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博士後期課程学生への新たな経済的支援制度「東京工業大学つばめ博士学生奨学金」を創設

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東京工業大学は、2019年4月から授業料改定注1を行います。このことを受けて志のある学生が経済的状況により本学で学ぶ機会を逸することがないように、産学連携や寄附金等による自己収入を財源とした独自の給付型奨学金「東京工業大学つばめ博士学生奨学金」を創設し、2019年4月から支援を開始することとなりました。意欲と能力をもつ優秀な志ある学生が博士後期課程進学に伴う経済的負担を過度に懸念することなく専心勉励できるよう、大学として支援していきます。

注1 2019年4月以降の学士課程入学者、および2019年9月以降の大学院課程(修士課程、専門職学位課程、博士後期課程)入学者の授業料について、学士課程、大学院課程とも現行の授業料535,800円(年額)を635,400円(年額)に改定します。

つばめ博士学生奨学金創設の経緯

本学は、従前より「世界最高の理工系総合大学」の実現を目指しています。そのためには、国際競争力のある若手研究者・技術者の育成が必要不可欠な最重要事項であると考え、これまでもTA(ティーチング・アシスタント)・RA(リサーチ・アシスタント)制度を活用し、教育・研究補助業務を行ったことへの対価を支給することで、博士後期課程学生に授業料相当額の経済的支援を行ってきました。

国の第5期科学技術基本計画においても、科学技術イノベーションの基盤的な力の強化の一環として博士後期課程学生に対する経済的支援の充実の方針が示され、また、本学は、学士-修士-博士一貫教育を提案して2018年3月に文部科学省から指定国立大学法人に指定されました。こうした流れを受けて従来の支援制度の見直しを行い、経済的理由によらず全博士後期課程学生を対象とした新たな給付型の奨学金制度を創設することとなりました。これにより、さらに多くの博士後期課程学生が経済的支援を受けることができるようになります。

これまでの実績によると博士後期課程在籍学生の概ね50%の学生が受給対象者となると想定され、従前のTA・RA制度での支給に比べ、受給対象者が25%以上増加します。

参考:博士後期課程学生全体におけるつばめ博士学生奨学金受給対象者等の割合

参考:博士後期課程学生全体におけるつばめ博士学生奨学金受給対象者等の割合

※上記割合は、平成29年度の博士後期課程学生数を基にした試算

つばめ博士学生奨学金の概要

授業料免除を受けている学生やTA・RA制度対象者も受給が可能な制度であり、経済的困窮者については授業料相当額以上の経済支援を受けることができます。

1.支給対象者

原則として、2018年4月以降に博士後期課程に入学・進学した全学生注2を対象に、標準修業年限まで支給します。

注2 支給の対象としない者 日本学術振興会特別研究員・国費外国人留学生・外国政府派遣留学生等の制度により他の奨学金を受け取ることができないとされている者、社会人として会社等に所属しており定職についている者、標準修業年限を超過(特段の事情がある場合を除く)した者等は受給対象となりません。

2.給付額

博士後期課程1年目には対象者全員に一般奨学金(年額480,000円)を、2年目以降注3は一般奨学金の他、特に優秀な学業成績を修めた学生(対象奨学生の20%程度)に対して一般奨学金の代わりに授業料相当額の特別奨学金(年額635,400円)を支給します。

注3 例外対応とする学年 2018年4月入学の博士後期課程学生は2019年4月時点で2年目相当になりますが、制度の転換期の対応として2019年度は一般奨学金対象者となります。なお、2018年4月入学の博士後期課程学生に対して、2018年度分の遡り支給は行いません。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


本館前 桜並木の土壌改良

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大岡山に春が来た、と教えてくれる東工大大岡山キャンパス本館前の桜並木。毎年、学位記授与式や入学式に合わせるかのように満開になります。

伝統を守るための手入れは欠かせません。1月25日から2月5日までウッドデッキを一部取り外し、土壌改良を行いました。今年もきれいに咲いてくれるでしょう。

冬の本館前桜並木(2019年1月撮影)

冬の本館前桜並木(2019年1月撮影)

経緯

本館前のウッドデッキには16本のサクラ(ソメイヨシノ)が並んでいます。1950年に植樹され2020年には樹齢80年を迎えます。サクラも高齢になると枯れ枝が目立ち、活力や開花にも陰りが出てきます。早期治療は樹木にも必要です。2016年には、ウッドデッキを外し土を入れ替え、16本すべての樹勢回復処置を行いました。

ところが、本館から見て右側5番目のサクラが2018年春ごろから樹勢が衰え、沢山の枯れ枝が発生しました。夏から秋にかけて何度か施肥や灌水を行い生育状態を観察してきましたが、改めて土壌改良を実施することになりました。

対象となる桜の木
対象となる桜の木

工事前の根元の様子
工事前の根元の様子

土壌改良の方法と時期

ウッドデッキを取り外し、作業を開始
ウッドデッキを取り外し、作業を開始

サクラの木々を守るために作られたウッドデッキを外し、木の周りを立ち入り禁止にした上で、長さ12 m幅9 m程度の範囲を表層20 cmの土をサクラの根を傷めないように圧縮空気を使いながら、土壌改良材と有機質肥料を混入させました。

また数か所円筒状に土を掘り、根の深いところにも土壌改良材を投入しました。

落葉期の1月~2月が最も効果的であることから、その期間に実施しました。

土壌改良の作業の様子(つぼ堀・埋め戻し作業、円筒状に土を掘り土壌改良材等を投入する)
土壌改良の作業の様子
(つぼ堀・埋め戻し作業、円筒状に土を掘り土壌改良材等を投入する)

土壌改良の作業の様子(水極め作業、念入りに水をやる)
土壌改良の作業の様子(水極め作業、念入りに水をやる)

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

吉田尚弘教授が米国地球物理学連合フェロー授賞式に出席

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物質理工学院 応用化学系の教授で地球生命研究所主任研究員の吉田尚弘博士は、12月12日に米国・ワシントンDCのウォルター・E・ワシントン国際会議場で開催された米国地球物理学連合(American Geophysical Union, AGU)授賞式に出席し、AGUフェローのメダルを授与されました。

AGUのエリック・デイヴィドソン会長(左)からメダルを授与される吉田教授

AGUのエリック・デイヴィドソン会長(左)からメダルを授与される吉田教授

AGUは米国の首都に本部を持つ地球・宇宙科学分野の国際的な組織で、世界の137の国と地域に約6万人の会員を有し、創立100年の歴史を持つこの分野で世界最大の学術連合です。AGUは1962年以来、全会員の中で0.1%以内の、地球・宇宙科学分野に偉大なる貢献をした会員を相互に選出し、AGUフェローとして顕彰してきています。2018年はAGU創立100周年にあたり、授賞式および招待講演は、2万8,500人を超える会員が参加した秋季大会outerの中日に行われました。過去100年を振り返り、今後の100年を見通す記念すべき大会の様子はデイヴィドソン会長の記事に記されています。

吉田教授のコメント

本受賞は賞状に記載されているように、生物地球化学者および大気化学者として、同位体置換分子種の計測法を開発し、生元素の起源と循環の研究に貢献してきたことが認められたものです。

本研究のアイデアは本学学生当時から持ち続けたもので、恩師、研究室の皆さん、国内外の共同研究者、学生の皆さんと政府系研究支援機関に心よりお礼申し上げます。また、教員として戻り20年以上、自由闊達に研究させていただいた本学の皆様に厚くお礼申し上げます。受賞は、AGUとしても記念すべき創立100周年にあたり、通常の年は受賞年が示されるのと異なって、100周年記念のメダルとなっています。

吉田教授に贈呈されたメダルとラペルピン、および賞状

吉田教授に贈呈されたメダルとラペルピン、および賞状

吉田教授に贈呈されたメダルとラペルピン、および賞状

お問い合わせ先

物質理工学院 応用化学系 教授

吉田尚弘

E-mail : yoshida.n.aa@m.titech.ac.jp

平成30年度「大隅良典基礎研究支援」授与式を開催 大隅良典記念基金による初めての基礎研究支援

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平成30年度「大隅良典基礎研究支援」授与式が1月25日、すずかけ台キャンパス大学会館にて行われました。

1月25日の欠席者に対し、2月1日に学長室にて授賞式を行いました。

支援採択者との記念撮影(1月25日)

支援採択者との記念撮影(1月25日)
(前列左から太田健二准教授、渡辺治理事・副学長(研究担当)、大隅栄誉教授、益一哉学長、水瀬賢太准教授。後列左から吉田啓亮助教、相川清隆准教授、家永紘一郎助教)

支援採択者との記念撮影(2月1日)

支援採択者との記念撮影(2月1日)
(左から益学長、平原徹准教授、渡辺理事・副学長(研究担当))

「大隅良典基礎研究支援」は、累計3億円近くのご支援をいただいている「大隅良典記念基金」を原資にしています。本支援は長期的な視点が必要な基礎研究分野における若手研究者支援を目的として研究費の支援を行うもので、2018年9月に立ち上げられました。

大隅良典基礎研究支援の概要

対象

以下の1、2の条件を両方満たす研究提案であること。

1.
本学に雇用されている教員、特任教員、研究員で、平成30年4月1日現在に40 歳未満で、以下の要件を満たす者が原則として単独で行う研究であること(予算措置を伴わない研究協力者との共同研究は可とする。その他条件あり)。
2.
研究の性格が基礎研究であること。
研究支援期間
原則支援開始日より1年間。
ただし、研究計画によっては2年間の計画申請まで可能。
支援申請額
1件あたり250万円まで。
ただし、支援金額は審査により決定し、また提案内容に応じて別途考慮することがある。

平成30年度は38名の応募があり、6名が支援採択者として選考されました。

平成30年度「大隅良典基礎研究支援」授与者一覧

所属
職名
氏名
研究課題
キーワード
理学院
物理学系
准教授
相川 清隆
真空中の単一ナノ粒子を用いた量子状態の生成
巨視的なレベルでも量子状態が存在するのかの探求
理学院
物理学系
助教
家永紘一郎
2次元超伝導薄膜の極低温下熱応答測定による渦糸ボース凝縮の検出
渦糸ボース凝縮発見への挑戦
理学院
物理学系
准教授
平原徹
単層FeSeの超伝導特性の基板表面依存性:高温超伝導の起源解明に向けて
高温超伝導の起源解明への挑戦
理学院
化学系
助教
水瀬賢太
分子動画撮影に基づくシュレーディンガー方程式に対する実験的解法の開発
波動関数を見る
理学院
地球惑星科学系
准教授
太田健二
X線CT技術を用いた地球中心圧力までの鉄の融点決定
地球の中心温度の解明への挑戦
科学技術創成研究院
化学生命科学研究所
助教
吉田啓亮
光合成を抑制するタンパク質酸化メカニズムの解明
光合成機能を夜に抑制するしくみ

授与式は記者を交えて開催され、支援採択者に対して益学長から支援採択通知書が手交されました。また、益学長より本学の基礎研究支援の取り組みについて説明した後、大隅栄誉教授より、社会が基礎科学を支える重要性についてお話がありました。

大隅栄誉教授メッセージ

若手研究者への期待を述べる大隅栄誉教授
若手研究者への期待を述べる大隅栄誉教授

まずは、採択された6人の方おめでとうございます。いくつかお話をさせていただきます。1つはこの基金(大隅良典記念基金)の経緯なんですが、私はノーベル賞の賞金をもとに、大学がとってもヘテロな(異なる)人たちの集団であってほしいと思い、高校生の東工大入学者の支援をしようということからスタートしました。前学長である三島先生、益先生のご意向で若手の基礎研究の支援をこの基金でやろうということになったのが、今日の(大隅良典基礎研究支援の)最初の取り組みでありました。先ほども益学長からお話があったように、この基金にはたくさんの寄附をいただいている、とりわけ東工大の卒業生がこの基金に寄附いただいて、当初の額から3倍ほどになったというのが現在です。私はこれまでずっと、基礎科学は国が支えるもんだと思ってまいりましたが、海外でも人間の歴史を考えてみても社会全体が支えてきたものだという気がしていて、こういう基金のような形で研究が支えられるというのはこれからの1つの方向性なんだろうと思っています。

2つ目は、若い人たちが元気でないとこの国は亡びるよと言い続けていて、若い人たちが伸びやかに自分の好きなことをやり続けて欲しいと思っています。これで全てを支援できるわけではありませんが、第一歩としてこういう助成が設立されたのは、東工大の中でもとっても素晴らしい試みだろうと思っています。先ほどの懇談会で、(採択者に)自分のやりたいことを明確に表明していただいて、とっても嬉しく思いました。私は先月、中国の深圳(シンセン)に行く機会がありました。深圳はご存知のように、「世界のミラクル」と中国では特に言われている地域で、40年前には(常住)人口が30万人だったのが、今では1,250万人になったんですね。その平均年齢がなんと33歳なんです。ものすごい勢いで若い人たちが結集して研究に励んでいる、まぁ隣の国がそういう状況だということを私たちも十分に考えておかないといけません。若い人たちが十分に研究できる環境を作らないといけないし、若い人には何が何でも頑張ってほしいなぁと思います。

授与式に先立ち、支援採択者と益学長、渡辺理事・副学長(研究担当)等の審査委員、大隅栄誉教授を交えた懇談会が開催され、活発な意見交換がなされました。

懇談会の様子

懇談会の様子

東京工業大学は、今後も日本の礎となる基礎研究に対する支援を続けていきます。

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お問い合わせ先

研究企画第1グループ

E-mail : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7688

平成31年度前期日程試験を受験される方へ

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平成31年度前期日程試験

平成31年2月25日(月) ~ 2月26日(火)

期間中キャンパス内への関係者以外の立ち入りを制限させていただきます。

注意事項

所定の試験日程による試験実施が困難になるような不測の事態が発生した場合、「高校生・受験生向けサイト」の新着入試情報で情報発信しますので、定期的に確認をお願いします。

試験場へのアクセス

試験場は以下の2つの会場があります。先に公表している「(前期日程)試験場、受験上の注意等PDF」にあるとおり、受験番号によって試験場が異なりますので、お間違えのないように今一度ご確認ください。

受験番号 10001 ~ 13612 :東京工業大学 大岡山キャンパス

東急大井町線・目黒線 「大岡山駅」下車 徒歩1分
中央改札を出て左手に進み、マクドナルド前の横断歩道を渡るとすぐに正門があります。

受験番号 13613 ~ 14222 :東京工業大学 田町キャンパス(附属科学技術高等学校)

