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低温で巨大な自発分極および比誘電率を有する強誘電性二量体分子液晶の開発に成功 電子デバイスの性能向上への貢献

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要点

  • 低温(55℃~)で巨大な自発分極(8 μCcm-2)および比誘電率(8,000)を有する強誘電性二量体分子液晶の開発に成功
  • 3つの極性相(ネマチック相、スメクチック-A相、等方相)を利用することで、巨大自発分極および比誘電率を実現
  • 二量体分子をコンデンサ、圧電素子、静電アクチュエータ、3次元映像表示素子等の電子デバイスに適用することにより、性能向上に貢献

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の中杉茂正民間等共同研究員、石崎博基特任教授、姜聲敏特任准教授(以上、LG Japan Lab株式会社研究員兼務)、曽根正人教授、渡辺順次特任教授、Tso-Fu Mark Chang(チャン・ツォーフー)准教授、同 工学院 電気電子系の間中孝彰教授の共同研究チームは、東京工業大学LG Material & Life Solution協働研究拠点において、低温で8 μCcm-2を超える自発分極[用語1]と8,000を超える比誘電率を有する強誘電性二量体分子液晶を開発した。

強誘電性液晶[用語2]は、高い自発分極と比誘電率[用語3]を持つ特異な液晶の一種である。その中でも、二量体分子は簡便な分子構造と低温での強誘電相の形成が可能なため、応用展開に優れた材料として期待されている。本研究では、フッ素置換されたメソゲンコアをサイドウイングとしてペンタメチレンスペーサーで連結したdi-5(3FM-C4T)という二量体分子を開発した。この二量体分子は、低温(55~211℃)で液晶を発現し、また本分子は、ネマチック相、スメクチック相および等方相の3つの極性相から成り、巨大な自発分極(8 μCcm-2)と比誘電率(8,000)を示すことが確認され、低温で強誘電性を示す二量体液晶の開発に成功した。本研究により開発した二量体分子を用いることにより、電子機器の小型化と低消費電力を実現する「コンデンサ」や、低電圧駆動が可能な「圧電素子」と「静電アクチュエータ」、3次元映像を表示する「ホログラフィックディスプレイ」等への展開が可能となる。これにより、自動車、産業ロボット、医療機器などの分野での新たな応用が期待される。

本研究成果は、LG Japan Lab 株式会社と東京工業大学の共同研究である東京工業大学 LG Material & Life Solution協働研究拠点によるもので、7月27日付の「The Journal of Physical Chemistry B」に掲載された。

背景

強誘電性液晶は、通常の液晶に比べて高い自発分極と比誘電率を示すことから、電子デバイスにおいて革新的な応用が期待されている。また、高速スイッチング性やメモリー効果を有することから、微細画素構造を必要とするホログラフィックディスプレイの実現に好都合な材料として最近注目されている。

強誘電性の発現には、分子の対称性を低下させる必要があり、そのためにキラル分子[用語4]を導入したキラルスメクチック-C相、特異な官能基を有するネマチック相および屈曲構造を持つ屈曲分子が開発されてきた。特に、屈曲分子は屈曲構造そのものが分子内の対称性を低下させる特性を持っているため、特異な官能基の導入を必要とせず、簡便な分子構造で強誘電性を発現することが可能である。また、屈曲分子の一部には、二量体分子として知られる分子が存在する。通常の屈曲分子は、芳香族中心核の1,3位にメソゲン[用語5]を連結している一方、二量体分子はメソゲンの連結部として柔軟なアルキレン基(炭素数が奇数)を含んでいる。この柔軟なアルキレン基により、二量体分子は通常の屈曲分子に比べ、低温での強誘電相の形成が可能となり、応用展開の面で優れている[参考文献1 - 3]

本研究では、二量体分子に焦点を当て、巨大な自発分極および比誘電率を有する新規材料の開発に取り組んだ。

研究成果

本研究では、巨大な自発分極および比誘電率を実現するために、大きな双極子モーメント[用語6]を持つ新規な二量体分子の開発を行った。具体的には、フッ素置換されたメソゲンコアをサイドウイングとしてペンタメチレンスペーサーで連結した構造を持つ、di-5(3FM-C4T)という二量体分子を合成した(図1)。効果的なフッ素置換により、di-5(3FM-C4T)のメソゲンコアは密度汎関数理論により、11.2 Dという非常に大きな双極子モーメントを持つことが明らかになった。di-5(3FM-C4T)の構造解析を行ったところ、強誘電ネマチック(NF)相、強誘電スメクチック-A(SmAPF)相、極性等方性(IsoP)相を形成することを明らかにした(図1)。

図1. di-5(3FM-C4T)の分子構造および相。転移温度とエンタルピー変化は、示差走査熱量測定により得られた。片側メソゲンの長軸方向の双極子モーメントは密度汎関数法によって計算している。
図1.
di-5(3FM-C4T)の分子構造および相。転移温度とエンタルピー変化は、示差走査熱量測定により得られた。片側メソゲンの長軸方向の双極子モーメントは密度汎関数法によって計算している。

NF相は、図2(a)に示すように、U字型分子から構成され、自発分極が約8 μCcm-2という高い値を示し(図3)、メソゲンコアの大きな双極子モーメントを反映している。一方、SmAPF相は図2(b)に示すように、屈曲した形状の分子から成り、自発分極が約4 μCcm-2と高い値を有している(図3)。この自発分極は屈曲角が120°を反映した双極子モーメントであるため、NF相の半分であるが、従来の屈曲分子の中では最高水準である。高温側のIsoP相については、構造解析中であるが、依然として極性構造を示し、小さなドメインに分子の極性凝集がある可能性がある。

これらの極性相は巨大な双極子モーメントを反映した8,000を超える比誘電率を示している(図4)。

図2 (a) NF相と(b) SmAPF相の配向構造

図2. (a) NF相と(b) SmAPF相の配向構造

図3. 厚さ3μmのITOセルで測定したdi-5(3FM-C4T)における自発分極の温度依存性。
図3. 厚さ3μmのITOセルで測定したdi-5(3FM-C4T)における自発分極の温度依存性。

図4. 厚さ3μmのITOセルで測定したdi-5(3FM-C4T)における比誘電率の温度依存性。
図4. 厚さ3μmのITOセルで測定したdi-5(3FM-C4T)における比誘電率の温度依存性。

社会的インパクト

今回、開発した巨大な自発分極と比誘電率を有する二量体分子を媒体として適用することで、さまざまな高性能電子デバイスの実現が可能である。例えば、コンデンサに適用することで、電子機器の小型化と低消費電力化の実現が可能となる。さらに、圧電素子と静電アクチュエータへの適用により、低電圧駆動が可能となり、制御技術の改善と省エネルギーの産業プロセスに貢献する。3次元映像表示素子への応用では、微細画素構造において画素間のクロストークが発生しにくく、高速光スイッチングが可能となり、ホログラフィックディスプレイの実現技術として有望である。このように、自動車、産業ロボット、医療機器、映像表示機器などの分野で新たな応用が見込まれる。

今後の展開

本研究において、開発された二量体分子の3つの極性相は粘性液体であるため、実用化においてはエラストマー化やゲル化といった固定化技術の研究が必要不可欠である。これらの固定化技術の進展に伴い、強誘電性材料の適用分野が拡大し、新たな応用分野への展開が期待される。

付記

本研究は、東京工業大学に設置された「LG×JXTGエネルギー スマートマテリアル&デバイス共同研究講座(2019年4月- 2021年3月)」および「LG Material & Life Solution協働研究拠点(2021年4月-)」において実施されたものである。

参考文献

[1]
掲載誌 :
Material Advances
論文タイトル :
Huge dielectric constants of the ferroelectric smectic-A phase in bent-shaped dimeric molecules
著者 :
Shigemasa Nakasugi, Sungmin Kang, Junji Watanabe, Hiroki Ishizaki, Masato Sone
DOI :
[2]
掲載誌 :
The Journal of Physical Chemistry B
論文タイトル :
Electric Switching Behaviors and Dielectric Relaxation Properties in Ferroelectric, Antiferroelectric, and Paraelectric Smectic Phases of Bent-Shaped Dimeric Molecules
著者 :
Shigemasa Nakasugi, Sungmin Kang, Tso-Fu Mark Chang, Hiroki Ishizaki, Masato Sone, Junji Watanabe
DOI :
[3]
掲載誌 :
The Journal of Physical Chemistry B
論文タイトル :
Spontaneous Polarization Characteristics in Polar Smectic Phases of Fluoro-Substituted Bent-Shaped Dimeric Molecules
著者 :
Shigemasa Nakasugi, Sungmin Kang, Tso-Fu Mark Chang, Takaaki Manaka, Hiroki Ishizaki, Masato Sone, Junji Watanabe
DOI :

用語説明

[用語1] 自発分極 : 外部からの影響を受けずに物質が自ら分極する現象を指す。これは通常、分子構造や分子の対称性に起因している。物質が特定の構造を持ち、その対称性が破れることによって自発的に電荷が配列される。

[用語2] 強誘電性液晶 : 特定の相転移によって自発的に極性を持つ性質を示す液晶。通常の液晶は電場に応じて分子の配向が変わるが、強誘電性液晶はそれに加えて自発的な極性を持つことが知られている。

[用語3] 比誘電率 : 分極のしやすさ(蓄える電気量の大きさを示す)のことをいい、絶縁体としての性能を評価する一つの基準となる。比誘電率は、真空または空気の誘電率に対する物質の誘電率を表す。

[用語4] キラル分子 : 3次元の物体がその鏡像と重ね合わすことが出来ない性質を有する分子のことである。

[用語5] メソゲン : 液晶性を発現するような剛直な部位。

[用語6] 双極子モーメント : 分極の大きさを表すベクトル量。正負の電荷の大きさと距離の積で定義され、単位はC・mあるいはD(デバイ、1D=3.33564×10−30 C・m)。

論文情報

掲載誌 :
The Journal of Physical Chemistry B
論文タイトル :
Three Distinct Polar Phases, Isotropic, Nematic, and Smectic-A Phases, Formed from a Fluoro-Substituted Dimeric Molecule with Large Dipole Moment
著者 :
Shigemasa Nakasugi, Sungmin Kang, Tso-Fu Mark Chang, Takaaki Manaka, Hiroki Ishizaki, Masato Sone, Junji Watanabe
DOI :

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教授 曽根正人

Email sone.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel 045-924-5043 / Fax 045-924-5044

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 LG Material & Life Solution 協働研究拠点 特任教授/LG Japan Lab株式会社 先端研究1室 責任研究員

石崎博基

Email ishizaki.h.ad@m.titech.ac.jp
Tel 045-924-5479

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661


TAIST-Tokyo Tech学生交流プログラム2023 ~TAIST学生11人が92日間滞在~

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東京工業大学は9月4日から12月4日までの92日間、11人のTAIST学生を受け入れました。

大岡山キャンパスを初めて訪れたTAIST学生

大岡山キャンパスを初めて訪れたTAIST学生

TAIST(タイスト、Thailand Advanced Institute of Science and Technology)-Tokyo Tech(以下、TAIST)は、タイ政府の要望により、タイにおける理工系分野での高度な「ものつくり人材」の育成と研究開発のハブ作りを目指して、2007年に設立された国際連携大学院プログラムです。本学の教員がタイの連携大学の教員と協力して講義を実施し、TAIST学生の修士論文研究における副指導教員になります。

2015年度からはTAISTを活用した派遣・受入プログラム「TAIST-Tokyo Tech学生交流プログラム」を実施しており、本プログラムによって受け入れたTAIST学生は、副指導教員の研究室で修士論文研究を進めます。本学の優れた研究環境のもと、本学学生と協働しながら研究活動に取り組むことで、修士論文研究を飛躍的に発展させることが主な目的です。

本年度のTAIST学生たちはそれぞれの副指導教員の研究室に迎えられ、研究室内での交流を深めながら修士論文研究に取り組みました。また、研究室訪問をしたり、キャンパスツアーや企業見学などのアクティビティにも参加し、さらに希望者は本学の授業科目を履修するなど、92日間の滞在期間を満喫しました。

研究室訪問では、研究内容の説明を聞き、熱心に質問をしながら、自身の研究についての理解も深めました。企業見学で訪れた株式会社リコーのリコー環境事業開発センター(静岡県御殿場市)では、OA機器のリユース・リサイクル品を再生する現場での作業や無人の搬送用ロボットを見学し、多くの刺激を受けたり質問をして知識を深めたりしました。

派遣プログラムでは、本学の学生がタイにてTAIST学生と共に講義を受講し、タイの先端研究機関であるタイ国立科学技術開発庁(NSTDA)におけるインターンシップに参加します。

すずかけ台図書館で説明を受ける学生
すずかけ台図書館で説明を受ける学生

工学院 一色剛研究室を訪問
工学院 一色剛研究室を訪問

リコー環境事業開発センターを訪問するTAIST学生

リコー環境事業開発センターを訪問するTAIST学生

プログラム最後の研究成果発表会では、TAIST学生たちは副指導教員、本学教員、研究室のメンバー、TAIST賛助会員企業の人たちを前に研究成果を発表し、発表内容についての質問にも英語で応答しました。

発表会の後、TAIST運営委員会の花村克悟委員長(工学院 機械系 教授)からプログラム修了証書が授与されました。続いて行われた懇親会では、井村順一理事・副学長(教育担当)より乾杯のあいさつがあり、92日間のプログラムを振り返るとともに、今後の活躍を期待してTAIST学生へエールが贈られました。

懇親会であいさつをする井村理事・副学長
懇親会であいさつをする井村理事・副学長

研究成果発表会にて関連教員、TAIST賛助企業等の参加者との集合写真

研究成果発表会にて関連教員、TAIST賛助企業等の参加者との集合写真

タイへ帰国した学生たちは、引き続きTAISTプログラムにおいて修士論文研究の完成を目指します。プログラム修了後は、本学をはじめとする国内外の大学の博士後期課程への進学や、グローバル企業への就職など、本プログラムで得た経験を生かしながら、世界を舞台として活躍することが期待されます。

参加したTAIST学生のコメント

  • プログラム中のアクティビティは素晴らしかったです。自分にとって新しいものをたくさん見ることができ、忘れられない、目からウロコの経験でした。

  • 東工大での研究・学習で、あらゆる面での経験をすることができました。学習スペースでは、他の学生たちの勤勉さや自己管理能力を目の当たりにし、挑戦する意欲が湧いてきました。毎週行われる副指導教官との研究室ミーティングでは、効果的な研究発表を行うこと、聴衆の立場で考えること、プレゼンテーション中に現在の研究の主旨を述べることなどを学び、自分の知識を向上させることができました。

  • 日本での留学期間を忘れることはないと思います。学術的な面だけでなく、日常生活の面でもたくさんの楽しいことがあり、知識を得ることができました。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

研究推進部 国際推進課 国際推進グループ

Email taist@jim.titech.ac.jp

東工大チームがソフトウェアチューニングコンテスト「ISUCON13」で総合2位、学生1位に

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11月25日、東京工業大学 デジタル創作同好会traP(トラップ)のメンバー3人で構成するチーム「織時屋(オリトキヤ)」が、ISUCON13において総合順位2位、学生チーム1位という好成績を収めました。この成績は2年連続となります。

