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水素結合を利用して高分子トランジスタを開発 デジタル回路や熱電変換素子、太陽電池などへの応用にめど

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要点

  • 電子移動度7.16 cm2 V-1 s-1の電子輸送型高分子トランジスタを開発
  • 分子内水素結合を利用することで高分子の平面性を最適化
  • 非常に小さい分子間距離3.40Åを有する結晶性薄膜を形成

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の王洋博士研究員と道信剛志准教授らは、世界最高レベルの電子移動度7.16 cm2 V-1 s-1を示し、かつ電子輸送型(n型)のみで作動する高分子トランジスタの開発に成功した。非常に強い電子アクセプター性[用語1]モノマー[用語2]を2つ組み合わせることにより、n型の有機半導体高分子[用語3]を合成するとともに、分子内水素結合[用語4]を利用して有機半導体高分子の平面性を向上させる技術を確立した。

得られた有機半導体高分子の薄膜をX線回折で測定したところ、3.40Å(オングストローム)の非常に小さい分子間距離を有する結晶性薄膜であることが明らかになった。また、開発した高分子トランジスタは1ヵ月以上大気下で保存しても明確な劣化が認められず、引加電圧に対しても優れた安定性を示した。

この成果は1月31日発行のアメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

研究成果

有機半導体高分子は通常、2つ以上のモノマーの重縮合[用語5]で合成され、モノマー間の立体障害[用語6]によるねじれがあるために平面性が高い主鎖構造を得ることが困難だった。特に、電子輸送性の有機半導体高分子を得るためには、カルボニル基やニトリル基などの電子吸引性基が置換したモノマーを使用する必要があるが、それらの置換基はモノマー間の大きな立体障害となることが問題となっていた。

今回の研究では、ベンゾチアジアゾールとナフタレンジイミドという非常に強い電子吸引性モノマー[用語7]を選択し、電子のみを輸送する有機半導体高分子の開発を目指した。モノマー間の距離を効果的に離し、かつ高い平面性を確保するために、ビニレンスペーサー[用語8]を新たに導入した。ビニレンに置換した水素原子が、ベンゾチアジアゾールに置換したフッ素原子やナフタレンジイミドのカルボニル酸素原子[用語9]と水素結合することにより、立体障害を回避して比較的高い平面性を得ることに成功した。

二量体モデルのDFT計算[用語10]では、ビニレンスペーサーを導入することによって隣接モノマー間のねじれ角が大きく減少することが明らかとなった。また、高分子薄膜のX線回折測定[用語11]では、π-π相互作用[用語12]に由来する分子鎖間の距離が非常に小さく、結晶性の大幅な向上が示唆された。

有機トランジスタのシリコン基板上にアルキル単分子膜[用語13] を用いた場合は若干の正孔輸送が観測される場合があったが、アミノアルキル単分子膜を用いると電子のみが流れ、高分子トランジスタとしては世界最高レベルの電子移動度7.16 cm2 V-1 s-1を達成した。

通常、n型の有機トランジスタは大気安定性に問題がある場合が多いが、フッ素が置換したベンゾチアジアゾールから成る高分子トランジスタは、1ヵ月大気下に保存しても明確な劣化は見られず、電圧の繰り返し印加に対しても優れた安定性を示した。

研究の背景

アモルファスシリコンの移動度を超える高い移動度を実現することが、有機半導体高分子を実用化する際に一つの目安になるとされている。正孔のみを輸送する有機半導体高分子では10 cm2 V-1 s-1を超える非常に高い移動度が達成されているが、電子のみを輸送する有機半導体高分子では隣接モノマー間の立体障害のため十分な結晶性薄膜を形成できていなかった。そのため、高い平面性を有する電子吸引性モノマーからなる高分子の合理的な設計指針が求められていた。

今後の展開

今回の成果は、電子のみを輸送する高移動度半導体高分子の明確な設計指針を与えており、他のモノマー構造にも適用できる汎用性を有している。n型の有機半導体として高い安定性も兼ね備えているため、正孔輸送型半導体高分子と組み合わせることで、全有機高分子型のデジタル回路や熱電変換素子、太陽電池などに応用できると考えられる。

電子輸送型有機半導体高分子の設計、薄膜構造解析および薄膜トランジスタの特性

図1. 電子輸送型有機半導体高分子の設計、薄膜構造解析および薄膜トランジスタの特性。

用語説明

[用語1] 電子アクセプター性 : 電子を受け取りやすい性質のことであり、有機分子の場合、電子吸引性骨格や置換基を導入することで実現することが多い。

[用語2] モノマー : 高分子を構成している繰返し単位の構造成分のこと。

[用語3] 有機半導体高分子 : 溶液から薄膜デバイスを作製できる有機材料であり、有機エレクトロニクスの鍵になる材料として期待されている。正孔(プラスの電荷)と電子(マイナスの電荷)と呼ばれるキャリアを流すことができ、それによって電流が生じる。キャリアの伝導は分子間のホッピングを介して起こるため、半導体高分子の結晶性を向上させることが重要。

[用語4] 分子内水素結合 : 水素原子が同じ分子内に存在する窒素原子やフッ素原子などの孤立電子対とつくる非共有結合性の相互作用。

[用語5] 重縮合 : 多官能性モノマー間の反応で副生物をともない目的とする高分子を合成する方法である。二官能性モノマー間の重縮合では直線状の高分子が得られる。

[用語6] 立体障害 : 分子を構成する原子または部分がぶつかることで自由回転が制限されることを指す。平面性の高い分子を設計する際は、分子内の立体障害が少ないようにする必要がある。

[用語7] 電子吸引性モノマー : 電子輸送性高分子の成分となる化学構造。正孔の生成および輸送を妨げるため、電子吸引性基であるフッ素やカルボニル基、ニトリル基が置換した構造がしばしば用いられる。

[用語8] ビニレンスペーサー : 化学構造(-CH=CH-)で表され、共役骨格が両端に置換した場合、π電子の拡がりを補助するスペーサーとなる。

[用語9] カルボニル酸素原子 : 化学構造(-C(=O)-)で表されるカルボニル基に含まれる酸素原子のこと。

[用語10] DFT計算 : 密度汎関数法を用いて安定な構造を計算で見積もることができる。最近では計算の精度が上がり、実験結果をサポートする一つの主要な方法となっている。

[用語11] X線回折測定 : 高分子薄膜の試料にX線を照射した際、散乱や干渉の結果生じる回折像から高分子がどのように配列しているかを見積る方法である。高分子の配向や分子間の距離がトランジスタの移動度と相関があることが知られている。

[用語12] π-π相互作用 : π電子を含む芳香環の間に働く分子間力であり、半導体高分子の場合、主要な分子間力の一つ。π-π相互作用が強い高分子は一般的に結晶性となる。

[用語13] アルキル単分子膜 : アルキル分子1層が並んでできている膜。有機トランジスタの場合、アルキル単分子膜を絶縁層として利用することが多い。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Significant Improvement of Unipolar n-Type Transistor Performances by Manipulating the Coplanar Backbone Conformation of Electron-Deficient Polymers via Hydrogen-Bonding
著者 :
Yang Wang, Tsukasa Hasegawa, Hidetoshi Matsumoto, and Tsuyoshi Michinobu
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 材料系

准教授 道信剛志

E-mail : michinobu.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3774 / Fax : 03-5734-3774

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


和歌山以南の温帯域が準絶滅危惧種のサンゴの避難場所として機能 サンゴの遺伝子解析による生物集団の安定性の評価

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発表のポイント

  • 亜熱帯域から温帯域にかけて広域に生息するクシハダミドリイシの遺伝子解析を行い、サンゴの地域絶滅リスクを評価。
  • 温帯域の一部はサンゴの絶滅リスクが低いこと、そして全てのサンゴ種が亜熱帯域から温帯域へ簡単には移動できないことを解明。
  • 温帯域の一部は準絶滅危惧種サンゴの避難場所として機能。亜熱帯域のサンゴを継続して保存することが重要。

概要

宮崎大学テニュアトラック推進機構の安田仁奈准教授、海洋研究開発機構 山北剛久研究員と産業技術総合研究所 地質情報研究部門 井口亮主任研究員、東京工業大学 環境・社会理工学院の中村隆志准教授のグループは、国立環境研究所・水産研究・教育機構中央水産研究所・九州大学・筑波大学と共同で、亜熱帯域で温暖化によって絶滅の危機に瀕しているサンゴ集団の絶滅リスクを評価するために、日本西南部のクシハダミドリイシ(IUCNレッドリストカテゴリーの準絶滅危惧(NT)に属している)を採集し、集団遺伝解析を行いました。さらに海水流動とサンゴの産卵期の幼生分散のシミュレーションを行い、亜熱帯域から温帯域までのサンゴの幼生分散を調べました。その結果、昔からサンゴがいる和歌山以南の温帯域では遺伝的多様性が高く、亜熱帯域に生息する準絶滅危惧種の一部のサンゴの避難場所として機能する可能性が示されました。この成果は2019年2月13日(日本時間 19:00)のScientific Reports誌(電子版)に掲載されました。本研究は、環境省環境総合推進費(4RF-1501)および文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

研究の詳細

近年の温暖化による海水温上昇にともない、亜熱帯域では危機的状況にさらされているサンゴが、日本の温帯域では逆に増加し、分布域も北上しています(図1)。これは、サンゴの幼生が海流によって亜熱帯域から温帯域へ流されても生存できる海水温になったためと考えられています。

20-30年前には海藻類が繁っていた場所が今は様々な種のサンゴで覆われている(宮崎県・串間市)撮影:グリートダイバーズ 福田道喜氏

図1.20-30年前には海藻類が繁っていた場所が今は様々な種のサンゴで覆われている(宮崎県・串間市)
撮影:グリートダイバーズ 福田道喜氏

こうした温帯域は、亜熱帯域で絶滅が危惧されているサンゴにとって、種の絶滅を防ぐためのレフュージア(避難場所)として重要な役割を持つ可能性があることが指摘されていました。しかし、温帯域のサンゴ集団が環境変化で絶滅しないような安定した集団であるかどうかを判断するための遺伝的多様性の検討はこれまでに行われていませんでした。また、亜熱帯域から温帯域へサンゴの幼生が海流によりどのように分散しているのかも不明でした。

そこで、本研究は「クシハダミドリイシ」という温帯域でしばしば優占するサンゴ(図2)について、複数の遺伝子マーカーを用いて、亜熱帯域と温帯域で集団遺伝解析を行い、それぞれの集団の遺伝的多様性を調べました。さらに海水流動モデルを用いた幼生分散シミュレーションにより、日本の亜熱帯域から温帯域にかけての幼生分散の過程を明らかにしました。

クシハダミドリイシのサンプリング地点とクシハダミドリイシの写真。青丸がサンプリング地点。赤点線で記された海域付近で温帯域と亜熱帯域に分かれており、この赤点線を超える亜熱帯から温帯への海流による直接の幼生分散はやや制限される。灰色線は黒潮の流れを示す。
図2.
クシハダミドリイシのサンプリング地点とクシハダミドリイシの写真。青丸がサンプリング地点。赤点線で記された海域付近で温帯域と亜熱帯域に分かれており、この赤点線を超える亜熱帯から温帯への海流による直接の幼生分散はやや制限される。灰色線は黒潮の流れを示す。

集団遺伝解析の結果、クシハダミドリイシでは、近年北上して新たに出現したような最北限の海域に近づくほど遺伝的多様性の低下がみられ(図3)、環境変化が起きた際の地域絶滅のリスクが高いことを明らかにしました。一方、昔から温帯域に生息するクシハダミドリイシの集団では比較的高い遺伝的多様性を持っており、環境変化による地域絶滅のリスクが相対的に低いことが分かりました(図3)。温帯域の中でも昔からサンゴがいる場所は、一部のサンゴにとっての避難場所として機能し得ると考えられます。

クシハダミドリイシにおける遺伝的多様性。もともと亜熱帯域や温帯域に生息するサンゴ集団は遺伝的多様性が高い。近年、北上したサンゴ集団は遺伝的多様性が低い。アリル多様度(Allelic Richness)やヘテロ接合度は集団の遺伝的多様性の指標のひとつ。
図3.
クシハダミドリイシにおける遺伝的多様性。もともと亜熱帯域や温帯域に生息するサンゴ集団は遺伝的多様性が高い。近年、北上したサンゴ集団は遺伝的多様性が低い。
アリル多様度(Allelic Richness)やヘテロ接合度は集団の遺伝的多様性の指標のひとつ。

そして、海水流動モデルの結果として、亜熱帯域から温帯域へのサンゴ幼生の直接の分散が1世代で起きることは稀で、複数世代かかることが分かりました。そのため、全てのサンゴ種が亜熱帯域から温帯域に移住できるわけではなく、亜熱帯域のサンゴの保全も依然として重要であることも分かりました。

今後はさらに、様々なサンゴおよびサンゴ群集生態系に生息する種についても同様に最北限集団を含む様々な海域の遺伝子解析を行い、気候変動にともなう生物集団の保全を検討する予定です。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
The potential role of temperate Japanese regions as refugia for the coral Acropora hyacinthus in the face of climate change
著者 :
Aki Nakabayashi, Takehisa Yamakita, Takashi Nakamura, Hiroaki Aizawa, Yuko F Kitano, Akira Iguchi, Hiroya Yamano, Satoshi Nagai, Sylvain Agostini, Kosuke M. Teshima & Nina Yasuda
DOI :
<$mt:Include module="#G-13_環境・社会理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

研究に関すること

宮崎大学テニュアトラック推進機構

テニュアトラック准教授

安田仁奈

E-mail : nina27@cc.miyazaki-u.ac.jp
Tel : 0985-58-7233

海洋研究開発機構海底資源研究開発センター

環境影響評価研究グループ

研究員 山北剛久

E-mail : yamakitat@jamstec.go.jp
Tel : 046-866-3811(代表)

産業技術総合研究所地質情報研究部門

主任研究員 井口亮

E-mail : iguchi.a@aist.go.jp
Tel : 0298-61-5089

東京工業大学 環境・社会理工学院

准教授 中村隆志

E-mail : nakamura.t.av@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3038

取材申し込み先

宮崎大学企画総務部広報・渉外課

E-mail : kouhou@of.miyazaki-u.ac.jp
Tel : 0985-58-7114

海洋研究開発機構広報部報道課

E-mail : press-ml@aist.go.jp
Tel : 046-867-9198(上田)

産業技術総合研究所企画本部報道室

E-mail : press@jamstec.go.jp
Tel : 029-862-6216

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

藤枝俊宣講師がバイオマテリアル・サイエンス誌の新進研究者2019に選定

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生命理工学院 生命理工学系の藤枝俊宣講師が、イギリス王立化学会が発行するバイオマテリアル・サイエンス(Biomaterial Science)誌の新進研究者(Emerging Investigators) 2019に選定されました。

本賞は2014年に創設され、バイオマテリアル(生体材料学)分野における世界中の若手研究者の中から約20名が選ばれる有力な国際賞です。2014年、2017年に続き今回が3度目の選定で、東工大の研究者が選ばれるのは初めてです。バイオマテリアル分野で権威ある学会誌バイオマテリアル・サイエンス誌の編集会議、顧問会議および過去の新進研究者が審査し、バイオマテリアル分野の未来に与える影響力と将来性を考慮して受賞者を選定します。

同誌は新進研究者2019の特集号も組んでおり、藤枝講師らの短編総説「生体に対して力学的に適合するプリンテッドナノ薄膜(Printed Nanofilms Mechanically Conforming to Living Bodies)」も同号に掲載されています。

藤枝講師のコメント

大変名誉な機会をいただき、光栄に存じます。これまでに取り組んできた研究内容が評価されたことを嬉しく思います。この場を借りて共同研究者の先生方、学協会の関係者、そして、日夜研究に励む学生の皆様に厚く御礼を申し上げます。藤枝研究室は2018年11月に生命理工学院で産声を上げたばかりです。これを励みにしてバイオマテリアルの発展に尽力する所存です。本学の医療技術を1日も早く患者様やそのご家族、また、医療従事者の方々に届けられるよう研究室一丸となり、引き続き研究活動に取り組んで参ります。

藤枝俊宣講師(右から4人目)と研究室メンバー

藤枝俊宣講師(右から4人目)と研究室メンバー

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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

3月の学内イベント情報

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3月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

