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スピントロニクス界面マルチフェロイク材料の開発指針を提示 磁石中の軌道磁気モーメントの役割を明らかに

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要点

  • Co2FeSiホイスラー合金磁石と圧電体の接合構造(界面マルチフェロイク構造)において発現する巨大磁気電気結合効果(高効率な磁化方向変化)の起源を解明
  • 電圧加中のX線磁気円二色性(XMCD)分光測定技術を用いることで、磁石中の特定の元素の軌道磁気モーメントの変化を検出
  • 高性能な界面マルチフェロイク材料の開発指針を提示

界面マルチフェロイクス構造と磁化の向きやすさの制御

界面マルチフェロイクス構造と磁化の向きやすさの制御

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の合田義弘准教授、東京大学 大学院理学系研究科の岡林潤准教授、大阪大学 大学院基礎工学研究科の宇佐見喬政助教、浜屋宏平教授、同大学 大学院工学研究科の白土優准教授らの共同研究グループは、高いスピン偏極率[用語1]を有するCo2FeSiホイスラー合金磁石[用語2]と優れた圧電性能を有するPb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3(PMN-PT)の積層構造からなる界面マルチフェロイク構造[用語3]における、巨大磁気電気結合効果(高効率な磁化方向変化)の起源を明らかにしました。

強磁性体(磁石)と圧電体[用語4]の接合構造からなる界面マルチフェロイク構造は、図1(a)に示すように、電圧印加により磁化方向を制御することができるため、半導体不揮発メモリとして注目されている磁気抵抗メモリ(MRAM)などのスピントロニクスメモリデバイスの新規情報書き込み技術として期待されています。ごく最近、浜屋教授らは、強磁性体として高いスピン偏極率を有するCo系ホイスラー合金磁石の一つであるCo2FeSiと、高い圧電性能を有するPMN-PTを組み合わせた界面マルチフェロイク構造を作製し、実用化の壁として存在していた10-5 s/m台の磁気電気結合係数を世界で初めて実証しました(関連情報を参照)。しかし、これらの材料の組み合わせにおいて、なぜ高い性能(高効率な磁化方向変化)が実現したのか起源は明らかになっていませんでした。

今回、研究グループは、界面マルチフェロイク構造に電界を印加しながらX線磁気円二色性(XMCD)分光[用語5]を測定する技術(オペランドXMCD分光)を用いることで、電圧印加による磁化方向に変化が生じる際に、Co2FeSi中のFeの軌道磁気モーメント[用語6]が顕著に変化することを実験的にXMCDスペクトルから捉えることに成功しました(図1(b))。さらに、この実験結果と第一原理計算[用語7]による理論的な考察の結果、圧電体(PMN-PT)から生じるひずみがCo2FeSi中のFeの軌道磁気モーメントを変化させることから、磁化方向が高効率に膜の面内にて変化することを明らかにしました。

近年IoT技術・AI技術がますます進展する中、半導体素子の消費電力が爆発的に増加することが予想されています。その中で本成果は、不揮発メモリ素子として期待されるMRAMを含む全てのスピントロニクス素子における低消費電力での磁化方向制御技術のための「界面マルチフェロイク材料」に関する基礎物理学の理解を進展させるとともに、軌道弾性からの同材料の設計指針を提示するものです。

図1 (a)界面マルチフェロイク構造の模式図。(b)FeとCoに関する電界印加中のX線磁気円二色性(XMCD)スペクトル。

図1. (a)界面マルチフェロイク構造の模式図。(b)FeとCoに関する電界印加中のX線磁気円二色性(XMCD)スペクトル。

発表内容

スピントロニクス技術を利用した磁性メモリデバイスは、磁石の磁化の向き(N極とS極)を情報の「1」と「0」に対応付けて情報を不揮発に記録しています。そのため情報書き込み時に磁石の磁化方向をスイッチすることが必要となります。現在、磁化方向のスイッチの手法としては、記録素子に電流を印加する方式が主流となっています。しかし通電に伴うジュール熱によりエネルギー損失が大きく、情報書き込みのための消費エネルギーが大きいことが問題となっています。そこで電流印加方式と比較して消費電力の少ない電圧印加型の磁化方向制御技術の開発が進められています。とりわけ、強磁性体(磁石)と圧電体の2層から構成される界面マルチフェロイク構造を利用した技術は、材料の選択肢が多いことや室温を含む幅広い温度領域で動作が可能といった応用上のメリットを備えており、有望な技術として注目されています。

ごく最近、同研究グループは、強磁性体として高いスピン偏極率を有するCo系ホイスラー合金磁石の一つであるCo2FeSiと、圧電体として高い性能を有するPMN-PTの組み合わせにより界面マルチフェロイク構造を作製し、磁化方向を効率よく制御できることを実証しました(2022年5月20日プレス発表済み)。しかしこれらの材料の組み合わせにおいて、なぜ高い性能が得られるのか、その起源は不明でした。

界面マルチフェロイク構造では、電圧を印加した際に圧電体層で生じる圧電ひずみが磁性層に伝播し、磁化方向を変調することが予想されます。そのため磁化方向制御の起源を明らかにするためには、磁性体層へひずみを印加した際に、磁性体の構成元素であるCoやFeの電子状態がどのように変化するのか、電子論的な「スピン」と「軌道」の観点から理解する必要があります。そこで研究チームは、電子軌道がつくる磁気モーメントを元素ごとに調べることが可能なXMCD分光測定に着目しました。研究グループのメンバーである東京大学岡林潤准教授は、これまで高エネルギー加速器研究機構放射光施設(KEK-PF)内のBL-7Aビームラインにおいて、測定試料に電圧を印加しながらXMCD分光測定が可能なオペランドXMCD分光の測定技術を確立してきました。この測定手法を用いて、正負の電圧を界面マルチフェロイク構造に印加した時の各スペクトルを測定し、スピン磁気モーメント[用語8]と軌道磁気モーメントの変化を調査しました。その結果、電圧の切り替えにより磁化方向が変化する時、Co2FeSi 中のFeのみ、軌道磁気モーメントが顕著に変化することを明らかにしました。さらに、この実験結果と第一原理計算による理論的な考察の結果、Feの軌道磁気モーメントの変化が、界面マルチフェロイク構造における電圧印加による磁化方向制御に重要な役割を担うことを明らかにしました。詳細な検討から、図2の状態密度の模式図のように、Coは完全スピン偏極した伝導電子を担い、Feは軌道磁気モーメントの変調を担うという、磁性層中の元素特有の役割が本研究によって初めて解明されました。

図2 Co2FeSiの状態密度の模式図

図2. Co2FeSiの状態密度の模式図

これまで、ひずみと磁化の関係は磁気弾性効果[用語9]として現象論的に定式化されていましたが、今回の研究により、電子論的なミクロな議論を加えて、印加されるひずみによる軌道磁気モーメントの変化によって、磁性層の磁気異方性[用語10]の変調を明瞭に説明できることが分かりました。本研究グループはこれを「軌道弾性効果」と名付けました。この発見は、固体物理学や磁性の教科書に付け加えられうる基礎事項となります。また、磁気異方性の操作に関する起源に迫るものであり、今後のスピントロニクスデバイス設計に向けた界面の電子状態の理解に指針を与えるものです。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

界面マルチフェロイクス構造を利用した電圧印加による高効率な磁化方向制御技術は、スピントロニクスメモリデバイスにおける新規情報の書き込み技術として期待されています。今回、実用化の壁として存在していた10-5 s/m台の磁気電気結合係数を既に実現しているCo2FeSi/PMN-PT界面マルチフェロイクス構造において、高効率な磁化方向変調の起源について理解が進展しました。この成果は、界面マルチフェロイク材料の開発指針に関する重要な知見を提供するものであり、この知見に基づき材料探索を進めることで、より高い性能を有する界面マルチフェロイクス構造を見出すことができると考えています。

関連情報:世界最高性能のスピントロニクス界面マルチフェロイク構造を実証|東工大ニュース

発表者・研究者等情報

  • 東京大学 大学院理学系研究科 スペクトル化学研究センター(化学専攻)
    岡林潤 准教授
  • 大阪大学
    大学院基礎工学研究科
    宇佐見喬政 助教
    浜屋宏平 教授
    大学院工学研究科
    白土優 准教授
  • 東京工業大学 物質理工学院 材料系
    合田義弘 准教授

付記

本研究は、以下の事業の支援を受けて行われました。 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究CREST(課題番号:JPMJCR18J1)、研究領域「実験と理論・計算・データ科学を融合した材料開発の革新」(研究総括:細野秀雄 東京工業大学 栄誉教授/元素戦略研究センター長)研究課題「界面マルチフェロイク材料の創製」(研究代表者:谷山智康 名古屋大学大学院理学研究科 教授)、科研費基盤研究(S)研究課題「トンネル磁気抵抗効果の新展開:軌道対称性効果の解明と新規量子デバイスの創出」(課題番号:22H04966)、科研費基盤研究(S)研究課題「ゲルマニウムスピンMOSFETの実証」(課題番号:19H05616)、スピントロニクス学術研究基盤と連携ネットワーク(Spin-RNJ)。

用語説明

[用語1] スピン偏極率 : 物質の電気伝導に寄与する電子のスピンは、上向きと下向きの二種類の状態を取る。スピン偏極率は、この上向きスピン数と下向きスピン数の差で定義され、スピン偏極率が1となる材料はハーフメタルと呼ばれる。スピントロニクスデバイスの高性能動作に重要な指標である。

[用語2] ホイスラー合金磁石 : 構成原子が規則正しく配列した規則合金磁石の一種であり、ドイツのホイスラーによって発見された。その構成元素や規則性に依存してさまざまな特性を示す物質が発見されている。特に、Co2FeSiなどのCo系ホイスラー合金磁石では完全にスピン偏極したハーフメタル状態が理論的に予想されており、高性能なスピントロニクス材料として注目を集めている。

[用語3] 界面マルチフェロイク構造 : 強磁性体と圧電体または強誘電体(圧電体の中でも、自発的に分極が生じ、その自発分極が電界により反転可能な物質)の2層構造で構成され、磁性状態を電界で制御することができる。

[用語4] 圧電体 : 外場を加えた時に物質を構成する原子やイオンの相対位置が変化し、表面にプラスとマイナスの電荷(分極)が生じる現象を圧電効果と呼ぶ。一方、電界印加により物質の形状を変化させることを逆圧電効果と呼ぶ。これらの現象が顕著に現れる物質を圧電体と呼ぶ。圧電体は、機械的変化と電気的変化を互いに変換できるため、振動センサー、圧力センサー、アクチュエータなどに用いられている。

[用語5] X線磁気円二色性(XMCD)分光 : 放射光を用いることで左周り、右周りにねじれた円偏光を試料に照射できる。これにより元素の内殻から遷移する吸収スペクトルを測定する。左右円偏光による各元素の吸収強度の違いがXMCDである。これにより、元素別の磁気状態について知ることができる。

[用語6] 軌道磁気モーメント : 原子を構成する電子はミクロな磁石(磁気モーメント)としての性質を有している。電子は原子核の周りを公転運動しており、この公転運動により生じる磁気モーメントを軌道磁気モーメントと呼ぶ。

[用語7] 第一原理計算 : 物質を構成する基本粒子である原子核と電子の運動、およびその間に働く相互作用のみを入力パラメータとして物質の性質を探る物理計算手法。実験とは独立して近似の範囲内では非常に高精度に、物質の物性を計算することができる。

[用語8] スピン磁気モーメント : 原子核の周りを公転運動する電子は、自転に相当するスピンと呼ばれる性質も有している。このスピンが起源となり生じる磁気モーメントをスピン磁気モーメントと呼ぶ。

[用語9] 磁気弾性効果 : 磁石がひずむと磁気モーメントも変化すること。逆過程もあり、物質が磁化するとひずむことも含まれる。

[用語10] 磁気異方性 : 磁石の向きやすさを表す。向きやすい容易軸と向きにくい困難軸があり、これらの向きやすさの違いが大きいと、磁石としての性能が向上する。

論文情報

掲載誌 :
NPG Asia Materials
論文タイトル :
Strain-induced specific orbital control in a Heusler-alloy-based interfacial multiferroics
著者 :
Jun Okabayashi*, Takamasa Usami*, Amran Mahfudh Yatmeidhy, Yuichi Murakami, Yu Shiratsuchi, Ryoichi Nakatani, Yoshihiro Gohda, and Kohei Hamaya
DOI :

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准教授 合田義弘

Email gohda.y.ab@m.titech.ac.jp
Tel / Fax 045-924-5636

東京大学 大学院理学系研究科 スペクトル化学研究センター(化学専攻)

准教授 岡林潤

Email jun@chem.s.u-tokyo.ac.jp
Tel / Fax 03-5841-4418

大阪大学 大学院基礎工学研究科 附属スピントロニクス学術連携研究教育センター

教授 浜屋宏平

Email hamaya.kohei.es@osaka-u.ac.jp
Tel / Fax 06-6850-6330

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

東京大学 大学院理学系研究科・理学部 広報室

Email media.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp
Tel / Fax 03-5841-0654

大阪大学 基礎工学研究科 庶務係

Email ki-syomu@office.osaka-u.ac.jp
Tel 06-6850-6131 / Fax 06-6850-6477

大阪大学 工学研究科 総務課 評価・広報係

Email kou-soumu-hyoukakouhou@office.osaka-u.ac.jp
Tel 06-6879-7231 / Fax 06-6879-7210

科学技術振興機構 広報課

Email jstkoho@jst.go.jp
Tel 03-5214-8404 / Fax 03-5214-8432

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
安藤裕輔

Email crest@jst.go.jp
Tel 03-3512-3531 / Fax 03-3222-2066


バスク大学のエヴァ・フェレイラ学長が東工大を訪問し協定を締結

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東京工業大学は、スペインのバスク大学と全学協定および授業料等不徴収協定を締結しました。

11月1日、バスク大学のエヴァ・フェレイラ学長一行が東工大を訪れ、本学からは益一哉学長、林宣宏副学長(国際連携担当)、科学技術創成研究院の細田秀樹教授、工学院 機械系の武田行生教授が一行を出迎えて懇談を行い、調印式を実施しました。

左から武田教授、林副学長、益学長、エヴァ・フェレイラ学長一行、細田教授による記念写真

左から武田教授、林副学長、益学長、エヴァ・フェレイラ学長一行、細田教授による記念写真

これまで本学は、科学技術創成研究院とバスク材料応用ナノ構造研究センター(BCMaterials)との間、また工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院とバスク大学 工学部との間で、それぞれ部局間協定に基づく活動が行われてきましたが、協定が全学レベルに広がったことで、共同研究・学生交流がますます活性化すると見込まれます。

この協定に基づき相互に教員を派遣して教育・研究活動を行うことは、両大学にとって大きなメリットとなります。また授業料等不徴収協定に基づき1年以内の派遣交換留学が可能となり、学生にとっては留学先の選択肢が広がりました。

今まで本学はスペイン、スペイン語圏に全学協定および授業料等不徴収協定がありませんでしたが、今回のバスク大学との協定締結を機に、スペイン、スペイン語圏におけるさらなる国際連携が期待されます。

BCMaterials(Basque Center for Materials, Applications and Nanostructures):バスク科学技術財団とバスク大学の共同で設置された研究所。研究者の多くはバスク大学の教員。

お問い合わせ先

企画・国際部 国際連携課

Email kokuren.kik.cho@jim.titech.ac.jp

Tel 03-5734-2982

神谷真子教授が2023年度島津奨励賞を受賞

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東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の神谷真子教授が、2023年度の島津奨励賞を受賞しました。公益財団法人島津科学技術振興財団が12月6日に発表しました。

受賞者

生命理工学院 生命理工学系 神谷真子教授

授与団体

公益財団法人島津科学技術振興財団

賞名

2023年度島津奨励賞

受賞日

12月6日

研究業績

革新的バイオイメージングを実現する高精度化学プローブの開発

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生命理工学院 生命理工学系
教授 神谷真子

Email kamiya.m.ad@m.titech.ac.jp

東工大とNIMSが物質・材料分野における博士後期課程の教育・研究で強力に連携

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東京工業大学とNIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)は、物質・材料分野における次世代を担う研究人材の育成を目指して、博士後期課程の教育・研究で強力に連携することを定めた協定書を締結しました。東工大の益一哉学長とNIMSの宝野和博理事長による協定書調印は、2024年1月11日に東工大大岡山キャンパスにて行われました。

益学長(左)とNIMSの宝野理事長(右)

益学長(左)とNIMSの宝野理事長(右)

本協定では、NIMSの研究者が東工大物質理工学院の連携特定教員として、副指導教員となる物質理工学院の教員とともに、博士後期課程入学から学位取得まで東工大の学生を主任指導します。また、本協定を通じてNIMSで研究を行う博士後期課程の学生は、NIMSの研究業務にも貢献するため、「NIMSジュニア研究員制度[用語1]」に基づきNIMSが雇用します。

日本の科学技術研究開発力の低下を懸念する声が高まる中、次世代を担う研究人材の育成と確保は国家レベルの急務です。しかし、国内大学における博士後期課程進学者の数は2003年以降減少傾向にあり、日本における博士号取得者の数は、日本よりも総人口の少ない国であるドイツや英国における半分程度と低迷しているのが現状です。

以上の背景から、東工大とNIMSは、物質・材料分野における教育と研究で強力に連携し、新協定のもと、東工大—NIMS連携大学院制度[用語2]を発足させます。そして、本制度を活用して東工大に入学する博士後期課程学生はNIMSジュニア研究員としてNIMSにおける研究経験を積みながら学位取得を目指します。これにより、日本が国際的に競争力を維持している材料科学分野の博士後期課程研究を活性化し、世界基準の次世代研究人材育成を目指します。

