東京工業大学が牽引する超スマート社会推進コンソーシアム(SSS推進コンソーシアム)は、9月29日「超スマート社会を拓く量子科学最前線」と題した技術フォーラムをオンラインで開催しました。超スマート社会実現に資する量子科学技術の動向を紹介するとともに、パネルディスカッションを通して新たな「気づき」を得ることが目的です。学内外から445名が参加し、量子コンピュータ、量子センサ、量子暗号通信技術の最新情報や具体的な応用例を通し、未来の超スマート社会への展望を論じました。
各分野の最先端研究者からの講演
SSS推進コンソーシアムのコーディネーターで、超スマート社会卓越教育院長を務める工学院 電気電子系の阪口啓教授およびSSS推進コンソーシアム事務局長である工学院の福田英輔特任教授からのあいさつの後、5名の講演者が、各専門分野における技術活用について講演しました。
基調講演
量子アニーリングによる量子コンピューティングの現状と課題
~量子アニーリングの現状と課題を分かりやすく解説します~
東工大 科学技術創成研究院
量子コンピュ―ティング研究ユニット 西森秀稔特任教授
量子計算の一つの方式である量子アニーリングの考案者である西森特任教授からは、量子計算の原理と特徴が説明された後、世界的な量子コンピュータの研究・開発状況が示され、ハード・ソフトの両面において今後の発展が期待されると述べられました。
講演1
NECにおける量子コンピューティング研究開発
~超伝導量子コンピュータおよびシミュレーテッドアニーリング開発を紹介します~
日本電気株式会社
システムプラットフォーム研究所 白根昌之研究部長
白根研究部長からは、量子技術全体を俯瞰的にまとめたのち、NECにおける量子コンピュータの研究開発についてこれまでの歴史、現状、展望が述べられました。NECでは、国からの支援も受け、誤り訂正機能を実装した量子コンピュータの実用化へ向け研究開発を加速させていることが説明されました。
講演2
超精密航法装置の実装に向けて
~非GPS航法の精度を飛躍的に向上させる最新の研究成果について報告します~
東工大 科学技術創成研究院
量子航法研究ユニット 上妻幹旺教授
上妻教授からは、自分の位置や姿勢を把握する「自律航法」の性能を、量子効果を利用したジャイロスコープによって向上させる方法や、自律型無人潜水機(Autonomous Underwater Vehicle: AUV)への応用などが紹介されました。
講演3
世界最先端を切り拓く東芝の量子暗号への取り組み
~安全・安心社会の実現へ向けた、量子暗号技術の研究開発について紹介します~
株式会社東芝 研究開発センター 情報通信プラットフォーム研究所
コンピュータ&ネットワークシステムラボラトリー 鯨岡真美子研究主務
鯨岡研究主務からは、量子力学の原理に基づいて情報通信の安全性が担保された量子暗号(量子鍵配送)について説明されました。東芝では、高速鍵配送、長距離伝送を可能にする量子暗号システムの開発に成功しており、より広域・大規模な量子暗号ネットワークの実現を目指すことが説明されました。
講演4
ピンクダイヤモンド 超スマート社会での固体量子センサの可能性
~ヘルスケアから車載・産業応用までに至る応用の可能性を紹介します~
東工大 工学院 電気電子系
波多野睦子教授
波多野教授からは、ピンクダイヤモンドの性質を利用した量子センサについて、電子機器のみならず医療への応用を目指して実用的なデバイス化を推進している過程がそれぞれ実証実験例とともに紹介されました。研究開発の現場ではすでに「Society 5.0」技術群の先を見据えており、長期的な発展のためには人材育成が非常に重要であると述べられました。
パネルディスカッション
講演者の西森教授、白根研究部長、鯨岡研究主務、波多野教授と、工学院 電気電子系の小寺哲夫准教授、理学院 物理学系の平原徹准教授をパネリストに迎え、超スマート社会卓越教育院の米田淳特任准教授が司会となり、量子科学の実用化へ向けた現状と課題、および関連する人材育成についてのパネルディスカッションを行いました。
課題として、分野によっては日本が他国と比べて研究開発への投資が遅れている現状が共有されました。中等教育から博士後期課程、インターンシップに至る様々な段階で量子科学と社会的ニーズの両面に接する機会を設けるために、アカデミアと民間企業の協力は不可欠であり、本コンソーシアムがその一端を担うことが再認識されました。また、人材育成については、量子科学教育研究フィールドなどの、超スマート社会卓越教育院とコンソーシアムとの連携は非常に先進的な教育プログラムであるとの言及がありました。
パネルディスカッションの後、コンソーシアム運営委員長の岩附信行教授から、超スマート社会推進コンソーシアムの説明があり、水本哲弥理事・副学長(教育担当)が閉会のあいさつを行いました。
参加者からは、「量子科学の専門家ではなく、少々予備知識がある程度ですが、わかりやすく丁寧にご説明いただきありがとうございました。」「いつも勉強になり、自身の研究開発に非常に役立っています。今後も大いに期待します。」などの感想が寄せられました。
超スマート社会推進コンソーシアム
東工大は、超スマート社会(Society 5.0)の実現を推進する「超スマート社会推進コンソーシアム」を2018年10月に設立しました。参加機関と連携して人材育成から研究開発までを統合した新たな次世代型社会連携教育研究プラットフォームを構築しています。
超スマート社会卓越教育院
修士・博士後期課程を一貫した学位プログラムにより、フィジカル空間技術とサイバー空間技術にとどまらず、量子科学や人工知能などの最先端の科学技術をも融合できる「知のプロフェッショナル」を養成しています。
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