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脱コロナ禍研究プロジェクトを発足

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東京工業大学科学技術創成研究院は6月5日、新型コロナウイルス感染症に起因する社会課題の解決を目指して、脱コロナ禍研究プロジェクトを発足させました。すでに「1個体、1分、1ドルで判定可能な診断装置」「低温プラズマによるウイルス不活化」「複数の会話の輪が存在できるビデオ会議サービス」など18の研究テーマに取り組んでいます。東工大の幅広い科学・技術の研究者が力を合わせ、新型コロナウイルスがもたらす前例のない危機の解決に向けて挑戦しています。

脱コロナ禍研究プロジェクトを発足

各国の主要都市を次々とロックダウンに追い込み、人類の生命を脅かす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が引き起こした感染症(COVID-19)による様々な社会的危機に、科学・技術でどのように対抗していくかは、まさに大学が取り組むべき喫緊の研究対象といえます。コロナ禍により生じた社会課題を解決するためには、焦眉の急となっているワクチンや治療薬の開発だけでなく、医療デバイスや将来予測、働き方、ニュー・ノーマル(新しい日常)への理解など様々な分野が対応する必要があり、科学・技術と人文・社会科学双方の力が求められています。さらに、「課題の本質」を考えることも極めて重要です。

そこで、科学技術創成研究院はCOVID-19に係る課題を取り上げた「脱コロナ禍研究プロジェクト」を発足させました。このプロジェクトには、18の研究テーマが含まれ、現在は、これらの研究テーマについて、テーマ間連携の模索、外部資金の獲得、企業との共同研究の発足・強化などの検討を進めています。また、新たな研究テーマの提案も並行して受け付けています。 18の研究テーマは「検査・抗ウイルス薬/ワクチン」「ウイルス除去・不活化」といったウイルスそのものを扱う分野から治療に役立つ「医療デバイス」、さらに「働き方改革」や「将来予測」といった今後の社会の姿を探る分野まで、多岐にわたっています。東工大ならではの異分野融合の取組が効果を上げると期待されます。

科学技術創成研究院では、今回の脱コロナ禍研究プロジェクトを実施モデルとして、今後、1年単位の短期集中、または、基礎研究に立脚した3年程度の中期的視点で、さまざまな社会課題に即応した研究を迅速に実施していく仕組みとして「社会課題即応研究機構(仮称)」を整備し、社会に求められる研究を推進していく計画です。

脱コロナ禍研究プロジェクトを発足

脱コロナ禍研究プロジェクトの主な研究テーマ

検査・抗ウイルス薬/ワクチン

  • 化学修飾型蛍光免疫センサー
  • 1個体、1分、1ドルで判定可能なSARS-CoV-2診断装置
  • MRI・NMRプローブによる生体検出法
  • SARS-CoV-2由来生理活性蛋白質阻害剤
  • SARS-CoV-2に対するイノベーティブRT-PCR検査法

ウイルス除去・不活化

  • 低温プラズマによるコロナウイルスの高速・非接触不活化
  • 高度構造を制御した多孔質カーボン材料と有害物質除去剤への応用
  • 高衛生DLCコーティングの検討
  • ボロフェンを利用した抗ウイルス性素材

医療デバイス

  • ECMO用磁気浮上式遠心血液ポンプとその多機能化
  • フレキシブル近赤外イメージセンサー

働き方改革

  • 複数の会話の輪が存在可能なビデオ会議サービス
  • テレワークの環境改善に資する技術

将来予測

  • コロナ感染拡散における社会・経済現象の観測とモデルによる将来予測

ニュー・ノーマル

  • ポストコロナ社会における人間のあり方と利他

お問い合わせ先

脱コロナ禍研究プロジェクト

E-mail : covid-19research@iir.titech.ac.jp


ニッケルを使った高性能アンモニア合成触媒を開発 貴金属を使わない新コンセプトによる触媒技術

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要点

  • 単独では活性を示さないニッケル(Ni)と窒化ランタン(LaN)を用いた高効率アンモニア合成に成功
  • ルテニウムなどの貴金属を使わずに高いアンモニア合成活性を実現
  • LaN表面の窒素空孔を反応場として利用する新コンセプトを実証

概要

東京工業大学 元素戦略研究センターの細野秀雄栄誉教授、同センターの叶天南(Tian-Nan Ye)特任助教、北野政明准教授らは、単独では活性を示さないニッケル(Ni)と窒化ランタン(LaN)を組み合わせることで、ルテニウムなどの貴金属触媒に匹敵する優れたアンモニア合成触媒を実現した。

これまでのアンモニア合成触媒は、高温・高圧下での合成には鉄が、温和な条件ではルテニウムが使われている。いずれの金属も窒素と強く結合するので、金属上で反応が生じていた。一方、窒素との結合がきわめて弱いニッケルは、窒素分子を活性化できないことからこれまで使用されてこなかった。本研究では、水素分子の活性化をニッケル上で、また窒素分子の活性化をLaN上の窒素空孔[用語1]でそれぞれ行うことで、きわめて高いアンモニア合成活性を実現した。これは、窒素空孔という新たな反応場を利用することで、単独では活性を示さない金属を用いて優れたアンモニア合成が実現できることを示し、従来の常識を覆す研究成果である。

近年開発された、温和な条件下で高いアンモニア合成活性を示す触媒は、いずれも貴金属であるルテニウムの担持が必要であった。本研究の成果は、希少で高価なルテニウムを用いない新触媒技術として重要であり、アンモニア合成プロセスの新たな可能性に繋がるものである。

研究成果は英国科学誌「Nature」に7月16日付(日本時間)でオンライン公開された。

ニッケルを使った高性能アンモニア合成触媒を開発

研究の背景と経緯

人工的にアンモニアを合成する技術「ハーバー・ボッシュ法(HB法)」は、1912年にハーバーとボッシュによって確立され、現在でも人類の生活を支えるのに必要不可欠な技術である。またアンモニア分子は、分解すると多量の水素を発生させ、かつ室温・10気圧で液体になることから、燃料電池などのエネルギー源である水素を運搬する物質として水素社会を支えることも期待されている。

一方で、HB法には高温(400~500 ℃)、高圧(100~300気圧)の条件が必要であるため、より温和な条件下でのアンモニア合成技術が求められている。そうした条件下で働く触媒としてこれまで、ルテニウム触媒の開発が盛んに行われてきた。しかしルテニウムは貴金属であることから、より豊富に存在する金属を利用し、温和な条件下で作動する触媒の開発が望まれている。一方、金属種がアンモニア合成に対して活性を示すには、その表面で窒素と強く結合することが必須であると考えられてきたため、窒素との結合力が弱いニッケルを使用することはこれまでほとんど検討されてこなかった。

研究の内容

本研究では、そうした温和な条件下で働く、貴金属を使わない触媒として、LaN上にニッケル(Ni)ナノ粒子を固定化した触媒(Ni/LaN)を考案した(図1)。この触媒上での反応を、同位体[用語2]ガスを使った実験と計算科学により実証したところ、ユニークな反応メカニズムを持つことが明らかになった。この触媒では、水素分子を解離する能力が高いNi上で水素原子が生成され、その水素原子がLaN表面の窒素種と反応することで、アンモニア(NH3)が生成される。この反応を詳しくみると、まずLaN表面に窒素空孔が形成される。この空孔に窒素分子が取り込まれることで窒素分子が活性化され、そこにNi上で生成した水素原子が反応する。これにより、強固なN-Nの結合が切断され、N-H結合が形成されて、最終的にアンモニアが生成される。このプロセスでは、LaN表面の窒素は、気相の窒素が空孔に入ることで再生されるため、反応が持続して進行する。

図1. 従来の触媒(左)と開発した触媒Ni/LaN(右)上でのアンモニア合成の反応メカニズム。VNはLaN上に形成される窒素空孔であり、赤の矢印が律速段階の反応過程。N2の解離は金属表面ではなく、LaN表面の窒素空孔で起こる。

図1.
従来の触媒(左)と開発した触媒Ni/LaN(右)上でのアンモニア合成の反応メカニズム。VNはLaN上に形成される窒素空孔であり、赤の矢印が律速段階の反応過程。N2の解離は金属表面ではなく、LaN表面の窒素空孔で起こる。

従来のルテニウムなどの触媒上では、窒素および水素分子が、活性金属種であるルテニウム表面上でのみ活性化され、強固な3重結合を持つ窒素分子の解離が律速段階[用語3]であることが知られている(図1)。一方、今回開発したNi/LaNでは上述した反応メカニズムにより、窒素分子が金属上ではなくLaN上の窒素空孔で活性化され、同時にNiからの水素により水素化されることがわかった。このために全体の活性化エネルギー[用語4]が小さくなる。律速段階も、窒素分子の解離ではなく、LaN表面の窒素種の水素化であることが明らかになった。

このNi/LaNの触媒のアンモニア合成活性を、さまざまなNi触媒と比較した(図2)。LaNやニッケルナノ粒子(Ni NPs)単独では触媒活性を示さず、触媒の担体として通常用いられる酸化マグネシウム(MgO)などの酸化物上にニッケルナノ粒子を担持した場合も、全く活性を示さなかった。さらに、高い電子供与性をもつC12A7エレクトライドにニッケルナノ粒子を担持した触媒(Ni/C12A7:e-)でさえも活性を示さなかった。一方、Ni/LaN触媒はきわめて高いアンモニア合成活性を示し、活性化エネルギーも約60 kJ mol-1であり、これまで報告してきたルテニウム担持エレクトライド系触媒と同等であることがわかった。さらに、高比表面積を有するLaNナノ粒子にNiを担持した触媒(Ni/LaN NPs)では、活性が2倍以上に向上することがわかった。

図2. Niを固定したLaNのアンモニア合成活性と他の触媒との比較(反応温度:400 ℃、圧力:1気圧(青)、9気圧(赤))

図2. Niを固定したLaNのアンモニア合成活性と他の触媒との比較(反応温度:400 ℃、圧力:1気圧(青)、9気圧(赤))

さらに、このNi/LaN触媒のアンモニア生成速度の時間変化を調べたところ、長時間にわたって安定した触媒活性を示すことも明らかになった(図3)。これは、上述した反応メカニズムによって、LaN結晶表面の格子窒素の消費と再生を繰り返しながら反応を進行させるためである。

図3. Ni固定化LaN触媒によるアンモニア合成の安定性(反応温度:400 ℃、圧力:1気圧)

図3. Ni固定化LaN触媒によるアンモニア合成の安定性(反応温度:400 ℃、圧力:1気圧)

今後の展開

今回の研究は、金属表面ではなく、窒素空孔という新たな反応場を利用することで、単独では活性を示さない金属種でもアンモニア合成の優れた触媒となるという、新たなコンセプトを提示したものである。これによって、温和な条件下で作動する、貴金属を使わないアンモニア合成触媒の開発の方向性が示されたといえる。今後は、このコンセプトをさらに発展させ、より優れた触媒の開発や他の触媒反応への展開を目指す。

用語説明

[用語1] 窒素空孔 : 窒化ランタン(LaN)はLa3+とN3-から形成されており、N3-が部分的に抜けた空きサイトを窒素空孔と呼ぶ。空孔ができると、電荷を補償するために電子が捕捉される。

[用語2] 同位体 : 原子番号が同じで、重さ(質量数)だけが異なる原子のことで、化学的性質は同等である。

[用語3] 律速段階 : 化学反応において最も遅い反応段階であり、この反応速度が全体の化学反応の速度を支配している。

[用語4] 活性化エネルギー : 反応の出発物質の基底状態から遷移状態に励起するのに必要なエネルギーのことであり、このエネルギーが小さいほど、その反応は容易になる。反応中に触媒が存在することで、活性化エネルギーを下げることが可能である。

付記

今回の研究成果は、文部科学省元素戦略プロジェクト<拠点形成型>(No.JPMXP0112101001)、科学研究費助成事業(No.17H06153、JP19H05051、JP19H02512)、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(No.JPMJPR18T6)、日本学術振興会 海外特別研究員(No.P18361)の支援によって実施された。

論文情報

掲載誌 :
Nature
論文タイトル :
Vacancy-enabled N2 activation for ammonia synthesis on an Ni-loaded catalyst
(担持ニッケル触媒上でのアンモニア合成における空孔による窒素分子の活性化)
著者 :
Tian-Nan Ye, Sang-Won Park, Yangfan Lu, Jiang Li, Masato Sasase, Masaaki Kitano, Tomofumi Tada, Hideo Hosono (所属はすべて東工大元素戦略研究センター)
DOI :

お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 元素戦略研究センター

栄誉教授 細野秀雄

E-mail : hosono@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5009

東京工業大学 元素戦略研究センター

准教授 北野政明

E-mail : kitano.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5191 / Fax : 045-924-5191

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大舞踏研究部が国公立戦で団体3位入賞

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東京工業大学舞踏研究部が、2月2日に千葉大学西千葉キャンパスで開催された第108回冬の国公立大学学生競技ダンス選手権大会(東部日本学生競技ダンス連盟主催)団体の部で、15校中3位に入賞しました。

個人の部においては、同部から出場した44組のうち12組が入賞し、そのうち7組が決勝に進出しました。

競技ダンスとは

男女がペアになって踊る社交ダンスとほぼ同じものですが、社交ダンスが社交を目的としているダンスであるのに対し、競技ダンスは競技会で技術や表現を競うことを目的としています。

学生の競技ダンスには、大きく3つの部門があり、全部で9種目のダンスがあります。

  • スタンダード
    男女が組んで踊ります。
    ワルツ/タンゴ/スローフォックストロット/クイックステップ
  • ラテンアメリカン
    基本的に男女が離れて踊ります。
    チャチャチャ/サンバ/ルンバ/パソドブレ
  • フォーメーション
    4~8組が2~4種目のメドレーで隊列を構成しながら踊ります。
    ※今回の国公立大会では開催されません。

東工大 舞踏研究部について

東京工業大学舞踏研究部は、学生競技ダンス連盟に所属している大学公認のサークルです。共同加盟校である白百合女子大学と杉野服飾大学と共に活動しています。部員数は、東工大生:19人 白百合女子大生:13人 杉野服飾大生:6人(2020年2月現在)です。

競技会にむけて日々練習に励んでいます。

今大会の入賞者

今回の国公立大学選手権の東工大チームの入賞者を紹介します。

(写真提供/百川美沙)

スタンダード

田中駿介さん、伊東美結さん
田中駿介さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)・伊東美結さん(白百合女子大学)組
ワルツ 2~3年生の部 第5位
タンゴ 2~3年生の部 第2位
スローフォックストロット 2~3年生の部 第7位
クィックステップ 2~3年生の部 第7位

渡辺晴紀さん、松本奈々花さん
渡辺晴紀さん(物質理工学院 材料工学系 学士課程2年)・松本奈々花さん(杉野服飾大学) 組
ワルツ 2~3年生の部 第7位
タンゴ 2~3年生の部 第13位
スローフォックストロット 2~3年生の部 第11位
クィックステップ 2~3年生の部 第12位

一ノ瀬航平さん、増川理恵さん
一ノ瀬航平さん(環境社会理工学院 学士課程1年)・増川理恵さん(情報理工学院 数理・計算科学系3年)組
タンゴ1年生の部 優勝

小川希海さん、児玉愛梨さん
小川希海さん(理学院 学士課程1年)・児玉愛梨さん(白百合女子大学)
タンゴ1年生の部 3位入賞

荻野新さん、鈴木瑶子さん
荻野新さん(物質理工学院 学士課程1年)・鈴木瑶子さん(白百合女子大学)組
タンゴ1年生の部 6位入賞

Raphaelo mondragonさん、河内春香さん
Raphaelo mondragonさん(艦橋・社会理工学院 融合理工学系 学士課程2年)・河内春香さん(白百合女子大学)組
タンゴ1年生の部 10位入賞

一ノ瀬航平さん、Tsumbuukhuuさん
一ノ瀬航平さん(環境・社会理工学院 学士課程1年)・Tsumbuukhuuさん
(環境・社会理工学院 融合理工学系 学士課程3年)組
スローフォックストロット1年生の部 3位入賞

小川希海さん、山口莉奈さん
小川希海さん(理学院 学士課程1年)・山口莉奈さん(白百合女子大学)組
スローフォックストロット1年生の部 6位入賞

荻野新さん、木村千春さん
荻野新さん(物質理工学院 学士課程1年)・木村千春さん(白百合女子大学)組
スローフォックストロット1年生の部 6位入賞

ラテンアメリカン

鈴木海堂さん、櫻井咲季さん
鈴木海堂さん(理学院 物理学系 学士課程3年)・櫻井咲季さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)組
サンバ2~3年生の部 9位
パソドブレ2~3年生の部 9位

杉村峻也さん、阿尻向日葵さん
杉村峻也さん(理学院 地球惑星科学系 学士課程3年)・阿尻向日葵さん(白百合女子大学)組
ルンバ2~3年生の部 9位

小川希海さん、木村知春さん
小川希海さん(理学院 学士課程1年)・木村知春さん(白百合女子大学)組
サンバ1年生の部 7位入賞

代表 櫻井咲季さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)からのコメント

2020年最初の公式戦である今大会では、団体3位になることができました。昨年の国公立戦からの連覇を目標としておりましたので、悔しい気持ちはありますが、ライバル校が多い中、全員で3位を勝ち取れたことを非常に嬉しく思います。

競技ダンスの大会は、1組のカップルごとに順位が競われますが、団体成績を競い合うことが学生競技ダンスの醍醐味です。部の活動では、個人が技術の向上に努める傍ら、上級下級問わず部全体としてレベルアップすることを目的としています。そのためには、自身やペアの人と向き合うことだけでなく、周りにいる部員と向き合うことの両方が大切です。

自分とも周りとも向き合うということは、部活動だけでなく大学の研究室などでの学びでも必要であると考えています。部員全員が、ダンス以外でもより良い経験を積むことができるような部を築くために、これからも部員一同頑張って参ります。

東工大基金

舞踏研究部の活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

電子を抜くと透明な超伝導体になる物質を発見 世界初のp型透明超伝導体を実現

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要点

  • ヨウ素溶液の酸化作用で電子を抜きとった層状ニオブ酸リチウム薄膜を合成
  • 超伝導を示すこの物質が常温で高いp型伝導性と透明性を併せ持つことを発見
  • 二次元物質の新たな物理現象や機能の開拓に貢献

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の相馬拓人助教と大友明教授は、東北大学 多元物質科学研究所の吉松公平講師と共同で、低温で超伝導体[用語1]になる層状ニオブ酸リチウム(LiNbO2[用語2]が常温では優れたp型透明導電体[用語3]になることを発見した。

三段階合成法[用語4]を開発することにより、超伝導を示す層状ニオブ酸リチウムのエピタキシャル薄膜[用語5]を合成した。基板上に保持された薄膜状の物質をヨウ素溶液[用語6]に浸し、その酸化作用を利用して電子を抜きとると、高いp型伝導性と透明性が同時に発現することを見出した。

その理由はニオブ原子と酸素原子がつくる特殊な電子状態にあった。ヨウ素溶液を利用した酸化反応により、この電子状態をうまく調節した結果、世界初のp型透明超伝導体の実現につながった。この発見は新しい電子材料として様々な応用につながるだけでなく、二次元物質の新たな物理現象を開拓することにもつながる。

研究成果は米国の科学誌サイエンス(Science)の姉妹紙のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」で7月16日(日本時間)に公開された。

図1. 層状ニオブ酸リチウム(イメージ図)。ニオブ原子と酸素原子がつくる二次元層に起因して、超伝導体にもかかわらず高い可視光透明性を示す。

図1.
層状ニオブ酸リチウム(イメージ図)。ニオブ原子と酸素原子がつくる二次元層に起因して、超伝導体にもかかわらず高い可視光透明性を示す。

背景

「透明導電体」は透明性と電気伝導性を併せ持つ物質である。ガラスに代表されるように、透明な物質は基本的に電気を流さない絶縁体だ。しかし、ある種の材料では電気が流れることが知られており、酸化インジウムスズ(ITO)などが実用化されている。しかしながら、実用水準の材料はすべて電子が流れるn型であり、n型とペアになって多様な電子回路を構成しうるp型透明導電体は、n型に比べて性能が低く、まだ研究開発の段階に留まっている。