織時屋のメンバー 左から阿部さん、木下さん、永田さん

織時屋のメンバー 左から阿部さん、木下さん、永田さん

ISUCON(Iikanjini Speed Up Contest:いい感じにスピードアップコンテスト)は、1チームを1人~3人で構成し、決められたレギュレーションの中で課題として与えられたWebサービスの高速化に限界までチャレンジするチューニングコンテストで、LINEヤフー株式会社が運営窓口となり開催されています。日本だけでなく世界中からたくさんの挑戦者が集まり、13回目の今回は694チーム(学生78チーム)が参加しました。なお、総合順位1位は本学卒業生で構成するチーム「NaruseJun(ナルセジュン)」でした。

織時屋チームメンバー

情報理工学院 情報工学系

  • 木下彩香さん(修士課程2年)
  • 永田怜慈さん(修士課程2年)
  • 阿部元輝さん(修士課程1年)

永田怜慈さんのコメント

ISUCON13での学生1位、総合2位の成績は、チームワークと技術力の結晶です。東工大で培った的確な現状把握と原因分析に基づいて対応策を提案し、それを簡潔かつ論理的に伝える能力は、チームワークに不可欠なものでした。

デジタル創作同好会traP

デジタル創作同好会traPは、東工大の技術(ものつくり)系公認サークルです。制作物はwebアプリからゲーム、イラスト・3DCGや音楽までと幅広く、また競技プログラミングやセキュリティコンテスト(CTF)への参加にも取り組んでいます。また、ゲーム制作者同士の交流イベント(Game^3)や中高生向けのプログラミング教室を主催するなど、外部との交流も積極的に行っています。

お問い合わせ先

学術国際情報センター
教授 西崎真也

Email nisizaki@cs.titech.ac.jp

2023年度永年勤続者表彰式にて職員16人を表彰

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東京工業大学は11月22日、2023年度永年勤続者表彰式を行いました。この表彰は、他の国立大学等を含む勤続が20年で、そのうち10年以上本学の職務に精励した職員に授与されるものです。今回表彰されたのは常勤職員12人、無期雇用職員4人の計16人でした。

表彰式では、益一哉学長から一人ひとりに表彰状が授与され、祝辞が贈られました。

祝辞を述べる益学長
祝辞を述べる益学長

表彰状を受け取る永年勤続職員
表彰状を受け取る永年勤続職員

2023年度東京工業大学永年勤続被表彰者一覧(所属順・敬称略)

氏名

職名

所属

吉冨栄蔵

室長

総務部 人事課労務室

石走康平

主任

総務部 広報課 広報推進グループ

安藤裕宜

主任

総務部 安全企画課 安全企画グループ

髙梨明

グループ長

財務部 契約課 大岡山契約管理グループ

角野葉子

グループ長

財務部 契約課 大岡山第2契約グループ

柴山直子

主任

財務部 すずかけ台会計課 すずかけ台第1契約グループ

笹川祐輔

室長

学務部 全学教育推進室

鶴見慶

主任

研究推進部 情報基盤課 基盤システムグループ

小林由嗣

課長

学院等事務部 工学院業務推進課

小沼健一郎

グループ長

学院等事務部 工学院業務推進課 工学院運営事務グループ

山口修司

主任

学院等事務部 科学技術創成研究院業務推進課 研究院事務第1グループ

山田春信

技術専門員

オープンファシリティセンター

春日美乃

事務限定職員

工学院

柏原奈美

事務限定職員

科学技術創成研究院

安藤眞弓

事務限定職員

イノベーション人材養成機構

佐々木裕子

技術限定職員

博物館

益学長を囲んでの記念写真

益学長を囲んでの記念写真

関連リンク

お問い合わせ先

総務部 人事課 労務室 人材育成グループ

Email jin.iku@jim.titech.ac.jp

本学学生3人が参加したチームがデジタル庁「法令APIハッカソン」でビジネス・法務賞を受賞

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11月17日、デジタル庁が実施した「法令APIハッカソン」で、東京工業大学の学生3人が参加したチーム「pyてょん3.0」がビジネス・法務賞を受賞しました。

賞状を手にする河内誠悟さん(左)

賞状を手にする河内誠悟さん(左)

11月10日から17日に開催されたデジタル庁「法令APIハッカソン」は、法令APIプロトタイプを用いたサービス開発試行イベントで、法令等データの利活用による産業・技術・政策立案の発達などを目的としています。

このイベントでチーム「pyてょん3.0」が提案・開発したアプリ「LegalLink Insight」は、業務において法律文書を頻繁に閲覧する法務担当者向けのサービスです。

法令や法律文書は、他の法令や別の箇所で定義された単語を多用しているので、それらを参照しながら適切に解釈する必要があります。「LegalLink Insight」では、同じ画面内に該当の法律内容をスムーズに参照・表示することで、画面を移動するなどの作業が省け、業務の効率化、ミスの削減が可能となります。また、法令や法律文書を効率的に確認できるため作業のハードルが下がり、法令等データ利活用の促進も期待できます。

「LegalLink Insight」の開発画面イメージ

「LegalLink Insight」の開発画面イメージ

ビジネス・法務賞受賞 チーム「pyてょん3.0」メンバー

河内誠悟さんのコメント

情報系の講義で学んだプログラミングやシステム設計の分野の知識だけでなく、リベラルアーツの講義で学んだ社会に役立つ技術をふまえて開発しました。
なかなか身近に感じづらい法律という分野への挑戦でしたが、サービスの利用者のニーズを理解してソフトウェアを開発できたことを評価していただきました。
今後も、社会の課題解決に役立つ技術・ソフトウェアについて追求していきたいと思っています。

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教授 西崎真也

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事業構想を競うコンテスト「第3回工学院サステナビリティ・チャレンジ」を実施

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東京工業大学工学院は「第3回工学院サステナビリティ・チャレンジ(E×S Challenge)」を開催し、12月2日に最終発表会ならびに表彰式を行いました。

E×S Challenge表彰式

E×S Challenge表彰式

工学院E×S Challenge(イー・バイ・エス・チャレンジ)は2021年度から始まったコンテストで、学生や若手研究者がエンジニアリング(E:Engineering)を生かした持続可能社会(S:Sustainable Society)の実現を目指す事業構想を競います。第3回となる2023年度は、前年度に引き続いて台湾国立大学と台湾科技大学の学生チームも参加し、学内5チーム、台湾4チームの計9チームによる国際的なコンテストとなりました。

E×S Challengeは、3つのステップを経て最優秀チームを決定します。最初のステップであるPITCH(ピッチ)コンテストは9月2日に行われ、3分間の英語によるプレゼンテーションで新しい事業のアイデアを発表しました。第2ステップのSTORM(ストーム) では、複数のチームを統合し、アイデアと実現性を飛躍的に進化させることを目指します。2023年度は当初の9チームを5チームに再編成し、10月14日に中間発表会となるSTORMを実施しました。STORMでは、異なるチームのメンバーと議論を進める過程でさまざまな困難が発生しますが、メンターである株式会社野村総合研究所などの企業の方々からサポートを受け、各チームは社会課題を解決する事業プランを練り上げていきました。

完成した事業プランは、第3ステップとなる12月2日のLAUNCH(ローンチ:最終発表会)において発表されました。今回のLAUNCHは、3回目にして初めて対面とオンラインのハイブリッド形式で実施され、工学院教員、株式会社みらい創造機構などの企業の方々に加え、E×S ChallengeのOBから構成される国際的な審査委員会が審査を行いました。

最優秀チームに授与される「第3回工学院E×S Award」は、国立台湾大学工学院 化学工程学系の李雪菱(リー・シャーリン)さん(博士課程3年)と東工大工学院 経営工学系の青木しほさん(学士課程4年)の2人をリーダーとするチームが受賞し、工学院教育基金から開発資金として100万円が授与されました。このチームが提案した事業プランは、廃棄タイヤから作られた薄膜と太陽エネルギーを使って、半導体産業における水(冷却水、超純水)と電力使用に関する問題を解決しようというもので、審査員から高く評価されました。

第3回工学院E×S Award受賞チーム

第3回工学院E×S Award受賞チーム

また、理工系女性のリーダーを含むチームで最上位と評価されたチームにマイクロン財団から贈られるMicron LAUNCH Awardは、東工大工学院 機械系の中嶋哲大さん(修士課程2年)と国立台湾大学生物資源農学院 生物産業伝播発展学系の謝理安(シー・リアン)さん(学士課程3年)の2人をリーダーとするチームが受賞し、開発資金30万円が授与されました。このチームの提案は、ゴミ収集に関する諸問題(足が不自由な人のゴミ出し、ゴミ集積所の管理、収集の効率化)を解決するためのゴミ自動収集システム(ドローン活用)に関するものでした。

Micron LAUNCH Awardの日本チームメンバー
Micron LAUNCH Awardの日本チームメンバー

Micron LAUNCH Awardの台湾チームメンバー
Micron LAUNCH Awardの台湾チームメンバー

各チームはそれぞれのアイデアをこの審査会で終わらせることなく、今後は学内に加えて企業や投資家の支援も受けながら、事業化実現に向けての進化を目指します。今後のE×S Challengeでは、学内においては工学院以外のチームにも参加してもらうとともに、本年中に計画されている本学と東京医科歯科大学の統合を見据え、これまで以上に多くの幅広い分野の学生に参加頂くことを計画しています。実行委員会では、さらに多くの学生がこのコンテストにチャレンジすることを期待しています。

工学院E×S Challengeは工学院への寄付金(東京工業大学基金 工学院教育基金)による運営事業です。

工学院E×S Award受賞チームのコメント

李雪菱さんのコメント(英語のコメントを翻訳)

今年のE×S Challengeに参加したことは、ユニークで思い出深い経験でした。STORMでは、まず日本と台湾の両チームのアイデアを取り入れる必要があると考えましたが、それは不可能に思えました。しかし、最初の数回の週次ディスカッションを通して、最終的に両チームが着手しなかった新しい問題に取り組むことに合意することができました。私たちは、メンターの方々の助けや審査員の方々のアドバイスのおかげで、目標を達成するために集中し続けることができたと心から感謝しています。この3つのステージを通して、私たちは多くのことを学びました。異なる学部、大学、国のチームメンバーと協力したのは今回が初めてだったからです。コミュニケーションをとり、意見を交換し、常に意見を求めて議論を交わすことで、私たちのチームワークが強固なものになっていることは否定できません。最も重要なことは、グループ内の多才さが、私たちをより良くし、最終的にこの挑戦を乗り切った鍵であるということです。最後に、このようなブレインストーミングの絶好の機会を与えてくれたE×S Challengeに感謝し、世界的な問題を解決するための私たちの技術の将来的な可能性を予見したいと思います。

青木しほさんのコメント

この度は、E×S Awardを頂戴し、大変光栄に思います。大会中は台湾チームの方々と協力し、多くの交流と議論ができました。私たちは、解決したい課題に台湾チームの技術をどのように生かし、課題解決につなげるか考えてきました。台湾チームのろ過技術は素晴らしく、特に半導体産業に貢献できるものでした。大会中は、その技術のアドバンテージやビジネスプランを審査員に伝え、納得させることができるかに苦労しました。お互いの母語が異なり、時間が限られていた中、リモートで英語でやり取りし、意志疎通して同じ目標を達成することが難しかったです。そういった中で、メンターや審査員から助言を受け、お互いのチームが同じ目標に向けて時間をかけて議論し、最終的にはお互い納得できる発表ができました。関わった全てのチームメンバーや審査員、メンターに心から感謝申し上げます。この経験を生かし、今後も持続可能社会の実現に向けて社会貢献をできるよう精進したいと思います。

Micron LAUNCH Award受賞チームのコメント

中嶋哲大さんのコメント

東工大の大学院生3人からなる我々のチームは、国立台湾大学の学部生4人からなるチームと共同で「自動運転ロボット×家庭ごみ収集」の事業企画に取り組みました。この企画テーマは、23年度前期のリーダーシップ教育院開講科目「リーン・ローンチパッド」において我々のチームが取り組んでいた内容が基になっています。
我々のチームは、この工学院サステナビリティ・チャレンジでPITCH Founders AwardとMicron LAUNCH Awardを受賞しました。前者に関しては、我々がリーダーシップ教育院の授業で取り組んできた内容が結果につながりましたが、後者に関しては、台湾チームのアイデアとメンターからのアドバイスなくして受賞することはできなかったので、台湾チームとメンターの方々に協力いただいたことを非常に感謝しています。
台湾チームとの共同作業では、特に言語の壁や学年の違いによる生活リズムの違いにかなり苦戦しましたが、それを乗り越えて成功を収めたことは非常に良い経験になりました。

謝理安さんのコメント(英語のコメントを翻訳)

第3回E×S Challengeに参加し、Micron LAUNCH Awardを受賞できたことを本当に光栄に思います。特に、STORMフェーズでのJ2チームとの出会いに感謝しています。何度も議論を重ね、両チームの提案をうまく融合させることができました。私たちの目標は、自律走行技術を使って既存のゴミ収集の問題を解決し、より良い生活環境をつくり、市民の生活の質を高めることです。
コンペティション期間中のメンターの方々の献身的なご指導に感謝しています。貴重なアドバイスをいただいたことで、当初の計画を見直し、さまざまな視点を模索することができました。最後になりましたが、学際的なコラボレーションを経験する機会を与えてくださり、開発のためのプラットフォームを提供してくださった東京工業大学のオーガナイザー・チームに感謝の意を表したいと思います。このおかげで、私たちはアイデアをインパクトのあるソリューションに変えることができました。このコンペティションは、私たちにとって重要な意味を持っています。

東工大基金

E×S Challengeの活動は東工大基金によりサポートされています。

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2016年4月に発足した工学院について紹介します。

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学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

工学院E×S実行委員会

Email exs-challenge@jim.titech.ac.jp

植物の「冬支度」の新たなメカニズムを発見 細胞壁多糖β-1,4-ガラクタンが持つ機能

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要点

  • 植物は気温の低下を感知すると凍結耐性を高めることができます。これを低温馴化(ていおんじゅんか)といい、植物が冬を越すための重要な生存戦略と考えられています。
  • 低温馴化では様々な変化が細胞内で起きていることが明らかになっていますが、植物細胞を取り囲んでいる「細胞壁」でどのような変化が起こっているのか、ほとんど明らかになっていませんでした。
  • 本研究により、細胞壁多糖の一種である「β-1,4-ガラクタン」が低温馴化により増加し、凍結耐性の上昇に寄与していることを発見しました。

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の城所聡助教と、埼玉大学大学院理工学研究科の高橋大輔助教ら、大阪公立大学大学院理学研究科の曽我康一教授は、オーストラリアLa Trobe大学やドイツMax-Planck-Institute of Molecular Plant Physiologyの研究者らと共同で、植物の細胞壁[用語1]多糖の一種である「β-1,4-ガラクタン」が低温馴化により増加し、凍結耐性の上昇に寄与していることを発見しました。

本研究グループは、植物が気温の低下を感じて凍結環境への耐性を高める「冬支度」である低温馴化の過程(図1)において、細胞壁成分の一種であるガラクタンが増加することを突き止めました。このような反応は、本研究で主に用いたモデル植物シロイヌナズナだけではなく、ホウレンソウやシュンギクなどの他の凍結耐性が高い野菜でも広くみられる現象でした。また、β-1,4-ガラクタンは低温馴化過程での凍結耐性の向上や、組織の物理的性質の変化に寄与していることが明らかになりました。

