東京工業大学大岡山キャンパスの学生交流施設Taki Plazaで、6月14日から7月26日まで、学生が願いごとを書いた短冊を笹に飾るイベント「七夕・TANABATA~みんなの願いごとが叶いますように~」が開かれました。2本の笹で始まったこのイベントは、日を追って手書きの短冊が増え、最後は5本の笹が計688枚もの短冊と飾り物でいっぱいになりました。新型コロナウイルス感染症の拡大で、学生同士が交流を深める機会はなかなかありません。見知らぬ学生の願いごとを読んでうなずく学生。返事を書いて並べて飾る学生。七夕という日本の風物詩に、外国人学生も日本人学生もささやかなコミュニケーションの場所を見つけたようです。
東工大生全員が共有する交流スペースTaki Plazaでの、短冊を媒体とした静かな交流活動を通して、新たに気付いた点もありました。参加した学生の視点と、イベントを運営する学生支援センターの視点に分けて紹介します。
学生の視点
「笹コミュニティ」の中で生まれた連帯感とアイデンティティ
願いごとが書かれた短冊によって個人の考えや感情が表されるとともに、同じ笹に飾られた短冊によって見知らぬ学生同士の共通性と違いが示される。こうした「見える化」が「会話を交わさないコミュニケーション」へとつながり、そのコミュニケーションの中で東工大生の連帯感が生まれている。一方、書いた短冊をキャンパスの笹に飾ることによって自らの存在を示すことが可能となり、こうした自己表現によって東工大の一員としての帰属意識の形成が期待される。
笹が飾ってあった期間を通じて、笹の周りには、短冊を書くだけでなく、飾られている短冊を静かに読んでいる学生が途切れませんでした。コロナ禍の中、距離が近い対面での交流活動は自粛が求められます。初対面や見知らぬ者同士がキャンパスで偶然に知り合う機会も少なくなります。短冊に書かれた短いメッセージを介して、「そうか、自分だけでなく、ほかの東工大生も同じようなことを感じているな」という共通性の認識や共感、あるいは、「自分もここに自分ならではの何かを書いておきたい」というアイデンティティや個性の発露など、静かながらも活発な学生間の交流、連帯感が生まれたようです。「これって大喜利ですね!」と喜ぶ声も聞かれました。願いごとが書かれた短冊に、返事を書いた短冊がつながれ、思いがけず返事をもらって驚く学生もいました。
さらに、飾った短冊を写真に撮りSNS上に投稿し、それをSNS上の東工大生の仲間とシェアするなど、会場の外でも交流が広がった様子でした。
学生支援センター 運営側の視点
- コロナの時代でもできる交流活動:感染防止と両立可能な学生同士の交流活動をどう実現するか、という課題を解決するヒントがある。
- 交流活動と自律的学修支援との接点:仲間との交流を促進するとともに、自己の省察を促す効果も期待できる。
コロナ禍の中で、短冊に思いを書くという活動はセルフカウンセリングの一種にもなり得るとの教員のコメントもありました。短冊に思いを書くことを通じて自らのライフワークを振り返り、東工大生というグループに再度自分を位置づけ、目標と期待を明確にして新たな気持ちで学生生活に向かった学生もいたかもしれません。
イベントを開始して間もなくの時点では、「単位・恋人がほしい」「朝型人間になりたい」といった学生の日常が表現された短冊がほとんどでした。時間の経過につれ、「感謝されるエンジニアになりたい」「世界人類が平和でありますように」へと、自身のビジョンや専門、ないし社会の一員としての視点が表現されたものへと変化していました。1ヵ月半に亘って開催されたイベントの中で、短冊に書かれた内容に変化が見られることも興味深い点でした。
運営を担当した学生支援センターにとっては、活動が大幅に制限される状況で交流をどう実現するか、という日々の問いに対して、有益な示唆が得られました。その意味で「願いごとが叶った」イベントとなりました。