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未来社会DESIGN機構 第2回ワークショップ開催

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東京工業大学の未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は6月16日、大岡山キャンパス西9号館において第2回「未来のシナリオを考えるワークショップ」を開催しました。5月18日のワークショップに続く第2弾で、前回作成した「未来のシナリオ」をより精緻なものにすることと、新たなシナリオの追加が狙いです。前回同様に東工大の教職員、学生、卒業生のほか学外の方もあわせ計31名が参加しました。

前回のシナリオを再検討

はじめに、前回作成した20個のシナリオをホワイトボード一面に貼り、参加者全員で前回の議論を振り返りました。シナリオの作成に至った経緯を説明し、それに対し意見を出し合うなど、シナリオ一つ一つを丁寧に検討していき、情報を共有しました。たとえば「1億総なりきりエンターテナー時代」のシナリオに対しては、「『1億総・・・』という表現に違和感をおぼえる」や、「エンターテナーの定義があいまいでよく分からない」などの意見が出ました。厳しい指摘もあった中、活発な議論が行われ、あっという間に午前中の予定が終了しました。

まずは前回の振返りから
まずは前回の振返りから

ホワイトボードに貼ったシナリオ
ホワイトボードに貼ったシナリオ

4チームに分かれシナリオを追加

午後は前回のシナリオをより精緻なものとすべく、4つのチームに分かれて検討を行いました。午前中に行ったシナリオの共有で活発な議論が交わされたこともあり、各チームで熱のこもった話し合いとなりました。教職員、学生、卒業生、外部からの参加者が、互いの立場を超えて自由に意見を交わし、積極的な雰囲気で議論が進みました。参加者は自分の意見を話すだけでなく、他者の意見に耳を傾け、時にはメンバーの意見を踏まえて自分の視点を加えるなど、様々な方向からシナリオの精緻化に取り組みました。

チームに分かれてシナリオの精緻化

チームに分かれてシナリオの精緻化

チームに分かれてシナリオの精緻化

精緻化の後、前回作成したシナリオでは得られなかったテーマに焦点を合わせ、新たなシナリオを追加することになりました。具体的には「貧困・格差」「極限(宇宙・地底・原子etc.)」「若者」「コミュニティ・共感」の4つのテーマです。テーマ毎にチームに分かれ、前回同様に未来を考えるヒントとなるカードを見ながら意見を交換し、新しいアイデアや意見をふせん紙に書いてカードに貼っていきました。次にKJ法(ケージェイ法。多様な情報を整理し、新たなアイデアの創出や本質的な問題の特定を行う手法)を用いてカードを整理し、新たな仮説を組み立てました。その結果、いくつかのシナリオが新たに作成されました。

追加するシナリオを作成

追加するシナリオを作成

追加するシナリオを作成

新しいシナリオへ精緻化

精緻化とシナリオの追加を終え、最後に午前中と同様にシナリオをホワイトボードに貼り付け、発表を行いました。例えば、前回のワークショップで2070年頃に訪れると想定された「老いる・老いないを選択できる社会」は、「死ぬということを前提とした社会のうえで老いる・老いないを選択できる」に書き換えられました。その他にも多くのシナリオを新しいシナリオへと精緻化しました。

今回も尽きることなく意見が交わされ、終了予定時刻をオーバーするほど、充実したワークショップとなりました。

シナリオの内容を発表し全員で共有

シナリオの内容を発表し全員で共有

シナリオの内容を発表し全員で共有

キックオフイベントと2回のワークショップを経て、未来のシナリオの原案は完成しました。これから「東工大未来年表(仮称)」の作成、さらに未来社会像の作成に進みます。年明けには、東工大の考える豊かな未来社会像を社会に向けて発信する予定です。

お問い合わせ先

総務部企画・評価課総合企画グループ

E-mail : kik.sog@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2011


東工大ヨット部 全日本学生女子ヨット選手権大会に2年連続出場

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本学ヨット部の女子部員3ペア6名がスナイプ級と470級の2種目で関東水域選考会を勝ち抜き、9月に開かれる第28回全日本学生女子ヨット選手権大会(全女インカレ)に出場を決めました。

2018年もスナイプ級と470級の2種目で計2ペア4名が全日本大会に出場し、2種目とも2年連続出場の快挙となります。

江の島ヨットハーバー(神奈川県藤沢市)で5月25、26日に行われた第28回全日本学生女子ヨット選手権大会関東水域選考会では、スナイプ級に河合亜美さん(工学院 経営工学系 学士課程4年)・津田南美さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程4年)の4年生ペアと萩生田汐音さん(環境・社会理工学院 建築学系 学士課程3年)・堀越日南子さん(工学院 機械系 学士課程3年)の3年生ペアの2艇が出場しました。2ペアとも全日本大会への出場権を獲得しました。河合・津田ペアは昨年に続き2度目の出場で、萩生田・堀越ペアは初出場です。また、同ハーバーで6月8、9日に行われた同大会の470級の関東水域選考会には、佐藤美沙希さん(工学院 経営工学系 学士課程3年)・稲葉千尋さん(物質理工学院 応用化学系 学士課程3年)のペアが出場し、全日本大会への出場権を獲得しました。佐藤・稲葉ペアは初出場です。

全日本学生女子ヨット選手権大会は、2019年9月20日(金)~23日(月)に海陽ヨットハーバー(愛知県蒲郡市)で開催されます。

全日本学生女子ヨット選手権大会 出場メンバーとコメント

スナイプ級
河合・津田ペア
河合亜美さん(工学院 経営工学系 学士課程4年)
津田南美さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程4年)

「河合・津田ペア(右端)」
「河合・津田ペア(右端)」

河合・津田ペアのコメント

「私たちペアにとって最後の全日本女子大会になります。昨年は15位と、手ごたえと悔しさを感じる結果でした。最後の今回は入賞できるよう、この1年間精一杯練習してきました。OB会をはじめ、みなさまのサポートで遠征できることに感謝し、全力を出し切って参ります。応援よろしくお願いします。」

スナイプ級
萩生田・堀越ペア
萩生田汐音さん(環境・社会理工学院 建築学系 学士課程3年)
堀越日南子さん(工学院 機械系 学士課程3年)

萩生田・堀越ペア
萩生田・堀越ペア

萩生田・堀越ペアのコメント

「私たちは初めての全日本女子レース出場となります。蒲郡での開催ということで慣れないことも多いかと思いますが、まずはレースを楽しむことを第一に、結果を出せるよう頑張ります。勉学においてしっかり自分の頭で考えることや、色々と試行錯誤することで自分の知識として定着しますが、ヨットにも通ずるものがあります。日々の努力と積み重ねを大切に練習に臨み、その成果を発揮できるよう全力で臨んでいきます。応援よろしくお願いします。」

470級
佐藤・稲葉ペア
佐藤美沙希さん(工学院 経営工学系 学士課程3年)
稲葉千尋さん(物質理工学院 応用化学系 学士課程3年)

佐藤・稲葉ペア
佐藤・稲葉ペア

佐藤・稲葉ペアのコメント

「初めての全日本女子レースということで、遠征で普段と異なる地で戦えることになり、楽しみです。本大会で、ヨットにおいても学業においても普段からの準備が大事であると実感しました。その場しのぎでなく深い理解・経験を得てこそだと感じました。予選では悔しさの残るレースもあったので、本選ではもっと上を目指せるように、頑張ってきます。応援よろしくお願いします。」

東工大ヨット部とは

部活動としても歴史が古く、一般社団法人くらまえ潮会という会員数400名を誇る体育会ヨット部OB/OG会が、「一人前のセーラーを育てることは、すなわち一人前の社会人を育てること」をモットーに、現役部員の活動を全面的に支援しています。今回の大会への出場も、OB/OG会の支援を受けています。

ヨットレース スナイプ級と470級

ヨットレースは、ディンギーと呼ばれる2人乗りのエンジンのないヨットに乗り、風や潮といった気まぐれな流体の中をどう早く進むか、高度な戦略と戦術が要求される頭脳スポーツです。レースは参加艇が一斉にスタートし、海上に設置されたブイを決められた順序で、決められた回数を回りフィニッシュの順位を競います。

スナイプ級は、鳥のシギを指す英語名snipeからその名が取られました。2人乗りで帆が2枚のレーシング・ディンギーを用いて戦うレースです。安定感のある艇体とシンプルな構造が特徴であり、国内外を問わず幅広い年齢層から親しまれているクラスです。

470(ヨンナナマル)級は艇体の全長が4.7 mであることに由来して命名されました。2人乗りで帆が3枚のレーシング・ディンギーを用いて戦うレースです。オリンピックのセーリング種目にも採用されました。乗員の適正体重は2人の合計で130 kg前後と小柄な日本人の体格に適していることから、国内で最も盛んに行われています。

ともに、舵と主帆(メインセール)を操るスキッパーと前帆(ジブセール、470級ではスピネーカーも使う)を操るクルーがペアを組みます。

問い合わせ先

東京工業大学体育会ヨット部

E-mail : titech.sailingteam@gmail.com

教育研究資金の不正使用に係る調査結果について

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このたび、本学 科学技術創成研究院准教授による教育研究資金の不正使用について、調査結果がまとまりましたので公表いたします。

本学としては、当該准教授への処分の検討を進めていくとともに、今後、このような事態を生じさせることがないよう、再発防止策及び本事案の教職員等への周知・徹底などの取組みにより、教育研究資金の適正な使用に努めてまいります。

学長コメント

本学では、これまで「東京工業大学における研究者等の行動規範」や「教育研究資金不正防止計画」を策定し、不正を起こさせない教育研究環境を実現するため、様々な取組を進めてまいりました。

このような中、本学准教授による教育研究資金の不正使用が行われていたことについて、国民の皆様、関係機関に対し深くお詫び申し上げます。

今後、このような不正な使用が行われないよう、教育研究資金の適正な運営・管理を徹底し、再発防止に向け全学をあげて取り組んでまいります。

国立大学法人 東京工業大学
学長 益 一哉

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門
Email: media@jim.titech.ac.jp
電話: 03-5734-2975

放射線による皮膚への影響を解明 皮膚の防護剤や疾患の治療薬、化粧品の開発などに道

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要点

  • ヒトiPS細胞から作製した皮膚ケラチノサイトの放射線応答の分子機構を解明
  • 幹細胞、前駆細胞などの分化度の違いによる放射線応答の違いが明確に
  • がんや老化のメカニズム解明など様々な分野への波及効果が期待される

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所の島田幹男助教と松本義久准教授、大学院総合理工学研究科の三宅智子大学院生、科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の沖野晃俊准教授らの研究グループは、iPS細胞から皮膚ケラチノサイト[用語1]を作製し、皮膚における放射線の生体影響[用語2]を明らかにした。iPS細胞から作製した皮膚ケラチノサイトにおける基礎的な放射線応答を解析した最初の例であり、がんや老化のメカニズム解明だけでなく、放射線治療における皮膚防護剤や皮膚疾患の治療薬、化粧品の開発などにも役立つことから、様々な分野への波及効果が期待される。

生体では常に内因性、外因性のストレスによりデオキシリボ核酸(DNA)損傷が生じているが、それらは生体に備わっているDNA修復機構によって修復される。修復しきれなかった損傷は蓄積し、細胞のがん化、老化につながる。特に皮膚表皮においては、表皮基底層に存在する幹細胞、前駆細胞[用語3]が放射線による影響を受けやすいとされる。今回の研究はiPS細胞から作製した皮膚ケラチノサイトを用いて幹細胞、前駆細胞などの分化度の違いによる放射線応答の違いを明らかにした。

研究はタカラベルモント株式会社と共同で実施し、研究成果は米国放射線腫瘍学会誌「International Journal of Radiation Oncology Biology Physics」電子版に5月11日に掲載された。

研究の背景

生体では細胞内代謝により発生する活性酸素などの内的要因や紫外線、放射線などの外的要因により、常に細胞内DNAに損傷が生じている。その損傷は生体に本来備わっているDNA修復機構によって直ちに修復されるが、稀に修復しきれなかった損傷が細胞内に蓄積することにより、細胞のがん化や老化につながると考えられている。

皮膚や筋肉、骨など身体を構成する体細胞の元になる幹細胞にDNA損傷が蓄積すると、細胞減少や細胞機能低下につながり、様々な老化現象を引き起こす。例えば、皮膚付属器官である毛包組織[用語4]においてDNA損傷により幹細胞が枯渇すると白髪、薄毛などの老化現象にいたる。

これまでヒト皮膚由来ケラチノサイトの放射線に対するDNA損傷応答[用語5]に関する報告は少なかった。そこで今回の研究ではヒトiPS細胞からケラチノサイトを作製し、幹細胞から前駆細胞まで分化レベルの異なる細胞のDNA損傷応答を比較した。また、実際の皮膚に近い三次元細胞培養[用語6]実験系を用いて放射線応答を解析した。

図1. 皮膚の構造とそれらを模した三次元細胞培養の概略

図1. 皮膚の構造とそれらを模した三次元細胞培養の概略

皮膚の表面は表皮層と真皮層で構成されており、表皮層はさらに角質層、顆粒層、有棘層、基底層から成り立っている。今回の研究では表皮層を再構築するために、皮膚線維芽細胞とiPS細胞由来皮膚ケラチノサイトを用いて三次元培養皮膚モデルを作製した。K14とK10はケラチノサイトの分子マーカーを示している。

研究成果

ヒト皮膚線維芽細胞から作製したiPS細胞を皮膚ケラチノサイトに分化誘導させ、線維芽細胞[用語7]、iPS細胞、iPS細胞由来皮膚ケラチノサイトにおける放射線照射時のDNA損傷応答の違いを解析した。iPS細胞は線維芽細胞、ケラチノサイトに比べて、放射線に対する感受性が高く、死にやすい性質を持っていることが明らかになった。

