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プラズマ照射により植物細胞へのタンパク質導入に成功―品種改良や開花コントロールへの応用に期待―

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概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の沖野晃俊准教授と農業・食品産業技術総合研究機構の柳川由紀特別研究員、光原一朗主席研究員は共同で、大気圧低温プラズマを用いて植物細胞にタンパク質を導入することに成功した。二酸化炭素または窒素で生成した大気圧低温プラズマをタバコ葉に数秒照射した後、タンパク質を含む溶液に浸すと、タンパク質がタバコ葉の細胞内に入ることを確認した。シロイヌナズナの葉とイネの根の細胞にも同様の方法でタンパク質を導入した。

この技術は植物体に特別な前処理をする必要がないので、前処理の問題からこれまでタンパク質導入が不可能であった植物種や組織にも広く利用できる。また、導入するタンパク質自体にも特別な処理が不必要なので、実際の栽培環境で使える。今後はゲノム編集[用語1]による品種改良、開花誘導タンパク質による開花コントロール、植物の機能コントロールなどへの展開が期待される。

この成果は「Direct protein introduction into plant cells using a multi-gas plasma jet(植物細胞へのガスプラズマによるタンパク質導入)」というタイトルで2月10日に米国の科学誌「PloSOne」に掲載された。

研究の背景

植物細胞へのタンパク質導入には、細胞膜を通過する膜透過ペプチドをタンパク質に融合させる、あるいは混合して細胞に導入する方法が知られている。しかし、植物の表面は乾燥を防ぎ、内部の細胞を保護するためのロウ状のクチクラ層に覆われているため、無傷の植物体にタンパク質をそのまま導入することは難しい。

そこで、注射器を用いてタンパク質溶液を葉の内部に入れる(インフィルトレーション)、また酵素で処理して完全にクチクラ層やその下の細胞壁を除去して単細胞(この状態をプロトプラスト)にする、などといった前処理をすることでタンパク質を導入している。しかし、インフィルトレーションは柔らかい葉に限定される方法なので、限られた植物種にしか適用できない。また、プロトプラストは壊れやすく、無菌状態で利用する、死なないように維持していくのが難しい、など利用しにくいという難点がある。

それらに比較して、大気圧低温プラズマによるタンパク質導入法は、インフィルトレーションやプロトプラスト化などの前処理は必要ないので、植物種や組織の制約がなく、タンパク質導入後の扱いが容易である。さらに、大気圧低温プラズマによるタンパク質導入法は膜透過ペプチドを必要としないので、サンプル調製自体も容易という利点がある。また、膜透過ペプチドとの融合タンパク質[用語2]を調整することが困難、あるいは膜透過ペプチドとの混合を望まないタンパク質、例えば市販のタンパク質や抗体などの導入にも利用されることが期待される。

前述したように、大気圧低温プラズマ法は植物体のみならずタンパク質自体にも特殊な前処理を必要としない。さらに、タンパク質が細胞内に導入されても、遺伝子のように次の世代に受け継がれることはなく、その世代の植物の中で分解されて消失するので、遺伝子保護や変異生物拡散防止などの問題はない。そのため、大気圧低温プラズマ法は隔離された研究室内での利用のみならず、農業現場などの産業利用も期待できる。

研究成果

ダメージフリープラズマを照射
図1. ダメージフリープラズマを照射

現在、大気圧低温プラズマは室温~100 ℃程度の低温でありながら高い活性力を持つラジカルなどの活性種を生成できるため、表面親水化による接着力向上、細胞やウイルスの殺傷、血液凝固など様々な利用法が報告されている。さらに、放電損傷を生じず、手で触れることができるダメージフリープラズマも生成可能なので、生体表面や生鮮食品などへの応用研究も進んでいる。

柳川特別研究員らはダメージフリープラズマを、植物に適した温度にコントロールして照射した(図1)。このプラズマ源は、二酸化炭素、窒素、酸素、水素、空気、アルゴンなど様々なガス種を利用して大気圧プラズマを生成することができる。予備実験として、これらのガス種で生成させたプラズマを用いて効果を検討したところ、特に二酸化炭素と窒素で生成させたプラズマが植物細胞へのタンパク質導入に効果的であった。

タンパク質導入には、緑色蛍光タンパク質(sGFP)[用語3]アデニル酸シクラーゼ(CyaA)[用語4]を融合させたタンパク質(sGFP-CyaAタンパク質)を用いた。タンパク質導入法としては、図2のように、タバコの葉に二酸化炭素ガスあるいは窒素ガスで生成させたプラズマを照射した後、sGFP-CyaAタンパク質を含む溶液に葉を浸した。

タバコ葉へのタンパク質導入手順

図2. タバコ葉へのタンパク質導入手順

この葉を共焦点顕微鏡で観察すると、二酸化炭素プラズマ、窒素プラズマどちらでもsGFPタンパク質の緑色蛍光が細胞内に観察された(図3)。タバコ葉の表皮細胞はジグソーパズル状の形をしている。プラズマ照射した葉ではこの形が緑色蛍光で観察されたので、sGFPタンパク質が細胞内に入っていると考えた。プラズマ生成に用いたガスのみを照射した葉では、緑色蛍光は観察できなかった。なお、赤色蛍光は植物細胞がもともと持っている葉緑体を示しており、緑色蛍光が赤色蛍光とは重ならないことが分かる。また、明視野は細胞の形をそのまま観察したものであり、緑色蛍光の形が明視野で観察できる細胞の形と似ていることが分かる。

タバコ葉内に導入されたsGFP-CyaAタンパク質の共焦点顕微鏡写真

図3. タバコ葉内に導入されたsGFP-CyaAタンパク質の共焦点顕微鏡写真

CyaAタンパク質は環状アデノシン一リン酸(cAMP)[用語5]の生成に必要な酵素であり、生きた細胞内で働く。そのため、CyaAタンパク質が細胞内に導入され、かつその細胞が生きていると、導入されたCyaAタンパク質量に比例してcAMP量が増加する。この原理を利用してタバコ葉のcAMP量を測定したところ、プラズマ照射した葉では二酸化炭素プラズマ、窒素プラズマともにガスのみ照射した葉と比較してcAMP量が有意に増加していた(図4)。プラズマ照射後に融合タンパク質なしの溶液に浸した葉ではcAMP量の増加は認められなかった。

タバコ葉内に導入されたsGFP-CyaAタンパク質の定量

図4. タバコ葉内に導入されたsGFP-CyaAタンパク質の定量

以上のように、sGFPの共焦点顕微鏡観察の結果とcAMPの定量の結果は、タバコ葉をプラズマ照射した後にsGFP-CyaAタンパク質と接触させると、sGFP-CyaAタンパク質が細胞内に導入される、ということを示している。

シロイヌナズナの葉、イネの根にも同様にプラズマ処理を行い、共焦点顕微鏡でsGFPタンパク質を観察したところ、細胞内に緑色蛍光が観察された。これらの結果から、二酸化炭素プラズマ及び窒素プラズマ処理することで、様々な植物種や組織に対してタンパク質導入が可能となることが期待される。

今後の展望

近年、品種改良技術の一つとして、タンパク質を細胞に導入して遺伝子改変を行うゲノム編集技術が注目されてきた。しかし、これまでは、効率的、かつ多様な植物種や組織の細胞にタンパク質を導入する技術はなく、植物細胞にタンパク質を導入して実際に品種改良した例はない。今回、大気圧低温プラズマを用いて植物細胞にタンパク質を直接導入できたことから、TALEN法(用語1参照)やCRISPER/Cas9法(用語1参照)によるゲノム編集技術を用いた品種改良への利用が期待される。

フロリゲン[用語6]は開花誘導タンパク質であり、葉で作られて植物体の上部へと移動する。このフロリゲンタンパク質を植物体へ導入することで開花時期をコントロールできる可能性があり、花卉を含む農産物の出荷時期制御への利用も期待される。

転写因子は標的遺伝子のオンオフを制御するタンパク質であり、転写因子が標的遺伝子の制御部分に結合することでその遺伝子の転写が促進あるいは抑制される。大気圧低温プラズマ法によって転写因子を植物細胞内に導入し、目的とする遺伝子のオンオフを制御できれば、植物の機能をコントロールできる可能性がある。

なお本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「ゲノム編集技術の普及と高度化」(管理法人:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構・生研センター)、JSPS科研費JP25440057、及び平成28年度生体医歯工学共同研究拠点共同研究プロジェクト「大気圧プラズマを用いた植物細胞内への効率的なタンパク質導入法の開発」によって実施された。

用語説明

[用語1] ゲノム編集 : 特定の遺伝子に変異を導入したり、活性/不活性型に置き換えたりすることによって新たな細胞や品種を作る技術。遺伝子組換えと異なり、作成された品種は外来遺伝子を持たない。部位特異的なヌクレアーゼ(核酸(DNA)切断酵素)を利用して、思い通りに標的遺伝子を操作する方法が中心である。ヌクレアーゼとしては、2005年以降に開発・発見された、ZFN、TALEN(タレン)、CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)を中心としている。従来の遺伝子工学、遺伝子治療と比較して、非常に応用範囲が広い。

[用語2] 融合タンパク質 : 遺伝子組換えによって2種類以上のタンパク質をコードする遺伝子を結合させて作られたタンパク質。従来のたんぱく質(含む酵素)に新たな性質を付け加えることなどが可能になる。

[用語3] 緑色蛍光タンパク質(sGFP) : クラゲから単離された自身で緑色蛍光を発するタンパク質(GFP)を、植物などでの使用に適するよう改変したもの。

[用語4] アデニル酸シクラーゼ(CyaA) : アデノシン3リン酸を基質として環状アデノシン1リン酸を合成する酵素。真核生物には存在するがバクテリアなどは持っていないカルモジュリンがある状態でだけ活性を持つ。細胞の多くの生理機能を制御するのに重要な役割を果たしている。

[用語5] 環状アデノシン一リン酸(cAMP) : サイクリックAMP。グルカゴンやアドレナリンといったホルモン伝達の際の細胞内シグナル伝達においてセカンドメッセンジャーとして働く。主な作用はタンパク質リン酸化酵素(タンパク質キナーゼ)の活性化。

[用語6] フロリゲン : 花芽の形成に関係するペプチド(小型のたんぱく質性の)ホルモン。

論文情報

掲載誌 :
PlosOne
論文タイトル :
Direct protein introduction into plant cells using a multi-gas plasma jet
著者 :
Yuki Yanagawa, Hiroaki Kawano, Tomohiro Kobayashi, Hidekazu Miyahara, Akitoshi Okino, Ichiro Mitsuhara
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
准教授 沖野晃俊

E-mail : aokino@es.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5688

農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門
主席研究員 光原一朗

E-mail : mituhara@affrc.go.jp
Tel / Fax : 029-838-7440

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

農業・食品産業技術総合研究機構 本部 連携広報部広報課

E-mail : naro-pr@naro.affrc.go.jp
Tel : 029-838-8988 / Fax : 029-838-8982


平成29年度前期日程試験を受験される方へ

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平成29年度前期日程試験

平成29年2月25日(土)~ 2月26日(日)

期間中キャンパス内への関係者以外の立ち入りを制限させていただいております。

注意事項

所定の試験日程による試験実施が困難になるような不測の事態が発生した場合、「高校生・受験生向けサイト」の新着入試情報で情報発信しますので、定期的に確認をお願いします。

試験場へのアクセス

試験場は以下の2つの会場があります。先に公表している「(前期日程)試験場、受験上の注意等PDF」にあるとおり、受験番号によって試験場が異なりますので、お間違えのないように今一度ご確認ください。

受験番号 10001 ~ 13557 :東京工業大学 大岡山キャンパス

東急大井町線・目黒線 「大岡山駅」下車 徒歩1分
中央改札を出て左手に進み、マクドナルド前の横断歩道を渡るとすぐに正門があります。

受験番号 13558 ~ 14167 :東京工業大学 田町キャンパス(附属科学技術高等学校)

JR山手線・京浜東北線「田町駅」下車 徒歩2分
芝浦口(東口)方面に進み、右手エスカレーターを降りてすぐ右手に正門があります。

地下鉄都営三田線「三田駅」下車 徒歩5分
A4口を出て、JR田町駅方面へ。以下同上。

なお、試験室等の詳細を記載した試験場案内については、2月24日(金)に「高校生・受験生向けサイト」の新着入試情報に掲載いたしますので、確認をお願いします。

平成29年度前期日程試験を受験される方へ

数理的フレームワークにより微小電線の形成過程を再現―ナノエレクトロニクスへの応用に期待―

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京都大学(総長:山極壽一)物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)のダニエル・パックウッド(Daniel Packwood)講師(国立研究開発法人科学技術振興機構さきがけ「社会的課題の解決に向けた数学と諸分野の協働」領域研究者)、東北大学(総長:里見進)原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のパトリック・ハン(Patrick Han)助教、東京工業大学(学長:三島良直)物質理工学院の一杉太郎(ひとすぎ・たろう)教授(AIMR客員教授)は、入力データから物理的現象を予測する新しい数理的フレームワークを構築することにより、「グラフェンナノリボン」という毛髪直径の100,000分の1ほどの微小な電線の形成過程を明らかにしました。この数理的フレームワークは機械学習、数理モデルを組み合わせたもので、グラフェンナノリボンの形成過程に生じる分子配列の予測が可能になり、極微小エレクトロニクスへの道を拓くことが期待されます。

グラフェンナノリボンは、平面状のグラフェン[用語1]を細く切り出した線状のもので、その幅は炭素原子が数個から数十個並ぶ極微小細線です。このグラフェンナノリボンは、従来のエレクトロニクスで利用されているシリコンと比べて2,000倍以上の電気伝導性があり、微小な電気配線としての応用が期待されています。しかし、その長さや幅、あるいは、配線の端(エッジ)の形状を制御することが難しく、世界中で活発な研究が展開されています。グラフェンナノリボンは、金属表面上に吸着した分子が自発的に集合してできる鎖に似た構造(鎖構造)が、さらに化学変化を起こして生まれます。しかしこれまでは、それらの分子が自発的にどのように配列するのか、理論予測がこれまでは困難でした。

本研究では、理論化学・数理科学を専門とするパックウッド講師が、材料科学を専門とするハン助教と一杉教授と密に共同研究を行い、金属表面上に吸着した分子の配列を予測する新しい数理的フレームワークを構築しました。このフレームワークでは、分子間に起きる相互作用をデータベースから機械学習により学び、人工知能が適切な数理モデルを自動的に組み立てます。これにより、非常に高い確度で分子配列を予測し、グラフェンナノリボンの形成過程において、分子が鎖構造を形成するメカニズムを解明することに成功しました。

この鎖構造形成には、エントロピー[用語2]の大きさが深く関わっていることが分かりました。一般に、「エントロピー増大の法則」により、分子が金属表面上に散らばっているエントロピーの大きな状態になりやすく、言い換えると、分子が直線状に並んでいる状態ではエントロピーが小さいと思われていました。しかし、現実には、分子は直線状に並んでいても「対称性を下げる」というメカニズムで、エントロピーを増大させていることが分かりました。この「対称性を下げる」原理は、鴨川の川べりでくつろぐ人々の座り方に似ていて、人々は川に沿って一列に並んでいますが、その間隔はまちまちです。このような形で、金属上の分子が直線状に並びながらも、配列の乱れを導入して、全体として対称性を下げることによりエントロピーが増加します。これまではエントロピーの大きさがどのように鎖状構造の形成に影響するか、明らかではありませんでした。しかし、今回、エントロピーの効果がある程度強くなると、直感に反し、秩序立った鎖構造が形成されやすくなることが分かりました。

