11月9日、東京工業大学のHisao & Hiroko Taki Plaza(ヒサオ・アンド・ヒロコ・タキ・プラザ:以下Taki Plaza)地下2階イベントスペースと大階段において、「生きる」-大川小学校 津波裁判を闘った人たち-のフィルム上映会が開催されました。
本上映会は、復興支援や防災活動などに取り組む東工大学生ボランティアグループ(以下、東工大VG)が企画運営を担い、リベラルアーツ研究教育院と共催で行われました。本学の学生やその家族、教職員、地域住民など総勢113人(本学学生38人、教職員28人、その他学外の人など47人)が来場し、映画を通して東日本大震災を思い起こし、改めて防災について考え直す機会となりました。
このドキュメンタリー映画は、東日本大震災の津波で多数の犠牲者※が出た大川小学校(宮城県石巻市)の遺族たちが、「なぜわが子が学校で最期を迎えたのか」の事実と理由を知るために闘った10年間の記録です。
※全校児童の7割に相当する74人の児童(うち4人は未だ行方不明)と10人の教職員
東工大VGが本上映会を企画した背景には、震災から12年以上が経過し記憶が風化しつつあることが懸念される中、大川小学校で起きた一連の出来事の「実際」を知るとともに、参加者一人ひとりに防災・減災について考える機会を提供することで、学内外の防災意識の向上と、その波及効果を期待する思いがありました。
上映前には、司会を務める東工大VGメンバーの松尾祥汰さんから上映会の趣旨と東工大VGの活動について簡単な説明がありました。さらに、「石巻市立大川小学校国家賠償等請求に係る訴訟」において原告遺族代理人を務めた齋藤雅弘弁護士から、遺族の思いと裁判の流れ、映画の製作背景と意図について話がありました。この登壇は、上映会開催を知った齋藤弁護士自身からの申し出を受けて実現したものです。「同情ではなく共感してほしい」という齋藤弁護士の言葉には、「齋藤弁護士の話を聞いてから映画を観られたのが良かった」という感想が多く寄せられました。
124分の映画上映中、自ら捜索し亡き我が子と対面した親御さんの手記や、行政と遺族が対峙する緊迫の場面などを来場者は真剣な眼差しで観ていました。
上映後は、東工大VGメンバーの松永葵さんが、映画を観て感じたことを自分の立場を踏まえて述べ、また、来春に計画している、大川小学校をはじめとした宮城県の震災遺構や伝承館を訪問するスタディツアーについて紹介し、上映会は幕を閉じました。
会場内には閉会後も残って来場者アンケートに記入する人や齋藤弁護士と話をする人の姿が見られ、このドキュメンタリー映画を通して、防災だけでなく、教育や裁判など社会のさまざまな側面、組織や人としての在り方などについて考えを巡らせる有意義な時間になりました。
来場者アンケートから
被害者しかいないはずなのに、加害者が生まれる構図が苦しかった。
親と先生、両方の気持ちをすごく考えてしまった。
震災という悲劇の中でなお問わねばならない「責任」というものを考えさせられた。
自分や組織の過失を心から謝罪できるような公正さを忘れずにいたい。
「学校が子どもたちの最期の場所になってはいけない」という言葉が印象に残った。
「命の値段」を決めなければならない日本の裁判はつらい。
司法での勝訴に原告は救われ、裁判官の言葉に「人道」を感じていたのが印象的だった。
ぜひ今後も同様にドキュメンタリー映画を上映するイベントを行ってほしい。
東工大VGメンバーのコメント
松尾祥汰さん(工学院 情報通信系 学士課程4年)
普段は情報通信分野における信号処理や連続最適化に関する数理的な研究を行っており、研究活動以外では東工大VGのほかに、東工大ピアサポーターとしても活動しています。
本上映会では、司会を務めさせていただく一方で、私自身も一人の参加者として映画を鑑賞いたしました。「生きる」は、大川小学校津波裁判に至る過程を記録するだけでなく、ご遺族の方々が被災直後から現在まで、どのように「生きる」ことに向き合ってきたのかを丁寧に描いており、「自分がこの立場だったら、どのように思い、どのような行動をするだろうか」と想像する場面が多々ありました。
いつ起きるかわからない自然災害から、自分と大切な人の命を守るためには、事前にさまざまな事態を想定し備えをすることが大事です。そのこと自体は多くの人が理解していても、実際に行動できる人は多くないかもしれません。司会という立場から参加された方々の真剣な様子を感じ、本上映会を通じて命を守ることの難しさと、そのために自分に何ができるのかを、一人ひとりが考える時間になったのではないかと考えています。
松永葵さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 修士課程2年)
私は防災事業に興味を持ち、大学で土木を学びたいと思いました。現在は、水害対策を中心に河川の研究をしています。東日本大震災発生時、私も小学校の教室にいました。東北からは離れた地域でしたが、あの日の先生や親、そして自分自身の行動をよく覚えています。映画を見て、当時を重ねて自分だったらどうしただろうかと考えました。同時に、これから先、立場が変化した自分だったらどうするか、何ができるのかも考えさせられました。
これまで災害に対する準備や避難の意思決定について考えることはありましたが、その前後にある調査や裁判に至った遺族の思い、背後にある人間関係や組織の構造までは想像すらできていませんでした。私たちが今からできること、やるべきことを考えたいと思いました。
東工大VG(学生ボランティアグループ)
学生支援センター未来人材育成部門所属の学生団体で、東日本大震災の津波で流された写真を洗浄する活動をきっかけに誕生し、復興支援・防災活動・地域連携を軸に、学内外でさまざまなボランティア活動を展開しています。具体的な活動としては、工大祭およびホームカミングデイでの被災地復興支援物産展、学内防災訓練の補助、こども食堂、教科書・参考書の寄付・譲渡の仲介(古本市)などがあります。週1回Taki Plazaにてランチミーティングを行い、現在は被災地訪問スタディツアーなどを計画しています。
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