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2020年度「東工大挑戦的研究賞」10名を表彰 うち3名には末松特別賞

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東京工業大学は7月6日、第19回となる2020年度挑戦的研究賞の受賞者10名を発表しました。うち3名は、末松特別賞にも選ばれました。
授賞式は8月4日、オンラインのビデオ会議システムで行われました。

挑戦的研究賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開または解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰します。受賞者には、支援研究費を贈ります。40歳未満の准教授、講師又は助教が対象です。これまで本賞を受賞した研究者からは、多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。

挑戦的研究賞受賞者のうち特別に優れている研究者には「学長特別賞」を贈っていましたが、2019年度から「末松特別賞」を贈っています。
「末松特別賞」は、元学長の末松安晴栄誉教授による若手研究者支援への思いを継承し設けられた「末松基金」による顕彰です。「末松基金」は、末松栄誉教授が2014年、日本国際賞を受賞した際、賞金の一部を東工大に寄附し、東工大が若手の研究活動を奨励するため設立しました。多様な分野で、未開拓な科学・技術システムの発展を予知・研究し、隠れた未来を現実の社会に引き寄せる研究活動を奨励するため、若手研究者を中心に支援しています。

2020年度 東工大挑戦的研究賞 受賞者

受賞者
所属
主担当系または担当研究所
職名
研究課題名( * は末松特別賞受賞者)
理学院
物理学系別窓
助教
革新的飛跡検出による高エネルギー物理階層を拓く新粒子探索
理学院
化学系別窓
准教授
分子ジッパー触媒によるラダーポリマーの合成
物質理工学院
材料系別窓
准教授
* 環状構造を持つ超分子メカノフォアの開発
情報理工学院
情報工学系別窓
准教授
* 深層Plug-and-Play法-写像理論的解析と逆問題応用-
情報理工学院
数理・計算科学系別窓
講師
圏論化・リー理論・計算機を用いた対称群の表現論の研究
環境・社会理工学院
建築学系別窓
准教授
多種多様なビッグデータを用いた深層学習による詳細な建物属性推定に関する研究
准教授
映画分析をテーマとした学術的英作文教育の研究
准教授
* 物質中の点欠陥に関する統合的理解とその予測
助教
アンチオーミック挙動を示す有機金属単分子ワイヤー開発への挑戦
助教
新規ハライド系発光層と酸化物半導体の輸送層を用いた高効率青色ELの開発

(敬称略)

末松特別賞受賞者のコメント

相良剛光 物質理工学院 材料系 准教授

相良准教授

一分子レベルで微細な力を検出・可視化できる「メカノフォア」と呼ばれる分子骨格が、近年盛んに研究されています。我々の研究グループでは、弱い分子間相互作用を巧みに利用した、共有結合の切断を伴わない「超分子メカノフォア」を開発しています。超分子メカノフォアは、良好な可逆性を持ち、極めて微小なpNオーダーの力も検知できるなど、様々な長所があります。

我々はこれまでの研究の中で、インターロック分子であるロタキサンの持つ特殊な構造に着目した「ロタキサン型超分子メカノフォア」を開発しました。しかしこの超分子メカノフォアは、合成が少し煩雑であるという欠点がありました。受賞対象となった研究では、ロタキサンより単純な分子構造を持つメカノフォアを開発することを目指しています。

本研究は、これまでに所属してきた研究室のスタッフの皆様、多くの共同研究者と共に成し遂げてきた研究結果が礎となり、現在進行しているものです。この場を借りて関係者の方々に厚く御礼申し上げます。

小野峻佑 情報理工学院 情報工学系 准教授

小野峻佑准教授

この度は、栄誉ある東工大挑戦的研究賞および末松特別賞まで頂き大変光栄に存じます。日頃から自分の研究生活を支えてくださっている共同研究者の方々や学生の皆さんのお陰であると実感しております。

本受賞に繋がった研究テーマは、深層ニューラルネットワークと数理最適化アルゴリズムの融合において生じる理論的未解決課題に挑戦するものです。今後、深層学習のような高度なブラックボックス技術を、信頼性・説明性を担保しながら様々な科学・産業分野へ応用していく上で、非常に重要な研究の方向性であると考えています。

本受賞を励みに、情報科学・工学の発展に微力ながらも貢献できるよう今後も研究活動に邁進していく所存です。

熊谷悠 科学技術創成院 フロンティア材料研究所 准教授

熊谷准教授

多くの先進材料において、内部に存在する点欠陥が、良い面・悪い面の双方で材料特性発現の起源となります。そこで、点欠陥の形成エネルギーと局所電子構造を正しく理解することが、優れた次世代材料創成における鍵となります。しかしながら、実際に行える実験の数と種類には限りがあるために、点欠陥の特性を実験結果のみから理解することは極めて困難です。そこで最近では、固体の電子構造を量子力学の基本方程式に基づき数値計算する方法により、点欠陥の性質を高精度に予測する研究が行われるようになりました。

私の研究では、この数値計算に基づく手法を、数千物質中の点欠陥に適用することで、点欠陥に関する広い視野での統合的な知見を得ることを目的としています。このような材料科学における普遍的な知見は、半導体材料、触媒材料、イオン伝導体など、材料研究において幅広い波及効果をもたらすと思われます。

最後に、この度、栄誉ある賞を賜りまして大変光栄に感じております。大場先生をはじめとした共同研究者の方々に厚く御礼申し上げますとともに、本学の多大なご支援に深く感謝いたします。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

研究推進部 研究企画課 研究企画第1グループ

E-mail : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7688


藤枝俊宣講師と小宮健助教が第4回「バイオインダストリー奨励賞」を受賞

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一般財団法人バイオインダストリー協会は7月15日、第4回「バイオインダストリー奨励賞」の受賞者に東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の藤枝俊宣講師と情報理工学院 情報工学系の小宮健助教を選んだと発表しました。

藤枝講師は「生体接着性オプトエレクトロニクスによる革新的光がん治療システムの創製」により、また、小宮助教は「がんから感染症まで、誰もが高精度な診断を受けられる高感度核酸検出法の開発」によりそれぞれ受賞しました。二人とも本学としては初の受賞者です。

バイオインダストリー協会によると、「バイオインダストリー奨励賞」は、2017年、同協会が30周年を迎えるのを機に、"最先端の研究が世界を創る—バイオテクノロジーの新時代—"をスローガンにスタートしました。バイオサイエンス、バイオテクノロジーに関連する応用を指向した研究に携わる有望な若手研究者とその業績を表彰しています。45歳未満の研究者個人が対象です。

贈呈式・受賞記念講演会は10月14日、国際的なバイオイベント"BioJapan 2020"で行われる予定です。

バイオインダストリー協会はバイオインダストリー分野の研究開発と産業発展を、産・学・官による連携によって、総合的に推進する組織です。
バイオインダストリー協会が発表した受賞者の研究テーマと選評、および受賞者のコメントは次の通りです。

藤枝俊宣 生命理工学院 生命理工学系 講師

研究テーマ

生体接着性オプトエレクトロニクスによる革新的光がん治療システムの創製

選評

生体接着性ナノ薄膜で被覆された、柔軟性に富む無線給電式・埋め込み型マイクロ発光デバイスを開発した。脳や肝臓、膵臓のような重要な血管や神経を巻き込む組織、構造的に脆弱な組織のがんを対象としたマイクロ光線力学療法への本デバイスの応用を企業と連携して進めており、今後も活躍が期待できる研究者である。

コメント

藤枝講師

この度は大変名誉ある「バイオインダストリー奨励賞」を賜り誠に光栄に存じます。本研究は、医工連携体制のもと取り組んだ内容であり、様々な研究者の努力が詰まった研究成果を評価頂けたことを大変嬉しく思います。この場を借りて、共同研究者の先生方や研究室の学生の皆様に厚く御礼を申し上げます。

本研究では、体内埋め込み型の発光デバイスを開発し、新しい光がん治療システムを世界に先駆けて実証しました。特に、生体組織に安定に発光デバイスを固定するための生体接着技術を開発したことがブレイクスルーとなり、生体内に埋め込んだ発光デバイスを無線給電にて作動させることで、光増感剤(抗がん剤の一種)を持続的に活性化させることに成功しました。本研究成果は、すでに日本でも保険適用されている光線力学療法の用途を拡大させる先進的な医療技術として期待されます。

今後は、産学共同研究を強化することで、本技術の社会実装を目指す所存です。がんと闘う患者様やその御家族、また、医療従事者の方々に本技術を一日も早く届けられるよう引き続き研究開発に尽力して参ります。

埋め込み型発行デバイスによる光がん治療

埋め込み型発行デバイスによる光がん治療

小宮健 情報理工学院 情報工学系 助教

研究テーマ

がんから感染症まで、誰もが高精度な診断を受けられる高感度核酸検出法の開発

選評

DNA、短鎖RNAなどの標的核酸を感知して、シグナルとして別の配列を持つDNAを37℃の等温条件下で高効率かつ特異的に増幅することによって、標的核酸を高感度に検出する独創的な技術を開発した。独自性の高い研究と応用への創造力は秀でており、この分野を牽引しうる研究者として活躍が期待される。

コメント

小宮助教

一般財団法人バイオインダストリー協会よりバイオインダストリー奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。
DNAが生命のソフトウェアである遺伝情報を保存することはよく知られていますが、遺伝情報が処理されて生物が生きていくプロセスを理解するには、DNAのハードウェアとしての性質を解明する必要があります。バイオ情報をコンピュータで処理するのとは逆に、バイオ反応でコンピュータを創る、そのような分野融合的な視点で研究するなかで、PCRなどの増幅法が医療現場で抱える問題点を克服する、核酸検査用の等温DNA増幅反応(L-TEAM)を開発しました。

この度の受賞に際しては、自由に学際研究をさせていただいた山村雅幸教授はじめ共同研究者の方々、Tokyo Tech Research Festivalで激励いただきました渡辺治理事・副学長(研究担当)、そして産学連携をご支援いただきました学内の各部門の皆さまに、深く感謝いたします。今後も学術と産業応用の好循環を生み出すべく精進して参ります。

L-TEAM反応による核酸増幅検出

L-TEAM反応による核酸増幅検出

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お問い合わせ先

総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

ビオローゲン陽イオンラジカルはいかにしてギ酸脱水素酵素の二酸化炭素還元触媒能を向上させているか

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要点

  • 人工光合成系における二酸化炭素を有機分子であるギ酸に変換する過程において、ギ酸脱水素酵素の活性化に有効な補酵素:メチルビオローゲンの陽イオンラジカル[用語1]が酵素活性の向上にどのように関与しているのかを、実験データを基に考察する酵素反応速度論に加え、理論化学的計算に基づき解析し、綿密な機構を明らかにした。
  • 人工光合成系の実現に向け、二酸化炭素を効率的に有機分子に変換する補酵素の設計・開発における重要な指針となる。

概要

メチルビオローゲンの陽イオンラジカル

大阪市立大学 人工光合成研究センターの天尾豊教授と東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の宮地輝光助教は、人工光合成系において、ギ酸脱水素酵素が触媒する二酸化炭素のギ酸への還元過程において、メチルビオローゲンの陽イオンラジカルの電子供給機構を明らかにしました。

太陽光エネルギーを利用して二酸化炭素を有機分子に変換する人工光合成系を創製するための重要な要素技術として進められている触媒の開発において、ギ酸脱水素酵素(FDH)内で、補酵素であるメチルビオローゲンの陽イオンラジカル(MV.+)が、いかにして二酸化炭素をギ酸に還元するかについて、本質的な相互作用に関しては明らかではありませんでした。

酵素反応速度論に基づいたいくつかの反応モデルに加え、理論化学的計算に基づくFDH内でのMV.+の結合様式、及び密度汎関数理論(DFT)によるMV.+の電子状態の決定により、実験及び理論検討の両面からMV.+による電子供給の機構を明らかにしました。

本研究成果は、Royal Society of Chemistry (RSC) が発刊する物理化学の専門誌『Physical Chemistry Chemical Physics (PCCP) 』誌に掲載されました。

背景・内容

科学技術の発展と共に温室ガスなどによる地球環境汚染、大量の産業廃棄物処理および石油・石炭などの化石エネルギーの枯渇という重大な問題を次の世代に残さないために、環境低負荷型エネルギー循環システムの構築や二酸化炭素を代表とする温室効果ガスを有効利用するエネルギー変換システムの開発が急務です。地球規模で削減目標が定められている二酸化炭素は、排出を規制して削減する方法以外に、むしろこれを積極的に原料として活用し、有用物質に変換する方法は意義ある技術課題になります。このような背景から、太陽エネルギーを利用し二酸化炭素を新たな燃料に変換する人工光合成技術が注目を浴びています。

これまで大阪市立大学人工光合成研究センターでは、二酸化炭素をギ酸(燃料、化成品、エネルギー貯蔵媒体)に変換する反応を促進させる触媒=“ギ酸脱水酵素(FDH)”の活性を飛躍的に向上させることを目的とした研究を進めてきました。特に、メチルビオローゲンと呼ばれる単純な化学構造を持つ電子メディエータの陽イオンラジカル(MV.+)がFDHの二酸化炭素還元触媒能を飛躍的に向上させることを見出してきました。
Discovery of the Reduced Form of Methylviologen Activating Formate Dehydrogenase in the Catalytic Conversion of Carbon Dioxide to Formic Acidouter

反応式から分かるように、FDHが触媒して二酸化炭素をギ酸へ還元するためにはMV.+が2分子必要です。しかし、それらのMV.+ がFDH内で二酸化炭素をギ酸に還元する具体的なメカニズムについては明らかではなく、実験的に得られたデータを基にしたMichaels-Menten式[用語2]による単純な酵素反応速度論だけで議論されてきており、FDHとMV.+との本質的な相互作用に関しては解明されていませんでした。

今回、酵素反応速度論に基づいたいくつかの反応モデル解析を天尾豊教授が、理論化学的計算に基づくFDH内でのMV.+の結合様式及び密度汎関数理論(DFT)によるMV.+の電子状態解析を宮地輝光助教がそれぞれ担当する形で共同研究を実施し、FDH内でのMV.+とCO2の結合様式を明らかにし、FDHを触媒として二酸化炭素をギ酸へ還元する過程において、MV.+による電子供給が図に示すような機構で進行することを突き止めました。

MV.+とCO2とのFDH内での結合予想の一例

今後の展開

今回の発見は、二酸化炭素を効率的に有機分子に変換する人工光合成系実現に向け、触媒機能を向上させる補酵素の開発・設計における重要な指針になるものと考えられます。

資金情報

本研究の成果は、大阪市立大学人工光合成研究拠点共同利用・共同研究課題、学術研究助成基金助成金国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))および科学研究費補助金新学術領域研究によって得られたものです。

用語説明

[用語1] 陽イオンラジカル : 正の電荷を持ち、不対電子も持っているもの。

[用語2] Michaels-Menten式 : 酵素の反応速度論に大きな業績を残したレオノール・ミカエリスとモード・レオノーラ・メンテンにちなんだ、酵素の反応速度v に関する式である。

論文情報

掲載誌 :
Physical Chemistry Chemical PhysicsPCCP)(Royal Society of Chemistry発刊)
掲載月 : 2020年7月
論文タイトル :
How does methylviologen cation radical supply two electrons to the formate dehydrogenase in the catalytic reduction process of CO2 to formate?
著者 :
MIYAJI, Akimitsu, AMAO, Yutaka
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

助教 宮地輝光

E-mail : miyaji.a.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5417

大阪市立大学 人工光合成研究センター

所長 天尾豊

E-mail : amao@osaka-cu.ac.jp
Tel : 06-6605-3726

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

大阪市立大学 広報課
担当 西前香織

E-mail : t-koho@ado.osaka-cu.ac.jp
Tel : 06-6605-3411

人間と機械の協調的な運動の設計に有用な手がかりを発見 機械の適切な支援のタイミングの同定と人間の知覚の順応現象の応用可能性

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要点

  • 人間の行動に合わせてその動きを支援するシステムの設計において十分に検討されていない、人間側の知覚と機械側からの支援のタイミングの問題に着目し、筋電気刺激を使った実験で2つの新たな知見を得ました。
  • 身体運動の開始から機械が運動を支援するまでの時間差を計測することで、機械が適切に介入できる時間範囲を求めました。
  • 人間の意図と機械の動作のずれを防ぐ上で、知覚が順応する現象の応用が可能であることを明らかにしました。

