東京工業大学は、中高生を対象にしたワークショップ「パズルで始める量子アニーリング」を2023年12月29日に渋谷スクランブルスクエアビル41階の会場にて対面形式で開催し、2024年1月7日にはオンライン形式で開催しました。
量子アニーリングとは、量子の性質を利用した独特な計算手法です。イベントには全国の中学1年生から高校3年生まで合計40人が参加し、量子アニーリングの計算原理や実用例を学んだ上で、身の回りでどのような問題を解くことができるかアイデアを出し、議論しました。
量子コンピューティング関連教育は、親しみを深めるフェーズから、より能動的・実践的なフェーズに移りつつあります。このような情勢を踏まえて本イベントでは、実践的なエンジニアリングスキルを獲得して実問題を解決するためのアイデアを出すこと、さらにキャリア選択を見据えた量子コンピュータ業界の知識を獲得することを目的としました。
参加者はまず、古典コンピュータ(普通のコンピュータ)と量子アニーリングマシン※1の動作原理の違いを学びました。次に、シミュレータを備えた特設のパズルサイトを通じて、アニーリング計算に特有の定式化方法を習得しました。「組合せ最適化」をアニーリングで解くには、通常ある程度の専門知識とプログラミングスキルが必要ですが、このパズルサイトは、中高生が取り組みやすいように身近な場面を題材にして、PC操作もマウスクリックで丸や線をつなぐような簡易な操作のみで、“定式化”に集中できるように設計されています。
TA(ティーチング・アシスタント)のサポートもあり、参加者の習得は早く、出題された全20問を時間内に解いた人もいました。サイトではプログラミング言語Python(パイソン)のコードも出力でき、学習をスムーズに発展させていくことができます。
ワークショップ中盤にはblueqat株式会社の湊雄一郎CEOが特別講演を行い、量子コンピュータ業界の動向を説明した他、仕事のやりがいと難しさ、エンジニアの日常、就職に必要なスキルなどを紹介しました。その後グループワークを行い、家庭や学校内のアニーリングで解けそうな問題を提案・議論しました。両日合わせて100件以上のアイデアが出され、希望者がグループを代表して発表も行いました。
アイデアの一部抜粋
- 遊園地のアトラクションを回る順番(距離、荷物の量、ショーの開始時刻を考慮)
- 家庭菜園で作る野菜のローテーション(配置と連作障害を考慮)
- 席替え(話をしたことがない人同士を近い席にする)
- 株式ポートフォリオ(新NISA開始を受けて)
参加者からは、「企業が実際に解いた難しい問題でも、構造は意外とシンプルだったことに驚いた」「グループワークが一番楽しかった。具体的な事例を知ることが話し合いのヒントになった」などのコメントがありました。講演者の湊CEOからは、「この(量子コンピュータの)分野では数学や物理をたくさん利用します。一つ一つの技術は高校で習ったことが基礎になっているので、今のうちからしっかり自分のものにして、キャリア選択の幅を広げてほしい」と参加者への激励がありました。
本イベントは、資料監修と会場提供はblueqat株式会社、パズル問題の作成はビネット&クラリティ合同会社(「東工大発ベンチャー」称号授与企業)の支援を受けて開催されました。
一般に量子コンピュータと呼ばれる量子ゲート方式のマシンではなく、イジングマシン方式に分類されるアニーリングマシン(D-wave)を題材にしました。