DNA修復は多くのタンパク質が関与するが、クロマチン[用語8]内のヒストンH2AX[用語9]のリン酸化などを指標に解析を行った。iPS細胞ではリン酸化H2AXを持つ細胞が放射線照射8時間経過後も20%弱残っていたのに対し、継代[用語10]1回後のケラチノサイトでは5%以下になっていた。

皮膚ケラチノサイトは、継代を重ねるごとにDNA損傷修復速度に遅延がみられた。継代数が少ない細胞は幹細胞に近い性質を持っており、放射線照射により細胞生存率が低下し、プログラムされた細胞死であるアポトーシスの比率が増加したが、継代数の増加に伴い放射線に対して抵抗性を示すことがわかった。

以上の結果より、iPS細胞は未分化の細胞であり、DNAが少しでも損傷した細胞ではアポトーシスによる細胞死を誘導するなど、DNA損傷が残存することを防ぐ機構が備わっていると考えられた。それに対して、成熟したケラチノサイトではDNA損傷が修復される速度と割合が減少していた。ケラチノサイトは成熟すると細胞核が消失し、角質層を形成し、物理的な刺激から体を守るという役割を担っている。成熟したケラチノサイトはいずれ核が消失する運命にあるためにDNA損傷を修復する機能が低下しても問題ないと考えられる。

図2. iPS細胞とケラチノサイトでの放射線応答の違い

図2. iPS細胞とケラチノサイトでの放射線応答の違い

iPS細胞では、少しでもDNA損傷が残存するとアポトーシスによる細胞死を誘導する等の応答により、DNA損傷が蓄積することを防ぐが、成熟したケラチノサイトではDNA損傷を修復する機能が低下している。iPS細胞は未分化な細胞であり、DNA損傷を子孫に残さないために、厳密な制御が行われているが、成熟したケラチノサイトは、さらに分化し角質細胞となり、剥がれ落ちる運命にあるため、放射線応答の違いが生じている。

図3. 皮膚三次元細胞培養と放射線応答

図3. 皮膚三次元細胞培養と放射線応答

ヒトiPS細胞由来ケラチノサイトと正常ヒト表皮ケラチノサイトから作製した三次元細胞培養モデル。K14はケラチノサイトのマーカー、53BP1はDNA損傷マーカー。それぞれ放射線(ガンマ線)2Gy照射後、免疫染色法によりK14、53BP1の抗体で染色した。放射線照射後、それぞれの細胞で53BP1がドット状になっていることがわかる(白矢印)。ドット状はフォーカスと呼ばれ、DNA損傷が生じていることを示している。

今後の展開

ヒトの皮膚に対する放射線影響は不明な点がまだまだ残されている。本研究で確立した実験系を用いてDNA損傷だけでなく、放射線が細胞内応答や細胞間応答に与える影響の解明に貢献することが期待される。

用語説明

[用語1] 皮膚ケラチノサイト : 皮膚角化細胞ともいう。表皮に存在する細胞の95%を占める。表皮の外層はケラチノサイトの角化(脱核)により形成され、皮膚の最外層として直接外部に接触しており、物理的な刺激から体を守る重要な部位である。

[用語2] 放射線の生体影響 : ガンマ線やX線は直接的および間接的に細胞内DNA に損傷を与える。直接的には放射線のエネルギーによりDNA鎖を切断し、間接的には細胞内の水分子を励起し、反応性の高いフリーラジカルがDNA鎖に損傷を与える。

[用語3] 幹細胞、前駆細胞 : 幹細胞は自己複製能と様々な細胞に分化する能力(多分化能)を持つ特殊な細胞。この2つの能力により発生や組織の再生などを担う細胞と考えられている。幹細胞は幾つかに分類され、主に胚性幹細胞(ES細胞)、成体幹細胞、iPS細胞などがあげられる。前駆細胞は幹細胞から特定の体細胞や生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞。

[用語4] 毛包組織 : 毛根を包む組織。毛根を保護し、毛の伸長の通路となる。上皮性毛包、硝子膜、結合組織性毛包から成る。毛包上部には脂腺が開口し、皮脂を分泌して、皮膚や毛の表面をなめらかにし、保湿する。

[用語5] DNA損傷応答 : 放射線などにより細胞内のゲノムDNAは損傷をうける。これに対して生体はDNA損傷応答機構というDNA損傷を効率的に修復する防御機構を有している。これには様々なタンパク質が関与しており、H2AXや53BP1もそれらに含まれる。

[用語6] 三次元細胞培養 : 近年の培養技術の発達およびiPS細胞などの再生医学の進歩により試験管内で様々な臓器の立体構造が再現できるようになってきた。これまでは試験管内で単層培養が主流であったが、立体的な培養をすることにより異なる細胞間同士の分子ネットワークの解明が進んでいる他、薬剤試験などに利用されている。

[用語7] 線維芽細胞 : 肌のハリや弾力のもととなるコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸を作り出す細胞。線維芽細胞が活発に働いている間はコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸の新陳代謝がスムーズに行われ、ハリと弾力のある瑞々しい肌を保っているが、老化や紫外線などのダメージにより、線維芽細胞が衰えて働かなくなると、新陳代謝は鈍り、コラーゲンやエラスチンが変性することで弾力を失い、ヒアルロン酸が失われることで水分が減少していく。

[用語8] クロマチン : 細胞の核内にあるDNAとタンパク質の複合体。タンパク質であるヒストンにDNAが巻きついたヌクレオソームが集まった状態。

[用語9] ヒストンH2AX : ヒストンは、タンパク質であるH2A、H2B、H3、H4が2分子ずつ集まった8量体である。このH2AのバリアントがH2AXであり、DNA損傷時にH2AXの139番目のセリンがリン酸化される。

[用語10] 継代 : 細胞の培養系から培地を取り除き、新しい培地に細胞を移す作業。

論文情報

掲載誌 :
International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics
論文タイトル :
DNA damage response after ionizing radiation exposure in skin keratinocytes derived from Human-Induced Pluripotent Stem Cells(iPS細胞由来皮膚ケラチノサイトにおける放射線照射後のDNA損傷応答)
著者 :
Tomoko Miyake, Mikio Shimada, Yoshihisa Matsumoto, Akitoshi Okino
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所

助教 島田幹男

E-mail : mshimada@lane.iir.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3703 / Fax : 03-5734-3703

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

“究極の対物レンズ”の設計に成功

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要点

  • 極限環境への耐性、広視野、高開口数、すべての収差の補正を並立
  • 成功の鍵は、対物レンズ設計では非主流の反射光学系
  • 生命現象の光イメージングに道筋をつける新技術

概要

東京工業大学 理学院 物理学系の虎谷泰靖大学院生(当時)、藤原正規研究員(当時)、石井啓暉大学院生、石田啓太大学院生、古林琢大学院生、松下道雄准教授、藤芳暁助教の研究グループは、高い開口数[用語1]でありながらすべての収差[用語2]を補正した対物鏡「虎藤鏡=TORA-FUJI mirror」の設計に成功した。虎藤鏡では、一つ前の世代の対物鏡[用語3]で達成した1.耐環境性能、2.高開口数、3.完全な色消し[用語4]を維持しながら、新たに4.全ての単色収差[用語5]に対する補正を加えることにより、5.広視野を確保し、究極の性能が実現している。虎藤鏡の製作は難航していたが、試作と再設計を繰り返すことで完成に近づいている。

同研究グループは2017年、クライオ蛍光顕微鏡[用語6]を開発し、色素1分子の三次元位置を1ナノメートル(1千万分の1 cm=1 nm)の精度で決定することに成功した。この顕微鏡の視野は数ミクロンと細胞のサイズよりも1桁小さいため、生体系への応用が困難であった。そこで、当時修士課程学生だった虎谷氏が新しい対物鏡の設計に取り組んだ。その結果、優れた光学性能を維持したまま、視野を面積比で600倍に広げることで、生物系の観察に適した「虎藤鏡」の設計に成功した。この成功の鍵は、対物レンズの設計では非主流の反射光学系[用語7]を用いたことによる。

研究成果は2019年7月15日(米国時間)に米国物理学協会誌「Applied Physics Letters(アプライド・フィジックス・レターズ)」のオンライン速報版で公開された。

研究の背景と成果

これまで分子生物学では、主に1個ないし少数の分子の立体構造を観察することで、生命の理解を深めてきた。この研究をさらに進めるためには、細胞内部の系全体を俯瞰することが大切である。なぜならば、生体機能は複数の分子が関与する多段階の現象が、ある方向性を持って進むことで発現しているからである。しかし、現在の技術では、細胞内部を分子レベルで観察することは不可能であり、もちろん、このような複数の分子のマクロな集合状態を可視化することはできなかった。そこで、同研究グループは15年間にわたり、このようなイメージングを実現できる極低温に冷却した試料の蛍光顕微鏡(クライオ蛍光顕微鏡)を独自開発してきた。その結果、2017年、色素1分子の三次元位置を1ナノメートルの空間精度で決定することに成功した。

次の目標は生体系への応用であり、これを可能にするのが「虎藤鏡」である。優れた耐環境性能(極低温~室温までのあらゆる温度、強磁場)、高い開口数(0.93)、広い視野(視野直径72 μm)、すべての収差(単色収差、色収差)の補正を並立させた極低温用反射対物レンズ「虎藤鏡」の設計に成功した。同研究グループでは、試作した虎藤鏡を用いて生体系の研究が進行中である。

「虎藤鏡」の名前は、究極のデザインを突き止めた虎谷泰靖氏と、最終図面を書いた藤原正規博士から名付けた。

研究の経緯

クライオ蛍光顕微鏡による高空間精度の観察が可能になったのは、サブオングストロームの機械的安定性と高い解像度の両立である。これを実現したのが、極低温で動作する反射型対物レンズ「クライオ対物鏡」だ。クライオ対物鏡は極低温に冷やしても室温と変わらない性能を発揮するデザインになっている。そこで、試料とクライオ対物鏡を剛性が高い一体成形のホルダーに取り付け、共に超流動ヘリウム中に浸している。

このような一体配置を用いることで、サブオングストロームの機械的安定性を確保した。さらに、クライオ対物鏡の光学性能(開口数)を極限まで高めることで、高い解像度を実現している。図1は歴代のクライオ対物鏡の写真である。初代のクライオ対物鏡(キム鏡、2005年)から数えて、虎藤鏡は九代目になる。ここまで14年かかった。

歴代のクライオ対物鏡の写真。左上の数字が世代数を表している。それぞれのクライオ対物鏡は、開発した学生、研究者の名前から1.キム鏡、2.藤原キム鏡Ⅰ、3.藤原キム鏡Ⅱ、4.藤原鏡、5.藤原蛍石鏡Ⅰ、6.藤原蛍石鏡Ⅱ、7.藤原非球面鏡、8.稲川鏡、9.虎藤鏡と呼んでいる。スケールバーは15 mm。
図1.
歴代のクライオ対物鏡の写真。左上の数字が世代数を表している。それぞれのクライオ対物鏡は、開発した学生、研究者の名前から1.キム鏡、2.藤原キム鏡Ⅰ、3.藤原キム鏡Ⅱ、4.藤原鏡、5.藤原蛍石鏡Ⅰ、6.藤原蛍石鏡Ⅱ、7.藤原非球面鏡、8.稲川鏡、9.虎藤鏡と呼んでいる。スケールバーは15 mm。

虎藤鏡の光学配置を図2に示す。虎藤鏡は球面鏡と非球面鏡からなる反射型の対物レンズである。球面鏡と非球面鏡を1個の石英ガラスの表面にアルミをコートすることで一体成形しているので、1.優れた耐環境性能(極低温から室温までの広い温度領域および強磁場での使用)と2.完全な色消し性能を実現している。さらに、非球面鏡を用いることで設計の幅が広がり、3.高開口数を維持しながら、4.全ての単色収差を補正し、5.広視野を確保している。一世代前の稲川鏡では4と5が課題として残っていた。同研究グループは設計を一からやり直し、1~5までのすべての要件を満たす虎藤鏡の設計に成功した。虎藤鏡は非球面と球面を用いた複雑な構造であるのに加えて研磨公差が厳しく、製作は難航していたが、試作と再設計を繰り返すことで完成に近づいている。

虎藤鏡の光学配置と5つの特長

図2. 虎藤鏡の光学配置と5つの特長

今後の展開

近い将来、この虎藤鏡によって、前人未踏の生命現象の分子レベル可視化が実現すると考えている。ここから得られるナノレベル空間情報は、これまで人類が蓄積してきた膨大な生命科学の情報をつなげる役割をすると考えられる。そこから、生物に対する理解が一気に進み、多くの生命の謎が解けてくるはずである。

用語説明

[用語1] 開口数 : レンズの性能を表す値。空気中では1が限界であり、大きければ大きいほどレンズの解像度、光を集める効率が上がる。

[用語2] 収差 : 理想的な結像からのズレのこと。

[用語3] 対物鏡 : 鏡で構成される対物レンズ。一般には鏡の数は2枚。

[用語4] 色消し : 色による収差「色収差」の補正のこと。色収差がある集光系では、色(波長)の違いによって画像がぼける。

[用語5] 単色収差 : 単色でも起こる収差のこと。この収差があると、画像の品質が悪くなったり、視野が狭くなったりする。

[用語6] クライオ蛍光顕微鏡 : 極低温に冷やした試料からの蛍光を観察する顕微鏡。極低温下では分子の動きが完全に止めることができるため、高解像度な観察が可能になる。また、蛍光顕微鏡は1分子観察や厚みのある試料の観察が出来るので、生体試料への相性がとても良い。このため、クライオ蛍光顕微鏡は、生体内部にある個々の分子の空間情報をナノレベルで観察できる可能性を持っている。

[用語7] 反射光学系 : 鏡だけで構成された光学系。一般に対物レンズは複数のレンズを組み合わせた構成になっており、レンズの屈折を利用して光を集める。これに対して、反射光学系では、鏡を利用して光を集める。高精度な望遠鏡では主流な方法であるのに対して、顕微鏡の対物レンズでは非主流である。非主流である反射光学系から究極の性能の対物レンズのデザインが発見されたことはとても興味深い。