「超伝導体」は電気抵抗がゼロになる究極の電気伝導性を持つ物質である。核磁気共鳴画像法(MRI)や超伝導リニアで実用化されている超伝導体は常温で金属であり、不透明な物質である。そのため、これまでp型透明超伝導体は見つかっていなかった。

大友教授らの研究グループは、p型透明超伝導体の候補としてニオブ酸リチウム(LiNbO2)に着目した。この物質は30年前から超伝導体であることが知られていた。しかし、通常の手法では薄膜合成が困難であることから、透明性の詳しい性質まではわかっていなかった。

研究成果

同研究グループは三段階合成法を開発し、超伝導薄膜の合成に世界で初めて成功した(図2左)。最終段階であるStep 3ではヨウ素溶液に薄膜を浸すだけで電子を引き抜くことができる化学反応を利用した。ヨウ素溶液は薄めてうがい薬などにも使われているが、その殺菌消毒効果は物質から電子を奪う酸化反応そのものである。古くから知られるその効果と現代化学を融合することで、簡便でかつ精密な合成法の確立に成功した。

図2. 三段階合成法の詳細と作製した薄膜の写真(左)。各段階の透過スペクトル(右)。直接合成が不可能であった単結晶の層状ニオブ酸リチウムがStep 2で赤褐色の試料として得られる。ヨウ素溶液に浸し、電子とリチウムイオンを一部抜いたStep 3では可視光の平均透過率が50 %まで上昇する(基板の寄与を考慮すると77 %)。

図2.
三段階合成法の詳細と作製した薄膜の写真(左)。各段階の透過スペクトル(右)。直接合成が不可能であった単結晶の層状ニオブ酸リチウムがStep 2で赤褐色の試料として得られる。ヨウ素溶液に浸し、電子とリチウムイオンを一部抜いたStep 3では可視光の平均透過率が50 %まで上昇する(基板の寄与を考慮すると77 %)。

合成した薄膜の電気抵抗を測定すると、これまでに知られていた通り4.2ケルビン(マイナス269 ℃)以下の極低温で電気抵抗がゼロになり、超伝導体であることを確認した。一方で、ヨウ素溶液から取り出した薄膜は赤色から黄色へと劇的に変化しており、可視光の平均透過率が50 %に達する高い透明性を示した(図2右)。従来のp型酸化物透明導電体と常温における性能を比較すると、電気伝導性と透明性がともに優れていることが明らかになった(図3)。ヨウ素溶液に浸して電気伝導性を上げると透明度も向上するという、従来の物質とは対照的な結果が得られた。

図3. 常温における様々なp型酸化物透明導電体の性能。右上に行くほど性能が優れている。電気伝導性と透明性は相反する性能であり、従来の物質では電気伝導率を高めようとすると透明性が下がってしまう(オレンジ色の矢印)。それとは対照的に、LiNbO2ではホールを増やして(抜く電子を増やして)電気伝導率を上げると透明性も上がる、という正の相関がある(緑色の矢印)。

図3.
常温における様々なp型酸化物透明導電体の性能。右上に行くほど性能が優れている。電気伝導性と透明性は相反する性能であり、従来の物質では電気伝導率を高めようとすると透明性が下がってしまう(オレンジ色の矢印)。それとは対照的に、LiNbO2ではホールを増やして(抜く電子を増やして)電気伝導率を上げると透明性も上がる、という正の相関がある(緑色の矢印)。

同研究グループは詳細な物性測定と解析を行うことにより、物質内でニオブ原子と酸素原子が作る三角柱型の二次元層が重要な役割を果たしていることを見出した。この特殊な構造により、強相関電子[用語7]と孤立したバンド構造[用語8]というユニークな特徴が実現されていた。

これらの電子状態が協奏することで、近赤外と紫外領域の両方で高い透明性が実現されていた。さらに、ヨウ素溶液の酸化作用を用いて、それらの特徴をほどよく調整した結果、超伝導を発現しつつ可視光領域の透明性を向上できることが明らかになった(図4)。

図4. p型透明導電性の起源。三角柱型の二次元層に起因して強相関電子と孤立バンド構造が実現される。それぞれが近赤外領域と紫外領域のスペクトルを形づくる。透明な領域が可視光領域と重なることで高い透明性につながる。

図4.
p型透明導電性の起源。三角柱型の二次元層に起因して強相関電子と孤立バンド構造が実現される。それぞれが近赤外領域と紫外領域のスペクトルを形づくる。透明な領域が可視光領域と重なることで高い透明性につながる。

研究の経緯

グラフェン(2010年ノーベル物理学賞)の発見に始まり、二次元物質[用語9]の研究が近年注目を集めている。三角柱型の二次元層構造をとる二硫化モリブデンに代表される遷移金属ダイカルコゲナイドと呼ばれる物質群も二次元物質であり、現在、世界中で研究が加速している。一方で、本研究で着目したLiNbO2は、層状銅酸化物における高温超伝導の発見(1987年ノーベル物理学賞)に続いて、1990年に新しい層状酸化物超伝導体の一つとして見つかった。しかし、簡便な薄膜合成法がなかったため、これまでほとんど注目されてこなかった。同研究グループは、LiNbO2が二硫化モリブデンと同様に三角柱型の二次元層からなる酸化物であることに注目し、本研究を開始した。

ところが、当初は試行錯誤の連続だった。高温での直接合成の場合は、LiNbO2とは別の組成の結晶ができてしまった。そこで常温で組成を調整してから高温で結晶化するアイデアでこの問題を解決した。高温で結晶化する際に水素ガスを用いてニオブ原子を一度還元するが、超伝導体にするためには層状ニオブ酸リチウムの構造を保ちつつ再び酸化する必要があった。

そこで同研究グループは古くから知られるヨウ素溶液の酸化作用に着目した。ヨウ素溶液はうがい薬や外科手術の殺菌・消毒剤として利用されている。我が国におけるヨウ素の製造は幕末の西洋医学所に端を発し、明治期に入って本格的に始まった。我が国有数の製薬会社がまだ黎明期だった頃の経営者たちが工業化に関わった。東京工業大学出身の白川英樹博士は、ヨウ素を利用してポリアセチレンから電子を抜きとり、電気を流すプラスチックの合成に初めて成功した(2000年ノーベル化学賞)。

同研究グループが培ってきた薄膜合成技術を用いて、ともに古くから知られているLiNbO2とヨウ素溶液の酸化作用を組み合わせたことが今回のブレークスルーにつながった。

今後の展開

研究の成果はp型透明超伝導体の発見や新しい薄膜合成法の開発だけに留まらない。図3に示すように常温におけるp型伝導性と透明性を同時に高められる利点を明らかにしている。今後さらなる性能の向上が期待される。また図4に示すように高い透明性の起源を解明している。物質科学の視点では、このことを基軸に捉えた材料設計指針の検討がすでに始まっており、さらなる高性能化や新機能の開拓につながることが期待される。さらに、安価で環境に無害な酸化物で実用材料を開発することは、元素戦略の観点で社会貢献につながる。

用語説明

[用語1] 超伝導体 : 冷却したときに、電気抵抗が急激にゼロになる物質。MRIや超伝導リニアだけでなく、電子回路に応用することで高性能化や省エネルギー化が期待されている。

[用語2] 層状ニオブ酸リチウム : LiNbO2ならびにLi1−xNbO2。Nb原子とO原子からなる二次元層の層間に位置するLi+イオンが抜けることで、同量の電子eも抜きとられる(LiNbO2 → Li1−xNbO2 + xLi+ + xe)。

[用語3] p型透明導電体 : p型伝導性を示し、可視光に対して透明な物質。電気を流す導電体には電子が流れるn型とホール(電子が抜けた穴)が流れるp型の2種類があり、電子回路に広く応用するには両方が必要。多くの透明導電体は、電子を抜いてしまうと化学結合が不安定になる傾向があるためp型の種類が圧倒的に少ない。

[用語4] 三段階合成法 : 真空・常温下でNbとLiを同量に調整した非晶質の薄膜を作製(Li−Nb−O、Step 1)し、その薄膜を水素ガス中高温下で結晶化させたら(LiNbO2、Step 2)、最後にヨウ素溶液に浸してLiを引き抜きながら望みの結晶性薄膜(Li1−xNbO2、Step 3)を得る合成手法。

[用語5] エピタキシャル薄膜 : 単結晶基板上に結晶軸の方位が揃うように成長した薄膜のこと。結晶性が良いため物質本来の性質を調べるのに適している。

[用語6] ヨウ素溶液 : ヨウ素を有機溶媒に溶かした溶液。本研究では溶媒にアセトニトリルを用いた。殺菌消毒剤であるヨードチンキやうがい薬もヨウ素溶液。物質から電子を奪う酸化反応(I2 + 2e → 2I)を利用して殺菌する。

[用語7] 強相関電子 : 各々が自由に振舞う電子とは異なり、互いに強く相互作用し合う電子のこと。

[用語8] バンド構造 : 電子のエネルギー準位がとる帯状(バンド)の構造。物質を構成する原子や結晶構造に由来して変わり、電子のふるまいを決定付ける電子状態を表している。

[用語9] 二次元物質 : グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドなど二次元的な構造や電子状態を有する物質。二次元性に起因した性質を示すため近年注目されている。

謝辞

本研究は、以下の研究課題の支援によって行われました。
文部科学省 元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>電子材料領域
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)、特別研究員奨励費、基盤研究(B)、若手研究

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
p-Type transparent superconductivity in a layered oxide (層状酸化物におけるp型透明超伝導)
著者 :
Takuto Soma, Kohei Yoshimatsu, and Akira Ohtomo
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

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東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

東京工業大学 元素戦略研究センター (兼務)

教授 大友明

E-mail : aohtomo@apc.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2145

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

助教 相馬拓人

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Tel : 03-5734-2153

東北大学 多元物質科学研究所

講師 吉松公平

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Tel : 022-217-5801

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東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室 (担当:伊藤)

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Tel : 022-217-5198

齋藤憲司教授が日本学生相談学会の2019年度学会賞を受賞

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日本学生相談学会は2019年度の学会賞を東京工業大学保健管理センターの齋藤憲司教授に授与すると発表しました。5月17日、オンライン開催された日本学生相談学会第38回大会総会で決定しました。学会賞は学会の発展・質の向上に顕著な功績を残した会員に授与されます。

日本学生相談学会によると、同学会は、全国の大学及びその他の高等教育機関の学生相談機関等に所属しているカウンセラー、アドバイザー、教職員など、学生の援助活動を行っている実践者・研究者の学会です。前身である学生相談研究会は1955年に結成され、1987年、日本学生相談学会が設立され、学術研究団体として認定されました。

齋藤教授が所属する保健管理センターは、医師、カウンセラー、保健師、看護師、薬剤師の専門職が学生・教職員の健康サポートを行っています。齋藤教授は、カウンセラーとして学生・教職員のこころの相談・カウンセリングを行うことに加えて、学生の講義や教職員への研修を通してこころの健康についてレクチャーしています。

齋藤憲司教授の受賞コメント

齋藤憲司教授

この度、日本学生相談学会より学会賞を受賞しましたことを本欄にて報告させていただくことは、喜びとともに少々気恥ずかしさを伴うものでもあります。理工系の各専門領域において世界に誇る研究成果を産出してこられた先生方の受賞記事に並ぶのはなんとも恐縮なのですが、カウンセラーとして、教員かつ研究者として貢献しようとしてきた一端を記させていただければと思います。
日本学生相談学会は心理学領域の研究を推進する学術団体であるとともに、大学等の高等教育機関においてカウンセリングや学生支援に従事する教職員の力量向上と相互支援という職能的な側面も有しており、個人会員約1,400名、機関会員約300団体を数える学会です。私は事務局長2期6年・理事長代行2回・理事長2期6年と昨年度まで計12年にわたって本学会の運営に従事し、我が国の学生相談の研究と実践を統括する立場にありました。それは必然的に「東工大の学生相談・学生支援」を1つのモデルとして全国に提示していく側面を有していたと言って良いかと思います。受賞理由として「教職員とカウンセラーが連携と恊働によって実現する新たな学生相談モデルの構築」と示されています。すなわち、学生の皆さんを支え育てていくために個別の相談対応の集積と、そこから紡ぎ出される数々の施策・活動をTeam東工大として形成してきたことが評価されたことになります。「学生相談・学生支援においてもトップクラス」の東工大を目指して、構成員の皆さまとともに努力を重ねてきたことが実を結びつつあるのだとすれば、何よりも嬉しいことと感じられてきます。
受賞理由には「著作や講演を通して後進の育成に貢献」とも記されています。この春に、学生の皆さんに向けた書籍※1と教職員の方々に向けた書籍※2を出版し、さらに本賞の受賞が続いて、何か区切りが着いたような気持ちになりがちなのですが、「臨床—研究—教育—社会貢献」というサイクルを描く学生支援における「東工大スタイルの確立」をさらに進め、まさに今、新型コロナウイルス感染症の影響で苦労を重ねている学生・教職員の皆様をサポートしていくべく、さらなる相談・支援活動を検討・展開していかなくてはと念じています。

※1
『大学生のストレスマネジメント—自助の力と援助の力—』齋藤憲司・石垣琢麿・高野明(著)有斐閣 2020.4.10刊
※2
『学生相談ハンドブック:新訂版』日本学生相談学会(編)・齋藤憲司・高石恭子・早坂浩志・高野明(編集幹事)学苑社 2020.5.10刊

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テレビ東京「出没!アド街ック天国」に東工大が登場

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7月25日(土)放送予定のテレビ東京「出没!アド街ック天国 ~大岡山~」に、東京工業大学が登場します。

「出没!アド街ック天国 ~大岡山~」に、東京工業大学が登場

「出没!アド街ック天国」は、街を徹底的に紹介する“地域密着系都市型エンターテインメント!”として、お馴染みの街から「えっ、こんな街あったの?」という意外な街まで、あらゆる街に出没する情報バラエティ番組です。

今回は「大岡山」の特集の中で、東工大の歴史をはじめ、大岡山キャンパス内にある様々なスポット、特徴的な建物や先端の研究が紹介される予定です。撮影は、附属図書館、百年記念館・博物館、環境エネルギーイノベーション棟にて伊原研究室、また地球生命研究所(ELSI)などで行われました。

番組情報

  • 番組名
    テレビ東京「出没!アド街ック天国」
  • テーマ
    大岡山
  • 放送予定日
    2020年7月25日(土)21:00 - 21:54

関連リンク

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中性子で迫る宇宙創成の謎 大強度偏極熱外中性子で、原子核内での対称性の破れの増幅現象に迫る

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要点

  • 原子核が中性子を吸収する反応では粒子と反粒子の対称性の破れが非常に大きく増幅されることがこれまでに示唆されている。しかし、その詳細なメカニズムは完全には解明されていない。
    このメカニズムを調べるためには大強度かつ、スピンの向きが揃った(偏極した)エネルギーが高い中性子(熱外中性子)ビームを原子核に照射する必要があった。
  • J-PARCで開発した偏極装置をJ-PARCの大強度中性子ビームラインに導入し、偏極熱外中性子ビームを原子核に照射したことで、偏極した中性子を吸収した原子核から放出されるガンマ線の放出方向に偏りがあることを世界で初めて発見した。
  • この結果をもとに原子核内における対称性の破れの増幅現象のメカニズムの解明が期待される。この増幅現象は宇宙創成の謎に迫る、未知の物理現象の探索実験にも利用される。また、この結果は、今後の大強度の偏極熱外中性子ビームを用いた物性、工学などの様々な分野の研究を切り拓くものである。

図1. ガンマ線検出器の上流に設置した偏極装置(3Heスピンフィルター)

図1. ガンマ線検出器の上流に設置した偏極装置(3Heスピンフィルター)

概要

東京工業大学 理学院 物理学系の藤岡宏之准教授と谷結以花大学院生、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学(総長松尾清一、以下「名古屋大学」という)大学院理学研究科の山本知樹大学院生、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という)J-PARCセンターの奥平琢也博士研究員らの研究グループは、スピン[用語1] の揃った(偏極した)中性子を原子核が吸収した時に放出するガンマ線を測定したところ、その放出方向に偏りが存在し、その偏りが中性子のスピン方向に依存して変化することを世界で初めて発見しました。

我々の住む宇宙は「物質」がほとんどで、「反物質」はほとんど存在しません。その理由として「CP対称性[用語2]の破れ」が提唱されています。しかし、物質世界を説明できる「CP対称性の破れ」を表す現象はまだ見つかっていません。
素粒子原子核反応では、P対称性[用語3]が破れていることが知られています。原子核が中性子を吸収する反応では、核子同士に働くP対称性の破れよりも100万倍も大きなP対称性の破れが実験的に観測されています。この非常に大きな「P対称性の破れ」は、原子核を構成している核子[用語4]間で働く小さな「P対称性の破れ」が原子核内で非常に大きく増幅された結果であるというモデルがあります。「P対称性の破れ」の増幅現象のメカニズムを明らかにすることで、「CP対称性の破れ」の謎の解明につながることが期待されます。

そこで本研究では、「P対称性の破れ」の増幅現象のメカニズムの検証のために、原子核の偏極中性子吸収反応に伴う、ガンマ線の放出方向の分布を測定する実験を行いました。
中性子の偏極には、J-PARCで開発した偏極装置(3Heスピンフィルター)を用いました。物質・生命科学実験施設(MLF)の中性子ビームライン(BL04、ANNRI)で、偏極熱外中性子ビームを原子核に照射したところ、偏極した中性子を吸収した原子核から放出されるガンマ線の放出方向に偏りがあること、その偏りがスピンの向きによって変化することを世界で初めて発見しました。

この実験で得られたガンマ線の放出方向と、「P対称性の破れ」の増幅現象のメカニズムのモデルが予測する放出方向の偏りを比較することで、モデルの検証を行うことが可能となります。また、モデルの検証結果をもとに、原子核内での対称性の破れの増幅現象のメカニズムが解明されることが期待されます。
今後、「CP対称性の破れ」の増幅現象のメカニズムを解明することで、宇宙創成の謎に迫ることも期待されます。

本成果は、アメリカの物理学会誌「Physical Review C」のオンライン版に6月25日に掲載されました。

研究の背景と目的

私たちの体や地球は「物質」でできており、宇宙を見回してみても、「反物質」でできた星や物体などは今のところ見つかっていません。これは宇宙の初期で粒子と反粒子[用語5]の対称性(CP対称性)が破れて、粒子が多く生成されたことに由来すると考えられています。CP対称性の破れ自体は過去に発見されていますが、「物質」しかない宇宙の創生を説明するようなCP対称性の破れは見つかっておらず、未知の物理現象が存在すると考えられています。そのため、宇宙の粒子と反粒子の非対称性を説明するような未知の物理現象を探索する実験が世界中で行われていますが、現在の物質世界を説明するようなCP対称性の破れの発見には未だ至っていません。

粒子と反粒子の対称性であるCP対称性と密接に関わっている対称性として空間反転対称性(P対称性)があります。素粒子原子核反応ではP対称性が破れていることが知られており、陽子同士の反応では非常に小さいP対称性の破れが観測されています。一方、中性子が139La(ランタン、原子番号57)や131Xe(キセノン、原子番号54)などに吸収される反応では、陽子同士の反応に比べて100万倍大きなP対称性の破れが起きていることが実験的に知られています。この非常に大きなP対称性の破れは、核子同士に働く小さなP対称性の破れが原子核内で非常に大きく増幅された結果であるというモデルが定説となっています。しかし、この増幅現象のメカニズムのモデルは検証が十分でなく、明らかになっていない部分も多く存在します。

このモデルが正しいと仮定すると、もし原子核内にCP対称性の破れが存在していた場合、原子核の中性子吸収反応ではP対称性の破れと同様にCP対称性の破れも非常に大きく増幅されることが理論的に示唆されています。このCP対称性の破れが非常に大きく増幅される現象を利用することにより、感度良く未知のCP対称性の破れを探索する計画が名古屋大学を中心とした研究グループにより進行しています。この未知のCP対称性の破れを探索する実験を行うためには、まず対称性の破れの増幅現象のメカニズムを明らかにしておくことが重要となります。そのためには原子核が偏極中性子を吸収した際に放出されるガンマ線の放出方向の分布を測定し、理論モデルと照らし合わせる必要があります。

