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東京工業大学とInput Output HKが暗号通貨共同研究講座を開講―日本におけるブロックチェーン関連技術の研究と教育の先駆け―

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国立大学法人東京工業大学(東京都目黒区、学長:三島良直、以下「東工大」)と株式会社Input Output HK(CEO、創業者:Charles Hoskinson、以下「IOHK」)およびその子会社であるInput Output JP(以下「IOJP」)は、2月15日に、東工大情報理工学院に「Input Output 暗号通貨共同研究講座(以下、「本講座」)」を開講しました。

IOHKと東工大は、2017年から2018年にかけて両機関の研究者チームにより、暗号通貨およびブロックチェーン関連技術の共同研究を推進します。IOHKの研究者は東工大に特任教員として所属し、この急速に発展している研究分野に東工大の教授陣及び学生と共に取り組みます。

(左)Charles Hoskinson IOHK CEO (右)三島良直 東京工業大学学長

(左)Charles Hoskinson IOHK CEO (右)三島良直 東京工業大学学長

本講座の特徴

現在、日本を含む様々な国において暗号通貨は注目されています。この魅力的な新しい研究分野は、金融取引をより包括的かつ効率的に行う手段を提供することなどで、金融システムだけでなく一般的な社会システムにも革命を起こす可能性を秘めています。

暗号通貨およびブロックチェーン関連技術分野は研究が始まったばかりの分野で、多くの課題が存在しています。本講座は、このような課題に取り組むこと、この分野の若手研究者を育成すること、さらには、社会に対してこの新技術の優位性を理解してもらうことを目標としています。

IOHKのCEO、創業者であるCharles Hoskinsonは次のように述べています。

「この共同研究には2つの主な目標があります。ひとつは、暗号通貨およびブロックチェーン関連技術という私たちの事業領域を発展させることです。もうひとつは、日本においてこの分野において優れた若手研究者を育成することです。」

また、東工大の三島良直学長も次のように語っています。

「東工大は、国内外の企業や大学との連携を強化し、革新的な研究成果を生み出すことに注力しています。その観点からこの協定は極めて重要であり、今後、国際的な学術誌や学術会議で優れた成果が発表されることを期待しています。」

本講座では、両機関の研究者がセミナー活動や学術論文の作成という共同活動を通じて知識を生み出します。これはこの分野において日本の高等教育機関における新しい取り組みです。東京工業大学の学生に提供される暗号プロトコルや暗号通貨の講義など、ブロックチェーン技術に関連した教育プログラムも開設予定です。従来の大学と企業との提携の形とは異なり、研究室で行われたすべての研究は公開され特許取得は行いません。これにより、研究成果が業界全体を支えることが期待できます。

左から、Mario Larangeira 情報理工学院 特任准教授、Jeremy Wood IOHK CSO、Charles Hoskinson IOHK CEO、三島良直学長、安藤真理事・副学長(研究担当)、渡邊治 情報理工学院 学院長、田中圭介 情報理工学院 教授

左から、Mario Larangeira 情報理工学院 特任准教授 、Jeremy Wood IOHK CSO、Charles Hoskinson IOHK CEO、
三島良直学長、安藤真理事・副学長(研究担当)、渡邊治 情報理工学院 学院長、田中圭介 情報理工学院 教授

本講座の背景

本講座の設立に先立ち、6ヵ月に渡る東京工業大学とIOHKの小規模の共同研究を行いました。この共同研究は2016年7月1日から2016年12月31日の間に行われ、本講座の主たる研究者である田中圭介教授とその研究グループがIOHKと研究交流を行ってきました。

2017年からは、IOHKの研究者であるBernardo David博士とMario Larangeira博士を田中教授の東京工業大学研究グループに加え関係を強化します。

彼らは、東京工業大学の大岡山キャンパスに常勤の特任教員として配属され、田中教授らとともに研究を進めます。

本講座は、スコットランドのエジンバラ大学にある研究拠点と共に、IOHKのグローバルな技術研究拠点ネットワークの中で初めての拠点です。IOHKは今年後半と2018年にさらに拠点を設立する予定です。

連携する目的

東工大とIOHKは、暗号通貨およびブロックチェーン関連技術に関する研究および教育活動を共同で行うことを合意しました。本講座は具体的には次の目的で設立されます。

1.
暗号通貨およびブロックチェーン関連技術、その関連分野の研究
2.
グローバルな人材となりうる高度な知識をもつ研究者の育成
3.
研究者に対する国際的な研究協力の促進

実施する事項

1 学際的な共同研究

コンピュータサイエンス、分散システム、ゲーム理論、プログラミング言語、暗号理論など、ブロックチェーンに関連する分野の研究を進めます。

2 人材育成

暗号通貨およびブロックチェーン関連技術を専門とする教育プログラムの設立を進めます。

IOHKとは

2015年にCharles HoskinsonとJeremy Woodによって設立されたIOHKは、P2P革新を利用して30億人に金融サービスを提供するテクノロジー企業です。IOHKは、学術機関、政府機関、および法人向けの暗号通貨の構築とブロックチェーン関連技術を提供するエンジニアリング会社です。また、ヨーロッパ、アメリカ、アジアで密な学術関係を持ち、多くの社員がコンピュータサイエンス、数学、物理学の博士号を取得しています。IOHKは、ライブプロトコルを作成するための実用的なピアレビュー研究および次世代暗号技術への技術的基礎を重視しています。

情報理工学院

情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に新たに発足した情報理工学院について紹介します。

情報理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


3月の学内イベント情報

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3月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

グローバル産業リーダー育成プログラム「Enterprise Engineeringコース(後期)」

グローバル産業リーダー育成プログラム「Enterprise Engineeringコース(後期)」

東京工業大学 社会人アカデミーでは、産業のグローバル化に対応できる企業人材を育成することを目的として、グローバル産業リーダー育成プログラムを設置しております。その中のコースとして、情報システムベンダーあるいはユーザ企業の情報システム関連部署課長レベルおよびシニアコンサルタントを対象にEnterprise Engineeringコース(後期)を開講いたします。

日時
3月3日(金)、4日(土)、10日(金)、11日(土)、17日(金)、18日(土)、24日(金)、25日(土)
会場
参加費
81,000円~248,000円(税込) ※コース選択によって異なります。
対象
一般 20名(最少開催人数5名)
申込
必要

SeeD x Digital Grid共催BOPハッカソン開催!―アフリカ未電化地域の800ヵ所のキオスクに流通させるプロダクトをデザインしよう!

SeeD x Digital Grid共催BOPハッカソン開催!―アフリカ未電化地域の800ヵ所のキオスクに流通させるプロダクトをデザインしよう!

アフリカの未電化地域にて電気の量り売り事業を展開するデジタルグリッド社と共同で、プロダクトハッカソンを開催します。

日時
第1部 アイディアソン 3月4日(土)10:00~20:00
第2部 ハッカソン 3月18日(土)10:00~3月19日(日)19:00
会場
参加費
社会人 3,000円/人、学生 2,000円/人
※アイデアソン・ハッカソンを通じた参加費です。
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要

「水晶振動子」IEEEマイルストーン記念講演会

「水晶振動子」IEEEマイルストーン記念講演会

名誉教授である古賀逸策博士(1899-1982)による「温度無依存水晶振動子」の研究業績が、電気・電子分野の世界最大の学会であるIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers,Inc.)よりマイルストーンに認定されました。マイルストーンは、開発から25年以上経過し、社会や産業の発展に多大な貢献をした歴史的業績を認定する制度です。これを記念して、記念講演会を開催いたします。

日時
3月6日(月) 14:00 - 17:00
会場
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要

Tokyo Tech MOOC Forum 2017

Tokyo Tech MOOC Forum 2017

edXやCourseraなどのMOOCプラットフォームが立ち上がり、5年が過ぎようとしています。その間、日本の大学からも多くの講座が世界に向けて発信されてきました。本フォーラムではMOOCの今までを振り返り、スタンフォード大学とedXコンソーシアムに加盟する日本の大学の取り組みからMOOCの未来を考えます。

日時
3月10日(金)13:30 - 15:30
会場
参加費
無料
対象
教育関係者、学生
申込
必要

d.school comes to Tokyo Tech, "Deepening the Practice of Design" レクチャー

d.school comes to Tokyo Tech, "Deepening the Practice of Design" レクチャー

東京工業大学チーム志向越境型アントレプレナー育成プログラム(CBEC)及びグローバルリーダー教育院(AGL)の講義の一環で行います。貴重な機会ですので、ご興味のある皆さんにも参加いただけるように致しました。

日時
3月14日(火) 18:00 - 20:00
会場
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要
※本レクチャーの翌日、翌々日に行われる限定メンバーによるワークショップ「Design Challenge」に参加する方は、必ず、本レクチャーも受講するようにしてください。

d.school comes to Tokyo Tech — 2-day Workshop —

d.school comes to Tokyo Tech — 2-day Workshop —

東京工業大学グローバルリーダー教育院(AGL)山田道場OPEN道場の一環として開催します。 デザイン思考の本質である「Creative Confidence」を、日本で唯一、Stanford Univ./d.school — "Design Challenge"が体験できるこの機会で、体感してください。

日時
3月15日(水)、3月16日(木) 各日9:00 - 18:00
会場
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要
※本ワークショップ「Design Challenge」に参加する方は、3月14日(火)に行われるd. school comes to Tokyo Tech, "Deepening the Practice of Design" レクチャーも必ず受講するようにしてください。

MOTオープンハウス「挑戦する人のためのMOT」開催

MOTオープンハウス「挑戦する人のためのMOT」開催

本学MOTについて広く知っていただくために半年ごとに開催しているものです。今回は、修了者による講演を行います。

日時
3月25日(土) 13:30 - 16:30
会場
参加費
無料
対象
一般
申込
必要

科学教室「細胞分裂の観察~1個の細胞からどうやって個体が作られるの~」

科学教室「細胞分裂の観察~1個の細胞からどうやって個体が作られるの~」

私たちの体は、一個の受精卵が細胞分裂を繰り返し、全体で60兆個の細胞から出来ています。分裂した細胞が組織、器官を形成してどのように私たちの体が作られているかわかりやすく学べます。

日時
3月25日(土) 13:00 - 15:00
会場
参加費
無料
対象
小学5年生以上
申込
必要

科学教室「進化論と利他行動」

科学教室「進化論と利他行動」

多くの生物で、他者のために自己を犠牲にする例が見られますが、この「利他行動」を古典的な進化論で理解することは困難です。「鷹鳩ゲーム」を通じて、「利他行動」の進化を理論的に考えます。

日時
3月26日(日)13:00 - 16:00
会場
参加費
無料
対象
高校生以上
申込
必要

科学教室「君はコンピュータの中を見たことがあるか??」

科学教室「君はコンピュータの中を見たことがあるか??」

皆さんが使っている「スマホ」もコンピュータのひとつだと知っていましたか??一緒にコンピュータを組み立てながら、その仕組みを学べます。

日時
3月26日(日) 13:00 - 16:00
会場
参加費
無料
対象
中学生以上
申込
必要

科学教室「棘皮動物の不思議な世界2017」

科学教室「棘皮動物の不思議な世界2017」

棘皮動物(ウニ、ヒトデ、ナマコの仲間)は脊椎動物と比較的近縁であるのに5角形をした不思議な動物です。 実際に、ふれることによって棘皮動物のデザインを学べます。

日時
3月28日(火) 13:20 - 16:00
会場
参加費
無料
対象
中学生以上
申込
必要

コンピュータビジョン・ヒューマンビジョン・あなたのビジョン2017春

コンピュータビジョン・ヒューマンビジョン・あなたのビジョン2017春

コンピュータと人間は、どのように世界をみているのでしょうか。「コンピュータービジョン・ヒューマンビジョン・あなたのビジョン」と題して、視覚の科学を体験していただきます。ここでは3D立体映像をVRで体験し、スマホを使った3D体験を通して、機械と人間が立体視できる原理を感じていただきます。

日時
3月29日(水) 14:00 - 16:30
会場
参加費
無料
対象
高校生
申込
必要

一部締め切りを過ぎているものがございますが、取材をご希望の場合はご連絡ください。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

光波長変換によりテラヘルツ波を高感度に検出―室温で動作するテラヘルツ波領域の小型非破壊検査装置の実現へ―

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要旨

理化学研究所(理研) 光量子工学研究領域テラヘルツ光源研究チームの瀧田佑馬基礎科学特別研究員、縄田耕二基礎科学特別研究員、南出泰亜チームリーダーと東京工業大学(東工大) 科学技術創成研究院の浅田雅洋教授、同大学 工学院の鈴木左文准教授らの共同研究チームは、理研が開発した光波長変換技術による小型・室温動作・高感度テラヘルツ波検出装置を用いて、東工大が開発した共鳴トンネルダイオードからのテラヘルツ波放射を高感度に検出することに成功しました。

電波と光波の中間の周波数帯であるテラヘルツ波[用語1]領域には、指紋スペクトル[用語2]と呼ばれる物質固有の吸収ピークが数多く存在しています。この特性を利用したセンシングやイメージング技術は、次世代の非破壊検査技術の有力な候補として注目されていますが、光源や計測装置の冷却が必要でした。そのため、室温で動作する高性能なテラヘルツ波光源およびテラヘルツ波計測技術の開発が急務となっています。

今回、共同研究チームは、将来の標準的な小型・室温動作・連続発振テラヘルツ波光源として期待されている共鳴トンネルダイオード(RTD)[用語3]から発生したテラヘルツ波を、光波長変換[用語4]によって検出する実験を行いました。その結果、RTDから放射されたテラヘルツ波を近赤外光[用語5]に光波長変換して検出することに成功し、周波数1.14テラヘルツ(THz、1THzは1兆ヘルツ)のとき最小検出可能パワーとして、約5ナノワット(nW、1 nWは10億分の1ワット)の高感度検出を実現しました。これは、従来の光波長変換による検出と比較して100倍以上高い感度です。また、光波長変換技術を用いることで、RTDの発振周波数および出力を測定できることを示しました。

今回用いた実験装置はすべて室温で動作するため、私たちの生活環境で使用可能な、テラヘルツ波領域の小型非破壊検査装置の実用化につながると期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Optics Express』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(日本時間3月1日)に掲載されました。また、3月14日から17日に横浜で開催される第64回応用物理学会春季学術講演会で発表(3月14日)する予定です。

本研究は、JST産学共創基礎基盤研究プログラム「テラヘルツ波新時代を切り拓く革新的基盤技術の創出」による研究成果を活用したTHzテクノロジープラットフォーム(TTP)の支援を受けて行われました。

背景

近年、電波と光波の中間の周波数帯であるテラヘルツ波領域(図1)の研究開発が進み、基礎科学だけでなく産業利用への応用開発が進んでいます。テラヘルツ波領域には指紋スペクトルと呼ばれる物質固有の吸収ピークが数多く存在しているため、この特性を利用した非破壊センシング・イメージング技術は、安心・安全な社会を実現するための基盤技術の一つとして注目されています。しかし、これまでは必要な性能を得るため光源や計測装置の冷却が必要でした。私たちの生活環境で使用可能な非破壊センシング・イメージング技術を実現するためには、室温で動作する高性能なテラヘルツ波光源およびテラヘルツ波計測技術の開発が急務となっています。

これまで理研の研究チームは、室温において高感度なテラヘルツ波検出を実現するために、光波長変換技術を用いてテラヘルツ波を近赤外光に変換し、その変換した光信号を近赤外光検出器で高感度に計測する方法を開発してきました[注1]。一方、東工大の研究チームは、将来の標準的な小型・室温動作・連続発振テラヘルツ波光源として期待されている共鳴トンネルダイオード(RTD)を開発してきました。