図1 低温馴化した植物と未馴化の植物の凍結耐性の違い シロイヌナズナは、低温(4℃)を予め処理することにより-10°Cでも生存することができる。

図1. 低温馴化した植物と未馴化の植物の凍結耐性の違い

シロイヌナズナは、低温(4℃)を予め処理することにより-10°Cでも生存することができる。

本成果は2024年2月8日(アメリカ東部時間)に生物学全般を扱う米国の学術誌「Current Biology」に公開されました。

背景

寒冷な環境に生育している植物は、厳しい凍結環境を生き抜くために、気温の低下を感知してより一層凍結耐性を高める「低温馴化」を行います(図1)。これは、植物にとって冬を越す前の「冬支度」だと言えます。これまでには低温馴化過程で、低分子の糖(グルコースやスクロースなど)の蓄積や細胞膜の脂質組成の変化、凍結耐性タンパク質の蓄積などが起こることが知られていましたが、細胞壁の変化はあまり調べられてきませんでした。

細胞壁は植物細胞の細胞膜の外側にあり、様々な多糖から成ります。植物の組織が凍結する際には、細胞と細胞の間で氷が形成されることがわかっており、細胞壁の重要性は以前から指摘されてきました。しかし、低温馴化過程でどのように変化し、それがどのような意味を持っているのかはわかっていませんでした。

研究内容

細胞壁はペクチン、ヘミセルロース、セルロースの3つに大別され、それぞれ様々な単糖が鎖状になった多糖とよばれる構造をとります。我々はまず、低温馴化することができて比較的凍結耐性の高い野菜(エンドウ、ホウレンソウ、コマツナ、シュンギク)を集め、破砕した組織から細胞壁を抽出し、多糖を分解して単糖の組成を分析することから始めました。その結果、細胞壁の主要な多糖の一つであるペクチンの中でガラクトースと呼ばれる単糖の割合が、これらの植物において低温馴化後に増加していることが明らかになりました。このガラクトースは、ペクチンの側鎖に見られるβ-1,4-ガラクタンと呼ばれる構造に由来すると考えられました(図2)。

図2 ペクチンの側鎖に見られるβ-1,4-ガラクタンの構造 植物細胞壁に含まれる多糖の一種であるペクチンには、側鎖としてガラクトース(黄色い丸)が連なったβ-1,4-ガラクタンがある。

図2. ペクチンの側鎖に見られるβ-1,4-ガラクタンの構造

植物細胞壁に含まれる多糖の一種であるペクチンには、側鎖としてガラクトース(黄色い丸)が連なったβ-1,4-ガラクタンがある。

このことを確かめるために、モデル植物の一つのシロイヌナズナ[用語2]を用いて様々なアプローチからβ-1,4-ガラクタンを解析しました。β-1,4-ガラクタンを特異的に認識する抗体[用語3]で組織中のβ-1,4-ガラクタンを可視化したところ、低温馴化処理によって組織全体でβ-1,4-ガラクタンが蓄積することがわかりました(図3)。他にも、β-1,4-ガラクタンを特異的に分解する酵素を用いた解析や、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いた糖鎖結合分析[用語4]などから、同様のことが裏付けられました。

図3 葉の組織内でのβ-1,4-ガラクタンの蓄積の様子 シロイヌナズナの葉において、低温馴化過程でβ-1,4-ガラクタン(緑色の蛍光)が組織全体に蓄積する様子が観察された。スケールバーは50 µmを表す。

図3. 葉の組織内でのβ-1,4-ガラクタンの蓄積の様子

シロイヌナズナの葉において、低温馴化過程でβ-1,4-ガラクタン(緑色の蛍光)が組織全体に蓄積する様子が観察された。スケールバーは50 µmを表す。

β-1,4-ガラクタンは、生体内でGALSと呼ばれる酵素によってUDP-Galと呼ばれる材料物質から合成され、さらにUDP-GalはUGEと呼ばれる酵素によってUDP-Glcから変換されます。β-1,4-ガラクタンの合成を担うGALSUGEといった遺伝子の発現量を解析したところ、低温馴化によって速やかに遺伝子発現量が上昇していることがわかりました。このことから、低温馴化過程におけるβ-1,4-ガラクタンの蓄積は、このような遺伝子の発現量調節によって起きていることが予想されます。

このβ-1,4-ガラクタンが蓄積する意味を探るために、β-1,4-ガラクタンの合成量が低下したシロイヌナズナ突然変異体[用語5]gals1 gals2 gals3を用いて、低温馴化後の凍結耐性を評価しました。その結果、野生型に比べて変異体では低温馴化後の凍結耐性が低下していることがわかりました(図4)。

図4 シロイヌナズナの野生型とβ-1,4-ガラクタンを合成できない変異体の凍結耐性 低温馴化したシロイヌナズナを-10°Cの凍結温度に曝した後に、生きている組織が赤く染まる染色液に浸して凍結耐性を評価した。その結果、β-1,4-ガラクタンの合成量が低下したgals1 gals2 gals3は、野生型に比べて凍結耐性が低下していることがわかった。スケールバーは10 mmを表す。

図4. シロイヌナズナの野生型とβ-1,4-ガラクタンを合成できない変異体の凍結耐性

低温馴化したシロイヌナズナを-10°Cの凍結温度に曝した後に、生きている組織が赤く染まる染色液に浸して凍結耐性を評価した。その結果、β-1,4-ガラクタンの合成量が低下したgals1 gals2 gals3は、野生型に比べて凍結耐性が低下していることがわかった。スケールバーは10 mmを表す。

また、引っ張り試験機を用いて低温馴化した葉の細胞壁の物理的強度を評価したところ、野生型の葉は低温馴化過程でかたくなっていくのに対し、gals1 gals2 gals3変異体ではそのような変化が見られませんでした。以上のことから、β-1,4-ガラクタンの蓄積は、低温馴化過程における凍結耐性の向上や組織の物性変化に貢献していることが示唆されました。

今後の展開

本研究では、上記の解析結果に加えて、低温馴化で誘導されるマスター転写制御因子であるDREB1/CBF[用語6]や、植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)[用語7]UGEの遺伝子発現を制御している可能性も示唆されています(図5)。今後は、どのようなメカニズムでβ-1,4-ガラクタンが蓄積しているのかを明らかにするために、DREB1/CBFやABAとの関係にも着目して細胞壁関連遺伝子を解析していく必要があります。

また、β-1,4-ガラクタンによる組織の物性変化が、実際にどのようなメカニズムで凍結耐性の向上に貢献しているのか明らかにしていく必要があります(図5)。本研究で低温馴化によるβ-1,4-ガラクタンの蓄積は広範な植物で見られたため、これらのことが明らかになれば様々な植物での低温馴化過程での物性変化や凍結耐性の改変を行うことができ、農作物の収量増加や品質の向上にもつながる可能性があります。

図5 低温馴化過程でβ-1,4-ガラクタンが蓄積する機構 低温を感知すると、DREB1/CBFやABAの誘導によりUGEの発現が増加し、β-1,4-ガラクタン合成の材料となるUDP-Galの合成が促されると考えられる。その後、GALSによってβ-1,4-ガラクタンが合成され、凍結耐性の向上や細胞壁の物性変化を導くと予想される。今後は、低温馴化過程でのβ-1,4-ガラクタン合成の制御機構やβ-1,4-ガラクタンが蓄積する生物的意義をより詳細に明らかにする必要がある。

図5. 低温馴化過程でβ-1,4-ガラクタンが蓄積する機構

低温を感知すると、DREB1/CBFやABAの誘導によりUGEの発現が増加し、β-1,4-ガラクタン合成の材料となるUDP-Galの合成が促されると考えられる。その後、GALSによってβ-1,4-ガラクタンが合成され、凍結耐性の向上や細胞壁の物性変化を導くと予想される。今後は、低温馴化過程でのβ-1,4-ガラクタン合成の制御機構やβ-1,4-ガラクタンが蓄積する生物的意義をより詳細に明らかにする必要がある。

研究支援

本研究は、日本学術振興会科研費(20K15494、23K05144、16K07391、18H05495、19K06702)、市村清新技術財団植物研究助成(29-14、30-12)、加藤記念バイオサイエンス財団研究助成、日本科学協会笹川科学研究助成(2023-4014)、山下太郎顕彰育英会の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] 細胞壁 : 植物細胞が動物細胞と大きく異なる点が「細胞壁」があることです。細胞壁は植物細胞の一番外側にある多糖やフェノール性化合物が複雑に絡んだ構造を持つ部分で、力学的強度が高いことが特徴です。そのため、樹木などの植物がかたくて丈夫なのは細胞壁が豊富にあるからと言われています。また、地球上で最も多い炭素資源であると言われ、バイオエタノールの原料としても注目されています。

[用語2] シロイヌナズナ : 大腸菌やショウジョウバエなどと同様に、植物において用いられるモデル生物です。ゲノムサイズが小さく、生育が早いため実験で扱いやすいことが特徴です。

[用語3] 抗体 : 特定の物質(タンパク質や糖鎖など)を認識して結合するタンパク質を抗体と呼びます。この抗体の認識特異性を利用して、植物組織上に存在する特定の多糖に抗体を結合させて標識することで、植物組織のどの部位に特定の多糖が蓄積しているのかを可視化することができます。これを免疫組織染色と言います(図3)。

[用語4] 糖鎖結合分析 : 細胞壁多糖を構成する単糖は、それぞれ特有の結合様式によって互いにつながっています。この結合様式を定量的に分析する手法が糖鎖結合分析です。この分析にはガスクロマトグラフ質量分析計という装置を用います。

[用語5] 突然変異体 : モデル植物シロイヌナズナでは、様々な遺伝子が機能不全になった突然変異体系統がカタログ化されています。本研究では、GALS1、GALS2、GALS3という3つの酵素が働かなくなった三重変異体を用いて解析を行いました(図4)。

[用語6] DREB1/CBF : 植物が低温に曝された時に誘導される転写因子の一種です。転写因子とは、生体内の様々な遺伝子の発現を制御しているタンパク質のことです。低温馴化過程では、DREB1/CBFの発現誘導が鍵となって他の多くの遺伝子の発現パターンを制御しています。

[用語7] アブシジン酸(ABA) : 植物の休眠や気孔の閉鎖などを制御する植物ホルモンです。低温や乾燥などの環境刺激に応答することで蓄積が促されますDREB1/CBFと同様、アブシジン酸も様々な遺伝子の発現を制御しています。

論文情報

掲載誌 :
Current Biology
論文タイトル :
Structural changes in cell wall pectic polymers contribute to freezing tolerance induced by cold acclimation in plants
著者 :
Daisuke Takahashi, Kouichi Soga, Takuma Kikuchi, Tatsuya Kutsuno, Pengfei Hao, Kazuma Sasaki, Yui Nishiyama, Satoshi Kidokoro, Arun Sampathkumar, Antony Bacic, Kim L. Johnson, Toshihisa Kotake
DOI :

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「ひねり」の利いたバイオハイブリッドロボット 自在な細胞配列手法によりユニークな筋肉の動きを実現

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要点

  • エラストマー薄膜上の任意の微細溝パターンに沿って筋細胞を配列させたバイオアクチュエータを開発。
  • 筋細胞の配列を制御することで、心筋や括約筋に見られるひねりなどのユニークな筋肉の収縮挙動を再現。
  • 生体特有の複雑な動きを再現するソフトロボットや臓器チップ開発への応用が期待。

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の藤枝俊宣准教授、三田博亮大学院生、水野陽介研究員(研究当時)らの研究チームは、同 工学院 機械系 田中博人准教授と共同で、エラストマー薄膜に任意のパターンの微細溝を形成することで、筋細胞を任意の方向に配列させた薄膜状のバイオアクチュエータ[用語1]を開発し、生体内の筋組織に類似した収縮挙動を再現することに成功した。

バイオアクチュエータは、細胞を動力源とするソフトロボット[用語2]の一種であり、軽量性・柔軟性・エネルギー効率の観点から筋細胞が用いられてきた。筋細胞を動力源として用いるためには、生体組織のように筋細胞を配列させる必要がある。しかし、筋細胞の配列手法は直線のような単純なデザインに留まっており、簡便かつ自在な細胞配列手法の開発や、配列制御に基づく複雑な収縮運動の再現が求められてきた。

研究チームは、高速かつ簡便に微細構造を形成可能なUVレーザー加工[用語3]に着目し、微細溝パターン(溝幅: 20 µm)を施したポリイミド基板をテンプレートとして、微細溝パターンが転写されたエラストマー[用語4]製の柔らかい薄膜(厚さ:約9 µm)を作製した。この時、直線状、曲線状(曲率: 0.1-0.2 /mm)、同心円状(半径: 10 mm)の微細溝パターンを形成することで、マウス骨格筋組織由来の筋細胞をパターン通りに配列させることに成功した。さらに、そうした微細溝パターンを用いて筋細胞を配列させたバイオアクチュエータ(寸法: 12×15 mm)は、「ひねり」様の収縮挙動(最大収縮変位: 3.3 mm)を示すことを発見した。

本研究成果は、心筋や括約筋に見られるような異方的な組織配列の再現に有用であり、生体特有の複雑な動きを再現するソフトロボットや、薬剤試験のための臓器チップ[用語5]の開発への応用が期待される。

本研究成果は、日本時間2月9日付のIOP Publishing発行「Biofabrication」誌に掲載された。

背景

ソフトロボットは、柔軟性を有する材料により構成されるロボットの総称であり、硬質な金属からなる従来の硬いロボットとは異なり、柔軟性を活かした形状や生体様の柔らかな動きを特徴とする。ソフトロボットの中でも、柔軟性を有する材料と細胞・組織を組み合わせたバイオハイブリッドロボットは、生物に近い柔らかい動きの再現やその仕組みの解明に有用である。特に、筋細胞を動力源とするバイオアクチュエータは、軽量かつ柔軟でエネルギー効率に優れるため、ソフトロボットの駆動力としても期待されてきた。

筋細胞を動力源として用いるためには、生体組織のように筋細胞を異方的に配列させる必要がある。しかし、これまでに筋細胞の直線的な配列手法以外の報告例は少なく、配列制御に基づく生体特有の複雑な動きの実現は困難であった。こうした課題に対して、近年では細胞培養基材への骨格構造の導入や、筋細胞の配置の工夫をおこなったバイオハイブリッドロボットやバイオアクチュエータが報告されているが、生体特有の複雑かつ異方的な筋組織の構造を模した筋細胞の配列化手法や、これを利用したバイオアクチュエータに関する報告はほとんどない。

そこで研究グループは、微細溝パターンを有する細胞培養基材を作製し、筋細胞の配列を自在に制御することで、曲げやひねりを組み合わせた複雑な動きを示すバイオアクチュエータにより、これらの課題を解決することを目指した。具体的には、迅速かつ簡便に任意のパターニングが可能なUVレーザー加工機を用いて、柔軟性のあるエラストマー薄膜上に曲線状の微細溝を付与することで、任意の方向に配列された骨格筋細胞とエラストマー薄膜からなるバイオアクチュエータの開発に取り組んだ(図1)。