そこで本研究では中性子を偏極する装置を開発し、J-PARCで原子核の偏極中性子吸収反応に伴う、ガンマ線の放出方向の分布を測定する実験を行いました。

研究成果

本研究では139Laと呼ばれる原子核に着目しました。139La原子核は0.74 eVの中性子を吸収した際に共鳴状態を形成し、この状態で非常に大きなP対称性の破れが観測されているためです。この反応におけるP対称性およびCP対称性の破れの増幅現象のメカニズムを調べるためには、0.74 eVの運動エネルギーを持つ中性子を偏極させ、139La原子核に照射し、放出されるガンマ線の放出方向の分布を測定する必要があります。

1 eV程度のエネルギーの中性子は熱外中性子と呼ばれ、中性子源からの強度も弱く、熱外中性子を偏極させる技術の開発は今まであまり行われてきませんでした。しかし、近年J-PARCでは、3Heガスを用いて熱外中性子ビームを効率良く偏極する装置(3Heスピンフィルター、図2)を開発しました。

図2. J-PARCで開発に成功した3Heスピンフィルター。特殊なガラス容器の中に3Heとアルカリ金属が封入されている。このガラス容器に近赤外光レーザーを照射し、アルカリ金属のスピンを揃え、アルカリ金属が3He原子核とスピンを交換することにより、3He原子核のスピンを揃えることができる。

図2.
J-PARCで開発に成功した3Heスピンフィルター。特殊なガラス容器の中に3Heとアルカリ金属が封入されている。このガラス容器に近赤外光レーザーを照射し、アルカリ金属のスピンを揃え、アルカリ金属が3He原子核とスピンを交換することにより、3He原子核のスピンを揃えることができる。

本研究では3Heスピンフィルターを中性子ビームラインBL04中性子核反応測定装置 (ANNRI)に設置し(図1、3)、他の技術では偏極が難しい1 eV程度の高いエネルギーの中性子を偏極させることに成功しました。そして、139Laの中性子吸収反応を測定したところ、運動エネルギー0.74 eVの偏極熱外中性子を吸収した際に放出されるガンマ線の放出方向に偏りが存在し、その偏りが中性子スピンの向きによって変化することを世界で初めて発見しました (図4)。
この実験結果と、対称性の破れの増幅現象のメカニズムのモデルが予測する放出方向の偏りを比較することにより、モデルの検証を行うことが可能となります。したがって、この実験結果は原子核内におけるP対称性およびCP対称性の破れの増幅現象のメカニズムの解明のために重要な知見であり、この増幅現象を利用した、未知の粒子・反粒子の対称性の破れを探索する研究計画の進行に必要不可欠な成果です。

図3. ガンマ線検出器の上流に中性子偏極デバイスである3Heスピンフィルターを設置した。3Heスピンフィルターは非常に磁場均一性の良いコイルおよび磁気シールド内部に設置され、コイルがつくる紙面垂直方向の磁場により3He原子核の偏極を保持する。そこに中性子ビームを通すことで中性子を偏極させる。偏極中性子はガンマ線検出器の内部に設置されたLaの金属試料に照射され、139Laの中性子吸収に伴って発生するガンマ線の放出方向の分布を測定する。

図3.
ガンマ線検出器の上流に中性子偏極デバイスである3Heスピンフィルターを設置した。3Heスピンフィルターは非常に磁場均一性の良いコイルおよび磁気シールド内部に設置され、コイルがつくる紙面垂直方向の磁場により3He原子核の偏極を保持する。そこに中性子ビームを通すことで中性子を偏極させる。偏極中性子はガンマ線検出器の内部に設置されたLaの金属試料に照射され、139Laの中性子吸収に伴って発生するガンマ線の放出方向の分布を測定する。

図4. 139Laに0.74eVの偏極熱外中性子を照射し、放出されるガンマ線量をガンマ線検出器で測定した結果。上下方向に設置されているガンマ線検出器(図3)のうち、下方向の検出器のデータを表示している。ピークの中心付近で、スピンの向きが磁場と平行(赤丸)あるいは反平行(青丸)で放出されるガンマ線の量が変わっていることから、ガンマ線放出方向の偏りがスピンの向きによって変化していることがわかる。

図4.
139Laに0.74eVの偏極熱外中性子を照射し、放出されるガンマ線量をガンマ線検出器で測定した結果。上下方向に設置されているガンマ線検出器(図3)のうち、下方向の検出器のデータを表示している。ピークの中心付近で、スピンの向きが磁場と平行(赤丸)あるいは反平行(青丸)で放出されるガンマ線の量が変わっていることから、ガンマ線放出方向の偏りがスピンの向きによって変化していることがわかる。

今後の展望

この結果をもとに原子核内での対称性の破れの増幅現象のメカニズムが解明されることが期待されます。これに並行して、CP対称性の破れ探索計画が進行しており、宇宙創成の謎に迫る、未知の物理現象の発見に期待が高まっています。
今回、J-PARCの大強度偏極熱外中性子で世界初の科学的成果が得られたことで、大きな統計量が必要な素粒子・原子核実験での有用性が示されました。今後、物性、工学などの様々な分野においても偏極熱外中性子を使用した世界初の研究成果が創出されることが期待されます。

本成果はKEK 中性子共同利用S1型実験課題2018S12、科学研究費補助金JP19GS0210、JP17H02889の支援により行われました。

大強度陽子加速器施設 (J-PARC)

日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設。素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学等の学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われている。MLFでは、世界最高強度の中性子ビームなどを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まる。

研究グループ

  • 名古屋大学大学院理学研究科:
    山本知樹(大学院生)、遠藤駿典(大学院生)、清水裕彦(教授)、広田克也(特任准教授)、新實裕大(大学院生)、石崎貢平(大学院生)
  • 名古屋大学 素粒子宇宙起源研究所:
    北口雅暁(准教授)
  • 原子力機構(J-PARC):
    奥平琢也(博士研究員)、奥隆之(研究主幹)、酒井健二(研究主幹)
  • 東京工業大学 理学院:
    谷結以花(大学院生)、藤岡宏之(准教授)
  • 高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所:
    猪野隆(講師)
  • 大阪大学 核物理研究センター:
    吉川大幹(大学院生)、嶋達志(准教授)
  • 原子力機構(原子力基礎工学研究センター):
    遠藤駿典(研究員・併)、木村敦(研究主幹)
  • 九州大学大学院理学府:
    古賀淳(大学院生)、高田秀佐(大学院生)、牧瀬壮(元大学院生)
  • 九州大学 先端素粒子物理研究センター:
    吉岡瑞樹(准教授)

<付記>

各研究者の役割は以下の通りです。

実験の実施: 山本、遠藤、新實、石崎、奥平、谷、吉川、木村、古賀、高田、牧瀬
データ解析: 山本
実験デザイン、解析結果に関する議論: 共同研究者全員
装置開発: 山本、奥平、奥、酒井
統括: 清水

用語説明

[用語1] スピン : 陽子や中性子、ミューオンなどの粒子はスピンと呼ばれる磁石のような性質を持っており、スピンの向きが揃うことを偏極と呼びます。

[用語2] CP対称性 : 粒子と反粒子が持つ性質の対称性。CP対称性が破れているとは粒子と反粒子の振る舞いが異なっているということを言います。

[用語3] 空間反転対称性(P対称性) : 物理現象を鏡に映した時にその物理現象が変化しないことを空間反転対称性があると言います。空間反転対称性が破れているとは鏡に映した世界で物理現象が元の世界とは異なっていることを言います。

[用語4] 核子 : 陽子と中性子のことです。

[用語5] 反粒子 : 反粒子と粒子は質量、スピンなどの性質は一緒で、電荷のみ反対の性質を持ちます。反粒子で構成された物体を反物質と呼びます。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review C
論文タイトル :
Transverse asymmetry of γ rays from neutron-induced compound states of 140La
著者 :
T. Yamamoto1, T. Okudaira2, S. Endo1,2, H. Fujioka3, K. Hirota1, T. Ino4, K. Ishizaki1, A. Kimura2, M. Kitaguchi1, J. Koga5, S. Makise5, Y. Niinomi1, T. Oku2, K. Sakai2, T. Shima6, H. M. Shimizu1, S. Takada5, Y. Tani3, H. Yoshikawa6, T. Yoshioka1
所属 :
1名古屋大学 2JAEA 3東工大 4KEK 5九州大学 6大阪大学
DOI :
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お問い合わせ先

研究内容について

東京工業大学 理学院 物理学系

准教授 藤岡宏之

E-mail : fujioka@phys.titech.ac.jp

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
J-PARCセンター 物質・生命科学ディビジョン
共通技術開発セクション

奥平琢也

E-mail : okudaira@post.j-parc.jp
Tel : 029-284-3383 / Fax : 029-284-3889

東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科

清水裕彦

E-mail : shimizu@phi.phys.nagoya-u.ac.jp
Tel : 052-789-3545

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

J-PARCセンター 広報セクション

リーダー 阿部美奈子

E-mail : abe.minako@jaea.go.jp
Tel : 029-284-4578 / Fax : 029-284-4571

東海国立大学機構 名古屋大学管理部総務課広報室

E-mail : nu_research@adm.nagoya-u.ac.jp
Tel : 052-789-2699 / Fax : 052-789-2019

九州大学 広報室

E-mail : koho@jimu.kyushu-u.ac.jp

大阪大学 核物理研究センター 庶務係

E-mail : kakubuturi-syomu@office.osaka-u.ac.jp
Tel : 06-6879-8902 / Fax : 06-6879-8899

オートファジーによる小胞体分解の分子メカニズムを解明 オートファゴソームに小胞体を詰め込む仕組みを発見

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要点

  • オートファジーによる小胞体の分解(ERファジー)過程で、レセプタータンパク質Atg40が脂質膜を折り曲げることを発見
  • Atg40の集積(多量体化)によって小胞体領域が局所的に変形
  • Atg40とオートファゴソーム膜タンパク質Atg8のユニークな結合様式を解明

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の中戸川仁准教授、持田啓佑研究員(研究当時。現・理化学研究所脳神経科学研究センター 基礎科学特別研究員)および微生物化学研究所の野田展生部長、山﨑章徳博士研究員(研究当時。現・東京工業大学 科学技術創成研究院 特任助教)らの研究グループは、小胞体[用語1]がオートファジーによって分解される過程で起こる、小胞体膜の局所的変形の分子基盤を明らかにした。

オートファジーは細胞内の分解機構であり、細胞質のタンパク質や核酸、細胞小器官などをオートファゴソーム[用語2]と呼ばれる「袋」に入れて、分解の場であるリソソームや液胞に輸送する。細胞小器官である小胞体は、栄養飢餓などの特定の状況下ではオートファジーによって積極的に分解されるが(ERファジー)、小胞体をオートファゴソームに積み込む分子メカニズムは不明であった。

本研究では、ERファジーのレセプタータンパク質Atg40に脂質膜を折り曲げる性質があることを発見した。また小胞体上でAtg40が形成途中のオートファゴソーム上のAtg8という別のタンパク質との結合を介して多量体化することで、小胞体膜が局所的に変形され、オートファゴソームに効率的に積み込まれることを明らかにした。さらにX線結晶構造解析から、ERファジーのレセプタータンパク質に保存されたAtg8とのユニークな結合様式を解明した。

この研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」で2020年7月3日に公開された。

背景

小胞体は、細胞内に存在する最大の膜構造体であり、分泌タンパク質や膜タンパク質の合成をはじめとした必須の細胞機能を数多く担っている。小胞体の「量」と「品質」を適切に保つことは、外部環境への適応や細胞死の回避に重要であり、小胞体が「過剰」あるいは「異常」となったときには、その一部を適切に除去する必要がある。

最近の研究から、オートファジーによって小胞体の一部を積極的に分解する現象(ERファジー)の存在が明らかになってきた。オートファジーは、細胞内の成分を分解する仕組みの一つであり、オートファゴソームと呼ばれる脂質膜の袋が細胞質の一部を包み込み、分解に特化したコンパートメント(リソソーム/液胞)との融合により内容物を分解する。ERファジーでは、小胞体上に分解の目印となる「レセプタータンパク質」が提示されると、形成途中のオートファゴソーム膜上のタンパク質「Atg8」がレセプタータンパク質に結合し、小胞体の一部がオートファゴソームに包み込まれる。この過程において、連続した単一の膜構造と考えられている小胞体の一部をオートファゴソームに隔離するためには、分解する小胞体領域を「切り離す」必要がある。しかし、この小胞体の切り離しがどのようにして行われるのか、切り離しがオートファゴソーム形成と共役して起こるのかなど、その分子メカニズムには多くの謎が残されていた。またこれまでの研究で、小胞体断片が複雑に折りたたまれるようにしてオートファゴソームに隔離されている様子が観察されていたが、細胞内で網状に広がる小胞体をオートファゴソームへ効率的に「詰め込む」メカニズムも不明であった。

研究成果

本研究グループは、モデル生物「出芽酵母[用語3]」を用いて、ERファジーの分子メカニズムについて研究を進めてきた。同グループは過去に、出芽酵母では「Atg40」がERファジーのレセプターとして機能することを明らかにしている。本研究においてAtg40の細胞内動態を解析した結果、Atg40は、オートファゴソームの形成開始とともに、その近傍にある小胞体上に集積した。その後、オートファゴソーム形成と共役する形で小胞体領域の一部が切り離されることがわかった。さらにAtg40が、ヘアピン状に脂質膜に挿入されるドメインを持ち、このドメインを介して脂質膜を折り曲げる性質を持つこと、この領域が小胞体膜の切り離しに重要であることを明らかにした(図1A)。

さらにAtg40は、形成途中のオートファゴソーム膜上のAtg8との多価的な相互作用によって多量体化し、高次集積することが強く示唆された。Atg40の多量体化を人為的に誘導すると、小胞体膜が球状に濃縮された構造体が形成されたが、この構造の形成には脂質膜の折り曲げに関わる領域が必須であった(図1B、C)。すなわち、形成途中のオートファゴソームと接する小胞体領域においてAtg40が多量体化することで、その小胞体領域が局所的に折りたたまれ、凝縮された状態でオートファゴソームに積み込まれると考えられる(図1C)。本研究により、レセプターであるAtg40が、オートファゴソーム膜と小胞体膜とを繋ぎとめる役割だけでなく、分解する小胞体領域を折りたたみ、オートファゴソームに効率よく詰め込むための重要な役割も果たすことが明らかになった。

図1. Atg40の多量体化を介した小胞体の局所的な折りたたみ(A)Atg40はヘアピン状に脂質膜に入り、膜を折り曲げる性質を持つ(B)Atg40の多量体化を誘導すると、小胞体膜が球状に凝縮された構造が形成される(C)Atg40を介したERファジーの分子メカニズムのモデル

図1. Atg40の多量体化を介した小胞体の局所的な折りたたみ

(A)Atg40はヘアピン状に脂質膜に入り、膜を折り曲げる性質を持つ
(B)Atg40の多量体化を誘導すると、小胞体膜が球状に凝縮された構造が形成される
(C)Atg40を介したERファジーの分子メカニズムのモデル

また本研究では、Atg40とAtg8の相互作用の構造基盤を明らかにした。レセプタータンパク質は、Atg8-familly interacting motif(AIM)と呼ばれる共通のモチーフ配列を介してAtg8と結合することが知られている。Atg40の場合には、これまでに報告されてきた多くのレセプターとは異なり、AIMに加えて、近傍のαヘリックス構造がAtg8との結合をサポートするというというユニークな結合様式の存在が明らかになった(図2)。さらに、このAtg8との特徴的な結合様式は、哺乳動物の3つのERファジーレセプターにも見られることもわかった。

図2. ERファジーのレセプターに保存されたAtg8との結合様式

図2. ERファジーのレセプターに保存されたAtg8との結合様式

3つの図はそれぞれ、ERファジーレセプター(Atg8結合領域のみ)とAtg8の複合体の結晶構造を表す。GABARAPは哺乳動物のAtg8ホモログ、FAM134BおよびSEC62は哺乳動物におけるERファジーレセプターである。赤点線はAtg8との結合をサポートするヘリックス構造を示す。

今後の展開

哺乳動物において、ERファジーの破綻は神経細胞の細胞死による自律感覚神経障害を引き起こすと考えられている。ERファジーの分子メカニズムを理解することは、同疾患の発症機構を理解するうえでも重要である。本研究によって、巨大な小胞体の一部を直径500 nm程度のオートファゴソームに効率よく積み込み、切り離すという、複雑なプロセスのメカニズムの一端が明らかになった。しかしながら、小胞体の切り離しを直接媒介する因子が他にも存在するのかどうかなど、未解明の点も残されている。

本研究で明らかにした、ERファジーのレセプタータンパク質に保存されているAtg8とのユニークな結合様式は、選択的なオートファジーの構造面の理解に新たな知見を与えるものである。ERファジーのレセプターに特徴的なAtg8との結合様式が、酵母からヒトまでの幅広い種で高度に保存されている理由は興味深い謎であり、今後の解明が期待される。

用語説明

[用語1] 小胞体 : 細胞内に網状に広がる最大の細胞小器官。タンパク質や脂質の合成・輸送、カルシウムイオンの貯蔵、他のオルガネラとの接触部位の形成など、その機能は多岐に渡る。小胞体へのストレスの蓄積は細胞死を引き起こす。

[用語2] オートファゴソーム : 栄養飢餓などのストレスに応じて形成される二重膜構造。膜胞がカップ状に伸張し、閉じることで細胞質の一部を隔離する。

[用語3] 出芽酵母 : 単細胞の真核生物であり、基本的な細胞の構造や生命現象は哺乳動物細胞と共通している。遺伝学的操作の容易さなどから、オートファジーをはじめ様々な生命現象の研究に先導的な役割を果たしてきたモデル生物。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Super-assembly of ER-phagy receptor Atg40 induces local ER remodeling at contacts with forming autophagosomal membranes
著者 :
Keisuke Mochida, Akinori Yamasaki, Kazuaki Matoba, Hiromi Kirisako, Nobuo N. Noda, Hitoshi Nakatogawa
DOI :
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東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 中戸川仁

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微生物化学研究所 構造生物学研究部

部長 野田展生

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マイクロ波による触媒活性点の選択的な加熱を実証 放射光で担持白金ナノ粒子の局所温度を解析

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要点

  • マイクロ波照射によって触媒上に担持した金属ナノ粒子を選択的に加熱
  • 活性点上の局所的な高温反応場において、低温で触媒反応を促進
  • マイクロ波加熱により、触媒反応プロセスの省エネルギー化に貢献

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の阿野大史大学院生(研究当時)、椿俊太郎助教、本倉健准教授、和田雄二教授(研究当時。現 科学技術創成研究院 特任教授)、国際基督教大学の田旺帝教授らの研究グループは、マイクロ波[用語1]により固体触媒の活性点[用語2]に高選択的に局所加熱が生じることを実証した。

放射光を用いたX線吸収微細構造(XAFS)[用語3]により、in situ [用語4]マイクロ波照射中の金属ナノ粒子の温度を推測する手法を確立した。広域X線吸収微細構造(EXAFS)[用語5]に含まれる温度依存的なDebye-Waller因子[用語6]をもとに、担持白金(Pt)ナノ粒子の温度を推測したところ、周囲の担体と比較して26~132 K(ケルビン)[用語7]高いことを見出した。

すなわち、マイクロ波により活性点が選択的に高温となり、触媒反応の促進が生じると考えられる。この成果により、物質と相互作用するマイクロ波のエネルギーを触媒反応に効果的に利用できる指針が得られた。

マイクロ波を固体触媒に照射すると、マイクロ波が触媒活性点となる担持金属ナノ粒子[用語8]を直接加熱し、触媒反応の加速することができることが示された。今後、マイクロ波加熱により、触媒反応プロセスの省エネルギー化が期待できる。