近年、1テラヘルツ(THz、1 THzは1兆ヘルツ)を超える周波数で室温発振を達成したRTDは、冷却や日常的な調整を必要とせず、光波領域のLEDのように電源供給のみで動作するため、実用的な装置開発の観点から非常に有用です。そのため、RTDのような小型光源から発生するテラヘルツ波を光波長変換によって高感度に検出することができれば、センシングやイメージングなどのテラヘルツ波応用がより身近な環境で実現可能となり、新たな応用研究につながることが期待されます。

テラヘルツ波

図1. テラヘルツ波
周波数が0.1~100THzにある電磁波。電波と光波の中間の周波数であり、双方の特性を併せ持つ。

[注1] 2014年3月24日プレスリリース 「室温で2次元のテラヘルツ波像を高感度に可視化 outer

研究手法と成果

共同研究チームは、RTDから発生したテラヘルツ波を光波長変換によって検出する実験を行いました(図2)。RTDから発生したテラヘルツ波は、テラヘルツ波用レンズを用いて非線形光学結晶[用語6]であるニオブ酸リチウムに集光させました。そして、波長1,064.3ナノメートル(nm、1 nmは10億分の1メートル)のパルスレーザー光を励起光に用いて、テラヘルツ波を近赤外光に波長変換しました。発生した近赤外光は空間フィルターを用いて励起光と分離し、RTDからのテラヘルツ波に由来する近赤外光のみを、近赤外光検出器を用いて計測しました。

共鳴トンネルダイオードモジュールと光波長変換によるテラヘルツ波検出実験の概要

図2. 共鳴トンネルダイオードモジュールと光波長変換によるテラヘルツ波検出実験の概要

(a)共鳴トンネルダイオード(RTD)モジュールの写真。
(b)RTDから発生したテラヘルツ波(青色)は、テラヘルツ波用レンズを用いて非線形光学結晶であるニオブ酸リチウムに集光させた。波長1,064.3 nmのパルスレーザー光を励起光(赤色)に用いて、テラヘルツ波を近赤外光に波長変換した(緑色)。発生する近赤外光は、空間フィルターを用いて励起光と分離したのち、近赤外光検出器を用いて計測した。

実験の結果、発振周波数0.58 THzのRTDを用いた場合は波長1,066.6 nmの、0.78 THzの場合は1,067.3 nmの,1.14 THzの場合は1068.6 nmのテラヘルツ波から波長変換された近赤外光をそれぞれ観測することに成功しました(図3)。このときの励起光とテラヘルツ波に由来する近赤外光の周波数の差が、テラヘルツ波周波数に相当しています。また、入力するテラヘルツ波のパワーを減衰させたところ、周波数1.14 THzのとき最低検出可能パワーとして約5 ナノワット(nW、1 nWは10億分の1ワット)の高感度検出を実現しました。これは、従来の光波長変換による検出と比較して100倍以上高い感度です。また、光波長変換技術を用いることで、観測される近赤外光の波長および出力からRTDの発振周波数および出力を測定できることを示しました。

周波数1.14 THzのときの近赤外光の波長スペクトル

図2. 周波数1.14 THzのときの近赤外光の波長スペクトル

波長1,064.3 nmのパルスレーザー光を励起光(赤色)に用いて、周波数1.14THzのテラヘルツ波を波長1,068.6 nmの近赤外光に波長変換できた(緑色)。励起光とテラヘルツ波に由来する近赤外光の周波数の差が、テラヘルツ波周波数(青色)に相当している。

今後の期待

今回用いた実験装置はすべて室温で動作するため、さまざまな応用分野で本成果の利用が期待できます。今後は、RTDが小型電子デバイスである利点を生かして、単素子だけでなく複数の素子を集積化したRTDからの多周波数のテラヘルツ波を近赤外光に同時に波長変換することで、多周波数のテラヘルツ波のリアルタイム計測が可能になります。このような計測手法は、情報通信研究機構(NICT)と理研が公開しているテラヘルツ分光データベース[注2]と組み合わせることで、実現できる可能性があります。こうした研究は、テラヘルツ波領域の小型非破壊検査システムの実用化につながると期待できます。

[注2] 2013年12月25日プレスリリース 「テラヘルツ分光データベースを新規開発し、公開へ outer

用語説明

[用語1] テラヘルツ波 : 周波数が1012 Hz(1兆ヘルツ)付近(0.1~100 THz)にある電磁波。光波と電波の中間の周波数帯であり、双方の特性を併せ持つ。

[用語2] 指紋スペクトル : 物質中においては、テラヘルツ波周波数に共鳴する格子振動や分子間振動などが数多く存在する。これらは物質固有の特徴的な吸収スペクトルを示すので、未知の物質であっても吸収スペクトルから逆にその物質を特定することが可能になる。このような物質固有の吸収スペクトルを指紋スペクトルと呼ぶ。

[用語3] 共鳴トンネルダイオード(RTD) : 半導体のナノ構造で生じる共鳴トンネル現象を利用したダイオードであり、室温においてテラヘルツ波を直接発生させることができるコンパクトな電子デバイス。共鳴トンネル現象とは、電子が障壁を通り抜けるトンネル現象の一種であり、二重障壁構造において入射する電子のエネルギーが二つの障壁に閉じ込められた電子のとるエネルギーと一致したとき、電子が共鳴的に障壁を通り抜ける現象のこと。RTDはResonant Tunneling Diodeの略。

[用語4] 光波長変換 : レーザー光などの強力な光により誘起される非線形光学現象を用いて、電磁波の波長をある波長から他の波長へ変換すること。本研究では、波長の長い(周波数の低い)テラヘルツ波から波長の短い(周波数の高い)近赤外光に変換した。

[用語5] 近赤外光 : テラヘルツ波に対して100倍程度高い周波数を持つ電磁波。波長範囲は780~3,000 nm。テラヘルツ波と比較して研究の歴史が古く、発生、検出、応用技術ともに開発が進んでいる。

[用語6] 非線形光学結晶 : 光波長変換で用いる結晶であり、入射する光に対して非線形な応答を示す。レーザー光などの強力な光が物質と相互作用する場合、その応答(分極)は単純に光の電磁場に比例せず非線形なものとなり、その結果として生じるさまざまな現象を非線形光学現象と呼ぶ。光波長変換は、非線形光学現象の代表例である。

論文情報

掲載誌 :
Optics Express
論文タイトル :
Nonlinear optical detection of terahertz-wave radiation from resonant tunneling diodes
著者 :
Yuma Takida, Kouji Nawata, Safumi Suzuki, Masahiro Asada, and Hiroaki Minamide
DOI :

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

理化学研究所 光量子工学研究領域
テラヘルツ光源研究チーム
基礎科学特別研究員 瀧田佑馬

E-mail : yuma.takida@riken.jp

基礎科学特別研究員 縄田耕二

E-mail : k-nawata@riken.jp

チームリーダー 南出泰亜

E-mail : minamide@riken.jp
Tel : 022-228-2162 / Fax : 022-228-2050

東京工業大学 科学技術創成研究院
教授 浅田雅洋

Tel : 03-5734-2564 / Fax : 03-5734-2907

東京工業大学 工学院
准教授 鈴木左文

Tel / Fax : 03-5734-3039

取材申し込み先

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

  • 瀧田佑馬

    瀧田佑馬

  • 縄田耕二

    縄田耕二

  • 南出泰亜

    南出泰亜

  • 浅田雅洋

    浅田雅洋

  • 鈴木左文

    鈴木左文

国際開発サークルのネパールバイオ炭プロジェクトチームが「コカ・コーラ環境教育賞」優秀賞を受賞

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東京工業大学 国際開発サークル(IDAcademy)のネパールバイオ炭プロジェクトチームが、環境教育に関する顕著な活動への顕彰および環境保全・環境啓発に寄与する新しい企画への支援を行う「第23回コカ・コーラ環境教育賞」(公益財団法人コカ・コーラ教育・環境財団主催、読売新聞社、コカ・コーラ環境ハウス協力、文部科学省、環境省後援)の次世代支援部門において、優秀賞を受賞しました。

バイオ炭生産装置の制作に協力してくださった方々と

バイオ炭生産装置の制作に協力してくださった方々と

コカ・コーラ環境教育賞とは

コカ・コーラ環境教育賞とは、地域に根ざした環境教育・環境保全活動を促進することを目的とした、コカ・コーラ教育・環境財団による公募型の賞です。選考は、一次選考(選考委員による書類選考で5団体がノミネート)と最終選考会(ノミネートされた5団体によるプレゼンテーション)の2段階があり、次世代支援部門では、受賞グループに対して最優秀賞(1組)に50万円、優秀賞(4組)に30万円の企画支援金が贈呈されます。第23回では、応募総数87団体(活動表彰部門:52団体、次世代支援部門:35団体)の中から選ばれた小学生から大学生までの15団体(活動表彰部門:10団体、次世代支援部門:5団体)が8月6日の最終選考会に臨み、各団体が手掛ける環境活動の実績や成果、企画を発表しました。

国際開発サークルとは

国際開発サークル(IDAcademy)は東京工業大学の公認サークルであり、理工系知識を活かし、技術を通じて社会に貢献することを目指しています。開発途上国向けの安価でかつ機能的な義足の開発や、福島県川俣町で行っている小学校高学年対象の川俣シャモをモチーフにしたロボットづくりワークショップの開催など、チームを組んで様々なプロジェクトを実施しています。ネパールにおけるバイオ炭プロジェクトは、国際開発サークルが行うプロジェクトのうちの1つです。

ネパールバイオ炭プロジェクトとは

ネパールでは、家庭で使用されている燃料のほとんどが伐採した木材であり、森林の過度な伐採と、屋内での薪等の燃焼による室内空気汚染による人々への健康被害が問題となっています。そこで、私たちネパールバイオ炭プロジェクトは、農業廃材や家畜排泄物を材料としたバイオ炭の生産技術とその持続的な普及システムを確立し、問題の解決を目指しています。また、ターゲット消費者である村民に対して森林保全のための環境啓発と煙による健康被害を喚起し、バイオ炭に対する需要を高め、この活動を通して将来的な森林伐採規制への反発の軽減に繋げることも目的としています。

バイオ炭の生産方法や利点に関するワークショップ開催時に参加者と

バイオ炭の生産方法や利点に関するワークショップ開催時に参加者と

受賞者のコメント

プロジェクトメンバー 澤村新之介さん(環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程1年)

現在メンバー7人で活動しており、メンバーの国籍は日本、ネパール、インドネシア、タイと多岐にわたり、また学年も学士課程1年から博士後期課程1年までと多様な学生がいます。

今年の夏には実際にネパールに2週間程度滞在し、バイオ炭の生産実験、バイオ炭に関連した政府機関、NGOへの聞き取り調査、対象農村での家庭調査や女性コミュニティへの聞き取り、ワークショップを実施しました。そこで得た実験結果や調査結果をもとにさらなる活動を進めていきたいと思います。

プロジェクトメンバー ケサブ・ラジュ・ポッケレルさん(環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程1年)

IDAcademyの活動に参加することで、私の母国ネパールにて室内空気汚染の問題解決に貢献する機会を得ることができました。この問題は、従来のストーブを使い、薪を燃やすことによって生じますが、私もネパールではこのようなことを日々行なっていました。我々のネパールバイオ炭プロジェクトの実施のために経済的な支援をしてくださったコカ・コーラ教育・環境財団及び関係者の方々にとても感謝しております。

IDAcademyはネパールバイオ炭プロジェクトに加えて、他の種類のプロジェクトを同様に他の国で行なっております。実社会に対する貢献に挑戦したいと思っている学生にとっては、IDAは良いプラットホームだと思います。興味のある方、社会に貢献しうる、あなたの創造的なアイデアを実現するため共に挑戦しましょう。

お問い合わせ先

東京工業大学 国際開発サークル(IDAcadey)

E-mail : ida.tokyotech@gmail.com

2017年4月入学に係る学士課程入試の合格発表

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2017年4月入学に係る前期日程試験および後期日程試験の合格者受験番号は、大岡山キャンパス「なごみの広場」(附属図書館の先)に掲示します。

また、合格者受験番号は、以下のウェブページ上でも公開します(私費外国人留学生特別入試についてはウェブページのみ)。

各試験のウェブページ上での発表日時は以下のとおりです。

試験名
発表日
入学者選抜試験 【前期日程】
2017年3月9日(木)13:00頃
私費外国人留学生特別入試
2017年3月9日(木)13:00頃
入学者選抜試験【後期日程】(第7類)
2017年3月22日(水)13:00頃

南洋理工大学と第2回合同ワークショップを開催

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2016年11月17日と18日の2日間、東工大大岡山キャンパスで「第2回NTU-東工大合同ワークショップ」が開催されました。同年2月29日と3月1日にシンガポールの南洋理工大学(NTU:Nanyang Technological University)で開催された第1回ワークショップでは、環境工学、分子化学、界面科学の3分野の研究内容について理解を深め、連携可能なプロジェクトについて検討を行いましたが、今回のワークショップでは大幅に規模を拡大しました。両大学のロボティクス、水素エネルギー、分離化学、分子化学、水資源、医工学の6分野の研究者が集い、研究者間のネットワークを拡げるとともに、具体的な研究連携について意見を交わしました。

集合写真

ラム・キンヨン副学長を団長として、21名のNTUの研究者が今回のワークショップに出席しました。本学からは29名の研究者が参加し、さらに日本のロボット産業界からも研究者が参加しました。

オープニングセッション

ワークショップは、本学三島良直学長の開会の挨拶で始まりました。三島学長は、東工大とNTUの連携の実績を紹介し、成功裏に終了した第1回合同ワークショップに続き、2016年9月の両大学の研究交流の促進を目的とした覚書の締結について話しました。そして、今回の第2回合同ワークショップの開催による今後の国際共同研究の加速への期待を述べました。

続いて、NTUのラム副学長が、研究成果を向上させ、技術革新を進めるためのNTUの取り組みを紹介しました。NTUでは、医学部や環境科学などの新設の研究分野を増やすとともに、優秀な研究者や学生を世界中から集めていると述べ、さらに、産学官連携を通じた研究・技術革新推進戦略に基づいて、海外の研究機関及び企業との連携を強化している状況について実例とともに紹介しました。

  • 三島学長

    三島学長

  • ラム副学長

    ラム副学長

後半には、両大学のエネルギー分野の研究者による講演が行われ、まず、本学菅野了次教授(物質理工学院)が、「Developments of Energy Storage and Conversion Devices(エネルギー貯蔵・変換デバイスの開発)」をテーマとして、エネルギーの貯蔵および変換において重要な役割を果たす電気化学材料やデバイス構造、特に全固体型蓄電池に関する開発状況について発表を行いました。

続いて、NTUのチャン・シュウ・ホワ教授が、自身が副所長を務めるNTUのエネルギー研究所の設立の経緯や目的などの概要とともに同研究所が行っているエネルギー効率および再生エネルギーの研究を紹介しました。また、同研究所と国内外企業が連携して行っている「エコキャンパス」プロジェクトと経済開発庁(EDB)などのシンガポール省庁のサポートを受けて同研究所主導で取り組んでいる「再生エネルギーの研究プロジェクト(REIDS)」について説明しました。

