東京工業大学では、9月18日~19日に東京都多摩市の「多摩永山情報教育センター」において一泊二日の学部・大学院Faculty Development(FD)研修を実施し、教員60名が参加しました。研修では、学内外の講師の先生方の講演に加え、個別のテーマに従ってグループごとにワークショップを行い、最後に各グループの検討内容の報告・討論を行いました。最後まで活発に意見が交わされ、今年度のFD研修も成功裏に終わりました。
FD研修の歴史と概要
FD研修実施委員会 委員長 河内 宣之 (化学専攻 教授)
副委員長 松澤 昭 (電子物理工学専攻 教授)
大学教育の質的な向上などを目的とした活動であるFaculty Development(FD)の必要性が認識され、多くの大学で実施されています。FDとは狭義では、大学教員の教育能力の開発を組織的に行う取り組みのことであり、広義では、大学全体の教育目標の設定、それに基づくカリキユラムの開発、教育・学習を中心とした組織開発をも含むとされています。
本学では13年前からまず工学部でFD研修をスタートさせ、引き続き他の学部でも同様に開始されました。その実績を基に、7年前からは全学教員を対象としたFD研修を実施しています。5年前からは教育推進室に置かれたFD検討ワーキンググループ(WG)が担当し、"理工系総合大学としての東工大らしいFDとは何か?"という標題を掲げて活動してきました。昨年度からは、FD検討WGが、FD研修実施委員会と装いをあらためて、WGのミッションを引き継いでいます。
今年度は、FDの原点に立ち戻り、大テーマ「より良い授業を目指して」を掲げることとし、9月18日~19日の二日間にわたり、多摩永山情報教育センターにて学部・大学院FD研修を実施しました。プログラムは話題提供、講演、参加教員によるワークショップでの議論により構成しました。アクティブラーニングなどの新しい授業形態の紹介も盛り込みました。講師の先生およびワークショップ座長の教員からの報告の一部を、以下に掲載します。その場の雰囲気や熱気を幾分なりとも感じていただければ幸いです。
「授業設計の基本と新しい教育技法」
室田 真男 人間行動システム専攻 教授
アクティブラーニングという言葉が様々な所で聞かれるようになってきています。アクティブラーニングとは、グループディスカッション、ディベート、グループワーク等の学習者の能動的な参加を取り入れた教授方法の総称です。本講演では、アクティブラーニングの教授方法を紹介し、授業をよりよくする方法を知って頂くことを目的としました。
よりよい授業を行うためには、新しい教授法を取り入れる前に、しっかりした授業設計がなされることが大前提になります。そこで本講演では、まず最初に授業設計の基本として、「学習目標」「評価」「教育内容・方法」の3要素が連携したデザインが重要であることを説明しました。アクティブラーニング実現のために、ディスカッション等の活動を取り入れさえすればよい訳でないことに注意が必要です。
次に、アクティブラーニングを促すための教育技法について、代表的なものを紹介しました。クリッカー・小テスト・大福帳等を用いる「教員と学生とのインタラクティブ型学習」、学生相互の教え合い・学び合いを促す「ピアインストラクション学習」、ポストイットを活用した「グループ学習」、映像メディアや学習支援システムを活用した「反転学習」などです。なお、新しい教育技法を取り入れても従来の「講義型」が否定されるわけではなく、「講義型」が適切な場合があることも示しています。
本講演で紹介した教育技法は、通常の教室でも活用できるものも多くあります。それぞれの授業にあった教授方法を取り入れ、よりよい授業を実現して頂ければ幸いです。
討論テーマ「教育手法について(アクティブラーニング、反転授業、英語での講義法)」
ワークショップグループ1 座長 芹澤 武 有機・高分子物質専攻 教授
本グループは、アクティブラーニング、反転授業、英語での講義法といった三つの教育手法についての議論を通じ、それらの利点や教育改革に向けた今後の課題について意見交換しました。以下、それぞれについて報告します。
アクティブラーニングについては、高い教育効果が得られることが期待されるため、メンバーの大半がその実施に賛成でした。代表的な手法であるグループディスカッションは、学生が自ら考えるために有効である一方、テーマの設定方法に加え、議論の方向性を誘導する必要性などが課題として挙げられました。
反転授業については、この手法をはじめて聞くメンバーもあり、効果的であることは理解できるものの、経験不足のためその効果を予測することは難しいとの結論に達しました。予習、復習の習慣づけや、授業資料の準備支援の必要性などが課題として挙げられました。
英語での講義法については、すでに英語で授業が行われている専攻の例が紹介され、留学生に好評であることや自然と英語力が向上することなど、効果の高さをメンバーが認識し、導入には概ね賛成でした。一方で、学生の英語力不足、教員のスキル不足、教員の負担増などが課題として挙げられました。
以上をまとめるかたちで、これらの教育手法についてより深く理解すること、教科に応じて導入の程度をバランスよく検討すること、教員に対するトレーニング・システムが必要であることを本グループから提案しました。
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