JR山手線・京浜東北線「田町駅」下車 徒歩2分
芝浦口(東口)方面に進み、右手エスカレーターを降りてすぐ右手に正門があります。

地下鉄都営三田線「三田駅」下車 徒歩5分
A4口を出て、JR田町駅方面へ。以下同上。

なお、試験室等の詳細を記載した試験場案内については、2月22日(金)に「高校生・受験生向けサイト」の新着入試情報に掲載しますので、確認をお願いします。

平成31年度前期日程試験を受験される方へ

温室効果ガスを有用な化学原料に転換 低温活性で長寿命な組みひも状の触媒を創成

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要点

  • メタンと二酸化炭素から化学原料を製造するには高温過程が必要で燃料消費が問題だった
  • 低温活性で長寿命な触媒を創成し、プロセスの低温化を実現した
  • 天然ガスの有効利用と地球温暖化抑止への突破口として期待される

概要

JST戦略的創造研究推進事業において、物質・材料研究機構の阿部英樹主席研究員、高知工科大学の藤田武志教授、東京工業大学の宮内雅浩教授らの研究グループは、物質・材料研究機構の橋本綾子主任研究員と共同で、金属・セラミックス複合材料のナノ相分離構造[用語1])のトポロジー[用語2])を操ることにより、メタン(CH4)と二酸化炭素(CO2)から有用な合成ガス[用語3])(一酸化炭素と水素の混合ガス)を製造するメタンドライリフォーミング(DRM)[用語4])に対して優れた低温触媒活性と長寿命特性を発揮する触媒材料の創成に成功しました。

メタンは、天然ガスの主成分であると同時に主要な温室効果ガスでもあります。DRMは、メタンと二酸化炭素を化学原料に転換することができるため、天然ガスの有効利用と地球温暖化抑止の観点から注目されています。しかし、低温(600度未満)で特に顕著なコーキング[用語5])(副生成物としてすすが出ること)による触媒反応装置の栓塞を避けるため、現状のDRMは800度超の高温過程を必要とします。そのため、主に燃料消費や装置寿命の問題から、工業規模での実用化には至っていません。

研究グループは、金属相のニッケル(Ni)と酸化物相のイットリア(酸化イットリウム、Y2O3)がナノ繊維状で組みひものように互いに絡み合う特殊なトポロジーを備えた「根留触媒(Rooted Catalysts)[用語6])」を創成し、Ni#Y2O3(ニッケル・ハッシュタグ・イットリア)と名付けました。Ni#Y2O3触媒活性中心[用語7])であるNiは、Y2O3内部に広く根を張り巡らしているため、粒子マイグレーション[用語8])に伴う失活を受けにくいという特性があります。この根留触媒により、従来の触媒材料では困難とされていた低温領域(500度未満)において、コーキングを効果的に抑止し、長時間(1,000時間以上)安定的にDRMを駆動することに成功しました。

本成果は、天然ガスの有効利用と温室効果ガス低減への突破口となりえます。シェールガスなどの非在来型化石燃料の市場拡大や新興国の経済成長に伴って、今後も温室効果ガスの排出が続き、地球規模の気候変動は苛烈化が進むと予測されています。これに対し、開発した触媒は大きな抑止力を発揮すると期待されます。

本研究成果は、2019年2月22日(英国時間)に国際科学誌「Chemical Science」のオンライン版で正式に公開され、後日出版される号の表紙を飾る予定です。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:
「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」(研究総括:上田渉 神奈川大学 教授)
研究課題名:
「高効率メタン転換へのナノ相分離触媒の創成」
代表研究者:
阿部英樹(物質・材料研究機構 主席研究員)
研究開発期間:
2015年10月~2021年3月

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域:
「革新的触媒の科学と創製」(研究総括:北川宏 京都大学 教授)
研究課題名:
「触媒設計に向けたIn-situ TEM観察による活性点の微視的解明」
研究者:
橋本綾子(物質・材料研究機構 主任研究員)
研究開発期間:
2017年10月~2021年3月

研究の背景と経緯

一酸化炭素と水素の混合ガスは、これを出発点として合成ガソリンやアルコールなどさまざまな化学製品が合成される化学原料として知られています。従来、木炭や石炭を高温で水蒸気改質することによって生成されてきました。これを、メタンと二酸化炭素の混合ガスから合成するメタンドライリフォーミング(DRM)が、天然ガスの高効率利用と地球温暖化抑止の観点から、近年注目されています。

DRMはこれまで、コーキングを避けるために高温条件下(800度超)で行われてきましたが、燃料消費量が多いため実用化には至っていません。そこで、プロセスの低温化(600度未満)が求められていました(図1)。

メタンドライリフォーミングの現在(左)と本研究により実現される未来(右)

図1. メタンドライリフォーミングの現在(左)と本研究により実現される未来(右)


触媒反応の低温化により、燃料消費と温室効果ガス低減を実現する。

DRMの主反応(CH4+CO2=2CO+2H2)は、特に低温領域(600度未満)において炭素析出反応(2CO=固体炭素+CO2およびCH4=固体炭素+2H2)と強く競合します。析出した固体炭素は触媒の失活と原料ガス気流の閉塞をもたらし、結果として生産効率が下がり、反応装置が劣化します。炭素析出を抑えることは、低温活性・長寿命DRM触媒の開発における最重要課題の1つでした。

これまでの研究では、セラミックス粒子または多孔体の表面に金属微粒子を分散、担持させた複合材料(担持触媒)に対して、化学組成、粒子または細孔のサイズ、あるいは晶癖(結晶の形状)を調整し、金属-セラミックス界面における析出炭素分解・除去機能を強化することが図られてきました。しかし、表面に担持した金属微粒子が凝集して、金属-セラミックス界面の面積が減ってしまい、長時間安定的に炭素析出を抑えることは実現していませんでした。

研究の内容

本研究では、担持触媒を開発する従来の考え方とは異なり、DRM触媒材料におけるナノ相分離構造のトポロジー(位相幾何学的絡み合い)を制御することによって、望みの触媒機能(低温活性と炭素析出抑制)を実現しました。

研究グループは、合金を前駆体として、混合ガス中加熱処理によって金属と酸化物がナノスケールで相分離することを促進し、金属相と酸化物相とが繊維状で組みひものように絡み合う特殊なナノ相分離構造をした「根留触媒(Rooted Catalysts)」を独自に創成しました(図2)。

根留触媒Ni#Y2O3の合成プロセス

図2. 根留触媒Ni#Y2O3の合成プロセス


金属ニッケルと金属イットリウムを高温で溶かし合わせ、ニッケル・イットリウム合金をつくる。ニッケル・イットリウム合金を昇温(~700度)下で一酸化炭素・酸素混合気流にさらすことにより、金属・酸化物ナノ相分離が促進され、根留触媒Ni#Y2O3が得られる。酸素によってイットリウムがイットリア(酸化イットリウム)に変わる一方、一酸化炭素がニッケルを金属状態に保つ。

具体的には、ニッケル・イットリウム合金を前駆体として、一酸化炭素・酸素混合ガス中で加熱処理することにより、極細繊維状のニッケル(Ni)相と極細繊維状のイットリア(Y2O3)相の組みひもからなる根状の組織がY2O3粒子内部深くに張り巡らされ、しかも表面のそこかしこから露頭しているという、独特のトポロジーを持った根留触媒「Ni#Y2O3(ニッケル・ハッシュタグ・イットリア)」を作製しました(図3)。

根留触媒Ni#Y2O3のミクロ構造とナノ相分離構造

図3. 根留触媒Ni#Y2O3のミクロ構造とナノ相分離構造


a)Ni#Y2O3粒子の外見。走査電子顕微鏡像。
b)Ni#Y2O3粒子の断面図。走査電子顕微鏡像。
c)Ni#Y2O3粒子の断面図。走査電子顕微鏡による拡大像。
d)Ni#Y2O3粒子のナノ相分離構造。走査型透過電子顕微鏡による元素分布像。

従来の触媒材料では困難だった低温領域(500度未満)において、この根留触媒は長時間(1,000時間以上)安定的にDRMを駆動したことから、低温活性で長寿命な触媒としての効果を確認しました。

根留触媒は、金属相と酸化物相とがナノ繊維状で組みひものように互いに絡み合う特殊なトポロジーによって、触媒反応における粒子マイグレーションや熱凝集が抑止され、高活性な金属-セラミックス界面が保持されると考えられます。その結果、炭素析出を抑える機能と低温でのDRM触媒活性を、長時間にわたり安定的に発揮します(図4、5)。

根留触媒Ni#Y2O3によるメタンドライリフォーミング

図4. 根留触媒Ni#Y2O3によるメタンドライリフォーミング


a)従来型触媒(アルミナ担持ニッケル:Ni/Al2O3とイットリア担持ニッケル:Ni/Y2O3)および根留触媒Ni#Y2O3によるDRM反応の時間経過。活性を示す指標として縦軸に一酸化炭素生成率を、横軸に反応経過時間を示す。反応温度450度、ガス組成:メタン/二酸化炭素/アルゴンガス=1/1/98。ガス流量:100立方センチメートル/分。触媒量:100ミリグラム。
b)反応後の触媒材料。反応開始20時間後のNi/Y2O3は大量のコーキングによって体積が100倍近く増えているのに対し、反応開始後1,300時間のNi#Y2O3は体積増がほとんど認められない。
c)反応開始6時間時点でのNi/Y2O3とNi#Y2O3それぞれの走査型電子顕微鏡像。Ni/Y2O3には大量の繊維状カーボン(カーボンナノチューブ:CNT)が生成しているのに対し、Ni#Y2O3には有意のCNT生成は認められない。

根留触媒がコーキングを抑える仕組み

図5. 根留触媒がコーキングを抑える仕組み


a)従来型触媒(アルミナ担持ニッケル:Ni/Al2O3)表面におけるCNT生成の反応その場透過電子顕微鏡観測像。
b)5秒おきのスナップショット。担持ニッケル粒子が材料表面をはい回り(マイグレーション)、マイグレーションの軌跡として、CNTが伸長していく。
c)最終的には、ニッケル粒子を頭部に含む、ミミズのような形態のCNTが多数成長する。
d)根留触媒Ni#Y2O3は、担持触媒とは異なり、触媒活性中心(ニッケル)が酸化物相(Y2O3)と絡み合ってトポロジー的に固定化されているため、マイグレーションが起きず、その結果、CNTの伸長が阻害される。

今後の展開

本成果は、天然ガスの利用効率向上と温室効果ガス低減への突破口となりえます。シェールガス[用語9])などの非在来型化石燃料の市場拡大や新興国の経済成長に伴って、地球規模の気候変動は今後も進むと予想されています。開発した触媒は、これに対して大きな抑止力を発揮すると期待されます。

また、複雑なトポロジーを持つ根留触媒材料のナノ相分離構造を解明できれば、材料のナノ構造をトポロジー制御することによる新しい触媒機能の創発が期待されます。本研究で実現した、合金を前駆体とした混合ガス中加熱処理による金属・酸化物ナノ相分離構造の自発形成は、独創無比の材料創成プロセスともいえます。研究グループは今後、この新しい概念をさらに開拓することを目指します。

用語説明

[用語1] ナノ相分離構造 : いくつかの成分からなる物質が熱的に不安定な状態に置かれたときに発生する相分離構造のうち、特にそのサイズがマイクロメートル以下の構造を指す。

[用語2] トポロジー : 「位相幾何学」と訳される。辺の長さや角度など定量的な概念を幾何学的対象から排除してもなお残される、「かたちの本質(結ばれたひもと結ばれていないひもの比較など)」を議論する数学体系。メビウスの輪、クラインのつぼなどの概念が有名。

[用語3] 合成ガス : 一酸化炭素と水素からなる混合ガス。これを出発点として、合成ガソリンやアルコールなどさまざまな化学製品が合成される。従来、木炭や石炭を高温で水蒸気改質することによって生成されている。

[用語4] メタンドライリフォーミング(DRM) : メタン転換反応の1つ。理想的な反応式は(CH4+CO2=2H2+2CO)。実際の反応条件下では、逆合成ガスシフト反応(CO2+H2=H2O+CO)など複数の反応が競合する。天然ガスの主成分であると同時に主要な温室効果ガスでもあるメタンと二酸化炭素を化学原料に転換することができるため、天然ガス有効利用と地球温暖化抑止の観点から注目されている。

[用語5] コーキング : メタンやエタンなどを含むほとんどの炭化水素系反応に例外なく付随する、副生成物として固体炭素を析出する現象。特に低温領域(600度未満)において顕著となる。甚だしい場合には反応装置の栓塞・破壊をもたらす。

[用語6] 根留触媒(Rooted Catalysts) : ナノ繊維状のニッケル(Ni)金属相とイットリア(Y2O3)酸化物相が組みひものように互いに絡み合う特殊なナノ構造を備えた触媒材料。従来の、金属粒子が酸化物表面に貼り付けられた構造を持つ材料とはトポロジー的に異なる。担持触媒は通常、金属/酸化物のように、スラッシュ(/:何かが何かの上に載っているさまを表象)を用いることで短縮記号化される。根留触媒は、金属#酸化物のように、ハッシュタグ(#:何かと何かがひものように絡み合っているさまを表象)によって記号化した。

[用語7] 触媒活性中心 : 所与の触媒反応に対し、中核的な作用を示す材料部位を指して「活性中心」と呼ぶ。担持触媒における金属微粒子表面・界面がこの名で呼ばれることが多い。対する担持体表面は、通常、活性中心とは呼称されない。

[用語8] マイグレーション : 与えられた表面上を、表面に対して大きさの小さい粒子状の実体が、加熱や電場印加によって広範囲にわたって小虫のようにはい回る現象を指す。実際の担持触媒では、担持されている金属微粒子がもともとの位置から粒子数十個分以上遠方までマイグレーションする場合があることが知られている。

[用語9] シェールガス : 粘板岩層(シェール)の隙間に貯留された、メタンやエタンを主成分とする化石燃料の1つ。存在自体は古くから知られていたが、この10年、技術の進歩により、特に北米を中心として、商業ベースでの採掘が可能になった。石油や天然ガス、石炭など在来型化石燃料と対比して、非在来型化石燃料の代表とされる。