  • 菅野教授

    菅野教授

  • チャン教授

    チャン教授

プレナリーセッション

休憩をはさんで行われたプレナリーセッションでは、分子化学分野の研究者による発表が行われました。最初に、本学岩澤伸治教授(理学院)が、「Utilization of CO2 as a Renewable Carbon Resource(二酸化炭素の再資源化)」をテーマとした講演を行い、二酸化炭素を炭素資源として利用する金属触媒反応の開発研究について、その研究背景から最先端の研究成果まで紹介しました。

続いて、NTUの千葉俊介教授が、「 Reductive Molecular Transformation by Sodium Hydride(水素化ナトリウムによる還元的分子変換)」と題し、これまで塩基としてのみ用いられていた水素化ナトリウムをヒドリド還元剤として用いる実用的な分子変換手法の開発について発表しました。

  • 千葉教授

    千葉教授

  • 岩澤教授

    岩澤教授

分科会

同日午後は、4つの会場に分かれ、ロボティクス、水素エネルギー、分離化学、分子化学、水資源、医工学の6つの分科会が開催されました。各会場には、両大学のみならず他大学の学生や研究者、企業関係者等が多数参加し、両大学の研究者による各分野の最新の研究成果の発表を熱心に聞いていました。また、各発表の後には、質疑応答や意見交換が活発に行われました。

分科会

分科会プログラム

今後の連携について

分科会と並行して両大学の経営陣による話し合いが行われ、大学間の交流をさらに深めるため、2017年9月に、第3回合同ワークショップをNTUで開催することが決定されました。また、いくつかの研究分野で緊密な連携が進んでいることから、東工大とNTUの間で「研究協力協定」を締結する提案があり、各々で協定の内容の検討を進めることになりました。

(左から)大竹副学長、三島学長、水本副学長、ラム副学長

(左から)大竹副学長、三島学長、水本副学長、ラム副学長

2日目の午前中には、基調講演、分科会報告会、閉会式が行われました。

基調講演

基調講演は、ロボティクス分野の研究者3人により行われました。まず、本学岩附信行教授(工学院)が、「 Design and Control of Robots with Underactuated Mechanisms(劣駆動機構をもつロボットの設計と制御)」と題して、機構の自由度に比べてアクチュエータが少ない劣駆動機構に、弾性要素や重量による拘束を加えることによって運動制御を可能にするロボットの設計と制御に関する発表を行いました。

続いて、株式会社デンソーのテクニカル・エキスパートである小島史夫氏が、「Robotics Activities in Automation Systems at DENSO(デンソーのオートメーションシステムにおけるロボットの活用)」というテーマのもと、同社で取り組んでいるリーンオートメーション(Lean Automation)という、徹底的に無駄を省いた自動化製造システムのロボット開発について説明しました。

最後に、NTUのチェン・イ・ミン教授が、「Innovations in Infrastructure Service Robotics(インフラサービスロボットの革新)」と題した発表を行い、シンガポールで今後導入が予定されているインフラサービスロボットについて紹介しました。

(左から)岩附教授、小島氏、チェン教授

(左から)岩附教授、小島氏、チェン教授

分科会報告会

分科会報告会では、6つの分科会の各担当者が、セッション内容および今後両大学で連携が期待される分野について報告を行いました。

今回のワークショップでのロボティクス分野の研究者の発表は、「高齢社会を支えるロボット技術」と「新産業を生み出すためのロボット技術」をテーマとした2部構成の分科会と基調講演を合わせた3部構成で行われました。議長を務めた本学武田行生教授(工学院)は、東工大が得意とするハードウェア技術とNTUが得意とするソフトウェアの両面から情報提供と議論を行ったこと、また、両大学の研究者に加え、東工大発ベンチャー企業である株式会社ハイボットのミケレ・グアラニエリ氏やデンソーの小島氏が講演者として参加したことにより、大学と企業が連携可能なプロジェクトについて、具体的な議論を行うことができたことを報告しました。

水素エネルギーの分科会については、本学岡崎健特命教授(グローバル水素エネルギー研究ユニット)とNTUのチャン教授が、太陽電池や燃料電池の分野での連携プロジェクトの具体化に向けて、議論を行ったことを報告しました。

分離化学の分科会については、議長を務めた本学鷹尾康一朗准教授(科学技術創成研究院)が報告を行い、「原子力安全」及び「継続的人材育成」が連携の鍵となると述べ、大都市での放射線の監視システムの開発や放射性廃棄物の処理に関する研究での連携が期待されると話しました。

分子化学の分科会では、高分子化学、有機化学、光触媒、導電材料、プラズモン化学の5つの分野の両大学研究者がペアで講演を行いました。議長の本学岩澤教授が今後の共同研究を見据えた発表や質疑が活発に行われたことを報告した後、各分野での連携については、各ペアが発表を行いました。

水資源の分科会については、本学鼎信次郎教授(環境・社会理工学院)が、各発表と議論の後、水動態に関する大規模シミュレーション手法の開発と膜やカーボンナノチューブ等の水処理への応用に関する2つのトピックスが、共通のトピックスとして挙げられたことを報告しました。

本学西山伸宏教授(科学技術創成研究院)は、医工学分野の分科会について報告し、同分科会に参加した研究者の研究トピックスが多岐にわたるため、同分野での研究連携を検討するには、まず両大学間でのトピックスの綿密な打ち合わせが必要だと述べました。

分科会報告会

クロージング・セッション

クロージング・セッションでは、本学大竹尚登副学長とNTUのティム・ホワイト教授が同ワークショップ開催に携わった全ての参加者に感謝の意を表すとともに所感を述べました。ホワイト教授は、今回のワークショップに日本企業研究者が講演者として参加したことに触れ、2017年9月に開催が予定されている、第3回ワークショップにも現地企業の研究者の参加を促し、両大学の研究連携の特色として、大学のみならず、両国の企業も参加する連携プロジェクトを推進していきたいと話しました。

今後、両大学のさらなる交流の拡大を目指すことを誓い合って、ワークショップは終了しました。

大隅良典栄誉教授 ノーベル生理学・医学賞受賞記念祝賀会を開催

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本学と本学の同窓会組織である一般社団法人蔵前工業会は、2月17日にパレスホテル東京において、大隅良典栄誉教授ノーベル生理学・医学賞受賞記念祝賀会を開催しました。

にぎわう会場
にぎわう会場

祝賀会には、鶴保庸介内閣府特命担当大臣(科学技術政策)を始め、本学出身の衆参議員、樋口尚也文部科学大臣政務官、山脇良雄内閣府政策統括官、伊藤洋一文部科学省科学技術・学術政策局長、関靖直文部科学省研究振興局長、ノーベル賞受賞者で本学卒業生の白川英樹博士など680余名の大学関係者や蔵前工業会員が出席し、大隅栄誉教授の受賞を祝いました。

最初に主催者である三島良直学長から、大隅栄誉教授のノーベル賞の受賞は大変喜ばしく、受賞決定から学内が活気づいており、ノーベル賞の偉大さを改めて感じたとの挨拶がありました。続いて来賓代表として鶴保内閣府特命担当大臣から、出来る限り多くの思いを集約した新しい形の科学技術政策を仕立てていきたいとの力強いご祝辞の後、壇上で3つの樽を囲んで盛大に鏡開きが行われました。

  • 挨拶する三島学長

    挨拶する三島学長

  • 挨拶する鶴保内閣府特命担当大臣

    挨拶する鶴保内閣府特命担当大臣

乾杯の挨拶
乾杯の挨拶

  • 鏡開き

    鏡開き

  • 談笑する大隅栄誉教授

    談笑する大隅栄誉教授

吉田賢右本学名誉教授からは、大隅栄誉教授の研究は非常にユニークなものであり、酵母を目(光学顕微鏡)で見て、突然変異体を拾うというローテク、かつ小さな研究室の片隅でなされた研究でありながら、これまでの独創によって非常に大きな分野に発展してきたという現代では稀有な例であり、ノーベル委員会はほとんど悩むことなく単独授賞を決定しただろう、また、大隅栄誉教授を一つのチャンピオンとする日本の分子細胞生物学のレベルの高さを示すものである、との乾杯の発声で華やかな祝賀会がスタートしました。

大隅栄誉教授や萬里子夫人を囲んで、あちらこちらで談笑する姿が見受けられ、会場は祝賀ムードに包まれました。また、会場にはノーベル生理学・医学賞受賞メダルと賞状も展示され、記念写真を撮影する出席者も多数いました。

祝賀会は和気あいあいと進行し、最後に、基礎生物学研究所時代のゆかりのある方々から大隅栄誉教授夫妻への花束の贈呈が行われ、大隅栄誉教授から出席者へのお礼の挨拶がありました。

大隅良典栄誉教授挨拶

挨拶する大隅栄誉教授
挨拶する大隅栄誉教授

本日はご多忙の中、遠路はるばるこのような多数のご臨席を賜りまして、ありがとうございます。このたびの名誉あるノーベル生理学・医学賞の受賞に際しましては、全国津々浦々、友人はもとより60年ぶりの方、存じ上げない方も含め、世界中の方々から温かいお言葉と励ましをいただきました。皆さまにお礼も申し上げずに今日に至りましたことをお許しいただきたいと思います。

昨年の10月3日の発表以来、想像を超えるようなプレッシャーの中で日々を過ごしてまいりました。ストックホルムでの1週間はその日その日のスケジュールに追われて、今をもって全容が自分の中で把握できていないような感じですが、おかげさまでノーベルレクチャー、授賞式、晩餐会、ロイヤルバンケットなどの行事を終えることができました。ノーベル財団でこれまでの受賞者、教科書上の人物だとか学生時代に憧れた大先輩の方々のサインがされたノートにサインをする貴重な経験をいたしましたし、帰る前の日には雪の積もったノーベルのお墓に献花をすることができました。忘れえない大変貴重な経験をできたと思っております。

先ほども申し上げましたように怒涛のような1週間で、それぞれが断片的で、いつかゆっくり振り返ってその1週間をつなぐ作業をしてみたいと思っております。一方、私は、ノーベル賞は日本では特別な賞であるということもこの間、再認識させられる機会でもありました。押し寄せるマスコミとの対応とか、思いもかけない総理府、衆参両院、文科省、政党の訪問とか財界の方々とお話をする機会を与えていただきました。私は半年前と自分では何にも変わっていないと信じているのですが、日常の生活はなかなか元の生活を取り戻せないでおります。一方、3時には暗くなるスウェーデン・ストックホルムのノーベル賞週間は、多くの人々が受賞者に関する1人1人の1時間のテレビ番組を見たり、科学について考える週間であることも私は知ることができました。個人的には日本は少しノーベル賞に騒ぎすぎるのではないかと思っております。幸運に恵まれた研究者のことは少し置いておいて、この機会に科学とは何かということと、人類の未来はどういうような方向に進むべきだ、という議論が進んでほしいと個人的には思っております。

少しだけ私の研究テーマであるオートファジーについてお話しをさせていただきます。私がこの仕事を始めた頃は、オートファジーという言葉は生物学者の間でもほとんど知られていませんでした。最近はテレビ番組でもたびたびオートファジーという言葉が登場したりして、たくさんの報道を通じて、少しはオートファジーの理解が深まったことには大変ありがたいと思っております。私たち生命はいかに動的な存在で、たゆまない合成と分解の平衡で成り立っていて、分解が合成に劣らず重要な過程であるということが次第に認識されてまいりました。しかし、オートファジーの研究はまだ揺籃期にありまして、たくさんの解くべき課題が山積しております。ぜひ若い人がこの領域に参加していただけることを強く願っております。

私はこの間、基礎科学、大学が抱える問題、次の時代の科学の担い手の若手の問題、科学と社会の在り方について現在感じていることを率直に述べさせていただきました。世の中が忙しくなり、錯綜する情報の中で人が考えることを放棄して、単純な言葉や雰囲気に流される風潮が蔓延していることを私は恐れます。私は役に立つということを安易に若者が言う風潮にも大変危機を感じています。若者が未来に大きな夢を語らなければ、その社会は衰退すると思うからです。私が学生だった頃は、役に立たないことこそ大事なことだと言える幸せな時代だったと思っています。それは人類の未来に対して、もっと長いスパンで考えようということであったと思っています。確かに技術の進歩は素晴らしく、素晴らしい勢いで私たちの生活を変えています。しかし、私たちは100年後の自分たちの孫やその先の世代について十分に考えてみることが大切なのではないかと思っています。科学者は様々な謎解きに挑戦していますが、社会的には1人の人間でしかありません。しかし、私は、知が広がるということは人類の未来へのかけがえのない財産であると信じていますし、同時に、その成果や考え方をいかに多くの人々と共有できるかということが、私たちの未来を決める大事なことなんだろうと思っております。

私はこれまで大変な幸運に恵まれてまいりました。私は様々な人生の節目で絶妙なタイミングで、今堀先生、前田先生、安楽先生などの諸先生方、素晴らしい友人たち、そして分子生物学、酵母などに出会いました。何にもまして、オートファジーという現象は茫漠としていて汲めども尽きない奥深い課題で、あまり論理的ではなくて、対象に向き合いながら研究を進めてきた私にとっては最大の出会いであったと思っております。私の研究の原点は東大教養(学部)の小さな研究室にありますが、この20年間、基礎生物学研究所、東京工業大学で恵まれた研究環境と十分な研究のサポートをいただきました。それにもまして、研究を始めて以来40年、いつも素晴らしい研究仲間に巡り合うことができました。私の研究室の出身者が全国各地で独立して頑張ってくれていることも私にとってはこの上もなく幸せなことだと思っています。

暮れには思いもかけず、天皇陛下から温かいお言葉をいただき驚き入りましたが、早く普通の生活に戻れるように努力するつもりであります。残された時間で、オートファジーの謎をもう一度酵母に問いかけてみるということを進めると同時に、次の世代に何かのメッセージが残せるような研究をしてみたいと思っております。もう一つ、今の大学や研究者の研究環境が少しでも改善されて、楽しく長期的な視点をもって研究できるようなシステムの構築に努力をしたいと思っております。この点でも皆さまのご助言とご協力をいただければと思います。以上をもちましてわたくしの挨拶とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

大隅夫妻への花束贈呈
大隅夫妻への花束贈呈

最後に、主催者を代表して蔵前工業会の石田義雄理事長より、本日のパーティーが時間の経過を忘れるほど気持ちの良い会となったことについてのお礼の挨拶がありました。

出席者には、大隅栄誉教授からオートファジー現象を発見した「酵母」にちなんだ記念品として、オートファジーの図柄のサイン入りラベルの日本酒が贈られ、賑やかな祝賀会は終了しました。

ノーベル生理学・医学賞2016 大隅良典栄誉教授

大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。

ノーベル生理学・医学賞2016 大隅良典栄誉教授

大隅良典記念基金

「大隅良典記念基金」は、大隅栄誉教授がノーベル賞を受賞したことを機に、将来の日本を支える優秀な人材の育成などを目的として設立されました。学生の修学支援や若手研究者の研究支援などに活用します。

大隅良典記念基金|東工大への寄附

お問い合わせ先

広報センター

Email : nobel@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

旋回乱流予混合火炎の熱音響不安定性解明に向けた進展 ―スーパーコンピューターによる直接数値計算の貢献―

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東京工業大学 工学院 機械系の店橋(たなはし)護教授、志村祐康准教授、青木虹造博士課程院生らは、ガスタービン燃焼器やロケットエンジンで問題となる旋回乱流予混合火炎[用語1]熱音響[用語2]不安定性の原因として、音響モードまたは変動エネルギーと乱流渦運動とが密接に関係していることを明らかにした。スーパーコンピューターを利用した大規模直接数値計算[用語3]により実現した。

