東京工業大学 リーダーシップ教育院(ToTAL)は、8月5日にオンラインイベント「リーダーシップ・シンポジウム(Leadership Symposium)」を開催し、学内外から72名が参加しました。2021年8月の開催に続き、2回目の開催となりました。今回のシンポジウムは2部構成で、第1部は学生のプレゼンテーション、第2部は98歳にして現役の研究者として活躍されているマサチューセッツ大学アマースト校名誉教授、ハイム・ビー・ガナー博士の基調講演を行いました。
第1部の学生プレゼンテーションでは、学士課程から博士後期課程まで計23名の学生がZoom上でテーマ別に8つのブレイクアウトルームに分かれ、おのおの10分から15分程度でプレゼンテーションと参加者とのディスカッションを行いました。各ルームのテーマは、国際関係、テクノロジー、環境、環境汚染、倫理、ジェンダー平等、健康、教育と多岐に及び、参加者は興味のあるテーマを自由に選択することができました。
最後に、参加者全員がZoomのメインルームに集合し、それぞれのルームのファシリテーターが、グループのプレゼンテーションの概要を全体に共有しました。
第2部は、98歳にして現役の微生物学、バイオテック分野の研究者であるガナー博士が講演し、参加者とのQ&A(質疑応答)セッションを行いました。
博士は、1924年にカナダ・オタワ市で生まれ、現在のゲルフ大学にて学士号を、マニトバ大学にて修士号を取得し、イスラエル北部でキブツ・ササの開拓やエルサレムのベエルシェバでユネスコ後援の乾燥地域研究センター(Regional Center for Arid Zone Research)の設立に貢献しました。その後、米国のコーネル大学で博士号を取得し、当時グアテマラのバナナ生産において大きな被害を与えていた病原菌フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)の画期的な研究に従事しました。博士号取得後はカナダの農業省(Department of Agriculture)でのポスドクを経て、1963年にマサチューセッツ大学アマースト校の微生物学の教員となり、環境社会学部(Department of Environmental Sciences)の設立を主導、研究の傍ら2つの会社を起業し、現在はリドケム社(LidoChem Inc.)にてチーフ・サイエンティストとして仕事と研究を続けています。
講演の冒頭で、博士はイスラエルでユダヤ人の故郷をつくるために、大学で農業の分野に進むきっかけとなった、幼少期の1920年代から1930年代の東欧におけるユダヤ人の迫害といった歴史的背景に触れました。また、細菌学や微生物学への興味、博士号を取得したことやイスラエル、エルサレム、コーネル大学で従事した業務や研究の詳細について話しました。
マサチューセッツ大学では、殺虫剤が土壌や環境にもたらす影響や、微生物や物質など土壌に含まれる全ての要素を、土壌のエコシステムの一部として捉えた生物的防除の研究に携わったことについて説明しました。研究対象の1つであったゴキブリの防除に関しては、昆虫病原性細菌メタリジウムの研究に携わり、生物的防除製品の商品化を目的として初めて起業を行ったこと、起業時や経営上の苦労、自分のアイディアが商品化され、市場に出ることに対する喜びについて参加者へ共有しました。
その後も、大学で研究を継続しながら別の会社を起業したことや、現在リドケム社にて、土壌のエコシステムマネジメントの観点からの農業管理や植物の病気や害虫予防のための微生物の研究を続けていると話しました。
ガナー博士は、自身の経験をもとに下記の3点について特に強調して参加者に伝えました。
- 自身の研究に埋没せず、世界や社会環境で起こっていることに敏感になり、目を向けること。
- そういった世界や社会環境の中で、自身の分野や立場でどういう役割が持てるか、どう役に立てるかを考えるべきであること。
- 自身が認識しているよりももっと大きなエコシステムの中に自身は身を置いているということを認識し、その中で果たすべき重要な役割があるということを意識すること。
基調講演後のQ&Aでは、博士が、起業の夢を持つ学生やアカデミアでキャリアを積みたいと考える学生へのアドバイス、他の研究者と共同研究を行う上での注意点、研究に対するモチベーションが低下した場合の対処法、博士後期課程修了後も画期的な研究を続けていくための方法など、事前に参加者から募った質問に対し回答しました。
事前の質問に限らず、その場でも参加者からの質問を受け付け、現在の混沌とした先行き不透明な世界情勢の中で我々一人一人が何らかのプラスの影響を社会に及ぼすにはどうすればよいか、特定の生態系を全滅させるような菌が発生する可能性などについて語りました。
最後に、今回のイベントの司会進行を担当した国際連合大学のジェローム・サルディード・シラ(Jerome Sardido Silla)研究員がガナー博士と第1部でプレゼンテーションを行った学生ならびに参加者へ、お礼の言葉を述べました。シラ研究員はToTALの元登録生でした。ガナー博士も、今回の講演が良い経験になったという言葉と共に、参加者への感謝の言葉を述べました。
基調講演参加者のコメント
- ガナー博士が質問に対する回答を非常に熱心にしていただき、素晴らしいと思いました。
- ガナー博士のお話を聞いて、刺激を受けると共に、将来に対して楽観的な気持ちになりました。自分がガナー博士の年になっても、博士くらい聡明でありたいと願います。
- ゲストスピーカーの講演内容やアドバイスは素晴らしかったです!
- 講演がよかったです! 刺激を受けました。今後もこのような講演をぜひ開催して欲しいです。
- ガナー博士は非常に熱心に話をしてくださり、大変ためになりました。
- 素晴らしい講演をしてくださったガナー博士に感謝します。研究や起業についていただいたアドバイスを心に留めます。