概要

スマートウォッチやスマートグラスといったウェアラブルデバイスが製品化されているように、人間の生活を支援する機械が社会に浸透してきています。特に、パワーアシスト装置をはじめとした人間機械協調システム[用語1]には大きな期待が寄せられています。ただし、機械が人間の運動を支援する場合、人間と機械の運動を効果的に融合させるために、人間の運動・生体信号を正確に計測した上で状況や意図を適切にくみ取る必要があります。しかし、人間のダイナミックな動作を完全に予測することは難しく、機械の動作が人間の意図とずれてしまう場合があります。また、人間が機械の動作のタイミングを予測できない場合、本来意図した運動が機械によって妨害されることがあります。

この人間の意図と機械の動作のずれを防止するため、東京大学大学院情報理工学系研究科 博士課程1年 松原晟都 大学院生、青山一真 助教、先端科学技術研究センターの脇坂崇平 特任研究員、檜山敦 講師(理化学研究所革新知能統合研究センター兼務)、稲見昌彦 教授および東京工業大学工学院経営工学系 Katie Seaborn 准教授らによる研究チームは、人間の自発的意図に基づく随意運動(自発的運動)のタイミングに合わせて機械から筋電気刺激を与え、機械が人間の運動を増幅させる実験系を構築しました。実験では、自発的運動の開始から機械による介入までの時間差が知覚的に同時だと感じられる時間範囲を同定し、機械による適切な介入のタイミングを求めました。また、時間的に異なる自発的運動の開始と機械による介入を知覚的に同時だと感じられるようにする手段として、知覚が順応する現象の応用可能性を実験的に明らかにしました。

本成果は、外部から運動を与えて人間の行動を協調的に補助・誘導する人間と機械のインタラクションにおける認知メカニズムの理解に貢献するものです。さらに、人間の意図に沿ってより円滑に行動を支援できる人間機械協調システムの技術開発への応用など、幅広い展開が期待されます。

本成果は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO「稲見自在化身体プロジェクト」(課題番号:JPMJER1701、研究総括:稲見 昌彦)および、CREST「経験サプリメントによる行動変容と創造的協働」(課題番号:JPMJCR16E1、研究代表者:黄瀬 浩一)によって得られたものです。

本研究の成果は、米国東部夏時間2020年8月12日に米国の科学雑誌PLOS ONEにて発表されました。

発表内容

人間機械協調システムにおいて、機械が人間の意図通りに動かない場合には、機械が目的の動作を妨害して事故の原因となったり、人間が自身の動作において自ら制御している感覚を損なったりする点が課題となります。 本研究では、人間の行動に合わせた機械による支援を「システムの利用者の自発的意図に基づく随意運動(以下、自発的運動)のタイミングに合わせて、機械からの補助・介入運動(以下、外部操作運動)を与え、運動を増幅させること(以下、増幅運動)」と定義し、上記の課題の解決のために特に外部操作運動のタイミングに注目しました。

増幅運動では、利用者が外部操作運動のタイミングを予測できない場合、急に外部から動かされたと感じ、本来意図した運動が妨害されることがあります。したがって、自発的運動と外部操作運動のタイミングを利用者の知覚において一致させて予測しやすくすること、つまり「知覚的同時性」を保持することが特に重要です。

そこで本研究では、人間の行動において多様な役割を担う腕を対象に、知覚的同時性を計測する実験系を構築しました。

具体的には、上腕二頭筋に筋電位計を設置し、当該部位が運動する直前の筋肉の収縮を検出した際に任意の待機時間を経て筋電気刺激を与える増幅運動システムを構築し(図1)、2つの基礎実験を行いました。

図1. 本研究で構築した増幅運動システム(a)アシストを行わず、自発的運動のみで前腕部を動かした状態(b)上腕二頭筋につけた筋電位計で前腕部の運動を検知し、筋電気刺激によるアシストを行い、運動を増幅させた状態

図1.
本研究で構築した増幅運動システム
(a)アシストを行わず、自発的運動のみで前腕部を動かした状態
(b)上腕二頭筋につけた筋電位計で前腕部の運動を検知し、筋電気刺激によるアシストを行い、運動を増幅させた状態

まず、自発的運動の検出から外部操作運動までの時間差について、知覚的同時性が保たれる時間範囲を同定しました。被験者の上腕二頭筋における自発的運動を検出して外部操作運動として筋電気刺激を与えるまでの待機時間を変えることで、知覚的同時性の変化を捉えました。それぞれの検出-操作時間での試行において、被験者に自らの運動に対する外部操作運動のタイミングについて「早い」、「同時」、「遅い」の3段階で回答を求めました。結果、検出-操作時間が80-160 ms程度で「同時」と報告する割合がピークに達することがわかりました(図2)。これは、人間が自らの動きと外部操作運動の時間差を同じと感じる時間範囲が存在することを示唆しており、機械が人間の動作に介入するタイミングを設計する上で重要な手がかりとなります。

図2. 被験者の回答と検出-操作時間。検出-操作時間が80-160 ms程度で「同時」と答える割合が高い。

図2. 被験者の回答と検出-操作時間。検出-操作時間が80-160 ms程度で「同時」と答える割合が高い。

また、研究チームは、知覚的同時性を保つ外部操作運動を提示するにあたり、人間の知覚の順応についても検討しました。知覚の順応については、例えば、異なる2つの感覚器(視覚と聴覚など)を時間をずらして反復的に刺激し続けると、タイミングが異なるはずの刺激が次第に同時に与えられているように感じられる時間的再較正現象が知られています。増幅運動の場合にこのような現象を応用できると、自発的運動と外部操作運動の時間差にシステムの利用者の知覚が順応することで、順応前は同時ではないと感じていた刺激でも同時だと感じることができると考えられます。これによって知覚的同時性を保持しやすくなれば、人間と機械の動作のずれを防止する有効な手段となりえます。

そこで次に、自発的運動と外部操作運動の知覚的同時性に順応的変化が生じるかどうかを検証しました。前述の実験系ではランダムに検出-操作時間を変えた刺激(ランダム刺激)を用いましたが、ここでは50 msまたは150 msに固定した筋電位刺激(順応刺激)とランダム刺激を交互に用いました。これにより、被験者は順応刺激で用いられる特定の時間幅をより多く体験することになります。結果、順応刺激を50 msの検出-操作時間に設定した場合、150 msの場合と比べ、自発的運動と外部操作運動が同時であると知覚するまでの検出-操作時間が有意に早くなることが明らかになりました(図3)。以上の検証から、順応させる条件によって知覚的同時性が保たれる検出-操作時間が変化することが示唆され、自発的運動と外部操作運動のタイミングが異なる場合にも知覚の順応を応用して知覚的同時性を保持できることが示唆されました。

図3. 「遅い」と回答した割合と検出-操作時間。順応刺激の検出-操作時間が50 msであると、150 msであった場合に比べ、「遅い」と回答する割合が高くなる時間が早い。

図3.
「遅い」と回答した割合と検出-操作時間。順応刺激の検出-操作時間が50 msであると、150 msであった場合に比べ、「遅い」と回答する割合が高くなる時間が早い。

本研究では、機械が人間の行動に合わせた協調支援を提供する上での課題について、知覚的同時性を保持した機械の支援の適切なタイミングを明らかにし、さらに知覚的同時性を得る上で知覚の順応を促すことが有効であることを実験によって明らかにしました。

今後は、人間が機械の支援を予測し機械と協調し続けることで知覚がどのように変容するかについて、より深く探求していきます。このように人間と機械の両面から研究を進めることで、外部から運動を与えて操作・補助を行う場合の人間の認知メカニズムの解明や、利用者の運動を妨害しない安全な人間機械協調システムへの応用など、幅広い展開を目指していきます。

発表者

  • 松原晟都(東京大学大学院情報理工学系研究科 博士課程1年)
  • 脇坂崇平(東京大学先端科学技術研究センター 身体情報学分野 特任研究員)
  • 青山一真(東京大学大学院情報理工学系研究科附属情報理工学教育研究センター/バーチャルリアリティ教育研究センター 助教)
  • Katie Seaborn(東京工業大学 工学院 経営工学系 准教授)
  • 檜山敦(東京大学 先端科学技術研究センター 身体情報学分野 講師/理化学研究所革新知能統合研究センター 客員研究員)
  • 稲見昌彦(東京大学先端科学技術研究センター 身体情報学分野 教授)

用語説明

[用語1] 人間機械協調システム : 人間と機械がそれぞれ独立して動くのではなく、協調して特定の目的を達成するように設計されたシステム

論文情報

掲載誌 :
PLOS ONE(8月12日オンライン版)
論文タイトル :
Perceptual Simultaneity and its Modulation during EMG-Triggered Motion Induction with Electrical Muscle Stimulation
著者 :
Seito Matsubara*, Sohei Wakisaka*, Kazuma Aoyama, Katie Seaborn, Atsushi Hiyama, Masahiko Inami
DOI :
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お問い合わせ先

研究内容に関すること

東京大学先端科学技術研究センター

教授 稲見昌彦

E-mail : contact@star.rcast.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5452-5368

東京工業大学 工学院 経営工学系

准教授 ケイティー・シーボン

E-mail : seaborn.k.aa@m.titech.ac.jp

JST事業に関すること

科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部

調査役 内田信裕

E-mail : eratowww@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3528

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

BSフジ「ガリレオX」に工学院の田中博人准教授が出演

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東京工業大学 工学院 機械系の田中博人准教授がBSフジの科学番組「ガリレオX-生物から学ぶ新技術 深化するバイオミメティクス」に出演します。

「ガリレオX」は、サイエンスやテクノロジーに関わる新しい動向や注目の研究を、深く・わかりやすく・面白く伝える、30分の科学ドキュメンタリーです。
今回は、優れた特徴を持つ生物の動きや働き、形状などを、ロボット工学や材料工学などさまざまな分野に応用した「バイオミメティクス(生物模倣)」の最新研究を特集。田中博人准教授が研究に取り組む、ペンギンロボット—水中を俊敏に泳ぐペンギンの動きを応用した水中ドローンの推進装置—が紹介されます。

田中博人准教授

田中博人准教授のコメント

田中博人准教授

近年盛んになっている「バイオミメティクス」を特集した番組内容です。私が精力的に取り組んでいる、ペンギンの遊泳メカニズムの研究と「ペンギンロボット」の研究を紹介しました。

私なりに「バイオミメティクス」について、その概念や従来の学術体系(生物学や機械工学など)との関係、そして将来の可能性を解説しました。また、ペンギンの面白さやロボット応用への期待も、ロボット実験の様子とともにお話ししました。お楽しみに!

番組情報

  • 番組名
    BSフジ「ガリレオX」
  • タイトル
    生物から学ぶ新技術 深化するバイオミメティクス
  • 放送予定日
    2020年8月23日(日)11:30 - 12:00
  • 再放送予定日
    2020年8月30日(日)11:30 - 12:00

関連リンク

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お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

本学に対する爆破予告とその対応

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「8月24日(月)12時08分に東京工業大学の主要建造物を爆破する」という内容の投稿がある旨、本学へ通報がありました。

これを受け、現在、警察と連携しつつ大学構内の不審物の確認、不審者への警戒、構内の巡回などによる警備の強化を進めております。

その上で、学生・教職員及び近隣住民を含む関係者の安全を最優先と考え、8月24日(月)について、以下のとおりの対応としますので、ご理解とご協力をお願いします。

1. 大学構内(大岡山、すずかけ台及び田町の各キャンパス)への立ち入り制限

(1)
全学生及び近隣住民は、終日立ち入りを禁止する。
(2)
教職員は、警備や連絡などのための必要最小限の勤務体制とし、その他の教職員は自宅待機とする。

2. 授業等について

(1)
登校しての授業は「休講」とする。
(2)
登校を要しないオンライン授業は原則実施とする。
(3)
研究室での研究活動は原則停止とする。

3. その他

(1)
8月24日(月)オンラインでの入学試験については、予定通り実施します。ご質問等がある場合は各系にご確認ください。
(2)
その他8月24日(月)実施予定の各種イベントについては担当部署にお問い合わせください。
(3)
構内及びその周辺で不審物や不審者を発見した場合は、速やかに付近の事務室や守衛室等へ連絡願います。

お問い合わせ

東京工業大学 総務課 総務グループ

Email: som.som@jim.titech.ac.jp

ニッケル触媒のアンモニア合成活性、窒素空孔の形成されやすさが鍵 貴金属を使わない触媒の新たな開発指針に

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要点

  • 窒素空孔の形成されやすさがアンモニア合成触媒活性の指標となることを発見
  • ニッケル触媒では窒化セリウムとの組み合わせが最も活性が高く、既存のルテニウム触媒に匹敵することを確認
  • 新たな触媒活性の指標により、ルテニウムなどの貴金属を使わないアンモニア合成触媒の開発が加速されると期待

概要

東京工業大学 元素戦略研究センターの細野秀雄栄誉教授(物質・材料研究機構兼任)、同センターの叶天南(Tian-Nan Ye)特任助教、北野政明准教授らは、遷移金属窒化物とニッケルを組み合わせた各種触媒のアンモニア合成活性を検討し、遷移金属窒化物の窒素空孔形成エネルギー[用語1]が触媒活性の指標となることを明らかにした。

ルテニウムや鉄を触媒としたアンモニア合成反応では、金属の表面で窒素が解離する過程が全体の反応速度を支配しているため、金属表面の窒素吸着エネルギー[用語2]が触媒活性の指標とされてきた。そのため従来の研究の大半が、温和な条件での合成には、最適な窒素吸着エネルギーを有するルテニウムを触媒として用いてきた。本研究は、ニッケルで水素分子を活性化し、担体窒化物上の窒素空孔で窒素分子を活性化する触媒では、従来の触媒と異なり、窒素空孔の形成エネルギーの小ささ、すなわち窒素空孔の形成されやすさが全体の反応速度を支配していることを明らかにした。特に、窒素空孔形成エネルギーが最小となる窒化セリウム(CeN)とニッケルの組み合わせが最も高いアンモニア合成活性を示し、触媒として最適であることを発見した。

本研究は、窒素空孔形成エネルギーという触媒活性の新たな指標を示すことにより、ルテニウムを使わない触媒開発の道筋をつけたといえる。研究成果は米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」のトップ5%論文に選定され、8月7日付(現地時間)にオンライン公開された。

研究の背景と経緯

人工的にアンモニアを合成する技術「ハーバー・ボッシュ法(HB法)」は、ハーバーとボッシュによって確立され、1913年に工業化された。この技術は、現在でも人類の生活を支えるのに必要不可欠である。またアンモニア分子は、分解すると多量の水素を発生させ、かつ室温・10気圧で液体になることから、燃料電池などのエネルギー源である水素を運搬する物質としても期待されている。

一方、HB法は高温(400~500℃)、高圧(100~300気圧)の条件が必要であるため、より温和な条件下でのアンモニア合成技術が求められている。そうした条件下で働く触媒としてこれまで、ルテニウム触媒の開発が盛んに行われてきた。これまで開発されてきた触媒では、金属の表面で窒素が解離する過程が全体の反応速度を支配しているため、金属表面への窒素の吸着エネルギーが触媒活性の指標とされており、最適な窒素吸着エネルギーを有するルテニウムが最も高い活性を示す。しかし、ルテニウムは高価な貴金属であることから、より豊富に存在する安価な金属を利用し、温和な条件下で作動する触媒の開発が望まれている。