小学生向けプログラミング教室 LEGO教室 プログラミングでLEGOロボット

小学生向けプログラミング教室 LEGO教室 プログラミングでLEGOロボット

東京工業大学博物館では、新進気鋭のデジタル創作・プログラミング系サークル「traP」(東工大公認サークル)とともに小学生親子向けプログラミング教室を開催します。

プログラミング初心者でも楽しめる内容となっています。

日時
3月2日(土)14:00 - 16:00(受付開始13:30)
会場
参加費
無料
対象
小学校3~6年生
申込
必要(先着親子20組)

グローカルスプリングスクール2019 in Tokyo Tech

グローカルスプリングスクール2019 in Tokyo Tech

「本学大学院生(博士課程、修士課程、専門職学位課程)、交流協定校、社会人の約40名が、学問分野を問わずに世界規模の課題について考える約3日間の課題解決・創発力育成のための集中プログラムです。

“グローカル”とは、ローカルでの優れた技術や発想をグローバルに展開していく、国際化の新しい視点です。

今回「人によりそう」を形にする=人から世界に展開するイノベーションをプログラムテーマとし、博士課程・修士課程の混合グループでのディスカッションや、アクティビティ、モデリング、ポスター発表等を通して、研究者・起業者としてチームを率いるリーダーシップ、学際性・コミュニケーション力を身に付けること、他分野の研究者との協働、ネットワーク構築、専門外の知見、異文化交流を通じた新しいモノの見方の獲得を目指します。

最終日にはチームによるポスタープレゼンテーションを行い、意欲ある提案をしたチームの表彰を予定しています。

19時からは優秀論文を執筆した学生の表彰を予定しておりますので、あわせてご参加ください。

日時
3月3日(日) - 3月5日(火)
会場
参加費
無料
対象
全日程に参加できる大学院生、科目等履修生、特別聴講学生、海外交流学生(詳細は募集要項を確認)
申込
必要

インテリジェントIoTプラットフォーム・シンポジウム「IoTとコミュニケーション可視化」

インテリジェントIoTプラットフォーム・シンポジウム「IoTとコミュニケーション可視化」

モノのインターネットIoTは、様々なモノがインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組みであり、今や様々な情報通信技術を駆使して革新的な製品やサービスが創造され、新たなビジネスの領域が拡がっています 。しかし、人が主役となる労働集約型の現場ではIoTの導入は充分ではなく、その生産性は依然として低いままです。例えば教育現場での理解度向上、建設現場での作業員の安全確保、オフィスにおける意識の共有化等は、人とモノが共存する複雑な環境下にあり、業務の多様性や流動性、人の健康や感情への対応等を考慮しなければなりません。これらの情報を可視化し、どの様にモノのインターネットと融合するかが重要なテーマとなってきました。

この新たな課題に対応するため、人の感性情報の可視化、分散処理情報技術、超低消費電力化センサ技術を基本としたインテリジェントIoTプラットフォームを立上げました。今回のシンポジウムでは、教育現場を例にとり、本プロジェクトによって教育のあり方がどのようになっていくかを中心に議論します。

日時
3月5日(火)13:10 - 17:40(開場13:00)
会場
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
不要

産総研×東工大 エネルギー×触媒 若手クロスシンポジウム

産総研×東工大 エネルギー×触媒 若手クロスシンポジウム

国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)―東工大の応用化学分野でのクロスアポイントメント制度を基盤に、両組織の人材交流のさらなる活性化を目指して、若手研究者・若手教員によるシンポジウムを実施します。

日時
3月8日(金) 13:00 - 18:00
会場
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
不要

MOTオープンハウス「MOTと私の学び:社会の中での実践」

MOTオープンハウス「MOTと私の学び:社会の中での実践」

東京工業大学MOTオープンハウスは、本学MOT(技術経営専門職学位課程)について広く知っていただくために半年ごとに開催しています。今回は、専門性やバックグラウンドの異なる教員および修了生らによる講演を行います。

Q&Aセッションも設けますので、本学MOTに興味のある方MOTと実務との関連性を知りたい方、本学MOTの受験を検討している方などに最適なオープンハウスとなっています。

日時
3月9日(土) 13:30 - 16:30
会場
参加費
無料
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
必要(3月7日(木)まで)

中高生のためのプログラミング教室(2019年 春)

中高生のためのプログラミング教室(2019年 春)

プログラミング」と聞いて、「なんだか難しそうで手が出せない」「興味はあるけどよくわからない」「まわりに質問できる人がいない」「やってみたけどうまくいかなかった」など、ひとりで悩んでいるひとはいませんか?

最初は誰もが初心者です。わたしたちもみんなそうでした。東京工業大学デジタル創作同好会traPは、そうした初心者のお悩みを解決する「プログラミング教室」を開催します。

日時
3月16日(土) 10:00 - 17:00
会場
参加費
無料
対象
プログラミング初心者の中高生で、キーボードの英字入力が可能な方、自身のノートパソコンを持参できる方
申込
必要(先着30名)

小中学生向け プログラミング&暗号処理 体験会

小中学生向け プログラミング&暗号処理 体験会

2020年より小学校で必修化するプログラミング教育。昨今注目を集めているロボットプログラミングのPepperや、Micro:bitを使って楽しくプログラミングを学べる講座と、情報セキュリティの基盤技術である暗号理論を小中学生でもわかりやすく学べる講座を行います。

当日、簡単なアンケートなど調査にご協力をお願いする場合がありますがご了承の上ご参加ください。なお、東京工業大学はソフトバンクグループ株式会社及びソフトバンクロボティクス株式会社の実施するPepper 社会貢献プログラムに賛同し、Pepper を活用したプログラミング教育の効果検証について共同研究を実施しています。本イベントの一部は、それに加え、科学研究費補助金(課題番号18H01049)、東工大基金(理科教育振興支援)の一環として行っています。
日時
3月16日(土) 10:00 - 15:30(受付開始9:30)
会場
参加費
無料
対象
小学生(中学年)~中学生(大人の方の見学可)
申込
必要(応募者多数の場合は抽選、3月8日(金)必着)

科学教室「進化ってなに?:進化論と利他行動」

科学教室「進化ってなに?:進化論と利他行動」

地球上で観察される生物の多様性は、気が遠くなるほど長い歴史をもつ「進化」の産物です。

今回は、その「進化」がどのような現象なのか、進化理論の基礎の基礎を体験的に学ぶ機会を提供いたします。

さらに応用編として、古典的な進化理論のみでは理解が難しい「利他行動の進化」に関するコンピュータ・シミュレーションを行います!

高校生以上向けの内容ではありますが、中学生も参加可能です。

また、本教室に関するご質問などをメール(higuchi.t.aj@m.titech.ac.jp)にて受け付けておりますので、申し込み前にご相談頂くことも可能です。お気軽にご連絡ください。

日時
3月24日(日) 13:00 - 16:30
会場
参加費
無料
対象
高校生以上(中学生も可)
申込
必要(定員20名、応募多数の場合は抽選、3月15日(金)必着)

科学教室「棘皮動物の不思議な世界2019」

科学教室「棘皮動物の不思議な世界2019」

今年もやります「棘皮動物の不思議な世界」!

棘皮動物(ウニ、ヒトデ、ナマコの仲間)は脊椎動物と比較的近縁であるのに5角形をした不思議な動物です。実際に生きた動物や標本に、ふれることによって棘皮動物のデザインをまなんでみましょう!今回はアリストテレスのランタン(ウニの咀嚼器)の拡大模型も登場します。おとなでも楽しめます!アリストテレスもびっくり!

日時
3月27日(水)13:20 - 16:00
会場
参加費
無料
対象
中学生以上
申込
必要(先着30名、3月15日(金)まで)

東工大サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?2019春」

東工大サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?2019春」

東工大サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?2019春」を今年も開催します。

ヒトの腸内には、1,000種100兆個体の細菌が共生していると言われています。

近年、腸内細菌の解析技術が飛躍的に向上し、これらの細菌を網羅的に調査する事が可能となり、様々な発見が相次いでいます。

本企画では、山田拓司准教授や生命理工学系のJCHM学生メンバーと一緒に、腸内細菌の仕組みについてボードゲームを使って遊びながら学ぶことができます。

日時
3月29日(金) 13:30 - 15:30
会場
参加費
無料
対象
どなたでも(小学3年生~6年生向け・保護者同伴可)
申込
必要(定員40名、応募多数の場合は抽選、3月19日(火)必着)

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大生のチームが情報セキュリティーコンテスト「SECCON CTF 2018 国際大会」で準優勝

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東工大生4名によるチーム「NaruseJun(ナルセジュン)」が、12月22日から23日にかけて都内で行われた国内最大級の情報セキュリティー コンテスト「SECCON CTF 2018 ―International―(セキュリティー コンテスト キャプチャー ザ フラッグ2018 国際大会)」で準優勝を獲得しました。

表彰式での結果発表
表彰式での結果発表

賞状
賞状

会場に表示された最終順位表(NaruseJunは上から2番目、7196ポイントを獲得)
会場に表示された最終順位表
(NaruseJunは上から2番目、7196ポイントを獲得)

SECCONは情報セキュリティー分野で通用する情報セキュリティー人材の発掘・育成を目的として開催されている情報セキュリティーコンテストのイベントです。CTFは攻撃・防御両方の視点を含むセキュリティーの総合力を試すハッキングコンテストであり、2014年から国際大会が開催されています。

SECCON CTF 2018 国際大会の予選は10月にオンライン形式で行われ、80カ国以上から約1,400チームが参加しました。チームNaruseJunは予選4位で通過し、15チームが出場する国際大会への出場権を手にしました。また、同チームは昨年のSECCON CTF –Domestic-(国内大会)において、準優勝と文部科学大臣賞(個人賞)を受賞しています。チームメンバーは全員、東工大の学生サークル「デジタル創作同好会traP(トラップ)」に所属しています。

チーム NaruseJun

  • 澤田一樹さん(工学部 情報工学科 学士課程4年)
  • 宮本柊吾さん(理学部 情報科学科 学士課程4年)
  • 安宅佑騎さん(工学部 情報工学科 学士課程4年)
  • 黒岩将平さん(工学部 情報工学科 学士課程4年)

表彰式後の集合写真(左から澤田さん、宮本さん、安宅さん、黒岩さん)

表彰式後の集合写真(左から澤田さん、宮本さん、安宅さん、黒岩さん)

チーム代表 澤田さんのコメント

サイバーセキュリティー系コンテストの最高峰の1つであるSECCON CTF 2018 国際大会で優れた成績を収めることができ、大変嬉しく思います。東工大traPのCTFチームとしては、初めての国際大会出場でした。海外の強豪チームと肩を並べて戦う経験は大変刺激的なものでした。

私は普段は情報通信ネットワークの研究をしています。他のメンバーも、情報工学に関わる様々な分野で研究を行っています。各メンバーの専門分野に関する知識や経験を、うまく活かして戦えたからこその結果であると感じています。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

教育の質向上を目指して「平成30年度全学FD」を実施

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教育・国際連携本部は、11月26日~27日に東京都府中市にある研修施設クロスウェーブ府中にて宿泊形式の全学FD(ファカルティ・ディベロップメント)※1研修を開催しました。

2016年度より始まった本学の教育改革が「学生が自ら学び考える教育」を目指しているため、今回の研修テーマを「Student-Centered Learning(学生本位の学び)の実現に向けて」としました。教育革新センターと学務部の協力を受けて、当日は全学から教員41名が参加しました。

※1
FDはFaculty Developmentの略称で、教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取り組みの総称。

全プログラムを終えて行ったアンケート(38名/回収率92.7%)では、参加教員の満足度は「満足」と「やや満足」を合わせて78.9%と概ね高く、特にグループ活動(検討)および教員相互の意見交換が有益であったことが見て取れます。自由記述には、「他大学から講師を呼んで話を客観的に聞く取り組みは有益であった。外部の声を聞き、良いところは取り入れていきたい」「自分の視野を広げ、具体的な実践可能なアイデアが与えられとてもためになった。できる範囲で授業に取り込んでいきたいと思う」「普段、文化も背景も異なる先生方と話をする機会はあまりないので、様々な意見交換と深い議論を交わす状況を提供していただいて、とても面白かった」等の感想が寄せられました。

講師陣と参加教員

講師陣と参加教員

1日目(11月26日)

益一哉学長は「東工大が目指す教育」と題して、本学の掲げる人材像、教育ポリシー、教育プログラムの全体像、本学の将来構想について講演しました。

益学長による講演の様子

益学長による講演の様子

続くレクチャーでは、関西大学 教育推進部の森朋子教授より、見える学力・見えにくい学力・見えない学力という学力の3要素や、学習理論の観点からこれからの授業における育成デザインについてお話しがありました。また、水本哲弥理事・副学長(教育担当)から、本学が取り組んでいる様々な教育改革の現状と課題について話題提供がありました。

これらの講演内容を受けるかたちで、2人の講師と参加者とのクロストークが行われ、今回のテーマである「Student-Centered Learningの実現に向けて」のもと、活発に意見が交換されました。

クロストークで質疑に応じる講師陣(左から、教育革新センターの田中岳副センター長・教授、水本理事・副学長、森教授)

クロストークで質疑に応じる講師陣(左から、教育革新センターの田中岳副センター長・教授、水本理事・副学長、森教授)

休憩を挟んで行われたグループ活動では、「大学院における英語授業を実質化する」「オンラインを授業内外で活用する」「TA(ティーチング・アシスタント)※2と協力して授業を展開する」「学生の学修を測定する」というテーマごとに、参加教員がグループを編成し、翌日のプレゼンテーションに向けて活発な意見交換と検討が展開されました。加えて、初日を終える意見交換会では、益学長や水本理事・副学長も輪に入り、学院および系・コースの垣根を超えた交流が見られました。

※2
TAとは、教育や授業の補助準備など、教育に関わる業務補助を行う学生のこと。

2日目(11月27日)

オリエンテーションの後、各グループはプレゼンテーションの最終準備に入りました。その後の各グループからの発表では、それぞれが教育現場で抱えている課題や改善案などが提示されると同時に、将来の展望や教育改革に対する提案が行われました。

齋藤教授による講演の様子
齋藤教授による講演の様子

発表後は質疑参加だけでなく、他のグループ発表に対するフィードバックシートへの記入というワークも盛り込まれました。各グループに対し、全発表終了後に届けられたフィードバックシートを踏まえて発表内容に関する再検討を行うアクティブラーニング形式のFDを行いました。

昼食後は、保健管理センターの齋藤憲司教授から「多様化する学生の現在/大学教育のこれから」と題する、現代学生の気質と教職員の学生への関わり方についての講演が行われました。

お問い合わせ先

教育革新センター

E-mail : citl@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2993

「教養卒論シンポジウム&優秀論文表彰会」 開催報告

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2月7日、大岡山キャンパスのディジタル多目的ホールで、教養卒論シンポジウム&優秀論文表彰会が行われました。本学リベラルアーツ研究教育院の河村彩助教(ロシア・ソヴィエト文化)が総合司会を務めました。シンポジウムでは、リベラルアーツ研究教育院の林直亨教授(応用生理学)、鈴木悠太准教授(教育学)、小泉勇人准教授(学術的文章教育)、室田真男教授(教育工学)により、今年度より新設された学士課程必修の文系教養科目、「教養卒論」の授業内容が紹介されました。教養卒論の教育内容や学生の書いた文章、その他のコア学修科目を紹介し、東工大の「学びの場」がどのように形成されているのかが説明されました。その後、優秀論文に選ばれた学生によるショートプレゼンテーション、最後に執筆した学生の表彰が行われました。

当日は修士論文発表会などと重なる系・コースが多く、来場者の少ないことが危惧されましたが、113名の方にお越しいただき、学外者や蔵前工業会の方々の参加も多くみられました。

教養卒論シンポジウム

上田紀行研究教育院長の開会の挨拶の後、シンポジウムの司会を務めた林教授から、教養卒論の目的、具体的なカリキュラムが紹介されました。本学の教養教育が、学士課程入学直後の必修科目「東工大立志プロジェクト」に始まり、今年度開講された、学士課程3年目の学生を対象とする「教養卒論」が1つの集大成となることを中心に、コア学修カリキュラムについて説明しました。学生たちは「東工大立志プロジェクト」のメンバーと2年ぶりに同じクラスで再会し、「自分の専門分野と自らの教養・経験とのかかわりに加え、世界をよくすることにどう貢献したいか・できるか、そのためには今後何を学ぶことが自分にとって必要か」をテーマに、教養卒論を書き上げました。多岐に渡る優秀論文のタイトルが紹介され、なかには、教員の世界観・研究観を変えるほど刺激的な内容もあったとのことです。