論文情報

掲載誌 :
Chemical Science
論文タイトル :
Topologically Immobilized Catalysis Centre for Long-term Stable Carbon Dioxide Reforming of Methane
(トポロジー的に固定された触媒活性中心による長時間安定ドライリフォーミング)
著者 :
Shusaku Shoji, Xiaobo PENG, Tsubasa Imai, Paskalis Sahaya Murphin Murphin Kumar, Kimitaka Higuchi, Yuta Yamamoto, Tomoharu Tokunaga, Shigeo Arai, Shigenori Ueda, Ayako Hashimoto, Noritatsu Tsubaki, Masahiro Miyauchi, Takeshi Fujita and Hideki Abe
DOI :
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物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点
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東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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極低消費電力のデジタル位相同期回路を開発 IoT社会を支える電子部品

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要点

  • 電子機器に組み込むデジタル位相同期回路[用語1]の低消費電力化を実現
  • サブサンプリングとサンプリングを組み合わせて従来よりも60%の電力削減を実現
  • エネルギー効率を重視するSoCなどへの応用を期待

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の岡田健一准教授らの研究グループは、極低消費電力で動作する分数分周タイプ[用語2]のデジタル位相同期回路(PLL、phase locked loop)の開発に成功した。これは、PLLの通常のサンプリング動作にサブサンプリング動作[用語3]を組み合わせることで実現した。これまでサブサンプリング動作により低消費電力化が可能な反面、稀に誤った周波数を出力する問題があった。それを動作時間の短い周波数同期回路を用いることで問題を解決した。

開発したPLLは、最小の配線半ピッチ(幅)65 nm(ナノメートル)のシリコンCMOSプロセス[用語4]で試作し、265 μWの極低消費電力で動作することを確認した。これまでに報告された分数分周タイプのデジタルPLLに比べ、60%の消費電力削減を実現。このPLLは、エネルギー効率を重視するSoC[用語5]などのシステムへの応用が期待される。

研究成果は、2月17日~21日に米国サンフランシスコで開催される「ISSCC 2019(国際固体素子回路会議)」で発表される。

本研究開発の成果の一部は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」の結果得られたものである。

研究の背景・意義

昨今の高いエネルギー効率を目指すSoCなどのシステムにおいて、低消費電力CMOSの大規模集積回路(LSI)技術の重要性は高まりつつある。特にPLLは、例えば通信分野のキャリア生成やプロセッサ、メモリ等へのシステムクロックの生成など多岐にわたり必須の回路であり、性能を維持したまま低消費電力化する技術が不可欠だ。

分数分周タイプのデジタルPLLは、PLL自身の低消費電力化や小面積化などを期待されこれまで多くの検討がなされているが、いまだ500 μW未満の動作消費電力は、実現されていなかった。近年、PLLの低消費電力化、低ジッタ化を図るサブサンプリング技術の応用も提案されているが、ノイズなどによる出力周波数変動で、PLLが同期から外れてしまう、あるいは出力周波数がリファレンス周波数の整数倍異なる周波数に同期してしまうなど誤動作が生じやすいことが課題となっている。誤動作は、周波数同期回路(FLL、frequency locked loop)をPLL内に実装することで、サブサンプリング動作中のPLLの周波数を常時モニタすることで回避できるが、FLLは常時動作しているためにPLLの消費電力の増大を招くことになる。(図1)

サブサンプリングPLLの誤動作の例

図1. サブサンプリングPLLの誤動作の例

研究成果

開発したデジタルPLLは、サブサンプリング動作とサンプリング動作を組み合わせることで低消費電力化とPLLの誤動作回避を両立している。図2に提案するPLLの概念図を示す。サンプリング動作時にPLLの周波数がリファレンス周波数REFに同期すると、PLLの動作モードは消費電力の少ないサブサンプリング動作に切り替わる。このサブサンプリング動作時の誤動作を解消するため、PLLにはODZ検出回路[用語6]とFLLが実装されている。ODZ検出回路はPLLの同期が外れた状態を検出し、PLLの動作モードを自動的にサンプリング動作に切り替える。また、FLLは、PLLが所望ではない周波数に同期した状態を検出し、PLLの動作モードをサンプリングモードに切り替える。通常のFLLは常にエネルギーを消費するため消費電力増大を招くが、本提案ではFLL内のカウンタの動作デューティ比[用語7]を0.5%にまで低下させるFLLの間欠動作を実現し、消費電力削減を実現した。通常のFLLを用いたサブサンプリングPLLと比較し、開発したPLLはサブサンプリング動作時の消費電力をおよそ70%削減できることがシミュレーションで確認されている。

提案する分数分周タイプのデジタル位相同期回路のブロック図

図2. 提案する分数分周タイプのデジタル位相同期回路のブロック図

サブサンプリングとサンプリングの組み合わせ技術に加えて、ここではデジタルPLLの要素回路であり、通常PLL全体の消費電力の大部分を占めるデジタル制御発振器(DCO)[用語8]デジタル時間変換器(DTC)[用語9]の低消費電力化も実現した。これはPLL全体の動作時消費電力の削減に貢献している。

提案する分数分周デジタルPLL回路は図3に示すように最小配線半ピッチ(幅)65 nmのシリコンCMOSプロセスで試作された。PLLの性能要約を表1に示す。試作されたPLLは10 MHzのリファレンス周波数から2.05~3.10 GHzの出力周波数を生成する。動作時の消費電力は265 μWであり、これまでに報告されている分数分周デジタルPLLの中で最も低消費電力である。またPLLのジッタ特性[用語10]を表すFoM[用語11]でも-236.8 dBという良好な値を達成した。図4に提案するPLL及び先行研究にて提案されたPLLの、動作時の消費電力に対するFOMを示す。一般的にPLLのジッタ特性と消費電力はトレードオフの関係にあるが、提案するPLLはジッタ特性を維持したまま、つまり出力信号の品質を維持したまま低消費電力化を実現していることを実証した。

開発したPLLのチップ写真

図3. 開発したPLLのチップ写真

表1. 開発したPLLの性能要約


 
This Work
ISSCC'17
ISSCC'14
ISSCC'18
Output Frequency (GHz)
2.20 - 2.80
1.8 - 2.5
2.1 - 2.7
2.0 - 2.8
Power (μW)
265
673
860
980
FoM (dB)
-236.8
-235.8
-236
-245.6
PLLのFoM vs. 消費電力

図4. PLLのFoM vs. 消費電力


今後の展開

本研究で開発されたデジタルPLLは高いエネルギー効率を必要とするアプリケーションの実現に貢献すると期待される。例えば、近年広がりを見せるIoT(モノのインターネット)においては、近い将来にIoT機器の個数が1兆個にも及ぶと予測している。多くのIoT機器は電池などの電源が必要で、その中で、いかに電池の寿命を延命し電池交換のメンテナンスコストを低下させるかがIoT社会の実現の鍵を握っている。現状のIoT機器は通信時に最も電力を使い、その通信回路の中でもPLLは消費電力の大部分を占める。開発した超低消費電力PLLを適用することで、例えば、3 mW程度の消費電力であるレシーバの消費電力は約半分程度になると予想される。

発表予定

この成果は2月17日~21日にサンフランシスコで開催される「2019 IEEE International Solid-State Circuits Conference (ISSCC 2019) : 2019年米国電気電子学会 国際固体素子回路会議」における講演セッション「Session 16 – Frequency Synthesizers」において、「A 265 μW Fractional-N Digital PLL with Seamless Automatic Switching Subsampling/Sampling FeedBack Path and Duty-Cycled Frequency-Locked Loop in 65 nm CMOS (265 μWで動作する分数分周デジタルPLL)」の講演タイトルで、現地時間2月19日午後1時30分から発表する。

講演

講演セッション :
Session 16 –Frequency Synthesizers
講演時間 :
現地時間2月19日午後1時30分
講演タイトル :
A 265μW Fractional-N Digital PLL with Seamless Automatic Switching Subsampling/Sampling FeedBack Path and Duty-Cycled Frequency-Locked Loop in 65nm CMOS (265 μWで動作する分数分周デジタルPLL)
ISSCC会議情報 :

用語説明

[用語1] 位相同期回路 (PLL : Phase-Locked Loop) : 集積回路中では正確な周波数基準が作れないため、水晶発振器による基準周波数frefを用い、それをN逓倍して所望周波数N・frefの周波数の信号を得る。PLLには、位相周波数比較器、チャージポンプ、ローパスフィルタを用いるアナログPLLと、時間差デジタル変換器(TDC)とデジタルローパスフィルタを用いるデジタルPLL(オールデジタルPLLとも呼ばれる)が知られている。

[用語2] 分数分周PLL : PLLには、整数分周型と分数分周型がある。整数分周型PLLでは基準信号に対して整数倍の周波数を出力するが、分数分周型では分数倍の任意の周波数の出力が可能である。例えば、水晶発振器から入力される基準クロック周波数が26 MHzの場合、整数分周PLLでは2,418 MHz(93倍)、2,444 MHz(94倍)、2,470 MHz(95倍)の生成が可能であるが、分数分周PLLでは2,442 MHz(93.923倍)のような任意の小数精度の逓倍動作が可能である。BLE等の無線通信用には、整数分周型ではなく分数分周型のPLLが必要である。アナログPLLでは分数分周型を比較的容易に実現できるが、低消費電力化で有利なデジタルPLLにおいて分数分周型のものはジッタ特性が劣化しやすく実現が難しい。

[用語3] PLLのサブサンプリング動作 : 周波数逓倍器を介さないループにより位相を同期させるPLLの動作。通常のPLLのサンプリング動作と比較してPLLの出力信号は周波数逓倍器によるノイズの影響を受けないために高精度化が望めるが、水晶発振器による基準周波数frefN逓倍した所望周波数N・frefの周波数の信号を得るためにFLLが必要となる。

[用語4] CMOSプロセス : N型とP型のMOSFETを相補的に用いた集積回路であり、バイポーラプロセスと比較し消費電力の削減と高い集積率を実現したプロセスである。近年の集積回路はほぼCMOSプロセスとなっている。

[用語5] SoC(System on Chip) : プロセッサやメモリ、その他システムを実現するために必要となるすべての回路が集積された集積回路。

[用語6] ODZ(Out-of-deadzone)検出回路 : PLLが同期した状態とはPLLへの基準信号とPLL内信号の位相偏差ΔΦが小さくなり、PLLの不感帯(deadzone)に収束した状態を指す。ΔΦが不感帯より外れるとPLLループの負帰還が働きΔΦは不感帯内に収束する。本提案PLLはΔΦが不感帯内にある場合サブサンプリング動作を行い、Φが不感帯から外れるとサンプリング動作を行うが、この動作モードの切り替えのためにΔΦが不感帯から外れた状態を検出するOut-of-deadzone検出回路が必要となる。

[用語7] 動作デューティ比 : 必要時のみ動作しそれ以外の時間は待機状態にある間欠動作をする回路に関して、動作している時間と待機状態にある時間の比を示す。一般的な回路は動作時に待機時以上の電力を消費することから、この動作デューティ比を低下させることが回路の消費電力低下につながる。

[用語8] デジタル制御発振器 (DCO :Digitally Controlled Oscillator) : デジタル制御値により発振周波数が変化する発振回路。PLLの発振周波数とリファレンス周波数の偏差に応じてDCOに与えるデジタル制御値が決まり、偏差を低下させるようにDCOの発振周波数は変化する。PLLの出力周波数はDCOの発振周波数と一致する。

[用語9] デジタル時間変換器 (DTC : Digital-to-Time Converter) : デジタル制御値により、遅延時間が変化する可変遅延回路。デジタル制御遅延回路(DCDL, Digitally-Controlled Delay Line)とも呼ばれる。PLLなどの幅広い回路で利用されている。

[用語10] ジッタ特性 : クロックの重要な特性の一つで、クロック信号の立ち上がりまたは立ち下りタイミングが揺らぐ現象で、本来のタイミングからのずれが統計的にどれぐらいの幅を持つかで評価する。ジッタが小さいほど、クロックの揺らぎが小さい状況を示す。クロックを生成している発振器の位相雑音特性に大きく依存し、位相雑音が低いほど、ジッタも小さくなる。

[用語11] FoM : FoM(Figure of Merit)の略で、消費電力で規格化したジッタ性能を示す。ジッタと消費電力はトレードオフの関係にあり、発振器の消費電力を増やすとジッタが減少し、消費電力を減らすとジッタが増加する。

FoMは、ジッタの標準偏差(σt)と消費電力PDCを用いて、以下の式で定義される。

FoM(Figure of Merit)の定義される式

ジッタ特性が同じでFoMが10 dB小さければ、消費電力が10分の1であることに相当する。

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

岡田健一 准教授

E-mail : okada@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3764 / Fax : 03-5734-3764

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東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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5G向けミリ波無線機の省面積化に成功 安価な集積回路で実現、5G無線機の低コスト化に貢献

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要点

  • 伝送速度を向上させる二偏波MIMO対応の28 GHz帯5G向けフェーズドアレイ無線機を開発
  • 安価で量産可能なシリコンCMOS集積回路チップにより実現
  • 双方向性トランシーバ技術は5Gだけでなく様々な無線通信に適用可能

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の岡田健一准教授らは、第5世代移動通信システム(5G)[用語1]に向けた28ギガヘルツ(GHz)帯フェーズドアレイ[用語2]無線機を開発した。5G用の安価で量産が可能なシリコンCMOS(相補型金属酸化膜半導体)チップで製作した無線機は、双方向性トランシーバ[用語3]を用いることでCMOSチップの省面積化を実現し、CMOSチップで構成される無線機では世界で初めて5Gの信号を用いた二偏波MIMO[用語4]の通信に成功した。

開発した無線機は65 nm(ナノメートル)世代のシリコンCMOSプロセスで製作し、送信と受信の経路を共有することで無線機の構成要素であるトランシーバの面積を約半分にし、従来と比べて同じ面積のCMOSチップ内に2倍の数のトランシーバを搭載することに成功した。

本研究成果は、大型化・高コスト化しがちな二偏波MIMOに対応するフェーズドアレイ無線機の小型・低コスト化を可能にし、5Gの普及を大きく加速させる成果といえる。

研究成果の詳細は、2月17日から米国サンフランシスコで開催される「ISSCC 2019(国際固体素子回路会議)」で発表される。

本研究開発は総務省SCOPE(戦略的情報通信研究開発推進事業、受付番号175003017)の委託を受けて実施した。

開発の背景

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、第5世代移動通信システム(5G)の実用化を目指した研究開発が活発化している。背景には、スマートフォンやタブレット端末の普及に伴い、高精細動画サービスなどによるデータ通信量が急激に増大していることや、IoT(モノのインターネット)や自動運転などの新技術により、無線通信に対しても多様な性能が求められるようになっていることがあげられる。