今回の成果は、エレクトロニクス素子(電子回路)の高速化や低消費電力化につながり、今後、極微小電子デバイスの実現を通じて、人工知能やロボットへの貢献が期待できます。さらに、フレキシブルな(柔らかい)エレクトロニクスデバイスにもつながり、医療など、さまざまな分野に応用されることが期待されます。

本成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)およびチーム型研究(CREST)、科研費基盤研究(A)、基盤研究(C)の支援を受けて行われ、英国時間2017年2月14日午前10時(日本時間14日午後7時)に英オンライン科学誌「Nature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)」で公開されました。

背景

エレクトロニクスの小型化・高集積化が着実に進む中、さらなる発展に向けてグラフェンナノリボンが注目を集めています(図1)。グラフェンナノリボンは電気抵抗が極めて低いことから、微小配線材料として期待されています。しかし、グラフェンナノリボンの長さや幅、あるいは、配線の端の形状を高精度で制御することが難しく、実用化に向けてさらなる研究開発が必要です。

グラフェンナノリボンとそのサイズの比較
図1.
グラフェンナノリボンとそのサイズの比較。茶色の球面:炭素原子、白い球面:水素原子(グラフェンナノリボンと分子はコンピューター生成イメージ)

グラフェンナノリボンを合成するには、まず、グラフェンナノリボンの原料となる分子(プリカーサ分子)を金属銅の表面に吸着します。すると、プリカーサ分子は自己組織的[用語3]に直線状に配列し、鎖構造を形成します(図2)。この鎖構造は一部に配列の乱れを含んだものがあります。そして、熱処理を行うと、鎖構造が規則正しいグラフェンナノリボンに化学変化します。したがって、事前に鎖構造の長さや形状を予測することができれば、グラフェンナノリボン形成過程を制御することができます。しかし、プリカーサ分子が自己組織的に鎖構造を形成する過程が不明で、分子の種類に応じた鎖構造を予想することは困難でした。

(A-C)グラフェンナノリボンの合成過程(D)分子自己組織化による鎖構造の形成過程
図2.
(A-C)グラフェンナノリボンの合成過程。黄色の球面:臭素原子、茶色の球面:炭素原子、白い球面:水素原子、Br2BA:10,10'-ジブロモ-9,9'-ビアントラセン。(B)は走査トンネル顕微鏡(STM)[用語4]で得られた画像で、オレンジ部分は鎖構造。(D)分子自己組織化による鎖構造の形成過程。

研究内容と成果

本研究では、金属銅に吸着したプリカーサ分子の振る舞いや鎖構造の形成過程について、数理的フレームワークを用いて研究しました。

数理的フレームワークとは、入力データを受け取り、出力データとして物理的現象を予測するアプローチです(図3)。本研究で使った数理的フレームワークでは分子間相互作用のデータベース(=入力データ)を機械学習して数理モデルを築きます。その数理モデルは「人工知能」を持ち、金属銅に吸着したプリカーサ分子の振る舞いや鎖構造の形成過程を高い確度で予測しました。この予測は、グラフェンナノリボンの形成過程を実際に可視化する、走査トンネル顕微鏡(STM)[用語4]による観察結果を再現しました。

数理的フレームワークでは、分子間相互作用のデータベースを機械学習して数理モデルを築く。そして、数理モデルは「人工知能」を持ち、分子の並び方や鎖構造の形成を再現できた。データベースには、分子間の様々な相互作用の仕方とそれらのエネルギーについての情報が含まれている。eV:エレクトロンボルト(エネルギーの単位)。
図3.
数理的フレームワークでは、分子間相互作用のデータベースを機械学習して数理モデルを築く。そして、数理モデルは「人工知能」を持ち、分子の並び方や鎖構造の形成を再現できた。データベースには、分子間の様々な相互作用の仕方とそれらのエネルギーについての情報が含まれている。eV:エレクトロンボルト(エネルギーの単位)。

この数理フレームワークを分析することにより、分子がどのように鎖構造を形成するかを説明することができました。一般に、「エントロピー増大の法則」により、分子は直線状に並ばず、金属表面上に散らばっているエントロピーの大きな状況になりやすいと理解されています。言い換えると、直線状に並んでいるということはエントロピーが小さい、というのが常識でした。しかし、分子が直線状に配列していても、「対称性を下げる」メカニズムによりエントロピーが増大することが分かりました。

(A-C)机の上に置いた木片で回転・交換の対称性を説明する。点線の矢印は対称性を下げる欠点を示す。(D)数理フレームワークで予想された鎖構造。黒い円(点線)は欠陥を示す。欠陥の導入により対称性が下がり、鎖構造のエントロピーが上がることによって、鎖構造が形成される。
図4.
(A-C)机の上に置いた木片で回転・交換の対称性を説明する。点線の矢印は対称性を下げる欠点を示す。(D)数理フレームワークで予想された鎖構造。黒い円(点線)は欠陥を示す。欠陥の導入により対称性が下がり、鎖構造のエントロピーが上がることによって、鎖構造が形成される。

このメカニズムを簡単に説明するために、机の上に置いた2つの木片を考えてみます(図4 A, B, C)。木片表面にある傷を無視すると、木片1、2を180度で回転しても、あるいは、木片1、2を交換しても、机の上に置いた木片の見た目は変わりません。すなわち、この木片は回転・交換の対称性があると言えます。しかし、木片の表面にある傷を考慮すれば、木片の回転・交換の対称性が失われ、木片の回転や交換を行うと、変化がたちどころに分かります。回転・交換の対称性が無い場合は、対称性がある場合よりもエントロピーが高いことが本研究で分かりました。

分子の場合、「対称性を下げる」ために、鎖構造に小さい欠陥が導入されます(図4D)。すなわち、金属上の分子が一列に並びながらも、間隔が異なるなど配列の乱れが導入され、全体として対称性を下げてエントロピーを増やすということです。この列形成メカニズムにより、プリカーサ分子が鎖構造を形成し、最終的にグラフェンナノリボンが形成されることが分かりました。

今後の展開

本研究によって今まで理解が困難であったグラフェンナノリボンの形成メカニズムを解明することができました。これによって、グラフェンナノリボンの形状のコントロールが容易になり、電子デバイス等への実用化に向けて研究がさらに加速することが期待されます。

また本件は分子の配列に関する成果ですが、この数理的フレームワークは原子の配列にも展開できます。それにより、固体内の不純物原子の配列、あるいは表面における原子の配置が明らかになり、エレクトロニクスデバイスの性能向上につながることが期待できます。さらに、電池開発や触媒などエネルギー分野などへの展開が期待されます。例えば、化学反応において触媒表面の分子配置は非常に重要です。この数理的フレームワークで、反応物となる分子の振る舞いを予想し、有益な化学材料を合成する触媒過程を構築することも期待されます。

用語説明

[用語1] グラフェン : 炭素原子からなるシート状の材料。グラフェンは高い電気伝導性などの優れた特徴を持ち、次世代のエレクトロニクス材料として活発に研究されている。グラフェンを発見した研究者は、2010年のノーベル物理賞を受賞した。

[用語2] エントロピー : 無秩序の度合いを定量するものである。エントロピーが大きいほど秩序が無く、小さいほど秩序立っている。エントロピー増大の法則では、何かにコントロールされていない自発的な変化では、エネルギーや物質は散逸(エントロピーが増大)することを定める。

[用語3] 自己組織化 : 分子が自発的に集合し、小さい構造を形成すること。

[用語4] 走査トンネル顕微鏡(STM = scanning tunneling microscopy) : 物質表面の原子や分子を観察する顕微鏡。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Chemical and Entropic Control on the Molecular Self-Assembly Process
著者 :
Daniel Packwood, Patrick Han, Taro Hitotsugi
DOI :

iCeMSについて

京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)は、文部科学省「世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラム」に平成19年度に採択された拠点です。iCeMSでは、生物学、物理学、化学の分野を超えて新しい学問を作り、その学問を社会に還元することを目標に活動している日本で唯一の研究所です。その新しい学問からは、汚水や空気の浄化といった環境問題の解決、脳の若返りといった医療に役立つ可能性を秘めたとてつもないアイデアが次々と生まれています。

詳しくはウェブサイトouterをご覧下さい。

世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)について

WPIは、平成19年度から開始された文部科学省の事業です。WPIでは、世界トップレベルの研究に取り組むことはもちろんのこと、従来の大学のシステムでは成しえない研究組織・研究環境・事務体制の国際化を目指しています。これらは短期間で実現できるものではないため、10年という実施期間が設けられており、各拠点はこれまでさまざまな取り組みを行ってきました。その結果、拠点長のリーダーシップのもと、拠点内の公用語を英語としたり、研究者の外国人比率30%を達成するなど先進的な取り組みを行っているほか、現在までに、採択拠点からノーベル賞受賞者を2名(山中伸弥先生、梶田隆章先生)輩出するなど、高い成果を挙げています。

詳しくはウェブサイトouterをご覧下さい。

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に新たに発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

(研究内容に関すること)

京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)
講師 Daniel Packwood

E-mail : dpackwood@icems.kyoto-u.ac.jp
Tel : 080-3194-9326 / 075-753-9771

(京都大学iCeMSに関すること)

京都大学 高等研究院等事務部 国際企画・広報掛
髙宮泉水

E-mail : ias-oappr@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-9755

(東北大学AIMRに関すること)

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)
広報・アウトリーチオフィス
皆川麻利江

E-mail : aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-6146

(東京工業大学に関すること)

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

(JST事業について)

科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ
松尾浩司

E-mail : presto@jst.go.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

(JST報道担当)

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404

硫化水素に応答して遺伝子発現を調節するタンパク質を発見―硫化水素バイオセンサーの開発に道―

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要点

  • 地球で最初に光合成を始めた細菌は、硫化水素を利用していたと推測
  • 硫化水素は哺乳類で、細胞機能の恒常性維持や病態生理の制御に関わるが、詳細なシグナル伝達機構は不明
  • 硫化水素に応答して遺伝子発現を調整するタンパク質を紅色細菌から初めて発見

概要

東京工業大学 生命理工学院の清水隆之大学院生(博士課程)と、バイオ研究基盤支援総合センター・地球生命研究所の増田真二准教授らの研究グループは、紅色細菌[用語1]から、硫化水素に応答して遺伝子発現[用語2]をコントロールする新たなタンパク質「SqrR」を発見した。

このタンパク質を欠損した紅色細菌は、硫化水素濃度に応じた光合成生育が不全になることから、初期型の光合成の調節に重要と考えられる。このタンパク質は、特定の2つのアミノ酸間の架橋反応により外界の硫化水素濃度をモニターしていることがわかった。「SqrR」の機能解析は、硫化水素認識システムの分子機構とその進化を明らかにするだけでなく、硫化水素が生体内のどこで、いつ、どのくらい作られているのかをリアルタイムでモニターできるバイオセンサーの開発につながる。

研究成果は2月13日発行の米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of USA)」に掲載された。

研究の背景と経緯

植物は、葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い、それを光合成に用いている。この反応の副産物として酸素が発生する。しかし、光合成が地球上に誕生した初期の段階では、水よりも電子を奪いやすい硫化水素(H2S)がその電子源だったと考えられている(図1)。現在も硫化水素を電子源に光合成を行う光合成細菌[用語3]が多数同定されている。これらの細菌は、外界の硫化水素の量を的確にモニターしていると考えられるが、その仕組みはわかっていなかった。

一方、硫化水素は近年、哺乳類における細胞内外のガス状シグナル物質として注目されている(図2)。硫化水素は有毒だが、動物細胞内では一定量の硫化水素が生合成されており、細胞機能の恒常性維持、病態生理の制御に深く関わっていることが明らかとなってきた。しかし、硫化水素に依存した細胞内シグナル伝達機構は不明な点が多い。

光合成生物の誕生と進化のモデル

図1. 光合成生物の誕生と進化のモデル

深海の熱水噴出孔で誕生した光合成細菌はその後、藻類、陸上植物と進化した。光合成が誕生した当初は電子源に水(H2O)ではなく硫化水素(H2S)を用いていたと考えられる。

硫化水素の生理作用

図2. 硫化水素の生理作用

外界の硫化水素は呼吸阻害を強力に引き起こす毒物だが、生体内で生合成される硫化水素は、様々な細胞・生体機能の恒常性の維持に重要な働きをしていると考えられている。

研究内容

増田准教授らのグループは、硫化水素を電子源に光合成を行う紅色光合成細菌を用いて、硫化水素を認識するタンパク質の同定を試みた。まず、スクリーニング法を工夫することで、多数の変異体集団から硫化水素応答能だけを特異的に欠損した変異体を単離することに世界で初めて成功した。単離した変異体は特定の遺伝子に変異を持っていた。この遺伝子が硫化水素を認識するタンパク質をコードしていると考えられる。

このタンパク質を詳細に解析したところ、特定のDNA配列に結合する転写因子タンパク質[用語4]であることがわかった。「SqrR」と名付けたこのタンパク質には、チオール基(SH基)を持つアミノ酸であるシステインを2つ持っていた。このタンパク質を硫化水素イオンがある状態で、細胞内に多数存在するペプチド分子「グルタチオン[用語5]」と共存させると、2つのシステインの間でイオウ原子4つを介した分子内架橋を作り、DNAへの結合能が弱まることがわかった(図3)。

グルタチオンが硫化水素イオンと反応すると、化学的反応性に富む活性イオウ分子種[用語6]となることがわかっている。このことから、SqrRタンパク質は、硫化水素がグルタチオンなどのチオール基を含む低分子化合物と反応して生成する活性イオウ分子種を介して外界の硫化水素濃度をモニターしていると考えられた。

今回同定したSqrRタンパク質は相同性検索すると、様々な細菌種に保存されていることがわかった。このことから、SqrRによる硫化水素に応答した遺伝子発現の制御機構は、細菌界に幅広く利用されていると考えられる。

SqrRタンパク質の硫化水素に応答した遺伝子発現制御

図3. SqrRタンパク質の硫化水素に応答した遺伝子発現制御

硫化水素のない条件においてSqrRはDNAに結合し、転写を抑制している。硫化水素がある条件では、硫化水素により反応性の高い活性イオウ分子種ができ、それにより、4つのイオウを介した架橋がSqrRの分子内にできる。すると構造変化して、DNAへの結合能を失う。結果として遺伝子の転写が起こる。

今後の展開

今回の研究により、活性イオウ分子種によるタンパク質のシステイン残基間の架橋形成が硫化水素依存の細胞内シグナル伝達に重要であることがわかった。今回の発見により、動物における硫化水素依存のシグナル伝達の仕組みや、活性イオウ分子種と生理・生体反応の関わりなどの研究が進むものと期待される。またSqrRの反応性を利用することにより、硫化水素や活性イオウ分子種が、生体内のどこに、いつ、どのくらい存在しているのかをリアルタイムでモニターできるバイオセンサーの開発につながる。

