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2018年度博士文系教養科目講演会「技術・文化の継承」開催報告

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博士後期課程の学生を対象とする文系教養科目は2016年4月から新規開講され、学術学会の運営を学ぶ「学生プロデュース科目」と学術学会の発表を学ぶ「教養先端科目」から構成されています。

本年度第1クォーターの「学生プロデュース科目」において、履修学生は、リベラルアーツ研究教育院の原田大介准教授と金子宏直准教授の進行で、学生同士の自己紹介や、講演会の運営を行う総務・企画・編集の各委員会の編成を行いました。また、同研究教育院の猪原健弘教授が考案した研究者倫理カードを活用してグループワークを通じた研究者倫理を学びました。

また、博士文系教養科目講演会では持続的な社会に必要となる重要な視点として「技術・文化の継承」をテーマとして取り上げました。日本の産業や文化をささえる重要な技術等を世界へ情報発信するため、日本語講演ではあるものの国際会議に見立てて英語資料を準備するなど、企画を進めました。今年度第1回、第2回の博士教養科目講演会について紹介します。

第1回

日時 : 4月28日(土)

場所 : 大岡山キャンパス 西9号館(コラボレーションルーム、ディジタル多目的ホール)

テーマ : 「建築文化財修復の伝統技術」

公益財団法人日光社寺文化財保存会の漆塗管理技術者である佐藤則武氏が建築物漆塗りによる建物修復について講演しました。佐藤氏は日光の国指定重要文化財の建造物約100棟の漆塗り修理工事に従事し、その建物修復の作業は今年2月に放送されたNHK総合「プロフェッショナル 仕事の流儀」で特集され、英語版放送NHK ワールドワイドでも紹介されました。

初めに科目担当教員の金子准教授が博士文系教養科目の概要を説明した後、履修学生が講演会の司会進行を行いました。担当教員が事前に英語の配布資料を準備し、佐藤氏の講演の合間に、英語による補足説明を追加する形で、日本の伝統的な技術を説明しました。

日光の社寺文化の歴史、漆塗りによる修復の専門的技術の工程、日本産漆による修復の重要性、全国の漆塗り技術者への技術継承のための修復技術の研修プログラムが紹介され、講演後の質疑応答では履修学生による通訳がありました。

また、会場では建築漆塗り修復で実際に使われている道具類が展示され、参加者は貴重な資料を間近に見学することが出来ました。

講演する佐藤氏
講演する佐藤氏

修復後の国宝陽明門(日光東照宮)について解説
修復後の国宝陽明門(日光東照宮)について解説

建築物漆塗りに使われる道具類(右から、竹箆(しっぺい)、漆刷毛、麻布)と塗装片

建築物漆塗りに使われる道具類(右から、竹箆(しっぺい)、漆刷毛、麻布)と塗装片

第2回

日時 : 6月2日(土)

場所 : 大岡山キャンパス 西9号館(コラボレーションルーム、ディジタル多目的ホール)

テーマ : 「精密工作機械を支える―きさげ」

講演する石橋氏
講演する石橋氏

DMG森精機株式会社ターニングセンタ基本精度課の石橋一明課長が講演しました。石橋氏はきさげの技術で、厚生労働省が毎年選定している卓越した技能者「現代の名工」として2014年に表彰されており、2016年には黄綬褒章を受章している技術者です。

きさげとは、金属加工機械の組み立てにおいて、部品の接触面・摺動(しゅうどう)面を刃具で削り0.001 mm以下の精度で人為的にくぼみをつけることで潤滑油による金属面の摩擦を抑える精密工作機械に欠かせない技術です。講演では5軸加工機や日本人の体形に合ったきさげの道具の紹介、きさげ技術を若い技術者に継承する研修制度、IoTを使った技術継承の取組み、さらに3Dプリンタのように金属を積層させながら加工する最新工作機械についての説明がありました。

今回は履修学生が事前に技術解説に必要な英語資料を準備し、配布しました。司会進行と日本語による講演の合間の英語による補足説明も学生主導で行われました。質疑応答では、きさげの加工精度が潤滑油の分子サイズのレベルの近くまで人の手によって行われることも取り上げられました。

5軸加工機・・・直交3軸と旋回2軸とを同時に制御することで、更なる複雑形状の加工を可能にする「5軸制御マシニングセンタ」に代表される。マシニングセンタとは、中ぐり、フライス削り、穴あけ、ねじ立て、リーマ仕上げなど多種類の加工を連続で行えるNC工作機械で、それぞれの加工に必要な工具を自動で交換できる機能を備えています。機械の軸構成によって横形、立て形、門形など各種のマシニングセンタが使われています。近年は5軸制御マシニングセンタが普及しています。(日本工作機械工業会のウェブサイトouterより引用)

総評する益学長
総評する益学長

会場では、きさげ作業のほとんどされていない平面、仕上げ加工された平面、そして、三ケ月加工という高度なきさげの技が施された平面のサンプルが展示され、参加者はその粋を尽くした技術を実際に見ることができました。

講演終了後、益一哉学長から次のような総評がありました。

「石橋氏があげる技術者への技術の継承において大切な点、例えば、興味をもってもらう大切さ等は、大学での研究教育にも共通しています。大学は社会にインパクトのある研究を行い、社会に貢献できる人材を輩出する役割があります。現在の高度に専門分化している研究において、革新的・創造的研究に欠かせないこととして、多様性(diversity)、学際性(interdisciplinary)、伝統的技術知識の継承(inheritance of traditional technology) の3つが重要です。本学の教育改革で導入された学士課程から大学院博士後期課程までの教養教育はこれら3つを学ぶ機会でもあります」と述べ、最後に、将来に向けて多様なことを学ぶ大切さを本学学生と参観に来た東京工業大学付属科学技術高等学校生に向けてメッセージを送りました。

講演会修了後には石橋氏、益学長との記念撮影に参観に来ていた付属科学技術高等学校の学生も加わりました。会場退出時には「全員あくしゅ」をして、参加者と教員のコミュニケーションの推進が図られました。

記念撮影

記念撮影

表紙-技術・文化の継承
表紙-技術・文化の継承

博士教養科目講演会で配布された資料は、「日本の技術 バイオレット ブック(Violet Book):技術文化の継承(仮称)」として、今後の講演会資料とともに記録として編纂していく予定です。

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お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院 事務文系教養事務

E-mail : ilasym@ila.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-7689


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