教養卒論カリキュラムの検討経過を説明する林教授

教養卒論カリキュラムの検討経過を説明する林教授

次に、鈴木准教授は東工大生の文体の詳細について論じました。この教養卒論が1200人もの学生の中に“知的文章を吟味する共通言語の獲得が起きたこと ”の重要性・驚きに言及します。また、友人の教養卒論をレビューする活動、すなわち「教え合い」ではなく「学び合い」という知的に高度な営みに学生たちが挑戦したことを紹介し、3名の教養卒論を例に、「凛として歩む文体」「真理を掴む文体」「問いかけ、答える、文体」について検討しました。聴講していた学生たちの表情の良さが印象的でした。

教養卒論の意義を述べる鈴木准教授

教養卒論の意義を述べる鈴木准教授

小泉准教授はピアレビュー※1とチュータリング※2技術について、専門的な見地から説明しました。教養卒論のクラスでは、大学院課程の科目「ピアレビュー実践」を受講している上級生が、ピアレビューに参加、あるいはピアレビューを観察・講評しています。ピアレビュー実践を担当し、自身もチュータリングの経験が豊富な小泉准教授は、ピアレビュー実践の受講生の成長と戸惑いを紹介しつつ、ピアレビュー実践と教養卒論との有機的な関連を紹介しました。

※1
ピアレビュー : ピアレビューは仲間で(=ピア)論評・見直しする(=レビュー)こと。
※2
チュータリング : 文章について的確な質問を投げかけることで、書き手本人に文章の問題点を気づかせ、自発的な修正を促す技術。いわば学術的文章/書き手の思考を専門対象とするカウンセリング技術とでもいうべきもの。

ピアレビュー実践について説明する小泉准教授

ピアレビュー実践について説明する小泉准教授

最後に、室田教授からは学びの場づくりについて考察がありました。修士課程学生がティーチング・アシスタント(TA)などとして授業の手伝いをするだけでなく、学士課程学生の授業に参加することで、学びあい・教えあうシステムが、この教養卒論の講義によって完成したことを紹介しました。

学びの場について説明する室田教授

学びの場について説明する室田教授

講演後には、早稲田大学国際学術院の佐渡島紗織教授(教育学)から、講評を頂きました。論文のテーマが抽象的で難しそうという批判や、初年次ではなく、専門教育に近づいた段階でライティングの練習をしていることの重要性に触れました。多くの大学では初年次教育にライティング演習を導入していることが多い一方で、東工大では書く作業が増えていく専門教育直前で、ライティングの練習があることの有用性には納得できるものがあると述べました。

佐渡島教授は、2015年3月にリベラルアーツ研究教育院の準備会を対象にして、「理科系学生の文章作成を支援する」と題した講演会を担当し、有益なお話を頂くとともに、教員対象の実習も担当しました。大学としては日本初のライティングセンターを早稲田大学に開設した同教授に評価頂けたことは、今後の授業改善に取って有意義でした。

教養卒論の授業について講評する早稲田大学の佐渡島教授

教養卒論の授業について講評する早稲田大学の佐渡島教授

その後、司会の林教授から、ライティングのスキルは一生ものであり、身につけることが需要であることと、教養卒論には改善点も多く、改革を今後も続けていくので支援をお願いするとの発言があり、シンポジウムは終了となりました。

優秀論文表彰会

教養卒論の内容を熱弁する執筆者たち

教養卒論の内容を熱弁する執筆者たち

優秀論文表彰会は、優秀論文を執筆した学生のうち5名による、各2分間のプレゼンテーションから開始されました。学生は自身の教養卒論の内容を的確に要約して紹介し、聴衆の心を掴んでいました。「これまでの学修を振り返り、将来の目標を道筋とともに明示する」、「大学の授業態度を変えることで講義が楽しくなる」などのプレゼンに、皆引き込まれていました。特に卒業生からはもっと聞きたかったとの声が多く、刺激的な内容が多かったことがうかがえました。

佐渡島教授からは、プレゼンの内容について詳細なコメントを頂きました。内容の素晴らしさに驚いた様子でした。

第4クォーターの優秀論文受賞者と益学長

第4クォーターの優秀論文受賞者と益学長

最後に、各クォーターの優秀論文執筆者が、益一哉学長から表彰されました。学長からは、教養卒論の出来栄えへのコメントがありました。

本学独特の科目である教養卒論では、1年次に立てた志を3年次にまとめ、ライティングの基礎を学びつつ、近い将来の専門学修への見通しをつけることを目標にしています。本学の学生が教養卒論を通して、新たな志を抱いて開拓する手段を明確に描き、専門学修の成果とともに大きく羽ばたくことを期待するとともに、教養卒論の内容を話す機会を通して教員・学生・卒業生の対話が益々深まることを期待します。

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お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院 教授 林直亨

E-mail : naohayashi@ila.titech.ac.jp

東工大生発の夜間ホームレス人口調査「東京ストリートカウント」 オリンピック・パラリンピックを機に東京をやさしい都市に

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2月22日深夜から23日未明にかけ、東工大生と市民による夜間の路上ホームレス人口調査「2019冬・東京ストリートカウント」の1回目を実施しました。東京工業大学 環境・社会理工学院の学生や教職員を中心とするホームレス問題の研究・アドボカシー(政策提言)団体「ARCH(アーチ、Advocacy and Research Centre for Homelessnessの略称)」が呼びかけて行われたものです。終電後の深夜にボランティアとして集まった市民が駅前に集まり、初めて会った人たちと班を組んで、街の中を歩き、野宿している人の数を調査しました。

2016年1月以来、年2回のペースで行っています。第7期目にあたる今回は計170名の市民参加者を募り、2月22日深夜の台東区・墨田区につづき、2回目の「2019冬・東京ストリートカウント」は、2019年3月2日(土)深夜から2019年3月3日(日)未明にかけて豊島区・文京区・新宿区・渋谷区をそれぞれ調査します。

2月22日の調査に集まった約60名の市民(左:台東エリア、右:墨田エリア)

2月22日の調査に集まった約60名の市民(左:台東エリア、右:墨田エリア)

2月22日の調査に集まった約60名の市民(左:台東エリア、右:墨田エリア)

東京ストリートカウントとは ― 深夜は昼間の2.6倍!

3~4名が1つの班となり、地図や調査シートを持ちながら2時間程度、担当エリアをくまなく歩いて調査
3~4名が1つの班となり、地図や調査シートを持ちながら
2時間程度、担当エリアをくまなく歩いて調査

東京ストリートカウントは、2016年1月にARCHが東京で始めた市民参加型の深夜路上ホームレス人口調査です。東京都による「路上生活者概数調査」は昼間に行われており、ホームレスの人々がより可視化する夜間の人数が調べられていないことから、市民の力でホームレス問題の実態を明らかにしようという意図で開始されました。これまでの最大規模で行われた2018年夏のカウントでは、調査した都内15区7市だけで一晩に1,391名の人々が野宿状態にあることが確認されています。これは、東京都の昼間調査の値526名の約2.6倍にあたり、少なくとも865名の人々が行政調査では見過ごされていることが明らかになりました。

ARCHはストリートカウントの結果に基づき、都内全域で一晩に約2,300名、年間延べ約2.5万名の人々が野宿状態を経験しているという推計を出しています。これらの研究成果は既存の政策の根本を問い直すものであり、行政や議会への政策提言、多数のメディアによる報道へとつながっています。

さらに、東京ストリートカウントは市民が自分たちの街に存在するホームレス状態を実際に歩くことで知り、考えるきっかけをつくることを重視しています。

これまで実数で市民812名が参加しました。年代は10代から60代まで、職業も学生や会社員、議員、行政職員、非営利団体ワーカー、研究者など様々です。東工大からも、多くの学生や教員が参加しています。参加者からは「実際に街を歩くことで、こんな寒い中、寝ているのだな、とか、どのような場所が寝やすいのだろうとか、今まで想像でしか考えたことがなかったことを自分の肌で体感できました」「ホームレスの人のことだけでなく、深夜の街がどのようになっているのかを知ることができました」「一緒に調査した方たちといろいろな話をすることができました」「学生さんたちが真剣に取り組んでいる姿にほっこりしました」などの声が集まっています。

ARCHのアドボカシー・発信の活動

2017年5月に都庁記者クラブで行われた提言発表記者会見
2017年5月に都庁記者クラブで行われた提言発表記者会見

ARCHの研究成果や活動を通じて発された市民の声は、論文や学術雑誌の記事、講演、メディアによる報道、団体ウェブサイト・SNSなど様々な形で発表されています。2017年5月には東京都庁の記者クラブにおいて記者会見を行い、調査結果や推計値の発表に加えて、政策提言も行いました。同年、国会においてもARCHの調査結果について議論がなされており、昨年度は東工大の学士課程1年目の学生を対象とする授業「東工大立志プロジェクト」でも講演が行われました。東工大生発の活動が、徐々に大きな社会的インパクトを持ち始めています。

2020オリパラを機に東京を「やさしい都市」に

ARCHは2015年10月に発足した団体で、設立のきっかけは東京が2020年オリンピック・パラリンピック(オリパラ)の開催都市に選ばれたことでした。

東工大 環境・社会理工学院 建築学系で都市政策やコミュニティ・デザインを研究する土肥 真人研究室のメンバーや卒業生、NPOメンバーからなる、ホームレス問題の研究・アドボカシー(政策提言)を行うグループとして発足しました。

ARCH共同代表の河西奈緒さん(環境・社会理工学院 研究員)は「過去のオリパラ開催都市では都市の表面的な美化のために、ホームレスの人々が都市の外に追いやられる事例もありました。ですが、私たちはこれまでの海外研究から、オリパラを機に包摂的なホームレス政策を前進させた都市があったことを知っています」と話します。河西さんらが積み重ねてきた諸外国のホームレス政策に関する研究を出発点に、東京が社会的・経済的に弱い立場にある人々を追いやるのではなく、オリパラを機に包摂的な政策を前進させる「やさしい都市」となるよう働きかけるため、発足したのがARCHです。

さらに、ARCHメンバーとして活動する片田梨奈さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 修士課程2年)は「ARCHに入る前、私は街の中でホームレスの人を見かけても、『どうすることもできない私が、むやみに触れてはいけない』という思いから、半分無意識のうちに見えないふりをしていました。そのとき、何となく後ろめたさを覚えていたと思います。ですが今の私は、街の中でホームレスの人を見かけたら、まずその人がいるそこにいることを認識して、次に、市民の1人として自分にできることは何だろう、と考えます。そうやって1人ひとりが、ホームレスの人も自分も同じ東京に暮らす市民としてこの問題を考えることが『やさしい都市』をつくると思って活動しています」と語ります。

同じくARCHメンバーの押野友紀さん(環境・社会理工学院 建築学系 修士課程1年)も「まだ活動を通じて色々と学んでいる段階ですが、ARCHの目指す『やさしい都市』は一方的にホームレスの人をジャッジして家やお金をあげるのではなく、一緒に考えたり耳を傾けたりして、支え合い共に暮らす都市のことなんだとだんだん分かってきました」と話します。

ARCHは今後も、東京オリパラに向けて路上の状況変化が懸念される中、「東京ストリートカウント」を継続的に行う予定です。さらに、2020年の目標として「ホームレス憲章」の創設に取り組みます。今後もARCHの活動をウェブサイトやSNSで発信していきますので、興味のある方はご覧ください。

お問い合わせ先

ARCH(アーチ;Advocacy and Research Centre for Homelessness)

E-mail : arch.cd.office@gmail.com


気候変動による影響の連鎖の可視化に成功 地球温暖化問題の全体像を人々が理解することに貢献

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概要

地球温暖化は人間社会や自然環境に様々な問題を引き起こし、ある問題が別の問題を引き起こすというように、「影響の連鎖」が生じます。国立研究開発法人 国立環境研究所(以下「国立環境研究所」という。)、国立大学法人 東京大学、国立大学法人 東京工業大学(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 鼎 信次郎教授)など研究プロジェクトチームは、気候変動の影響に関する文献の網羅的な調査を行い、得られたデータを理解可能な図として表現することで、気候変動が及ぼす影響の連鎖を可視化をすることに成功し、論文として発表しました。影響連鎖の図を分析することにより、気候変動が自然環境、社会経済、人間生活に与える影響の大きな構造が明らかになりました。本研究によって、研究者だけでなく多くの人々が、気候変動によって生じる様々な影響のつながりを理解し、地球温暖化問題の全体像を理解することに役立ちます。この研究成果は、米国地球物理学連合(American Geophysical Union)の発行する学術誌「Earth's Future」に2019年2月12日付け(現地時間)で掲載されました。

研究の背景

現在も起こりつつある地球温暖化は、人間社会や自然環境に様々な影響を及ぼします。この一方で、急速な技術発展、都市化やグローバル化によって、現代の社会経済活動は様々な形で密接につながっています。また、自然環境も大気・土壌・河川・海洋とそこに存在する生物の間で、物質やエネルギーのやり取りを通して、お互いに様々な作用を及ぼしあっています。このように人間社会や自然環境は複雑な相互依存関係で成り立っているために、気候変動によってある場所で生じた影響が、別の場所で違う影響を引き起こす、という「影響の連鎖」が生じます。

これまでの研究では、気候変動が人間社会や自然環境に及ぼす影響を分野ごとに評価し、異なる分野の間の「影響の連鎖」に関しては十分に調べられてきませんでした。複数の分野のつながりを調べるための分野横断的な研究が非常に難しい、ということも理由にあげられます。気候変動によって生じる問題の最新の研究知見をもっとも幅広くまとめた報告書は、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel for Climate Change, IPCC)outerによって出版された第5次評価報告書(5th Assessment Report, AR5)ですが、IPCC AR5 においても、気候変動が及ぼす影響は分野別あるいは地域別にまとめられており、様々な分野を横断して生じる気候変動影響の連鎖に関しては、体系的にまとめられていませんでした。また、いくつかの国や地域において起こり得る、気候変動による影響の連鎖をまとめた報告書はありましたが、地球全体で起こり得る影響連鎖の全体像をまとめた研究は、これまでなされていませんでした。気候変動によって生じる問題の複雑な連鎖を表現するためには、視覚的に分かりやすい形で表現を行うことが重要ですが、そのような試みは気候変動分野では全くなされていませんでした。

研究の目的と手法

この研究では、気候変動によって起こり得る様々な影響と、影響の間の連鎖関係を、既存の文献を利用して網羅的に調査し、これを分かりやすい形で可視化することを目標としました。この研究では、特定の地域で起こる現象ではなく、世界全体で起こり得る影響の全てを対象とすることを目指しました。将来に起こり得ることをできるだけ幅広く把握するために、悪い影響だけでなく、良い影響(便益)も調査の対象とします。国際社会は、パリ協定などを通して様々な気候変動対策を行おうとしていますが、今回の研究では、対策がなかった場合に起こり得ることを網羅的に調査することにしました。気候変動を緩和するための排出削減や、気候変動に社会が適応する対策をとった場合に起こり得ることを考慮することは、今後の重要な課題だと考えています。気候変動によって生じる影響を評価する研究では、今後100年程度に起こり得ることを予測するものが多いため、21世紀中に起こり得ること評価した研究を文献調査の対象としました。また、気候変動によって影響が生じる分野を全てカバーできるように、水資源・食料・エネルギー・産業とインフラ・自然生態系・災害と安全保障・ 健康の7つの分野を選び、それぞれの分野の専門家であるプロジェクトメンバーが、主にIPCC AR5 を利用して、文献調査を行いました。文献調査の結果、全体として気候変動による影響を87項目に、これらの影響を引き起こす気候変動要因を17項目にまとめました(表1)。さらに、これらの項目の間の因果関係を調査し、256の因果関係を「影響の連鎖」としてまとめました。

