東京工業大学は、40歳未満の若手研究者に対し基礎研究資金を支援する「大隅良典基礎研究賞」の2023年度受賞者を決定し、1月24日にすずかけ台キャンパスで授賞式を行いました。
本賞は、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授からの寄附をもとに東工大が設立した「大隅良典記念基金」を原資に、2018年度に「大隅良典基礎研究支援」として立ち上げられ、2023年度から名称を「大隅良典基礎研究賞」に変更しました。本支援は長期的な視点が必要な基礎研究分野における若手研究者支援を目的として研究費の支援を行います。前身の「大隅良典基礎研究支援」から数えて第6回目となる今回は20人の応募があり、3人が採択されました。
授賞式では益一哉学長から本学の基礎研究賞の取り組みについて説明があった後、大隅栄誉教授から祝辞が贈られました。また、受賞者と益学長、渡辺治理事・副学長(研究担当)などの審査員に大隅栄誉教授を交えた懇談が行なわれ、受賞者が現在取り組んでいる研究テーマ等について活発な意見交換が行われました。
2023年度「大隅良典基礎研究賞」受賞者
研究課題:後続波形状の系統分類と地震波動伝播解析に基づく地殻流体分布の時空間変化の実態解明
地球には表層だけでなく、その内部にも水やガスといった流体が存在します。特に、地殻における地殻流体は、地震活動に大きく影響しています。ゆえに、地殻流体の動きを数km・数時間という高分解能で捉えることが重要ですが、従来法では困難でした。そこで本研究では、震源から放射された地震波が地殻流体により反射・散乱され生じる「後続波」の波形形状変化に着目します。後続波はその発生源に対し特に感度を持つため「地殻流体の動き」を捉える上で有益です。今回ターゲットにするのは、秋田県森吉山地域で観測される後続波です。この地域で観測される後続波に関して、波形形状が数種類に時間変化することが報告されており、その主要因として後続波の発生源における地殻流体の動きが指摘されていました。本研究では、後続波形状の分類と、それらに対応する後続波の発生源の形状を地震波動伝播シミュレーションで探索することで、地殻流体の動きを捉えます。
研究課題:宇宙で一番重い星の作り方
夜空を彩る星々の中には、太陽の100倍以上の質量を持つ「超大質量星」も存在します。これら超大質量星が放つ強烈な紫外線は、周囲のガスを吹き飛ばしてしまうため、それほど大きなガス質量がどのようにして獲得されたかは長らく謎でした。ところが近年、「円盤降着」が重要な鍵となることがわかってきたのです。この過程では、高密度のガス円盤により紫外線は円盤上下方向へとそらされつつ、大量のガスが中心星に供給されることが期待されています。本研究では、磁場、輻射、ダスト微粒子などの物理過程を考慮した数値シミュレーションを通じて、円盤降着と紫外線フィードバックのダイナミクスを解析します。さらに最高性能電波望遠鏡アルマを使用した国際観測プロジェクトと連携することで、「円盤降着による超大質量星誕生」の検証を目指します。
研究課題:内部応力実測に基づく土の乾湿繰返し劣化機構の解明-土構造物の未来の維持管理を目指して-
気候変動の影響はさまざまな場所に及んでいますが、地盤も例外ではありません。特に表層は激しい乾燥と湿潤の繰り返しを受けるため、亀裂の発生と災害への寄与が顕著になることが予想されます。開口した亀裂では雨水が浸透しやすくなり、土の強度が低下します。本研究は、亀裂の発生過程とそれに伴う土構造物の劣化初期段階のモデル化と予測法の構築を目的とします。新しい試験法を使って、これまで測ることができなかった亀裂発生時の土の内部応力を明らかにします。亀裂の駆動力である応力を介して、目視では観察できない微細・内部の亀裂の発生を正確に捉えることができます。また測定値と比較検証することで、応力の予測値が信頼できるモデルの構築が可能になります。新たなリスクである亀裂を適切に考慮した安定性評価の実現を目指し、応力の実測に基づいて亀裂の挙動を明らかにします。環境・社会の変化に合わせ、土構造物の維持管理技術のアップデートに貢献します。
大隅良典記念基金
2016年、「オートファジーの仕組みの解明」によりノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授からの寄附を基に設立した基金です。将来の日本を支える優秀な人材育成のため、経済的支援を必要とする学生が本学で学ぶための修学支援(奨学金)、並びに長期的な視点が必要な基礎研究分野における若手研究者支援の推進など、研究分野の裾野を拡大することを目的としています。
「基礎研究支援」は、若い人がチャレンジングな課題に取り組める環境整備や次世代を担う研究者の育成支援を、大隅栄誉教授が要望したことに基づき発足した賞で、2023年度から「大隅良典基礎研究賞」と名称を変えてさらに幅広い支援を行っています。
東工大は大隅良典記念基金をさらに充実させるため、寄附を受け付けています。
関連リンク
- 2022年度「大隅良典基礎研究支援」授与式を開催|東工大ニュース
- 「大隅良典基礎研究支援受賞者進捗報告会・懇談会」を開催|東工大ニュース
- 2021年度「大隅良典基礎研究支援」授与式をオンラインで開催|東工大ニュース
- 2020年度「大隅良典基礎研究支援」授与式をオンラインで開催|東工大ニュース
- 大隅良典基礎研究賞|研究・産学連携本部
大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。
「大隅良典記念基金」は、大隅栄誉教授がノーベル賞を受賞したことを機に、将来の日本を支える優秀な人材の育成などを目的として設立されました。学生の修学支援や若手研究者の研究支援などに活用します。