論文情報

掲載誌 :
Applied Physics Letters
論文タイトル :
Aberration corrected cryogenic objective mirror with a 0.93 numerical aperture
著者 :
藤原正規、石井啓暉、石田啓太、虎谷泰靖、古林 琢、松下道雄、藤芳 暁
DOI :

謝辞

本研究は「JST/CREST 統合1細胞解析のための革新的技術基盤、研究総括:菅野 純夫」(研究課題名「超解像3次元ライブイメージングによるゲノムDNAの構造、エピゲノム状態、転写因子動態の経時的計測と操作」、研究代表者:岡田 康志)および「JST/さきがけ 統合1細胞解析のための革新的技術基盤、研究総括 浜地 格)」(研究課題名「細胞内部を観る分子解像度の三次元蛍光顕微鏡」、研究代表者:藤芳 暁)、科学研究費補助金(16H04094と18K19054)の支援を受けて実施した。

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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 物理学系

助教 藤芳暁

E-mail : fujiyoshi@phys.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ファム・ナム・ハイ准教授がドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2019」を受賞

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工学院 電気電子系のファム・ナム・ハイ准教授が、第11回ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2019」を受賞しました。

本賞は、日本を研究開発の拠点として活動しているドイツのグローバル企業9社による表彰で、日本の若手研究者支援と科学技術振興、そして日独の産学連携ネットワーク構築を目的としています。対象は、「材料とエネルギー」、「デジタル化とモビリティ」、「ライフサイエンス」の3部門における革新的で応用志向型の研究です。

ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2019」受賞式の様子。(© 2019 AHK Japan)

ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2019」受賞式の様子。(© 2019 AHK Japan)

ファム准教授はトポロジカル絶縁体を用いて、世界最高性能の純スピン注入源を開発しました。この成果は純スピン流で高速書き込みおよび高い耐久性を両立できる次世代の磁気抵抗メモリ技術である「スピン軌道トルクMRAM」の実現につながります。

純スピン流源としてこれまで使われている白金やタングステンなどの重金属は、スピンホール角が低いという問題がありました。ファム准教授がBiSbトポロジカル絶縁体に着目し、薄膜成長技術の確立および純スピン注入源としての性能の評価を行いました。その結果、室温でも超巨大なスピンホール角を示すBiSb(012)面を発見しました。さらに、BiSb 薄膜を使い、従来より1~2桁少ない電流密度で、垂直磁性膜の磁化反転を実証しました。

BiSbをスピン軌道トルクMRAMへ応用すると、データの書き込みに必要な電流を1桁、エネルギーを2桁低減でき、記録速度を20倍に、記録密度を1桁向上させて、従来の揮発性半導体メモリSRAMやDRAMを置き換えることができます。この成果は電子機器の一層の省エネ化をもたらし、数兆円に上るスピントロニクスの新産業を創製できる可能性があり、経済効果は大きいと期待されています。また、ファム准教授はBiSbを用いる超低消費電力スピン軌道トルクMRAMの量産技術の開発を精力的に行っています。産業界では、これらの研究成果を用いるプロタイプ素子の開発が始まっていて、早期実用化が期待されています。

ファム准教授のコメント

ドイツ・イノベーション・アワードという大変名誉ある賞を頂き、大変光栄に存じます。本研究では、トポロジカル絶縁体を用いて、実用的な高性能純スピン注入源の開発に成功すること、実用化に向ける量産技術の開発および産業界との積極的な産学連携を評価していただきました。この場を借りて、共に研究を頑張った学生の皆様、共同研究・受託研究を行っている各企業および大型研究プロジェクトを支援していただいているJSTの皆様に厚く御礼を申し上げます。本技術を実用化し、電子機器の一層の省エネ化を達成できるよう、引き続き研究開発に尽力して参ります。

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お問い合わせ先

ファム・ナム・ハイ

E-mail : pham.n.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3934

令和元年度 大学の業務運営に貢献した職員25名を表彰

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6月26日、東京工業大学大岡山キャンパス本館において、令和元年度国立大学法人東京工業大学職務表彰式が行われました。この表彰は、事務職員及び技術職員を対象として、職務上の功績があった職員を表彰し、職員の勤労等に報いるとともに、他の職員の勤労意欲を高め、大学の発展に寄与することを目的として行われているものです。

学長による祝辞
学長による祝辞

今年度は、職務の遂行にあたり大学の業務運営に貢献し、成績顕著と認められた職員25名が選ばれ、表彰式では役員および所属部課長の列席のもと23名の出席者に対して益学長から表彰状が授与されました。

今回表彰された職員は次のとおりです。

令和元年度 職務表彰者一覧

推薦部局
所属
職名
氏名
受賞理由
総務部
企画・評価課
総合企画グループ
主任
髙橋祐子
「前例がない事業である未来社会DESIGN機構の始動に抜群に努力し、独創性をもって多大なる貢献」
人事課労務室
人材育成グループ
スタッフ
唐金拓矢
「労務管理の効率化と積極的な業務への提案」
財務部
主計課
総務・監査グループ
グループ長
岩松力也
「経理事務の集約化に関する多大なる貢献」
経理課
運用・支出グループ
主任
池谷知昭
「データ連携及び分析方法の見直しによる業務効率化への貢献」
国際部
国際連携課
総務グループ
主査
中川麻衣
「安全保障輸出管理業務における多大なる貢献」
研究推進部
産学連携課
企画・管理グループ
グループ長
遠藤美奈子
「利益相反定期自己申告のWEB化及びタブレット導入による省力化」
主査
楠瀬悟之
スタッフ
松村佳
施設運営部
施設総合企画課
企画・計画グループ
グループ長
原田隆
「スペースマネジメント体制強化におけるスペース配分基準の設定」
主任
原美和子
主任
渡邉達行
大岡山第一事務区
理学院事務第1グループ
グループ長
中村美和子
「学院等事務体制整備に係る重大な貢献」
主査
手塚圭二
主任
平川晋也
「理学院主催の「理学国際ワークショップ2018」開催における貢献について」
大岡山第二事務区
工系事務第1グループ
グループ長
田中昌紀
「学院等事務体制整備にかかる多大なる貢献」
スタッフ
片山史仁
工系事務第2グループ
グループ長
岡田貴裕
工系事務第3グループ
グループ長
福島勇人
工系事務第4グループ
グループ長
木田史子
工系事務第5グループ
グループ長
髙井秀之
すずかけ台事務グループ
グループ長
有山弘行
主査
関根正光
技術部
すずかけ台設計工作部門
技術専門員
山本徳彦
「技術継承の実践と機械工場の職場環境改善に関する顕著な貢献」
電気電子部門
技術専門員
神野文男
「電気・情報系Webシステムでの構築・維持と脆弱性対策への貢献」
安全管理・放射線部門
技術専門員
福田一志
「複合照射実験装置の管理運営とビーム照射実験に対する貢献」

表彰された方々と学長らとの記念撮影
表彰された方々と学長らとの記念撮影

地熱や工場廃熱などの熱源に置くだけ埋めるだけ! 熱エネルギーで直接発電する“増感型熱利用発電”を開発 石油資源に依存せず、天候にも左右されにくい電気エネルギー生成方法で、エネルギー問題の解決に向け一歩前進

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要点

  • 熱源から発生する熱エネルギーで直接発電する“増感型熱利用発電”の開発に成功した。
  • この“増感型熱利用発電”は、色素増感型太陽電池における光エネルギーを使って電子を励起する光励起を、熱エネルギーによる電子の熱励起に置き変えることで達成した。
  • 地熱や工場廃熱などの熱源に置くだけ、埋めるだけで発電する。しかも、発電は40℃~80℃と身近にあふれる温度で成功。
  • 発電終了後、熱源の下に放置しておくと、発電性能が復活する。
  • シート状のスタイリッシュな形状で実現。

“増感型熱利用発電”模式図。色素増感型太陽電池では、光エネルギーによって電子が励起されるが(光励起)、増感型熱利用発電では、熱エネルギーにより電子を励起(熱励起)し、発電する。

“増感型熱利用発電”模式図。色素増感型太陽電池では、光エネルギーによって電子が励起されるが(光励起)、増感型熱利用発電では、熱エネルギーにより電子を励起(熱励起)し、発電する。

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の松下祥子准教授および三櫻工業株式会社は、熱源に置いておけば発電し、発電終了後そのまま熱源に放置すれば発電能力が復活する、増感型熱利用電池の開発に成功した。

太陽電池では光エネルギーにより生成した電子を利用するが、この電池では熱エネルギーにより生成した電子を利用する。通常、熱により生成した電子だけでは発電は生じない。熱だけの場合、半導体の中で電子は安定し、電子は移動せず電流生成に至らない。そこで、松下准教授は、熱により生成した電子と、酸化還元の化学反応を組み合わせることで発電させることに成功した。さらに、熱下でのイオンの移動を電解質内で制御することで、発電終了後そのまま熱を与え続けるだけで発電能力を復活させることができた。すなわち、本発電装置によって、熱源に埋めて、回路のスイッチをオンオフするだけで、熱エネルギーにより直接発電することが可能となった。

特に、今回、半導体として狭いバンドギャップを持つゲルマニウム(トーニック製)を使用することで、発電温度を80℃以下にまで下げることに成功。発電は40℃~80℃と身近にあふれる温度で確認されており、今後IoTセンサ用電池からクリーンで安全な地熱利用発電所の構築、そしてCO2排出量の削減、エネルギー問題の解決などに資する成果である。この成果は、2019年6月20日に英国の科学誌「Journal of Materials Chemistry A」オンライン版に掲載された。

背景

安全・安心でクリーンな熱エネルギーの有効利用が強く望まれている。中でも我が国の年間排出量76%を占める200℃以下の排熱(NEDO 2019年3月「産業分野の排熱実態調査 報告書」表8より)の有効利用は我が国の急務と言える。

通常、熱を使った発電では、地下水を水蒸気化しタービンを回す地熱発電や温度差を利用して発電するゼーベック型熱電などで発電していた。その際、エネルギー変換効率向上が課題となっており、熱エネルギーで、そのまま直接発電が可能となる技術開発が待たれていた。

研究の経緯

松下祥子准教授は、色素増感型太陽電池と呼ばれる化学系太陽電池[用語1]に着目した。色素増感型太陽電池は、色素内の光励起電荷[用語2]により電解液のイオンを酸化・還元して発電する、薄くて軽いシート状の太陽電池である。この色素内の光励起電荷を半導体の熱励起電荷に変えれば、温めるだけで発電する電池ができると予想した。また、このような熱エネルギー変換が可能ならば、冷却部不要で、熱源にデバイスを埋めて電気を得る、新しい熱エネルギー変換系の構築が可能ではないかと思いつき、熱励起電荷によるイオンの酸化・還元反応を確認した(特願2015-175037, Mater. Horiz., 2017, 4, 649–656 )。ただしこの時、発電温度は600℃であり、発電がどのように終了するのかも不明であった。

今回、松下祥子准教授ならびに三櫻工業株式会社は、半導体として狭いバンドギャップを持つゲルマニウム(トーニック製)を使用することで発電温度を80℃まで下げることに成功し、発電終了のメカニズムを明らかにした。さらには熱エネルギーにより電解質内でイオンが拡散することを利用し、発電能力を復活させることに成功した。

研究成果

今回作製した電池(サイズ約2 cm×1.5 cm、2 mm厚、重さ1.6 g、図1a)を80℃に設定した恒温槽中に設置すると、開放電圧0.37 V 、短絡電流3 μA/cm2の発電が確認された(図1b)。本電池を直列につなぐと液晶ディスプレイが点灯した。短絡電流値は高温ほど大きくなった。

80℃内での100 nAの連続放電テストでは、70時間以上の継続放電が確認された。放電終了後、そのまま80℃の恒温槽に10時間ほど放置しておくと発電性能が復活し、再び数時間程度発電した(図2)。この再放電時間は、放置時間が長くなるほど伸びた。このような放電終了・再放電サイクルは少なくとも25回以上安定して確認された。

増感型熱利用電池外観(a)とその発電性能(b)。薄くスタイリッシュで熱により発電する。

図1. 増感型熱利用電池外観(a)とその発電性能(b)。薄くスタイリッシュで熱により発電する。

“青線は発電時の、オレンジはスイッチを切った時の開放電圧値。スイッチを切ると電圧が戻り、再び発電する。

図2. 青線は発電時の、オレンジはスイッチを切った時の開放電圧値。スイッチを切ると電圧が戻り、再び発電する。

今後の展開

今後、より安価な原料の探索、ならびにroll-to-rollに組み込める作製プロセスの検討を行い、まずはIoTセンサ用電池としての社会実装を目指し、発電能力・耐久性の向上に取り組む。

地熱や工場廃熱などの熱源に置くだけ埋めるだけ! 熱エネルギーで直接発電する“増感型熱利用発電”を開発

用語説明

[用語1] 化学系太陽電池 : イオンの酸化還元反応といった化学反応を利用した太陽電池。

[用語2] 励起電荷 : 外部からエネルギーを受けて、通常より大きなエネルギーを持つようになった電子及び正孔。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Materials Chemistry A
論文タイトル :
A sensitized thermal cell recovered using heat
著者 :
Sachiko Matsushita*, Takuma Araki, Biao Mei, Seiya Sugawara, Yuri Inagawa, Junya Nishiyama, Toshihiro Isobe and Akira Nakajima
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 材料系

松下祥子 准教授

E-mail : matsushita.s.ab@m.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2525 / Fax : 03-5734-3355