熱音響不安定性に起因する振動燃焼は、高効率・低環境負荷または高出力の次世代ガスタービンエンジンやロケットエンジンを製作する上で非常に大きな問題となる。この不安定性により燃焼器が破壊されることもあるからだ。この現象に関する研究は、1800年代末頃から精力的に取り組まれてきたが、いまだに確固たる対応策は確立されていない。

燃焼不安定性への対応策、制御手法の実現のための新たな知見が、近年の数値計算技術やレーザー計測技術の進展によって獲得できるようになった。今回の成果は、旋回型燃焼器内に形成される水素・空気旋回乱流予混合火炎の高性能数値計算、特に直接数値計算を用いて得られたものである。

ガスタービン燃焼の熱音響不安定性における音響モードまたは変動エネルギーと乱流渦運動とが密接に関係することが明らかにされたことにより、これらの変動を低減することが振動燃焼の抑制に重要であることが示唆された。今回の研究で得られた成果は、次世代エネルギー変換器や推進システムの構築に大きく貢献することが期待される。

矩形燃焼器内に形成された旋回乱流予混合火炎の圧力のDMDモード(124kHz)
矩形燃焼器内に形成された旋回乱流予混合火炎の熱発生率のDMDモード(124kHz)

図1. 矩形燃焼器内に形成された旋回乱流予混合火炎の圧力(左)及び熱発生率(右)のDMDモード(124kHz)

図中の赤と青はそれぞれ正負の値を示し、黒は絶対値が最大の位置、白は値が零となる位置を示している。

用語説明

[用語1] 旋回乱流予混合火炎 : 燃料と酸化剤(通常空気)の予混合気を旋回流で燃焼室に流入させた際に形成される乱流火炎。既燃ガスの再循環流により保炎性が高い。

[用語2] 熱音響(熱音響現象) : 燃焼や伝熱などの熱的現象と圧力波(音波)が干渉する現象。

[用語3] 直接数値計算 : 観察対象とする物理現象を支配する方程式をそのまま解くシミュレーション。現象の一番小さなスケールから大きなスケールまで十分捉えられる空間解像度を以て解くため、計算コストが莫大。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the Combustion Institute 35, pp.3209-3217 (2015).
論文タイトル :
Short- and Long-term Dynamic Modes of Turbulent Swirling Premixed Flame in a Cuboid Combustor
著者 :
Kozo Aoki, Masayasu Shimura, Shinichi Ogawa, Naoya Fukushima, Yoshitsugu Naka, Yuzuru Nada, Mamoru Tanahashi and Toshio Miyauchi
所属 :
Department of Mechanical Engineering, Tokyo Institute of Technology
DOI :
掲載誌 :
Proceedings of the Combustion Institute 36, pp.3809–3816 (2017)
論文タイトル :
Disturbance Energy Budget of Turbulent Swirling Premixed Flame in a Cuboid Combustor
著者 :
Kozo Aoki, Masayasu Shimura, Yoshitsugu Naka, and Mamoru Tanahashi
所属 :
Department of Mechanical Engineering, Tokyo Institute of Technology
DOI :

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

工学院 機械系
准教授 志村祐康

E-mail : shimura.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3183 / Fax : 03-5734-3183


入学料払込取扱票の封入間違いについて(お詫び)

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3月9日の本学学士課程の合格発表以後に本学より送付させていただいた入学者手続き書類に同封されている入学料・授業料納付関係書類の「入学料払込取扱票」につきまして、一部の合格者の方に本学の附属科学技術高等学校の入学料払込取扱票が間違って封入されていることが判明いたしました。

入学手続きが3月15日(水)までと短い期間にもかかわらず、合格者及び関係の方々に混乱を生じさせてしまい大変申し訳ございません。

修正の内容は以下のとおりとなります。大変お手数をおかけしますが、手書きで修正のうえお振込の手続きをよろしくお願いいたします。

  • 金額欄(5ヵ所)(誤)56,400円→(正)282,000円
  • 生徒氏名欄(誤)生徒氏名→(正)学生氏名・学籍番号・所属の類

なお、すでに、附属科学技術高等学校の入学料である56,400円で入金を済まされている合格者におかれましては、恐縮でございますが、後日、差額のご案内をさせていただきます。

今後このような事がないよう全学を挙げて再発防止に努めてまいります。

お問い合わせ先

東京工業大学 財務部経理課 収入グループ

Tel : 03-5734-2313

東京工業大学 社会人アカデミー 2017年度 ベンチャー未来塾 開講のご案内

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東京工業大学社会人アカデミーでは、本講座をはじめとして、産業のグローバル化に対応できる企業人材を育成する「グローバル産業リーダー育成プログラム」(GINDLE-Global INDustrial LEader)を設置しています。

本講座は2014年度に開講し、新たなビジネスチャンス獲得の場として、高い評価をいただいてまいりました。

国の政策・立案に関わる府省庁関係者や新興上場企業執行役員が集い、毎回、講義とディスカッションを行います。

共に未来を構想し、今後の豊かなネットワークを得るための場として、皆様のご受講を心よりお待ちしております。

日時
2017年4月25日(火)、5月12日(金)、5月16日(火)、5月23日(火)、6月6日(火)、6月13日(火)、6月20日(火)、6月27日(火)
場所
東京21cクラブ(〒100-6510 東京都千代田区丸の内 1-5-1 新丸の内ビルディング 10F)
対象者
新興上場企業(新経済連盟企業など)の執行役員・事業所長クラス
募集人数
20名(最少開催人数10名)
受講料
198,000円(税込)
※情報交換に参加される方は、軽食代として別途、各回当日2,000円を申し受けます。
申込期間
2017年3月1日(水)~2017年4月18日(火)まで
※締切日必着・ 締切日変更の可能性有・ 定員となり次第締切
申込方法
社会人アカデミーウェブサイトouterから申込書をダウンロードし、必要事項を記入・押印のうえ、PDFファイルで東京工業大 学社会人アカデミー事務室までメール添付にて送付してください。
ベンチャー未来塾2017 チラシ表 ベンチャー未来塾2017 チラシ裏

お問い合わせ先

東京工業大学 社会人アカデミー事務室

E-mail : jim@academy.titech.ac.jp
Tel : 03-3454-8722

電荷信号とスピン信号の波形計測を実現 ―超高速・低消費電力の次世代エレクトロニクス素子創出に道拓く―

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要点

  • 電荷信号とスピン信号の時間波形を計測できるスピン分解オシロスコープを実現
  • プラズモニクス、スピントロニクスにおける基本測定器として期待
  • 朝永―ラッティンジャー液体におけるスピン電荷分離現象の直接観察に成功

概要

東京工業大学 理学院 物理学系の橋坂昌幸助教、藤澤利正教授と日本電信電話株式会社(NTT)の村木康二上席特別研究員らの共同研究グループは、電子集団の電荷とスピン、両方の時間応答信号を計測できるスピン分解オシロスコープを実現した。この手法により、朝永―ラッティンジャー液体(参考)におけるスピン電荷分離現象の直接観察に世界で初めて成功した。

この技術は次世代エレクトロニクスとして期待を集める2つの研究分野、すなわち超高速信号処理に適した「プラズモニクス[用語1]」と、低消費電力化への期待が高い「スピントロニクス[用語2]」の特徴を融合した、高速動作・低消費電力動作の双方に適する高機能半導体素子の開発に役立つ。

この成果は「カイラル朝永―ラッティンジャー液体における電荷・スピン密度波束の波形測定」というタイトルで、3月13日16時(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Physics(ネイチャーフィジックス)」のオンライン速報版で公開された。

研究の背景

次世代のエレクトロニクスとして、プラズモニクスとスピントロニクスの両分野が注目を集めている。プラズモニクスは電子集団の電荷密度の濃淡を信号(電荷信号)として用いる技術であり、電荷信号が単一の電子よりも高速に伝搬するという特徴を活かすことで、超高速信号処理の実現に役立つと期待されている。一方、スピントロニクスはスピン密度の濃淡を信号(スピン信号)として用いるもので、物質の磁気的性質を介することで低消費電力な信号処理が可能であり、不揮発の磁気抵抗メモリーなどに実用化されつつある。これら双方の特徴を1つの素子で活かすことにより、用途に応じて高速動作と低消費電力動作に併用できる高機能半導体素子の創出を期待できる。

電荷とスピンはどちらも電子本来の基本的性質だが、このような両分野の特徴を融合した高速・低消費電力素子の開発はこれまで積極的に行われてこなかった。その大きな理由は、通常の測定では電荷信号とスピン信号の両方の時間波形を計測することが困難だったためである。

研究内容と成果

オシロスコープは電圧の時間波形を観測できる装置であり、従来のエレクトロニクスの発展を支えてきた基本計測器である。今回の研究では、素子中の電荷信号とスピン信号、両方の波形を計測可能な「スピン分解オシロスコープ」を実現した。

この手法は、スピンの向きによって電子を分別するスピンフィルター[用語3]と、電荷信号を検出するためのナノメートルサイズの時間分解電荷計[用語4]を組み合わせて達成した(図1)。図のように、電荷信号はアップスピンとダウンスピンの電子数の和で表され、スピン信号はアップスピンとダウンスピンの電子数の差で表される。スピンフィルターによってアップスピン電子のみを電荷計1へ、ダウンスピン電子のみを電荷計2へ導いて、それぞれの時間波形を計測する。これらの和と差を計算することにより、電荷信号とスピン信号の双方に対して波形計測を実現できる。

スピン分解オシロスコープによる電荷信号・スピン信号測定の概念図

図1. スピン分解オシロスコープによる電荷信号・スピン信号測定の概念図

今回の研究は、このスピン分解オシロスコープを用いて、1次元電子系におけるスピン電荷分離現象[用語5]の直接観測に世界で初めて成功した。実験は半導体素子中の量子ホールエッジチャネル[用語6]を用いて行われた。電荷信号とスピン信号が異なる速度で伝搬する様子を、2つの波束状の信号を異なる時間に検出することで明らかにした(図2)。今回用いた半導体素子では、同様の試料中における単独の電子の速度に対し、電荷信号の速度は30倍程度、スピン信号の速度は3倍程度であることが確かめられた。

このスピン電荷分離は1次元電子系の物理(朝永―ラッティンジャー液体[参考])を象徴する現象であり、この研究によって世界で初めて分離された電荷・スピン波束の波形測定が達成された。この結果は物性物理学における重要な学術的成果であるとともに、スピン信号の生成・検出の新手法としてスピントロニクスへの応用が可能である。さらには高速の電荷信号と、低消費電力動作に役立つスピン信号、双方の取り扱いが可能な新素子創出に役立つ。

スピン電荷分離現象の測定例(左)アップスピン電子集団(波束)入力時の測定結果(右)ダウンスピン電子集団(波束)入力時の測定結果

図2. スピン電荷分離現象の測定例(左)アップスピン電子集団(波束)入力時の測定結果(右)ダウンスピン電子集団(波束)入力時の測定結果

今後の展開

プラズモニクス、及びスピントロニクスは、今後の情報化社会の発展を考える上でのキーテクノロジーである。今回の研究で実現されたスピン分解オシロスコープは、両分野における基本計測器として、今後の研究の進展を促進する。この計測技術を今後、さまざまな材料・素子に対して適用することにより、高速・低消費電力の次世代エレクトロニクス素子の開発に繋がる。プラズモニクスとスピントロニクスの利点を融合させた「スピンプラズモニクス」と呼ぶべき新しい技術の創出に道を拓くことになる。

この研究はJSPS科学研究費補助金「量子ホール接合系における分数電荷準粒子の生成・消滅過程の研究(新学術領域研究JP26103508、研究代表者:橋坂昌幸)」、「トポロジカル物質ナノ構造の輸送現象(新学術領域研究JP15H05854、研究代表者:藤澤利正)」、「量子ホールエッジチャネルにおける非平衡電荷ダイナミクス(基盤研究(A)JP26247051、研究代表者:藤澤利正)」、「エニオン統計性を有する分数電荷準粒子の2粒子衝突実験(若手研究(A)JP16H06009、研究代表者:橋坂昌幸)」、文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォームの支援を受けて行われた。

朝永―ラッティンジャー液体における、アップスピン電子集団(上)、もしくはダウンスピン電子集団(下)入力時のスピン電荷分離現象の観測結果。波形データ計測の様子を約10倍速で連続再生(再現動画)。

用語説明

[用語1] プラズモニクス : 電子1つ1つの運動ではなく、電子の集団運動を制御することで実現される、次世代エレクトロニクス。電荷信号は単一の電子と比較して高速で伝搬するため、これを利用した超高速エレクトロニクスの創出が期待されている。

[用語2] スピントロニクス : 電子の持つスピン(電子の自転の向きに相当し、アップスピンとダウンスピンの2種類がある)を制御することで実現される、次世代エレクトロニクス。スピンの向きの制御を介して電気伝導を制御することで、低消費電力のエレクトロニクス創出が期待されている。一部技術はすでにハードディスク読み出し用の磁気ヘッドや不揮発磁気抵抗メモリーなどとして実用化されている。

[用語3] スピンフィルター : アップスピン電子が担う電流とダウンスピン電子が担う電流を分離できる、スピントロニクス素子。本研究で用いた半導体量子ホール系では、電界効果トランジスタ構造を持つ素子によって実現できる。

[用語4] 時間分解電荷計 : 半導体ナノ構造で実現される、試料のごく近傍に設置可能な微小サンプリングオシロスコープ。試料内の電荷密度の変調を電流に変換することで、高精度の電荷信号測定が可能である。

[用語5] スピン電荷分離現象 : 1次元電子系において、電子集団の電荷波束とスピン波束が空間的に分離する現象。電荷とスピンがそれぞれ異なる速度で伝搬することに起因する。このような1次元電子系特有の興味深い物理現象は、ノーベル物理学賞受賞者の朝永振一郎博士によって最初に提案され、現代では朝永―ラッティンジャー液体論(参考)と呼ばれる理論によって説明されている。1次元電子系は物性物理学にとって理論・実験の双方から興味深い研究対象であるとともに、その特異な電子輸送特性・省スペース性を活かした応用の可能性ゆえに、産業的にも注目を集めている。

[用語6] 量子ホールエッジチャネル : 強磁場中の2次元電子系の試料端に沿って形成される1次元1方向伝導チャネル。電子が伝播する方向は磁場の向きによって一方向に決まり、原理的に逆方向に伝播することがないため、1次元電子系のプロトタイプとして優れた性能を示すことが知られている。

[参考] 朝永―ラッティンジャー液体 : 通常の伝導体では電子の運動が重要であるが、1次元伝導体では電荷、またはスピンを運ぶ電子集団の運動が支配的であり、その電子集団を朝永―ラッティンジャー液体という。1950年に朝永振一郎博士によって、1963 年にホアキン・マズダク・ラッティンジャー博士によって、理論が構築され、さまざまな1次元伝導体(カーボンナノチューブなど)でその存在が確認されている。しかし、朝永―ラッティンジャー液体を象徴するスピン電荷分離現象はこれまで観測することができなかった。同研究グループは2014年に朝永―ラッティンジャー液体の励起素過程の観測に成功し、今回の研究でスピン電荷分離現象の直接観察に世界で初めて成功した。

論文情報

掲載誌 :
Nature Physics
論文タイトル :
Waveform measurement of charge- and spin-density wavepackets in a chiral Tomonaga-Luttinger liquid
(カイラル朝永―ラッティンジャー液体における電荷・スピン密度波束の波形測定)
著者 :
M. Hashisaka, N. Hiyama, T. Akiho, K. Muraki, and T. Fujisawa
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に新たに発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

