5月28日、東工大大岡山キャンパス 大岡山西9号館のディジタル多目的ホールで、リベラルアーツ研究教育院主催のシンポジウム「歴史劇の現場から2―新国立劇場の『ヘンリー五世』をめぐって―」が開催されました。これは、新国立劇場で2009年からシリーズ上演されているシェイクスピアの歴史劇のうち、最新公演である『ヘンリー五世』に連動して企画されたものです。本学のイベントとしては、2年前の『ヘンリー四世』に関するシンポジウムに続くもので、演劇ワークショップ「声に出してシェイクスピア」とも関連しています。
パネリストには、前回のシンポジウムと同様、武蔵大学の北村紗衣准教授、俳優の下総源太朗氏、新国立劇場演劇制作の三崎力氏を迎え、司会は本学の小泉勇人准教授が担当しました。
シンポジウムは、東工大演劇サークル「娘の予感」による『ヘンリー五世』の演技からスタートし、来場者は冒頭から一気にシェイクスピア演劇の世界へ引き込まれていきました。
続く北村准教授のレクチャーでは、『ヘンリー五世』の見所となる場面や、多様な解釈と演出の可能性が講じられました。北村准教授はこの作品をシンプルな戦争アクションとしてとらえ、目の前で繰り広げられる贔屓(ひいき)役者のアクションを見る楽しさがシェイクスピア劇の大きな魅力だと語りました。さらに、英国における、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの4つの民族・地方・方言の特徴とその位置づけがこの作品のベースになっていることを説明し、作品の理解を促しました。また、新国立劇場での上演に関しては、ラストシーンの血染めの大きな旗の意味するもの、キャサリン妃のキャラクター設定も特徴的なポイントであると評しました。
その後、三崎氏と下総氏も加わり、パネルディスカッションが行われました。
三崎氏は、同じ役者が同じ役を演じるこの4作品のシリーズ公演は、世界でも稀な非常に価値ある興味深い企画であるとし、それを制作する喜びを語りました。また、シェイクスピア劇は現代劇であり、彼の描いた人間の感情は、時代や場所によって変化するものではないことを強調しました。
下総氏もその現代性や普遍性に共感を示し、シリーズを通じてシェイクスピアを考え続ける楽しさを語りました。また、いわゆる「シェイクスピア役者風」の演技だけがシェイクスピア劇ではなく、今回ヘンリー五世を演じた浦井健治氏の、さらりとしていながらもしっかり聞きとることが出来る観客に届く演技は、今後のシェイクスピア劇のひとつのあり方を提示していると述べました。
今回のシンポジウム全般は、作品を大きく俯瞰するとともに細部にも入り込んだ密度の濃い内容のものでした。新国立劇場の公演をすでに見ているか、これから見る予定の参加者が大半を占めましたが、熱心に聞き入るその様子からは、作品や公演の人気とともに、シェイクスピア作品の懐の深さとその揺るぎない魅力が伝わってきました。
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