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ナノシェルの中で金ナノ粒子が動く様子の撮影に成功 新規ヨーク-シェル型光触媒材料の機能解明に寄与

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要点

  • 金ナノ粒子と硫化物ナノ殻からなるヨーク-シェル(卵黄殻)型ナノ構造体を作製
  • In-situ透過型電子顕微鏡により、シェル構造内で動く金ナノ粒子を世界で初めて撮影
  • 金属硫化物に金ナノ粒子の複合化により、すぐれた光触媒機能を発現する可能性が示された

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所のチャン・ツォーフー・マーク准教授、同研究院 未来産業技術研究所の陳君怡特任助教、物質理工学院 材料系の呉振揚大学院生(博士後期課程2年)と台湾国立陽明交通大学 工学院材料系の徐雍鎣教授を中心とする国際研究グループは、金ナノ粒子を内包したヨーク-シェル型ナノ構造体[用語1]の開発と光触媒能の発現メカニズム解明に成功した。

ナノサイズの核(卵黄の意味でヨーク)と殻(シェル)から成るヨーク-シェルナノ構造は、ヨークとシェルの間に空隙がある特徴から、これまでの複合粒子にはない特徴が見られる。本研究では光触媒への応用をめざして、金ナノ粒子をヨーク、金属硫化物をシェルとしたヨーク-シェル型ナノ構造体を作製し、その構造や特性を評価した。世界初の成果として、シェルの内部でヨークである金ナノ粒子が動く様子を観測することに成功した。また、分光学的測定によりヨーク-シェル間の界面電荷移動遷移[用語2]を実証し、環境浄化、水素生成、二酸化炭素還元など光触媒としての応用の可能性が示唆された。研究成果は、米国科学誌「ACS Applied Nano Materials」オンライン電子版に4月30日に掲載され、チーフエディターの注目論文(ACS Editors' choice)として選ばれた。

背景

2種以上の化合物を含むナノ構造体は、構成する化合物同士がどのような構造をつくるかによって、さまざまな分類がなされている。

中でもヨーク-シェルナノ構造は、卵黄核(ヨーク)とシェル(殻)の間には小さな分子が入り込む空隙があり(図1)、殻の中でのみ化学反応を進行させることも可能と考えられる。これは、コアとシェルが密着している従来のコア-シェル構造にはない大きな特長と言える。

従来のコア-シェル構造と、ヨーク-シェル構造の違い

従来のコア-シェル構造と、ヨーク-シェル構造の違い

本研究では、シェルとして半導体の性質を持つ金属硫化物、ヨークとして金ナノ粒子を採用したヨーク-シェル型ナノ構造体を作製、機能評価を行うことを試みた。一部の金属硫化物は紫外光下において光触媒機能を発現するが、紫外光によって分離した電子と正孔が再結合しやすく光触媒反応が進みづらいという欠点を持つ。そこで、金や白金といった金属ナノ粒子を組み合わせることによって電子と正孔の再結合が妨げられることに着目し、さらにヨーク-シェル型構造とすることで、金属同士の凝集を防止するとともに反応面積の向上等を見込めると考えた。

研究成果

本研究グループは、金ナノ粒子(Au)を内包した4パターンのヨーク-シェル型ナノ構造体の作製と評価に成功した。

金-金属硫化物 ヨーク-シェル型ナノ構造体の作製

本研究では、シェルとして銅硫化物(Au@Cu7S4)、カドミウム硫化物(Au@CdS)、亜鉛硫化物(Au@ZnS)、およびニッケル硫化物(Au@Ni3S4)を持つ構造体を作製した。ヨーク-シェル型構造の形成プロセスとして、金と酸化銅のコア-シェル型構造体をつくり、その後硫化ナトリウムと反応させると徐々に中空構造が出来上がる。これは粒子の内側に進む反応と外側に進む反応の速度の差を利用したプロセスである。

さらに、Au@Cu7S4を含む溶液にカドミウム、亜鉛およびニッケルのイオンを含む溶液を加え反応させることで、硫化物を形成する金属が入れ替わり、最終的にAu@CdS、Au@ZnS、およびAu@Ni3S4のナノ構造体が形成された。4種類のヨーク-シェルナノ結晶の透過型電子顕微鏡像(図2)では、空洞を持つ粒子に金ナノ粒子が内包されていることが確認できる。また、本研究ではIn-situ透過型電子顕微鏡動画の撮影により、ヨーク-シェル型ナノ構造体のリアルタイム動画観察を試み、ヨーク-シェル構造中で自由に動く金ナノ粒子の観測に、世界で初めて成功した。