用語説明

[用語1] 紅色細菌 : 酸素の発生を伴わない原始的な光合成を行う細菌種の一つで、保有するカロテノイドの色により赤色を呈する。

[用語2] 遺伝子発現 : 遺伝情報からタンパク質が作り出される過程を指す。すなわち、遺伝子の実体DNAからRNAが合成され、RNAからタンパク質が作られる一連の過程を指す。

[用語3] 光合成細菌 : 酸素の発生を伴わない光合成を行う細菌全般を指す。紅色細菌、緑色細菌、酸素非発生型糸状性細菌、ヘリオバクテリアなどが知られている。

[用語4] 転写因子タンパク質 : 遺伝子発現[用語2]の過程において、DNAからRNAを合成する「転写」を調節するタンパク質のこと。

[用語5] グルタチオン : 3つのアミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)の重合体。システインのSH基の反応性を利用して、細胞内の酸化還元状態の恒常性維持に重要な働きをしている。

[用語6] 活性イオウ分子種 : 過剰にイオウが付加し反応性が高まった状態のチオール基を持つ分子の総称。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of Sciences of USA
論文タイトル :
Sulfide-responsive transcriptional repressor SqrR functions as a master regulator of sulfide-dependent photosynthesis
著者 :
Takayuki Shimizu, Jiangchuan Shen, Mingxu Fang, Yixiang Zhang, Koichi Hori, Jonathan C. Trinidad, Carl E. Bauer, David P. Giedroc, Shinji Masuda
DOI :

付記

本研究は、科学研究費補助金の支援を受けて実施した。

共同研究グループ

本研究は、東京工業大学生命理工学院の堀孝一助教、米国インディアナ大学のグループと共同で実施した。

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 バイオ研究基盤支援総合センター
准教授 増田真二

E-mail : shmasuda@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5737 / Fax : 045-924-5823

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京工業大学 社会人アカデミー 開催講座 理工系一般プログラム 「環境科学」「環境工学リサイクルコース」「環境工学エネルギーコース」「食の安全と安心」

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社会人アカデミーでは、毎年ご好評をいただいている理工系一般プログラムを本年度も開講予定です。

「環境科学」「環境工学リサイクル」「環境工学エネルギー」「食の安全と安心」の4コースで、理工系に基本を置く学問を様々な視点から学びます。

長年、研究・開発に携わってきた講師が基礎からわかりやすく講義します。

受講の動機が明確であれば、年齢等の受講資格は問いません。

各コースへのお申込み方法等はこちらのページouterをご覧ください。

理工系一般プログラムの特徴

  • 私たちを取り巻く生活環境に焦点を当て、受講者自身が現状の問題に対して解決策を考えられるようになることを目指します。
  • コースは「環境科学」「環境工学リサイクル」「環境工学エネルギー」「食の安全と安心」の4つです。理工系に基本を置く学問を様々な視点から学びます。
  • 大学・大学院レベルの講義内容となります。
  • 受講の動機が明確であれば、年齢等の受講資格は問いません。
  • 各コースともに2017年4月下旬より開講(全講義終了後、最終レポート課題あり)。

各コースの概要

「環境科学」(コースレベル:初・中級)

環境科学 パンフレット環境科学
パンフレットのダウンロード
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環境科学は複合的な応用分野を数多く含んでいるため、個別的な知識の集積や性急・一面的な結論を述べるのではなく、いろいろな考え方があることを並列的に論述し、受講者の科学的・合理的な環境観や柔軟な判断力を育てる一助になることを目指します。講義はいずれも、文科系や一般市民にもわかりやすい内容で構成されています。“環境”に関して研究・教育を重ねてきた大学・研究機関のスペシャリストが講義を担当します。

受講期間:2017年4月22日(土)~6月24日(土)

受講をおすすめする方:

  • 地球環境問題についてきちんと学習したい方
  • 環境保全活動等へ参加するにあたり、地球環境の基本的な知識を得たい方
  • 大学において地球環境に関連する科目を専攻する予定で、具体的な学習内容をイメージしたい高校生等

「環境工学①リサイクル」(コースレベル:中級)

環境工学①リサイクルコース パンフレット環境工学①リサイクル
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環境問題は、地球規模における環境問題と、生活に密着した地域環境問題に大別されます。ここでは、地域環境に影響の大きい廃棄物処理と、地球環境に大きな影響を与えるエネルギーに焦点を当て、基幹となる個々のシステムを紹介するとともに、問題点とその解決策、今後のあり方について、現場に精通したエンジニアの立場から、安全で安定したシステム構築について論じます。また、それぞれが現在おかれている状況と今後の方向性について、グローバルな立場から持続可能な社会構築の可能性について指摘します。主に当該分野のエンジニアを長く経験した講師が講義を担当します。

受講期間:2017年4月21日(金)~6月16日(金)

受講をおすすめする方:

  • ご自身の仕事において、“廃棄物処理”、“リサイクル”の知識を習得する必要がある方
  • 地球環境問題において上記キーワードに関連した学習をしたい方

「環境工学②エネルギー」(コースレベル:中級)

環境工学②エネルギーコース パンフレット環境工学②エネルギー
パンフレットのダウンロード
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環境問題は、地球規模における環境問題と、生活に密着した地域環境問題に大別されます。ここでは、地域環境に影響の大きい廃棄物処理と、地球環境に大きな影響を与えるエネルギーに焦点を当て、基幹となる個々のシステムを紹介するとともに、問題点とその解決策、今後のあり方について、現場に精通したエンジニアの立場から、安全で安定したシステム構築について論じます。また、それぞれが現在おかれている状況と今後の方向性について、グローバルな立場から持続可能な社会構築の可能性について指摘します。主に当該分野のエンジニアを長く経験した講師が講義を担当します。

受講期間:2017年6月23日(金)~8月18日(金)

受講をおすすめする方:

  • ご自身の仕事において、“エネルギー”の知識を習得する必要がある方
  • 地球環境問題において上記キーワードに関連した学習をしたい方

「食の安全と安心」(コースレベル:基礎)

食の安全と安心 パンフレット食の安全と安心
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我々は、多様性に富んだ食生活を享受し、飽食を謳歌しています。一方、カロリーベースでの自給率を見ると40%を割り込むなど輸入食品に頼らざるを得ない状況です。衛生学的には、食中毒等は減少する気配はなく、天然あるいは人工的な有害物質によって食品が様々な形で汚染され、急性あるいは慢性中毒の危険にさらされています。最近でも細菌性食中毒や放射能汚染食品あるいは食品偽装など、消費者を震撼させる事件や事故があとをたたない状況です。食の体系も加工食品を中心に保健機能食品やバイオテクノロジー応用食品の登場と変貌を遂げています。このような現状を踏まえ、食の安全確保について学びます。例年定評のある担当講師が分かりやすい説明で基礎から講義を行います。

受講期間:2017年4月18日(火)~8月1日(火)

受講をおすすめする方:

  • ご自身の仕事において、食品に潜む危険や問題、その対応策を知っておく必要がある方
  • 食品の善し悪しがきちんと判断できる賢い消費者になりたい方

お問い合わせ先

東京工業大学 社会人アカデミー事務室

E-mail : jim@academy.titech.ac.jp
Tel : 03-3454-8867/03-3454-8722

東工大のスパコンTSUBAME3.0が今夏稼働開始―半精度演算性能47.2ペタフロップス、人工知能分野における需要急増へ対応―

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概要

東京工業大学(以下、東工大)学術国際情報センター(以下、GSIC)の次世代スパコン「TSUBAME3.0[用語1]」が今夏稼動に向けて開発・構築を開始します。TSUBAME3.0の理論演算性能は16 bitの半精度[用語2]以上で47.2ペタフロップス[用語3]で、TSUBAME2.5とTSUBAME3.0を併せて運用することにより、東工大GSICは半精度以上で64.3ペタフロップスの演算性能を提供できる国内最大のスパコンセンターとなります。科学技術計算の多くはデータサイズ64 bitの倍精度を必要としますが、人工知能(AI)やビッグデータ分野では16 bitの半精度での処理が可能であり、TSUBAME3.0は需要が急増しているこれらの分野での利用が大きく期待されます。

TSUBAME3.0の完成予想図

図1. TSUBAME3.0の完成予想図

TSUBAME2.0/2.5は2010年11月に我が国最速のスパコンとして稼働して以来、6年以上にわたり「みんなのスパコン」として国内外の産学官の研究開発を支えてきており、東工大GSICは世界でも最先端のスパコンセンターとして注目されています。また、東工大GSICは関連各社とともに高性能科学技術計算(HPC[用語4])に加え、近年需要が増大しているビッグデータやAIの各分野の研究を進めており、それらの研究成果やTSUBAME2.0/2.5、省電力スパコンTSUBAME-KFC[用語5]のシステム運用経験を踏まえ、後継となるTSUBAME3.0の設計を行いました。

TSUBAME3.0の開発にあたっては政府調達「クラウド型ビッグデータグリーンスーパーコンピュータ(TSUBAME3.0)」が実施され、日本SGI株式会社(以下、SGI)が落札しました。今後、東工大はSGI、米国NVIDIA社、関連各社とともに開発を進めていきます。

TSUBAMEシリーズは、TSUBAME1.2のTesla、TSUBAME2.0のFermi、TSUBAME2.5のKeplerと最新のNVIDIA社製GPU[用語6]をいち早く採用しており、今回のTSUBAME3.0では第4世代となるPascal GPUを採用し、高い互換性を確保しています。TSUBAME3.0のGPU数は2,160であり、TSUBAME2.5およびTSUBAME-KFCのGPUと併せて総数6,720ものGPUがGSICで稼働することになります。

NVIDIAのアクセラレーテッド・コンピューティング事業を担当する副社長、イアン・バック(Ian Buck)は、次のように述べています。「スーパーコンピューティングの分野において、AIは急速に重要なアプリケーションとなりつつあります。NVIDIAのGPUコンピューティングプラットフォームは、AIとハイパフォーマンス・コンピューティングを融合し、これまで科学者や研究者を悩ませたさまざまな課題を解決できるよう、演算処理を加速させます。Pascal世代のGPUを2,000基以上搭載した東工大のTSUBAME3.0は、医療、エネルギー、そして交通など、さまざまな分野において人々の生活を変えるような進歩をもたらすでしょう。」

TSUBAME3.0の倍精度の理論演算性能は12.15ペタフロップス(1秒間に12,150兆回の浮動小数点演算が可能)と、スーパーコンピュータ「京」を上回る世界最高レベルの性能となります。単精度での演算性能は24.3ペタフロップス、半精度での演算性能は47.2ペタフロップスです。最新GPUの採用による性能および電力効率の向上、ストレージの高速化および大容量化、計算ノードに搭載されるNVMe対応高速SSDの合算容量は1.08 PBと容量、速度ともに強化され、ビッグデータアプリケーションの処理速度を大幅に加速できます。また仮想化など多くのクラウド技術を取り入れ、我が国最高峰のサイエンスクラウドとしての役割も果たします。

TSUBAME3.0ではシステムの冷却効率も最適化されています。屋外に設置される冷却塔によって外気に近い温度の冷却水を少ない電力消費で供給することができ、これを主要なプロセッサの冷却に使用します。冷却効率を示す指標の一つであるPUE(Power Usage Effectiveness)の値は1.033と極めて高い効率となり、より多くの電力を計算に使用することができます。

TSUBAME3.0のシステムの計算ノード部にはSGI社のSGI ICE® XAを採用し、540台の計算ノードを収容します。各計算ノードはインテル® Xeon® プロセッサー E5-2680 v4 を2基、NVIDIA社製GPUのTESLA P100 for NVLink-Optimized Serversを4基、256 GiBの主記憶、ネットワークインターフェイスとしてインテル社製のOmni-Pathを4ポート搭載します。ストレージシステムにはDataDirect Networks社の容量15.9 PBのLustreファイルシステム、これに加えて各計算ノードにも容量2 TBのNVMe対応高速SSDを搭載。計算ノード及びストレージシステムはOmni-Pathによる高速ネットワークに接続され、またSINET5を経由し100 Gbpsの速度でインターネットに接続されます。

TSUBAME3.0の豊富な計算パワーを、学内での教育や先端研究での利用にとどめることなく、「みんなのスパコン」の理念を継承し、我が国のトップ大学の情報基盤センターとして学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN)や革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)およびGSICが運営するTSUBAME共同利用制度を通じ、学外の研究者や企業の研究開発にも提供することで、最先端の科学技術の発展、国際競争力の強化に寄与していきます。

用語説明

[用語1] TSUBAME : Tokyo-tech Supercomputer and UBiquitously Accessible Mass-storage Environment の略。

[用語2] 半精度 : 整数以外の数値をコンピュータで扱う場合には浮動小数点数が用いられますが、精度を選択することが可能です。科学技術計算では64 bitの倍精度が使用されることが多いのですが、32 bitの単精度で計算可能な対象も多くあります。半精度はさらにその半分の16 bitであり、有効な桁数が減りますがAI分野では十分な精度があります。

[用語3] ペタフロップス(Peta Flops) : フロップスは一秒間で何回浮動小数点の演算ができるか、という性能指標で、ギガ(10の9乗)、テラ(10の12乗)、ペタ(10の15乗)など。1ペタフロップスは1秒間に1京回の計算(1兆の1,000倍)

[用語4] HPC(High Performance Computing) : 高性能科学技術計算、つまりスーパーコンピューティングの一般名称。

[用語5] TSUBAME-KFC : TSUBAMEシリーズと同様にGPUを搭載するスパコンで、スパコンの省電力化のための実証実験施設です。2013年11月と2014年6月の世界のスパコンの省エネランキングGreen500で第1位になっています。

[用語6] GPU(Graphics Processing Unit) : 本来はコンピュータグラフィックス専門のプロセッサだったが、グラフィックス処理が複雑化するにつれ性能および汎用性を増し、現在では実質的にはHPC用の汎用ベクトル演算プロセッサに進化している。 TSUBAME3.0で用いるのは米国NVIDIA社製TESLA P100 for NVLink-Optimized Serversで、一台あたり5.3テラフロップス。

登録商標

SGI、SGIのロゴ、SGI ICEはHewlett Packard Enterpriseまたは、アメリカ合衆国および/またはその他の国の子会社の商標または登録商標です。インテル、Intel、Xeonは、アメリカ合衆国および/またはその他の国におけるIntel Corporationの商標です。その他の会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。

お問い合わせ先

東京工業大学 学術国際情報センター

E-mail : kib.som@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2087

日本SGI株式会社

Tel : 03-5488-1801(大代表)

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

日本SGI株式会社
広報担当 横山

E-mail : koho@sgi.co.jp
Tel : 03-5488-6517 / 携帯 : 090-3200-5152

BEST(東京工業大学・チュラロンコン大学共同主催科学教育プログラム)実施報告

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BEST(Borderless Education in Science & Technology(ボーダーレスな科学技術教育))は、本学の学士課程学生向けの授業であり、グローバル理工人育成コースの一環として実施されている「グローバル理工人概論4」の中で、タイ・チュラロンコン大学の学生と行う共同PBL(Problem Based Learning、課題解決型学習)の成果の一つとして設計された科学教育・国際交流プログラムです。

