範囲が広がったことになる。

炭素―炭素の結合形成[用語5]は、有用な有機分子を合成するのに極めて重要である。その中でも鈴木カップリング反応は取扱いが容易で適用範囲が広いため、工業分野で広く応用されている。その触媒としては溶媒に溶けるパラジウムの錯体が一般的に用いられているが、パラジウムを含む固体で活性が高く安定な物質であれば、反応後に触媒の回収が容易になるなどのメリットがある。

研究成果は英国科学誌Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーション)オンライン版に2019年12月11日に掲載された。

背景

鈴木カップリング反応は、有機化学で最も重要な化学反応の一つである炭素―炭素の結合を生成するのに広く用いられている。

RX + R'-B(OH)2→R-R’(1)

この反応では一般的に可溶性のパラジウムの錯体が触媒として用いられている。固体のパラジウム触媒を用いてこの反応を効率よく進めることができれば、反応物、出発分子や溶媒と触媒の分離が容易になる。さらに高価なパラジウムが構造中にしっかり組み込まれた金属間化合物では、反応によって表面からパラジウムの溶出が抑えられ、再利用性に優れたものが得られると期待できる。

研究成果

空気中でも安定な金属間化合物Y3Pd2(図1)を鈴木カップリングの触媒に用いると、図2のようにパラジウム(Pd)金属だけの場合よりも触媒活性が大幅に増大し、反応の活性化エネルギーも約30%減少した。また、触媒を繰り返して使用しても活性の低下は観測されず、それ自体にも変化が見られなかった。このような触媒活性と安定性はこれまで同反応に対して報告された固体触媒の中で最も優れていると判断できる。

Y3Pd2の結晶構造。Yの囲まれたサイト(X)に高い濃度の電子が存在する。

図1. Y3Pd2の結晶構造。Yの囲まれたサイト(X)に高い濃度の電子が存在する。

検討したカップリング反応(上)、触媒の活性(中)と反応の繰り返しによる安定性(下)。 Pd金属に比べ、反応速度、TOF(触媒回転数)も大幅に増大し、活性化エネルギー(Ea)は30%程度減少している。

検討したカップリング反応(上)、触媒の活性(中)と反応の繰り返しによる安定性(下)。 Pd金属に比べ、反応速度、TOF(触媒回転数)も大幅に増大し、活性化エネルギー(Ea)は30%程度減少している。

図2.
検討したカップリング反応(上)、触媒の活性(中)と反応の繰り返しによる安定性(下)。 Pd金属に比べ、反応速度、TOF(触媒回転数)も大幅に増大し、活性化エネルギー(Ea)は30%程度減少している。

研究の経緯

電子がアニオン(陰イオン)としてみなすことができる物質は電子化物(エレクトライド)と総称される。細野栄誉教授らの研究グループは、これまで電子化物で最大の課題となっていた空気中で安定な物質を2003年に初めて実現して以来、電子化物の物質科学とその応用に力を注いでいる。

これまでの研究で、電子がいずれの構成元素の軌道に属さないので、仕事関数[用語6]が小さいという普遍的な物性を有することを明らかにしており、この物性を活用できる応用を検討してきた。温和な条件下でのアンモニア合成触媒の開発はその一例である。2016年には電子化物の母物質は絶縁体だけでなく、金属間化合物まで拡張できることを報告した。

Y3Pd2は結晶構造内に3種の空隙が存在し、そこに高い電子密度をもつ金属間化合物である。その仕事関数は3.4 eV(電子ボルト)で、パラジウム金属(5.1 eV)より圧倒的に小さい。また、パラジウムは電子陰性度[用語7]の小さいイットリウムによって、X線光電子分光のピークの位置から分かるように、明確に負の原子価になっている。

低仕事関数のアニオン電子[用語8]と負の原子価をもつパラジウムによって、反応分子であるハロゲン化アリール[用語9]に作用して電子を供与することで、カップリング反応の律速段階である炭素―ハロゲン結合の切断を促進することで、優れた触媒作用を示すと考えられる(図3)。

反応機構の模式図

図3. 反応機構の模式図

今後の展開

今回の研究は金属間化合物の電子化物を炭素―炭素結合の生成反応の触媒に応用したもので、金属間化合物の電子化物LaCoSi(ランタンとコバルトの金属間化合物)のアンモニア合成触媒(2018 Nature Catalysisに掲載)に続くものである。今後、より価値の高い反応へ展開することをめざしている。

用語説明

[用語1] 金属間化合物 : 二種類以上の金属元素(炭素、窒素のような非金属元素を含む場合もある)が簡単な整数比で結合した化合物で、成分金属元素と異なる特有の物理的・化学的性質を示す。

[用語2] 電子化物(エレクトライド) : 電子がアニオン(負に荷電したイオン)として働くとみなすことができる化合物。

[用語3] 鈴木カップリング反応 : カップリング反応は2つの化学物質を選択的に結合させる反応のこと。中でも鈴木カップリングはパラジウムの錯体を触媒とし、炭素―炭素の結合を得るために広く用いられている。

[用語4] オレフィン類 : 不飽和炭化水素。二重結合のある炭化水素類のこと。

[用語5] 炭素―炭素結合 : 2つの炭素原子間の共有結合。

[用語6] 仕事関数 : 固体内部にある電子を、固体の外、正確には真空中に取り出すために必要な最小限のエネルギーの大きさのこと。

[用語7] 電気陰性度 : 原子が電子を引き寄せる強さの相対的な尺度。小さいほど陽イオンになりやすい。

[用語8] アニオン電子 : 固体中で陰イオンとして働く電子。

[用語9] ハロゲン化アリール : 芳香族化合物のうち、芳香環上の水素の1個がハロゲン原子に置換したものの総称。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Palladium-bearing intermetallic electride as efficient and stable catalyst for Suzuki cross-coupling reactions(鈴木カップリング反応に適した高効率で安定な触媒としてのパラジウム系金属間化合物エレクトライド)
著者 :
叶天南(Tian-Nan Ye)、Yangfan Lu、肖泽文(Zewen Xiao)、李江(Jiang Li)、中尾琢哉(Takuya Nakao)、阿部仁(Hitoshi Abe)*、丹羽尉博(Yasuhiro Niwa)、北野政明(Masaaki Kitano)、多田朋史(Tomofumi Tada)、細野秀雄(Hideo Hosono)
(*高エネルギー加速器研究機構、他は東工大元素戦略研究センター)
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 元素戦略研究センター長、栄誉教授

細野秀雄

E-mail : hosono@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5009

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サイクリング部サイクルサッカー班が全日本室内自転車競技選手権女子の部で優勝 世界初の女子部門で初代チャンピオンに輝く

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自転車に乗って2人1チームでサッカーのようにゴールを狙う室内競技、サイクルサッカーの女子部門が、12月14、15日に開かれた全日本室内自転車競技選手権大会で初めて実施され、東京工業大学サイクリング部サイクルサッカー班が初優勝しました。優勝したのは、木澤佐椰茄さん(環境・社会理⼯学院 建築学系 学士課程4年)と藤戸木さん(理学院 物理学系 学士課程3年)のチーム「ウッドモック」です。

これまでの大会では全て男女混合で行われていましたが、今回、桃山学院大学(大阪府和泉市)で開かれた第50回大会で念願の女子部門が正式種目として新設されました。世界大会でも女子サイクルサッカーはまだ開催されていません。今回の全日本選手権大会で世界に先駆けて実現したことになり、東工大チームは世界初の女子チャンピオンに輝きました。

選手権大会の入賞者(2列目の右から3番目が木澤さん、4番目が藤戸さん)

選手権大会の入賞者(2列目の右から3番目が木澤さん、4番目が藤戸さん)

サイクルサッカーとは

サイクルサッカーは、2人1チームとなって自転車を巧みに操りながら、ゴールを狙うサッカーのようなスポーツで、体育館などで行われる室内自転車競技の⼀種です。競技には専用の自転車を使い、主に前輪を使ってドリブルやパス、シュートをします。ルールはサッカーとほぼ同じで、フリーキックやペナルティキック、コーナーキックもあります。

ほとんど立ちこぎでプレーするため、自転車はハンドルが上を向き、360度回転します。ギアは固定ギアで、後ろにこげばバックもできます。

使用するボールは表面が布製で直径は17~18センチ、重さは500~600グラム。コートの広さは11×14メートルで、試合は2対2で行います。試合時間は前半7分、後半7分の合計14分。試合中、選手は地面に足を着いてはいけません。日本ではほとんどの選手が大学から始めます。英語ではサイクルボールと呼ばれます。