用語説明

[用語1] NIMSジュニア研究員制度 : NIMSで学位取得のための研究を行う大学院生を任期制職員として雇用する制度です。物質・材料科学分野の研究者を目指す大学院生を「NIMSジュニア研究員」として採用し、NIMSでの研究業務への貢献に対して給与を支払います。学生の学業に対しての支給ではありませんが、大学院生の場合、学位取得のための研究課題とNIMSの研究業務に整合性があるため、NIMSジュニア研究員は、NIMSでの活動によって経済的な心配なく学位取得のための研究に専念できます。

[用語2] NIMS連携大学院制度 : NIMSは、世界最高レベルの設備を駆使した物質・材料研究のみならず、その研究活動を通じて次世代研究人材の育成に力を入れています。その一環として、2004年には近隣の筑波大学と協定を締結し、全国初となる「NIMS研究者が主任指導教員として博士課程学生を指導する」制度を発足させました。その後、北海道大学、九州大学、早稲田大学、大阪大学、横浜国立大学の、5つの大学とも同様の連携を立ち上げ、これらを併せてNIMS連携大学院制度と呼んでいます。さらには、学位取得を目指す若手人材が博士研究に没頭できるよう、NIMSジュニア研究員制度を始めとする就学支援体制を併せて整備してきました。これによって、国内外から多くの学生が集う国際色豊かなNIMS連携大学院が、各大学における博士課程の一部として有効に機能し、2004年以来、合計560名の学生がNIMSでの博士研究に従事し、各大学の学位を取得しています。この度の、東工大との連携により、NIMS連携大学院の協定校は7校となります。

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本協定書による教育・研究に関すること

東京工業大学 物質理工学院 材料系

教授 生駒俊之

Email tikoma@ceram.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2519

NIMS 国際・広報部門 学術連携室

Email nims-graduate@nims.go.jp
Tel 029-859-2204

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

NIMS 国際・広報部門 広報室

Email pressrelease@ml.nims.go.jp
Tel 029-859-2026 / Fax 029-859-2017

引張り力で体中の蛍光色が変わるマウスの作出に成功 組織から細胞まで内部張力の可視化を簡便に

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要点

  • 蛍光[用語1]タンパク質[用語2]同士の距離によって蛍光波長が変化する現象を利用した、引張りを感知できるタンパク質センサの応答を改良した。
  • このセンサの遺伝子を組み込み、からだ中の組織、細胞が引張りに応じて色が変わるような遺伝子改変マウスを作製した。
  • これまで作製された同様のマウスの観察には高額な顕微鏡が必要だったが、今回のマウスは一般の研究室に普及する「共焦点顕微鏡[用語3]」で観察することが可能である。
  • 生体内の細胞レベルの力分布計測[用語4]のツールとして、メカノバイオロジー分野への大きな貢献が期待できる。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の北口哲也准教授は、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の松本健郎教授、王軍鋒研究員、前田英次郎准教授らの研究グループと理化学研究所 光量子工学研究センターの横田秀夫チームリーダーらと共同で、体中の組織の蛍光色が引張りに応じて変化するマウスの系統を新たに作製しました。

筋肉を鍛えると太く逞しくなるように、生物の組織、細胞、タンパク質は外界からの力から大きな影響を受けます。このような、力が生物に及ぼす影響を調べる分野をメカノバイオロジーと呼びますが、その発展には細胞やタンパク質に加わる力を安定的に可視化する方法が非常に重要です。そのために、従来「FRET型張力センサ」と呼ばれる、引張りによって蛍光色が変化するタンパク質を利用する方法が用いられてきました。しかし、このセンサの遺伝子を組み込んだマウスは、応答が十分でないために、観察には1億円近くする高価な顕微鏡(FILM[用語5])で精密に測定する必要がありました。

今回私たちは「FRET型張力センサ」の応答を改良し、その遺伝子を持つ遺伝子改変マウスの作出に成功しました。このマウスでは研究現場に広く普及している「共焦点顕微鏡」で張力変化を観察できることを、血管、腱、筋肉、それらから単離した細胞で確認しました。また、組織や細胞によって張力に対する感度が違うことを発見し、その原因は組織や細胞の微細構造の差や、組織ごとの機能の差によって生じる可能性があると結論づけました。

本研究で開発したマウスを使うことで、様々な組織や細胞内の張力変化に加え、発生、成長、老化の過程における応答の変化も簡便に調べられるため、幅広いメカノバイオロジー分野への貢献が期待されます。

本研究成果は、2023年12月20日付英科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。

遺伝子改変マウスと観察結果(大動脈)

研究背景と内容

鍛えると私たちの筋肉が太く逞しくなることからも判るように、私たちの体の状態は外界から作用する力と密接な関係があります。この力は組織のような大きなレベルだけでなく、組織内部の細胞、更には細胞内部のタンパク質に対しても、その機能の発現や形態に大きな影響を与えることが明らかとなってきています。このような、力の生物に対する影響を調べる分野をメカノバイオロジーと呼びますが、組織内部の細胞に加わる力やタンパク質に加わる力を安定的に可視化する方法が非常に重要となります。

ところで、多くの細胞内部には「ストレス・ファイバー(SF)」という線維が走っています(図1上)。SFは筋肉の主要成分であるアクチンとミオシンから構成されており、筋肉のように張力を発生します。細胞の形態維持や移動分裂など、細胞の動きを司っており、力を察知するセンサの役割もあると言われています。このため、SFに作用する力を調べることがメカノバイオロジーにおける重要なテーマとなります。このSFに作用する力を可視化するために用いられているのが「FRET型張力センサ」(図1下)です。FRET型張力センサはFRET効果(図2)を利用したもので、引張りによって蛍光の色が変化するタンパク質です。私たちはこれをアクチニンと呼ばれるSFを束ねるタンパク質の途中に挿入したものを開発しました(Actinin-sstFRET-GR)。そして、このタンパク質の遺伝子を電気パルスで培養細胞内に導入し、SFに作用する力を可視化してきました。しかし、この方法で導入されるセンサは10個の細胞中3個ほどにしか入らず、入ったとしても、1週間もしないうちに分解されてしまいます。また、組織内の細胞には全く入りません。このため、組織から細胞に至る幅広い対象を長時間観察することは不可能でした。

図1. 細胞の構造と、私たちの開発した張力センサ。細胞内部にはストレス・ファイバー(SF)と呼ばれる線維が走っている。SFは筋肉の主成分であるアクチンとミオシンからできており、収縮力を発生する。SF内でアクチンフィラメントを束ねているアクチニンの中央部にEGFPとmCherryという2つの蛍光タンパク質をバネのようなタンパク質で繋いだ張力センサを組み込んだ。SFに力が加わるとアクチニンが斜めになって引張られ、EGFPとmCherryの間隔も広がる。こうすると張力センサのFRET効率が低下する(蛍光色の赤が弱まり、緑が強まる)ために張力の変化が判る。
図1.
細胞の構造と、私たちの開発した張力センサ。細胞内部にはストレス・ファイバー(SF)と呼ばれる線維が走っている。SFは筋肉の主成分であるアクチンとミオシンからできており、収縮力を発生する。SF内でアクチンフィラメントを束ねているアクチニンの中央部にEGFPとmCherryという2つの蛍光タンパク質をバネのようなタンパク質で繋いだ張力センサを組み込んだ。SFに力が加わるとアクチニンが斜めになって引張られ、EGFPとmCherryの間隔も広がる。こうすると張力センサのFRET効率が低下する(蛍光色の赤が弱まり、緑が強まる)ために張力の変化が判る。
図2. FRETの原理。蛍光タンパク質EGFPは青色光を照射すると励起されて緑色蛍光を発する。一方、 mCherryは緑色光を照射すると赤色蛍光を発するが、青色光を照射しても何も起こらない。ところが、この2つの蛍光タンパク質を近づけると青色光により励起されたEGFPのエネルギーがmCherryに受け渡され、mCherryが赤色蛍光を発するようになる。従って、この緑色蛍光と赤色蛍光の強度比を測定すると両者の距離が判る。なお、エネルギーを与える側をドナー、受け取る側をアクセプタと呼ぶ。
図2.
FRETの原理。蛍光タンパク質EGFPは青色光を照射すると励起されて緑色蛍光を発する。一方、 mCherryは緑色光を照射すると赤色蛍光を発するが、青色光を照射しても何も起こらない。ところが、この2つの蛍光タンパク質を近づけると青色光により励起されたEGFPのエネルギーがmCherryに受け渡され、mCherryが赤色蛍光を発するようになる。従って、この緑色蛍光と赤色蛍光の強度比を測定すると両者の距離が判る。なお、エネルギーを与える側をドナー、受け取る側をアクセプタと呼ぶ。

細胞への遺伝子導入における問題点を解決するため、「FRET型張力センサ」の遺伝子をゲノムに組み込んだ遺伝子導入マウスが、2019年にカナダのグループによって開発されました。しかし、応答が十分でなく、FLIMという1億円近くするような高価な顕微鏡を用いないと観察できませんでした。そこで今回は、私たちが以前開発したActinin-sstFRET-GRを遺伝子導入したマウス(FRETマウス)の開発を進め、その作出に成功しました(図3)。そして、このマウスでは、一般に広く用いられている「共焦点顕微鏡」で張力変化を観察できる、即ち、組織を引張るとFRET比が低下することを、血管、腱、筋肉、あるいはそれらから単離した細胞で確認しました(図4)。また、それぞれの組織・細胞の張力に対する感度は血管壁では-0.68 (%FRET/%strain) であったのに対し、尾腱では-3.85、血管から単離した細胞では-1.54と、組織によって大きく異なる値を取ることを見出しました。そして、これらが組織や細胞の微細構造の差によるらしいこと、また、この違いが、それぞれの組織の機能の差で説明できることを示しました。

このマウスでは筋肉でも血管でも、SFを持つ細胞から構成される全ての組織、即ち、力と関係がある全ての組織が常にセンサを発現します。

図3. センサの発現確認。FRETマウスの組織ではドナーEGFP、アクセプタmCherry、細胞核ともに光っており、合成画像でもそのことが判る。一方、野生型(通常マウス)では合成画像で見えるのは細胞核だけで、ドナーもアクセプタも観察されない。
図3.
センサの発現確認。FRETマウスの組織ではドナーEGFP、アクセプタmCherry、細胞核ともに光っており、合成画像でもそのことが判る。一方、野生型(通常マウス)では合成画像で見えるのは細胞核だけで、ドナーもアクセプタも観察されない。
図4. 引張りに対する感度の確認。大動脈試料を周方向に引張った際の輪切断面のFRET比(赤色蛍光強度/緑色蛍光強度)の変化を左下のFRET比の白い四角で囲われた領域で計測した。右のグラフでは引張り前のFRET比を100%として規格化して表してある。ひずみは左上の白線で囲われた細胞核間距離の変化から算出した。5例の試料とも、引張るとFRET比が低下、除荷すると上昇し、その傾きは大体同じで-0.63 (%FRET/%strain) 程度であった。
図4.
引張りに対する感度の確認。大動脈試料を周方向に引張った際の輪切断面のFRET比(赤色蛍光強度/緑色蛍光強度)の変化を左下のFRET比の白い四角で囲われた領域で計測した。右のグラフでは引張り前のFRET比を100%として規格化して表してある。ひずみは左上の白線で囲われた細胞核間距離の変化から算出した。5例の試料とも、引張るとFRET比が低下、除荷すると上昇し、その傾きは大体同じで-0.63 (%FRET/%strain) 程度であった。

成果の意義

本研究で開発したマウスを使うことで、様々な組織や細胞内の張力変化を知ることができると同時に、種々の発生段階、成長段階、あるいは老化の過程でこの応答がどう変化していくのか調べることもできるため、幅広いメカノバイオロジー分野において様々な応用が期待されます。

付記

本研究は、平成27年度から始まったAMED-CREST『革新的先端研究開発支援事業:メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出(JP19gm0810005)』、科学研究費補助金(21H04533、21K19902)ならびに中谷財団の支援のもとで行われたものです。

用語説明

[用語1] 蛍光 : 物質にある波長の光を照射(励起光と呼びます)したときに、同じ波長の光が出るのは「反射」や「散乱」ですが、照射光よりも長い波長の光が出るとき、この光を「蛍光」と呼びます。蛍光は励起光により原子核の周りを回る電子の軌道がエネルギー準位の高い軌道に変化し、その軌道が元に戻る時に発生します。この際、出てくるエネルギーは当然、入射エネルギーよりも小さくなります。光のエネルギーは波長に反比例しますので、励起光の波長に比べて長い波長の光が出ることになります。

[用語2] 蛍光タンパク質 : 蛍光を発するタンパク質のこと。名古屋大学で博士号を取得され2008年にノーベル化学賞を受賞された下村脩先生がオワンクラゲから1962年に精製し、報告した緑色蛍光タンパク(GFP)を嚆矢とし、それ以後、遺伝子組換技術などにより、赤色、黄色、青色などの蛍光タンパク質が続々と報告されています。例えば、調べたいタンパク質Aに蛍光タンパク質を組み込むことで、Aが蛍光で標識され、体内でのAの動きを知ることができるようになります。

[用語3] 共焦点顕微鏡 : 共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)とも呼ばれ、対象物に細く絞ったレーザー光を照射し、帰ってくる光をピンホールを通して受光することにより、ピントの合う深さ範囲を狭くした顕微鏡です。レーザー光を走査して画像を生成しますが、普通の顕微鏡と比べて高コントラストで、ピントの合う範囲が狭いことから、非常に薄い断層像を得ることができます。この断層像を重ねることで、細胞などの3次元構造を知ることができます。

[用語4] 力分布計測 : 生体組織は豆腐や羊羹のように一様な物体ではありません。コラーゲンやエラスチンといった丈夫な線維状タンパク質が絡み合い、その隙間に柔らかい細胞が挟まったような構造をしています。その線維の中にはピンと張っているものもあれば、弛んでいるものもあります。また、細胞は細胞膜で覆われた袋ですが、その内部はゲル状の細胞質で満たされた中に、やはりSFなどの細胞骨格と呼ばれる硬い線維性タンパク質が走っています。これらの線維の中には細胞核や細胞膜などを繋いでいるものもあれば、内側から細胞膜を押して、形を保っているものもあります。このため、生体組織に巨視的な変形を加えると、内部に引張力や圧縮力が発生しますが、その大きさは線維状タンパク質と細胞では大きく異なり、同じ繊維状タンパク質でも最初からピンと張っているものと弛んでいるものでは違います。また、細胞内部でも同様に細胞骨格の種類によって力分布は全く異なります。このように、組織や細胞は不均質で、しかも3次元的に複雑な構造をしているために、内部の力分布は計算機シミュレーションなどで簡単に求めることはできません。このため、巨視的に加えた力が組織・細胞内部で微視的にどのように分布しているのか、力分布を計測する必要があります。

[用語5] FILM : Fluorescence Lifetime Imaging Microscopy(蛍光寿命顕微法)のこと。蛍光寿命とは、蛍光を発する物質にパルス状に励起光を照射したときに、蛍光を発して基底状態に戻るまでの時間のことです。この蛍光寿命を観測し、試料を画像化する手法です。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
In situ FRET measurement of cellular tension using conventional confocal laser microscopy in newly established reporter mice expressing actinin tension sensor
著者 :
Junfeng Wang, Eijiro Maeda, Yuki Tsujimura, Takaya Abe, Hiroshi Kiyonari, Tetsuya Kitaguchi, Hideo Yokota, Takeo Matsumoto
DOI :

お問い合わせ先

東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科

教授 松本健郎

Email takeo@nagoya-u.jp
Tel 052-789-2721 / Fax 052-789-2695

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

准教授 北口哲也

Email kitaguc.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel 045-924-5270 / Fax 045-924-5248

理化学研究所 光量子工学研究センター

チームリーダー 横田秀夫

Email hyokota@riken.jp
Tel 048-462-1293 / Fax 048-462-1290

取材申し込み先

東海国立大学機構 名古屋大学広報課

Email nu_research@t.mail.nagoya-u.ac.jp
Tel 052-789-3058 / Fax 052-788-6272

東京工業大学 総務部 広報課

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Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

理化学研究所 広報室 報道担当

Email ex-press@ml.riken.jp
Tel 050-3495-0247

リボソームがタンパク質の合成を中断する仕組みを解明! 疾患原因の解明や、効率的なタンパク質生産を実現する遺伝子設計、技術開発へ期待

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要点

  • 特定のアミノ酸に富むタンパク質の合成は確率的に中断(強制終了)される場合があるものの、そのメカニズムは不明でした。
  • 上記の合成中断は1. 非典型的な翻訳終結反応、2. 合成途上での異常なリボソームリサイクル反応のいずれかによって引き起こされることが明らかとなりました。
  • 合成中断はタンパク質合成の滞りや温度条件に左右され、ストレス条件でより頻繁にタンパク質合成の異常が発生していることが示唆されました。

概要

東京工業大学科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの田口英樹教授と岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の茶谷悠平准教授の合同研究チームは、これまで不明だったタンパク質合成中断のメカニズムを解明しました。

生命を形作るタンパク質は、DNAの遺伝子配列をもとに、細胞内装置リボソームによって合成されます。リボソーム[用語1]は遺伝子配列を途切れることなくアミノ酸へと変換、連結することで、タンパク質を合成(翻訳)します。しかし、負電荷に富むアミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)を立て続けに翻訳すると、一部のリボソームは合成を中断してしまうことが明らかにされていました。しかし、なぜ合成が中断されるのか、その分子メカニズムはこれまで不明でした。

