今夏、工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の3学院が主催する各種のサマープログラムに参加する留学生が6月から7月にかけて来日し、約3ヵ月間、各学生が設定した研究を行いました。世界各地の計19の大学・研究機関から32名の学生が参加しました。
プログラム名 |
2018年 参加校(順不同) |
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1 |
Asia-Oceania Top University League on Engineering: AOTULE アジア・オセアニア工系トップ大学リーグ |
1)清華大学 2)香港科技大学 3)国立台湾大学 4)南洋理工大学 5)マラヤ大学 6)バンドン工科大学 7) チュラロンコン大学 8)インド工科大学マドラス校 9)モラトゥワ大学 |
2 |
Summer Exchange Research Program: SERP 夏期短期学生交流プログラム |
1) UCサンタバーバラ 2) アーヘン工科大学 3) マドリッド工科大学 4) ソルボンヌ(パリ第6)大学 5) ウォーリック大学 6) オックスフォード大学 |
3 |
Asia-Oceania Strategic Universities Exchange Program: AOSU アジア・オセアニア重点大学交流プログラム |
1) 国立台湾科技大学 2) 武漢理工大学 3) シンガポール工科デザイン大学 |
4 |
Student Exchange Program for School of Materials and Chemical Technology 物質理工学院 学生国際交流プログラム |
フランス国立航空宇宙研究所 |
工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院は、欧米やアジア・オセアニアの先進理工系大学と独自に協定を締結し、これらの大学から留学生を受け入れ、同時に東工大からも学生を協定校に派遣しています。学生交流を中心とした協定校とのネットワークを構築・確立することで、3学院はさらなる国際化を推進し、国際的な舞台で活躍できる人材の育成を目指しています。
留学生たちは、それぞれ自身の専門分野の研究室に所属して、受入教員の指導のもとで短期研究プロジェクトを行うと共に、日本語の基礎を学ぶ授業を履修しました。また、日本を代表する先端企業の見学や日本文化に関わる活動など、日本の技術や文化への理解を深めるためのイベントにも参加しました。
研究活動
参加学生 : パブロ・マリンさん(夏期短期学生交流プログラム:SERP)
在籍大学 : スペイン マドリード工科大学(修士課程1年)
東工大での所属 : 工学院 機械系
私の研究は流体力学に関連し、具体的には、多孔質内部の二相流界面に発生する2つの不安定性、すなわち、ビスカスフィンガリングと重力不安定性の相互作用に関するものです。このような流体力学的な不安定現象は、二酸化炭素地下貯留(CCS)や原油増進採掘(EOR)などのエネルギー技術において広くみられ、より持続可能なエネルギー産業への貢献が期待されています。実験では、二相流体の粘性比や密度差を様々に変化させ、また、注入速度を変化させながら現象の挙動を観察しました。三次元構造の可視化にはX線CT装置を用いました。これらの画像解析のための様々なソフトウェアの開発を行いました。詳細な解析は今後行う予定です。
受入指導教員 : 末包哲也教授
パブロには、スタンフォード大学の先生から提案されていた研究テーマに従事してもらいました。理論的・数値的な研究は行われていましたが、実験的な側面は手つかずの状況でした。来日前から専門の先生を探してアドバイスを受けながら研究計画を立案しました。最終的に多孔質内部のビスカスフィンガリングの3次元構造を可視化し、重力と流体力学不安定性の相互作用を明らかにしました。彼の非常にアクティブな研究態度は研究室にも良い影響を与えたようです。
特別講義
サバイバル・ジャパニーズ(日本語集中講座)/小学校訪問
本講座は、日本語初級レベルの学生向けの日本語クラスです。
講義では、日常生活場面で用いる会話表現を学び、実際に会話できるようになり、また、日本社会についてのプレゼンテーションを行い、日本の文化や社会について理解を深めることを目指します。また授業の一環として、地元の小学校を訪問し、児童たちと交流する機会もありました。