三櫻工業株式会社 新事業開発室

E-mail : thermal@sanoh.com

Tel : 03-5793-8412

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


学生の多彩な活動を発信「第12回学生応援フォーラム」開催

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益学長(前列中央)と参加者の集合写真

益学長(前列中央)と参加者の集合写真

東京工業大学学生支援センターの自律支援部門は2月18日、「第12回学生応援フォーラム」を大岡山キャンパスで開きました。

学生たちの活躍を学内外に広く発信し、学生の多彩な活動の輪を広げることを目的として毎年、開催しています。今回は本学の学生、教職員に加えて、お茶の水女子大学、千葉大学、東京大学、名古屋大学、国際基督教大学、大正大学、多摩大学、帝京平成大学、東京都市大学、日本女子大学、東方国際学院の学生、教職員や一般の方々など約100名が参加しました。フォーラムの運営には学生も積極的に携わり、当日の司会進行も本学学生が務めました。

フォーラムは百年記念館3階フェライト会議室で開かれ、水本哲弥理事・副学長(教育担当)の開会挨拶に続き、長谷川純准教授(科学技術創成研究院)・自律支援部門長が学生活動支援の方針と概要について説明しました。

「夢のつばさプロジェクト」お茶の水女子大学

お茶の水女子大学からゲストスピーカーとして招いた小野﨑すみれさん(お茶の水女子大学文教育学部言語文化学科 2年)と野村佳乃子さん(同大文教育学部人文科学科 2年)の2人が「夢のつばさプロジェクト」について話しました。「夢のつばさプロジェクト」は、東日本大震災で保護者を失くした子どもたちを支援するために立ち上げられ、現在まで活動を継続している学生プロジェクトです。震災から約8年という長い期間、プロジェクト参加学生が卒業や入学等で入れ替わりながら活動をどのように展開してきたか、具体的な活動内容を交えて語ってもらいました。

発表を聞いた参加者からは「何かしてあげたいと思ったときに行動に移せる力が素晴らしいと思った。見習っていきたい」「学生さんがOB・OGや社会人、専門家の方々と協力しながら、厚みのある人材で活動している。子どもの成長や組織の変化にあわせて新たな取り組みを発展させているので、大変参考になった」「とてもパワーのある団体だと思った。今後に対する見通しもしっかりしており、それに向けて何をしていくべきか、筋道が通っており良い組織だと思う」等のコメントがありました。

お茶の水女子大学の野村佳乃子さん(左)と小野﨑すみれさん
お茶の水女子大学の野村佳乃子さん(左)と小野﨑すみれさん

口頭発表を熱心に聞く参加者
口頭発表を熱心に聞く参加者

次に、自律支援部門が支援している東工大の学生プロジェクトである「学勢調査」「東工大学生ボランティアグループ(VG)」「理工系学生能力発見・開発プロジェクト」「ピアサポーター」が発表を行いました。以下は各活動の概要と口頭発表をおこなった学生のコメントです。

学勢調査

本学学生に対し、全学アンケート調査「学勢調査」を2年に1度実施しています。調査項目の設定、調査結果の集計、解析を学生スタッフ主導で行います。学生の視点で読み解いたアンケート結果を建設的な提言書として作成し、学長に直接、提出します。

伊藤龍寿さん(第6類 学士課程1年)

伊藤龍寿さん(第6類 学士課程1年)

学勢調査の活動報告をするにあたり、多くの方にご協力いただきました。誠にありがとうございます。学勢調査は外部との交流が少ないので、多くの方から意見をいただき貴重な機会となりました。このフォーラムでは、自分たちの活動を発信すると同時に他の団体についてよく知ることができたと実感しています。自身の活動をより磨きたいという思いが強まった有意義なフォーラムでした。

東工大学生ボランティアグループ(VG)

本学における学生ボランティア活動の拠点です。東日本大震災を機に結成されました。現在は主に災害復興支援に関わる活動や、大学近隣の地域住民との様々な交流活動、大学主催の防災訓練の手伝い等を行っています。

市村知輝さん(環境・社会理工学院 建築学系 学士課程3年)

市村知輝さん(環境・社会理工学院 建築学系 学士課程3年)

東工大VGは復興支援活動、防災活動、地域連携活動の3つを軸に活動している学内唯一のボランティア団体です。学生応援フォーラムは、活動内容を発表するうえで自分たちの各活動の意義やつながりを考え直すとても貴重な機会となりました。数多くの先生方、学生からいただいた様々な意見、他団体と共通の悩み、そして交流を通し生まれた新しいつながりを生かし、今後も充実した活動を続けていきたいと思います。

理工系学生能力発見・開発プロジェクト

学士課程学生を対象としたプロジェクトです。「創造性の育成、国際的リーダーの育成」を目的として、学外から講師を招き講義やシンポジウムを企画したり、中高生を対象に科学の面白さを伝えたり、学士課程のうちから学会に参加し見学しています。

吉見里奈さん(左)と後藤美奈さん
吉見里奈さん(左)と後藤美奈さん

吉見里奈さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程2年)

口頭発表を通して、理工系プロジェクトの活動を学外の方にも知っていただく良い機会となりました。また、この発表資料を作成する過程で、自分自身で活動の目的を明確にすることができました。他団体から刺激を受けることができ、新鮮でした。

後藤美奈さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程2年)

ふだん理工系プロジェクトとして活動していると、少人数であることも影響するのか、活動の幅を広げることが難しいと感じることがあります。しかしこのような機会によって、他の団体の活動内容から、様々な分野にわたる知識や独創的な発想を聞くことができました。ここで得たものはこれからの活動に還元していきたいと思います。

ピアサポーター

学生による学生のための相談活動です。主に学士課程新入生を対象に、履修を始めとする大学生活について様々な相談対応をしています。オープンキャンパスでは受験生の相談も受け付けています。

土山絢子さんと井澤和也さん
土山絢子さんと井澤和也さん

井澤和也さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程 2年)

ピアサポーターでは新入生と受験生、その保護者を主な対象として相談活動を行っています。年々相談件数が増え、昨年度は200人以上の新入生が利用しました。現在は相談活動が4月と5月、オープンキャンパスのときに集中していますが、年間を通して学生が相談に訪れることができるような環境づくりをしていきたいと思います。

土山絢子さん(理学部 地球惑星科学科 学士課程4年)

多くの学生が主体的に活動を行っている場に参加し、様々なジャンルの発表を聞いて大変刺激を受けました。フォーラムに参加し、ピアサポーターの活動をより多くの人に直接伝えることで自分たちのこれまでの活動を客観的に見直し、次年度以降の新しい活動につなげていくきっかけとなりました。

パネル発表

4活動の発表後、「Hult Prize Tokyo Tech(ハルトプライズ東京工業大学)」「キャンパスガイド」「図書館サポーター」「図書館サポーター謎班」「教育革新センターOEDO学生スタッフ」「東京工業大学国際交流学生会(SAGE)」「東工大海外研修企画団体(EPATS)」「立志会」「哲学研究会」「宗教を知る会」の10学生団体も加わり、パネル発表をおこないました。前回の学生応援フォーラムより新たな活動も増え、活発な意見交換の場となりました。

フォーラムは井村順一副学長(教育運営担当)の閉会の辞をもって終了し、その後、百年記念館1階へ会場を移して懇親会を開催しました。懇親会には益一哉学長も出席して開会挨拶をおこない、佐藤勲理事・副学長(企画担当)の乾杯発声で始まりました。懇親会場にはフォーラムのパネル発表で使用したポスターを移動して展示し、各学生活動の内容についても引き続き意見交換を行いながら、参加者間で活発に交流しました。

パネル発表をみながら活発に議論

パネル発表をみながら活発に議論

参加者の声

フォーラム参加者のアンケートには「自分の知らないところで多様な活動がおこなわれていることに気付けて良かった」「活動分野の異なる団体同士の交流ができて良かった」「多数の学生活動があるので連携や協力があればもっと面白くなると思う」「学生活動の最も難しいことの一つは継続である。どのグループも新しい活動を拡げることでモチベーションを高め、展開しているところが素晴らしいと思った」「『学生と教職員の協働』というキーワードが冒頭にあげられていたが、大学側も積極的にサポートしている印象を受けた」等の声が寄せられました。

司会の学生

以下はフォーラムで司会を務めた学生のコメントです。

吉田拓暉さん(第1類 学士課程1年)

吉田拓暉さん(第1類 学士課程1年)

初めのうちは1年生という事もあり、学生応援フォーラムについて何もわからない中で、とても大きな不安を感じておりました。しかし、先生方や一緒に司会を務めてくださった蛭田さん、各活動の学生さんたちに支えられて、何とかやり遂げることができました。このフォーラムがさらに盛り上がっていければよいなと思います。

蛭田彩人さん(物質理工学院 材料系 学士課程3年)

蛭田彩人さん(物質理工学院 材料系 学士課程3年)

学内外の関心のある方々に広く活動を認知していただくことがこのフォーラムでの最重要項目だと考えました。従って、司会を努めるにあたって最も気を付けたことは「活動団体と参加者の橋渡し」になることです。パネル展示や懇親会でも素晴らしい交流ができたため、私にとって大変満足のいくものになりました。

学生支援センター自律支援部門では、学生の主体性や社会性の涵養を目的とする学生活動を今後も支援していきます。

学生支援センター自律支援部門とは

当部門は、学生たちの自主性に基づいて企画・立案・実施され、学生間・大学・地域等に対して有益な活動を支援しています。学生の活動に教職員が協働して関与することで、学生が活動において壁に直面した時のフォローアップや、自律を促す指導・助言をおこなっています。

お問い合わせ先

学生支援センター自律支援部門

E-mail : siengp@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-7629

東工大自動車部 エビススーパー耐久レースで準優勝

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準優勝の表彰台で喜ぶ自動車部の三役(肩書は当時)。左から主務 池田拓弥さん(物質理工学院 材料系 修士課程2年)、主将 栗原遼大さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 博士課程1年)、副将 岡田陽太郎さん(物質理工学院 材料系 博士課程1年)

準優勝の表彰台で喜ぶ自動車部の三役(肩書は当時)。
左から主務 池田拓弥さん(物質理工学院 材料系 修士課程2年)、主将 栗原遼大さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 博士課程1年)、副将 岡田陽太郎さん(物質理工学院 材料系 博士課程1年)

東京工業大学自動車部は6月22日、エビスサーキット(福島県二本松市)で行われたエビススーパー耐久レース2019第2戦で準優勝しました。

1年に4回行われるこの耐久レースは同サーキット東コース(全長2,061メートル)を走ります。レース規則書によると、耐久時間の6時間を走り続け、コースの周回数の多いものが上位となります。東工大が参加したBクラスは、一般市販車両及びそれをベースとした改造車で、ナンバーなし車両です。BクラスとNクラス(ナンバー付き一般車両)合わせて今回は14台が参加しました。ゼッケン94の東工大チームは259周を走り、トップとの差14周で第2位に入りました。

自動車部はエビススーパー耐久レースに2006年から毎年、参加していますが、準優勝は初めてです。

出走したドライバーは以下の3名です。

栗原遼大さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 博士課程1年)、内山聡さん(工学院 機械系 修士課程2年)、牧野冬武さん(工学院 機械系 学士課程4年)

自動車部主将(本レース当時)、栗原遼大さんのコメント

学生大会ではないレースで、準優勝できたのは、自動車部のもつ総合力を発揮できたことによるものと思っています。

他のチームには資金面で劣る中で、私たちが持つ力は、車両製作における機械・電気・化学・材料といった工学をはじめ、レース戦略面において重要な情報通信ネットワークの構築、強固なチームワークとその運営のためのマネジメント、日々のフィジカルとメンタルのトレーニングや、レース中のドライバー・ピットクルーの心理ケアといった人間工学など多岐に渡ります。

レース当日は、特に技術面とチームワークによって、順位をあげていく展開となりました。

私は普段、社会基盤に対する長期的マネジメント手法に関する研究などを行っています。レースを通じて行う活動は、多くの学院・系で提供される豊富で充実した講義や、研究活動で得た知識の実践的な応用であると考えています。

引き続きモータースポーツに限らず、ものつくり活動などでも、よりレベルの高い活動を目指して参ります。

自動車部とは

工学技術の結晶である自動車を教材として位置付け、乗用車だけでなくバス・トラックやバイクなど様々な車両と、自動車分解整備工場として認証を受け継ぐ充実した環境で、様々な活動を行っています。

自動車の構造を理解し、整備を通して幅広い知識や安全運転の技術を学び、基礎理論とともに既存技術のライブラリを充実させます。

法令や産業構造など、「ものつくり」をとりまく社会を体系的に学びとることを目指します。

ものつくり活動では、ハイブリッド車や電気自動車の開発、モータースポーツでは、レースに参戦しています。

準優勝した車両を囲む自動車部員

準優勝した車両を囲む自動車部員

お問い合わせ先

東京工業大学 自動車部

E-mail : yukainanakamatachi@titac.jp

生細胞イメージングのための新しい分子ツールを開発

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要点

  • 細胞内の目的タンパク質に特定の抗体を融合させる「エピトープタグ」技術には、生細胞に用いることができないという問題があった。
  • 遺伝子コード型の抗体プローブ「Frankenbody」を開発し、生細胞でのエピトープタグ検出を実現。
  • 目的タンパク質を即時に可視化でき、タンパク質やRNA翻訳動態のイメージングへの広い活用を期待。

概要

コロラド州立大学のTimothy Stasevich(ティモシー・スタセビッチ)助教授(東京工業大学 科学技術創成研究院 WRHI[用語1] 特任准教授)の研究グループと東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの木村宏教授の研究グループ(上條航汰元大学院生、小田春佳学術振興会特別研究員、佐藤優子助教)の共同研究により、エピトープタグを生細胞において検出することができる、遺伝子コード型の抗体プローブ「Frankenbody(フランケンボディ)」が開発されました。

抗体が抗原表面のエピトープに結合するしくみを利用した「エピトープタグ」技術は、細胞内の様々なタンパク質の解析などに使われていますが、生きた細胞に用いることができないのが課題でした。今回開発された抗体プローブ「Frankenbody」は、生細胞に対してもエピトープタグ技術を利用することを可能にしました。目的タンパク質を直接標識する緑色蛍光タンパク質(GFP)では、蛍光を発するまで時間がかかりますが、Frankenbodyを使ったエピトープタグでは、目的タンパク質を即時に可視化することができます。

