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サイズアップで光触媒の性能向上 表面構造を主流だったナノメートルからマイクロメートルにするだけ

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要点

  • 可視光で応答する光触媒の性能向上に新手法
  • 従来より2桁以上大きなサイズに作り込んだ構造が効果的
  • 分子構造は変えずに酸化力が向上

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の長井圭治准教授、ファイルス・アーマド大学院生(マレーシア大学ペリルス校講師)、同大学分析部門の鈴木元也氏、弘前大学理工学研究科の阿部敏之教授らの研究グループは、有機半導体のp-n接合[用語1]を基板面方向に形成し、特異な酸化力を持つ領域が形成されることを見出した。

この知見をもとに、表面に“マイクロメートル(µm)”レベルのp-n接合体を形成させることで、通常のp-n接合よりも大きな酸化力をもつ光触媒を得ることに成功した。長井准教授ら研究グループは、有機薄膜太陽電池[用語2]のように遷移金属を全く含まない有機材料で、可視光で応答する光触媒を開発してきた。これまでは、新奇分子の開発やナノメートル(nm)レベルの構造制御により酸化還元力(太陽電池の発生電圧に相当)を向上させる試みがなされてきたが、今回は、マイクロメートルという、従来よりも2桁以上大きなサイズの構造が有効であることを示した。これは光触媒の性能向上のみならず、同じような構造を利用する有機薄膜太陽電池にも応用できる可能性がある。

本成果は 2018年7月17日付けの国際的材料科学専門誌「NPG Asia Materials 電子版」に掲載された。

背景

地球に降り注ぐ莫大な量の太陽光エネルギーの活用が求められており、太陽光発電や光触媒による水素生成などが行われている。

現在、実用的に用いられている酸化チタンを用いた光触媒は、紫外線にしか応答しない。そのため、可視光で応答する光触媒の研究が盛んに行われており、さまざまな遷移金属の複合化が検討されている。一方で、有機材料は可視光応答化が容易であるが不安定という理由から、これまで、水中や空気中で光触媒として働かせることは困難であった。

研究成果

研究グループでは、フタロシアニン[用語3]という、有機材料を用いたp型半導体とn型半導体の接合が、光触媒として利用できることを発見し、この10年以上検討を進めている。近年では、欧州のグループもこの分野に本格参入する一方で、長井准教授は、更なる低コスト化を図った大量生産法を開発し、企業に技術移転している。

しかし、このフタロシアニンp-n接合体は、吸収する光子エネルギーにくらべて、利用できる酸化還元力が小さいという欠点があり、これは太陽電池のp-n接合体でも同様であった。

通常、太陽電池などでは、p-n接合は基板面に垂直方向に形成させていく。本研究で取り上げたフタロシアニン(p型)とペリレン誘導体(n型)の接合体は30年前に開発された、初めてのp-n接合型有機薄膜太陽電池の類似体である。

通常、これらのp-n接合は基板と垂直方向に形成されるが、本研究ではn型の上に完全にp型を積層するのではなく、部分的にp型を積層したテラス型p-n接合[用語4]などの方法で基板面方向に形成させた。これをケルビン力プローブ顕微鏡[用語5]という装置により表面電位の表面内分布を計測した。すると、これまで見られなかった表面電位が正である領域が観察された。なお、基板の材料を変えたり、n型半導体材料をフラーレンに変えても、同様のプラス側にシフトした表面電位の極大が観察された。

図1.(a)ケルビンプローブ法による観測部の光学顕微鏡図。(b)ケルビンプローブ顕微鏡と同時測定した原子間力顕微鏡[用語6]によるテラス型p-n接合(左がp型、右がn型)。(c)ケルビンプローブ顕微鏡による接触電位差のマッピングで、青い部分がプラス側にシフトした極大部分。(d)広い領域にわたって測定した接触電位差(緑)は、100 µm以上の大きな範囲にわたっていることがわかる。
図1.
(a)ケルビンプローブ法による観測部の光学顕微鏡図。
(b)ケルビンプローブ顕微鏡と同時測定した原子間力顕微鏡[用語6]によるテラス型p-n接合(左がp型、右がn型)。
(c)ケルビンプローブ顕微鏡による接触電位差のマッピングで、青い部分がプラス側にシフトした極大部分。
(d)広い領域にわたって測定した接触電位差(緑)は、100 µm以上の大きな範囲にわたっていることがわかる。