図1 微細溝パターンを有するエラストマー薄膜と、配列した骨格筋細胞からなる バイオアクチュエータ

図1. 微細溝パターンを有するエラストマー薄膜と、配列した骨格筋細胞からなる バイオアクチュエータ

研究成果

本研究では、UVレーザー加工技術を用いて、エラストマー製の薄膜(厚さ:9 µm)にテーラーメイドの微細溝パターン(溝幅: 20 µm、1 µmは1,000分の1 mm)を形成した。具体的には、まずCADデザインに基づいてポリイミド基板上にUVレーザーを照射し(加工速度: 200 mm/sec、面積 15 mm四方)、微細溝パターンをおよそ2分程度で形成した。次に、微細溝が加工されたポリイミド基板を鋳型としてポリジメチルシロキサン(PDMS)を滴下し、熱硬化後にPDMSを剥離することで、微細溝パターンが転写されたPDMS片を得た。最後に、このPDMS片上にスピンコート法にてスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)からなるエラストマーを製膜した(図2上段)。これにより、UVレーザー加工にて得られた微細溝パターンを転写したエラストマー薄膜を作製することができた。

続いて、直線、曲線状(曲率: 0.1-0.2 /mm) 、同心円状(半径: 10 mm) の微細溝パターンを転写したエラストマー薄膜に、マウス骨格筋組織由来の筋芽細胞を播種し、電気刺激による収縮運動が可能な多核細胞の筋管細胞へと分化させた。この時、筋管細胞は微細溝パターンに沿って、直線状か、曲率が制御された曲線状に配列することを見出した(図2下段)。

図2. (上)微細溝パターンを有するエラストマー薄膜と(下)微細溝パターンに沿って配列する筋管細胞のミオシン重鎖(緑) と細胞核(青) の蛍光染色画像。
図2.
(上)微細溝パターンを有するエラストマー薄膜と(下)微細溝パターンに沿って配列する筋管細胞のミオシン重鎖(緑) と細胞核(青) の蛍光染色画像。

次に、曲線状の微細溝パターンを有するエラストマー薄膜と、直線状および曲線状(0.1, 0.13 /mm)の微細溝に沿って配列させた筋管細胞からなる、薄膜状バイオアクチュエータ(寸法: 12 × 15 mm)を作製した。このバイオアクチュエータに電気刺激(40 V, 10-ms pulses, 0.3-1.0 Hz)を負荷し、筋管細胞の収縮を誘発したところ、刺激周波数に応じた収縮挙動を示した。作製したバイオアクチュエータの収縮挙動は、直線状に配列した筋管細胞では直線的な動きを示した。一方、曲線状に配列した筋管細胞ではひねり様の動きを示した(図3)。この時、バイオアクチュエータの左右の長辺の収縮変位を測定したところ、曲率 0.10 /mmの微細パターンを有するバイオアクチュエータの右辺においては、3.3 mm(0.3 Hz)の最大収縮変位を示した。続いて、左右の収縮変位の比を算出したところ、曲率とともに収縮変位比が増加することが示された(図4)。これらの結果は、配列した筋管細胞の曲率の増加に伴い、筋管細胞全体の収縮方向が薄膜の右辺側に向けて増大したためと考えられ、筋管細胞の曲率によってバイオアクチュエータのひねり運動を制御できることが示唆された。

図3 バイオアクチュエータを電気刺激した際の収縮挙動

図3. バイオアクチュエータを電気刺激した際の収縮挙動

図4 (a-c) バイオアクチュエータの収縮挙動における左右の収縮変位と(d)収縮変位比

図4. (a-c) バイオアクチュエータの収縮挙動における左右の収縮変位と(d)収縮変位比

社会的インパクト

本研究では、筋細胞の配列を曲線状に制御することでひねり様の動きを示すバイオアクチュエータを開発した。UVレーザー加工技術を用いれば、筋肉以外の生体組織特有の微細構造を迅速かつ簡便に形成することも可能である。今後は、心筋や括約筋に見られる複雑かつ異方的な細胞配列をより精密に再現することで、生体特有の複雑な動きを再現したソフトロボットや薬剤試験のための臓器チップの開発が期待される。

今後の展開

本研究により、UVレーザー加工を利用したバイオアクチュエータの作製手法を構築した。特筆すべき点としては、曲線状の微細溝を用いることで、生体組織に見られるひねり様の収縮挙動を実現することに成功したことが挙げられる。今後は、異なる配列を有する筋細胞を三次元的に積層することで、心筋や括約筋の構造を模倣したバイオアクチュエータを開発し、生体組織特有の複雑な動きの再現に取り組む。また当該技術は、筋細胞以外の細胞にも応用可能であるため、筋肉以外の異方的な生体組織の模倣にも有用と期待される。

付記

本研究は、文部科学省 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)「ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合」(課題番号:18H05465,18H05468,18H05469)、基盤研究(B)(課題番号:21H03815)、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR203Q)、および、日本医療研究開発機構(AMED) 令和4年度 「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業(基盤技術開発プロジェクト)」(課題番号:JP22he2202018)の支援を受けて行われた。

用語説明

[用語1] バイオアクチュエータ : 弾性のある材料で作製された柔らかなアクチュエータの中でも、バイオ材料を動力源とするもの。培養筋細胞が動力源として用いられることが多い。ソフトロボットの駆動力としても期待される。

[用語2] ソフトロボット : 柔らかなボディをもち、しなやかな動きを行う、柔軟性のある材料で構成されたロボット。生物のように周囲の環境変化に応じて身体の形状や動きを柔軟に変化させることができる。

[用語3] UVレーザー加工 : 波長が355 nmの紫外線(UV)を利用したレーザー加工。従来のレーザーに用いられる赤外線よりも、短時間で熱ダメージの少ない微細加工が可能。

[用語4] エラストマー : ゴムのような弾性をもつ柔らかい高分子材料。シリコーンやスチレンブタジエン共重合体が知られる。

[用語5] 臓器チップ : 血管を模した微細な流路をもつチップと細胞を組み合わせて、生体組織の複雑な機能や構造を再現したデバイス。動物実験を代替する新たな薬剤試験手法として期待される。

論文情報

掲載誌 :
Biofabrication
論文タイトル :
UV Laser-Processed Microstructure for Building Biohybrid Actuators with Anisotropic Movement
著者 :
Hiroaki Mita, Yosuke Mizuno, Hiroto Tanaka, Toshinori Fujie
DOI :

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東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 藤枝俊宣

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東京工業大学 総務部 広報課

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軽量・安全な固体水素キャリアから低電位で水素生成 ホウ化水素シートを用いた水素貯蔵・放出技術

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要点

  • ホウ化水素シートから常温・常圧条件・電気エネルギーのみで水素を放出
  • ギ酸などの水素源と比べ、より低電位で水素を放出
  • 軽量・安全な水素貯蔵・放出材料としての応用に期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の河村哲志修士課程2年、山口晃助教、宮内雅浩教授、大阪大学 大学院工学研究科の濱田幾太郎准教授、筑波大学 数理物質系の近藤剛弘教授らの研究グループは、二次元ナノ材料であるホウ化水素シートから、常温・常圧において電気エネルギーのみで水素を放出できることを見出した。

ホウ化水素シートはホウ素と水素の組成比が1:1のナノシート[用語1]で、近年日本で発明された物質である。ホウ化水素シートは軽元素のホウ素と水素からなり、その質量水素密度は8.5 wt%と極めて高く、爆発のリスクのある水素ガスボンベに代わる軽量で安全な水素キャリア[用語2]としての応用が期待されている。これまでホウ化水素シートから水素を放出させる手段として、加熱や強い紫外線の照射が報告されていたが、今回、電位を印加するのみで水素を放出できることを見出した。水やギ酸などの他の水素源と比較して、ホウ化水素シートは水素を放出するために必要な電気エネルギーが小さく、より低電位で水素を放出できることを実証した。

本研究で開発した手法においては、ホウ化水素シートの分散体に電位を印加する単純な操作で、常温・常圧という穏やかな条件で水素を取り出すことができた。これを応用することで爆発性のある水素の貯蔵と放出を、高温や高圧を要する従来の方法よりも低エネルギーで安全に達成することが期待できる。

本研究成果は2024年2月1日付の科学誌「Small」に掲載された。

図1. ホウ化水素シートの走査型電子顕微鏡写真(a)と、陰極(cathode)への電位の印加によってホウ化水素シート(HB sheets)の分散体から水素分子(H2)が放出される様子を示す模式図(b)
図1.
ホウ化水素シートの走査型電子顕微鏡写真(a)と、陰極(cathode)への電位の印加によってホウ化水素シート(HB sheets)の分散体から水素分子(H2)が放出される様子を示す模式図(b)

背景

脱炭素化の一環でもある水素エネルギーの普及のため、水素を安全に貯蔵・運搬、そして、低エネルギーで放出できる水素キャリアが求められている。水素キャリアとしてよく使われる高圧水素ガスボンベは、水素貯蔵密度が低く、爆発や火災のリスクがあった。一方、液体の水素キャリアとしてアンモニア、ギ酸、有機ハイドライド等が知られるが、毒性、腐食性、水素放出に高温の加熱工程が必要などの課題があった。また、固体の水素キャリアとして水素吸蔵合金等が知られるが、それらの質量水素密度は低く、軽量で貯蔵・運搬するには大きな課題があった。

一方、筑波大学の近藤剛弘教授の研究グループは、水素貯蔵密度が高い固体状の二次元物質であるホウ化水素シートの合成に成功した(東工大プレスリリース 2017年9月26日)。ホウ化水素シートの質量水素密度は8.5 wt%を誇り、水素貯蔵密度の高い有機ハイドライドとして知られるメチルシクロヘキサンの値6.2 wt%を大きく上回る。これまで、ホウ化水素シートから水素を放出させる手段として加熱工程が知られているほか、紫外線の照射でも水素を放出できることを当研究グループが報告している(東工大プレスリリース 2019年10月25日)。しかしながら、加熱工程は化石燃料の使用を余儀なくされ、紫外線照射は光の当たる部分のみからしか水素が放出せず、効率的な水素生成に大きな課題があった。

今回の研究においては、ホウ化水素シートの分散体に電位を印加する単純な操作で、常温・常圧という穏やかな条件で水素を取り出すことができた。

研究成果

ホウ化水素シートは正に帯電した水素と負に帯電したホウ素から構成されている。我々の既報(Nat. Commun. 10, 4880, 2019)における第一原理計算[用語3]から、ホウ化水素シートにおける水素の反結合性軌道[用語4]に外部電極から電子を注入することで水素を放出できることを予想した。

既報(J. Am. Chem. Soc. 139, 13761, 2017)と同様にイオン交換法でホウ化水素シートを合成し、合成した粉末をアセトニトリル溶媒に分散させた。その分散溶液に電解質も溶解させた後に、カーボン製の作用極と対極、およびAg/Ag+からなる参照極[用語5]を挿入し、電気化学的な水素生成特性を評価した。電位を印加しない自然電位の条件では水素生成は認められなかった一方、電位を負に印加することでホウ化水素シート分散体からは水素が生成した。作用極に-1.0 V(対Ag/Ag+電極)の電位を印加した際の水素生成量は図2(a)に示した通りである。各電位における電流密度と水素生成速度を図2(b)に示す。ホウ化水素シート分散体においては、水素生成速度と電流密度が同様の傾向を示したことから、電流密度の増加は水素生成由来と理解できる。このときの水素生成のファラデー効率[用語6]は90 %以上の高い値を示し、作用極からホウ化水素シートに電子注入することで水素が生成していることが示唆された。また、作用極に-1.0 V(対Ag/Ag+電極)の電位を48時間印加することで、ホウ化水素シート自身が持っている水素量をほぼ全量放出できることも確認した。

図2. 電位(-1.0 V vs. Ag/Ag+)を印加した場合の水素生成量 (a), 各電位における電流密度と水素生成速度 (b).
図2.
電位(-1.0 V vs. Ag/Ag+)を印加した場合の水素生成量 (a), 各電位における電流密度と水素生成速度 (b).

観測された水素分子の生成がホウ化水素シート自身に含まれる水素原子由来であることを確認するため、同位体[用語7]を用いた追跡実験も行った。すなわち、ホウ化水素シートの水素原子を重水素原子に置換した試料を用いて同様の電気化学反応を行い、生成するガスを質量分析で解析した。その結果、質量数が3や4の重水素分子が生成することが確認できた。これらの実験結果からも、外部電極からホウ化水素シートに電子が注入される機構で水素が放出されることが明らかになった。

次に、ホウ化水素シートから水素を放出させるために必要な電気エネルギーについて、他の水素源である水やギ酸と同一の電気化学反応条件で比較した。図3に、各種水素源に対して電位を-1.0 V(対Ag/Ag+電極)に設定した場合の水素生成速度とオンセット電位[用語8]を示す。その結果、ホウ化水素シートは同じ電位の条件でも水分子やギ酸より水素生成速度が速く、オンセット電位も低かった。すなわち、ホウ化水素シートはギ酸などの他の水素キャリアと比べ、より大量の水素を低エネルギーで放出することが示された。水素生成特性は溶媒中の水素イオン濃度と関連すると考えられたが、ホウ化水素シートの酸解離定数(pKa)[用語9]は3.5 ± 0.2であって、ギ酸のpKa= 3.25とほぼ同様の値である(Commun. Mater. 2, 81, 2021)。これらの結果から、ホウ化水素シートにおける優れた水素放出性能は単純に溶液中の水素イオン濃度では説明できず、その特異な二次元構造が水素生成に有利であったことを示唆している。

図3. 各種水素源の水素生成速度(at -1.0 V vs. Ag/Ag+)とオンセット電位(at -0.01 mA/cm2).
図3.
各種水素源の水素生成速度(at -1.0 V vs. Ag/Ag+)とオンセット電位(at -0.01 mA/cm2).