Frankenbodyはコスト面でも優れており、タンパク質やRNA動態のイメージングへの幅広い活用が期待されます。研究グループは今後、生細胞イメージングのツールとして用いることができる他の細胞内抗体の開発を目指しています。

この成果は2019年7月3日付でNature Communications誌に掲載されました。

研究の背景

抗体は、体内に侵入した病原を異物として検出する生体分子で、抗原(異物に含まれるタンパク質など)の表面に存在するエピトープと呼ばれる特異的な標的に結合することで機能します。抗体とエピトープは鍵と鍵穴のような関係にあると言えます。

このしくみを応用して、細胞内の様々なタンパク質に既知のエピトープを融合させ、そのエピトープと特異的に結合する抗体を用いてタンパク質を解析する「エピトープタグ」という技術が、自然科学の分野で広く用いられています。しかし、エピトープタグ技術を用いて細胞内のタンパク質の局在場所を検出するためには、細胞を化学的に固定する必要があり、生細胞内でのタンパク質動態解析[用語2]に適応できないのが課題でした。しかし、今回新たに開発された抗体プローブ[用語3]「Frankenbody」を細胞に発現させることにより、生きたままの細胞でエピトーブタグを融合したタンパク質を観察することが可能となりました。

研究成果

今回研究グループは、多くの研究者が簡便に利用できるよう、HAエピトープを標的とする、遺伝子コード型[用語4]の抗体プローブ「Frankenbody」を開発しました。ヒトインフルエンザウイルスタンパク質であるヘマグルチニン由来のHAエピトープは、9個のアミノ酸残基からなり、小さいために目的タンパク質の活性を阻害しにくいことから、これまでに広く用いられてきました(一方、緑色蛍光タンパク質(GFP)は、200個以上のアミノ酸残基から構成されており、その大きさはHAエピトープの20倍以上です)。しかしながら多くの場合、HAエピトープを結合したタンパク質は固定した細胞内においてのみ観察が可能でした。Frankenbodyを用いることで、HAエピトープを付加したタンパク質のダイナミクスを、生細胞において可視化することが可能になりました。

論文筆頭著者であり、研究の遂行に中心的な役割を果たしたStasevich研究グループの趙寧(Ning Zhao(ニン・ザオ))博士研究員は、この抗体プローブの名前の由来について、「Frankenbodyは、まるで体に新しい手足をつなぎ合わせるように、抗体の標的を特異的に認識する部位を、別の抗体の骨格に移植することで作製されました。これにより抗体の特異性を保ちながら、生細胞において機能できる抗体プローブの開発にこぎつけました」と述べています。抗体は本来、細胞の外へ分泌されるタンパク質なので、ほとんどの抗体は細胞の中では正しく立体構造を形成することができません。木村教授らは、多くの抗体を調べて細胞内で安定に機能する抗体の骨格を見つけ、Frankenbodyはこの抗体の骨格を利用して作られました。

Frankenbodyは、生細胞イメージングツールとして現在使われているGFPの短所を補う有用なツールとして期待されます。GFPは、目的タンパク質に緑色の蛍光タンパク質を遺伝的に融合し、可視化するツールとして広く用いられ、その発見と応用に対して2008年にノーベル賞が贈られました。しかし、GFPは分子サイズが比較的大きいことや、翻訳されてから蛍光を発するまでに時間を要することから、その利用が制限されることがありました。新たに開発されたFrankenbodyは、GFPに比べて非常に小さなエピトープを融合するだけで、目的タンパク質を即時に可視化することができます。これにより、目的タンパク質の誕生の瞬間をリアルタイムで捉えることも可能です。

今回発表された論文では、生細胞におけるタンパク質の1分子追跡、1分子RNA翻訳イメージング、そしてゼブラフィッシュ胚における蛍光増幅イメージングなどが実証されました。いずれの結果も従来の緑色蛍光タンパク質を融合する方法と比べ、より良い結果が得られました。

論文責任著者であるStasevich博士は、「我々は生細胞イメージングのツールとして用いることができる細胞内抗体の開発を目指しています。可視化したい目的タンパク質に結合する蛍光標識抗体を用いれば、目的タンパク質をGFPで直接標識する必要がなくなるからです」と、Frankenbodyの有用性を指摘しています。

遺伝子コード型のプローブであるFrankenbodyの可能性は無限大であり、また、コスト面でも優れているため、タンパク質やRNA翻訳動態のイメージングで広く活用されることが期待されます。趙博士研究員はFrankenbodyの強みについて、次のように述べています。「一般的な抗体は、作製にコストがかかるうえ、ロット間で特異性に差があるため、研究の際はこれらを考慮する必要がありました。しかし、Frankenbodyはプラスミドに遺伝的にコードされているため、そのような心配がなく、かつ他の研究グループへの配布も容易です」

Frankenbody による目的タンパク質のライブイメージング

図1. Frankenbody による目的タンパク質のライブイメージング


Frankenbody(緑色)により、核タンパク質、ミトコンドリア、ストレスファイバーや神経細胞膜タンパク質など、エピトープタグを付加したあらゆるタンパク質の局在を生細胞で観察できる。

今後の展開

本研究は東京工業大学 科学技術創成研究院 WRHIによる、コロラド州立大学と東京工業大学の共同研究の成果であり、今後も両研究グループの強みを生かした研究の発展が期待されます。

Stasevich博士は今後の展開について、「今回の成功をもとに、さらにいくつかの生細胞イメージングのツールをすでに開発しています。近い将来、皆様にお届けできることを楽しみにしています」と話しています。

スタセビッチ特任准教授(左)と木村教授(右)

スタセビッチ特任准教授(左)と木村教授(右)

用語説明

[用語1] WRHI : World Research Hub Initiativeの略。東京工業大学は世界的な研究成果とイノベーションの創出により「世界トップ 10 に入るリサーチユニバーシティ」を目指し、研究所・センターなどの研究組織を集約した科学技術創成研究院を設置し、世界の研究者と学内の若手を魅了する環境整備を行う研究改革を実施している。その一環として、2016年4月、研究院内に「Tokyo Tech World Research Hub Initiative(WRHI)」を立ち上げた。海外の優秀な研究者を招へいし、国際共同研究を推進する6年間のプロジェクト。新たな研究領域の創出、人類が直面している課題の解決、そして、将来の産業基盤の育成を目標に掲げ、「世界の研究ハブ」になることを目指している。

[用語2] タンパク質動態解析 : 生きた細胞の中や、溶液中でのタンパク質の挙動の経時変化を調べること。細胞内局在の変化や、標的への結合様式、生成・分解速度などを知ることができる。

[用語3] 抗体プローブ : 標的とする因子(タンパク質、糖、低分子化合物など)を可視化するために、抗体分子の抗原特異性を利用したもの。一般的に、抗体の抗原に対する特異性および親和性は非常に高く、また抗体分子は本来安定性の高いタンパク質であるため、可視化プローブとして優れている。

[用語4] 遺伝子コード型 : 目的のタンパク質を作るための遺伝暗号がプラスミドベクター等のDNAとして供与されること。 プラスミドベクターの細胞への導入は比較的容易であるため、遺伝子コード型プローブはペプチド型のものより応用範囲が広いといえる。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
A genetically encoded probe for imaging nascent and mature HA-tagged proteins in vivo
著者 :
Ning Zhao, Kouta Kamijo, Philip D. Fox, Haruka Oda, Tatsuya Morisaki, Yuko Sato, Hiroshi Kimura & Timothy J. Stasevich
DOI :

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東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター

教授 木村宏

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Tel : 045-924-5742 / Fax : 045-924-5973

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

原子スイッチ内部の金属フィラメントを「見る」ことに成功 究極のナノデバイスの機能向上に新指針

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要点

  • 原子スイッチ内部に形成される金属フィラメントを直接観測することに初めて成功
  • 原子スイッチの動作機構を原子レベルで解明することに成功

概要

東京工業大学 理学院 化学系の相場諒(博士後期課程2年)、木口学教授らのグループは、原子スイッチ[用語1]の電気特性を精密計測することで、スイッチ内部に埋もれていて、これまで確認できなかった金属のフィラメントを直接観測することに初めて成功した。

本研究では、銀・硫化銀・白金の3層構造の原子スイッチを作製した。このスイッチを極低温まで冷却し、電気特性を計測した。その結果、振動に由来する電気伝導度の微弱な変化から、振動エネルギーを実験的に決定できた。この振動エネルギーは、銀単体の振動エネルギーと一致し、原子スイッチ内に単体の銀のフィラメントが形成していることが明らかになった。

原子スイッチは、究極サイズの電子デバイスであり、加えて消費電力が少ない、不揮発性であるなど、既存の半導体スイッチにはない特性を多数有する次世代の電子デバイスである。原子スイッチの動作機構は、金属のフィラメントの形成と破断によって説明されているが、これまでは内部を直接確認することができず、フィラメントの組成は不明であった。本研究は、フィラメントが単体の金属であることを証明し、デバイス特性を最適化する原子スイッチの設計指針を与えた。本研究で得られた知見は、原子スイッチの動作機構の解明、機能向上へとつながる。

研究成果は2019年7月5日発行の「ACS Appl. Mater. Interfaces」にオンライン掲載された。

原子スイッチ内に形成される金属フィラメントの概念図

図. 原子スイッチ内に形成される金属フィラメントの概念図

背景

金属・イオン伝導体・金属の3層構造の原子スイッチは、究極サイズの次世代電子デバイスとして注目を集めている。動作機構としては、原子スイッチに電圧を与えると、電気化学反応によりイオン伝導体内に金属のフィラメントが形成されてスイッチがオンになること、逆の電圧をかけると、フィラメントが破断しスイッチがオフになることが知られている。金属フィラメントの形成と破断によって動作するため、状態保持に電源が不要であり、不揮発性のデバイスとしても注目を集めている。しかし、このフィラメントは、スイッチの動作機構に関わっていることは分かっているものの、原子スイッチのイオン伝導体層の内部に形成されていて直接観測できないため、金属単体なのか、電気を流す化合物なのかは不明であった。スイッチ内の金属フィラメントの組成を決定し、その全容を明らかにすることが、原子スイッチ研究の重要な課題となっていた。

研究成果

本研究では、銀・硫化銀・白金の3層構造の原子スイッチを用いて、極低温においてオン状態にある原子スイッチの電流―電圧特性を計測することで、振動スペクトル[用語2]を決定した。まず、銀線を硫黄の蒸気下に置き、表面を硫化させて硫化銀層を作製した。その上に白金線を置き、銀・硫化銀・白金の3層構造の原子スイッチを作製した(図1a)。図1bには、作製した原子スイッチの室温における電流―電圧特性を示す。最初のオフの状態から電圧を正に掃引すると、0.2 Vで電流が急に流れ始め(SET)、オンの状態になった。その後、そこから電圧を負に掃引すると、-0.25 Vで電流が急激に流れなくなり(RESET)、オフの状態になった。スイッチに加える電圧の極性および大きさにより、スイッチのオンオフを制御できていることがわかる。

スイッチを動作させることはできるが、SET電圧、RESET電圧が共に小さすぎるため、フィラメントの原子種を決定するための振動スペクトル計測を行うことができない。そこで、原子スイッチを冷却し、原子の運動を抑制することで、SET電圧とRESET電圧を共に±1 Vまで増加させた。

(a)銀・硫化銀・白金の3層構造の原子スイッチの構造モデル、(b)作製した原子スイッチの電流―電圧特性SETで伝導度の高いON状態になり、RESETで伝導度の低いOFF状態になる。
図1.
(a)銀・硫化銀・白金の3層構造の原子スイッチの構造モデル、(b)作製した原子スイッチの電流―電圧特性SETで伝導度の高いON状態になり、RESETで伝導度の低いOFF状態になる。

図2aには、オン状態における原子スイッチの振動スペクトルを示す。28 mVのところに急激な減少が観測され、28 meVの振動モードが存在することを意味している。比較のために、図2bに単体の銀のワイヤの振動スペクトルを示す。29 meVの振動モードが観測され、振動エネルギーが原子スイッチの振動モードの値と一致した。これから、オン状態のフィラメントが銀から構成されていることが実験的に明らかになった。

(a)オン状態における原子スイッチの振動スペクトル (b)銀単体のワイヤの振動スペクトル

図2. (a)オン状態における原子スイッチの振動スペクトル (b)銀単体のワイヤの振動スペクトル

振動スペクトル計測により、銀・硫化銀・白金の3層構造の原子スイッチでは、オン状態では銀のフィラメントが形成していることが分かった。次に、銀または銅、硫化銀または硫化銅、白金による3通りの原子スイッチで、同様にオン状態において振動スペクトルを計測した。その結果、銅・硫化銀・白金(図3b)および銀・硫化銅・白金(図3c)の組み合わせでは、先に実験した銀・硫化銀・白金(図3a)の組み合わせと同じ28 meVに振動モードが観測され、銀のフィラメントが形成していることが分かった。一方、銅・硫化銅・白金(図3d)の組み合わせでは、36 meVに振動モードが観測された。これは単体の銅のワイヤと同じエネルギーであることから、銅のフィラメントが形成していることが分かった。以上の結果から、電極金属と硫化物層はいずれも、金属フィラメントを構成する金属の供給源であることが分かった。さらに銀と銅では、銀の方が硫化物層内を動きやすいために、銀の金属フィラメントが形成されることが明らかとなった。

組み合わせが異なる原子スイッチにおける振動スペクトル。(a)銀・硫化銀・白金、(b)銅・硫化銀・白金、(c)銀・硫化銅・白金、(d)銅・硫化銅・白金の組み合わせ。
図3.
組み合わせが異なる原子スイッチにおける振動スペクトル。(a)銀・硫化銀・白金、(b)銅・硫化銀・白金、(c)銀・硫化銅・白金、(d)銅・硫化銅・白金の組み合わせ。

