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農研機構と農業・食品分野のSociety5.0の早期実現を目指した連携協定を締結

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東京工業大学は3月27日、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と農業・食品産業分野の持続的発展を目指し、連携協定を締結しました。

協定書を取り交わす農研機構 久間和夫理事長(左)と益学長(右)

協定書を取り交わす農研機構 久間和夫理事長(左)と益学長(右)

協定締結の背景・趣旨

本学は、研究成果の社会実装に向け、他機関等との連携研究を推進しています。

今回、日本をリードする農業・食品研究機関である農研機構と協定を締結することにより、農業・食品分野のSociety5.0(ソサエティ5.0)の実現や農業食品産業の発展、生命・理工系分野のビックデータ利用等による産業振興を目指します。

農研機構は幅広い農業技術と研究基盤に加え、多数の実証実験に適した研究現場を有しています。そこに本学が有する情報理工学や、エレクトロニクス工学を融合させることによって、先進的農業・食品分野研究を飛躍的に推進していくことを期待した協定です。

今後、両組織の強みを活かして、大型プロジェクト等への共同提案や研究成果の応用・社会実装活動を進めていく予定です。

本協定に基づき推進される研究は、下記テーマ等を皮切りに、Society5.0の早期実現に向かうものを次々に進めていく予定です。

  • (例1)微生物燃料電池を電源としたサステイナブル環境モニタリング装置の開発
  • (例2)低価格、長寿命、軽量な家畜センシングデバイス開発
  • (例3)腸管免疫に関する乳酸菌の寄与、及び健康寿命延伸に関する研究

連携・協力事項

本協定に基づき、以下の事項について連携・協力します。

  • 共同研究の推進等に関する事項
  • 研究成果の普及等に関する事項
  • 研究者及び教員間の研究交流促進等に関する事項
  • 研究施設及び研究設備等の相互利用に関する事項
  • 情報の共有及び相互発信等に関する事項
  • その他双方協議のうえ必要とする事項

本協定で創る農業・食品分野の未来社会

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


教育革新シンポジウム2018開催報告

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教育革新センター(以下、CITL)は、1月30日に大岡山キャンパス西9号館ディジタル多目的ホール、メディアホールで教育革新シンポジウム2018を開催しました。

2015年度から数えて4回目の開催となる本シンポジウムは、「大学院生とともに創る学習経験-TA(ティーチング・アシスタント)※1を超えて-」をテーマとして開催しました。学生を主体的な学び手としていくために、学習経験を創るプロセスに大学院生が関わること、これからの大学教育と大学院生の役割について、参加者と共に考えました。学内外合わせて約80名の大学関係者、教職員、学生が参加し、学習経験創出に対する関心の高さを改めて認識する機会となりました。

※1
TAとは、教育や授業の補助準備など、教育に関わる業務補助を行う学生のこと。

基調講演に先立ち、メディアホールにおいて登壇者5名を交えて交歓会、ポスターセッションが行われました。ポスターを囲み、参加者と発表者による活発な意見交換の場となりました。

盛況だった交歓会、ポスターセッション

盛況だった交歓会、ポスターセッション

他大学からは部局間協定を締結している九州工業大学学習教育センターをはじめ、TAやSA(スチューデント・アシスタント)※2等を活用した教育制度を実践している広島大学、国際基督教大学、成蹊大学、横浜商科大学の発表者から、取組みの紹介がありました。本学からは2017年度に採択されたアクティブ・ラーニング支援制度の取組みや、創造性育成科目、6大学工学系人材養成機構(6-University Human Assets Promotion Program for Innovative Education and Research : 6U-HAPPIER)、情報活用IR室、CITL、オンライン教育開発室(OEDO)の取組みに加え、東工大教育賞受賞者の紹介もありました。

※2
SA(Student Assistant)とは、学士課程において低年次学生の学習を支援する高年次学生のこと。

基調講演の様子

基調講演では、コロラド大学 ボルダー校のヨネモト・マーシャディレクター(コロラド大学ボルダー校 歴史学部 教授)から、「大学院生が授業を担うプログラム:これまでとこれから」と題して、コロラド大学ボルダー校で運用されているグラデュエート・ティーチャー・プログラム(Graduate Teacher Program:GTP)の目的、歴史、組織内の人員配置、運用方法、今後の目標などについて、詳細な内容が示されました。

基調講演の様子

基調講演の様子

続く事例紹介では、広島大学 高等教育研究開発センターの佐藤万知准教授による2016年度から新たに導入したHirodai(ひろだい)TA制度に関する説明と、本学 リベラルアーツ研究教育院の室田真男教授による本学で取り組んでいるGSA(大学院生アシスタント)※3制度の現状と課題に関する説明がありました。

※3
GSA(Graduate Student Assistant)とは、教員と協働で学士課程の教育活動などに携わる大学院生アシスタントのこと。

事例紹介の様子

事例紹介の様子

事例紹介の様子

これらを受けるかたちで、登壇者と参加者を交えながらのラウンドテーブルが行われ、今回のテーマのもと、活発に意見交換や質疑応答が行われました。モデレーターは本学 教育革新センターの田中岳 副センター長(同センター 教授)です。ここからGTPリードコーディネーターのプレイス・マーク氏とカミング・プレストン氏が加わりました。

登壇者に質問を投げかけるモデレーター

登壇者に質問を投げかけるモデレーター

フロアからの質問に答えるGTPリードコーディネーターのお2人

フロアからの質問に答えるGTPリードコーディネーターのお2人

フロアからの質問に答えるGTPリードコーディネーターのお2人

全プログラムを終えて行われたアンケート(回答者数 26名/回収率 34.7%)では、来場者の満足度は「満足」と「やや満足」を合わせて92%と概ね高く、特に広島大学のHirodai TA制度および本学のGSA制度の事例紹介が有益であったことが見て取れました。自由記述には、「TAの教育(取組み)を中心に幅広い話を聞くことができて、とても有益でした。TAは教員でも学生でもない、だからこそ大学にとって重要な存在であること、今後の検討にあたり考えるべきことが多く見つかりました」「ポスターセッションの時間がもう少し欲しかったです。キャッチボックス※4 によるフロアとのやり取りは特に有意義に感じました」「東工大が教育熱心なのは頼もしいです」等の感想が寄せられ、シンポジウムは盛況のうちに終了しました。

※4
キャッチボックスとは、マイク内臓のトーキングオブジェクトのこと。

ポスターセッションタイトル一覧

タイトル
所属、氏名(敬称略)
九州工業大学 学習教育センター(LTC)の取組み
九州工業大学 学習教育センター
宮浦崇、林朗弘、小林順、坂本寛
広島大学 大学教員養成講座における教育実践と内省
広島大学
ゾレット・シモナ、島津礼子
ライティング指導の一端を担うチューターの役割〜大学院生ライティングチューターの視点から〜
国際基督教大学
深尾暁子
QLAの活用による授業改善
成蹊大学 高等教育開発・支援センター
勝野喜以子、井上智夫、大野正智、鈴木史馬、岩間好宣、黒山幹太、坂口悠、須藤裕貴、辰間菜々
横浜商科大学におけるSA制度とその教育効果
横浜商科大学
田尻慎太郎、西村悠、細江哲志
アクティブ・ラーニング支援制度の取り組み
多人数クラスの中で1対1のきめ細かいプログラミング教育を可能にするICTシステムの開発
東京工業大学 情報理工学院 情報工学系
大上雅史
うそ発見器の設計製作とチーム対戦を加えた能動的な演習科目の新設
東京工業大学 工学院 電気電子系
安岡康一
デザイン思考とハンズオンワークを用いた機械系アクティブ・ラーニング
東京工業大学 工学院 機械系
八木透、鈴森康一、赤坂大樹、遠藤玄
異分野協創エンジニアリングデザインプロジェクト
東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系
因幡和晃、齊藤滋規
創造性育成科目
概要
東京工業大学 学務部教務課
教育企画グループ
ものつくり
東京工業大学 教養科目群・理工系教養科目
学生プロデュース科目、教養先端科目
教養科目群・文系教養科目
金属工学実験第一/金属工学創成プロジェクト
物質理工学院・材料系
都市・交通計画プロジェクト演習
環境・社会理工学院・土木・環境工学系
デザイン思考
工学院・経営工学コース
パッシブデザイン特論
環境・社会理工学院・建築学コース
コンセプト・デザイニング
環境・社会理工学院・地球環境共創コース
6大学工学系人材養成機構(6U-HAPPIER)
東工大工系人材養成機構
西原明法、篭橋雄二、スチュワート・デービッド、山田明、高橋篤司、高田潤一
IR人材育成に向けて
情報活用IR室
小野寺理香、田中要江、加藤信也、大石哲也、森雅生
教育革新センターの概要と活動紹介
教育革新センター
大浦弘樹、田中岳、高橋将宜
東京工業大学におけるオンライン教材(MOOC/SPOC)開発
教育革新センター オンライン教育開発室
森秀樹、クロス・ジェフリー
東工大教育賞 受賞者一覧
人事課労務室
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お問い合わせ先

教育革新センター

E-mail : citl@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2993

「より優れた教育の推進に」平成29年度東工大教育賞授与式を実施

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2月1日、大岡山キャンパス本館で平成29年度東工大教育賞授与式が行われました。

この賞は、教員の教育方法及び教育技術等の向上を図り、より優れた教育を推進することを目的として制定されたもので、今回で16回目となります。

授与式では、最優秀賞に選ばれたリベラルアーツ研究教育院 山元啓史教授ら受賞者に対して、益一哉学長から賞状及び報奨金(目録)が授与されました。

あいさつする益学長
あいさつする益学長

受賞者を代表してあいさつする山元教授
受賞者を代表してあいさつする山元教授

平成29年度東工大教育賞受賞者一覧

教育に関して優れた業績を挙げたとして、次の58名(10件)が選ばれました。

(所属は受賞当時、所属順・敬称略)
(代表者の所属順)

最優秀賞

受賞者(所属)
対象業績
山元啓史教授(代表者・リベラルアーツ研究教育院)、佐藤礼子准教授(リベラルアーツ研究教育院)、平川八尋准教授(リベラルアーツ研究教育院)、森淳子准教授(リベラルアーツ研究教育院)
「日本語・日本文化科目群運営のための統合的機能を有する教務システム(JCOS)の開発」

優秀賞

受賞者(所属)
対象業績

小松隆之教授(理学院)