研究チームは試験管内の再構成実験から、上記の問題解決に臨み、研究の結果、合成中断は通常とは異なるメカニズムで新生タンパク質がリボソームから切り離されるか、合成中には作用しないはずのリボソームリサイクル経路の働きによって引き起こされていることが明らかとなりました。また、合成中断は、タンパク質合成が滞りがちな栄養枯渇や高温などストレス条件で、より起こりやすくなることも示唆されました。

正確に遺伝子を発現させることは生命活動の大前提ですが、本研究からその障害となる異常反応の詳細なメカニズムが明らかとなり、より効率的なタンパク質発現を実現させる遺伝子設計、技術開発などが可能になると期待されます。

本研究は米国学術雑誌「Cell Reports」オンライン版に2023年12月9日に掲載されました。

現状

生物の細胞を形作るタンパク質はヒトでは20,000種、より単純な生物と考えられる大腸菌でも4,000種とその種類は膨大です。また、20種類のアミノ酸から構成されるタンパク質の配列は、それぞれに固有であり、千差万別です。こうした配列の多様性は、細胞の中で起こっている複雑な生命現象を実現させるために欠かせませんが、翻ってタンパク質の合成を担う細胞内装置リボソームには、どのようなアミノ酸の組み合わせでも合成できることが求められます。しかし実際にはリボソームにも得手不得手があり、アスパラギン酸、グルタミン酸といった負電荷アミノ酸を連続して合成する途上で、一部のリボソームが合成を中断してしまうことが明らかになっていました。しかしこの合成中断がどのようなメカニズムで発生するか、その詳細はよくわかっていませんでした。

研究成果の内容

今回岡山大学と東京工業大学の合同研究チームは、試験管内で再構成されたタンパク質合成システムを用いて、上記の疑問解決に臨みました。その結果、合成中断はタンパク質合成が滞りがちな状況や高温などストレス条件で、より起こりやすくなることが明らかとなりました。研究チームは更に解析を進め、合成中断は2通りのメカニズムで発生することを突き止めました。1つ目は、タンパク質合成を終えたリボソームを大小のサブユニットに分離させ、新たなタンパク質合成に再利用(リサイクル)するためのリボソームリサイクル因子[用語2]が、負電荷アミノ酸の合成中に偶発的に作用してしまうためだと分かりました。2つ目は、通常とは異なる翻訳終結因子Pthによって、本来の翻訳終結シグナル[用語3]とは無関係に合成が中断されていることも明らかとなりました。

これら2つの経路は、いずれもタンパク質を合成する途上のリボソームには働かないと考えられていましたが、負電荷アミノ酸の翻訳にはその原則を無視させるリスクが伴っていることが明らかとなりました。

社会的な意義

タンパク質合成の基本原則は大腸菌からヒトまで地球上の生命に共通しており、負電荷アミノ酸による合成中断も普遍的な生命現象であることが明らかにされています。本研究成果はその発生機序を明らかにし、これまでの遺伝子発現の原則だけでは説明できなかった疾患原因の解明や、効率的なタンパク質生産に繋がるものと期待されます。

通常の翻訳終結反応とアミノ酸配列が引き起こす合成の中断(以上終結)

付記

本研究は、日本学術振興会科研費(JP26116002, JP18H03984, JP20H05925, 17K15062, 19K16038)、大隅基礎科学創成財団(第3期研究助成)の支援を受けて実施しました。

用語説明

[用語1] リボソーム : 地球上の生命に、普遍的に内在するタンパク質合成装置。DNAにコードされた遺伝情報が写し取られたmessenger RNA(mRNA)をアミノ酸配列へと変換(翻訳)し、ポリペプチド鎖 (タンパク質)を合成する。翻訳を行うためには、リボソームは大、小2つのサブユニットが結合し、複合体を形成する必要がある。

[用語2] リサイクル因子 : 翻訳反応が終わったあと、自発的に解離できないリボソーム大小サブユニットの結合を引き剥がす。この反応によって、リボソームは別のmRNAの合成に再利用(リサイクル)される。

[用語3] 終結シグナル : mRNA配列中に含まれる、翻訳終結反応のトリガーとなる配列。終結シグナルを認識した翻訳終結因子が合成中のタンパク質をリボソームから切り離すことで、タンパク質合成は終了する。

[用語4] tRNA : transfer(運搬)RNA。リボソームにタンパク質の材料となるアミノ酸を運搬する。

論文情報

掲載誌 :
Cell Reports
論文タイトル :
Mechanistic dissection of premature translation termination induced by acidic residues-enriched nascent peptide
著者 :
Yuhei Chadani, Takashi Kanamori, Tatsuya Niwa, Kazuya Ichihara, Keiichi I. Nakayama, Akinobu Matsumoto, and Hideki Taguchi
DOI :

お問い合わせ先

岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域

准教授 茶谷悠平

Email ychadani@okayama-u.ac.jp
Tel 086-251-7856 / Fax 086-251-7876

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター

教授 田口英樹

Email taguchi@bio.titech.ac.jp
Tel / Fax 045-924-5785

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

2種類の外側腕傍核のCckニューロンが担う水分欲求および塩分欲求をフィードバック制御する機構の解明 水と塩の摂取を適切に制御するための仕組み

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要点

  • 脳内の外側腕傍核(LPBN)において、水分あるいは塩分の摂取に応答して活性化する2種類のコレシストキニン(Cck)陽性の神経細胞(Cckニューロン)の集団を同定。
  • これらのCckニューロンの集団は、それぞれ水分摂取あるいは塩分摂取を選択的に抑制する役割を有することを発見。
  • これらのCckニューロンの集団は、それぞれ異なる脳領域につながっており、そこに存在する抑制性神経細胞の活動を活性化していることを解明。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 生体恒常性研究ユニットの松田隆志特任助教、野田昌晴特任教授らの研究グループは、生物の水分欲求および塩分欲求を一過性に抑制する2種類の神経細胞を発見し、その働きを初めて明らかにした。水分および塩分を摂取したとき、後脳にある外側腕傍核(LPBN)[用語1]においてコレシストキニン(Cck[用語2]遺伝子を発現する2種類の神経細胞(Cckニューロン)が活性化すること、その結果、水分・塩分欲求が一過性に抑制されることが分かった。水分摂取に応答するCckニューロンの集団は正中視索前核(MnPO)の抑制性神経細胞(GABAニューロン)[用語3]の活動を、塩分摂取に応答する集団は腹側分界条床核(vBNST)のGABAニューロンの活動を、それぞれ一過性に活性化していることが分かった。

本研究グループでは、これまでに脳弓下器官(SFO)において体液の状態に応じて水分および塩分欲求の制御をつかさどる神経細胞(水ニューロン[用語4]および塩ニューロン[用語5])を同定し、体液状態に応じてこれらの神経細胞が制御される詳細な仕組みを報告していた[参考文献1、2]。SFOの水ニューロンはSFO内のCckニューロンによって制御されること[参考文献3]、また、水ニューロンはMnPOに、塩ニューロンはvBNSTに連絡していることを明らかにしていた[参考文献2]。今回の研究成果と併せて、水分欲求および塩分欲求の制御をつかさどるシグナルは、それぞれMnPOおよびvBNSTで集約・統合されること、SFOとLPBNからのシグナルは協調的に水分欲求を抑制していることが分かった。本研究成果は、生物が体液状態を生理的レベルに保つための仕組み(体液恒常性の維持機構)を明らかにしたものであり、水中毒や多飲症、食塩感受性高血圧症などの過剰な水分摂取や塩分摂取により誘発される疾患の発症機序解明に貢献するものと期待される。

本研究成果は米国の科学誌「Cell Reports(セル リポーツ)」に12月28日付けでオンライン掲載された。

水分摂取および塩分摂取を抑制するフィードバック制御機構

水分摂取および塩分摂取を抑制するフィードバック制御機構

背景

ヒトを含む脊椎動物において、水分や塩分の摂取を適切に制御することは生命維持にとって非常に重要である。過剰な水分摂取や塩分摂取はさまざまな疾患の原因となり、脳を含む多くの臓器に致命的な障害を発生させる。脳は、基本的に体液中の水分や塩分の過不足を感知して、水分欲求や塩分欲求を制御している。これに加えて、水分や塩分を摂取した際に、摂取の情報は舌や消化器官で感知され、吸収されて体液状態が変化する前に一時的に更なる摂取を抑制制御する仕組みを備えている。しかしながら、その詳細なメカニズムは明らかになっていなかった。

後脳にある外側腕傍核(LPBN)はさまざまな種類の遺伝子を発現している神経細胞で構成されており、末梢と中枢(脳)の情報伝達に関わる「中継地点」の役割を果たしている。すなわち、末梢から中枢への味覚や食欲、体温、痛覚、心肺機能、呼吸などに関わる情報伝達が、LPBNの神経細胞を介して行われている。これまでに、LPBNにおけるCckニューロンの一部は摂食制御や体温調節に関わることが知られていたが、水分摂取や塩分摂取の制御に関与しているか、また関与しているとしても、どのような仕組みで関与しているのかという点については分かっていなかった。

研究成果

本研究では、まず遺伝子改変マウス(Cck -Creマウス)とアデノ随伴性ウイルスベクター[用語6]を組み合わせてLPBNのCckニューロンを標識した。次に、さまざまな体液状態におけるCckニューロンの活動を神経細胞の活性化マーカーであるFosを指標にして解析した。Fosの発現の増加から、LPBNにおいて主に背側および外側に存在するCckニューロン(興奮性神経細胞の1つ)が水分摂取や塩分摂取に応じて活性化してくることが分かった。

次に、生きたマウスの脳内で、in vivoカルシウムイメージング[用語7]によって水分摂取時や塩分摂取時におけるLPBNのCckニューロンの活動を経時的に観察した。その結果、LPBNのCckニューロンの中には、水分摂取のみに応答する集団(Group A)と塩分摂取のみに応答する集団(Group B)、さらに、いずれにも応答しない集団(Group C)が存在することを発見した(図1)。Group Aの活動は水分摂取開始から約25秒で最大になる一方で、Group Bの活動は塩分摂取開始から約5秒で最大になることが分かった。この時間差の生じる原因は、水分摂取のシグナルが消化管から伝達されるのに対し、塩分摂取のシグナルは舌の味覚として伝達されることに起因していると考えられる。実際に、舌の塩味の受容体である上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)の機能を阻害剤で抑制したところ、塩分摂取時におけるGroup BのCckニューロンの活動が抑制された。

図1 それぞれ水分摂取および塩分摂取に特異的に応答するLPBNの異なるCckニューロン集団。 a. 水分摂取および塩分摂取に対する応答性からCckニューロンは3つの集団に分類された。 b. 水分および塩分摂取に対するGroup Aと Group Bの応答性。

図1. それぞれ水分摂取および塩分摂取に特異的に応答するLPBNの異なるCckニューロン集団。

a. 水分摂取および塩分摂取に対する応答性からCckニューロンは3つの集団に分類された。 b. 水分および塩分摂取に対するGroup Aと Group Bの応答性。

次に、Cckニューロンから脳内にどのような経路で水分・塩分摂取に関する情報が伝達されているのか明らかにするために、Cckニューロンを標識してその神経軸索が投射している領域を探索した。その結果、正中視索前核(MnPO)につながるCckニューロンの集団(LPBNCck→MnPOニューロン)および腹側分界条床核(vBNST)に連絡しているCckニューロンの集団(LPBNCck→vBNSTニューロン)がいずれもLPBNの背側領域にあることを見出した。オプトジェネティクス[用語8]の技術を用いて、LPBNCck→MnPOニューロンを活性化したところ、水分摂取が選択的に抑制されることが分かった。同様にLPBNCck→vBNSTニューロンを活性化したところ、塩分摂取が選択的に抑制された(図2)。以前の研究成果[参考文献2]と合わせて、脳弓下器官(SFO)の水分欲求を制御するシグナルとLPBNの水分欲求を抑制するシグナルは、どちらもMnPOに伝達されており、SFOの塩分欲求を制御するシグナルとLPBNの塩分欲求を抑制するシグナルは、いずれもvBNSTに伝達されていることが明らかになった。

図2 LPBNのCckニューロンの活性化による水分摂取および塩分摂取の抑制。 上図: MnPOへ連絡するCckニューロンおよびvBNSTへ連絡するCckニューロンの光活性化。 下図: Cckニューロンを活性化した際、しなかった際の水分・塩分摂取量の違い。

図2. LPBNのCckニューロンの活性化による水分摂取および塩分摂取の抑制。

上図: MnPOへ連絡するCckニューロンおよびvBNSTへ連絡するCckニューロンの光活性化。 下図: Cckニューロンを活性化した際、しなかった際の水分・塩分摂取量の違い。

さらに、オプトジェネティクスとin vivoカルシウムイメージングを組み合わせて用いることによって、LPBNCck→MnPOニューロンあるいはLPBNCck→vBNSTニューロンはいずれもGABAニューロンに連絡しており、それらのGABAニューロンの活性化は水分摂取あるいは塩分摂取に応答することを明らかにした(図3)。また、オプトジェネティクス技術を用いてMnPOおよびvBNSTのGABAニューロンを人為的に活性化したところ、水分摂取および塩分摂取が抑制され、その抑制効果は、LPBNのそれぞれのCckニューロンを活性化した時と同程度であったことから、LPBNCck→MnPOニューロンおよびLPBNCck→vBNSTニューロンはGABAニューロンの活性化を介して、水分摂取および塩分摂取を制御していると推定された(図3)。

最後に、化学遺伝学的手法[用語9]を用いて、脱水状態においてSFOのCCKニューロンとLPBNのCckニューロンの活動を同時に抑制したところ、一方のCckニューロンだけを抑制した時よりも水分摂取量が有意に増加した。この結果は、SFOのCCKニューロンとLPBNのCckニューロンが水分摂取の抑制に協調的に機能していることを示している。

図3 水分摂取および塩分摂取を抑制する神経回路の全体像。 黄色と赤色のシグナルの伝達機構が今回明らかになった。

図3. 水分摂取および塩分摂取を抑制する神経回路の全体像。 黄色と赤色のシグナルの伝達機構が今回明らかになった。

社会的インパクト

今回の水分摂取および塩分摂取行動を制御する脳内機構の解明は、神経科学や生理学分野における重要な発見というだけでなく、多飲症や食塩の過剰摂取、食塩感受性高血圧症など水分および塩分摂取の異常により誘発される疾患の発症機序の解明および治療・予防法の確立にも貢献する知見であるといえる。

今後の展開

体液恒常性をつかさどる神経機構は生命維持において必須の機能であるが、いまだに多くの仕組みが未解明である。今後、MnPOやvBNSTに集積する水分摂取あるいは塩分摂取の誘導と抑制のシグナルが、どのような仕組みで統合されているのか明らかにする必要がある。

付記

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)(野田昌晴:JPMJCR1754)およびJST創発的研究支援事業FOREST(松田隆志:JPMJFR226C)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(野田昌晴:19H05659、松田隆志:18K14855, 21H05615, 22H02732)、時実利彦記念賞(野田昌晴)、公益財団法人ブレインサイエンス振興財団(松田隆志)、公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団(松田隆志)、公益財団法人中島記念国際交流財団(松田隆志)、公益財団法人日本科学協会(松田隆志)、自然科学研究機構生理学研究所の計画共同研究(松田隆志)の支援を受けて行われた。

用語説明

[用語1] 外側腕傍核(LPBN) : 脳の橋と呼ばれる領域に存在する神経核。情報伝達の中継点として知られ、末梢から体温や味覚、痛覚などの感覚情報や体液調節のための情報を受け取ることが知られている。

[用語2] コレシストキニン(Cck : 消化管ホルモンとしてタンパク質や脂肪の分解に関わることが知られている。一方で、脳神経系においても広く分布し、神経伝達物質として生理的な役割を果たしていることが知られている。

[用語3] 抑制性神経細胞(GABAニューロン) : 抑制性神経伝達物質であるGABAを分泌するGABA作動性ニューロン。Clイオン透過性を上昇させ細胞膜を過分極させることによって興奮性神経細胞からの出力を抑制する。

[用語4] 水ニューロン : 本研究グループが同定したSFOに局在する水分摂取行動を誘導する興奮性神経細胞の集団。ペプチドホルモンであるAng IIの受容体、AT1aを発現している。

[用語5] 塩ニューロン : 本研究グループが同定したSFOに局在する塩分摂取行動を誘導する興奮性神経細胞の集団。ペプチドホルモンであるAng IIの受容体、AT1aを発現している。

[用語6] アデノ随伴性ウイルスベクター : 非病原性ウイルスを用いて、標的細胞に目的遺伝子を遺伝子導入するように人工的に改良されたウイルスベクター。

[用語7] in vivoカルシウムイメージング : 生きた動物の標的細胞にカルシウムセンサータンパク質を導入することによって、細胞活動に連動して変化する細胞内カルシウム濃度を蛍光顕微鏡を用いて蛍光強度の変化として検出する。

[用語8] オプトジェネティクス : 光によって活性変化するタンパク質遺伝子を細胞に導入・発現させることで、その細胞機能を光によって人為的に操作する技術。神経細胞を活性化させる実験では、青色光によって活性化する陽イオンチャンネルであるチャネルロドプシン(ChR2)などが使用される。神経細胞の活動を抑制する実験では、黄色光によって活性化するクロライド(Cl-)ポンプであるハロロドプシン(eNpHR)などが使われる。

[用語9] 化学遺伝学的手法 : 神経細胞の活動を人為的に活性化あるいは抑制するため、人工受容体を神経細胞に遺伝子導入し、人工作動薬(化学物質)の投与によって神経活動を制御する技術。

参考文献

[1] Shimizu, H., Watanabe, E., Hiyama, T.Y., Nagakura, A., Fujikawa, A., Okado, H., Yanagawa, Y., Obata, K. and Noda, M. (2007). Glial Nax channels control lactate signaling to neurons for brain [Na+] sensing. Neuron. 54, 59-72.

