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COVID-19が持続可能な開発目標SDGsに与える影響 持続可能な社会の構築が社会のレジリエンス向上につながる

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要点

  • COVID-19に関連する統計データを用いて、パンデミックとSDGsの進捗の間にある相関を世界規模で算定した。
  • 対象国の3分の2以上で目標5、7、8、11、12への負の影響が見られ、所得水準の低い国ほどパンデミックの影響が大きいことが示唆された。
  • SDGsの達成度が高い国はCOVID-19による影響度が低く、持続可能な社会の構築がパンデミックに対する社会のレジリエンス向上に寄与することが示唆された。

概要

東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系の藤井学准教授らの研究チームは、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の世界的大流行(パンデミック)と持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)[用語1]の達成度の間にある相関を、世界規模で定量的に評価した。

2020年4月から2021年2月にかけて、72ヵ国において収集した65の指標を用いて、17のSDG目標※1全てにわたりCOVID-19が与えた影響度(インパクトスコア)[用語2]を算定した結果、ジェンダー平等(目標5)、安価でクリーンなエネルギー(目標7)、ディーセントワークと経済成長(目標8)、持続可能な都市とコミュニティ(目標11)、責任ある消費と生産(目標12)に対して、対象国の3分の2以上の国で負の影響が算出された。所得水準の低い国ほど負の影響を受ける結果が示され(例えば、サハラ以南のアフリカでは13の目標で負の影響が算出された)、目標5と8では所得に限らずほぼ全ての国で負の影響が示された。また、本研究で算定したCOVID-19による影響度と国連が報告している各国のSDGs総合得点[用語3]の間には強い負の相関が見られたことから、SDGsの推進による持続可能な社会の構築がパンデミックに対する社会のレジリエンス向上に重要であることが示唆された。このように、本研究で示すような定量かつエビデンスに基づいた研究アプローチならびにそれに基づく透明性の高い政策立案・実施、ガバナンスが持続可能な社会への移行には必要不可欠であると考えられる。

本研究成果は、東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系の鼎信次郎教授、Mohamed Elsamadony研究員、ライプニッツ農業景観研究センターの梁政寛教授、スウェーデン王立工科大学のFrancesco Fuso Nerini准教授、上海大学の柿沼薫准教授らによって行われ、8月27日付の「Journal of Cleaner Production」にオンライン掲載された。

※1

SDGグローバル指標(SDG Indicators)|JAPAN SDGs Action Platform|外務省

背景

2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、人類が持続可能な社会へ移行するための羅針盤であり、2030年までに持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)を達成することが望まれる。現在までに世界各国で持続可能に関する様々な取り組みが実施されてきているが、多くの目標においてSDGsの進捗は不十分とされている。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の世界的大流行がSDGsの進捗に及ぼす影響が懸念されている。

COVID‑19が発生して以来、SDGsの達成に及ぼす影響を明らかにする研究が進められてきた。資料調査や専門家へのヒアリングといった定性的調査によると、SDGsの多くのターゲット(半数以上)に負の影響を及ぼす可能性がある一方で、いくつかのターゲットはパンデミック中でも前進する機会があるとされる。また、パンデミックで最も影響を受けたのは弱者(貧困・脆弱層等)であることが一貫して示されている。一方で、パンデミックの影響は、国や地域によって異なる様々な社会経済的要因(経済状況、技術開発、政策など)も考慮に入れることが重要だが、これについてはまだ十分な検討がなされていない。また、限られた資源でSDGsの17の目標のうち取り組みを強化すべき分野の優先度を決め、SDGsの達成を推進する必要性が指摘されている。

研究目的と手法

本研究は、パンデミックの影響を世界規模で国や地域ごとの社会経済的要因を考慮したうえで定量的に評価し、SDGsの達成に向けたターゲットの優先順位付けに有用な情報を得ることを目的とした。その際、国際機関や研究機関からの出版物や国際学術誌等からCOVID‑19に関連する統計データ(2020年4月〜2021年2月)を取得し、これらをSDGsの目標・ターゲットの達成指標と関連付けることにより、COVID-19のパンデミックが、SDGsの進捗に与える多面的な影響を世界規模で定量的に評価した。

具体的には、COVID‑19の発生と種々の対応(政策)、それによる波及効果等により、健康(目標3)以外にも様々な分野で影響を受けていることが、統計データによって示された。世界的には、貧困(目標1)や飢餓(目標2)の増加、学校閉鎖(目標4)、女性への家庭内暴力・家事負担増加(目標5)、ロックダウン政策による産業・サービス部門(観光や航空、サプライチェーンなど含む)での混乱とGDP減(目標8)などを経験した。一方、デジタル化(目標9など)や国際協力(目標17)などは後押しされたと言われている。

このようなパンデミックがもたらした種々の影響に関して、72カ国、65指標(数値データ)を取得し、計55のSDGsターゲットに割り当て、指標の正規化と目標レベルでの算術平均化により、SDGs各目標へのCOVID‑19の影響を評価した。

研究成果

SDGsの各目標に対応するCOVID-19パンデミックの影響度(インパクトスコア)を対象国で平均すると17目標中9目標において世界平均で負の値(影響)を示した(図1)。その中でも、目標5(ジェンダー平等)と目標8(ディーセント・ワークと経済成長)については、ほぼ全ての国で負の影響を示した。また、対象国の3分の2の国では、目標7(安価でクリーンなエネルギー)、目標11(持続可能な都市とコミュニティ)、目標12(責任ある消費と生産)で負の影響を受けていたことが明らかとなった。