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Tel / Fax : 03-5734-2809

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教授 藤澤利正

E-mail : fujisawa@phys.titech.ac.jp
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東工大学内保育所「てくてく保育園」開園

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東工大学内保育所「てくてく保育園」開園
―海外からの研究者・留学生、産休・育休から復帰する教職員・学生のためにキャンパス内に保育所を開設、一部定員を地域に開放―

東京工業大学(東京都目黒区大岡山2-12-1、学長 三島良直)は、2017年4月1日に学内保育所「てくてく保育園」を開園します。

東京工業大学 国際交流会館本館内に開設

東京工業大学 国際交流会館本館内に開設

「てくてく保育園」内部の様子

「てくてく保育園」内部の様子

子育て中の研究者・学生に、安心して東工大に来て欲しい

東京工業大学では「世界のトップ10に入るリサーチユニバーシティ」の実現を目指し、教育・研究における改革を進めております。国際通用性・国際競争力の強化のためには研究環境の改善・整備、キャンパスの国際化はぜひとも必要です。

現在、世界トップレベルの研究拠点形成を目指す文部科学省のWPIプログラムによって設立された地球生命研究所(ELSI)をはじめとして、多くの外国人研究者を招聘していますが、このような研究者は子どもを伴って来日するケースが多く、日本の保育園事情を目の当たりにして困惑しています。

また、留学生も、子どもを帯同しての留学や日本で子どもが産まれた後、子どもを保育園に入れるのは非常に困難だという現状に直面して、帰国してしまう例も散見されています。国内研究者が着任する場合でも、引越しを伴って遠方から着任する際は、同じ状況が生じます。日本人学生でも、いったん社会に出てから大学院に入学するなど、出産・育児の時期を迎える学生が増え、同様な問題を抱えているケースが増加しました。

こうした研究者・学生の子どもを、年度初めの4月からに限らず、いつからでも受け入れられる学内保育所を開設することにしました。

教育・研究を進める上で必要な時期に産休・育休から復帰できるようにしたい

さらに、教員・研究者が年度途中に出産した場合、学生を教育する上で特に重要な年度末や学会活動時に育児休業を取得している余裕がないにもかかわらず、次年度を待たないと保育園に入れないために、教育や研究活動を一時的に止めざるを得ない例が増えています。

このようなことがないように、「てくてく保育園」では、産休・育休から復帰する教員・研究者および教育・研究を支える職員の子どもを、年度初めからに限らず、いつからでも受け入れます。

保育運営は専門の会社に業務委託

東工大は、大岡山キャンパス内にある既存の建物(東京都大田区)の一部を改修して保育所の整備を行いました。保育所の設置者は東工大ですが、保育運営はヒューマンライフケア株式会社(東京都新宿区西新宿7-5-25、代表取締役 野田和彦)に委託します。

定員の一部を大田区に開放

年度途中からでも子どもを受け入れる保育所ですが、保育士・栄養士などの雇用を確保するなど、一年を通して安定した運営が必要です。それを解決するため、また、地域との連携を深めるため、「てくてく保育園」は、2015年度から始まった「子ども・子育て支援新制度」による、地域型保育事業の「事業所内保育所(定員の一部を地域に開放)」 とすることとしました。

定員12名の小さい園ですが、大田区の認可保育園として、その定員の一部は周辺地域の子どもが入園し、東工大の研究者や学生の子どもと一緒に保育の時間を過ごす、大田区の待機児童解消にも役立つ保育所となっています。

東工大基金

てくてく保育園は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学 学内保育所運営委員会

E-mail : childcare@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7617 / Fax : 03-5734-7618

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タンパク質カゴの中で踊る金原子を観る―タンパク質結晶を使った金属イオン集積過程の観察―

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要点

  • 金属原子が内部で動き回れるカゴ型タンパク質の結晶化に成功
  • 化学反応で複数の金原子が集まっていく様子を原子分解能で観察
  • タンパク質内で生じる化学反応、骨など生体材料の形成過程解明に向けた応用に期待

概要

東京工業大学生命理工学院のMaity Basudev(マイティ・バスデブ)博士研究員、安部聡助教、上野隆史教授の研究グループは、生体中で鉄を貯蔵するタンパク質「フェリチン[用語1]」が金属を集めるカゴとして利用できることに着目。その結晶内で、金原子が集積していく様子を原子分解能で追跡することに成功した。この結晶は、タンパク質が形成するカゴの内部で金属原子を自由に動かすことができる。通常、X線構造解析に用いられるタンパク質結晶は、非常に脆く、反応試薬等を添加するだけで容易に壊れてしまう。

研究グループは今回、結晶内で隣り合うカゴ型タンパク質を架橋化させる(補強する)ことで、頑丈な結晶を作製。その結果、カゴ内部に結合していた金の原子が、還元剤を添加することで、タンパク質を構成するアミノ酸と手をつなぎながら踊るように移動していった。その様子をX線結晶構造解析によるスナップショット追跡で捉えることができた。

タンパク質と結合する金属は、光合成や酸素運搬に必要不可欠で、ミネラルの貯蔵や骨などの形成にも重要な役割を果たす。この成果は、これらの生体に重要な反応を解明する上でも重要な手法になると考えられる。

今回の成果は、日本学術振興会の最先端・次世代研究開発支援プログラムおよび科学研究費補助金の支援によるもので、英国のNature Publishing Groupのオンライン誌「Nature Communications」に3月16日(日本時間)に公開された。

研究背景

バイオミネラル[用語2]とよばれる貝殻や真珠、歯や骨などの無機材料は、タンパク質や微生物によって作り出され、生命活動を支えている。これらのバイオミネラルは、金属イオンがタンパク質表面に集積し、いくつかの反応を経由して合成される。近年では、これらの金属集積化反応をヒントに、カゴ型タンパク質「フェリチン」や、ウイルスの内部で金、パラジウム、白金、酸化鉄、硫化カドミウムなど様々な金属化合物が作製されている。これらは、触媒、光学、磁気機能やイメージング能を有するバイオマテリアルとして利用され、材料分野のみならず医薬分野でも利用されている。

タンパク質内で合成されるこれらの金属微粒子は、金属表面への集積と核化反応により形成されると考えられている。しかしながら、これらの反応過程におけるナノレベルでの詳細な形成過程については、構造情報を追跡することが困難なため、明らかにされていない。

研究内容

研究グループは、X線結晶構造解析により、タンパク質「フェリチン」(図1)のカゴの中で金イオンが化学反応により、サブナノクラスター[用語3]と呼ばれる塊を形成する様子を観察することに成功した。フェリチンは内部に8ナノメートル(nm)の空洞を持つカゴ型タンパク質で、多数の金属イオンや金属錯体を取り込むことできる。

今回、フェリチン内部での金属イオンの動きを観察するため、金イオンを含んだフェリチン複合体を作成した。一般に、タンパク質結晶は非常に脆く、化学反応などで容易に分解してしまう。そこで、結晶内の隣り合うフェリチン分子同士をグルタルアルデヒドで架橋化することで、水中での化学反応で溶けない結晶を作製した。架橋した結晶を2.5、5、250 mMの濃度が異なる水素化ホウ素ナトリウム溶液に浸漬させ、金イオンを還元した。その結晶のX線結晶構造解析を大型放射光施設SPring-8[用語4]BL38B1、BL26B1で行い、還元前の構造との比較を行った(図1)。

フェリチンの結晶構造

図1. フェリチンの結晶構造:(a)全体構造と(b)3回対称軸チャネル、(c)金イオンを内包したフェリチン結晶の架橋化と還元反応

4種類のフェリチン複合体をX線結晶構造解析した結果、3つの単量体で形成される3回対称軸チャネルで、還元剤の濃度をあげていくと、アミノ酸残基に固定化されていた金イオンが3回対称軸を中心に集積し、サブナノクラスターを形成することが観察された。またその際、還元前に金イオンが結合していたヒスチジン残基の側鎖の向きが変わることで、サブナノクラスターを安定化していることがわかった(図2)。

フェリチン3回対称軸チャネルにおける金イオン還元反応の構造変化の詳細

図2. フェリチン3回対称軸チャネルにおける金イオン還元反応の構造変化の詳細。還元前はアミノ酸側鎖に結合していた金イオンが還元反応により、3回対称軸チャネルの中心に移動している様子が確認できる。

今後の展開

本手法は、金属イオンを内包するフェリチン結晶を架橋安定化することにより、はじめて還元反応による金属イオンの動きを追跡することに成功した。

タンパク質と結合する金属は、金属酵素の活性中心を形成する金属クラスターなどの反応触媒を形成したり、ミネラルの貯蔵や骨など生体無機材料の形成にも重要な役割を果たす。今回得られた成果は、これらの反応メカニズムの解明につながると期待される。

用語説明

[用語1] フェリチン : 24個の単量体から構成される外径12 nmのカゴ状のたんぱく質であり、天然では、そのカゴの内部に細胞内の鉄を貯蔵する役割を果たしている。フェリチンには、3つの単量体で形成される3回対称軸チャネルが8個あり、そこから金属イオンがフェリチン内部に取り込まれる。近年、フェリチンのカゴを用いて、鉄以外の天然に存在しない金属化合物を集積させ、化学反応に利用する研究が進められている。

[用語2] バイオミネラル : 生物によって作られる無機化合物。珪藻がつくるシリカ被殻、真珠や貝殻を構成する炭酸カルシウムや磁性細菌がつくりだす磁性微粒子、フェリチンが形成する酸化鉄などが知られている。

[用語3] サブナノクラスター : 1ナノメートル未満のサイズの金属集合体(1ナノメートルは10億分の1メートル)。このサイズでの金属クラスターは特異な物性をもつと期待される。

[用語4] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高品質の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理と利用者支援は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前は、Super Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。タンパク質の結晶構造解析の分野でも大きな成果をあげている。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Observation of gold sub-nanocluster nucleation within a crystalline protein cage
著者 :
Basudev Maity, Satoshi Abe and Takafumi Ueno
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

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東京工業大学 生命理工学院
教授 上野隆史

E-mail : tueno@bio.titech.ac.jp
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東京工業大学 広報センター

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シリコンと窒素だけからできた硬い透明セラミックスを合成―空気中で1,400 ℃の耐熱性、過酷な条件下の光学窓材に応用可能―

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要点

  • 地上のありふれた元素であるシリコン(ケイ素)と窒素だけでできた透明セラミックス
  • エンジンの耐熱部品に使われる不透明セラミックスの窒化ケイ素に高圧力をかけ合成
  • 全物質中3番目の硬さとダイヤモンドを上回る空気中での耐熱性をもつ

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の西山宣正特任准教授(研究実施時はドイツ電子シンクロトロン研究員)と若井史博所長らの日独共同研究グループ(東工大、ドイツ電子シンクロトロン、物質・材料研究機構、バイロイト大学、東大、愛媛大)は、砂と空気の主要元素であるシリコン(ケイ素)と窒素からなる窒化ケイ素(Si3N4[用語1]から、全物質中で3番目に硬い透明セラミックスの合成に成功した(図1)。

自動車のエンジン部品にも使用される耐熱セラミックスである窒化ケイ素に高い圧力と高い温度をかけることにより、大気圧下[用語2]では合成することができない“スピネル型窒化ケイ素”のナノセラミックス(ナノ多結晶体[用語3])を合成した(図2)。得られた物質は、レンズや窓に使われる物質と同等の透明さを持つことを確かめた。これは全物質中で3番目の硬さをもつ物質であり、さらに空気中で1,400 ℃の高温まで耐えられる。このため過酷な環境で使われる装置の光学窓材料としての利用が期待できる。

研究成果は、3月17日にNature出版社のオープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。

スピネル型窒化ケイ素の透明多結晶体

図1. スピネル型窒化ケイ素の透明多結晶体

スピネル型窒化ケイ素・透明多結晶体の透過型電子顕微鏡写真

図2. スピネル型窒化ケイ素・透明多結晶体の
透過型電子顕微鏡写真。平均粒径は約150ナノメートル。

背景

ケイ素(Si)と窒素(N)は地表で簡単に手に入る元素である。ケイ素は砂や石の主要元素で、地表そのものといってもいいほどありふれている。一方の窒素は空気の8割を占め(残りの2割が酸素)、地表でもっともありふれた気体である。これらケイ素と窒素からなる窒化ケイ素(Si3N4)は資源の枯渇を全く心配する必要がない、セラミックス材料である。

窒化ケイ素セラミックスは広く工業利用されている。この物質は硬く、割れにくく、高温に耐えられるという性質を持っているため、自動車エンジンやガスタービン内部の部品、ボールベアリング、さらに航空機エンジンに使われる特殊な合金を削るための刃物として利用されている。このように、物質の硬さや割れにくさという特徴を利用して人工物の形状を保つため、あるいは人工物の形状を作り出すために利用される材料を“構造材料”と呼ぶ。窒化ケイ素は、代表的な構造用セラミックスである。

物質は周囲の温度や圧力が変化することによって、その原子の並び方が変化する。水(液体)は、温度が0 ℃以下で氷(固体)、100 ℃以上で水蒸気(気体)になる。鉛筆の芯の石墨(グラファイト)は地球の中のような高い圧力、高い温度条件下でダイヤモンドになる。このように温度圧力条件によって物質の原子の並びが変化することを“構造相転移”と呼ぶ。窒化ケイ素(Si3N4)も13万気圧以上の高圧力と高温の条件下で、大気圧下では合成することができない“スピネル型窒化ケイ素”へと相転移する。ダイヤモンドは地球の深さ150 kmより深いところで作られ、スピネル型窒化ケイ素は深さ400 kmより深いところに相当する圧力で作ることができる。

高い圧力下でスピネル型窒化ケイ素を合成できることは1999年にドイツの研究グループによって報告されていた。その後の研究によって、この物質がダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素[用語4]に次ぐ、全物質中で3番目に硬い物質の候補であると考えられるようになった。純粋で緻密に焼き固まったスピネル型窒化ケイ素を合成するのは実験的に困難なため、この物質の硬さや割れにくさといった構造材料としての性能を評価する上で不可欠な性質は、これまでよくわかっていなかった。

研究成果

西山らの日独国際共同研究グループは、地球深部条件の再現やダイヤモンドの合成に使用される高温高圧発生装置を使用して、スピネル型窒化ケイ素を16万気圧、1,800 ℃の条件で合成した。その結果、緻密で透明なスピネル型窒化ケイ素多結晶体を得た(図1)。この物質の透明度は、レンズや窓材に使われる光学部品と同等であることを確認した。この物質を透過型電子顕微鏡で観察し、1粒の大きさが150ナノメートル程度のスピネル型窒化ケイ素がランダムな方向で焼き固まったナノ多結晶体であることがわかった(図2)。また、この物質の硬さを測定したところ、2つのホウ素化合物(B4CとB6O)と同程度の硬さを持ち、全物質中でダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素に次ぐ3番目に硬い物質の1つであることがわかった(図3)。

さまざまな物質のビッカース硬さ(縦軸)とずり弾性率(横軸)の関係

図3. さまざまな物質のビッカース硬さ(縦軸)とずり弾性率(横軸)の関係。ずり弾性率は、物質のずり変形に対する抵抗を表す。物質名の右肩の★印は、そのナノ多結晶体が透明になることを示す。

