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「核時代を生きた科学者 西脇安」展 開催報告

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東京工業大学博物館と原子炉工学研究所及び大学院社会理工学研究科の共催で、特別企画展「核時代を生きた科学者 西脇安」を開催しました。10月11日から3週間にわたって開催され、10月31日に盛況のうちに終了しました。工大祭に合わせて展示を始めましたので、一般の方々にも多く見ていただくことができました。入場者数は、特に東京新聞(10月23日夕刊)で紹介された後に増え、延べ約670名でした。

会場の様子
会場の様子

東京工業大学原子炉工学研究所勤務時代の西脇名誉教授
東京工業大学原子炉工学研究所勤務時代の西脇名誉教授

日本の放射線生物物理学の草分けの一人である西脇安(にしわき・やすし 1917年~2011年、東工大名誉教授)。その生涯を通じて彼は、放射線被ばくと原子力の問題に向き合ってきました。核時代の黎明期に日本陸軍の原爆開発に参加し、ビキニ核実験時には「汚い水爆」の解明につながった「死の灰」の調査とその海外への発信、さらに国内外の原子力政策に関与し、福島原発事故の報道の中で他界しました。本企画展では西脇の足跡を辿り、核時代を生きた一科学者が、どのように信念を貫き、社会と関わったかを考えました。

原水爆禁止運動を主導した英国の核物理学者ロート ブラット(Joseph Rotblat)は、パグウォッシュ会議とともにノーベル平和賞(1995)を受けましたが、そのきっかけを作ったのが西脇名誉教授だったことはあまり知られていません。そこで、英国BBCアーカイブズやケンブリッジ大学チャーチルアーカイブズ、さらには米国ラスベガスの核実験博物館で最近発見された西脇名誉教授の手紙や原稿などの展示を通して、その業績に光を当てました。

また、米国が太平洋のビキニ環礁で初めての水爆実験を行い、近海で操業していた日本のマグロはえ縄漁船(第五福竜丸など)が被災し、死者まで出したビキニ事件から60年が経過しました。人々の記憶も次第に薄れつつありますが、東京都立第五福竜丸展示館の好意で、第五福竜丸の模型や当時の「死の灰」の現物等を借用して展示することができ、インパクトのある内容になりました。

第五福竜丸の放射能を実際に測定し、その強さに驚いた西脇名誉教授は、4ヶ月かけてヨーロッパ各国を回り、悲惨さを訴えました。さらに、核の専門家との議論を通して、ビキニの核実験は従来の単純な原爆ではなく、驚異的な破壊力に加え強い放射能を撒き散らす新型の水爆であること、そしてそれが人類の存続を脅かすものであることを世界に知らしめるきっかけを作ったのです。

なお、展示は3部構成になっていましたが、専門的な内容については、それぞれ以下の科学史家の方々に担当いただきました。

1.
西脇安とビキニ事件(中尾麻伊香 慶應義塾大学特別研究員)
2.
ビキニ事件をヨーロッパへ伝える(山崎正勝 東京工業大学名誉教授)
3.
原子力と西脇安(樋口敏広 京都大学白眉センター助教、栗原岳史 東京工業大学大学院社会理工学研究科研究員)

感謝の会

感謝状の贈呈
感謝状の贈呈

会期中の10月14日午後、西脇名誉教授の資料を寄贈いただいた奥様の栄様に、大谷清館長より感謝状を贈呈しました。ご親族の方々もお見えになり、若き日の西脇名誉教授の様子をうかがうことができ、偲ぶ会のひとコマのような場面もありました。

記念シンポジウム

回顧のみではなく将来を展望するために、10月24日午後、大学院社会理工学研究科価値システム専攻 池上雅子教授をオーガナイザーとして、記念シンポジウム「ポストフクシマの原子力・核不拡散と科学技術」を開催しました。会場は、百年記念館3階フェライト記念会議室でした。

記念シンポジウムの様子。左から、山崎名誉教授、池上教授、井頭教授
記念シンポジウムの様子。左から、山崎名誉教授、池上教授、井頭教授

3名のパネリストが登壇し、まず、山崎正勝 東京工業大学名誉教授が、「核時代を生きた科学者 西脇安」と題し、西脇名誉教授の生涯や業績と、山崎名誉教授がリーダーになって進めている「西脇プロジェクト」の概要を紹介しました。

次に、井頭政之 原子炉工学研究所教授は、「東工大・原子炉研の最先端研究」と題し、日本の原子力開発の歴史と西脇名誉教授の立場を概観した後に、本学の原子炉研における最先端研究を紹介しました。具体的には、核廃棄物の核変換処理技術の開発や、福島原発事故廃棄物の処理などに言及しました。

最後に、池上雅子 大学院社会理工学研究科価値システム専攻教授は、「西脇安と核問題」と題し、時代状況を概観した上で、西脇名誉教授は現代が必要としている思慮深い現実主義的専門家だったと分析しました。永井陽之助 東京工業大学名誉教授と並ぶ、稀有なリアリストで、日本版ケネス・ウォルツ(国際政治学者、カリフォルニア大学バークレー校名誉教授)とみなせるのではないかとのことでした。

講演に続いて、参加者にも加わってもらい議論を深めました。

特別企画展「核時代を生きた科学者 西脇安」のパンフレットは、百年記念館2階 博物館事務室で現在も配布中です。

お問い合わせ先

東京工業大学博物館
Email: centshiryou@jim.titec.ac.jp
TEL: 03-5734-3340


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