2月22日深夜から23日未明にかけ、東工大生と市民による夜間の路上ホームレス人口調査「2019冬・東京ストリートカウント」の1回目を実施しました。東京工業大学 環境・社会理工学院の学生や教職員を中心とするホームレス問題の研究・アドボカシー(政策提言)団体「ARCH(アーチ、Advocacy and Research Centre for Homelessnessの略称)」が呼びかけて行われたものです。終電後の深夜にボランティアとして集まった市民が駅前に集まり、初めて会った人たちと班を組んで、街の中を歩き、野宿している人の数を調査しました。
2016年1月以来、年2回のペースで行っています。第7期目にあたる今回は計170名の市民参加者を募り、2月22日深夜の台東区・墨田区につづき、2回目の「2019冬・東京ストリートカウント」は、2019年3月2日(土)深夜から2019年3月3日(日)未明にかけて豊島区・文京区・新宿区・渋谷区をそれぞれ調査します。
東京ストリートカウントとは ― 深夜は昼間の2.6倍!
東京ストリートカウントは、2016年1月にARCHが東京で始めた市民参加型の深夜路上ホームレス人口調査です。東京都による「路上生活者概数調査」は昼間に行われており、ホームレスの人々がより可視化する夜間の人数が調べられていないことから、市民の力でホームレス問題の実態を明らかにしようという意図で開始されました。これまでの最大規模で行われた2018年夏のカウントでは、調査した都内15区7市だけで一晩に1,391名の人々が野宿状態にあることが確認されています。これは、東京都の昼間調査の値526名の約2.6倍にあたり、少なくとも865名の人々が行政調査では見過ごされていることが明らかになりました。
ARCHはストリートカウントの結果に基づき、都内全域で一晩に約2,300名、年間延べ約2.5万名の人々が野宿状態を経験しているという推計を出しています。これらの研究成果は既存の政策の根本を問い直すものであり、行政や議会への政策提言、多数のメディアによる報道へとつながっています。
さらに、東京ストリートカウントは市民が自分たちの街に存在するホームレス状態を実際に歩くことで知り、考えるきっかけをつくることを重視しています。
これまで実数で市民812名が参加しました。年代は10代から60代まで、職業も学生や会社員、議員、行政職員、非営利団体ワーカー、研究者など様々です。東工大からも、多くの学生や教員が参加しています。参加者からは「実際に街を歩くことで、こんな寒い中、寝ているのだな、とか、どのような場所が寝やすいのだろうとか、今まで想像でしか考えたことがなかったことを自分の肌で体感できました」「ホームレスの人のことだけでなく、深夜の街がどのようになっているのかを知ることができました」「一緒に調査した方たちといろいろな話をすることができました」「学生さんたちが真剣に取り組んでいる姿にほっこりしました」などの声が集まっています。
ARCHのアドボカシー・発信の活動
ARCHの研究成果や活動を通じて発された市民の声は、論文や学術雑誌の記事、講演、メディアによる報道、団体ウェブサイト・SNSなど様々な形で発表されています。2017年5月には東京都庁の記者クラブにおいて記者会見を行い、調査結果や推計値の発表に加えて、政策提言も行いました。同年、国会においてもARCHの調査結果について議論がなされており、昨年度は東工大の学士課程1年目の学生を対象とする授業「東工大立志プロジェクト」でも講演が行われました。東工大生発の活動が、徐々に大きな社会的インパクトを持ち始めています。
2020オリパラを機に東京を「やさしい都市」に
ARCHは2015年10月に発足した団体で、設立のきっかけは東京が2020年オリンピック・パラリンピック(オリパラ)の開催都市に選ばれたことでした。
東工大 環境・社会理工学院 建築学系で都市政策やコミュニティ・デザインを研究する土肥 真人研究室のメンバーや卒業生、NPOメンバーからなる、ホームレス問題の研究・アドボカシー(政策提言)を行うグループとして発足しました。
ARCH共同代表の河西奈緒さん(環境・社会理工学院 研究員)は「過去のオリパラ開催都市では都市の表面的な美化のために、ホームレスの人々が都市の外に追いやられる事例もありました。ですが、私たちはこれまでの海外研究から、オリパラを機に包摂的なホームレス政策を前進させた都市があったことを知っています」と話します。河西さんらが積み重ねてきた諸外国のホームレス政策に関する研究を出発点に、東京が社会的・経済的に弱い立場にある人々を追いやるのではなく、オリパラを機に包摂的な政策を前進させる「やさしい都市」となるよう働きかけるため、発足したのがARCHです。
さらに、ARCHメンバーとして活動する片田梨奈さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 修士課程2年)は「ARCHに入る前、私は街の中でホームレスの人を見かけても、『どうすることもできない私が、むやみに触れてはいけない』という思いから、半分無意識のうちに見えないふりをしていました。そのとき、何となく後ろめたさを覚えていたと思います。ですが今の私は、街の中でホームレスの人を見かけたら、まずその人がいるそこにいることを認識して、次に、市民の1人として自分にできることは何だろう、と考えます。そうやって1人ひとりが、ホームレスの人も自分も同じ東京に暮らす市民としてこの問題を考えることが『やさしい都市』をつくると思って活動しています」と語ります。
同じくARCHメンバーの押野友紀さん(環境・社会理工学院 建築学系 修士課程1年)も「まだ活動を通じて色々と学んでいる段階ですが、ARCHの目指す『やさしい都市』は一方的にホームレスの人をジャッジして家やお金をあげるのではなく、一緒に考えたり耳を傾けたりして、支え合い共に暮らす都市のことなんだとだんだん分かってきました」と話します。
ARCHは今後も、東京オリパラに向けて路上の状況変化が懸念される中、「東京ストリートカウント」を継続的に行う予定です。さらに、2020年の目標として「ホームレス憲章」の創設に取り組みます。今後もARCHの活動をウェブサイトやSNSで発信していきますので、興味のある方はご覧ください。
- ARCH アーチ-Advocacy and Research Centre for Homelessness
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- 東工大生ら主催 路上生活者調査「東京ストリートカウント」 ―五輪契機に優しい都市に―|