東京工業大学リベラルアーツ研究教育院の若松英輔教授の著書『小林秀雄 美しい花』(文藝春秋刊 2017年12月10日発行)が、第16回蓮如賞を受賞し、2019年12月9日に京都市山科区の東山浄苑東本願寺で授賞式が行われました。
蓮如賞は、蓮如の五百回忌を記念し、1994年に本願寺維持財団(当時:現一般財団法人本願寺文化興隆財団)によって創設されました。日本文学、日本文化を高揚すべく設けられたもので、日本人の精神文化に深く根差したノンフィクション文学作品が受賞作に選ばれています。
現在の選考委員は柳田邦男氏(作家)、山折哲雄氏(宗教学者)です。
若松教授のコメント
受賞の連絡があったのは、都内の食料品店で、夕食のために食べ物を買っているときだった。こうした賞は、たいてい最終候補に残ると事前に連絡が来ていて、当日は、どこか気がそぞろになりながら待つ、というのがよくある光景なのである。だが、今回は違った。まったく準備がないだけでなく、無防備な日常に割り込んできた出来事で、小林秀雄の言葉を借りれば、小さな「事件」になった。
「蓮如」は、さまざまな意味で親しい名前である。故郷の北陸は浄土真宗が盛んなところで、蓮如の名前はいつからか忘れ得ぬ存在になっていた。さらに、本書にも書いたが、小林の「友」でもあった中野重治が福井県の出身で、その家は、とても熱心な門徒だった。こうしたゆかりのある人物の名を冠した賞には格別の意味を感じる。
受賞は素直にうれしい。書いたことが認められたというだけでなく、信頼する仲間たちとの仕事が世に受け容れられたということが、素朴に喜ばしい。編集者、校正者、装幀者どの仕事がなくても、この本は生まれなかった。選考委員という「未知なる」読者に出会えたことも予期せぬ喜びである。およそ一年半前にだした本でもあり、この本が、選考委員の手に届いているとは思いもしなかった。
はじめて小林秀雄の作品を手にしたのは一六歳のときである。それから三十余年を経て、この本は生まれた。
どの本にも生まれるべき「時」がある。奇妙に聞こえるかもしれないが、書き手はそれを自由にできない。本のちからが強いとき、書き手が本に従う、といった実感すらある。
本書は、一九六一年に四九歳で亡くなった越知保夫に捧げられている。誤解を恐れずに、私の実感をそのままに表現すれば、彼の助力によってようやく本書を書き上げることができたように感じている。彼に捧げるというのもおかしな話なのかもしれない。彼は、遠くにいた人ではなく、ある意味では、もっとも近くにいた共同者だからだ。むしろ、彼と共に今回の受賞を喜ばねばならないのかもしれない。
『小林秀雄 美しい花』について
この作品の受賞は、2018年の第16回角川財団学芸賞に続いてのものとなります。
帯の一節を紹介します。
「小林秀雄は月の人である。
中原中也、堀辰雄、ドストエフスキー、ランボー、ボードレール。
小林は彼らに太陽を見た。
歴史の中にその実像を浮かび上がらせる傑作評伝。」
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