このような要求に応えるため、5Gでは、従来用いられているより10倍以上高い周波数帯であるミリ波[用語5]を用いる無線通信技術の導入が計画されている。特に、5G用の周波数帯として、準ミリ波帯の26.5 GHzから29.5 GHz(28 GHz帯)の利用が検討されており、従来の100倍以上速い毎秒10ギガビットのデータ伝送速度の実現が目標とされている。その中で、電波の利用効率を上げながら伝送速度を上げるために、水平偏波と垂直偏波のふたつの直交した偏波を用いる二偏波MIMOの適用が期待されている。

課題

5Gで用いられるミリ波の通信では、伝搬損失が10倍以上大きいため、複数のアンテナを用いることで電波の放射方向を絞り込み、なおかつ、その放射方向を電気的に制御する(指向性を高める)ビームフォーミングの技術に対応したフェーズドアレイ無線機が必要になる。フェーズドアレイ無線機は、アンテナと同じ数のトランシーバで構成される。さらに、このフェーズドアレイ無線機で二偏波MIMOを実現するためには、水平偏波、垂直偏波それぞれに対して同じ数だけトランシーバが必要となるため、2倍のトランシーバをCMOSチップ上に搭載する必要がある。トランシーバの数が増えることで、CMOSチップ面積が増加し、結果として無線機が大型化・高コスト化してしまうという課題があった。

研究成果

今回は、フェーズドアレイ無線機の構成要素であるトランシーバの省面積化に成功した。28 GHz帯フェーズドアレイ無線機を65 nmのシリコンCMOSプロセスで試作し、4 mm×3 mmの小面積に垂直偏波と水平偏波の各4系統ずつ全8系統のトランシーバを搭載することに成功した(図1)。

5G向け28 GHz帯無線機のチップ写真

5G向け28 GHz帯無線機のチップ写真

図1. 5G向け28 GHz帯無線機のチップ写真

(H1~4は水平偏波用のトランシーバ、V1~4は垂直偏波用のトランシーバ、全8系統)

従来のトランシーバでは、図2(a)に示すように送信経路と受信経路を個別に設けて構成することが一般的であった。しかしながら、5Gのミリ波通信では、従来の3G、4Gとは異なり、送信と受信を同時に使用することがないため、トランシーバの多くの部分を共用することが可能だった。

開発した無線機は、図2(b)に示すように送信経路と受信経路を共用した双方向性トランシーバを用いており、同じ経路に対して送信・受信の双方向の信号を通すことが可能である。このような双方向性を有するトランシーバ構成によって大幅なチップ面積の削減を達成した。

トランシーバの構成要素である電力増幅器(PA)と低雑音増幅器(LNA)では、クロスカップルキャパシタを用いた双方向性増幅器を用いることで、PAとLNAにおいてインピーダンス整合回路を共用して省面積化を実現した。またフェーズドアレイ無線機を構成するキーコンポーネントである移相器[用語6]でも双方向での動作を実現するため、送受どちらにも対応できる再構成可能なポリフェーズフィルタ[用語7]と双方向性可変利得増幅器で構成した。

(a) 従来のトランシーバ構成、 (b) 開発した双方向性トランシーバ構成

図2. (a) 従来のトランシーバ構成、 (b) 開発した双方向性トランシーバ構成

開発したCMOS無線送受信チップは、5Gでの利用が想定されている26.5から29.5 GHzの周波数帯で利用でき、飽和出力電力[用語8]は1系統あたり15dBm(デシベルミリワット=32 mW)だった。伝送実験のため、図1のCMOSチップを4個搭載したサブアレイモジュールを作成。水平偏波と垂直偏波の両方に対応した16個のアンテナの利用が可能である。室内で、1メートルの距離を隔てて2台のサブアレイモジュールを対向させ、データ伝送試験を実施した。その結果、CMOSチップで構成される無線機として、5Gの規格で定められるMCS19[用語9]を用いた2入力・2出力の二偏波MIMOの通信に世界で初めて成功した。

この際の消費電力は、従来の無線機と比較しても低い1系統あたり送信時0.26 W、受信時0.11 Wだった。また、開発した双方向動作可能な位相器を用いて各アンテナからの送受信タイミングをずらすことで、±50度の範囲で電波の放射方向を0.4度の精度で調整可能であることを確認した。32個のアンテナを用いた際の0度方向での等価等方輻射電力(EIRP)[用語10] は46dBmだった。本サブアレイモジュールは、複数並べていくことでアレイサイズを拡張でき、図3に示すように、128素子のアンテナを用いることで、500 mの通信距離を達成可能である。

サブアレイモジュール8枚を接続し128素子に拡張したフェーズドアレイ無線機

図3. サブアレイモジュール8枚を接続し128素子に拡張したフェーズドアレイ無線機

今後の展開

開発した無線機は、二偏波MIMOに対応可能でありながら、CMOSチップの省面積化を実現し、5G無線機の小型・低コスト化を牽引する。今後、スマートフォンや基地局での利用をターゲットとして2020年頃の実用化を目指す。また、省面積化の鍵となる双方向性トランシーバの技術は、5Gに限らず様々な無線通信に対して適用可能であり、無線端末の小型・低コスト化に有効な技術と考えられる。

発表予定

この成果は2月17日から米国サンフランシスコで開催される国際会議ISSCC 2019(IEEE International Solid-State Circuits Conference 2019)において、「A 28GHz CMOS Phased-Array Beamformer Utilizing Neutralized Bi-Directional Technique Supporting Dual-Polarized MIMO for 5G NR (双方向動作可能な二偏波MIMO対応5G向け28 GHz帯CMOSフェーズドアレイ無線機)」の講演タイトルで、現地時間2月20日午前8時30分から発表される。

講演

講演セッション :
Session 21: 4G/5G Transceivers
講演時間 :
現地時間2月20日午前8時30分
講演タイトル :
A 28GHz CMOS Phased-Array Beamformer Utilizing Neutralized Bi-Directional Technique Supporting Dual-Polarized MIMO for 5G NR (双方向動作可能な二偏波MIMO対応5G向け28 GHz帯CMOSフェーズドアレイ無線機)
会議Webサイト :

用語説明

[用語1] 第5世代移動通信システム(5G) : 移動通信システムは第1世代のアナログ携帯電話から始まり、性能が向上するごとに世代、つまりジェネレーションが変わる。「G」はジェネレーションの頭文字で、現在の携帯電話等は4Gで、5Gは2020年の実用化に向けた開発が行われている。

[用語2] フェーズドアレイ : 複数のアンテナへ位相差をつけた信号を給電する技術。放射方向を電気的に制御するビームフォーミングの実現に利用される。

[用語3] 双方向性トランシーバ : 送信と受信で同じ信号経路を使用するトランシーバ。従来の送信と受信それぞれ2つの経路をもつトランシーバと比べて省面積化が実現可能。

[用語4] 二偏波MIMO : 水平偏波と垂直偏波のふたつの直交した偏波を用いるMIMO(multiple input multiple output)。複数の入出力を利用することで、帯域あたりの伝送速度を向上させることができる。

[用語5] ミリ波 : 波長が1~10 mm、周波数が30~300 GHzの電波。自動車レーダで使われる24 GHz帯や、5Gで使われる28 GHzのように近傍周波数である準ミリ波帯も、広義にミリ波と呼ばれることがある。

[用語6] 移相器 : 入力信号に対して、位相が一定量増減した信号を出力する回路。位相の変化量はデジタル 信号や電圧により制御可能なものもあり、ビームフォーミングの実現に利用される。

[用語7] ポリフェーズフィルタ : 多位相を扱うフィルタで、例えば、0度と180度の信号から、0、90、180、270度の信号を生成するために用いる。

[用語8] 飽和出力電力 : 増幅器が最大で出力できる電力。

[用語9] MCS19(Modulation and Coding Scheme) : 無線通信において変調方式とコーディングレートを指定するための指標。ミリ波帯5GにおいてMCS19は、64QAMの変調方式と85%のコーディングレートを表す。

[用語10] 等価等方輻射電力(Equivalent Isotropic Radiated Power; EIRP) : 指向性のあるアンテナを用いると、放射方向によっては無指向(等方性)のアンテナを用いるよりも強い電力密度を発生させることができる。この時に、指向性のあるアンテナにより生じたものと同じ電力密度を等方性アンテナにより得るために必要となる送信電力を等価等方輻射電力という。

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

岡田健一 准教授

E-mail : okada@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3764 / Fax : 03-5734-3764

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東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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超省エネ・小型の原子時計の開発に成功 自動車やスマートフォン、小型衛星などにも搭載可能な高精度時計

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要点

  • これまで不可能だった小型電子機器に搭載できる原子時計を開発
  • 従来型の大きな原子時計と同等の周波数安定度を実現、消費電力、サイズを一桁以上低減
  • 政府が進めるIoTが支えるソサエティ5.0(超スマート社会)の実現にも貢献

概要

国立大学法人 東京工業大学、株式会社 リコー、国立研究開発法人 産業技術総合研究所の研究グループは、消費電力が極めて低い小型の原子時計[用語1]を開発した。この原子時計は、構成部品のひとつである周波数シンセサイザ[用語2]の消費電力を大幅に削減し、さらに新たな量子部パッケージ[用語3] を用いることで温度制御の効率を向上させ、60 mWという低消費電力と15 cm3という極小サイズを実現している。

この研究成果は、大型で消費電力が大きかった原子時計のサイズおよび消費電力を大幅に削減することで、これまで搭載が難しかった自動車やスマートフォン、小型衛星など、様々な機器に原子時計を搭載可能となり、自動運転、高精度な測位、新たな衛星ネットワークの実現を大きく加速させる可能性がある。

研究成果の詳細は、2月17日から米国サンフランシスコで開催される「ISSCC 2019(国際固体素子回路会議)」で発表される。

本研究開発の成果の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものである。

開発の背景

1927年に正確な時を刻む水晶振動子を用いる時計が発明された。それ以来、この仕組みは腕時計などにも搭載されて普及し、人々がお互いに正確な時刻を共有することが当たり前という社会システムを支える技術的根幹の一つとなっている。現在、大型の原子時計を時刻の基準とし、水晶発振器を同期させることで時刻を得ているが、原子時計を小型化して水晶発振器の代わりとして利用することができるようになれば、大きな技術的・社会的変革が得られるとして、汎用な小型原子時計の実現に対する期待が年々高まっている。

米国のGPSに代表される衛星測位システムでは、衛星間で時刻同期が必要で、原子時計を用いる事で安定的かつ高精度な測位が可能となる。汎用な小型原子時計が実用化されれば、自動車やスマートフォン、超小型衛星、携帯電話の基地局などの様々な機器で利用できる。また、ビル屋内、海底、トンネル、橋梁などGPSの届かない場所での大型構造物のモニタリング(高精度計測)に用いる複数センサ間の時刻同期や、複数の人工衛星を使った低軌道衛星コンステレーション[用語4]による地球規模インターネットの実現、自動車や航空機等の移動体における安定的かつ高精度な測位、またそれによる自動運転技術の実現が期待される。

課題

従来の原子にマイクロ波を照射する共振器を持つタイプの原子時計では、共振器の大きさでサイズが決まり小型化できない問題点があった。そこで、コヒーレントポピュレーショントラッピング(CPT)[用語5]を用いて、マイクロ波で変調したレーザー光を原子に照射するだけで時間の基準となる正確なマイクロ波周波数の検出が可能となり、これまで数百cm3のサイズだった原子時計を一桁以上小型化することができた。しかしながら、周波数シンセサイザや、レーザーを駆動するためのドライバ回路といった原子時計の構成要素は、それぞれ非常に高い精度を求められるため、消費電力を下げることが難しく、結果として、原子時計全体の消費電力が数百mWと高くなってしまう課題があった。

研究成果

今回、高精度でありながら2 mWという超低消費電力な周波数シンセサイザの実現および新たな量子部パッケージによる温度コントロールの効率化で、60 mWの超低消費電力な小型原子時計(ULPAC: Ultra-Low-Power Atomic Clock)の開発に成功した(図1)。開発した小型原子時計は、消費電力を大幅に削減しながら、大型の原子時計とほぼ同等の1日で300万分の1秒以下の精度を達成した。この原子時計は、電圧制御水晶発振器[用語6]、周波数シンセサイザ、レーザーのドライバ回路、制御回路、セシウム133原子[用語7]へのレーザー光照射を行う量子部パッケージ(図2)で構成される。

開発した小型原子時計 (内寸33 mm x 38 mm x 9 mm)

図1. 開発した小型原子時計 (内寸33 mm x 38 mm x 9 mm)

量子部パッケージ

図2. 量子部パッケージ

CPTを利用した原子時計では、セシウム133原子に2つの周波数のレーザー光を照射する。この2つのレーザー光の周波数差がセシウム133原子に固有の共鳴周波数(9,192,631,770 Hz)に一致したときに、検出される光強度が最大となる。これを利用して電圧制御水晶発振器を校正し、原子時計の基準となる非常に安定した周波数を作りだしている。

周波数シンセサイザは、レーザー光の周波数差を0.3 mHz以下の非常に細かい周波数ステップで変えるために用いられ、従来、原子時計の構成要素において50 mW以上の大きな電力を占める構成部位だった。開発した原子時計は、周波数シンセサイザをCMOS集積回路(図3)で作りこむことで、消費電力を25分の1以下まで削減することに成功、2 mWの消費電力を達成した。

CMOS集積回路

図3. CMOS集積回路

さらに、新たな量子部パッケージの構造を採用し、ヒーターによる温度制御の際に、外部の温度が伝わりにくくなるような隔離機構を設けるとともに、パッケージ内部を金でコーティングした。温度制御の効率を向上させることで、電力を消費しがちなヒーターの消費電力を9 mWまで削減した。高安定レーザードライバ回路および高精度温度制御回路により長期間での周波数安定性も改善した。

従来の周波数標準器では、図4に示すように、消費電力と周波数安定度はトレードオフの関係にあったが、開発した原子時計(ULPAC)は、良好な周波数安定度と低い消費電力を両立しており、サイズも15 cm3と非常に小型である。今回、105秒(約1日)の平均化時間で2.2×10-12の長期周波数安定度を達成した。一般的な水晶発振器を搭載した時計と比べ、約10万倍も正確な時計を実現した。