詳しい機構は未だ不明であるが、テラス型p-n接合領域を積極的に多くしたデバイスに対して、光照射した際の酸化反応を計測すると、通常のp-n接合体よりも酸化力が向上することが明らかとなった。また、同様のテラス構造を高分子膜型の光触媒として用いると、酢酸を酸化してCO2を発生させる反応の外部量子効率が、620 nmの赤色光に対し、3.2%から5.1%に向上した。

図2.左上:今回提案したテラス構造を採用した光触媒(Dot TB)と通常のp-n接合体(Bilayer)の構造。左下:光触媒実験の模式図。右:630 nmの赤色光を照射して酢酸が分解した際に発生したCO2の量と照射した光子数に対する量子効率。
図2.
左上:今回提案したテラス構造を採用した光触媒(Dot TB)と通常のp-n接合体(Bilayer)の構造。
左下:光触媒実験の模式図。
右:630 nmの赤色光を照射して酢酸が分解した際に発生したCO2の量と照射した光子数に対する量子効率。

今後の展開

新たに提案する、従来より2桁もサイズアップして作り込んだp-n接合は、特殊な分子群を用いることなく、しかも化学構造はそのままに、酸化力を向上させることができた。この成果は、新しい光触媒、太陽電池の設計法として有用と考えられる。

付記

本研究は、文部科学省の「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出 ダイナミック・アライアンス事業」等の助成を受けて実施した。

用語説明

[用語1] p-n接合 : 半導体の導電性はキャリアと呼ばれる不純物の濃度に比例する。キャリアには電子と電子のかけた状態(正孔)があり、正孔がキャリアとなる場合をp型半導体、電子がキャリアとなる場合をn型半導体をよぶ。この2種類を接合させたp-n接合は、電流を一方向に流す整流作用や、光による起電力(太陽電池)などの有用な特性を示す。

[用語2] 有機薄膜太陽電池 : 現在、太陽電池として用いられているシリコンではなくプラスチックなどの有機材料で太陽電池を作る試みは、ノーベル賞受賞者の白川英樹博士の導電性高分子の発明直後から研究され始めた。p-n接合を精密に制御することにより、著しく効率が上昇することが今世紀に明らかとなり、「軽くて曲げられる太陽電池を塗布プロセスで」行う研究が進められている。

[用語3] フタロシアニン : 新幹線の青色に用いられている有機色素である。青色の飛行機を見てわかるように、紫外線や放射線にも抜群の耐候性を示す。多くがp型半導体となる。

[用語4] テラス型p-n接合 : 本研究で用いられた試料である。n型半導体薄膜に半分の面積だけp型を被覆したものである。境界領域は階段状になっている。二層部分をテラスと呼ぶことができる。

[用語5] ケルビン力プローブ顕微鏡 : 絶対零度の単位でも知られる英国の物理学者・ケルビン卿は、試料に探針を近付けた際の電位差を計測できることを発見した。近年の原子間力顕微鏡の進歩により、カンチレバーと試料の電位を変えて、クーロン力を打ち消すことにより、「接触電位差」を高空間分解に計測できるようになった。これがケルビン力プローブ顕微鏡である。

[用語6] 原子間力顕微鏡 : 微小領域の観察は、不確定性原理の影響を受けるため、(光や電子よりも)重い物体で観察する必要がある。カンチレバーと呼ぶ先端がナノメートルサイズに尖った探針を試料の表面でなぞり、原子間力を検出することにより、ナノレベルの観察が容易に行える。

論文情報

掲載誌 :
NPG Asia Materials
論文タイトル :
Enhanced oxidation power in photoelectrocatalysis based on a micrometer-localized positive potential in a terrace hetero p-n junction
著者 :
Mohd Fairus Ahmad, Motoya Suzuki, Toshiyuki Abe, Keiji Nagai
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所 准教授 長井圭治

E-mail : nagai.k.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-6255

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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