これらの硬質物質のうち、光学的に透明で緻密なナノ多結晶体となるのはダイヤモンドとスピネル型窒化ケイ素である。したがって、スピネル型窒化ケイ素は、ダイヤモンドに次いで硬い透明ナノセラミックスであり、既存の透明セラミックスより硬く割れにくい。スピネル型窒化ケイ素・透明セラミックスは、ダイヤモンドに硬さは劣るが耐熱性は大きく勝る。ダイヤモンドは空気中700 - 800 ℃で黒鉛化および酸化(ダイヤモンドと酸素が反応して二酸化炭素になる)が起こり、これ以上の温度で使用することができない。一方、スピネル型窒化ケイ素は、空気中で少なくとも1,400 ℃の高温まで存在することができる。スピネル型窒化ケイ素・ナノセラミックスは光学的透明さ、全物質中3番目の硬さ、ダイヤモンドを凌ぐ耐熱性をもつので、過酷な環境で使用される機器の光学窓材としての利用が期待される。

本研究の一部は、東京工業大学が展開しているワールド・リサーチ・ハブ・イニシアティブ(WRHI)によって行われた。WRHIは「世界の研究ハブ」を目指す組織として、世界トップレベルの研究者を招へいし、国際共同研究の加速と分野を超えた交流を実施している。

今後の展開

窒化ケイ素には、その結晶構造の中に酸素やアルミニウム、さらにイオン半径の大きな希土類元素など、様々な元素を加えることができる。このような様々な化学組成をもった窒化ケイ素セラミックスに高い圧力を加えスピネル構造にすることによって、透明、硬い、高耐熱性といった利点だけでなく、半導体としての利用、光を発する蛍光体への応用も可能になるかもしれない。それによって多機能性を有する硬く透明なセラミックス材料を作り出すことができると期待される。

用語説明

[用語1] 窒化ケイ素 : ケイ素原子と窒素原子が3:4の割合で結合した化合物。それぞれの原子は共有結合によって強固に結びついているため、この物質は硬く、高温まで安定に存在し、化学反応性が低い。

[用語2] 大気圧 : 地表において空気の重さによって生じる圧力。1気圧とも呼ばれる。私たちは地表面で、常にこの圧力(=1,013ヘクトパスカル)にさらされて生きているので圧力がかかっているようには感じないが、1平方メートルあたりにかかる空気の重さは約10トンである(乗用車・約10台分)。ダイヤモンドやスピネル型窒化ケイ素を作り出すには、大気圧の数万倍の圧力が必要となる。

[用語3] ナノ多結晶体 : 多結晶体とは、多数の小さな結晶の粒がそれぞれランダムな方向で緻密に固まったもの。ダイヤモンドなどの宝石は1つの大きな結晶からなる単結晶。結晶は原子が規則正しく並んでいるため、割れやすい方向や柔らかい方向が存在するが、多結晶体では多数の結晶が様々な方向を向いてこのような欠点を打ち消し合うので、割れやすい方向や柔らかい方向がない均質な物質になる。ひとつひとつの小さな結晶の大きさがナノメートル(百万分の1ミリメートル)サイズの微細な多結晶体をナノ多結晶体と呼ぶ。

[用語4] 立方晶窒化ホウ素 : ホウ素原子(B)と窒素原子(N)が1:1の割合で結合した化合物。ダイヤモンドが炭素原子のみからなるのに対し、立方晶窒化ホウ素ではホウ素原子と窒素原子が交互にダイヤモンドと同じ原子の並び方をしている。ダイヤモンドと同様に高圧力下で合成可能である。ダイヤモンドよりも鉄との反応性が低いため、鉄系材料の切削に利用されている。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Transparent polycrystalline cubic silicon nitride
著者 :
N. Nishiyama, R. Ishikawa, H. Ohfuji, H. Marquardt, A. Kurnosov, T. Taniguchi, B-N. Kim, H. Yoshida, A. Masuno, J. Bednarcik, E. Kulik, Y. Ikuhara, F. Wakai, T. Irifune
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
特任准教授 西山宣正

E-mail : nishiyama.n.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5337 / Fax : 045-924-5339

物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 超高圧グループ
グループリーダー 谷口尚

E-mail : TANIGUCHI.Takashi@nims.go.jp
Tel : 029-860-4413 / Fax : 029-851-2768

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室

E-mail : pressrelease@ml.nims.go.jp
Tel : 029-859-2026 / Fax : 029-859-2017

南極大気の歴史をひも解く新たなアプローチ ―硫酸と硝酸の三酸素同位体組成の変動から―

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要点

  • 南極沿岸部では、硫酸と硝酸の三酸素同位体組成が光化学オキシダントの寄与を反映していた
  • 冬期に蓄積された硝酸の放出が、春先の南極の大気酸化環境を変化させる
  • 氷床コアの三酸素同位体組成解析による大気酸化環境の復元に期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の石野咲子(博士後期課程1年)、服部祥平助教、及び吉田尚弘教授(地球生命研究所 兼務)らの研究グループは、南極沿岸の基地で採取した大気試料中の硫酸と硝酸、オゾンの三酸素同位体組成(16O、17O、18Oの比率)の季節変動を解析した。この結果から、硫酸と硝酸については、三酸素同位体組成が大気中の硫黄・窒素化合物の酸化反応に関わった光化学オキシダント(O3、 OHラジカルなど)の寄与率を反映していることを明らかにした。

この指標を、南極氷床中に保存された硫酸、硝酸について適用することで、過去の大気酸化反応を復元する手がかりになりえる。

この成果は、2017年3月16日に欧州地球科学連合(European Geosciences Union)のAtmospheric Chemistry and Physics誌のオンライン版に掲載され、同誌のHighlight Articlesに選出された。

背景

酸素は3つの安定同位体を持ち、それぞれの存在度は多い物から16O、17O、18Oとなっている。16Oに対して希少な2つの同位体比の存在比率は天然でわずかに変化する。通常、様々な物理化学過程で17Oの濃縮度は18Oに対しておよそ半分の値となる。しかし、オゾン(O3)の生成過程では例外的に、このルールが破られ17Oを特異的に濃集することが知られている。このオゾン 由来の17Oの異常濃集は、大気化学反応過程を通じて他の光化学オキシダントや酸化生成物に引き継がれる。このため、硫黄化合物(DMS、SO2など)や窒素酸化物(NOx = NO, NO2)などの酸化によって生成される硫酸(SO42-)や硝酸(NO3-)の三酸素同位体組成(Δ17O値[注1])より、反応に関与した光化学オキシダントの寄与率が復元できる可能性がある。

これまでに、南極に存在する氷床中の化学成分の分析によって、過去の環境変動に関する数多くの知見が提供されてきた。このため南極氷床コア分析で硫酸(SO42-)や硝酸(NO3-)の酸素同位体指標を適用すれば、過去の光化学オキシダントの動態、ひいては大気酸化環境を復元できる可能性がある。ところが、南極大気中の硫酸や硝酸の酸素同位体組成を同時に観測した例はなく、酸素同位体の比率の変動が、“オゾン自体の酸素同位体組成の変化”によるものなのか“光化学オキシダントの寄与率の変化”によるのか明らかになっていなかった。

研究の経緯

今回、服部助教らの研究グループは、フランスの氷河・環境地球物理学研究所(Laboratoire de Glaciologie et Geophysique de l'Environnement(LGGE)、現 Univ. Grenoble Alpes)のJoel Savarino(ジョエル・サバリノ)博士と共同研究を行った。この共同研究では、フランスの研究グループが南極沿岸のDumont d'Urville(デュモン・デュルビル)基地で採取したエアロゾル試料とオゾン試料の分析を行った。

世界で初めて硫酸(SO42-)と硝酸(NO3-)、オゾン(O3)の全ての三酸素同位体組成(Δ17O値)を、これまでにない高時間解像度(週単位)で比較することに成功した。

南極Dumont d'Urville基地の位置と外観(撮影 石野咲子 2017年)

図1. 南極Dumont d'Urville基地の位置と外観(撮影 石野咲子 2017年)

研究成果

この結果、硫酸(SO42-)と硝酸(NO3-)のΔ17O値は、ともに夏に低く冬に高いという明確な季節変動を示した。一方、オゾン(O3)のΔ17O値に明確な変動が見られなかった(図2)。このことから、硫酸(SO42-)と硝酸(NO3-)のΔ17O値は、オゾン(O3)のΔ17O値の変動ではなく、光化学オキシダントの相対寄与を強く反映していることが明らかになった。

硫酸・硝酸・オゾンの濃度と三酸素同位体組成(Δ17O値)の季節変動

図2. 硫酸・硝酸・オゾンの濃度と三酸素同位体組成(Δ17O値)の季節変動

次に、同研究グループは硫酸(SO42-)と硝酸(NO3-)のΔ17O値の変動がオゾン(O3)濃度の変動と相関していることに着目した(図3)。その結果、春と秋に採取された試料はオゾン(O3)濃度、日射量が同程度であるにも関わらず、Δ17O値に差異が見られた。特に、春は秋に比べて相対的に低いΔ17O値が観測された。

硫酸・硝酸のΔ17O値とオゾン濃度の相関

図3. 硫酸・硝酸のΔ17O値とオゾン濃度の相関

このことは、Dumont d'Urville基地では、以下の2点のような特殊な大気酸化環境が、硫酸(SO42-)生成過程に影響していることを示している。1つは、冬期に雪中に蓄積された硝酸(NO3-)が、春になると紫外線によって光分解を受けて大気中に放出され、OHラジカルの生成を促進、光化学オキシダントの相対寄与が変化することが考えられる。2つ目は、南極周辺の海洋から放出される海塩と紫外線との反応によって生成されるハロゲン酸化物が、硫酸(SO42-)の生成に寄与すると考えられる。これらの事象は、これまで確認できていなかった。

今回明らかとなった南極沿岸部における春期に卓越する特殊な大気酸化環境

図4. 今回明らかとなった南極沿岸部における春期に卓越する特殊な大気酸化環境

今後の展開

本研究の成果から、硫酸(SO42-)と硝酸(NO3-)の酸素同位体異常(Δ17O値)から過去の光化学オキシダントの動態を復元できることが示唆された。今後、氷床コアの分析で適用されることで、産業革命の前後や、氷期間氷期サイクルなどの地球上での環境変動に伴い、光化学オキシダントなどによる大気酸化環境がどのように変化したかを定量的に推定することが期待される。

服部助教らの研究グループは、今後もJoel Savarino(ジョエル・サバリノ)博士をはじめとする国内外の研究機関と共同し、南極の大気-雪-氷床コアの研究を深化する予定。その一環として本論文の第一著者である石野咲子は、本学リーディング大学院プログラム 環境エネルギー協創教育院(Academy for Co-creative Education of Environment and Energy Science)の海外渡航支援により、2016年12月から2017年1月まで南極観測に参加した。

本研究成果は、以下の支援を受けました。

JSPS(日本学術振興会)

  • 日仏二国間交流事業
    CNRS(フランス国立科学センター):代表 吉田尚弘 2014 - 2015年
    SAKURAプログラム:代表 服部祥平 2014 - 2015年
  • 科学研究費補助金
    若手研究A:代表 服部祥平 2016 - 2020年度
    基盤研究S:代表 吉田尚弘 2011 - 2016年度

用語説明

[注1] Δ17O値 : 酸素安定同位体組成は一般的に、最も存在量の多い16Oに対する17O、18Oの比率をδ17,18O値(= 17,18O/16O - 1)と定義して評価する。さらに大気中のオゾンのように特異的な17Oの濃縮は、質量依存則(δ17O = 0.52×δ18O)からのずれとして評価するため、Δ17O =δ17O - 0.52×δ18Oと定義されている。

論文情報

掲載誌 :
Atmospheric Chemistry and Physics
論文タイトル :
Seasonal variations of triple oxygen isotopic compositions of atmospheric sulfate, nitrate, and ozone at Dumont d'Urville, coastal Antarctica
著者 :
Ishino, S., Hattori, S., Savarino, J., Jourdain, B., Preunkert, S., Legrand, M., Caillon, N., Barbero, A., Kuribayashi, K., and Yoshida, N.
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に新たに発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系
助教 服部祥平

E-mail : hattori.s.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5419

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
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脱ユビキチン化酵素の基質特異性を改変することに成功 ―複雑なタンパク質の制御機構の一端を解明―

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要点

  • タンパク質の働きを制御するユビキチン鎖の働きを止める脱ユビキチン化酵素USP25の基質特異性を解明
  • USP25のユビキチン鎖結合領域を改変することで、そのユビキチン鎖切断の特異性を改変することに成功
  • 脱ユビキチン化酵素によるタンパク質機能制御の仕組みについて理解が深まる

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニットの川口紘平大学院生(博士後期課程)と駒田雅之教授らは、ヒト細胞の機能を制御する酵素タンパク質「USP25」が特定の基質のみに働く仕組み(基質特異性)の獲得機構を解明、その基質特異性を改変することに成功した。

ユビキチン[用語1]は、自身のリジン残基[用語2]を介してつながりユビキチン鎖[用語3]を形成、細胞内の様々な標的タンパク質と結合し、それらの機能を制御する。この時、ユビキチン鎖がユビキチンの48番目のリジン(Lys48)と63番目のリジン(Lys63)のどちらを介して連結するかで、標的となるタンパク質は異なる制御を受ける。一方、このユビキチン化によるタンパク質制御は、脱ユビキチン化酵素[用語4]が標的タンパク質に結合したユビキチン鎖を切断することで解除される。

今回の研究では、脱ユビキチン化酵素の1つ「USP25」が、ユビキチンと結合するための配列であるUIMを介してLys48連結ユビキチン鎖に選択的に結合することで、Lys48連結ユビキチン鎖を選択的に切断することを解明した。また、このUIMをLys63連結ユビキチン鎖に結合できるように改変したところ、Lys63連結ユビキチン鎖を切断することに成功した。つまりUSP25の基質特異性を改変させることができた。

今回の成果は、ユビキチン化による複雑なタンパク質制御機構の一端を解明するもので、ヒト細胞の制御機構の分子基盤の理解に結びつく重要な生物学上の知見と言える。

3月22日付けの国際科学誌『Scientific Reports』にオンライン掲載された。

背景

ユビキチンは真核生物に高度に保存された、76アミノ酸からなる小さなタンパク質である。細胞内では、ユビキチンのカルボキシル末端と別のユビキチンのリジン残基のε-アミノ基がアミド結合でつながることで、複数のユビキチンが数珠状につながったユビキチン鎖(ユビキチン多量体)が作られる。この時、ユビキチンのどのリジン残基を介してユビキチン鎖がつながるかで、異なった立体構造をもつユビキチン鎖が形成される。細胞内にはユビキチンの48番目のリジン残基(Lys48)あるいは63番目のリジン残基(Lys63)を介して形成したユビキチン鎖が豊富に存在する(図1)。

ユビキチンとユビキチン鎖

図1. ユビキチンとユビキチン鎖

ユビキチンのカルボキシル末端のカルボキシル基(COOH)と、別のユビキチンのリジン残基(主にLys48とLys63)がアミド結合でつながることで、ユビキチン鎖が形成される。Lys48連結ユビキチン鎖とLys63連結ユビキチン鎖は異なる立体構造をもつ。

ユビキチン鎖は、その末端カルボキシル基を介して様々な細胞内タンパク質のリジン残基に付加されることで、それら標的タンパク質の機能を制御する(図2)。異なるタイプのユビキチン鎖は、異なる働きをもつ。Lys48連結ユビキチン鎖はそのタンパク質を分解する目印となるのに対し、Lys63連結ユビキチン鎖は損傷DNAの修復や細胞内の情報伝達など、様々な細胞機能を調節する。