「教育改革実施に向けた新しい1年次化学教育システムの構築と運用」
佐藤文衛准教授(代表者・理学院)、綱川秀夫教授(理学院)
「宇宙地球科学の講義内容の刷新と教科書の作成」
秋山泰教授(代表者・情報理工学院)、三原久和教授(生命理工学院)、德永万喜洋教授(生命理工学院)、山村雅幸教授(生命理工学院)、一瀬宏教授(生命理工学院)、伊藤武彦教授(生命理工学院)、岩﨑博史教授(科学技術創成研究院)、上野隆史教授(生命理工学院)、占部弘和教授(生命理工学院)、梶原将教授(生命理工学院)、蒲池利章教授(生命理工学院)、小林雄一教授(生命理工学院)、櫻井実教授(バイオ研究基盤総合センター)、田口英樹教授(科学技術創成研究院)、中村聡教授(生命理工学院)、本郷裕一教授(生命理工学院)、山口雄輝教授(生命理工学院)、和地正明教授(生命理工学院)、相澤康則准教授(生命理工学院)、鈴木崇之准教授(生命理工学院)、清尾康志准教授(生命理工学院)、田川陽一准教授(生命理工学院)、田中幹子准教授(生命理工学院)、林宣宏准教授(生命理工学院)、廣田順二准教授(バイオ研究基盤総合センター)、山田拓司准教授(生命理工学院)、小長谷明彦教授(情報理工学院)、篠田浩一教授(情報理工学院)、渡辺治教授(情報理工学院)、青西亨准教授(情報理工学院)、石田貴士准教授(情報理工学院)、小野功准教授(情報理工学院)、下坂正倫准教授(情報理工学院)、瀧ノ上正浩准教授(情報理工学院)、藤井敦准教授(情報理工学院)、関嶋政和准教授(科学技術創成研究院)
「情報生命博士教育院におけるガンマ型博士人材の養成」
秦猛志准教授(代表者・生命理工学院)、中村信大准教授(生命理工学院)、小倉俊一郎准教授(生命理工学院)、林智広准教授(物質理工学院)、八木透准教授(工学院)、那須聖准教授(環境・社会理工学院)
「実践型アントレプレナー人材育成プログラム(PEECs)の開発」
高橋史武准教授(環境・社会理工学院)
「デザイン・ものづくり・成果の検証を一気通貫化した創造性育成型演習」
中野民夫教授(リーダーシップ教育院)
「学生の「主体的・対話的で深い学び」を促す授業や学内行事の展開」
林直亨教授(代表者・リベラルアーツ研究教育院)、室田真男教授(リベラルアーツ研究教育院)、中野民夫教授(リーダーシップ教育院)、猪原健弘教授(リベラルアーツ研究教育院)
「東工大生の個性を伸ばす「リーダーシップ道場」の教育内容と方法」
札野順教授(リーダーシップ教育院)
「東工大における倫理教育体制の確立と実施」
細田秀樹教授(代表者・科学技術創成研究院)、木村好里教授(物質理工学院)
「講義「金属の状態図」でのアクティブラーニングの取り組みと改善」

受賞者の記念撮影

受賞者の記念撮影

室温で緑色発光するp型/n型新半導体 ペロブスカイト型硫化物で実現

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要点

  • 独自の化学設計指針でp型/n型半導体の電気特性や光学特性を制御
  • 適切な元素置換がカギ
  • グリーンギャップ問題を解決する次世代緑色LEDを開発

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の平松秀典准教授、飯村壮史助教(研究当時)、細野秀雄教授(研究当時)、物質理工学院 材料系の半沢幸太大学院生(博士後期課程3年、研究当時)の研究グループは、独自の化学設計指針をもとに、適切な元素置換で、電気特性の制御ができ室温で緑色発光するペロブスカイト硫化物の新半導体“SrHfS3”を開発した。

現在、発光ダイオード(LED)やレーザーダイオードとして幅広く用いられているInGaN系(窒化物)、AlGaInP系(リン化物)の材料は、人間の視感度が最も高い緑色において電流の光変換効率が大きく低下するという問題がある。開発したSrHfS3は、高効率、高輝度、高精細が要求される次世代光学素子用の緑色光源として応用されることが期待される。

本研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に3月6日(現地時間)に掲載された。

背景

高輝度、長寿命、低消費電力で光を発するLEDは、信号機やフラットパネルディスプレイ、照明などの生活に欠かせない光源として幅広く用いられている。LEDは、電子の穴(=正孔)が動くp型半導体と電子が動くn型半導体を接合した構造を持っている。ここに、電圧を印加し正孔と電子を再結合させることでバンドギャップに応じた発光が得られる。現在、青色と赤色のLEDにはInGaN系(窒化物)とAlGaInP系(リン化物)のⅢ-V族半導体が用いられている。

しかし、人間の視感度が最も高い緑色域においては光変換効率が大きく低下してしまう通称「グリーンギャップ問題」を抱えており(図1)、小型で高効率、高輝度、高精細が要求されている次世代テレビやプロジェクターを実現するためには、p型とn型両方に制御可能であり、かつ高効率に緑色発光する全く新しい半導体材料が求められている。

Ⅲ-V族窒化物およびリン化物半導体材料を基盤としたLEDの各発光波長における最大外部量子効率

図1. Ⅲ-V族窒化物およびリン化物半導体材料を基盤としたLEDの各発光波長における最大外部量子効率[用語1]

研究成果

今回、p型とn型両方の電気伝導性と高効率な緑色発光という2つの機能を新材料で両立するため、(1)高対称性結晶中の非結合性軌道の利用と、(2)バンドの折り畳みを利用した直接遷移型バンドギャップを有する結晶構造の選定という2つの化学設計指針を提案し、その後候補材料のスクリーニングを行った(図2)。

物質内の化学結合に着目した材料設計指針。(a)半導体中における化学結合と非結合性軌道が占有するエネルギー準位の模式図(b)長周期構造をとることによるバンドの折りたたみ
図2.
物質内の化学結合に着目した材料設計指針。(a)半導体中における化学結合と非結合性軌道が占有するエネルギー準位の模式図(b)長周期構造をとることによるバンドの折りたたみ

図2aに分子軌道図を示す。通常、半導体中の正孔はエネルギー準位の深い結合性軌道[用語2]を占有し、電子は浅い反結合性軌道[用語3]を占有する。しかし、電子は深いエネルギーを持つほど半導体中で安定化され、正孔は浅い準位ほど安定になる。そのため、p型とn型の電気伝導性を実現するためには、電子が占有する準位のエネルギーを深くしつつ、正孔の準位を浅くする必要がある。

そこで我々は、まず「非結合性軌道[用語4]」を利用することを考えた。高対称性の結晶構造中では、金属や非金属元素の電子軌道が正味の結合・反結合軌道を作ることができず、非結合性軌道を形成することがある。金属と非金属元素の非結合性軌道は浅い価電子帯上端と深い伝導帯下端を形成するため、正孔と電子両方の電気伝導キャリアを安定化させることができると考えた。

次に、高対称性を持つ立方晶[用語5]ペロブスカイト型構造[用語6]を有する化合物は正孔、電子共に非結合性軌道から成る価電子帯上端と伝導帯下端[用語7]を占有するため、p型/n型伝導に適したエネルギーバンド構造を持っている。しかし、その立方晶ペロブスカイトの価電子帯上端と伝導帯下端は間接遷移型[用語8]のバンド構造を持つため、高効率の発光は期待できない。そこで、立方晶ペロブスカイトの長周期構造を選択することにより、バンドを物質内部で意図的に折りたたみ、直接遷移型[用語8]のバンド構造を得ることを考えた(図2b)。

図3aにこれらの設計指針をもとに選定した斜方晶SrHfS3の結晶構造とバンド構造を示す。SrHfS3は立方晶ペロブスカイトの格子定数abcをそれぞれ√2×√2×2倍した長周期構造を持つ。この長周期構造に起因して、第一原理計算により求めたSrHfS3のバンド構造は直接遷移型となっており、高効率な光の吸収、発光が期待できた。また硫黄(S)のp軌道とハフニウム(Hf)のd軌道でそれぞれ形成される価電子帯上端と伝導帯下端は、真空準位から見てそれぞれ−6から−4 eV付近に位置しており、いずれもp型/n型ドーピングに適した準位となっており、これは設計指針に合致した新材料だった。

SrHfS3の電子構造と電気・発光特性。(a)斜方晶系の結晶構造と直接遷移型のバンド構造。(b)電気伝導度(上)・ゼーベック係数(下)とドーピング濃度の関係(c)室温における緑色発光スペクトルと実際の写真
図3.
SrHfS3の電子構造と電気・発光特性。(a)斜方晶系の結晶構造と直接遷移型のバンド構造。(b)電気伝導度(上)・ゼーベック係数(下)とドーピング濃度の関係(c)室温における緑色発光スペクトルと実際の写真

そこで我々は、そのSrHfS3試料を固相反応法[用語9]で合成した。リン(P)およびランタン(La)を、それぞれ硫黄(S)、ストロンチウム(Sr)位置に適量で置換することにより、p型およびn型の電気伝導性を制御できることを実験的に実証した(図3b)。また、フォトルミネッセンス(PL)測定からは、室温においても目視可能なほど明るい緑色発光(波長520 nm)が観測された(図3c)。これらの結果は、SrHfS3が緑色発光ダイオード用の半導体材料として有望であることを示しているのと同時に、今回の材料設計の有用性も実証していると言える。

今後の展開

今回の結果により、光デバイス用半導体の材料設計指針、およびそれにより実験的にその性能が実証された新半導体SrHfS3の緑色LED向けの新材料としての有用性を示すことができた。今後、単結晶薄膜を用いたpn接合を作製することにより、より高効率の次世代緑色LEDが実現できると期待される。

この成果は、文部科学省 元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>により助成されたものである。

用語説明

[用語1] 外部量子効率 : LEDなどで電極から注入されたキャリア数に対して素子外に放射される光子数の比。

[用語2] 結合性軌道 : 隣り合う原子の電子軌道が互いの位相を強め合うように作る化学結合。

[用語3] 反結合性軌道 : 隣り合う原子の電子軌道が逆位相を持って弱め合うように作る化学結合。結合性軌道よりも高いエネルギーを持つ。

[用語4] 非結合性軌道 : 結合性軌道と反結合性軌道が互いを打ち消し合うように作る結合。結合と言っても正味の相互作用はなく、原子の持つ電子軌道のエネルギー準位がそのまま反映される。

[用語5] 立方晶 : 固体の繰り返し単位を決める7つの結晶系の1つ。すべての結晶軸の長さが等しく、軸のなす角度はすべて直角で90度をとる。

[用語6] ペロブスカイト型構造 : 体心立方格子の八面体隙間を陰イオンが占める結晶構造。強誘電体のBaTiO3などがこの構造をとる。

[用語7] 価電子帯と伝導帯 : 半導体中のバンドギャップを形成する電子の埋まったエネルギー帯(価電子帯)と電子が空のエネルギー帯(伝導帯)。正孔は価電子帯上端を動き、電子は伝導帯下端を動く。

[用語8] 間接遷移型と直接遷移型 : 価電子帯上端と伝導帯下端が異なる波数を持つ半導体は間接遷移型、同じ波数を持つものは直接遷移型と呼ばれる。

[用語9] 固相反応法 : 化合物の合成法の1つ。固体状の原料を混合、粉砕したのち、高温で加熱、焼成することで所望の化合物を得る手法。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Material Design of Green-Light-Emitting Semiconductors: Perovskite-Type Sulfide SrHfS3
(和訳:緑色発光する半導体の物質設計:ペロブスカイト型硫化物SrHfS3
著者 :
Kota Hanzawa, Soshi Iimura, Hidenori Hiramatsu, and Hideo Hosono
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

准教授 平松秀典

E-mail : h-hirama@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5855

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大初の産学協働プログラム「人生100年時代の都市・インフラ学」がスタート 環境・社会理工学院が記念講演会を開催

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3月14日、東京工業大学の産学協働プログラムの第1号となる「人生100年時代の都市・インフラ学」の発足を記念し、キックオフイベントとして記念講演会を大岡山キャンパス東工大蔵前会館で開催しました。プログラムの会員企業の経営トップや学内の関係者を含め、150名を超える方々が参加しました。

多くの方々が参加した記念講演会

多くの方々が参加した記念講演会

プログラムの概要

日本は、平均寿命が世界一の長寿社会です。2007年に日本で生まれた子供は107歳まで生きる確率が50%にもなると言われています。こうした超長寿社会日本においては、人々の暮らし方、働き方、学び方が変わっていくでしょうし、また変わらなければなりません。一方で、震災や水害は言うまでもなく、さまざまな自然災害の脅威が従来以上に高まっています。このような大変革は日本に限ったことではなく、今後、グローバル社会共通の根源的な潮流になると考えます。

本プログラムは、人類が歴史上経験のしたことがない大きな変化の中で、東工大の多様な領域の知見に加え、広く社会の知見を融合し、

  • 人生100年時代の人の「幸福」とは何なのか?
  • 人生100年時代の「人」を支える都市やインフラはどのようにあるべきか?
  • 我々は何をすべきか?