研究成果は7月3日付けでNature Researchの「Communications Chemistry (コミュニケーションズケミストリー)」に掲載された。

背景

電子レンジに用いられるマイクロ波は、非接触で高速に物質を加熱できる。多くのエネルギー消費を伴う化学産業に対して、マイクロ波加熱手法は化学反応の速度上昇や反応系の低温化による大きな省エネルギー化をもたらすことができる。

マイクロ波を触媒に照射すると「非平衡局所加熱[用語9](図1)」とよばれる微視的な領域での局所高温場が生じる。局所的は高温反応場が、触媒反応の促進に寄与していると考えられてきた[参考文献12]。特に、担持金属触媒にマイクロ波を照射した場合、触媒活性点となる担持金属をマイクロ波加熱されると考えられる。触媒活性点を選択的に加熱することにより、反応に必要なエネルギーのみを供給した、革新的な省エネルギー触媒反応プロセスが可能となる(図1)[参考文献34]

しかし、マイクロ波照射中の金属ナノ粒子のサイズが非常に小さいため、サーモグラフィーや放射温度計などの一般的な温度計測手法では、温度を見積もることは困難であった。

本研究ではマイクロ波加熱中の固体触媒(担持白金触媒)のin situ X線吸収微細構造(XAFS)解析を行い、担体上に担持されたPtナノ粒子上の局所的な温度を見積もることに成功した。

図1. 従来の伝熱による触媒反応プロセスと、マイクロ波によって触媒活性点を選択的に加熱した触媒反応プロセスの比較

図1. 従来の伝熱による触媒反応プロセスと、マイクロ波によって触媒活性点を選択的に加熱した触媒反応プロセスの比較

研究のアプローチ

マイクロ波照射中にXAFS測定が可能な顕微分光用マイクロ波加熱システムを確立した(図2)。このマイクロ波システムは半導体式マイクロ波発振器と円筒型空洞共振器を搭載しており、XAFS測定中のマイクロ波照射条件を精密に一定に保つことが可能である。

この顕微分光用マイクロ波加熱システムを用い、高エネルギー加速器研究機構においてマイクロ波照射中の担持Ptナノ粒子のXAFS測定を行った。得られたPtナノ粒子のEXAFSスペクトル解析から、温度依存性を示すDebye-Waller因子を求め、温度に対してプロットした。通常の伝熱加熱によって得られたDebye-Waller因子を検量線として、マイクロ波照射中のDebye-Waller因子の値を温度として換算し、担持Ptナノ粒子の局所温度を推測した。

図2. a : マイクロ波in situ XAFS測定システム、b : 通常の伝熱によるin situ XAFS測定システム

図2. a : マイクロ波in situ XAFS測定システム、b : 通常の伝熱によるin situ XAFS測定システム

研究成果

マイクロ波加熱および通常加熱中にin situ XAFS測定を行い、マイクロ波加熱によるPtの局所の温度を求めた。図3は通常加熱およびマイクロ波加熱中のPt/Al2O3(白金/アルミナ)触媒のPt L3 edge FT(フーリエ変換)EXAFS スペクトルを示す。2.77 Å(オングストローム、1 Åは0.1ナノメートル)のPt-Pt間の結合に由来するピーク強度に着目すると、通常加熱では昇温に伴い徐々に減少しているが、マイクロ波加熱では368 Kの低温においても急速に減衰した。続いて、スペクトル解析により温度依存的に変化するDebye-Waller因子を算出した。Debye-Waller因子の急減衰には、温度因子と構造因子の寄与が考えられる。そこで、透過型電子顕微鏡およびXAFSによりマイクロ波加熱前後のPtナノ粒子の形態に変化がないことを確認した。これより、触媒活性点となるPtナノ粒子の局所的な高温状態に起因して、Debye-Waller因子の急減衰が生じることが示された。

続いて、通常の伝熱加熱での解析で算出したDebye-Waller因子を元に検量線を作成し、マイクロ波照射中の担持Ptナノ粒子の局所温度を推測した(図4)。γ-アルミナ(γ-Al2O3)を担体とした場合、担体と担持Ptの間に26 Kの温度勾配が生じた。さらに、二酸化ケイ素(SiO2)を担体として用いた場合、担体と担持Pt間の温度勾配は132 Kに達することが示唆された。

そこで、これらの触媒の活性を比較した場合、SiO2担体においてより大きなマイクロ波による反応加速効果が得られることを確認した。これらの結果から、マイクロ波加熱によって、触媒活性点となる担持金属粒子を選択的に加熱し、触媒反応の促進に寄与していること、および、担体によって担持金属粒子の温度が変化することが示された。

図3. a : 通常加熱、b : マイクロ波加熱中のFT-EXAFSスペクトル。(図中の温度は触媒層表面の温度(図4)を示す)

図3. a : 通常加熱、b : マイクロ波加熱中のFT-EXAFSスペクトル。(図中の温度は触媒層表面の温度(図4)を示す)

図4. マイクロ波による担持Ptナノ粒子の局所加熱の概要

図4. マイクロ波による担持Ptナノ粒子の局所加熱の概要

今後の展開

今後、再生可能エネルギーの普及が進むにつれて、多くの化学産業が化石資源の使用から脱却し、化学産業プロセスの電化が望まれる。マイクロ波は電力を化学反応に必要なエネルギーに効率的に変換し、触媒反応の大きな省エネルギー化に貢献することができると期待される。マイクロ波を用いた固体触媒反応は、今後、環境浄化触媒反応、メタンやCO2、バイオマスといった難資源化炭素化合物を有効利用する技術などへの応用が可能である。

付記

今回の研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(S)17H06156、同 若手研究(A)17H05049、同 特別研究員奨励費17J09059、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけJPMJPR19T6の成果である。XAFS測定は高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所放射光共同利用実験 平成30年 - 令和2年「XAFS測定によるマイクロ波照射下の金属担持触媒上の活性点の電子状態および構造のオペランド解析」のもと実施された。

参考文献

[参考文献1] Durka, T. et al., Chem. Eng. Technol., 2009, 32, 1301–1312.

[参考文献2] Stankiewicz, A. et al., Chem. Rec., 2019, 1, 40–50.

[参考文献3] Wada Y. et al., J. Jpn Petrol. Inst., 2018, 61, 98–105.

[参考文献4] Jie, X. et al., Energy Environ. Sci., 2019, 12, 238–249.

用語説明

[用語1] マイクロ波 : 周波数が300 MHz~300 GHzの帯域の電磁波の一種。2.45 GHzは電子レンジやWi-Fiで利用される。マイクロ波によって、被照射物が電磁気的な相互作用を伴って加熱される。身近では電子レンジ内でマイクロ波加熱が使用されている。

[用語2] 固体触媒の活性点 : 固体触媒の表面で、反応物質が触媒作用を受ける部分。

[用語3] X線吸収微細構造(XAFS) : 物質にX線を照射して得られる吸収スペクトルから、物質の酸化状態や電子状態、局所構造を解析する手法。

[用語4] In situ : ラテン語で「その場で」という意味。マイクロ波照射下での化学反応を行っている際に、直接分光分析を行うこと。

[用語5] 広域X線吸収微細構造(EXAFS) : XAFS測定の一種。立体構造に関する情報として、近接原子までの距離や近接原子種、近接原子数などの情報を得ることができる。

[用語6] Debye-Waller因子 : 熱振動によるX線の散乱強度の減衰を表す。ナノ粒子では、構造変化(粒子サイズ)と温度変化等により、Debye-Waller因子が変化する。

[用語7] K(ケルビン) : 熱力学温度の単位。0 ℃は273 Kに相当する。

[用語8] 担持金属ナノ粒子 : 触媒担体に担持された触媒活性を示すナノサイズの金属微粒子。

[用語9] 非平衡局所加熱 : ミリメートル以下の微視的な領域において、マイクロ波による熱エネルギーの投入によって生じる非平衡な局所高温状態のこと。

論文情報

掲載誌 :
Communications Chemistry, 3, 86, 2020.
論文タイトル :
Probing the temperature of supported platinum nanoparticles under microwave irradiation by In situ and operando XAFS
著者 :
Taishi Ano, Shuntaro Tsubaki, Anyue Liu, Masayuki Matsuhisa, Satoshi Fujii, Ken Motokura, Wang-Jae Chun, Yuji Wada
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

特任教授 和田雄二

E-mail : wada.y@mac.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

アーティストとアートを体験するセミナー 初めてオンラインで開催 利き手でない手で静物画を描いてみたら

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東京工業大学は、理工系の学生が芸術からインスピレーションを得て自分の創造的な表現を見つけるため、毎年2回、「アーティストとアートを体験するセミナー」を開いています。2020年前期は6月10、17日の2日間のプログラムで、入学したばかりの学士課程1年の5名を含む11名の受講生が参加しました。新型コロナウイルス感染予防のため、講義と絵を描く実習はオンラインのテレビ会議システムを使い、初めての体験となりました。ネットの特性を活かしながらも試行錯誤を重ねたオンラインによるアート体験セミナーの様子を紹介します。

Zoom画面のツーゼ・マイヤー氏と受講生たち

Zoom画面のツーゼ・マイヤー氏と受講生たち

アートセミナーは、東工大学生支援センター修学支援部門が担当し、東工大の元非常勤講師で画家・詩人のツーゼ・マイヤー(Zuse Meyer)氏が講師として教えます。マイヤー氏はベルリン国立芸術大学出身で、現在はベルリンや東京で創作を行い、独創的なアートワークショップ、アートスクールを主催しています。 例年、受講生は、講師からテーマに沿った講義(英語・日本語の両方を使用)を受けます。その後、鉛筆のデッサン、クレヨンの描画やペーパークラフトなど、各自がアート作品の制作に取り組みます。最後に、講師による講評と受講生相互の講評という流れで進みます。

講義で使われたピカソの写真

講義で使われたピカソの写真

「実体験を通じて感じとる」オンラインで実現するには

受講生募集のポスター
受講生募集のポスター

このセミナーは、アートの技術を学んだり、出来栄えを競うことが目的ではなく、個人が持つ潜在的な創造性を発揮することと、それぞれの創造性の豊かさに気付くことが大きな目的です。そのために、あえて利き手を封印して反対の手でデッサンをしたり、一筆で描いたりと意識の制御を弱める手法が取られ、楽しんで自由に描くよう講師から背中を押されます。このように、実際に絵を描く実習や作品の講評という「実体験を通じて学ぶ・感じ取る」ことが重要な要素になります。

そのような本質をできる限り失わずにオンラインで実現するにはどうすればいいのか。それが、開催の最大のポイントになりました。 まず、今回のテーマは「静物画」としました。静物画なら、受講生が各自の自宅や下宿で何らかの静物を並べて、絵を描くことが可能になります。さらに、感染予防の観点から、受講生が画材を購入するために外出しなくてすむよう、受講生募集のポスターには、「必要なものは特にありません。鉛筆、クレヨン、紙(B4)などあればご用意ください」と書き加えました。

開催方法はテレビ会議システムのZoomを使い、マイヤー氏と受講生それぞれが自宅からZoomに接続、ホストである修学支援部門は大学からZoomに接続しました。

1日目 利き手でない手で、身近な静物を描く

1日目の6月10日のセミナーは、静物画について歴史的観点を踏まえたマイヤー氏の講義で始まりました。講義の中では、ゴッホ、セザンヌ、ピカソを含む数多くの静物画の画像が画面共有機能を使って、受講生に紹介されました。

その後、受講生が自宅や下宿先で準備した静物を、順次、PCやスマホのカメラで写して画面共有し、講師から静物の数や配置方法についてアドバイスを受けました。講師から、各自並べた静物を鉛筆で一筆描きするよう説明があり、約20分間、学生は各自の場所で静物の一筆描きに集中しました。講評は、受講生一人ひとりが自分のPCのカメラ越しに作品を見せるという形式を採りました。

講義で紹介された静物画
講義で紹介された静物画

画面越しに自分の作品を説明する受講生
画面越しに自分の作品を説明する受講生

最後に、クレヨンを使って利き手でない手で静物画を描く実習を行いました。この作品の講評は、後日、受講生それぞれに個別メールで送る形式を採りました。

利き手でない手で描いた作品を共有

利き手でない手で描いた作品を共有

1日目の実習では、受講生の自宅から、静物や作品をカメラで撮影しながら共有することが難しい点が課題になりました。カメラが動かせない環境が多く、うまくカメラで写すことができる場合も照明の加減で見えにくいなどの問題がありました。

2日目 作品集を仕上げる

2日目の6月17日のセミナーは、この課題を解決するために、受講生が作品をスマホのカメラで撮影してホストにメール添付の画像ファイルとして送付、ホストが画像ファイルを順次、Zoomで画面共有しました。それに対してマイヤー氏が口頭でコメントを加える方法で、1日目よりもスムーズに講評ができました。

例年の対面式セミナーでは、セミナーの最後に全員で講評しあうセッションがありました。オンラインセミナーではその代わりに、全員の作品を一覧にした作品集を修学支援部門が作り、マイヤー氏から受講生全員への英語のコメントを加えて、後日メールで配布しました。

受講生にメールで配布した作品集「ワンダフル・アートワーク」

受講生にメールで配布した作品集「ワンダフル・アートワーク」

マイヤー氏「芸術の基本はあなたの『こころ』です」

マイヤー氏が受講生へ送った英語のコメント
マイヤー氏が受講生へ送った英語のコメント

マイヤー氏から受講生に送られたコメントには次の言葉がありました。

「芸術家とは、技術を賢明に用いることができる、高度に訓練された才能ある専門家だ、と思われています。これは大いなる誤解です。いくら賢明であっても、いくら技術を備えても、美を生み出すことはできません。芸術の質とは、何よりもまず、一人ひとりが持つ本当の感情に基づくのです。最も基本となる材料はあなたの『こころ』です」

受講生のコメント「新鮮で楽しい経験に」

受講生のアンケートには、以下のコメントが寄せられました。

  • 左手で絵を描いたことがなかったので新鮮な体験ができました。
  • 左手で描いた方が、自由にクレヨンを動かすことができた。また左手で描いてみたい。英語で授業を受ける経験にもなったので良かった。
  • とても楽しく、学びが多かった。
  • 課題に追われていないこともあり、かなり楽しめました。
  • とても楽しかったです! 通信機器の不調は残念でしたが、秋に開催されるセミナーにもぜひまた参加したいです!
  • 静物画の意義を歴史的観点から知れて面白かったです。また、一筆描きや左手で描いたり、普段使わない画材を使ったりするのが新鮮で楽しかったです。ほぼ人物画しか描いてこなかったのですが、これから静物画も時々描いてみようかなと思いました。

「まずはやってみる」オンライン授業の改善につなげる

このような実習や作品の評価を伴うワークショップをオンラインで開いても、対面授業と同じ効果を生むことは難しいだろうと、修学支援部門では当初から想定していました。実施してみてうまくいかないところも多々ありましたが、「まずはやってみる」ことで課題を明らかにし、少しずつ良い方法を考えて改善につなげていきます。こうした繰り返しを重ねていけば、ワークショップの本質がオンラインでも少しずつ実現できると実感しました。

次回11月のセミナーは対面で開催できることを願っています。

お問い合わせ先

学生支援センター 修学支援部門

E-mail : concierge.info@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2760

マヨラナ粒子が媒介するスピン輸送現象の発見 物質内部で磁化変動を伴わない奇妙なスピン励起の伝達

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要点

  • 量子スピン液体に対する実時間数値シミュレーションにより、局所磁化の変化を伴わないスピン輸送現象を発見
  • このスピン輸送がマヨラナ粒子によって媒介されることを解明
  • マヨラナ粒子を利用したスピントロニクスや量子コンピューティングデバイスへの応用に期待

概要

東京工業大学 理学院 物理学系の皆川哲哉修士課程学生(研究当時。現・ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社)、村上雄太助教、古賀昌久准教授、横浜国立大学 大学院工学研究院の那須譲治准教授らの研究グループは、量子スピン液体[用語1]が実現するキタエフ模型[用語2]に対して実時間数値シミュレーションを行い、マヨラナ粒子[用語3]がスピン輸送を媒介し、量子スピンの時間変動が物質の端から端へ伝達することを発見した。

この系では、磁性絶縁体中の量子スピンは、あたかも複数のマヨラナ粒子に分裂しているように振る舞う。この系の片方の端にパルス磁場を導入し、端の局所磁化の時間変動を誘起した後の時間発展を計算すると、物質内部へはその時間変動は浸透しない。量子スピン液体内部でスピンの時間変化がまったく誘起されないにもかかわらず、一定時間経過後にもう片方の端のスピンが突然変動し始めることを発見した。この奇妙なスピン励起伝搬の速度はこの系でのマヨラナ粒子の速度と一致するため、パルス磁場によるスピン励起はマヨラナ粒子によって運ばれていると解釈できる。

物質内部の局所磁化を一切生じさせずにマヨラナ粒子を介してスピン励起が伝搬するこの現象は、スピン変調が波のように伝わる従来のスピン輸送と一線を画している。この研究成果によりマヨラナ粒子を利用したスピン輸送の可能性が開拓され、スピンの時間変化を伴わないスピントロニクスデバイスへの応用やマヨラナ粒子を使ったトポロジカル量子計算[用語4]の基盤構築につながることが期待される。

研究成果は7月24日に米国物理学会誌「Physical Review Letters(フィジカルレビューレターズ)」にオンライン掲載された。

研究成果

研究グループは、絶対零度まで冷却しても磁気秩序を示さない磁性絶縁体の量子スピン液体に注目し、それを記述するモデルのひとつであるキタエフ模型に対して実時間数値シミュレーションを行うことで、スピン励起が物質内部でマヨラナ粒子を媒体として伝搬することを発見した。キタエフ量子スピン液体において、マヨラナ粒子が準粒子[用語5]として存在することを示唆する実験結果はこれまでいくつか得られているが、今回の発見はこのマヨラナ粒子がスピン輸送を媒介するというまったく新しい現象である。

通常、磁性絶縁体において磁性の起源である電子スピンの運動は、磁気的な力を介して結晶中を波のように伝わっていくことが知られている。一方で、キタエフ量子スピン液体の場合には、結晶格子(図1)の左端に印加したパルス磁場によって励起されたスピン変調が物質中に伝わらず、物質内部の電子スピンはまったく時間変化しない。

図1. キタエフ模型が定義されたハニカム格子。黒い球の上に電子スピンが存在している。左端の灰色の領域にパルス磁場を印加し、右端の灰色の領域には弱い静磁場を印加している。

図1.
キタエフ模型が定義されたハニカム格子。黒い球の上に電子スピンが存在している。左端の灰色の領域にパルス磁場を印加し、右端の灰色の領域には弱い静磁場を印加している。

しかし、ある一定時間経過後に、右端の電子スピンが突如運動し始めることを発見した。量子スピン液体内部では電子スピンは2種類のマヨラナ粒子にあたかも分裂しているかのように振る舞う。その片方は結晶格子に束縛されて動くことができないが、もう片方のマヨラナ粒子は物質中を自由に動き回る(遍歴する)ことができるため、後者の空間分布の時間変化を調べた(図2)。

図2. パルス磁場を印加後の電子スピンと遍歴マヨラナ粒子の存在確率の変化の実空間マップの時間発展。

図2.
パルス磁場を印加後の電子スピンと遍歴マヨラナ粒子の存在確率の変化の実空間マップの時間発展。

その結果、左端で生じた電子スピンの時間変化はすぐに遍歴マヨラナ粒子へと変換され、物質中においてスピン変調を生じることなく通過し、右端に到達したときに電子スピンの時間変化を誘起することが分かった。さらに、端から端までの距離を右端のスピン変調が生じるまでの遅延時間で割ると遍歴マヨラナ粒子の速さに等しくなることからも、スピン励起がマヨラナ粒子によって伝搬されたことが理解できる。