水素放出後のホウ化水素シートの構造解析を行った結果、二次元のナノシート状の形状は維持され、負に帯電したホウ素種も確認できた。これらの結果は、水素放出後のホウ化水素シートに水素イオン源を添加することで、持続的に水素が生成する可能性を示唆している。

今後の展開

ホウ化水素シートが軽量・安全、そして、常温・常圧条件下でも低エネルギーで水素放出が可能な水素キャリア材料であることが分かった。今回はホウ化水素シートの分散体に対して評価を行ったが、本研究成果は分散体のシステムに限定されるものではなく、膜構造体や基板への担持体等にも適用できる汎用的な技術と成り得る。今後、ホウ化水素シートの大量合成、製造プロセスの低コスト化、膜構造体の開発を進め、更に、繰り返し使用可能な持続的水素生成システムの構築に向けた研究開発を行う予定である。

付記

本研究の一部は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務JPNP14021 により行われた。

用語説明

[用語1] ナノシート : 厚さがナノメートルオーダーの二次元状の物質の総称。代表的なナノシートとして、炭素からなるグラフェンが知られる。

[用語2] 水素キャリア : 水素を貯蔵・輸送するための担体。高圧水素ガスボンベ、液化水素、アンモニア、ギ酸、有機ハイドライド、水素吸蔵合金などが知られる。

[用語3] 第一原理計算 : 実験データや経験パラメーターを使わない基本的な原理に基づく計算。

[用語4] 反結合性軌道 : 分子同士の結合を開裂させるように働く軌道。

[用語5] 参照極 : 電気化学測定で電位の基準となる電極。本研究の電解液溶媒はアセトニトリルであるため、有機溶媒中でも使用できるAg/Ag+からなる参照極を用いた。

[用語6] ファラデー効率 : 電気化学反応で測定された電流に対し、実際の反応物生成に寄与した電流の割合。本研究では、水素1分子を生成するのに2電子を要するとして算出した。

[用語7] 同位体 : 原子番号が等しく質量数が異なる物質。本研究では、水素原子の同位体となる重水素原子を用いて実験を行った。

[用語8] オンセット電位 : 電気化学反応が始まる電位。本研究では、電流値が-0.01 mA/cm2以上に達するときの電位とした。

[用語9] 酸解離定数(pKa) : 酸の強さを定量的に表す指標。酸から水素イオンが放出される解離反応を考え、その平衡定数Kaの負の常用対数pKaによって表す。pKaが小さいほど強い酸となる。

論文情報

掲載誌 :
Small
論文タイトル :
Electrolytic Hydrogen Release from Hydrogen Boride Sheets
著者 :
Satoshi Kawamura, Akira Yamaguchi*, Keisuke Miyazaki, Shin-ichi Ito, Norinobu Watanabe, Ikutaro Hamada, Takahiro Kondo*, Masahiro Miyauchi*
DOI :

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共有結合性有機骨格の構造異性体の発現・制御方法を開発 次世代のナノ多孔材料の新しい構造制御自由度の創出

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要点

  • 共有結合性有機骨格(COF)は原料となるブロック分子を共有結合で繰り返し縮合して生成する多孔体で、さまざまな機能を付与可能なため、多くの応用可能性を有する。
  • COFをなす固い共有結合は高い熱的・化学的安定性の長所をもたらす一方、骨格構造の多様性の拡大が困難かつ結晶性の高い材料生成が困難という短所をもたらしていた。
  • 柔軟な部分構造を持つブロック分子を用いる着想から、世界で初めて3種類の構造異性体(化学組成は同一だが構造が異なるセット)を発現させることに成功した。
  • 本成果はCOFの新たな構造制御自由度を創出したもので、各異性体は高品質な単結晶として得られたことから、COFの多様性拡大と良質な材料生成の両方を達成した。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所の村上陽一教授、工学院 機械系のワン・シャウハン大学院生(博士後期課程)、理学院 化学系の河野正規教授、科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の福島孝典教授、庄子良晃准教授、理学院 化学系の植草秀裕准教授らの研究チームは、さまざまな応用が提案されているナノ多孔体の共有結合性有機骨格(COF, Covalent Organic Framework)[用語1]について、世界で初めて3種類の構造異性体(化学組成は同一だが構造が異なるセット)を選択的に発現させることに成功し、COFの構造制御の新たな自由度を創出した。

COFは原料となるブロック分子を共有結合で繰り返し縮合して生成する有機多孔体であり、材料内部に機能とナノ空間を設定できる特長と高い安定性とから多岐にわたる応用が提案されているが、固い共有結合のために構造の多様性の拡大が容易ではないこと、および結晶性の高い材料生成が難しいことが、応用への課題となっていた。また、構造の多様性拡大につながりうる異性体の発現は、COFではほとんど知られていなかった。

同研究チームは、柔軟な部分構造を持つブロック分子を用いる着想から、新規なCOFの創出に取り組んだ結果、生成条件によって3種類の構造異性体を作り分けて生成することに初めて成功した。また、各異性体はいずれも、従来のCOFでは稀な高品質な単結晶として得られた。本成果は、COFの諸特性(密度、孔サイズ、機械特性など)が、構造異性体の発現とその生成制御という新しい自由度を活用して設計可能であることを示したものであり、COFの応用展開を加速させるものである。本成果は1月11日、米国化学会の学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載された。

背景

世の中において多孔体の果たす役割は大きい。代表的なものでは活性炭、ゼオライト[用語2]メソポーラスシリカ[用語3]金属有機構造体(MOF)[用語4]などがある。また、電池の構成部品のセパレーターや固体電解質も内部にイオンの移動経路があり、広義の多孔体である。多孔体は孔サイズ、内部での孔のつながり方、および孔の壁面の化学的性質によって性質が決まるため、これらの性質を自由度高く設計できること(デザイン性)が重要となる。これらの項目に加え、多孔体の安定性(熱的・化学的安定性)、孔のサイズの均一さ、構造秩序の高さ(結晶性)なども重要な項目である。例えば、活性炭は安定性が高いが均質性と結晶性が低く、また、孔の壁面を化学基で修飾しない限り物理吸着[用語5]のみでの吸着となるため、吸着種に対する選択性が乏しい。MOFは結晶性とデザイン性に優れるが、応用や環境によっては安定性の低さが問題となる。このように、各多孔体には長所と短所とが存在している[参考文献1]

比較的最近出現した多孔体のカテゴリとして、共有結合性有機骨格(Covalent Organic Framework, COF)がある[参考文献2-5]。COFは、図1(a) のように結合の手を複数持ち、構造の基本単位となる「ブロック分子(building block molecule)」を縮合させて形成される、分子の幅の骨格からなるナノ多孔体である。また、ブロック分子の結合の手の数と向きによって平面状に結合が進展して積層する二次元COF(2D-COF、図1(b))と、三次元的に結合が進展して立体的なネットワークを構築する三次元COF(3D-COF、図1(c))に大別される。構造が立体的に構築される3D-COFの方が、より多様な骨格の幾何的分類(トポロジー、図1(c) に例)を取りうる。

図1. (a)共有結合形成の模式図、COF形成の模式図、およびCOFの特長、(b)二次元COF(2D-COF)の模式図、(c)三次元COF(3D-COF)の模式図。
図1.
(a)共有結合形成の模式図、COF形成の模式図、およびCOFの特長、(b)二次元COF(2D-COF)の模式図、(c)三次元COF(3D-COF)の模式図。

COFは材料として幾つかの特長(図1(a) の「特長」参照)から、これまで多くの応用が提案されている[参考文献5]。例えば、COFは結合エネルギーが高い共有結合[用語6]で構築されるため、より結合エネルギーが低い配位結合[用語7]で構築されるMOFより高い安定性を持つとされる[参考文献6]

しかし、材料一般に言えることとして、固体を形成する結合が固い(安定性が高い)という長所は、高い結晶性を持つ材料を得ることが難しいという短所とのトレード・オフとなる[参考文献6]。例えば、弱いファンデルワールス力[用語8]で形成されるミョウバンは容易に大きな結晶を生成可能であるのに対し、強い共有結合で形成されるダイヤモンドの大きな結晶の生成が難しいことは、その一例である。このため、固い共有結合で構築されるCOFは、これまで1 µm~10 µm以上の結晶を生成することは困難であった。さらに、結合の方向的制約が比較的弱い配位結合で構築されるMOFの幾何的構造分類(トポロジー)の報告数(350程度[参考文献7])と比べ、結合の方向的制約が強い共有結合で構築されるCOFのトポロジーの報告数は格段に少なかった(約25[参考文献8])。構造の多様性は、それぞれの応用に向けた材料設計の自由度に直接関係するため、COFの応用可能性を拡げるためには、良質な結晶生成を実現することに加え、構造の多様性を拡大することが課題となっていた。

研究成果

このような課題に対し、本研究チームは、柔軟な部分構造を持つブロック分子をイミン結合(共有結合の一種、図2(a))によってネットワーク化する新規な3D-COFの創出に取り組んだ。具体的に、図2(b) に示す、四面体構造(結合の手:4個)を持ち中心の炭素原子から伸びる4本の手の角度に柔軟性がある「TAM」と、直線構造(結合の手:2個)を持ち、柔軟かつ相互作用のあるポリエチレングリコール鎖[用語9]を側鎖に持つ「4EBDA」とを組み合わせて新規なCOFの創出を狙った。溶液中での生成条件をさまざまに変化させて試行を重ねた結果、図2(b) に示す3種類の異なる外形を持つ結晶を生成した(詳細は下記「論文情報」に記載)。これらはいずれも大きさが10 µm以上の高品質な結晶であり、それぞれTK-COF-1、TK-COF-2、TK-COF-3と名付けた。元素分析などの測定から、これらのCOFの組成は同一であることが見いだされた。

この3種類の結晶に対しX線回折計測とそのデータ解析を行った結果、構造がそれぞれ図3(a)~(c) のように解明され、互いに異なる構造を持つ異性体であることが判明した。そして、これらの異性体のトポロジーが、分類表記[参考文献9]にしたがってdia(TK-COF-1)、qtz(TK-COF-2)、dia-c3(TK-COF-3)であることが見いだされた。これは、三次元COFの構造と性質の多様性を、ブロック分子の選択という従来方法に加え、異性体の発現制御という新たな方法によっても増大可能であることを示した重要な発見である。具体的に、この構造異性体の選択によって、図3中に数値を示したようにCOFの密度を約3倍も変化させることに成功している。

図2. 本成果で発見された三重異性体のCOF。(a)イミン結合形成の模式図。(b)使用したブロック分子の組(“R”はポリエチレングリコール鎖)、およびそれらから生成された異性体TK-COF-1、TK-COF-2、TK-COF-3の結晶の模式図。(c)TK-COF-1、TK-COF-2、TK-COF-3の光学顕微鏡写真。
図2.
本成果で発見された三重異性体のCOF。(a)イミン結合形成の模式図。(b)使用したブロック分子の組(“R”はポリエチレングリコール鎖)、およびそれらから生成された異性体TK-COF-1、TK-COF-2、TK-COF-3の結晶の模式図。(c)TK-COF-1、TK-COF-2、TK-COF-3の光学顕微鏡写真。
図3. 結晶構造解析により解明された(a)TK-COF-1、(b)TK-COF-2、(c)TK-COF-3の骨格構造。それぞれdia、qtz、dia-c3の骨格トポロジーを持つことが明らかになった。
図3.
結晶構造解析により解明された(a)TK-COF-1、(b)TK-COF-2、(c)TK-COF-3の骨格構造。それぞれdia、qtz、dia-c3の骨格トポロジーを持つことが明らかになった。

社会的インパクト

本研究成果は、COFの構造と性質の新たな設計自由度を創出したものであり、従来の課題であった構造の多様性の拡大と結晶性の向上を達成し、COFの応用展開を加速させるものである。本研究で創出したTK-COF-1~3の応用としては、これらがポリエチレングリコール鎖を持つことから、例えば全固体ポリマー電池におけるリチウムイオンの固体電解質への応用が考えられる。これまでCOFにポリエチレングリコール鎖を付加して金属リチウム固体電池の構成を試みた報告は少数存在したが、いずれも結晶性が極めて低いアモルファス様の不定形物質にすぎなかった。一方、本成果で創製したTK-COF-1~3は、このような従来報告から飛躍的に構造秩序を高めていることに加え、構造異性体を選択生成することによってCOFの孔サイズや密度を大きく変化できることから、リチウムイオンの拡散性(移動度)や密度などの特性を望ましいように選択できるという画期的な利点がある。このため、生成したTK-COF-1~3は、新世代の金属リチウム全固体電池の電解質としての可能性を秘めている(詳細は下記「論文情報」の論文中に議論)。ポリエチレングリコール鎖は用途が広く、電池以外の応用にも有用となりうる。本成果は、ナノ多孔体であるCOF内に配置したポリエチレングリコール鎖を秩序だって構造化することを初めて可能とし、かつ、その密度と配置を異性体の生成制御という新しい方法で多様化できていることから、さまざまな革新的な応用に展開しうるものとなっている。

今後の展開

COFの革新的な応用展開を加速させるためには、異分野の研究者、企業との協業の推進が必要であり、さらなる革新的なCOFの創出とその社会実装に向けたパートナーを探してゆく。また、基礎研究と応用展開のバランスを取りつつ、スタートアップ創出を視野に入れ、引き続き積極的に研究開発資金の獲得と成果の展開を行ってゆく。

用語説明

[用語1] 共有結合性有機骨格(Covalent Organic Framework, COF) : 1種類以上(通常、2種類)のブロック分子を縮合させることにより、それらが共有結合で周期的につながったネットワークとして得られる有機ナノ多孔体。図1参照。2005年に2D-COF[参考文献2]が、2007年に3D-COF[参考文献3]が初めて報告された。多くの応用が提案されており[参考文献5]、近年急速に論文数が増大している。

[用語2] ゼオライト : 結晶性のアルミノケイ酸塩。1~2 nm以下のミクロ孔を持つ多孔体。日本ゼオライト学会のホームページ参照。

[用語3] メソポーラスシリカ : 約2 nm以上の規則的に配列した孔を有するシリカ多孔体。

[用語4] 金属有機構造体(Metal-Organic Framework, MOF) : 金属イオンとそれに配位結合した有機分子とから構築される周期構造からなる結晶性の多孔体。COFより約10年早く発見され、同様に多くの応用が提案されている。

[用語5] 物理吸着 : 吸着材とそこに吸着する物質(吸着質)との間に働く引力が、ファンデルワールス力による吸着。

[用語6] 共有結合 : 二原子間の結合が、1個またはそれ以上の価電子を二原子間で共有することによって起こる結合。

[用語7] 配位結合 : 二原子間の結合が、一方から他方への電子対供与によって起こる結合。

[用語8] ファンデルワールス力 : 原子や分子の瞬間的な電荷の揺らぎ(電荷の偏り)に起因する、近接する全ての物体間に働く弱い引力。

[用語9] ポリエチレングリコール鎖 : ポリエチレングリコール(構造式:HO-(CH2-CH2-O)n-H、n は正の整数)の一部を含む分子鎖。本研究で用いた4EBDA(図2(b))は、-O-(CH2- CH2-O)3-CH3の側鎖を2本持つ。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society (IF=15.0)
論文タイトル :
Triple Isomerism in 3D Covalent Organic Frameworks
著者 :
X. Wang, Y. Wada, T. Shimada, A. Kosaka, K. Adachi, D. Hashizume, K. Yazawa, H. Uekusa, Y. Shoji, T. Fukushima, M. Kawano, and Y. Murakami
DOI :

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「東工大の女性展」を三井住友信託銀行 自由が丘支店ロビーで開催 東工大のDE&I活動を発信

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東京工業大学は2023年12月1日から約1ヵ月間、東工大が全学をあげて推進するDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)活動ならびに東工大基金の取り組みを紹介するロビー展を、三井住友信託銀行 自由が丘支店において開催しました。

三井住友信託銀行 自由が丘支店の髙橋支店長(左)と益学長(右)

三井住友信託銀行 自由が丘支店の髙橋支店長(左)と益学長(右)

ロビー展の開催は東工大と三井住友信託銀行による初めての試みで、本学の活動と取り組みを広く地域の方々に知ってもらうことを目的としています。

このロビー展では、「~多様な視点でありたい未来へ~ 東工大の女性展」と題し、各研究分野の第一線で活躍をしている19人の女性教員を紹介するパネルを展示しました。展示パネルでは、写真のほか、各教員の研究概要と研究キーワードが紹介されました。
これに加え、本学がDE&I活動として取り組んでいる「女性活躍応援フォーラム」や「女性活躍環境改善モデルプロジェクト」の一環で新設した女性専用リフレッシュスペース、さらにこれらの活動を後押しする「女性活躍応援基金」を紹介するパネルも展示されました。