表1.
地球温暖化によって生じる影響とその駆動要因。例えば「河川流量の減少/増加」は、「河川流量の減少」「河川流量の増加」の二つの項目があること意味する。
水資源
河川流量の減少/増加、土壌水分の減少/増加、河川水温の上昇、河川水質の悪化、沿岸部の塩水化、湖沼水温の上昇、湖沼水質の悪化、地下水質の悪化、地下水量の減少、水資源の減少/増加、水需要の増加、水処理費用の増加、水価格の上昇
食料
作物生産量の減少/増加、牧草生産量の減少/増加、家畜生産量の減少/増加、病害の増加、農地被害の増加、漁獲量の減少/増加、食料流通の変化、食料貿易の変化、食料価格の上昇、飼料価格の上昇、食料供給の不安定化
エネルギー
水力発電効率の低下/向上、火力発電効率の低下、原子力発電効率の低下、冷房需要の増加、暖房需要の減少、エネルギー需要の増加、エネルギー価格の上昇、エネルギー供給の不安定化
産業とインフラ
インフラ被害の増加、観光産業への悪影響、木材生産量の減少/増加、北極海航路の出現
自然生態系
生態系生産量の減少/増加、土壌流出の増加、土壌有機物の減少、藻類などの繁茂、森林火災の増加、森林の衰退と枯死、植生帯の変化、マングローブ林や湿原の減少、害虫の増加/減少、生物多様性の低下/向上、海洋生態系生産量の減少、海洋表層栄養塩の減少、海洋炭酸カルシウムの溶解、海洋溶存酸素の減少、海洋生物生息域の変化、海洋生物多様性の低下
災害と安全保障
水安全保障の悪化、食料安全保障の悪化、エネルギー安全保障の悪化、島嶼地域への悪影響、文化遺産の損傷、居住地の移動、紛争の激化、洪水の増加、土砂災害の増加、家屋被害の増加、海難事故の増加、水難事故の増加
健康
熱中症や熱関連死亡の増加、寒冷関連死亡の減少、下痢の増加、低栄養の増加、水媒介感染症の増加、食料媒介疾患の増加、動物媒介感染症の増加/減少、人間媒介感染症の増加、PTSDなどの精神疾患の増悪、呼吸器疾患の増加
気候要因
温室効果ガス濃度の減少/増加、気温の上昇、猛暑の増加、降水量の減少/増加、熱帯低気圧の強化、豪雨の増加、強風の激化、高潮の強化、雪氷の融解、凍土の融解、季節サイクルの変化、海水温の上昇、海面水位の上昇、海洋循環の変化、海洋の酸性化

文献調査によって得られた影響の連鎖を、より分かりやすい形で可視化するために、様々な工夫を行いました。得られた因果関係の全てを同時に表現すると非常に複雑な図になってしまうため、まずは前述の7分野ごとに、それぞれの分野に関連する因果関係だけを抜き出して表現しました。このうち「食料」の分野に関わる因果関係を示したのが図1です。論文ではすべての分野の因果関係図も示していますが、ここでは食料分野を例にとり、説明します。図1では、気候変動によって生じる影響と、影響を生じさせる気候変動要因の項目をアイコンで、因果関係を矢印で表現しています。この研究では、複雑なネットワークをより分かりやすく表現するために、デザインの専門家である国立環境研究所地球環境研究センター交流推進係のメンバーと協力して図を作成しました。図1では、因果関係の数に応じてアイコンの大きさを変えています。因果関係が8以上の項目を大サイズで、4から7を中サイズで、3以下を小サイズで表しています。これにより、より多くの項目とつながる気候変動影響の項目がより識別しやすくなってます。

食料分野における気候変動影響の連鎖

図1. 食料分野における気候変動影響の連鎖

研究の結果と意義

食料分野における気候変動影響の連鎖を表す図1では、7つの分野の影響項目を、異なる色のアイコンで示しています。図1に示されるとおり、様々な分野の影響が、非常に複雑に関連しあっていることが分かります。この研究では、気候変動影響の間の因果関係を詳しく追跡することによって、気候変動の連鎖の、全体的な構造を明らかにしました。図2では、食料分野の影響項目である「作物生産量の減少」とつながっている項目を例にとって、連鎖の全体像を表しています。まず、気温の上昇や降水量の減少などは、直接、作物生産量の減少を引き起こします(図2a)。この他に、水資源の減少や洪水の増加、害虫や病害の増加など、自然環境に関わる影響も作物生産量の減少をもたらすことになります(図2b)。気候変動によって自然環境に生じた影響は、次に、社会や経済に関わる問題に波及します(図2c)。例えば作物生産量の減少は、食料の価格・貿易・流通・供給などに影響を与え、さらにはインフラへの被害も、これらの問題と関連します。このようにして気候変動が自然環境と社会経済に与えた影響は、最終的には人間生活における問題を引き起こします(図2d)。食料の供給や価格の変化によって、人々が食料を入手できなくなる可能性があります(食料安全保障の悪化)。さらに、このような食料安全保障問題によって、人々は居住地の移動を余儀なくされたり、新たな紛争が引き起こされたり、低栄養など人々の健康に影響があることが報告されています。作物収量の減少は、農家の収入の減少を招くことなどを通して、精神疾患などの影響をもたらすという研究もあります。

「作物生産量の減少」にかかわる因果関係を抽出した図。a)気候要因に関わる項目、b)それに加えて自然環境に関わる項目、c)それに加えて社会経済に関わる項目、d)それに加えて人間生活に関わる項目。
図2.
「作物生産量の減少」にかかわる因果関係を抽出した図。a)気候要因に関わる項目、b)それに加えて自然環境に関わる項目、c)それに加えて社会経済に関わる項目、d)それに加えて人間生活に関わる項目。

このような分析によって、気候変動は自然環境に影響を与え、それによって社会や経済に問題が生じ、最終的には人間の生活に影響が及ぶ、というような大きな構造があることが分かりました。このため、図1で示したネットワークの配置を変えて、上流に気候要因、中流に自然環境と社会経済に及ぼされる影響、下流に人間生活への影響に関する項目を配置し、影響連鎖をフローチャートの形で表現したのが図3です。このようなフローチャート図によって、気候変動によって生じる問題の連鎖の大きな流れを把握することができます。

食料分野に関わる気候変動影響連鎖。影響項目を気候要因・自然環境・社会経済・人間生活に分けて表示。連鎖の内容は図1と同じ。
図3.
食料分野に関わる気候変動影響連鎖。影響項目を気候要因・自然環境・社会経済・人間生活に分けて表示。連鎖の内容は図1と同じ。

この研究の科学的な意義としては、文献調査に基づき最新の知見を利用することにより、気候変動によって生じる影響の連鎖を、網羅的に明らかにしたことがあげられます。近年のいくつかの研究によって、気候変動がもたらす問題は、異なる分野の間のつながりを考慮することにより、より甚大なものになることが指摘されています。気候変動連鎖を定量的に評価するためには、本研究で示したように、気候変動によって生じる影響の連鎖をできるだけ幅広く、理解可能な形で示すことが役立ちます。

また本研究のもう一つの意義は、気候変動のリスクを一般の人々とコミュニケーションを図るためのツールとして活用することの可能性です。気候変動に伴う様々なリスクに対処するためには、多くの人々が気候変動によって生じる問題に関する情報を、より幅広く把握することが重要です。気候変動リスクの認識を深めることによって、人々はより深く地球温暖化問題に関わろという意思を持つようになる、という研究報告もあります。この研究では、影響の連鎖を分かりやすく可視化することにより、人々が気候変動によって生じる問題の全体像を理解することに貢献したいと考えました。本研究で開発した手法が実際に有用であるかどうかを確認するため、科学コミュニケーションの専門家である国立環境研究所の社会対話・協働推進オフィスのメンバーouterと、研究成果について意見交換を行いました。図2のように、気候変動影響を階層的に表現することで、影響連鎖の全体像を理解しやすくなったという意見の一方で、気候変動に対して様々なステークホルダーが何らかの行動をするためには、自分に関連する問題についてのより詳しい情報、例えば影響の大きさや、影響が起こる可能性などに関する情報が必要となるだろう、との指摘もありました。この研究では、限られたメンバーで文献調査を行なっているために、将来起こり得る気候変動の影響を、完全に網羅的に捉えられているわけではありません。今後は、より網羅的なリストを作成することが重要な課題です。また、今後の研究の進展によって、新たな気候変動影響やその連鎖についての指摘があるかもしれません。この研究手法を発展させ、新たな情報を取り入れることにより、人々が気候変動によって生じる問題を把握し、この問題の対処する方策を立案することに、貢献できると考えています。

研究助成など

2012年から2016年までに行われた環境省環境研究総合推進費戦略研究プロジェクトS-10(地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究)において、この研究を進めました。2017年以降は、文部科学省統合的気候モデル高度化研究プログラム、環境省及び独立行政法人環境再生保全機構の環境研究総合推進費 戦略研究プロジェクトS-14(気候変動の緩和策と適応策の統合的戦略研究)において、研究を進めました。

論文情報

掲載誌 :
Earth's Future
論文タイトル :
Visualizing the Interconnections Among Climate Risks
著者 :
Yokohata, T., K. Tanaka, K. Nishina, K. Takahashi, S. Emori, M. Kiguchi, Y. Iseri, Y. Honda, M. Okada, Y. Masaki, A. Yamamoto, M. Shigemitsu, M. Yoshimori, T. Sueyoshi, K. Iwase, N. Hanasaki, A. Ito, G. Sakurai, T. Iizumi, M. Nishimori, W. H. Lim, C. Miyazaki, A. Okamoto, S. Kanae, T. Oki
DOI :
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お問い合わせ先

国立研究開発法人国立環境研究所
地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室

主任研究員 横畠徳太

E-mail : yokohata@nies.go.jp
Tel : 029-850-2783

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

第1回URA合同研修会(東京工業大学・自然科学研究機構主催)開催報告

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東京工業大学と大学共同利用機関法人・自然科学研究機構が主催する「第1回URA合同研修会」が2月12日、東工大田町キャンパスのキャンパス・イノベーションセンター(CIC)で開かれました。リサーチ・アドミニストレーター(URA)など大学や研究機関で研究者を支援する人材のスキルアップとネットワーキングが目的で、東工大と自然科学研究機構から計43名のURA等が受講しました。

自然科学研究機構 金子修理事による開会挨拶

自然科学研究機構 金子修理事による開会挨拶

研修会では、URAに関わりの深い5つのテーマについて、両機関の講師6名が講演し、予定時間をオーバーして活発な質疑応答が行われました。

テーマ別研修

東京工業大学桑田薫副学長(研究推進担当)/学長特別補佐による講演

東京工業大学桑田薫副学長(研究推進担当)/学長特別補佐による講演

1.
研究戦略と研究IRについて
「Research Mapができるまで」(東工大 研究・産学連携本部 松林真奈美URA)
「共同利用・共同研究の可視化」(自然科学研究機構 研究力強化推進本部 壁谷如洋URA)
2.
プレアワードについて
「攻めの産学連携活動に向けて」(東工大 桑田薫副学長(研究企画担当)/学長特別補佐)
3.
ポストアワードについて
「URAが主導する大型国際プロジェクト推進について」(自然科学研究機構 核融合科学研究所 笠原寛史准教授(URA))
4.
国際広報について
「国立天文台における国際広報の試み」(自然科学研究機構 国立天文台 山岡均准教授)
5.
産学連携について
「知的財産について」(東工大 研究・産学連携本部 武重竜男特任教授)

また、短い時間に自分の言いたいことを相手に分かりやすく簡潔に伝えるトレーニングを目的に、1分間の“自己紹介プレゼンテーション”も行われ、受講者全員が自身の担当業務、日頃の課題・悩み等を共有しました。中には1分間に何度も会場の笑いを誘う人も現れ、会場は大いに盛り上がりました。

受講者からは「他機関のURA等から具体的な活動内容や課題等を直接聞く機会は貴重であり、興味深く勉強になった」など好評でした。

URAは大学などの研究機関において研究者を支援し、研究マネジメントの一翼を担う高度専門人材です。多くの研究機関で導入され、研究者とともに新たな研究プロジェクトの立上げや、その管理・運営などを支援しています。本学では、研究・産学連携本部に所属するURAをはじめ、部局付のURAや一部の研究プロジェクトで専任されるURAなどが活動しています。

研修を受講するURA等

研修を受講するURA等

自然科学研究機構(NINS)は、宇宙、エネルギー、物質、生命等に係る大学共同利用機関(国立天文台、核融合科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所、分子科学研究所)を設置・運営しています。国際的・先端的な研究を推進する自然科学分野の国際的研究拠点として、全国の大学等の研究者に共同利用・共同研究の場を提供しています。

お問い合わせ先

研究推進部研究企画課

E-mail : kenkik.kik2@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3803

物質中の電気分極を制御することに成功 強弾性や負熱膨張も実現

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要点

  • 正方晶ペロブスカイト酸化物の構造の歪みを制御
  • 通信や半導体分野で利用できる熱膨張しない新たな物質の開発に道
  • 同様の構造を持つ鉛を含まない化合物への応用を期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の東正樹教授、尾形昂洋大学院生、山本孟大学院生(現・東北大学助教)、科学技術創成研究院のJürgen Rödel(ユルゲン・ローデル)特任教授(ダルムシュタット工科大学教授)、神奈川県立産業技術総合研究所の酒井雄樹常勤研究員らの研究グループは、バナジン酸鉛(PbVO3)の一部をクロム(Cr)に置換して、電気分極[用語1]の大きさを制御することに成功した。またこの物質が応力によって結晶の方位が変化する強弾性[用語2]や温めると縮む負熱膨張[用語3]を示す事も確認した。新たな機能性物質の開発につながる成果だ。

同研究グループにはその他に、同大学のZhao Pan(ザオ・パン)博士研究員、西久保匠大学院生、ダルムシュタット工科大学のSatyanarayan Patel(サチャナラヤン・パテル)博士研究員、Peter Keil(ピーター・ケイル)大学院生、Jurij Koruza(ユーリ・コルツア)博士研究員、高輝度光科学研究センターの河口彰吾研究員が参加した。

この成果は、1月17日(米国時間)に米国化学会誌「Chemistry of Materials」のオンライン版に掲載された。

図1. 本研究成果をもとに作成されたデザインイラスト。同図はChemistry of Materials誌 (Volume 31, Issue 4 2019年2月26日発行) の中表紙を飾る「Supplementary Cover Art」に選出された。

図1. 本研究成果をもとに作成されたデザインイラスト。

同図はChemistry of Materials誌(Volume 31, Issue 4 2019年2月26日発行) の中表紙を飾る「Supplementary Cover Art」に選出された。

研究の背景

図2. PbVO3の結晶構造。陽イオンであるPb2+、V4++と陰イオンのO2-の重心が一致しないため、電気分極を有する。
図2. PbVO3の結晶構造。陽イオンであるPb2+
V4+と陰イオンのO2-の重心が一致しないため、電気分極を有する。

陽イオンと陰イオンの重心が一致しない極性の結晶構造を持つ化合物は、強誘電性[用語4]圧電性[用語5]など、有用な性質を示す事が期待されている。代表的な例は、チタン酸鉛で、正方晶ペロブスカイト[用語6]構造の、縦の長さが横の長さの1.06倍という、縦に伸びた構造歪みを持つ。このため、電気分極の値が57 μC/cm2と、多くの電荷を貯めることができ、強誘電性、圧電性を示すほか、昇温による強誘電体から常誘電体[用語7]への転移で、体積が収縮する負熱膨張を示す。負熱膨張物質は、光通信や半導体製造装置など、精密な位置決めが求められる分野で、構造材の熱膨張を補償(キャンセル)するのに使えると期待される物質である。

バナジン酸鉛は、チタン酸鉛と類似の結晶構造でありながら、縦横比(c/a比)が1.23と巨大な構造歪みを持ち、電気分極の大きさは101 μC/cm2に達することから、チタン酸鉛を凌ぐ性能を有すると期待されている。しかしながら、大きすぎる構造歪みが障害となって構造の変化が起こりにくく、電場によって電気分極が反転する強誘電性や、昇温による常誘電相への転移に伴う負熱膨張は確認されていなかった。

研究成果

東教授らの研究グループは今回、バナジン酸鉛を構成するバナジウムについて、その一部クロムで置換する事で、 c/a比を1.07までの任意の値に低減することに成功した。

さらに、大型放射光施設SPring-8[用語8]のビームラインBL02B2での放射光X線回折実験[用語9]を組み合わせた精密構造解析を実施したところ、電気分極も53 μC/cm2にまで制御でき、また、応力によって構造歪みの方向を変えられ、強弾性が起こることを確認した。さらに、チタン酸鉛の1%を上回る、6.6%の体積収縮を伴った負熱膨張が起こる(つまり加熱で縮む)ことも確認した。

