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小惑星リュウグウは彗星の近くで誕生 内側太陽系から外側太陽系へと旅した高温鉱物をリュウグウから多数発見

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ポイント

  • C型小惑星「リュウグウ」から1,000℃以上の高温環境で形成した鉱物を多数発見。
  • これら高温鉱物は内側太陽系で形成後、外側太陽系まで輸送され「リュウグウ」等の母天体に集積。
  • 「リュウグウ」は、通常の炭素質隕石よりも太陽から遠い、彗星に近い領域で形成。

概要

東京工業大学理学院地球惑星科学系の横山哲也教授、北海道大学大学院理学研究院の川﨑教行准教授及び圦本尚義教授、京都大学白眉センターの松本徹特定助教、東京大学大学院理学系研究科の橘省吾教授らの研究チームは、宇宙航空研究開発機構の小惑星探査機「はやぶさ2」がC型小惑星「リュウグウ」から採取したサンプル中に、初期太陽系の高温環境で形成した鉱物を多数発見しました。

これまでの「はやぶさ2」初期分析により、「リュウグウ」はイヴナ型炭素質隕石[用語1]に類似した物質であり、主に低温(約40℃)の水溶液からの析出物で構成されることが分かっていました。研究チームは、「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石から、高温環境(1,000℃以上)で形成した鉱物を新たに多数見つけ出し、そのうち40粒子について、北海道大学の同位体顕微鏡(二次イオン質量分析計)を用いた分析を行い、その起源を特定しました。その結果、「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石の高温鉱物は、起源の異なる2種にはっきりと分けられました。それら高温鉱物は、内側太陽系の高温環境で形成した後、外側太陽系まで輸送され、「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石の母天体に集積したことが分かりました。

また、2種の高温鉱物の存在比率は、通常の炭素質隕石とは大きく異なっていただけでなく、米国NASAが2004年にスターダストミッションでヴィルド第2彗星から採取したサンプルと非常に似通っていました。このことから、「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石は、通常の炭素質隕石の母天体よりも太陽から遠い、彗星により近い領域で形成したことが分かりました。

なお、本研究成果は、2022年12月16日(金)、Science Advances 誌にオンライン掲載されました。

 現在のリュウグウとヴィルド第2彗星の公転軌道は異なっている。しかし、天体に含まれている高温鉱物の酸素同位体組成は、両者の形成場所が近かったことを示唆している。
現在のリュウグウとヴィルド第2彗星の公転軌道は異なっている。しかし、天体に含まれている高温鉱物の酸素同位体組成は、両者の形成場所が近かったことを示唆している。

背景

これまでの「はやぶさ2」初期分析により、C型小惑星「リュウグウ」は、イヴナ型炭素質隕石に類似した物質であり、主に低温(約40℃)の水溶液から析出した鉱物で構成されることが分かっていました。このような鉱物は、「リュウグウ」の母天体において氷の融解より発生した水溶液が「リュウグウ」に元々あった鉱物を変質させることでできたものです。こうした変質作用が起きたのは、太陽系誕生から約500万年後であったことが分かっています。そのため、それ以前の初期太陽系の情報を得ることはできていませんでした。

そこで研究チームは、「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石の中から、太陽系誕生から約500万年後に起きていた低温の水溶液の変質作用を生き残った初生鉱物(氷が存在していた時代に「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石母天体に含まれていた鉱物)を探索し、その起源を決定しました。

研究手法

「はやぶさ2」が採取した「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石を北海道大学の走査電子顕微鏡で形状観察、化学組成分析し、水溶液の変質作用を生き残った初生鉱物を探索しました。そして、それらの鉱物の起源を特定するために、北海道大学の同位体顕微鏡(二次イオン質量分析計)を用いて、酸素の同位体組成を測定しました。