今年度の「グローバル理工人概論4」は、「科学教育とICT(情報通信技術)」をテーマに、東工大とチュラロンコン大学が遠隔のグループワークを実施し、日本とタイ両国の理数系教育の現状や課題、教育現場でのICTの活用状況などを比較し理解を促進しました。また、9月に東工大生がチュラロンコン大学を訪問、12月にはチュラロンコン大生が東工大を訪問し、テーマに関連する施設訪問やグループディスカッションを通じ交流を深めました。

12月16日には、チュラロンコン大生10名、東工大生5名と各大学の教員等4名がお茶の水女子大学附属高校を訪問し、タイのマターデイ高校と遠隔で共同の科学教育プログラムを実施しました。お茶の水女子大学附属高校からは23名、マターデイ高校からは24名の生徒が参加しました。

タイの紹介ビデオを見る参加生徒

タイの紹介ビデオを見る参加生徒

事前学習として、参加生徒をメンバーに含めたフェイスブックの非公開グループを作成し、その中で実験テーマである電磁力についての動画教材を視聴し、その理解度についてグーグルフォームでアンケートを実施しました。

プログラム当日は、チュラロンコン大生と東工大生のサポートのもと、グループに分かれて2つの実験を行いました。

実験で盛り上がる参加者達
実験で盛り上がる参加者達

実験で盛り上がる参加者達

1つ目の「モーターをつくってみよう」では、導入部の動画教材を視聴した後、電磁力で動くモーターをクリップなど身近なものを使って作ってみました。ただモーターを作って動かしてみるだけではなく、コイルの巻き方を変えたり、磁石とコイルの距離を変えたりすることでモーターの動きがどう変わるかといった実験前に出された課題にも取り組みました。

2つ目の「リニアモーターカーを作ってみよう」では、1つ目の実験と同様に、スポンジや下敷きなど身近なものを使ってリニアモーターカーの模型を作って動かしてみました。どうすればうまくスムーズに動くか、どうすれば速く走るようになるか、事前の課題に取り組みながらグループで実験を進めました。リニアモーターカーがうまく走り出したグループからは、歓声が上がりました。

  • モーターを作ってみよう

    モーターを作ってみよう

  • リニアモーターカーを作ってみよう

    リニアモーターカーを作ってみよう

フレミングの左手の法則を使い解説する様子
フレミングの左手の法則を使い解説する様子

2つの実験を通して、実験前に出された課題へのそれぞれの回答をグループで検討し、インターネット経由でマターデイ高校の生徒と結果を共有しました。マターデイ高校では、別の日に同じ内容の実験を実施し、プログラム当日は実験結果をお茶の水女子大学附属高校の生徒と共有しました。実験結果のほか、こうした電磁気力の技術を応用して私たちの生活にどのように役立てることができるかも考え、日本とタイの高校生が意見を交換しました。ディスカッションの場面では、各グループがタブレット端末を1台ずつ使用し、メンティメーターというリアルタイムでアンケートの投票・集計ができるインターネットサービスを利用しました。

  • テレビ会議システムも活用しタイの高校生と双方向で交流

    テレビ会議システムも活用しタイの高校生と双方向で交流

  • 別日にタイのマターデイ高校でも同じ実験を実施

    別日にタイのマターデイ高校でも同じ実験を実施

  • インターネット経由でタイと意見を共有

    インターネット経由でタイと意見を共有

  • タブレットでアンケートに回答する様子

    タブレットでアンケートに回答する様子

科学実験を通じて、タイ人と日本人、高校生と大学生といった様々な若者の交流を深めることができました。

記念写真

記念写真

東工大生の感想

今回のプロジェクトに携わり、日本とタイの科学や教育に関する様々な問題を学ぶ貴重な機会になりました。また、高校生たちが実験している時の反応が素晴らしく、理解を深めるために実験は欠かせないと実感しました。今後もタイの友人たちとの交流を続けていきます。

教育プロジェクトの目的から方法、実施まですべて学生でつくりあげることはとても挑戦的ですが、東工大生・チュラロンコン大生ともこのプロジェクトへの参画を強く勧めたいです。異なる背景をもつ人々が協働して問題に取り組む経験をすることで、今後もっと大きな問題の解決につながり国の障壁を超えることができるようになると思います。

チュラロンコン大生の感想

参加した高校生たちは、実験やディスカッションを通して、科学が楽しいこと、科学が自分たちの生活に深く関わっていることを実感することができたと思います。日本とタイとの交流を加えたことで、実験がさらに楽しくなり、科学への理解や興味をより深めることができました。

今回は初めての試みのため改善できる点もいくつかあると思いますが、インターネット経由で実験やディスカッションによって科学を学ぶ手法は、今後もっと様々な場面や国で非常に効果的だと実感しました。

参加したお茶の水女子大学附属高校の生徒の感想

普通の実験イベントでは、考察しなかったりなぜ動くのかわからなかったりしますが、今回のイベントではモーターやリニアモーターカーが動く仕組みが最後までわかり大変有意義でした。また同時に、英語を話す練習や、タイの学生や東京工業大学の大学生と知り合いになれて何重にも楽しかったです。

苦手な物理の実験を英語でするということがとても不安でしたが、楽しく参加できました。物理も自分の身の回りで利用されていることを実感でき、もっと知る必要があると思いました。

英語ができることは学ぶ上で今後必要であることはもちろん、英語ができればもっとたくさんの人と交流できるんだとひしひしと感じることができました。

日本で習うことと同じことを、海外でも勉強していると思うと刺激を受けました。

参加したマターデイ高校の生徒の感想

日本人と友達になれてよかったです。もっと長く会話をしたかったです。

お問い合わせ先

グローバル人材育成推進支援室

E-mail : ghrd.info@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3520

三島学長がAEARU第39回理事会と第22回年次総会に出席

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10月13-14日に、東アジア研究型大学協会(AEARU:The Association of East Asian Research Universities)の第39回理事会及び第22回年次総会がソウル大学で開催され、東工大からは三島良直学長、関口秀俊副学長(国際連携担当)が出席しました。

全体写真

全体写真

AEARUは、1996年に東アジアにおける研究型大学間の交流促進を目的として設立されたフォーラムで、日本・中国・韓国・香港・台湾の18の大学が加盟しています。理事会は、年に2回開催され、秋の理事会では年次総会が併せて開催されています。理事会には、議長校、副議長校、前副議長校、及び4つの理事校の代表者が参加し、年次総会には18の加盟大学から49名が参加しました。

年次総会に先駆けて開催された理事会では、2017年のAEARUの活動計画案が紹介され、了承されました。また、三島学長より、2017年に東工大で開催予定の第40回理事会について、4月14-15日の日程で開催することが告知されました。

(前列左から)三島学長、ティ・ウェイ・クオ国立台湾大学副学長(研究担当)

(前列左から)三島学長、ティ・ウェイ・クオ国立台湾大学副学長(研究担当)

年次総会の前半では、加盟大学が2016年に行ったワークショップや学生キャンプ等のAEARUの活動報告が行われ、関口副学長が、東工大が2016年8月26-27日に開催した「第6回エネルギー・環境ワークショップ」の活動について報告しました。その後、加盟大学から2017年のAEARU活動計画案について説明があり、承認されました。

年次総会の後半では、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション世界大学ランキングの編集を担当するフィル・ベティ氏が、世界大学ランキング作成時の分析結果を紹介したほか、加盟大学による教育・研究に関する取り組みについてのプレゼンテーションが行われました。

加盟校がAEARU活動の推進に積極的に取り組んでいくことを確認し、閉会となりました。


遊泳中のスイマーにかかる抵抗を推定する方法を開発―スイマーの抵抗は泳速の3乗に比例する―

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研究成果のポイント

1.
泳法を限定せず、任意の速度で泳いでいるスイマーが受ける抵抗を、正確に推定できる方法を開発しました。
2.
スイマーに働く抵抗力は、これまで泳速の2乗に比例すると考えられていましたが、実は約3乗に比例することが判明しました。
3.
本測定法を用いることで、泳技術の優劣を客観的に評価することが可能となり、今後の泳パフォーマンス向上に大いに貢献することが期待されます。

国立大学法人筑波大学 体育系の高木英樹教授、成田健造氏(大学院生)、国立大学法人東京工業大学 工学院の中島求教授らの研究グループは、筑波大学の実験用回流水槽を用いて、クロール、背泳ぎなど、泳法を限定することなく、任意の速度で泳いでいるスイマーに作用する抵抗力を精度良く推定する方法を、世界で初めて開発することに成功しました。これまでは、体を一直線に伸ばした姿勢時の静的抵抗や、上肢だけでクロールを行うプル泳時の動的抵抗を測定する方法は存在しましたが、泳法や泳速に制限を加えることなく、実際に泳いでいるスイマーの抵抗(自己推進時抵抗)を測定する方法は確立されていませんでした。

そこで、本研究グループが蓄積してきた競泳に関する流体力学的知見を活かし、従来とは全く異なる方法を採用することで、自己推進時抵抗の推定を可能としました。その結果、クロールで泳ぐスイマーに働く抵抗力は、これまで泳速の2乗に比例すると考えられていましたが、実は約3乗に比例して増加することが判明しました。

今後、本測定法を用いて、様々なレベルのスイマーの抵抗を測定することで、泳技術の優劣を客観的に評価することが可能となり、今後の泳パフォーマンス向上に大いに貢献することが期待されます。

なお、本研究成果は、Journal of Biomechanicsにおいて早期公開中です。

研究の背景

競泳は抵抗[用語1]との闘いであり、如何にして抵抗を減らすかは競技力向上を目指す上で最重要課題です。100年以上前から、スイマーの抵抗を測定しようとする試みが行われきました。当初は、手足を含め体を一直線に伸ばした姿勢を取った静的状態で、水中を牽引した場合の抵抗(受動抵抗)について議論され、速度の2乗に比例して抵抗が大きくなることが明らかにされました。しかし、この受動抵抗を用いた議論は、実際にスイマーが泳いでいる時の状況とは大きく異なることが問題視されてきました。そこで、自らの手足を動かして推進しているスイマーの動的抵抗(自己推進時抵抗)をなんとか測定しようと、様々な研究者が測定方法の開発に取り組んできました。その一例として、キック動作を行わず、腕だけでクロール泳を行うプル泳時の動的抵抗が測定され、自己推進時抵抗がスイマーの体型や泳技術によって異なることが報告されましたが、泳法はプル泳に限定されました。その他にも、通常のクロール泳における抵抗が推定可能とする方法が提案されましたが、残念ながら全力で泳いだ場合のみ推定可能で、泳速度に制限がありました。このように、泳法に関わらず任意の速度で泳いでいるスイマーの抵抗を正確に測定する方法は未だ確立されておらず、水泳界では古くて新しい問題であったのです。

研究内容と成果

そもそも自己推進時抵抗を正確に実測しようとするなら、スイマーの体表面に作用する圧力と摩擦力の全分布を計測する必要がありますが、実際問題としてスイマーの泳ぎを妨げないで、それらの測定を行うのは不可能です。そこで我々は、実験用回流水槽を用い、ある任意の流速においてクロール泳を行った時の泳ぎのテンポをスイマーに記憶させ、そのテンポを維持したまま、流速を様々に変化させた場合にスイマーに作用する力を測定し、その測定値から自己推進時抵抗を推定する方法を考案しました(詳細については図1を参照)。

自己推進時抵抗計測システムの概要

図1. 自己推進時抵抗計測システムの概要

まずスイマーに対し、任意の流速(U1)に設定された回流水槽内で、一定の位置に留まってクロール泳を行うよう指示し、その際の腕の回転頻度(テンポ)を記憶させる。その後、前後方向からワイヤーによって固定された状態で、先に記憶させたテンポを再現、維持しながらクロール泳を行わせる。次に回流水槽の流速(U)をU1より速くしたり、遅くしたり変化させながら、前後のワイヤーに生じる張力を測定する。この時、流速がU < U1の場合には、スイマーが発揮する推進力は受ける抵抗を上回るので、前方に進もうとする力が生じ、後のワイヤーに張力がかかる。一方、流速がU > U1の場合には、逆にスイマーが発揮する推進力は受ける抵抗を下回るので、後方に押し戻される力が生じ、前のワイヤーに張力がかかる。流速Uを8~9段階で増減させ、それぞれの段階における前後のワイヤーにかかる張力の平均値を求め、その回帰曲線からU1で泳いた時の自己推進時抵抗を推定する。

この新しい方法を用いることにより、通常のクロールで泳ぎながら、速度を向上させた時の抵抗の変化が初めて明らかになりました。その結果、従来は速度の2乗に比例して抵抗が増加すると考えられていたものが、実は約3乗に比例して増加することが判明しました(図2)。つまり、泳速度を10%向上(1.1倍)させようとした時、従来の2乗をベースにした試算では21%(1.1×1.1=1.21)抵抗が増加すると考えられていたものが、実際には33%(1.1×1.1×1.1=1.331)も抵抗が増加することが分かったのです。この数値からも、競泳が抵抗との闘いであることが示されます。

6人の対象者(A~F)の自己推進時抵抗(◯)と受動抵抗(▲)の変化

図2. 6人の対象者(A~F)の自己推進時抵抗(◯)と受動抵抗(▲)の変化

受動抵抗は、これまでの報告の通り、泳速度の2乗に比例して増加していたが、自己推進時抵抗は、泳速度の2乗ではなく、約3乗に比例して増加していた。

今後の展開

今後は、本測定法を用いて、世界トップスイマーの自己推進時抵抗を測定し、泳技術の優劣を客観的数値で評価し、泳技術を改善するヒントを得ていきます。また、これまでは主にクロール泳でしか自己推進時抵抗の測定は行われてきませんでしたが、日本人が得意とする背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライなど、他の種目についても同様の測定を行い、抵抗を低減させるための具体的な方策を検討し、TOKYO2020における日本人スイマーの活躍に貢献できればと考えています。

用語説明

[用語1] 抵抗 : スイマーが水面付近を泳いだ時、スイマーの体型に依存する形状抵抗(圧力抵抗とも言う)、水と体表面が接する部分に生じる摩擦抵抗、そして波がおきてスイマーを押し戻す方向に作用する造波抵抗などが生じますが、ここではこれらすべての抵抗を合わせた力を抵抗と呼んでいます。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Biomechanics
論文タイトル :
Developing a methodology for estimating the drag in front-crawl swimming at various velocities
(和訳)クロール泳における異なる泳速時の抵抗推定方法の開発
著者 :
Kenzo Narita, Motomu Nakashima and Hideki Takagi
DOI :

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

筑波大学 体育系
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東京工業大学に「産総研・東工大 実社会ビッグデータ活用 オープンイノベーションラボラトリ」(RWBC-OIL)を設立

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東京工業大学に「産総研・東工大 実社会ビッグデータ活用 オープンイノベーションラボラトリ」(RWBC-OIL)を設立
―実社会ビッグデータ活用技術による新たな価値創造を実現―

国立研究開発法人産業技術総合研究所(理事長 中鉢良治、以下「産総研」という)は、2017年2月20日に「産総研・東工大 実社会ビッグデータ活用 オープンイノベーションラボラトリ」(AIST- Tokyo Tech Real World Big-Data Computation Open Innovation Laboratory; RWBC-OIL)を国立大学法人 東京工業大学(学長 三島良直、以下「東工大」という)と共同で東工大 大岡山キャンパス内に設立しました。産総研のオープンイノベーションラボラトリ(OIL)[用語1]は、産総研の第4期中長期計画(平成27年度~31年度)で掲げている「橋渡し」を推進していくための新たな研究組織の形態で、RWBC-OILがその6件目となります。