図3. 強弾性の概念図。応力によって分極方向の配向が変化する。
図3. 強弾性の概念図。応力によって分極方向の配向が変化する。

図4. PbV0.85Cr0.15O3の単位格子体積の温度変化。450 Kから600 Kの間で6.6%の収縮が起こっている。
図4. PbV0.85Cr0.15O3の単位格子体積の温度変化。
450 Kから600 Kの間で6.6%の収縮が起こっている。

今後の展開

本成果では、極性のペロブスカイト化合物の結晶構造歪みを制御する手法を明らかにした。この手法を応用することで、バナジン酸鉛と同様の結晶構造を持ち、有害な鉛を含まないことから強誘電体、圧電体、負熱膨張材料の母物質の候補として注目される、コバルト酸ビスマス等の化合物の機能性材料化につながると期待される。

付記

本研究の一部は、地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所・戦略的研究シーズ育成事業「革新的環境調和型機能性材料の創出」(代表・東正樹東京工業大学教授)、文部科学省・科学研究費助成事業・基盤研究A「ビスマス・鉛ペロブスカイトのs-d軌道間電荷分布変化解明と巨大負熱膨張への展開」(代表・東正樹東京工業大学教授)、特別推進研究「光と物質の一体的量子動力学が生み出す新しい光誘起協同現象物質開拓への挑戦」(代表・腰原伸也東京工業大学教授)の援助を受けて行った。

用語説明

[用語1] 電気分極 : 物質中で陽イオンと負イオンの重心がずれるため生じる電荷の偏り。コンデンサが電気を貯める能力の目安となる。

[用語2] 強弾性 : 応力の印加によって、結晶の分極方向が変化する性質。

[用語3] 負熱膨張 : 通常、物質は温めると体積や長さが増大する。これを正の熱膨張という。しかし、一部の物質は、温めることで可逆的に収縮する負熱膨張の性質を持っており、これはゼロ熱膨張材料を開発する上で重要となる。

[用語4] 強誘電性 : 誘電体(絶縁体)の一種で、外部電場がなくとも電気分極の方向が揃っており、外部電場によってその方向が変化する性質。

[用語5] 圧電性 : 応力をかけると物質の表面に電荷が現れ、電界を印加すると変形する性質。電気分極を持っているため、このような性質が表れる。

[用語6] 正方晶ペロブスカイト : ペロブスカイトは一般式ABO3で表される元素組成を持った金属酸化物の代表的な結晶構造だ。単位格子が立方体ではなく、一方向に伸びた直方体であるものを正方晶と呼ぶ。

[用語7] 常誘電体 : 電気分極を持たない誘電体(絶縁体)。

[用語8] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている。

[用語9] 放射光X線回折実験 : 物質の構造を調べる方法。放射光X線を試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。

論文情報

掲載誌 :
Chemistry of Materials
論文タイトル :
Melting of dxy Orbital Ordering Accompanied by Suppression of Giant Tetragonal Distortion and Insulator-to-Metal Transition in Cr-Substituted PbVO3
著者 :
Takahiro Ogata, Yuki Sakai, Hajime Yamamoto, Satyanarayan Patel, Peter Keil, Jurij Koruza, Shogo Kawaguchi, Zhao Pan, Takumi Nishikubo, Jürgen Rödel, and Masaki Azuma
DOI :

本研究全般に関するお問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 教授

東正樹

E-mail : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315、080-4402-5315 / Fax : 045-924-5318

地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所 戦略的研究シーズ育成事業 常勤研究員

酒井雄樹

E-mail : yukisakai@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5342 / Fax : 045-924-5318

東北大学 多元物質科学研究所 助教

山本孟

E-mail : hajime.yamamoto.a2@tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-5355 / Fax : 022-217-5353

高輝度光科学研究センター 研究員

河口彰吾

E-mail : kawaguchi@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-0802(内線3134) / Fax : 0791-58-0830

戦略的研究シーズ育成事業に関するお問い合わせ先

地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所 研究開発部

E-mail : aoki@newkast.or.jp
Tel : 044-819-2034

SPring-8 / SACLAに関するお問い合わせ先

公益財団法人 高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課

E-mail : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2785 / Fax : 0791-58-2786

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室

E-mail : press.tagen@grp.tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-5198 / Fax : 022-217-5835

小山二三夫教授が米国光学会 2019年ホロニャック賞を受賞

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科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の小山二三夫教授が、米国光学会(The Optical Society、以下OSA)から、2019年ホロニャック賞(2019 Nick Holonyak, Jr. Award)を受賞することが決まりました。小山教授の業績として「面発光レーザフォトニクスとその集積技術への顕著な貢献」が認められ、2019年受賞者として選出されたものです。

OSAは、光学・フォトニクス関連分野における最も権威のある世界最大規模の国際学会です。ホロニャック賞は、半導体技術の黎明期に初めて半導体による可視光の発光を成功させ「LEDの父」と呼ばれるニック・ホロニャック2世博士を記念した国際賞で、1997年に創設されました。光半導体デバイス・材料に関して顕著な貢献のあった個人を対象として、毎年1名に授与されています。過去には、半導体ヘテロ構造の発明で2000年ノーベル物理学賞を受賞したジョレス・イヴァノヴィッチ・アルフョーロフ博士(2000年※)や、青色発光ダイオードの開発で2014年ノーベル物理学賞を受賞した中村修二博士(2001年※)も同賞を受賞しています。国内では、東京大学の荒川泰彦博士(2011年※)に次いで、3人目の受賞となります。

カッコ内はホロニャック賞の受賞年です。

贈呈式は、2019年5月に米国サンノゼで開かれる2019年レーザー・電子工学会議の会期中に行われる予定です。

小山教授のコメント

小山教授

面発光レーザーは、本学の伊賀健一名誉教授・元学長が1977年に発明した半導体レーザーです。近年、インターネットや携帯端末の普及により、データセンター内の大規模光インターコネクト、携帯端末での3D光センサ、自動運転用の光レーダーなど、その応用分野は多岐にわたっています。IoTの進展により、国内外でさらに研究開発が加速され、市場規模も数千億円にまで拡大しています。

今回の受賞は、恩師の末松安晴先生と伊賀健一先生のご指導と、これまでともに研究を進めてきた同僚の研究者、大学院学生など、多くの方々の貢献によるもので、深く感謝しています。この受賞を励みに、東工大の強みと伝統を活かして、今後も研究に邁進していきたいと思っています。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

IDCロボットコンテスト大学国際交流大会2018 開催報告

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IDCロボットコンテスト大学国際交流大会2018(以下、IDCロボコン)が8月6日から18日にかけて東京工業大学大岡山キャンパスで行われました。世界各国からロボット工学を学ぶ大学生が集まり、出身国を越えた混成チームでロボットの設計・製作を競う今年で29回目の国際ロボコン大会です。東工大のシンボルマークにちなんだ「The World Star Hunting Swallow (つばめよ、地上の星を探せ!)」を競技テーマに、初対面の学生たちが言葉や文化の違いを乗り越えチームワークでロボットを作り上げました。

ピンクチームとメロンチームの決勝戦

ピンクチームとメロンチームの決勝戦

IDCロボコンは1990年、東工大とマサチューセッツ工科大学(米国)の共催で始まり、毎年、開催地が変わります。日本で開かれるのは2012年以来で14回目です。日本の4大ロボコン(高専ロボコン、大学ロボコン、ABUロボコン、IDCロボコン=本コンテスト)の一つと位置付けられ、歴史ある国際大会です。東工大IDC国内実行委員会が主催し、共催は東京電機大学、特別協力は東京都、企業や自治体、学会など17団体・組織が後援しています。

今年の参加国は8ヵ国で、日本、中国、米国、メキシコ、韓国、タイ、シンガポール、インドから計54名の学生が参加しました。

日本 : 東工大 6名、東京電機大学 6名

中国 : 清華大学 4名、上海交通大学 5名、浙江大学 4名

米国 : マサチューセッツ工科大学 3名

メキシコ : メキシコ工科大学 6名

韓国 : ソウル国立大学 4名

タイ : タイ選抜 4名

シンガポール : シンガポール工科・デザイン大学 8名

インド : アムリタ大学 4名

開会式

益学長の歓迎スピーチ
益学長の歓迎スピーチ

初日に行われた開会式では、益一哉学長が歓迎スピーチを行いました。

続いて、くじ引きによってチーム分けが行われました。1チーム4~5名からなる11のチームにはレッド、ブルー、グリーンなど色の名前が付けられ、それぞれの色のおそろいのTシャツを着て参加しました。ルール発表後に、各チームはロボット製作会場に移り、設計の議論を始めました。

競技ルール

試合は2チームの対戦方式で、自分たちが製作したロボット2台を操作し、限られた時間内でいかに多くのボールを目的のゴールに入れるか、という競技です。

競技場の説明

競技場の説明

競技場(図)はスカイエリア(競技場の最上部エリア)とランドエリア(地上平面)の2つに分かれ、競技者はスカイロボットとランドロボットを操作します。スカイロボットのみ、スターロボットスタートエリアから出発して中央のスカイリフトに乗って、ランドエリアからスカイエリアに移動できます。スカイリフトは競技開始から45秒後に上昇を始め、スカイエリアに着くと止まります。競技場は左右に赤と青の2領域に分かれ、斜面には3つの(つばめの)巣、複数のピン、スターパネルが配置されています。

基本のルールは、虫ボールプールにある虫ボールを、つばめ役のロボットが自陣にある巣かコレクションボックスにできるだけ多く入れるというものです。斜面に3つある巣のうち、中央の巣に虫ボールを入れると30点、左右の巣に入れると10点が、コレクションボックスに入れると1点が加算されます。

また、スカイエリアにあるたった1つのスターボールをコレクションボックスに入れると10点が加算され、総得点が2倍になります。対戦チームのどちらかがすべての巣にボールを入れ、かつスターボールをコレクションボックスに入れると、その時点で勝利となります。

ロボットの総重量は10キロ以内で、それぞれのロボットはスタート時には50センチ立方の範囲に収まっていなければなりません。ロボットを製作するために使って良い材料は、指定された材料と、2,000円以下で買い足した材料が認められています。また、スカイロボットは開始から30秒間は自動操縦のみ可能です。競技時間は2分と短いため、効率よくボールを集めなければなりません。

ロボットの設計と製作

2日目の午後には、チーム毎に戦略やロボットのアイデアをインストラクターの前で発表するアイデアプレゼンテーションが行われました。

ロボットの構想説明

ロボットの構想説明

ここでは、インストラクターからロボットの改良点などのアドバイスを受けます。多くのチームは自動操縦しかできない30秒間でスカイリフトに到達し、45秒が経ったらスカイリフトに乗ってスカイエリアに向かう戦略を採用しました。また、スカイエリアから巣にボールを入れる仕組みをいろいろと工夫していました。

以下のロボットは製作されたロボットの1例で、回転機構にボールを最大6個格納し、ボールを回転させて2本の針金のレールで狙った巣にボールを入れるというものです。

ロボットの例

ロボットの例

大会期間は全体で13日間しかありません。参加学生は連日ロボット製作に懸命に取り組みました。3Dプリンターやレーザーカッターを使い、試作と修正を続けます。また、チームでロボットを製作するだけではなく、開催国の文化を体験することが重要な活動の1つであり、週末の休日となった8月11日には東京都の支援で浅草観光と隅田川下りを楽しみました。

水上バスで隅田川観光

水上バスで隅田川観光

休日が終わると、本番までの残り時間を気にしながら、競技場で実際にロボットを動かし、調整と操作の練習を重ねました。

最終競技会

スカイリフト上でスターボールを取り合うチーム
スカイリフト上でスターボールを取り合うチーム

最終日となる8月18日には最終競技会が行われ、会場となった大岡山キャンパス70周年記念講堂には、近隣の小中学生やその家族など多くの方が観戦に訪れました。

ゲームの対戦では、ロボットが移動する通路が狭いため、斜面に引っかかったり、スカイリフトに到達できずに苦労しているチームがいる一方、スカイエリアに到達できたロボットは、着実に巣にボールを入れていました。

途中でスカイリフトが故障したため、ルールが変更され、それぞれのチームは1台のロボットをスカイエリアからスタートさせることとなりました。ルール変更によって、苦心して開発した自動制御の機能が使えなくなったことに落胆したメンバーの姿も見受けられました。

決勝はピンクチームとメロンチームの対戦となり、確実性に定評のあったピンクチームが優勝に輝きました。

ピンクチームのロボットはシンプルな構造で、巣の上にあるピンを避けるために筒を下ろして虫ボールを巣に入れるというもので、確実に3つの巣にボールを入れていました。

佐藤勲理事・副学長(企画担当、左端)から優勝トロフィーを受け取り喜ぶピンクチーム
佐藤勲理事・副学長(企画担当、左端)から
優勝トロフィーを受け取り喜ぶピンクチーム

準優勝のメロンチーム
準優勝のメロンチーム

スポンサー賞のレッドチーム
スポンサー賞のレッドチーム

アイデア賞のグリーンチーム
アイデア賞のグリーンチーム

競技会の終了後にはロボット操縦体験タイムが設けられ、来場した小学生が優勝・準優勝したロボットを操縦しました。

プログラム最後のさよならパーティでは鏡割りや参加国ごとのパフォーマンスが行われ、場を盛り上げました。また、チームごとに飛び入りのパフォーマンスを行う姿も見られ、参加者全員で盆踊りを楽しみました。

ロボットの操縦体験をする小学生
ロボットの操縦体験をする小学生

さよならパーティで盆踊りを楽しむ参加者
さよならパーティで盆踊りを楽しむ参加者

IDCロボコンは、各国から来た学生が一緒になってロボットのアイデアや実現方法について熱い議論をかわす貴重な機会です。

東工大基金に寄付していただいた方々をはじめとする多くの皆さんのサポートにより、今年もIDCロボコンを開催することが出来ました。

2019年はマサチューセッツ工科大学で、2020年は清華大学(中国)で開催予定です。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学 基金室

E-mail : kikin@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2415

シリコンフォトニクス技術による光渦多重器を開発 光渦多重通信の実用化へ大きく前進

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要点

  • 光通信帯域に対応した光渦多重器の開発に成功
  • 波長無依存性な光渦合分波を実現
  • 次世代の大容量データ伝送のコアデバイスとして期待される

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の雨宮智宏助教らは、産業技術総合研究所と共同で、光通信帯域に対応した光渦(ひかりうず[用語1])多重器を開発した。シリコンフォトニクス技術[用語2]を用いることで、波長無依存性な光渦合分波[用語3]に成功し、世界で唯一のモジュール実装されたデバイスを実現した。

開発したデバイスは5つの光渦をクロストーク(混信)25 dB(デシベル)程度で合分波でき、波長分割多重や偏波多重などの従来の多重方式も併用可能なことから、次世代の大容量データ伝送のコアデバイスとして期待される。

100ギガビット超光リンクの低コスト化と低消費電力が進められ、従来の多重方式に留まらず、光の自由度をより積極的に利用した次世代の方式が検討されている。中でも、光渦を利用した多重化方式は波面のらせん周期に情報を乗せることで、理論上無限チャネル多重化が可能である。大容量通信のキーコンポーネントであるマルチコアファイバ[用語4]との整合性にも優れていることから次世代の方式として注目されている。

研究成果は3月3日~7日に米国サンディエゴで開催される光通信関連の世界最大の国際会議・展示会「OFC 2019」(The Optical Networking and Communication Conference & Exhibition 2019)で発表された。

付記事項

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。

科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 :
「新たな光機能や光物性の発現・利活用を基軸とする次世代フォトニクスの基盤技術」(研究総括:北山研一)
研究課題名 :
「磁性-金属-半導体異種材料集積による待機電力ゼロ型フォトニックルータの開発」
研究代表者 :
水本哲弥 東京工業大学 理事・副学長(採択当時 教授)

文部科学省 科学技術人材育成費補助事業

研究領域 :
「科学技術人材育成のコンソーシアム構築事業」
研究課題名 :
「ナノテクキャリアアップアライアンス」
研究機関 :
産業技術総合研究所
共同実施機関 :
東京工業大学ほか

総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)

研究領域 :
「ICT研究者育成型研究開発」
研究課題名 :
「Si系光渦合分波器を用いた光通信帯における光渦多重伝送技術の構築」
研究代表者 :
雨宮智宏 東京工業大学 助教