研究成果

「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石から、かんらん石、輝石、スピネルといった、水溶液の変質作用を生き残った初生鉱物を数十粒子発見しました(図1、2)。これらの鉱物は大変まれに存在し、大きさも数十µm以下と大変小さいものでした。その中から、計40粒子について酸素の同位体組成を測定すると、その同位体組成ははっきりと2つに分かれました(図3)。このうち、惑星型の酸素同位体組成(図3の右上側)を示す鉱物は、内側太陽系で形成したコンドリュール[用語2]と呼ばれる物質を起源とし、一方で太陽型の酸素同位体組成(図3の左下側)を示す鉱物は、約46億年前に原始太陽近傍で形成した難揮発性包有物[用語3]を起源とするものであることが分かりました。それぞれの鉱物は、ともに原始太陽系星雲の1,000℃以上の高温環境で形成したものです。そのような高温鉱物は、高温環境で形成した後に、冷たい外側太陽系領域まで輸送され、「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石の母天体に集積したことが分かりました。また、「リュウグウ」とイヴナ型炭素質隕石とで、高温鉱物の種類や産状は同一であり、「リュウグウ」とイヴナ型炭素質隕石の類似性がより明らかになりました。

図1. 「リュウグウ」から発見した高温鉱物(かんらん石)の例。黄色く光って見える粒は全て高温鉱物。データは電子顕微鏡により取得したMg(赤)―Si(緑)―Fe(青)の合成X線元素マップ。(©Kawasaki et al. 2022)
図1.
「リュウグウ」から発見した高温鉱物(かんらん石)の例。黄色く光って見える粒は全て高温鉱物。データは電子顕微鏡により取得したMg(赤)―Si(緑)―Fe(青)の合成X線元素マップ。(©Kawasaki et al. 2022)
図2. 「リュウグウ」に含まれる高温鉱物の電子顕微鏡写真。左はかんらん石、右はスピネル。(©Kawasaki et al. 2022)
図2.
「リュウグウ」に含まれる高温鉱物の電子顕微鏡写真。左はかんらん石、右はスピネル。(©Kawasaki et al. 2022)
図3. 「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石に含まれる高温鉱物の酸素同位体組成。右上の地球型の酸素同位体組成を示す鉱物はコンドリュールを起源とする。左下の太陽型の酸素同位体組成を示す鉱物は難揮発性包有物を起源とする。(©Kawasaki et al. 2022)
図3.
「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石に含まれる高温鉱物の酸素同位体組成。右上の地球型の酸素同位体組成を示す鉱物はコンドリュールを起源とする。左下の太陽型の酸素同位体組成を示す鉱物は難揮発性包有物を起源とする。(©Kawasaki et al. 2022)

太陽型と惑星型の2種の酸素同位体組成をもつ高温鉱物の存在比率は、通常の(イヴナ型以外の)炭素質隕石のものと全く異なりました。通常の炭素質隕石においては、こういった高温鉱物のうち、太陽型のものは約2%です。一方で今回明らかになった、「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石においては、太陽型が約32%を占めました。このことから、「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石の母天体が形成した領域は、通常の炭素質隕石とは異なっていることが分かりました。

さらに、米国NASAが2004年にスターダストミッションでヴィルド第2彗星から採取したサンプルにおいては、太陽型の割合が約29%であることが分かっています。このヴィルド第2彗星の値は、「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石と非常に似通っています。この類似性から、研究チームは、「リュウグウ」及びイヴナ型炭素質隕石の母天体は、彗星により近い領域で形成されたと結論し、通常の炭素質隕石の母天体よりもさらに太陽から遠い場所であったと考えています。

今後への期待

本研究成果により、「リュウグウ」と他の隕石との形成領域の関係性が明らかになりました。川﨑教行准教授と圦本尚義教授は、米国NASAが2023年に持ち帰るB型小惑星Bennu(ベンヌ)の初期分析チームのメンバーでもあり、本研究手法のBennuサンプルへの応用が期待されます。