を解明することを目的として活動します。環境・社会理工学院が本プログラムを企画・運営します。

イメージ

記念講演会

キックオフイベントの記念講演会では、最初に益一哉学長が、本学の将来構想と本プログラムの意義について語りました。東工大が目指すべきゴール「世界最高の理工系総合大学」に向けて、「科学技術のファシリテーターとして、客観的な知見を社会に提供しながら、社会と共に未来をデザイン」することが本学の目標の1つであると説明し、「本プログラムは、この目標達成に向けた戦略的なフラッグシッププログラムである」と述べました。

続いて、特別講演として和泉洋人内閣総理大臣補佐官が「人生100年時代の都市・インフラ整備」について話しました。「人生100年時代とは」から始まり、Society5.0(ソサエティ5.0)、スマートシティ、科学技術イノベーションに係る政府の取り組みまで広範なテーマを取り上げました。和泉補佐官の最後のメッセージ「未来は明るい」はとても印象的でした。

本学の将来構想と本プログラムの意義を語る益学長
本学の将来構想と本プログラムの意義を語る益学長

人生100年時代の都市・インフラ整備について講演する和泉内閣総理大臣補佐官
人生100年時代の都市・インフラ整備について講演する
和泉内閣総理大臣補佐官

さらに、本学の科学技術創成研究院の柏木孝夫特命教授(先進エネルギー国際研究センター センター長)が「超スマートエネルギー社会へのアプローチ」と題して、特別講演を行いました。今後の都市・インフラの最重要なイシューであるエネルギーシステム、特に、地域主導の地産地消型エネルギーシステムの重要性について話しました。

地域主導の地産地消型エネルギーシステムについて語る柏木特命教授
地域主導の地産地消型エネルギーシステムについて語る
柏木特命教授

プログラム総括の中井検裕 環境・社会理工学院長
プログラム総括の中井検裕 環境・社会理工学院長

講演会の後、懇親会を開催しました。100名を超える方が参加し、今後のプログラムへの期待を語りあう姿が見られました。

来賓の伊藤滋 東京大学名誉教授

佐藤勲 本学総括理事・副学長、日置滋 本学副学長(基金担当)

懇親会の様子(佐藤勲 本学総括理事・副学長、日置滋 本学副学長(基金担当)、来賓の伊藤滋 東京大学名誉教授)

産学協働プログラム「人生100年時代の都市・インフラ学」はこの日がスタートです。今後3年間にわたり、東工大および国内外の外部専門家に加え、本プログラムの趣旨に賛同する企業をメンバーとするワークショップ等を通じて、議論を深めます。本プログラムの成果については、公開シンポジウム等を通じて、広く社会に提言していく予定です。

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お問い合わせ先

研究・産学連携本部 URA(環境・社会理工学院担当)
米山晋

E-mail : yoneyama.s.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2260

東京工業大学の研究ポリシーを策定

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東京工業大学は、「将来、工業技術者、工業経営者、理工学の研究者、教育者として指導的役割を果たすことができる有能善良な公民を育成する目標のもとに、これに必要な一般的教養と専門的知識とを学生に修得させるとともに、理学及び工学に関する理論と応用を研究し、その深奥を究めて科学と技術の水準を高め、もって文化の進展に寄与し、人類の福祉に貢献することをその目的及び使命」として定めています。

この目的及び使命に基づき、本学は、産業を牽引する多くの科学・技術者を育み、日本の基幹産業の創成と発展を担うとともに、最先端の研究成果を創出してきました。その伝統に裏打ちされた特色を踏まえ、本学における研究の基本的な在り方を示した研究ポリシーを以下のとおり策定しましたので、お知らせします。

本ポリシーは「研究の理念」、「大学の責務」及び「研究に携わる者の責務」から構成されています。

東京工業大学組織運営規則から一部抜粋しています。

東京工業大学の研究ポリシーを策定

ガス田の天然ガスを微生物が食べていた 未知の大規模微生物生命圏の存在示唆

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要点

  • プロパンガス分子の中心の炭素と末端の炭素の安定同位体比を別々に計測
  • 観察と微生物培養実験で安定同位体比の異常を検証
  • 大気へのプロパン放出量の推定など地球環境の影響評価にも適用可能性

概要

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系のアレキシー・ジルベルト(Alexis Gilbert)助教(東京工業大学 地球生命研究所、以下ELSI、アフィリエイトサイエンティスト)、上野雄一郎教授(ELSI 主任研究者)、物質理工学院 応用化学系の吉田尚弘教授(ELSI 主任研究者)らの研究チームは、天然ガス田で微生物にプロパンが代謝されていたことを発見した。

プロパン (C3H8)は3つの炭素が直線上に並んだ分子だ。ELSIでは、この3つのうち、中心の炭素と末端の炭素の安定同位体比[用語1]をそれぞれ別々に計測する新たな手法を開発し、北米とオーストラリアのガス田から産出されたプロパンガスを分析した。

このうち、いくつかの場所で産出されたプロパンでは、分子末端の炭素の同位体比はあまり変動がないのに対して、分子中心の炭素の同位体比が大きく変動することが判明した。この特徴は、プロパンガスが熱分解によって作られる際の傾向とは一致しない。一方、無酸素環境下でプロパンを分解する特殊な微生物を培養し、残ったプロパンの同位体分子計測を行ったところ、このガス田の傾向と一致することがわかった。これは、いくつかのガス田では、嫌気的な微生物が地下でプロパンを消費しており、その規模は、従来想定されていたよりも大きいことが予想される。

本研究成果は、2019年3月18日付の「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」オンライン版に掲載された。

背景

プロパンなど天然ガスの形成過程や、それが保存されている過程を理解することは、地球上の限りある資源の分布を理解する上で大変重要である。近年、天然ガス田には、プロパン等の天然ガスを代謝する微生物が生息していることが明らかになってきている。地下での微生物活動で、どの程度、天然ガスが消費されるのか、どのような条件で天然ガスが消費されずに保存されるのかということは、まだよくわかっていない。

一方、これら天然ガスの形成過程は、地層中に埋没した有機物(過去の生物の遺骸)が熱により分解することで生じる熱分解起源ガス、無機的な反応で生じる非生物起源ガスの2種類に大別されていた。この起源が異なる2種類のガスを区別するために、プロパンなどの炭化水素ガスは従来、炭素および水素の安定同位体比を用いて計測が行われてきた。しかしこの方法では、この2種類を大まかに区別できるが、微生物などが天然ガスを消費した場合の同位体比の変化については明確に区別できず、新たな計測手法が求められていた。

研究成果

研究チームは今回、分子内同位体分布計測という新たな計測手法を開発した。プロパン (C3H8)は3つの炭素が直線上に並んだ分子であるが、このうち中心炭素と末端炭素の安定同位体比(13C/12C)を別々に計測することが可能になった。この新手法を用いて、北米大陸(五大湖周辺)とオーストラリアのガス田から産出するプロパンガスを分析したところ、いくつかのガス田のプロパンでは、末端の炭素の同位体比はあまり変動がないのに対して、中心の炭素の同位体比は大きな変動を示すことが判明した。天然ガスの起源として想定されている熱分解過程を考えると、プロパン分子の末端の炭素が大きな同位体変動をすると予想されるが、実際は中心の炭素の変動が大きいという異常な同位体分布を呈していた。

そこでプロパンを代謝する特殊な微生物を酸素のない嫌気条件で培養し、残ったプロパンの分子内同位体計測を行ったところ、いくつかのガス田で見られた異常な傾向、すなわち中心の炭素の同位体比が変動するという特徴を持つことがわかった。これらの観察と実験の結果を総合すると、ガス田の地下に広がる無酸素環境で特定の条件が整った場所では、プロパンを代謝する微生物が活発に活動していることが推測できる。場所によっては、ガス田から産出されるプロパンの半分以上が微生物に食べられていることがわかった。

今後の展開

今回の発見で、予想以上にガス田の地下では微生物が活動していることが明らかになった。今後、開発した新たな計測法を用いて研究を進めることで、地下での微生物活動がどの程度まで広範に及んでいるかがわかる可能性がある。

また、天然ガスは温室効果ガスの一種であり、大気への放出量を予測する際にもこの新手法が活用できそうだ。また、分子内同位体分布計測法では、非生物的にされた天然ガスを検出することも可能だ。無機的に形成される有機物がどこにどのように分布しているのかについても、全く新しいコンセプトで調べることができる。これは無生物から生物を構成する有機物が創られるという、生命起源の研究にも波及効果があると考えられる。

本研究で分析した天然ガス田。赤い星印で示したガス田で、プロパンの生物分解が確認された。

図1. 本研究で分析した天然ガス田。赤い星印で示したガス田で、プロパンの生物分解が確認された。

本研究で分析したサンプル。画面左のサンプルはプロパンとともに培養したバクテリアの培養容器。画面右のサンプルは天然ガスを封入した容器。
図2.
本研究で分析したサンプル。画面左のサンプルはプロパンとともに培養したバクテリアの培養容器。画面右のサンプルは天然ガスを封入した容器。
天然ガス中プロパンの分子内同位体計測の結果。縦軸は中心の炭素の同位体比、横軸は末端の炭素の同位体比を示す。赤い矢印は培養実験の結果に基づいて予測されるプロパンの生物分解トレンド。水色の矢印は熱分解実験によって得られた無機的な分解トレンドを示す。赤の星印で示したガス田サンプルは生物が分解した傾向がみられる。
図3.
天然ガス中プロパンの分子内同位体計測の結果。縦軸は中心の炭素の同位体比、横軸は末端の炭素の同位体比を示す。赤い矢印は培養実験の結果に基づいて予測されるプロパンの生物分解トレンド。水色の矢印は熱分解実験によって得られた無機的な分解トレンドを示す。赤の星印で示したガス田サンプルは生物が分解した傾向がみられる。
プロパンの同位体分子種とそれらがバクテリアに分解される際の反応速度。微生物分解の際には、中心炭素が13Cに置換された同位体分子種の反応速度が特に遅いことが培養実験により明らかになった。つまり、微生物によってプロパンが分解されていくと、残ったプロパンガスは中心炭素の13C存在度だけが異常に増えることになる。これが今回、いくつかのガス田で見られた特徴と一致しており、ガス田地下での微生物活動の証拠となった。
図4.
プロパンの同位体分子種とそれらがバクテリアに分解される際の反応速度。微生物分解の際には、中心炭素が13Cに置換された同位体分子種の反応速度が特に遅いことが培養実験により明らかになった。つまり、微生物によってプロパンが分解されていくと、残ったプロパンガスは中心炭素の13C存在度だけが異常に増えることになる。これが今回、いくつかのガス田で見られた特徴と一致しており、ガス田地下での微生物活動の証拠となった。

用語説明

[用語1] 安定同位体比 : 質量数の異なる元素で、放射壊変せずに安定に存在するもの。炭素の場合は質量数12の12Cと質量数13の13Cの二種類があり、これらの比率を炭素の安定同位体比と呼ぶ。質量数14の14Cは放射性同位体であり、今回の研究では使用していない。

論文情報

掲載誌 :
米国科学アカデミー紀要(PNAS: Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America
論文タイトル :
Intramolecular isotopic evidence for bacterial oxidation of propane in subsurface natural gas reservoirs
著者 :
Alexis Gilbert, Barbara Sherwood Lollar, Florin Musat, Thomas Giunta, Songcan Chen, Yuki Kajimoto, Keita Yamada, Christopher J. Boreham, Naohiro Yoshida, and Yuichiro Ueno
DOI :
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お問い合わせ先

英語での問い合わせ

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系 助教

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI) アフィリエイトサイエンティスト

アレキシー・ジルベルト

E-mail : gilbert.a.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2617 / Fax : 03-5734-3537