全日本室内自転車競技選手権大会

日本室内自転車競技連盟が主催する大会で、学生だけでなく社会人も出場します。サイクルサッカー男⼦は18チーム、サイクルサッカー女⼦は4チームが出場しました。

サイクルサッカー班の木澤さんと藤戸さんのチームウッドモックが出場したサイクルサッカー女子部門では、1日目に4チームの総当たりのリーグ戦が、2日目に決勝戦が行われました。東工大のウッドモックは1日目の予選リーグ戦を3戦全勝し順位1位で決勝戦に進出。決勝戦では関西大学と立命館大学の合同チームと対戦しました。前半は0―0と膠着状態が続き大接戦となりましたが、後半残り約1分で得られたゴール近くのフリーキックを木澤さんが決め、1―0で勝利しました。

サイクルサッカー女子決勝戦で攻める東工大チーム(グレーのユニフォームが東工大生ペアのウッドモック、左端が木澤さん、左から2人目が藤戸さん))

サイクルサッカー女子決勝戦で攻める東工大チーム
(グレーのユニフォームが東工大生ペアのウッドモック、左端が木澤さん、左から2人目が藤戸さん)

女子予選リーグで戦う東工大チーム(右が藤戸さん、右から2人目が木澤さん)

女子予選リーグで戦う東工大チーム(右が藤戸さん、右から2人目が木澤さん)

女子決勝戦でコーナーキックする東工大チーム(左端が藤戸さん、左から2人目が木澤さん)

女子決勝戦でコーナーキックする東工大チーム(左端が藤戸さん、左から2人目が木澤さん)

試合結果を伝えた日本室内競技連盟のウェブサイトでは「女子大会は初の試みであったが、気持ちのこもったプレーが展開され、非常に見ごたえのあるゲームとなった」と評価されています。

また、サイクルサッカー男⼦部門では「全日本学生サイクルサッカー選手権大会」で優勝した増⽥翔さん(⼯学院 システム制御系 学士課程4年)と市橋啓太さん(環境・社会理工学院 建築学系 学士課程3年)のチーム(チーム名:東工大1)が健闘し、社会人のチームが多い中、ベスト8に⾷い込みました。

サイクルサッカー男子の試合(赤いユニフォームが東工大生ペアの東工大1)

サイクルサッカー男子の試合(赤いユニフォームが東工大生ペアの東工大1)

優勝した木澤さんのコメント

記念すべきこの大会で優勝することができて本当に嬉しいです。⼀緒に練習してきた同期や後輩たちのおかげで、サイクルサッカーを続けて来ることができ、優勝することができました。

女子部⾨をつくるために多くの方々にご協力いただき、ようやく正式な⼤会として開催することができました。本当に感謝しています。今後、女子選⼿を増やしてさらに活気のある⼤会にしていければと思っております。

このスポーツは世界選手権に出ることができるチャンスがあります。今後、世界選手権でも女⼦部門ができるかもしれません。そういった経験をできるのがマイナースポーツの良さだと思っています。サイクルサッカーを通して沢⼭の経験を積み、さらに成⻑していきたいです。

サイクルサッカーというスポーツを通じて、他の人がやっていないことに挑戦する行動力や試行錯誤する力、忍耐力が養われていると感じています。サイクルサッカーだけでなく、学業においてもこれから社会に出た際もこの気持ちや意欲を忘れずに努力していきたいと思います。

優勝した藤戸さんのコメント

この大会では、正式種目として初めて「サイクルサッカー女⼦」という部門ができました。その第⼀回で優勝することができ、とても誇らしく思います。それと同時に、これまでサイクルサッカーを⼀緒に練習した先輩や仲間、女⼦部門開催のために尽力してくださった⽅々に⼼から感謝しています。

これまで、サイクルサッカーの女子競技人口は少なかったため、公式戦は全て男女混合で行われていました。スポーツにおいて男女の差というのは大きく、女子選手はあまり活躍の場がありませんでした。そのような中で、正式競技として女子大会の開催ができたことは、サイクルサッカーにとって大きな⼀歩だと感じています。また、このようなサイクルサッカーの歴史に関わることができたというのは自分にとっても貴重な経験でした。

サイクルサッカーは、競技人口は少ないですが、奥の深い魅力的なスポーツです。またサイクルサッカーを通して様々な経験を積むことができます。これからさらにサイクルサッカーが盛んになっていってほしいと強く思います。

わたしは、春からは4年生に進学し、物理系の研究室に所属します。研究室では忙しくなるかもしれませんが、研究もサイクルサッカーも頑張っていきたいです。

東工大サイクリング部とは

東工大の公認サークルとして、東京工業大学、お茶の水女子大学、東京外国語大学の学生を中⼼に活動しています。主にツーリング班、サイクルサッカー班、レーサー班の3班に分かれて100名ほどが活動しています。今回メンバーが優勝したサイクルサッカー班は東⼯大大岡⼭キャンパスの屋内運動場で週2回練習しています。

東工大基金

サイクリング部の活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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Tel : 03-5734-2975

異なる架橋高分子材料を接着する新手法を開発 自己修復研究の技術を革新的接着に展開

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要点

  • これまで困難だった架橋高分子の粉末を混合一体化する革新的手法を開発
  • 可逆的に分子が組み換わる「動的共有結合」による架橋高分子の自己修復に関する独自の研究成果を異種架橋高分子の接着に展開
  • 開発された接着方法は簡便であり、多くの高分子新素材開発への展開に期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の大塚英幸教授、青木大輔助教らは、再加工が困難とされる架橋高分子[用語1]の粉末を分子レベルで接着させ、簡便な操作で新規の高分子素材をつくる革新的手法を開発した。可逆的に分子が組み換わる動的共有結合[用語2]を利用する自己修復性高分子[用語3]に関する独自の研究成果を活用し、架橋高分子の粉末を複数混合、加熱することによって、異種架橋高分子を分子レベルで接着させることに初めて成功した。

動的共有結合は従来から知られる一般的な高分子合成法によって導入できる。また接着方法も簡便なため、今後、多くの高分子新素材開発への展開が期待されるだけでなく、異種材料の革新的な接着技術としても応用が期待される。

分子の鎖が網目状につながった架橋高分子は、ゴムのような柔らかい素材から樹脂のような硬い素材まで、化学構造の違いによって多様な性質を示し、汎用材料から最先端素材まで私たちの生活を支えている。大塚教授らはこれまでに、架橋高分子の一部に組み換え可能な特殊な共有結合を導入することにより、高分子材料の内部や界面で共有結合が組み換わり、架橋高分子に自己修復性を付与することに成功している。

研究成果は2019年12月30日発行のドイツ化学会誌(Wiley-VCH)「Angewandte Chemie(アンゲヴァンテ・ケミー)International Edition」に掲載された。

研究の背景

異なる素材を効率的に接着させることで、多くの製品がつくられているが、部品を接合させるための部材や接着剤を使わずに異種材料の接着を行うことで、例えば、自動車や航空機の部材などの軽量化を実現でき、燃費向上による省エネ化、低炭素化に貢献することが期待されている。部材や接着剤を使わない接着技術を実現するためには、分子の鎖が網目状につながった架橋高分子の接着技術が必要である。架橋高分子は柔らかい素材から硬い素材まで、化学構造の違いによってさまざまな性質を示し、汎用材料から最先端素材まで私たちの生活を支えている。だが、架橋高分子は溶解性や溶融性を示さないため、異なる架橋高分子を混合一体化することが困難という課題があった。

大塚教授らはこれまでに、架橋高分子の一部に「動的共有結合[用語2]」と呼ばれる組み換え可能な共有結合を導入することで、高分子材料の内部や界面で共有結合が組み換わり、架橋高分子に亀裂や傷を復元できる自己修復性を付与することに成功している。しかしながら、こうした成果は同一の架橋高分子に限られており、異なる架橋高分子を使った技術に適用された例はない。

研究成果

大塚教授らは自己修復性高分子に関する独自の研究成果を活用して、動的共有結合を組み込んだ架橋高分子の粉末を複数混合し、加熱することで、異種架橋高分子を分子レベルで接着させて混合一体化ことに初めて成功した(図1)。動的共有結合は、従来からよく知られている一般的な高分子合成法によって、架橋高分子の中に導入された。