従来品との比較

図4. 従来品との比較

※ TCXO(温度補償水晶発振器)、MCXO(マイコン補償水晶発振器)、OCXO(恒温槽付水晶発振器)

今後の展開

開発した原子時計は、非常に小型で消費電力も小さいため、自動車、スマートフォン、小型衛星等、様々な機器への組み込みが可能である。従来は搭載できなかった様々な機器で高精度な原子時計が搭載可能となり、自動運転やGPSの代替、高精度計測など、政府が進めるIoTが支えるソサエティ5.0(超スマート社会)の実現 に貢献すると期待できる。この開発品は、5年後を目途に販売開始を目指す。

発表予定

この成果は、2月17日から米国サンフランシスコで開催される国際会議ISSCC 2019(IEEE International Solid-State Circuits Conference 2019)において発表予定。現地時間2月20日午後3時15分から「Ultra-Low-Power Atomic Clock for Satellite Constellation with 2.2×10-12 Long-Term Allan Deviation Using Cesium Coherent Population Trapping (衛星コンステレーションに向けたセシウムコヒーレントポピュレーショントラッピングを用いた2.2×10-12の長期アラン偏差を達成する超低消費電力原子時計)」という題目で発表が行われる。

講演

講演セッション :
Session 29: Quantum & Photonics Technologies
講演時間 :
現地時間2月20日午後3時15分
講演タイトル :
Ultra-Low-Power Atomic Clock for Satellite Constellation with 2.2×10-12 Long-Term Allan Deviation Using Cesium Coherent Population Trapping (衛星コンステレーションに向けたセシウムコヒーレントポピュレーショントラッピングを用いた2.2×10-12の長期アラン偏差を達成する超低消費電力原子時計)
著者 :
Haosheng Zhang(東工大博士後期課程3年生)、Hans Herdian(東工大博士後期課程1年生)、 Aravind Tharayil Narayanan(元東工大博士研究員)、白根篤史(東工大助教)、 鈴木暢(リコー、NMEMS)、 原坂和宏(リコー、NMEMS)、安達一彦(リコー、NMEMS)、柳町真也(産総研主任研究員、NMEMS)、岡田健一(東工大准教授)
※ 技術研究組合NMEMS技術研究機構
会議Webサイト :

用語説明

[用語1] 原子時計 : 原子と電磁波の共鳴現象と、一般的な時計に利用される水晶発振器の周波数をリンクさせている時計。そのため、一般的な時計より精度の高い時計装置の実現が可能である。マイクロ波領域の電磁波を利用した原子時計では、セシウム(Cs)原子やルビジウム(Rb)原子が装置内に封入される。

[用語2] 周波数シンセサイザ : 1つの発振器デバイスの信号を基準として種々の異なる周波数をもつ信号を発生させる回路、あるいはその回路を含む装置。

[用語3] 量子部パッケージ : ヒーターと測温素子からなる温度制御機構と、面発光レーザー素子(VCSEL-Vertical Cavity Surface Emitting Laser)、偏光光学素子、セシウム原子を封入したガスセル、受光素子からなる原子時計の心臓部に当たるデバイスで、原子共鳴信号の検出機構を小型のパッケージに集積化した。小さい電力で一定温度の安定性を実現するために、外部へ熱が伝わる経路を可能な限り遮断する隔離機構と、パッケージ内部を高真空で封止した断熱構造となっている。

[用語4] 衛星コンステレーション : 低軌道衛星は数時間周期で地球を周回しており、全世界をカバーするために、多数の衛星を軌道投入し協調動作をさせる。そのようなシステムを衛星コンステレーションと呼ぶ。

[用語5] コヒーレントポピュレーショントラッピング(CPT) : 原子と電磁波の共鳴現象の一種。セシウム原子に光を照射すると、通常であれば吸収が起きて透過光量は減少する。そこに2種類の周波数をもつ光を照射するとセシウム内で特殊な状態が生成され光の吸収量が減少し、すなわち透過光量が増加、共鳴現象が観測される。これまではセシウムとマイクロ波(波長3 cm)の直接相互作用となる共鳴現象を利用するしかなかった。このCPTを利用すれば光の波長程度(約900 nm)の領域でも、原子と電磁波の共鳴現象の発現が可能となる。

[用語6] 電圧制御水晶発振器 : 制御電圧を変えることにより出力周波数を調整できる水晶発振器。

[用語7] セシウム133原子 : セシウム原子の同位体の中で、放射線を出さず、自然界で唯一安定して存在する原子である。

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

岡田健一 准教授

E-mail : okada@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3764 / Fax : 03-5734-3764

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東工大生がU-22プログラミング・コンテストで経済産業大臣賞受賞

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22歳以下の参加者がプログラミング作品を提出する「U-22プログラミング・コンテスト2018」が10月21日、東京都内で開かれ、工学部 情報工学科の美座天佑さん(学士課程4年)が最高賞の経済産業大臣賞を受賞しました。

美座さんが制作したゲーム作品「サイハテドロップ」は、「全応募作品のうち、有用性・芸術性面で大変優れており、ビジネス展開できる可能性を秘めている」として特にプロダクト評価ポイントを高く評価され、経済産業大臣賞<プロダクト>に選ばれました。美座天佑さんは東工大の学生サークル「デジタル創作同好会traP」のメンバーです。

ゲーム「サイハテドロップ」のスクリーンショット

ゲーム「サイハテドロップ」のスクリーンショット

ゲーム「サイハテドロップ」のスクリーンショット

経済産業大臣賞<プロダクト>のトロフィーと賞状

経済産業大臣賞<プロダクト>のトロフィーと賞状

経済産業大臣賞<プロダクト>のトロフィーと賞状

美座天佑さんのコメント

トロフィーを手にする美座さん
トロフィーを手にする美座さん

経済産業大臣賞という名誉ある賞を受賞できて光栄です。チームでの制作経験は何度かありましたが、個人では初めてでとても良い経験になりました。 サイハテドロップは爽快感溢れるエフェクトが特徴の2Dのドット絵アクションゲームで、ゲームエンジンを使用せずに制作しています。また、プログラムだけでなくドット絵、フォント、効果音、BGMといった素材をすべて個人で制作した点も高く評価されました。

現在も開発途中で、PC(パソコン)版はkawasemiouterからプレイすることができます。

今後は、現在研究でも使用しているOpenGL(オープンジーエル)を使ってグラフィックをより強化したいと考えています。

U-22 プログラミング・コンテスト

U-22プログラミング・コンテストは優れた人材の発掘・育成を目的に開催される作品提出型のプログラミング・コンテストです。1980年、経済産業省主催で「全国高校生プログラミング・コンテスト」として始まりました。2004年、「U-22プログラミング・コンテスト」に名称を変更し、2014年から民間の実行委員会主催に移行しました。2018年から全国小中学生プログラミング大会と連携しています。経済産業省などが後援、IT・ソフトウェア企業がスポンサーとして支援します。

応募資格は22歳以下で、未発表または2017年9月1日以降に発表したオリジナル作品を提出します。応募件数は460件で、1次審査で16作品が入選し、10月21日には最終審査会として制作者によるプレゼンテーションが行われました。プロダクト(有用性や芸術性)、テクノロジー(アルゴリズムや機能性)、アイデア(独創性や将来性)の3つの評価ポイントで審査します。トップの経済産業大臣賞は、3つの評価ポイントごとに各1件と総合の計4件が表彰され、コンテスト翌日の10月22日に経済産業省内で表彰状が授与されました。

デジタル創作同好会traPとは

ゲーム制作を中心に、プログラミング、DTM(音楽制作)、2Dイラスト、3Dモデル、ドット絵、競技プログラミング、CTF(コンピュータセキュリティ技術を競う競技)など幅広く取り組んでいます。デジタルコンテンツのチーム制作や技術共有を目的として、2015年4月に設立したサークルです。また、ゲーム制作者交流イベントや中高生向けのプログラミング教室を主催するなど外部との交流も積極的に行っています。

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共同作業は多人数ほどうまくいく 複数ロボットによる作業にも適用可能

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要点

  • 共同で運動作業を行うとき、グループの人数が多いほど各メンバーの運動パフォーマンスが向上
  • グループの目標を触覚で感知し、動きを合わせることが判明
  • 複数のロボットが共同作業を行う時のアルゴリズムを作り出すことも可能に

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 バイオインタフェース研究ユニットの髙木 敦士特任助教、インペリアル・カレッジ・ロンドンのエティエン・バーデット教授、東京大学 大学院教育学研究科の野崎大地教授らの研究グループは、複数の人が共同で運動作業を行うとき、グループの人数が増えれば増えるほど、各メンバーの運動パフォーマンスが向上することを明らかにした。

この研究は大きなテーブルを多人数で動かすような共同作業の際、集団全体でどのように動きを調整しているのかを解明するのが目的。今回はコンピュター画面上をランダムに動き回るターゲットを、カーソルを動かして追いかける作業を2~4人で行って、人数が増えるほど効率が向上することを実証した。これまでに2人で同様の作業を行うと、1人だけの場合よりも効率よくできることを確認していたが、今回は人数が増えるほど、さらに運動パフォーマンスが向上することが分かった。

研究成果は2月12日に生命科学分野の国際科学誌『eLife』(イーライフ)に掲載された。

研究成果

髙木特任助教らの研究グループは、被験者が2人の時に作業効率が向上することをすでに実証しているが、今回は2人だけでなく、3人、4人と被験者を増やした時にどうなるかを実験した。4人の場合、仕切りで分けられたブース(図1)にモニターを配置し、ランダムに動きまわる視覚ターゲットに手の動きを追従させる運動課題を一緒に行った。視覚ターゲットはどのブースでも同じ動きをする。

その際、ロボットインターフェース[用語1]と呼ばれる特殊な装置によって被験者の手に仮想的なバネを設定し、被験者の動きの間に力学的相互作用[用語2]が生じるようにした。これにより、手の触覚を介して他人の動きを互いに検知しあうことができる。これまでに2人ペアで同様の運動課題を練習すると、1人だけで練習するよりもうまく運動課題を実行できることはわかっていた。(参考文献outer

今回の研究により、共同作業を行う人数を3人、4人と増やしていくと、運動パフォーマンスがさらに向上することを確認した。これは被験者自身がターゲットの動きを予測するだけでなく、ロボットインターフェースを通じて得た別の被験者の力の情報を参考にすることができるからだ。つまり4人の場合、自分だけでなくほかの3人がターゲットの動きをどう予測しているかの情報を得て、瞬時に最適な予測を実行できるからである。

ロボットインターフェースを通じて2、3、4人の集団でランダムに動くターゲットを追従させ、各被験者の追従パフォーマンスの変化を評価する。
図1.
ロボットインターフェースを通じて2、3、4人の集団でランダムに動くターゲットを追従させ、各被験者の追従パフォーマンスの変化を評価する。

高木特任助教は「グループのメンバーが触覚情報を活用して、共同動作を素早く調整できることに非常に驚いた。混雑した結婚式会場でテーブルを移動させようとしている状況を考えてみてください。口頭でのコミュニケーションによって、テーブルが何にもぶつからないように動作を調整することはグループの人数が増えれば増えるほど困難になるはずです。しかし、触覚を介して互いの動作情報をやり取りすれば、人数が増えてもほんの数秒で動作を調整することができるのです」という。

エティエン・バーデット教授は「お互いの動きが影響し合うよう連結したとき、グループの人数が増えれば、ランダムな力の影響がノイズのように働きパフォーマンスが低下するのではないかと予測していた。ところが、実際には、ノイズ量が減少するように、個々人のパフォーマンスが向上した」と評価している。

集団の平均パフォーマンスはグループの人数が増えるほど向上した。

図2. 集団の平均パフォーマンスはグループの人数が増えるほど向上した。

今後の展開

髙木特任助教は「このような動作調整が可能なのは、触覚情報を通じてメンバーが互いの動作目標を推定できるためではないか」と推測する。同研究チームの先行研究では、同様な機序(メカニズム)を実装し、人間と共同で動作を行うことのできる「人間のような」ロボットパートナーを設計していたからだ。

今回の研究ではコンピュータシミュレーションを用いてグループのメンバー間の情報のやり取りを詳しく検討し、上記の仮説を支持する結果を得た。高木特任助教は「このような動作調整機序への理解が深まれば、複数のロボットが共同で作業を行うときのアルゴリズムを作り出すことも可能であると考えています」と今後の展開を示した。

用語説明

[用語1] ロボットインターフェース : 電子モーターにより人の手に力を与える装置。手の位置、速度、力なども測る。

[用語2] 力学的相互作用 : 相手の力を受けながら共同作業をこなすこと。

論文情報

掲載誌 :
eLife
論文タイトル :
Individuals physically interacting in a group rapidly coordinate their movement by estimating the collective goal
著者 :
Atsushi Takagi1,2, Masaya Hirashima3, Daichi Nozaki3, Etienne Burdet2
DOI :
所属 :
1Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology.
2Department of Bioengineering, Imperial College London.
3Graduate School of Education, University of Tokyo.