日本語での問い合わせ

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系/地球生命研究所(ELSI)教授

上野雄一郎

E-mail : ueno.y.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3536

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

脳波のような複雑な信号を読み解く新手法 定数パラメータを加えることで脳活動情報の抽出改善

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要点

  • 異なる条件下の信号を位相だけでなく振幅も利用して検出できる新手法
  • 脳波など複雑(カオティック)な信号から脳活動情報を抽出する技術
  • ブレイン・マシン・インタフェースの高度化に寄与する可能性

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の小池康晴教授、吉村奈津江准教授、ルドビコ・ミナティ(Ludovico Minati)特任准教授(兼ポーランド科学アカデミー研究員)、マティア・フラスカ(Mattia Frasca)研究員(兼カターニャ大学)らの研究チームは、脳波のような複雑な信号を分析し、脳活動の特徴を捉えるのに有用な情報の抽出方法を改善する新たな手法を発見した。

その仕組みはシンプルで、異なる条件下の信号の違いを検出するために、これまでの位相だけの手法に加えて、定数パラメータ[用語1]を加えることにより、振幅の違いも利用できるようになるというもの。今回の研究により見出された、特定の行動を規定する脳活動を示す信号の同期[用語2]を検出する方法は、脳の活動に基づいてコンピュータや他の機械を制御するブレイン・マシン・インタフェース[用語3]システムの性能を向上させる可能性がある。

本研究成果は、2019年2月8日(現地時間)に米国の著名な物理系学術雑誌である「Chaos: An Interdisciplinary Journal of Nonlinear Science」に掲載された。

背景

人間は、2つの灯りが同時に点滅しているかどうかなど、別々のことが同時に起こっているかを発見することが得意である。そのため、例えば2つのブランコが規則的に動いている時、その動きが「同期」しているか判断するのは比較的簡単なことだ。しかしながら、例えば凧が非常に複雑に動くとき、目では追いきれないこともある。そのようなシステムには、ランダムなものもある一方、「カオス」と呼ばれる秩序を有するものがある。物理学において、カオスは秩序の欠如を意味するものではなく、非常に複雑な種類の秩序があることを示す。そのような状況は、我々の脳内のニューロンの活動を含む、非常に広範で見られる。

これまでの研究では、電気信号が複雑な軌跡を示す場合、それらが同期しているかどうかを判断するのは困難であり、そのため長きにわたり研究が進んでいなかった。

研究成果

通常、電気信号の軌跡がほぼ同じ周回軌道を繰り返す場合、我々が観察しているシステムがこの周期内のどの時点であるかを捉えることは重要で、このことを「位相(フェーズ)」と呼ぶ。一方、軌跡が不規則な場合、周回軌道のサイズも変化し、各サイクルは前のサイクルよりも大きくなったり小さくなったりする。これを「振幅」と呼ぶ。これらの2つのシステムは独立しており、「解析信号[用語4]」と呼ばれる数学的手法により任意の信号から抽出できる。

2つのシステムの位相が関連しているかどうか、つまり「位相同期(フェーズロック)」されているかどうかを測定することは、多くの分野で重要となる。考えられるすべての信号の組み合わせで位相同期を取得することは、脳波の頭皮で測定された電圧から、誰かが考えていることを推測するのに有効な方法だ。この技術をさらに詳細に解析していけば、例えば、障害のある人々を助けるような、脳波でデバイスを操作するインタフェースの開発に役立つ可能性がある。

しかし、ブレイン・マシン・インタフェースまたはブレイン・コンピュータ・インタフェースと呼ばれるインタフェースは検出精度の個人差が大きく、十分正確ではない。研究チームでは、特定の行動を規定する脳波信号間の同期を測定するため新しいアプローチを提案した。

これは「解析信号」を計算した後に、定数パラメータを追加するもので、あえて信号の軌道をゆがめることで、信号の位相と振幅の関係を変化させ、同期しているかどうかを際立たせることができる。

研究チームは当初、トランジスタ発振器のネットワークなど単純な理論システムでこの定数を追加することでその効果を分析していた。今回さらに、このアプローチを脳波信号のデータに適用。実験では、被験者の安静時と、左手または右手を動かす、あるいはその動きを想像するように指示を受けた際の脳波をそれぞれ計測し、提案する新手法の検証を行った(図参照)。その結果、複数の信号間の同期を検出し、特定の行動を識別(規定)している情報の精度を高めることに成功した。

一定のパラメータcを合計することにより、急速に複雑になる関係に従って位相αを角度θにゆがませる(上)。この操作を脳波信号に適用すると、被験者の安静時または手を動かした時、あるいは左手または右手を動かすことを想像した時に、同期の違いがより明確に現れる(下)。
図.
一定のパラメータcを合計することにより、急速に複雑になる関係に従って位相αを角度θにゆがませる(上)。この操作を脳波信号に適用すると、被験者の安静時または手を動かした時、あるいは左手または右手を動かすことを想像した時に、同期の違いがより明確に現れる(下)。

今後の展開

開発した新手法は、ブレイン・マシン・インタフェースに用いられる従来の解析手法と比べ、その精度(特定の行動を電気信号で識別)は大幅な改善が見られた。今後は、理論的な解析や実験を繰り返すことで、複雑なロボットを思い通りに操作できる新たなインタフェースの開発を推進していく。

用語説明

[用語1] 定数パラメータ : 複素平面のなかで、信号をゆがませるための定数。

[用語2] 同期 : 二つ以上の動きや信号のタイミングが合うこと。

[用語3] ブレイン・マシン・インタフェース : 脳波など人間の脳が発信する信号を使って、ロボットのような機械の動作を制御すること。

[用語4] 解析信号 : 複素信号の特別な場合で、実信号の正の周波数成分だけを取りだした信号。ヒルベルト変換を用いて生成する。

論文情報

掲載誌 :
Chaos: An Interdisciplinary Journal of Nonlinear Science
論文タイトル :
Warped phase coherence: An empirical synchronization measure combining phase and amplitude information
著者 :
Ludovico Minati, Natsue Yoshimura, Mattia Frasca, Stanisław Dróżdż, Yasuharu Koike
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所

教授 小池康晴

E-mail : koike@pi.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5054 / Fax : 045-924-5066

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


東工大弓道部が東京都学生弓道連盟主催の新人戦・女子部新人戦で3位入賞

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東京都学生弓道連盟が主催する2019年度新人戦、および女子部新人戦において、東工大弓道部がそれぞれ3位に入賞しました。また、女子部新人戦では東工大弓道部の2名が新人賞を獲得しました。

新人戦出場メンバー

新人戦出場メンバー

女子部新人戦出場メンバー

女子部新人戦出場メンバー

2019年度新人戦

2019年度新人戦が3月2日から17日にかけて、東京都学生弓道連盟に加盟する大学の弓道場にて行われました。新人戦は東京都学生弓道連盟の加盟大学の新人が対象であり、男女ともに参加する大会です。

1立(試合)6名の選手が、各自20射、計120射の弓を引き、合計的中数を競うトーナメント形式で行われます。

30大学33チームが参加した本大会において、東工大弓道部は順調に勝ち進み、3月17日に行われた第3位決定戦で東京大学と対戦しました。東工大76―東京大学72で勝利し、3位を獲得しました。

メンバー

大本蒼さん(物質理工学院 応用化学系 学士課程2年)

小林怜央さん(環境・社会理工学院 建築学系 学士課程2年)

坂主大樹さん(物質理工学院 応用化学系 学士課程2年)

洪本健太さん(理学院 化学系 学士課程2年)

福原拓未さん(環境・社会理工学院 建築学系 学士課程2年)

松田和大さん(環境・社会理工学院 融合理工学系 学士課程2年)

磯部凌さん(第5類 学士課程1年)

上柳太一さん(第4類 学士課程1年)

岡本崚真さん(第6類 学士課程1年)

奥村昂也さん(第3類 学士課程1年)

関根諒さん(第4類 学士課程1年)

平沢将大さん(第7類 学士課程1年)

チーム代表のコメント

磯部凌さん

どうせ、新人戦は一週間くらいで終わるんだろう。はじめは正直そう思っていました。団体の合計的中は半分である羽分けにも届かず、とても勝てる状態ではありませんでした。しかし春合宿で主将、副将をはじめとする多くの方々にご指導をいただいたおかげで、的中は羽分け以上で安定するようになりました。中には急成長を遂げた選手もいて、良い流れで新人戦を迎えられました。苦しい試合もありましたが、結果的に最終週まで計5試合経験でき、3位入賞したことは今後の糧になると思います。

2年生は全員希望する系に進むなど、学業との両立も十分可能です。忙しいですが、充実した大学生活が送れているのは弓道部に入ったからだと確信しています。

2019年度女子部新人戦

2019年度女子部新人戦が、3月3日から17日にかけて、東京都学生弓道連盟に加盟する大学の弓道場にて行われました。女子部新人戦は、新人戦同様、加盟大学の新人が対象であり、女子が参加する大会です。

1立(試合)4名の選手が、各自20射、計80射の弓を引き、合計的中数を競うトーナメント形式で行われます。

本大会には27大学から31チームが集い、東工大弓道部は準決勝まで進みました。3月17日に行われた第3位決定戦では学習院大学と対戦し、東工大45-学習院大学25で勝利し、3位入賞を果たしました。また、20射中16中以上を中てた選手に与えられる新人賞を、伊藤恵さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 学士課程2年)、長山琴音さん(第7類 学士課程1年)が獲得しました。

メンバー

伊藤恵さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 学士課程2年)

巽由奈さん(物質理工学院 応用化学系 学士課程2年)

奈良永理子さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程2年)

兼下実里さん(第7類 学士課程1年)

長山琴音さん(第7類 学士課程1年)

新人賞を受賞した学生のコメント

伊藤恵さん

この度、3月の初めから3週間にわたって行われた新人戦において、新人賞を取らせていただきました。また、弓道部全体としても男女共に団体3位入賞という結果となり、大変嬉しく思います。私は昨年に引き続き2回目の新人戦だったのですが、1回戦で敗退し呆気なく終わってしまった昨年の新人戦に比べ、最後まで試合の続いた今回の新人戦はとても充実したもので、個人的にはこの期間にとても成長できたと実感しています。

新人戦は終わりましたが、今後も沢山の試合、大会があります。新人戦期間は春休み中だったため、試合前の調整にしっかり時間を取れましたが、授業が始まるとそうはいかないので、しっかりと学業との両立も目指して、これからも練習に励んでいきたいです。

長山琴音さん

新人戦直前まで的中が上がらなかったのですが、春合宿最終日に射形を確立でき、それを新人戦中もキープできたので本当に良かったです。連日の試合や公式戦の雰囲気に慣れることができ、良い経験になりました。新人賞獲得という個人的な目標は達成できましたが、まだまだ射形は完全ではないので今後も練習に励んでいきます。沢山のOB・OGの方々が応援に来て下さり大変励みになりました。

勉強面に関しては、現在は週3日の練習の他は好きな時間に自主練習ができるので、大学の勉強との両立も出来ています。この部活を通して頼もしい仲間もでき、充実した大学生活につながっていると感じています。

東工大弓道部とは

東京工業大学弓道部は日置流印西派として、礒部孝先生のもと、現在は男子18名、女子7名で2、3年目の学生を中心として活動しています。大岡山キャンパスの一角にある弓道場で週に3回練習しています。部員の3分の2以上が大学から弓道を始めており、誰にでも試合に出るチャンスがあります。また、週3回の練習以外では好きな時間に練習ができるので勉強との両立も可能です。現在、男女ともにⅡ部昇格を目指しています。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

本学学生がIoT活用のベビーカー開発コンテストで最優秀賞を受賞

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東京工業大学の学士課程学生5名によって構成されるチームが3月20日、神田明神ホール(東京都)で開催されたピジョン株式会社主催「ピジョン 学生アイデアコンテスト2019 『ベビーカソン』(以下ベビーカソン)」において、最優秀賞を受賞しました。