[2] Matsuda, T., Hiyama, T.Y., Niimura, F., Matsusaka, T., Fukamizu, A., Kobayashi, K., Kobayashi, K., and Noda, M. (2017). Distinct neural mechanisms for the control of thirst and salt appetite in the subfornical organ. Nature Neuroscience. 20, 230-241.

[3] Matsuda, T., Hiyama, T.Y., Kobayashi, K., Kobayashi, K., and Noda, M. (2020). Distinct CCK-positive SFO neurons are involved in persistent or transient suppression of water intake. Nature Communications. 11, 5692.

論文情報

掲載誌 :
Cell Reports
論文タイトル :
Two parabrachial Cck neurons involved in the feedback control of thirst or salt appetite
(2種類の外側腕傍核のCckニューロンが担う水分欲求および塩分欲求を抑制するフィードバック制御機構)
著者 :
Takashi Matsuda, Kenta Kobayashi, Kazuto Kobayashi, Masaharu Noda*
(*corresponding author)
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 生体恒常性研究ユニット

特任教授 野田昌晴

Email noda.m.ae@m.titech.ac.jp
Tel 045-924-5537 / Fax 045-924-5538

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

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Designing a gut environment to achieve a "Zero-Disease Society"―Yoshinori Mizuguchi

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Taking on next-generation health care based on his experience as a student entrepreneur, researcher, and exchange student.
Based on the belief that craftsmanship can save people, Dr. Yoshinori Mizuguchi, who conducted research at Tokyo Tech and is currently the CFO of Metagen, is at the forefront of gut environment research at the company. He looked back on his seven years of intense research, as well as the dual challenge of starting his own business while he was a student. He also talked about the invaluable experiences that have made him who he is today.

Research

Shedding Light on the Synthesis of Sugars Before the Origin of Life

Shedding Light on the Synthesis of Sugars Before the Origin of Life

Pentoses are essential carbohydrates in the metabolism of modern lifeforms, but their availability during early Earth is unclear since these molecules are unstable. A new study led by the Earth-Life Science Institute (ELSI) at Tokyo Tech, reveals a chemical pathway compatible with early Earth conditions and by which C6 aldonates could have acted as a source of pentoses without the need for enzymes. Their findings provide clues about primitive biochemistry and bring us closer to understanding the Origins of Life.

Understanding the Formation of Minute Droplets in Microfluidic Devices

Understanding the Formation of Minute Droplets in Microfluidic Devices

The detailed physics behind droplet generation in microfluidic post-array devices has been clarified by scientists at Tokyo Tech. Through various experiments performed under different operational conditions, they gained important insights into how these small devices can be used to produce uniform emulsions, with potential applications in analytical chemistry and biology, medicine, cosmetics, and materials science.

Breakthroughs in Nanosized Contrast Agents and Drug Carriers Through Self-Folding Molecules

Breakthroughs in Nanosized Contrast Agents and Drug Carriers Through Self-Folding Molecules

Self-folding polymers containing gadolinium forming nanosized complexes could be the key to enhanced magnetic resonance imaging and next-generation drug delivery, as demonstrated by scientists at Tokyo Tech. Thanks to their small size, low toxicity, and good tumor accumulation and penetration, these complexes represent a leap forward in contrast agents for cancer diagnosis, as well as neutron capture radiotherapy.

Toward Sustainable Energy Applications with Breakthrough in Proton Conductors

Toward Sustainable Energy Applications with Breakthrough in Proton Conductors

Donor doping into a mother material with disordered intrinsic oxygen vacancies, instead of the widely used strategy of acceptor doping into a material without oxygen vacancies, can greatly enhance the conductivity and stability of perovskite-type proton conductors at intermediate and low temperatures of 250―400 °C, as demonstrated by Tokyo Tech scientists (e.g. 10 mS/cm at 320 °C). This innovative approach provides a new design direction for proton conductors for fuel cells and electrolysis cells.

Exploring the Origin of Nucleosynthetic Isotope Variations in Ryugu Samples

Exploring the Origin of Nucleosynthetic Isotope Variations in Ryugu Samples

The observed variations in chromium (Cr) isotope ratios in the Ryugu asteroid samples collected by Hayabusa2 likely resulted from elemental redistribution of slightly soluble Cr by water within the parent body, reveals a multinational study led by researchers from Tokyo Tech. The results provide useful insights for expanding our understanding of the origin and evolution of materials in our solar system.

New Study Sheds Light on the Molecular Mechanisms Underlying Lipid Recycling Within Cells

New Study Sheds Light on the Molecular Mechanisms Underlying Lipid Recycling Within Cells

Our understanding of how cells recycle lipids through autophagy―a form of cellular degradation―has grown significantly, thanks to a recent study by scientists at Tokyo Tech. Using yeast as a model organism, the researchers explored the molecular mechanisms leading to the degradation of the phospholipid bilayers making up the cell membranes. Their findings improve our understanding of cellular degradation processes and related metabolic disorders.

Preventing Airborne Infection without Impeding Communication with Ions and Electric Field

Preventing Airborne Infection without Impeding Communication with Ions and Electric Field

A novel device developed by Tokyo Tech researchers in a new study utilizes ions and an electric field to effectively capture infectious droplets and aerosols, while letting light and sound pass through to allow communication. The innovation is significant in the wake of the COVID-19 pandemic, since it shows promise in preventing airborne infection while facilitating communication.

Topological Insulator Catalysts for High-Yield Room-Temperature Synthesis of Organoureas

Topological Insulator Catalysts for High-Yield Room-Temperature Synthesis of Organoureas

The unique quantum properties of bismuth selenide make it a promising catalyst for the synthesis of organic ureas, as demonstrated by scientists at Tokyo Tech. Thanks to its topological surface states, the proposed catalyst exhibits remarkably high catalytic activity and durability when used for the synthesis of various urea derivatives, which are widely utilized as nitrogen fertilizers.

A New Design Strategy for Mechanoresponsive Materials with High Thermal Tolerance

A New Design Strategy for Mechanoresponsive Materials with High Thermal Tolerance

The thermal tolerance of radical-type mechanophores (RMs) that undergo dissociation of the central C–C bond upon mechanical impact increases with the electron-withdrawing ability of the functional group at the para position of the radical skeleton, demonstrate researchers from Tokyo Tech and Sagami Chemical Research Institute. Their study provides a rational design guide for preparing RMs with high thermal tolerance and mechanical responsiveness.

Improving the Properties of Sweeteners for Enhanced Thermal Energy Storage

Improving the Properties of Sweeteners for Enhanced Thermal Energy Storage

A solution to enhance the thermal energy storage of sugar alcohols has been developed by researchers from Tokyo Tech. They achieved this by confining sugar alcohols, commonly used sweeteners, in the pores of a covalent organic framework (COF), effectively resolving the long-standing problem of supercooling that degrades the stored thermal energy. This innovative material can store-and-release heat much more efficiently, potentially opening doors to novel, eco-friendly solid-state heat storage materials.

Novel Organic Light-Emitting Diode with Ultralow Turn-on Voltage for Blue Emission

Novel Organic Light-Emitting Diode with Ultralow Turn-on Voltage for Blue Emission

An upconversion organic light-emitting diode (OLED) based on a typical blue-fluorescence emitter achieves emission at an ultralow turn-on voltage of 1.47 V, as demonstrated by researchers from Tokyo Tech. Their technology circumvents the traditional high voltage requirement for blue OLEDs, leading to potential advancements in commercial smartphone and large screen displays.

In the spotlight

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津波防災×潮位差発電を同時に実現する可動式防潮堤 自己発電化により災害停電時にも稼働

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要点

  • 世界初となる、自己発電で作動する可動式防潮堤による潮位差発電方式を提案
  • 全国56港を対象に発電量を試算し、後背地に余剰電力を供給できる可能性を示唆
  • 実現性ありと判定された港は23、うち20港は南海トラフ地震の津波到達予想地域

概要

東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系の高木泰士教授らは、自己発電型可動式防潮堤に関する研究成果を発表した。

今後40年以内の発生確率が90%と予測されている南海トラフ地震による津波、気候変動により巨大化が懸念される台風による高潮など、日本の港は沿岸域災害のリスクが高い地域に立地している。本研究では、日本の生命線とも言える港を津波や高潮から守るとともに、未来に渡って予測可能な「潮位差エネルギー」を利用して、沿岸域防災と潮位差発電を同時に実現する画期的な防潮堤システムを提案した。本研究は、東京工業大学、株式会社ワールド設計(沖縄)、協同エンジニアリング株式会社(大分)、オリエンタル白石株式会社(東京)、株式会社センク21(東京)、中外テクノス株式会社(広島)、日本防蝕工業株式会社(東京)、株式会社ネポクコンサルタント(神奈川)、八千代エンジニヤリング株式会社(東京)、株式会社テクノシステム(島根)らで構成される「潮位差エネルギーの利用による港の活性化研究会」による成果である。

可動式防潮堤を活用した港における潮位差発電のイメージ:日中

可動式防潮堤を活用した港における潮位差発電のイメージ:夜間

可動式防潮堤を活用した港における潮位差発電のイメージ

本研究成果は11月6日(現地時間)付けで国際学術専門誌「Renewable Energy」に掲載された。

背景

近い将来に予想される地震・津波、および気候変動に伴い激甚化が懸念されている台風・高潮災害への対策として、可動式防潮堤の技術が注目されつつある。2020年12月には国内初となる海底設置型フラップゲート式防潮堤[用語1]が岩手県大船渡市に、2022年3月には同種のゲートが兵庫県南あわじ市に設置された。2024年元日に石川県能登地方で発生した令和6年能登半島地震(マグニチュード7.6)では、直後に津波が発生し、多くの港で船の転覆や流出、陸地への乗り上げなど大きな被害が発生した。可動式防潮堤は、このような港に押し寄せる津波を食い止め、停泊する船や建物、物揚・加工施設、そこで働く人々、あるいはその背後地域で暮らす人々を守るために設置される。

可動式防潮堤には、常時は海底面下にゲートを格納でき、船の出入りや潮の流れを阻害せず、上空に巨大な梁が架かる通常の水門のように視界や景観、船の高さの妨げにもならず、他の工法に比べると地権者交渉など建設に係る調整コストが小さいなど、非常に数多くの優れたメリットがある。しかしながら、技術的な難易度が高く、建設コストも高価になりがちで、過去の実績も少ないため、導入の機運は必ずしも高いという訳ではない。本研究のメンバーらは地震の衝撃や液状化にも耐え、港口を閉鎖することで津波の港内への浸入を防ぐ構造として、ニューマチックケーソン工法[用語2]による基礎をもつ可動式防潮堤の研究開発を行ってきた(図1)。

ニューマチックケーソン基礎の内部にはスペースが設けられており、海底面下に防潮ゲートを格納することが可能である(図1の8に図示)。地震発生時にはウィンチを解除することで、ゲートは浮力を得て無動力で浮上し、短時間で港口を閉鎖することができる。一方で、ゲートを海底面下に再び引き下げる際には動力が必要となるため、地震等で停電が発生してしまうとウィンチを動かすことができず、港の再開に支障を及ぼす懸念があった。

図1 ニューマチックケーソン基礎を有する可動式防潮堤の施工方法

図1. ニューマチックケーソン基礎を有する可動式防潮堤の施工方法

そこで本研究では、可動式防潮堤により生み出される港の内外での局所的な潮位差エネルギーを動力源として活用することを考えた。フランスや韓国など干満の差が大きい一部の国・地域では、大規模な潮位差発電施設がすでに稼働している。しかし、四方を海に囲まれながら、干満の差が比較的小さい日本では潮位差発電の事例はこれまで存在しなかった。無限の再生可能エネルギーである潮位差エネルギーをほとんど利用できていない状況を少しでも克服するため、発電したエネルギーの港の後背地への供給ポテンシャルについても検討した。

研究成果

本研究では、可動式防潮堤の設置により既存の港に大きな津波・高潮シェルターとしての役割をもたせ、同時に港内外の潮位差を活かして潮位差発電を行う自己発電型可動式防潮堤のコンセプトを提案するとともに、干満の差が比較的小さい日本でも実現可能か検討した。

港の利用と潮位差発電を両立するため、夜間のみ港を閉鎖し、その間に発電を行うシナリオを検討した(図2a, b)。この際、生み出される電力が可動式防潮堤自体の作動電力として十分か、港の後背地への電力供給が可能か、大潮だけでなく小潮時にも発電可能か、といった観点に立ち実現性を検討した。

広い港では出入口の幅が100 m以上にもなるため、一基のゲートのみで港を閉鎖することができず、複数のゲートを延長線上に配置する必要性が出てくる。ゲート同士が接触せず作動するためにはある程度の隙間を設ける必要があるが、この空間を発電タービンの設置場所として有効利用することを考えた。しかし、この隙間は津波の進入路にもなるため、本来は出来る限り小さい方がよく、海水流入率や施工性、地震による地盤の変形などを考慮した最小幅の空間にタービンを設置する案について検討した(図2c)。

図2 可動式防潮堤による潮位差発電のイメージ (最終的には、図1に図示する可動式防潮堤の製作工程に組み込むことを想定)

図2a 可動式防潮堤による潮位差発電のイメージ:日中(最終的には、図1に図示する可動式防潮堤の製作工程に組み込むことを想定)

図2b 可動式防潮堤による潮位差発電のイメージ:夜間(最終的には、図1に図示する可動式防潮堤の製作工程に組み込むことを想定)

図2c 潮位差発電タービンのイメージ図

図2. 可動式防潮堤による潮位差発電のイメージ

(最終的には、図1に図示する可動式防潮堤の製作工程に組み込むことを想定)

以下に、発表論文における具体的な成果を示す。

1.
計算式に潮位差発電に関係する変数を入力することで、可動式防潮堤で閉鎖された港の発電電力量(発電量)ポテンシャルを予測できる発電量試算モデルを提案した。任意の潮位差や潮汐パターン、港の広さ、深さ、港口の幅、ゲートの設置数、タービンの設置数、水車の大きさ、パワー係数[用語3]などに対して、発電量の時間的変化を計算することができる。天文潮位は将来にわたってかなり正確に予測できるため、何年何月何日の何時にどの程度の発電が可能か細かく試算することができる。これにより中長期的な経済性を個別の港レベルで検討することができるようになる(図3)。

図3 モデル港における発電量試算例(上は大潮、下は小潮のケース)

図3. モデル港における発電量試算例(上は大潮、下は小潮のケース)

2.
港の地域的な分布や数などを考慮の上、最終的に全国56の港を選定し、潮位差発電ポテンシャルを試算した(図4)。発電ポテンシャルは港によってばらつきが顕著だが、全般的に東日本よりも西日本で大きく、日本海側よりも太平洋側で大きいことがわかった。また、夜間8時間で500 kWh以上発電できる港は小潮時にはないが、大潮時には1,000 kWhを超える港があることなどがわかった。

全国56の港における潮位差発電ポテンシャルの試算結果:大潮のケース

全国56の港における潮位差発電ポテンシャルの試算結果:小潮のケース

図4. 全国56の港における潮位差発電ポテンシャルの試算結果
(左は大潮、右は小潮のケース)(上は大潮、下は小潮のケース)

3.
可動式防潮堤を外部電源に頼らない独立的なシステムにするためには、最低限ゲート作動のための電力を自己発電する必要がある。56港のうち23港でその発電ポテンシャルがあることがわかった(図5)。また、ゲート作動用の電力以外は余剰電力として港の後背地に供給可能と考えることができる。余剰電力が特に大きな港では大潮時の夜間8時間における発電量が1,000 kWh以上にもなると試算され、地域で停電が発生した際などに貴重な電源として活用が期待できる。

図5 23港における夜間8時間発電量(地点番号は図4に対応)

図5. 23港における夜間8時間発電量(地点番号は図4に対応)

4.
2. で述べた通り、特に西日本の太平洋側で発電ポテンシャルが高いという試算結果が示された。西日本に位置する港には日本経済の大動脈である臨海工業地帯を支えている港が少なくないが、同時に津波や高潮による災害リスクが高い地域でもある。特に南海トラフ地震は近い将来に発生が予測されている災害の中でも最大級の災害だが、自己発電型可動式防潮堤の実現性が比較的高い23港のうち、20港が南海トラフ地震により2 m以上の津波が予測されている地域に位置していることがわかった(図6)。したがって、自己発電型可動式防潮堤は南海トラフ地震の対策のひとつとしても検討することができる。

図6 南海トラフ地震による津波想定(内閣府シナリオ:ケース3)および自己発電型可動式防潮堤の実現性が比較的高いと判定された23港の位置図

図6. 南海トラフ地震による津波想定(内閣府シナリオ:ケース3)および自己発電型可動式防潮堤の実現性が比較的高いと判定された23港の位置図

5.
全国56港の全データに対して統計解析を行ったところ、数ある影響要素のうち、潮位振幅と港内面積が特に発電量に影響を及ぼす要素であることがわかった。そのため、この2要素をもとに自己発電型可動式防潮堤の実現性を簡易的・予備的に判定できる図を提示した(図7)。

図7 簡易判定図

図7. 簡易判定図

6.
発電タービンを複数台配置する場合、水車背後に生じる後流という流れの振動が隣接タービンの発電出力を低下させてしまう懸念がある。本提案方式の場合、隙間の鉛直方向にタービンを複数配置することで後流による相互干渉を防ぎ、効率的な発電が可能であることを3次元数値流体解析により明らかにした(図8)。