本研究グループは以前から、従来とは全く異なる機構でアンモニアを合成する研究を進めており、2018年にはLaCoSiという金属間化合物の電子化物が優れた触媒となることを発見した(Nature Catalysis誌掲載)[参考文献1]。さらに2020年7月には、従来の触媒活性の指標によればほとんど触媒活性を示さないはずのニッケル(Ni)を窒化ランタン(LaN)の表面に担持すると、一般的なルテニウム触媒に匹敵する活性を示すことを明らかにし、窒素空孔が窒素分子の活性化を担っていることを報告した(Nature誌掲載)[参考文献2]。図1にその反応機構を模式的に示す。

図1. Ni担持LaNでのアンモニア合成の機構。キーとなる窒素分子の活性化を窒素欠陥が担っており、ニッケルは水素の解離のみを行う。

図1.
Ni担持LaNでのアンモニア合成の機構。キーとなる窒素分子の活性化を窒素欠陥が担っており、ニッケルは水素の解離のみを行う。

研究の内容

本研究では、窒素空孔と触媒の活性との関係を検討し、窒化物担体の窒素空孔の形成されやすさが全体の反応速度を支配していることを明らかにした。まず、様々な遷移金属窒化物上にNiを固定した触媒を比較すると、すべての窒化物担体が必ずしも高いアンモニア合成活性を示すわけではなく、CeN、 LaN、 YNのような希土類窒化物上にNiを固定した触媒が優れた活性を示すことがわかった(図2)。特にNiを担持したCeN(窒化セリウム)ナノ粒子の活性は、400℃、0.1 MPaの条件下の平衡転化率(理論限界)に達しており、既報のルテニウム系触媒の優れた活性に匹敵する性能であった。

図2. Niを固定した遷移金属窒化物のアンモニア合成活性の比較(反応温度:400℃、圧力:1気圧) 青:バルク触媒、赤:ナノ粒子触媒

図2. Niを固定した遷移金属窒化物のアンモニア合成活性の比較
(反応温度:400 ℃、圧力:1気圧) 青:バルク触媒、赤:ナノ粒子触媒

これらの触媒について、第一原理計算で求めた希土類窒化物の窒素空孔形成エネルギーと、実測の触媒活性の関係を調べたところ、窒素空孔の形成エネルギーが小さいほど、すなわち窒素空孔が形成されやすいほど、高いアンモニア合成活性を示すことが明らかになった(図3)。この関係により、先に報告したNi担持LaNよりも、Ni担持CeNの方が優れたアンモニア合成触媒となることが示された。

図3. 希土類窒化物の窒素空孔形成エネルギーとアンモニア合成活性の関係性

図3. 希土類窒化物の窒素空孔形成エネルギーとアンモニア合成活性の関係性

これらの触媒上では、水素活性化能の高いNiが水素分子の結合を切り、生成された水素原子が、希土類窒化物表面の窒素種と反応することで、アンモニアが生成される。このとき希土類窒化物表面に窒素空孔が形成される。ここに窒素分子が取り込まれることで、窒素分子が活性化され、Ni上の水素原子により水素化されて、さらにアンモニアが生成される。同時に希土類窒化物の格子窒素が再生されることで、触媒的に反応が進行する。窒素空孔形成エネルギーの大きい物質は、この触媒サイクルがスムーズに進行しないため、触媒として効率よく機能しないことも、同位体[用語3]ガスを使った実験と計算科学により確認されている。

今後の展開

今回の研究は、窒素空孔の形成エネルギーがアンモニア合成触媒の活性を決める指標になることを示しており、従来の触媒活性指標では予測できない新たな触媒系を発見するための重要な道筋を与えるものである。この新たな考え方によって、温和な条件下で作動する、貴金属を使わないアンモニア合成触媒の開発が大きく加速されることが期待される。今後、この考え方をさらに発展させ、より優れた触媒の開発や他の触媒反応への展開を目指している。

用語説明

[用語1] 窒素空孔形成エネルギー : 金属窒化物中のN3-が部分的に抜けた空きサイトを窒素空孔と呼び、その窒素空孔を形成するのに必要なエネルギー。

[用語2] 窒素吸着エネルギー : 遷移金属触媒表面で、N2が解離して原子状窒素となる反応が起こる。この原子状窒素が金属表面に吸着するエネルギー。金属と窒素との結合の強さとも関連する。

[用語3] 同位体 : 原子番号が同じで、重さ(質量数)だけが異なる原子のことで、化学的性質は同等である。

付記

今回の研究成果は、文部科学省元素戦略プロジェクト<拠点形成型>(No.JPMXP0112101001)、科学研究費補助金(No.17H06153、JP19H05051、JP19H02512)、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(No.JPMJPR18T6)、日本学術振興会 海外特別研究員(No.P18361)の支援によって実施された。

参考文献

[1]

掲載誌 :
Nature Catalysis
論文タイトル :
Ternary Intermetallic LaCoSi as a Catalyst for N2 Activation
(窒素分子の活性化触媒としての3元系金属間化合物LaCoSi)
著者 :
Yutong Gong, Jiazhen Wu, Masaaki Kitano, Junjie Wang, Tian-Nan Ye, Jiang Li, Yasukazu Kobayashi, Kazuhisa Kishida, Hitoshi Abe, Yasuhiro Niwa, Hongsheng Yang, Tomofumi Tada & Hideo Hosono
DOI :

[2]

掲載誌 :
Nature
論文タイトル :
Vacancy-enabled N2 activation for ammonia synthesis on an Ni-loaded catalyst
(担持ニッケル触媒上でのアンモニア合成における空孔による窒素分子の活性化)
著者 :
Tian-Nan Ye, Sang-Won Park, Yangfan Lu, Jiang Li, Masato Sasase, Masaaki Kitano, Tomofumi Tada, Hideo Hosono
DOI :

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Contribution of nitrogen vacancies to ammonia synthesis over metal nitride catalysts
(金属窒化物触媒上でのアンモニア合成における窒素空孔の寄与)
著者 :
Tian-Nan Ye1, Sang-Won Park1,2, Yangfan Lu1, Jiang Li1, Masato Sasase1, Masaaki Kitano1, Hideo Hosono1,2
所属 :
1 東工大元素戦略研究センター
2 物質・材料研究機構 MANA
DOI :

お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 元素戦略研究センター

栄誉教授 細野秀雄

E-mail : hosono@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5009

東京工業大学 元素戦略研究センター

准教授 北野政明

E-mail : kitano.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5191 / Fax : 045-924-5191

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室

E-mail : pressrelease@ml.nims.go.jp
Tel : 029-859-2026 / Fax : 029-859-2017

新型コロナウイルス複製を阻止する作用メカニズムを解明 標的とするメインプロテアーゼのウイルス複製機能阻害に求められるファーマコフォアをモデル化

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要点

  • SARSウイルス(SARS-CoV)のゲノム情報とウイルス複製に寄与する酵素のメインプロテアーゼの立体構造の構造解析情報を元に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテアーゼのウイルス複製機能阻害が期待される3化合物との複合体構造をモデル化
  • 分子動力学シミュレーション[用語1]により、新型コロナウイルスのメインプロテアーゼの複製機能阻害に重要なファーマコフォア[用語2]のモデリングに成功
  • 新型コロナウイルスのメインプロテアーゼ標的医薬品候補であるα-ケトアミド阻害剤で、本研究で求めたファーマコフォアの正しさを確認

概要

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系の関嶋政和准教授を中心とする、同大学 物質・情報卓越教育院の安尾信明特任講師、筑波大学 医学医療系 生命医科学域の吉野龍ノ介助教の研究グループは、スーパーコンピュータTSUBAME3.0[用語3]を用いた分子動力学シミュレーションにより、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の複製に関わる酵素「メインプロテアーゼ」の機能を阻害する治療薬の候補となる化合物が満たすべき、ファーマコフォアのモデリングに成功した。またメインプロテアーゼを標的とする医薬品候補であるα-ケトアミド阻害剤[参考文献]を用いて、このファーマコフォアが正しいことを確認した。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬探索では、既存の上市薬もしくは治験の一部を通過した薬をベースに薬剤候補を探索するドラッグリポジショニングという手法が取られており、安全性や開発期間の短縮が期待されている。本研究で明らかにしたファーマコフォアは、既存薬の探索だけでなく、新規の薬候補化合物の探索にも応用できる点で重要な成果だといえる。

今後は、このファーマコフォアに基づき、シミュレーションと統計的機械学習などの人工知能(AI)や生化学実験を組み合わせたスマート創薬によって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬候補となる具体的な化合物探索を目指していく。

本研究成果は2020年7月27日に国際科学誌『Scientific Reports』に掲載された。

本研究の一部は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の課題番号JP20am0101112の支援を受けました。

研究成果

創薬には、十数年に渡る長い期間と3,000億円以上とも言われる膨大な研究開発費が必要であり、近年はこの費用が増加傾向にある。これまで、新規化合物獲得のための期間と費用を削減し、有望な薬候補化合物を効率的に探索するためにさまざまな手法、アプローチが開発されてきた。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、2019年12月に中国・武漢で出現し、パンデミックを引き起こした。その後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数は2020年8月初旬に1,800万人を超え、今も感染が拡大を続けるなか、世界中で治療薬の探索が続いている。従来、SARSウイルス(SARS-CoV)の複製に関わるメインプロテアーゼに対して、ペプチド様抗HIV-1薬が有効であることが報告されていた。SARS-CoVとSARS-CoV-2の間には密接な系統的関係があるため、これらのメインプロテアーゼは多くの構造的・機能的特徴を共有している(図1)。そのためペプチド様抗HIV-1薬はSARS-CoV-2でも、メインプロテアーゼを標的とする薬剤の候補として考えられているが、SARS-CoV-2のメインプロテアーゼの原子レベルでの作用機序はこれまで明らかになっていなかった。

図1. SARSウイルス(SARS-CoV)と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテアーゼのアミノ酸配列とタンパク質立体構造の比較。アミノ酸配列は96%同一。

図1.
SARSウイルス(SARS-CoV)と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテアーゼのアミノ酸配列とタンパク質立体構造の比較。アミノ酸配列は96%同一。

本研究では、スーパーコンピュータTSUBAME3.0を用いて、1マイクロ秒の時間スケールでの分子動力学(MD)シミュレーションを実施することで、SARS-CoV-2のメインプロテアーゼと3種類の薬剤候補化合物との重要な相互作用を明らかにし、ファーマコフォアをモデリングすることに成功した。すべてのMDシミュレーションにおいて、SARS-CoV-2のメインプロテアーゼの41番目のHis(ヒスチジン)、153番目のGly(グリシン)、166番目のGlu(グルタミン酸)が、化合物の同じ官能基と相互作用を形成していた。この結果は、相互作用が、SARS-CoV-2のメインプロテアーゼに作用する薬剤の重要なターゲットであることを示唆している。

モデリングしたファーマコフォアの正しさを検証するため、SARS-CoV-2のメインプロテアーゼの機能をIC50 = 0.67 ± 0.18 μMで阻害することが知られているα-ケトアミド阻害剤が、このファーマコフォアに適合するか調べた。その結果、α-ケトアミドの1つの水酸基と2つのカルボニル基がファーマコフォアモデルと一致していることを確認した(図2)。

図2. SARS-CoV-2のメインプロテアーゼと医薬品候補であるα-ケトアミド阻害剤に関して、本研究でモデリングしたファーマコフォアへの適合を検証

図2.
SARS-CoV-2のメインプロテアーゼと医薬品候補であるα-ケトアミド阻害剤に関して、本研究でモデリングしたファーマコフォアへの適合を検証

SARSウイルス(SARS-CoV)には、メインプロテアーゼの145番目のCys(システイン)と共有結合する不可逆性阻害剤が数多く知られており、これらは競合阻害剤よりも高い結合親和性を有している可能性がある。しかし、COVID-19のような緊急性の高い疾患には、薬剤のリポジショニングが有効であり、本研究で提案したファーマコフォアは、Cysと共有結合を形成するために官能基を含まない化合物を評価することを可能にしている。

今後の展開

今後は、このファーマコフォアに基づき、シミュレーションと統計的機械学習などの人工知能(AI)や生化学実験を組み合わせたスマート創薬によって、COVID-19の治療薬候補となる具体的な化合物探索を目指していく。

参考文献

Zhang et al., Crystal structure of SARS-CoV-2 main protease provides a basis for design of improved α-ketoamide inhibitors, Science 24 Apr 2020:Vol. 368, Issue 6489, pp. 409-412, DOI: 10.1126/science.abb3405 outer

用語説明

[用語1] 分子動力学シミュレーション : 我々の体の中で、タンパク質やペプチドなどの生体分子は揺らぎながらその機能を果たしている。分子動力学シミュレーションは、タンパク質をつくっている原子や、周囲の水などの溶媒の動きを再現するシミュレーション手法である。分子動力学シミュレーションでは、原子ごとにニュートンの運動方程式を数値積分で解いていき、原子に働く力を求め、原子ごとの速度・座標の更新を行っていく。原子に働く力は、生体分子のシミュレーションの場合、1~2フェムト(10-15)秒ごとに求めることが多く、これを積み重ねてマイクロ(10-6)秒の時間スケールでのシミュレーションを行うため、TSUBAME3.0のような膨大な計算機資源が必要となる。

分子動力学シミュレーション

[用語2] ファーマコフォア : 医薬品は、その標的となるタンパク質と相互作用することで、標的タンパク質の機能を阻害している。同じ標的タンパク質の同じ部位に結合する、医薬品による機能阻害に必要な官能基群の3次元配置をモデル化したものをファーマコフォアという。分子動力学シミュレーション等のシミュレーション手法に比べて、ファーマコフォアモデルを満足する化合物の探索は短時間で行うことが可能である。

[用語3] スーパーコンピュータTSUBAME3.0 : 東京工業大学学術国際情報センターが運用するスパコンで、2,160個のGPUを搭載し、12.15ペタフロップスのピーク演算性能を持つ。最先端の研究教育の基盤として、広く学内外に計算資源を提供している。また産業利用にも大きく貢献している。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Identification of key interactions between SARS-CoV-2 main protease and inhibitor drug candidates
著者 :
Ryunosuke Yoshino, Nobuaki Yasuo, and Masakazu Sekijima
DOI :
<$mt:Include module="#G-09_情報理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系

准教授 関嶋政和

E-mail : sekijima@c.titech.ac.jp

筑波大学 医学医療系 生命医科学域

助教 吉野龍ノ介

E-mail : yoshino.r.aa@md.tsukuba.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

筑波大学広報室

E-mail : kohositu@un.tsukuba.ac.jp
Tel : 029-853-2039 / Fax : 029-853-2014


同一の細胞から複数のエピゲノム情報を同時に検出する技術開発に成功

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九州大学生体防御医学研究所(大川恭行教授、原田哲仁准教授、前原一満助教)、東京工業大学科学技術創成研究院細胞制御工学研究センター(木村宏教授、半田哲也特任助教ら)、東京大学定量生命科学研究所(胡桃坂仁志教授、佐藤祥子特任助教)の研究グループは、少数の細胞からエピゲノム情報[用語1]を取得できる「クロマチン挿入標識(Chromatin Integration Labeling: ChIL)法」に関する詳細な実験手法を発表しました。さらに、これまでの解析ではひとつのサンプルでは単一のエピゲノム情報しか取得できませんでしたが、今回、同一サンプルから複数のエピゲノム情報を同時に検出する技術(Multi-target ChIL: mtChIL)の開発にも成功しました。

人体は、多様な30兆個の細胞で構成されています。多様な細胞は、数万種類の同一の遺伝子群(ゲノム)から、選択的に遺伝子を使い分けることで固有の機能を獲得します。この遺伝子の使い分けには、ゲノムDNAに結合するヒストンの翻訳後修飾[用語2]や転写因子の結合により調節されています。このようなエピゲノム情報を解読することにより、種々の細胞内で使われる遺伝子と使われない遺伝子がどのように区別されるのかということを調べることができます。これらのエピゲノム情報は、発生や分化、がん化などの過程で変化するため、その全貌を明らかにし、調節機構を解明することで、人体の成り立ちや病態を遺伝子の選択性から理解することが可能になります。エピゲノム情報やその解析技術は、組織再生や幹細胞[用語3]を用いた再生医療などの応用にも必要となるため、これまでも多くの国際プロジェクトによりエピゲノム情報の解読が進められてきました。