背景

100ギガビット光ネットワークの本格的な導入に伴い、コヒーレント光通信技術[用語5]が実用レベルに達している。そのような中、通信容量のさらなる増大に向けて、従来の波長多重方式[用語6]に加えて、光の二つの自由度(偏波と光渦)を積極的に利用した伝送方式が注目されている。特に光の軌道角運動量にあたる光渦の工学的応用には未開拓の領域が多く、今後の研究において重要視される分野となりつつある。

光渦は図1に示すように、等位相面が1波長で2 πの整数倍(2 π×l )になるように分布する(l は光渦モードのチャージ数と呼ばれる)。チャージ数の異なるモードは互いに直交性があるため、理論上はそれらを無限に多重化できることになる。

5つの光渦の等位相面

図1. 5つの光渦の等位相面


チャージ数の異なる光渦は互いに直交性があるため、これらは多重化できることになる。

光渦は大容量通信のキーコンポーネントであるマルチコアファイバとの整合性にも優れていることから、次世代の多重化技術の最有力候補となっている。近年、南カリフォルニア大学やカリフォルニア大学デービス校などのグループを中心に、光渦多重と波長多重を組み合わせることで100 Tbit/s(毎秒100テラビット)級の伝送が実現されている。

研究成果

開発した光渦多重器は、「スターカプラ」および「光渦ジェネレータ」の2領域から構成されている(図2)。まず、入力光はスターカプラにおいて特定の位相差をもった複数の出力光に分波される。その後、それらの位相差を維持したまま、光渦ジェネレータから光を取り出すことで、光渦を生成する。

開発した光渦多重器(5光渦多重)の光学顕微鏡画像

図2. 開発した光渦多重器(5光渦多重)の光学顕微鏡画像

5×8スターカプラおよび光渦ジェネレータの2領域から構成されている(スターカプラにて入射光を特定の位相差をもった複数の出力光に分波し、光渦ジェネレータにて光をらせん状にねじる)。

ここで、光渦ジェネレータは、図3に示すように3次元に湾曲したシリコン導波路の出射端が同心円上に並んだ構造となっており、導波路を伝搬した光は自動的に空間位相が同心円上に分布した光に変換される(入射時も同じ原理で、光渦多重された信号を光渦ジェネレータに入力することで、スターカプラの各ポートから分波された信号を得ることができる)。本開発品の最大の特徴はイオン注入技術[用語7]による3次元湾曲シリコン導波路を用いている点であり、これによって低損失で波長に依存しない光渦ジェネレータを実現できる。

光渦ジェネレータの概要図と走査電子顕微鏡画像1

光渦ジェネレータの概要図と走査電子顕微鏡画像2

図3 光渦ジェネレータの概要図と走査電子顕微鏡画像
3次元湾曲した導波路の出射端が同心円上に並んだ構造となっている。

開発したモジュール
図4. 開発したモジュール
光ファイバの各ポートが、光渦モードのチャージ数に対応。

図4がモジュール実装された光渦多重器となる。光ファイバの各ポートが、光渦モードのチャージ数に対応しており、それぞれのファイバから信号光を入射すると、多重器本体のポートから光渦多重化された平行光が得られる。

図5は空間位相変調器[用語8]を用いて各チャージ数を有する光渦信号光を生成し、それを本モジュールに導入したときの各ファイバポートからの光出力強度を示した結果である(チャージ数が0と+2の光渦に対する結果のみ掲載)。入射光のチャージ数に対応したファイバポートから光が観測され、5ポート全ての測定結果から、ポート間のクロストークとして23 dB超が得られた。

空間位相変調器によって生成された光渦を本開発品に入力したときの、各ファイバポートの出力特性
図5.
空間位相変調器によって生成された光渦を本開発品に入力したときの、各ファイバポートの出力特性(チャージ数が0と+2の光渦に対する結果のみ掲載)。5本の線はそれぞれ各ファイバポートに対応している。

開発品の特徴

光渦多重方式の市場導入へ向けて必須となる光渦合多重器だが、光ファイバ通信システムへの適応のためには、以下の3点が強く求められており、本開発品はこれらの条件を全て満たすものとなっている。

1.
集積チップ化
現在の光渦多重は、その大部分が自由空間データリンクとして研究されている。そのため、光渦の合分波のために比較的大きな光学系(>1 m2)を組む必要があり、光ファイバ通信システムに用いる系としては実用的ではない。それを受けて、小型化・低コスト化の面からチップ化が求められる。
2.
既存の多重化技術との併用性
既存の多重化技術と併用できることが必須となる。特に波長多重と併用するためには、Cバンド[用語9]全域において、光渦合多重器の波長依存性が小さいことが望まれる。
3.
各種ファイバシステムに合わせた汎用性
光ファイバ通信システムにおける多重方式として光渦多重を採用する場合、マルチコアファイバによる通信が有望とされている。このとき、光渦合多重器に求められるのは、各種ファイバシステムに合わせた効率的な結合を実現することである。つまり、結合先のファイバ構造が予め分かっていた場合、それに合わせる形で、セルフアラインにチップを作製することが重要となる。

今後の展開

本開発品を用いた光渦多重方式は、波面のらせん周期に情報を乗せることで理論上無限チャネル多重化が可能とされていることから、次世代の大容量伝送のコア技術として期待される。今後、波長分割多重や偏波多重などの既存の多重方式を併用することで、2023年までの実用化を目指す。

また、光渦による多重化技術が国際標準となった場合、本開発品と同系統のデバイスが広く利用される可能性があり、シリコンフォトニクスの市場規模が大きく拡大すると期待される。

用語説明

[用語1] 光渦(ひかりうず) : 伝搬軸のまわりにらせん状に波面がねじれた光。ねじれ度合いの異なる光は互いに交わらないため、それらを重ね合わせて通信容量を増やすことができる。

[用語2] シリコンフォトニクス技術 : 半導体のシリコンに微細な光導波路構造をつくり、さまざまな機能を小型チップに集積する技術。高速光デバイスの超小型化・低消費電力化が可能になり、光通信システムの革新がもたらされる。

[用語3] 光渦合分波 : 互いに交わらない光渦同士を重ね合わせたり、分離したりすること。

[用語4] マルチコアファイバ : 光の通り道であるコアが、1本のファイバ内に複数本ある光ファイバ。コアごとに別々の情報を送信できるので、1本のファイバで送信できる情報量を増やせる。このような多重方式を空間分割多重方式と呼ぶ。

[用語5] コヒーレント光通信技術 : 光の波としての性質を利用した通信方式。コヒーレント(coherent)とは干渉性があるという意味で、通信では周波数あるいは位相変調が利用できることをいう。光を強度変調する方式に比べて受信感度がよく、毎秒テラビットの大容量情報伝送が可能な波長多重通信の基本となる技術でもある。

[用語6] 波長多重方式 : 1本の光ファイバケーブルに複数の異なる波長の光信号を同時に乗せることによって、高速かつ大容量の情報通信を実現する方式。

[用語7] イオン注入技術 : シリコンLSI製造のための重要技術の一つで、イオンを1 kV~100 kV程度で加速してシリコンウェハに注入する。本研究では、注入されたイオンが原子と衝突して生じるひずみを曲げ加工に利用した。

[用語8] 空間位相変調器 : 空間的・時間的に振幅変調、位相変調、または偏光を変調するために使用される液晶マイクロディスプレイ型のデバイス。

[用語9] Cバンド(Conventional-band) : 光通信を行う際使用される波長帯域の中で、1,530 ~ 1,565 nmにおける範囲のこと。

会議情報

会議名 :
The Optical Networking and Communication Conference & Exhibition 2019(OFC 2019)
講演タイトル :
Orbital Angular Momentum Mux/Demux Module Using Vertically Curved Si Waveguides
著者 :
Tomohiro Amemiya, Tomoya Yoshida, Yuki Atsumi, Nobuhiko Nishiyama, Yasuyuki Miyamoto, Youichi Sakakibara, Shigehisa Arai
会議Webサイト :

お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所

助教 雨宮智宏(アメミヤ トモヒロ)

E-mail : amemiya.t.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2555

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部
グリーンイノベーショングループ

中村幹(ナカムラ ツヨシ)

E-mail : crest@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3524

科学技術人材育成費補助事業に関すること

文部科学省 科学技術・学術政策局
人材政策課 人材政策推進室

E-mail : kiban@mext.go.jp
Tel : 03-6734-4021

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

テラヘルツ集光デバイスによる非侵襲医用撮影を実現 周波数の任意可変技術でマウス臓器の透過観測に成功

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要点

  • テラヘルツ光を波長より小さな領域に集光可能なデバイスを開発
  • デバイスを回転させるという簡便な方法で集光周波数のチューニングを実現
  • マウス臓器の微小域の分光スペクトル及び臓器特異的な透過画像の観測に成功
  • 患者にとって負担の少ない非侵襲的画像診断・治療方針の確立が期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の河野行雄准教授と東京医科歯科大学の榎本光裕医師らは、プラズモニック構造[用語1]を利用した周波数の連続チューニング(選択)可能なテラヘルツ帯集光デバイスを開発した。従来、測定不可能だった非常に小さな試料の分光や画像観測が可能となり、マウス臓器の分光測定及び臓器特異的な透過画像イメージング撮影に成功した。

プラズモン[用語2]共鳴の周波数を発生させるために“スパイラルブルズアイ構造”と名付けた新たなプラズモン構造をもつデバイスを開発し、回転させるという簡単な操作で検出周波数を任意に変化させつつ、局所的にテラヘルツ光[用語3]を集中させることにより実現した。

テラヘルツ光は工業、農業、医療・バイオなど様々な分野で利用が期待され、精力的に研究されている。中でも波長よりも小さな領域の試料観察を行うために必要なテラヘルツ光の局所集中が重要テーマになっている。今回は医工連携によってサブ波長領域[用語4]でのテラヘルツ光の増強と周波数の任意チューニングが可能となった。サブ波長領域での医薬品、将来は医療チップや病理検査への応用が期待され、非侵襲の画像診断・治療方針の確立に向けて大きな一歩となる。

研究成果は3月5日付で英国科学会誌「Scientific Reports」に掲載された。

研究の背景と経緯

テラヘルツ光は100ギガヘルツ(GHz)から100テラヘルツ(THz)の振動数を有する電磁波で、電波と光波の中間帯にある。可視光を通さない物質を適度に透過し、X線と異なり人体に無害などの特性を持つため、この領域での技術は安心安全の基盤になると期待されている。中でも画像イメージングは薬物検査や半導体デバイス検査、がん細胞の可視化、農作物の鮮度や水分情報のモニタリングなど様々な分野で利用が検討されており、産業界や日常生活に大きく貢献する。

テラヘルツ光の応用は特に医療・バイオ分野で、有望なターゲットの1つとして強い期待が寄せられている。その利用促進のための重要な研究課題の1つがテラヘルツ光の局所集中である。だが、例えばがん細胞1個の大きさは 約10マイクロメートル(μm)であり、テラヘルツ波の波長(数百μm)に比べ非常に小さいため、単純にレンズで集光するだけでは回折限界[用語5]により空間解像度と強度が制限されてしまい不十分である。

河野准教授らはこの問題を解決するため、プラズモニック構造を利用したサブ波長領域プローバーの開発に取り組んできた。プラズモニック構造体に光が照射されると、プラズモンの伝播により光を1点に集光させ、大きな光電界増強効果を得ることが可能となる。

同准教授らは2017年に高純度シリコンの三次元立体構造と金属膜とのハイブリット構造を提案し、サブ波長領域における非常に高いテラヘルツ電界増強効果を達成した。(T. Iguchi, T. Sugaya, Y. Kawano, Applied Physics Letter 110, 151105, 2017)。今回、その発展形として、増強テラヘルツ電界の連続的な周波数チューニングを可能とし、分光測定の実現と医療画像イメージングに成功した。

研究成果

河野准教授らはまず、集光デバイスの周波数チューニングに着手した。テラヘルツ光の集光原理は、金属膜表面で発生するプラズモン共鳴に基づくが、従来の構造体でのプラズモン共鳴は単一周波数においてのみ生じるという問題があった。これは構造が同心円構造(ブルズアイ構造)で表面の凹凸の間隔が一定であるためである。今回、同グループは、新たにスパイラスブルズアイ構造を提案し、直径方向に応じて凹凸の間隔を徐々に変化させることでこの問題を解決した(図1)。

スパイラルブルズアイ構造体。(a)全体像。(b)中心付近の拡大写真。(c)中心穴の拡大写真

図1. スパイラルブルズアイ構造体。(a)全体像。(b)中心付近の拡大写真。(c)中心穴の拡大写真

プラズモン共鳴は凹凸構造と垂直な偏光[用語6]の光照射に対してのみ発生する。このため、直線偏光の光に対してデバイスを回転させるという簡単な操作だけで、任意の帯域で周波数をチューニングしながらテラヘルツ光を1点に集中・増強させることが可能となった。また円偏光の光に対しては一度の照射で幅広い帯域を検出可能となる。電磁界解析で構造を最適化したデバイスを作製し、透過測定を行うことで実際に周波数チューニングが可能であることを示した(図2)。

スパイラルブルズアイ構造体のテラヘルツ透過測定。

図2. スパイラルブルズアイ構造体のテラヘルツ透過測定。


(a)概要図。(b)直線偏光入射の概要図。(c)円偏光入射の概要図。(d)直線偏光測定の透過スペクトル。入射偏光の角度を変化させることで透過スペクトルの共鳴ピーク周波数が変化することがわかる。(e)円偏光照射に対するテラヘルツ透過スペクトル。直線偏光のスペクトル(細線)を足し合わせたようなスペクトルが測定される。

作製したスパイラルブルズアイ構造体を実際に利用し、医薬品(図3)とマウス臓器(図4)の分光測定を行った。前者の測定では、試料全体を測定する従来方法と本デバイスを利用したサブ波長測定結果が概ね一致したため、本デバイスが従来方法よりも解像度の高いサブ波長分光に利用可能であることを確認した。マウス臓器の測定では、臓器の種類ごとに異なるテラヘルツ透過スペクトルを観測し、部位の特定が可能であることを示した。

医薬品のテラヘルツ透過スペクトル測定。(a)従来手法(低解像度)での透過スペクトル測定結果。(b)本デバイスを利用した(高解像度)透過スペクトル測定結果。
図3.
医薬品のテラヘルツ透過スペクトル測定。(a)従来手法(低解像度)での透過スペクトル測定結果。(b)本デバイスを利用した(高解像度)透過スペクトル測定結果。

マウスの臓器ごとのテラヘルツ透過スペクトル測定結果。

図4. マウスの臓器ごとのテラヘルツ透過スペクトル測定結果。

画像イメージングへの生体観測応用として、マウスの尾の断面を測定した。本デバイスを利用しない場合(図5a上)と比べ本デバイスを利用した場合(図5a下)では、より高解像度、鮮明な測定が可能であることを確認した。さらにマウスの肺内部を測定することで(図5b)、波長より小さな領域における非常に微細な構造の観察を達成し、本デバイスのサブ波長領域生体測定における有用性を示した。

本デバイスを利用したマウス臓器の高解像度テラヘルツ透過イメージング。(a)従来手法(低解像度)でのマウスの尾の画像イメージング測定結果(上図)。本デバイスを利用したマウスの尾のテラヘルツイメージング測定(下図)。(b)本デバイスを利用したマウスの肺断面のテラヘルツイメージング測定。
図5.
本デバイスを利用したマウス臓器の高解像度テラヘルツ透過イメージング。(a)従来手法(低解像度)でのマウスの尾の画像イメージング測定結果(上図)。本デバイスを利用したマウスの尾のテラヘルツイメージング測定(下図)。(b)本デバイスを利用したマウスの肺断面のテラヘルツイメージング測定。

今後の展開

今回の研究成果はスパイラルブルズアイ構造によってテラヘルツ帯プラズモニック構造体の連続的な周波数チューニングを世界で初めて実現するとともに、サブ波長領域での分光及び画像イメージング測定技術の発展に大きく寄与した。今後はより微小な病理細胞の診断に向けて、引き続き臨床医との検討を重ねながら、上記プラズモニック構造に基づく医療診断チップや外科手術の術中病理検査への応用を加速させる。最終的に患者にとって負担の少ない非侵襲的画像診断、治療方針の確立を目指す。

謝辞

この研究は、科学技術振興機構による未来社会創造事業、COIプログラム、日本学術振興会による科学研究費補助金(基盤研究(A)、基盤研究(B)、挑戦的萌芽)、「東工大の星」支援の援助を受けて実施した。また、デバイス作製の一部は、東京工業大学 未来産業技術研究所 メカノマイクロプロセス室の支援を受けて行った。