開催期間中は、たくさんの来場者が熱心に展示を鑑賞し、本学への関心の高さがうかがえました。12月20日には、益一哉学長が会場を訪問して展示パネルを1枚1枚見学しながら、自由が丘支店の髙橋博和支店長を始めとする銀行関係者に本学の取り組みを紹介し、和やかに談笑する場面もありました。

展示パネルを1枚1枚鑑賞する益学長

展示パネルを1枚1枚鑑賞する益学長

本学ではイノベーションに必要なDE&Iの要となる「理工系女性の育成」を急務と考え、今後も強力に取り組みを推進していきます。

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本学教員2人が第40回井上学術賞・井上研究奨励賞を受賞

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東京工業大学の教員2人が、第40回井上学術賞・井上研究奨励賞を受賞しました。公益財団法人井上科学振興財団が12月14日に発表しました。

関根康人 地球生命研究所 教授

賞名

井上学術賞

研究題目

太陽系における生命生存可能環境の発見、およびその形成要因の解明

関根康人 地球生命研究所 教授

山本和樹 理学院 物理学系 助教

賞名

井上研究奨励賞

博士論文題目

冷却原子系における散逸を伴う非平衡量子多体物理

山本和樹 理学院 物理学系 助教

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豊橋技術科学大学、広島大学と半導体人材育成に係る単位互換覚書を締結 網羅的な半導体人材育成プログラムが本格始動

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東京工業大学は、豊橋技術科学大学および広島大学と2024年1月1日、半導体人材育成に係る単位互換覚書を締結しました。

この覚書は、三大学を中心として日本の半導体産業の復興を目指すために立ち上げられ、文部科学省の「次世代X-nics(エックスニクス)半導体創生拠点形成事業」の対象拠点として採択された「集積Green-niX(グリーンニクス)研究・人材育成拠点」における、革新的半導体集積回路の統合的研究開発を俯瞰的にマネージメントできる人材であるLSI Innovator(エル・エス・アイ・イノベータ)[用語1]の育成プログラムに関する基本的な取り決めを定めるものです。三大学から関連科目を提供することにより、相互に半導体人材育成の充実を図り、交流を深め、学生に対して専門的な学修機会を提供することを目的にしています。対象となる学生は、2024年度以降他の大学で開講される関連科目を履修できることになり、修得した単位はそれぞれの大学における単位として認定されます。

今後、集積Green-niX研究・人材育成拠点に参加する他の教育機関もこのプログラムに参加し、更に広範な学生に対して高度な半導体人材育成プログラムを提供していく予定です。

東京工業大学が、豊橋技術科学大学、広島大学と半導体人材育成に係る単位互換覚書を締結

用語説明

[用語1] LSI Innovator : 集積Green-niX研究・人材育成拠点では、革新的半導体集積回路の統合的研究開発を俯瞰的にマネージメントし、日本の半導体業界をリードしていく人材をLSI Innovator(イノベータ)」と呼んでいます。

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第3回女性活躍応援フォーラム「理工系ライフと将来」を開催

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東京工業大学企画本部ダイバーシティ推進室は11月25日、3回目となる女性活躍応援フォーラムを大岡山キャンパスのHisao & Hiroko Taki Plaza(ヒサオ・アンド・ヒロコ・タキ・プラザ)で開催しました。

総合司会の野村教授(左)と熱心に耳を傾ける参加者

総合司会の野村教授(左)と熱心に耳を傾ける参加者

今回は、「理工系ライフと将来」をテーマに、国内外在住の女子中高生やその保護者、教育関係者などに向けて、理工系に進んだ女性が学生生活をどう過ごし、どのような将来像を描いているのかを伝え、理工系への進路選択を応援する目的で実施しました。

ダイバーシティ推進室 女性等活躍支援部門長の野村淳子マネジメント教授による司会のもと、益一哉学長のあいさつ、井村順一理事・副学長(教育担当)からの東工大での学生生活や進路状況などの説明に続き、物質理工学院 応用化学系の中島裕美子教授による「ものづくりを科学する」と題した基調講演が行われました。

さらに、桑田薫理事・副学長(ダイバーシティ推進担当)をファシリテーターとして、在学中の女子学生と卒業生らの登壇者に加え、ドイツのアーヘン工科大学へ留学中の学生もリモートで結んでパネルディスカッションを行い、参加者に、大学に入学してから社会人になっていくまでのイメージを描いてもらいました。

桑田理事・副学長(左端)をファシリテーターとして、在学生・卒業生とパネルディスカッション

桑田理事・副学長(左端)をファシリテーターとして、在学生・卒業生とパネルディスカッション

質疑応答の時間には多くの質問が寄せられ、佐藤勲総括理事・副学長から閉会のあいさつがあった後も、参加した女子中高生たちは基調講演者やパネラーとして登壇した学生・卒業生と活発な情報交換を行いました。さらに、大学を卒業した理工系の女性が、社会人として企業で働く様子を描いた映像も流され、「理工系ライフと将来」を十分にイメージできる一日となりました。

東工大企画本部ダイバーシティ推進室は、学生や職員らに対するさまざまな支援を統括する組織として、令和4年4月に設置されました。今回のフォーラム開催にあたっては、手話通訳や音声の文字化、聴導犬の同伴も可能とするなど、多様性に配慮した対応を実施しました。また、在外教育施設への周知も行い、世界各地で学ぶ日本人女子中高生にとっても、広く「理工系の日々や将来」を考えるきっかけとなるよう働きかけました。

本学は令和6年度より学士課程入試に女子枠を導入したことから、これまでより多数の女子学生の入学が見込まれます。そのため当推進室では、学内関係部署と連携して、女性休養室をはじめとした環境の整備に取り組むと同時に、多様性重視に基づくトイレ表示の検討やSOGI(性的指向・性自認) 理解への取り組みなどを積極的に進めています。

大岡山キャンパスの推進室に看板を設置(左から益学長、桑田理事・副学長、佐藤総括理事・副学長、井村理事・副学長)

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原子分解能を有する結晶スポンジ法に利用できる新たな金属有機構造体(MOF)の開発に成功 創薬等に応用可能な汎用性が高く迅速な精密分子構造解析に期待

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要点

  • 分子の構造解析技術である結晶スポンジ法に利用できる新たな金属有機構造体(Metal-Organic Framework; MOF)を開発
  • MOFの細孔内の水がさまざまなゲスト分子をしなやかに捉える「ゲスト適合型水ネットワーク」機構を発見
  • 創薬等に応用可能な原子分解能を有する汎用性が高く迅速な精密分子構造解析に期待

概要

東京工業大学 理学院 化学系の河野正規教授と和田雄貴助教らの研究チームは、分子の構造解析技術である結晶スポンジ法に利用できる新たな細孔性材料の金属有機構造体(Metal-Organic Framework; MOF)[用語1]を開発した。

研究推進においてさまざまな最新技術を活用しうる現代でも、分子の構造決定は、研究のボトルネック[用語2]となることが多く、研究の進展を決める重要な段階の一つとなっている。例えば、創薬では副作用が少なく強い薬効を持つ分子が重要となるが、そのような分子は生体の分子認識能に応じた複雑な構造を持ち、かつ、生産量も微量であることが多く、少量でも正確に構造決定ができる構造解析法[用語3]が求められている。

構造解析法の一つである結晶スポンジ法は、ノーベル賞候補技術としても知られており、ナノメートルサイズの規則的な細孔(MOF等)の中に構造解析対象分子(ゲスト分子)を規則的に包接[用語4]・整列させることで、周期性を利用したX線回折による解析を可能とする手法である。しかし、これまでに主に使用されてきたMOFを利用した結晶スポンジ法では、細孔内への取り込み機構の制約により、解析対象となるゲスト分子が限定されるなど、汎用性に課題を抱えていた。

今回、研究チームは、新たに開発したMOFにおいて、その細孔内に存在する水がしなやかに形を変えることで構造解析対象であるゲスト分子の形状や性質に適合し柔軟に捕捉する「ゲスト適合型水ネットワーク」機構を発見した。この機構により、これまで取り込み機構の制約により解析できなかったようなゲスト分子においても、細孔内に円滑に取り込み、原子分解能[用語5]を有する精密な分子構造解析が可能となった。

今回発見したMOFによる結晶スポンジ法によって、創薬をはじめとした材料科学全般において分子の構造決定を従来よりも迅速に行うことが可能になると期待される。この研究成果は、2024年1月2日付「Nature Communications」にオンライン掲載された。

背景

結晶スポンジ法は2013年に東京大学の藤田誠卓越教授らの研究グループにより報告された新しい概念の構造解析法であり、構造解析対象分子の結晶化[用語6]が不要であることが大きな特徴である。この手法は周期的な細孔の中に構造解析対象分子(ゲスト分子)を規則的に包接・整列させ、周期性を利用した単結晶X線回折により分子の構造解析を行う手法である。気体、液体、固体などの対象物質の状態を問わず、理論上ナノグラムオーダー以下の少量のサンプルで分析が可能であるため、創薬業界や香料業界などから注目されている。結晶スポンジ法においてゲスト分子を包接するMOFは非常に重要であるが、これまでに主に使用されてきたMOFは構造の物理的・化学的安定性、細孔内の性質、細孔の大きさなどにより解析対象となるゲスト分子が制限されていた。特に細孔環境が疎水的であったため、親水的な分子との相性が悪いなどの問題があった。約70%が水分により構成されている人体にとっては親水的な分子は医薬品として相性が良いが、上述の通り、これまでのMOFでは創薬目的での解析利用に制限があった。また、構造解析における分解能にも課題が多くMOFとゲスト分子の相性が悪く、結晶学的解析のみでは構造の断定が困難なことがあった。

研究成果

今回研究グループが開発したMOFの細孔表面には水が存在し、その水がゲスト分子の形状や性質に合わせてしなやかに適合することにより、ゲスト分子を柔軟に捉えることが可能で、疎水的な分子だけでこれまで課題であった親水的な分子の構造解析にも成功した。MOFまたはMOF細孔内の水が、指向性が高く強い結合である水素結合や配位結合によりゲスト分子を捕捉し、原子の位置が正確に判定できる原子分解能の解析が可能となった。これにより、これまでに結晶構造が未報告である3つの天然物部分構造分子を含む14種類もの生物活性物質を構造解析することに成功した。さらに、MOF自体の物理的・化学的な構造安定性も非常に高く、極性溶媒にも年単位の長期保管が可能で、結晶の耐久性も優れていため実用化を視野に入れられる水準であった。

図1 ゲスト適合型水ネットワークの概念図

図1. ゲスト適合型水ネットワークの概念図

図2 研究グループが開発したMOFを用いて解析されたゲスト分子と解析されたその電子密度マップの一覧。aは市販医薬品であり、bは結晶構造が未報告の天然物部分構造である。

図2. 研究グループが開発したMOFを用いて解析されたゲスト分子と解析されたその電子密度マップの一覧。aは市販医薬品であり、bは結晶構造が未報告の天然物部分構造である。

社会的インパクト

分子とはその性質を示す最小の単位であり、その構造や周辺分子との相互作用を知ることで、分子がなぜ機能を発現するかを理解することができる。そのため、材料科学において分子の構造を明らかにすることは、その性質改良をする上で必要不可欠であるが、同時に研究遂行上ボトルネックとなる段階である。ボトルネックを突破し、構造と機能の相関を解明することで、より良い材料の開発に関する知見が集まり、機能の改良が効率的に行えるようになる。例えば、創薬分野での新規治療薬候補分子の構造解析に今回のMOFによる結晶スポンジ法を適用することで研究の迅速化が期待できるなど、本技術により材料科学全般の研究の進展を加速させることが可能になると考えられる。

今後の展開

今回の新しいMOFを用いて、構造解析が必要な高機能性分子の研究に広く貢献することが期待できる。現在、特に天然物化合物の解析を精力的に行い、創薬への貢献を目指している。また、今回の発見で得られた知見を活かして、さらに高機能性のMOF、例えば分子量が1,000 g mol-1を超える分子の包接が可能なMOFの開発も継続していく。なお、本MOFによる構造解析手法は、テクモフ株式会社(TEKMOF)を通じて広く研究・産業界に提供していくことを予定している(東工大発ベンチャー称号申請中)。

付記

本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP20H04662、JP21K18976、JP23H04878)、同 日中韓フォーサイト事業、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2106)、科研費学術変革領域研究(A)「メゾヒエラルキーの物質科学」および旭化成ファーマの支援を受けて行われた。また、単結晶X線回折実験は、フォトンファクトリープログラム諮問委員会の承認(課題番号2021G046、2022G621)を得て、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の放射光実験施設PF-BL5Aにて行われた。

用語説明

[用語1] 金属有機構造体(Metal-Organic Framework; MOF) : 金属と有機配位子が相互に繰り返し結合しネットワーク構造をもつ細孔を有する材料。代表的な細孔体である活性炭やゼオライトを超える高表面積な細孔形成を実現でき、金属の活性サイトを形成/導入も可能なため、ガス吸着、分離、センサーや触媒など幅広い応用が期待されている材料。

[用語2] ボトルネック : 速度を制限している要因。

[用語3] 構造解析法 : 分子の構造を明らかにする方法であり、測定が容易で解析が困難な分光法と測定が難しく解析が容易な回折法に大別される。本研究では後者の回折法を用いた測定も解析も容易な手法の開発を目指したものである。

[用語4] 包接 : 一定の範囲の中に包み込むこと。本発表では特にMOF細孔内にゲスト分子が取り込ませることを意味している。

[用語5] 分解能 : 結晶構造解析においてその構造がどれほど細部まで分析できるかを判断する指標。分子分解能とは原子同士のつながりまで信頼性があり、分子の概形までしか判断できない。一方、原子分解能とは原子の位置にも信頼性があるため分子の結合長などの分子の物理的性質も議論することが可能である。信頼性が高い原子分解能のデータを取得するが結晶スポンジ法において重要である。

[用語6] 結晶化 : ある物質の液体、あるいは非晶質や溶液から結晶が形成されること。本発表では特に大きさが最低でも一辺10 μm以上である大きさの単結晶作成方法を意味している。使用する溶媒、温度、手法などで結晶化には多くの条件を検討し時間を要する場合がある。

論文情報

掲載誌 :
Nature communications
論文タイトル :
Atomic-resolution structure analysis inside an adaptable porous framework
著者 :
Yuki Wada, Pavel M Usov, Bun Chan, Makoto Mukaida, Ken Ohmori, Yoshio Ando, Haruhiko Fuwa, Hiroyoshi Ohtsu and Masaki Kawano
DOI :

理学院

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Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661


ウェアラブル温熱制御デバイスに流体検知機能を内蔵して小型化を実現 ファッション・医学療法・VR気温フィードバックに活用可能性

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概要

東京工業大学 工学院 機械系の前田真吾教授、芝浦工業大学大学院理工学研究科の桑島悠氏、工学部の細矢直基教授ら研究チームは、軽量、小型でありながら、衣服内に循環させる液体の流量を自己感知して温熱制御を可能にするウェアラブルデバイスを発表しました。