図3. スピンの時間変動がマヨラナ粒子の動きに変換されて物質中を伝わり、右端でスピン励起が誘起される様子を示した模式図。

図3.
スピンの時間変動がマヨラナ粒子の動きに変換されて物質中を伝わり、右端でスピン励起が誘起される様子を示した模式図。

背景

従来のエレクトロニクスを超えて、電子の持つスピンを積極的に活用するスピントロニクス研究の進展に伴い、電流を伴わないスピン輸送現象に関する研究が近年、盛んに行われている。磁気秩序を有する磁性絶縁体においては、磁性の起源である電子スピンの運動は近接する原子上のスピンに働く磁気的な力を介して波のように伝わる。このスピン波と呼ばれる電子スピンの変調が、磁性絶縁体中のスピン輸送を担うと考えられてきた。

一方で絶対零度まで磁気秩序が現れないキタエフ量子スピン液体においては、電子スピンの間の力の受け渡しが隣接する原子上のみに影響し、ある原子上の電子スピンを時間変動させたとしても、そのスピン変調は遠くまで伝達せずにスピン輸送には適さないと思われていた。

キタエフ量子スピン液体は、塩化ルテニウムといった磁性化合物において実現すると考えられており、この量子スピン液体の特徴であるマヨラナ粒子を現実の物質中で観測する試みが国内外で精力的に行われている。マヨラナ粒子は電荷中性のため、特に熱伝導度の測定を中心とした実験研究が進められている。その一方で、マヨラナ粒子を用いたスピン輸送の可能性は、興味深い問題として残されていた。

今後の展開

本研究成果は量子スピン液体において、マヨラナ粒子がスピントロニクスの輸送担体として機能し得ることを指摘するものである。さらに、そのスピン輸送において、電子スピンの時間変動がまったく生じないため、それを利用した新たなスピントロニクスデバイスへの応用が期待される。また、キタエフ量子スピン液体において現れるマヨラナ粒子は、環境からの擾乱に強いトポロジカル量子計算の演算要素となることも期待されており、次世代量子計算の基盤構築の可能性も期待される。

用語説明

[用語1] 量子スピン液体 : 物質を構成する原子の中の電子のスピン(電子が持つミクロな磁石の向き)が活性な絶縁体(磁性絶縁体)において、近接する原子上の電子スピンの間に磁気的な力が働いているにもかかわらず、電子スピンの整列(磁気秩序)が絶対零度まで抑制された状態。

[用語2] キタエフ模型 : 量子スピン液体状態を厳密に基底状態(エネルギーの最も低い状態)に持つ磁性絶縁体を記述する理論模型。2006年にA. Kitaev(アレクセイ・キタエフ)により、トポロジカル量子計算(用語4)を実現し得る模型として提案された。その後の研究で、この模型によって磁気状態が説明できる現実の化合物が提案された。

[用語3] マヨラナ粒子 : 粒子と反粒子が同一のフェルミ粒子。素粒子物理学では、ニュートリノがその候補と考えられている。固体中では、マヨラナ粒子のように振る舞う励起である準粒子として存在する可能性が指摘されている。

[用語4] トポロジカル量子計算 : 量子演算の過程でトポロジカルな性質を利用することで、環境からの擾乱に強く安定した演算が可能な量子計算。

[用語5] 準粒子 : 物質を構成する電子集団にエネルギーを与えて励起させた状態への変化分が、あたかも粒子のように見なせるもの。半導体の正孔(ホール)など。

付記

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ研究領域「トポロジカル材料科学と革新的機能創出(研究総括:村上 修一)」における研究課題「量子トポロジカル磁性体のもつ素励起の時空間的制御」(研究者:那須 譲治(JPMJPR19L5))の支援を受けて行われた。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Majorana-mediated spin transport in Kitaev quantum spin liquids
著者 :
Tetsuya Minakawa, Yuta Murakami, Akihisa Koga, and Joji Nasu
DOI :
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ASPIREリーグ副学長・シニアスタッフ会議2020をオンラインで開催

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東京工業大学は7月2日、「ASPIREリーグ 副学長・シニアスタッフ会議」を議長校としてオンラインで開催しました。ASPIREリーグ※1は、アジア地域の理工系トップ大学のコンソーシアムで、アジアにおけるイノベーションハブを形成することを目的に、2009年に東工大主導により設立されました。2010年以降毎年、副学長・シニアスタッフ会議、学生ワークショップ、シンポジウムで構成されるASPIREフォーラムを開催してきましたが、2020年は新型コロナウイルス感染拡大の状況に鑑み、副学長・シニアスタッフ会議のみをオンラインで開催しました。ASPIREリーグに加盟する清華大学(中国)、香港科技大学(中国)、南洋理工大学(シンガポール)、韓国科学技術院(韓国)と東京工業大学の5大学から副学長・教職員29名が参加しました。

オンラインで集まる副学長・シニアスタッフ会議2020参加

オンラインで集まる副学長・シニアスタッフ会議2020参加者

新型コロナウイルス対応 各大学の取り組み

会議の議長である水本哲弥理事・副学長(教育担当)からの開会の挨拶に続き、加盟5大学の副学長が、新型コロナウイルス(COVID-19)対応についてそれぞれの大学の取り組みを紹介しました。

まず、香港科技大学のチャールズ・ンー(Charles Ng)准副学長より、COVID-19発生時からの学内での体制や対応状況について説明がありました。また、それらの取り組みに関する社会へのアウトリーチ活動や、数々のウェビナー(オンラインセミナー)を実施し、同大学の関係者及び他大学と活発に情報共有を行っていることなどについて紹介がありました。

続いて、韓国科学技術院のマン・サン・イム(Man-Sung Yim)准副学長より、大学併設のクリニックとの連携による学生・教職員向けの健康管理支援や、アートクラス、オンラインギターレッスンなど「コロナうつ」を乗り切るための様々な工夫を凝らした授業などの取り組みの紹介がありました。また韓国科学技術院でのCOVID-19関連の研究として、再利用可能なナノファイバーフィルターマスクの研究について説明がありました。

南洋理工大学のジミー・シア(K. Jimmy Hsia)副学長からは、学内の専門家によるタスクフォースの設置、COVID-19関連の研究のほか、MOOCs(ムークス、インターネット上で誰でも無料で受講できるオンライン講座)受講による単位認定、バーチャルインターンシップや卒業生・社会人を対象としたミニ・マスターコースの実施など工夫して対応したことについて説明がありました。

清華大学のヤン・ビン(Yang Bin)副学長からは、医学部で研究されているCOVID-19抗体ベースの治療法や呼吸器ウイルス検出キットなどの研究成果について紹介がありました。また、3月の習近平国家主席の清華大学訪問やCOVID-19関連の研究や医療機関との連携を促進するために設立された「春風基金」について説明がありました。

最後に、本学の取り組みについて水本理事・副学長から、COVID-19への対応が学事暦の切り替え時期にあたり、学位記授与式や入学式等の行事への対応が必要だったと説明がありました。オンライン授業の準備も短期間で進めましたが、学生の理解と教職員の努力で全てのオンライン授業が順調に実現でき、学生アンケートでは、予想以上に好意的な評価を学生から聞くことができた、と紹介しました。

水本理事・副学長による本学の取り組み紹介

水本理事・副学長による本学の取り組み紹介

共同メッセージの採択

加盟大学の副学長のプレゼンテーションに続き、加盟大学の学生に向けての共同メッセージが採択されました。これは、COVID-19の影響を受けて、活動制限が続く学生達を励まし、リーグとしての結束を再確認するために、水本理事・副学長の提唱により実現しました。ASPIREリーグの使命である科学の発展と地球規模課題の解決に、国際連携が不可欠であること、このような困難な状況下でこそ世界中の仲間や研究者たちと繋がり、協力していく努力を継続することの大切さを学生たちに呼びかけるものです。

共同メッセージに賛同する加盟大学副学長

共同メッセージに賛同する加盟大学副学長

加盟大学学生に向けた共同メッセージ

加盟大学学生に向けた共同メッセージ

共同メッセージ(日本語訳)

ASPIREリーグ学生諸君へ

COVID-19の世界的な流行によって、私たちの暮らし、学び、仕事、人と人との繋がり方に至るまで様々な変化がもたらされています。その影響は大学間の国際交流活動にもおよび、本年度、ASPIREフォーラムの主要な活動である学生ワークショップを開催することができませんでした。

このような未曽有の状況を目の当たりにし、これまで私たちが考えてきたグローバル社会が、それを支える根底から揺らいでいる、と感じた学生諸君も少なくないかもしれません。 しかしこの困難の中でも、君たちが忍耐力、柔軟性、創造力をもって学習を続けてくれたことに、心から感謝しています。

困難な状況が続きますが、これは私たちが国際協力、国際共同の価値を再確認する機会であると受け止めましょう。ASPIREリーグの使命は、教育と研究において高い成果をあげ、科学の発展と地球規模課題の解決に貢献することです。この使命を遂行するためには、国際的な連携が不可欠であり、これは、今、世界中の研究者が互いの英知を分かち合い、ウイルスの収束に向けて努力を続けていることからも明らかでしょう。

今年度のASPIRE学生ワークショップでは、「イノベーションを通してあらゆる人により良い暮らしを」をテーマに取り組むことを予定していました。それは、ASPIREリーグ加盟大学の学生として、君たちがすでに持っている専門知識や興味をさらに発展させ、より良い世界に向けて貢献してほしいという願いから来ています。我々ASPIREリーグ加盟大学の教員たちはこれからも、君たちが将来のグローバルリーダーとして必要なスキルや人脈を拡げていく機会を提供するために、より一層、力を注いでいくつもりです。

学生諸君には、ぜひともそのことを念頭に、世界中の仲間や先生たちと繋がり、協力していく努力を継続してほしいと思います。ポストコロナ時代、より良い暮らしの実現のためのイノベーションは君たちの手にかかっているのですから。

君たちの健康と安全を願って

ASPIREリーグ副学長一同

共同メッセージは、オンラインの画面越しに各大学の副学長が賛同のゼスチャー(サムズアップ)をして承認されました。

協定更新の調印式

続いて、2020年7月で更新時期となるASPIREリーグの活動実施に関する協定更新の調印式を行いました。各大学の副学長が、会議中に調印を行い、画面上で協定書を掲げ承認しました。

サインした協定書を掲げる加盟大学副学長

サインした協定書を掲げる加盟大学副学長

ASPIREリーグの今後の活動について

協定書の調印式に続き、今後のリーグの活動の方向性について意見交換が行われました。まず、今年、本学で開催予定であったASPIREフォーラムがCOVID-19の感染拡大の影響を受け延期となったことを受け、2021年も本学が引き続き議長校を務め、ASPIREフォーラムをホスト校として本学で開催することを提案し、加盟大学から承認されました。

続いて、2019年度より新しく開始されたASPIRE League Partnership Seed Fund(ASPIREリーグ加盟大学間共同研究のスタートアップ支援)に応募のあった申請書の審査が行われました。

その後、韓国科学技術院よりリーグの教育プログラムの一つである学部生向け交流プログラムUndergraduate Research Academy(アンダーグラデュエイト・リサーチ・アカデミー)を、2021年度は韓国科学技術院で開催することについて提案がありました。また、ヨーロッパの理工系大学のコンソーシアムであるIDEA リーグ※2との交流で行われているサマースクールについて、今年は4つのサマースクールがオンライン開催となり、ASPIRE加盟大学学生も招待されていることの報告がありました。

本会議の議長を務めた水本理事・副学長は、充実したディスカッションが行われたことに感謝の意を表し、「2021年6月に皆様を本学にお迎えすることを今から心待ちにしています」と話し、会議を締めくくりました。

※1
ASPIREリーグ
本学が発案し、2009年に設立された科学技術の発展と人材の開発を通してアジアにおけるイノベーションのハブを形成することを目的とした、アジア地域における理工系トップ大学のコンソーシアムです。加盟大学は、清華大学(中国)、香港科技大学(中国)、南洋理工大学(シンガポール)、韓国科学技術院(韓国)と東京工業大学の5大学。東工大は、設立当初より事務局を務めています。
英語名はThe Asian Science and Technology Pioneering Institutes of Research and Education (ASPIRE) Leagueです。
※2
IDEA リーグ
デルフト工科大学(オランダ)、スイス連邦工科大学チューリッヒ校、アーヘン工科大学(ドイツ)、シャルマーズ工科大学(スウェーデン)、ミラノ工科大学(イタリア)のヨーロッパ理工系5大学で構成されたコンソーシアム。ASPIREリーグとIDEAリーグでは、2011年より各サマープログラムに学生の相互派遣を行っています。

お問い合わせ先

国際部 国際連携課

E-mail : kokuren.kik.cho@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2982

自然発症型糖尿病モデルマウスの作製に成功 膵臓再生医療の新しい移植モデル動物として期待

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要点

  • インスリン2タンパク質の104番目のアミノ酸残基を欠失
  • 重度免疫不全モデルマウスBRJマウスに遺伝子変異導入
  • インスリン治療により正常な血糖値に回復

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の粂昭苑教授、坂野大介助教、井上愛里大学院生(博士後期課程1年)らの研究グループは、熊本大学 生命資源研究・支援センターの荒木喜美教授、同大 ヒトレトロウイルス学共同研究センターの岡田誠治教授、順天堂大学大学院医学系研究科の小池正人教授らとの共同研究により、マウスのインスリン2タンパク質へのQ104del変異導入[用語1]による自然発症型の糖尿病モデルマウスを作製した(図1)。作製した糖尿病モデルマウスは遺伝的な変異により発症するため、従来の薬剤投与による糖尿病モデルよりも安定に糖尿病を発症することができる。そして、重度免疫不全モデルマウス[用語2]の系統に遺伝子変異を導入したため、ヒトiPS細胞やES細胞から作成された膵臓(すいぞう)細胞の糖尿病治療効果を評価するための細胞移植実験への活用が期待される。

この成果は7月22日付で英国の科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)」にオンライン掲載された。

図1. CRISPR/Cas9システムを用いたKuma変異をもつマウスの樹立

図1. CRISPR/Cas9システムを用いたKuma変異をもつマウスの樹立

CRISPR/Cas9システムを用いて重篤な免疫不全BRJマウスに、変異の導入を試みた。
当初狙った相同組み換え体は得られなかったが、その代わり、遺伝子修復時に起こった3塩基DNAの欠失を有するマウス系統を得た。このゲノム配列の欠失によりインスリン2タンパク質の104番目アミノ酸であるグルタミンが失われていた。

背景

膵臓β細胞[用語3]は血糖の恒常性維持のためにインスリンという内分泌ホルモンを産生分泌する。血糖値を感知し、インスリンを分泌する機能に関与するタンパク質群の遺伝子に変異があった場合に糖尿病を発症する。従来、インスリン遺伝子において、生後すぐに糖尿病を引き起こすことで知られている変異がいくつか報告されていたが、今回は、新生児糖尿病変異の原因となる新規なインスリン遺伝子変異としてQ104del変異を同定した。

一方で、糖尿病の治療には膵臓移植または膵臓内のランゲルハンス島[用語4]の移植が有効な治療手段だが、ドナー不足がその妨げになっている。そこでヒトiPS細胞やES細胞を膵臓細胞へ分化させ移植源とすることが期待されている。試験管内で作製された膵臓細胞の糖尿病治療効果を評価するには糖尿病モデル動物への細胞移植を行い、血糖値の改善効果によって評価することが有効な手法である。

糖尿病モデルマウスを作製する方法としては、薬剤を使ってβ細胞を破壊する方法がよく使用されているが、遺伝子変異糖尿病モデルの方が安定した高血糖状態を作り出せると考えた。従来からよく使われている自然発症糖尿病モデルマウスは重篤な免疫不全の系統ではないため、ヒトの細胞の移植後の生着率を上げる必要があった。そこで従来のモデルマウスと比べてさらに重篤な免疫不全モデルであるBRJマウス[用語5]のインスリン遺伝子に変異を導入した重度免疫不全糖尿病モデルを作製することにした。

研究成果

粂教授と荒木教授らは当初、ゲノム編集技術の一つであるCRISPR / Cas9システム[用語6]を使用して重度免疫不全マウスであるBRJマウスのInsulin2遺伝子[用語7]を編集し、得られたマウスのなかにインスリン2タンパク質の104番目のアミノ酸であるグルタミンが欠失したマウスを得た。このマウスは糖尿病の症状を示したことから、この変異型をKuma変異と名付けた。Kuma変異をもつマウス(Kumaマウス)は、生後4週以降に血糖値が上昇した(図2)。

図2. Kumaマウスは糖尿病を自然発症する

図2. Kumaマウスは糖尿病を自然発症する

野生型マウスとKumaヘテロ接合体の各週齢におけるオスの随時血糖。野生型マウスの血糖値は、100~200 mg/dL程度であるが、Kumaマウスでは、3週齢ごろより血糖上昇が確認された。
§p < 0.05, §§p < 0.01

得られたKumaマウスの解析により、変異インスリンタンパク質の安定性が低く、生後3週以降にKumaマウスの膵臓β細胞におけるインスリンタンパク質の産生量が減少していたことが分かった。そして、小池教授らの電子顕微鏡観察結果により、生後3週以降では、Kumaマウスの膵臓β細胞内のインスリン顆粒の数が減少していることが分かった(図3)。

図3. Kumaマウスの膵臓β細胞ではインスリン分泌顆粒が減少していた

図3. Kumaマウスの膵臓β細胞ではインスリン分泌顆粒が減少していた

5週齢オスマウスの膵臓の電子顕微鏡観察像。Kumaマウスにおいて、成熟したインスリン顆粒(黒矢頭)の数が少なくなっていた。

さらに成長とともに膵臓内のβ細胞が減少していく様子も観察された。これらの表現型の変化に伴って、インスリンの分泌する能力は失われていくが、インスリンを徐々に放出するチップをマウス体内に入れ、インスリンを投与することで高血糖を是正できることを確認した(図4)。

図4. インスリン治療による血糖値の改善効果がみられた

図4. インスリン治療による血糖値の改善効果がみられた

メスのKumaヘテロ接合体マウスにインスリン徐放チップを投与した。インスリン投与前後の血糖値を測定した。インスリン投与は8週齢から12週齢にかけて、4週間行った 。インスリン投与により、通常血糖(200 mg/dL以下)まで高血糖は低下し、インスリン投与を停止する(チップの除去)と再び高血糖となった。

これらの結果から、インスリンを分泌するiPS細胞由来の膵臓細胞を移植し、糖尿病の治療効果を評価する動物モデルとしてこのKumaマウスが有用であることが明らかになった。

今後の展開

ヒトiPS細胞から血糖値に応じてインスリンを分泌できる膵臓細胞(iPS-β細胞)を高効率に作り出すことが、世界的に可能になりつつある。今後、これらのiPS-β細胞を再生医療に利用し、長期間の治療効果を発揮できるかどうかを判断するためKumaマウスへの細胞移植実験を進めることにしている。

用語説明

[用語1] Q104del変異導入 : 104番目のアミノ酸のグルタミンを欠失した変異を導入すること。

[用語2] 重度免疫不全モデルマウス : 自然変異マウスと遺伝子改変マウスを交配することで、免疫能力をほぼなくしたマウス。異種の細胞に対する拒絶反応をほとんど起こさないため、人間の造血細胞や免疫細胞を直接導入するヒト化マウスの作出に利用される。

[用語3] 膵臓β細胞 : 膵臓の内分泌機能を担うランゲルハンス島に存在するインスリン分泌細胞のこと。細胞表面にはグルコーストランスポーターを発現し、血糖レベルに応じてグルコースを取り込み、それがシグナルとなってインスリン分泌応答が起きる。

[用語4] ランゲルハンス島 : 膵臓は、消化酵素を分泌する外分泌細胞と血糖値をコントロールするホルモンを分泌する内分泌細胞からなるランゲルハンス島から構成される。ランゲルハンス島は、血糖値を低下させるインスリンを産生分泌するβ細胞、血糖値を上昇させるグルカゴンを産生分泌するα細胞、そしてδ細胞、ε細胞、PP細胞などの内分泌細胞とランゲルハンス島内に栄養を運ぶ血管により構成される。

[用語5] BRJマウス : BALB/cマウスのRag2遺伝子及びJak3遺伝子の両方を欠損させたマウスであり、T細胞、B細胞、NK細胞が完全欠損し、NKT細胞が減少している、重度免疫不全マウス。2011年に掲載論文の著者の一人である熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センターの岡田誠治教授らによって樹立された。