実社会にはテキスト文書や画像ファイルといったデータベース化が容易ではなく種類の異なるデータ(非構造化データ)が膨大に計測・蓄積されています。これらビッグデータを実社会における課題解決に活用するためには、異種・大量なデータの効率的な処理を複数の計算機を適材適所に組み合わせることができる計算プラットフォームの構築が必要です。また、その計算プラットフォーム上で、異種・大量のデータを処理して知識を導き出すためのデータ解析技術も必要となります。こうした実社会のビッグデータを迅速かつ的確に分析することで、業務効率の向上や適切な状況判断の実現だけではなく、これまでになかった新しい製品やサービスを創出することが可能になります。

産総研は、計算機の能力を最大化して高速・大量にデータを処理する高性能計算の研究においてトップレベルの技術を有しています。非構造化データの解析技術としては、サービスや生活中で生成される各種のビッグデータを統合し現象の背後にある関係を5W1H化するなど構造的に表現して、現象の予測やシミュレーションを可能にする確率モデリングの研究開発を進めています。また、データの次元が増えるほど偶発的な検出が増え、真の発見が難しくなる課題を解決するために、出現頻度の低い組み合わせをデータから取り除き、予測値を比較することで格段に精度の高い予測値を算出する独自アルゴリズムの研究開発も進めています。

東工大は、計算プラットフォームの構築技術として、世界トップクラスのスーパーコンピューターであるTSUBAMEシリーズに代表される大規模スーパーコンピューター構築技術やTSUBAME-KFC[用語4]で実現された世界一の省電力計算機技術を有しています。また、大規模スーパーコンピューター上で高性能を発揮するビッグデータ処理技術や高速・省資源型の深層学習技術[用語2]やそれらのアプリケーション分野への応用技術、さらには交通量や株価といった社会・経済に関する実社会規模の現象の分析に適した大規模エージェントシミュレーション技術などの、卓越したビッグデータを活用する解析技術の研究開発を進めています。

今般、産総研と東工大は新たな産総研の拠点(RWBC-OIL)を東工大 大岡山キャンパスに設置し、産総研と東工大が有する計算プラットフォーム構築技術とビッグデータ処理技術を融合します。さまざまな分野に適用できるビッグデータの処理・解析技術を提供するオープンプラットフォームを構築することで、新たな価値を創造するための研究開発を行います。またRWBC-OILでは民間企業と密接に連携し共同研究や技術移転を進めることで、得られた成果の速やかな産業化と社会実装を目指します。

産総研・東工大 実社会ビッグデータ活用オープンイノベーションラボラトリ(RWBC-OIL)

図1. 産総研・東工大 実社会ビッグデータ活用オープンイノベーションラボラトリ(RWBC-OIL)

RWBC-OILで行う主な研究

研究課題1 ビッグデータ処理オープンプラットフォームの確立

大規模スーパーコンピューター技術を最大限活用したビッグデータ処理プラットフォームを研究開発します。DNAの塩基配列を読みとるゲノムシーケンサーからのデータやソーシャルネットワークにおける関係を示す大規模グラフデータの処理、画像認識といったこれまでのスーパーコンピューターではあまり適用されないタイプのデータに対して、大規模データ処理技術を適用し、世界最高性能のAIプラットフォームとして開発中のAI橋渡しクラウド(ABCI)[用語3]や世界トップクラスの大規模スーパーコンピューターTSUBAME 3.0/2.5[用語4]上に実装する研究を行い、さまざまなアプリケーションへの適用を可能とするオープンなプラットフォームを構築します。さらに、このプラットフォームの運用を通して、ビッグデータを活用するためのエコシステムとオープンプラットフォームのあり方について検討し、データセンター事業者などへの技術移転を通した産業応用を目指します。

研究課題2 ビッグデータを活用するデータ処理技術の開発

社会に埋め込まれるさまざまな高精度センサー(ドライブレコーダー、監視カメラ、航空機・人工衛星)を通じて得られる、異種・大量データに対して、深層学習処理基盤を用いた解析を行い、省人化や新たな社会サービス創出につなげます。

また、確率モデリング技術と大規模エージェントシミュレーション技術を融合し、例えば工業分野における組み立て作業工程の最適化や大規模構造物の診断、政策分野における地域振興のための意思決定支援、サービス分野における高齢者の健康推移・将来予測などの適用を目指します。

さらに、データを特徴づける要素が多いもののデータ量が十分でないヘルスケア・ゲノム解析・IT創薬などの分野におけるデータを対象に、独自のアルゴリズムを実装し自動的に実行する汎用ツール・ライブラリを開発します。ABCIとTSUBAME3.0上で効率的に並列計算処理を行うことができるシステムとして実装し、大規模な実データでの評価を行います。

用語説明

[用語1] オープンイノベーションラボラトリ(OIL) : 経済産業省が2016年度から始めた「オープンイノベーションアリーナ」事業の一環として行われるもので、卓越した基礎研究に基づく技術シーズをもつ大学などに、産総研が研究拠点を設置し、その大学と産総研が集中的・組織的に研究を行うことにより、技術の実用化・「橋渡し」の加速や、「橋渡し」につながる目的基礎研究の強化を目指すものです。これまで、2016年4月に名古屋大学と共同で「産総研・名大 窒化物半導体先進デバイスオープンイノベーションラボラトリ」(GaN-OIL)を、2016年6月に東京大学と共同で「産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ」(OPERANDO-OIL)を、また同月に東北大学と共同で「産総研・東北大 数理先端材料モデリングオープンイノベーションラボラトリ」(MathAM-OIL)を、2016年7月に早稲田大学と共同で「産総研・早大 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ」(CBBD-OIL)を、2017年1月に大阪大学と共同で「産総研・阪大 先端フォトニクス・バイオセンシングオープンイノベーションラボラトリ」(PhotoBIO-OIL)を設立しています。

[用語2] 深層学習技術 : 極めて大規模な階層構造を用いて、データが持つ規則性やパターンを自動的に学習することにより、未知のデータに対する予測や分類を可能にする技術です。データからパターンを学習する技術は一般に機械学習と呼ばれ、さまざまな手法が存在しますが、深層学習はパターンを階層的に表現して学習する点に特徴があります。現在では、人間の脳の神経回路を模倣した人工ニューラルネットワークと呼ばれる機械学習手法を大規模化(深層化)したものや、それらを用いた認識・解析技術全般を指して深層学習技術と呼ぶことが多いです。2010年頃から音声や画像処理分野で適用され従来方法を大きく超える性能を示したことで注目を集め、既にさまざまな分野で実用化されています。大規模な計算資源を必要とするもので、近年の計算機技術の進歩により、初めて可能になりました。

[用語3] AI橋渡しクラウド(ABCI) : 産総研が実施する2016年度第2次補正予算「人工知能に関するグローバル研究拠点整備事業」(総事業費195億円)の一環として構築する計算機「人工知能処理向け大規模・省電力クラウド基盤(AI Bridging Cloud Infrastructure、ABCIという)です。世界最高水準の機械学習処理性能を提供するAIのためのクラウドで、産学連携のための計算インフラとして2017年度中に稼働予定です。機械学習用の性能目標は130ペタフロップス以上です。

[用語4] TSUBAME 3.0/2.5/KFC : 東工大に設置されたGPUによって加速された、我が国を代表する大規模クラスター型スーパーコンピューター群です。TSUBAME2.0は2010年に稼働し、2013年に2.5にアップグレードされて、その性能は単精度で17.1ペタフロップス、倍精度で5.7ペタフロップスと世界でもトップクラスです。TSUBAME-KFCはスパコンの電力や冷却効率の究極を探訪し、かつTSUBAME3.0のプロトタイプとして開発され、油浸冷却や種々の電力制御技術によって電力効率・世界ランキングを示すGreen500では世界一を2013年と2014年に達成し、更に機械学習・ビッグデータ用のアップグレードがなされて1ラックで1.5ペタフロップスの性能を誇ります。TSUBAME3.0は2017年8月に稼働予定です。

お問い合わせ先

(RWBC-OILに関すること)

国立研究開発法人産業技術総合研究所
産総研・東工大 実社会ビッグデータ活用オープンイノベーションラボラトリ
副ラボ長 小川宏高

Tel : 029-861-3092

取材申し込み先

国立研究開発法人産業技術総合研究所
企画本部 報道室

E-mail : press-ml@aist.go.jp
Tel : 029-862-6216 / Fax : 029-862-6212

東京工業大学 広報センター

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韓国の浦項工科大学総長が東工大を訪問

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2016年12月20日、本学協定校である、韓国の浦項工科大学(POSTECH)のキム・ドヨン総長、ソング・ウジュン副総長、パク・ヒョウン国際協力チームリーダーが東工大を訪問し、岡田清理事・副学長(企画・人事・広報担当)、安藤真理事・副学長(研究担当)、ジェフリー・クロス教授(環境・社会理工学院)と懇談を行いました。

(左から)安藤理事・副学長、パクチームリーダー、ソング副総長、キム総長、岡田理事・副学長、クロス教授

(左から)安藤理事・副学長、パクチームリーダー、ソング副総長、キム総長、岡田理事・副学長、クロス教授

POSTECHと本学は2003年に学術交流協定を締結し、学生や研究者の交流を行っています。今回の懇談は、両大学の近況報告と学生や研究者の交流推進、本学が2015年より実施しているオンライン教育(MOOCs)に関する意見交換を目的として行われました。

懇談は、岡田理事・副学長による本学の概要説明で始まりました。2016年4月にスタートした新教育システムでは、学部と大学院とが一体となって教育を行う「学院」を創設し、学士課程と修士課程、修士課程と博士後期課程の教育カリキュラムが継ぎ目なく学修できるようになったこと、また、それまで学士課程に限定されていた教養教育を博士後期課程まで拡大したことなどを、その特色として説明しました。キム学長らが教養教育の狙いについて質問すると、岡田理事は、最先端の理工系の専門知識を広く修得することに加えて、哲学や社会学、外国語といった授業を通して、学生の理工系学問の社会的意義についての理解を深め、幅広い価値観と自由な発想力を養い、コミュニケーション能力などの向上を図ることを目的としていると答えました。

懇談の様子

懇談の様子

続いて、クロス教授がMOOCsについて紹介しました。東工大はMOOCs配信プラットフォームであるedXに加盟し、TokyoTechXとしてオンライン講座を提供していること、現在公開している2つの講座(地球科学建築)は約17,000人が履修していること、さらに2つのオンライン講座の開発を本学教育革新センターオンライン教育開発室(OEDO)で、教職員と学生が協働で行っていることを説明しました。

その後、キム総長がPOSTECHの概要を紹介しました。2016年に創立30周年を迎えたPOSTECHは、韓国初の研究志向型大学として、国内外で高く評価され、現在約3,500人の学生が韓国東部の港湾都市浦項キャンパスで学んでいます。また、浦項加速器研究所(PAL)を始めとする70以上の研究所があります。

続いて、パク国際協力チームリーダーが、POSTECHが実施している学生交流プログラムについて説明を行い、キム総長は、同プログラム等を通して、本学との学生、研究者交流をさらに推進していきたいと述べました。

理事・副学長らとの懇談後、キム総長らPOSTECH代表団は、山浦弘教授(工学院)、 POSTECHの卒業生でもある金俊完准教授(科学技術創成研究院)と東工大の学生交流プログラムについて懇談し、今後、両学の学生交流を推進するための意見交換を行いました。2つの懇談の後、一行は博物館・百年記念館に足を運び、広瀬茂久特命教授の案内で、同博物館を見学しました。

本学環境・社会理工学院が日本工営株式会社と相互連携の覚書を締結

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環境・社会理工学院は、1月24日に大岡山キャンパス本館において、日本の国際開発エンジニアリング分野のリーディング企業である日本工営株式会社と、技術開発、研究開発および人材教育に関して相互の交流と協力を推進し、それぞれの強みを生かした活動を連携・協力して行うことで双方の発展を目指すことで合意し、相互連携に関する覚書を締結しました。

(左から)田中技師長、杉山副本部長、作中取締役執行役員、岸本学院長、藤村副学院長

(左から)田中技師長、杉山副本部長、作中取締役執行役員、岸本学院長、藤村副学院長

当日は、環境・社会理工学院の岸本喜久雄学院長と日本工営株式会社の作中秀行取締役執行役員が覚書に署名し、本学からは同院の藤村修三副学院長(同教授)と阿部直也准教授が、同社からは、技術本部の田中弘技師長と杉山仁實副本部長、コーポレートコミュニケーション室の金田肇室長が署名式に同席しました。

続いて、岸本学院長と作中取締役執行役員をはじめとする出席者が、今日の企業および大学における人材育成のあり方や企業の経営継承のあり方、さらには本学の歴史などについて意見交換を行い、和やかな雰囲気の中、署名式を終えました。

署名後、握手を交わす作中取締役執行役員(左)と岸本学院長

署名後、握手を交わす作中取締役執行役員(左)と岸本学院長

今回の覚書締結に至るまでに、日本工営株式会社は、同学院融合理工学系が流れを汲む工学部国際開発工学科の時代より、国際開発分野におけるエンジニアリグコンサルタント業務やプロジェクトマネジメントの実態に対する学生の理解を促す講義「国際開発論」に同社社員を派遣するなど、本学に継続的な協力を行ってきました。また、2016年11月には、同年4月から開始した同院主催の国際理工学系人材育成プログラム(Global Scientists and Engineer Program(GSEP))の学生一行を同社に受け入れ、業務内容の解説や職場見学、そして社員との懇談会を実施する機会も提供しています。

今回の相互連携の覚書の締結により、双方の連携がさらに深化することが期待されます。

環境・社会理工学院

環境・社会理工学院 ―地域から国土に至る環境を構築―
2016年4月に新たに発足した環境・社会理工学院について紹介します。

環境・社会理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

新触媒で糖由来化合物から欲しいものだけを合成―バイオマス資源から有用化成品製造への応用に期待―

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要点

  • リン酸セリウム触媒で、糖由来化合物から有用化合物(アセタール化合物)のみを合成することに成功
  • 固体触媒のため、反応後の分離回収が簡易で再利用可能
  • 16種の化合物の合成に適用可能

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の原亨和教授と鎌田慶吾准教授らは、リン酸セリウム(CePO4[用語1]触媒が他の触媒とは大きく異なり、糖や炭水化物から生成される5-ヒドロキシメチルフルフラール[用語2]から、有用なアセタール化合物[用語3]のみを合成できることを発見しました。

本触媒を用いることで、様々なアセタール化合物の合成に応用できることがわかりました。CePO4触媒上に近接する2つのサイト(ルイス酸と塩基)がそれぞれ異なる反応分子を活性化することで、高い触媒性能が発現することが示唆されます。

構造を制御された2つ以上の活性サイトをもつ多機能触媒の中でも、新しい酸・塩基固体触媒の設計と開発が切望されています。本研究は、固体触媒上での2つの分子の同時活性化を利用した高効率反応開発の有用な手法であるといえます。従来の金属酸化物に代表される酸・塩基触媒の多くは、均質な活性サイトの構築が困難とされていました。酸点である希土類金属と塩基点であるオルトリン酸とのユニット融合というコンセプトで合成した本触媒は、均質な2つの活性サイトをもちます。この二元機能により、高い触媒性能が発現しました。

