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廃水中のアンモニアを資源に変える触媒を発見 有害物質処理から有用物質製造へ

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要点

  • 有機塩基触媒を用いてアンモニアの炭酸塩類から尿素を合成することに成功
  • 水質汚濁防止法の有害物質である廃水中のアンモニアを資源として再利用可能
  • 尿素は基礎化成品として活用、固体で安定な水素キャリアとしても注目される

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の眞中雄一准教授(国立研究開発法人 産業技術総合研究所とのクロス・アポイントメント制度[用語1]適用)と本倉健准教授らは、有機塩基触媒[用語2]を用いることで廃水中などに含まれるアンモニア(以下アンモニウムイオン[用語3])の炭酸塩類[用語4]から尿素[用語5]を合成できることを見出した。

従来の下水処理場のアンモニウムイオンの無害化処理(窒素への分解)とは異なり、アンモニウムイオンを有用物質に変換することにより、資源として用いることができるようになる。

この研究結果は有機塩基触媒が触媒反応中にイオン交換反応を介することが特徴であり、高価な遷移金属[用語6]を含まない有機合成的なアプローチにより達成された。今後は廃水処理のプロセスとの組み合わせを検討する。合成された尿素は、様々な化成品の原料となる基礎化成品として活用可能であり、近年は固体で安定な水素キャリアとしても注目されている。

研究成果はネイチャーリサーチ社の科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィックリポーツ)」に2月18日に公開された。

研究成果

眞中准教授らは有機塩基触媒を用いることでアンモニウムイオンの炭酸塩類から尿素を合成できることを見出した。特に原料にカルバミン酸アンモニウム[用語7]を用い、有機塩基触媒として1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene(ジアザビシクロウンデセン)[用語8]を用いて反応条件を最適化すると、最大35%の収率で尿素を得ることができた。

尿素は一般的には、ガス状態のアンモニアと二酸化炭素を150 ℃以上の高温・20気圧程度の高圧の条件下におくことで合成されている。今回の発見では、アンモニアよりも反応させにくいと考えられているアンモニウムイオンを用い、70~140 ℃で加圧することなく尿素の合成に成功した。

一定の強さ以上の塩基性[用語9](今回の検討ではアセトニトリル中での共役酸のpKa[用語10]が20以上)を持つ有機塩基触媒を用いることで、有機塩基触媒とアンモニウムイオンがイオン交換を起こし、反応が進みやすい中間体が生成することが効率的な反応の鍵となっていると推測される。

また、カルバミン酸アンモニウム以外の炭酸塩として、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムを用いても尿素を合成することに成功した。これらは、アンモニウムイオンの存在する水中に二酸化炭素を吹き込むことで生成される化合物群であり、アンモニウムイオンの安価な濃縮の一助になると考えられる。

図1. 有機塩基触媒によるアンモニウム塩類からの尿素合成

図1. 有機塩基触媒によるアンモニウム塩類からの尿素合成

図2. 有機塩基触媒のスクリーニング結果の例。pKaはアセトニトリル中での共役酸のpKaを示す。

図2. 有機塩基触媒のスクリーニング結果の例。
pKaはアセトニトリル中での共役酸のpKaを示す。

研究の背景

廃水処理場では、悪臭物質であり劇物でもあるアンモニア(もしくはアンモニウムイオン)を硝化・脱窒[用語11]という工程を経て無害な窒素分子に変えている。この処理方法では、無害化のためにエネルギーを多く投入しており、副生成物として温室効果ガスの亜酸化窒素が発生する可能性もある。

一方で見方を変えると、アンモニウムイオンは、窒素分子の強固な三重結合が破壊された形であり、窒素分子に戻して三重結合を復活させるよりも、アンモニウムイオンの状態で何らかの分子に変換できると、投入エネルギー的に有利になる。つまり、アンモニウムイオンを活かした有機合成が可能になると、エネルギー削減をしつつ、有害物質を減少させ、有用な物質を供給することが可能になる。

展望および意義

今回の研究では、有機塩基触媒を用いることでアンモニウムイオンからでも有用な分子が合成できることを示した。実際の廃水処理に組み込むために適した触媒の形状や反応系、反応率の向上などの検討を経て、アンモニウムイオンの活用を行う予定である。また、今回合成した尿素以外の付加価値の高い分子への転換も検討していく。

付記

本研究成果は、本学と国立研究開発法人 産業技術総合研究所とのクロス・アポイントメント制度によって着任した教員と、本学物質理工学院所属の教員との分野横断型の共同研究によって達成された。

また、本研究は「平成30年度 大阪市立大学人工光合成研究センター共同利用・共同研究」と「2018年度 東工大物質理工学院・若手研究賞」の支援を受けて行った。

用語説明

[用語1] クロス・アポイントメント制度 : 卓越した人材が複数の組織において活躍できるよう、所属機関と他機関のそれぞれで身分を保有し、研究などの業務に従事することを可能にする制度。

[用語2] 有機塩基触媒 : 触媒として働く有機塩基。触媒とは、化学反応に添加することで、反応速度を変化させる物質。その際に自身は変化しない。有機塩基とは塩基性[用語9]を示す有機化合物。

[用語3] アンモニウムイオン : NH4+で表されるイオン。アンモニア(NH3)にプロトン(H+)が付加することで生成される。アンモニアが水に溶けると一部がアンモニウムイオンになる。

[用語4] 炭酸塩類 : 本稿では炭酸塩類として炭酸イオン、重炭酸イオン、カルバミン酸イオンを含む塩と定義する。

[用語5] 尿素 : 哺乳類の尿中に含まれる窒素化合物。体内でタンパク質が分解して生成される。化学式(NH22CO 。工業的にはアンモニアと二酸化炭素とから合成される。無色の柱状結晶で、肥料・尿素樹脂・医薬・接着剤の原料となる。1828年に初めて化学的に合成された有機化合物として有名。

[用語6] 遷移金属 : 周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の総称。

[用語7] カルバミン酸アンモニウム : カルバミン酸イオンとアンモニウムイオンから構成される塩。アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成する際の合成中間体と考えられている。

[用語8] 1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene : 強塩基性を示すアミジン骨格(炭素に窒素が二重結合で一つ、単結合で一つ結合した構造)を持ち、かつ環状の分子形状と大きさから求核性が低い有機塩基化合物。有機化学の反応に用いられる。

[用語9] 塩基性 : 塩基として働く性質。塩基とは、OH-を放出する物質(アレニウスの定義)、プロトンを受け取る物質(ブレンステッド-ローリーの定義)、電子対を与える物質(ルイスの定義)などにより決められる。

[用語10] pKa : 酸解離定数。酸の強さを表す値で、小さいほど強力な酸になる。共役酸のpKaが大きいほど強力な塩基になる。

[用語11] 硝化・脱窒 : 廃水中の窒素化合物を微生物の力で窒素分子に変換する過程の名称。硝化過程では、アンモニアを亜硝酸に変え、亜硝酸を硝酸に変える。脱窒過程では硝酸もしくは亜硝酸を窒素分子へ変え、2つの過程を併せて窒素化合物を無害化する。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Organic bases catalyze the synthesis of urea from ammonium salts derived from recovered environmental ammonia
著者 :
Yuichi Manaka, Yuki Nagatsuka and Ken Motokura
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

准教授 眞中雄一

E-mail : manaka@mac.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5569

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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