[用語6] CRISPR / Cas9システム : ウイルスやトランスポゾンが細胞内に侵入した場合、細菌や古細菌で用いられる免疫適応の仕組みを利用したゲノム編集技術の一つ。ゼブラフィッシュ、マウス、ラット、線虫、植物や細菌でゲノム編集が可能。標的となるゲノム上の塩基配列と相補的な配列をもつguide RNA(crRNA:tracrRNA) に従いDNA を切断する酵素であるCas9 タンパク質がゲノム上の任意の配列を切断する。ゲノムの切断後、DNA修復が起こるが、この時に一定確率で塩基置換や欠損が起こる。今回のKuma変異はこれに由来する。また、切断された部位に相同な配列をもつドナーベクターを同時に細胞内に取り込ませることで、狙った領域の配列をドナーベクター上の配列と組み替えることができまる。

[用語7] Insulin2遺伝子 : 膵臓内分泌β細胞で、インスリンタンパク質を産生する2つの遺伝子(Insulin1とInsulin2)のうちの一つ。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Insulin2Q104del (Kuma) Mutant Mice Develop Diabetes with Dominant Inheritance
著者 :
Daisuke Sakano, Airi Inoue, Takayuki Enomoto, Mai Imasaka, Seiji Okada, Mutsumi Yokota, Masato Koike, Kimi Araki, Shoen Kume
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

教授 粂昭苑

E-mail : skume@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5812 / Fax : 045-924-5813

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

貴金属を使わないアンモニア合成の画期的技術 細野秀雄栄誉教授がオンラインで記者説明会

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記者に説明する細野栄誉教授
記者に説明する細野栄誉教授

東京工業大学は7月14日、元素戦略研究センター長の細野秀雄栄誉教授による記者説明会をオンラインで行いました。「ニッケルを使った高性能アンモニア合成触媒の開発」がテーマです。細野栄誉教授は、貴金属を使わずに温和な条件でアンモニアを合成する画期的な技術を紹介しました。テレビ会議システムを使った説明会には、11媒体の記者15名が参加し、活発な質疑応答が交わされました。

研究の背景 — アンモニア合成技術の課題解決に向けて

アンモニアは農作物の生育に必要な窒素の供給源として使われています。またアンモニアは分解すると多量の水素を発生することから、燃料電池などのエネルギー源である水素を運ぶ物質(エネルギーキャリア)としても期待されています。
1912年にアンモニアの合成技術ハーバー・ボッシュ法が開発され、農作物の増産、人口の飛躍的な増加が起こりました。しかし、ハーバー・ボッシュ法は高温(400~500℃)、高圧(100~300気圧)で反応させる必要があります。
1970年ごろから温和な条件でアンモニアを合成させる技術の開発が行われてきました。その結果、触媒としてはルテニウムナノ粒子が高い活性を示すことが明らかになっていますが、ルテニウムは貴金属です。
元素戦略研究センターでは、この課題を解決すべく豊富に存在する金属を用いたアンモニア合成技術の開発を続けてきました。

開発のポイント — 窒化ランタンとニッケルの組み合わせを発見

従来のアンモニア合成は、触媒となる金属の表面で窒素と水素を反応させていました。そのため、窒素との吸着力の高いルテニウムが使われてきました。
窒素との吸着性の低いニッケル(Ni)は、ほとんど活性を示さないことがこれまでの常識でした。しかし、窒化ランタン(LaN)上にNiナノ粒子を固定化すると、高いアンモニア合成活性を示すことを発見しました。その活性は、1気圧400℃という温和な条件で一般的なルテニウム触媒の活性よりも高いものでした。

反応のメカニズムを調べてみると、以下のようなことが起きていると考えられました(図1)。

1.
Niナノ粒子により水素が活性化される。
2.
活性化された水素と、LaNの表面に格子状にならんだ窒素原子(N)が反応する。
3.
Nが外に抜けることで空孔(窒素空孔)ができる。
4.
窒素分子(N2)が空孔に入ることで活性化する。
5.
活性化されたN2に水素原子が反応する。
6.
アンモニア(NH3)ができる。

図1. Ni/LaNによるアンモニア合成の反応メカニズム

図1. Ni/LaNによるアンモニア合成の反応メカニズム

今回の研究からは以下の新しいコンセプトを提示することができました。

  • 窒素と水素が別々の場所で活性化し反応する。
  • 窒素分子の活性化には金属は直接関与せず、窒素の空孔がその役割を担っている。
  • 単独では窒素分子を活性化できない金属でも、空孔ができるような組み合わせにより、優れた触媒になりうる。

今後の展望 — グリーンアンモニア合成を目指して

今回の研究により、貴金属を用いなくても温和な条件でアンモニアを合成できると示すことができました。今後は、より優れた触媒の開発を行い、貴金属を使わないグリーンアンモニア合成の実現を目指します。

資料

窒素空孔 : 窒化ランタン(LaN)はLa3+とN3-から形成されており、N3-が部分的に抜けた空きサイトを窒素空孔と呼ぶ。空孔ができると、電荷を補償するために電子が捕捉される。

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

光のトポロジカル特異点の生成手法を発見 新しい光制御技術の可能性

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概要

東京工業大学 理学院 物理学系の納富雅也教授は、日本電信電話株式会社と共同で、誘電体周期構造を変形させるという簡単な手法により、光のトポロジカルな特異点を自在に生成・制御できる手法を、世界で初めて理論的に明らかにしました。本成果は、レーザの偏光状態や出射方向の制御に利用可能で、光のトポロジカルな性質を利用した新しい光制御の可能性を示すものと期待されます。
本成果は2020年7月30日(米国時間)に米国科学雑誌「フィジカル・レビュー・レターズ」のオンライン版に公開されました。

なお、本研究の一部は独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成金の助成を受けて行われました。

背景

トポロジーとは、物体に開いた穴の数のように、伸長や縮小などの連続変形では変わらない幾何学的な性質を扱う概念です。この性質は構造が持つトポロジカル数と呼ばれる数で規定され、穴の数はその一例です(図1)。この数で決定される性質があれば、形状の連続変形に影響を受けない強固な性質となります。この概念を固体中でバンド構造を組む電子に対して適用し、波数空間における電子の波動関数のトポロジーが様々な新しい物理現象を導くことを示した業績に対して2016年にノーベル物理学賞が与えられ、トポロジカル絶縁体を始めとする新しい物質相や新奇な物理現象が発見されています。最近になり、このトポロジカル物性は固体中の電子だけでなく、フォトニック結晶[用語1]と呼ばれる誘電体周期構造中の光においても発現することが判明し、光のトポロジカルな物性が次々に見つかっています。この分野はトポロジカルフォトニクス[用語2]と呼ばれ世界的に活発に研究されています。

図1. トポロジカル数

図1. トポロジカル数

光のトポロジカルな現象の一つとして、光トポロジカル特異点と呼ばれるものがあります(図1)。これは光の偏光状態[用語3]が決めるトポロジカル数によって発現する状態で、特にトポロジカル数が整数の時にはBound state in the continuum (BIC)と呼ばれる特殊な状態が実現します(図2)。BICとは、本来閉じ込められないエネルギー領域にある波動が空間的に束縛されて閉じ込められる状態のことで、1929年からその存在が予言されていましたが、近年BICがフォトニック結晶中の光トポロジカル特異点として現れることが判っています。光のBICは、普通ならフォトニック結晶の外に光が漏れ出てしまうはずの周波数領域で、結晶の中に閉じ込められたモードとして出現します(図2)。

図2. フォトニック結晶における光のbound state in the continuum (BIC)

図2. フォトニック結晶における光のbound state in the continuum (BIC)

フォトニック結晶において、面に垂直方向に光が出てこられない自明なBIC(垂直方向BIC)が存在することは以前より知られていましたが、最近になり斜め方向に光が出てこられない非自明なBIC(斜め方向BIC)が存在することがわかり、新奇な光閉じ込め方法として注目されています(図2下)。このBICモードに利得を与えるとレーザ発振が可能であり、閉じ込め方向にレーザ光が出射されることが知られています。これまでに、垂直方向の自明なBICを用いたレーザ発振が実現されています。また、斜め方向の非自明なBICでは斜め方向にレーザ発振可能であり、かつ発振する角度を変更可能であると考えられています。さらに、斜め方向のBICは、閉じ込めモードであるにもかかわらず面内に有限な群速度を持つなどの新奇な性質を持っており、広く興味を持たれて活発な研究が行われています。

ところが、これまで発見された非自明な斜め方向BICは、ある構造条件で偶然発現するものしか知られておらず、その生成メカニズムは不明で、計画的に生成できる手法は知られていませんでした。つまり、実際に数値計算を行ってみないと非自明BICが存在するかどうかわからず、またフォトニック結晶の穴の大きさ・厚さ・屈折率などの構造パラメーターをどのように調節すれば非自明 BICが生成できるか明らかにされておらず、非自明なBICを実現する決定論的な手法が存在しませんでした。

研究成果

今回NTTと東工大は、誘電体周期構造(=フォトニック結晶)を変形して対称性を変化するという非常に簡単な方法で、非自明なBICとなる光トポロジカル特異点を必ず生成できる方法を、世界で初めて見出しました。本成果では、誘電体薄膜に丸い穴が三角格子状に周期的に開けられたフォトニック結晶を用いますが、この構造はトポロジカル数が-2の自明なBIC(垂直方向BIC)を持つことが知られています(図3中央)。この構造を図3のように横方向または縦方向に引き延ばすことによって、自明な垂直方向の自明BICが二つに分裂して、トポロジカル数が-1の非自明な斜め方向BICが対で生成されることを理論的に示しました(図3左右)。また、フォトニック結晶の穴の形状を丸から三角形に変形することによって、トポロジカル数が半整数となり円偏光モードとなる別種のトポロジカル特異点を生成することも発見しました(図4)。これらの操作は、元々6回回転対称性[用語4]を持っていた三角格子結晶の対称性を壊すことに相当し、2回回転対称性にすると斜め方向BICが発現し、3回回転対称性にすると円偏光モードが発現します。また、これらトポロジカル特異点をレーザ等の光デバイスに応用した場合の、光出力の方向は変形の度合いによって可変となります(図5)。つまり、構造の対称性の簡単な操作により、様々なトポロジカル特異点を自由に生成、消滅でき、その方向や偏光の特性を制御できることを示しています。

図3. 対称性の操作による垂直方向BICの分裂と斜め方向BICの生成

図3. 対称性の操作による垂直方向BICの分裂と斜め方向BICの生成

図4. フォトニック結晶の構造と光トポロジカル特異点の変化。数字はトポロジカル数。

図4. フォトニック結晶の構造と光トポロジカル特異点の変化。数字はトポロジカル数。

図5. 光トポロジカル特異点を用いた光制御のイメージ図。フォトニック結晶の対称性の操作により、トポロジカルな性質を持つ光ビームを様々な方向に出射可能となる。

図5. 光トポロジカル特異点を用いた光制御のイメージ図。
フォトニック結晶の対称性の操作により、トポロジカルな性質を持つ光ビームを様々な方向に出射可能となる。

従来の手法では、非自明な斜め方向BICは、フォトニック結晶を構成する材料の屈折率に応じて構造パラメーターが特定の領域にある場合のみしか存在せず、フォトニック結晶の構造を調節する必要がありました。それに対し、今回の手法では材料の屈折率や構造パラメーターの値に依らず、6回回転対称性を持つ構造に変形を加えることで必ず非自明なBICが生成可能となるため、幅広い材料に対して自在に光トポロジカル特異点を形成することが可能となります。

原理のポイント

1. トポロジカル数-2の自明な垂直方向BICを持つ構造をベースとして用いる

垂直方向 BICのトポロジカル数はフォトニック結晶の持つ回転対称性によって決まります。多くの場合垂直方向BICのトポロジカル数は±1ですが、6回回転対称性を持つフォトニック結晶ではトポロジカル数が-2の垂直方向BICが存在できることが知られています(図3中央)。本成果ではこのトポロジカル数が-2の垂直方向BICに注目しました。

2. 6回回転対称性を壊す変形を施す

本成果では、1.のトポロジカル数が-2の垂直方向BICに6回回転対称性を壊す変形を加えることにより、非自明なトポロジカル特異点を形成します。従来、自明な垂直方向BICは、非自明な斜め方向BICとは成因が異なるため、垂直方向BICの角度は変更不可能と考えられていました。しかしこれはトポロジカル数が±1の場合のみであり、トポロジカル数が-2の垂直方向BICは、6回回転対称性を壊す変形によってBICの角度が変更可能であることを今回発見しました(図3左右)。これはトポロジカル数が-2の自明なBICが2つのトポロジカル数が-1の非自明なBICに分裂することを意味します。特異点が分裂する際にトポロジカル数の合計は保存することが知られていることから、トポロジカル数が-2のBICを用いることが大事なポイントとなります。自明なBICから非自明なBICを生成できること自体、これまで知られておらず本成果が初めて明らかにしたことです。自明なBICの存在とそのトポロジカル数はフォトニック結晶の対称性のみで決定され、材料の屈折率や構造パラメーターによりません。従ってこの手法を用いることでフォトニック結晶の構造パラメーターに依らず、フォトニック結晶を変形させるだけで必ず非自明なBICを生成することができます。

今後の展開

本手法を用いることで、非自明な斜め方向BICを幅広い材料や構造に対して容易に生成できることになるため、非自明なBICに基づく物理現象探索やデバイス応用に貢献できると考えています。特に、化合物半導体等の光利得を持った材料に対して本手法を適用することによって、図5のように出射方向やトポロジカルな性質に起因する特殊な偏光状態を自在に制御できるレーザなどの発光デバイスが実現できると考えられ、フォトニック結晶のトポロジカルな性質を反映した光出力を自在に制御できる新しい光制御デバイスの可能性も期待できます。

用語説明

[用語1] フォトニック結晶 : 屈折率の空間分布が光の波長と同程度の周期となっている構造を一般にフォトニック結晶と呼ぶ。多くの場合、半導体に数百ナノメートル程度の周期構造を人工的に形成したものである。フォトニック結晶中の光はバンド構造を形成し、固体中の電子と同じくバンド理論で記述される。

[用語2] トポロジカルフォトニクス : フォトニック結晶[用語1]中の光のバンド構造を反映した光のモードのトポロジカルな性質に関する研究を指す。

[用語3] 偏光状態 : 光の電場ベクトルの振動方向を表す。光の電場ベクトルは進行方向と垂直方向を向いており、電場の振動方向が一定である場合直線偏光と呼ばれる。電場の振動方向が円を描く場合は円偏光と呼ばれ、電場の振動方向が楕円を描く場合は楕円偏光と呼ばれる。

[用語4] 回転対称性 : 図形をある点を軸に360/n度回転させたときに元の図形と一致する場合、その図形はn回回転対称性を持つ。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters (2020)
論文タイトル :
Generation and Annihilation of Topologically Protected Bound States in the Continuum and Circularly Polarized States by Symmetry Breaking
著者 :
Taiki Yoda and Masaya Notomi
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 物理学系

教授 納富雅也

E-mail : notomi@phys.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3831

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東京工業大学 総務部 広報課

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日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当

E-mail : science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
Tel : 046-240-5157


Ka帯衛星通信向け無線ICの開発に成功 安価な集積回路で実現、無線機の小型・低コスト化に貢献

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要点

  • Ka帯衛星通信機能を安価で量産可能なシリコンCMOSチップに集積化
  • 2系統の受信回路を内蔵することで、二偏波MIMOと周波数多重による高速・大容量通信が可能
  • 高速衛星通信向け無線機の小型・低コスト化を実現

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の岡田健一教授と白根篤史助教らの研究グループと、株式会社ソシオネクストの研究グループは、今後見込まれる衛星通信機器の急速な市場拡大に対応できる、Ka帯[用語1]衛星通信無線機用の無線ICを開発することに成功した。

この無線ICでは世界で初めて、安価で量産が可能な標準シリコンCMOS(相補型金属酸化膜半導体)プロセスによってKa帯衛星通信向けトランシーバを集積した。この低雑音かつ高線形性で、低面積のトランシーバを用いることで、従来多くの個別の電子部品で構成されていたKa帯無線機を1チップのCMOS無線ICで実現できた。これはKa帯無線機の大幅な小型・低コスト化につながる成果である。さらに、従来の2倍の2系統の受信機を搭載することで、二偏波MIMO[用語2]および周波数多重[用語3]を可能にし、さらなる高速・大容量化を達成した。

本研究成果は、低軌道・中軌道衛星コンステレーション[用語4]を利用した衛星通信網や、5G[用語5]への導入が検討されている非地上系ネットワークの利活用を加速させるものである。

研究成果の詳細は、8月4日(米国太平洋時間)からオンライン開催される国際会議RFIC 2020「Radio Frequency Integrated Circuits Symposium 2020」で発表される。

背景

近年、これまでの放送衛星や静止軌道衛星に加えて、低軌道・中軌道衛星のコンステレーションを利用した全世界に向けた衛星通信網の構築が本格化してきている。また、5Gの次期仕様であるRelease17では、非地上系ネットワークとして、こうした低軌道から静止軌道までを含めた衛星の利活用の検討が始まっている。さらに、特に地上側で使用される衛星通信用無線機には、全世界をカバーする高速インターネット通信網、IoTや車載通信、災害時の緊急通信といった幅広いサービスへの対応が期待されている。こうした流れから、衛星通信用無線機の高速・大容量化、および低コスト化が強く求められている。

課題

現在、地上で利用されている衛星通信用無線機のなかでも、特に高速・大容量での通信が可能であるKa帯無線機は、その通信機能を実現するため、多くの電子部品を組み合わせて構成されている。そのため、無線機の大型化や、部品点数の増加による消費電力の増加、コストの増加という課題があった。モバイル端末サイズの小型衛星通信用無線機は現時点でも存在するが、そうした無線機は比較的低い周波数帯であるL帯[用語6]を利用しており、狭い周波数帯域幅しか利用できないため、高速・大容量での無線通信の実現が難しい点が問題になっていた。

研究成果

本研究では、Ka帯衛星通信機能をCMOSチップに集積化することで、これまで6~9個のICを用いて実現されてきた通信機能を、1個の無線ICで実現することに成功した。これにより、大幅なサイズの縮小、消費電力の削減、コストの低減を実現することが可能になる。

今回開発した無線ICでは、インダクタの相互結合を利用した低雑音増幅器(LNA)および干渉波を打ち消す回路を提案し、低雑音かつ高線形性で干渉波に強いトランシーバを実現した。さらに、トランシーバの構成としてダイレクトコンバージョン方式を用いた。この方式は、中間周波数を持つ従来のスーパーヘテロダイン方式と比べて中間周波数帯のフィルタ等のコンポーネントを削減できるため、小面積でトランシーバを実現でき、集積化に適している。

さらに本無線ICは、高速・大容量のダウンリンクの通信を実現するために、2系統の受信機を持ち、二偏波MIMOおよび周波数多重に対応している。この受信機では、二偏波MIMOモードと周波数多重モードのいずれかを、内蔵するスイッチで選択できる(図1)。二偏波MIMOモードでは、右旋円偏波および左旋円偏波の2種類の偏波を利用することで、最大で2倍の通信容量を実現可能である。一方、周波数多重モードでは、キャリア周波数の異なる2つの変調信号を同時に受信可能であり、通信に利用する帯域幅を拡大して、通信容量を増大させることができる。

図1. 内蔵する2系統の受信機によって(a)二偏波MIMOおよび(b)周波数多重に対応

図1. 内蔵する2系統の受信機によって(a)二偏波MIMOおよび(b)周波数多重に対応

本無線ICの試作は、65 nmのシリコンCMOSプロセスを用いて行い、送信機1系統と受信機2系統を3 mm×3 mmの小面積に搭載することに成功した(図2)。試作した無線ICの測定を行い、通信特性を評価したところ、送信機は、Ka帯衛星通信のアップリンクの割当周波数である27-31 GHzで動作可能であり、飽和出力電力[用語7]は19 dBmだった。また、シンボルレートを150 Mbaudとした場合、256APSK変調[用語8]を用いることで1.2 Gbpsのデータレートを達成した。一方で受信機は、ダウンリンクの割当周波数である17-21 GHzの周波数範囲で動作可能であり、受信感度を決定する雑音指数は5.0 dB、他の衛星等の干渉波に対する性能指標となる線形性IIP3[用語9]は0.2 dBmを達成した。