本研究成果は英国科学誌「Chemical Science(ケミカル・サイエンス)」オンライン速報版に2017年2月7日に公開されました。

研究成果

原教授らの研究グループは、高温高圧の熱水中で合成する水熱法[用語4]により得られた単斜晶構造をもつリン酸セリウム(CePO4)が、従来の酸・塩基触媒とは異なり、糖由来化合物についてアセタール化反応のみを促進する固体触媒として機能することを発見しました(図1(上))。

ピリジン・クロロホルムをプローブ(目印)分子として吸着させたCePO4のIR(赤外線の吸収)スペクトルからCePO4表面の酸・塩基性質を評価しました。この結果、CePO4上のブレンステッド酸点(プロトン)は存在せずルイス酸点(Ceカチオン)のみ存在することを見出しました。CePO4上の塩基点(PO4アニオン)がルイス酸点の近くに存在すると考えられ、CePO4の結晶構造と良い一致を示すことがわかりました(図1(左下))。

種々の酸・塩基触媒を用いたメタノールと5-ヒドロキシメチルフルフラールの反応結果を表1に示します。従来の酸触媒では原料(基質)内の水酸基がブレンステッド酸による影響を受けやすいため、エーテルあるいは複雑な混合物が生成することが知られています。そのため、これまでの均一系あるいは不均一系触媒自体ではアセタール化反応がうまくいきませんでした。一方、CePO4触媒はアセタール化合物のみを生成し、最も高い活性を示しました。固体酸・塩基触媒として知られている酸化セリウム(CeO2)などの他の金属酸化物はアセタール化反応には不活性であることからも、CePO4が本反応において従来触媒とは異なる役割を果たしていることがわかりました。

(上)CePO4による糖由来化合物5-ヒドロキシメチルフルフラールの選択的アセタール化反応。(左下)CePO4の構造(黄緑色、灰色、赤色の球はそれぞれセリウム、リン、酸素原子を示している)。(右下)CePO4上の活性サイトと反応分子の同時活性化の模式図。

図1. (上)CePO4による糖由来化合物5-ヒドロキシメチルフルフラールの選択的アセタール化反応。(左下)CePO4の構造(黄緑色、灰色、赤色の球はそれぞれセリウム、リン、酸素原子を示している)。(右下)CePO4上の活性サイトと反応分子の同時活性化の模式図。

CePO4による反応分子の活性化モードについて、アセトンおよびメタノールを吸着させたIRスペクトル測定により検討しました。この結果、アセトンのカルボニル酸素と均質なルイス酸点(Ceカチオン)との相互作用が確認されました。また、メタノールは水素結合を介し分子状でCePO4上に吸着していることがわかりました。一方、CeO2は複数の酸点をもち、強い塩基性によりメタノールが解離した状態(メトキソ種)で吸着することがわかりました。CePO4が均質な活性サイト上で2つの反応分子をソフトに活性化する二元機能触媒として働くことで、アセタール化反応のみを促進すると考えられます(図1(右下))。

CePO4の二元機能触媒能は、種々の原料(基質)を用いたアセタール化反応に適用できることがわかりました。アルコール類を用いた種々の水酸基、C=C二重結合、ヘテロ原子を含む芳香族および脂肪族カルボニル化合物のアセタール化反応を効率的に促進する触媒として機能し、16種の化合物合成に適用できました。また、大きなスケールでの反応にも応用できるため、対応する生成物をグラムスケールで単離回収することができます。例えば、グリセロールを用いたアセトンのアセタール化反応により燃料添加剤として工業的に重要なソルケタール化合物のラージスケール合成にも適用できました(図2)。

表1. メタノールと5-ヒドロキシメチルフルフラールとの反応における触媒効果a

メタノールと5-ヒドロキシメチルフルフラールとの反応における触媒効果
触媒
転化率(%)
収率(%)
アセタールA
副生成物B
副生成物C
CePO4
81
78
<1
<1
H2SO4 b
>99
<1
24
2
Ce(OTf)3 b
74
<1
27
<1
K3PO4
81
<1
<1
<1
CeO2
5
<1
<1
<1
ナフィオンNR-50
95
1
42
21
モルデナイト
86
39
9
43
触媒なし
2
2
<1
<1

a 反応条件:触媒(0.1 g)、5-ヒドロキシメチルフルフラール(1.0 mmol)、メタノール(5 mL)、還流、1 h。転化率と収率はGCにより求めた。転化率(%)=転化した5-ヒドロキシメチルフルフラール(mol)/5-ヒドロキシメチルフルフラール初期量(mol)× 100. 収率(%)=生成物(mol)/5-ヒドロキシメチルフルフラール初期量(mol)× 100。 b 触媒(0.43 mmol)。

CePO4触媒によるソルケタールのグラムスケール合成反応

図2. CePO4触媒によるソルケタールのグラムスケール合成反応

背景と研究の経緯

近年、汎用化成品・バイオプラスチック・燃料などの高付加価値製品の製造に、化石資源の代わりとなる生物由来の再生可能なバイオマス資源が注目されています。これらは化石資源と異なり、生成したCO2が光合成で再びバイオマス資源へと変換されるためCO2排出低減にも寄与し、これらの物質変換において酸・塩基触媒が重要な役割を果たしていることが知られています。

酸や塩基、酸化還元能をもつ複数の触媒活性サイトによる協奏的な分子活性化は、高い触媒活性や特異的選択性の発現に寄与します。固体触媒の分野においては、金属酸化物を基盤とした材料の酸・塩基性質はよく研究されており、種々の有効な(複合)酸化物触媒が開発されています。しかしながら、均質かつ構造制御された酸・塩基活性サイトの構築が困難であるため、触媒構造のファインチューニングや反応性の制限といった問題点を抱えていました。

このような研究背景の下、我々は希土類リン酸化合物が2つの反応分子(求核剤と求電子剤)に作用し、優れた酸・塩基固体触媒として機能するのでは考えました。CePO4触媒は、これまでにバイオマス変換反応を含む液相反応における酸・塩基固体触媒としての利用はなく、本研究が初めての報告例となります。

今後の展開

CePO4触媒は、様々なアセタール化合物合成に適用できる優れた固体触媒として機能し、得られた生成物は、バイオポリマーの原料・ファインケミカルズ合成、界面活性剤、燃料など広範な製品への応用が期待されます。

今回の結果は、均質な活性サイトをもつ二元機能固体触媒の開発が重要であることを示しています。今後、本アプローチを他の金属リン酸塩にも応用することで、さらなる活性向上や他の反応への展開が可能となり、温和な条件下での高効率触媒反応開発に大きく貢献することが期待できます。

本成果は、JST(科学技術振興機構)の戦略的創造研究推進事業およびJSPS(日本学術振興会)の挑戦的萌芽研究によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 ALCA

研究開発課題名 :
「多機能不均一系触媒の開発」
研究代表者 :
東京工業大学科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 原亨和
研究開発実施場所 :
東京工業大学
研究開発期間 :
2016年4月~2021年3月

挑戦的萌芽研究

研究開発課題名 :
「金属とリン酸塩基ユニットの共同作用を利用した多機能固体触媒の創製」
研究代表者 :
東京工業大学科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 鎌田慶吾
研究開発実施場所 :
東京工業大学
研究開発期間 :
2015年4月~2017年3月

用語説明

[用語1] リン酸セリウム : 鉱物(リン酸塩鉱物)の一種であるモナズ石と同じ化学組成CePO4をもつ。本研究で開発した単斜晶構造のCePO4は、Ce3+イオンが7つのPO43-四面体と結合した構造である。

[用語2] 5-ヒドロキシメチルフルフラール : 水酸基とホルミル基を有するフラン化合物。グルコースから得られるためバイオマス由来原料として、モノマーや燃料として検討されている。

[用語3] アセタール化合物 : 酸触媒下でアルデヒドあるいはケトンがアルコールと縮合して得られる有機化合物。主に保護基として使用されるが、近年はバイオ燃料の添加剤や界面活性剤として注目されている。

[用語4] 水熱法 : 高温高圧の熱水中で化合物を合成あるいは結晶成長する手法。

論文情報

掲載誌 :
Chemical Science
論文タイトル :
A Bifunctional Cerium Phosphate Catalyst for Chemoselective Acetalization
著者 :
Shunsuke Kanai, Ippei Nagahara, Yusuke Kita, Keigo Kamata, Michikazu Hara
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
フロンティア材料研究所
教授 原亨和

E-mail : hara.m.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5311 / Fax : 045-924-5381

東京工業大学 科学技術創成研究院
フロンティア材料研究所
准教授 鎌田慶吾

E-mail : kamata.k.ac@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5338

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大フットサル部がFFCカレッジフットサルリーグ1部で準優勝

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本学フットサル部のTokyo Tech.が、2016年度のF-NET主催FFCカレッジフットサルリーグ1部において9勝2敗の成績で準優勝し、昇格1年目での快挙となりました。

昇格一年目で準優勝を果たしたフットサル部のメンバー

昇格一年目で準優勝を果たしたフットサル部のメンバー

FFCカレッジフットサルリーグは関東地域で行われている日本最大級の学生フットサルリーグで、現在37大学以上56チームが参加しています。2016年度に初めて1部リーグに所属したTokyo Tech.は、2016年12月27日にホームである東工大で行われた最終節で、優勝が決まっていた早稲田大学に4-3で勝利したことで、9ヵ月間におよんだリーグ戦を9勝2敗で終え、昇格1年目で準優勝を果たしました。

キャプテンを務める森匠喜さん(工学部 社会工学科 3年生)のコメント

苦しい時期や辛い時期を乗り越え部員全体で頑張ってきた1年間を、準優勝という目に見える形で残せた事を誇りに思います。この結果に満足せず来年、再来年と毎年良い成績を残し続けられるようなチームを目指していきたいです。

お問い合わせ先

東京工業大学フットサル部 Tokyo Tech.

Email : tokyotech12@gmail.com

2月23日15:10 本文中に誤りがあったため、修正しました。

地球コアで“石英”が晶出―できたての頃から地球には磁場が存在、コア組成も大きく変化―

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概要

東京工業大学地球生命研究所の廣瀬敬(所長・教授)らは、液体の地球コアに元々大量に溶け込んでいたケイ素と酸素が、その後の冷却に伴って二酸化ケイ素として結晶化し続け、それがコアの対流を引き起こすことにより、地球には誕生間もない頃から磁場が存在していた可能性が高いことを突き止めた。この磁場の存在が大気の散逸を防ぎ、今日に至るまで地球には豊かな海が維持されてきたと考えられる。

これまでの研究から、地球の形成時において、重たい液体の金属鉄が地球中心部へと沈んで行く間に周囲のマグマと化学反応を起こし、マグマの主成分であるケイ素と酸素が金属中に取り込まれ、コアへと運ばれたと考えられている。そこで、同研究グループが地球コアに相当する超高圧高温環境を実験室で実現し、ケイ素と酸素を含む液体鉄をその環境下に置いたところ、二酸化ケイ素(地表では石英)の結晶化が観察された。コア最上部の液体鉄から密度の小さな二酸化ケイ素が結晶化して分離することにより、残りの液体の密度が大きくなり地球中心へと沈んで行く。これによりコアの中で金属の対流運動が発生し、電磁誘導作用によって磁場を形成する。このようなメカニズムにより、地球はその長い歴史を通して磁場を維持し続けてきたことが明らかになった。一方、地球は磁場があるために太陽風による大気の散逸を免れ、その結果、海の蒸発も免れた可能性がある。本研究により、惑星の大気や海の保持には、その誕生時に「金属コアがどのように形成されたか」が1つの鍵であることが示唆される。

これらの成果は、英科学誌「ネイチャー」に掲載される(3月2日発行の印刷版に先行し、オンライン版2月22日付(日本時間23日午前3時解禁))。

1. 背景

地球には強い磁場があり、それゆえに地球表層への強い紫外線の照射が防がれている。このことが生命の陸上への進出を可能にし、またその後の進化にも影響しているだろう。同時に、磁場は太陽風による地球大気の散逸を防いでいると考える研究者が多い。もし磁場がなければ、大気中の水蒸気が失われ、その結果、海の蒸発が進むことになる。火星の大気がとても薄く、また初期にあったとされる海が消滅したのは、火星の重力が小さいことに加え、磁場がない(初期に失われた)ことと密接に関連しているに違いない。

地球の磁場は、自由電子を持つ金属の液体がコア中を対流運動する(つまり電気が流れる)ことによって形成されている。問題は、コアの対流を駆動するメカニズムである。現在は組成対流と呼ばれるメカニズムが重要と考えられている。地球の中心に固体のコア(内核)が少しずつ結晶化し、あとに残る液体金属が軽元素にわずかに富む(つまり軽い)ことにより、浮き上がって対流する、というものである(図1)。しかしながら、内核が誕生したのはおよそ7億年前(地球の歴史は45億年)なので、それ以前は別のメカニズムが必要である。これまでは、冷たいプレートが沈み込むことによって、コアの表面を冷やし、冷えて重たくなった液体金属が沈む、という熱対流が重要と考えられて来た。ところが、最近の研究によれば(2016.06.02 東工大プレス発表参照)、コアの金属の熱伝導率が高いため、熱対流を起こすためにはコアを急速に冷やす(熱伝導で運べる以上の熱を奪う)必要がある。地球初期から7億年前まで、ずっと熱対流が続いていたとすると、昔のコアは6,000度を超える高温であった必要がある。コアがそのように高温であったとすると、マントルも現在より数千度も高温であった必要があり、それは地質学的な観察に合わない。そこで、熱対流に変わる別のメカニズムが必要と考えられていた(新しいコアのパラドックスouter)。

地球コアにおける結晶化と対流運動

図1. 地球コアにおける結晶化と対流運動

地球初期の時代から、ケイ素と酸素に富む液体鉄は、コア最上部(マントルとの境界部)において二酸化ケイ素を結晶化し、残った液体が重くなって下降することにより、コアの対流を駆動していた。より最近は(およそ7億年前から)、内核(固体金属鉄)の結晶化も、外核の対流に寄与している。コアとマントルの境界部に結晶化した二酸化ケイ素は、周囲と密度が等しくなる、下部マントル中位(深さ1,500 km付近)へと上昇し、地震波の散乱体を形成している可能性がある。

そこで考えられるのは、内核(固体金属)に先行して、何らかの結晶化が起こることによる組成対流である。コアは純粋な鉄ではなく、5%程度のニッケルに加え、それ以外の軽い元素がかなり多量に含まれている(鉄の密度を10%も下げている)ことが知られている。地球誕生時にコアが形成される際、液体の鉄が地球中心部へと集積していく通り道で、マントル(当時はマグマ)と高温高圧下で化学反応し、ケイ素と酸素が金属鉄中に取り込まれる。ゆえに、多くの研究者によって、コアの軽元素はケイ素と酸素であると考えられていた。ところが、そのようなケイ素と酸素を含む液体鉄が、地球の冷却に伴ってコア中で何を結晶化させるかということはこれまで調べられていなかった。

2. 成果

本研究グループは、これまでレーザー加熱式ダイアモンドアンビルセル(図2)を用いた超高圧・高温実験技術の開発を精力的に進めてきた。この技術を利用して、マントル最下部の主要鉱物ポストペロフスカイト相の発見、地球内核における鉄の結晶構造の決定など、高圧地球科学の分野で大きな成果を挙げてきた。