参加学生 : ペマトゥトゥ・ヘワ・ニマルシャナ・ヴィラジさん(アジア・オセアニア工系トップリーグ:AOTULE)
在籍大学 : スリランカ モラトゥワ大学(博士後期課程3年)
東工大での所属 : 環境・社会理工学院 建築学系
「アユボワン!」(スリランカでは伝統的に挨拶がわりにこう言います。「長生きできますように」という意味です。)私の日本の息子たち、娘たち、そして担任の先生、歓迎会を開いてくださり、本当にありがとうございました。校内見学に連れていってくれた子どもたちにも感謝を述べたいと思います。皆さんのおかげで、日本の小学校のしくみを理解することができました。日本の教育が「知識を与える教育」から「さまざまな活動を通して学ばせる教育」に変わっていったことも理解できたように思います。
児童のみなさんから日本の書道を学ぶことができたことは貴重な体験になりました。皆さんは控えめでしたが、熱心に教えてくれました。私が日本の文字の正確な書き方を学んだのは、今回が初めてのことでした。書道を教えてくれて本当にありがとう。いただいた名札や書道作品をスリランカに持ち帰り、家族や先生、友達に見せて、自分の部屋に飾ることにします。
また今回は、給食を一緒に食べるという、貴重な経験もさせてもらいました。2018年7月3日は、間違いなく人生の中でとても大切な一日となりました。私の大切な小さな星たち。皆さんは素晴らしい日本の将来を担っています。日本だけでなく世界の将来も担っています。児童のみなさんが、将来に向って努力を惜しまないことを願います。
ハイテク・ジャパン(工場・企業見学)
本講義は、研究所や工場の見学を通して様々な分野の日本企業の先端技術を概観することを目的としています。本年度は、東京ガス株式会社 扇島LNG基地、JFEスチール株式会社、鉄道総合技術研究所(以下、鉄道総研)、NHK放送技術研究所を訪問しました。
参加学生 : タン・ヨンゼンさん(AOTULE)
在籍大学 : シンガポール 南洋理工大学(博士後期課程4年)
東工大での所属 : 物質理工学院 材料系
見学先 : 鉄道総研
鉄道総研は、私の鉄道研究に関する見解を変えてくれました。日本においてはこれまで、より確実な耐震構造を構築することで電車本体とともに人命犠牲を防ぎ、運輸サービスの大混乱を減らすことが必要であったかもしれません。しかしながら、鉄道総研が行った様々な考察を知った後、昨今の鉄道研究は、耐震性増強をはるかに超えて、乗客の経験や利便性にまで及んでいることに気が付きました。
国の交通システムとは、充実した社会の中心であり、その国の労働者がどれほど効率的に機能しているか、移動時間を出来るだけ少なくし、その分、より本来の業務に従事することができるかの指針になっていると思います。ゆえに、日本の非常に効率的な社会は、世界的水準の鉄道輸送ネットワークとして現れているのです。
第10回 多専門領域にわたる国際学生ワークショップ(MISW 2018)
8月7~8日、工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の修士・博士後期課程学生、国際大学院プログラムの3学院に所属する留学生およびAOTULEサマープログラム参加留学生を主な対象として「第10回多専門領域にわたる国際学生ワークショップ(MISW 2018)」を開催しました。
このワークショップは、議論や懇親会を通じて、それぞれの方法論・価値観・世界観の交流を行い、多文化共生と新たなイノベーションへの手掛りを模索することを目的としています。
また本ワークショップの発表者の中から、特に優秀な学生に優秀講演賞を授与し、さらに、3学院に所属する正規大学院生から20名程度の優秀な学生を選抜し2018年11月21日(水)~24日(土)にインド工科大学マドラス校で開催される「AOTULE学生会議」への派遣を予定しています。
今年は台風第13号の接近に伴い、プログラムの一部が変更・中止となりましたが、日ごろの研究の成果を存分に発表し、意見交換しあう、実りある機会となったようです。また、今回は、株式会社アクセルスペース代表取締役 中村友哉氏による世界初の民間商用超小型衛星事業に関する基調講演を行いました。
参加学生 : 杨光さん (AOTULE)
在籍大学 : 中国 清華大学(学士課程4年)
東工大での所属 : 工学院 機械系