今回の研究では、これまで自己修復性を付与するために利用していた熱により動的性質を示すビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジスルフィド (BiTEMPS)[用語4]と呼ばれる分子骨格の組み換え反応に基づいた、異種架橋高分子間の新規融合手法を開発した。BiTEMPSは以下の理由から穏和な条件で異種架橋高分子の融合を実現する上で理想的な骨格であることを見いだした。

1.
100℃程度の加熱により特定の共有結合が可逆的に均一開裂[用語5]し、安定ラジカルを発生する。
2.
熱によって発生する安定ラジカルの官能基許容性[用語6]が高いため、多くの分子構造は影響を受けないことから、種々の高分子に適用できる。
3.
安定ラジカルを介した動的共有結合の組み換え反応が非常に早く起こる。
4.
空気中で加熱するだけで反応を誘起でき、高価な触媒を必要としない。

図1. 異なる架橋高分子材料を接着させる新手法の概念図

図1. 異なる架橋高分子材料を接着させる新手法の概念図

図2. 異なる架橋高分子材料を接着させて混合同一化させたフィルム

図2. 異なる架橋高分子材料を接着させて混合同一化させたフィルム

以上のような特性を持つ動的共有結合ユニットであるBiTEMPS骨格を、異なる主鎖骨格を持つ架橋高分子中に組み込み、架橋高分子間における結合組み換え反応を引き起こすことで、無溶媒条件下で融合を達成した。図2に示すように、架橋高分子の粉末を均一に混合し、鋳型に入れて加熱すると、粒子界面が分子レベルで接着し混合一体化する。得られたフィルムは、可視光の波長レベルで均一化しており、透明性が大幅に向上することを明らかにした。一方、動的共有結合を導入しなかった架橋高分子では、このような透明化は全く観測されない。

研究の経緯

革新的な接着技術の登場が要望されている中で、これまで研究を進めてきた高分子の自己修復現象を「同一高分子材料間の接着」と捉えることで、「異種高分子材料間の接着」や「材料の再加工性の向上」にも適用できるのではないかとの着想を得て、研究が行われた。本研究は、革新的な接着技術を開発することで画期的なモビリティ製造イノベーションを目指す未来社会創造事業「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築」(研究開発代表者:田中敬二 九州大学教授)の一環として実施された。本研究開発課題では、科学的知見に基づいたモビリティ等のマルチマテリアル化や軽量化に資する次世代接着技術設計指針の構築及びその指針に基づく高機能な接着技術の創出に取組んでおり、大塚英幸教授らのグループはその中で自己修復性の分子骨格を利用した革新的接着技術の開発に取り組んでいる。

今後の展開

本研究で架橋高分子の自己修復技術を異なる架橋高分子の混合同一化に展開できることが実証された。今後は高分子新素材開発や異種材料の革新的接着技術の開発に本技術を導入し、実装環境へ適合するための改良等を継続することで社会実装に向けて研究を加速する。

用語説明

[用語1] 架橋高分子 : 鎖状高分子の分子鎖間にところどころ橋渡しの結合をさせた重合体。線状高分子は適当な溶媒に溶解し、加熱によって溶融する。しかし架橋された高分子はいかなる溶媒にも溶解せず、加熱しても溶融しない。架橋の方法には、適当な試薬(架橋剤)を反応させるか、前もって架橋成分を加えて重合させる方法などがある。

[用語2] 動的共有結合 : 共有結合は原子間での電子対の共有を伴う化学結合。動的共有結合は可逆的な解離-付加を実現できる平衡系の結合である。動的共有結合を利用する化学システムは「動的共有結合化学」として注目を集めている。こうした平衡系の共有結合に基づく分子構造体は、熱力学的に安定な構造を持つ一方で、特定の外部刺激(温度、触媒、光、化学種添加など)によってその構造が変化するというユニークな特徴を併せ持っている。下図に示すように、可逆的に解離-付加をするだけでなく、結合が組み換わる。

動的共有結合:共有結合は原子間での電子対の共有を伴う化学結合。動的共有結合は可逆的な解離-付加を実現できる平衡系の結合である。動的共有結合を利用する化学システムは「動的共有結合化学」として注目を集めている。こうした平衡系の共有結合に基づく分子構造体は、熱力学的に安定な構造を持つ一方で、特定の外部刺激(温度、触媒、光、化学種添加など)によってその構造が変化するというユニークな特徴を併せ持っている。下図に示すように、可逆的に解離-付加をするだけでなく、結合が組み換わる。

[用語3] 自己修復性高分子 : 材料に入った亀裂や傷を復元できる特性。プラスチックに代表されるさまざまな高分子材料に自己修復性を付与できれば、長寿命化によって地球温暖化の緩和やエネルギー消費の低減化に貢献できる。

[用語4] 熱により動的性質を示すビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジ スルフィド(BiTEMPS)の化学構造 : 立体的に混み合っている中央の硫黄-硫黄結合が、加熱条件下では可逆的に開裂と再結合を繰り返すため、動的共有結合骨格として機能する。

熱により動的性質を示すビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジスルフィド(BiTEMPS)の化学構造:立体的に混み合っている中央の硫黄-硫黄結合が、加熱条件下では可逆的に開裂と再結合を繰り返すため、動的共有結合骨格として機能する。

[用語5] 均一開裂 : 上記のBiTEMPS骨格のS-S結合のように、結合が対称的に開裂すること。共有結合が均一開裂するとラジカル種を与える。

[用語6] 熱によって発生する安定ラジカルの官能基許容性 : 化学反応を進行させる上で問題となるのはその選択性である。狙った骨格同士で化学反応を進行させることができれば理想的だが、反応性が高いものほど意図していない他の骨格とも反応してしまう。狙った骨格に対して反応性を持っていながらそれ以外の骨格(官能基)とは反応しないことは「官能基許容性」と呼ばれ、化学反応を設計するにあたって重要な指標となる。

今回の研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。

科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業

研究開発課題名:
「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築」(研究開発代表者:田中敬二 九州大学教授)
研究者:
東京工業大学 物質理工学院 大塚英幸 教授
研究実施場所:
東京工業大学

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Fusion of Different Cross-linked Polymers Based on Dynamic Disulfide Exchange
著者 :
Ayuko Tsuruoka, Akira Takahashi, Daisuke Aoki, Hideyuki Otsuka
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

教授 大塚英幸

E-mail : otsuka@polymer.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2131 / Fax : 03-5734-2131

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

Hisao & Hiroko Taki Plazaのフロアコンセプトを学生グループが考案 地下2階から地上2階へ成長する1本の木に

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提供:隈研吾建築都市設計事務所

提供:隈研吾建築都市設計事務所

東京工業大学大岡山キャンパス正門付近に2020年冬、「Hisao & Hiroko Taki Plaza(ヒサオ・アンド・ヒロコ・タキ・プラザ 以下、Taki Plaza)」がオープンします。2019年5月に着工し、利用開始後の活動について企画・検討を進めています。建物コンセプト「外国人学生と日本人学生がここで出会い、絆を深め、共にまだ見ぬ未来を生み出そう」に加え、各フロアの機能イメージを明確にするため、このほど、地下2階から地上2階まで4フロアのコンセプトを策定しました。

Student-Centeredとなる建物を目指して

フロアコンセプトを考案したのは、約10名の学生から成る「Taki Plaza学生ワーキンググループ」です。このワーキンググループは、2018年10月に開催したTaki Plazaの活用を検討する学生ワークショップ「東工大グランプリ」参加者の中から発足しました。

学生が考案したフロアコンセプトは以下のとおりです。

2階: Technology (技術)~クリエイティブスペース~
1階: Association(つながり)~カフェ・パブリックアート~
地下1階: Knowledge(知識)~留学・就職情報エリア~
地下2階: Inspiration(ひらめき)~イベントスペース~

フロアコンセプト

東工大に息づく丘の文化をイメージした4層からなる建物の形より、「1本の木」をコンセプトシンボルとしました。

イベントスペースのある地下2階は、原動力となる養分や水分を取り入れる「根っこ」。仲間と交流し、原動力「Inspiration」を得ます。留学・就職情報エリアのある地下1階は、雨や風にも負けない強い「木の幹」。世界を通じて己を知り、積極的に学修し、何にも負けない知識「Knowledge」を得ます。一般開放フロアとなるカフェやパブリックアートのある1階は、外の世界へ葉を広げる「木の枝」。さまざまな人との交流を深め、外の世界に「Association(つながり)」を生み出します。クリエイティブスペースのある2階は、地下2階から1階で身に付けた力が結実する「果実」。同じ方向を向いた仲間と長い年月や苦難を越えて、1つの大きな果実「Technology」を結びます。