超高圧発生用ダイアモンドアンビル装置

図2. 超高圧発生用ダイアモンドアンビル装置

マントル物質を2つのダイアの間に挟み、超高圧下でレーザーを照射することにより超高温を発生させる。

そして今回さらにこの技術によって、ケイ素と酸素を含む液体鉄を、地球コアに相当する133 - 145万気圧と3,860 - 3,990ケルビンの超高圧高温環境下に置いたところ、二酸化ケイ素(圧力や温度によって様々な結晶構造を取るが、地表では石英)の結晶化が観察された(図3)。また一連の実験から、二酸化ケイ素の結晶化は液体金属中からケイ素と酸素を取り除き、その後固体金属の結晶化が起こることがわかった。すなわち、7億年前に始まった内核(固体金属)の結晶化に先行して、おそらく地球初期の時代から、コアからは酸化物(二酸化ケイ素)が晶出していたことが明らかになった。

133万気圧における液体Fe-Si-O合金の結晶化実験

図3. 133万気圧における液体Fe-Si-O合金の結晶化実験

高圧高温実験終了後に取得した、電子顕微鏡による試料断面の元素マッピング像。液体(Liq)と融解しなかった部分(subsolidus)の間に、二酸化ケイ素(SiO2)の晶出が観察される。

コア最上部において、密度の小さい二酸化ケイ素が結晶化すると、残った液体金属の密度は大きくなる。ゆえに、それらは地球中心へと沈んで行く。上に述べたように、このような組成対流は電磁誘導作用によって地球磁場を形成する。つまり、コアがその最上部で軽い二酸化ケイ素を少しずつ結晶化し続け、また最近では中心部で重たい固体鉄をも結晶化することにより、コア中には常に組成対流が存在し、地球の長い歴史を通して磁場が維持され続けてきたはずである。また、これにより地球は、大気の散逸、さらには海の蒸発を免れた可能性がある。つまり、惑星の磁場の有無、さらには大気や海の保持、そして生命の誕生と持続には、惑星の形成時に金属コアがどのように形成されたか(マントルとの化学反応によって十分なケイ素と酸素を取り込んだか否か)、が1つの鍵であると示唆される。

3. 今後の展望

コアの形成プロセスを考えた場合、ケイ素と酸素がコアの最も有力な軽元素、とこれまで考えられてきた。ところが今回の成果は、内核(固体金属)を結晶化させている現在の外核(液体コア)では、そのどちらか一方はすでに枯渇していることを示している。近年、これらケイ素と酸素に加えて、水素が注目されている(2014.01.22 東工大プレス発表参照)。水素は地球に水として運ばれてきたと考えられるため、コアに大量の水素があるならば、地球に海水量をはるかに超える水が持ち込まれたことになる。しかし、標準的なコア形成モデルでは、コア中に多くのケイ素と酸素が取り込まれるため、さらに水素を含めるとコアの密度が軽くなりすぎてしまうという批判があった。しかし、今回の実験で、そのようなケイ素と酸素は二酸化ケイ素として取り去られることが明らかになり、コアの水素説を強くサポートする結果となった。今後さらに、水素を含む固体鉄の地震波速度の研究を進め、説明困難とされる内核の横波速度を鍵として、地球コアの化学組成の解明を進める必要がある。これにより、水が持ち込まれたタイミングなど、地球形成のシナリオの詳細が明らかになるはずである。

さらに、地球深部で結晶化した二酸化ケイ素は、未だに実態が明らかにされていない地震波速度異常の原因になっている可能性がある。二酸化ケイ素は代表的なマントル鉱物ではない(大陸地殻の主要鉱物)ため、マントル中に存在すると地震波速度異常として現れやすい。また、二酸化ケイ素はマントル深部にあってはとても軽い鉱物であるが、深さ約1,500 kmにてマントルと密度が釣り合う。よって、コアとマントルの境界で結晶化した後、下部マントル中位へと上昇し、現在観測される地震波の散乱体となっている可能性がある(Dipping Low-Velocity Layer in the Mid-Lower Mantle: Evidence for Geochemical Heterogeneityouter)。今後、これら散乱体の分布を手掛かりに、マントルの対流運動の解明が進むと期待される。

論文情報

掲載誌 :
Nature
論文タイトル :
Crystallization of silicon dioxide and compositional evolution of the Earth's core
著者 :
Kei Hirose1, Guillaume Morard2, Ryosuke Sinmyo1, Koichio Umemoto1, John Hernlund1, George Helffrich1 & Stéphane Labrosse3
所属 :
1Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, 2-12-1 Ookayama, Meguro, Tokyo 152-8550, Japan.
2Institut de Minéralogie, de Physique des Matériaux et de Cosmochimie, UMR CNRS 7590, Sorbonne Universités—Université Pierre et Marie Curie, CNRS, Muséum National d'Histoire Naturelle, IRD, 4 Place Jussieu, 75005 Paris, France.
3Université de Lyon, École normale supérieure de Lyon, Université Lyon-1, CNRS, UMR 5276 LGL-TPE, F-69364 Lyon, France.
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所
教授/所長 廣瀬敬

E-mail : kei@elsi.jp
Tel : 03-5734-3528

取材申し込み先

東京工業大学 地球生命研究所 広報室

E-mail : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163 / Fax : 03-5734-3416

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


フランシス・ガリ世界知的所有権機関(WIPO)事務局長が東工大で講演

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2月1日、フランシス・ガリ世界知的所有権機関(WIPO)事務局長が、東工大大岡山キャンパスのくらまえホールにて、学内外からの多数の参加者を前に記念講演を行いました。

記念講演の様子

記念講演の様子

世界知的所有権機関(WIPO:World Intellectual Property Organization)は、スイス・ジュネーブに本部を置く、世界189ヵ国が加盟する知的財産に関する国連の専門機関で、主に知的財産に関する法規の整備、調整、知的財産に係る国際出願の受理・公報発行、知的財産分野での情報提供、途上国支援を行っています。

ガリ事務局長は、国際的に活躍することに興味を持つ学生、研究者、技術者等に向けて、WIPO等の国際機関における勤務と連携の重要性について講演し、併せてWIPOの高位幹部である高木善幸事務局長補から、長年の国際機関で活躍された経験から、日本人が国際機関で働くことの意義に関する講演がありました。続いて、国際知財制度の今後の動向や、国際機関での勤務について活発な質疑応答が行われました。

(左から)高木事務局長補、ガリ事務局長、三島学長、安藤理事・副学長(研究担当)

(左から)高木事務局長補、ガリ事務局長、三島学長、安藤理事・副学長(研究担当)

講演会後には、ガリ事務局長を始め、本学からは三島良直学長、安藤真理事・副学長(研究担当)等による懇談が行われました。懇談では、三島学長による本学の概要説明と産学連携活動に関する説明が行われ、ガリ事務局長からは東工大の積極的な産学連携活動や国際特許出願について敬意が表されました。東工大からは特許出願と研究論文提出の整合化(特に欧州地域)について提起を行い、議論が交わされました。また、WIPOが構築する知的財産の政策的枠組みの中で、大学が果たすべき研究と知識創出が円滑に進むための協力強化等についての意見交換が行われました。

講演会後に行われた懇談にて

講演会後に行われた懇談にて

お問い合わせ先

産学連携推進本部

E-mail : san.kik.kan@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2445

大量のオイルを生産する“最強藻類”の秘密を解明―バイオ燃料の実用化に向け有力な手がかり得る―

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要点

  • バイオ燃料生産に最有望の藻類「ナンノクロロプシス」はオイルを高蓄積
  • 細胞内小器官である油滴の表面で、オイル合成を行う仕組みを発見
  • 油滴の表面を活用した形質改変により、オイルの量的・質的改良に期待

概要

東京工業大学 生命理工学院の信澤岳特任助教、太田啓之教授らと情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 ゲノム進化研究室の黒川顕教授、森宙史助教らの研究グループは、バイオ燃料生産に最有望とされるオイル生産藻の一種「ナンノクロロプシス[用語1]」の突出して高いオイル生産能力を可能にしている仕組みを解明した。生物が作り出すオイルは油滴[用語2]とよばれるオイル蓄積に必要な細胞内構造に蓄積される。今回、ナンノクロロプシスが持つ高いオイル生産能力には、この油滴の表面で直接的にオイル合成を行う仕組みが重要な役割を果たしていることを発見した。しかもこの仕組みは二次共生[用語3]とよばれる複雑な進化過程において獲得したものであることを突き止めた。

藻類が高いオイル生産能力を発揮するうえで重要な仕組みを解明したことは、藻類改良のポイントを明示する成果といえる。ナンノクロロプシス油滴表面でのオイル合成能をさらに強化・改変させることで、藻類によるバイオ燃料などの有用脂質生産実用化に向けて大きく前進することが期待される。

研究成果は2月20日、英国科学雑誌「プラント ジャーナル(The Plant Journal)」のオンライン版に公開された。

(注)この研究は東工大の太田教授が科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」研究領域(研究総括:松永是(東京農工大学学長))における研究課題「植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築」の一環として、東工大 生命理工学院の堀孝一助教と国立遺伝学研究所の黒川顕教授、森宙史助教との共同で行った。

研究の背景と経緯

石油資源を代替できる再生可能エネルギーの創出が強く求められている。そのために様々なバイオマス(生物資源)が着目されている。中でも藻類は単位面積あたりの生産性が高いことや食用作物と競合しないという利点を持つ。また、藻類が作り出すオイル(油脂、トリアシルグリセロール)は液体燃料として直接転用可能な原料となり、単位容積あたりのエネルギー効率も高い。このため、航空燃料やディーゼル燃料の代替として藻類オイルは最適なバイオマスとして期待されている。ナンノクロロプシスは数ある藻類種の中で、オイルを乾燥重量あたり50%以上蓄積することが知られている(図1)。また、海水を用いた高密度での培養が可能であることや狙った任意の遺伝子を改変することが可能であることから、液体バイオ燃料の創出にむけた最有望藻類のひとつと考えられている。

オイル高生産藻ナンノクロロプシス

図1. オイル高生産藻ナンノクロロプシス

(左)ナンノクロロプシスの光学顕微鏡像。光の屈折により、すこし青みがかって見えるのが油滴。緑に見えるのは葉緑体。
(右)油脂を大量に蓄積したナンノクロロプシスの蛍光顕微鏡像。緑は葉緑体、黄色は油滴を示す。(色は疑似色)

ナンノクロロプシスをバイオ燃料や有用脂質生産の材料として活用するためにはナンノクロロプシスの高いオイル生産能力の仕組みを明らかにし、その知見を用いてさらにオイルの生産能力向上や質の改変を行うことが重要である。しかし、そのための十分な知見はまだほとんど蓄積されておらず、この藻類の応用を見据えた基礎研究の推進が急務となっている。

研究成果

同研究グループは、ナンノクロロプシスで発現する遺伝子の網羅的な解析ならびに生体内でのオイル合成機構に着目して解析を行った。まず、相同組換え[用語4]を利用した手法により主要なオイル合成遺伝子の破壊株群[用語5]を作出し、オイルの生産に特に寄与している3つの主要酵素を同定した。

次に、これらの細胞内における機能部位を調べたところ、3つのうち2つのオイル合成酵素が油滴の表面にのみ存在して機能することが明らかとなった(図2)。これまで植物や藻類ではオイル合成の主要な場は小胞体であるとされており、今回発見されたような油滴表面で機能するオイル合成酵素は珍しい。

ナンノクロロプシスの油滴表面に局在するオイル合成酵素

図2. ナンノクロロプシスの油滴表面に局在するオイル合成酵素

(左)GFP(緑色蛍光タンパク質)を融合させたオイル合成酵素
(中央)蛍光染色した油滴
(右)重ね合わせ像 油滴の表面に酵素が局在しているのがわかる。スケールバーは2 μmを示す。

タンパク質の進化的な由来を解析した結果、これらの因子は二次共生という複雑な進化過程によって獲得されたものであることが分かった。これにより、ナンノクロロプシスの卓越したオイル生産能力を説明する有力な証拠が得られた。今後、この油滴表面におけるオイル生産能力のさらなる強化や機能の改変を行うことで、藻類によるオイル生産の実用レベルでの利用が見込まれる。

今後の展開

今回の研究過程で、ナンノクロロプシスの油滴表面に任意のタンパク質を局在させる方法も明らかになった。今後この方法をさらに発展させ、油滴表面におけるオイル合成効率をさらに強化させたり、機能を改変したりすることにより、バイオ燃料などの実用化にかなう藻の創出を目指す。

また、油滴はほとんどの生物種が持つ細胞内小器官である。ナンノクロロプシスの油滴表面にタンパク質を局在させる手法は酵母でも機能することから(図3)、この成果はナンノクロロプシスの機能の改良にとどまらず、ほかの生物種においても有用物質生産をおこなううえで重要な手がかりになると期待される。

ナンノクロロプシスの油滴局在シグナルは出芽酵母でも機能する

図3. ナンノクロロプシスの油滴局在シグナルは出芽酵母でも機能する

蛍光タンパク質そのものは油滴に局在しない(上段)。一方、ナンノクロロプシスの油滴局在シグナル配列を蛍光タンパク質に付与すると、油滴表層に局在するようになった(下段)。
(左)YFP(黄色蛍光タンパク質)の蛍光
(中央)明視野像,粒状に見えるものが出芽酵母の油滴
(右)重ね合わせ像
スケールバーは2 μmを示す。

用語説明

[用語1] ナンノクロロプシス : 直径3 μm(1 μmは1 mmの1,000分の1)ほどの海洋性微細藻類。培養条件によりオイルを乾燥重量の最大50%以上蓄積することができることなどから、液体バイオ燃料生産に最有力とされる藻類。

[用語2] 油滴 : 脂質単層膜により成る細胞内構造で、殆どの生物種が作り出すことができる。内部に油脂をはじめとする疎水性物質を隔離・貯蔵する。単に油脂蓄積用の器官ではないことが明らかになってきており、種を超えて着目されている細胞内小器官である。

[用語3] 二次共生 : 細胞内共生により葉緑体とミトコンドリアを獲得した藻(一次共生藻)を更に別の真核生物が取り込んだ進化上のイベント。一次共生藻に比べて更に複雑な由来をもつ遺伝子から成る。

[用語4] 相同組換え : 多くの生物は、良く似たDNA配列(相同な配列)同士を置き換えることができる。この仕組みは、ナンノクロロプシスや一部の生物種において遺伝子組換えの手法に利用でき、任意のDNA配列をそれと相同で部分的に異なるDNA配列に置き換えることができる。

[用語5] 遺伝子の破壊株群 : 相同組換えを用いて、オイル合成酵素をコードする4つの遺伝子を1つずつおよび2つ同時に排除したナンノクロロプシスを作成することに成功した。

論文情報

掲載誌 :
The Plant Journal
論文タイトル :
Differently Localized Lysophosphatidic Acid Acyltransferases Crucial for Triacylglycerol Biosynthesis in the Oleaginous Alga Nannochloropsis
著者 :
Takashi Nobusawa, Koichi Hori, Hiroshi Mori, Ken Kurokawa, Hiroyuki Ohta
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院
教授 太田啓之