しかしながら、少数の細胞を用いたエピゲノム解析は高度な技術が必要とされます。研究グループは、昨年、単一細胞レベルでエピゲノム情報を解読する世界初の高感度技術であるChIL法を発表しました。今回、この技術に関する詳細な実験手法を発表したことにより、広く研究者にこの技術が普及すると期待されます。さらに、研究グループは、様々なエピゲノム情報を同時に取得可能な発展型技術mtChILの開発に成功しました。従来の技術では1度の解析で単一のヒストン修飾あるいは転写因子の結合情報のみしか解析できないため、エピゲノム情報の本質である「組み合わせ」の解明には至っていませんでした。これまで個別にしか解析出来なかった因子の組み合わせの網羅的な解析が可能になることから、人為的な遺伝子操作技術の開発が期待され、遺伝子発現の破綻であるがん、特異的な遺伝子発現誘導が必要となる再生医療など多方面への応用が期待されます。

本研究の成果は、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CREST「細胞ポテンシャル測定システムの開発」(研究代表者:大川恭行)、さきがけ「組織特異的ゲノム構造の再構築技術の開発」(研究代表者:原田哲仁)、文部科学省科学研究費新学術領域研究「遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル、JP18H05527(領域代表者:木村宏)」などの支援により得られたものです(詳細は以下「研究費情報」参照)。

本研究成果は、2020年8月18日(火)午前0時(日本時間)に英国科学雑誌「Nature Protocols」で公開されました。

従来は複数のエピゲノム情報を個別で解析していたが(上図)、本法mtChILでは、同時に複数のエピゲノム情報を解析できる。

図1. 従来は複数のエピゲノム情報を個別で解析していたが(上図)、
本法mtChILでは、同時に複数のエピゲノム情報を解析できる。

研究成果のポイント

  • ChIL法の詳細な実験手法を発表した。
  • 同一サンプル内から複数のエピゲノム情報を同時に取得する技術mtChILを開発した。
  • mtChILによる様々なエピゲノム情報の組み合わせ解析により、幹細胞をはじめとする遺伝子発現制御ネットワークの解明が期待される。

研究者からひとこと

(左)東京工業大学 半田哲也 特任助教 (中央)九州大学 原田哲仁 准教授 (右)九州大学 前原一満 助教
(左)東京工業大学 半田哲也 特任助教
(中央)九州大学 原田哲仁 准教授
(右)九州大学 前原一満 助教

これまでのエピゲノム解析は、1サンプル当たり1つの情報を得ることが一般的であったため、多数の因子を解析する場合の障壁となっていました。mtChIL法は、これまで解析ができなかった組み合わせ情報の解読が可能です。今後の国際プロジェクトでの活用等研究分野を劇的に発展させることを期待しています。

研究費情報

本研究の成果は、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)研究領域「統合 1 細胞解析のための革新的技術基盤」における研究課題「細胞ポテンシャル測定システムの開発JPMJCR16G1(研究代表者:大川恭行)」、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」における研究課題「組織特異的ゲノム構造の再構築技術の開発JPMJPR19K7(研究代表者:原田哲仁)」、文部科学省科学研究費新学術領域研究「クロマチン潜在能JP18H05527(領域代表者:木村宏)」、日本学術振興会科学研究費JP17K17719 JP18K19432、JP19H03211、JP19H05425、JP20H05368、JP18H04904、JP19H04970、JP19H03158、JP20H05393JP18H05534、JP18H04802、JP18H05527、JP19H05244、JP17H03608、JP20H00456、JP20H04846、JP20K21398、JP17H01417、日本医療研究開発機構研究費JP19am0101076、JP19am0101105、JP20ek0109489h0001、九州大学生体防御医学研究所共同利用・共同研究などの支援により得られたものです。

用語説明

[用語1] エピゲノム情報 : 後天的なゲノム制御情報。DNAの塩基配列に加えて、DNAそのものやDNAに強く結合するヒストンの修飾などにより、遺伝子の発現が制御される。

[用語2] ヒストン修飾 : DNAに強く結合するヒストンタンパク質の翻訳後修飾。メチル化やアセチル化など多様な修飾により遺伝子発現の抑制や活性化などが制御される。

[用語3] 幹細胞 : 組織や器官を構成する分化した細胞の元となる細胞。多能性を持つ胚性幹細胞やiPS細胞などがよく知られているが、特定の細胞にのみ分化するような成体幹細胞も存在する。これらの幹細胞は存在量が少なく、その解析が難しい。

論文情報

掲載誌 :
Nature Protocols, 2020
論文タイトル :
Chromatin integration labeling for mapping DNA-binding proteins and modifications with low input
著者 :
+Handa T, +Harada A, +Maehara K, Sato S, Nakao M, Goto N, Kurumizaka H, *Ohkawa Y, *Kimura H (+共筆頭著者、*共責任著者)
DOI :

お問い合わせ先

研究に関すること

九州大学 生体防御医学研究所
附属トランスオミクス医学研究センター
教授 大川恭行

E-mail : yohkawa@bioreg.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-642-4534 / Fax : 092-642-6526

東京工業大学 科学技術創成研究院
細胞制御工学研究センター
教授 木村宏

E-mail : hkimura@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5742

報道に関すること

九州大学 広報室

E-mail : koho@jimu.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京大学 定量生命科学研究所 総務チーム

E-mail : soumu@iqb.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-7813 / Fax : 03-5841-8465

本学への爆破予告による被害がないことを確認

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東京工業大学への爆破予告に対し、本学は8月24日、警察の協力のもと、大学構内の不審物・不審者への警戒、キャンパス周辺の巡回等を行いました。当日中の爆発等の被害がないことを確認できたため、本件による入構制限を解除しました。

今回の事案について、本学は所轄の警察と連携し、必要な措置を講じてまいります。

お問い合わせ

東京工業大学 総務課 総務グループ

Email: som.som@jim.titech.ac.jp

ジョージア工科大と東工大をオンラインで結び「グローバルリーダーシップ実践」集中授業

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東京工業大学グローバル理工人育成コースでは修士課程学生向けに、協定校であるジョージア工科大学(米国ジョージア州アトランタ)の教員が教える「グローバルリーダーシップ実践-Global Leadership Practice」集中授業(100分×8回)を2018年度から開講しています。3回目となる2020年度は、アトランタと東京をオンラインで結び、リアルタイムの双方向型授業で6月9日から19日まで行いました。18名の学生が受講し、オンラインであっても成果をあげた授業の様子を紹介します。

グローバルリーダーシップ実践授業は、ワークショップや事例研究、ディスカッション、自己分析などを通じて、グローバルな環境で自身の価値や目的を実現するためのリーダーシップに必要な要素を学ぶことを目的としています。
2018年度と2019年度はジョージア工科大学の教員を日本に招きました。2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響でオンライン開講となりましたが、授業スタイルは双方向型で、テレビ会議システム「BlueJeans(ブルージーンズ)」や学習プラットフォーム「Pear Deckouter」(ペア・デック)などのツールを活用しました。履修生は、講師、ティーチングアシスタント(TA)、クラスメートとグループワーク、ディスカッションを中心に積極的な交流を展開することができました。

なお、この授業は東工大グローバル理工人育成コース上級の選択必修科目ともなっています。

グローバル理工人育成コースouterは、世界の様々な分野で活躍できる人材を育成するために2013年度に開設した教育カリキュラムです。現在2,213名(上級53名)が履修しています。

ジョージア工科大の教員による授業

ジョージア工科大の教員による授業

オンラインでの双方向型授業

ジョージア工科大学があるアトランタと東京の間には13時間の時差があります。東工大生は朝8:00から授業に参加し、ジョージア工科大学の教員は夜19:00から授業を行う形で授業時間を設定しました。

ジョージア工科大学側の教員とTA、および日本側のグローバル理工人育成コースの教職員と留学生TAの間で2カ月前からオンラインで打ち合わせを重ねました。過去の本科目の履修生の支援により新しいアプリなども開発し、対面型で行っていたグループワークをオンラインでも効果的に実施する方法について検討を重ねました。

教員・学生ともに新しい方法にチャレンジするという発想のもと、テクノロジーを活用して柔軟な思考力とタイムマネジメント力を発揮しました。コロナ禍で制限がある中でもリーダーシップを基盤とした国際協働、多文化理解について多様な文化背景をもつ参加者同士で話し合い、学びを深めることができました。

国際色豊かな履修生

18名の履修生の出身国は日本9名、中国、インド各2名、アメリカ、オーストラリア、インドネシア、カザフスタン、アルジェリア各1名で、クラスの半分が留学生です。3名のTAはインド、ブラジルとバングラディシュ出身で、講師はアメリカ人、ゲストスピーカーはベトナム出身の本学卒業生です。日本人学生は2020年3月にジョージア工科大学のリーダーシッププログラムに参加する予定であった学生のほか、留学経験者や将来の留学を希望する学生が多く、グループワークやディスカッションに活発に取り組みました。

それぞれの場所からオンラインでつながる参加者達

それぞれの場所からオンラインでつながる参加者達

参加型の授業・アクティブラーニング

この授業は、ジョージア工科大学で実践されているリーダーシップの授業を基に、過去2回の履修生からのフィードバックを反映し、授業内容を発展させたものです。

アメリカ型の授業では、予習と復習をこなして、授業では積極的な発言が求められます。本授業も、授業開始以前から、リーダーシップに関する本を一冊読み、リーダーシップやチームワークに関するブログを合計6回投稿する課題が課されました。また、履修生には授業に先んじてオンラインでオリエンテーションを行い、計8回の授業内容のポイントや課題をまとめたマニュアルを配布しました。マニュアルを事前に読んでおくことで、日本人学生もグループワークとディスカッションに率先して参加できました。

授業はすべて英語です。学生の参加を促す学習プラットフォーム「Pear Deck」で「今日の気分」や「今日一番学んだこと」を投稿し、クラス内で共有しました。休憩時間は出身国で人気のある曲をかけて紹介し、授業全体として異文化理解を継続できました。また、過去の対面授業の際行われた「100枚のカードを用いて自身が重要だと思う価値観を選択する自己分析ツール」をプログラミングし、オンラインでも対面で行う活動と同様の効果を得ることができました。

異文化でのチームワークから学ぶ

次に、チームワークについて学習しました。このセッションでは目標実現のためにメンバーの長所や強みを生かし、協力して取り組むことが不可欠である、という前提を共有します。異文化および分野横断的な環境の中で協力し、課題を解決し調整する能力を身に付けます。各チームの代表が家の中にある10の素材を準備し、チームのアイデアをもとに「世界の問題を解決する画期的なシステム」を作ることに挑戦しました。気候変動の影響を受ける中で、「環境変化に適応する鳥の餌入れ」、衛生環境を向上させるための「ポータブルな水の浄化装置」、新型コロナウィルスに対応するための「使い捨てできるスマホカバー」や「通気性がよい抗菌マスク」、東工大の日本人学生向けの「留学促進マスコット」などを協力して作り共通のゴールを達成するために必要な方法を学びました。

環境変化に適応する鳥の餌入れ
環境変化に適応する鳥の餌入れ

ポータブルな水の浄化装置
ポータブルな水の浄化装置

使い捨てできるスマホカバー
使い捨てできるスマホカバー

通気性がよい抗菌マスク
通気性がよい抗菌マスク

留学促進マスコット
留学促進マスコット

また、各国のリーダーシップのスタイル(平等主義、階級主義)について、その国の歴史、文化、習慣を前提とした違いについても学びました。組織内での意思決定の方法は国によって大きく異なっており、各国のリーダーシップスタイルの特徴と、その中で起こりうる意識的あるいは無意識の偏見への対処法についても学びました。

チームビルディングのセッションでは、グーグルジャパンに勤務する本学卒業生のミン・グエン(Minh Nguyen)さんがゲストスピーカーとして参加しました。ミンさんの実体験に基づく日本企業とグローバル企業の比較や、様々な環境の中で自分の能力を活かし目標を実現するためのヒントを履修生は聞くことができました。

本学卒業生のミン氏(写真右上)

本学卒業生のミン氏(写真右上)

オンラインパーティー

グローバルリーダーシップ実践では、毎年、履修生と教員、TAが懇親会を行い、親睦を深めます。今回、講師とTAは来日できなかったため、テレビ会議システム「Zoom(ズーム)」を利用した懇親会、Zoomパーティーを開きました。ジェスチャーゲームや、お題に沿って物を持ってくるスカベンジャーゲームで遊び、それぞれの国の印象と良いところを語り合いました。

パーティーで盛り上がる参加者達

パーティーで盛り上がる参加者達

最終発表セッション

最終日には5グループが、それぞれ2名のリーダーについて事例研究を行い、リーダーシップに必要な要素を分析し、結果を発表しました。履修生の多様な国籍を活かし、アメリカ公民権運動のキング牧師(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、アメリカのバラク・オバマ前大統領、台湾の蔡英文総統、発明家のニコラ・テスラ氏、スウェーデンの家具チェーンIKEA(イケア)創業者のイングバル・カンプラード氏、アリババ創業者のジャック・マー氏、プロサッカー選手の長谷部誠氏、アメリカ人女性科学者のアニタ・ボルグ氏、テスラCEOのイーロン・マスク氏といったリーダーを取り上げ、社会変革をもたらす方法を語り合いました。

履修生は最後に、学んだことを今後どのように自分の将来に適用していくかを具体的に示し、メンバーと共有しました。講師はこの集中授業が終わった後も履修生の成長、学びについて個別に、フィードバックします。

履修生にとって、全8回の授業は刺激的で成長できる2週間となったようです。多様な文化に属する参加者とオンラインで交流を深めることができ、場所を選ばない国際協働の方法を学びました。

お問い合わせ先

グローバル人材育成推進支援室

E-mail : ghrd.info@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3520

社会人アカデミー 開催講座 Institutional Research論 第2期 2020年9月~12月開催 オンライン開催

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大学IR(Institutional Research)は教学分野で遂行され、近年、多くの大学において大学の運営に関わるIRも求められるようになってきています。本講座では、IR実務者のスキルアップのために、IRの背景、基礎、応用を最先端のIR実務者による講義も含めた内容から学びます。

大学におけるIR実務に携わる皆様のご参加を、心よりお待ちしております。

日時
2020年9月12日 - 12月19日(隔週土曜日)
開催形式

オンライン開催(Zoomミーティングを用いたライブ型講義)

講師
  • 森雅生 教授(東京工業大学)
  • 相原総一郎 特任教授(芝浦工業大学)
  • 白鳥成彦 教授(嘉悦大学)
  • 髙田英一 准教授(神戸大学)
  • 杉原亨 准教授(関東学院大学)
  • 大石哲也 特任准教授(東京工業大学)
対象者
大学におけるIR実務者
受講料
91,000円(税抜き)
定員
20名(最少開催人数6名)
申込締切

8月31日(月)

※定員に達し次第、締切とさせていただきます。

申込方法
社会人アカデミーウェブサイト outer よりお申し込みください。
詳細は下記チラシ及び関連リンク先の講座・プログラム案内ページをご覧ください。

2020年度 Institutional Research論第2期 チラシ

2020年度 Institutional Research論第2期 チラシ

2020年度 Institutional Research論第2期 チラシ

お問い合わせ先

東京工業大学社会人アカデミー事務室

E-mail : jim@academy.titech.ac.jp

Tel : 03-3454-8867/8722

血液内のエクソソームをバイオマーカーとしたがん診断法の開発 がんの有無の判別や種類の特定に有効、がん診断への貢献に期待

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要点

  • 様々なヒト組織由来のエクソソームに共通するエクソソームマーカーを解明
  • ヒト血漿由来エクソソームを用いたがんの有無を判別するタンパク質パネルを報告。これを用いてがんの種類の特定が可能であることを併せて証明