図2. 開発した無線ICのチップ写真(CMOS 65 nmプロセス)

図2. 開発した無線ICのチップ写真(CMOS 65 nmプロセス)

今後の展開

今回開発した無線ICは、通信機能をCMOSチップに集積化することで、これまで多くの部品から構成されてきたKa帯衛星通信用無線機の小型・低コスト化を牽引するものである。今後は、基地局を建設するのが困難な地域や海上での高速・大容量通信をはじめ、IoT、車載通信、5Gの次世代仕様における非地上ネットワークでの利用をターゲットとして、この無線ICの実用化を目指していく。

用語説明

[用語1] Ka帯 : 一般には26-40 GHzまでの周波数帯域を示すが、衛星通信においては、衛星通信用に割り当てられているアップリンクの27-31 GHz、ダウンリンクの17-21 GHzの周波数帯を指す。

[用語2] 二偏波MIMO : 右旋円偏波と左旋円偏波の2つの直交した偏波を用いるMIMO(multiple input multiple output)。複数の入出力を利用することで、帯域あたりの伝送速度を向上させることができる。

[用語3] 周波数多重 : 複数のキャリア周波数の変調信号を同時に用いて通信を行う技術。

[用語4] 衛星コンステレーション : 複数の衛星の一群・システム。SpaceX社のStarlinkでは400台以上の衛星群がインターネット網を構成する。

[用語5] 5G : 第5世代移動通信システム。移動通信システムは第1世代のアナログ携帯電話から始まり、性能が向上するごとに世代、つまりジェネレーションが変わる。「G」はジェネレーション(Generation)の頭文字。現在の携帯電話等は4Gが主流であり、5Gは2020年内の本格的な実用化に向けた開発が行われている。

[用語6] L帯 : 一般には0.5-1.5 GHzまでの周波数帯域を示すが、衛星通信においては、衛星通信用に割り当てられている1.2-1.7 GHzの周波数帯を指す。

[用語7] 飽和出力電力 : 増幅器が最大で出力できる電力。

[用語8] 256APSK変調 : 256 Amplitude Phase Shift Keying(256値振幅位相)変調。振幅と位相双方に情報を乗せて伝送する変調方式。1シンボルあたり8 bit 256値の情報を乗せることができる。

[用語9] IIP3 : Third Order Input Intercept Point (3次入力インターセプトポイント)。基本波成分と3次の歪成分の電力が交わるときの入力電力。受信機においては、どのくらい強い干渉波や強い所望信号に対応できるかを示す指標。

発表予定

この成果は8月4日(米国太平洋時間)からバーチャル開催される国際会議RFIC 2020(Radio Frequency Integrated Circuits Symposium 2020)において、「A CMOS Ka-Band SATCOM Transceiver with ACI-Cancellation Enhanced Dual-Channel Low-NF Wide-Dynamic-Range RX and High-Linearity TX (隣接チャネル干渉波キャンセル技術を用いた低雑音かつ広ダイナミックレンジ受信機と高線形送信機を持つKa帯CMOS衛星通信用無線トランシーバ)」の講演タイトルで、現地時間8月4日17時30分から発表される。

講演セッション:
Tu2B: 5G Focus Session on Millimeter-Wave Components and Systems
講演時間:
8月4日17時30分(米国太平洋時間)
講演タイトル:
A CMOS Ka-Band SATCOM Transceiver with ACI-Cancellation Enhanced Dual-Channel Low-NF Wide-Dynamic-Range RX and High-Linearity TX (隣接チャネル干渉波キャンセル技術を用いた低雑音かつ広ダイナミックレンジ受信機と高線形送信機を持つKa帯CMOS衛星通信用無線トランシーバ)
会議Webサイト:
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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

助教 白根篤史

E-mail : shirane@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3764 / FAX : 03-5734-3764

株式会社ソシオネクスト

正木俊一郎

E-mail : masaki.shunichiro@socionext.com
Tel : 080-9815-0944

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

株式会社ソシオネクスト 経営企画室

Tel : 045-568-1006

製品に関するお問い合わせouter

工大祭2020の開催中止について

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東京工業大学大岡山キャンパスで2020年10月10日(土)、11日(日)に開催を予定していた工大祭2020は、新型コロナウイルス感染拡大の状況を受け、開催を中止することとしました。学生組織の工大祭実行委員会と東工大との協議の結果、来場者および参加団体の皆様の健康・安全面を第一に考慮し、中止の決定となりました。

工大祭2020を楽しみにしてくださった皆さまには大変心苦しいお知らせとなりますが、なにとぞご理解賜りますようお願い申し上げます。

詳しくは工大祭2020公式サイトouterをご覧ください

お問い合わせ先

工大祭実行委員会

E-mail : info@koudaisai.jp

複雑な工法を用いず多孔質β-二酸化マンガン微粒子触媒を合成 触媒粒子のナノ空間が化学反応を促進、触媒や電池の電極材料の効率的な生産に貢献

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要点

  • 多孔質β-二酸化マンガンナノ粒子触媒の簡便かつ高効率な合成手法を開発
  • 既存触媒の9倍の表面積をもつβ-二酸化マンガン触媒の生成機構を解明
  • 微粒子触媒のナノ空間がバイオポリマー原料の合成反応などを促進

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の鎌田慶吾准教授と原亨和教授らは、多孔質材料を作る際に必要な鋳型分子[用語1]を一切使わず、大きな表面積をもつナノ粒子サイズ[用語2]β-二酸化マンガン(β-MnO2[用語3]からなるメソ多孔体(メソポーラス材料)[用語4]を合成することに成功した。この多孔質ナノ粒子触媒を用い、合成中間体として有用なカルボニル化合物[用語5]や再生可能なバイオマスからプラスチック原料を合成[用語6]した。

従来の水熱法[用語7]により合成したβ-MnO2は表面積が小さいため応用研究への展開が困難であり、新しいナノ粒子合成手法の開発が望まれていた。今回の研究では市販のマンガン原料の反応から得られる前駆体に着目し、大きな表面積と均質なメソ孔をもつβ-MnO2ナノ粒子を簡便かつ効率的に合成することが出来た。本研究で得られたβ- MnO2は、従来の水熱法で合成したものより表面積が大きく比較的分子サイズの大きい有機化合物の選択的反応場となるため、従来の触媒では困難であった有機化合物の合成への応用が期待される。

本技術では、化石資源を使わない化成品の製造やリチウムイオン電池の電極への応用などが期待され、地球温暖化の原因である二酸化炭素の排出低減に直結する効果が期待される。

研究成果は2020年7月31日(日本時間)に米国科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces (エーシーエス・アプライドマテリアルズ・アンド・インターフェイシーズ)」オンライン速報版で公開された。

研究成果

鎌田准教授と原教授らはマンガン酸化物の合成条件が構造や表面積に与える影響を詳細に検討し、特殊な鋳型分子を用いずにメソ孔というナノメートル(nm)サイズの空間をもつβ-MnO2ナノ粒子を簡便に合成できることを明らかにした(図1)。この成果は触媒や電極材料として有望であるにも関わらず高表面積化が困難だったβ-MnO2の機能開拓を大きく促進する新しい合成手法として有効である。

図1. β-MnO2微粒子触媒の粒子内のナノ空間における化学反応促進効果の模式図。

図1. β-MnO2微粒子触媒の粒子内のナノ空間における化学反応促進効果の模式図。

具体的には市販のマンガン原料である過マンガン酸イオン(MnO4)とマンガン2価(Mn2+)塩との反応で生成した低結晶性のMn4+層状酸化物前駆体(以下“前駆体”)の熱処理により得られたメソ孔(細孔の直径が2~50 nm)をもつβ-MnO2ナノ粒子が、バイオポリエステルの原料やカルボニル化合物への酸化反応を促進する固体触媒として機能することを発見した(図2)。

図2. テンプレートを一切用いない層状前駆体の熱処理によるメソ細孔ポーラスβ-MnO2ナノ粒子の合成スキームと触媒反応への応用。

図2.
テンプレートを一切用いない層状前駆体の熱処理によるメソ細孔ポーラスβ-MnO2ナノ粒子の合成スキームと触媒反応への応用。

鎌田准教授と原教授は石油などの有限資源や貴金属触媒を一切使わずにバイオマス資源からポリエステルの原料を効率的に合成できるβ-MnO2ナノ粒子触媒を開発し、昨年1月に発表した[参考文献1]。しかし、このナノ粒子触媒の合成過程は不明瞭で、さらに高活性なβ-MnO2触媒の開発には詳細な生成機構の解明が必要だった。そこで合成条件が酸化マンガンの構造に及ぼす効果を検討し、低結晶性の層状構造をもつ前駆体が生成すること、また前駆体生成時のpH(水素イオン指数)がβ-MnO2の形態と細孔構造に大きく影響することを明らかにした。

低pH領域で得られた前駆体からはスリット状の細孔をもつ板状粒子のβ-MnO2(以下“β-MnO2-板状粒子”)が、弱酸性領域で得られた前駆体からはインクボトル形状の細孔をもつ球状粒子のβ-MnO2(以下“β-MnO2-球状粒子”)が得られた。これらメソポーラスβ-MnO2の比表面積は100–122 m2/gとなり、従来の水熱法により合成した細孔をもたないナノサイズのロッド状粒子の集合体(以下“β-MnO2-水熱法”)の表面積(14 m2/g)よりも大きい値だった(図2)。

図3. (上)酸化反応における触媒性能の比較。(下)大きい分子と小さい分子の酸化反応における反応速度の比較。

図3.
(上)酸化反応における触媒性能の比較。(下)大きい分子と小さい分子の酸化反応における反応速度の比較。

これらメソポーラスβ-MnO2(“β-MnO2-板状粒子”、“β-MnO2-球状粒子”)は、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)からバイオプラスチックモノマーである2,5-フランジカルボン酸(FDCA)への酸化反応、および芳香族アルコール類から対応するカルボニル化合物への変換反応に対して“β-MnO2-水熱法”よりも優れた固体触媒として機能した(図3(上))。

特に、9 nm程度の狭い細孔分布をもつβ-MnO2-球状粒子を用いた場合、4~10 nm付近に幅広の細孔分布をもつβ-MnO2-板状粒子や細孔のないβ-MnO2-水熱法よりも、大きなアルコール分子の酸化反応を促進することが明らかとなった(図3(下))。このことはβ-MnO2-球状粒子のもつ均質なナノメートルサイズの空間が化学反応を促進する反応場として機能していることを示している。

背景と研究の経緯

ナノメートルサイズで構造制御された材料は、その構造に由来した特異的な機能により様々な分野で注目を集めている。2~50 nmの範囲に細孔径分布をもつメソ多孔体(メソポーラス材料)は大きな細孔をもつため吸着材や触媒への応用展開だけでなく電気的・磁気的・光学的な特性を利用した応用への期待も高まっている。一般的には、鋳型分子を用いたテンプレート法より合成され、優れた機能をもつメソポーラス材料が数多く報告されている。

図4. 一般的なテンプレート法によるメソ多孔体合成スキーム。

図4. 一般的なテンプレート法によるメソ多孔体合成スキーム。

二酸化マンガンは多様な結晶構造や酸化状態をもつため、触媒・エネルギー貯蔵材料・磁性体・センサーなど幅広い用途をもつ重要な機能性酸化物材料である。β-MnO2は様々な結晶構造の中で熱力学的に最も安定であるにも関わらず、他のマンガン酸化物からの変換反応に大きなエネルギーを必要とするため、高い反応温度や長い反応時間を要する水熱合成が用いられ、表面積が小さくなることが知られていた。テンプレート法を用いることで表面積の大きいメソポーラスβ-MnO2材料を合成可能であるが、高価で特殊な試薬の使用やテンプレートの除去などを伴う多段プロセスが必要だった(図4)。

このような研究背景のもと、簡便かつ効率的な高表面積をもつ多孔性β-MnO2ナノ粒子の合成に着手した。これまで注目されていなかった前駆体が低結晶性の層状構造であること、前駆体合成時のpHと層間金属量が“結晶構造・粒子の形態・細孔構造”を決定する重要な因子であることを実験的に明らかにした。テンプレートを用いることなく大きな表面積をもつメソポーラスβ-MnO2ナノ粒子を合成し固体触媒として利用した例はこれまでになく、今回の研究が初めての報告例となる。

今後の展開

今回開発したメソポーラスβ-MnO2ナノ粒子触媒は、バイオポリエステルのモノマー合成反応だけでなく、その特異的なナノ空間が比較的大きな分子の触媒反応に有効である。そのため、高付加価値な化成品(ファインケミカルズ)の合成反応やワンポット合成反応[用語8] [参考文献2]といった液相での触媒反応や、その高い酸化力を生かした有害物質の完全酸化除去といった気相での触媒反応など、幅広い化学反応へ適用できる可能性が高い。さらに、MnO2はスーパーキャパシタやリチウムイオン電池の電極材料[参考文献3]としても多くの研究がなされており、触媒以外の広範な応用用途展開も期待される。

今回の研究結果はMnO2のようなありふれた金属酸化物であってもその生成機構の本質を追求することで、機能を大きく向上させることができることを示している。今後、層状構造前駆体の層間金属カチオンを制御し様々なチャネル構造をもつマンガン酸化物合成にも応用することで、触媒機能の向上や様々な反応への展開だけでなく、構造特異的な高効率触媒反応開発に大きく貢献することが期待される。

用語説明

[用語1] 鋳型分子 : 多孔性の固体材料を液相で調製する手法(テンプレート法)で鋳型として規則的な微細構造を作り出すために用いられる、界面活性剤(ソフトテンプレート)あるいは微粒子やゼオライト(ハードテンプレート)などのこと。テンプレートとも呼ばれる。鋳型として使用した後に、熱処理や試薬による処理で取り除く必要がある。

[用語2] ナノ粒子サイズ : ナノメートル(nm)は100万分の1ミリメートル(mm)の大きさを有する粒子サイズ

[用語3] β-二酸化マンガン : 様々な結晶構造をもつMnO2の中の一種で、一次元の(1×1)のチャネル構造をもつ。優れた酸化力をもつため、酸化触媒として有用である。[参考文献1、2]結晶性MnO2はMnO6八面体ユニットが頂点共有あるいは稜共有することで、様々なトンネル構造や層状構造を形成する。

[用語4] メソ多孔体 : 2~50 nm(メソ孔)の範囲に細孔径分布をもつ多孔性材料のことであり、メソポーラス材料とも呼ばれる。既存のミクロ多孔体では困難とされる比較的分子サイズの大きい有機化合物の選択的反応場として期待されている。

[用語5] カルボニル化合物 : −C(=O)−で表される官能基をもつ有機化合物。カルボニル炭素が求核剤の攻撃を受けて付加反応を起こすため、様々な化合物合成の中間体として有用である。

[用語6] バイオマスからプラスチック原料を合成 : ここでは、ポリエチレンテレフタレート(PET)から代替えが期待されているポリエチレンフラノエート(PEF)の原料である2,5-フランジカルボン酸(FDCA)を再生可能なバイオマス由来の5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)から合成する反応のことをいう(下図)。[参考文献1]

バイオマスからプラスチック原料を合成

[用語7] 水熱法 : 高温高圧の熱水中で化合物を合成あるいは結晶成長する手法。

[用語8] ワンポット合成反応 : 複数の反応物を同一の反応容器内で反応させ、一挙に生成物を得る合成手法。多段階合成プロセスで行う中間体生成物の単離・精製などを必要せず、消費エネルギーや試薬を最小限にとどめることができる。

参考文献

[参考文献1] 貴金属触媒を使わずバイオマスからプラスチック原料を合成(東京工業大学プレスリリース:2019年1月8日付け)

[参考文献2] E. Hayashi, Y. Yamaguchi, Y. Kita, K. Kamata, M. Hara, "One-pot Aerobic Oxidative Sulfonamidation of Aromatic Thiols with Ammonia by a Dual-functional Beta-MnO2 Nanocatalyst", Chem. Commun. 2020, 56, 2095–2098.
DOI: 10.1039/c9cc09411c outer

[参考文献3] Y. Ren, A. R. Armstrong, F. Jiao, P. G. Bruce, "Influence of size on the rate of mesoporous electrodes for lithium batteries", J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 996–1004.
DOI: 10.1021/ja905488x outer

謝辞

本成果は、JACI(新化学技術推進協会)の第7回新化学技術研究奨励賞とJSPS(日本学術振興会)の基盤研究Bの研究支援によって得られた。

  • 研究開発課題名:
    「マンガン酸化物触媒の構造制御に基づく高効率な酸化的バイオモノマー合成反応系の構築」
  • 研究代表者:
    東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
    准教授 鎌田慶吾
  • 研究開発実施場所:
    東京工業大学
  • 研究開発課題名:
    「金属とオキソアニオンの共同作用を利用した高効率触媒反応系の開発」
  • 研究代表者:
    東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
    准教授 鎌田慶吾
  • 研究開発実施場所:
    東京工業大学
  • 研究開発期間:
    2018年4月~2021年3月

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル :
Template-free Synthesis of Mesoporous β-MnO2 Nanoparticles: Structure, Formation Mechanism, and Catalytic Properties
著者 :
Yui Yamaguchi, Ryusei Aono, Eri Hayashi, Keigo Kamata, Michikazu Hara
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

准教授 鎌田慶吾

E-mail : kamata.k.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5338 / Fax : 045-924-5338

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東京工業大学 総務部 広報課

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300 GHz帯無線トランシーバの省電力化に成功 5Gの先を見据えた超高速無線通信を小型・低コストICで実現

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要点

  • 従来の4分の1以下の消費電力で次世代300 GHz帯無線トランシーバを実現
  • 新たに考案したミキサ回路により低コスト化・省面積化・省電力化を達成
  • スマートフォン等のモバイル機器に搭載可能

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の岡田健一教授らと日本電信電話株式会社の研究グループは、5G[用語1]で用いられる28GHz帯の10倍高い周波数である300 GHz帯[用語2]を用いる超高速無線通信トランシーバの開発に成功した。

この無線トランシーバは、34 Gbps(ギガビット/秒)の高速な無線通信を、送信・受信合わせて、わずか410 mWの低消費電力で実現できる。新たに考案した高利得なミキサ回路[用語3]を採用することで、安価で量産が可能なシリコンCMOSプロセス[用語4]による製造を可能とした。

低コスト化・省面積化・省電力化が達成できたことにより、スマートフォン等のモバイル端末への搭載が可能となった。5Gの次の世代の無線通信システムの実用化を加速させる成果である。

研究成果の詳細は、8月4日(米国太平洋時間)からオンライン開催される国際会議IMS 2020「International Microwave Symposium 2020」で発表する。

背景

2020年3月に国内で5Gのサービスが開始された。その一方で、早くも5Gの次の世代の無線通信に関する研究が活発に行われている。より高速・大容量な無線通信を実現するために、5Gにおけるミリ波帯よりもさらに10倍以上高い周波数帯である300 GHz帯の利用が期待されている。

5Gでは一般に28GHz帯の周波数を用いることで最大10 Gbpsの通信速度を実現可能である。そこからさらに周波数を上げ300 GHz帯を用いることにより、利用できる通信帯域幅を増やし、最大で300 Gbpsを超えるような無線通信も夢ではなくなってきた。300 GHz帯無線機の早期実用化に向け、小型・低コスト化、そして将来モバイル端末にも搭載できるような省電力化技術が強く求められている。

課題

コスト面で優位なシリコンCMOSプロセスを用いた300 GHz帯無線機は、これまでにも発表されてきたが、消費電力および回路面積の削減が難しいという問題があった。これは、300 GHz帯ではシリコンCMOS上で増幅器を実現することが困難で、この制約のもと無線機の出力電力を向上させるには、小さな出力電力の回路を複数用いて、その出力を足し合わせる必要があるためである。