COVID-19の世界的大流行が17の目標に及ぼした影響度

COVID-19の世界的大流行で負の影響を受けた国の割合

図1.
COVID-19の世界的大流行が(a)17の目標に及ぼした影響度(インパクトスコアの世界平均、エラーバーは各目標での標準偏差)ならびに(b)負の影響を受けた国の割合

国の所得水準や地域別にみると、高所得国(欧州・中央アジア、北米、東アジア・太平洋地域など)では、特に目標1、7、13、15で正の影響を示したが、目標5と8で負の影響があった(図2)。一方で、低・中所得国(中南米、サハラ以南のアフリカ、中東・北アフリカ、南アジアなど)では、目標5と8に加え、目標7、11、12、14が深刻な影響を受けていることが示唆された。特に、サハラ以南のアフリカでは17個中13個の目標において負の影響が示され、所得水準の低い国ほど多くの目標で負の影響を受けたことが示唆された。また、目標5と8は所得水準に限らず、世界的に負の影響を受けていた。

図2. 各目標に対するCOVID-19の影響度(所得水準別:高所得国 [High income, n=34]、中所得国 [Middle income, n=31]、低所得国 [Low income, n=7])。箱ひげ図は、所得水準別の最小値、第一四分位値、中央値、第三四分位値、最大値を表す。アルファベットは、所得水準による統計的な有意差を示す。
図2.
各目標に対するCOVID-19の影響度(所得水準別:高所得国 [High income, n=34]、中所得国 [Middle income, n=31]、低所得国 [Low income, n=7])。箱ひげ図は、所得水準別の最小値、第一四分位値、中央値、第三四分位値、最大値を表す。アルファベットは、所得水準による統計的な有意差を示す。

次に、国連で報告されているSDGs総合得点(各国の持続可能性を示す全体指標、2020年1月発表)と、本研究で得られたCOVID-19による影響度(インパクトスコア)の間の相関を検討したところ、強い負な相関が見られた(図3)。2020年1月時点で国連SDGs総合得点が80%以上の国は、明らかに我々の分析においてもより良いパフォーマンス(影響度が正の方向に高い値で算出された。図3右下部。)を示しており、一方で、SDGs総合得点が70%以下の国(特に低・中所得国)では、COVID-19による影響がより深刻(影響度が負の方向に高い値で算出された。図3中央から左上部。)であったことが示唆された。

図3. 2020年に国連が発表した各国のSDGs総合得点(横軸)と本研究で算定したCOVID-19の影響(全てのSDGsに対する影響度、縦軸)の関係。両者には統計的に有意な相関関係が得られた(スピアマンの順位相関係数rs=0.78, p=1.1 x 10-16)。
図3.
2020年に国連が発表した各国のSDGs総合得点(横軸)と本研究で算定したCOVID-19の影響(全てのSDGsに対する影響度、縦軸)の関係。両者には統計的に有意な相関関係が得られた(スピアマンの順位相関係数rs=0.78, p=1.1 x 10-16)。

社会的インパクト・今後の展開

本研究成果では、国連のSDGs総合得点(2020年1月時点)とCOVID-19による影響度(2020年4月〜2021年2月のデータより算出)に負の相関がみられ、このことから、COVID-19のような感染症の世界的流行に対する社会の頑健性・レジリエンスを向上させる上で、持続可能な社会が構築されていることが重要だと考えられる。すなわち、SDGsをこれまで以上に前進させることが、社会・経済・環境を含む種々の分野においてパンデミックによる問題や混乱を回避する予防策であると言える。貧困と飢餓の撲滅などに加え、ジェンダーの平等や安定した経済・労働市場、質の高いインフラ・保健・教育システムなど、SDGsの達成へ向けた種々の努力が結果としてパンデミックの影響を効果的に緩和すると考えられる。

一方、本研究では72ヵ国にわたる17の目標全てをカバーする65の指標によりCOVIDの影響を評価したが、2020年4月から2021年2月までに収集されたデータを活用している。従って、本研究成果はパンデミックの比較的早い段階において定量可能な影響を評価したものと解釈されるべきである。COVID-19パンデミックの影響を結論付けるためには、より長期的かつ広範に指標を収集し、評価していく必要がある。

付記

本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(19F19055)による支援を受けて行われた。

用語説明

[用語1] 持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals) : 持続可能な開発のための2030アジェンダに含まれる17の目標と169のターゲット、230以上の指標から構成される。

[用語2] 影響度(インパクトスコア) : 選択された各指標は-1から1の範囲で正規化され、SDGターゲットに割り当てられる。その後、各SDG目標においてターゲット(に割り当てられた指標値)の算術平均をとることで、各SDG目標のインパクトスコアを算出した。インパクトスコアがマイナスであれば負の影響、プラスであれば正の影響があると判断した。

[用語3] SDGs総合得点 : 国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(Sustainable Development Solutions Network)により毎年発行される持続可能な開発報告書(Sustainable Development Report)で算出される、各国の持続可能性を示す指標(overall score)。各国の得点が算出され、ランキング化されている。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Cleaner Production
論文タイトル :
Preliminary quantitative assessment of the multidimensional impact of the COVID-19 pandemic on Sustainable Development Goals
著者 :
Mohamed Elsamadony, Manabu Fujii, Masahiro Ryo, Francesco Fuso Nerini, Kaoru Kakinuma, Shinjiro Kanae
DOI :

環境・社会理工学院

環境・社会理工学院 ―地域から国土に至る環境を構築―
2016年4月に発足した環境・社会理工学院について紹介します。

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お問い合わせ先

東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系

准教授 藤井学

Email fujii.m.ah@m.titech.ac.jp
Tel 03-5734-3687

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661


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