Quantcast
Channel: 更新情報 --- 東工大ニュース | 東京工業大学
Viewing all articles
Browse latest Browse all 4086

組織の再生における線維芽細胞増殖因子(Fgf)シグナルの働きを解明―ほ乳類の手足の再生に手がかり―

$
0
0

要点

  • 私たちほ乳類は手足などの器官を再生することはできないが、一部の両生類や魚類は、四肢やヒレを失っても元通りに再生できる。
  • このような大がかりな器官そのものの再生を可能にしている維芽細胞増殖因子(Fgf)シグナル[用語1]の働きを解明した。
  • まず傷ついた上皮で活性化される上皮Fgfが、未分化細胞(再生芽[用語2])を切断面に誘導し、さらに再生芽で活性化される別のFgfが細胞増殖を促すという2段階の働きで再生が進むことを突き止めた。

概要

東京工業大学生命理工学院の柴田恵里大学院生と川上厚志准教授らの研究グループは、小型熱帯魚のゼブラフィッシュのヒレをモデルとした再生メカニズムの研究から、組織再生におけるFgfの働きには、再生芽を誘導する上皮Fgfと、細胞増殖を活性化する再生芽Fgfの2つがあり、これらが協調することで、組織再生が進むことを解明した。

組織再生にFgfシグナルが必要なことは知られていたが、どのような役割を果たしているのか不明であった。本研究は、20以上あるFgfのうち、再生初期に上皮に発現するFgf20aが間充織細胞[用語3]を再生芽へと誘導し、次に、再生芽が形成されると、Fgf3などの再生芽Fgfが細胞増殖を活性化することを解明した。
この成果は、ほ乳類の手足再生を実現するための重要な手がかりとなることが期待される。

研究成果は、英国の生命科学誌「ディベロップメント(Development)」のオンライン版に2016年7月5日に公開された。

背景

私たちほ乳類は事故などで失った手足などの器官を再生することはできないが、一部の両生類や魚類は、四肢やヒレを失っても元通りに再生することが200年以上も前から知られてきた。しかし、ごく最近まで、組織が再生するメカニズムについての研究は進んでいなかった。近年、分子生物学的な解析が飛躍的に発展し、組織再生にかかわる分子やシグナルが明らかにされてきた。Fgfシグナルも再生に必要なシグナルであることが示されていたが、Fgfシグナルがどのような役割を果たすことで再生が進むのか不明であった。

研究成果

脊椎動物のFgf遺伝子は20以上存在する。本研究では、再生中に発現するFgfを探索し、再生初期にはFgf20aのみが上皮で発現し、再生芽形成後では、Fgf3とFgf10aが再生芽で発現することを明らかにした。

次に、37℃でヒートショックを与えるとFgfシグナルを受容できなくなるように遺伝子操作されたトランスジェニック[用語4]のゼブラフィッシュから、ヒレの細胞を取り出して正常な魚へ移植して、再生中の組織でのFgfシグナルの働きを調べた。その結果、再生初期のシグナルは間充織細胞を再生芽細胞へと変化させるのに必要であり、また、再生芽形成後のシグナルは再生芽細胞の増殖に必要なことがわかった。

これらのことから、Fgf20aが再生芽誘導を、Fgf3またはFgf10aが細胞増殖をそれぞれ指令していると考えられた。そこで実際に、Fgf20aとFgf3について、これらの作用を、それぞれのFgfを強制的に発現させるトランスジェニックのゼブラフィッシュを用いて調べた結果、予想したとおり、Fgf20aは再生芽誘導を、Fgf3は細胞増殖を促進することが示された。

これらの結果から、組織再生におけるFgfシグナルの役割は1つではなく、傷ついた上皮で活性化される初期のFgf20aが、直下の間充織細胞を再生芽細胞へと変化させ、再生芽は次の指令センターとして、Fgf3を発現して細胞の増殖を調節していることが明らかとなった(図)。

再生におけるFgfシグナルの2段階の働き

図. 再生におけるFgfシグナルの2段階の働き

今後の展開

本研究の結果、傷ついた上皮でのFgf20aの活性化が、再生芽を誘導するカギであることが明らかになった。上皮から始まり細胞増殖に至るFgfの2段階の作用が、魚類などで組織再生を可能にしている重要なメカニズムの1つと考えられる。

Fgf20もFgf3もすべての脊椎動物種に存在している。どのようにして傷ついた上皮がFgf20a活性化を起こすのか?細胞増殖から、形態や機能の再生へと至る仕組みは?これらを解明していくことで、ヒトをはじめとするほ乳類での手足再生も現実的となることが期待される。

用語説明

[用語1] 線維芽細胞増殖因子(Fgf)シグナル : Fgfは成長因子の一種。細胞表面の受容体に結合し、細胞内のシグナル伝達を通じて、広範囲な細胞や組織の増殖や分化過程、血管新生、創傷治癒、胚発生などに関係する。

[用語2] 再生芽 : 動物の組織再生で、初期に切断面に作られる未分化の細胞からなる突起。

[用語3] 間充織細胞 : 発生過程または成体で組織間の間隙を埋める細胞。細胞タイプや分化状態は明瞭でない細胞を総称していう。

[用語4] トランスジェニック : 遺伝子組換え動物、遺伝子改変動物。外部から特定の遺伝子を人為的に導入した動物。

論文情報

掲載誌 :
Development
論文タイトル :
Fgf signalling controls diverse aspects of fin regeneration
著者 :
Eri Shibata, Yuki Yokota, Natsumi Horita, Akira Kudo, Gembu Abe, Koichi, Kawakami, Atsushi Kawakami
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

問い合わせ先

研究成果に関するお問い合わせ

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系
准教授 川上厚志

Email : atkawaka@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5717 / Fax : 045-924-5718

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


Viewing all articles
Browse latest Browse all 4086

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>