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 特任助教

髙木敦士

E-mail : takagi.a.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5054 / Fax : 045-924-5066

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国際原子力機関(IAEA)のマリー・アリス・ヘイワード事務次長が講演

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1月22日に国際原子力機関(IAEA)のマリー・アリス・ヘイワード事務次長による講演が、東工大の大岡山キャンパス西9号館コラボレーションルームで行われました。

講演は「IAEAの紹介と可能性 そして、原子力の展望」と題し、原子力をとりまく情勢や将来の展望に触れつつ、IAEAの概要や主要な事業、またIAEAでの勤務について紹介がありました。ヘイワード事務次長は、仏アレバ社(現オラノ社)の戦略・行政・アドボカシー担当副社長、米国務省核不拡散政策・交渉局や米国家安全保障関連の要職を経て、2017年1月より現職を務めており、これらの国際機関で働く豊富な経験が語られました。

水本哲也理事・副学長(教育担当)の歓迎の挨拶に続いて行われた講演は、全国19大学が協調して原子力基礎教育を実施するために構築しているTVネットワークを使用して、福井大学、早稲田大学、八戸工業大学、長岡技術科学大学、大阪産業大学の5大学にも中継され、IAEAを含め国際機関で働くことに関心の高い学生を中心に、全国で70名を超える参加がありました。質疑応答では50分を超えて活発な議論が行われ、女性の国際機関での働き方やIAEAでの7年間の就業制限についてなど多くの質問が出されました。

講演終了後には、ヘイワード事務次長をお招きして益一哉学長主催の昼食会が開催されました。

講演の始めに歓迎の挨拶をする水本理事・副学長(教育担当)
講演の始めに歓迎の挨拶をする水本理事・副学長(教育担当)

講演するヘイワード事務次長
講演するヘイワード事務次長

学生や教職員からのたくさんの質問に熱心に答えるヘイワード事務次長

学生や教職員からのたくさんの質問に熱心に答えるヘイワード事務次長

学生や教職員からのたくさんの質問に熱心に答えるヘイワード事務次長

東工大会場と、スクリーン上に表示された遠隔TV中継先の5大学の様子

東工大会場と、スクリーン上に表示された遠隔TV中継先の5大学の様子

講演後、学長主催の昼食会を開催

講演後、学長主催の昼食会を開催

記念撮影(前列右側より)外務省の岡本佳子課長補佐、ヘイワード事務次長、益学長、先導原子力研究所の竹下健二所長(後列右側より)先導原子力研究所の西村章特任教授、渡辺治理事・副学長(研究担当)、水本理事・副学長(教育担当)、原子核工学コースの加藤之貴コース主任

記念撮影
(前列右側より)外務省の岡本佳子課長補佐、ヘイワード事務次長、益学長、先導原子力研究所の竹下健二所長
(後列右側より)先導原子力研究所の西村章特任教授、渡辺治理事・副学長(研究担当)、水本理事・副学長(教育担当)、原子核工学コースの加藤之貴コース主任

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所
グローバル原子力人材育成ネットワークによる戦略的原子力教育モデル事業(大学連合ATOM)

E-mail : d-atom-suishin@nr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2188

ハルト・プライズ@東工大を初開催 3チームが地域別決勝ラウンドに進出

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世界的に注目されている学生向けビジネスコンテストの1つ、「ハルト・プライズ」のオンキャンパス大会が12月8日、東工大で初めて開催されました。

ハルト・プライズ@東工大には、1チームあたり3~4名の東工大生で構成された20チームがエントリーし、今年のテーマ「若者の失業-10年以内に10,000名の若者に有意義な仕事を提供するアイデア-」を解決するスタートアップのアイデアを競いました。

ハルト・プライズ@東工大 集合写真

ハルト・プライズ@東工大 集合写真

当日は17チームが参加し、学内外から構成された審査員を前に、各チームがこの日に向けて練り上げた若者の失業問題解決に向けたアイデアを発表しました。

地域別決勝ラウンド進出チームの紹介

優勝チームは「ITHE(アイス)」。東工大代表として、2019年4月に開催される地域別決勝ラウンド(オーストラリア・メルボルン)に進出します。

優勝を勝ち取ったITHEの4名(左から永田彩乃さん、赤木茅さん、シュパルトフ・ペータさん、甲斐康平さん)

優勝を勝ち取ったITHEの4名(左から永田彩乃さん、赤木茅さん、シュパルトフ・ペータさん、甲斐康平さん)

アイデアの概要

ITHEが提案したのは、スタートアップ企業のためのプラットフォームを創るアイデアです。ギグエコノミーのモデルを活用し、ビジネスのアイデアを思いついた人、そのプロトタイプを創りたい人、販促をする人、製品化をする人など、アイデアが製品になるまでのプロセスをオンラインで仕事分担・共有します。事業化に向けたアカウンティングなどのサポートも受けられるようにします。デザイン、IT、農業、製造など、業界や分野によって分断されている技術やコミュニティを統合し、それぞれが得意分野を活かして事業づくりに貢献できる仕組みを作ることでスタートアップ企業の生存率を上げ、新たな雇用の創出を目指します。

代表の甲斐さんのコメント

この度のハルト・プライズ@東工大の優勝を、チーム一同、非常に喜ばしく思っております。東工大でのハルト・プライズ開催の取り組みは初であり、このイベントをサポートしてくれた関係者の方に感謝します。この素晴らしいイベントは、いままで温めてきたアイデアを世に出すきっかけとなりました。

私たちのチームは、情報工学と感性工学の研究をしている学生で構成されています。

世の中には多くのアイデアがあります。私たちのアイデアがその中に埋もれないように、私たちのアイデンティティは何か、私たちの提供すべき価値は何か、常に問い続けていきたいと考えています。

次のピッチに向けて、引き続き邁進してまいりたいと思います。

メンバー

  • 甲斐康平さん(情報理工学院 情報工学系 博士後期課程 2年)
  • 赤木茅さん(情報理工学院 情報工学系 博士後期課程 2年)
  • シュパルトフ・ペータさん(情報理工学院 情報工学系 修士課程 1年)
  • 永田彩乃さん(工学院 機械系 博士後期課程 2年)

また、ITHEの他にもオンキャンパス大会のファイナリストから2チームが、地域別決勝ラウンドに進出することとなりました。

地域別決勝ラウンド(東京)に進出したチーム「AJIL(アジール)」
地域別決勝ラウンド(東京)に進出した
チーム「AJIL(アジール)」

地域別決勝ラウンド(フランス・パリ)に進出したチーム「Kizuna(キズナ)」
地域別決勝ラウンド(フランス・パリ)に進出した
チーム「Kizuna(キズナ)」

ハルト・プライズとは

ハルト・プライズは、2009年にアハマド・アシュカル氏のアイデアを元に発足した世界的なビジネスコンテストです。そのアイデアとは、若者の力を利用することでスタートアップのアイデアを生み出し、持続可能な社会に向けて私たちが直面する喫緊の課題を解決することができるのではないか、というもの。発足から10年を迎える現在では、5,000万米ドル以上もの資金を活用して世界1,200大学の100万名以上の若者を刺激し、世界100ヵ国以上において大学における破壊的イノベーションをもたらしました。「学生のためのノーベル賞」とも呼ばれ、TIME誌で世界を変えるアイデアトップ5として特集されたこともある活動です。

各年のテーマは元アメリカ大統領のビル・クリントン氏により決定され、約1年間かけて行われる選考を経て優勝したチームには賞金100万米ドルが与えられます。

ハルト・プライズ@東工大の開催にあたって

東工大初のオンキャンパス大会は、キャンパス・ディレクターのカグホ・グレースさん(環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程2年)を中心とする、学士課程から修士課程までの東工大生7名と教員1名が主体となって実施されました。

主催メンバーの集合写真

主催メンバーの集合写真

カグホさんのコメント

参加した東工大の学生は熱心に、世界に対してどれだけインパクトを与えたいか、ということを示してくれました。ハルト・プライズを運営し、アイデアを共有し深めるプラットフォームを皆と共に生み出したのは、とても興奮する体験でした。

また、ハルト・プライズ@東工大の開催にあたり、東工大との縁も強い株式会社ぐるなび、株式会社みらい創造機構等による支援を受けました。

みらい創造機構の金子大介氏(東工大卒業生)

みらい創造機構の金子大介氏(東工大卒業生)

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Tel : 03-5734-2975

NHK Eテレ「サイエンスZERO」に波多野睦子教授、岩﨑孝之准教授が出演 ダイヤモンドがなんでセンサーになるの?

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本学 工学院 電気電子系の波多野睦子教授、岩﨑孝之准教授がNHK Eテレ「サイエンスZERO」に出演します。

「サイエンスZERO」は、私たちの未来を変えるかもしれない最先端の科学と技術を紹介する番組です。波多野教授と岩﨑准教授が取り組む、ダイヤモンドを用いた高感度な量子センサが紹介されます。

ナビゲーターの小島瑠璃子さん(左)と波多野睦子教授(右)(NHKスタジオにて)

ナビゲーターの小島瑠璃子さん(左)と波多野睦子教授(右)(NHKスタジオにて)

ダイヤモンドは炭素(C)という単一の元素から成り立つ一方、とてもユニークな性質を示す物質で、今回はその物質としての大きな可能性にフォーカスしています。

波多野・岩﨑研究室で試作した磁気プローブを持ち込み、スタジオ収録も行われました。この試作機で、スマホ、イヤホン、切符など身近にある意外なものにセンサが反応することに、出演者は驚きの声を上げました。番組の進行につれて、何故ダイヤモンドがセンサになるのかという謎が解き明かされていきます。サイエンスに関心がある、中高生の皆さんにも身近に感じるようお伝えしていきます。

  • 研究室で取材に応じる岩﨑孝之准教授

    研究室で取材に応じる岩﨑孝之准教授

  • NHKスタジオでダイヤモンド量子センサの試作機の準備をする増山雄太研究員

    NHKスタジオでダイヤモンド量子センサの
    試作機の準備をする増山雄太研究員

波多野教授のコメント

皆様のご支援で貴重な機会をいただきました。中高生も対象ということで、「エネルギー」や「量子」のキーワードを使えず、カメラを前に上手く言葉が出てこなくて苦労しました。スタジオの収録はぶっつけ本番に近く、小島さんはなんと台本も無し。すなわち感じたままのサイエンスの素晴らしさをお伝えするのが、この番組の凄さと魅力!と実感しました。小島さんの美しさ、ご発言の輝き、さらにお気遣いはまさにダイヤモンドで、終始見とれておりました。東工大生にもファンが多いと思います。

また岩﨑准教授をはじめ、若い研究者たちがダントツの技術と融合的な新たな研究分野にチャレンジしている姿を取り上げてもらえることも嬉しいです。中高生が本学を志望する契機になってくれれば、と期待します。

  • 番組名
    NHK Eテレ サイエンスZERO
  • タイトル
    超ミクロな磁場が測れる新技術 ダイヤモンドセンサー
  • 放送予定日
    2019年2月24日(日) 23:30 - 24:00
  • 再放送予定日
    2019年3月2日(土) 11:00 - 11:30

※ 放送時間に変更がある場合があります。

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ウィンタープログラム2018開催報告

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2018年11月27日から2019年2月5日まで、オセアニア地域から本学協定校等との連携による国際化の推進を目的として、ウィンタープログラム(Tokyo Tech Winter Program 2018)を開催しました。第3回目となる今年度は、オーストラリアのメルボルン大学、オーストラリア国立大学、シドニー大学、ニューサウスウェールズ大学の計4大学から18名の学生が参加しました。

ウエルカムランチに集まった参加学生と東工大生

ウエルカムランチに集まった参加学生・受入教員・本学学生

研究中心プログラム

約10週間にわたるプログラム期間中、参加学生18名は受け入れ教員の指導の下、本学での研究活動に取り組みました。研究室での研究活動のかたわら、必修科目「ジャパン スタディーズ(Japan Studies)」で、近代日本の科学技術史に関する講義や企業・研究所見学に参加しました。

受入教員リストおよび参加学生のリサーチトピックPDF

受入研究室からのメッセージ

中島研究室

  • 参加学生:メルボルン大学 クラーク・キャサリンさん
  • 受入担当教員:工学院 システム制御系 中島求教授

キャサリンさんと中島教授
キャサリンさんと中島教授

中島教授から

本研究室ではスポーツ工学、バイオメカニクス、福祉工学の研究を行っています。キャサリンさんの専門は生体医工学で、元々の興味は神経工学でした。本研究室ではパラアスリート支援のトレーニング用具の開発を行っていたため、その用具の設計をテーマとして提案したところ大変興味を示して、やってくれることになりました。具体的には、ちょうど彼女と入れ替わりに夏にYSEP交換留学を終えたフランスからの学生が担当していた、片前腕切断スイマー用のパドルの改良設計に取り組んでもらいました。キャサリンさんは物事を理解して吸収するのが驚くぐらい早い学生さんでした。私が1個やってごらんと言えば10個かそれ以上やってくるようなタイプでした。そのため、彼女の研究テーマはこれまでの蓄積があり理解する必要があることが多くありましたが、彼女はあっというまに吸収して自分のものにしてしまいました。さらに、自分で新たなメカニズムを提案し、その有効性を検証するシミュレーションを多数走らせました。その結果、非常にチャレンジングな課題であったにも関わらず、最終的な設計案の形として実を結ぶまでになりました。一方で、キャサリンさんはオンとオフの切り替えが上手で、日本での旅行もとても楽しんでいたようです。そんな彼女の積極的姿勢が研究室の他の学生にも良い刺激を与えてくれました。彼女の滞在に感謝したいと思います。

上田研究室

  • 参加学生:ニューサウスウェールズ大学 シュテインマン・アレクシスさん
  • 受入担当教員:物質理工学院材料系 上田光敏 准教授

アレクシスさんと上田准教授
アレクシスさんと上田准教授

上田准教授から

上田研究室では、高温における耐熱鋼の環境劣化に関する研究を行っています。耐熱鋼は、使用環境において表面に保護性酸化皮膜が生成するように設計されていますが、水蒸気を含む環境においては表面に保護性酸化皮膜が生成せず、劣化してしまう場合があります。アレクシス君には、耐熱鋼のモデル合金を用いた初期水蒸気酸化実験を行い、保護性酸化皮膜の生成挙動を実験的に明らかにしてもらいました。約2か月半という短い期間でしたが、試料作製から酸化実験、その後の試料の解析まで、この分野における一連の研究の流れを学んでもらえたかと思います。アレクシス君は、非常に熱心にこの研究テーマに取り組んでくれました。また、研究室のゼミ等にも参加してもらい、研究室の学生とも交流してもらえたことは、当研究室にとってもよい刺激となりました。当研究室での活動がアレクシス君にとって有意義なものになってくれれば幸いです。

日本企業・研究所訪問

12月5日には必修科目ジャパン スタディーズの一環で、JXTGエネルギー株式会社の中央技術研究所(横浜)を見学しました。参加学生は4グループに分かれて、カレイドスクリーンや水素出荷設備センター等を見学しながら、担当者から研究開発についての説明を受けました。12月12日には、物質理工学院の吉川史郎准教授と松本秀行准教授の引率で、前年に引き続き産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所(FREA)を訪問しました。水素キャリアによるエネルギー貯蔵・利用技術や、風力・地熱発電の効率化、超薄型軽量ソーラーパネルをめぐる研究開発現場の見学を通して、日本の先端的なエネルギー研究のみならず、そうした研究が推進される日本独特の背景事情についての理解も深めました。この日の福島は積雪に見舞われましたが、昼食で立ち寄った猪苗代湖では、雪景色に溶け込むような白鳥の姿に喜ぶ参加学生の姿が見られました。

昼食で立ち寄った猪苗代湖の雪景色に喜ぶ参加学生達

昼食で立ち寄った猪苗代湖の雪景色に喜ぶ参加学生達

日本文化体験

合気道部 本学学生との交流

合気道部 本学学生との交流

日本文化が大好きなふたりは、どらやき作りを体験しました!
日本文化が大好きなふたりは、どらやき作りを体験しました!