最優秀賞を受賞した東工大チーム(左から井澤和也さん、小野沙桃実さん、藤田創さん、大西祐輝さん)

最優秀賞を受賞した東工大チーム(左から井澤和也さん、小野沙桃実さん、藤田創さん、大西祐輝さん)

ピジョン 学生アイデアコンテスト2019 「ベビーカソン」の概要

本大会を主催した育児用品メーカー、ピジョン株式会社は、IoT(もののインターネット)などの最先端技術のいち早い導入によって、より子育てしやすい環境の実現に向け取り組みを進めています。その一環として今回「赤ちゃんやママとそのご家族の毎日をもっと快適に楽しくするIoTを活用した未来のベビーカー」について大学生を対象に提案を募集し、最終的に、東京工業大学、お茶の水女子大学、湘南工科大学、千葉工業大学、日本大学の5大学による提案の発表と審査が行われました。

ベビーカソンはベビーカーとハッカソンを組み合わせた造語です。

オリエンテーションから発表会まで、学生の皆さんから未来のベビーカーのアイデアが生み出されるまでの1ヶ月間を追ったムービー「ピジョン 学生アイデアコンテスト2019『BABYCATHON 』」を、ピジョン株式会社オフィシャルYouTube(ユーチューブ)チャンネルにて公開中です。

提案したサービス「Osampo Go」について

今回提案したOsampo Go(お散歩ゴー)は、ベビーカーシェアリングと、ベビーカーでの移動を快適にするマップが組み合わさったサービスとなっています。

ベビーカーシェアリングは、「好きな時に、好きな場所で、好きな車種を借りる・返せる」ことを強みとしています。シェアリングが普及していくことにより、混雑する場所でのベビーカー移動の回避や、遠出した先での一時的なベビーカー移動が可能になります。

またこのシェアリングサービスで使用されるベビーカーには、ベビーカーでの移動を快適にする「おさんぽマップ」が紐づけられています。このマップでは、各移動ルートの「ベビーカーでの通行のしやすさ」や、子連れに適したスポットが提示される工夫が施されています。

また専用モジュール(温湿度センサーと慣性計測装置)をベビーカーに搭載することにより、赤ちゃんにとってのベビーカーの乗り心地、及びパパ・ママにとっての使い心地をリアルタイムで可視化・記録することが可能となり、路面の凸凹についてのデータをマップに反映することにも寄与します。

ベビーカーシェアリングと「おさんぽマップ」機能の両者を組み合わせることにより、それぞれのサービスのクオリティの向上、そしてOsampo Go全体としての収益化を見込んでいます。

Osampo Goでは、以下のステップにより、サービス展開を目指しています。

Osampo Goを提案する東工大チーム

Osampo Goを提案する東工大チーム

Osampo Go では、以下のステップにより、サービス展開を目指しています。

1.
シェアリングサービスの展開(副次的効果:自社製品の認知度向上)
2.
利用データの集積、公開情報と組み合わせた情報処理
3.
赤ちゃんにとっての乗り心地データ、及びパパ・ママにとっての使い心地データの生成
4.
「おさんぽマップ」への乗り心地及び使い心地データの反映
5.
シェアリングサービスの更なる利用率向上

提案したサービスの概要図

提案したサービスの概要図

参加学生とそれぞれの役割

藤田創さん (生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)

担当 : 全体統括、ビジネスモデル策定、渉外

井澤和也さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程2年)

担当 : UI(ユーザーインターフェース)開発

大西祐輝さん(工学院 システム制御系 学士課程3年)

担当 : モジュール開発

小野沙桃実さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)

担当 : マーケティング調査、コンセプト策定

福田萌斐さん(情報理工学院 数理・計算科学系 学士課程3年)

担当 : コンセプト策定

リーダーを務めた藤田さんのコメント

私は昨年の11月に、米スタンフォード大学で開催されたhealth++2018(健康医療分野のハッカソン)に参加し、総合2位を受賞しました。その際、同大学で提唱されている、健康医療分野における新規事業創出のメソッド(通称「BioDesign(バイオデザイン)」)について学ぶ機会がありました。

今回のハッカソンでは、そうした経験を少なからずは活かせたのではないかと自負していますが、それと同時に「もっと出来たはずだ」という悔しさも感じています。往々にして、対等な関係をチームメンバーに求めていましたが、時としてリーダーシップを発揮する場面が必要だったのかもしれません。

昨今、ベビー用品も含め、ヘルスケアの分野では、様々な新規事業が立案されています。中には優れた製品・サービスも存在しますが、その多くについては、顧客のニーズの同定が不十分であるという印象を受けています。

未来のベビーカーを構想するにあたっては、究極の目標として、赤ちゃんのニーズを明確化しないといけません。しかし、赤ちゃんがどう感じているかを可視化することは容易なことではなく、我々は今もなお、そのことについて試行錯誤を続けています。

引き続き関係各所の皆様と議論を続けていき、優れた製品・サービスと、それを持続可能にするビジネスモデルを確立することに注力していきたいです。加えて、現在所属する生命理工学院 藤枝俊宣研究室にて取り組んでいるナノバイオエレクトロニクスの技術を活かして、乳幼児の生体情報を集積することができるような、侵襲性の低いセンシングデバイスの開発に取り組んで参りたいと考えています。

ゲスト審査員のタレント藤本美貴さん(左端)から表彰される東工大チーム(左二人目から井澤さん、大西さん、小野さん、藤田さん)
ゲスト審査員のタレント藤本さん(左端)から表彰される
東工大チーム(左二人目から井澤さん、大西さん、小野さん、藤田さん)

表彰される東工大チーム(前列)
表彰される東工大チーム(前列)

東京工業大学附属科学技術高等学校における経理に係る不適切な事務処理について

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東京工業大学附属科学技術高等学校(以下「附属高校」)が、採択されたスーパー サイエンス ハイスクール支援事業(以下「SSH支援事業」)において、2016(平成28)年度及び2017(平成29)年度の経理に係る不適切な事務処理を行ったことが確認されました。

不適切な事務処理に関する概要

2016(平成28)年度及び2017(平成29)年度のSSH支援事業において、附属高校の経理担当者が、SSH活動としての授業での英文アブストラクト作成指導に係る事業者への支払いに必要な経費(2016(平成28)年度1,053,500円、2017(平成29)年度1,726,780円)のうち、SSH支援事業に係る謝金基準で支払うことができない経費(一人当たり1日3時間を超える部分の謝金等)について、役務契約し支払う方法をとらず講師謝金に係る日数や時間を調整することにより支払われるようにする不適切な事務処理を行いました。

当該経費はすべてSSH支援事業を行うために使用したものの、事務処理が不適切であり、本学は、当該事実について、2018(平成30)年12月21日に国立研究開発法人 科学技術振興機構(以下「JST」)に報告し、その後、本学として学長裁定による調査委員会を設置いたしました。本学調査委員会による調査結果については、2019(平成31)年3月28日にJSTに報告しております。

今後、JSTの調査に全面的に協力するとともに、本学として必要な対応を進めてまいります。

学長コメント

この度、附属高校が経理に係る不適切な事務処理を行ったことについて、JST及び関係の皆様にご迷惑・ご心配をおかけしたことに対してお詫び申し上げます。

今後このようなことが生じないよう、再発防止に努めてまいります。

国立大学法人 東京工業大学
学長 益 一哉

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門
電話: 03-5734-2975
Email: media@jim.titech.ac.jp

海外拠点「東工大ANNEX」第2号をドイツ・アーヘンに開設 欧州に初めて設置

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東京工業大学は、海外の大学、研究機関、企業等と連携して行う国際的な教育活動、広報活動及び研究活動を戦略的に推進、実施し、本学の教育研究の発展に寄与することを目的とした、新たな海外拠点「Tokyo Tech ANNEX」(以下、アネックス)の設置を進めています。

本学初の欧州拠点として、ドイツのアーヘン工科大学との連携のもと、「Tokyo Tech ANNEX Aachen」(以下、アネックス アーヘン)を同大学内に開設し、3月22日に開所式を行いました。タイ・バンコク(2018年3月開設)に続き2つ目のアネックスです。

アネックスアーヘンの開所式

アネックスアーヘンの開所式

握手する益学長とルーディガーアーヘン工科大学長

握手する益学長とルーディガーアーヘン工科大学長

アーヘン工科大学は、2007年以来ドイツ内でエクセレント大学の認定を受けている欧州を代表する理工系総合大学です。東工大は、2007年にアーヘン工科大学と全学協定を締結し、研究者交流や学生交流の他、共同ワークショップや国際産学連携共同シンポジウムを開催してきました。今回のアネックス開設により、両大学連携関係の一層の強化が期待されます。

開所式には、益一哉本学学長とルーディガーアーヘン工科大学学長ら両大学幹部や、アーヘン工科大学の地元であるノルトライン・ヴェストファーレン州局長、アーヘン市長、在デュッセルドルフ日本国総領事をはじめとする多数の関係者が参加し、アネックス アーヘンの開所を祝うとともにこれからの両大学の教育・研究活動における連携強化に対する期待が多く述べられました。

また、両大学の協力関係の具体的なかたちとして、アーヘン工科大学が企業と共同開発したカーボン素材の弦楽器による両大学学生合同の弦楽四重奏演奏があり、式に花を添えました。

益学長のあいさつ
益学長のあいさつ

両大学学生による弦楽四重奏演奏
両大学学生による弦楽四重奏演奏

開所式に先立ち、「インテリジェントな機能を持つ物質とその表面」をテーマとするジョイントワークショップが開催され、両大学から当該分野を代表する研究者が発表を行い、熱心な議論が展開されました。同分野でのこれからの研究交流が期待されます。

今後、アネックス アーヘンにおいては、学生交流プログラムを通じて学生の相互交流を深めるとともに、これまで培ったネットワークを活用し、東工大の教員・研究者が現地の企業や大学・研究機関とのトライアングル連携を構築し、リサーチ・アドミニストレーターと協力しながらニーズとシーズのマッチングを図ることで、共同研究を推進していきます。

また、最先端分野を議論するためのジョイントワークショップを毎年開催し研究者交流を深め、ドイツだけでなくアーヘンの立地を生かして近隣の諸国(ベルギー、オランダ、フランス等)との連携も視野に入れた活動を行っていく予定です。

お問い合わせ先

国際部 国際事業課 国際事業グループ

E-mail : annex.aachen@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3827

柴山文部科学大臣が東京工業大学を視察

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柴山昌彦文部科学大臣が1月24日、東京工業大学大岡山キャンパスを視察しました。

益学長(左・中央)ら東工大役員と意見交換する柴山文科大臣(右・中央)

益学長(左・中央)ら東工大役員と意見交換する柴山文科大臣(右・中央)

まず、益一哉学長が、学長のリーダーシップによるガバナンス改革、学生の主体的な学びを後押しする世界水準の教育システムへの転換を目指した教育改革、産業界・海外機関との連携による融合研究分野の創出など最先端の研究を進める研究改革の状況について説明しました。柴山大臣は、部局長の役割などガバナンス体制や新しいカリキュラムについて質問し、意見交換がありました。

続いて、地球生命研究所(ELSI)の視察が行われ、廣瀬敬所長が、米国プリンストン高等研究所やハーバード大学など海外の研究機関との研究協力を進めるとともに、「地球と生命の起源」に挑む研究者が実際に集い異分野融合プログラムを実施する世界に類を見ない研究所の概要について説明しました。大臣は、国際色豊かなオープンスペース(AGORA)などの施設を見学しました。

