1月28日、東京工業大学大岡山キャンパス西8号館E棟10階大会議室にて、シンポジウム「グローバル社会をいかに生き抜くか~企業と大学に求められる「工学力」~」が開催されました。このシンポジウムは、大学院情報理工学研究科情報環境学専攻が平成23年度より実施している「高度専門教育のためのOPLを核とした情報環境教育・研究システムの展開」プロジェクトの関連行事です。企業関係者、教員、学生、一般をあわせて、およそ80名の参加があり、活発な議論がなされました。
「高度専門教育のためのOPLを核とした情報環境教育・研究システムの展開」プロジェクト
情報環境学に関連する問題は、人間・機械-都市-地域-地球スケールの要因が複合的に作用し、その解決には、組織・専門分野の垣根を越えた研究の推進と、それに対応する教育を行う必要があります。そのために、企業や研究機関などと連携し、On the Project Learning(OPL)を核とした教育・研究システムを通じて、複合環境問題に対する問題解決志向を持つ人材育成を行うプロジェクトです。
シンポジウム「グローバル社会をいかに生き抜くか~企業と大学に求められる「工学力」~」
はじめに、情報環境学専攻長 廣瀬壮一教授が開会の挨拶として、本シンポジウムの趣旨と今年度は「国際化」をテーマとして設定した旨を述べました。
基調講演「海外建設工事におけるリスクマネジメント」
続いて、清水建設株式会社 国際支店副支店長 北直紀氏より「海外建設工事におけるリスクマネジメント」というタイトルで基調講演をいただきました。北氏は、日本と世界を行き来し、建設現場の最前線でご活躍中です。世界情勢の変化と海外建設市場の動向を踏まえ、Team Japan から Japan Initiative を目指し、日本以外の企業とも連携して事業を推進していくことについてのお話がありました。日本企業の競争力は何かを知るとともに、大切なことはリスクマネジメントであり、リスクのない仕事はないこと、いかにリスクを料理するか(と向き合うか)が重要であると指摘されました。海外においては、日本国内では考えられないようなリスク(例えば、戦争による破壊や工事可能時間が非常に限られてしまった事例、異常な物価上昇等)が発生することを写真とともに紹介いただきました。また、個人の知を組織の知へと培っていき、同じ失敗を違う人が繰り返さない「学習する組織」へと成長していくことの重要性や、海外は契約社会であり日本の考え方を中心に世界を見てはいけないなどのお話がありました。一方で、契約社会であっても最後は人間関係とのお話もあり、英語(語学力)だけでないコミュニケーション能力の重要さを指摘されました。
基調講演「サイエンスをテクノロジーに、国境を越えた智の競争」
基調講演の2人目は、シチズンホールディングス株式会社開発部の橋本信幸氏です。「サイエンスをテクノロジーに、国境を越えた智の競争」というタイトルで講演をいただきました。グローバル市場における研究開発について、EUにおける国際標準化戦略や米国におけるオープン標準化戦略、アジアにおける産業政策転換の状況を鑑み、ものづくりにおける日本型新しいビジネスモデルの構築を目指すお話がありました。具体的な事例として、光を自在に制御するオンリーワン技術について、サイエンスをテクノロジーとして実用化していった過程を紹介いただきました。実際の開発現場は泥臭い作業が多く、試行錯誤を繰り返すこと、リスクは必ず事前に検討すること、計画通りに世の中が動くと思っていてはいけないという、まさに現場でのご体験を踏まえたお話がありました。国内外を問わず、競争相手はライバルであって仲間であり、志を同じにする人と出会い懇親を深めるため、仲間作りのためのコミュニケーション能力が重要だと指摘されました。
情報環境学プロジェクトの成果報告会
第2部では、情報環境学専攻修士1年の学生が行ってきた、情報環境学プロジェクトの成果報告会が行われました。国内企業連携班が6班と、海外からの留学生と本専攻学生との混成チームによる国際班が2班の合計8班に分かれ、口頭報告を実施しました。タイトルと連携企業は下記のとおりです。
国内企業連携班
- 1班「駅構内対応 ナビゲーションシステム」連携企業 清水建設
- 2班「イベントお知らせアプリ」連携企業 JR東日本
- 3班「災害時の適切な避難指示アプリ」連携企業 NEC
- 4班「データを利用した食生活支援システム」連携企業 NTTデータ
- 5班「災害時!助け合いアプリ」連携企業 ベクトル総研
- 6班「おもてなし The Movie」連携企業 富士通
国際班
- 1班「Investigation of methods to model a human lung undergoing FOT to aid in disease classification based on impedance results」
- 2班「The Design and Analysis of a Novel Neck Protective Gear for Road Cyclists」
各班がそれぞれの問題意識に取り組み、協力企業の方々から多くのアドバイスをいただいて、プロジェクトとしての成果をまとめ上げました。学生からは、社会に通用するために必要な視点を持つことの重要性に気がついたとの意見や、プロジェクトを遂行するためのポイントや仲間と協力するためのコミュニケーションについての意見が出ました。また、企業の方々からは、柔軟な発想を具現化していくためのプロセスについての意見や、社会が求める工学力の実践として非常に良いプロジェクトであった等の意見をいただききました。
最後に情報環境学専攻 笹島和幸教授より総評が行われ、プロジェクトの開始時と比較してどれだけ増分を各々が作成できたか、社会に対して論理性を持った価値の創造を行うことに取り組めたかどうか、振り返って欲しいと締めくくりました。
お問い合わせ先
OPL事務局
Email : opl@mei.titech.ac.jp