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の星野歩子准教授らは、コーネル大学をはじめとする研究機関と共に、広範囲に渡るヒトのエクソソームに共通する「エクソソームマーカー」を発見し、これを用いてがん種を特定することが可能であることを明らかにした。

エクソソームは全ての細胞から産生される微小胞である。エクソソームには細胞由来のタンパク質、核酸、脂質など多様な情報が含まれていることから、様々な疾患を反映したバイオマーカー[用語1]としての期待が高まっている。

今回の研究では、426のヒト由来サンプルの分析から、様々な組織(血漿、血清、手術組織等)でエクソソーム全てに共通する「エクソソームマーカー」の候補を見つけることに成功した。また機械学習によって、エクソソームを用いてがんの有無が判定できること、さらにすべてのステージにおいてがんの種類を特定できることを確認した。さらに、がんの判別やがんの種類の特定に用いることができるエクソソーム含有タンパク質パネル[用語2]には、がん細胞が直接産生するエクソソームだけでなく、その他の“正常細胞”から得られるメッセージが有力であることが分かった。

この成果から、エクソソームを用いたバイオマーカーでは、がんの足跡だけを追いかけるのではなく、がん種別に体全体で起きている変化をバーコードのようにスキャンすることが期待できる。将来的には、がん診断の精度向上にもつながる重要な成果だといえる。

研究成果は2020年8月13日(米国東部時間)に米国科学誌「Cell(セル)」オンライン速報版で公開された。

背景と研究の経緯

エクソソームは、全ての細胞から産生される50-150 nmサイズの微粒子であり、1 mlの血液中に数百億個から数兆個のエクソソームが流れている。従来は細胞の不要物を処理する機構と考えられてきた。しかし近年、エクソソームが産生細胞から別の細胞へ取り込まれることが明らかになり、新たな細胞間コミュニケーションツールとして注目を浴びている。

研究グループはこれまでに、肺・肝臓・脳において、がん細胞が産生するエクソソームが、がんの未来転移先へ事前に到達してその臓器内細胞へ取り込まれることで、がん細胞が転移しやすい環境を作っていることを証明してきた[参考文献1,2]。また、がん細胞由来エクソソームには、特定のタンパク質(肺・肝臓では特定のインテグリン[用語3]、脳ではCEMIP[用語4])が選択的に含まれており、それらが「郵便番号」のような役割をすることで、エクソソームの臓器特異的な分布を規定していることを明らかにした。さらに、がん患者の血中エクソソームのELISA解析[用語5]を行うと、肺や肝臓転移があった患者の血中エクソソームでは特定のインテグリンが上昇していることが分かった。すなわち、がん患者の血中にはがん細胞由来のエクソソームが流れていることになる(図1)。こうした背景から、血中エクソソームのタンパク質を元にしたがん診断マーカーの開発が期待されており、この観点から今回の研究を行った。

図1. エクソソームの電子顕微鏡写真

図1. エクソソームの電子顕微鏡写真

血液中には全ての細胞が産生するエクソソームが大量に含まれ、脂質二重膜構造であるため、ドーナツ型にみえる。

研究成果

研究グループは、エクソソーム含有タンパク質に注目して、エクソソームのプロテオミクス解析[用語6]データを用いる機械学習を行った。その結果、エクソソームをマーカーとして使うことで、がん患者と健常者を分けることができるだけでなく、がん種の特定にも有効であることが分かった。

本研究では、426のヒト由来サンプルを用いた分析で、様々な組織(血漿、血清、手術組織等)からのエクソソーム全てに共通する「エクソソームマーカー」候補を見つけることに成功した。そのうえで、様々なステージの16種類のがん(乳がん、肺がん、中皮腫、膵臓がんなど成人のがんと、骨肉腫、神経芽細胞腫などの小児がん)の患者の血漿由来エクソソームのプロテオミクス解析と健常人のものを元に、機械学習を用いてエクソソーム含有タンパク質の種類によって、がんの有無を判定することができることを見出した。さらに、プロテオミクスから得られたエクソソームに含まれるタンパク質パネルを元に、がん種を分けられることを発見した(図2)。さらに、がん種特定やがんの有無を分けるために用いることができるエクソソーム含有タンパク質パネルには、がん細胞が直接産生するエクソソームだけでなく、その他の“正常細胞”から得られるメッセージが有力であることを明らかにした。これらの結果から、がん細胞が産生するエクソソームだけでなく、得られる全てのエクソソームによってがんの有無を確認でき、さらにがん種の特定まで可能であることを見出した。つまり、がん患者の血液には、がんの進行度合いに関係なくがん種別に体内で変化が起きており、それを反映した十分な量のバイオマーカーが存在していることになる。

図2. がん患者の血液中のエクソソームのプロテオミクス解析により、がんのステージに関係なく種類別にクラスタリングすることが確認された。

図2.
がん患者の血液中のエクソソームのプロテオミクス解析により、がんのステージに関係なく種類別にクラスタリングすることが確認された。

今回の研究成果は、特に膵臓がんなどの、早期ステージではなかなか見つからないがん種の特定に用いることが期待できるという点で、非常に大きなインパクトがあるといえる。また5 %ほどの患者では、転移は見つかるものの、どの種類のがんが原発なのか分からない「原発不明がん」としてがんが見つかることがある。そうした患者のがん種をエクソソームで特定できれば、これまで原発巣が不明なため治療法を選ぶのが困難だった患者の診断基準となると期待される。また診断の際に、一つのソース(例えばがん細胞)だけに頼ると、それが何らかの理由で検出できなかった時に偽陰性が生まれる恐れがある。エクソソームから得られる情報を用いれば、体内の様々な細胞ががんの存在に対して反応しているサイン全てをバイオマーカーとして活用できるため、そうした見落としの可能性を低くできると考えられる。前述の機械学習では、がんの診断としては感度95 %、特異度90 %の結果が得られた。

今後の展開

本研究では、エクソソーム含有タンパク質が、がんの有無の判定だけでなく、がん種の特定にも役立つことが分かった。今後はさらにサンプル数を増やして分析を行い、がん種についてもさらに幅広く検討する必要がある。今回は概念実証(proof of principal)としての論文となったが、今後実用化に向けて研究を進めていく予定である。さらに、本研究では必要なタンパク質パネルが特定されたが、今後はその全てが必要であるか、どのパネルの使用が最も有用であるかについても検討する。

用語説明

[用語1] バイオマーカー : 特定の疾病の有無やその進行度を反映する、血液中のタンパク質などを用いた測定

[用語2] エクソソーム含有タンパク質パネル : エクソソームに含まれるタンパク質をプロテオミクス解析する際の各要素を指す。これらを解明することで、がんの有無、もしくはがん種の特定に最も有用な予測分子のパネルを見出した

[用語3] インテグリン : 細胞の表面にあるタンパク質で、細胞同士をつなぐ役割等がある。αとβサブユニットからなるヘテロダイマーで、ヒトでは24種類確認されている。その中でも、研究グループでは、α6β4インテグリンはエクソソームを肺へ導きαvβ5は脳へ導く「郵便番号」の様な役割をすることを報告している

[用語4] CEMIP : ヒアルロン酸結合タンパク質で、エクソソーム上のこの分子はエクソソームを脳内の血管内皮細胞へ導きその形質を変化させることを報告している

[用語5] ELISA解析 : 抗体を使った免疫学的測定法。エクソソームに特定のタンパク質が含まれているかどうかを測定することができる

[用語6] プロテオミクス解析 : タンパク質の網羅的解析。エクソソームに含まれるタンパク質リストが得られる

参考文献

[1] Hoshino et al., "Tumour exosome integrins determine organotropic metastasis." Nature 527(7578) 329 - 35 2015年11月19日
DOI: 10.1038/nature15756 outer

[2] Rodrigues, Hoshino et al., "Tumour exosomal CEMIP protein promotes cancer cell colonization in brain metastasis." Nature cell biology 21(11) 1403 - 1412 2019年11月
DOI: 10.1038/s41556-019-0404-4 outer

論文情報

掲載誌 :
Cell
論文タイトル :
Extracellular Vesicle and Particle Biomarkers Define Multiple Human Cancers
著者 :
Ayuko Hoshino, Han Sang Kim, et al.
DOI :
<$mt:Include module="#G-11_生命理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 星野歩子

E-mail : ayukohoshino@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5139 / Fax : 045-924-5139

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

AIを使い生体材料(バイオマテリアル)の設計に成功 機械学習で生体分子の吸着を予測し、材料を高速スクリーニング

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要点

  • 材料の物性、生体分子との相互作用を、材料の化学構造から正確に予測
  • 過去の文献データを利用したデータベースの構築と機械学習を活用
  • 材料を高速にスクリーニングすることで、材料開発のスピードを圧倒的に加速
  • 従来の試行錯誤的な材料設計のアプローチから脱却した、新しい開発手法

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の林智広准教授らのグループは、機械学習[用語1]を用いて、生体材料(バイオマテリアル)[用語2]を設計する新たな手法の確立に成功した。

有機薄膜の水への濡れ性[用語3]、膜へのタンパク質吸着に関する過去の文献・実験データを活用してデータベースを構築し、機械学習を用いて、膜を構成する分子の化学構造と膜の特性の相関解析を行った。これに基づいて、生体材料の化学構造から材料の濡れ性、タンパク質の吸着量を正確に予測する手法を開発した。

この手法は未知の材料の材料特性なども予測することができ、将来は材料の高速スクリーニング(必要なものを選び出すこと)に応用し、材料開発の時間とコストを大幅に削減する可能性があることを明らかにした。

研究成果は2020年8月17日付「ACS Biomaterials Science & Engineering(米国化学会バイオマテリアルズ・サイエンス&エンジニアリング)」に掲載された。

研究成果

本研究はモデル有機材料として広く用いられている、自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM)[用語4]の材料特性(水の接触角[用語5]、SAMへのタンパク質吸着量)を、世界で初めてSAMを構成する分子構造から予測した。

この成果は過去の文献からデータを抽出して独自のデータベースを構築し、人工ニューラルネットワーク[用語6]モデルを用いた機械学習を用いて達成した(図1及び2)。さらに未知の材料の材料特性の予測にも成功、本手法が材料のスクリーニングに応用可能であることを示した。将来的には材料開発のコスト・時間の大幅な削減に繋がることを明らかにした。

人工ニューラルネットワークを用いた機械学習の概略図

図1. 人工ニューラルネットワークを用いた機械学習の概略図

機械学習を用いた水の接触角とタンパク質吸着量の実験値と予測値の比較。点線(y = x)に近いほど予測が正確であることを示す。

図2. 機械学習を用いた水の接触角とタンパク質吸着量の実験値と予測値の比較。
点線(y = x)に近いほど予測が正確であることを示す。

背景

情報科学を活用した材料設計は触媒、バッテリー材料などの固体材料の分野で多くの成功例が報告されている。これらの例では、計算科学を活用して構築する大規模な材料の化学構造と物性(材料機能)のデータベース(ビッグデータ)が重要な役割を果たす。一方で、生体材料の機能、例えば生体分子・細胞の接着などは、計算科学で予測することができず、生体材料(バイオマテリアル)の分野における材料設計の成功例は極端に少ない。

生体材料へのタンパク質などの生体分子の吸着、細胞の接着は最も基本的な生体材料の特性であるが、定量的な予測は今まで実現されていなかった。そのため生体材料の設計は従来からの"試行錯誤"的なアプローチ(実際に材料を作り、その特性を解析し、次の材料設計にフィードバックする)に頼らざるを得ないのが現状であり、材料開発の時間やコストという面で非常に非効率だった。

研究の経緯

林准教授らは生体材料と生体分子・細胞との相互作用を系統的に調べるためのプラットフォームの開発を続けてきた。特に、材料表面上で化学組成が位置によって連続的に変化する傾斜表面(Langmuir 2015, 31, 7100. Japanese Journal of Applied Physics 2009, 48, 095503など)など、材料の化学組成と生体分子・細胞の応答に関するビッグデータを系統的に取得するための手法を提案してきた。また、過去の文献データからの情報抽出も行い、これらのデータを融合させ、情報科学的な手法で未知の材料を設計することを発案した。

今後の展開

現在も継続的にデータベースの規模を拡大中である。材料の化学構造の記述方法も改良を続け、数年以内に3大バイオマテリアルである、高分子、セラミクス、金属への応用も可能とし、本手法の応用可能範囲を広げる予定である。特に産(実際の材料開発現場での応用)、学(未知材料の開発)、官(データベースの公開)と広く連携を進める。

付記

本研究は科学研究費補助金(課題番号:JP19H02565、JP20H05210)、およびJSTさきがけの支援で行われました。

用語説明

[用語1] 機械学習 : コンピューターにデータを読み込ませ、あるアルゴリズムに基づいて分析させる手法。データを反復的に学ばせることによって、そこに潜む特徴やパターンを見つける手法。

[用語2] 生体材料(バイオマテリアル) : 主にヒトの生体に移植することを目的とした素材のこと。具体的な生体材料としては人工関節やデンタルインプラント、人工骨および人工血管用の素材などが該当する。

[用語3] 濡れ性 : 固体表面に対する液体の親和性(付着しやすさ)を表すもの。液体が水の場合には、濡れ性は親水性や疎水性という言葉でも表される。

[用語4] 自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM) : 固体材料表面上において、有機分子が基板との相互作用、分子間相互作用によって、有機分子が高い秩序性を持って、単分子膜を形成する現象を利用した固体表面の改質方法。基板と分子の組み合わせは、金-チオール、シリコン-シラン、酸化物-リン酸などがある。

[用語5] 水の接触角 : 材料の水に対する親和性の指標。材料表面に水滴を置き、その水滴の水面と材料表面のなす角度。疎水性(親水性)が高い程、接触角は大きく(小さく)なる。

[用語6] 人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network:ANN) : シナプス結合で相互結合した神経細胞の構造に類似した情報処理のための数理モデル。各要素(ニューロン)は異なる結合強度でネットワークを形成する。機械学習の過程において、結合強度は最適化される。

論文情報

掲載誌 :
ACS Biomaterials Science & Engineering
論文タイトル :
Data-driven prediction of protein adsorption on self-assembled monolayers toward material screening and design.
著者 :
Kwaria, R. J.; Mondarte, E. A.; Tahara, H.; Chang, R.; Hayashi, T.
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 材料系

准教授 林智広

E-mail : tomo@mac.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5400

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

金属イオン間の電子の授受で極性構造を制御 強誘電体・圧電体材料や負熱膨張材料の開発に新しい知見

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要点

  • 特殊な電子状態に起因した極性構造[用語1]を持つバナジン酸鉛とコバルト酸ビスマスを固溶させると、1:1に近い組成において、非極性の常誘電体[用語2]構造が出現することを発見しました。
  • この結晶構造変化の起源は、バナジウムイオンとコバルトイオンの間の電子の授受(金属間電荷移動)によることを明らかにしました。
  • 強誘電体[用語3]圧電体[用語4]材料や巨大負熱膨張[用語5]材料の開発に新しい知見を与える研究成果です。

概要

次世代デバイス開発やエネルギー問題の解決のために、強誘電体・圧電体材料や負熱膨張材料の優れた新素材の開発が求められています。東北大学多元物質科学研究所 山本孟助教、木村宏之教授、戸田薫大学院生(理学研究科)らの研究グループは、特殊な電子状態に起因して極性構造を示すペロブスカイト型酸化物[用語6]、バナジン酸鉛(PbVO3)とコバルト酸ビスマス(BiCoO3)の固溶体[用語7]において、組成変化により、巨大な体積変化を伴う常誘電相への結晶構造変化が起こることを発見しました。また、誘電体特性の1つである自発電気分極[用語8]の制御にも成功しました。これらの変化の起源は、バナジウムイオンとコバルトイオンの間の電子の授受(金属間電荷移動)によるものであることを明らかにしました。この発見は、強誘電体・圧電体材料や巨大負熱膨張材料などの新たな機能性材料の開発につながる成果です。