11月28日には茶道部の活動に参加し、1月16日は合気道部で心身統一合氣道会、小原英雄師範の指導の下、合気道体験を行いました。また、1月23日は、3月にオーストラリア超短期派遣プログラムに参加する本学学生の事前学習に参加し、学生との交流を行いました。ほかにもタンデム―パートナー(語学学習)やホームビジットプログラムで、本学学生と共に日本文化に触れあいながら様々な交流を行いました。

ウィンタープログラム学生交流 第5回ホームビジット開催報告参照

1月25日には西1号館ラウンジで、学生支援センター国際交流支援部門が主催するひな祭りイベントに参加しました。同様に、1月29日に開催された「どら焼き教室」でも、参加学生が楽しむ様子が見られました。

ひな祭りイベントのおひな様

ひな祭りイベントのおひな様

研究成果発表

プログラム最終日には、参加した18名全員がポスター研究成果発表を行い、活発な質疑応答が交わされました。研究室メンバーが多数応援に駆けつけてくれました。

ELSIギャラリー(石川台7号館)で行われたポスター研究発表

ELSIギャラリー(石川台7号館)で行われたポスター研究発表

ベストポスター賞を受賞したメルボルン大学のジァシン・タンさんと指導教員の青木洋貴准教授(工学院経営工学系)(左)、研究室メンバー(右)

ベストポスター賞を受賞したメルボルン大学のジァシン・タンさんと指導教員の青木洋貴准教授(工学院経営工学系)(左)、研究室メンバー(右)

ウィンタープログラム参加学生

ウィンタープログラム参加学生

本プログラムは、「スーパーグローバル大学創成支援事業(Top University Global Project)」による取組みとして開始しました。

「スーパーグローバル創成支援事業」は、2015年に文部科学省が開始したプログラムで、日本の高等教育の国際競争力の向上を目的に、海外の卓越した大学との連携や大学改革により徹底した国際化を進める、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学に対し、制度改革と組み合わせて重点支援を行うことを目的としています。

お問い合わせ先

東京工業大学 学務部 留学生交流課

E-mail : winter.program@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3785 / 3786


ウィンタープログラム学生交流 第5回ホームビジット開催報告 今回からタンデムパートナー制度を導入

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昨年の12月中の週末に留学生の日本文化体験および東工大生との学生交流を目的としたホームビジット(家庭訪問)が行われました。このプログラムは、本学協定校等からサマープログラムとウィンタープログラムに参加する学生を対象としており、今回で5回目の開催となります。

また、日本人学生との交流の活性化を望むウィンタープログラム参加学生の要望に応えて、新たに本学学生の協力を得た語学パートナー(通称タンデム)制度の利用を呼びかけたところ、日本人学生と海外留学生の8組のペアが誕生しました。

語学パートナー(通称タンデム)制度とは

タンデムパートナー企画運営 足達哲也さん(工学院 システム制御系 修士課程2年)

2018年秋に私を中心に何人かの本学学生と共に有志団体ACTION(アクション)を立ち上げ、語学パートナー(通称タンデム)制度の企画・運営を行っています。

タンデムとは、異なる外国語を学ぶ異なる国からの学生(例えば英語を勉強する日本人と、日本語を学ぶ海外留学生)でペアを組み、お互いに語学学習を助けてあげるもので、私も派遣交換留学生としてドイツ留学中に現地でこの制度を利用していました。語学学習、特に会話の練習はなかなか1人での学習では機会が得られないのですが、この制度によって本学の日本人学生および海外からの学生も楽しみながら語学学習に取り組めると同時に、学内の異文化交流の促進に貢献するのがねらいです。

タンデムパートナーに参加した学生のメッセージ

参加学生:ニューサウスウェールズ大学 シュテインマン・アレクシスさん

本学学生:太田龍之介さん(工学院システム制御系 学士課程2年)

太田さんのコメント

左から太田さん、アレクシスさん
左から太田さん、アレクシスさん

私がタンデムをやることになったきっかけは後輩からの紹介でした。というのも、私はこの春にオーストラリア超短期留学プログラムに参加することをその後輩に伝えていたので、タンデムを紹介されたのです。英語を話すことに苦手意識があったので、少しでも克服できたらと思い、巡ってきたチャンスに乗っかることにしました。

初めてパートナーに会うときはすごく緊張しました。しかし、私のパートナーのアレクシスはすごく穏やかで、真面目で、面白い人だったので、すぐに馴染むことができました。彼は、海外経験が豊富で色々な国での出来事を話してくれました。また、外国人ならではの視点を持って話してくれるので、普段自分では気づけない日本の良さを再認識することができました。年賀状等の日本独自の文化を彼に説明するのが難しかったです。(笑)

タンデムは東工大にいながら外国人と気楽にコミュニケーションが取れるし、英語を実践できる素晴らしい制度だと思います。ここには書ききれないぐらい多くのことを教わったし、貴重な経験になりました。また、タンデムをやりたいです!

ホームビジット

ホームビジット受け入れ家庭、東工大生からのメッセージ

東工大生の家庭でのホームビジット

参加学生:メルボルン大学 グッドリッジ・デビットさん

本学学生:足達哲也さん(工学院 システム制御系 修士課程2年)

足達さんのコメント

左から足達さん、デビットさん
左から足達さん、デビットさん

昨年に引き続きホームビジットの受け入れをさせていただきましたが、前回とは異なり日本での滞在経験が豊富な学生の受け入れだったのでまた新鮮で楽しい時間を過ごせました。日中は上野の国立科学博物館に訪れ日本の科学技術の歴史に関する展示を見た後、散歩がてら旧岩崎邸庭園と東京大学本郷キャンパスを散策しました。こういう機会に海外の人と訪れたことのない場所に赴き色々と話をすることは、日本のことであっても新たな気づきが多いので大変有意義な時間でした。自宅での夕食時にはお互いの家族の出生や家系に関して紹介し合う場面があり、そこで日本の戸籍に関して実物を見せながら説明してあげると非常に興味深そうに聞いてくれました。

本学の学生は、海外の人たちとコミュニケーションを取るということに対して苦手意識を持っている人が多いと思います。ただ、それでもそういった国や言語を超えた交流に興味があるなら、まずは挑戦してみることが大切だと思います。そういった点でこのホームビジットもタンデムも、そんなアクションの良いきっかけになるプログラムだと思います。

参加学生:ニューサウスウェールズ大学 シュテインマン・アレクシスさん、ニューサウスウェールズ大学 ダイ・ジェシカさん 

本学学生:真保恵美子さん(生命理工学院 生命理工学系 修士課程1年)、山浦由也さん(生命理工学院 生命理工学系 修士課程1年、第1回ホストファミリー)、佐々木翔一さん(工学院 機械系 修士課程1年)

真保さんのコメント

テニス部の仲間を誘ってホームビジット
テニス部の仲間を誘ってホームビジット

はじめは、楽しんでもらえるか、楽しむことができるかととても心配で緊張していました。しかしアレクシスとジェシカはとても気さくで話しやすく、会ってすぐに緊張が解けました。みんなで話したり食べたり飲んだりするのは非常に楽しく、あっという間に5時間ほど経ってしまいました。

私は英語や話が得意というわけではありませんが、新たな価値観に出会えるという点で国際交流は楽しいと思っています。アレクシスとジェシカと話している中でも、日本やオーストラリアについてだけでなく、価値観・考え方など、新鮮な視点をたくさん感じました。

ホームビジットプログラムは、はじめはハードルが高いと思ってしまうかもしれませんが、留学生にとっても東工大生にとっても良いものになると思います。ぜひ友達を誘って気軽に手を挙げてみてください。

本学職員の家庭でのホームビジット

参加学生:メルボルン大学 オコナー・ジェームスさん、同大学リ・ハオウェンさん、オーストラリア国立大学 アルマハナディ・レイラさん 

本学学生:釜坂みおさん(工学部 高分子工学科4年)

釜坂さんのコメント

私は、3人のオーストラリアからの留学生と共に職員の方のお宅を訪問しました。留学生とはこのホームビジットの前にお話をする機会がありましたが、3人とも日本の家庭を伺うのは初めてということで、とてもこの訪問を楽しみにしていました。当日は、職員の方がご用意くださったお鍋やきんぴらごぼう等をいただき、日本の家庭料理を楽しみました。一つ一つのお料理や調味料に関心を持ち、私やご家族の方に質問をしていたことが印象に残っています。ごちそうをいただいた後は、かるたやけん玉など、日本の伝統的なおもちゃを楽しみました。かるたで遊んでいた際、留学生の内2人はひらがなやカタカナを完璧に読めたので、職員の方のお子様ととてもいい勝負を繰り広げいて、とても面白かったです。今回のホームビジットを通して、留学生が日本の文化や生活、食事の一つ一つにとても興味を持ってくれていることを実感しました。とても楽しい時間を過ごすことが出来ました。おもてなしをしてくださった職員の方、ご家族の皆様、ありがとうございました。

初めてのお稲荷さん作り、子供たちと一緒にカルタを楽しむ様子

初めてのお稲荷さん作り、子供たちと一緒にカルタを楽しむ様子

本プログラムは、「スーパーグローバル大学創成支援事業(Top University Global Project)」による取組みの一環として開始しました。

「スーパーグローバル創成支援事業」は、2015年に文部科学省が開始したプログラムで、日本の高等教育の国際競争力の向上を目的に、海外の卓越した大学との連携や大学改革により徹底した国際化を進める、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学に対し、制度改革と組み合わせて重点支援を行うことを目的としています。

東京工業大学は、これからも留学生と本学学生の交流の場を創出するため様々な活動を行っていく予定です。

お問い合わせ先

国立大学法人 東京工業大学 留学生交流課

E-mail : summer.program@jim.titech.ac.jpwinter.program@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3785 / 3786

ACM-ICPCアジア地区横浜大会で東工大の2チームが企業賞を受賞

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12月8日から10日まで横浜市中区で開かれたACM-ICPC2018(国際大学対抗プログラミングコンテスト)のアジア地区横浜大会に、国内予選を勝ち抜いた東京工業大学の3チームが出場しました。2チームが上位チームに与えられる企業賞「Preferred Networks(プリファード・ネットワークス)賞」を受賞しました。

ACM…Association for Computing Machineryの略称。情報理工学に関する国際的な学会。

アジア地区横浜大会の様子

アジア地区横浜大会の様子

アジア地区横浜大会の様子(左の写真の手前はチーム 60odnight)

アジア地区横浜大会には日本の38大学から51チームと中国、台湾から合わせて8大学9チームの計46大学60チームが出場し、世界大会進出をかけて競いました。東工大からはチームnarianZ(ナリアンズ)、チーム60odnight(グッドナイト)、チームnew_moon_with_face(ニュー・ムーン・ウィズ・フェイス)の3チームが出場し、narianZが60チーム中8位、60odnightが16位、new_moon_with_faceが32位でした。前年に続く東工大チームの世界大会出場は成りませんでしたが、narianZと60odnightは日本チームの1位から20位までに贈られるPreferred Networks賞(株式会社Preferred Networks提供)に選ばれ、賞品として日本語の技術系書籍1冊が授与されました。出場大学別の順位で、東工大は46大学中7位でした。

受賞チームとメンバー

チームnarianZ

  • 福成理紀さん(工学部 情報工学科 学士課程4年)
  • 久保田陸人さん(情報理工学院 情報工学系 修士課程1年)
  • 勝又広揮さん(工学院 情報通信系 修士課程2年)

チームnarianZ 左から、勝又さん、福成さん、久保田さん、コーチの中村誠希さん(情報理工学院 数理・計算科学系 博士後期課程 3年)

チームnarianZ 左から、勝又さん、福成さん、久保田さん、コーチの中村誠希さん(情報理工学院 数理・計算科学系 博士後期課程 3年)

チーム代表 福成さんのコメント

国内予選および地区予選に向けた練習として、それぞれ忙しい時期ながら実際のコンテストを想定した練習を行うなどして取り組んできました。結果は、国内予選で2位を取ることが出来ましたが、地区予選では8位と最上位には力及ばず、世界大会進出は叶いませんでした。私は暗号に関わる研究を行っていますが、実験を行うプログラムの記述などで、コンテストで身につけた能力が活かされています。チームの私以外の2人は今回で最後、私も次回で最後となるため、今後はコミュニティの活性化および全体のプログラミングスキルの向上を目標に活動を行っていきます。また、企業賞として機械学習に関わる書籍をいただいたので、競技以外の分野についても知見を広げていきたいです。

チーム60odnight

  • 吉田拓人さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程2年)
  • 山根初美さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程2年)
  • 永田怜慈さん(第5類 学士課程1年)

チーム60odnight 左から、左から、山根さん、吉田さん、永田さん、コーチの中村さん

チーム60odnight 左から、左から、山根さん、吉田さん、永田さん、コーチの中村さん

チーム代表 吉田さんのコメント

7月に行われた国内予選を通過してから、地区予選に向けて、個人での練習やチームで集まっての練習などを行ってきました。アジア地区本番では、コンテスト開始から1時間半で1問しか解けず、あまり良くない状況からのスタートでしたが、最終的には6問正答で16位となり賞をいただくことができました。私たちは学士課程1年、2年の組み合わせであり、これからも何度も出場できるチャンスがあります。今後、さらに上を目指していきたいと思います。また、この大会で求められる力は、大学の演習の講義でも役立っています。しかしこの力だけでは出来ることが限られてしまうため、この取り組みを活かすためにも幅広く学び、他の分野でもこの力を活かしていきたいと思います。

ACM-ICPCとは

ACM-ICPCは、ACMが主催する大学対抗で行われる世界規模のプログラミングコンテストです。同じ大学の3人の学生がチームを結成し、チームでプログラミングと問題解決の能力を競う大会です。各大学から複数のチームが国内予選に出場し、その成績により選抜されたチームが地区予選(日本の場合はアジア地区予選)に出場、各地区から選抜された最優秀チームが世界大会に出場します。全世界で毎年3万人以上が参加する大会で、世界大会は1つの大学から1つのチームしか参加できないことから、大学対抗プログラミングコンテストと位置づけられています。