一方、細胞内には何十種類もの脱ユビキチン化酵素が存在し、標的タンパク質に結合したユビキチン鎖を加水分解して切断することで、ユビキチン化によるタンパク質制御を解除する(図2)。Lys48連結ユビキチン鎖とLys63連結ユビキチン鎖の機能が異なるため、脱ユビキチン化酵素がユビキチン化によるタンパク質制御を緻密にコントロールするには、Lys48連結ユビキチン鎖とLys63連結ユビキチン鎖のいずれかを選択的に切断する必要があるはずである。しかし、脱ユビキチン化酵素がどのようにして特定のユビキチン鎖を選択的に切断するのか、その基質特異性の獲得機構はよくわかっていなかった。

タンパク質のユビキチン化とそのはたらき

図2. タンパク質のユビキチン化とそのはたらき

ユビキチン鎖は、その末端のカルボキシル基を介して様々な細胞内タンパク質のリジン残基に付加される(ユビキチン化)。Lys48連結ユビキチン鎖の付加はそのタンパク質を分解する目印となるのに対し、Lys63連結ユビキチン鎖の付加は様々な細胞機能を制御する。また、ユビキチン化によるタンパク質制御は、脱ユビキチン化酵素によるユビキチン鎖の切断(脱ユビキチン化)により解除される。

研究成果

川口大学院生と駒田教授らは、ヒトの脱ユビキチン化酵素の1つであるUSP25を培養細胞に過剰発現させて精製し、試験管内でLys48連結またはLys63連結のユビキチン鎖と反応させて、ユビキチン鎖の切断活性(脱ユビキチン化活性)を調べた。その結果、USP25はLys48連結ユビキチン鎖をLys63連結鎖より効率よく切断することがわかった。

USP25は酵素活性ドメインに加え、約20アミノ酸からなるユビキチン結合能をもつ配列UIM(ubiquitin-interacting motif、ユビキチン結合モチーフ)を2つ連続してもっている。これら2つのUIMの両方にユビキチンと結合できなくなる変異を導入したところ、Lys48連結とLys63連結のいずれのユビキチン鎖に対してもUSP25の切断活性が低下した。このことから、2つの連続UIMを介したユビキチン鎖(基質)との結合がUSP25のユビキチン鎖切断活性を高めていることが明らかとなった。

この連続したUIMのLys48連結ユビキチン鎖とLys63連結ユビキチン鎖に対する結合親和性を比較したところ、Lys63連結鎖よりLys48連結鎖に強く結合することがわかった。つまり、連続UIMのLys48連結ユビキチン鎖に対する結合特異性がUSP25のLys48連結ユビキチン鎖に対する切断特異性を規定していることが示唆された。

そこで、USP25の連続UIMのユビキチン鎖結合特異性をLys48連結鎖からLys63連結鎖に改変することで、USP25のユビキチン鎖切断特異性をLys63連結鎖に改変できるのではないかと考えた。この仮説を検証するため、USP25の連続UIMを、Lys63連結ユビキチン鎖に対して結合特異性をもつ他のタンパク質の連続UIMで置換し、その変異体のユビキチン鎖切断特異性を調べたところ、このUSP25変異体ではLys48連結鎖に対する切断活性が低下し、Lys63連結鎖切断活性が上昇した。

以上の結果から、USP25は2つの連なったUIMを介してLys48連結ユビキチン鎖を選択的に酵素活性中心の近傍につなぎ留めることで、Lys48連結ユビキチン鎖に対して高い切断活性を発揮することが解明された(図3)。

USP25の基質特異性の獲得機構(モデル)

図3. USP25の基質特異性の獲得機構(モデル)

USP25は連続した2つのユビキチン結合配列(UIM1とUIM2)を介してLys48連結ユビキチン鎖を選択的に酵素活性中心の近傍につなぎ留めることにより、Lys48連結ユビキチン鎖に選択的な切断活性を発揮する。

研究成果の意義

タンパク質のユビキチン化は、ユビキチン鎖の連結パターンの違いによって標的タンパク質への作用が異なるため、それぞれの標的タンパク質にどの連結型のユビキチン鎖をつけるのか、またどの連結型のユビキチン鎖を解除するのかが、細胞のおかれた状況に応じてそのタンパク質の働きを緻密に制御する上で重要となる。この成果は、ユビキチン化による複雑なタンパク質制御を可能にするメカニズムの一端を解明したもので、私たちヒトの細胞機能の制御機構のより深い理解に結びつくことが期待される。

用語説明

[用語1] ユビキチン : 真核生物において高度に保存された、76アミノ酸からなる小さな細胞内タンパク質。

[用語2] リジン残基 : タンパク質を構成する20種類のアミノ酸のうちの1つであり、Lysと略される。側鎖の末端にアミノ基(ε-アミノ基)をもつ。ユビキチンを構成する76アミノ酸のうち、7つがリジン残基である。

[用語3] ユビキチン鎖 : ユビキチンのカルボキシル末端のカルボキシル基と別のユビキチンのリジン残基のε-アミノ基がアミド結合でつながることにより、複数のユビキチンが数珠状につながったユビキチン多量体が細胞内で作られる。これをユビキチン鎖という。ユビキチン鎖は、その末端のユビキチンのカルボキシル末端を介して様々な細胞内タンパク質のリジン残基のε-アミノ基にアミド結合で付加され、それら標的タンパク質の機能を様々に制御する。このタンパク質修飾をユビキチン化という。

[用語4] 脱ユビキチン化酵素 : ユビキチン鎖のユビキチンとユビキチンの間、およびユビキチンと標的タンパク質の間のアミド結合を加水分解し、標的タンパク質からユビキチン鎖をはずす酵素。ヒトには約90種類存在し、それぞれが異なる標的タンパク質を脱ユビキチン化する。

論文情報

掲載誌 :
Sci. Rep., 7, 45037 (2017)
論文タイトル :
Tandem UIMs confer Lys48 ubiquitin chain substrate preference to deubiquitinase USP25
著者 :
Kohei Kawaguchi, Kazune Uo, Toshiaki Tanaka & Masayuki Komada
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
細胞制御工学研究ユニット
教授 駒田雅之

E-mail : makomada@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5703 / Fax : 045-924-5771

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

コバルト酸鉛の合成に世界で初めて成功し、新規の電荷分布を発見

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コバルト酸鉛の合成に世界で初めて成功し、新規の電荷分布を発見
―鉛、コバルトの両方に他に例のない電荷秩序、イオン価数制御の新手法により機能性酸化物の開発に期待―

概要

神奈川科学技術アカデミーの酒井雄樹常勤研究員、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の東正樹教授、Runze Yu(ルンゼ・ユウ)研究員、北條元(はじめ)助教(現九州大学准教授)、山本孟、西久保匠、服部雄一郎各大学院生らの研究グループは、ペロブスカイト型[用語1]酸化物コバルト酸鉛(PbCoO3)の合成に成功し、鉛とコバルトの両方が電荷秩序[用語2]を持った、「Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3」という他に例のない電荷分布が実現していることを発見した。鉛とコバルトのエネルギー準位を制御することで特殊な電荷分布を実現、放射光X線と中性子線を用いた研究で、電荷秩序構造を明らかにした。電荷秩序が融解する際には超伝導や巨大磁気抵抗効果が発現することが多く、今後PbCoO3を改質することで、こうした現象が起きることが期待される。

同研究グループは東工大チームのほか、大阪府立大学の山田幾也特別講師、魚住孝幸教授、高エネルギー加速器研究機構のPing Miao(ピン・ミャオ)研究員、Sanghyun Lee(サン・ヒュン・リー)研究員、鳥居周輝技師、神山崇教授、高輝度光科学研究センターの水牧仁一朗副主幹研究員、早稲田大学の小宮山潤大学院生、溝川貴司教授、中央大学の岡研吾助教、物質・材料研究機構の上田茂典主任研究員、学習院大学の森大輔助教、相見晃久研究員、稲熊宜之教授で構成されるのに加え、中国科学院物理研究所、独国ユーリッヒ研究所、独国マックスプランク研究所が参画した。

研究成果は3月15日の米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

研究の背景

ペロブスカイト型酸化物は、強誘電性、圧電性、超伝導性、巨大磁気抵抗効果、イオン伝導など、多彩な機能を持つため、盛んに研究されている。だが、これまでに鉛と3d遷移金属[用語3]を含むペロブスカイト型酸化物として確立していたのは、強誘電体として良く知られているチタン酸鉛(Pb2+Ti4+O3)だけだった。

しかし近年、同研究チームによってバナジン酸鉛(PbVO3)がPb2+V4+O3、クロム酸鉛(PbCrO3)と鉄酸鉛(PbFeO3)がPb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3と Pb2+0.5Pb4+0.5Fe3+O3、ニッケル酸鉛(PbNiO3)がPb4+Ni2+O3の電荷分布を持つことが報告され、チタン(Ti)→バナジウム(V)→クロム(Cr)→鉄(Fe)→ニッケル(Ni)と、元素周期表を右に進むにつれて、鉛(Pb)の価数が増加し、遷移金属の価数が減少する傾向が分かりつつあった。

コバルト(Co)はFeとNiの間に位置するため、両者の中間的な電荷分布が期待されるが、PbCoO3はこれまで合成されていなかった。

研究成果

今回の研究では、15ギガパスカル(GPa、15万気圧)という超高圧を用いることで、世界で初めてPbCoO3の合成に成功した。

さらにPbCoO3の結晶構造を、大型放射光施設SPring-8[用語4]のビームラインBL02B2での放射光X線粉末回折実験[用語5]と、大強度陽子加速器施設J-PARC[用語6]のビームラインSuperHRPDでの高分解能中性子回折実験[用語7]によって詳細に調べた。その結果、ペロブスカイト型構造(一般式ABO3)の、AサイトにPb2+とPb4+が1:3で、BサイトにCo2+とCo3+が1:1で秩序配列した、四重ペロブスカイトと呼ばれる構造(図1)を持っていることが明らかになった。Pb2+とPb4+が1:3で含まれることは、SPring-8のビームラインBL15XUでの硬X線光電子分光測定[用語8](図2)によっても確認した。

PbCoO3(Pb2+Pb4+3Co2+2Co3+2O12)の結晶構造

図1. PbCoO3(Pb2+Pb4+3Co2+2Co3+2O12)の結晶構造

ペロブスカイト型構造ABO3(左)のAサイトにPb2+とPb4+が1:3で、BサイトにCo2+とCo3+が1:1で秩序配列している。

PbMO3(M=Ti, Cr, Co, Ni)の硬X線光電子分光(HAXPES)スペクトル

図2. PbMO3(M=Ti, Cr, Co, Ni)の硬X線光電子分光(HAXPES)スペクトル

Ti→Cr→Co→Niと元素周期表を右に進むに従って、Pb2+の割合が減少し、Pb4+の割合が増加している。これにより、PbMO3(M:3d遷移金属)では、周期表を左から右に進むに従って、鉛の価数が増加、遷移金属の価数が減少し、電荷分布がPb2+M4+O3→Pb2+0.5Pb4+0.5M3+O3 (Pb3+M3+O3)→Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3 (Pb3.5+M2.5+O3) →Pb4+M2+O3と、系統的に変化することも明らかになった。

まとめると、PbCoO3は、Pb2+0.5Pb4+0.5Fe3+O3とPb4+Ni2+O3の中間の、Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3(平均価数はPb3.5+Co2.5+O3)という特殊な電荷分布を持つことが明らかになった。その結果、PbCoO3は単純な組成であるにも関わらず、Pb2+とPb4+、Co2+とCo3+の違いを考慮すると、四重ペロブスカイトと呼ばれるPb2+Pb4+3Co2+2Co3+2O12の複雑な結晶構造を持つ。四重ペロブスカイトは巨大誘電率、磁気抵抗効果、負の熱膨張、酸素還元・酸素発生触媒など様々な機能を持つことから注目されている物質群である。

今後の展開

PbCoO3では、鉛、コバルトの両方が電荷秩序を持つことが明らかとなった。電荷秩序の融解の際には、超伝導や巨大磁気抵抗効果などの特異な現象が観測されることが多い。また、鉛とコバルトの価数の変化によって、半導体製造のような高精度な位置決めが求められる場面において、熱膨張によるずれを抑制できる負熱膨張[用語9]の発現も期待される。PbCoO3を改質することで、こうした機能の発現が期待される。

今回の研究で、Ti→V→Cr→Fe→Co→Niと、元素周期表を右に進むにつれて、鉛と3d遷移金属を含むペロブスカイト酸化物の鉛の平均の価数が2価→3価→3.5価→4価と上昇し、反対に3d遷移金属は4価→3価→2.5価→2価と系統的に減少することがより一層明らかになった。SPring-8とJ-PARCを併用することで、まだ明らかになっていないマンガン酸鉛(PbMnO3)の電荷分布の解明が待たれる。

付記

本研究は中国科学院物理研究所のJunye Yang、Yunyu Yin、Jianhong Dai、Wenmin Li大学院生、Changqing Jin教授、Youwen Long教授、独国ユーリッヒ研究所のMarjana Ležaić博士、Gustav Bihlmayer博士、独国マックスプランク研究所のZhiwei Hu博士との共同で行われた。

本研究の一部は、神奈川科学技術アカデミー・戦略的研究シーズ育成事業「革新的巨大負熱膨張物質の創成」(代表:東正樹東京工業大学教授)、日本学術振興会・科学研究費補助金・基盤研究A「ビスマス・鉛ペロブスカイトのs-d軌道間電荷分布変化解明と巨大負熱膨張への展開」、挑戦的萌芽研究「分極回転機構による巨大圧電材料の実現」(代表:東正樹東京工業大学教授)、文部科学省・科学研究費補助金・新学術領域研究「ナノ構造情報のフロンティア開拓―材料科学の新展開」(代表:田中功京都大学教授)、東京工業大学科学技術創成研究院World Research Hub Initiative(WRHI)プログラムの助成を受けて行った。

用語説明

[用語1] ペロブスカイト型 : 一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。

[用語2] 電荷秩序 : 同じ元素だが異なる価数を持つイオンが、繰り返し周期を持って整然と配列していること。

[用語3] 3d遷移金属 : 元素周期表の第4周期、スカンジウム(Sc)から銅(Cu)までの金属元素。複数の価数のイオンになることができ、磁性や電気伝導などの機能をもたらす。

[用語4] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理と利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

[用語5] 放射光X線回折実験 : 物質の構造を調べる方法。放射光X線を試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。

[用語6] 大強度陽子加速器施設J-PARC : 日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で建設・運営を行っている最先端科学研究施設。茨城県東海村のJAEA原子力科学研究所内、約65 haの敷地に3台の大型陽子加速器と各種の実験研究施設が設置されている。加速器で光速近くまで加速された大強度陽子ビームを、標的である金属や炭素などの原子核と衝突させて、原子核破砕反応により大量の中性子や中間子、ミュオン、ニュートリノなどの粒子を発生させる。実験研究施設ではこれらの粒子を利用して原子や原子核の世界を調べ、最先端の原子核・素粒子物理研究や、物質科学・生命科学研究、核変換技術研究などが行われている。

[用語7] 高分解能中性子回折実験 : 中性子回折とは試料に中性子を当てて、回折された中性子から対象物質の構造を調べる方法。中性子は、物質中の原子核と強く相互作用するので、物質中の電子と相互作用するX線回折とは異なる情報が得られる。酸素や水素などの軽元素を含む物質、磁性を持つ物質の構造解析などに威力を発揮する。J-PARCで開発された高分解能モデレータを採用した中性子源と、100 mの長尺ビームラインを持つSuperHRPDにより、高精度での構造解析が可能となった。