「Taki Plaza学生ワーキンググループ」は、教職員で構成される「Taki Plaza検討ワーキンググループ」の一員として企画段階から参加してきました。他の大学を訪ねて気づいた知見も参考に、学生の声をTaki Plazaの検討に反映しています。

また、2019年4月にオープンしたAttic Lab (アティック・ラボ、東工大生による東工大生のためのコワーキングスペース)の運営メンバーやAttic Labで活動する学生と協力し、Taki Plaza2階クリエイティブスペースの機能を検討しています。今後は、学内の学生団体やサークルにTaki Plazaでやってみたいことについてヒアリングを行う予定です。

近畿大学のアカデミックシアターを見学
近畿大学のアカデミックシアターを見学

神田外語大学8号館「KUIS8」(自立学習施設)を見学
神田外語大学8号館「KUIS8」(自立学習施設)を見学

甲南大学のiCommons(キャンパスライフ支援複合施設)を見学
甲南大学のiCommons
(キャンパスライフ支援複合施設)を見学

留学経験者の甲南大生チューターと英単語当てゲームで交流する東工大生
留学経験者の甲南大生チューターと
英単語当てゲームで交流する東工大生

Attic Labで活動する学生とミーティング

Attic Labで活動する学生とミーティング

Taki Plazaウェブサイト

2019年11月に開設したTaki Plazaウェブサイトでは、Taki Plazaのフロアマップ、フロアコンセプト、寄附者・設計事務所・Taki Plaza学生ワーキンググループからのメッセージなどを掲載しています。工事の進捗状況も随時更新中です。

関連リンク

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

学務部学生支援課支援企画グループ

E-mail : gak.sie@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3011

1月23日10:50 本文中に誤りがあったため、一部修正しました。

若松英輔教授著『小林秀雄 美しい花』が第16回蓮如賞を受賞

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授賞式の様子
授賞式の様子

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院の若松英輔教授の著書『小林秀雄 美しい花』(文藝春秋刊 2017年12月10日発行)が、第16回蓮如賞を受賞し、2019年12月9日に京都市山科区の東山浄苑東本願寺で授賞式が行われました。

蓮如賞は、蓮如の五百回忌を記念し、1994年に本願寺維持財団(当時:現一般財団法人本願寺文化興隆財団)によって創設されました。日本文学、日本文化を高揚すべく設けられたもので、日本人の精神文化に深く根差したノンフィクション文学作品が受賞作に選ばれています。
現在の選考委員は柳田邦男氏(作家)、山折哲雄氏(宗教学者)です。

若松教授のコメント

若松教授

受賞の連絡があったのは、都内の食料品店で、夕食のために食べ物を買っているときだった。こうした賞は、たいてい最終候補に残ると事前に連絡が来ていて、当日は、どこか気がそぞろになりながら待つ、というのがよくある光景なのである。だが、今回は違った。まったく準備がないだけでなく、無防備な日常に割り込んできた出来事で、小林秀雄の言葉を借りれば、小さな「事件」になった。

「蓮如」は、さまざまな意味で親しい名前である。故郷の北陸は浄土真宗が盛んなところで、蓮如の名前はいつからか忘れ得ぬ存在になっていた。さらに、本書にも書いたが、小林の「友」でもあった中野重治が福井県の出身で、その家は、とても熱心な門徒だった。こうしたゆかりのある人物の名を冠した賞には格別の意味を感じる。

受賞は素直にうれしい。書いたことが認められたというだけでなく、信頼する仲間たちとの仕事が世に受け容れられたということが、素朴に喜ばしい。編集者、校正者、装幀者どの仕事がなくても、この本は生まれなかった。選考委員という「未知なる」読者に出会えたことも予期せぬ喜びである。およそ一年半前にだした本でもあり、この本が、選考委員の手に届いているとは思いもしなかった。

はじめて小林秀雄の作品を手にしたのは一六歳のときである。それから三十余年を経て、この本は生まれた。

どの本にも生まれるべき「時」がある。奇妙に聞こえるかもしれないが、書き手はそれを自由にできない。本のちからが強いとき、書き手が本に従う、といった実感すらある。

本書は、一九六一年に四九歳で亡くなった越知保夫に捧げられている。誤解を恐れずに、私の実感をそのままに表現すれば、彼の助力によってようやく本書を書き上げることができたように感じている。彼に捧げるというのもおかしな話なのかもしれない。彼は、遠くにいた人ではなく、ある意味では、もっとも近くにいた共同者だからだ。むしろ、彼と共に今回の受賞を喜ばねばならないのかもしれない。

『小林秀雄 美しい花』について

『小林秀雄 美しい花』
『小林秀雄 美しい花』

この作品の受賞は、2018年の第16回角川財団学芸賞に続いてのものとなります。

帯の一節を紹介します。

「小林秀雄は月の人である。

中原中也、堀辰雄、ドストエフスキー、ランボー、ボードレール。

小林は彼らに太陽を見た。

歴史の中にその実像を浮かび上がらせる傑作評伝。」

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お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院文系教養事務

E-mail : ilasym@ila.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7689

「スライムの化学」を利用した第5のがん治療法 液体のりの主成分でホウ素中性子捕捉療法の効果を劇的に向上

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要点

  • 液体のりの主成分であるポリビニルアルコールを中性子捕捉療法用のホウ素化合物に加え、治療効果を大幅に向上。
  • マウスの皮下腫瘍に対する治療効果はほぼ根治に近いレベルを実現。
  • 臨床応用を目指し、ステラファーマ株式会社の協力を得て研究を推進。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の野本貴大助教と西山伸宏教授(川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター主幹研究員兼任)の研究グループは、液体のりの主成分であるポリビニルアルコール[用語1]中性子捕捉療法用のホウ素化合物(ボロノフェニルアラニン=BPA)[用語2]に加えるだけで、その治療効果を大幅に向上できることを発見し、マウスの皮下腫瘍をほぼ消失させることに成功した。

BPAはがんに選択的に集積することができる優れたホウ素化合物であるが、がんに長期的に留まることができず、その滞留性を向上させることが強く望まれていた。野本助教と西山教授は、スライムの化学[用語3]を利用してポリビニルアルコールにBPAを結合することにより、結合させた物質ががん細胞に選択的かつ積極的に取り込まれ、その滞留性を大きく向上できることを発見した。さらに、京都大学研究用原子炉にて、マウスの皮下腫瘍に対するその治療効果を検討した結果、ほぼ根治することを確認した。本研究成果は、従来の方法では治療困難ながんに対する革新的治療法として応用が期待される。

本研究成果は2020年1月22日(米国東部時間)に米国のオープンアクセスオンライン科学誌「Science Advances」に掲載された。また本研究の臨床応用を目指し、ステラファーマ株式会社[用語4]の協力を得て研究を進める予定である。

背景

ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)[用語5]は、ホウ素(10B)に対して熱中性子[用語6]を照射することにより核反応を起こし、細胞傷害性の高いアルファ粒子[用語7]リチウム反跳核[用語8]を発生させて、それによりがんを治療する方法である(図1)。従来の方法では治療することが困難な再発性のがん、多発性のがんに対しても有効であるため、第4のがん治療法と呼ばれる免疫療法に続く、第5のがん治療法として大きな期待を集めている。

BNCTではいかにホウ素をがんに選択的に集積させることができるかが重要である。現在、臨床で主に使用されているホウ素化合物はボロノフェニルアラニン(BPA)という物質である。BPAは、LAT1[用語9]というがん細胞上に多く発現しているアミノ酸トランスポーターを介して細胞に取り込まれる性質があるため、選択的にがんに集積することができる化合物である。

現在、BPAの臨床試験はステラファーマ株式会社が行っており、臨床試験第II相において、再発頭頸部がんに対しBNCT施行90日後の奏効率71.4%という治療効果が得られている。このように使用されているBPAだが、がん細胞に選択的に集積することができるものの、長期的にはがん細胞に滞留することができないケースもあり、BPAのがんにおける滞留性を長期化できれば、BNCTの治療効果を更に向上できると考えられていた。