今後の展開

本研究は、これまで確認できなかった原子スイッチ内部の金属フィラメントを直接観察することに初めて成功した。また、フィラメントが化合物ではなく、単体の金属であることを明らかにした。さらに、電極金属のイオン伝導体層のいずれからも、フィラメントを構成する金属が供給され、イオン伝導体層内を動きやすい金属がフィラメントを優先的に形成することも明らかにした。つまり、原子スイッチの動作電圧は、スイッチの組成のなかで最も動きやすい金属種に依存することになる。原子スイッチでは、動作電圧を小さくすることは省電力につながる。一方、情報を読み出すときに電圧を与えるので、動作電圧が小さすぎると安定性が悪くなる。今回得られた知見は、原子スイッチの目的に合わせた、最適な金属種の選択の指針になる。これにより、より高性能な原子スイッチの開発、応用展開につながることが期待できる。

用語説明

[用語1] 原子スイッチ : 上部金属・イオン伝導体・下部金属の3層構造のナノ電子デバイス。上部金属には、電気化学反応によってイオン伝導体層にイオンが溶出する、銅や銀などの金属が用いられ、下部金属には安定な白金が用いられる。例えば、銀・硫化銀・白金からなる原子スイッチにおいて、銀電極に正の電圧を与えると、電極から銀イオンが溶出して、硫化銀内を拡散し、白金電極近傍で銀イオンが過飽和になる。その後、還元反応で生じた銀の結晶が成長して、最終的には銀のフィラメントが形成し、抵抗の小さなオンの状態になる。逆に銀電極に負の大きな電圧を与えると、フィラメントに電流が流れて破断し、抵抗の大きなオフの状態になると考えられている。原子スイッチは、微小サイズ、省電力性、不揮発性に加え、放射線損傷に強いという特徴も持っており、宇宙での実証実験も行われるなど応用が進んでいる。

[用語2] 振動スペクトル : 金属の微小接点を流れる電流の電気特性を利用して、金属ナノ構造体の振動情報を得る計測方法である。金属の微小接点の両端に電圧を与えると、電極間を流れる電子が、振動を励起することでエネルギーを失う非弾性散乱現象が起こる。この非弾性散乱によって、接点の電気伝導度が減少する。電圧が低い時には電子のエネルギーが低いために散乱が起こらず、一定以上の電圧を与えた時に散乱が起こる。つまり、電気伝導度が減少した時点のエネルギーを調べることで、振動エネルギーが決定できる。伝導電子と振動の相互作用は、接点の中の最も細い部分で最も頻繁に起こるため、この計測方法でも、その部分の振動情報が得られることになる。今回の実験では、金属ワイヤで最も細い部分はフィラメント部分である。したがって、本計測法はフィラメントを直接計測できたといえる。

論文情報

掲載誌 :
ACS Appl. Mater. Interfaces
論文タイトル :
Investigation of Ag and Cu Filament Formation Inside the Metal Sulfide Layer of an Atomic Switch Based on Point-Contact Spectroscopy
著者 :
A. Aiba, R. Koizumi, T. Tsuruoka, K. Terabe, K. Tsukagoshi, S. Kaneko, S. Fujii, T. Nishino, M. Kiguchi
DOI :
<$mt:Include module="#G-03_理学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

理学院 化学系

教授 木口学

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研究者・留学生向け英文メールニュース 「Tokyo Tech Bulletin No. 56」を配信

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アーティストとアートを体験するセミナー(2019年度前期) 開催報告

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セミナー風景

セミナー風景

東京工業大学 学生支援センター修学支援部門では、アーティストとアートを体験するセミナーを、5月9日、6月13日に本学大岡山キャンパス80年記念館2階会議室で開催しました。専門、国籍がさまざまな本学の学士・大学院生達が5月9日は23名、6月13日は19名参加しました。講師には、ベルリン国立芸術大学出身、現在はベルリンや東京を創作拠点としているアーティストのZuse Meyer(ツーゼ・マイヤー)氏をお迎えしました。5月9日はヴァン・ゴッホ、6月13日はパヴロ・ピカソがテーマで、両日とも、マイヤー氏によるレクチャー(英語及び日本語)のあと、学生達がアートの実習を行い、最後に全員でお互いの作品を鑑賞し、マイヤー氏による一人一人の作品への講評がありました。

このセミナーの目的は、芸術家の作品を現役アーティストが解説する講義を通して芸術への知識と洞察を得、その後、実習を通して参加者それぞれが独自の表現力を発見することです。マイヤー氏のお話をもとに先日行われたセミナーの様子をご紹介します。

5月9日:ヴァン・ゴッホ

両手でのデッサン
両手でのデッサン

レクチャーでは、ゴッホの短い伝説的な生涯が、それぞれの時期の作品や彼が過ごした場所の写真のスライドとともに紹介されました。とくに最後の2年間のゴッホのパワー、集中力はどこから生まれたのか、アーティストならではの解釈・解説がありました。その後、参加者たちは、ゴッホの風景や彼が過ごした南仏の写真にインスピレーションを得ながら、利き手、利き手でない手、最後は両手でデッサンと絵の制作を行いました。

利き手で描く絵は、意識的に制御され、テクニカル・スキルが勝る傾向が強くなりますが、利き手でない手で描くことによって、意識の制御がはずれ、描く人が持っている本来のパワーやアクティブさが絵に表れてきます。また、両手で描くことは右脳と左脳を同時に使うことになります。「アート、創造という観点で本質的に重要なことは、何かを真似たりテクニックを学んで商品をつくることではなく、自分を信じ、心で見て、新しい表現を創り出すことです。」とのマイヤー氏の言葉に参加者全員が惹き込まれました。

南仏の風景写真を見ながらクレヨンで作品作り
南仏の風景写真を見ながらクレヨンで作品作り

同じ写真を見て描いても、隣の人とは全く表現が異なることが分かる製作中の作品達
同じ写真を見て描いても、隣の人とは全く表現が
異なることが分かる製作中の作品達

6月13日:パヴロ・ピカソ

マイヤー氏によるパヴロ・ピカソについてのレクチャー

マイヤー氏によるパヴロ・ピカソについてのレクチャー

レクチャーの中では、パヴロ・ピカソの肖像画の紹介を通して、ピカソが、ある技法に留まり熟練するのではなく、常に新しく変化し、新しい表現を生み出し続けようとしたことが強調されました。多くのスライドの紹介を通じて、ピカソの類い稀な想像力、エネルギーと自由さにインスピレーションを得た参加学生達は、自らが自画像と肖像画の世界を旅しデッサンと絵を制作しました。

参加学生の作品(自画像、肖像画。それぞれ、鉛筆、クレヨン。右手で描かれたもの、左手で描かれたもの、両手で描かれたもの。)

参加学生の作品(自画像、肖像画。それぞれ、鉛筆、クレヨン。右手で描かれたもの、左手で描かれたもの、両手で描かれたもの。)

講評の様子
講評の様子

上の写真が、作品制作開始から2時間後の作品です。3時間前にここは何もない場所で、参加学生の彼や彼女が何を創造できるのか誰にも全くわかりませんでしたが、これだけのcreation(創作物)が生まれました。

「アートはオリンピックではないので全員が違っていて良いし、それぞれの作品にはそれぞれの良さがある」というお話に引き続き、全員の作品にマイヤー氏より、丁寧にコメントが加えられました。1枚の絵を全員が見て、アーティストのコメントを聞くことで、参加者全員が作品を見る新しい視点を得て、個人の多様性の豊かさに気づくことができました。

セミナー終了後のアンケートには、多くの「楽しかった」「有意義だった」「マイヤー先生への感謝」のコメントに加えて、以下のような感想がありました。

  • 自分の作風に自信が持てました。
  • いろいろ学んでから、実際にやってみるという流れがとても良かった。
  • セミナーの中では、両手と頭脳を使い続けた。両手と頭脳のすべてを使うことを学んだ。
  • 全員が活発にセミナーに参加し、美しい作品を創りあげた。
  • 同じ課題をこなしても、人によってまったく異なるタイプのアート作品になることを目の当たりにするのはすばらしい。
  • 参加する前は絵を描くのが得意でないことが心配だった。参加してみると、マイヤー先生はとても親切で、セミナーを通じて自分の認識を大きく変えることができた。
  • 新しいものの見方が増えたことが良かった。コメントしていただけるのがありがたかった。
  • 自分にとって今まで経験したことがない、全く新たな取り組みだった。
  • 自分の考え方、取り組み方に新しい発見があった。
  • 時間というか、描く時間で変わっていくのが楽しい。
  • 計画するよりも、やってみることを通じて創造を生み出されることが素晴らしい!
  • アートというコンセプトのセミナーのおかげで、自分の創造性を表現できたことに感謝します。
  • 講師の先生が、我々に、様々な方法で、自由にアートすることを促してくれることがうれしかった。
  • アートについて、自分自身について、考え、感じる機会は貴重。
  • 一人一人、違った見え方をしているのが面白い。

1回目の集合写真(テーマ:ゴッホ)
1回目の集合写真(テーマ:ゴッホ)

2回目の集合写真(テーマ:ピカソ)
2回目の集合写真(テーマ:ピカソ)

研究者個人の創造性の発揮は理工系の研究において重要な要素です。将来研究者や技術者になる学生達が、さまざまな切り口でそれぞれの創造性を涵養していけるよう、学生支援センター修学支援部門では、今後もこのような課外セミナーを積極的に開催していく予定です。

お問い合わせ先

学生支援センター修学支援部門

E-mail : concierge.info@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2760

未来シナリオから未来年表へ「第2回未来のシナリオを考えるワークショップ」を開催

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東工大未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、2018年9月に発足した新しい組織です。大学が設置した組織としては珍しく社会への貢献を第1の目的として掲げ、「豊かな未来社会像を学内外の多様な人材と共にデザインし、描いた未来へ至る道筋を提示、共有することで、広く社会に貢献すること」を活動目標としています。

まだ誰も見たことのない未来を、その実現に向けた道筋を示しつつわかりやすく提示するという課題は、予想よりはるかに困難なものでしたが、2018年度の活動により、東工大ならではの「東工大未来年表(仮称)」を作成し、そこから未来社会像を創出するという計画を立て、2019年度の取組を開始しました。

DLab最新動向

DLabは6月16日、東工大大岡山キャンパス西9号館において第2回「未来のシナリオを考えるワークショップ」を開催しました。5月18日のワークショップに続く第2弾で、前回作成した未来のシナリオをより精緻なものにすることと、新たなシナリオの追加が狙いです。

ワークショップの詳細については、以下の記事をご覧ください。

DLab構成員に聞く「DLabってどんなところ?」

人々が望む未来社会像を多様な視点で議論していくため、DLabには学内外から様々な経歴を持つ構成員が集まっています。なぜDLabの活動に参加することになったのか、今後の活動にどのような期待を持っているのかインタビューしました。構成員の紹介とともに、それぞれが思い描くDLabの姿をご紹介します。(肩書はインタビュー当時のもの)

バックキャストのアプローチに期待

DLab Team Create(チーム クリエイト)所属 山口雄輝
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 教授

1995年東京工業大学 生命理工学部 生体分子工学科卒業、1997年東京工業大学 大学院生命理工学研究科 修士課程修了、1999年東京工業大学 大学院生命理工学研究科 博士後期課程修了、2002年東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生命情報専攻 助手、2007年同助教、2009年同准教授、2013年同教授、2016年より現職

山口教授は、製薬メーカーの注目を集めている創薬の研究者です。生命科学を基盤として、基礎から応用まで幅広く研究を展開しています。良い薬を創ることで、大勢の人を救いたいという夢があり、DLabの活動でも、明るい未来につなげたいと夢を語ります。

DLab Team Create所属 山口雄輝さん
DLab Team Create所属 山口雄輝さん

私は研究者と同時に教育者でもあるわけですが、東工大の学生だけではなく一般社会に向けて、科学技術のおもしろさを伝えていかなければならないと常々感じています。数十年先がどうなっているかを考えることは、たとえば高校生に向けて、科学技術によって生まれる夢を考えてもらうことにつながるのではないでしょうか。

現在、薬剤の作用メカニズムの解明など創薬につながる生命工学の応用を研究しています。医者になることも考えましたが、一人の人間が救える命の数は限りがある。でも、良い薬を開発すれば、何万人も助けられる。そう考えて、将来は薬を創る研究をしようと道を決めていたのです。そして高校2年生のときに、東工大に新しい学部、生命理工学部の第7類(現在の生命理工学院の前身)ができると知って、それも一期生になれることに運命的なものを感じて志望しました。

いまよく耳にする言葉に「エピジェネティクス」があります。どの細胞も同じ遺伝情報を持っているのに、心臓や肺、肝臓など別々の細胞になれるのは、使う遺伝子と使わない遺伝子に目印をつけているからで、その目印を解明するのがエピジェネティクスです。生命科学の基本的な一分野であるのと同時に、この機能の異常が、がんをはじめとする様々な疾患と関係しているという点で、医学薬学研究で注目されています。つまり、基礎研究と応用研究と両方の側面があるわけです。この研究分野を通じて、子供のころの夢だった人の役に立ちたいという気持ちがよみがえって、徐々に創薬などの応用研究にも力を入れるようになりました。

明るく楽しい未来のためにも、東工大は理工系の総合大学として、ソリューションを提案、提供する存在になっていて欲しいと思います。科学技術は数十年もすると、多くの課題の答えが出てしまって、やることが少なくなってきているかもしれません。人の役に立つような研究をするためにも、やがてDLabが、いろいろな分野の専門家が集まるプラットフォームになっていればと期待しています。