用語説明

[用語1] プラズモニック構造 : 用語2のプラズモンを発生させるための構造のこと。

[用語2] プラズモン : 金属内部で発生する電子の粗密波のこと。金属-誘電体界面に光が照射された際に、一定条件を満たすと発生する。粗密波とは物質の振動方向が波の進行方向に平行な波。この波の中では、物質の密度の大なところと小なところがくり返される。

[用語3] テラヘルツ光 : 周波数100 GHzから10 THz程度の領域に位置する電磁波のこと。

[用語4] サブ波長領域 : 波長よりも微小な領域のこと。

[用語5] 回折限界 : レンズなどで光を絞れる領域の限界の大きさのこと。概ね波長と同程度までとなる。

[用語6] 偏光 : 電磁波(横波)の振動する方向のこと。一般的に直線偏光、円・楕円偏光が存在する。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Continuously Frequency-Tuneable Plasmonic Structures for Terahertz Bio-sensing and Spectroscopy
著者 :
Xiangying Deng, Leyang Li, Mitsuhiro Enomoto, and Yukio Kawano
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所

准教授 河野行雄

E-mail : kawano@pe.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3811 / Fax : 03-5734-3811

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


リチウムイオン電池の充放電反応を超高速化 充電時間の短縮と高性能化への道を拓く

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要点

  • 1分未満の充電時間で電池最大容量の半分以上の充電を確認
  • チタン酸バリウムのナノ粒子を担持した薄膜正極で電極反応を定量的解析
  • 担持物近傍の正極上にて電極副反応が抑制されることを発見

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の伊藤満教授、安井伸太郎助教、物質理工学院 材料系の安原颯大学院生らは、岡山大学 大学院自然科学研究科 応用化学専攻の寺西貴志准教授、茶島圭介大学院生、吉川祐未大学院生らと共同で、ナノサイズの酸化物を表面に堆積させた正極のエピタキシャル薄膜[用語1]を作製し、超高速での充電/放電時でも電池最大容量の50%以上の出力に成功した。

この特性向上の機構解明に取り組んだ結果、酸化物ナノ粒子の近傍に電流が集中し、リチウムイオンが電極-電解液界面を通過する際の抵抗が減少していることが分かった。さらに酸化物近傍の正極上では、副反応生成物であるSEI[用語2]の生成が抑制されていることも発見した。従来のリチウムイオン電池の開発研究では種々の電極用粉末と電解質液体を使用して組み立てた電池を使用して行うため、電池を充電/放電する際に起きる電気化学反応を詳細に検討することが難しかった。本研究では単結晶薄膜を用いて電池を組み立てることにより、定量的な電気化学反応の議論を可能とした。

電子デバイスだけでなく電気自動車のバッテリーや大容量蓄電池への展開により、さらなる高性能化が要求されているリチウムイオン電池の分野では、超高速駆動化原理解明により当該分野の飛躍的な発展が期待できる。

研究成果は米国化学会紙「Nano Letters(ナノ・レターズ)」のオンライン版で電子版に2月13日(米国時間)に公開された。

研究の背景

1990年代に実用化されたリチウムイオン電池は動作電圧や体積エネルギー密度の観点からポータブル電源として幅広い分野で使用されてきた。電子デバイスの高性能化や電気自動車への応用に伴い、リチウムイオン電池のさらなる高性能化が求められている。より高い駆動電圧の実現や安全性の向上、大容量化に向け、様々な材料や電池構造の探索が検討されている。

リチウムイオン電池は正極活物質から脱離したリチウムイオンが電解液中を拡散し、負極活物質へ挿入されることで充電が可能となる。携帯電話の使用時や電気自動車の走行時等、電池から電気を取り出す放電時にはこの逆のプロセスが進行する。低速で充電/放電を行う場合には電池全容量を使用することが可能であるが、高速で充電/放電した場合にはリチウムイオンの電極-電解液間を移動する際の抵抗や電極内を移動する時の抵抗などが原因となり、出力可能な容量が大幅に減少してしまう欠点が広く認識されている。そのため、市販されているリチウムイオン二次電池は小さな電流を長時間かけて出し入れすることがほとんどである。

最近、リチウムイオン二次電池の正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2、LCO)[用語3]の表面へ酸化物微粉末を付着すると繰り返し使用可能なサイクル数が増加することが報告された。その中でも、酸化アルミニウムやチタン酸バリウム(BaTiO3、BTO)[用語4]を付着した場合には高速充放電時の容量低下を抑えられ、さらには高速駆動が可能になる。しかし、現状の研究では粉末状の電極活物質を用いているため、電極-電解液界面のみに注目して電気化学反応に対する定量的な調査が行えず、特性向上機構の詳細は未解明のままだった。

伊藤教授らは表面担持手法による特性向上機構の解明に向け、エピタキシャル薄膜電極に着目した。適切に単結晶基板を選択することによって基板の結晶情報を引き継いだ薄膜が成長するエピタキシャル成長を利用し、電極・LCOのサイズ・配置・結晶方位などをすべて揃えた上で、LCO薄膜の上部にBTOのナノ粒子を堆積させることにより、電池反応の解析が容易な薄膜電池を作製した。さらにBTOの堆積形態をナノメートル(nm)オーダーの直径のドットあるいは一定の厚さをもつ被覆膜まで連続的に形態を制御することにより、特性向上原理の解明を行った。

研究の成果

本研究では、まずチタン酸バリウム(BaTiO3、BTO)を担持した場合のコバルト酸リチウム(LiCoO2、LCO)表面での電流分布を可視化するため、数値解析法を用いて計算により模擬実験を行った。その結果、BTOとLCOと電解液が接する三相界面と呼ばれる場所に電流が集中することがわかった。このモデルを実験的に再現するため、パルスレーザー堆積(Pulsed Laser Deposition)法を用いて薄膜を作製した。

先行研究を元にして、基板にチタン酸ストロンチウム(SrTiO3、STO)、電極としてルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3、SRO)を用い、特定の方位関係を持った正極薄膜を作製した。この薄膜の上部へ、作製条件を適切にコントロールすることによって2種類の形態(「一様被膜」と「ドット堆積」)にてBTOを堆積させた。

作製した3種類の薄膜を正極として用いた電池の充放電特性を調査した(図1左)。今回は1時間で電池容量を放電しきる電流値を1Cと定義するCレート表記[用語5]を用いて電流値を表記した。Cレート表記ではCの前に付く数字が大きくなるほど使用している電流値が大きくなるため、短い時間で充電/放電が終わる(つまり、高速駆動)。まず、BTOを堆積させていないLCO薄膜において、1Cにて120 mAh/g[用語6]程度の放電容量が得られた。また、Cレート増加に伴って放電容量が減少する従来通りの挙動を確認した。1Cの50倍の電流を取り出す50C以降は全く電池として機能していないことも分かる。

「一様被膜」の結果から、LCO表面に一様にBTOを堆積させた場合には、高速駆動時の特性が格段に悪化していることが示された。一方、「ドット堆積」において50Cおよび100Cにおいても1C容量の67%および50%の容量を出力でき、高速駆動時の特性が劇的に向上していることが分かった。

交流電気測定を行った結果、BTOのナノドットを堆積させる事によってリチウムイオンの電極-電解液移動抵抗に相当する抵抗成分が約1/3に減少していることが分かった。この抵抗成分の減少は計算による模擬実験の結果から得たBTOとLCOと電解液が接する三相界面における電流集中により、リチウムイオンの界面移動が促進されている効果であると考えられる(図1右)。

今回作製した3種類の薄膜(LCO薄膜:黒線、一様被膜:青線、ドット堆積:赤線)の段階的にCレートを増加させて充放電を行った際の放電容量の変化(左図)。また、今回判明した三相界面でリチウムイオンの界面移動が促進されているモデル図(右図)。
図1.
今回作製した3種類の薄膜(LCO薄膜:黒線、一様被膜:青線、ドット堆積:赤線)の段階的にCレートを増加させて充放電を行った際の放電容量の変化(左図)。また、今回判明した三相界面でリチウムイオンの界面移動が促進されているモデル図(右図)。

三相界面の果たす役割をさらに詳細に調査するため、LCOエピタキシャル薄膜上に100 μm角のBTOを堆積させた薄膜を作成し、充放電した後にLCO表面の観察を行った(図2)。

今回の結果では、まずBTO上にはほとんどSEIが生成せず、BTOから離れたLCO上では厚さ300 nm程度のSEIが形成されていた。さらに、三相界面近傍においてもSEIがほとんど生成していない。これまでの研究では、LCOの充放電反応の副反応により厚さ10 nm程度のSEIが生成されており、このSEIが電池の充放電時にリチウムイオンの移動を抑制すると考えられてきたが、我々の結果はこれまでの結果からは予測できないSEI生成に関する全く新しい実験事実を示している。現在、この原因解明に向けて鋭意研究を進めている。

LCO表面に100 μm角のBTOを堆積させた薄膜の模式図(左図)と、10Cにて充電/放電を行った後の走査型電子顕微鏡観察像(右図)。
図2.
LCO表面に100 μm角のBTOを堆積させた薄膜の模式図(左図)と、10Cにて充電/放電を行った後の走査型電子顕微鏡観察像(右図)。

今後の展開

本研究は主にデバイス開発で用いられている単結晶薄膜育成技術を電池研究に持ち込むことで、定量的な電極反応の解析の可能性を明らかにしたものであり、特にキャパシタ材料として知られている強誘電体BTOを電池材料として組み込むことで強誘電体と電池の組み合わせで協奏効果を引き出すことに成功した。当該分野の研究の主流は性能向上を目的とした電解質溶液への添加あるいは正極と負極材料の選択あるいは形状制御、ナノサイズ化等、プロセス研究である。一方で、反応式としては単純でありながらも、その実複雑な充電/放電反応機構を有するリチウムイオン電池の基本反応原理は未解明な点が多いのが現状である。このような状況で原子配列まで制御して作成した薄膜正極上で起こる反応は場所を特定しやすく解析が非常に容易となるため、粉末を用いた電池では露わに見えてこなかった素反応が本研究で炙り出されてきた。

これまでの知見を元にして、材料科学の視点からリチウムイオン二次電池の反応機構や特性向上、原理解明を達成することで、既存デバイスの特性向上、機構の最適化と全固体電池への応用を期待できる。昨今の発展がめまぐるしい計算科学とエピタキシャル薄膜を用いた本研究と複合して相互に補完しあうことで、実際にリチウムイオン二次電池にて起きている現象の解明を加速させられると期待している。

付記事項

本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られた。

  • 文部科学省 元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>電子材料領域
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業

用語説明

[用語1] エピタキシャル薄膜 : 基板の結晶情報(結晶構造、格子定数、結晶方位など)を引き継いで成長した薄膜。様々な知見を元に適切に基板選択を行うことで、目的の結晶構造・結晶方位を持った単結晶薄膜を作製できる。

[用語2] SEI : 固体電解液界面(Solid Electrolyte Interface)の略称で、リチウムイオン二次電池の充放電反応に伴って電極-電解液界面に生成される被膜の総称。充放電反応の副反応や電極材料からの陽イオン流出などによって電解液が分解されることにより、電極表面にSEIが生成すると言われている。一般的にSEIは電解液の分解有機物やリチウム塩である事が提唱されているが、それらの不安定性より正確な生成メカニズムや組成など不明な点も多い。

[用語3] コバルト酸リチウム : 層状岩塩型構造を有し、リチウムイオン二次電池における正極活物質として有名な材料。組成式はLiCoO2であり、充電反応式はLiCoO2→Li1-xCoO2+xLi++xe-で表記される。理論上は、x = 0~1の範囲で使用可能だが、x > 0.5にて充放電反応の可逆性が乏しいため、通常はx < 0.5の範囲に限って使用される。

[用語4] チタン酸バリウム : ペロブスカイト型構造を有し、強誘電体物質として有名な材料。また、被誘電率が大きいことから積層コンデンサーの誘電体材料としてよく使用されている。

[用語5] Cレート表記 : 電池の全容量を1時間で放電しきる電流値を1Cと定義する電流定義。リチウムイオン二次電池の分野ではよく用いられる。2Cなら1Cの2倍、5Cなら1Cの5倍の電流値を用いて充電/放電を行う。Cレート増加に伴って充電/放電時間は短くなり、理想的には2Cなら1/2時間(30分)、5Cなら1/5時間(12分)で充電/放電が終わる。

[用語6] mAh/g : 二次電池の充電・放電時に消費したり取り出したりできる電気量。この値が大きいほど性能が良い。

論文情報

掲載誌 :
Nano Letters, 2019
論文タイトル :
Enhancement of Ultrahigh Rate Chargeability by Interfacial Nanodot BaTiO3 Treatment on LiCoO2 Cathode Thin Film Batteries
著者 :
Sou Yasuhara, Shintaro Yasui, Takashi Teranishi, Keisuke Chajima, Yumi Yoshikawa, Yutaka Majima, Tomoyasu Taniyama, Mitsuru Itoh
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

教授 伊藤満

E-mail : itoh.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5354 / Fax : 045-924-5354

岡山大学 大学院自然科学研究科 応用化学専攻

准教授 寺西貴志

E-mail : terani-t@cc.okayama-u.ac.jp
Tel : 086-251-8069 / Fax : 086-251-8069

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

岡山大学 総務・企画部 広報・情報戦略室

E-mail : www-adm@adm.okayama-u.ac.jp
Tel : 086-251-7292 / Fax : 086-251-7294

2019年4月入学に係る学士課程入試の合格発表

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2019年4月入学に係る前期日程試験および後期日程試験の合格者受験番号は、大岡山キャンパス70周年記念講堂脇に掲示します。

また、合格者受験番号は、以下のウェブページ上でも公開します(私費外国人留学生特別入試についてはウェブページのみ)。

各試験の掲示期間は以下のとおりです。

ウェブページ上での発表日時(東京工業大学高校生・受験生向けサイト)

試験名
発表日時
入学者選抜試験 【前期日程】
2019年3月9日(土)13:00頃
私費外国人留学生特別入試
2019年3月9日(土)12:00頃
入学者選抜試験 【後期日程】(生命理工学院)
2019年3月20日(水)13:00頃

掲示期間(大岡山キャンパス70周年記念講堂脇) ※ウェブページとは公開時刻が異なります。

試験名
掲示期間
入学者選抜試験【前期日程】
2019年3月9日(土)12:00頃 ~ 2019年3月15日(金)
入学者選抜試験【後期日程】(生命理工学院)
2019年3月20日(水)12:00頃 ~ 2019年3月27日(水)

ちぎり絵、年賀状作り、どら焼き 留学生向け教室を開催(2018年度後期)

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東京工業大学には84の国・地域から約1,700人の留学生が学んでいます(2018年5月1日現在)。留学生は大学院修士課程の17%、博士課程の36%を占めます。国際交流支援の一環として留学生を対象とした教室などのイベントを毎月、開催しています。2018年度後期の活動を紹介します。

9月 ウェルカムコーヒーアワーズ

新入留学生を対象に入学式の後に歓迎茶話会を開きました。会場に入りきれないほど多数の留学生が参加しました。茶菓子やおにぎりを片手に、和やかな雰囲気の中で新入生同士が知り合い、先輩留学生と交流しました。リベラルアーツ研究教育院日本語セクションの教職員に日本語履修を相談する場としても活用されています。

大盛況の会場
大盛況の会場

笑顔溢れる茶話会
笑顔溢れる茶話会

10月 ちぎり絵

色とりどりの作品完成
色とりどりの作品完成

折り紙を使ったちぎり絵に挑戦しました。簡単な見本作品を準備しましたが、参加者は自分が過去に訪れた場所や好きな花などオリジナルのテーマに取り組み、創造性豊かな作品が仕上がりました。

11月 茶道

これまでと同じように東工大茶道部の協力で開催しました。和室での茶会体験と実際に自分でお茶を点てる体験の二部構成です。参加者から茶道部員に質問も寄せられ、日本文化体験と同時に日本語と英語を交えた学生同士の国際交流の場になりました。

茶会体験
茶会体験

お茶点て体験
お茶点て体験

12月 年賀状

消しゴムでスタンプを作り、それを使って年賀状作りをしました。初対面の参加者同士も、お互いの消しゴムスタンプをはがきに押したり、それぞれの国のお正月や干支の話をしたり、楽しい雰囲気の中で進みました。消しゴムスタンプ作りも筆ペンで日本語を書くのも初めての参加者がほとんどでしたが、完成した年賀状に満足した笑顔でした。

消しゴムスタンプ作品
消しゴムスタンプ作品

手作り年賀状完成
手作り年賀状完成

1月 ひな祭り

きれいに飾り付けできました
きれいに飾り付けできました

日本のひな祭りやひな人形についてスタッフが紹介した後、参加者が協力して実際にひな人形を飾りました。手探りでひな壇を組み立てるところから始め、人形と小道具との組み合わせや並べ方などに迷いながらも楽しく試行錯誤を重ね、飾りつけをしました。美しく飾り付けが完成した後は、みんな嬉しそうに人形と一緒の写真を撮っていました。

1月 どら焼き

スタッフが生地作りまでデモンストレーションし、参加者自身がホットプレートで生地を焼き、こしあん、カスタードクリーム、クリームチーズの中から好きなものをはさんで完成させました。単純作業になるのかと思いきや、3種すべての中身をはさんだり、3段に重ねたり、センスと個性があるどら焼き作りを楽しんでいました。

焦がさないよう慎重に
焦がさないよう慎重に

いただきます!
いただきます!