[用語8] 硬X線光電子分光測定 : 4 keV以上の高いエネルギーをもつX線である、硬X線を物質に入射し、そこから放出される光電子の個数とエネルギーの関係を調べることにより、物質内部の電子構造を調べる実験的手法。従来の真空紫外光や軟X線を用いた光電子分光は表面近傍の情報しか得られなかったが、硬X線で励起することにより、固体内部の電子構造を調べることが可能になった。

[用語9] 負熱膨張 : 通常の物質は温めると体積や長さが増大する、正の熱膨張を示す。しかし、一部の物質は温めることで可逆的に収縮する。こうした性質を負熱膨張と呼び、ゼロ熱膨張材料を開発する上で重要である。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society, 139 (2017)
論文タイトル :
A-site and B-site charge orderings in an s-d level controlled perovskite oxide PbCoO3
著者 :
Yuki Sakai, Junye Yang, Runze Yu, Hajime Hojo, Ikuya Yamada, Ping Miao, Sanghyun Lee, Shuki Torii, Takashi Kamiyama, Marjana Ležaić, Gustav Bihlmayer, Masaichiro Mizumaki, Jun Komiyama, Takashi Mizokawa, Hajime Yamamoto, Takumi Nishikubo, Yuichiro Hattori, Kengo Oka, Yunyu Yin, Jianhong Dai, Wenmin Li, Shigenori Ueda, Akihisa Aimi, Daisuke Mori, Yoshiyuki Inaguma, Zhiwei Hu, Takayuki Uozumi, Changqing Jin, Youwen Long and Masaki Azuma
DOI :

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 東正樹

E-mail : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315、080-4402-5315 / Fax : 045-924-5318

公益財団法人神奈川科学技術アカデミー 戦略的研究シーズ育成事業
常勤研究員 酒井雄樹

E-mail : yukisakai@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5342 / Fax : 045-924-5318

大阪府立大学 21世紀科学研究機構 ナノ科学・材料研究センター
特別講師 山田幾也

E-mail : i-yamada@21c.osakafu-u.ac.jp
Tel : 072-254-9817(内線)3638 / Fax : 072-254-8314

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
教授 神山崇

E-mail : takashi.kamiyama@kek.jp
Tel : 029-284-4080 / Fax : 029-284-4878

高輝度光科学研究センター 高輝度光科学研究センター
副主幹研究員 水牧仁一朗

E-mail : mizumaki@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-0802(内線3870) / Fax : 0791-58-0830

早稲田大学 理工学術院 先進理工学部
教授 溝川貴司

E-mail : mizokawa@waseda.jp
Tel : 03-5286-3230 / Fax : 03-3200-2805

中央大学 理学部
助教 岡研吾

E-mail : koka@kc.chuo-u.ac.jp
Tel : 03-3817-1922 / Fax : 03-3817-1895

物質・材料研究機構 高輝度放射光ステーション
主任研究員 上田茂典

E-mail : uedas@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-0223 / Fax : 0791-58-0223

学習院大学 理学部
教授 稲熊宜之

E-mail : yoshiyuki.inaguma@gakushuin.ac.jp
Tel : 03-3986-0221(内線6490) / Fax : 03-5992-1029

九州大学 大学院総合理工学研究院
准教授 北條元

E-mail : hojo.hajime.100@m.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-583-7526 / Fax : 092-583-8853

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

(戦略的研究シーズ育成事業に関すること)

公益財団法人神奈川科学技術アカデミー イノベーションセンター 川嶋

E-mail : kawashima@newkast.or.jp
Tel : 044-819-2034 / Fax : 044-819-2026

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 広報室

E-mail : press@kek.jp
Tel : 029-879-6046 / Fax : 029-879-6049

(J-PARCに関すること)

J-PARCセンター 広報セクション 岡田 小枝子

E-mail : pr-section@j-parc.jp
Tel : 029-284-4578 / Fax : 029-284-4571

(SPring-8 / SACLAに関すること)

公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課

E-mail : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2785 / Fax : 0791-58-2786

早稲田大学 広報室 広報課

E-mail : koho@list.waseda.jp
Tel : 03-3202-5454 / Fax : 03-3202-9435

中央大学 広報室

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Tel : 042-674-2050 / Fax : 042-674-2959

物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室

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Tel : 029-859-2026 / Fax : 029-859-2017

学習院大学 学長室 広報センター

E-mail : koho-off@gakushuin.ac.jp
Tel : 03-5992-1008 / Fax : 03-5992-9246

九州大学 広報室

E-mail : koho@jimu.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

単体法は完全ユニモジュラーな線形計画問題に対して強多項式となりうる

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概要

東京工業大学 工学院 経営工学系の水野眞治教授は、単体法[用語1]にタルドシュ(Tardos)の基本アルゴリズムを使うことにより、完全ユニモジュラーな線形計画問題[用語2]強多項式[用語3]時間で解けることを示した。この結果は、単体法で生成される解の数の上界を使うことによって達成された。また、その上界は、2012年に同系の北原知就助教との共同研究で得たものである。

単体法は図1のように実行可能領域のすべての頂点を生成することがあり、一般には多項式時間となるとは言えないが、完全ユニモジュラーな問題に限定することにより、上述の結果が得られている。この結果は、単体法により、組合せ的な線形計画問題が実際に高速に解けることに、理論的な裏付けを与える。

研究成果

線形計画問題は、内点法[用語4]を使うことにより、多項式時間で解くことができ、さらにTardosのアルゴリズムを使うことにより、組合せ的な問題を強多項式時間で解くことができることが知られている。一方、単体法は、線形計画問題を効率よく解く方法として内点法より古くから使われているが、理論的に(強)多項式時間解法であるか、数十年にわたって不明である。今回、問題のクラスを完全ユニモジュラーな行列を持つ線形計画問題に限定した場合に、Tardosの基本アルゴリズムを使うことにより、補助問題が非退化であるという仮定のもとで、単体法が強多項式時間となることを明らかにした。

研究の背景

単体法は、ほとんどの実用上の線形計画問題を高速に解くことができるが、その根拠となる理論的な保証があまりなかった。北原・水野は、単体法で生成される解の数に関する新しい上界を得ることに最近成功した。その上界をうまく利用して、Tardosの基本アルゴリズムを使うことにより、単体法が完全ユニモジュラーな行列を持つ線形計画問題を多項式時間で解くことを示した。

今後の展開

今回の研究では、単体法が強多項式アルゴリズムとなりうることを示したが、その結果を得るために、ふたつのことを仮定している。それは、線形計画問題の制約式の係数行列が完全ユニモジュラーであることと、Tardosの基本アルゴリズムで現れる補助問題が非退化[用語5]であることである。これらの仮定は、かなり強いものであるため、その条件を緩めたもとで、同様な結果を得ることが今後の研究の重要な課題となる。

単体法で生成される点列の例

図1. 単体法で生成される点列の例

用語説明

[用語1] 単体法 : ダンツィッヒ(Dantzig)が1954年に開発した線形計画問題の基本的な解法。

[用語2] 完全ユニモジュラー※1な線形計画問題※2 : 制約式の係数行列が完全ユニモジュラーである標準形の線形計画問題。
※1 完全ユニモジュラー行列 : 任意の部分正方行列の行列式が0,1,-1のいずれかとなる行列。
※2 線形計画問題 : 工学・経営・経済等に現れる最適化問題を定式化した基本的な数式モデル。

[用語3] 強多項式アルゴリズム※3 : 計算時間・計算量が入力データの数の多項式で抑えられるアルゴリズム。
※3 多項式アルゴリズム : 計算時間・計算量が入力データのサイズの多項式で抑えられるアルゴリズム。

[用語4] 内点法 : カーマーカー(Karmarkar)が1984年に開発した線形計画問題の解法。

[用語5] 非退化な線形計画問題 : 任意の基底解において、基底変数の値が正となる線形計画問題。

論文情報

掲載誌 :
Optimization Methods and Software Vol. 31, 1298-1304 (2016)
論文タイトル :
The simplex method using Tardos' basic algorithm is strongly polynomial for totally unimodular LP under nondegeneracy assumption
著者 :
Shinji Mizuno
所属 :
Department of Industrial Engineering and Economics, Tokyo Institute of Technology
DOI :

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に新たに発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

工学院 経営工学系
教授 水野眞治

E-mail : mizuno.s.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2816 / Fax : 03-5734-2947

役員会トピックス:科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターを新設

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役員会は、東工大における最高意思決定機関です。東工大では毎月2回役員会を開催し、大学の組織、教育、研究などについて、審議し決定しています。3月17日の会議で承認された、意欲的で新しい取り組みについて紹介します。

3月17日 役員会

主な審議事項等

  • 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター(仮称)の設置について

  • 国立大学法人東京工業大学組織運営規則等の一部改正について

  • 国立大学法人東京工業大学学長の任期に関する規則の制定について

  • 平成29年4月以降の運営体制の見直しに伴う規則等の整備について

  • 第2期中期目標期間における教育研究評価結果(原案)について

トピック1:科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターを新設

2016年12月に大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞し、世界をリードするオートファジーに関する研究成果が国際的に高い評価を得ました。細胞制御工学研究は基盤的な研究としての重要性のみならず、医療分野などへの応用においても極めて緊急性が高いことから、大隅栄誉教授がユニットリーダーを務める科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニットの研究成果を引き継ぎ、多面的かつ斬新な人材育成システムや研究支援環境を備えた細胞制御工学研究センター(センター長:大隅良典栄誉教授)を4月1日に設置します。

これにより、これまで研究ユニットが輩出してきた世界をリードする研究成果を継承し、基礎生命科学から医療・創薬への応用を視野に入れた幅広い生命科学領域を牽引・推進する、細胞制御工学研究の中核拠点と呼ぶに相応しい研究センターとしての活動が期待されます。

また、本センターは、科学技術創成研究院において、研究ユニットから研究センターに発展する第1号となります。

ノーベル生理学・医学賞2016 大隅良典栄誉教授

大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。

ノーベル生理学・医学賞2016 大隅良典栄誉教授

大隅良典記念基金

「大隅良典記念基金」は、大隅栄誉教授がノーベル賞を受賞したことを機に、将来の日本を支える優秀な人材の育成などを目的として設立されました。学生の修学支援や若手研究者の研究支援などに活用します。

大隅良典記念基金|東工大への寄附

平成28年度 東京工業大学 学位記授与式挙行

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3月27日、大岡山キャンパスの体育館にて、学位記授与式を執り行いました。

平成28年度 東京工業大学 学位記授与式挙行

学長と来賓の方々、役員、部局長等列席のもと、卒業生・修了生、教授陣、そして卒業生・修了生のご家族も多数出席し、学部は11時から、大学院は14時から学位記授与式を挙行しました。

学長式辞(三島良直学長)
学長式辞(三島良直学長)

学長式辞で三島良直学長は、卒業生・修了生・ご家族へのお祝いの言葉に続き、 学部の卒業生に向けて「学部を卒業し、就職して社会人となられる皆さん、大学院に進学する皆さんはそれぞれに夢と希望を持って将来をみつめていることと思います。学生生活を終え、社会人となる皆さんは日本一の理工系総合大学である東京工業大学の卒業生としての誇りを持ち、そして本学で培った専門基礎力をベースにして、与えられた業務に果敢に取り組むとともに、柔軟な思考力をもって様々な場面で社会貢献を果たすべく、気概を持って前進してください。これから大学院へ進学する皆さんは、これまでに培った専門基礎力をもとにそれぞれの分野での専門力を高め、2年後、あるいは5年後には社会人として我が国の、そして世界の人間社会の持続可能な発展に向けて、新しい社会を切り拓く役割を果たす気概を身につけた人材に育つことを期待しています。これまでの延長として学生生活を続けるのではなく、将来自分を最も活かせる活躍場所と役割に対する夢を意識しながら充実した大学院生活を送ってほしいと願っています」とメッセージを贈りました。

また、大学院の修了生に向けて「今日修士あるいは専門職の学位記を手にされ、これから社会人としての新しい人生をスタートする皆さんは、これまで長い学生生活を終え、まったく新しい環境に身を置くことになります。本学出身の皆さんへの産業界等からの期待は特に大きいことを自覚し、それに応えていくために日々の努力の積み重ねが重要であることを心してほしいと思います。初めは与えられた仕事をこなすだけで精一杯になるのもやむを得ないと思いますが、経験を積み重ねるほどに、正確で説得力のある業務報告を提示できるよう、そしてさらにその先の進め方についての提案を示すことができるよう心がけてほしいと思います。すなわち、常に与えられた仕事をこなすだけではなく一歩先を目指しつつ進んでほしいと思います。さらに週末などの時間を利用して企業経営の基礎、語学力、教養等を身に付けていくなど、企業という組織の中でいかに自分を磨くかに主体的に取り組み挑戦し続けていただきたいと思います。

博士後期課程に進学される皆さんの大半は修士論文で取り組んだ研究テーマを発展させ、さらなる研究能力の進化に取り組むこととなります。科学技術の奥深さを体感し、時間をかけてこれと向き合う貴重な時間を過ごされることでしょう。その中で取り組む研究課題の目的と意義への理解を深めつつ、得られた結果の意味するものについて、指導教員や研究室の仲間たち、そしてその分野の学外の研究者たちとの忌憚のない意見交換を通して説得ある独自の見解を論文としてまとめていくプロセスを身に付けてください。博士の学位は特定の分野の研究論文としての価値だけではなく、そのプロセスを全うしたことに対する資格として与えられるものです。

本日、博士の学位記を手にされる皆さんは、これからはアカデミアで引き続き研究や後進の教育に当たるか、企業等で研究者としてのキャリアを積んでいかれることでしょう。特に企業においては学位取得のために取り組んだ課題とは異なる新たな分野、課題に挑戦することと思います。今述べたように博士とは新たな課題解決に臨みこれを解決するために必要な要素とプロセス遂行に対して資格を身に付けていることを自覚し、自信を持って力強く能力を発揮してほしいと思います。博士を修了する皆さんは本学が輩出する科学技術人材の最高峰であることを忘れずに世界を舞台に社会貢献を果たして行くことを期待しています」と述べ、修了生を激励しました。

来賓祝辞(石田義雄氏)
来賓祝辞(石田義雄氏)

多くの来賓の方々を代表し、本学同窓会である一般社団法人蔵前工業会理事長、東日本旅客鉄道株式会社監査役の石田義雄氏(昭42年理工学部機械工学科卒)より祝辞をいただきました。

続いて、学部学位記授与式では各学科の代表者に学位記が授与され、大学院学位記授与式では修士課程・専門職学位課程については専攻・コース代表者、博士後期課程は修了者全員に、学位記が授与されました。

学部学位記授与式では、学部学生の勉強意欲の向上を図ることを目的にとして学業成績が優秀な学部学生(各学科1名)を表彰する平成28年度東京工業大学優秀学生賞の表彰も行われました。

卒業生総代謝辞(学部)
卒業生総代謝辞(学部)

修了生総代謝辞(大学院)
修了生総代謝辞(大学院)

今年は、学部では1,072名が卒業するとともに、大学院では、修士課程1,475名、専門職学位課程26名、博士後期課程192名が修了しました。

式後は、ご家族、友人と本館を背景に記念写真を撮るなど、春雨の中、旅立ちを祝いました。

卒業生、修了生のみなさんのご健康と益々のご活躍を心よりお祈りします。

平成28年度 東京工業大学 学位記授与式挙行

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

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