図8 隙間の鉛直方向に複数台の発電タービンを設置した場合の3次元流体解析

図8. 隙間の鉛直方向に複数台の発電タービンを設置した場合の3次元流体解析

社会的インパクト

本研究の取り組みは、有望な技術でありながらもなかなか弾みが付かない可動式防潮堤に、潮位差発電という再生可能エネルギーの利用価値を付加することで普及を後押しする狙いもある。また、潮位差発電を行うため夜間に港を閉めれば、その時間帯の津波や高潮対策にもなり、日常的に稼働させることで、いざという時にも不安なく可動式防潮堤を起動できるなど、防災上の大きなメリットもある。夜間だけでなく、盆休みや年末年始など、比較的長い間港を使わない期間に発生する津波や高潮の対策にもなる。また、災害などにより停電が発生した場合でも、港を臨時の潮位差発電所にできれば、緊急的な電力を孤立した地域に供給するような役割も期待できる。

今後の展開

世界を見渡しても海面上昇や地盤沈下、海岸侵食などにより、津波や高潮、高波など災害リスクは年々高まっており、沿岸域を持続的に守っていくためには、より一層効果的・効率的な防災技術が求められている。本提案を実現するためには、数々の技術的課題を解決し、実証試験等を通じて機能を明らかにしていく必要があるが、日本の過酷な災害条件で技術を着実に発展させることができれば、日本発の「発電もできる画期的な防災技術」として将来海外に輸出展開できる日が来るものと期待される。また、日本の場合、全国津々浦々に非常に数多くの港が整備されてきたが、今後さらに少子高齢化が進み、実質的に遊休状態の港が増えてくると予想される。このような既存のインフラ財産を今後有効に活用する方策の一つとしても、可動式防潮堤による潮位差発電のシステムを提案していきたい。

用語説明

[用語1] 海底設置型フラップゲート式防潮堤 : 常時は海底面に横たわるゲートを災害等に起伏させることができる防潮堤。

[用語2] ニューマチックケーソン工法 : 最下部の密閉された作業室に高圧の空気を送ることで地下水の浸入を防ぎながら掘削を行い、地中に基礎を構築していく工法。

[用語3] パワー係数 : 発電タービンのエネルギー変換効率。

論文情報

掲載誌 :
Renewable Energy
論文タイトル :
Feasibility of a Self-powered Movable Seawall using Microtidal Energy in Japan
著者 :
Hiroshi Takagia, Ryouichi Tomiyasub, Taketo Arakic, Tomoyuki Oyaked, Noritaka Asakawae, Ichiro Ishiharaf, Takeharu Kawaokag, Feng Yanh, Hayato Kokushoi, Mikio Hinoj
所属 :
a東京工業大学、b株式会社ワールド設計、c協同エンジニアリング株式会社、dオリエンタル白石株式会社、e株式会社センク21、f中外テクノス株式会社、g日本防蝕工業株式会社、h株式会社ネポクコンサルタント、i八千代エンジニヤリング株式会社、j株式会社テクノシステム
DOI :

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原子炉内部状態のリアルタイム・遠隔監視手法を提案 ニュートリノから原子炉運転状態と燃料組成を知る

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要点

  • 原子炉で放出されるニュートリノの総和計算手法のための核データベースを確立。
  • 計算結果をもとに、原子炉内部の様子を、リアルタイム・非破壊・遠隔で確認する新規モニタリング手法を提案。
  • 燃料組成などの、原子炉稼働中の状況を明らかにすることで、核燃料の安全・安心・平和的な利用を推進。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所の石塚知香子助教、千葉敏教授(研究当時。現名誉教授、株式会社NAT・NATリサーチセンター長)、同 環境・社会理工学院 融合理工学系の佐々木華蓮大学院生(研究当時)らの研究チームは、原子炉内で核分裂によって発生する1,000種類にわたる核分裂生成物[用語1]β崩壊[用語2]により炉外に放出される反電子ニュートリノ[用語3](以下、ニュートリノ)のスペクトルデータを理論計算により整備し、原子炉内での生成消滅計算と組み合わせることで、原子炉の運転状態(稼働中かどうか)のみならず、原子炉内のウランとプルトニウムの組成比を検知することが可能であることを見出し、新たな核査察の手法として提案した。

地球温暖化に対する危機意識の高まりや世界情勢の不安定化により、燃料調達が世界的に困難となる中で、ゼロカーボンエネルギー源としての原子力に対する再評価が進んでいる。原子力では安全性が再優先されるとともに、未申告の燃料交換などによって核兵器の材料が生成されないようにする必要がある。保障措置[用語4]の手段、すなわち原子炉が申告通りに運転・燃料交換を行っているかどうかを検認するための核査察は、通常は運転後に行われることが多い。それに対し今回は、原子炉運転中に発生し炉外に放出されるニュートリノの数またはエネルギースペクトルを炉外で測定することにより、稼働中に原子炉内の燃料組成についての情報を得られることが分かった。これにより原子炉内部の情報をリアルタイムかつ非破壊かつ遠隔監視により得ることが可能となった。

本研究成果は、東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所の石塚知香子助教と千葉敏名誉教授、佐々木華蓮大学院生(2023年3月末修士課程修了)、山野直樹研究員、東京都市大学の吉田正名誉教授によって行われ、2023年11月24日付の「Journal of Nuclear Science and Technology」に掲載された。

核分裂により発生する核分裂生成物のβ崩壊の様子。β崩壊ごとに1個の反電子ニュートリノ(νe)が発生する。

核分裂により発生する核分裂生成物のβ崩壊の様子。β崩壊ごとに1個の反電子ニュートリノ(νe)が発生する。

背景

明確化してきた地球温暖化問題と国際情勢変化を背景とした化石燃料調達の不安定化に伴い、安定したゼロカーボンエネルギー源としての原子力エネルギー(核エネルギー)に対する再評価が進んでいる。原子力発電では安全性が最優先事項とされ、さらに核不拡散に対する対策も必須となる。また原子炉では運転に伴い核分裂生成物が蓄積し、核分裂生成物の放射能に起因して発生するニュートリノは、これまで原子炉の稼働状態のモニタリングに用いられてきた。本研究では、このニュートリノを原子炉内の核燃料物質の組成に関する知識を得る手段として積極的に利用する新規の保障措置の手法を提案した。特に、リアルタイムで原子炉内の核燃料物質組成に関する情報を収集可能であることが分かった。これにより、原子炉運転主体は未申告のまま核物質を移動して核兵器製造への転用を行うことが困難となり、核不拡散をより確実なものにできる。

図1 反ニュートリノによる運転状況の監視イメージ

図1. 反ニュートリノによる運転状況の監視イメージ

研究成果

原子炉内で核燃料物質が中性子を吸収し核分裂する際には、巨大なエネルギーに加えて1,000種類にわたるさまざまな核分裂生成物が放出される。核分裂生成物のほとんどは放射能を有する原子核であり、主として複数回のβ崩壊を経て安定核に向けて崩壊していく。どのような核分裂生成物ができるかは核分裂をする核種によって異なるため、β崩壊により放出される粒子の数やエネルギースペクトルに微妙な違いがあり、それを基に核分裂を引き起こした核種の種類を同定することが可能となる。

本研究では、一つ一つの核分裂生成物が放出するニュートリノのエネルギースペクトルを大局的理論[用語5]により系統的に求め、データベースを作成した。これら個々の核種のエネルギースペクトルと核分裂生成物の分布の総和計算[用語6]を行うことで、全体として放出されるニュートリノのエネルギースペクトルなどを求め、235,238U(ウラン)、239,241Pu(プルトニウム)の中性子核分裂により発生する実験データと比較した。その結果、総和ニュートリノエネルギースペクトルが実験値をよく再現できることを確認した(図2)。

図2 235Uが熱中性子により核分裂した際に生成される核分裂生成物からのニュートリノのエネルギースペクトル。△印がその全ての和に対する実験値であり、図中に膨大な数の線で示されるのが一つ一つの核分裂生成物のスペクトルの理論値である。これらを足し上げたものが緑の実線であり、幅広いエネルギーにわたって△で示される実験値とよく合致していることが分かる。
図2.
235Uが熱中性子により核分裂した際に生成される核分裂生成物からのニュートリノのエネルギースペクトル。△印がその全ての和に対する実験値であり、図中に膨大な数の線で示されるのが一つ一つの核分裂生成物のスペクトルの理論値である。これらを足し上げたものが緑の実線であり、幅広いエネルギーにわたって△で示される実験値とよく合致していることが分かる。

次に、これらのニュートリノは原子炉内でほとんど反応せず、ほぼ全量が炉外に放出されることに着目し、炉外に出たニュートリノの検出を試みた。ニュートリノ検出器を用いて、逆β崩壊(IBD)反応[用語7]により検出される場合のエネルギースペクトルを調査したところ、スペクトルが核種に依存することが分かった。また、あるしきいエネルギー以下のニュートリノが全体に対して占める割合が、しきいエネルギーを4 MeVとする場合に核種ごとの差が最大となることを発見した。そこでこの割合を「R4指標」と新たに定義し、実機データ(美浜三号機)の運転条件を模した計算との比較を行った。その結果、燃料組成の変化と「R4指標」の時間変化に強い相関があることが分かり、「R4指標」により原子炉内の核種組成に関する情報をリアルタイムに得られることが明らかになった(図3)。すなわち、これまで提案されてきた原子炉の運転状態(運転中か停止中か)の監視だけでなく、運転中の原子炉内の燃料組成をリアルタイムかつ遠隔測定により監視可能であることが分かった。

この方法を用いることで、原子炉が申告通りに運転されていることや、原子炉停止中に未申告の燃料交換をしていないことの検認を行うことが可能となり、新規の保障措置、すなわち核不拡散検認手法として活用できる。

図3. 美浜3 号機の燃料組成と出力を用いて400 日運転・60 日停止のサイクルでの運転を仮定した場合の(上)燃焼日数(横軸)と燃焼度(青線、右縦軸)、Pu fissile(用語8)の235U に対する割合(赤線、左縦軸)との関係;(下)燃焼日数(横軸)とIBD 反応により検出される反電子ニュートリノ数(青線、右縦軸)、「R4指標」(エネルギー4 MeV 以下の反電子ニュートリノの割合)(赤線、左縦軸)との関係。上のパネルより、燃焼(原子炉の運転)に伴って燃焼度(青線、1トン当たりの燃料が放出したエネルギー)と共に、238Uの中性子捕獲によりPu が生成されるためにPu fissileの235U に対する割合(赤線)は増加していく様子が見て取れる。また下のパネルからは、「R4指標」(赤線)が運転中は増加し、停止中は限りなく1に近づく一方、IBD 反応により検出される反電子ニュートリノの数(青線)は運転に伴うPuの蓄積により減少し、さらに停止中はその値が2桁以上も小さくなることが見て取れる。
図3.
美浜3 号機の燃料組成と出力を用いて400 日運転・60 日停止のサイクルでの運転を仮定した場合の(上)燃焼日数(横軸)と燃焼度(青線、右縦軸)、Pu fissile[用語8]235U に対する割合(赤線、左縦軸)との関係;(下)燃焼日数(横軸)とIBD 反応により検出される反電子ニュートリノ数(青線、右縦軸)、「R4指標」(エネルギー4 MeV 以下の反電子ニュートリノの割合)(赤線、左縦軸)との関係。上のパネルより、燃焼(原子炉の運転)に伴って燃焼度(青線、1トン当たりの燃料が放出したエネルギー)と共に、238Uの中性子捕獲によりPu が生成されるためにPu fissileの235U に対する割合(赤線)は増加していく様子が見て取れる。また下のパネルからは、「R4指標」(赤線)が運転中は増加し、停止中は限りなく1に近づく一方、IBD 反応により検出される反電子ニュートリノの数(青線)は運転に伴うPuの蓄積により減少し、さらに停止中はその値が2桁以上も小さくなることが見て取れる。

社会的インパクト

今後、増加していくことが予想される原子力利用において、未申告の核物質移動や核兵器製造への転用を防ぐことができ、核兵器の拡散を未然に防止することが可能となる。各国家における、適正な核燃料運用がなされているかを評価することにもつながるため、世界における安全保障の実現にも寄与する研究成果と言える。

今後の展開

最新核データライブラリに基づく原子炉ニュートリノのエネルギースペクトル形状はよく再現できているものの、Pu同位体では絶対値として計算値と実測値の間に20%程度の差があった。今後は、Pu同位体のニュートリノ生成データにおいて値に差が生じる原因の究明により定量性を高めていく。また、原子炉の初期燃料組成がMOXなど、複数の核燃料物質を含む複雑な場合は燃料組成とニュートリノエネルギースペクトルとの関連が弱いため、本手法のさらなる精緻化を行う。

用語説明

[用語1] 核分裂生成物 : ウランやプルトニウムが核分裂することで生成される核種。

[用語2] β崩壊 : 放射性核種がベータ線(電子)と反電子ニュートリノを放出して自然崩壊する過程。

[用語3] 反電子ニュートリノ : 電子ニュートリノの反粒子である、電気的に中性の粒子。

[用語4] 保障措置 : ウランやプルトニウムなどの核物質の使用は平和利用に限定されており、核兵器などの核爆発装置のような軍事目的の転用がないこと、未申告の核物質がないこと、原子力活動が行われていないことを確認する検認制度。

[用語5] 大局的理論 : 原子核のβ崩壊強度関数を強度関数が満たす和則を条件として構築したβ崩壊半減期理論計算法。

[用語6] 総和計算 : ある時間tでの崩壊熱を求める時、核種iが一回のβ崩壊を起こす際に放出するβ線およびγ線の平均エネルギー、核種iの崩壊定数、核種iの時刻tにおける存在量の積をすべての核分裂生成物について足し上げる計算方法。

[用語7] 逆β崩壊(IBD)反応 : 反電子ニュートリノが陽子に散乱され、陽電子と中性子を生成する原核反応。原子炉から放出される反電子ニュートリノを用いた原子炉モニタリングでも重要な反応である。

[用語8] Fissile Material : 核燃料のうち、熱中性子で核分裂を起こすことのできる物質で、235U、239, 241Puがそれに相当する。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Nuclear Science and Technology
論文タイトル :
Reactor antineutrinos and novel application to real-time remote monitoring of nuclear reactors
著者 :
Chikako Ishizuka, Karen Sasaki, Naoki Yamano, Tadashi Yoshida and Satoshi Chiba
DOI :

環境・社会理工学院

環境・社会理工学院 ―個々の建物から地球全体まで持続的環境を構築―
2016年4月に発足した環境・社会理工学院について紹介します。

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助教 石塚知香子

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Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

初撮影から1年後のM87ブラックホールの姿

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概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 量子航法研究ユニットの笹田真人特任助教が参加する国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」は、史上初の撮影に成功した楕円銀河M87の巨大ブラックホールについて新たな観測画像を公開しました。今回公開された画像は、初撮影が行われた2017年4月の観測から約1年後の2018年4月に観測されたものです。2018年の観測では新たにグリーンランド望遠鏡がネットワークに参加し、またデータ記録速度が向上したことでM87ブラックホールの新たな姿が明らかとなりました。1年後の画像では、2017年に観測されたものと同じ大きさのリング構造が確認されました。この明るいリングに縁取られた中央の暗い部分が、まさに一般相対性理論から予言されている「ブラックホールシャドウ」の存在を裏付けています。一方で、リングの最も明るい場所は角度にして約30度異なっており、ブラックホール周辺の物質が乱流状に振る舞っていることを示唆しています。本研究成果は、2024年1月18日付で欧州の天文学専門誌「Astronomy and Astrophysics」に掲載されました。

イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)はM87巨大ブラックホールの新たな観測画像を公開しました。2017年の初撮影(左)から約1年後に撮影された2018年の画像(右)でも同じ大きさのシャドウが再現されていることがわかりました。2018年の観測には、新たにグリーンランド望遠鏡が参加しています。明るいリングに囲まれた中央の暗闇がブラックホールのシャドウ(影)に相当し、リングの最も明るい場所は2017年の画像では6時の方向、2018年の画像では約30度異なる5時の方向にあります。画像クレジット:EHT Collaboration

イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)はM87巨大ブラックホールの新たな観測画像を公開しました。2017年の初撮影(左)から約1年後に撮影された2018年の画像(右)でも同じ大きさのシャドウが再現されていることがわかりました。2018年の観測には、新たにグリーンランド望遠鏡が参加しています。明るいリングに囲まれた中央の暗闇がブラックホールのシャドウ(影)に相当し、リングの最も明るい場所は2017年の画像では6時の方向、2018年の画像では約30度異なる5時の方向にあります。画像クレジット:EHT Collaboration

研究背景と成果

「自然科学の探求には、独立した観測による事象の再現が不可欠です。」本研究プロジェクト代表の一人でグリーンランド望遠鏡計画のプロジェクトサイエンティストを務める台湾中央研究院 天文及天文物理学研究所の浅田圭一副研究員はこのように述べています。「完全に新しいデータでもリングの再現性を確認できたことはEHTにとって大きなマイルストーンでした。これはブラックホールシャドウ周辺の物質からの光を見ていることを強く示すものです。」

EHTは2017年にブラックホールの初撮影を行い、2019年4月にその画像を公開しました。撮影された巨大ブラックホールは、地球からおよそ5,500万光年彼方にあるおとめ座銀河団の楕円銀河M87の中心にあります。初撮影されたブラックホールの画像では、時計の6時の方向が最も明るいリング構造が捉えられました。