同研究グループには、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 東正樹教授、重松圭助教、酒井雄樹特定助教(以上3名は神奈川県立産業技術総合研究所併任)、西久保匠研究員、大阪府立大学 山田幾也准教授、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所 佐賀山基准教授、高輝度光科学研究センター 水牧仁一朗主幹研究員および新田清文研究員が参加しました。

本成果は2020年8月11日(米国時間)にChemistry of Materials誌でオンライン公開されました。

背景

強誘電性や圧電性は、陽イオンと陰イオンの重心が一致しない極性の結晶構造に起因する特性です。この特性を利用して、センサーやアクチュエーター、コンデンサーやメモリーなどへの応用がされています。代表的な強誘電体物質であるチタン酸鉛(PbTiO3)は、正方晶歪みを有するペロブスカイト型構造を持ちます。自発電気分極の値は 59 µC/cm2(点電荷モデル)と、多くの電荷を貯めることができ、優れた強誘電体・圧電体材料の母物質として用いられています。またPbTiO3は、昇温による強誘電相から常誘電相への構造相転移で、体積が収縮する負熱膨張(体積変化は約-1 %)を示します。負熱膨張物質は、ナノテクノロジー産業など精密な位置決めが求められる分野で、構造材の熱膨張を補償(キャンセル)する材料として応用が期待されています。

バナジン酸鉛(PbVO3)とコバルト酸ビスマス(BiCoO3)は、PbTiO3と同じ結晶構造を持つ酸化物です。4価のバナジウムイオンと3価のコバルトイオンが示す、電子配置の効果で結晶構造を歪ませるヤーン・テラー効果[用語9]により、自発電気分極の値はそれぞれ101 µC/cm2とおよび126 µC/cm2と、PbTiO3と比較しても巨大なものとなります。しかしながら、大きすぎる自発電気分極のために、これらの物質は外部電場による電気分極反転を示しません(焦電体)。

研究手法と成果

本研究では、高圧合成法[用語10]を用いて初めて合成に成功した、バナジン酸鉛(PbVO3)とコバルト酸ビスマス(BiCoO3)の固溶体(1-x)PbVO3-xBiCoO3において、1:1に近い組成(0.4 < x < 0.75)では常誘電相が出現することを発見しました。KEKの放射光実験施設 フォトンファクトリー[用語11]のビームラインBL-8Bでの放射光X線回折実験[用語12]から、この常誘電相は体積の小さな立方晶ペロブスカイト型構造であり、結晶構造変化に伴い-8.7%もの巨大な体積変化が起こることを明らかにしました。一方で、両端に近い組成(x < 0.4, x > 0.75)では極性構造を保持し、自発電気分極の値が徐々に減少することが分かりました。

一般的に、同じ結晶構造(対称性)を持つ強誘電体(焦電体)同士の固溶体では元の結晶構造を保ちます。今回の発見はこれに相反することから、電子状態変化など特異な要因があると考えました。大型放射光施設 SPring-8[用語13]の軟X線光化学ビームライン(BL27SU)において、構成元素の電子状態を選択的に評価することができる軟X線吸収分光実験[用語14]を行ったところ、バナジウムイオンとコバルトイオンの間での電子の授受(金属間電荷移動 V4+ + Co3+ → V5+ + Co2+)が起こっていることを発見しました。この電荷移動により、ヤーン・テラー効果が不活性化されることが結晶構造変化の起源であると、突き止めました。

図1. (1-x)PbVO3-xBiCoO3固溶体における結晶構造変化と金属間電荷移動

図1. (1-x)PbVO3-xBiCoO3固溶体における結晶構造変化と金属間電荷移動

図2. (1-x)PbVO3-xBiCoO3固溶体における単位格子体積と自発電気分極の変化(室温)

図2. (1-x)PbVO3-xBiCoO3固溶体における単位格子体積と自発電気分極の変化(室温)

研究の意義と今後の展開

本研究では、固溶で起こる電子の授受という電気化学的な現象により、極性構造を制御できることを明らかにしました。この成果は、強誘電体・圧電体材料や巨大負熱膨張材料の開発において、新しい知見を与えることが期待されます。

付記

本研究の一部は、KEKの放射光共同利用実験課題(2018G603)、SPring-8利用研究課題(2020A1324)、東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所共同利用研究、旭硝子財団研究助成、徳山科学技術振興財団研究助成、並びに科学研究費補助金「若手研究 19K15280、および基盤S 19H05625」の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] 極性構造 : 陽イオンと陰イオンの重心が一致しない結晶構造。非極性構造はこれらの重心が一致するもの。

[用語2] 常誘電体(相) : 電気分極を持たない(非極性の)物質および結晶構造。特に導電性よりも誘電性が優位なものを指す。

[用語3] 強誘電体 : 外部電場がなくとも電気分極の方向が揃っており、外部電場によってその方向が反転する物質。強誘電性はその性質。外部電場による電気分極の反転が起こらないものは、焦電体という。

[用語4] 圧電体 : 応力をかけると物質の表面に電荷が現れ、電界を印加すると変形する物質のこと。圧電性はその性質。強誘電体と焦電体は圧電性を示す。

[用語5] 負熱膨張 : 温めると体積が収縮する性質。

[用語6] ペロブスカイト型酸化物 : 一般式ABO3で表される元素組成を持った金属酸化物の代表的な結晶構造をもつ酸化物。

[用語7] 固溶体 : 2種以上の物質が混合した均一な固相。

[用語8] 自発電気分極 : 陽イオンと負イオンの重心がずれるため生じる電荷の偏り。

[用語9] ヤーン・テラー効果 : ある状況下で分子や配位多面体の対称性が下がり、電子のエネルギー準位の縮退が解けて安定化された状態が実現されるが、この時に分子や配位多面体の構造が変形して歪む現象。

[用語10] 高圧合成法 : 地球深部と同様の高圧高温条件を再現することで物質を合成する手法。

[用語11] 放射光実験施設 フォトンファクトリー : 茨城県つくば市にあるKEKの放射光施設。X線領域の光まで発生する放射光施設としては日本で最初に放射光の取り出しに成功した(1982年)。数度の大きな改造により放射光の高輝度化を図りつつ、最新の技術を取り入れた実験装置の開発や実験環境の整備によって、現在にいたるまで広い分野の物質・生命科学研究に貢献している。

[用語12] 放射光X線回折実験 : 結晶構造を調べる手法。放射光X線を試料に照射し、回折強度を測ることで原子の並び方や原子間の距離を決定する。

[用語13] 大型放射光施設 SPring-8 : 理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援などはJASRIが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

[用語14] 軟X線吸収分光実験 : 構成元素の電子状態や局所構造を調べる手法。

論文情報

掲載誌 :
Chemistry of Materials
論文タイトル :
Emergence of a Cubic Phase Stabilized by Intermetallic Charge Transfer in (1-x)PbVO3-xBiCoO3 Solid Solutions
著者 :
Hajime Yamamoto, Kaoru Toda, Yuki Sakai, Takumi Nishikubo, Ikuya Yamada, Kei Shigematsu, Masaki Azuma, Hajime Sagayama, Masaichiro Mizumaki, Kiyofumi Nitta, and Hiroyuki Kimura
DOI :

お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学 多元物質科学研究所

担当 山本孟

E-mail : hajime.yamamoto.a2@tohoku.ac.jp

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

教授 東正樹

E-mail : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315 / Fax : 045-924-5318

SPring-8に関すること

公益財団法人 高輝度光科学研究センター
利用推進部 普及情報課

E-mail : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2785 / Fax : 0791-58-2786

取材申し込み先

東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室

E-mail : press.tagen@grp.tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-5198

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


国内初のゲノム構築グループが発足 第一弾として大腸菌の人工ゲノム構築に着手

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東京工業大学(以下「東工大」)生命理工学院 生命理工学系の相澤康則准教授らの研究グループは、東工大発ベンチャーの株式会社Logomix(以下「Logomix」)と共同で、バイオ技術による産業フロンティア(バイオエコノミー産業)創生のための創造性やインスピレーションを育む環境を構築するため、その第一歩として産業微生物のゲノム構築を産学連携で推進する「細菌ゲノムアーキテクトプロジェクト(BGAプロジェクト)」を開始しました。BGAプロジェクトは、特定の生物種のゲノム構築を目指す国内初の産学連携合成生物学プロジェクトです。

国内初のゲノム構築グループが発足(G-language Genome Analysis Environment による出力)

Credit: G-language Genome Analysis Environmentouter による出力

背景

バイオエコノミー産業は、2030年までにOECD加盟国の全GDPの2.7%(約180兆円)の巨大市場へ成長が見込まれており(※)、その対象は環境・化学・素材分野から、農業・食品分野、そして健康・医療分野と多様な産業基盤に変化をもたらすことが想定されています。そのような時流の中、全ゲノム合成が完了した事例は世界でも増え始めており、世界では、酵母全ゲノム合成を進めるSc2.0、ゲノム合成技術の国際協調を進めるGP-write、中国で発足したGP-write Chinaといった組織によりゲノム構築が次々と進行しています。2010年に米国のJ.クレイグ・ベンター研究所によるマイコプラズマ全ゲノム合成に続いて、英国のケンブリッジ大学や韓国科学技術院(KAIST)が2019年に大腸菌全ゲノム合成を発表、2019年11月にはSc2.0が酵母全ゲノム合成を99%完了を宣言しています。

出所 : OECD 2009年「The Bioeconomy to 2030」、新エネルギー・産業技術総合研究機構(NEDO)作成資料

プロジェクトの概要

本プロジェクトでは、第一弾として「大腸菌の人工ゲノム構築」を推し進めます。大腸菌は、バイオテクノロジーの黎明期から今日まで、プラスチック、薬、燃料など様々な物質生産に用いられている産業微生物の代表種の一つです。この大腸菌のさらなる産業的有用性を高めるべく、これまでにない新しい設計原理に基づいた大腸菌ゲノムを、東工大すずかけ台キャンパスに今秋新たに設置する研究施設である合成生物学ファウンダリーを活用して構築します。

本プロジェクトの運営は、東工大とLogomixが共同研究の形で推進します。DNAの合成および細胞導入プロセスの実行を東工大が担当し、ゲノム設計・合成プロトコールのデザインや、参画企業との個別テーマの設定、その他の事業化に関連する活動をLogomixが担当します。また、テクニカルアドバイザーとして、ニューヨーク大学遺伝システム研究所 所長のJef Boeke(ジェフ・ブーカ)教授を筆頭に、国内外の微生物研究の第一人者も参画します。

産業界からは、ヤマト科学株式会社、株式会社電通、長瀬産業株式会社、株式会社みらい創造機構、株式会社日立製作所、大阪サニタリー株式会社、株式会社日立ハイテクを含む計7社が参画します。本プロジェクトを通して、合成生物学産業における新事業シーズの探索、バイオ・非バイオの範疇を超えた様々な産業セクター間での産学連携ネットワークの構築、新バイオ産業創出に貢献する細胞ゲノム構築技術の成熟化を進めます。

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東京工業大学 総務部 広報課

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サンゴの天敵・オニヒトデの体表を覆う未知の共在菌をインド・太平洋の広域から発見

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概要

宮崎大学農学研究科の安田仁奈准教授と台湾アカデミアシニカの和田直久博士、東京工業大学生命理工学院 生命理工学系の伊藤武彦教授・梶谷嶺助教・湯淺英知特別研究員、九州大学大学院医学研究院の林哲也教授・後藤恭宏助教・ 小椋義俊准教授(現久留米大学教授)、国立遺伝学研究所豊田敦特任教授らは、サンゴの天敵であり、インド・太平洋のサンゴ礁生態系の保全上大きな問題となっているオニヒトデの体表に、未知の細菌(1菌種)が共在菌としてほぼ独占的に存在していることを発見し、全ゲノム[用語1]配列を解読しました。ゲノム情報を用いた解析から、この細菌は、これまでに知られているどの細菌とも系統的に大きく異なる新種であると考えられました。さらに紅海からインド洋、太平洋に渡る様々な海域から得られたすべてのオニヒトデに存在することから、オニヒトデがインド洋・太平洋種に種分化する200万年以上前から共在し、オニヒトデと安定な共生関係を築いていると推察されました。様々な海洋生物で、共生細菌が重要な役割を果たす可能性が指摘されていますが、不明な点が多いため、海洋生物と細菌の共生機構の研究を進めるうえで、今回発見したオニヒトデと細菌の共生系は非常に有用なモデルシステムになると期待されます。また、オニヒトデ共生細菌とそのゲノム情報はオニヒトデのモニタリングにも利用でき、大量発生の早期検出などに活用できる可能性があると考えられます。

この成果は令和2年8月24日にMicrobiome誌(電子版)に掲載されました。本研究は、科学研究費ゲノム支援、先進ゲノム支援221S0002, 16H06279(PAGS)、若手研究B(25870563)、若手研究A(17H04996)、特別研究員奨励費(18J23317)の支援を受けて行われました。

要点

  • 細菌叢解析[用語2]により、オニヒトデの体表に未知の細菌が単独に優占していることを発見。
  • FISH法[用語3]という目的の細菌の部分遺伝子領域を蛍光顕微鏡下で特異的に光らせる技術により、単独の新規細菌がオニヒトデの体表面に膜状を覆うように優占して分布していることを明らかにした。
  • 全ゲノム配列を決定し、ゲノム情報を用いた系統解析により、海洋スピロヘータ[用語4]の仲間であるものの既知の細菌とは大きく異なる新種の細菌であることが判明。
  • インド・太平洋から得られたオニヒトデ全部で検出されたことから、これらが分岐する200万年以上前から共在関係にあると考えられる。
  • 細菌の局在性とゲノム配列情報が得られた本共生系は、海洋生物と細菌の共生に関する研究を進める上で、優れたモデル系になると期待される。
  • 応用的な意義について:オニヒトデは時に大量発生し、サンゴ礁生態系を脅かすことは知られているが、大量発生を早期に予想・把握することは困難である。オニヒトデと密接に共生するこの細菌を用いて、海水中をモニタリングすることで、大量発生の早期発見すること等にも役立つことが期待される。

解説

サンゴの天敵であるオニヒトデの大量発生はインド洋・太平洋に分布するサンゴ礁生態系における最も大きな脅威の一つです。沖縄から本州の温帯域においても慢性化・頻発化しているオニヒトデの大量発生による食害が問題になっています(図1)。

図1. オニヒトデの大量発生(梶原健二博士撮影)

図1. オニヒトデの大量発生(梶原健二博士撮影)

一方で、こうした海洋生物の体表面にはさまざまな細菌が共在していることが近年明らかになってきており、免疫や、栄養の供給、窒素固定などホストの生物にとって重要な機能をもつのではないかといわれていますが、実際の機能や役割については殆どわかっていません。オニヒトデにおいても、オニヒトデ自体については多くの研究がなされていたものの、オニヒトデに共生する細菌についてはほとんどわかっていませんでした。 本研究では、まず、オニヒトデの体のさまざまな部位(背中や腕、口側の棘、胃袋、管足)についてどのような細菌がいるか、網羅的に遺伝子配列を解析する細菌叢解析を行いました。その結果、オニヒトデのすべての体表面の組織で、単一の細菌が独占的に存在していることが分かりました(図2の赤色)。これほど高レベルに単一の細菌が見つかることは非常に珍しいことです。

図2. オニヒトデの様々な部位で見つかった細菌の割合。赤で示した細菌が胃袋以外の体表面で、優占している。

図2.
オニヒトデの様々な部位で見つかった細菌の割合。赤で示した細菌が胃袋以外の体表面で、優占している。

さらに、体表面の組織を採集し、FISH法と呼ばれる方法で、この細菌の遺伝子を特異的に赤く光らせたところ、図3のように、体表面の最表面に存在するクチクラ層[用語5]と実質組織の間の空間にみっしりと膜状に分布していることがわかりました。