図1. BNCTの原理

図1. BNCTの原理


ホウ素と熱中性子が核反応を起こし、細胞傷害性の高いα粒子とリチウム反跳核を産生する。これらの粒子ががん細胞に致命的な傷害を与える。これらの粒子の移動距離は細胞1個の大きさ程度に相当するので、ホウ素をがん細胞だけに集めることが重要である。

研究成果

BPAががん細胞に長期的に留まることができない原因の一つとして、LAT1の交換輸送メカニズムが関連していると考えられている。LAT1は細胞外のBPAを取り込む際に細胞内のアミノ酸を排出するが、細胞外のアミノ酸を取り込む際に細胞内のBPAを排出することもある。その結果、細胞外のBPA濃度が低下すると細胞内のBPAが流出してしまう現象が起きる(図2)。このような細胞外へのBPAの流出を抑えるために、東京工業大学の野本助教と西山教授の研究グループは、液体のりとホウ砂から作られるスライムと同様の化学反応を利用した方法を開発した。

図2. BPAの細胞内取込み・細胞外流出のメカニズム

図2. BPAの細胞内取込み・細胞外流出のメカニズム


細胞外のBPA濃度が高いときはLAT1を介してBPAが細胞内に取り込まれ、細胞内のアミノ酸が細胞外に排出される。一方、細胞外のBPA濃度が低いときは細胞外のアミノ酸が取り込まれ、細胞内のBPAが細胞外に排出される。

液体のりの主成分であるポリビニルアルコール(PVA)は、生体適合性の高い材料として古くから研究されてきた物質であり、さまざまな医薬品の添加物としても使用されている。PVAは多くのジオール基[用語10]を持っており、このジオール基はホウ酸やボロン酸と呼ばれる構造と水中でボロン酸エステル結合を形成することができる。野本助教と西山教授らはこの化学を利用してBPAをPVAに結合させたところ、PVAに結合したBPA(PVA-BPA)はLAT1介在型エンドサイトーシス[用語11]という経路で細胞に取り込まれるようになり、従来のBPAが細胞質に蓄積するのに対し、PVA-BPAはエンドソーム・リソソーム[用語12]に局在するようになった(図3(A))。その結果、がん細胞に取り込まれるホウ素量が約3倍に向上し、細胞内で高いホウ素濃度を長期的に維持することが可能となった。

更に、マウスの皮下腫瘍モデルを用いて、がんへの集積性を評価したところ、従来のBPAと同等以上の集積性を示した(図3(B))。従来のBPAは徐々に腫瘍内の集積量を低下させた一方で、PVA-BPAはその高いホウ素濃度を長期的に維持することができた。そして、熱中性子を照射すると、PVA-BPAは強力な抗腫瘍効果を示し、ほぼ根治に近い結果を得ることができた(図3(C))。

図3. 研究成果の概要

図3. 研究成果の概要


(A)
今回発明したPVA-BPA:スライムの化学を利用してBPAをPVAに結合した。PVA-BPAはLAT1介在型エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれエンドソーム・リソソームに局在するようになる。
(B)
腫瘍への集積性・滞留性:PVA-BPAは、従来のBPAと比較して優れた腫瘍集積性と滞留性を示した。
(C)
BNCTの効果:PVA-BPAを用いたBNCTではほぼ根治に近い治療効果が得られた。

今後の展開

BNCTの開発において、我が国は最先端の研究をリードしている状況である。このBNCTの最先端研究を支えてきたのは、我が国の学術界で唯一、BNCTに必要な中性子を産生することができる京都大学複合原子力科学研究所の研究炉(KUR)の役割が極めて大きい。今後もPVA-BPAの効果をより詳細に明らかにすべく、KURを中心にした基礎研究を推進する予定である。

一方、最近の臨床研究においては、BNCTの普及を目指した加速器型中性子線源が主流になっている。しかし、現状の加速器型中性子線源による熱中性子の産生量では、浅い部位のがんに適応が限定されると考えられている。治療の適応を深部まで拡げるためには、がん組織内のホウ素濃度を長期的に高く維持することが求められており、この点において本研究成果のPVA-BPAは大きく貢献できるものと期待される。

また、PVA-BPAはスライムを作るように、水中でPVAとBPAを混ぜるだけで簡単に合成することが可能である。製造が容易である上に治療効果も非常に優れていることから本研究成果は極めて実用性が高いと考えられる。今後、ステラファーマ株式会社の協力を得て更なる研究を行うことになり、安全性を精査しながら臨床応用への可能性を検討していく予定である。

追記(研究の経緯)

本研究成果は精力的に活動する多様な研究者が集まる東京工業大学という土壌があってこそ生まれたといえる。野本助教と西山教授は精密設計高分子を基盤にした薬物送達システムの開発に従事し、特に光などの物理エネルギーに応答して治療効果を出す化合物をがんに選択的に送達する技術の開発を継続的に行ってきた。

2013〜14年に野本助教と西山教授が着任した科学技術創成研究院 化学生命科学研究所(当時、資源化学研究所)には、中村浩之教授(2015〜19年、中性子捕捉療法学会会長)がおり、3人でBNCTに使用する薬物をがんに届ける方法について研究の議論を重ねてきた。その途中の2016年、大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞し、主流となる研究を追いかけるのではなく、誰も注目しないような側面に焦点を当てて研究をすることが面白いということを学内の講演会で強調された。

大隅栄誉教授のこのメッセージに鼓舞され、野本助教と西山教授は薬物の代謝という今までに焦点が当てられなかった側面に着目し、今回のBPAのがん細胞における滞留性の向上についてアイディアを着想した。野本助教と当時、修士課程学生の井上透矢氏が中心になって実験を重ね、BNCTの評価に必要とされる研究手法については中村教授から助言を受けて進め、本研究成果につながった。

本研究のコンセプトはまさに教職員と学生が一丸になった“Team東工大”により創出されたものである。そして、我が国の学術界で唯一BNCTに必要な中性子を産生することができる京都大学複合原子力科学研究所と、最先端の分析機器を備える川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)の助力を得て、BNCTに有用な研究成果であることが明らかになった。

用語説明

[用語1] ポリビニルアルコール : 水溶性の高分子で洗濯のりや液体のりの主成分として日常に幅広く浸透している材料。生体適合性の高い材料としても知られており、医用材料として既にさまざまな形で利用されている。最近では東京大学のグループがポリビニルアルコールを用いることで造血幹細胞を増幅することに成功したとして広く報道された。

[用語2] 中性子捕捉療法用のホウ素化合物(ボロノフェニルアラニン=BPA) : 必須アミノ酸のフェニルアラニンと類似した構造を持ちながら、ホウ素原子を含有した化合物。がん細胞に選択的かつ効率的に取り込まれることが知られている。熱中性子を当てると化合物中のホウ素原子が核反応を起こしてがん細胞を殺傷する。

[用語3] スライムの化学 : 洗濯のりとホウ砂を混ぜるとスライムができる。これはホウ砂から生じるホウ酸イオンが化学反応により複数のポリビニルアルコールをつなぐからである。本研究ではこの化学反応を応用している。

スライムの化学:洗濯のりとホウ砂を混ぜるとスライムができる。これはホウ砂から生じるホウ酸イオンが化学反応により複数のポリビニルアルコールをつなぐからである。本研究ではこの化学反応を応用している。

[用語4] ステラファーマ株式会社 : BNCT用のホウ素化合物の開発を行っている国内企業。10Bの濃縮技術を有しているステラケミファ株式会社の子会社であり、SPM-011(BPAのsorbitol製剤 一般名:ボロファラン(10B))の臨床試験を行い、BNCTの実用化に取り組んでいる。最近、SPM-011の薬機法での承認申請を行った。

[用語5] ホウ素中性子捕捉療法(boron neutron capture therapy: BNCT ) : ホウ素原子(10B)と熱中性子の核反応により生じるアルファ粒子とリチウム反跳核を利用してがんを治療する放射線療法の一種。従来の放射線療法では治療することが困難な再発性のがんや多発性のがんに対しても有効な治療法であるとされている。楽天メディカルが開発している光免疫療法と並び、BNCTは第5のがん治療法としても注目を集めている。BNCTの研究は50年以上前から日本を中心に進められてきた歴史があり、現在でも日本が最先端の研究をリードしている。最近、熱中性子源として、加速器型中性子線源の開発が活発に進められ、新たなホウ素薬剤の開発が求められていた。

