クリスマス・レクチャー2016日本公演を、7月16日、17日の計4回にわたって、大岡山キャンパス西5号館のレクチャーシアターで開催しました。
「クリスマス・レクチャー」は、英国王立科学研究所(The Royal Institution of Great Britain。以下、Ri)が青少年向けに開催するイベントで、190年以上続く人気の科学実験講座です。このクリスマス・レクチャーを日本で再現するイベントがは1990年から毎年夏に開催されており、東工大では昨年に続いて2回目の開催となりました。
東工大は、2016年度からスタートした教育改革の取り組みの一つとして、新入生を対象として「科学・技術の最前線」や「科学・技術の創造プロセス」などの実演・実験付き授業を開講しています。その授業のお手本にしたのがRiが実施するクリスマス・レクチャーで、それを日本風にアレンジし、2015年にRiが開催したクリスマス・レクチャーと同じく、天体物理学、医学、宇宙航法学、宇宙工学の学位を持つ医師であるケビン・フォン氏が講師を務めました。
今回は「宇宙でいかに生き抜くか(How to survive in space)」と題し、2015年12月に英国人として初の宇宙飛行士となったティム・ピーク氏の国際宇宙ステーション(以下、ISS)での生活を紹介したり、彼との対話を行ったりしながら、Riで行われた3つの公演内容を約1時間半に圧縮し1つのストーリーとしてまとめた内容となりました。
7月12日にRiのスタッフ2名が来日して最終的な打ち合わせを行い、14日にはRiから物品が運び込まれ、Riスタッフを中心として、公演に使われる機器、装置の準備・調整が始まりました。当初は、Riから搬入する機器・装置が多く、いくつかの不具合や準備不足による問題が見つかりましたが、輸送中に壊れた物品の代替部品の修理・製作や消耗部品の買出し、ロケットに見立てたCO2消火器の調整や椅子への固定等々、東工大のアルバイト学生が中心となってクリアしていきました。その素早い対応にはRiや主催した読売新聞社側からも感謝され、東工大生の底力を発揮することができました。
公演初日を翌日に控えた7月15日には講師であるケビン氏を迎え、打ち合わせおよび最終リハーサルを行いました。リハーサル終了後には、ケビン氏、Ri、本学、読売新聞社、英国大使館等からの関係者出席のもと歓迎レセプションが開かれ、参加者全員で親交を深めながら、翌日からの公演に備えました。
公演第1回目は、一般の参加者に加え、東工大関係者にも100席の優先席が設けられました。各回の公演開始前には、司会役の齊藤卓司実行委員長(工学院 准教授)による注意事項やボランティア(講師の呼びかけによりステージで講師の実験に協力する参加者)への要望などの説明が行われました。公演に先立ち、第1回目は三島学長から、第2・3回目は学士課程1年目の学生の教育プログラムを検討するグループの代表者である工学院の大竹尚登教授から、また第4回目は英国大使館 貿易・対英投資部ダイレクターのクリス・へファー氏から挨拶と講師の紹介がありました。
ケビン氏は、会場後方から階段を駆け下りて登場し、エネルギッシュな公演に期待を抱かせます。まずは、この公演のミッションが(1)地球から宇宙へ飛び立つまで、(2)宇宙でいかに生き抜くか、の2つであることを述べ、ISSを目指す、ソユーズロケットの打ち上げ発射台へ移動するロケットの映像を見せるところから公演が始まりました。
まず、参加者ボランティアの協力を得ながらロケットがISSへ到達するためには十分なエネルギーが必要であること、その理論的核心を教えてくれたニュートンが書いた有名な本「プリンキピア」の実物を見せながら、第3法則、すなわち作用・反作用の法則を説明し、その法則を示す事象として、ケビン氏が台車に乗り、消火器からCO2ガスを噴射させて勢いよく進むことを実演しました。
次に、実際のロケットにおいてCO2ガスに替わるものとしてロケット燃料の話しに移り、燃焼の3要素(可燃物、熱、酸素供給源)について述べ、液体酸素をビスケットにかけて火をつけ、勢いよく燃焼させた実験をビデオ映像で示しました。
さらに、各国のロケット打ち上げ場が赤道近くに存在する理由、および東向きに打ち上げる理由、実際の飛行ではロケットの段階的分離が有効であることなどを、実験を披露しながら説明しました。
そして公演は後半に移り、宇宙で生き抜く際の様々な問題点を述べました。まず、低圧力、無重量状態の環境が人体に及ぼす影響について、いくつかの実験を行いながら示し、宇宙飛行士は特別な宇宙服を着る必要があることなどを説明しました。 次に、ISSのように狭く、不自由な空間で、長期間生き抜いて行くために必要な水、食べ物、酸素などをいかに確保するかに話を移しました。例えば水について、特殊なフィルターにより尿をリサイクルしていることを紹介し、実際に自分の尿を飲んでみせて観客を驚かせました。
以上により、宇宙へ行くこと、宇宙で生き抜くのがどれだけ大きな挑戦であるかを述べ、そのために準備しないといけないことが沢山あることを理解して欲しいとまとめ、公演を終えました。
各回の公演終了後、日本人宇宙飛行士の山崎直子さんのビデオレターが紹介されました。レターでは、宇宙船では上下の区別がないため、“あなたの上”とか“あなたの下”といった、相手の立場に立ったコミュニケーションが必要であること、宇宙での活動は宇宙船クルーばかりでなく地上での技術者を含め、多くの人々の協力により成り立っていることを述べ、チームワークが大切であることを強調しました。最後にこの公演を通して宇宙の面白さ、厳しさを理解し、将来宇宙で活躍する方が現れることを期待するとのエールを送りました。
すべてが終了すると、大勢の観客がステージのケビン氏を取り囲み、実演装置や展示物を間近で見たり記念撮影をしたり、さらには専門的な質問をするといった思い思いの交流がみられ、毎回順番を待つ長蛇の列ができるほどでした。こうした交流から、講師と観客席が近いというレクチャーシアターならではの効果が感じとれました。
講師のケビン氏は、公演を重ねるたびに、観客の反応を見ながら細かな点について修正・変更を加え、きっちり時間内に終了させるなど、その見事な対応にスタッフ一同がいたく感心させられました。
1時間15分ほどの公演の中で、次から次へと観客を引きつける実験、実演、ビデオ映像が連続し、子供達をはじめとする参加者の積極的な協力と相まって、クリスマス・レクチャーのねらいである、参加型授業の魅力を示すことができました。
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特命教授 津田健
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