図3. FISH法による、オニヒトデ体表面における新規発見された細菌の分布

図3. FISH法による、オニヒトデ体表面における新規発見された細菌の分布

また、ホロゲノム解析[用語6]という手法を用いて、この細菌の全ゲノム配列を決定することに成功しました。得られたゲノム情報を用いて解析した結果、この共生菌がスピロヘータ(梅毒・ライム病・ワイル病の原因菌が含まれる)の仲間ではあるものの、既知のスピロヘータとは大きく異なる新種の細菌であることが判明しました(図4)。ゲノム情報の詳細な解析からは、海水環境に適応するための遺伝子を持つことや、菌が移動するために必要な鞭毛を持つにも関わらず、移動の方向性を決定するために必要な走化性に関わる遺伝子が見つからないことなど、既知の細菌と大きく異なる特徴が明らかになりました。

図4. ゲノムの部分配列で構築した新規発見の細菌(COTS27)の系統樹

図4. ゲノムの部分配列で構築した新規発見の細菌(COTS27)の系統樹

さらに、この細菌がオニヒトデに普遍的に存在しているのかを調べるために、イスラエル(Acanthaster sp. 紅海種)、タイ(インド洋北種 Acanthaster planci)、日本・オーストラリアグレートバリアリーフ・ハワイ(太平洋種 Acanthaster cf. solaris)で採取された3種のオニヒトデを調べたところ、全ての個体からこの共在細菌が見つかりました(図5)。つまり、これらのオニヒトデ3種は200万年前に分岐したと考えられているため、今回発見した細菌は200万年あるいはそれ以前からオニヒトデと共生していると考えられます。

図5. 細菌が発見された紅海、インド洋北、太平洋に分布するオニヒトデ

図5. 細菌が発見された紅海、インド洋北、太平洋に分布するオニヒトデ

海洋生物と体表面に存在する細菌の共在関係における機能や役割はまだほとんどわかっていません。今回発見したオニヒトデ共生菌については、オニヒトデとの普遍的で緊密な共生関係から、オニヒトデにとって重要な役割を演じている可能性が高いと考えられますが、その機能については未だ不明です。また、培養にも成功できていません。しかし、全ゲノム配列が明らかにできており、さらに一種類の細菌が独占的に存在するという極めてシンプルな共生関係であることから、私達が見出したオニヒトデと細菌の共生系は、海洋生物とその体表面に共在する細菌の機能や役割についての研究を進める上で、非常に優れたモデル系になると期待されます。また、最終的には海水中の細菌数からオニヒトデの大量発生を予測したりモニタリングしたりする有効な手段となるかもしれません。

研究グループ

宮崎大学農学研究科の安田仁奈准教授と、台湾アカデミアシニカの和田直久博士・Sen-Lin Tang教授 、東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の伊藤武彦教授・梶谷嶺助教・湯淺英知特別研究員、九州大学大学院医学研究院の林哲也教授・後藤恭宏助教・小椋義俊准教授(現久留米大学教授)、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授らは、元東京工業大学生命理工学院 生命理工学系の吉村大博士、元宮崎大学農学研究科の東村幸浩氏、オーストラリア海洋科学研究所のHugh Sweatman博士、ハワイ海洋生物研究所のZac Forceman博士、テルアヴィヴ大学のOmri Bronstein博士、クイーンズランド大学Gasl Eyal博士、プーケット海洋生物センターのNalinee Thongtham博士とともに研究を行いました。

用語説明

[用語1] ゲノム : 生物が正常な生命活動を営むために必要な、遺伝子群を含む染色体のこと。

[用語2] 細菌叢解析 : 細菌が共通にもつ部分遺伝子領域を人工的に増幅させ、どのような種類の細菌がどの程度いるのかを明らかにする解析。

[用語3] FISH法 : Fluorescence in situ hybridization法(FISH法)のことで、蛍光物質をつけた合成遺伝子を標的rRNAにくっつけること(相補結合)で、蛍光顕微鏡下で可視化する方法。

[用語4] スピロヘータ : らせん状の形態をした細菌の一グループのこと。梅毒・ライム病・ワイル病の原因菌が含まれる。

[用語5] クチクラ層 : 体の表面を覆う層で、内部の保護の役割を果たしたりする層のこと。

[用語6] ホロゲノム解析 : 生き物も含めその内外全部のゲノムを取得・解析する解析手法。

[用語7] PCR : Polymerase Chain Reactionの略で、人工的に限られた長さの遺伝子領域を増幅する技術のこと。

論文情報

掲載誌 :
Microbiome
論文タイトル :
A ubiquitous subcuticular bacterial symbiont of a coral predator, the crown-of-thorns starfish, in the Indo-Pacific
著者 :
Naohisa WADA; Hideaki YUASA; Rei KAJITANI; Yasuhiro GOTOH; Yoshitoshi OGURA; Dai YOSHIMURA; Atsushi TOYODA; Sen-Lin TANG; Yukihiro HIGASHIMURA; Hugh SWEATMAN; Zac FORSMAN; Omri BRONSTEIN; Gal EYAL; Nalinee THONGTHAM; Takehiko ITOH; Tetsuya HAYASHI; Nina YASUDA
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

教授 伊藤武彦

E-mail : takehiko@bio.titech.ac.jp

宮崎大学農学部海洋生物環境学科

准教授 安田仁奈

E-mail : nina27@cc.miyazaki-u.ac.jp

九州大学大学院医学研究院

教授 林哲也

E-mail : thayash@bact.med.kyushu-u.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

宮崎大学 企画総務部 総務広報課 広報係

Tel : 0985-58-7114 / Fax : 0985-58-2886

九州大学 広報室

E-mail : koho@jimu.kyushu-u.ac.jp

東工大生とマサチューセッツ工科大学生がオンラインで語学タンデム

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東京工業大学のグローバル理工人育成コースouterは、米国マサチューセッツ工科大学ジャパンプログラム(MITジャパン)と共同で、双方の学生がペアを組んで日本語と英語を学び合う国際交流プログラム「語学タンデム」をオンラインで開催しました。6月から7月にかけて約1ヵ月間行い、東工大生17名とMITジャパンより18名の計35名が参加しました。

東工大とMITは2019年度から開始した交換留学や2017年度より開始された、たたら製鉄ワークショップ等の交流実績があります。

2020年は新型コロナウィルスの影響により、国境を越えた移動が制限され、多くの国際交流イベントが延期や中止となりました。対面での国際交流の代替案として、オンラインの語学タンデムが企画、実施されました。

タンデムとは、異なる外国語を学ぶ異なる国の学生(例えば英語を勉強する日本人と、日本語を学ぶ外国人)でペアを組み、お互いに語学学習を助けあう方法です。すべてオンラインでの実施となった今回の語学タンデムは、

1.
外国語でのコミュニケーション能力の向上
2.
語学交流を通じた異文化理解、視野の拡大

の2つを目的として、東工大生とMITの学生17グループがペアを組みました。

語学タンデムでビデオ制作

ビデオからのカット:日本とアメリカについて話し合う学生たち
ビデオからのカット:日本とアメリカについて話し合う学生たち

6月上旬のイントロダクションセッションを皮切りに、それぞれのグループは東京とボストンの間の13時間の時差を克服してスケジュールを調整し、少なくとも3回、語学タンデムを行いました。1回の語学タンデムは日本語の会話が30分、英語での会話が30分で構成されます。参加者は、会話のトピックを自由に選び、最後にグループごとにお互いの国の事情から学んだことについて、5分間のビデオをつくります。グループはそれぞれ教育制度、大学制度、料理、昔話、スポーツ、映画、音楽、言語学、テレビ番組、映画タイトルの翻訳などさまざまなテーマを選びました。多くのグループは3回以上の語学タンデムを行いました。

それぞれのグループは自由にビデオ制作を行い、理工系大学生ならではの多くの技術を駆使し、ユニークで面白いビデオを作りました。

ビデオからのカット:セッション冒頭の自己紹介
ビデオからのカット:セッション冒頭の自己紹介

ビデオからのカット:MITについて学んだことを英語で紹介する東工大の学生
ビデオからのカット:MITについて学んだことを英語で紹介する東工大の学生

ファイナルセッションでそれぞれのビデオを紹介

7月上旬、個別の語学タンデムセッションを終了し、参加者はファイナルセッションに参加しました。それぞれのグループが作ったビデオを編集したダイジェスト版が紹介され、参加者が一人ひとり感想を述べました。その際、東工大生は英語で、MITジャパンの学生は日本語で発言しました。17グループの中から投票により、

1.
伝統料理の比較
2.
昔話の比較
3.
言葉の構成

をテーマとしたベスト3のビデオが選ばれ、作ったグループが紹介されました。投票者たちのコメントは「選んだビデオが一番見やすく、内容も勉強になり、説明も分かりやすかった」「比較が面白く、ビデオも分かりやすかった」「とても創造的でBGMの選択もよく、料理を実際に作っていて、食べたくなった」などです。ファイナルセッションの最後には、参加証明書と共に、MITジャパンから記念品が贈られました。

オンラインセッションの様子

オンラインセッションの様子

ファイナルセッションに取り組む参加者

プログラム終了後にアンケートを行いました。アンケートに回答した33名全員がこのプログラムを友達にも勧めると答えました。本プログラムは、外国語と母国語を対等な関係で互いに学び、教え合うことができるのが特徴です。プログラム修了後も、継続して、オンラインの交流を行っているグループもあります。アンケートには「参加者の多くが、他の国の新しい知り合いを作り、共通のテーマについて日本とアメリカの事情を比較し、外国語でのコミュニケーションを楽しんだ」とのコメントがありました。

グローバル理工人育成コースとMITジャパンは、このプログラムを通して参加者が育んだ友情が続き、MITと東工大の関係が発展することを願っています。

参加した東工大学生のコメント

  • 動画を作るのは大変でしたが、完成したときに、お互いをより深く理解し、信頼関係を築いて仲良くなりました。スピーキングの練習ができる貴重な機会でした。また相手の出身国やアメリカの文化を学ぶことができ勉強になりました。
  • パートナーとよい時間が過ごせました。会話を進める中で、トピックについて教えることも学ぶことも多かったです。
  • 授業とプライベートの中間的な位置付けで取り組めたので、緊張感などもなくよかった。
  • 英語力の向上や同じ理工系大学で学ぶ友人が出来る、など良かった点が多かったです。時差の問題は難しかったですが、朝の時間と夜の時間で工夫して行いました。トピックを各自で決められたため、話していくうちにお互いが興味を持ったり、面白いと思ったトピックをさらに深めてビデオにすることができました。他のグループのビデオを見ることもでき、新しい発見があってとても面白かったです。
  • 制約も少なく、自由に会話できたので良かったです。お互いの言語の勉強がしっかりできました。
  • 普段ならハードルが高くて参加できないイベントでしたが、オンラインで気軽にMITの学生と会話できると聞いて参加すると決めました。めったにない貴重な機会で楽しかったです。 期間に関しては1ヵ月くらいが軽すぎず、重すぎずちょうどよかったと思います。 話し合う時間ややり方などをペアと決められる自由さがあり、忙しい僕でも続けやすかったです。
  • 新しい友人との会話を楽しめました。英語の語彙だけでなく文法や、アメリカの文化やライフスタイルについて学びました。そのため、アメリカやMITにさらに興味を持ちました。

主催したMITジャパンと東工大グローバル理工人育成コースの教員・スタッフのコメント

マサチューセッツ工科大学 MITジャパンプログラム クリスティーン・ピルカベージ事務局長

学生たちの最終課題であったビデオを見たとき、相手の文化と言葉を学ぶ彼らの創造性と情熱にとても感動しました。今回参加したMITの学生の多くに直接日本語を教えましたが、彼らがハッピーでエネルギーに満ちながら日本語で話す顔を見て、この大変な状況の中でとても価値ある経験になったと思います。今回のプログラムは、教育手法としてもよく練られており、語学教師としても多くの学びを得ました。東工大の主催者の方々に感謝すると共に、この活動が発展し継続することを願っています。

マサチューセッツ工科大学 グローバル・ランゲージ 相川孝子シニアレクチャラー

MITジャパンプログラムのインターンシップが新型コロナウィルスの影響で中止となり、とても心を痛めていました。日本での経験を得られなくなってしまったMITの学生が語学タンデムを通して東工大の学生とつながれたことで、日本との距離が少し近くなり、とても嬉しく思いました。MITと東工大の学生たちにとって、語学をお互いから学ぶ中で育まれた友情が一番の宝物であると思います。MITと東工大の国際交流を継続してくださっている太田先生に感謝するとともに、お互いの学生が語学そしてお互いの文化を学びたいと思えるような充実したプログラムが実施できることを望みます。そしてもちろん、我々が日本に渡航できる日が来て、友達になった東工大生に会えることを希望しています。

東京工業大学 国際教育推進機構 太田絵里特任教授/ユニバーシティエデュケーションアドミニストレーター

今回、初めての試みとして、東工大生とMITの学生がオンラインで交流するプログラムを実施しました。最後にグループごとに制作されたビデオを見て、参加された学生たちが仲良くなれた様子が感じられてとても嬉しく思いました。このイベントを通じて、場所や時間の隔たりをいとわず、国境を越えた友情つくりは可能かもしれない、と感じました。一方で、MITとの国際交流イベントである東工大たたら製鉄ワークショップの主催者として、両校の学生たちが日本で直接交流できればよかったのに、と未練がましく思います。この活動が継続され、次回は、オンラインの交流と直接の交流の双方を組み合わせて実現できることを真に願います。最後に、参加された学生さん、MITのクリスティーンさん、相川先生に心よりお礼を申し上げます。

お問い合わせ先

グローバル人材育成推進支援室

Email : ghrd.info@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3520

タンパク質を増やす秘訣に迫る 翻訳を促進するノンコーディングRNAの2次構造を決定

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東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の石井佳誉教授(理化学研究所(理研)放射光科学研究センター NMR研究開発部門 部門長)と、理研放射光科学研究センターNMR研究開発部門の大山貴子研究員、生命医科学研究センタートランスクリプトーム研究チームのピエロ・カルニンチチームリーダーらの国際共同研究グループ※は、翻訳段階でタンパク質合成を促進する「SINEUP[用語1]」と呼ばれる機能性長鎖ノンコーディングRNA[用語2]機能ドメイン[用語1]2次構造[用語3]を決定し、さらに活性部位を同定しました。

本研究成果は、抗体医薬[用語4]などに使われるタンパク質を培養細胞でより多く生産させたり、特定のタンパク質が体内で正常に合成されないために発症する遺伝病の治療薬への応用が期待できます。

近年、2万8,000種に上る長鎖ノンコーディングRNAが報告されています。しかし、詳細な構造解析が難しいことから、長鎖ノンコーディングRNAがどのような作用機序で働いているかはよく分かっていませんでした。

今回、国際共同研究グループは、長鎖ノンコーディングRNAであるSINEUPの167塩基からなる機能ドメイン(SINE B2)について、核磁気共鳴(NMR)法[用語5]を用いた構造形成部位の解析と、生物学的手法を用いた配列変化と活性の相関解析を行いました。その結果、167塩基のうち塩基番号31番~119番の領域が構造を形成し、この部位に活性があることが分かりました。この成果は、NMR法が長鎖ノンコーディングRNAの原子レベルでの構造解析に有効であることを示しており、SINEUPの作用機序解明の第一歩となるものです。

本研究は、科学雑誌『 Nucleic Acids Research 』のオンライン版(7月22日付)に掲載されました。
なお本成果は、8月6日に理化学研究所よりプレスリリースされました。

背景

ヒトなど動物の細胞中には、遺伝子をコードしていない「ノンコーディングRNA(ncRNA)」と呼ばれるRNAが大量に存在します。ncRNAのうち200塩基より長いものは長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)と呼ばれ、ヒトでは約2万8,000種ものlncRNAが存在することが分かっています。

ncRNAが生命活動に必須なタンパク質の合成(転写や翻訳)の制御に関与していることは示されつつありますが、ncRNAがどのように働くのかについてはほとんど解明されていません。例えば「SINE(短鎖散在反復配列)[用語6]」と呼ばれるncRNAは、ヒトゲノムに13.5 %の割合で含まれていますが、大量に存在する理由やどんな機能があるのかはあまり分かっていません。