[用語6] 熱中性子 : エネルギーの低い中性子。熱中性子単独では細胞傷害性がほぼ無い。

[用語7] アルファ粒子 : 高いエネルギーを持つヘリウムの原子核。細胞傷害性が高いが、細胞1つ分の距離しか移動しない。

[用語8] リチウム反跳核 : ホウ素原子と熱中性子の核反応により生じるリチウムの原子核。アルファ粒子と同様に、高いエネルギーを持つが細胞1つ分の距離しか移動しない。

[用語9] LAT1 : 細胞がアミノ酸を取り込むためのタンパク質の一つ。正常な細胞にはほとんど発現していないが、がん細胞では細胞膜上に多く発現していることが知られている。

[用語10] ジオール基 : 化学構造の中で、2つのヒドロキシ基(-OH)から構成される部分。ポリビニルアルコールでは下図の灰色部分が相当する。

ジオール基:化学構造の中で、2つのヒドロキシ基(-OH)から構成される部分。ポリビニルアルコールでは下図の灰色部分が相当する。

[用語11] LAT1介在型エンドサイトーシス : エンドサイトーシスとは、細胞が細胞外の物質を細胞内へ取り込む方法の一つである。今回開発した物質は、最初に細胞膜上のLAT1にくっつき、その後にエンドサイトーシスで細胞に取り込まれる。この過程をLAT1介在型エンドサイトーシスと呼んでいる。

[用語12] エンドソーム・リソソーム : エンドサイトーシスによって取り込まれた物質が局在する細胞内小器官。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Poly(vinyl alcohol) Boosting Therapeutic Potential of p-Boronophenylalanine in Neutron Capture Therapy by Modulating Metabolism
著者 :
Takahiro Nomoto, Yukiya Inoue, Ying Yao, Minoru Suzuki, Kaito Kanamori, Hiroyasu Takemoto, Makoto Matsui, Keishiro Tomoda, Nobuhiro Nishiyama
DOI :

本研究は下記からの支援を受けて遂行された。

  • 独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)
    科学研究費助成事業(課題番号18K18383, 18H04163, 15H04635)
  • 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)
    センターオブイノベーション(COI)プログラム
  • 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
    橋渡し研究戦略的推進プログラム補助事業(拠点名:筑波大学、研究開発代表者: 東京工業大学 野本貴大)「シーズA17-89超低侵襲中性子捕捉療法を実現する代謝制御型ホウ素送達システム」
    革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業(研究開発代表者: 東京工業大学 西山伸宏)「高分子ナノテクノロジーを基盤とした革新的核酸医薬シーズ送達システムの創出」
    次世代がん医療創生研究事業(研究開発代表者: 東京工業大学 西山伸宏)「DDS技術を基盤とした革新的がん治療法の開発」
  • 筑波大学つくば臨床医学研究開発機構(T-CReDO)
  • 文部科学省
    ダイナミック・アライアンス

お問い合わせ先

研究内容について

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

助教 野本貴大

E-mail : nomoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924 -5226 / Fax : 045-924-5275

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 西山伸宏

E-mail : nishiyama.n.ad@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5240 / Fax : 045-924-5275

京都大学 複合原子力科学研究所 附属粒子線腫瘍学研究センター

教授 鈴木実

E-mail : msuzuki@rri.kyoto-u.ac.jp
Tel : 072-451-2390

BNCTについて

京都大学 複合原子力科学研究所

お問い合わせフォームouter

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

京都大学 総務部 広報課 国際広報室

E-mail : comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-5729 / Fax : 075-753-2094

川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター

COINS事務局 担当:島﨑

E-mail : shimazaki-m@kawasaki-net.ne.jp
Tel : 044-589-6326 / Fax : 044-589-5789

ステラファーマ株式会社 総務部

E-mail : sp-contact@stella-pharma.co.jp
Tel : 06-4707-1516 / Fax : 06-4707-2077

AMED事業に関すること

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

戦略推進部 がん研究課

E-mail : cancer@amed.go.jp
Tel : 03-6870-2221 / Fax : 03-6870-2244


デラサール大学のロナルド・S・ガラルド氏が東工大フェロー第2号に

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2019年12月6日、東京工業大学役員会において、本学フィリピンオフィスのアドバイザーを務めるロナルド・S・ガラルド氏(デラサール大学)に東京工業大学フェローの称号を授与することが決定しました。12月13日には、フィリピンオフィス長の西崎真也教授(本学学術国際情報センター)がフィリピンオフィスを訪れ、ガラルド氏に称号記が贈られました。

ガラルド氏(左)と西崎教授(右)

ガラルド氏(左)と西崎教授(右)

ガラルド氏は、フィリピン共和国の首都マニラにあるデラサール大学において、副総長補佐、副学長補佐、総長・学長室技術顧問といった要職を歴任してきました。2005年9月にデラサール大学内に本学フィリピンオフィスが設置されて以来、フィリピンオフィスの運営への協力、学生のためのインバウンドおよびアウトバウンド交流プログラムなど教育に係る支援、本学とフィリピンにおける研究交流の促進、本学卒業生を中心に構成されるフィリピン蔵前会(ATTARS)への活動支援など、多様な側面から本学の活動に貢献いただいています。

東京工業大学フェローの称号は、本学以外の機関を主な拠点として活躍している方のうち、学術上または教育上の功績において国際的に高い評価を受けており、かつ本学との交流を通じて本学の教育研究に功労がある方に対して授与するものです。ガラルド氏は、2019年10月に称号を授与された清華大学の邢新会(シン・シンホエイ、XING Xinhui)教授に続いて2人目の選出となります。

西崎教授は、ガラルド氏に称号記を贈るにあたり、これまでの功労に深く感謝を表すとともに、今後も「Team東工大」の一員として引き続き本学の教育研究へご協力いただき、本学とフィリピンの交流のさらなる発展に期待していることを伝えました。

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国際部 国際事業課 国際事業グループ

E-mail : kokuji.jig@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3827

“幻の学園祭”工大祭2019を学園祭グランプリで紹介

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2019年10月12、13日に予定されていた東京工業大学の学園祭「工大祭2019」は台風19号の影響で直前に中止されましたが、12月21日に行われた「学園祭グランプリ2019」の企画「“幻の学園祭”プレゼン」に工大祭実行委員会が出場し、準備していたプログラムを紹介しました。

学園祭グランプリで発表した工大祭実行委員会のメンバー

学園祭グランプリで発表した工大祭実行委員会のメンバー

学園祭グランプリはイベント情報サイト「レッツエンジョイ東京」が主催し、首都圏の大学学園祭のナンバーワンを決めるコンテストです。2019年は141キャンパスがエントリーし、過去最大となりました。工大祭は2015年にMVP賞・地域活性化賞・SNS実行賞の3つの企画賞を受賞し、2018年は総合5位に入賞しています。

最終審査会の中で今年度が初めての特別プログラム「“幻の学園祭”プレゼン」が行われ、台風で中止になった計3大学の学園祭実行委員らが、幻に終わった内容を発表しました。

工大祭2019実行委員会委員長の芥川聖さん(理学院 物理学系 学士課程3年)らがテーマ「Hello World!!」に込められた想いや、工大祭の目玉企画である研究室公開企画、フリーマーケット、学生有志団体によるステージイベントなどについて発表しました。

Hello Worldという言葉は、プログラミングで最初に作る動作確認として有名です。工大祭が世界の無限な可能性へ踏み出す第一歩になればという思いで、2019年のテーマに選びました。研究室公開企画では、古代魚やハリネズミベイビーを展示し進化の物語を解き明かす企画やチタンの酸化反応を利用したオリジナルキーホルダー作り、たたら製鉄の実演などが予定されていました。掘り出し物がみつかるフリーマーケットも毎年人気を集めています。

学園祭グランプリで発表した時に紹介した2018年の工大祭の様子

学園祭グランプリで発表した時に紹介した2018年の工大祭の様子

学園祭グランプリで発表した時に紹介した2018年の工大祭の様子

学園祭グランプリで発表した時に紹介した2018年の工大祭の様子

学園祭グランプリで発表した時に紹介した2018年の工大祭の様子

工大祭2019は台風19号の影響でJR東日本の計画運休が決定し、来場者の安全の確保、並びに参加団体の来校が難しいため、前日の10月11日、2日間の全日程の中止を発表しました。