東工大が考える未来を示したい

DLab Team Create所属 岡田健一
東京工業大学 工学院 電気電子系 教授

1998年京都大学 工学部 電子工学科卒業、2000年京都大学 大学院情報学研究科 修士課程修了、2003年京都大学 大学院情報学研究科 博士後期課程修了、2003年東京工業大学 精密工学研究所 助手、2007年東京工業大学 大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 准教授、2016年東京工業大学 工学院 電気電子系 准教授、2019年より現職

岡田教授は30GHz以上のミリ波帯を用いる無線技術の研究者です。スマートフォンの普及で、携帯端末で使うデータ量が爆発的に増加して、従来の周波数帯域では無線容量の増加に対応できなくなっています。ミリ波帯を使い遅延なく大量のデータをやりとりできるのは2030年頃と予測をし、そこに向かって開発を進めています。

DLab Team Create所属 岡田健一さん
DLab Team Create所属 岡田健一さん

DLabに参加して、分野の違う方、たとえばリベラルアーツ研究教育院の方たちと話をしていくと、感覚が大分違うと驚かされます。普段やりとりすることが多いのは、理工系の人。どうしても科学技術に対して、似通った視点になってしまう。非理工系の人と一緒に真剣に未来について考える場に加わるというのは貴重な機会であり、発見が多かったと思います。科学技術の向上で性能を上げることばかりを目指すのではなく、しかるべき未来の姿に向けて世の中を良い方向に変えていくという考え方が大切だ、と感じました。

未来社会の視点で私の研究分野を考えてみると、従来のマイクロ波はいろいろなサービスで使われてしまっていて、もう空いているスペースはなく、速度を上げられない。ミリ波の利用というのは、必ず訪れる未来なのです。ただ、ビームフォーミングというミリ波でビームの向きを変えるという技術は、実際に登場してもこれまでに使われたことがなく、使いやすくなるのは6G世代、いまから10年後になっているかもしれない。まさにDLabのように、未来から逆算して動いています。

DLabで大切なのは、東工大が考えている未来とは何かをまずは示すこと、そしてその場にもっといろいろな教員が入って来る場を作ることでしょうね。参加してみて思ったのは、実際に自分で考える側に回らないと、未来に対する意識が芽生えないということです。DLabには、東工大の学生や教員が参加する場をベースとして、そこから社会を巻き込んでいくようなプラットフォームを作っていくことを期待しています。

理工系と文系が融合する面白さ

DLab Team Create所属 鼎信次郎
東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系 教授

1994年東京大学 工学部 土木工学科卒業、1996年東京大学 大学院工学系研究科 修士課程修了、1999年東京大学 大学院工学系研究科 博士後期課程修了、同年東京大学 生産技術研究所 助手、2003年東京大学 生産技術研究所 講師、同年東京大学 総合地球環境学研究所 助教授、2007年東京大学 生産技術研究所 准教授、2009年東京工業大学 大学院情報理工学研究科 情報環境学専攻 准教授、2013年東京工業大学 大学院理工学研究科 土木工学専攻 教授、2016年より現職

鼎教授の主要な研究テーマは「水」です。なかでも私たちの生活に欠かせない淡水について、もともと専門であった「河川工学」の知見を生かし、現地調査と人工衛星からの情報をベースにした大規模シミュレーションを行っています。今世紀末までの自然と人間社会の両方の変化を考慮した「地球温暖化による世界の洪水リスク変化」に関する論文を発表するなど、日頃から未来社会に焦点をあてた研究を行っています。

DLab Team Create所属 鼎信次郎さん
DLab Team Create所属 鼎信次郎さん

私の研究分野では、未来について考えることが頻繁にあります。みなさんがご存知の通り、環境問題における最悪のシナリオでは、CO2や温室効果ガスが多く排出され、大雨洪水がひどくなったり、グリーンランドの氷が溶けるといった未来が予想されています。10年から15年後には、スマートフォンで、大雨や洪水、災害の情報がリアルタイムで分かるようになり、たとえば2週間はひどい雨が続くといったようなことが簡単に分かるようになると考えられます。なぜかと言えば、地球の周りには小型から大型まで多くの人工衛星が飛んでいて、そこから得られるデータがどんどん解析されているからです。

すでに天気予報では、日本に居ながらにしてロンドンの天気や雲の様子が分かるなど、世界各地のデータが得られます。ところが、河川が氾濫しそうだとか、農地がどれだけ湿っているかとか、地下水がどのように汲み上げられているかなどはまだ分かりません。しかしこれらも、データ解析の研究を進めることで、たとえば今年は大干ばつでオレンジの収穫は難しいといったようなことが予想できる時代が近づいています。

DLabでは、理工系だけでなく文系の先生たちも前面に出て来てくれているので、今後、たとえば宗教学の立場から引っ張っていってもらうとどんな話が出るのかなど、とても興味深いです。世間では東工大は理工系の大学だと思われていますが、トップクラスの文系の先生方がこれだけいて、DLabに携わっているというのは面白い融合だと思うんですよね。「あれ、理工系の大学だったんじゃないの」と言われるような成果を出せたらと期待しています。

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お問い合わせ先

総務部企画・評価課総合企画グループ

E-mail : kik.sog@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2011


藤井正明教授がフンボルト賞受賞

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ハンス=クリスティアン・ペープ・フンボルト財団理事長(右)から賞状を授与される藤井正明教授。ベルリン・シャロッテンブルク宮殿で。

ハンス=クリスティアン・ペープ・フンボルト財団理事長(右)から賞状を授与される藤井正明教授。ベルリン・シャロッテンブルク宮殿で。

東京工業大学科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の藤井正明教授が、ドイツの国際学術賞、フンボルト賞を受賞しました。授賞式は6月27日、ベルリンのシャルロッテンブルク宮殿で行われ、藤井教授はアレキサンダー・フォン・フンボルト財団のハンス=クリスティアン・ペープ理事長から賞状を授与されました。

フンボルト賞の賞状
フンボルト賞の賞状

フンボルト賞は、ドイツ政府の国際的学術活動機関であるアレキサンダー・フォン・フンボルト財団が創設した賞で、人文、社会、理工の分野において、後世に残る重要な業績を挙げ、今後も学問の最先端で活躍すると期待される国際的に著名な研究者に対して授与されるものです。ドイツで最も栄誉のある賞とされています。

今回の受賞の対象となった主な研究は、分子クラスターのピコ秒時間分解振動分光並びに気相分光の生体分子システムへの応用です。前者は光化学反応初期課程である溶媒再配向運動や基本的な光化学反応である水素原子・プロトン移動反応を赤外スペクトルの時間変化により初めて直接リアルタイムで測定することに成功した研究です。後者はこれら気相レーザー分光の特長を生かして生体分子の分子認識機構解明に対して新たな方法論を提示したことが評価されたものです。

フンボルト賞受賞について藤井教授は次のようにコメントしています。

アレクサンダー・フォン・フンボルト先生・生誕250周年の記念すべき年にフンボルト賞を頂戴し、感激と深い感慨に浸っております。これも共に日夜研究を進めてくれた石内俊一准教授、宮崎充彦助教(現 特定准教授)、酒井誠准教授 (現 岡山理科大学教授)、歴代の博士研究員と学生の皆さん、そして長年の共同研究者であり、本賞を推薦してくださったオットー・ドッファー先生(ベルリン工科大学教授、本学WRHI特任教授)のおかげと心から感謝申し上げます。このような研究成果を得られたのは本学の研究を重視する精神と環境整備の賜物であり、 現学長であり初代科学技術創成研究院院長・益一哉先生、現院長・小山二三夫先生、久堀徹先生をはじめとする歴代の化学生命科学研究所所長の先生方、生命理工学院院長・三原久和先生、そして関係する先生方に深く感謝申し上げます。最後に、私を存分に研究させてくれた家内(今日子、2010没)といつも元気付けてくれる子供たちに感謝申し上げます

推薦者のベルリン工科大・オットー・ドッファー教授(本学WRHI特任教授)と藤井教授。授賞式レセプションで。

推薦者のベルリン工科大・オットー・ドッファー教授(本学WRHI特任教授)と藤井教授。授賞式レセプションで。

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加速度センサーの高感度化・低ノイズ化に成功 従来比で感度100倍以上、ノイズ10分の1以下

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要点

  • 積層メタル構造によりMEMS加速度センサーの高感度化・低ノイズ化に成功
  • 超小型加速度センサーの高分解能化・汎用化を実現
  • 医療やインフラ診断、移動体制御、ロボットなど様々な分野をレベルアップ

概要

東京工業大学の益一哉学長(科学技術振興機構(JST)ナノエレクトロニクスCREST代表者)らとNTTアドバンステクノロジは複数の金属層で形成される積層メタル構造を用い、超低雑音・超高感度特性を有するMEMS[用語1]加速度センサーの開発に成功した。従来のMEMS技術では困難だった1マイクロ(μ)Gレベル(G=9.8 m/s2、重力加速度)の高分解能の検知を実現した。

超小型加速度センサーの高分解能化・汎用化における革新的な技術であり、医療・ヘルスケア、インフラ診断、移動体制御、ロボット応用など様々な動き検知用途において新しいデバイス・システム開発につながると期待される。

同研究グループはこれまでに金材料を用いてMEMS加速度センサーの錘(おもり)を10分の1以下に小型化する手法を提案。この実績をもとに今回はMEMS構造を複数の金の層を重ねて形成することで面積あたりの錘質量を増やし、従来の同サイズセンサーに比べて感度を100倍以上に向上、ノイズを10分の1以下に低減することに成功した。

研究成果は国際学術論文誌「Sensors and Materials(センサーとマテリアル)」に掲載され、2019年7月23日にオンライン公開された。

NTTアドバンステクノロジ株式会社
本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長:木村丈治氏、事業内容=トータルソリューション、セキュリティ、クラウド・IoT、AI×ロボティクスなど。

研究成果

東工大とNTTアドバンステクノロジの研究グループはこれまで、金材料を用いてMEMS加速度センサーの錘を10分の1以下に小型化する手法を提案している。今回はこの技術をさらに発展させて、複数の金属層から形成される積層メタル構造を錘やばねに用いることで、超低雑音・超高感度特性を有するMEMS加速度センサーを開発した。

具体的には図1に示すように、複数の金の層を重ねて錘を形成することで、面積あたりの錘質量を増やし、錘質量に反比例するノイズ(ブラウニアンノイズ)を低減した。さらに、その錘の反りを低減することで、4 mm角チップ面積を最大限利用した静電容量センサーを実現し、感度(加速度あたりの静電容量変化)を増大した。試作したデバイスの全体写真および拡大した電子顕微鏡写真を図2に示す。

以上の結果、図3に示すように、従来の同サイズセンサーと比較して感度100倍以上、ノイズ10分の1以下を達成した。これにより、超小型センサーによる1 μGレベルの検出の見通しを得た。MEMS作成には半導体微細加工技術と電解金めっきを用いており、集積回路チップ上に今回開発したMEMS構造を形成することも可能である。したがって、超小型加速度センサーの高分解能化・汎用化技術として期待できる。

デバイス断面構造

図1. デバイス断面構造

試作デバイス写真

図2. 試作デバイス写真

ノイズと感度の性能比較

図3. ノイズと感度の性能比較

背景

加速度センサーはスマートフォンなどの民生市場や社会インフラ全般のモニタリング用途の拡大に伴い、今後も大幅な需要増加が見込まれる。これらの小型・量産可能な加速度センサーでは、製造プロセスが確立したシリコンMEMS技術が広く普及している。

しかし、加速度センサーの機械構造に由来する雑音は可動電極(錘)の質量に反比例するため、サイズ小型化と低雑音化にはトレードオフが生じた。さらに感度はおおよそサイズに比例するため、サイズ小型化と高感度化にもトレードオフが生じる。加速度センサーの高分解能化には低ノイズ・高感度性能が必要なため、従来の小型シリコンMEMS加速度センサーでは1 μGレベルの検出が困難であった。

今後の展開

超小型・高分解能の加速度センサーを実現することは、多種多様な動き検知用途でブレークスルーとなり得る。人体行動検知による医療・ヘルスケア技術、振動検知によるインフラ診断、ロボットの超精密制御・超軽量化、移動体制御、GPSが利用できない場所での自動航行制御システムの実現、超低加速度の振動モニタリングが必要な宇宙環境計測など様々な分野に応用できる。

また近い将来、あらゆるモノに大量のセンサーを配置する時代の到来が予想されており、その際に動作検知の最も基本となる加速度センサーの超小型化と高分解能化を実現する本技術は極めて有効であるといえる。

用語説明

[用語1] MEMS(Microelectromechanical Systems、微小電気機械素子) : 半導体微細加工技術を利用して製造したマイクロメートル寸法の三次元電子・機械デバイスの総称。現在、民生用加速度センサーの大半はシリコンを材料としたMEMS素子で作製されている。

論文情報

掲載誌 :
Sensors and Materials
論文タイトル :
A MEMS Accelerometer for Sub-mG Sensing
著者 :
Daisuke Yamane, Toshifumi Konishi, Teruaki Safu, Hiroshi Toshiyoshi, Masato Sone, Katsuyuki Machida, Hiroyuki Ito, and Kazuya Masu

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所

助教 山根大輔

E-mail : yamane.d.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5031 / Fax : 045-924-5166

NTTアドバンステクノロジ株式会社

グローバル事業本部 プロダクトインキュベーションセンタ

E-mail : sensor@ml.ntt-at.co.jp
Tel : 046-270-3682 / Fax : 046-250-3871

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

NTTアドバンステクノロジ株式会社

経営企画部コーポレート・コミュニケーション部門

担当:加藤・須貝

E-mail : inquiry@ml.ntt-at.co.jp

陸上部大学院チームが関東インカレ男子3部で総合3位

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東工大陸上競技部の大学院チームが、5月23日から26日にかけて相模原ギオンスタジアム(神奈川県相模原市)で行われた第98回関東学生陸上競技対校選手権大会(関東インカレ)の男子3部において、総合3位を獲得しました。

