5月18日、東京工業大学は「Taki Plaza特別講演『“偏愛”という視座で、東京の未来を探る。』」を主催しました。
この特別講演は、学生のための国際交流拠点Hisao & Hiroko Taki Plaza(ヒサオ・アンド・ヒロコ・タキ・プラザ以下、Taki Plaza)創設の寄付者であり、本学の卒業生でもある、株式会社ぐるなびおよび株式会社NKBの取締役会長 滝久雄氏が企画・共催しました。
「東京」についてディスカッションする登壇者
グローバルな視点を持ち世界を舞台に活躍する文化人が、日本の首都「東京」の魅力を“偏愛”という視座で語り、「東京」の知られざる魅力や未来像について考察するパネルディスカッション形式で進められました。新型コロナウィルス感染症対策のため、対面での参加人数を事前予約制とし、67名の学生が参加しました。
当日、普段のスーツにネクタイではなく、東工大のロゴが入ったTシャツにジャケットを着て登場した益一哉学長は開会のあいさつの中で、学生たちが留学生も一緒になって積極的に語り合うための「未来を創造する場」として、Taki Plazaが作られたことに触れ、この特別な場所で、世界的に活躍する一流の登壇者の考え方を学ぶ機会に意義を感じると語りました。
開会のあいさつをする益学長
東京を世界一の観光都市に
あいさつの後、滝氏が東京を世界一の観光都市にしたいと長年温めてきたプロジェクト『偏愛東京』について説明しました。「玉石混交の情報が飛び交うSNSを中心とする現代社会において、一次情報を更新する仕組みが大切であり、そのためには、実名での投稿や信頼できる投稿元なのか確認するというルールを作って守っていく必要がある。」と述べ、確かなソースによる情報更新の必要性を説明しました。また、「東京」にある多数の商店街を利用し、高齢者を含む誰にでもアクセシビリティが良い街の機能を生かせる提案を披露しました。商店街だけでなく、「東京」にあるマンホールや電柱などに偏愛を示す様々なコミュニティを活かして、情報の信頼性を強固なものにしていきたいと語りました。
ディスカッションには、Taki Plaza設計者でもある株式会社隈研吾建築都市設計事務所の隈研吾氏、Taki Plazaのパブリックアートの原画・監修をした漫画家・映画監督の大友克洋氏、東京藝術大学の日比野克彦学長、滝氏、益学長が登壇しました。リベラルアーツ研究教育院の柳瀬博一教授がナビゲーターとなり、6人のプロフェッショナルが、それぞれの「東京」への“偏愛”を語りました。
「偏愛東京」の説明をする滝氏
「東京」の魅力について耳を傾ける参加者
未来をつくるための冒険をしよう
大友氏は漫画『AKIRA』の中で、東京オリンピックが2020年に開催されずに次の年の2021年に開催されると描かれたことが、40年後に事実となったことについて、大友氏は「偶然です」と答え、「『AKIRA』の舞台であるネオトーキョーは、1960年代の東京をなんとなく意識して描いていただけで、未来を予想していたわけではない。それが現代とシンクロしてしまうのは不思議だが、僕の責任ではないので大丈夫です!」と会場に笑いを誘いました。
Taki Plazaの中にあるパブリックアート(陶板レリーフ)「ELEMENTS OF FUTURE」(エレメンツ・オブ・フューチャー)について、制作者である大友氏は、「未来をつくるものは人間であったり都市であったりするのではないか、と思いこの作品を作った。これから、人間が新しい科学や文化を多く作っていくと思っている」と述べました。また、「若い人が失敗を恐れて新しいものを作ったり、冒険をしたりしないので、もっと新しいことに挑戦し、冒険をしてほしい」とも話しました。
Taki Plaza1階のパブリックアート
「小さいもの」で世界と勝負できる
東京オリンピック2020の競技場を設計した隈氏は、「1964年の東京オリンピックでは、木造ばかりが立ち並ぶ渋谷にコンクリートの競技場が大きく立ちはだかり、その東京の変貌がとても面白かった。だから、2020年の東京オリンピックの競技場を作ると決まった時、前のオリンピックがコンクリートだったことから、木を使うことを考えました」と語りました。また、「東京の特性である『小さいもの』を偏愛する特別な能力を世界にアピールできると思う」、「世界という舞台で、『大きいもの』で勝負をすることは、決定するシステムが複雑すぎるので日本人には向いていないので勝ち目がない。しかし、日本人は『小さいもの』で勝負できると思う。小さいものを繋げる『路地』、『人間のネットワーク』を繋げる、そういうものを通して日本人は独特の才能を発揮するのではないか」と話しました。
多様な人と街の繋がりが強み
日比野学長は「たまに気分転換のために1人で繁華街に行くことがあり、街を眺めていることがある。自分のことを誰も知らない人たちが通りすぎる『雑踏』が一番『東京』らしいと感じる。」「アートは『違い』が魅力。人と違うからこそ自分がいる。自分とは違う相手のサインを受け入れることがアートの特性であり、つまり多様性に繋がる。たくさんの人がいて、車椅子で移動する人も高齢者で足などが不自由になった人も、『歩いてどこにでも行ける』、そういうアクセスビリティが東京の強みだと思う」と述べました。また、「アートは人の数だけ価値観がある。そのアートと鑑賞者を繋ぐコミュニケーターのように、『偏愛東京』というプロジェクトが、『東京』の街と人を繋いでくれるのではないか」と語りました。
「街」もテクノロジーも社会を形成する
益学長は、「日比野学長が話されたように、東京には多くの人が住んでいます。だから、人が多く集まる場所で、自分の研究に関することや日常生活上で疑問に思うことを『他の人と共有し共感できる』と感じた。東工大では特に様々な人材に出会うことができ、この疑問に対する共有と共感を得ることができ満足した。そして実は、大学のある『街』も、その『共有し共感する』ことに導いてくれていると思う」と話しました。さらに、「東京オリンピックの頃と違い、今はテクノロジーと人々の生活を支える社会そのもの、街そのものが一緒になってより良き社会や生活習慣を作るという意識が強くなっていく。そのときに既存の製品の品質だけを上げることだけに注力するのではなく、その製品をどうやって何に使うのかを、以前より広い視野で見て、『テクノロジーを世の中に役に立てる』という思いを持つべきだと感じた」と語りました。
また『偏愛』について、「たとえば学生のころ、自分は電気屋さん(電子物理工学科)だったので、電気回路などの左右対称性に興味があり、実験装置が対称に美しくできると良い結果が出て、自分の研究を愛することができる。そうした集積回路の研究も、1968年に発見された基本回路は対称性であり、この対称性を超える集積回路を今に至るまで研究しているがまだ超えていない。このような研究に対するのと同じような、こだわりと愛をもって『東京』という街を見ていくと、また違う何かを発見できると思う」と、学生に解説しディスカッションを終了しました。
益学長の「基本回路の対称性」についての資料
最後に、井村順一理事・副学長(教育担当)が、「本日の講演を聞き、『東京』には小さなものを繋ぐ、変化する環境、多様なものほど価値があるという“偏愛”を受け止めました。学生の皆さんも、様々な観点から話を聞いたと思います。今日の素晴らしい話の中から、受け取った『気付き』をプロジェクションし、その素晴らしい思いを皆さんの真っ白なキャンバスに描いてほしい。数十年後には、ここにいる学生の皆さんが登壇者になることを期待します」と閉会のあいさつをしました。
閉会のあいさつをする井村理事・副学長
特別講演の登壇者 左より隈氏、大友氏、日比野学長、滝氏、益学長、柳瀬教授