工大祭2019実行委員会委員長の芥川聖さんのコメント

工大祭2019は残念ながら台風により中止になってしまいましたが、学園祭グランプリで特別なコーナーを作っていただき、工大祭を紹介する機会となりました。

おかげで、準備した企画について、皆さんに知っていただくことができました。

4年に向けて講義も専門的な内容になってきて、学修も大変です。

そんな中で、学園祭を紹介するプレゼンを考えていると、大学や地域、企業の皆様、他にもさまざまな方々に支えていただいたことを改めて実感いたしました。

次年度の工大祭2020もどうぞよろしくお願いいたします。

工大祭2020

工大祭2020は、2020年10月10日(土)、11日(日)に開催予定です。

東工大ならではの、普段は見ることが出来ない最先端の研究・技術に触れることができる研究室公開企画や、各サークルによる模擬店企画など来場された皆さんに楽しんでいただけるよう、実行委員一同全力で準備を進めていきます。

ぜひ皆さんご期待ください。

東工大基金

工大祭実行委員会の活動は東工大基金によりサポートされています。

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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

千葉明教授がIEEEニコラ・テスラ賞を受賞

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東京工業大学 工学院 電気電子系の千葉明教授が、国際的な学会IEEE(アイ・トリプル・イー、Institute of Electrical and Electronics Engineering)の2020年ニコラ・テスラ賞(IEEE Nikola Tesla Award)を受賞することが決まりました。千葉明教授の業績として「ベアリングレス・リラクタンスモータへの貢献」が認められ、2020年受賞者として選出されたものです。

IEEEは電気・電子・情報関連分野における最も権威がある世界最大(43万人)の技術系の学術団体です。IEEEでは、32の専門分野(Field)にわけ、各分野に1人、あるいは3人までのグループに毎年Field Award(フィールド・アワード)を授与しています。いずれもその分野の著名な人物の名前などが賞の名称についています。

ニコラ・テスラ(1856 - 1943)はエジソンの時代に、現在でも多数利用されている交流送電、誘導モータの発見・実用化などに多大な貢献を行った人物です。また、磁束密度の単位のTeslaはテスラ氏の名字が発祥です。そこで、IEEEは「電力の利用・発電に関して特筆すべき貢献を行った人」を受賞者に選んでいます。ニコラ・テスラ賞は1976年から44年間続き、毎年1人に与えられています。IEEEでも歴史がある賞です。

IEEEのField Awardは本学の電気・電子・情報分野では1986年に末松安晴栄誉教授・元学長、2003年に伊賀健一名誉教授・元学長、2008年に赤木泰文特任教授、2009年に深尾正名誉教授、2010年に古井貞熈名誉教授、2015年に岩井洋名誉教授らが受賞しています。50才台での受賞は末松元学長、赤木特任教授につづき3人目とみられます。また、著名な日本人では、1961年に江崎玲於奈氏、1998年には赤崎勇氏と中村修二氏などのノーベル賞受賞者もIEEE Field Awardを受賞しています。

千葉教授のコメント

千葉明教授
千葉明教授

ベアリングレスモータは磁気浮上して非接触で回転するモータです。東工大の博士後期課程で発明し、1989年より文部科学省の科学研究費などに支えられ独自研究開発を行ってきました。モータは回転する力(トルク)を発生しますが、回転子は半径方向の電磁力も発生しています。この半径方向の電磁力はあまり有効利用されていなかった状況にありました。この電磁力を調整することによってモータが磁気浮上して回転できるようになりました。当初は「ユニークだね」とのコメントしか得られませんでしたが、現在では世界各国の研究者が研究を行い、また、企業が超純水のポンプ、半導体・液晶プロセス、超高速回転モータなどに実用化しつつあります。

一方、リラクタンスモータとしては、次世代自動車用駆動用として、レアアース永久磁石を使わないスイッチドリラクタンスモータの設計を工夫し、永久磁石モータと同等の効率、トルク密度、また、それ以上の出力が可能であることを理論的に、また、実験的に明らかにしてきました。永久磁石モータと同等のパフォーマンスを持つモータをRare-earth-free-motor(レア・アース・フリー・モータ)と名付けました。

恩師の深尾正名誉教授、30歳の時にポスドクとして留学したカナダのメモリアル大学のRahman(ラーマン)教授のご指導に感謝します。先輩の赤木特任教授にはIEEE Fellow, Field Award の価値についていろいろアドバイスをいただき感謝いたします。これまでともに研究を進めてきた同僚の研究者、大学院生など、多くの方々の貢献によるもので、深く感謝しています。私としては定年ごろに受賞できればありがたいと思っていましたが、まさか50歳台で受賞することになるとは思いませんでした。この受賞を励みに、今後も研究に邁進していきたいと思っています。

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お問い合わせ先

工学院 教授 千葉明

Email : chiba@ee.e.titech.ac.jp

社会人アカデミー 開催講座 Institutional Research論 第1期 2020年4月~7月 第2期 2020年9月~12月開催

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大学IR(Institutional Research)は教学分野で遂行され、近年、多くの大学において大学の運営に関わるIRも求められるようになってきています。本講座では、IR実務者のスキルアップのために、IRの背景、基礎、応用を最先端のIR実務者による講義も含めた内容から学びます。

大学におけるIR実務に携わる皆様のご参加を、心よりお待ちしております。

日時
第1期 : 2020年4月11日 - 7月18日(隔週土曜日)
第2期 : 2020年9月12日 - 12月19日(隔週土曜日)
場所
講師
  • 森雅生 教授(東京工業大学)
  • 相原総一郎 特任教授(芝浦工業大学)
  • 白鳥成彦 教授(嘉悦大学)
  • 髙田英一 准教授(神戸大学)
  • 杉原亨 准教授(関東学院大学)
  • 大石哲也 特任准教授(東京工業大学)
対象者
大学におけるIR実務者
受講料
91,000円(税抜き)
定員
各期とも20名(最少開催人数10名)
申込締切
第1期 : 2020年3月30日(月)
第2期 : 2020年8月31日(月)
※各期とも定員に達し次第、締切とさせていただきます。
申込方法

社会人アカデミーウェブサイトouterよりお申し込みください。

詳細は下記チラシ及び関連リンク先の講座・プログラム案内ページをご覧ください。

2020年度 Institutional Research論 チラシ

2020年度 Institutional Research論 チラシ

2020年度 Institutional Research論 チラシ

お問い合わせ先

東京工業大学社会人アカデミー事務室

E-mail : jim@academy.titech.ac.jp
Tel : 03-3454-8867 FAX : 03-5734-8722

温室効果ガスを光照射で水素や化学原料に変換 高性能な光触媒を開発

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要点

  • 光照射のみでメタンの二酸化炭素改質反応を起こすことに成功
  • 複合光触媒を開発し、従来の光触媒とは異なる反応機構を解明
  • 地球温暖化ガスの有効利用策として期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の庄司州作博士後期課程3年と宮内雅浩教授、物質・材料研究機構の阿部英樹主席研究員、高知工科大学の藤田武志教授、九州大学 大学院工学研究院の松村晶教授、静岡大学の福原長寿教授らの共同研究グループは、低温でメタンの二酸化炭素改質反応(ドライリフォーミング[用語1])を起こすことができる光触媒材料の開発に成功しました。

ロジウムとチタン酸ストロンチウム[用語2]からなる複合光触媒を開発し、光照射のみでドライリフォーミングを達成しました。ヒーター等による加熱を必要としないため、燃料の消費が大幅に抑えられるとともに、加熱による触媒の劣化が起こらず長期間安定的に反応を継続することができ、地球温暖化ガスを有効利用できる方策として期待されます。

ドライリフォーミングは温室効果ガスのメタンと二酸化炭素を有用な化学原料に変換できる魅力的な反応ですが、800 ℃以上の加熱が必要で、かつ加熱による触媒凝集ならびに炭素析出による劣化の問題から、実用化には至っていません。

本研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST 研究領域「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」(研究総括:上田渉)における研究課題「高効率メタン転換へのナノ相分離触媒の創成」(研究代表者:阿部英樹)において実施しました。研究成果は英国科学誌「Nature Catalysis 」に1月27日(現地時間)にオンライン掲載されました。

図:本研究のドライリフォーミング反応機構の模式図

図. 本研究のドライリフォーミング反応機構の模式図

研究の背景と経緯

ドライリフォーミング反応は温室効果ガスであるメタンと二酸化炭素から、水素と一酸化炭素の合成ガスに変換することができます(CH4 + CO2 → 2CO + 2H2)。生成した合成ガスはアルコールやガソリン、化学製品を製造する化学原料となるため、ドライリフォーミング反応は天然ガスやシェールガス[用語3]の有効利用および地球温暖化抑止のために注目されています。

