東京工業大学は、2月1日、科学技術創成研究院(IIR)に4つ目の研究センターとして人文社会系の研究組織「未来の人類研究センター」を開設しました。ここにリベラルアーツ研究教育院(ILA)から多様な研究者が集結し、「利他プロジェクト」に取り組みます。
未来の人類研究センターとは
~理工系大学の中で生まれる人文社会系の知~
未来の人類研究センターは、リベラルアーツ研究を推進するため、科学技術創成研究院の中に設置された組織です。
科学技術創成研究院は、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授が率いる細胞制御工学研究センターなど、東工大が世界に誇るトップクラスの研究チームを集めた組織です。未来の人類研究センターは、こうした最先端の理工系研究と常に共にある人文系の研究センターです。
私たちはどこから来て、私たちは何者で、私たちはどこへ行くのか。科学技術のよりよい可能性を引き出すためには、数十年、数百年先の人類を見据えた現実的かつ本質的な問いを設定し、理工系の最先端の研究と歩調を合わせながら、科学技術が人間にもたらす変化や守るべき価値、その可能性について多角的に探索する必要があります。こうした課題に応えるための研究組織が、「未来の人類研究センター」です。
センターには、ILAの教員が原則2年間所属します。第1期の所属メンバーは、伊藤亜紗准教授(芸術、センター長)、中島岳志教授(政治学、プロジェクトリーダー)、若松英輔教授(人間文化論)、磯﨑憲一郎教授(文学)の4名。ILAの國分功一郎教授(哲学)も連携して活動します。
最初の5年間は、「利他」をキーワードに、人間のあり方、社会のあり方を再定義する「利他プロジェクト」を推し進めます。自分でないもののために行動する「利他」の視点から、人類について、社会について、科学技術について、見つめなおしていきます。
利他プロジェクト
現代は、排他主義がはびこり、分断が加速する時代です。他者と競い合い、弱者を切り捨てる能力主義的な発想。得られる利益の量でつきあう相手を決める功利主義的な人間観。数値に置き換え可能なものばかりが評価され、そうでないものは切り捨てられる傾向。私たちをとりまくこの殺伐とした世界のなかで、もういちどよりよい社会を、より充実した生を構想するにはどうしたらよいでしょうか。
そこで手がかりになるのが、「利他」という視点です。自分のためではなく、自分でないもののために行動する。一見不合理にさえ思える、しかし私たちが確かに持っているはずのこの人間の性向のなかにこそ、人類について、社会について、科学技術について、まったく新しい仕方で考え直すヒントがあるのではないか、と未来の人類研究センターは考えています。能力主義とも、功利主義とも、数値による評価とも違う、人間の人間らしい側面を利他の光で深く照らし出すこと。それが、同センターのかかげる「利他学」です。
政治、経済、宗教、AI、環境、宇宙…研究の領域は多岐に及ぶでしょう。さまざまな分野の研究者や専門家との出会いを大切にしながら、貪欲に触手をのばし、利他学の領域を開拓していきます。その方法も、文献調査、フィールドワーク、実験、作品制作など、従来の人文社会系のディシプリン(学問分野)にとらわれない、東工大ならではの柔軟なアプローチを試みます。
センターでは、その研究成果を、シンポジウムや書籍、あるいはウェブ記事、ラジオといった多様な仕方で発信していきます。みなさまのお力を借りながら、人間を真の意味で自由にするような科学技術、人間がより人間らしく生きることのできる社会を実現するために、さまざまな種をまいていきます。科学技術創成研究院 未来の人類研究センター「利他プロジェクト」にどうぞご期待ください。
センター長 伊藤亜紗 准教授
未来の人類研究センターは、文/理、産/学、理論/現場といった壁を超えて、さまざまな知が出会う場です。それはつまり、センターが「非日常」の空間である、ということなのかもしれません。なぜなら人は、自分がその中にどっぷりつかっている視点や評価基準、価値観をいったん離れたときに初めて、異なる知に出会うことができるからです。目先の判断ではなく息の長い思考、ひとつの正解ではなく多様な知恵。「利他」の視点を通して、人類を見つめ直していきたいと思います。
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