従来のデバイスは、流量を感知する装置が大きく、かさばっていました。研究チームは流量を自己感知するシステムを開発することで、小型化を実現しました。このデバイスの発展は、仮想空間での温度変化のフィードバックを可能にしたり、温熱療法を簡易化したり、ファッション以外にも活用の可能性があります。

この研究成果は、「ACS Applied Materials & Interfaces」誌に掲載されています。

小型スマート電気流体ポンプ(PSEP)を利用した小型ウェアラブル温熱制御デバイス

小型スマート電気流体ポンプ(PSEP)を利用した小型ウェアラブル温熱制御デバイス

背景

レースカーのドライバー、化学療法などにすでに使用されている液体冷却衣服は、衣服に埋め込まれたチューブを利用して、ポンプで冷たいまたは温かい液体を循環させ、体温を変化させます。しかしこのようなデバイスには、かさばり、騒音の大きい装置が必要で、利便性に課題があります。そこで近年、液体中に電荷を注入し、電界を利用して液体を移動させることで送液する電気流体力学(EHD)ポンプがウェアラブル機器として注目されています。EHDポンプは静音で軽量、他のポンプよりも高い流量を確保できます。体にフィットしやすいソフトチューブとEHDポンプを組み合わせることで、小型で静音なウェアラブル温熱制御デバイスを実現できます。しかし、このような柔らかいチューブは、曲げによって液体が閉塞する可能性がありました。

研究成果

研究チームは、衣服用の新しい小型スマート電気流体ポンプ(PSEP)の開発に成功しました。装置内を循環させている液体の流量モニタリングする自己感知システムにより、これまで必要とされていた機器が不要となったため小型化が可能となりました。そのため、従来のウェアラブル温熱制御デバイスの課題となっていた騒音や大きさ、ファッション性の制限を解決することができました。

このPSEPの重要な技術革新は、EHDポンプにおける流量の自己感知システムです。この自己感知システムは、PSEPの電極間の電流の変化を利用して流量を測定します。何らかの負荷や変動によって流量が変化すると、電極を流れる電流が変化します。この電流の変化を利用して、装置自体の流量を測定することができます。研究チームは実験的にモデルを検証し、その結果が理論計算と一致していることを確認しました。さらに、PSEPは最大3℃の温度調節が可能で、個人の快適性を大幅に向上させることが明らかになりました。

このシステムを使用して、通常のシャツのポケットに収まるコンパクトなPSEPデバイスを製作しました。また、直感的な制御を可能にするスマートフォンインターフェースを備えています。さらに、自己感知によって詰まりを検知してユーザーに通知する機能を搭載し、効率的な運用を可能としました。

将来的には、PSEPの耐久性を向上させるために、自己修復液体や先端材料などの技術をPSEPに適用させていく予定です。

研究助成

本研究は、日本学術振興会による科学研究費補助金(JP18H05473)、特別研究員奨励費(JP21J23563)の助成を受けたものです。また、日本学術振興会の科学研究費補助金JP21H01293およびJP21H04882の助成に感謝いたします。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル :
Pocketable and Smart Electrohydrodynamic Pump for Clothes
著者 :
  • 桑島悠
    芝浦工業大学大学院 理工学研究科 機能制御システム専攻
  • 山口雄也
    芝浦工業大学大学院 理工学研究科 機械工学専攻
  • 山田雄平
    東京工業大学 国際先駆研究機構 リビングシステムズ材料学研究拠点 特任助教
  • 森田崇文
    東京大学大学院 学際情報学府 学際情報学専攻
  • Ardi Wiranata
    Universitas Gadjah Mada
    Department of Mechanical and Industrial Engineering,
    Facalty of Engineering 助教
  • 南之園彩斗
    芝浦工業大学大学院 理工学研究科 機能制御システム専攻
  • 細矢直基
    芝浦工業大学 工学部 機械機能工学科 教授
  • 筧康明
    東京大学大学院 情報学環 教授
  • 前田真吾
    東京工業大学 工学院 機械系 教授
DOI :

工学院

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重いIV族元素からなるダイヤモンド量子光源からの自然幅の発光を観測 量子ネットワークの実現に前進

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要点

  • ダイヤモンド格子中に鉛(Pb)原子と空孔からなる量子光源(PbV中心)を形成
  • 高効率な量子もつれ生成に必要な自然幅に近い発光観測に成功
  • 約16 Kとこれまでのダイヤモンド量子光源より高い温度で、狭線幅での発光を確認

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の岩﨑孝之准教授、波多野睦子教授、汪鵬(ワン・プェン)大学院生、物質・材料研究機構 ナノアーキテクトニクス研究センターの谷口尚センター長、産業技術総合研究所 先進パワーエレクトロニクス研究センターの加藤宙光上級主任研究員、牧野俊晴研究チーム長、量子科学技術研究開発機構 高崎量子応用研究所の小野田忍上席研究員、ウルム大学のFedor Jelezko(フェドー・ジェレツコ)教授らの共同研究グループは、ダイヤモンド構造にIV族元素である鉛原子を注入した量子光源において、発光線幅の物理限界である自然幅[用語1]に近い発光を得ることに成功した。

量子もつれ[用語2]を基に安全な情報通信を行う量子ネットワークでは、送受信地点および中継点のノードにおいて自然幅で発光する量子光源が必要となる。本研究では、ダイヤモンド中に形成した鉛と空孔からなる複合欠陥である鉛—空孔(PbV)中心からの自然幅に近い発光を観測した。さらに、狭線幅での発光が約16 Kとこれまでのダイヤモンド量子光源よりも高い温度でも得られることを実証した。

今後、量子状態を保存するためのスピン特性の計測と合わせることで、PbV中心を用いた量子ネットワークノードの構築が期待できる。

研究成果は2月15日(米国東部時間)にアメリカ物理学会の「Physical Review Letters」にオンライン掲載された。

背景

量子ネットワークは、量子もつれを用いて安全に通信を行う情報ネットワークとして注目されている。量子ネットワークでは、送受信地点および中継点のノードにおいて、物理限界である自然幅で発光する量子光源が必要となり、本研究グループではダイヤモンドを用いた光源開発に取り組んできた。ダイヤモンド中の発光中心は優れた発光およびスピン特性から、量子ネットワークを構築するための固体量子光源として期待されている。中でも、IV族元素と空孔からなるIV族—空孔中心は、量子もつれ生成に用いる発光であるゼロフォノン線[用語3]への高い集中性および外部ノイズへの高い耐性による安定な発光という点から量子ネットワーク応用へ期待されている。IV族—空孔中心のうち、重いIV族元素であるスズ(Sn)やPbを用いた光源では希釈冷凍機を必要としない温度で優れたスピン特性が期待できるという特長がある。一方、効率的な量子もつれ生成のためには、スピン特性に加え、発光線幅が物理限界である自然幅に近い状態を有する優れた発光特性も必要となる。しかしながら、IV族元素のうち安定かつ最も重たいPbを用いた量子光源である鉛—空孔中心(PbV中心)においては、これまで自然幅での発光は観測されていなかった。

研究成果

本研究では、ダイヤモンド基板へのPbイオンの注入および2,000℃を超える高温加熱で形成したPbV中心において、励起状態寿命[用語4]から決まる物理限界である自然幅に近い発光線幅を観測することに成功した。PbV中心は、ダイヤモンド格子内で図1aのような構造を持つ。Pb原子が格子間位置に存在し、その両隣の元々炭素がいた位置が空孔となっている。この構造からはCピークおよびDピークと呼ばれる2本の発光線が主に観測される(図1b)。

図1 ダイヤモンド格子中のPbV中心。(a) PbV中心の原子構造の模式図。(b) PLスペクトル。

図1. ダイヤモンド格子中のPbV中心。(a) PbV中心の原子構造の模式図。(b) PLスペクトル。

まず、作製したPbV中心の線幅の限界を決める励起状態寿命について、パルスレーザを用いた手法により評価した。結果として、励起状態寿命として4.4 nsが得られ、これは自然幅として約36 MHzに対応する。次に、PbV中心のCピークの線幅を発光励起分光法(PLE法)[用語5]を用いて測定した。PLE法を用いる理由は、通常の発光スペクトル計測では、狭い自然幅の測定に求められる分解能が得られないためである。図2aに示すように測定温度約6 Kにおいて線幅約39 MHzと自然幅に非常に近いスペクトルが得られた。これは、励起状態寿命がPbV中心のCピークの線幅を決定する主要因であることを示している。PLE測定を繰り返し行ったところ、このPbV中心の発光ピークの位置に大きなずれは見えず、時間的に安定した発光波長を観測した。一方、もうひとつの発光線であるDピークの線幅は発光スペクトルにおいて400 GHz以上となり、Cピークと比べ線幅が4桁大きい。本研究では、格子振動であるフォノンの影響によってDピークが太くなり、2つのピークの線幅の差はIV族元素の種類によって変化することを明らかにした。さらに、PbV中心では基底状態でのフォノン吸収[用語6]が抑制されており、10 K以上においてもCピークに関して自然幅に近い発光線幅が得られた(図2b)。約16 Kにおいても自然幅の1.2倍程度の線幅に留まっており、窒素—空孔中心や他のIV族元素であるシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、Snを用いたダイヤモンド量子光源よりも高い温度においても狭線幅が達成できることを示した。

図2 PbV中心の発光特性。(a)CピークのPLEスペクトル。(b)Cピークの線幅の温度依存性。

図2. PbV中心の発光特性。(a)CピークのPLEスペクトル。(b)Cピークの線幅の温度依存性。

社会的インパクト

本研究では、重いIV族元素であるPbを用いたダイヤモンド中の量子光源においても自然幅に近い優れた光学特性が得られることを示した。特に、フォノンの影響を抑制できることから、10 K以上の温度においても狭い線幅が達成できることを実証した。これらの成果は、冷凍機の性能を緩和できることを示しており、大規模な長距離量子ネットワークの構築に繋がるものと期待できる。

今後の展開

固体量子光源からの安定した自然幅に近い発光は、高効率な量子もつれ生成にとって重要な特性である。本研究成果を基に、今後、PbV中心のさらなる光学特性およびスピン特性の研究が進展することが期待できる。特に、量子光学特性としては異なるPbV中心からの光子を用いた2光子干渉計測の実証、スピン特性としては長いスピンコヒーレンス時間の実証が必要となり、これらの特性を用いた量子もつれ生成へと展開していきたい。

付記

本研究はJSPS科学研究費助成事業(JP22H04962、JP22H00210、JP23KJ0931)、東レ科学技術研究助成、文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププロジェクト(Q-LEAP)(JPMXS0118067395)、JSTムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2062)の支援を受けて行われた。

用語説明

[用語1] 自然幅 : 量子光源からの光の線幅はレーザによって電子が励起された励起状態での寿命によって決定され、この物理限界である線幅が自然幅である。しかしながら、格子振動であるフォノンとの相互作用や時間的に発光位置が変化するスペクトル拡散などの影響があると線幅が大きくなってしまう。高効率な量子干渉や量子もつれ生成にはこのような影響を抑制した自然幅での発光が必要となる。

[用語2] 量子もつれ : 量子もつれ状態にある2個の粒子では、ひとつの粒子の状態を観測によって決定すると、もう一方の粒子の状態も決まる。ダイヤモンド量子光源を用いた量子ネットワークでは、光子を介して離れたスピン間の量子もつれを生成する。

[用語3] ゼロフォノン線 : 量子光源の発光の内、フォノンの遷移を伴わない発光。一方、フォノンの遷移を伴う発光をフォノンサイドバンドと呼ぶ。

[用語4] 励起状態寿命 : 基底状態からレーザによって励起された電子が励起状態に留まっている時間。

[用語5] 発光励起分光法(PLE法) : 量子光源からの狭い発光線幅を計測する技術。通常の発光スペクトル計測の分解能では狭い線幅の自然幅を測定することができない。PLE法では狭線幅の波長可変レーザおよび高精度な波長計を用いることで、量子光源からの狭線幅のスペクトルを観測することができる。

[用語6] フォノン吸収 : フォノンを吸収することで基底状態内および励起状態内のエネルギー準位間で電子の励起が発生する。この電子とフォノンの相互作用はスペクトルが太くなるひとつの要因となる。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Transform-limited photon emission from a lead-vacancy center in diamond above 10 K
著者 :
Peng Wang, Lev Kazak, Katharina Senkalla, Petr Siyushev, Ryotaro Abe, Takashi Taniguchi, Shinobu Onoda, Hiromitsu Kato, Toshiharu Makino, Mutsuko Hatano, Fedor Jelezko, Takayuki Iwasaki
DOI :

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東京工業大学 工学院 電気電子系

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令和6年度一般選抜(前期日程)を受験される方へ

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令和6年度一般選抜(前期日程)

下記のとおり、令和6年度一般選抜(前期日程)を実施予定です。
試験期間中は、以下のキャンパス内への受験生および関係者以外の立ち入りを制限しています。

試験日

令和6年2月25日(日)~ 2月26日(月)

会場

大岡山試験場/大岡山キャンパス

令和6年度一般選抜(前期日程)については、田町試験場/田町キャンパス(附属科学技術高等学校)では実施しません。

注意事項

不測の事態が発生した場合

所定の試験日程による試験実施が困難になるような不測の事態が発生した場合、以下の「高校生・受験生向けサイト」の新着入試情報で情報発信しますので、定期的にご確認ください。

新着入試情報|高校生・受験生向けサイト

各試験場へのアクセス および 試験場案内

各試験場へのアクセスについては、以下のページに掲載していますので、ご確認ください。
また、受験番号ごとの試験室等詳細を記載した試験場案内についても、2月22日(木)に同じく以下のページに掲載しますのでご確認ください。

学士課程選抜試験 試験場案内等|学士課程入学|高校生・受験生向けサイト

学士課程選抜試験

お問い合わせ先

入試課大学入試グループ

Email nyu.gak@jim.titech.ac.jp

光合成微生物シアノバクテリアにおける新奇プラスミド複製因子の発見

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要点

  • 光合成微生物であるシアノバクテリア[用語1]が持つプラスミド[用語2]の複製に関わるタンパク質CyRepX(Cyanobacterial Rep-related protein encoded on pSYSX)を同定しました。また複数のシアノバクテリア種に保存されていることをゲノム情報解析により明らかにしました。
  • CyRepXが複製に関わる他のタンパク質と類似した構造を持つことが立体構造予測により示唆されました。
  • CyRepXを導入した発現ベクター[用語3]を開発し、既存のベクターと併用して外来遺伝子を発現できることを示しました。
  • シアノバクテリアはカーボンニュートラルな有用物質生産ホストとして期待されており、本研究で開発されたベクターはシアノバクテリアの産業利用を加速させる新たな遺伝子工学ツールとして期待できます。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の前田海成助教、東京農業大学 大学院バイオサイエンス専攻の大館和真、坂田実乃里修士課程学生、坂巻裕博士課程学生(研究当時)、荷村(松根)かおり博士研究員、渡辺智准教授、静岡大学 理学部の大林龍胆助教およびFreiburg大学 Wolfgang R. Hess教授らの研究グループは、光合成微生物であるシアノバクテリアのプラスミド複製に関わるタンパク質CyRepXを新たに同定し、これを用いたベクターを開発しました。