イベント参加者からは、「新しい友人に出会えるだけでなく、日本文化に関わる活動に参加できる機会」「活動自体も気に入っているけど、テーブルを皆で囲む座席配置もいいと思います。お菓子と飲み物があるのも嬉しいです」「日本文化関連のイベントはこれからも続けてほしい」「食べ物のイベントを増やしてほしい」などの声が寄せられています。

一連のイベントは、本学同窓生である滝久雄氏からの寄付を原資とする「滝久雄留学生日本語支援プロジェクト」の後援を受けて実施しています。

2019年度も、参加を通じて国際交流が深まるイベントを開催する予定です。

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お問い合わせ先

東京工業大学 国際交流支援部門

E-mail : ryu.kor@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7645

TAIST-Tokyo Tech 学生交流プログラム2018

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東工大は、タイ国立科学技術開発庁およびタイのトップクラス大学と連携し、修士課程プログラム「TAIST-Tokyo Tech」(タイスト-トーキョーテック、以下、TAIST)をタイで実施しています。2015年度からTAISTを活用した日本・タイ双方向の学生受け入れプログラムである「TAIST-Tokyo Tech 学生交流プログラム(TAIST-Tokyo Tech Student Exchange Program)」を実施し、2018年度も9月25日から11月26日まで、タイからの学生6名を本学に受け入れました。

小池康晴教授の研究室訪問
小池康晴教授の研究室訪問

TAISTでは、東工大の教員は、タイのパートナー大学の教員と連携しながら講義を実施し、TAIST学生の副指導教員となって指導を行います。

東工大生がタイに赴く際には、TAISTの講義に参加し、タイ国立科学技術開発庁におけるインターンシップに参加します。

一方、TAISTの学生が日本に来る際には、修士論文研究における本学の副指導教員の研究室に所属し、研究活動に従事します。その他、TAIST協力教員の研究室訪問、キャンパスツアー、工場見学、休日アクティビティ、本学へ進学したTAIST卒業生との交流なども実施しています。

参加学生の声

  • 私の研究室においては、セミナーやランチミーティング、個人面談などとても効果的な研究の手順がとられていました。このプログラムに参加し、指導教員から指導を受けたことで、「本当の研究とは何か」を教えてもらえたように思います。
  • 研究室の先輩が観光地やおいしい食べ物を紹介してくれたり、自分の研究を手伝ってくれたりして、とても助かりました。
  • 企業の方や教員、研究室のメンバーなどあれほど大勢の人の前でプレゼンをしたのは初めてでしたが、やり遂げたことで、将来プレゼンをすることに自信がつきました。

今年の工場見学は、TAIST運営委員会の花村克悟委員長(工学院 機械系 教授)とともに新日鐵住金株式会社 君津製鉄所を訪問しました。学生たちから「鉄の製造工程を間近で見学し、関連知識を学び、視野を広げることができた」「日本の企業の方々の熱心に働く姿や、最高の結果を追求する姿勢に感銘を受けた」といった感想が寄せられました。

また、休日アクティビティでは、TAISTを活用した学生派遣でタイへ短期留学する予定の東工大生3名とTAIST出身の東工大生1名と一緒に、お台場を観光しました。来日してまもない時期でしたが、学生同士ですぐにうちとけ、楽しい時間を過ごしました。

プログラムの最後に帰国前報告会が開催され、受け入れ指導教員、協力教員、研究室のメンバー、TAIST賛助会員など総勢約60名の前で研究成果の発表を行いました。花村委員長や受け入れ指導教員からは、「TAIST学生の熱心で積極的な姿勢は、東工大生にとっても良い刺激となった」「2ヵ月にわたり本学で研究し、本学の研究方法に触れることができ、TAIST学生にとって非常に有意義であった。今後もこのプログラムを続けていく」といったコメントがありました。TAIST賛助会員からも「TAIST学生がとても優秀なことが良く分かった」などの感想がありました。

東工大生と一緒に出かけた休日アクティビティ
東工大生と一緒に出かけた休日アクティビティ

新日鐵住金 君津製鉄所の見学
新日鐵住金 君津製鉄所の見学

帰国前報告会のプレゼンテーション
帰国前報告会のプレゼンテーション

東工大教職員、TAIST賛助会員と集まったTAIST参加学生
東工大教職員、TAIST賛助会員と集まったTAIST参加学生

学生のプレゼンテーションの題目

  • Photocatalytic Degradation of Methylene Blue in the Presence of TiO2 Clay and PE-TiO2 Pellets
    (粘土-TiO2ペレットとPolyethylene (PE)-TiO2ペレットによるメチレンブルーの光触媒分解)
  • Experimental and Process Simulation Study on Chemical Looping Dry Reforming of Methane
    (ケミカルループ法を用いたメタンのドライリフォーミング)
  • Residue Number System Hardware Matrix Multiplier
    (剰余数系を応用した行列乗算ハードウェアに関して)
  • Optimum Design for Energy Absorbing Structure under Frontal Impact
    (正面衝突におけるエネルギー吸収構造の最適設計に向けた研究)
  • Morphology of carbon and glass fiber by using image processing method and characterization tools
    (炭素およびガラス繊維の表面形状観察と構造解析)
  • Back Tracking Convolutional Neural Networks for Object Localization
    (物体位置推定のための畳み込みニューラルネットワークのバックトラッキング法)

TAIST学生たちは、今回日本で研究した経験を活かし、修士論文を完成させ、タイ内外の大学の博士課程への進学やグローバル企業への就職等、それぞれの進路を歩んでいきます。

TAISTは、Thailand Advanced Institute of Science and Technologyの頭文字です。東工大が独自にタイの関連機関と連携して運営している大学院です。タイ政府からの要望により、理工系分野での高度な「ものつくり人材」の育成と研究開発のハブを目指して、2007年に設立されました。タイにおいて、急速な工業化から派生する諸問題の解決や持続可能な発展に資する研究開発、人材育成を目的としています。

お問い合わせ先

国際部国際事業課 TAIST事務室

E-mail : taist@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-7607

工系学生国際交流プログラム派遣 2018年度後学期 留学報告会 開催報告

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2018年度後学期の工系留学報告会が1月23日と2月6日、大岡山キャンパス本館で開催されました。

工系国際交流委員会主査の竹村次朗准教授による開会の辞
工系国際交流委員会主査の竹村次朗准教授による開会の辞

工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の3学院は、国際的感覚を持つ工学を専門とする高度技術者を養成するため、所属学生を海外の大学等に派遣する支援を合同で行っています。この学生国際交流プログラムは、海外で様々な国の研究者や学生と共に研究を行うことで、専門性を深め、さらには、より広範な先端科学の知識・技術を学びながら異文化に触れることで、学生自身の修学意欲の一層の向上と国際意識の涵養を図ることをねらいとして実施しています。

今回開催された工系留学報告会は、当プログラムで2018年夏季・秋季に短期留学した学生が履修対象となっている講義「国際研究研修」の一環として実施されたものです。その他、サマープログラム、物質理工学院派遣プログラム等に参加した学生も合同で発表しました。

派遣先大学と発表者(計12名)は以下の通りです。(順不同、敬称略)

派遣先大学
発表者(所属・学年は発表当時)
留学期間
ケンブリッジ大学(英国)
普世梓(工学院 機械系 修士課程1年)
2018年8月~11月
マドリッド工科大学(スペイン)
曾川宏彬(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 修士課程1年)
2018年9月~12月
南洋理工大学(シンガポール)
冉子欣(工学院 機械系 修士課程2年)
2018年9月~12月
メルボルン大学(オーストラリア)
平出峻(環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程1年)
2018年9月~11月
ヨンショーピン大学(スウェーデン)
松本拓巳(物質理工学院 材料系 修士課程1年)
2018年9月~12月
スイス連邦工科大学ローザンヌ校(スイス)
富田夏奈(物質理工学院 材料系 修士課程1年)
2018年6月~11月
スイス連邦工科大学チューリッヒ校(スイス)
グレース・カグホ(環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程1年)
2018年9月~12月
野原崇稔(物質理工学院 応用化学系 博士課程2年)
2018年9月~11月
菱沼雅(生命理工学院 生命理工学系 修士課程1年)
2017年7月~2018年8月
マックス・プランク高分子研究所(ドイツ)
手塚沙也可(物質理工学院 材料系 修士課程1年)
2018年8月~11月
バンドン工科大学(インドネシア)
橋爪路乃(環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程1年)
2018年8月
ジェノヴァ大学およびイタリア学術会議物質化学・エネルギー技術研究所(イタリア)
二瓶拓也(物質理工学院 応用化学系 修士課程1年)
2018年9月~11月

留学経験者の発表

報告会では、留学経験者が留学生活について英語で発表を行いました。

夏期短期学生交流プログラム(Summer Exchange Research Program:SERP)の派遣

SERPは、3学院が独自に協定を締結する欧米の先進理工系大学の研究室に、修士または博士課程学生が夏季の約2~3ヵ月間所属し、学生自身が設定した短期プロジェクトを受入れ指導教員の下で実践する研究中心の派遣留学プログラムです。協定を締結している大学は、ケンブリッジ大学(英国)、オックスフォード大学(英国)、ウォーリック大学(英国)、サウサンプトン大学(英国)、ソルボンヌ大学(フランス)、マドリッド工科大学(スペイン)、アーヘン工科大学(ドイツ)、ウィスコンシン大学マディソン校(アメリカ)、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(アメリカ)、カールスタッド大学(スウェーデン)です。

工学院 機械系の普世さん(修士課程1年) / ケンブリッジ大学留学

研究室の仲間と晩餐会へ(最左が普世さん)
研究室の仲間と晩餐会へ(最左が普世さん)

カム川の辺りにて
カム川の辺りにて

ケンブリッジ大学では、乱流噴流予混合火炎のラージ・エディ・シミュレーション(流体解析手法の1つ)について研究しました。環境保全等の観点から、数値シミュレーションを活用した短期間・低コストでの高効率・低環境負荷燃焼器の設計・開発が、昨今必要とされています。特に、振動燃焼等の非定常現象を予測するために、ラージ・エディ・シミュレーションの利用が有望視されていることからも、このテーマに取り組みたいと思いました。

今回の留学から以下のようなことを感じました。英語はツールでしかありません。グループの中に入っていくには自分から話を展開していくことが必要です。単なる「おしゃべり」だけでは不十分で、相手が興味を持ち、かつ議論できる土台を話の中で作っていくことが大事だと感じました。そのためには、様々なトピックに対して自分で考え、意見を持つことが重要ではないでしょうか。英語が主言語の大学で学位を取ろうという学生たちの集まりなので、英語は話せて当然です。その点で私の英語能力は不十分だったので、もし英語が十分なレベルであれば、また違う印象を持ったかもしれません。しかし、英語能力が不十分だから、留学に行くのをやめるべきだと言っているわけではありません。2、3ヵ月という留学期間は英語に慣れるのに十分な期間であり、英語ができない時期のもどかしさや悔しさはむしろ、英語学習のモチベーションになります。最低限の英語のコミュニケーション能力があり、留学に興味がある人は迷わずに留学するべきだと考えます。

アジア・オセアニア工系トップ大学リーグ(The Asia-Oceania Top University League on Engineering:AOTULE)の派遣

AOTULEはアジア・オセアニア地区の各国(地域)1校の理工系大学が加盟するトップ大学リーグです。加盟大学間の合同ワークショップや、学生・教職員の派遣交流などを通して、工学系の教育研究の質を向上させることを目的としています。工系学生国際交流プログラムでは、加盟大学への本学学生の短期研究留学を支援しています。加盟大学はメルボルン大学(オーストラリア)、清華大学(中国)、国立台湾大学(台湾)、香港科技大学(中国)、バンドン工科大学(インドネシア)、韓国科学技術院:KAIST(韓国)、マラヤ大学(マレーシア)、インド工科大学マドラス校(インド)、ハノイ工科大学(ベトナム)、南洋理工大学(シンガポール)、チュラロンコン大学(タイ)、モラトゥワ大学です。

工学院 機械系の冉さん(修士課程2年) / 南洋理工大学留学

研究室の仲間との昼食(中央がランさん)
研究室の仲間との昼食(中央がランさん)

所属学部の校舎
所属学部の校舎

シンガポールは多文化・多民族国家で、世界で最も国際的な国家の1つであり、留学中に友人を作ったり、多様な文化を深く経験することができます。シンガポールに到着したばかりの頃は、様々な文化の人種が数多くいる環境を経験したことがなかったため、適応できるかどうか不安で緊張しました。しかし、すぐに慣れていき、タイやインドから来ていた研究室の仲間が、研究や生活においてたくさん助けてくれました。英語が上達しただけでなく、研究の楽しさを再認識することができました。この留学はめったにできない経験となり、忘れられない印象を残してくれました。より幅広い視点と困難に打ち勝つ方法も得ることができました。

物質理工学院 学生交流プログラム協定大学への派遣

物質理工学院では2016年度にヨーロッパの大学および研究機関との関係強化を図り、同年に学生の派遣交換を主とする協定(MOU)を締結しています。提携しているのは、ジェノヴァ大学(イタリア)、ワルシャワ大学(ポーランド)、ヨンショーピン大学(スウェーデン)、フランス国家計量標準研究所(フランス)、ドイツ航空宇宙センター(ドイツ)、イタリア学術会議物質化学・エネルギー技術研究所(イタリア)です。工系学生国際交流プログラムでは、このように3学院が個別に締結する協定大学への研究留学派遣も支援しています。

物質理工学院 材料系の松本さん(修士課程1年) / ヨンショーピン大学留学

週末の鍋パーティーにて(最左が松本さん)
週末の鍋パーティーにて(最左が松本さん)

学部のメンバーと(中央が松本さん)
学部のメンバーと(中央が松本さん)

私は中期の研究留学をしたのは初めてでした。また英語スコアが学部卒業レベルしかなかったため、英語に大きな不安を抱えていました。しかし、この3ヵ月はあっという間に過ぎ充実した毎日を過ごしました。始めは日本人が自分しかいない環境であり、専門知識を英語で説明する難しさや初めての自炊等様々な葛藤があり、慣れるまで数日かかりました。しかし、諦めずに果敢にコミュニケーションし続けることで、分からないことが少しずつ分かるようになり、次第に友達関係も広がっていきました。スウェーデンは英語普及率が95%とはいえ、英語のネイティブではないからか私が聞き取れない時もありました。しかし勇気を持って聞き直すと、違う言い回しで伝えようとしてくれました。充実した留学となったのは、間違いなく留学先でできた多くの友達のお陰です。英語に慣れない、友達が作れない等、自信を失くすこともあると思います。でも絶対に1人の時間を作らないでください。友達が1人できると、その友達が友達を紹介してくれ、帰国間際には、気づいたら友達に囲まれて現地を発つことができました。研究も友達関係も英語も全部がんばりたい人に、ヨンショーピン大学を留学先として強くお勧めします。

本イベントは、帰国して間もない留学経験者からの新鮮な現地情報や感想に触れることができる機会です。2019年夏季派遣が決定している学生も参加し、情報を収集していました。また、本プログラムは受入・派遣の双方向でもあり、夏季には協定大学より来日する留学生との交流イベントも企画・運営されています。

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お問い合わせ先

工系国際連携室

E-mail : ko.intl@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3969

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