前回プレスリリースとの違い

2022年10月21日付けプレスリリース「リュウグウは太陽系の果てからやってきた~リュウグウが持つ原子核合成の記録がリュウグウの誕生地を示唆~」

この研究では、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石の鉄の同位体組成が、通常の炭素質隕石のものとは異なることを発見し、それぞれが異なる場所で形成したことを示唆し、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石の母天体が天王星・海王星領域で産まれたことを予想しました。しかしながら、リュウグウと外側太陽系物質との直接的な比較はできておらず、消去法的な予測に留まっていました。一方今回の研究では、リュウグウとヴィルド第2彗星に含まれる物質の直接比較に成功し、その共通性を明らかにしました。

用語説明

[用語1] イヴナ型炭素質隕石 : 炭素質コンドライト隕石の一つ。地球に存在する数万個の隕石の中でも数個しかない希少なもので、太陽系の平均組成に近い化学組成を示す物質。

[用語2] コンドリュール : 隕石に含まれる球粒状の物質。原始太陽系円盤において、高温のメルトから固化した。

[用語3] 難揮発性包有物 : 隕石に含まれる太陽系最古の物質。原始太陽系円盤の高温のガスから凝縮した。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Oxygen isotopes of anhydrous primary minerals show kinship between asteroid Ryugu and comet 81P/Wild2(無水一次鉱物の酸素同位体組成が示す小惑星リュウグウと81P/Wild2彗星の近親関係)
著者 :
Noriyuki Kawasaki*, Kazuhide Nagashima, Naoya Sakamoto, Toru Matsumoto, Ken-ichi Bajo, Sohei Wada, Yohei Igami, Akira Miyake, Takaaki Noguchi, Daiki Yamamoto, Sara S. Russell, Yoshinari Abe, Jérôme Aléon, Conel M. O'D. Alexander, Sachiko Amari, Yuri Amelin, Martin Bizzarro, Audrey Bouvier, Richard W. Carlson, Marc Chaussidon, Byeon-Gak Choi, Nicolas Dauphas, Andrew M. Davis, Tommaso Di Rocco, Wataru Fujiya, Ryota Fukai, Ikshu Gautam, Makiko K. Haba, Yuki Hibiya, Hiroshi Hidaka, Hisashi Homma, Peter Hoppe, Gary R. Huss, Kiyohiro Ichida, Tsuyoshi Iizuka, Trevor R. Ireland, Akira Ishikawa, Motoo Ito, Shoichi Itoh, Noriko T. Kita, Kouki Kitajima, Thorsten Kleine, Shintaro Komatani, Alexander N. Krot, Ming-Chang Liu, Yuki Masuda, Kevin D. McKeegan, Mayu Morita, Kazuko Motomura, Frédéric Moynier, Izumi Nakai, Ann Nguyen, Larry Nittler, Morihiko Onose, Andreas Pack, Changkun Park, Laurette Piani, Liping Qin, Maria Schönbächler, Lauren Tafla, Haolan Tang, Kentaro Terada, Yasuko Terada, Tomohiro Usui, Meenakshi Wadhwa, Richard J. Walker, Katsuyuki Yamashita, Qing-Zhu Yin, Tetsuya Yokoyama, Shigekazu Yoneda, Edward D. Young, Hiroharu Yui, Ai-Cheng Zhang, Tomoki Nakamura, Hiroshi Naraoka, Ryuji Okazaki, Kanako Sakamoto, Hikaru Yabuta, Masanao Abe, Akiko Miyazaki, Aiko Nakato, Masahiro Nishimura, Tatsuaki Okada, Toru Yada, Kasumi Yogata, Satoru Nakazawa, Takanao Saiki, Satoshi Tanaka, Fuyuto Terui, Yuichi Tsuda, Sei-ichiro Watanabe, Makoto Yoshikawa, Shogo Tachibana, Hisayoshi Yurimoto
*Corresponding author.
DOI :

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2016年4月に発足した理学院について紹介します。

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Tel 011-706-3586

北海道大学 大学院 理学研究院

教授 圦本尚義

Email yuri@ep.sci.hokudai.ac.jp
Tel 011-706-9173

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特定助教 松本徹

Email matsumoto.toru.2z@kyoto-u.ac.jp

東京大学 大学院理学系研究科附属宇宙惑星科学機構

教授 橘省吾

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