また、教育改革の一つの柱となっている学士から博士課程にいたる斬新なリベラルアーツ教育も視察しました。上田紀行リベラルアーツ研究教育院長が、学士課程1年の「東工大立志プロジェクト」、同3年の「教養卒論」、修士課程1年の「リーダーシップ道場」、博士後期課程の「教養先端科目」などから構成されるダイナミックなコア学修に触れながら、21世紀社会における「志」を育むことを目標に掲げ、「社会性」「人間性」「創造性」を兼ね備えることでより良き未来社会を築く人材を育成するカリキュラムについて説明しました。

その後、アクティブラーニング対応の新設講義室で大臣もカーペットの上で車座になって座り、学士課程1~3年とピアサポートを行う修士課程2年の学生6名が、「東工大立志プロジェクト」「教養卒論」などコア学修の活動と成果について発表しました。理工系大学においてリベラルアーツ教育を学ぶ意義や学生の意識の変化について大臣と活発な意見交換を行いました。

柴山大臣は、翌1月25日の大臣会見で次のように述べました。

「昨日、東京工業大学及び東京シューレ葛飾中学校を視察してまいりました。東京工業大学では、地球生命研究所において、地球と生命の起源に挑む外国人を含めた優秀な研究者が実際に集い、異分野融合プログラムを実施する世界初の研究所の概要の説明を受けました。また、「理工系専門知識」という縦糸と、「リベラルアーツ研究教育院」が提供する「教養」という横糸で、「大きな志を育む」教育の説明を受けるとともに、非常に意欲の高い学生と、実際意義ある懇談をすることができました」

地球生命研究所のAGORAを見学する柴山文科大臣
地球生命研究所のAGORAを見学する柴山文科大臣

車座になって学生と懇談する柴山文科大臣
車座になって学生と懇談する柴山文科大臣

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お問い合わせ先

総務部総務課

E-mail : som.som@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2950

平成30年度 東京工業大学 学位記授与式挙行 学士課程1,062名、大学院課程1,780名が卒業・修了

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平成30年度学位記授与式が3月26日、大岡山キャンパス体育館で行われました。

平成30年度 東京工業大学 学位記授与式挙行

学長と来賓の方々、役員、部局長等が壇上に着席し、卒業生・修了生に加えて教授陣や卒業生・修了生のご家族も多数、出席しました。学士課程は11時から、大学院課程は14時から行いました。

学長式辞でメッセージを贈る益一哉学長
学長式辞でメッセージを贈る益一哉学長

祝辞を述べる石田義雄 蔵前工業会理事長
祝辞を述べる石田義雄 蔵前工業会理事長

益一哉学長は学士課程では日本語で、大学院課程では英語で学長式辞を述べ、学士課程の卒業生と大学院課程の修了生、ご家族へのお祝いの言葉とともに、門出のメッセージを贈りました。

来賓を代表し、本学同窓会である一般社団法人 蔵前工業会理事長、東日本旅客鉄道株式会社監査役の石田義雄氏(1967年理工学部機械工学科卒)が祝辞を述べました。

学士課程では各学科・系の代表者に益学長から学位記が授与されました。また、学士課程学生の勉強意欲の向上を図ることを目的として学業成績が優秀な学生(各学科1名)を顕彰する平成30年度東京工業大学優秀学生賞の表彰も行われました。

大学院課程では修士課程・専門職学位課程の各コース・研究科代表者に、博士後期課程は修了者全員に、益学長から学位記が授与されました。

謝辞を述べる学士課程卒業生総代、梶谷伊織さん(理学部地球惑星科学科)
謝辞を述べる学士課程卒業生総代、
梶谷伊織さん(理学部地球惑星科学科)

謝辞を述べる大学院課程修了生総代、吉竹悠宇志さん(生命理工学院生命理工学系)
謝辞を述べる大学院課程修了生総代、
吉竹悠宇志さん(生命理工学院生命理工学系)

2018年度は、学士課程では1,062名(うち留学生40名)が卒業し、大学院課程では修士課程1,568名(うち留学生134名)、専門職学位課程27名(うち留学生1名)、博士後期課程185名(うち留学生46名)の計1,780名が修了し、総計2,842名(うち留学生221名)の卒業生・修了生を送りました。

式後は、ご家族、友人と一緒に桜や本館を背景に記念撮影する姿も多くみられ、喜びを分かち合う姿が印象的でした。また、卒業生を胴上げしたり、角帽を一斉に青空に放り上げるなど、思い思いに旅立ちを祝いました。

卒業生、修了生のみなさんのご健康とご活躍を心よりお祈りします。

記念写真

記念写真

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広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

ベンチャー企業との協働研究拠点「aiwell AIプロテオミクス協働研究拠点」を設置

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東京工業大学とaiwell(アイウェル)株式会社は、4月5日に大岡山キャンパス内に「aiwell AIプロテオミクス協働研究拠点」を設置しました。血中のタンパク質の状態から「健康を見える化」し、けが等の超早期予測を目指す研究を進めていきます。

背景・概要

生命理工学院 生命理工学系の林宣宏准教授の研究室とaiwell株式会社は、2018年10月から「AIプロテオミクス」の実用化に向け共同研究を進めてきました。

AIプロテオミクスは、血中タンパク質の二次元電気泳動画像をAI(人工知能)が処理することにより、病気やけがの予兆を早期に見いだすことで、様々な病気やけがになる一歩手前の状態を発見する画期的な研究として注目されています。敗血症においては、98.2%の精度で的確な診断を可能にしました。

aiwell株式会社は、「世界中から未病を無くし、人をずっと健康にする」をミッションに掲げるベンチャー企業です。病気の自覚症状がない場合や、病気が重篤化する前にAIによる診断・治療方針決定支援や創薬支援、医療過疎地での遠隔診療支援が可能になるサービスの実現を目指しています。

目的・今後の展開

本拠点においては、技術をより汎用化して各産業に展開する事業の一環として、人だけでなく家畜にも適用可能なAIプロテオミクスの実用化の研究を進めます。主に、東工大はAIプロテオミクスの更なる高性能化とその実用化のための技術開発全般を、aiwell株式会社はAIプロテオミクスの検体収集、実用化に向けた微量採血運用フローや検査技法の確立を担います。

また、最新技術を活用した事業を様々な分野に多角的に発展させるべく、本研究に参画する企業を募集する予定です。

拠点長(林准教授)のコメント

林准教授

これまでは研究や一部の最先端医療でしか使うことが出来なかった、生体を構成する遺伝子産物(タンパク質)の網羅的解析(プロテオミクス)の汎用化技術を開発し、それが近年のAIの劇的な性能アップと結びついてAIプロテオミクスが実現しました。

仮説を立ててそれを実証していくというこれまでの研究開発とは異なり、まずデータを取得し、そこから知識を発掘するというデータ駆動型の研究開発が始まっていますが、そのためには、“とにかくやってみる” ことが何よりも大切です。本拠点を足がかりに、多方面の産業でAIプロテオミクスによる産業革命が勃興することを期待します。

aiwell AIプロテオミクス協働研究拠点の概要

名称
国立大学法人東京工業大学オープンイノベーション機構aiwell AIプロテオミクス協働研究拠点
場所
東京工業大学大岡山キャンパス 緑が丘6号館
研究期間
2019年4月5日~2022年4月4日
拠点長
林宣宏(東京工業大学 生命理工学院 准教授)

東工大協働研究拠点制度について

東工大と企業の組織対組織の大型の連携を実現する新しい制度で、東工大が学内に拠点専用のまとまったスペースを確保し、共同研究を実行します。また、拠点内に研究企画室を設けて新たな研究プロジェクトを企画し、連携の枠を拡大することを目指します。

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取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


2018年度リーディング大学院修了セレモニー開催報告

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3月26日、大岡山キャンパスにおいて、グローバルリーダー教育院(現・グローバルリーダー教育課程)、環境エネルギー協創教育課程、情報生命博士教育課程、グローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育課程の共催で、リーディング大学院修了セレモニーが行われました。

リーディング大学院教育課程

東京工業大学は、産学官にわたる社会の要請に応えながら、国際社会を牽引できる卓越した能力を養成する大学院教育課程を実施する組織として、2011年度から文部科学省博士課程教育リーディングプログラムに採択された4つの教育院を設置してきました。

理工系総合大学としての強みを生かしつつ、オールラウンドリーダーを養成するグローバルリーダー教育院、複合領域リーダーを養成する環境エネルギー協創教育院、情報生命博士教育院、オンリーワンリーダーを養成するグローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育院を設置し、2018年度末までに各教育院に対する文部科学省の補助期間が終了した後も、「教育課程」として継続しています。

修了セレモニー

お祝いのメッセージを贈る益学長
お祝いのメッセージを贈る益学長

同日開催された大学院学位記授与式において、在籍するコース・専攻で修得した高い専門性に加え、産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導く俯瞰力や独創力などを身につけた博士として、30名が各教育課程を修了したことが付記された学位記を授与されました。

リーディング大学院修了セレモニーは、その修了生30名を対象として大学院学位記授与式終了後に引き続き行われました。益一哉学長、佐藤勲総括理事・副学長及び水本哲弥理事・副学長(教育担当)からお祝いの言葉が述べられた後、教育院長(当時)及びプログラム主査から修了生の紹介と祝辞があり、最後に各教育課程の修了生代表が挨拶しました。

修了生たちは、これまでプログラムを支えてきた教員、メンター、事務担当者など多数の参加者に見守られる中、巣立ちの時を迎えました。卓越した専門性に加え、広範な知識と豊かな教養、国際性やリーダーシップ等を備えた博士人材として、今後はそれぞれの道で大きく羽ばたいていきます。

世界の未来を牽引するリーダー候補となった皆さんの今後のご活躍を期待しています。

集合写真

集合写真

お問い合わせ先

リーディング大学院推進グループ

E-mail : lead.sui@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3117

BSフジ「ガリレオX」に菅野了次教授が出演

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本学 科学技術創成研究院 全固体電池研究ユニットの菅野了次教授がBSフジ「ガリレオX」に出演します。

「ガリレオX」は、科学や科学技術に関わる新しい動向や注目の研究を、「深く・わかりやすく・面白く」伝える、30分の科学ドキュメンタリー。今回は、電池開発に大きな成果をあげる菅野教授の話を柱に、生活に欠かせない電池の開発の歴史から最新の研究開発の現場までを探ります。

菅野了次教授のコメント

今般、先端の科学技術を分かりやすく紹介する番組の取材を受け、超イオン伝導体をキーテクノロジーとする全固体電池の研究について解説しました。本学で創造された最先端の材料研究が社会に役立つことを伝える機会をいただけて幸いです。

  • 菅野了次教授
  • 超イオン伝導体をキーテクノロジーとする全固体電池の研究について
  • 番組名
    BSフジ「ガリレオX」
  • タイトル
    電池研究最前線 次世代電池が起こすイノベーション
  • 放送予定日
    2019年4月28日(日)13:35 - 14:05 ※通常の放送時間と異なります
  • 再放送予定日
    2019年5月5日(日)11:30 - 12:00

お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

MIRAI Sustainability Workshop(サステイナビリティ ワークショップ)」を開催

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3月28、29日にかけて、東工大を含む日本8大学とスウェーデン7大学をメンバーとする大学間連携プロジェクトMIRAI(ミライ)が主催する「MIRAI Sustainability Workshop(サステイナビリティ ワークショップ)」が東工大 大岡山キャンパスで開催され、日本から22名(うち東工大から3名)、スウェーデンから10名の研究者が参加しました。

MIRAI Sustainability Workshop(サステイナビリティ ワークショップ)参加者の集合写真

MIRAI Sustainability Workshop(サステイナビリティ ワークショップ)参加者の集合写真

MIRAIは、日本とスウェーデンの若手研究者の育成・交流を目的として、2016年に始動した3年間の2国間プロジェクトです。発足以来、サステイナビリティ、材料科学、エイジングの3つの分野において研究者の交流や共同研究に向けたマッチングのための研究ワークシップおよびセミナーを毎年実施しています。