問題の難易度はさまざまで、単純な計算問題から、複数のアルゴリズムを組み合わせて解く問題まで多岐にわたります。また、ACM-ICPCの特徴として、チーム戦であることが挙げられます。チームには1台のコンピュータしか与えられないため、個人のプログラミング能力だけではなく、1台のコンピュータをいかに効率よく活用するかというチームワークの良さも重要なポイントです。

ACM-ICPC2018の日本国内予選は7月6日、86大学411チームが参加するオンラインコンテストとして各大学で行われました。東工大も会場となり11チームが参加し、上位3チームがアジア地区横浜大会に出場権を得ました。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

「平井聖 町並みスケッチ展 in 東工大百年記念館」を開催

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50年にわたってNHK大河ドラマの時代(建築)考証を担当してきた本学 平井聖名誉教授の町並みスケッチなどを集めた展覧会「平井聖 町並みスケッチ展 in(イン) 東工大百年記念館」(第2回は2019年2月28日(木)まで開催中)と、その関連イベントとして2月9日に開催された「描く!“東工大流”スケッチ講座」の様子をご紹介します。

平井聖 町並みスケッチ展in東工大百年記念館

「平井聖 町並みスケッチ展 in 東工大百年記念館」は、全国をまわって城郭や町並みの修復・整備を指導してきた建築史家の平井名誉教授が、その傍ら朱印帳に長年描きためてきた各地の町並みや建築、旅行先での食事や庭の草花などのスケッチを展示しています。

第1回 1月7日 - 1月16日

主催:冬夏会(環境・社会理工学院 建築学系同窓会)
場所:大岡山キャンパス 百年記念館1階T-POT(ティーポット)

スケッチに描かれた地域は、北海道(函館、根室)から東北地方(山形、喜多方)、関東地方(安中、多摩、田町)、北陸地方(金沢、高岡、朝倉一乗谷)、中国地方(倉敷、竹原、岩国)、九州地方(福岡、長崎、熊本)と全国にわたっています。それぞれの地域に残る古い町並みが平井名誉教授の目によってパノラマの風景として捉えられ、それが折りたたみ式の朱印帳に連続立面図として描かれています。朱印帳に描かれた町並みスケッチは、最も初期のもの(金沢ひがし茶屋街)が1982年の制作で、多くは1980年代に描かれています。これらのスケッチは、当時の平井名誉教授の歴史観が投影された研究資料であるとともに、30年以上を経た現在では、失われた建物の貴重な記録的価値も持ち始めています。

展示の様子

展示の様子

スケッチの多くはロットリング(製図用のペン)で描かれ、淡く美しい着彩は日本画用の岩絵の具を水に溶いたものだそうです(携帯用絵の具セットは展覧会でも展示しました)。スケッチの描かれた朱印帳は、たたむと12 ㎝×18 ㎝と持ち歩くのに便利なサイズですが、広げると全長が2.5 mにもなります。

展示品には、町並みをパノラマ風景として描いたものの他に、日記風に、当時校長を務めていた東工大附属高校の修学旅行の訪問先やそこでの食事メニューを記録したものもありました。場所と時間が一体化した物語を水平方向に読み進む体験は、まるで絵巻物の現代版のような印象を受けました。

展示方法はこうした朱印帳の特性に合わせ、横長テーブルをひたすらつなげてその上にロール和紙を敷き、朱印帳を広げて展示した上から透明のロールフィルムをかぶせて保護するという、極めてシンプルなものでした。

展示品はその他、東工大の学内誌の表紙やテレホンカード、絵はがきセットなどに提供された、記録的価値のある大岡山キャンパスのアクソメ図、平井名誉教授の専門である江戸城本丸御殿や近世の武家住宅に関する手描きの復元図、歴史家として批判的な提案を込めて描かれた東京駅の復元計画案 (コンペ佳作)の原画なども展示されました。本展の企画・展示レイアウトは環境・社会理工学院 建築学系の山﨑鯛介准教授が担当しました。

アクソメ図とは、対象物を立体的に描く図法の一種

期間中には、展覧会を主催した環境・社会理工学院建築学系の同窓会である冬夏会の新年会が百年記念館内で開かれたため、平井名誉教授の授業を受けた多くの卒業生があらためて平井名誉教授のスケッチ力に感銘を受けていました。また、学内・学外から多くの方が来館し、じっくりと時間をかけてスケッチを鑑賞していました。

スケッチを鑑賞する来場者

スケッチを鑑賞する来場者

スケッチを鑑賞する来場者

第2回 1月28日 - 2月28日

主催:東京工業大学博物館
場所:大岡山キャンパス 百年記念館 2階企画展示室

第1回の展示から一部展示内容を変えて、2月28日まで開催しています。第1回で展示していた朱印帳に描かれた町並みやそこで食べた食事のスケッチを始め、レストランのコースターや紙エプロンといった身近なものに描かれたスケッチを展示しています。また、現在は表参道ヒルズに一部外観を残した同潤会青山アパートのスケッチなど、姿を変える町並みのありし日の姿も紹介しています。

町(建物や人物)の様子や食事のスケッチ

町(建物や人物)の様子や食事のスケッチ

町(建物や人物)の様子や食事のスケッチ

中国出張での行動を記録したスケッチ
中国出張での行動を記録したスケッチ

東工大の広報誌(表紙)や携帯絵具セット
東工大の広報誌(表紙)や携帯絵具セット

「描く!“東工大流”スケッチ講座」

2月9日には関連イベントとして、目黒区教育委員会連携講座「描く!“東工大流”スケッチ講座―見て、描いて、感じる 建築スケッチに触れよう―」が目黒区在住・在学・在勤者を対象として開催されました。参加者は、江戸時代の絵巻物の資料を見ながら平井名誉教授のレクチャーを聞いたり、スケッチの基礎である「線」の描き方を体験し、様々な側面からスケッチを通した建築の面白さを実感していました。

自身の作品を見せながら解説する平井名誉教授
自身の作品を見せながら解説する平井名誉教授

参加者の描いたスケッチ画
参加者の描いたスケッチ画

参加者たちとの集合写真

お問い合わせ先

東京工業大学博物館

E-mail : centshiryou@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3340

2月22日16:15 本文中に一部誤りがあったため、修正しました。

東工大グローバル水素エネルギー研究ユニット 第4回公開シンポジウム開催報告

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東工大グローバル水素エネルギー研究ユニット(GHEU)は、未来の「水素社会」に向けて、水素の利用体系について総合的かつ技術的な検討を進め、産官学の連携の下、さまざまな活動を展開しています。

加えて、国内外の水素利用技術の現状と将来展望を関係者の間で共有するために、公開シンポジウムを1年に1回開催しています。

4回目となる今回は「中国の水素エネルギーR&Dと将来動向を知る」と題し、1月31日に東工大蔵前会館くらまえホールで開催しました。来場者は年々増え、今回は312人となり、開始前から会場が満員となりました。

来場者の多くは、メーカーやエネルギー関連企業、建設会社、商社など幅広い分野の企業の方々をはじめ、政府や自治体の方々、大学や研究機関の関係者たちなどです。水素利用技術に対する関心がますます高まっていることを感じるシンポジウムとなりました。

シンポジウム後に行われた意見交換会も、予想を超える人数の方に参加いただき、会場を広い場所に急きょ変更したほどです。ここでも企業や業種の壁を越えた活発な交流が生まれました。

開会の挨拶をする益学長
開会の挨拶をする益学長

午後1時30分、シンポジウムが始まると、最初に東京工業大学の益一哉学長が壇上に立ち、開会の挨拶をしました。

益学長は、前職の科学技術創成研究院長のときからGHEUの発展を応援してきたことを伝えながら、「この研究は非常に重要であり、本学が主導し、そして皆様と一緒になって社会に貢献していきたい」と抱負を語りました。

今回は、新しい国内外の動きを知ることができる、二つの招待講演を実施しました。

招待講演

「中国の水素エネルギーの現状と展望 Chinese Hydrogen Situation and Vision」

清華大学(中国) 教授 毛宗強(マオ ゾン チャン)氏

中国の水素エネルギー協会会長などを歴任し、国際水素エネルギー協会(International Association for Hydrogen Energy:IAHE)の副会長を務めている毛宗強教授をお招きし、中国で精力的に進められている水素エネルギー利用技術のR&Dについて、現状を語っていただきました。

中国では2017年から2018年にかけて、燃料電池など水素関連の投資額が2,292億元(約3兆6672億円<1元=16円>)に上るなど、毛教授のさまざまな話からその開発の規模の大きさをうかがい知ることができました。

「水素社会実現に向けた経済産業省の取組」

経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギーシステム課長 江澤正名氏

経済産業省の江澤正名氏をお招きし、日本がこれからどのように水素エネルギー利活用を広げていくのか、国の取り組みを説明していただきました。

水素のコストを将来20円/Nm3まで下げることなどの水素基本戦略のポイントや、2019年に改訂される「水素・燃料電池戦略ロードマップ」で検討されていることなどについて、分かりやすく解説していただきました。

講演する毛教授(清華大学)
講演する毛教授(清華大学)

講演する江澤新エネルギーシステム課長(経済産業省)
講演する江澤新エネルギーシステム課長(経済産業省)

講演

「再エネとCO2フリー水素導入拡大に向けた課題と動向」

東京工業大学 科学技術創成研究院 特命教授 グローバル水素エネルギー研究ユニット ユニットリーダー 岡崎健

講演する岡崎特命教授
講演する岡崎特命教授

シンポジウムの後半は、まず、GHEUユニットリーダーの岡崎健特命教授が登壇し、「再エネとCO2フリー水素導入拡大に向けた課題と動向」と題した講演を実施しました。

その中で、水素社会を実現するための論点を整理したり、余剰電力の考え方や熱・産業プロセス等の低炭素化の観点、またグリーン水素および低炭素水素の定義について見解を紹介したりなど、多くの示唆を含む考えを示しました。

東京工業大学が参加する水素関連NEDOプロジェクト報告

「トータルシステム導入シナリオ調査研究:学理に基づく定量的解析による水素の役割と水素社会の将来像」

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 教授 伊原学

講演する伊原教授
講演する伊原教授

続いて、東京工業大学が水素関連で参加する新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトについて、3人の教授が報告しました。

一人目は、伊原学教授で、NEDOの事業「トータルシステム導入シナリオ調査研究」について説明しました。

水素エネルギーシステムの価値が社会の中で最大限発揮されるために必要となる要素・システム技術や、その開発目標を明確にするための技術開発シナリオを検討しながら、その技術目標の妥当性を学理に基づいて評価するとともに、多様な評価軸についても提案していく事業内容について、ていねいに解説しました。

「酸素水素燃焼タービン発電システムの研究開発」

東京工業大学 工学院 機械系 教授 店橋護、東京工業大学 工学院 機械系 教授 野崎智洋

その後、店橋護教授と野崎智洋教授がNEDOのプロジェクト「酸素水素燃焼タービン発電システムの研究開発」について説明しました。

まず、店橋教授が、発電効率75%を達成できるシステムの技術成立性や、経済性確保の見通しの検討、競合技術と比較するフィージビリティスタディについて解説しました。

次に、野崎教授が、実用化されているコンバインドサイクル(Combined Cycle)より約10ポイントも効率が高くなるグラーツサイクル(Graz Cycle)の水素・酸素燃焼の可能性について話しました。

講演する店橋教授
講演する店橋教授

講演する野崎教授
講演する野崎教授

総合討論

「水素エネルギー導入に関する日中の連携のありかたについて」

総合討論の様子
総合討論の様子

すべての講演が終わったところで、総合討論の時間が設けられました。テーマは「水素エネルギー導入に関する日中の連携のありかたについて」で、司会の岡崎特命教授が来場者に議論の参加を促すと、毛教授に対する質問が多く出ました。

会場から出た「日本と中国の協力ではどのような方法があり得ると考えますか」という質問に対して、毛教授は「多くの領域で協力ができると考えています。例えば、水素ステーションを建設することや再生可能エネルギー由来の水素製造でも協力できるでしょう。今後は乗用車の燃料電池車も積極的に開発したいと思っているので、この分野でも協力してほしい」と答えました。

また、水素に関わる技術について、「中国ではたくさんの課題があります。今回、私が来日した目的は、日中の協力関係を築くことです」と話し、中国における技術開発の参加を来場者に呼びかけていました。

最後に、岡崎特命教授が「皆様のおかげで予想以上の盛会となり、ありがとうございました」と謝意を述べ、第4回シンポジウムは閉会となりました。

意見交換会にて(左から岡崎特命教授、毛教授、益学長)
意見交換会にて(左から岡崎特命教授、毛教授、益学長)

満員の会場の様子
満員の会場の様子

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

グローバル水素エネルギー研究ユニット

E-mail : ghec@ssr.titech.ac.jp

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TBSテレビ「未来の起源」に沖野研究室の学生が出演

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本学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 沖野晃俊研究室の吉田真優子さん(工学院 電気電子系 修士課程1年)が、TBS「未来の起源」に出演します。

内視鏡に組み込んで低温止血を行う、小型大気圧プラズマジェットの研究が紹介されます。

科学技術創成研究院 吉田真優子さん

小型大気圧プラズマジェット

吉田真優子さんのコメント

近年、内視鏡による低侵襲な治療の需要が高まっています。内視下での止血は容易ではありません。技術を要する従来のクリップの他に、高温プラズマを用いた止血装置がすでに実用化されていますが、約3,000 ℃の高温で組織を焼いて止血するため、止血部に潰瘍が生じるなどの問題がありました。そこで私たちの研究室では、内視鏡用の低温プラズマ止血装置を開発しています。

内視鏡の鉗子口は直径3 mm程度しかありませんので、私たちは金属の3Dプリンタを用いて超小型のプラズマジェットを製作しました。この装置で発生するプラズマの温度は室温~100 ℃程度であるため、より低侵襲な止血が実現できます。

今回の放送を通じて、皆さんにも本研究の魅力を感じて頂ければ幸いです。

  • 番組名
    TBS「未来の起源」
  • 放送予定日
    2019年3月3日(日)22:54 - 23:00(放送地域:関東、愛知、岐阜、三重)
  • 再放送予定日
    BS-TBS 2019年3月10日(日)20:54 - 21:00
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お問い合わせ先

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