本研究成果は2月14日(現地時間)に国際学術誌「Frontiers in Microbiology」のオンライン版に掲載されました。

研究成果

CO2を固定しつつ炭素化合物を合成する光合成微生物シアノバクテリアは、大腸菌や枯草菌などのモデル微生物とは異なり、複数の大型のプラスミドを持つ種が数多く見つかっています。プラスミドは細胞内で複製されることで維持されますが、複製機構が同じプラスミドは同じ細胞では共存できません(不和合性と呼ばれます)。シアノバクテリアが複数のプラスミドを同じ細胞に持つということは、それぞれのプラスミドの複製機構が異なっており、互いに協調しながら細胞機能を担うと考えられます。しかしながら、シアノバクテリアにおいてプラスミドの複製に関する情報は極めて限られていました。

Synechocystis sp. PCC 6803(以下PCC 6803)は一番最初に全ゲノム配列情報が完全解読されたシアノバクテリアであり、主染色体の他に4つの大型プラスミド(pSYSM, pSYSX, pSYSA, pSYSG)を持つことが知られています(図1)。研究グループは、これまでにpSYSAの複製に関わる因子CyRepAを同定しましたが[参考文献1、2]、他の大型プラスミドの複製因子は不明でした。本研究ではPCC 6803のゲノムライブラリーを用いた網羅的スクリーニングを実施し、新たに複製活性を持つ領域を2ヵ所(slr6031、slr6090遺伝子)見つけました(図2)。この2つの遺伝子は共にpSYSX上に存在しており、配列が酷似していることから同様の機能を持つホモログであると考えられました。

図1 シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803のゲノム構成

図1. シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803のゲノム構成

図2 シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803の自律複製領域の探索

図2. シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803の自律複製領域の探索

slr6031、slr6090遺伝子がコードするタンパク質Slr6031、Slr6090は幅広いシアノバクテリア種に保存されている一方で、その機能は配列情報だけからでは全くわかりませんでした。そこで立体構造予測プログラムを用いて解析を進めた結果、Slr6031、Slr6090の立体構造が他の微生物が持つDNA複製関連タンパク質と似ていることに気がつきました。次にslr6031、slr6090遺伝子を用いて発現ベクターp6031およびp6090を構築し異種のシアノバクテリアであるSynechococcus elongatus PCC 7942(以下PCC 7942)を用いて複製活性を評価しました。p6031およびp6090は共にPCC 7942において保持されたことから、Slr6031/Slr6090を新規の複製因子としてCyRepX(Cyanobacterial Rep-related protein encoded on pSYSX)と命名しました(図3左)。

さらに研究グループはp6031/p6090の有用性を検証しました。CyRepA配列を用いて作られたpYSベクターと比較すると、CyRepXを搭載するp6031/p6090ベクターの細胞内でのコピー数は少なく、GFPの発現量や安定性は低いことがわかりました。しかし興味深いことに、PCC 7942細胞内においてp6031/p6090はpYSや他のプラスミドと共存できることが示され、PCC 6803の細胞内で起こっている「プラスミド同士の協調」を人為的に再現することができました(図3右)。

図3 異種シアノバクテリア(PCC 7942)を用いたCyRepXの有用性評価

図3. 異種シアノバクテリア(PCC 7942)を用いたCyRepXの有用性評価

シアノバクテリアはカーボンニュートラルな次世代の有用物質生産ホストとして期待されています。CyRepXの発見はシアノバクテリアにおけるプラスミド複製の理解だけでなく、新しい遺伝子工学ツールの開発にも貢献できる画期的な成果です。

今後の展開

CO2削減と物質生産を両立させるシアノバクテリアを用いたものづくりは時代のニーズに合った技術です。CyRepXを用いたベクターp6031/p6090は既存のベクターと組み合わせて使用できることが示されており、シアノバクテリアの産業利用を加速させる新たな遺伝子工学ツールとして期待ができます。また本研究はシアノバクテリアの基礎研究の発展にも大きく貢献できます。シアノバクテリアではプラスミドの複製機構についても情報が乏しく、CyRepXの発見がDNA複製やゲノム科学分野に新たな知見をもたらすと期待できます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)(JPMJAL1608)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)(JPNP17005)、JSPS科研費(20K05793、23H02130、JP22J13447)および生物資源ゲノムセンターの共同利用・共同研究拠点事業の支援を受けて実施されました。

用語説明

[用語1] シアノバクテリア : 藍藻とも呼ばれる原核微細藻類です。植物の葉緑体の祖先生物と考えられており植物と同様の酸素発生型光合成により増殖します。シアノバクテリアは多種多様な生物群であり海、湖沼、氷河など地球上の様々な環境に生息しています。増殖に有機炭素源を必要とせず、光合成によりCO2を吸収しながら成長すること、さらに植物よりも増殖が早いことから、持続型物質生産を可能とする次世代ホストとして世界中で注目されています。

[用語2] プラスミド : 微生物の細胞内に存在するDNA分子で、染色体DNAとは別のシステムで独立して複製します。大腸菌などでは10 kbp程度のプラスミドが一般的ですが、シアノバクテリアは例外的に100 kbp規模の巨大なプラスミドを保持する種が多く見つかっています。

[用語3] 発現ベクター : 細胞内での遺伝子発現のために設計されたプラスミドです。発現ベクターには、発現させる配列 (本研究の場合、GFP遺伝子)やその発現を制御するための配列、マーカー遺伝子(薬剤耐性遺伝子など)に加え、ホストの細胞内での複製に必要な“自律複製領域”が必要です。本研究で構築したp6031およびp6090ベクターは大腸菌の複製開始領域ColE1とシアノバクテリアの複製のための領域としてCyRepXを持っており、大腸菌とシアノバクテリアの両方の細胞内で複製できます。このようなベクターをシャトルベクターと呼びます。

参考文献

[1] Kaltenbrunner et al., Regulation of pSYSA defense plasmid copy number in Synechocystis through RNase E and a highly transcribed asRNA, Front Microbiol., 2023, 1112307.

[2] Sakamaki et al., Characterization of a cyanobacterial rep protein with broad-host range and its utilization for expression vectors, Front Microbiol., 2023, 1111979.

論文情報

掲載誌 :
Frontiers in Microbiology (2024)
論文タイトル :
Discovery of Novel Replication Proteins for Large Plasmids in Cyanobacteria and Their Potential Applications in Genetic Engineering
著者 :
Kazuma Ohdate, Minori Sakata, Yutaka Sakamaki, Kaisei Maeda, Kaori Nimura-Matsune, Ryudo Ohbayashi, Wolfgang R. Hess and Satoru Watanabe
DOI :

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Email koho_all@adb.shizuoka.ac.jp

オールCMOSの300 GHz帯フェーズドアレイ送信機を開発 100 Gbps超のデータ速度を達成、6G無線機の実現へ大きく前進

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要点

  • 6Gでの実用化が期待される300 GHz帯フェーズドアレイ送信機を安価で量産性に優れたCMOS集積回路により実現
  • 300 GHz帯増幅器、アンテナおよびビームフォーマをオールCMOSの同一チップ上に集積することに世界で初めて成功
  • 16×4の2次元フェーズドアレイ送信機を開発、100 Gbps超のデータ速度を達成

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の岡田健一教授らと日本電信電話株式会社の研究グループは、テラヘルツ帯[用語1]
で通信が可能なアクティブフェーズドアレイ[用語2]送信機を、アンテナや電力増幅器を含めすべてCMOS集積回路で実現することに世界で初めて成功した。安価で量産が可能なシリコンCMOSプロセスチップによる300 GHz帯の無線機実現が可能となり、100 Gbps超の次世代無線通信システムの実現を大きく進展させることができた。

今回開発したテラヘルツ送信機は64系統の送信回路を持ち、それらすべてを電気的に制御することにより16×4の2次元フェーズドアレイ動作が可能である。このCMOS送信回路を実際に評価したところ、108 Gbpsの送信レートが実証できた。量産性に優れたCMOS集積回路で300 GHz帯の無線伝送が可能となり、同周波数帯を用いた次世代高速6G[用語3]無線機の実現・普及を大きく加速させることが期待される。

研究成果は、2月18日~22日に米国サンフランシスコで開催される「ISSCC 2024(国際固体素子回路会議)」で発表される。

開発の背景

300 GHz帯は利用可能な広大な周波数帯域が残されていることから、100 Gbps以上の超高速6G無線通信サービスの実用化が期待されている。しかしながらこのような高い周波数では、空間伝搬損失を補うだけの十分高い送信電力を有する送信機の実現が課題となっている。この課題を解決するために、複数のアンテナの出力を合成・制御することでアンテナ利得を高めビームステアリング[用語4]を可能にする、2次元フェーズドアレイ技術の研究が進められてきた。しかし十分な送信電力を確保するためには、それぞれの送信回路の出力電力を確保する必要がある。フェーズドアレイは多くの送信回路を必要とするため、安価で量産性・集積化に優れるシリコンCMOSプロセスの活用が非常に有効であるが、シリコンCMOSプロセスによるトランジスタの動作周波数の制限から、これまでこの周波数帯で高性能の電力増幅器を実現することは一般的には困難であった。

そこで、CMOS集積回路ではミキサや逓倍器から直接アンテナを駆動する回路方式が検討されてきたが、十分な出力電力が得られないために電力効率が下がり、またチップ面積が大きくなるなど、面積効率・コストの観点からも十分なものではなかった。すなわち、電力増幅器が搭載されていないこれまでの300 GHz帯フェーズドアレイICでは十分な性能が得られていなかった。そのため、300 GHz帯においても電力増幅器でアンテナを駆動するCMOSフェーズドアレイICの実現が大きく期待されていた。

研究成果

今回の研究で開発した300 GHz帯フェーズドアレイ送信機は65 nmのシリコンCMOSプロセスを用いて設計した。CMOSでも300 GHz帯で動作する電力増幅器を実現するために、基本となるトランジスタのレイアウトを新たに最適化した。その結果、レイアウト最適化による寄生抵抗・容量の低減により、250-300 GHz帯での利得が従来に比べて大きく向上した(図1)。これにより、300 GHz帯での電力増幅器の設計が可能となった。本トランジスタを用いて設計した増幅器は、237-267 GHzで20 dB以上の利得を有し、251 GHzで-3.4 dBmの飽和出力電力を達成した。また、300 GHz帯雑音評価系を構築して増幅器の雑音測定を行い、雑音指数実測値15 dBが得られた。送信機ICには、本トランジスタを用いた電力増幅器でオンチップのアンテナを直接駆動する増幅器ラストの構成[用語5]を採用した。また、サブハーモニックミキサ、移相器、4逓倍器付きのLO回路の構成を工夫し、従来の5分の1の面積に小型化することに成功し、4系統の送信回路を3.8 mm×2.6 mmの1チップに集積した。

図1 従来のCOMSトランジスタとレイアウト最適化後のトランジスタの利得の比較

図1. 従来のCOMSトランジスタとレイアウト最適化後のトランジスタの利得の比較

次に実際に、65 nmシリコンCMOSプロセスを用いて300 GHz帯送信機ICチップを作製した(図2)。このチップのアンテナ部は、イオン照射により基板を高抵抗化することで、損失を低減している。この4系統の送信回路を有するCMOS ICチップをプリント基板上に4つ並べて実装することで、16アレイのフェーズドアレイ送信機を構成した。さらにこの基板を4枚重ねて張り合わせることで、16×4の2次元フェーズトアレイ送信機を実現した(図3)。ICチップは50 μmに薄化して基板共振の影響を最小化すると同時に、基板からアンテナ部を0.4 mm飛び出す形で実装することでオンチップアンテナの放射信号の反射の影響を低減している(図4)。

図2 作成した300 GHz帯送信機ICのチップ写真

図2. 作成した300 GHz帯送信機ICのチップ写真

図3 フェーズドアレイ送信機の基板構成

図3. フェーズドアレイ送信機の基板構成

図4 フェーズドアレイ送信機の写真(チップ実装部)

図4. フェーズドアレイ送信機の写真(チップ実装部)

開発した送信機の性能評価のために、オンチップアンテナを除いた1系統の送信回路の送信レートを高周波プローブにより測定したところ、16QAM[用語6]変調時に108 Gbps、32QAM[用語7]変調時に95 Gbpsとなり、100 Gbpsを超える送信レートが確認できた。また、50 cmの距離での4系統の送信回路によるアンテナビームパターンは、120°の角度掃引において設計値と非常によく一致し、フェーズドアレイ動作が可能であることが確認できた。

社会的インパクト

本研究で開発されたテラヘルツ帯フェーズドアレイ送信機はアンテナを含め全てCMOS集積回路で実現している。安価で量産性に優れたCMOSプロセスで300 GHz帯の送信機を世界で初めて実現できたことで、同周波数帯を用いた6G高速無線機の実現に大きく貢献することが期待できる。

今後の展開

今後は本研究をさらに進め、より多くの送信回路を集積化したより大規模なフェーズドアレイ送信機の開発を目指す。そうした送信機によって、さらに長距離での超高速無線通信が可能となり、300 GHz帯の基地局等への展開を通して、6G高速無線システムの普及に貢献することができる。

用語説明

[用語1] テラヘルツ帯 : 5Gなどで用いられるミリ波帯より高い、300 GHzから3,000 GHz(3 THz)の周波数帯。テラヘルツ帯を用いる通信規格としてはIEEE802.15.3dが知られている。IEEE802.15.3dでは252-325 GHzの周波数帯を用いるため、252-300 GHzの周波数帯も含めて広義にテラヘルツ帯と呼ばれることが多い。

[用語2] フェーズドアレイ : 複数のアンテナへ位相差をつけた信号を給電する技術。ビームステアリングの実現に利用される。

[用語3] 6G : 第6世代移動通信システム。第5世代移動通信システム(5G)の次の世代の移動通信システム。

[用語4] ビームステアリング : アンテナの指向性パターンを制御する技術。通常、フェーズドアレイを用いて電気的に制御する。

[用語5] 増幅器ラストの構成 : 送信回路において、最終出力段が電力増幅器となっている構成。通常最終出力段はアンテナなどの駆動電力を得るために電力増幅器が用いられるが、CMOSプロセスでは300 GHz帯のような高い周波数での電力増幅器の実現が難しく、これまでの研究開発報告では、ミキサや逓倍器が最終段となるミキサラスト構成や、逓倍器ラスト構成が用いられており、増幅器が最終段となる増幅器ラスト構成はこれまで実現されていなかった。

[用語6] 16QAM : 16 Quadrature Amplitude Modulationの略。搬送波の振幅および位相変化の16値を用いる変調方式。

[用語7] 32QAM : 32 Quadrature Amplitude Modulationの略。搬送波の振幅および位相変化の32値を用いる変調方式。

発表予定

この成果は2月18日~22日にサンフランシスコで開催される「2024 IEEE International Solid-State Circuits Conference (ISSCC 2024) : 2024年米国電気電子学会 国際固体素子回路会議」で発表される。

講演セッション :
Session 24 –D-Band/Sub-THz Transmitters and Sensors
講演時間 :
現地時間2月21日午前10時55分
講演タイトル :
A 236-to-266GHz 4-Element Amplifier-Last Phased-Array Transmitter in 65nm CMOS
ISSCC会議情報 :

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Tel / Fax 03-5734-3764

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

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