サステイナビリティ分野では、過去3回にわたりワークショップ、セミナーを開催しました。それらを通じて、両国の研究者によって、既にいくつかの共同研究プロジェクトがスタートし、日本またはスウェーデンの学術振興機関の助成対象として採択されています。

第4回目の開催となる今回のワークショップは、「持続可能な開発目標(以下「SDGs」)達成のための道筋を示す」をテーマに、(1)エネルギー問題(2)水資源問題(3)その他、を3つのサブトピックスとし、自らの研究および研究連携を通じたSDGs達成に向けた貢献の可能性について議論しました。

MIRAIサステイナビリティ分科会委員である関口秀俊副学長(国際連携担当)の進行により、2日間のワークショップが始まりました。初日の午前中は、本学の水本哲弥理事・副学長(教育担当)による歓迎の辞に続き、本学 環境・社会理工学院の中井検裕学院長、リンシェーピン大学のリネア・ビョーノラ教授、広島大学の山本陽介教授(同大理事・副学長)による基調講演が行われました。

同日午後は、「(1)エネルギー問題と(3)その他」、「(2)水資源問題」の2つのグループに分かれ、それぞれ研究発表を行いました。その後、2つのグループはそれぞれ、本学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系の藤井学特任准教授、物質理工学院 応用化学系の長谷川馨助教の案内により、研究室、大岡山北3号館(環境エネルギーイノベーション棟)を見学しました。

グループ・セッションの様子
グループ・セッションの様子

大岡山北3号館(環境エネルギーイノベーション棟)を案内する長谷川助教
大岡山北3号館(環境エネルギーイノベーション棟)を案内する
長谷川助教

全体会で発表する藤井特任准教授
全体会で発表する藤井特任准教授

ワークショップ2日目は、最初に、ストックホルム大学のデストーニ・ギア教授から、SDGsに向けた研究に関する事例紹介と議論の進め方について説明がありました。続いて、前日に引き続き2つのグループに分かれ、それぞれの研究とSDGsの関連付けなどについて、議論を行いました。その後、全参加者が再び一堂に会し、各グループでの議論の内容を報告しました。日常の研究活動では、SDGsを意識することは少なかった研究者達も、このワークショップを通じて、SDGsと自身の研究との関連付けについて考える機会を得ることが出来ました。デストーニ教授の挨拶をもって、ワークショップが閉会となりました。

午後は、希望者により、環境共生、健康長寿、新産業創造の3つの取り組みの実現が可能な都市づくりを進める「柏の葉スマートシティ(千葉県 柏市)」へ見学ツアーを行いました。ツアーには、日本、スウェーデン合わせて14名の研究者達が参加し、2日間の日程を終えました。

柏の葉スマートシティへの見学

柏の葉スマートシティへの見学

次回のサステイナビリティの会合は、今年11月にスウェーデンにて、3年間のMIRAIプロジェクトの活動の総括として開催される予定です。

お問い合わせ先

国際部 国際連携課

E-mail : kokuren.kik.cho@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3016

性ホルモンの男女を見分ける分子カプセル 男性ステロイドホルモンの超高感度センシング法を開発

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要点

  • 水中で分子カプセルが種々のステロイド性ホルモンを強く捕捉
  • 男性と女性ホルモンの混合物から男性ホルモンを選択的に捕捉
  • 数ナノグラム量の男性ホルモンの高感度蛍光センシングに成功

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の山科雅裕博士研究員(当時、現・理学院 化学系 助教)と吉沢道人准教授らは、水中で分子カプセルがステロイド性ホルモンの混合物の中から、男性ホルモンを選択的に捕捉できることを発見した。また、分子カプセルと蛍光色素を組み合わせることで、極微量の男性ホルモンの蛍光センシングにも成功した。本成果は人工のカプセル分子による初の超高感度な男性ホルモンの検出法であり、性ホルモンの生理活性機構の解明やドーピングの新検出剤の開発などが期待される。

酵素のタンパク質ポケットによる生体分子の選択的な捕捉は、続く生理活性や酵素反応を決定付ける重要な第1ステップである。生体のステロイド性ホルモンは、わずかな分子構造の差で異なる生理活性を誘導し、その役割によって男性と女性ホルモンに大別される。生体ポケットはこれらの性ホルモンを厳密に識別できるが、従来の合成レセプターでは識別できなかった。

本研究では、同グループが作製した分子カプセルが、種々のステロイド性ホルモンを水中で効率良く取り込むことを見出した。注目すべきは、そのカプセルが類似の構造を持つ男性と女性ホルモンの混合物から、男性ホルモンのみを識別して捕捉できたことである。そのメカニズムとして、剛直なカプセル骨格が内包したホルモンの形状に誘起されて構造変化し、多点の分子間相互作用が働くことが判明した。さらに、あらかじめ蛍光色素を捕捉させた分子カプセルを用いることで、交換反応によりナノグラム量の男性ホルモンの蛍光検出にも成功した。

上記の研究成果は、米国科学振興協会(AAAS)の科学雑誌「Science Advances」に、平成31年4月19日(米国東海岸時間)付けで掲載された。

研究の背景とねらい

酵素はタンパク質からなるナノポケットを利用し、狙いとする生体分子を選択的に捕捉することで、続く生理活性や酵素反応を厳密に制御している。この生体系にとって重要な第一段階を人工的に模倣することができれば、特定の生体分子の超高感度な検出法の開発が期待できる。様々な生体分子の中でステロイド性ホルモンは、その構造および機能的な特徴によりアンドロゲン(=男性ホルモン)、プロゲストーゲン(=女性ホルモン)とエストロゲン(=女性ホルモン)に分類される(図1a)。これらの性ホルモンの分子構造は類似しており、主な違いは4つの環状骨格のAとD環上の官能基のみである。生体のタンパク質ポケットは、その微細な構造の違いを厳密に識別できる。しかしながら、人工のかご型やカプセル型分子の内部空間では、比較的大きな性ホルモンを捕捉すること自体が困難であり、また、男女の識別は達成されていなかった。

(a)ステロイド性ホルモンの母骨格と代表的な性ホルモン(b)分子カプセルの構造と(c)その空間充填モデル(Rは省略)

図1. (a)ステロイド性ホルモンの母骨格と代表的な性ホルモン(b)分子カプセルの構造と(c)その空間充填モデル(Rは省略)

今回、アンドロゲンレセプター[参考文献1] の約10分の1の大きさの分子カプセル(同グループが開発[参考文献2] ;図1b)が、種々のステロイド性ホルモンを水中で強く捕捉することを見出した。また、詳細な競争実験より、分子カプセルが男性と女性ホルモンの混合物から、男性ホルモン(アンドロゲン)を選択的に捕捉できることを明らかにした。捕捉後の分子カプセルの結晶構造解析から、識別のメカニズムは、カプセル骨格がホルモン構造に誘起されて変形し、分子間相互作用が多点で働くことに起因すると判明した。さらに、蛍光色素を予め捕捉させた分子カプセルを利用することで、水中に溶解する数ナノグラム[用語1]量の男性ホルモンの蛍光検出に成功した。

研究内容

男性ステロイドホルモンの選択的捕捉

まず、分子カプセル(図1b)のステロイド性ホルモンに対する捕捉能を調査した。代表的なアンドロゲンのテストステロン(1当量)を分子カプセルの水溶液に添加し60 ℃で10分間加熱撹拌すると、水に難溶なテストステロンは疎水効果[用語2]により定量的にカプセル内に捕捉された。捕捉の事実は1H NMR(プロトン核磁気共鳴装置)およびESI-TOF MS(飛行時間型 質量分析装置)分析で確認した。同様の方法で、代表的なプロゲストーゲンのプロゲステロンとエストロゲンのエストラジオール(図1a)もそれぞれ効率良く分子カプセルに捕捉された。

続いて、競争実験により捕捉の選択性を評価した。分子カプセルの水溶液に対して、上記のテストステロン、プロゲステロン、エストラジオールを1当量ずつ添加し、加熱撹拌した。その結果、テストステロンが98 %以上の選択性で分子カプセルに捕捉されることが判明した(図2a)。その捕捉の強さは、プロゲステロンの100倍以上であった。興味深いことに、この選択性は1当量のテストステロンと大過剰量のプロゲステロンとエストラジオール(それぞれ100当量)を混合した場合でも維持された。

(a)分子カプセルによる男性/女性ホルモン混合物中からの男性ホルモンの選択的捕捉(b)分子カプセルによる性ホルモン識別の優先順位

図2. (a)分子カプセルによる男性/女性ホルモン混合物中からの男性ホルモンの選択的捕捉(b)分子カプセルによる性ホルモン識別の優先順位

他のステロイド性ホルモンに関して捕捉の競争実験を行った結果、分子カプセルはテストステロンやジヒドロテストステロンやアンドロステロンなどのアンドロゲン(男性ホルモン)に対して、プロゲステロンやヒドロキシプロゲステロンのプロゲストーゲン(女性ホルモン)、エストラジオールやエストリオールのエストロゲン(女性ホルモン)よりも強く捕捉することが判明した(図2b)。すなわち、男性と女性ホルモンを明確に識別できることが明らかになった。また、アンドロゲンの中での捕捉の優先順位では、テストステロン、ジヒドロテストステロン、アンドロステンジオンに続いて、アンドロステロンとなった。得られた捕捉の順序は、性ホルモン自身の水溶性の違いには依存していない。

選択的な捕捉のメカニズム解明

なぜ、分子カプセルが男性ホルモンを選択的に捕捉できるかを解明するため、テストステロンを含む分子カプセルの単結晶を作製し、そのX線結晶構造解析を行った。その結果、約1 nmサイズのカプセル空間に、同サイズのテストステロンが完全に内包されていることが判明した(図3a、b)。このとき、本来の球状カプセル骨格は、板状のテストステロンに合わせて大きく変形していた。この現象は、柔軟なタンパク質ポケットで見られる誘導適合[用語3]モデルと同様であるが、剛直な人工空間での発現は稀である。この立体構造変化で、分子カプセルを構成する芳香環パネルは、テストステロンのAとD環に最近接し、環上の官能基が多点のCH/OH-π相互作用[用語4]および水素結合していた(図3c)。性ホルモンの構造の差異は、両端のA/D環上の官能基に大きく依存することから、D環がより嵩高いプロゲステロンやA環がより剛直なエストラジオールより、テストステロンがカプセル空間に最も適合したと考えられる。

テストステロン内包体のX線結晶構造 (a)分子カプセル:棒モデル、テストステロン:空間充填モデル(b)空間充填モデル(c)2つの角度から見たカプセル空間とテストステロンの配置(カプセル骨格の一部:空間充填モデル)

図3. テストステロン内包体のX線結晶構造 (a)分子カプセル:棒モデル、テストステロン:空間充填モデル(b)空間充填モデル(c)2つの角度から見たカプセル空間とテストステロンの配置(カプセル骨格の一部:空間充填モデル)

極微量の男性ホルモンの蛍光センシング

高感度な男性ホルモンの検出デバイスを志向し、分子カプセル内での分子交換反応を利用した、テストステロンの蛍光センシングに挑戦した。本来、水に不溶なクマリン系色素は分子カプセルに捕捉されると水溶化し、紫外光照射で青緑色に発光する(図4左)[参考文献3]。この水溶液に、約200ナノグラムのテストステロンを含む水溶液を添加すると、テストステロンが優先的に捕捉され、クマリンは放出された。その結果、紫外光照射に対して蛍光が顕著に低下した(図4右)。この蛍光変化は、蛍光光度計でも明確に検出された。男性ホルモンのナノグラムセンシングに成功した。

分子交換反応を用いたテストステロンの高感度な蛍光センシング(λex = 423 nm)

図4. 分子交換反応を用いたテストステロンの高感度な蛍光センシング(λex = 423 nm)

今後の研究展開

本研究では、山科研究員、吉沢准教授らのグループが開発した分子カプセルを利用することで、これまで困難であった男性ステロイドホルモンの高選択的な識別を達成した。その識別能は、誘導適合による多点の分子間相互作用に起因し、また、蛍光色素との交換反応で、ナノグラム量の男性ホルモンの蛍光検出に成功した。これらの成果は、性ホルモンの生理活性機構の解明や複雑な生体関連分子の識別を可能とする合成レセプターの設計指針を与えるだけでなく、スポーツ界で問題となっているステロイドのドーピング検出などの超高感度分析への展開も期待できる。

参考文献

[1] K. Pereira de Jésus-Tran, P.-L. Côté, L. Cantin, J. Blanchet, F. Labrie, R. Breton, Protein Sci. 15, 987–999 (2006).