その結果、無線IC上に搭載されるトランシーバの数が増大し、消費電力および面積の増大を招いていた。一方で、より高周波特性の優れたインジウムリン(InP)などの化合物半導体を用いることで、300 GHz帯の増幅器を実現することも可能であるが、集積化において課題が残る。

研究成果

本研究では、新たに高利得なミキサ回路を考案することで、シリコンCMOSプロセスにおいても、省面積かつ低消費電力で動作する無線トランシーバの開発に成功した。今回開発した無線トランシーバの全体構成を示す(図1、2)。送信機、受信機ともに新たに開発したミキサ回路を用いることで、アンテナとミキサの間に増幅器を搭載することなく、無線通信に必要な高い信号対雑音比(SNR=signal-noise ratio)を実現できる。

図1. 開発した300 GHz帯無線トランシーバの全体構成

図1. 開発した300 GHz帯無線トランシーバの全体構成

図2. 開発した300 GHz帯無線機IC(プリント基板上に実装)

図2. 開発した300 GHz帯無線機IC(プリント基板上に実装)

従来のミキサでは、中間周波数帯の変調信号と周波数変換に用いるローカル信号を同じ端子から入力しているため、トランジスタの電圧電流変換の非線形性を利用する方式で周波数変換を行っており、ミキサ回路の利得(電気回路における入力と出力の比)の向上が困難だった。また両方の信号に対してインピーダンス整合[用語5]をとる必要があるために中間周波数とローカル信号周波数を同じ周波数帯にする必要があり、変調波信号とローカル信号双方に対して100 GHzを超える増幅器が必要だった。

増幅器の消費電力は周波数に応じて増大するため、このことが、従来の無線トランシーバの大きな消費電力の一因となっていた。今回、新たに変調信号とローカル信号[用語6]を異なる端子から入力するようなミキサ回路構成を考案した。このような構成により、トランジスタのスイッチングを利用する方式で周波数変換が可能になり、従来よりもミキサ回路の利得を約2倍向上させることに成功した。また本方式では、中間周波数[用語7]は100 GHz以下に設定することができるため、消費電力を大幅に削減することが可能となる。

開発した300 GHz帯無線トランシーバをシリコンCMOS 65nmプロセスを用いて試作を行い(図3)、300 GHz帯における無線通信特性の測定評価を通して提案技術の有効性を確認した。トランシーバは、IEEE802.15.3d[用語8]の無線規格において規定されるスペクトルマスクを278GHzから304GHzの周波数において満たしており、QPSK[用語9]から16QAM[用語10]の変調方式に対応可能である。

図3. 試作した無線トランシーバICの写真

図3. 試作した無線トランシーバICの写真

最大の通信速度は34 Gbpsであり、そのときの消費電力は、送信機・受信機合わせて410 mWとなり、シリコンCMOSの300 GHz帯トランシーバの先行研究に対して4分の1以下の省電力化を達成した。また複数のトランシーバを用いた電力合成を必要とせず、1系統のトランシーバのみで構成できるため、チップ面積はトランシーバ全体で3.8 mm2と省面積で実現できた。

今後の展開

今回開発した300 GHz帯無線トランシーバは、シリコンCMOSプロセスを用い、省電力化および省面積化を実現した。省電力化は無線機の小型化、さらにはモバイル端末への搭載を可能にし、CMOSプロセスによる省面積な無線ICは、無線機の低コスト化につながる。本研究成果を基に、さらなる高速化を図り、次世代の100 Gbpsを超える超高速・大容量な300 GHz帯無線通信の実用化を目指して開発を進めていく。

用語説明

[用語1] 5G : 2019年に展開を開始した、国際的な移動通信ネットワークの第5世代技術標準。現在ほとんどの携帯電話に用いられている第4世代移動通信システム(4G)ネットワークの後継の規格である。5Gネットワークの主な利点の一つは、より大きな帯域幅を持つことであり、さらなる高速化によって、最終的には10 Gbps(ギガビット/秒)以上の通信速度を目標としている。既にサービスを開始している5Gの移動通信のほとんどは従来技術の延長であり、4G携帯電話と同じかわずかに高い、6 GHz程度までの限られた帯域の周波数範囲を使用している。一方で、高度な技術が必要とされる、ミリ波を利用した5Gシステムも活発に研究されており、新たなテクノロジーの突破口となることが期待されている。

[用語2] 300 GHz帯 : 現在5Gに割り当てられている28 GHzの周波数帯の10倍以上高い周波数帯で、最大で約70 GHzの帯域幅を利用することができるため、超高速無線通信の実現が期待されている。

[用語3] ミキサ回路 : 無線トランシーバにおいて、送信するために所望の周波数帯まで周波数を上げたり、受信のために中間周波数帯まで周波数を下げたりする回路。

[用語4] シリコンCMOSプロセス : CMOSプロセスはN型とP型のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)を相補的に用いた集積回路であり、バイポーラプロセスと比較し消費電力の削減と高い集積率を実現したプロセスである。近年の集積回路はほぼCMOSプロセスとなっている。

[用語5] インピーダンス整合 : 最大の電力を負荷に伝送するために、入力と出力のインピーダンスを合わせること。

[用語6] 変調信号とローカル信号 : 変調信号とは、無線通信される情報をもつ信号で情報量に応じた帯域幅を持つ。一方で、ローカル信号は単一の周波数成分しか持たず、変調信号を無線通信が行われる所望の周波数帯に変換するために用いる。

[用語7] 中間周波数 : 無線通信が行われる所望の周波数帯よりも低い周波数。この中間周波数において変調信号を作成することがある。

[用語8] IEEE802.15.3d : IEEE(米国電子電気学会)において標準化された300 GHz帯の無線規格。

[用語9] QPSK : Quadrature Phase Shift Keyingの略。搬送波の4つの位相を用いる変調方式。

[用語10] 16QAM : 16 Quadrature Amplitude Modulationの略。搬送波の振幅および位相変化の16値を用いる変調方式。

発表予定

この成果は8月4日からオンライン開催される国際会議IMS 2020(International Microwave Symposium 2020)において、「A 300GHz Wireless Transceiver in 65nm CMOS for IEEE802.15.3d Using Push-Push Subharmonic Mixer (IEEE802.15.3d向け65nm CMOSプロセスによるプッシュプッシュサブハーモニックミキサを用いた300GHz帯無線トランシーバ)」の講演タイトルで、現地時間8月5日午前11時00分から発表される。

講演セッション :
We2C: Millimeter-Wave and Terahertz Transmitter and Receiver Systems
講演時間 :
現地時間8月5日午前11時00分より視聴可能
講演タイトル :
A 300GHz Wireless Transceiver in 65nm CMOS for IEEE802.15.3d Using Push-Push Subharmonic Mixer (IEEE802.15.3d向け65nm CMOSプロセスによるプッシュプッシュサブハーモニックミキサを用いた300GHz帯無線トランシーバ)
会議Webサイト :
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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

教授 岡田健一

E-mail : okada@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3764 / Fax : 03-5734-3764

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当

E-mail : science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
Tel : 046-240-5157

大気中の硫化カルボニルのミッシングソースの特定と全球収支の解明 人為活動由来の気候変動や光合成量の高精度推定に期待

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要点

  • 硫化カルボニルの硫黄安定同位体比の大気観測により、人為起源と海洋起源を分離して評価することに成功
  • 観測に基づく硫化カルボニルの全球収支解析から、人為活動がミッシングソース(不明な生成源)の約半分を占める重要な生成源であることを発見
  • 硫化カルボニルの収支推定の高精度化により、気候変動予測や光合成量推定の向上を期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の服部祥平助教らは、大気中の硫黄化合物として重要な硫化カルボニル(OCS)の硫黄安定同位体比の分析に成功し、そのミッシングソース(不明な生成源)に対する人為活動の寄与が、これまで見積もられている以上に大きいことを明らかにしました。

大気中の硫化カルボニルは、成層圏硫酸エアロゾルの主たる硫黄供給源として地球の放射収支に負の影響を有しています。また、地球規模の光合成速度を求めるための主要な指標としても注目されています。しかし、ミッシングソースが存在するという不確実性が、気候変動を理解・予測する上で足かせとなっていました。

本研究では、硫化カルボニルの生成起源によって異なる硫黄安定同位体組成(34S/32S比)[用語1]に注目し、日本国内3地点で観測を実施しました。その結果、南の観測地点での34S/32S比の減少を発見し、中国からの人為的な放出が硫化カルボニルの重要な生成起源の一つであることを明らかにしました。また、34S/32S比を新しい制約とした硫化カルボニルの収支計算から、人為活動による放出がこれまで考えられてきた以上に重要であり、ミッシングソースの大きな割合を占めていることを発見しました。

今回の研究成果は、地球の放射収支に影響を与える成層圏硫酸エアロゾルに対する人為活動の影響が、これまで考えられてきた以上に大きいことを示唆しています。また、植物による光合成量(一次生産量)を見積もる上で、過去から現在にかけての人為活動の増減による硫化カルボニル動態の知見は重要であることから、今後の研究の展開が期待されます。

本研究成果は物質理工学院の服部祥平助教、亀崎和輝大学院生・東工大特別研究員(現 上智大学 JSPS特別研究員PD)、地球生命研究所の吉田尚弘特任教授らによるもので、2020年8月5日(米国東部時間)に「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」に掲載されました。

背景

気候変動は人類が直面している喫緊の課題です。気候変動を予測するためには、地球の放射収支の高精度な見積もりが不可欠ですが、この放射収支に不確実な要素があることが指摘されています。その中で特に重要なものは、エアロゾルによる負の放射強制力や、二酸化炭素(CO2)濃度に作用する生物圏の炭素収支で、これらを定量することは最重要課題であるとされています[IPCC, 2013]。

硫化カルボニルは、対流圏で最も豊富に存在する大気硫黄化合物(約500 ppt[用語2])です。また対流圏で安定であるため、成層圏に輸送され、成層圏硫酸エアロゾルの主たる硫黄供給源として地球の負の放射強制力に寄与しています[Crutzen, 1976 GRL]。成層圏硫酸エアロゾルは、特に近年になって増加していることが知られており[Kremser et al., 2015 JGR-A]、硫化カルボニル濃度の増加との関連が指摘されています。また硫化カルボニルは、光合成においてCO2と同時に吸収されるため、植物が吸収するCO2量(=一次生産量)を間接的に推定できる指標として提案されています[Campbell et al., 2008 Science]。以上から、硫化カルボニルの生物地球化学的循環の理解は、地球の放射収支や大気―生物圏の物質交換に関連する重要な研究テーマだといえます。

硫化カルボニルの対流圏における起源(ソース)としては、海洋生物からの放出、山火事などのバイオマス燃焼、そして人為活動からの放出が知られています(図1)。しかし、2002年に硫化カルボニル生成源の約60%の起源が不明である、つまりミッシングソースが存在することが明らかとなりました。人工衛星による全球硫化カルボニル濃度分布の観測から、高硫化カルボニル濃度の主要域はインド洋および太平洋赤道域に集中していることが知られていましたが、その起源についてはこれまで不明でした。

図1. 硫化カルボニル(OCS)の起源・消失源

図1. 硫化カルボニル(OCS)の起源・消失源

研究の経緯

本研究チームは、硫化カルボニルのミッシングソース問題を解決し、その全球収支を解明するため、人為起源と海洋起源の硫化カルボニルを区別できる硫黄安定同位体組成(δ34S値)に着目しました。硫化カルボニルのδ34S値は、人為起源では低く(約3‰)、海洋起源では高い(約19‰)ため、δ34S値の観測から人為・海洋起源の寄与率を評価できます。

本グループは2015年に世界に先駆けて、硫化カルボニルの硫黄安定同位体比分析手法を開発しました(参考文献1)。さらにこの手法を、大気中に500 pptという超微量しか存在しない硫化カルボニル試料に適用するために、約200~500リットルの大気から硫化カルボニルを濃縮捕集する装置を開発しました(参考文献2)。本研究では、この分析手法を日本国内の3箇所(宮古島・横浜・小樽)に適用し、2019年の冬期と夏期および2020年の冬期に大気観測を実施しました(図2)。

図2. 研究対象地点とその写真

図2. 研究対象地点とその写真

研究成果1 東アジア域における人為起源の硫化カルボニルの重要性を発見

各研究地点に到達する大気塊には傾向があり、冬期には西側から(図3左)、夏期には南東側から大気が到達すると推定されます。硫化カルボニル濃度とδ34S値は、冬期には北から南にかけての勾配が見られ、宮古島の硫化カルボニル濃度は高く、δ34S値は低いことが明らかになりました(図3右)。宮古島には目立った硫化カルボニル発生源がないことや、大気塊の起源が中国の人為活動が活発な地帯を通過していることから、δ34S値の低い硫化カルボニルが中国から日本に到達していると考えることができます。

研究グループは、キーリングプロット[用語3]という、硫化カルボニルの起源特定に有効な解析手法を試みました。この解析によると、冬期の南北の硫化カルボニル濃度とδ34S値はキーリングプロットでは直線上になります(図3)。このことから、硫化カルボニルの起源はバックグラウンドと人為起源の2成分の混合で説明可能であることが明らかになりました。つまり冬期の南北の勾配は、中国に由来すると考えられる人為起源の硫化カルボニルの寄与によって説明できます。

また、小樽のδ34S値(冬期、図3右 青)や、イスラエルとカナリヤ諸島のδ34S値[Angert et al. 2019 Sci. Rep.]などから、北半球のバックグラウンドδ34S値を12.0~13.5‰程度(図3右 黄色部分)と見積もりました。

図3. 各研究地点における大気塊の起源と、キーリングプロットによる硫化カルボニル(OCS)起源推定

図3. 各研究地点における大気塊の起源と、キーリングプロットによる硫化カルボニル(OCS)起源推定

研究成果2 硫黄安定同位体比で制約した硫化カルボニルの全球収支解析

研究グループは、観測されたδ34S値のバックグランド値を新しい制約として、硫化カルボニル全球収支のマスバランス計算を試みました。この計算では、ミッシングソースが海洋起源という従来の説に基づくと、観測されたバックグラウンドδ34S値と矛盾してしまうことが明らかになりました。一方、ミッシングソースの最大40%が人為起源の硫化カルボニルが占めると仮定すると、観測されたδ34S値と一致することがわかりました。

この結果から、硫化カルボニルのミッシングソースにおいて、人為起源の硫化カルボニルの放出が、これまで考えられていた以上に重要であることが示唆されます(図4)。同時に、こうした人為起源の硫化カルボニルは、地球の放射収支に負の影響を与える成層圏硫酸エアロゾルにも大きく寄与していると予想されます。近年、成層圏硫酸エアロゾルの増加が知られていることから、今後は、人為起源の硫化カルボニル放出が地球の放射収支に与える将来的な影響を予測することが必要になります。

図4. 本研究を用いた硫化カルボニル(OCS)収支解析と本研究のまとめ。

図4. 本研究を用いた硫化カルボニル(OCS)収支解析と本研究のまとめ。

2002年にOCSのミッシングソースが提唱され[Kettle et al. 2002 JGR]、2016年にそれが海洋起源であると主張されていました[Berry et al. 2013 JGR]。しかし、本研究グループが観測した硫黄安定同位体比で制約すると、人為活動起源がOCSミッシングソースの約4割を占めていることが明らかとなりました。

まとめと今後の展開

本研究によって、人為起源と海洋起源の硫化カルボニル放出を区別して評価する手法が確立されました。今後、さらに広域な観測や、起源や消失過程におけるδ34S値の変化の特徴づけにより、より高精度な硫化カルボニル収支推定が可能だと考えられます。硫化カルボニルは、生物圏が有する一次生産量を推定する指標として、その動態の理解が求められている物質です。今後は、本手法によって硫化カルボニルの収支見積もりが高精度化されることで、全球レベルの一次生産量の評価や将来予測の向上が可能となると期待できます。

硫化カルボニルの大気観測に関しては、その重要性から、国際的研究コミュニティー(COSANOVAouter)が組織されているだけでなく、欧州の研究グループが硫黄安定同位体比分析に着手し、本研究グループを追随しています。このような中で本グループは、世界に先駆けて東アジア独自の観測を行い、その結果に基づいた硫化カルボニル全球収支を発表することができました。今後もこの分野をリードできるように研究を展開する予定です。

図3. 各研究地点における大気塊の起源と、キーリングプロットによる硫化カルボニル(OCS)起源推定

イメージイラスト “硫黄同位体比にて区別の図”

このイラストは、浮世絵を用いて大気中の硫化カルボニル(OCS)の挙動を、海洋と人為活動を対比させる形で表現したものです。そしてその浮世絵が破れた向こう側に、本研究の究極のゴールであるOCS動態から植物の光合成量(CO2の吸収量)を推定する手法を見据えています。この研究では、日本独自の硫化カルボニルの硫黄安定同位体比分析技術を用いて、ミッシングソースが海洋由来であるか人為活動由来であるかを評価しようと試みました。その結果、人為由来のOCS放出がこれまでの見積もりより重要であることを発見しました。この知見は、地球全体でのCO2収支の正確な理解/予測に貢献する知見です。
画像クレジット:高宮ミンディouter

用語説明

[用語1] 硫黄安定同位体組成 : 質量数の異なる原子で、放射壊変せず安定に存在するものを安定同位体といい、安定同位体組成はその比率のことを指す。硫黄は質量数32、33、34および36の4種類が存在するため、硫黄安定同位体組成はマイナーな同位体である32S、33S、36Sの32Sに対する比率を指す。特に、34S/32Sの比率を定式化した値をδ34S値という。

[用語2] 500 ppt : ppt(パーツ・パー・トリリオン)は、1兆分のいくらであるかという割合を示すparts-per表記による単位。「parts per trillion」の頭文字をとったもの。硫化カルボニルは大気濃度が約500 pptであるため、大気中の分子が1兆個ある中で500個の硫化カルボニル分子が存在していることになる。

[用語3] キーリングプロット : あるバックグラウンドにソースが付け加わった場合を仮定し、濃度が極限まで増大したときのソースの同位体比を推定する手法。

参考文献

[1] Hattori, S., Toyoda, A., Toyoda, S., Ishino S., Ueno, Y., Yoshida, N.: Determination of the Sulfur Isotope Ratio in Carbonyl Sulfide Using Gas Chromatography/Isotope Ratio Mass Spectrometry on Fragment Ions 32S+, 33S+, and 34S+, Anal. Chem., 2015, 87, 477−484.

[2] Kamezaki, K., Hattori, S., Bahlmann, E., and Yoshida, N.: Large-volume air sample system for measuring 34S/32S isotope ratio of carbonyl sulfide, Atmos. Meas. Tech., 2019, 12, 1141-1154.

謝辞

JSPS(日本学術振興会)

科学研究費助成制度

  • 研究費名:基盤研究B(20H01975)2020~2022年度
    研究課題名:硫黄同位体組成に基づく硫化カルボニルミッシングソースの特定と全球収支解明(代表 セバスティアン ダニエラチェ(上智大学))
    研究者名(所属機関名):服部祥平(東京工業大学 物質理工学院)
  • 研究費名:特別研究員奨励費(17J08979)2017~2018年度
    研究課題名:硫化カルボニルの安定同位体情報を新指標とした一次生産量評価の高精度化
    研究者名(所属機関名):亀崎和輝(東京工業大学 物質理工学院)
  • 研究費名:基盤研究S(17H06105)2017~2022年度
    研究課題名:アイソトポログによる地球表層環境診断
    研究者名(所属機関名):吉田尚弘(東京工業大学 地球生命研究所)、服部祥平 (東京工業大学 物質理工学院)

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
論文タイトル :
Constraining the atmospheric OCS budget from sulfur isotopes
著者 :
服部祥平(東京工業大学 物質理工学院応用化学系 助教)
亀崎和輝(東京工業大学 物質理工学院(研究当時))
吉田尚弘(東京工業大学 物質理工学院 教授(研究当時)、地球生命研究所 特任教授)
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

助教 服部祥平

E-mail : hattori.s.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5416 もしくは 045-924-5506
Fax : 045-924-5413

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

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上智学院 広報グループ

E-mail : sophiapr-co@sophia.ac.jp

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