しかし、この反応を効率よく進行させるためには800 ℃以上の高温が必要となり、大量の燃料消費と高温条件における触媒の劣化が問題となっていました。本研究グループは、光エネルギーを使ってドライリフォーミング反応を起こす光触媒[用語4]を開発しました。従来の光触媒反応は水中の水素イオンが反応の媒体となって駆動する一方、乾燥条件で進行するドライリフォーミングに適した光触媒の探索が重要なポイントでした。

研究成果

開発した光触媒はチタン酸ストロンチウムに金属ロジウムがナノスケールで複合されています(図1)。この光触媒はチタン酸ストロンチウムとロジウム塩水溶液を密閉容器内で加熱処理することにより簡便に合成することができます。

(a)開発した光触媒の透過型電子顕微鏡観察像、(b)同光触媒粒子の高倍率観察像。数十nmの大きさのチタン酸ストロンチウムに対し、1-2 nmほどのロジウムのクラスターが高分散で複合化されている。
図1.
(a)開発した光触媒の透過型電子顕微鏡観察像、(b)同光触媒粒子の高倍率観察像。数十nmの大きさのチタン酸ストロンチウムに対し、1-2 nmほどのロジウムのクラスターが高分散で複合化されている。

この光触媒に紫外線を照射すると、加熱をしない条件でも50 %を超えるメタンと二酸化炭素転換率を示しました。従来型の熱触媒で同じ性能を出すためには、500 ℃以上の加熱が必要となることから、本研究グループの開発した光触媒の性能の高さがわかります。

図2(a)に光触媒の各温度での活性を示します。点線は熱力学的に計算される熱触媒の性能上限値ですが、本研究グループが開発した光触媒に光照射を行うことで、熱触媒の性能上限値を大きく上回りました。また、この光触媒による水素と一酸化炭素の生成速度は、メタンと二酸化炭素の消費速度の2倍となりました(図2(b))。このことから、光照射でドライリフォーミング反応が化学量論的[用語5]に進行し、副反応がほとんど起こっていないことが示唆されました。なお、光触媒として従来からよく知られる二酸化チタンを用いた場合は、本研究で用いたチタン酸ストロンチウムのような高い性能を示しません。

(a)触媒活性の温度依存性(濃度1 %のメタンと二酸化炭素の混合ガスを使用)、(b)温室効果ガスの消費速度と合成ガスの生成速度

(a)触媒活性の温度依存性(濃度1 %のメタンと二酸化炭素の混合ガスを使用)、(b)温室効果ガスの消費速度と合成ガスの生成速度

図2.
(a)触媒活性の温度依存性(濃度1 %のメタンと二酸化炭素の混合ガスを使用)、(b)温室効果ガスの消費速度と合成ガスの生成速度

この光触媒の耐久性を調べたところ、長期にわたり安定であることがわかりました。図3は反応前の光触媒(a)と反応後の光触媒(b)の超高解像度の電子顕微鏡写真を示しています。反応の前後でチタン酸ストロンチウム及び、複合したロジウムに変化がないのに対し、従来型の熱触媒の代表であるニッケルを担持したアルミナの場合では、反応の前後で大きな変化が観察されました(c-d)。

反応後にみられるチューブ状の物質は触媒表面で析出‐成長したカーボンチューブであり触媒劣化、反応器の破壊の原因となります。すなわち、光触媒では加熱による触媒劣化が抑制されたのみでなく、工業的に致命的な副反応となる炭素析出が劇的に抑制されました。

光触媒及び従来型熱触媒の反応前後の電子顕微鏡像(a)光触媒の反応前、(b)光触媒の反応12時間後、(c)従来型熱触媒の反応前、(d)従来型熱触媒の反応5時間後
図3.
光触媒及び従来型熱触媒の反応前後の電子顕微鏡像(a)光触媒の反応前、(b)光触媒の反応12時間後、(c)従来型熱触媒の反応前、(d)従来型熱触媒の反応5時間後

次に、反応メカニズムを明らかにするため、開発した光触媒に対して実際の触媒反応の条件下で電子スピン共鳴法[用語6]の解析を行ったところ、光照射によって生じた電子と正孔の電荷が反応を駆動していることがわかりました。ドライリフォーミングは二酸化炭素の還元反応を含むため、種々の光触媒の中でも高い電子の還元力をもつチタン酸ストロンチウムが好適であることがわかりました。

さらに、同位体[用語7]を用いた詳細な解析により、チタン酸ストロンチウム内の格子酸素のイオンが反応の媒体として作用していることを明らかにしました(図4)。これまでよく知られている光触媒反応である水の分解や二酸化炭素還元などの人工光合成反応では、反応の媒体として水素イオンが使われていましたが、本研究の光触媒反応は格子酸素イオンを媒体とする新しい反応で、様々な気相反応への展開が期待できます。

光触媒によるドライリフォーミングの反応機構

図4. 光触媒によるドライリフォーミングの反応機構


(a)→(b) 光照射によってチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)に生じた電子と正孔のうち、電子がロジウム(Rh)へ注入される。
(b)→(c) ロジウムへ注入された電子と二酸化炭素分子が反応し、一酸化炭素と酸素イオンを生成する。酸素イオンはチタン酸ストロンチウムの格子に入る。
(c)→(d) チタン酸ストロンチウムにある酸素イオン、光励起した正孔、そして、メタンが反応して水素と一酸化炭素を生成する。

今後の展開

本研究では光触媒として紫外線応答型のチタン酸ストロンチウムを使っていますが、実用化に向けては太陽光の主成分をなす可視光の利用が重要です。一方で、本研究では酸素イオンが媒体となるエネルギー製造型反応の機構を初めて見出し、今後この新しい反応機構をもとに、可視光を吸収できる光触媒材料に展開することも可能です。本研究成果が天然ガスやシェールガスの有効利用につながるとともに、温室効果ガス低減に貢献できると期待されます。また、低温で合成ガスを製造することができるため、既往の工業的手法と組み合わせることでガソリン製造などの施設の大幅な簡略化と効率化が望めます。

用語説明

[用語1] ドライリフォーミング : メタン改質反応のひとつ。反応式はCH4+CO2=2H2+2COであらわされる。天然ガスの主成分であると同時に主要な温室効果ガスでもあるメタンと二酸化炭素を化学原料に転換することができるため、天然ガス有効利用と地球温暖化抑止の観点から注目されている。

[用語2] ロジウムとチタン酸ストロンチウム : ロジウムは原子番号45の元素。元素記号はRhであらわされる。チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)はストロンチウムとチタンの複合酸化物で、ペロブスカイト型の結晶構造をとる。

[用語3] シェールガス : 粘板岩層(シェール)の隙間に貯留された、メタンやエタンを主成分とする化石燃料のひとつ。存在自体は古くから知られていたが、この10年、技術の進歩により、特に北米を中心として、商業ベースでの採掘が可能になった。

[用語4] 光触媒 : 光を吸収し触媒作用を示す物質の総称。酸化チタンが代表的な光触媒として知られている。

[用語5] 化学量論的 : 化学式通りの反応物量と生成物量を示す状態。ドライリフォーミングであれば、反応物と生成物の比が1:2になる場合に化学量論的に反応が進行したといえる。

[用語6] 電子スピン共鳴法 : 不対電子を持つイオン、ラジカルなどの検出が可能な実験手法。光触媒の中の電子や正孔など、多くの情報を得ることができる。

[用語7] 同位体 : 同一の原子番号で質量数が異なる物質。酸素の場合、質量数が16、17、18の同位体があり、地球上の99.8 %の酸素の質量数は16である。本研究では質量数18の酸素を触媒の中に導入し、質量分析装置を使ってその反応過程を追跡した。

論文情報

掲載誌 :
Nature Catalysis
論文タイトル :
Photocatalytic uphill conversion of natural gas beyond the limitation of thermal reaction systems
著者 :
Shusaku Shoji, Xiaobo Peng, Akira Yamaguchi, Ryo Watanabe, Choji Fukuhara, Yohei Cho, Tomokazu Yamamoto, Syo Matsumura, Min-Wen Yu, Satoshi Ishii, Takeshi Fujita*, Hideki Abe*, Masahiro Miyauchi*
DOI :
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教授 宮内雅浩

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