学士課程の学生である私は、初めて国際的な会議やワークショップに参加しました。個人的にも光栄なことでした。第10回MISWでは、東工大で行っている研究に深く感銘を受けました。複合分野のワークショップだったので、私は多くの分野に明るくありませんでしたが、発表された多くの研究はかなりの労力を費やして完成されたものであったことは分かりました。様々な工学系分野の最先端の研究テーマだけでなく、研究発表の仕方も学ぶことができました。
MISWで私は口頭発表をしました。学士課程学生として仲間たちの研究を共有することができ、とても貴重な機会となりました。初めての口頭発表だったのでとても緊張し、とりわけ時間配分がうまくできませんでしたが、私より経験豊かな他の発表者たちから多くのことを学ぶことができました。発表者の多くは、研究内容を見せるだけでなく、研究の背景から可能性、方法や結果まで、素晴らしい筋立てで発表していました。これらのスキルを自分も将来、発表の場で使えるようになると確信しています。
口頭発表の時間が短かったため、研究の背景や手法を詳細に説明するには十分でなかったのが残念でした。事前により詳細な資料を入手できていればもう少しよかったかと思います。その結果、あまり多くの人から質問を受けることができませんでした。台風のせいで、とても楽しみにしていたグループワークもできず残念でした。
結論としては、このワークショップはとても貴重な経験であり、感謝しています。これからも、より多くの学生たちが参加し、互いに学びあうことができればと願っております。
文化・交流イベント
日本文化体験(生け花・茶道)
7月9日、公益財団法人 目黒区国際交流協会の協力の下、目黒区総合庁舎にて生け花と茶道の体験をしました。短い時間の間に、基礎的な作法のみならず、おもてなしの心や歴史的背景も学ぶことが出来ました。
参加学生 : アントン・ジョセフさん(SERP)
在籍大学 : ドイツ アーヘン工科大学(修士課程1年)
東工大での所属 : 物質理工学院 応用化学系
日本の素晴らしい伝統を説明しながら見せていただき、心から感謝申し上げます。普段の生活から解放されるような、とても満足できる寛ぎの時間であり、日本文化の重要な一部を経験した後に日本を発つことができることを大変嬉しく思います。出来ることならば、ドイツでも生け花を練習する機会を持てればと思っております。なぜならば、これほど少ない花だけで美しい作品を作ることができることに大変感銘を受けたからです。
キャンパス・ツアー
交換留学プログラムの特徴を生かし、留学生と東工大派遣学生による交流イベントも企画・運営されました。留学生が来日後まもなく出席するオリエンテーションの一環として、本年度協定校に派遣予定、および過年度に派遣された東工大生が中心となり、大岡山キャンパス・ツアーを実施しました。
ツアー・リーダー : 高橋未央さん(工系学生国際交流プログラム 2017年度派遣学生)
所属 : 物質理工学院 材料系(修士課程2年)
派遣先大学 : イタリア ジェノア大学(2017年11月~2018年2月)
英語で談笑しながら食堂や体育館など各施設の使い方を説明しました。留学生たちはプールやジムに最も興味を示していました。ツアー後は第二食堂で一緒にランチをしました。
歓送迎会
各プログラムで、歓送迎会が開催されました。自国や在籍大学の紹介、工系学生国際交流プログラム派遣生たちとの交流、日本の夏を象徴するようなお楽しみイベントなど、賑やかな時間を過ごしました。
参加学生 : 手塚沙也可さん(工系学生国際交流プログラム 2018年度派遣学生)
所属 : 物質理工学院 材料系(修士課程1年)
派遣先大学 : ドイツ マックス・プランク研究所(2018年8月~11月)
留学生はどの方もフレンドリーで、様々な話題で会話が盛り上がりました。特に印象的だったのは、世界でトップレベルを誇る日本の研究分野を学ぶために東工大に留学に来て、さらに将来は日本で就職したいと考えている方とお話することができたことです。
加えて、互いの研究テーマや自国での研究生活の違い、日本滞在をどのように楽しんでいるかなどの話題を通して交流することができました。これから3ヵ月間、ドイツで研究留学するという貴重な機会を通して、私も周囲の人と積極的に関わり合い、英語力の向上に努めるだけにとどまらず、普段の研究生活では得られない知識と経験を積みたいと考えています。また、このような留学生との交流の輪が今後さらに広がっていくことを期待します。