この観測によりブラックホールを視覚的に捉える新時代が幕をあけ、M87ブラックホールの周りにリングが見えることやその形から一般相対性理論の検証が可能となりました。一方で、リングの細かい明るさの分布には、ブラックホールの周りを取り巻く物質の乱流構造が反映され、1年後には大きく変わりうると理論的に予想されていました。年を経てM87を再度観測することで、一般相対論的効果で安定して現れるリングと、周辺で変動する複雑なガスの構造を区別して調べることができるのです。

「2017年4月から灼熱の台湾、標高4,000 m超のハワイマウナケア山頂、極寒極夜のグリーンランドと世界各地で行われたグリーンランド望遠鏡の立ち上げ試験に参加しました。観測データを解析し画像を得る以前にも、望遠鏡の建設、観測装置の作成や試験、観測運用といった多くのステップがあることを目の当たりにしました。世界中の仲間が積み重ねた一つ一つのステップが今回の成果に繋がっており、とても誇らしく思います。」とEHT科学諮問委員会副議長を務める新潟大学大学院 自然科学研究科の小山翔子助教は語っています。

初撮影に次ぐ新たな科学目標を達成するために、EHTは拡張を続けています。本観測には2017年末に北極圏内に新たに建設されたグリーンランド望遠鏡が初めて加わりました。EHTの観測ネットワークの最北端に位置するグリーンランド望遠鏡が参加することで画像の質が大幅に向上しました。メキシコにある口径50 mのLMT望遠鏡も、その巨大な鏡面全体で観測が可能になったことで感度が高くなりました。また、データ記録速度が2倍向上したことで観測される周波数帯が2つから4つに増え、1日の観測でも独立した4つのデータで結果を検証できるようになりました。

巨大ブラックホールの存在をより確かなものとし、初撮影の結果を裏付ける上でも、繰り返し観測を行うことは不可欠でした。EHTはその科学的重要性だけでなく、技術的難易度の高いミリ波・サブミリ波電波干渉計のために開発された最先端技術の実証を行う場としての役割も果たしています。

「私たちは電波望遠鏡の空白地帯であった北緯76度という北極圏に建設を進めました。アルマ望遠鏡と約9,000 kmの距離を結ぶことによって、南北方向の最も詳細なデータを得ることができました。」とグリーンランド望遠鏡計画の代表を務める台湾中央研究院天文及天文物理研究所の松下聡樹 研究員は述べています。「これに加え、他のEHT望遠鏡群とのデータからリングの形や明るさの非対称性をより正確に決められるようになり、今回の結果に多大な貢献をしました。」

今回の新しいデータ解析には、M87ブラックホールの初撮影に使用された手法に加えて、天の川銀河中心ブラックホールの画像化を元に新たに開発された手法を含む、合計8つの独立した手法が用いられました。

その結果、初撮影時と同じ大きさの明るいリング状の構造が確認されました。中心部は暗く、リングの片側が明るいという特徴も共通しています。M87ブラックホールの質量と距離は数年の間ではほとんど変化しないため、リングの直径も変化しないことが一般相対性理論から予測されています。2017年と2018年で同じ大きさのリング状構造が見られたことは、M87ブラックホール周辺の時空構造が一般相対性理論によって記述されていることを強く支持するものです。

「一般相対性理論によると、リングの見かけの大きさはブラックホールの質量とブラックホールまでの距離のみに依存します。M87ブラックホールに物質が降着するスピードは遅く、質量の変化はほとんどありません。ブラックホールまでの距離も変化しないので、リングの大きさが一年後も変わっていないことはまさに一般相対性理論の予言通りの結果です。」と小藤由太郎氏(東京大学大学院理学系研究科 博士課程在学)は述べています。

一方で興味深い変化も確認されました。2017年の画像ではリングの最も明るい場所が6時の方向にありましたが、2018年の画像では約30度異なる5時の方向にありました。これはブラックホール周辺の物質による乱流状の振る舞いが影響していると考えられ、2017年と2018年でリングの細かい明るさの分布は大きく変化しうると理論的に予想されていました。変化したとはいえ両者の画像の明るい場所が似ていることも重要です。明るい場所が南側であることは、理論的にブラックホールの回転軸がほぼ東西方向であることを示唆しています。そしてそれはブラックホールから離れたところで主にセンチ波帯で観測されているジェットの方向と近いことがわかりました。

「今回の成果はブラックホールの自転によりジェットが駆動されている可能性にまた一歩近づいたと言えます。」と八戸工業高等専門学校総合科学教育科の中村雅徳教授は述べています。「2010年より日本人研究者達が中心となって進めたグリーンランド望遠鏡計画が結実し、本成果に貢献できたことは光栄です。」

これまで発表されたEHTの論文は全て2017年の観測に基づくものでしたが、今回の結果は2018年以降に取得したデータに関する初の成果となります。2017年と2018年に加えて、2021年、2022年にも観測が行われています。2024年前半にも観測を予定しています。EHTは観測の度に新しい望遠鏡を加え、観測周波数を増やすことで、性能を向上させています。現在も国際共同研究の元で新しい観測やデータ解析、結果の考察が進められており、今後もますます多くの研究成果が見込まれています。

EHT日本チームの代表である本間希樹 国立天文台教授・水沢VLBI観測所所長は、「今回の成果は、2017年のEHTの結果を確認したことに加え、時間変動の研究の重要性を明らかにしました。ブラックホール周辺で起きる時間変動現象の理解には、今後のEHTの観測継続に加えて、その視力を向上させる衛星計画(EHE)へと展開することが鍵となります。また、東アジアVLBI網等によるジェット観測との連携もさらに重要となっていくことでしょう。」とコメントしています。

付記

この研究は、文部科学省/日本学術振興会科学研究費補助金(No. 18K13594, 18H01245, 18H03721, 18KK0090, 18K03709, 19K14761, 19H01943, 19KK0081, 21H01137, 21H04488, 25120007, 22H00157, 23K03453)、大学共同利用機関法人自然科学研究機構「ネットワーク型研究加速事業」、文部科学省「富岳」成果創出加速プログラム「宇宙の構造形成と進化から惑星表層環境変動までの統一的描像の構築」(JPMXP1020200109)および計算基礎科学連携拠点(JICFuS)、他、国際的な支援を受けて行われたものです。

論文情報

掲載誌 :
Astronomy and Astrophysics
論文タイトル :
The persistent shadow of the supermassive black hole of M 87
I. Observations, calibration, imaging, and analysis
著者 :
Event Horizon Telescope Collaboration et al.
DOI :

より詳しい情報

EHTコラボレーションには、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカから300人以上の研究者が参加しています。この国際共同研究は、地球サイズの仮想的な望遠鏡を作ることで、最高分解能で詳細なブラックホール画像を撮影することに取り組んでいます。EHTは国際的な協力によって支えられており、地球上に点在する複数の望遠鏡をリンクさせ、最高の角度分解力を持つ装置を作り上げています。

2017年4月初撮影時の観測に使用された望遠鏡は、アルマ望遠鏡(チリ)、APEX(チリ)、IRAM30m望遠鏡(スペイン)、ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(米国ハワイ)、アルフォンソ・セラノ大型ミリ波望遠鏡(メキシコ)、サブミリ波干渉計(米国ハワイ)、サブミリ波望遠鏡(米国アリゾナ)、南極点望遠鏡(南極)です。2018年4月には、グリーンランド望遠鏡(グリーンランド)がEHTの観測網に参加しました。2021年以降は、NOEMA観測所(フランス)、アリゾナ大学キットピーク12 m望遠鏡(米国アリゾナ)が加わっています。
M87は北天にあるため南極点望遠鏡から観測することはできませんが、データを較正するための参照天体の観測に参加しました。
観測データの相関処理は、マックスプランク電波天文学研究所(ドイツ)とマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所(米国)で行われました。その後のデータ解析は、各研究機関で国際研究チームが協力して行いました。

EHTコンソーシアムは、以下の13の理事機関が参加しています。中央研究院天文及天文物理研究所(台湾)、アリゾナ大学(米国)、シカゴ大学(米国)、東アジア天文台、ゲーテ大学フランクフルト(ドイツ)、ミリ波電波天文学研究所(フランス、スペイン)、アルフォンソ・セラノ大型ミリ波望遠鏡(メキシコ)、マックスプランク電波天文学研究所(ドイツ)、マサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所(米国)、自然科学研究機構国立天文台(日本)、ペリメーター研究所(カナダ)、ラドバウド大学(オランダ)、スミソニアン天体物理学観測所(米国)。

国内の共同発表機関

新潟大学、大阪公立大学、工学院大学、自然科学研究機構国立天文台、情報・システム研究機構 統計数理研究所、総合研究大学院大学、東京工業大学、東京大学、東京大学 宇宙線研究所、東北大学、八戸工業高等専門学校

海外の共同発表機関

台灣中央研究院天文及天文物理研究所、EHTコラボレーション所属機関

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 量子航法研究ユニット

特任助教 笹田真人

Email sasada.m.ab@m.titech.ac.jp

新潟大学大学院自然科学研究科・創生学部

小山翔子

Email skoyama@create.niigata-u.ac.jp
Tel 025-262-6684

八戸工業高等専門学校総合科学教育科

中村雅徳

Email nakamrms-g@hachinohe.kosen-ac.jp
Tel 0178-27-7253

東京大学大学院理学系研究科天文学専攻

小藤由太郎

Email kofuji-yutaro011@g.ecc.u-tokyo.ac.jp

国立天文台水沢VLBI 観測所

本間希樹

Email mareki.honma@nao.ac.jp

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東京工業大学 総務部 広報課

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小西玄一准教授が有機合成化学協会の富士フイルム・機能性材料化学賞を受賞

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小西玄一准教授

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の小西玄一准教授が、公益社団法人有機合成化学協会の2023年度企業冠賞「富士フイルム・機能性材料化学賞」を受賞しました。有機合成化学協会が12月12日に発表しました。

受賞者

物質理工学院 応用化学系 小西玄一准教授

授与団体

公益社団法人有機合成化学協会

賞名

令和5年度(2023年)企業冠賞「富士フイルム・機能性材料化学賞」

受賞日

12月12日

受賞業績

機能性有機蛍光色素の合成とデバイスおよび分子イメージングへの応用

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
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お問い合わせ先

物質理工学院 応用化学系

准教授 小西玄一

Email konishi.g.aa@m.titech.ac.jp

河瀬理貴助教が第19回米谷・佐佐木賞(学位論文部門)を受賞

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東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系の河瀬理貴助教が、第19回米谷・佐佐木賞(学位論文部門)を受賞しました。
一般社団法人システム科学研究所が11月6日に発表しました。授賞式は12月1日に行われました。

河瀬理貴助教が第19回米谷・佐佐木賞(学位論文部門)を受賞

受賞者

環境・社会理工学院 土木・環境工学系 河瀬理貴助教

授与団体

一般社団法人システム科学研究所

賞名

第19回米谷・佐佐木賞(学位論文部門)

受賞日

11月6日

受賞業績(学位論文題目)

災害時における人道支援物流に関する最適化の数理

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2016年4月に発足した環境・社会理工学院について紹介します。

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学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

環境・社会理工学院 土木・環境工学系
助教 河瀬理貴

Email kawase.r.ac@m.titech.ac.jp

小田原修名誉教授が2023年度日本マイクログラビティ応用学会 学会賞を受賞

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東京工業大学の小田原修名誉教授が、2023年度日本マイクログラビティ応用学会 学会賞を受賞しました。
日本マイクログラビティ応用学会(JASMA)が、10月26日に開催した学術講演会において発表しました。

受賞者

小田原修名誉教授

授与団体

日本マイクログラビティ応用学会

賞名

2023年度日本マイクログラビティ応用学会 学会賞

受賞日

10月26日

受賞講演を行う小田原名誉教授

受賞講演を行う小田原名誉教授

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp

Tel 03-5734-2975

連続企画「ドキュメンタリー映画の魅力」 第3回を開催 「生きる」-大川小学校 津波裁判を闘った人たち-を上映

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11月9日、東京工業大学のHisao & Hiroko Taki Plaza(ヒサオ・アンド・ヒロコ・タキ・プラザ:以下Taki Plaza)地下2階イベントスペースと大階段において、「生きる」-大川小学校 津波裁判を闘った人たち-のフィルム上映会が開催されました。

大階段とイベントスペースの2ヵ所で上映

本上映会は、復興支援や防災活動などに取り組む東工大学生ボランティアグループ(以下、東工大VG)が企画運営を担い、リベラルアーツ研究教育院と共催で行われました。本学の学生やその家族、教職員、地域住民など総勢113人(本学学生38人、教職員28人、その他学外の人など47人)が来場し、映画を通して東日本大震災を思い起こし、改めて防災について考え直す機会となりました。

このドキュメンタリー映画は、東日本大震災の津波で多数の犠牲者が出た大川小学校(宮城県石巻市)の遺族たちが、「なぜわが子が学校で最期を迎えたのか」の事実と理由を知るために闘った10年間の記録です。
※全校児童の7割に相当する74人の児童(うち4人は未だ行方不明)と10人の教職員

東工大VGが本上映会を企画した背景には、震災から12年以上が経過し記憶が風化しつつあることが懸念される中、大川小学校で起きた一連の出来事の「実際」を知るとともに、参加者一人ひとりに防災・減災について考える機会を提供することで、学内外の防災意識の向上と、その波及効果を期待する思いがありました。

上映前には、司会を務める東工大VGメンバーの松尾祥汰さんから上映会の趣旨と東工大VGの活動について簡単な説明がありました。さらに、「石巻市立大川小学校国家賠償等請求に係る訴訟」において原告遺族代理人を務めた齋藤雅弘弁護士から、遺族の思いと裁判の流れ、映画の製作背景と意図について話がありました。この登壇は、上映会開催を知った齋藤弁護士自身からの申し出を受けて実現したものです。「同情ではなく共感してほしい」という齋藤弁護士の言葉には、「齋藤弁護士の話を聞いてから映画を観られたのが良かった」という感想が多く寄せられました。

司会を務めた松尾さん
司会を務めた松尾さん

齋藤弁護士
齋藤弁護士

124分の映画上映中、自ら捜索し亡き我が子と対面した親御さんの手記や、行政と遺族が対峙する緊迫の場面などを来場者は真剣な眼差しで観ていました。

上映後は、東工大VGメンバーの松永葵さんが、映画を観て感じたことを自分の立場を踏まえて述べ、また、来春に計画している、大川小学校をはじめとした宮城県の震災遺構や伝承館を訪問するスタディツアーについて紹介し、上映会は幕を閉じました。

上映後に感想を述べる松永さん
上映後に感想を述べる松永さん

会場内には閉会後も残って来場者アンケートに記入する人や齋藤弁護士と話をする人の姿が見られ、このドキュメンタリー映画を通して、防災だけでなく、教育や裁判など社会のさまざまな側面、組織や人としての在り方などについて考えを巡らせる有意義な時間になりました。

来場者アンケートから

  • 被害者しかいないはずなのに、加害者が生まれる構図が苦しかった。

  • 親と先生、両方の気持ちをすごく考えてしまった。

  • 震災という悲劇の中でなお問わねばならない「責任」というものを考えさせられた。

  • 自分や組織の過失を心から謝罪できるような公正さを忘れずにいたい。

  • 「学校が子どもたちの最期の場所になってはいけない」という言葉が印象に残った。

  • 「命の値段」を決めなければならない日本の裁判はつらい。

  • 司法での勝訴に原告は救われ、裁判官の言葉に「人道」を感じていたのが印象的だった。

  • ぜひ今後も同様にドキュメンタリー映画を上映するイベントを行ってほしい。

東工大VGメンバーのコメント

松尾祥汰さん(工学院 情報通信系 学士課程4年)

普段は情報通信分野における信号処理や連続最適化に関する数理的な研究を行っており、研究活動以外では東工大VGのほかに、東工大ピアサポーターとしても活動しています。
本上映会では、司会を務めさせていただく一方で、私自身も一人の参加者として映画を鑑賞いたしました。「生きる」は、大川小学校津波裁判に至る過程を記録するだけでなく、ご遺族の方々が被災直後から現在まで、どのように「生きる」ことに向き合ってきたのかを丁寧に描いており、「自分がこの立場だったら、どのように思い、どのような行動をするだろうか」と想像する場面が多々ありました。
いつ起きるかわからない自然災害から、自分と大切な人の命を守るためには、事前にさまざまな事態を想定し備えをすることが大事です。そのこと自体は多くの人が理解していても、実際に行動できる人は多くないかもしれません。司会という立場から参加された方々の真剣な様子を感じ、本上映会を通じて命を守ることの難しさと、そのために自分に何ができるのかを、一人ひとりが考える時間になったのではないかと考えています。

松永葵さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 修士課程2年)

私は防災事業に興味を持ち、大学で土木を学びたいと思いました。現在は、水害対策を中心に河川の研究をしています。東日本大震災発生時、私も小学校の教室にいました。東北からは離れた地域でしたが、あの日の先生や親、そして自分自身の行動をよく覚えています。映画を見て、当時を重ねて自分だったらどうしただろうかと考えました。同時に、これから先、立場が変化した自分だったらどうするか、何ができるのかも考えさせられました。
これまで災害に対する準備や避難の意思決定について考えることはありましたが、その前後にある調査や裁判に至った遺族の思い、背後にある人間関係や組織の構造までは想像すらできていませんでした。私たちが今からできること、やるべきことを考えたいと思いました。

東工大VG(学生ボランティアグループ)