E-mail : hohta@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5736 / Fax : 045-924-5527

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所
ゲノム進化研究室
教授 黒川顕

E-mail : kk@nig.ac.jp
Tel : 055-981-9437 / Fax : 055-981-9418
(遺伝研広報チーム)

東京工業大学 「水晶振動子」IEEEMilestone 記念式典及び講演会の開催について

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東京工業大学名誉教授である古賀逸策(1899-1982)博士による「温度無依存水晶振動子」の研究業績が、電気・電子分野の世界最大の学会であるIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers,Inc.)よりマイルストーンに認定されました。

マイルストーンは、開発から25年以上経過し、社会や産業の発展に多大な貢献をした歴史的業績を認定する制度です。

これを記念して、記念講演会を開催いたします。

日時
2017年3月6日(月) 14:00 - 17:00
場所
定員
250名
申込
申請フォームouterからお申し込みください。
※定員となり次第、受付を終了とします。
主催
IEEE東京セクション
共催
東京工業大学、IEEE LMAG-Tokyo
後援
蔵前工業会

「水晶振動子のIEEEマイルストーンと情報通信の発展」チラシ 表

「水晶振動子のIEEEマイルストーンと情報通信の発展」チラシ 裏

「水晶振動子のIEEEマイルストーンと情報通信の発展」記念式典パンフレット

お問い合わせ先

東京工業大学研究推進部研究企画課 IEEE記念式典事務局

E-mail : kenkik.som@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3805

アフリカツメガエルから新たながん抑制戦略を発見―ヒトのがん抑制ターゲット開拓に期待―

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要点

  • 多くの動物が持つがん抑制遺伝子・CDK阻害因子群がアフリカツメガエルでは高頻度で変異していることを発見
  • がん発生率の低いアフリカツメガエルには、CDK阻害因子群以外でがんを抑制する機構が備わっている可能性があり、その候補遺伝子の1つを発見
  • アフリカツメガエルのCDK阻害因子群の遺伝子は不安定で、いまだにゲノムが変化しつつあることを示唆

概要

アフリカツメガエルは、発生過程研究や細胞周期研究などの生物学分野で欠かせないモデル生物として全世界で用いられており、昨年には全ゲノム解読に成功した。

東京工業大学生命理工学院の田中利明助教らの研究グループは、アフリカツメガエルのゲノムで細胞増殖を直接制御する細胞周期の制御関連遺伝子、特にがん抑制遺伝子として知られるCDK阻害因子群を調べ、他の動物種では有りえないほど不安定であり、多数の変異が存在することを発見した(図1)。

しかしながら、アフリカツメガエルはがん発生率が高くはない。そこで解析を進めたところ、「CDK7/Cyclin H複合体」をコードする遺伝子に生じた変異が、その役割の一端を担っている可能性を見出した。これは、ヒトのがん抑制の新たなターゲットの開発につながる成果で、2016年7月6日付で米国発生生物学会誌 Developmental Biologyのオンライン版に公開され、今後Developmental Biology(アフリカツメガエルゲノム特集号)に掲載予定となっている。

がん抑制遺伝子・CDK阻害因子群の脊椎動物種間保存性

図1. がん抑制遺伝子・CDK阻害因子群の脊椎動物種間保存性

CDK阻害因子をコードする遺伝子(CKI gene)は脊椎動物で7種(cdk1a-c, cdk2a-d)存在し、魚類からヒトを含む哺乳類まで高度に保存されている。一方、アフリカツメガエルでは7種中の4種で遺伝子欠損(cdkn1c, 2a)または機能不全に至る変異(cdkn1a, 2c)が存在していた。

背景

アフリカツメガエルは、モデル動物として多くの研究現場で飼育されている。そのゲノムは複雑な異質四倍体[用語1]で、ようやく昨年、田中助教が参加した国際コンソーシアムで、全ゲノム解析に成功した(Nature 538, 336-343)。この情報を元に、多くの研究が進行している。

細胞の増殖は、「CDK/Cyclin複合体」によって「正の制御(亢進)」を受けており、この複合体は自動車のエンジンに例えられる。一方で、がん抑制遺伝子であるCDK阻害因子は「負の制御(抑制)」、いわばブレーキの役割を持ち(図2)、その関係の破綻は、細胞の無限増殖、すなわち、がんなど重篤な疾患を引き起こす。

脊椎動物では7種類のCDK阻害因子が知られており、それらの遺伝子を欠損させたマウスなどの研究から、それぞれの遺伝子が重要な役割を持っていることがわかっている。CDK阻害因子群をコードする遺伝子は、脊椎動物種で、等しく高度に保存されていると考えられていた。

細胞の増殖を制御する細胞周期制御因子群

図2. 細胞の増殖を制御する細胞周期制御因子群

細胞周期の各時期で特異的なCDK/Cyclin複合体が順序よく活性化することにより細胞周期が回る。全てのCDK/Cyclin複合体の活性化には、CDK7/Cyclin H複合体(CAK)によるリン酸化が必要である。CDK/Cyclin複合体の活性は、CDK阻害因子群(cdkn1a(p21), cdkn1b(p27), cdkn1c(p57), cdkn2a(p16), cdkn2b(p16), cdkn2b(p15), cdkn2c(p18), cdkn2d(p19))の直接結合によって抑制され、その結果、細胞周期が止まる。

研究の経緯

研究グループは、主要な研究モデル生物として最後にゲノム配列が公開されたアフリカツメガエルについて、細胞増殖の観点から細胞周期制御因子の解析を実施した。その結果、CDK阻害因子群をコードする遺伝子が不安定であり、他種脊椎動物では見られない多くの変異を有していることを見出した。

研究成果

今回、アフリカツメガエルでCDK阻害因子群の遺伝子構造を初めて明らかにした。この因子群は他の脊椎動物種ではがん抑制機能など非常に重要な役割を持つが、アフリカツメガエルでは非常に不安定であり、CDK阻害因子7種類のうち、4種で機能に影響するほどの変異をもっていることがわかった(図1)。他の脊椎動物には備わっている「p57KIP2遺伝子」および「p16INK4a 遺伝子」は完全に欠損しており、「p21CIP1遺伝子」と「p18INK4c 遺伝子」は同祖遺伝子[用語2]の一方に変異が認められた。

特に、p16遺伝子座には、ヒトではがんとの関連が非常に深い2つの遺伝子(p16INK4a, p14ARF)がコードされており、p16遺伝子座の欠損マウスでは、がんが高頻度に生じること、ヒトのがんでもp16遺伝子座の欠損が多く認められることが報告されている。また、p57遺伝子の欠損は、マウスでは造血幹細胞の減少や骨形成不全、ヒトではある種のがんやベックウィズ-ヴィーデマン症候群[用語3]との関連があるとされている。

しかしながら、アフリカツメガエルは、がんの発生率が低いことが報告されている(Ruben et al., 2007; Hardwick and Philpott, 2015)ことから、CDK阻害因子群以外によるがん抑制機構の存在が予想された。

さらなる解析から、別ながん抑制機構の候補として、CDK-Activation Kinase(CAK)を構成するCDK7とCyclin Hの同祖遺伝子の半数化および遺伝子発現の減少を発見した。

今後の展開

日本人の死亡原因として、長年、がんがトップをキープしている。そのため、さまざまながん治療法が模索されている。

ターゲットとして、CDK阻害因子をコードする遺伝子の欠損・機能不全が注目されているが、例えば、遺伝子の補完は遺伝子治療以外に適当な方法がなく、実現までの課題は多い。CDK阻害因子群の多くを欠損しながらも、がんの発生率が低いアフリカツメガエルの例は、CDK阻害因子群に頼らずに、がんを抑え込む機構の存在を示唆している。この機構をヒトなど他種動物のがん抑制に展開できる可能性がある。

今回の「CDK7/Cyclin H複合体」の低発現化の発見など、今後、アフリカツメガエルにおける細胞増殖制御に係わる遺伝子の更なる解析が進むと期待される。

用語説明

[用語1] 異質四倍体 : アフリカツメガエルは四倍体動物ではあるが、通常の四倍体ではなく、親から引き継ぐ2つのゲノムがAAではなくて、2種類のゲノムABであることから、子はAABBとなる。これを異質四倍体という。ゲノムAとBの由来をたどると、異なる2つの種がもつゲノムAとゲノムBとなる。進化的にはゲノムAをもつ種1と、ゲノムBをもつ別の種2が交雑して二倍体の雑種ができたと考えられる。この雑種のゲノムはABとなるが、二倍体の雑種は減数分裂ができないため、精子や卵子がつくれない。しかし、何らかの偶然により雑種ゲノムABが全ゲノム重複を起こすと、AABBの異質四倍体となる。異質四倍体になるとABとABの2つに減数分裂が可能となり、ABのゲノムをもつ精子や卵子をつくることができる。

[用語2] 同祖遺伝子 : 2つの異なる祖先種に由来する同じ関係の染色体に載っている同じ遺伝子間の関係を言う。異質四倍体化する前には、同祖遺伝子は別の種がもつ同じ機能を持つ遺伝子であった。

[用語3] ベックウィズ-ヴィーデマン症候群 : Beckwith-Wiedemann syndrome(BWS)。多くは弧発性の先天異常症候群であり、臍帯ヘルニア、巨舌、巨体を主な特徴とする。低頻度(15%程)にて Wilms腫瘍、横紋筋肉腫、肝芽腫などの胎児性腫瘍も発症する。原因遺伝子座は 11番染色体短腕 15.5 領域(11p15.5)であり、この領域にはCDK阻害因子であるp57KIP2の遺伝子が存在している。

論文情報

掲載誌 :
Developmental Biology
論文タイトル :
Genes coding for cyclin-dependent kinase inhibitors are fragile in Xenopus
著者 :
Toshiaki Tanaka, Haruki Ochi, Shuji Takahashi, Naoto Ueno, Masanori Taira
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
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助教 田中利明

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ほどほどの炎症が大切―組織の再生と炎症の意外な関係を解明―

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要点

  • 魚類はさまざまな組織を再生できる驚異的な能力を持つ
  • マクロファージを欠損するゼブラフィッシュ変異体はインターロイキン1βの亢進と過度の炎症によって、再生細胞が細胞死を起こす
  • 過剰な炎症が細胞死を起こす一方、炎症そのものも組織再生の開始に必要
  • 組織の炎症応答は「諸刃の剣」として、組織再生を制御している

概要

炎症[用語1]は、あまりありがたくないものと考えられてきたが、炎症と組織再生の意外な関係が明らかになった。東京工業大学生命理工学院の川上厚志准教授らの研究グループは、ゼブラフィッシュを用いた解析により、組織再生が起こるにはちょうど良いレベルの炎症が重要であることを明らかにした。

川上准教授らは以前の研究で、マクロファージ[用語2]などの免疫細胞を欠くゼブラフィッシュ変異体[用語3]は再生細胞が細胞死を起こして組織を再生できないことを発見した。今回、細胞死の誘導メカニズムを調べたところ、再生組織でのインターロイキン1β[用語4]の過剰な作用と炎症が原因であることが分かった。一方で、炎症応答をなくした場合にも正常に組織再生が起こらないことから、炎症そのものが組織再生に必須の役割があることも示された。

ヒトの組織再生を活性化する方法の開発や、マクロファージの産生する新たな抗炎症因子解明への展開が期待される。

研究成果は英国の生物医学・生命科学誌である「イーライフ(eLife)」のオンライン版で2月23日に公開された。

背景

多かれ少なかれ、あらゆる多細胞の生き物は傷害を受けた組織や細胞を再生することによって長く生存できる。脊椎動物の中でも、硬骨魚類など一部の生物は非常に高い組織再生能力を持ち、手足やヒレなどの器官を失っても、完全に元と同じものを再生できる。組織再生が起こる仕組みの解明は、長年の生物学の念願であった。

長谷川智也大学院生、川上准教授らの研究グループは、有用なモデル生物として注目されるゼブラフィッシュを使い、組織再生の研究に独自のアプローチを行ってきた。その中で、マクロファージなどの免疫細胞を欠損する一群の変異体は、再生細胞が細胞死を起こして、組織を再生できないことを見出した。

研究成果

今回の研究では、なぜ変異体で再生細胞だけが細胞死を起こしやすいのか調べた。その結果、インターロイキン1βなどの炎症分子が傷害組織で亢進していることが明らかになった(図1)。インターロイキン1βの過剰な作用は、再生細胞の死を誘導するが、正常な組織ではマクロファージによって炎症が抑制され、再生細胞は生存し、再生が進んでいく。

傷害を与えた変異体のゼブラフィッシュ幼生尾部におけるインターロイキン1βの発現(緑色)と細胞死を起こした再生細胞(赤色)

図1. 傷害を与えた変異体のゼブラフィッシュ幼生尾部におけるインターロイキン1βの発現(緑色)と細胞死を起こした再生細胞(赤色)。インターロイキン1βの発現は、トランスジェニック[用語5]フィッシュによって可視化してある。

一方、インターロイキン1βの作用や炎症は再生にとって悪い面ばかりではなく、組織傷害に伴って起こる一過的な炎症は、組織再生を開始する上で必須の働きもすることが示された。この研究によって、組織再生と炎症の予想外の関係が明らかになった(図2)。

組織の傷害と再生におけるインターロイキン1βと炎症の働き

図2. 組織の傷害と再生におけるインターロイキン1βと炎症の働き

今後の展開

今回の研究により、インターロイキン1βを介した炎症をほどほどのレベルに制御することが、組織再生において重要なことが明らかになった。今後は哺乳類など再生できない組織における炎症応答を調べることや、マクロファージの産生する抗炎症因子の解明などによって、ヒトにおける組織再生能力を増進することにつながると期待される。

用語説明

[用語1] 炎症 : 生体の恒常性を構成する生理学的反応。外傷、病原体侵入、化学物質刺激などにより、通常は体内に存在しない特徴的な物質が放出され、炎症を惹起するサイトカインが誘導される。この作用により、血液供給量の増加に伴う発赤や熱感、体液浸潤に伴う腫脹や疼痛などが引き起こされる。

[用語2] マクロファージ : 免疫や炎症反応で機能する白血球の一種。遊走性の食細胞で、死んだ細胞やその破片、侵入した細菌などの異物を捕食して消化する。

[用語3] ゼブラフィッシュ変異体 : ゼブラフィッシュは、マウスに代わる実験モデル生物として近年注目されている。自然発生や人工的に作られた多数の突然変異体があり、発生、再生、医科学の研究に役立てられている。

[用語4] インターロイキン1β : サイトカインと呼ばれる生理活性タンパク質の一種。炎症反応に深く関与し、炎症性サイトカインと呼ばれる。

[用語5] トランスジェニック : 遺伝子改変動物。特に、外部から遺伝子を導入したものをトランスジェニック動物と呼ぶ。特定の細胞を蛍光などで可視化したり、機能を改変したりして、遺伝子が生体内(in vivo)でどのように機能しているかを研究するために生命科学分野では必須の存在となっている。

論文情報

掲載誌 :
eLife
論文タイトル :
Transient inflammatory response mediated by interleukin-1β is required for proper regeneration in zebrafish fin fold
著者 :
Tomoya Hasegawa, Christopher J. Hall, Philip S. Crosier, Gembu Abe, Koichi Kawakami, Akira Kudo, Atsushi Kawakami
DOI :

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