要点
- 線幅30 nmの極細線強磁性ナノワイヤを新しい「ナノ構造誘起法」により作製
- 作製した強磁性ナノワイヤが高保磁力のL10規則化単結晶構造を持つことを確認
- シリコン基板上に高保磁力単結晶ナノワイヤをアニール処理のみで作製する新たな手法として期待
概要
東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の真島豊教授の研究グループは、線幅30 nmのコバルトと白金の交互積層ナノワイヤのアニール(加熱)処理のみで、10 kOe以上の高保磁力を有するL10規則化強磁性単結晶ナノワイヤを作製する「ナノ構造誘起法」を開発した。
強磁性ナノワイヤは、トンネル磁気抵抗素子[用語1]、磁気メモリ、磁気センサなどさまざまな用途で利用されているが、その作製方法としては、結晶性基板上に強磁性薄膜を作製し、エッチングによりナノワイヤ化する手法が主流である。本研究では、シリコン基板上にナノワイヤを直接形成し、アニール処理のみで強磁性ナノワイヤを作製する「ナノ構造誘起法」を新たに開発した。本手法により作製した強磁性ナノワイヤは、線幅が30 nmのどんぐり型の断面形状で、双晶を含むL10規則化単結晶構造からなり、10 kOe以上の高保磁力を有することが確認できた。
今回開発した「ナノ構造誘起法」では、結晶性基板を用いる必要がなく、アニール処理のみで高保磁力強磁性単結晶ナノワイヤを作製できることから、従来手法よりも広い範囲の基板でスピンデバイスを簡便に作製でき、産業用途への応用が期待される。
今回の成果は10月6日に、ナノスケール科学技術分野で権威ある学術誌の一つとされる「Nanoscale Advances (Royal Society of Chemistry)」のオンライン版に掲載された。
背景
強磁性体は、外部から加えた磁界と同じ方向に強く磁化され、その磁界を除いても磁化が残る材料であり、永久磁石や、スピントロニクス素子の材料として用いられている。例えば、強磁性ナノワイヤを用いるトンネル磁気抵抗素子は、磁気抵抗メモリやハードディスクの読み出しヘッド、磁気センサとして世の中で広く利用されている。一方で、L10型規則相[用語2]を持つ強磁性合金薄膜は、正方晶規則格子により107erg/cm3を超える高い一軸結晶磁気異方性エネルギー(Ku)と10 kOeを超える大きな保磁力(Hc)を有することから、精力的に研究されてきた。そうしたL10規則化構造を持つ強磁性ナノワイヤを作製するには、従来、結晶性基板上でアニール処理をすることにより強磁性合金薄膜を形成してから、エッチングによってナノワイヤ化する手法が用いられてきた。しかしシリコン基板などの非晶質基板上に先にナノワイヤを作製し、アニール処理のみでL10規則相とする手法はこれまでなかった。
研究成果
真島教授らはこれまでの研究で、電子線リソグラフィ[用語3]により20 nm以下のギャップ長を有する白金ナノギャップ電極[用語4]を作製する技術を確立してきた。本研究ではそれと同じ手法を用いて、シリコン基板上に、強磁性ナノワイヤ材料としてのコバルトと白金の交互積層ナノワイヤを直接形成し、アニール処理のみで10 kOeを超える保磁力を有する強磁性ナノワイヤを作製するという「ナノ構造誘起法」を確立した(図1)。
- 図1.
- ナノ構造誘起法により作製したL10規則化CoPt単結晶ナノワイヤのSEM像(左)と、 磁気ヒステリシスループ (M-H カーブ)(右)
この手法で作製した強磁性ナノワイヤがL10型規則相を形成していることを、2次元微小角入射X線回折(GI-XRD)パターンと、ナノビーム電子回折(NED)パターンにおいて確認した(図2左・中央)。またナノワイヤ断面は、ナノスケールにおいて表面エネルギーが最小になるどんぐり型の形状になっていた(図2中央左上)。さらに、高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)像で断面を拡大し、ナノワイヤが双晶を含む単結晶になっていることを確認した(図2右)。
- 図2.
- 強磁性ナノワイヤの2次元微小角入射X線回折(GI-XRD)パターン(左)。どんぐり型のナノワイヤの断面BF-TEM像(中央左上)、赤丸で撮影したナノビーム電子回折(NED)パターン、超格子回折スポット(赤矢印)と、基本スポット(黄矢印)(中央)。高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)像(右)。
研究の経緯
真島教授のグループでは、数nmスケールの超高速動作が期待される単分子架橋共鳴トンネルトランジスタの安定動作実現に向けた研究を展開しており、これまでに電子線リソグラフィとナノ無電解金メッキを用いるナノギャップ電極構築技術を確立してきた。今回報告した「ナノ構造誘起法」は、このナノギャップ電極構築におけるナノワイヤ作製時の知見を元に発案され、強磁性ナノワイヤの作製手法として確立された。
社会的インパクト
今回開発した「ナノ構造誘起法」は、この方法で作製した強磁性ナノワイヤが単結晶化しており、10 kOeを超える高保磁力を有することから、新しい規則化強磁性ナノワイヤの作製手法としてインパクトが大きい。またスピンデバイス作製に資するため、産業用途への応用が期待される。
今後の展開
今回開発した、新たな強磁性ナノワイヤ作製手法である「ナノ構造誘起法」は、スピントロニクス素子を一般的な半導体基板であるシリコン基板上に直接作製することを可能にするため、工業的な応用価値が高い。今後は、企業などと連携して実用化に向けた研究開発を展開する。
論文情報
掲載誌 : |
Nanoscale Advances |
論文タイトル : |
Nanostructure-induced L10-ordering of twinned single-crystals in CoPt ferromagnetic nanowires |
著者 : |
Ryo Toyama, Shiro Kawachi, Jun-ichi Yamaura, Takeshi Fujita, Youichi Murakami, Hideo Hosono and Yutaka Majima
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DOI : |
- プレスリリース ナノ構造誘起法による強磁性ナノワイヤ—高保磁力単結晶ナノワイヤの新しい作製方法—
- ギャップ長20 nmのナノギャップガスセンサの開発に成功|東工大ニュース
- 分子ワイヤの長距離共鳴トンネル現象を室温で確認|東工大ニュース
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