図2 Au@Cu7S4、Au@CdS、Au@ZnSとAu@Ni3S4合成手順と各ヨーク-シェル型構造体の透過型電子顕微鏡像

図2. Au@Cu7S4、Au@CdS、Au@ZnSとAu@Ni3S4合成手順と各ヨーク-シェル型構造体の透過型電子顕微鏡像

動画: 透過型電子顕微鏡で捉えたヨーク-シェル型構造体。構造中で金ナノ粒子が動く様子が分かる。

金-金属硫化物 ヨーク-シェル型ナノ構造体の特性評価

結晶構造に関する詳細情報を取得するため、本研究チームは図3に示すように、高分解能透過型電子顕微鏡像、制限視野電子回折による元素・構造分析、およびネルギー分散型X線分光分析のマッピング分析も実行し、ヨーク-シェル型ナノ構造体の化学組成情報を有する原子分解能像を取得した。

図3. (a-c) Au@Cu7S4, (d-f) Au@CdS, (g-i) Au@ZnS, and (j-l) Au@Ni3S4の高分解能透過型電子顕微鏡像、制限視野電子回折、およびネルギー分散型X線分光分析のマッピング分析。

図3. (a-c) Au@Cu7S4, (d-f) Au@CdS, (g-i) Au@ZnS, and (j-l) Au@Ni3S4の高分解能透過型電子顕微鏡像、制限視野電子回折、およびネルギー分散型X線分光分析のマッピング分析。

Cu、Cd、Zn、Niならびに硫黄(S)元素からなるシェルが、Auナノ粒子を内包していることが改めて実証された。

光触媒特性を評価するために、フォトルミネッセンス分光法[用語3]を使用して、金ナノ粒子ヨークとシェルの間の電子相互作用と電荷移動ダイナミクスを調査した(図4)。フォトルミネッセンス強度が大きい場合、紫外光によって一度分離した電子と正孔が再結合していることが考えられる。測定結果として、金ナノ粒子を内包していない(シェルのみ)の場合はフォトルミネッセンス強度が大きいが、金ナノ粒子を内包している場合は強度が大幅に減少することがわかった。このことから、ヨーク-シェル型ナノ構造体においては、金ナノ粒子はシェルの内壁に接しており、その界面を介して電子がシェルから金ナノ粒子に流れることで、再結合が防がれると考えられる。

図4. (a) Au@Cu7S4、 (b) Au@CdS、 (c) Au@ZnS、 (d) Au@Ni3S4のフォトルミネッセンススペクトル(励起波長320 nm)の測定結果

図4. (a) Au@Cu7S4、 (b) Au@CdS、 (c) Au@ZnS、 (d) Au@Ni3S4のフォトルミネッセンススペクトル(励起波長320 nm)の測定結果

今後の展開

金属硫化物と金ナノ粒子を組み合わせたヨーク-シェル型ナノ構造体が光触媒として機能することから、環境浄化、水素製造、二酸化炭素還元などへの応用が期待できる。特に、水素製造の場合はヨークとシェルの空隙サイズが水素生成速度に影響する重要な要素とパラメータと考えられる。本研究で見出されたヨーク-シェル型ナノ構造体の製造プロセスをもとに、研究グループでは今後も、新規ナノリアクター設計につながる基礎的な知見の蓄積を続けたい。

用語説明

[用語1] ヨーク-シェル型ナノ構造体 : ナノサイズの核と殻からなる構造体。核と殻の間には空隙があることが、コア-シェル型構造との大きな違いである。

[用語2] 界面電荷移動遷移 : 異種の物質間で電子あるいは正孔(ホール)が移動する現象。光などの外部刺激を加えることで誘起することができる。

[用語3] フォトルミネッセンス分光法 : 材料の電子構造を非接触・非破壊で調べる分光測定法。材料の様々な結晶構造の放出特性に関する情報を得ることができる。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Nano Materials
論文タイトル :
Electronic Interactions and Charge-Transfer Dynamics for a Series of Yolk–Shell Nanocrystals: Implications for Photocatalysis
著者 :
Jhen-Yang Wu, Ting-Hsuan Lai, Mei-Jing Fang, Jui-Yuan Chen, Ming-Yu Kuo, Yi-Hsuan Chiu, Ping-Yen Hsieh, Chun-Wen Tsao, Huai-En Chang, Yu-Peng Chang, Chien-Yi Wang, Chun-Yi Chen, Masato Sone, Wen-Wei Wu, Tso-Fu Mark Chang,* Yung-Jung Hsu,*
DOI :

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お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

准教授 チャン・ツォーフー・マーク

E-mail : chang.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5044

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所

特任助教 陳君怡

E-mail : chen.c.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5631 / Fax : 045-924 -5044

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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