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シミュレーションでスケートボードの技の力学的メカニズムを解明 効率的な指導やボード開発への応用に期待

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要点

  • スケートボードの基本的なトリック(技)である人とボードが一緒にジャンプする「オーリー」の力学的メカニズムを独自のシミュレーション技術により再現。
  • ボードが浮き上がるのは、スケーターの後足の踏み込み時に、てこの原理によりボードの重心が上向きの速度を持つため。
  • 効率的なトリックの習得や指導、さらにはボード開発への応用が期待される。

概要

東京工業大学 工学院 システム制御系の中島求教授と、同系修士課程の千田陽平大学院生(研究当時)の研究グループは、スケートボードの最も基本的なトリック(技)の一つである「オーリー」の力学的メカニズムを解明した。

バイオメカニクス(生体力学)[用語1]スポーツ工学[用語2]などを専門とする中島研究室では、人や人を含むシステムの諸問題の解明に向けて多角的な研究を進めている。

今回、分析を行ったスケートボードの技であるオーリーは、人とボードが一緒にジャンプする技で、スケーターのジャンプとともに、ボードも足に吸い付いているかのように浮き上がる。中島教授らは、光学式モーションキャプチャ[用語3]によって実際のスケーターのジャンプをデータ化した上で、独自のシミュレーション技術により、シミュレーション空間内でジャンプを再現。スケーターの足部、ボード、地面のそれぞれに作用する力や速度を算出して詳細に分析した結果、ボードが浮き上がるのは、スケーターの後足の踏み込み時に、てこの原理によりボードの重心が上向きの速度を持つためであることが分かった。

未解明であった技のメカニズムをシミュレーションで解明した本研究により、これまで感覚頼りであったトリックの習得や指導における効率向上、さらにはトリックを行いやすいボードの開発などへの応用が期待される。

本成果は電子英文学術誌「Mechanical Engineering Journal」に10月15日に掲載された。

背景

中島研究室では、システム工学や機械工学の視点に基づき、人や人を含んだシステムの問題の解明、さらにその解決を目指し、バイオメカニクス(生体力学)、スポーツ工学、バイオロボティクス[用語4]福祉工学[用語5]分野の多角的な研究に取り組んでいる。

本研究では、国際的スポーツイベントなどでの日本選手の活躍によって大きな注目を集めながら、そのトリック(技)の力学的メカニズムがまったく解明されていなかったスケートボードの基本的な技の一つ「オーリー」を取り上げた。

オーリーでは、スケーターがジャンプをするとともに、ボードも足に吸い付いているかのように浮き上がる。スケートボードではスノーボードと異なり足とボードはつながっていない。にも関わらず、なぜそのようなことが可能なのか。これまで、科学的にこの現象の説明に取り組んだ研究は存在していなかった。そこで当研究グループでは、モーションキャプチャとシミュレーション解析により、この現象を力学的に解明しようと試みた。

研究の手法と成果

中島教授らはまず、実際のスケーターがオーリーのジャンプを行う様子について、多数の赤外線カメラを使って計測する光学式モーションキャプチャシステムによってスケーターの足部の運動データを取得した。

続いて、ボードについての運動方程式からボードの動きを時々刻々求めるシミュレーションモデルを独自に構築し、そのモデルに、計測した足部運動データを入力してやることにより、シミュレーション空間上においてオーリーの動きを再現。再現されたシミュレーション空間中でのオーリーにおいて、スケーター、ボード、地面それぞれに作用する力を算出し、スケーターとボードと地面の間で、どのような力のやり取りがなされているのかを詳細に分析した。

以下の図が、シミュレーションによって再現されたオーリーのジャンプの様子である。

図1 シミュレーションにより再現されたオーリーのジャンプ(横から見た図。画面左側から右側に進行)。

図1. シミュレーションにより再現されたオーリーのジャンプ(横から見た図。画面左側から右側に進行)。

1.
ジャンプ前の滑走状態(図1a)。図の左から右へと進行している状態のスケートボードとスケーターの足部分を表す。
2.
滑走状態から前足(右側)を浮かせ、左側の後ろ足を踏み込むことによって、てこの原理によりボード全体が上向きの速度(黒い直線の矢印)を得て、反時計回りの回転を始める(図1b)。このとき回転の中心は後輪にある。
3.
後輪を中心としてスケートボードが回転し、ボードの前輪が高く上がる(図1c)。この過程で後ろ足がボードから離れる。
4.
続いてすぐ、テール(ボード後端)が地面に当たる。この衝突によってボード全体が浮き上がり、同時にボードの回転運動の中心が後輪からテールに変化するが、最初の上向きの速度は保たれる(図1d)。
5.
この上向きの速度でボード全体は上昇を続け、最終的にボードが完全に空中に浮きあがる(図1e)。このとき前足がボードに接触し、ボードの角度が調整されることにより、ボードが水平に近くなり、あたかも足にボードが吸い付いているように見える。

以上が、モーションキャプチャで得たデータをもとに、シミュレーションによる解析を行った結果解明された、オーリーのジャンプのメカニズムである。

また、分析からは、オーリーを成功させるためには、後ろ足で十分な速度をつけて踏み込むことに加え、テールが地面に衝突する前に、ボードの回転運動を阻害しないよう、前足だけでなく後ろ足もボードから離れていることが必要であることなども明らかになった。

動画

今後の展開

今回、オーリーの力学的メカニズムが解明されたことにより、初心者がこの技を習得するにあたっても、より効率的な練習や指導が可能になると考えられる。すなわち、これまでは現場や動画で見た上級者のトリックの様子を参考に、いわば見よう見まねで練習を行っていたところが、動き全体の仕組みを理解した上で、どの段階が正しく行えていないかまで自分で把握できるようになり、より短期間での習得が可能になると考えられる。またスケートボードの指導者も、メカニズムに基づいて理論的な指導が行えるようになる。さらにスケートボード開発企業にとっては、よりトリックを実現しやすいボードを新たに開発することも可能になるであろう。

用語説明

[用語1] バイオメカニクス(生体力学) : 機械などの人工物に適用されていた力学の視点を、人間や動物といった生体に応用する学際的な研究分野。運動や日常の動作など、さまざまな対象について力学解析を行い、傷害など人間に起こる問題の予防や解決、また人が用いる道具や機械の開発設計を行う。

[用語2] スポーツ工学 : 従来は生理学や体育学の視点からの研究がほとんどだったスポーツに対し、工学の視点からアプローチする研究分野。主な利用目的はスポーツ用具の製品設計だが、そのための基礎研究として工学の視点からスポーツを行なう人間自身の研究も行なわれている。

[用語3] モーションキャプチャ : 3次元における人間や動物などの動きを取り込み、デジタルデータ化する手法のこと。動作主体の頭、手足、関節などに印やセンサーを付け、磁気や光などを使って動きを連続的なデータとして取り込んでいく方法などがある。

[用語4] バイオロボティクス : 生体の動きをロボットで模倣して生体自身の研究に役立てたり、それにヒントを得て新しい形態・構造・機能を持ったロボットを開発する研究分野。

[用語5] 福祉工学 : 障碍者や高齢者などのQOL(Quality of Life)を向上させるための道具・装置・機械を開発する研究分野。

論文情報

掲載誌 :
Mechanical Engineering Journal
論文タイトル :
Simulation study to elucidate the mechanism of ollie jump in skateboarding
著者 :
Motomu Nakashima and Yohei Chida
DOI :

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に発足した工学院について紹介します。

工学院

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 システム制御系

教授 中島求

E-mail : motomu@sc.e.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-2586

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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