学生支援センター未来人材育成部門所属の学生団体で、東日本大震災の津波で流された写真を洗浄する活動をきっかけに誕生し、復興支援・防災活動・地域連携を軸に、学内外でさまざまなボランティア活動を展開しています。具体的な活動としては、工大祭およびホームカミングデイでの被災地復興支援物産展、学内防災訓練の補助、こども食堂、教科書・参考書の寄付・譲渡の仲介(古本市)などがあります。週1回Taki Plazaにてランチミーティングを行い、現在は被災地訪問スタディツアーなどを計画しています。

関連リンク

お問い合わせ先

東工大VG(学生ボランティアグループ)

Email titechvg@outlook.com


「2023 TISA 秋のウェルカムパーティー」を開催

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11月15日、東京工業大学留学生会(以下、TISA)が運営する「2023年秋のウェルカムパーティー」が、学生支援課協力のもとHisao & Hiroko Taki Plaza(ヒサオ・アンド・ヒロコ・タキ・プラザ:以下、Taki Plaza)において開催され、新入生、在学生、教職員、ボランティアなど世界40ヵ国以上から約200人が参加しました。

「2023 TISA 秋のウェルカムパーティー」参加者の記念撮影

「2023 TISA 秋のウェルカムパーティー」参加者の記念撮影

イベントMC(上段2人と左下1人)とTISA代表(右下2人)

イベントMC(上段2人と左下1人)とTISA代表(右下2人)

パーティーが始まると、参加者はテーブルに用意されたさまざまなボードゲームやカードゲームを自由に楽しみながら交流を深めました。中でも「ベンチプレスで100キロを持ちあげられる人」「飛行機の操縦ライセンスを持っている人」など、質問内容に当てはまる人を会場内から見つけ出してサインをもらう「ネームビンゴ」は、ゲームを進める上で会話の材料が提供されるため、参加者同士が打ち解けるのに役立ちました。

ネームビンゴで会話が弾む参加者
ネームビンゴで会話が弾む参加者

パーティーを楽しむ参加者
パーティーを楽しむ参加者

カルチャー・ボードゲームに取り組む
カルチャー・ボードゲームに取り組む

全員参加のクイズセッション
全員参加のクイズセッション

その後、東工大と世界に関するクイズセッションを2つのラウンドに分け、参加者全員で行いました。クイズ終了間際には益一哉学長と蔵前工業会の前村事務局長も参加し、新留学生にユーモアあふれる歓迎スピーチと温かいメッセージを贈りました。また、Taki Plazaの階段を使った益学長を囲んでの記念撮影は、貴重な思い出となりました。

前村事務局長
前村事務局長

益学長
益学長

また大学生協からは、アレルギーや食材制限を考慮したハラールやベジタリアンメニューなどさまざまな料理が用意され、ゲームや食事を楽しんだウェルカムパーティーは大盛況のうちに閉幕しました。

賞品を手にするゲームの勝者たち

賞品を手にするゲームの勝者たち

ゲームや世界各国の留学生たちと交流を楽しんだ日本人学生たちからは、一人ひとりが交流しやすいように配慮したTISAメンバーへ感謝する声もあり、留学生からは、グローバルな友人を作る手助けをしてくれたことで、大学生活がより良いものになったという感想が出ました。またイベントボランティアからは、パーティーの成功に貢献したことに誇りを感じ、企画から当日の盛り上がりを感じるまでの全過程を楽しめたという声がありました。今後も、学生同士の交流が深まるTISAのイベントに期待する声が多数寄せられました。

参加者のコメント(留学生)

  • 東京工業大学での研究者生活は単調になりがちですが、世界中から集まった人々と出会い、楽しくインタラクティブなゲームやアクティビティを通じて交流を深めることで、単調な生活から抜け出す機会をTISAは与えてくれました。私は自分の居心地の良い場所へ抜け出すことを楽しみました。新しい国際的な友人と既に活気のある日本での生活をさらに充実させるために、この経験をぜひ勧めたいです。

  • このイベントを企画したTISAとそのメンバーの努力は素晴らしかったです。私たちは、日本人と外国人の新しい仲間と出会い、一緒に楽しむ機会を得ました。東京工業大学は、このようなイベントをもっと開催すべきです。なぜなら、このようなイベントは、学生一人ひとりが大学の一員であることを感じるためのベースとなるからです。次回も参加できたらうれしいです。

  • 約200人の留学生が参加するこのような大きなイベントに本当に驚きました。最高でした。たくさんの人と知り合えて、仲良くなれて、本当に楽しかったです。東工大に入学して1ヵ月ですが、TISAのイベントで既にたくさんの新しい友達ができました。

参加者のコメント(日本人学生)

  • 日本人の学生としてパーティーに参加しましたが、とても楽しめました。1人で参加申し込みをしたので最初は知り合いが誰もいませんでしたが、ゲームを通じて交流していくうちにあっという間に打ち解け、仲良くできたように思います。また、一度にさまざまな国籍の方とコミュニケーションをとれる機会は限られてるように思いますので、そういった意味でも今回のパーティーで貴重な体験ができたように感じました。素晴らしい企画を本当にありがとうございました。

  • とても素敵なパーティーでした。「〇〇に当てはまる人」を探してビンゴシートを埋めるアクティビティではビンゴを埋めること自体の楽しさもありましたが、会場にいるみんなが積極的に声をかけ合って自己紹介や雑談で仲を深めることができてとても良かったです。他にも各国にまつわるクイズ大会なども開催され、国際理解を深めることができました。今回のパーティーでは留学生の友人が多くできて本当に楽しかったです。ありがとうございました。

参加者のコメント(イベントチーム)

  • イベントチームの一員として参加しました。企画から買い物、リハーサルまで、準備の過程を楽しみました。素晴らしいパーティーを見て達成感を感じました。

  • とても楽しいパーティーでした。たくさんの留学生と話せる環境を提供してくれたTISAのメンバーに心から感謝しています。ボランティアも含め、運営に携わった人たちまでパーティーを楽しめたことが素晴らしいと思います。TISAの皆さんは気さくな方ばかりで、皆さんと一緒にイベントに貢献できたことは本当に素晴らしい経験で、良い思い出になりました。

  • 参加者もボランティアも、みんなが楽しめたウェルカムパーティーに感謝しています。多くのボランティアの裏方としての努力が、パーティーの成功に貢献しました。ありがとうございました。COVID-19後、初のウェルカムパーティーを振り返ってみると、200人もの参加者がパーティーを楽しんでくれるとは想像もしていなかったし、みんなのTISAへの熱い気持ちは本当に素晴らしいです。TISAの支援的でフレンドリーな雰囲気は、まるで家族のようです。TISAが与えてくれたポジティブな影響に感謝しています。

  • TISAのウェルカムパーティーでは、新しい留学生や日本人学生とたくさん知り合うことができました。ビンゴゲームは簡単に人と交流でき、他の人のことをもっと知ることができる楽しい方法でした。今後もアイスブレーカーゲームをもっとやって、新しい人たちが一緒に楽しく交流できたら良いと思います。今回はMCとしてイベントを楽しみましたが、何気ない会話や持参したボードゲームを通して、みんなが話し、関わり合っているのを見るのはとても楽しかったです。そのおかげで、会員が友だちになれるような、私たちが主催・進行できる他のイベントを考えることができました。

運営責任者のコメント

ミカエル・ウィジャヤ(Mikael Wijaya)さん(環境・社会理工学院 融合理工学系 学士課程2年)

ウェルカムパーティーを担当するのは3回目で、今回は準備期間が短かったり、リーダーとして初めてのウェルカムパーティーだったりと大変なこともありましたが、十分満足できました。いつもながら、みんなが楽しんでいるのを見るのはうれしい限りです。学生同士の生活をより良いものにし、より前を向いてもらえたような気がしました。学業では、データサイエンスやアナリティクスを含む経済学や国際開発について、さらに勉強や研究を進めたいと思っています。

アユブ・イリアス(Ayoob Ilyas)さん(環境・社会理工学院 融合理工学系 学士課程2年)

今回で3回目の出席、2回目の担当でしたが、毎回、私たちがどのように改善し、適応していくかを見ることができ、とても満足しています。今回は参加者数の記録を更新しましたが、来年の春以降も参加者が増え続けることを期待しています。今は学校内のイベントという感じですが、次回は東京医科歯科大学と東京工業大学が一つになっての歓迎会で、盛り上がりにさらにスパイスを加えることになるでしょう。学業では、流体力学について理解を深め、他の分野やフォーミュラー1(Formula One:F1)のようなビジネスの側面と融合させていきたいです。

イベントチームのメンバー

イベントチームのメンバー

お問い合わせ先

東京工業大学留学生会(TISA: Tokyo Tech International Student Association)

Email tisatitech@gmail.com

東工大博物館が科学教室「魔法の繊維ナノファイバーを知る体験学習」を開催

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東京工業大学博物館は2023年11月12日、大岡山キャンパス百年記念館で、中学生以上を対象とした科学教室「魔法の繊維ナノファイバーを知る体験学習」を開催しました。このイベントは理科教育振興支援「ものつくり人材の裾野拡大支援プロジェクト」の後援を受けています。

谷岡名誉教授(後列中央)を囲む午後の部の参加者

谷岡名誉教授(後列中央)を囲む午後の部の参加者

本講座は、東工大最先端の研究が基となって商品化に成功したナノファイバーについて体験的に学習し、私たちの生活を支える材料として、今後の可能性を考えるきっかけとなるよう企画され、午前の部と午後の部を合わせて22人が参加しました。

講師を務める東工大の谷岡明彦名誉教授は高分子ナノファイバー分野の第一人者であり、量産への道を開いた東工大発ベンチャーの株式会社Zetta、および株式会社3CFにおいてナノファイバー製品の開発に携わっています。

講座は、ナノファイバーを知るための4種類の実験(ナノファイバーマスクの分解、空気を通し水は通さないことを確かめる実験、油の吸収実験、墨汁のろ過実験)から始まりました。学生スタッフのアドバイスを受けながら行った実験でナノファイバーが持つ優れた性質に触れた後、いまだ科学的に明らかにされていないナノの世界とナノファイバーの特性、製造・活用方法について、谷岡名誉教授から解説がありました。

墨汁ろ過実験に真剣に取り組む参加者
墨汁ろ過実験に真剣に取り組む参加者

参加者に実験のアドバイスをする学生スタッフ
参加者に実験のアドバイスをする学生スタッフ

講義を熱心に聴く参加者

講義を熱心に聴く参加者

ナノファイバーは、マスク、防寒着、建築材料、電磁波遮蔽(しゃへい)材、グリース・トラップなど既にさまざまな分野で活用されていますが、海水を真水に変える技術など、これからの開発についても学べる機会となりました。

参加者のコメント

  • 実験という形で、ナノファイバーの働きについて知ることができて楽しかった。
  • 実験でナノファイバーの特性が目に見えて分かった。
  • 最先端のことを分かりやすく説明してもらえた。

学生スタッフのコメント

  • ナノファイバーについての知識を深めることができた。
  • 参加者とのコミュニケーションもあり、どのような点が理解し難く、疑問に思いやすいかという発見があった。

関連リンク

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

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お問い合わせ先

東京工業大学博物館

Email centjim@jim.titech.ac.jp

生命発生に有利なCOに富む惑星大気の形成条件を解明 将来のバイオシグネチャー探査計画に貢献

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要点

  • 生命発生に有利とされるCOに富む惑星大気の形成条件を解明するため、大気光化学に関する理論モデルを用いたシミュレーションを実施。
  • COに富む大気は若い太陽型星のハビタブルゾーンの外縁を周回する惑星で最も形成されやすいことを発見。
  • 地球生命の起源の重要な手がりになると同時に、今後のバイオシグネチャー探査計画に貢献すると期待。

概要

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の尾﨑和海准教授と東京大学の渡辺泰士客員共同研究員(現:気象庁気象研究所リサーチアソシエイト)らの研究チームは、生命発生に有利な惑星環境とされる、一酸化炭素(CO)に富んだ惑星大気が形成される条件を理論的に明らかにした。

一酸化炭素に富む大気(CO大気)は、生命の前駆物質となる有機化合物が形成されやすく、生命発生に有利とされる。実際に地球の初期大気では、COが暴走的に生成されて蓄積する「CO暴走[用語1]」状態が存在しうることが知られている。しかし、このCO暴走状態が発生し、CO大気が形成される条件はこれまで不明だった。

本研究では、太陽型星周りの地球型惑星を対象に、大気中炭素種(CO2、CO、CH4)の存在量を明らかにするための理論的研究を行い、CO大気の形成条件を明らかにした。具体的には、大気光化学に関する理論モデルを用いて、大気CO2濃度や火成活動の強弱、気候状態、中心星スペクトルについての系統的なシミュレーションを実施し、CO暴走状態に至る条件を詳しく調べた。その結果、CO大気は若い太陽型星周りのハビタブルゾーン[用語2]の外縁に位置する惑星で最も形成されやすいことが分かった。

今回の研究成果により、惑星のハビタビリティ[用語3]を、液体の水(海)の存在だけでなく、惑星の気候状態や、生命の前駆物質の生成に密接に関係する炭素の存在量や存在形態といった、より踏み込んだ視点からも議論できるようになった。生命発生に有利な惑星環境がどういった条件で形成されうるのかを定量的に示したことで、将来のバイオシグネチャー[用語4]探査計画にも貢献する重要な研究成果といえる。

本研究成果は、1月11日付の「The Astrophysical Journal」誌に掲載された。

背景

1995年に初めて発見された太陽系外惑星[用語5](以下、系外惑星)は、これまでに5,500個以上の存在が確認されている。これに伴い、惑星科学分野の関心は、系外惑星に生命が存在できるか否かを示す「ハビタビリティ」の検討や、生命存否の指標となる「バイオシグネチャー」の探査へと移行しつつある。これまで惑星のハビタビリティは、主に惑星表面に液体の水(海)が存在できるかどうかに基づいて議論されてきた。液体の水が存在できる条件は中心星からの空間的距離によって決まっており、その条件を満たす領域はハビタブルゾーンと呼ばれている。ハビタブルゾーン内にある系外惑星はこれまでに数十個発見されている。しかし、惑星がハビタブルゾーン内に存在しているからといって、その惑星のハビタビリティや生命の存在が保証されるわけではない。なぜなら、惑星のハビタビリティは液体の水の存在のみならず、大気組成や気候状態、生物活動に必要な元素の存在量など、さまざまな要因によっても左右されると考えられるためである。

この視点で考えると、惑星での炭素の存在量と存在形態は非常に重要である。炭素は地球上の生物にとって必須であるだけでなく、二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)などの温室効果ガスとして大気中に存在することで、惑星の気候状態や生物地球化学的な物質循環にも支配的な影響を及ぼしている。また一酸化炭素(CO)は、微生物の有効な炭素源かつエネルギー源となるため、生命の発生や初期進化を理解する上で極めて重要な分子である。そのため、これらの炭素種(CO2、CO、CH4)の大気中の存在量比を支配する要因を理解することは、太陽系外のハビタブル惑星を探索する上で重要である。

地球の初期大気はCO2と窒素分子N2に富むものであったと考えられている。しかしこれまでの理論研究から、COが大気中で暴走的に生成されて蓄積する、「CO暴走」と呼ばれる状態が存在することが知られている(図1)。重要な点として、CO2に富む大気よりもCOに富む大気の方が生命の前駆物質となる有機化合物が形成されやすいため、CO暴走状態の理解は地球生命の起源を探る上でも重要な手がかりとなる可能性がある。しかし大気がCO暴走状態に至る条件はこれまで明らかになっていなかった。

図1. 初期地球など還元的な大気海洋系でのCO収支の概略図。COは主に紫外線によるCO2の光解離で生成される。一方、COの消費はOHラジカルによる酸化で起こる。OHラジカルは水の光解離反応によって供給されるため、水の光解離速度を上回ってCO生成が生じる条件では、大気中にCOが一方的に蓄積する「CO暴走状態」に陥ると考えられている。
図1.
初期地球など還元的な大気海洋系でのCO収支の概略図。COは主に紫外線によるCO2の光解離で生成される。一方、COの消費はOHラジカルによる酸化で起こる。OHラジカルは水の光解離反応によって供給されるため、水の光解離速度を上回ってCO生成が生じる条件では、大気中にCOが一方的に蓄積する「CO暴走状態」に陥ると考えられている。

研究成果

研究チームはまず初期地球大気について、大気中のさまざまな分子の間の化学反応をシミュレーションできる理論モデルAtmosを用いて、CO2、CO、CH4の大気中の存在量比の多様性、とりわけ生命の起源に有利であるとされるCOに富む大気が形成される条件を詳細に調べた。その結果、大気中CO2濃度が高い条件ほど、対流圏での水蒸気の光解離反応に比べてCO2の光解離反応が促進され、CO生成速度が水蒸気の光解離速度を超える段階でCO暴走が発生することが明らかになった。また、火山からの還元的なガス(H2やCO、CH4など)の流入フラックスが大きいほど、大気中のOHラジカルが消費されるため、CO暴走が発生しやすくなることも分かった。

本研究により明らかになったCO大気の形成条件は、初期地球における大気CO2分圧や火山からの還元的なガスの供給速度の推定範囲内である(図2)。特に生命発生前夜の約40億年前の初期地球で、火成活動による還元ガスの供給速度が現在の10倍以上であった場合には、CO暴走状態にあった可能性が明らかになった。さらにCO大気からは、大量のCOや有機物が海洋へと供給されることも分かった。