[2] M. Yamashina, Y. Sei, M. Akita, M. Yoshizawa, Nature Commun. 5, 4662 (2014).

[3] M. Yamashina, M. M. Sartin, Y. Sei, M. Akita, S. Takeuchi, T. Tahara, M. Yoshizawa, J. Am. Chem. Soc. 137, 9266–9269 (2015).

用語説明

[用語1] ナノグラム : 1 gの10億分の1の重さ。

[用語2] 疎水効果 : 油と同様の性質をもつ化合物またはその部位が、水中で互いに集合する(引き合う)現象。

[用語3] 誘導適合 : タンパク質のポケットが、対象となる分子(基質)の形状に合わせて構造変化すること。

[用語4] CH/OH-π相互作用 : 炭素または酸素原子上の水素と芳香族化合物の間に働く静電的な相互作用。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
A Polyaromatic Receptor with High Androgen Affinity
(高いアンドロゲン親和性を有する芳香環レセプター)
著者 :
Masahiro Yamashina, Takahiro Tsutsui, Yoshihisa Sei, Munetaka Akita, Michito Yoshizawa
DOI :
<$mt:Include module="#G-03_理学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

准教授 吉沢道人

E-mail : yoshizawa.m.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5284

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

光で検出できない“不可視な”円柱構造 光や電磁波を反射や散乱しない構造を単一物質で実現

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要点

  • 電磁界解析により特定の光では観測ができない不可視な単一物質の円柱構造を発見
  • 半導体などの実在する物質でこの構造が作製可能
  • 光や電波と干渉しないデバイス、配線、構造体などへの応用を期待

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の小林佑輔大学院生(修士課程2年)と梶川浩太郎教授は、特定の波長の光を使った時に、その光では検出が不可能な「不可視化構造」を単一物質でも実現できることを見いだした。単一物質による構造で光学的に不可視化ができることを実証した初の成果である。

この構造は高い屈折率を有する半導体の円柱構造で実現できるので、今後、不可視な光学素子や電子素子が作製できたり、光と干渉しない配線などが実現できたりする。また、電波と干渉しない構造体の設計にも役立つ。

不可視とは構造が透明であることに加え、光が照射された際にその光の波面が乱されることなく構造を通り抜けるということであり、その光では構造を検出できない。不可視化構造として、これまでクローキング[用語1]など、いくつかの方法が提案されている。それらは複数の物質やメタ物質[用語2]の組み合わせで実現されていた。今回の成果はこれらの技術に対し、容易に不可視化を実現できることが特徴だ。

研究成果は応用物理学会の速報誌「Applied Physics Express(アプライド・フィジックス・エクプレス)」に3月1日に掲載され、同誌のSpotlights(スポットライト)2019論文に選ばれた。

研究の背景

物質や構造を不可視化する技術が注目されている。ここでいう不可視な構造とは単にその構造が透明なだけでなく、構造を通過した光の波面が乱されたり変調されたりしないことが必要である。たとえば、水やガラスは透明であるが、屈折率が空気とは異なり大きいため、光の位相速度[用語3]は小さくなり、そこを透過した光の位相は、空気を通過した場合と大きく異なる。さらに表面での反射もあり、光で見る(検出する)ことは容易で不可視な構造ではない。また、カメレオンのように構造を背景と区別できなくするカモフラージュとも異なる。

近年、メタ物質を用いたクローキング技術が注目を集めている。クローキングとは構造を特定の媒質で覆うことにより全体を不可視化する技術である。一方で、単一の物質でも形状をデザインすれば、不可視化が可能であることは知られていなかった。複数の物質やメタ物質を組み合わせる必要がないため、比較的容易に不可視化を実現できる特徴がある。そのため、今後、様々な応用が考えられる。

研究成果

図1(a)に示すような円柱にx方向に偏光する光を当てた際の散乱効率を、ミー理論[用語4]により解析的に計算した結果を図1(b)に示す。横軸はサイズパラメータα[用語5]とよばれ、円柱の半径を光の波長で規格化して、2πを乗じたものである。

縦軸は円柱の屈折率である。散乱効率は色で示しており、青の領域で散乱効率が小さい。この図は屈折率が2.7以上3.7以下の物質(シリコン〈Si〉、ヒ化アルミニウム〈AlAs〉、ヒ化ガリウム〈GaAs〉)で不可視化が実現できることを示している。実際、これらの物質では、円柱構造の作製が研究されており、将来的には不可視な円柱構造を実際に作製できると考えられる。

図1. (a)円柱構造 (b)散乱効率のサイズパラメータおよび屈折率依存性
図1.
(a)円柱構造 (b)散乱効率のサイズパラメータおよび屈折率依存性

円柱を光で照射した際に生じる光磁場[用語6]のシミュレーション結果を図2に示す。シミュレーションはFDTD法(時間領域差分法)[用語7]で行っており、この構造の存在を予測したミー理論とは異なるアルゴリズムで計算されている。赤がプラス、青がマイナスの光磁場を示している。波長0.7 μmの単色光が下から照射されているため、波面は下から上に動く。

図2(a)は不可視化条件ではない場合であり、中心におかれた円柱で光が散乱されて波面が乱れていることがわかる。このとき、観測者は散乱光を見れば円柱があることがわかる。一方、図2(b)は不可視化条件の場合である。中心に円柱構造があるにも関わらず、光が何事も無かったように下から上へ通り抜けていく様子がわかる。

つまり、円柱があっても無くても位相を含めて光波は同じ状態であり、光では円柱を観測することはできない。言い換えると、高い屈折率の物質でできた円柱であるにもかかわらず、形状をデザインすることにより、対応する波長の光に対しては実効的に、その屈折率を空気と同じ1とすることができる。興味深いことに、球では不可視化は実現できない。

図2. 電磁界解析により光が入射した際のy方向の光磁場を図示したもの。波長0.7 μmの赤い光が下から入射している。中央にAlAs半導体(屈折率3.0)の円柱が置かれている。(a)は直径が0.35 μm、(b)は直径が0.39 μmのときである。(a)では波面が乱れており、光が散乱されている。すなわち見える状態である。(b)では光がそのまま通り抜けており、不可視な状態、つまり、光を使って円柱を見ることができない。
図2.
電磁界解析により光が入射した際のy方向の光磁場を図示したもの。波長0.7 μmの赤い光が下から入射している。中央にAlAs半導体(屈折率3.0)の円柱が置かれている。(a)は直径が0.35 μm、(b)は直径が0.39 μmのときである。(a)では波面が乱れており、光が散乱されている。すなわち見える状態である。(b)では光がそのまま通り抜けており、不可視な状態、つまり、光を使って円柱を見ることができない。

不可視化のメカニズムを調査するために行った計算の結果が図3である。円柱構造内の光磁場の分布を示している。図2と同様に赤がプラス、青がマイナスである。図3(a)は不可視化条件ではない場合である。このとき、円柱内の光磁場が対称に分布していない。この非対称な光磁場分布からは散乱光が放射され、円柱を観測すること(見ること)ができる。一方、図3(b)は円柱が不可視な条件の時である。中心にプラスの光磁場が分布し、マイナスの光磁場は上下に対称に存在する。そのため、ここからは光磁場はキャンセルし散乱光は放出されず、この光では円柱は観測できない。

図3. 円柱内の磁場分布。光は下から上へ照射している。(a) 不可視化されていない場合、(b) 不可視化されている場合。(a)では磁場の分布が対象でなく、散乱光が放射されるが、(b)ではつねに磁場の分布が対象で、ここから生じる散乱光はキャンセルして放射されない。
図3.
円柱内の磁場分布。光は下から上へ照射している。(a) 不可視化されていない場合、(b) 不可視化されている場合。(a)では磁場の分布が対象でなく、散乱光が放射されるが、(b)ではつねに磁場の分布が対象で、ここから生じる散乱光はキャンセルして放射されない。

研究の経緯

これまで、クローキング媒質を使って対象物を不可視化する研究は多数行なわれてきた。梶川教授らのグループでも実在物質によるクローキングの研究を行っている。その研究の中で、屈折率や構造などのパラメータを網羅的に調べていると、不可視化する対象物と同じ屈折率をもつクローキング媒質を使っても、不可視化が実現できることがわかった。その結果、今回の研究成果である検出が不可能な(不可視な)円柱構造を単一の物質で実現できた。

今後の展開

この構造は高い屈折率を有する半導体で実現されるため、不可視な光学素子や電子素子、光と相互作用しない配線が実現できる。たとえば、電子素子や配線があっても、それが不可視化されていれば、光による情報伝送が妨げられない。さらに、構造や周辺の屈折率のわずかな変化で可視化したり不可視化したりするので、バイオ分野のセンシング素子や光学スイッチング素子などへの応用が考えられる。

また、この研究の成果は光だけでなくマイクロ波やラジオ波などの電波でも有効である。この成果を発展すれば、電波と干渉しない構造体の設計にも役立つと考えられる。

用語説明

[用語1] クローキング : 対象の構造をある媒質で覆うことにより、全体を不可視化する技術。外套を意味する“cloak”を語源とする。クローキング媒質中を光が迂回して不可視化を達成したり、対象物質中に生じる分極とクローキング媒質中に生じる分極が打ち消し合うようにして不可視化を達成したりする。

[用語2] メタ物質 : 対象とする光や電磁波の波長より小さい人工構造を使って、自然界に存在しない光学的な性質を持たせた物質や材料。メタマテリアルとも呼ばれる。負の屈折率やクローキングが実現できる媒質として10年ほど前から研究が盛んに行われるようになった。

[用語3] 位相速度 : 波が媒質中を伝わるときに、同じ位相の面(たとえば波の山や谷)が進む速度。単に速度というと位相速度を指す場合が多い。これに対して、波が持つエネルギーやそこに変調した情報が進む速度を群速度という。

[用語4] ミー理論 : 球や円柱により光が散乱される様子を厳密に計算する理論。

[用語5] サイズパラメータ : 波長に対する半径の比に2πをかけたもの。これを使うと、球や円柱のサイズを一般的に記述することができる。

[用語6] 光磁場 : 光は電磁波の一種であり、互いに直交する電場と磁場が共に影響しあって、振動して空間を進んでいく。この中の磁場の成分を光磁場という。光の強さの平方根に比例する。

[用語7] FDTD法 : Finite Difference Time Domain(時間領域差分)の略。電磁界シミュレーションの手法には、主に3つの手法(有限要素法、モーメント法、FDTD法)が使われている。FDTDは光や電磁場を記述したマクスウェルの方程式を時間と空間で差分化して、時間領域で数値的に解く手法。

論文情報

掲載誌 :
Applied Physics Express
論文タイトル :
"Homogeneous Dielectric Cylinders Invisible at Optical Frequency"
著者 :
Yusuke Kobayashi and Kotaro Kajikawa
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系 教授 梶川浩太郎

E-mail : kajikawa@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5596 / Fax : 045-924-5596

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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