近年、このSINEの一つである「SINE B2」が、翻訳の段階で標的タンパク質の合成を促進させるアンチセンスlncRNAに機能ドメインとして含まれていることが判明し、このlncRNAは、SINE B2がタンパク質翻訳量をUP(向上)させることから「SINEUP(サインアップ)」と名付けられました注1)。SINEUPの詳しい作用機序が解明されれば、SINEの機能解明に限らず、例えば特定のタンパク質が正常に合成できないために発症する遺伝病の治療や抗体医薬の大量生産への応用が期待されます。

分子の作用機序は局所的な化学反応のリレーによるものであるため、解析には分子の化学構造の詳細を知ること(構造解析)が重要です。生体分子の構造解析の手法は主に、X線結晶構造解析[用語7]、核磁気共鳴(NMR)法、低温電子顕微鏡法[用語8]の三つがあります。しかしRNAは、結晶化しにくいことからX線結晶構造解析には向かず、分子中の水素原子が多くないためにNMR法にも適さず、低温電子顕微鏡法で扱うには分子量が小さすぎるといった理由から、特に100塩基を超えるRNAはいずれの手法を用いても構造解析が困難でした。このためlncRNAの詳細な構造を調べた例は、これまでほとんどありませんでした。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、lncRNA SINEUPの機能ドメインである167塩基のSINE B2配列について、NMR法を用いて構造形成部位と活性部位の同定を行いました。

まず、SINE B2の構造形成部位を調べるために、RNA鎖の5'末端[用語9]3'末端[用語9]を10塩基単位で切断したRNA断片を調製し、SINE B2の全長RNAと断片RNAとのNMRスペクトルを比較しました。RNAには、2次構造の塩基対を形成したときにだけ、NMRシグナルが出現するイミノ基(=N-H、塩基対に使われる)の水素があります。このイミノ基の水素の化学シフト[用語10]値は構造に依存するため、同じ構造であれば化学シフト値は同じですが、異なる構造をしている場合は化学シフトも異なります。この性質を用いて、SINE B2の全長RNAと同じ構造を持つ断片RNAをうまく選択することで、SINE B2全長RNAのどの領域に断片RNAの構造が形成されているかを判別することにしました。SINE B2を3種類の断片RNA(A~C)に分割した結果、A~Cがそれぞれ全長RNAの一部分の構造を保っていることが分かりました(図1)。この解析から、SINE B2は図1の紫・青・緑・黄緑の四つのドメインで構成されていることが示されました。

図1. SINE B2の断片化の模式図(左)と各断片のNMRスペクトル(右)

図1. SINE B2の断片化の模式図(左)と各断片のNMRスペクトル(右)

左:167塩基からなるSINE B2全長RNAには、紫、青、緑、黄緑で色分けした四つのドメインがあり、A(紫と青)、B(緑と黄緑)、C(青と緑)の3種類の断片RNAに分割した。灰色の部分はリンカー領域。

右:A~CのそれぞれのNMRスペクトルは、全長RNAの一部と同じ構造を保っていることが分かった。

また、SINE B2全長RNAと塩基番号31番~119番(B領域)のRNAについて、SINEUPの活性を調べたところ、B領域だけでもSINE B2全長の8割程の活性を維持していることが分かりました。この領域がSINEUP活性に大きく関与していると考えられます。

さらに、B領域について詳しくNMR法で解析したところ、43番~58番の領域が117番~119番の領域と2次構造あるいは3次構造[用語3]を形成して、B領域全体が複雑な立体構造になっている可能性が示唆されました。また、細胞中で実際にどの部位が2次構造形成しているかを解析するicSHAPE[用語11]における結果とNMR法で得られた2次構造が一致していることも分かりました。

今後の期待

作用機序を詳しく解析するためには立体構造解析が重要であり、今回の研究ではその足掛かりとなる2次構造を決定することができました。今後は、SINE B2のさらに詳細な立体構造解析を行い、SINEUPの作用機序の解明を目指します。これにより、抗体医薬として使われるタンパク質を大量生産する際に通常よりもより多くタンパク質を生産したり、特定のタンパク質が正常に合成されないために発症する遺伝病の治療薬としての応用が期待できます。

国際共同研究グループ

東京工業大学

  • 生命理工学院
    教授 石井佳誉(いしい よしたか)
    (理化学研究所 NMR研究開発部門 部門長)

理化学研究所

放射光科学研究センター

  • NMR応用・利用グループ NMR先端応用・外部共用チーム
    研究員 大山貴子(おおやま たかこ)
  • 次世代NMR装置開発チーム
    チームリーダー 山崎俊夫(やまざき としお)

生命医科学研究センター

  • トランスクリプトーム研究チーム
    チームリーダー ピエロ・カルニンチ(Piero Carninci)
    特別任期制研究員 高橋葉月(たかはし はづき)
    研究員 ハルシタ・シャルマ(Harshita Sharma)

イタリア工科大学

  • Central RNA Laboratory部門
    部門長 ステファノ・グスティンチッチ(Stefano Gustincich)

研究支援

本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業大規模プロジェクト型「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装(研究代表者:前田秀明、研究分担者:石井佳誉)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究「タンパク質の翻訳を促進するレトロトランスポゾンSINEの作用機序の解明(研究代表者:高橋葉月)」、日本医療研究開発機構(AMED)革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業「タンパク質翻訳を促進する新規ノンコーディングRNAを用いた革新的創薬プラットフォームの構築(研究代表者:ピエロ・カルニンチ)」による支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] SINEUP、機能ドメイン : SINEUPは、マウスの Uchl1遺伝子のアンチセンスRNAがUchl1タンパク質の合成を促進する現象の発見をきっかけに見いだされた新しいタイプの長鎖ノンコーディングRNA。SINE因子の配列を持ち、タンパク質翻訳を促進する「機能ドメイン」と、標的mRNAと相補的な配列を持つ「結合ドメイン」の二つで構成される。任意の標的mRNAからのタンパク質翻訳を促進することができるツールとして使うことができるため、研究用試薬やタンパク質製造ツールから核酸医薬まで、幅広い応用が進んでいる。SINEUPはSINE element-containing translation UP-regulatorの略。

[用語2] ノンコーディングRNA、長鎖ノンコーディングRNA : ノンコーディングRNAは、遺伝子をコードしていないRNA全般を指す。転位RNA(tRNA)やリボソームRNA(rRNA)もノンコーディングRNAの一種である。トランスクリプトーム解析により、ヒト細胞中に存在するRNAの7割がノンコーディングRNAであること、ヒトゲノムの9割以上のノンコーディング領域がRNAに転写されることが近年になって示された。転写、RNAプロセッシング、RNA分解、翻訳などの遺伝子発現のさまざまな段階に影響を与える。ノンコーディングRNAのうち、200塩基以上のものを長鎖ノンコーディングRNAという。

[用語3] 2次構造、3次構造 : RNAの2次構造は、塩基対の形成を指す。RNAは通常のグアニン(G)−シトシン(C)、アデノシン(A)−ウラシル(U)間のワトソンクリック型塩基対のほかに、G−UやU−Uなどの非ワトソンクリック型塩基対が形成されることがある。RNAの3次構造は、水素結合により形成される3次元的な立体構造を指す。

[用語4] 抗体医薬 : 抗体は、抗原に対して非常に強く結合するタンパク質である。疾患と関連した抗原に特異的に結合する抗体は治療効果を示す。抗体医薬は、がんやリウマチなどの治療に用いられるが、副作用の少ない効果的な治療薬として注目されており、病気と関連する抗原の探索も行われている。

[用語5] 核磁気共鳴(NMR)法 : 強い磁場中に置かれた原子核に電磁波を照射すると、核スピンの共鳴現象により、原子核の性質や周囲の環境に応じた周波数(共鳴周波数)の電磁波の吸収や放出が起こるが、その電磁波をNMR信号として捉えることで、物質の分子構造の解析や物性の解析を行う手法。分子の相互作用などの情報も得られるため、生命科学、医薬、化学、食品、材料物性といった幅広い分野で利用されている。NMRはNuclear Magnetic Resonanceの略。

[用語6] SINE : SINEは短鎖散在反復配列とも呼ばれる。ゲノムの特定の塩基配列がコピーされ、これが再びゲノムに挿入されたもの。生物進化の過程において、ある生物のゲノムの特定の場所にSINEが挿入されると、これが子孫に受け継がれる。このことから、多数の生物のSINEを分析すると系統関係が分かる。SINEは、short interspersed nuclear elementの略。

[用語7] X線結晶構造解析 : 対象とする分子などの結晶を作製し、その結晶にX線を照射して得られる回折データを解析することにより、物質内部の原子の立体的な配置を調べる方法。この方法によって、タンパク質などの複雑な分子の立体構造を詳細に知ることができる。

[用語8] 低温電子顕微鏡法 : タンパク質などの生体分子を急速に凍結させ、電子顕微鏡で観察する手法。分子を染色しないため、観察像は自然に近い状態を反映していると考えられている。

[用語9] 5'末端、3'末端 : RNAはヌクレオシドの2'-リボースの5'位のヒドロキシ基と3'位のヒドロキシ基がリン酸ジエステル結合によって連結されてできている。RNAの5'位のヒドロキシ基側を5'末端と呼び、3'位のヒドロキシ基側を3'末端と呼ぶ。RNAの5'末端はDNA上の転写開始点に相当する。

[用語10] 化学シフト : NMR法では、同じ原子核でも原子核がおかれた磁場環境の違い(化学結合状態など)によって共鳴周波数がわずかに異なる。この周波数の違いは化学シフトと呼ばれ、分子を構成する原子核それぞれに独自性を与える。また、化学シフトは、磁場環境の違いを反映した物理量であり、豊富な構造情報を持っている。

[用語11] icSHAPE : 生細胞内に発現するRNAの2次構造を1塩基ごとにトランスクリプトームレベルで決定する技術。方法としては、RNAの1本鎖領域をNAI-N3で修飾し、逆転写反応により修飾された部位をcDNAとして回収する。次世代シーケンサーとバイオインフォマティクスの技術を組み合わせ、修飾部位を解読することで、標的RNAの2次構造を決定する。icSHAPEはin vivo click selective 2-hydroxyl acylation and profiling experimentの略。

論文情報

掲載誌 :
Nucleic Acids Research
論文タイトル :
An NMR-based approach reveals the core structure of the functional domain of SINEUP lncRNAs
著者 :
Ohyama Takako, Takahashi Hazuki, Sharma Harshita, Yamazaki Toshio, Gustincich Stefano, Ishii Yoshitaka, Carninci Piero
DOI :
<$mt:Include module="#G-11_生命理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

教授 石井佳誉

E-mail : ishii@bio.titech.ac.jp

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東京工業大学 総務部 広報課

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物質・情報卓越教育院 博士後期課程学生の2020年度成果発表会を開催

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東京工業大学物質・情報卓越教育院(TAC-MI)は6月30日、博士後期課程学生の成果発表会を、オンラインで開催しました。2019年4月に大学院教育プログラムとして本格的に始動してから2年目となる今回の成果発表会には、本プログラムの連携協力機関である企業関係者や本教育院のプログラム担当者、協力教員、学生など、学内外から約120名が参加しました。

当日のプログラム

  • 10:00 - 12:40 ― 第1部 博士後期課程1年の学生による成果発表会
  • 13:10 - 13:50 ― 第2部 博士後期課程2年の学生による自主設定論文進捗発表会

司会の松下特任准教授

司会の松下特任准教授

第1部 博士後期課程1年の学生による成果発表会

前半第1部は、物質・情報卓越教育院の山口猛央教育院長が開会の挨拶を行い、松下雄一郎特任准教授の進行により、博士後期課程1年の登録学生16名がこれまでの研究成果と今後の物質と情報を融合させた研究への発展などについて発表を行いました。
説明6分、質疑応答2分の持ち時間に対し、説明スライドの枚数が多い学生も見受けられましたが、それぞれの研究の成果状況を参加者にアピールすることができました。特に、異分野の参加者に対し、自身の研究の伝え方を考え直す良い機会となりました。修士課程から博士後期課程へと進学し、必要とされる研究能力の進化を会員企業の皆様と共に支援していきます。

博士後期課程1年の学生による成果発表
博士後期課程1年の学生による成果発表

博士後期課程1年の学生への質疑応答
博士後期課程1年の学生への質疑応答

第2部 博士後期課程2年の学生による自主設定論文進捗発表会

博士後期課程2年の学生による論文進捗発表
博士後期課程2年の学生による論文進捗発表

後半第2部では、午前に引き続き、松下特任准教授の進行により、博士後期課程2年の登録学生4名が自主設定論文に関する進捗の発表を行いました。
自主設定論文では、自らの博士論文研究とは異なる課題を自主的に設定して研究します。自身の専門と異なる研究室に2週間程度滞在し研究を行う「ラボ・ローテーション」や海外インターンシップなど、TAC-MIで得た学修成果を活用します。専門分野の枠を超え、物質と情報を用いた複素的な新しい考え方を持つ独創的な研究を自立的に行う能力を身につけることが目的です。登録学生は、博士後期課程2年の6月の成果発表会もしくは12月の国際フォーラムにて、研究の進捗状況を発表した上で、博士後期課程修了時までに研究結果を報告します。
今回の博士後期課程2年の登録学生4名の発表では、課題設定の背景や目的が導入部分で説明され、参加者が理解しやすいように工夫がなされていました。2019年6月や12月のイベントでのプレゼンテーションの経験が生かされ、学生たちの成長を感じることができました。

連携する企業関係者のアドバイス

発表会後のフィードバックシートでは、発表を聞いた教員や企業関係者から学生へ多くの意見や感想、アドバイスなどが寄せられました。 企業関係者から寄せられた感想と期待の声を紹介します。

  • 「物質×情報」のプレゼンテーションは、萌芽期から実用期に入った技術の力強さをまざまざと実感でき、意義深いものでした。先生方が拓かれ、今日の学生たちが展開するこの技術は、ぜひ今後の日本の産業を支える強い武器になってほしいと思います。
  • 各々のテーマの「物質×情報」の組み合わせについて、意識して情報科学を組み合わせ導入した研究も見られたように思います。最適な手法を選択する上での、学生の研究手法の引き出しを広げることに繋がり、素晴らしいことと思います。
  • 高いレベルでのプレゼンテーションだったと思います。これまで培った専門性を軸に物質・情報卓越教育院のプログラムの様々な環境下の元、異なる視点やアドバイスから新たな価値創造を起こす人財を生み出していける期待を持ちました。

また、学生へのアドバイスとしては次のような意見がありました。

  • 研究分野が多岐にわたるため、イントロダクション、研究の新規性をより強調すると企業研究者には理解しやすいと思います。
  • 取り組まれている研究によって、どのようなよいことがあるのか、社会にどのように貢献できるのか、といった視点の「研究の価値、目的」を冒頭で明確に示してもらえるともっとよかったと思いました。

今年度は、新型コロナウイルス感染症の感染予防のため、オンライン開催となりましたが、多くの企業関係者、教員、学生の協力により、有意義な発表会を開催することができました。教員、企業関係者からは「Zoomの発表もグラフ等、画面が見やすく良かった」「学生の発表に集中して聞くことができてよかった」「対面に劣らない有意義な発表会だった」などの声も寄せられ、オンライン開催ならではの利点もありました。
一方で、「質疑応答の時間が短かった」「発表会後に学生と交流する場が欲しかった」などの意見もあり、今後のイベント運営に活かしていきます。

「物質×情報=複素人材」を育成する卓越した博士教育

物質・情報卓越教育院(TAC-MI)は、本学から申請した2018年度卓越大学院プログラム『「物質×情報=複素人材」育成を通じた持続可能社会の創造』が文部科学省に採択されたことにより、2019年1月に設立されました。
TAC-MIでは、複眼的・俯瞰的視点から発想し、新社会サービスを見据え、情報科学を駆使して独創的な物質・情報研究を進める「複素人材」を産業界とともに育成します。

お問い合わせ先

物質・情報卓越教育院事務室

E-mail : tac-mi@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2943

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