図2. 40億年前の初期地球大気における一酸化炭素分圧 pCO(左)とメタン分圧 pCH4(右)のシミュレーション結果。横軸は火成活動による還元的なガス(H2やCH4)の流入フラックスであり、縦軸は大気中二酸化炭素分圧pCO2である。図中の灰色線はCO暴走の発生条件を示しており、これよりも右上の領域ではCOを高濃度に含む大気が形成されている(左図の赤い領域)。水色のバーは当時の地球で想定されるパラメータ範囲を表す。
図2.
40億年前の初期地球大気における一酸化炭素分圧 pCO(左)とメタン分圧 pCH4(右)のシミュレーション結果。横軸は火成活動による還元的なガス(H2やCH4)の流入フラックスであり、縦軸は大気中二酸化炭素分圧pCO2である。図中の灰色線はCO暴走の発生条件を示しており、これよりも右上の領域ではCOを高濃度に含む大気が形成されている(左図の赤い領域)。水色のバーは当時の地球で想定されるパラメータ範囲を表す。

さらに研究チームは、(1)現在の太陽(G型星)、(2)太陽に似た恒星であるうしかい座シグマ星(σBootis)(F型星)、(3)エリダヌス座イプシロン星(εEridani)(K型星)を周回する、生命の存在しない仮想的な地球型惑星の大気についても、初期地球大気と同様のシミュレーションを実施した。その結果、表面温度が太陽よりも低いエリダヌス座イプシロン星のような恒星の周りの系外惑星では、CO暴走が引き起こされやすいことが分かった。一方、表面温度が太陽よりも高いうしかい座シグマ星のような恒星の周りの系外惑星では、CO暴走が引き起こされにくいことが明らかになった。これは、中心星の紫外線照射フラックスの違いに起因した水蒸気の光解離速度の違いによって説明できる。

炭素循環の理論的枠組みに基づくと、大気中CO2濃度は中心星からのエネルギーフラックスが小さい場合ほど高くなると予想される。主系列星の光度は時間とともに増大するため、より若い太陽型星周りのハビタブルゾーンの外縁に位置する惑星ほど大気中CO2濃度は高くCO暴走が発生しやすいといえる。

さらに還元的な惑星大気では、CH4/CO2とCO/CO2のパラメータ空間がCO暴走に起因するギャップ構造によって大きく二分されることも明らかになった(図3)。このギャップ構造は、太陽型星(F、G、K型星)を周回する地球型惑星に一般的な特徴であり、将来の系外惑星大気組成のデータ蓄積によって検証可能な重要な理論的予測である。

図3. (a)初期地球および(b)現在の太陽(G型星)、(c)うしかい座シグマ星(σ Bootis)(F型星)、(d)エリダヌス座イプシロン星(ε Eridani)(K型星)を周回する、生命の存在しない仮想的な惑星の大気のCO/CO2比とCH4/CO2の比の関係。惑星の大気組成は、左側のCO暴走が発生していない状態と右側のCO暴走状態で大きく二分され、その間の状態はほとんど存在しない。
図3.
(a)初期地球および(b)現在の太陽(G型星)、(c)うしかい座シグマ星(σ Bootis)(F型星)、(d)エリダヌス座イプシロン星(ε Eridani)(K型星)を周回する、生命の存在しない仮想的な惑星の大気のCO/CO2比とCH4/CO2の比の関係。惑星の大気組成は、左側のCO暴走が発生していない状態と右側のCO暴走状態で大きく二分され、その間の状態はほとんど存在しない。

社会的インパクト

初期地球環境を明らかにすることは、「生命は地球上でいつどのように誕生したのか」、「宇宙には地球以外に生命を宿す星があるのか」といった根源的問題に密接に関係している。この問題に対して、生命の前駆物質を生成しやすいCOに富む大気の形成条件という、従来考えられてこなかった観点から初期地球環境の制約を行ったことは、生命起源の研究に大きな波及効果があると考えられる。また、CO大気が形成される条件をさまざまなパラメータについて系統的に明らかにした本研究成果は、将来のハビタブル惑星探査において候補天体を絞り込むための重要な情報となる。

今後の展開

これまでの室内実験に基づく研究から、CO大気条件下ではアルデヒドやペプチドなどの有機物やアミノ酸の生成が促進されることが明らかになっていた。本研究成果は、CO大気が形成される条件では、大気中のみならず海洋中でも生命起源物質が生成される可能性を示している。今後は、本研究で得られた海洋への一酸化炭素などの分子の流入速度の推定を用いて、初期地球の海洋で引き起こされる化学反応についての研究が大きく進むと期待される。

また、本研究成果は初期地球大気のみならず、過去の火星大気についても示唆を与える。火星探査機Curiosityの火星表面での探査によって、火星に存在する有機物中に、CO暴走が過去に発生していたことを示唆する著しい炭素同位体比の負異常があることが報告されている。本研究で得られた初期地球でのCO暴走大気の形成条件の検討をもとに、CO暴走大気を引き起こしうる過去の火星の大気組成を推定すれば、火星大気進化史への理解の進展にもつながる。

本研究ではうしかい座シグマ星とエリダヌス座イプシロン星を周回する仮想的な系外惑星について検討を行ったが、こうした太陽に近い表面温度を持つ恒星の周りの地球型惑星の大気組成は、将来の直接撮像計画によって実際に観測されることが期待される。本研究で得られた、ギャップ構造を持つ惑星大気の分布が観測によって裏付けられれば、ハビタブル惑星探査にも重要な意味を持つ。

このように本研究成果は、初期地球環境の解明や地球における生命の起源のみならず、生命の存在する惑星や、生命の発生に適した惑星を発見する上で重要な知見を与えるものである。

付記

本研究は、科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「CO環境の生命惑星化学(22H05149)」、「理論班:惑星CO環境のモデリング(22H05150)」、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR2274)、三菱財団 自然科学研究助成(202210014)、NASA Nexus for Exoplanet System Science(NExSS)の支援により実施された。

用語説明

[用語1] CO暴走状態 : 一酸化炭素の大気中での生成速度や火山からの供給速度が大きい場合に、大気化学反応だけでは一酸化炭素を消費しきれなくなり、大気中に一酸化炭素が蓄積する状態。この状態では、大気中で生じた過剰の一酸化炭素は海洋への溶出によって消費されることで物質収支が実現するが、そのために大気中のCO分圧は非常に高くなる。

[用語2] ハビタブルゾーン : 二酸化炭素、窒素、水蒸気を主要な大気成分とする地球型惑星がその表面に液体の水を維持できるような領域。太陽の場合、恒星から0.95~1.67 AUの範囲のリング状の領域が対応する。

[用語3] ハビタビリティ : 惑星に生命が存在できるかどうかを意味する用語。

[用語4] バイオシグネチャー : 系外惑星に生命が存在することを示唆する、観測可能な諸量。直接サンプルを得ることが難しい系外惑星では、大気中のメタンや酸素が候補とすることが議論されている。

[用語5] 太陽系外惑星 : 太陽以外の恒星の周りを公転する惑星。系外惑星とも。

論文情報

掲載誌 :
The Astrophysical Journal
論文タイトル :
Relative abundances of CO2, CO, and CH4 in atmospheres of Earth-like Lifeless Planets
著者 :
Yasuto Watanabe and Kazumi Ozaki
DOI :

理学院

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アミドの導入による非水素結合系「超分子液晶」の作製に成功 大面積に塗布可能な新規超分子液晶による有機エレクトロニクスの開発に期待

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要点

  • 3級アミドを導入したL字型分子による超分子液晶の作製に成功
  • 光・電子機能を有する有機π電子系分子の超分子液晶を大面積に塗布できる技術を開発
  • 塗布型の有機半導体や固体発光材料への応用による簡便なデバイス作製など、新しい有機エレクトロニクスの開発に期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の猿渡悠生大学院生と小西玄一准教授、大阪公立大学大学院工学研究科 物質化学生命系専攻の竹内雅人准教授らの研究チームは、光・電子機能を有する棒状の有機π電子系分子[用語1]に、カルボン酸とアミンの脱水縮合によって形成される「アミド結合」を導入することにより、100℃程度で液晶相が発現する超分子液晶[用語2]の作製に成功した。さらに、この超分子液晶を、その秩序構造を保持したまま大面積に塗布する技術も開発した。これまで、水素結合などの強い分子間の相互作用を用いた超分子液晶が知られていたが、このような水素結合性超分子液晶は結合に方向性があるため、得られる構造が限定的であった。そのため、近年では有機半導体[用語3]によるデバイス製作を指向して、より分子配列の自由度が高い液晶材料が求められてきた。

本研究チームは、棒状分子とアミド結合を組み合わせたL字型分子が液晶を形成することを発見した。構造解析を行ったところ、2つのL字型分子が二量体となり秩序構造を形成することが分かった。さらに、固体ではアミド結合の構造がシス型に固定されているが、液晶を示す温度以上ではアミド結合構造のシス-トランス異性化が起こることで柔軟性が付与され、液晶相が発現することが分かった。加えて、この分子は固体・液晶のいずれの状態でも二量体の性質に起因する強い蛍光を示し、かつ、大面積に塗布できる性質を有することも確認できた。この分子間の強い相関は、有機電界トランジスタなどにおいて重要な性質であり、この新たな超分子液晶を用いた簡便な電子デバイス開発など、新たな有機エレクトロニクスの開発につながるものと期待できる。

本研究成果は、凝集体の科学を扱う専門誌「アグリゲートAggregate、インパクトファクター18.8)」のオンライン版で1月23日(現地時間)に公開された。

アミド結合を有するL字型分子による超分子液晶とその偏光顕微鏡写真

アミド結合を有するL字型分子による超分子液晶とその偏光顕微鏡写真

背景

液晶とは、固体と液体の中間にある状態である。結晶のような分子の配列と液体のような流動性を兼ね備えていることから、液晶状態で、分子を簡単に大面積で規則性をもって配列させることが可能である。このような特徴から、シェークスピアの戯曲になぞらえて、液晶は、分子の「じゃじゃ馬ならし」と呼ばれることもある。

液晶材料は生活の中で幅広く利用されており、液晶ディスプレイや光学フィルムなど、「光を操る技術」「電場や磁場による刺激応答性」といった液晶固有の機能を活かした用途が知られている。液晶のもう1つの重要な用途として「高分子加工」がある。たとえば、防弾チョッキや航空機備品に使われるアラミド樹脂は、液晶状態で高分子を配列させた状態で紡糸することにより、同じ重量の鋼鉄の5倍の強度を実現している。近年、この液晶の分子を配列させる技術が、有機半導体開発において、実用的な電子デバイス製作の切り札として期待を集めている。

しかし、液晶や結晶の構造はさまざまな熱力学的なパラメーターに支配されており、分子設計の段階でその構造を予測することが難しく、欲しい物性・機能を得るために必要な分子の配列は「試してみないと分からない」ことがボトルネックとなっていた。その打開策の1つとして、あらかじめ2つ以上の分子を会合させて(超分子)、そのブロックから液晶構造(秩序構造)を構築する「超分子液晶」の利用が行われてきた。ただし、過去に報告されている超分子液晶の多くは、水素結合のような強い相互作用と結合の方向性を持つものに限られており、構造の多様性が十分とは言えなかった。そこで、非水素結合系の新しい超分子による「超分子液晶」の開発の重要性が指摘されるようになってきた。

研究成果

研究グループは、超分子液晶の新しい可能性を探るために、これまで棒状液晶に利用されることの少なかった極性官能基を探索し、極性官能基が示す分子間相互作用を利用した秩序構造の形成と液晶性の発現を目指した。その中で、電子吸引性によりπ電子系分子に光・電子機能を付与することができ、シス型、トランス型の異なるコンフォメーションを持つ3級アミド(図1)に着目した。そして、さまざまな長さの棒状の分子骨格の末端に3級アミドを導入したL字形状の分子を合成し、フェニルトラン骨格を有するPTA-group(図1)が、秩序性の高い液晶(スメクチックB相)を示すことを発見した。

図1 3級アミドの構造と新規液晶分子PTA-group、および液晶の偏光顕微鏡写真

図1. 3級アミドの構造と新規液晶分子PTA-group、および液晶の偏光顕微鏡写真

得られた液晶の構造解析を行ったところ、液晶の広角X線回折測定と単結晶のX線構造解析から、固体状態から液体状態でL字型分子が共有結合を介さずに超分子的に二量体(2分子で会合したユニット)を形成し、それらが六方晶状に配列していることが分かった。しかし、液晶と結晶ではユニット間の距離や六方晶の長軸の長さに違いが見られた。そこで温度可変赤外分光法を用いてアミド結合を観察したところ、固体状態ではシス型であるが、液晶状態ではシス型とトランス型が共存しており、シス-トランス異性化が常時起こっていることが分かった。これらの結果と量子化学計算から、L字型分子の二量体が秩序構造(結晶形)を構築し、アミド結合がシス-トランス異性化を起すことで系全体に運動性を付与して液晶性を発現することが明らかとなった。(図2)

図2 PTA-groupの相転移挙動。低温側から順に結晶相(左)、液晶相(中)、 等方液体=溶融状態(右)

図2. PTA-groupの相転移挙動。低温側から順に結晶相(左)、液晶相(中)、 等方液体=溶融状態(右)

最後にPTA-groupの物性や機能を探索した。一般にπ電子系分子の蛍光発光において、分子がスタックすると蛍光強度が大きく減少する場合が多いが、PTA-groupの二量体とその集合体は、消光を起さず高い量子収率(54%)を示した。この結果は、π電子系分子の固体発光材料や電子材料への応用を期待させるものである。また、PTA-groupの1つはネマチック相を発現し、高い複屈折率(Δn = 0.30)を示した。このような高複屈折材料としての特徴を持つPTA-groupは、光学フィルムとして有用であると考えられる。

社会的インパクト

本研究では、棒状分子に3級アミドを加えてL字状に結合させることにより、光・電子機能を有する棒状有機π電子分子を作製し、その機能を維持した状態でマクロスケールに配列させる新しい手法の開発に成功した。しかし、依然として有機結晶や液晶の配列を分子設計の段階で予測することは困難であり、欲しい物性・機能を示す分子集合体の設計にはまだ道半ばである。今回の非水素結合系の超分子液晶のように液晶の多様性を拡張することは、有機エレクトロニクスの実装に向けて重要である。

今後の展開

研究グループでは、3級アミドの特性を生かした超分子液晶を基盤として、さまざまなπ電子系分子を用いた機能開発を行うとともに、より高次な構造の構築や新しい超分子液晶のシステムを追究していく。

付記

質量分析の測定は、オープンファシリティセンター分析部門すずかけ台の小泉公人氏に依頼した。研究室から独立した機関で測定することにより、データの客観性を保証することを目的としている。
本成果は、文部科学省科学研究費助成事業(23H02036)および新学術領域研究(研究領域提案型「π造形科学」(17H05145)、科学技術振興機構さきがけ「元素戦略」(JPMJPR1096)および泉科学技術振興財団の支援によるものである。

用語説明

[用語1] 有機π電子系分子 : π電子による共役が拡がることにより光・電子機能を示す機能分子である。芳香族化合物や炭素-炭素の多重結合を有するものが多い。

[用語2] 超分子液晶 : 小な分子コンポーネントから、水素結合などの非共有結合による相互作用を使って、より大きな明確な構造を形成して液晶性を発現するもの。

[用語3] 有機半導体 : 半導体の性質を示す有機分子化合物のこと。白川英樹博士の開発したポリアセチレンも有機半導体であり、ドーピングにより電気が流れる。

論文情報

掲載誌 :
Aggregate(アグリゲート)
論文タイトル :
Supramolecular liquid crystals from the dimer of L-shaped molecules with tertiary amide end groups
(和訳:3級アミドを末端に持つL型分子のダイマーから得られる超分子液晶)
著者 :
Yuki Sawatari1, Yoshimichi Shimomura1, Masato Takeuchi2, Riki Iwai1, Takuya Tanaka1, Eiji Tsurumaki3, Masatoshi Tokita1,4, Junji Watanabe1,4, Gen-ichi Konishi1,4,*
(猿渡悠生1, 下村祥通1, 竹内雅人2, 岩井梨輝1, 田中拓哉1, 鶴巻英治3, 戸木田雅利1,4, 渡辺順次1,4, 小西玄一1,4,*)
所属 :
1東京工業大学 物質理工学院 応用化学系、2大阪公立大学大学院 工学研究科 物質化学生命系、3東京工業大学 理学院 化学系、4東京工業大学 工学部 高分子工学科(研究当時)
DOI :
10.1002/agt2.507
オープンアクセス記事。無料で閲覧可能。

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2023年度「東工大特別賞」を3人に授与

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東京工業大学は11月22日、2023年度の「東工大特別賞」表彰式を大岡山キャンパスで行いました。

受賞者記念写真

受賞者記念写真

この表彰は、多年にわたって研究教育の円滑な推進に寄与し、大学への貢献が顕著、かつ勤務成績が優秀と認められる大学職員に対して行われるものです。表彰式では、益一哉学長より受賞者に表彰状が授与されました。

2023 年度「東工大特別賞」受賞者

  • オープンファシリティセンター 研究基盤戦略室 情報基盤支援部門
    技術専門員 岸本幸一
    受賞理由:東工大の情報基盤を支えるネットワーク・セキュリティの安定運用への多大な貢献

  • オープンファシリティセンター 研究基盤戦略室 情報基盤支援部門
    技術専門員 後藤洋子
    受賞理由:情報基盤分野およびオープンファシリティセンター運営における多大な貢献

  • 科学技術創生研究院 未来産業技術研究所
    助教 川那子高暢
    受賞理由:半導体デバイス共通設備の管理運営と半導体学生実験への貢献

祝辞を述べる益学長

技術専門員 岸本幸一

技術専門員 後藤洋子

助教 川那子高暢

祝辞を述べる益学長(上段左)と賞状を受け取る受賞者

関連リンク

お問い合わせ先

総務部 人事課 労務室 人材育成グループ

Email jin.iku@jim.titech.ac.jp

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