4×400mR決勝 ラストでごぼう抜きしたアンカー芝江さんのガッツポーズ

4×400mR決勝 ラストでごぼう抜きしたアンカー芝江さんのガッツポーズ

関東学生陸上競技対校選手権大会は男子1部・2部・3部(大学院・専攻科の部)に分かれて行われ、今回、本学が総合3位となった男子3部には21大学が出場しました。
男子3部では1位3点、2位2点、3位1点の配点となっており、東工大大学院チームは12点を獲得しました。4×100mリレー決勝(益田一毅さん、永島唯哉さん、高橋知也さん、真田知幸さん)と4×400mリレー決勝(高橋知也さん、永島唯哉さん、大塚雄介さん、芝江柾葵さん)では1位でゴールインし各3点を勝ち取りました。さらに、200m決勝、110m障害決勝で2位になるなど、短距離種目を中心にポイントを積み上げました。

4×100mR決勝 3走・高橋さんから4走・真田さんへ

4×100mR決勝 3走・高橋さんから4走・真田さんへ

大学院主将 永島唯哉さんのコメント(工学院 機械系 修士課程2年)

本大会成績

110mH 第2位

4×100mR 第1位

4×400mR 第1位

私は振動音響の研究をしており、ゼミや学会など、学業の面も忙しく、どうしても満足な練習時間を確保できないこともしばしばです。そんな中でも、院生チーム全体でこのような成績を残せたのは指導教員の理解や協力、さらには蔵前工業会の皆様のご支援あってこそのものです。学部時代(2部)では総合入賞など夢のまた夢であった本大会ですが、3部という新しいステージで他の強豪校と十分に戦えるようになり、総合3位という結果を残せたことに大きな喜びを感じています。今後は3部での総合優勝、そして学士課程学生も総合入賞を目指せるチームに成長していくと信じています。ご支援ご声援のほどよろしくお願い致します。

陸上競技部の紹介

私たち東工大陸上競技部は関東インカレ、各対校戦、箱根駅伝予選会などの大会に向け、自己記録の更新、チームの入賞を目標に日々練習に励んでいます。監督、コーチからの指導のもと、各々が理想とするパフォーマンスを思い描き、選手同士がそれに向けたアプローチを議論し、実践できる環境ができています。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Tel: 03-5734-2975

E-mail: media@jim.titech.ac.jp

物質・情報卓越教育院 学生の成果報告会を開催

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2019年4月に大学院教育プログラムとして本格的に始動した物質・情報卓越教育院(TAC-MI)は6月28日、大岡山キャンパス蔵前会館で、学生の成果報告会を開催しました。

この春から本教育院に登録した学生20名が研究発表を行いました。本プログラムの連携協力機関である企業関係者や本教育院のプログラム担当者、学生など、学内外から約70名の参加があり、これまでの研究成果と今後の物質と情報を融合させた研究への発展等について活発な意見交換を行いました。

オーラル・ショートプレゼンテーション

成果報告会の前半は、物質・情報卓越教育院の山口猛央教育院長が開会挨拶の後、一杉太郎副教育院長の進行により、博士後期課程1年の登録学生9名によるオーラル・ショートプレゼンテーションを行いました。企業関係者からも活発な質疑があり、学生にとっても自身の研究をアピールする良い機会となりました。

オーラルショートプレゼンテーションの様子

オーラルショートプレゼンテーションの様子

ポスターセッション

成果報告会の後半は、修士課程1、2年生を含めた登録学生20名全員によるポスターセッションを行いました。企業関係者や企業プログラム担当者は学生一人一人のポスターをじっくりと見て回り、ポスターを囲みながら、参加者と学生による活発な意見交換が行われました。

ポスターセッションの様子

ポスターセッションの様子

学生にとってはいつもとは違う雰囲気の研究成果説明の場でした。研究内容が高いレベルを保っており、物質系と情報系の研究室間でのラボ・ローテーションの成果を盛り込んだ発表もあり、企業関係者は熱心に説明を聞いていました。「難しい研究テーマに取り組まれているので驚きました」「プレゼンテーション力がありますね」「明るく活発なところが印象に残りました」との感想が後日、企業関係者から寄せられています。

ラボ・ローテーション 本教育院では異分野特定課題研究として、物質科学を専門とする学生は情報科学を研究する研究室に、情報科学を専門とする学生は物質科学を研究する研究室に、2週間滞在して研究(ラボ・ローテーション)を行います。

ポ物質・情報卓越教育院(TAC-MI)2019年度春期登録学生20名

物質・情報卓越教育院(TAC-MI)2019年度春期登録学生20名

「物質×情報=複素人材」を育成する卓越した博士教育がスタート

物質・情報卓越教育院(TAC-MI)は、本学から申請した2018年度卓越大学院プログラム『「物質×情報=複素人材」育成を通じた持続可能社会の創造』が文部科学省に採択されたことにより、2019年1月に設立されました。

本教育院では、複眼的・俯瞰的視点から発想し、新社会サービスを見据え、情報科学を駆使して独創的な物質・情報研究を進める「複素人材」を産業界とともに育成します。

詳しくは物質・情報卓越教育院HPをご覧ください。

お問い合わせ先

物質・情報卓越教育院事務室

E-mail : tac-mi@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2943

生命誕生に欠かせない「区画化」の新たな起源 ポリエステル微小液滴による膜不要の区画化

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要点

  • 初期地球環境での生命誕生には、外界と生命体を隔離する「区画化」が必須と考えられている。
  • 単純な構造のαヒドロキシ酸から形成されるポリエステルの微小液滴が「区画化」の役割を担えることを実験的に示した。
  • 膜ではないポリマー液滴による「区画化」は初期生命発生の新たなモデルとなると期待される。

概要

東京工業大学 地球生命研究所(以下ELSI)のTony Z. Jia(トニー・ズィ・ジャー)研究員、マレーシア国民大学およびプラハ化学技術大学のKuhan Chandru(クーハン・チャンドゥルー)研究員、沖縄科学技術大学院大学の本郷やよいリサーチユニットテクニシャン(研究当時・ELSI研究員)らの研究グループは、生命誕生以前の始原的な地球環境において、比較的単純な分子を原料に形成されるポリエステルの微小液滴が、分子や反応を周辺環境から「区画化」することで、生命へと向かう分子進化の重要な段階を担っていた可能性を、実験によって初めて明らかにしました。

本研究では、αヒドロキシ酸(以下αHA)水溶液を加熱乾燥すると容易にポリエステルへと重合し、このポリエステルは水系溶媒に再溶解させると直径数十マイクロメートル程度の微小な液滴を形成することを示しました。さらに、この微小液滴は、pHやイオン強度の変化に応じて合体したり、再攪拌により再び微小液滴に解離し、蛍光色素やRNA、たんぱく質を選択的に内部に隔離する性質を持つことを確かめました。

生命には、遺伝物質や代謝反応に関わる分子の散逸を防ぎ、反応を選択的に駆動させるための、周辺と自己を隔てる区画化が必要です。現生生物では脂質二重膜からなる細胞膜がこの役割を担っていることから、生命起源研究ではこれまで主に脂質膜の起源に焦点が当てられてきました。しかし、脂質膜がなくとも初期地球環境条件下で比較的容易に生じるポリマーの微小液滴が始原的な隔壁の役割を担えた可能性が本研究で明らかになりました。今後、生命誕生以前に分子や複雑な化学反応系がどのように局在し合体しながら生命へと進化したのかを解明する上で、微小液滴による区画化は新たな実験モデルとなると期待されます。

なお、本研究成果は米国東部標準時 2019 年7月22日公開の米国科学アカデミー紀要 (PNAS)の電子版に掲載されました。

研究の経緯

従来の生命起源研究では、現生生物の有する主要な分子がいつどのように生じ、どのような過程で生命の誕生へと結びついたのかが注目され、現生生物の細胞膜を構成する脂質類が「区画化 (compartmentalization)[用語1]」の機能を担う分子として研究の主な的となってきました。一方、本研究の共著者であるChandruらは以前より、初期地球環境で重合化する可能性のある分子として、本研究でも用いられた5種類のαヒドロキシ酸[用語2](以下αHA)を挙げていました。本研究グループは、生命の出現以前に存在したと思われる、より多様な非生命分子が予期せぬ形で化学反応系の進化に寄与した可能性に着目しました。実験では、単に重合反応を追跡するだけでなく、得られたゲル状の凝縮相の物性に着目して、再懸濁後の微小液滴を詳しく顕微鏡観察した結果から、膜によらない、水溶液に漂う液滴による分子や反応の区画化という仮説にいたりました。

Chandru K, et al. (2018) Simple prebiotic synthesis of high diversity dynamic combinatorial polyester libraries. Communications Chemistry 1(1). doi:10.1038/s42004-018-0031-1.

研究成果

研究グループ(図1)は、単純な構造の5種類のαHAの水溶液をそれぞれ80度で加熱乾燥すると、様々な重合度のポリエステルが生じることを質量分析により確認しました。また5種類のαHAのうち、比較的親水性の高いグリコール酸を原料とした場合を除き、重合物であるポリエステルはゲル状の凝縮相を形成しました。これを水・アセトニトリル混合溶媒に再溶解させると、直径数十マイクロメートル程度の微小液滴が生じることが確かめられました(図2)。αHAは、生命誕生以前の初期地球環境や類似環境を持つ他の天体にも遍在するとされています。水の存在下での分子の加熱乾燥と重合、その後の再溶解は、初期地球環境中でも十分起こり得る過程の一つです。以上の実験結果は、生命誕生以前の多様な化合物が混在した環境中で、様々な分子量サイズのポリエステルが生じ、水中で微小液滴として自己集積していた可能性を示唆します。

図1. 地球生命研究所(ELSI)の研究グループは、グリコール酸や3-フェニル乳酸のような単純な有機化合物が、加熱による乾燥とその後の再溶解によってポリエチレン類へと重合し、細胞サイズの微小液滴へと自己組織化することを明らかにした。加熱乾燥と再溶解は初期地球環境において海辺や水たまりのような場所で起こりえたと考えられている。
図1.
地球生命研究所(ELSI)の研究グループは、グリコール酸や3-フェニル乳酸のような単純な有機化合物が、加熱による乾燥とその後の再溶解によってポリエチレン類へと重合し、細胞サイズの微小液滴へと自己組織化することを明らかにした。加熱乾燥と再溶解は初期地球環境において海辺や水たまりのような場所で起こりえたと考えられている。
図2. αヒドロキシ酸を加熱乾燥して得られたゲル、およびゲルの再溶解で生じる微小液滴(光学顕微鏡写真)。
図2.
αヒドロキシ酸を加熱乾燥して得られたゲル、およびゲルの再溶解で生じる微小液滴(光学顕微鏡写真)。

この実験で形成された微小液滴には、水溶液中で合体したり消失したりするダイナミックな性質が見られました。しかし、液滴を含む水溶液の温度を90度まで上昇させたり、水で10倍に薄めたりしても、液滴は完全には消失しませんでした。また実験では、環境中で起こる水溶液の性質の変化に対して、微小液滴がどれほど耐えられるかを調べました。αHA水溶液そのものはもともと酸性ですが、ポリエステル微小液滴を含む水溶液を弱い塩基性(pH8)にしたり、塩などを加えイオン強度を増したりすると、液滴同士が合体することが観察されました。一旦合体した液滴は、再度撹拌すると再び微小液滴になることも分かりました。このような現象は、リン脂質や脂肪酸からなる膜小胞では比較的起こりにくいものです。膜ではない液滴でこうした現象が起こるということは、区画化されたミクロスケールの系どうしが、容易に分離したり再構成されることを意味します。そうした区画の分離や再構成を通じて、反応や化合物が隔離や結合を繰り返すことは、初期生命に至る反応系の進化を促進するためには都合が良かったと考えられます。

さらに、3-フェニル乳酸を重合させたポリエステルの微小液滴は、蛍光色素分子や蛍光標識化RNA、蛍光タンパク質が液滴内に選択的に取り込みました(図3)。さらに、両親媒性[用語3]の脂質を外側に集積させることも明らかになりました。蛍光標識化RNAと蛍光タンパク質は液滴内部に区画化された後も、その触媒機能や構造を保つことも確認されました。

以上から、初期地球環境では、αHAのような単純な構造の分子の混合物から、多彩な表現型(フェノタイプ)のポリマーが生じ、それらが微小液滴を形成することによって、膜を形成せずとも周辺から物質や反応を隔てる機構となり得た可能性があります。これは、区画化を必要条件とする生命起源の研究において、分子や反応系の進化を説明する新たなモデルになります。

図3. 再溶解後の水中に生じたポリエステル微小液滴が蛍光色素を取り込み、区画化を実現している(蛍光顕微鏡写真)。
図3.
再溶解後の水中に生じたポリエステル微小液滴が蛍光色素を取り込み、区画化を実現している(蛍光顕微鏡写真)。

今後の展開

水中に、水とは相容れない性質であるポリエステルの微小液滴ができると、水溶液中では起こりにくい反応が液滴内部の疎水性環境を利用して駆動される可能性があります。溶液条件の変化に伴い、微小液滴同士が合体と解離、再結合を繰り返せば、そうした反応同士が連結したり、組み替えられたり、さらには区画化された液滴同士で反応間のネットワークを生み出せる可能性もあります。またポリエステル微小液滴には、外側に両親媒性分子の層を形成する特徴的な性質が見られたことから、今後、脂質とポリエステル液滴を合わせた研究への発展も期待できます。

これまでの生命起源研究では、混合物の複雑な動的化学反応を実験的に取り扱うことは容易ではありませんでした。しかし、本研究で得られたようなポリマーからなる微小液滴間の力学を利用すれば、様々なスケールで区画化された複雑系の化学反応を扱うことができるようになり、生命発生の起源を説明する新たなモデル実験に利用できると考えられます。こうした微小液滴が、様々な生体高分子を利用した生命起源モデル構築への足がかりとなることが期待できます。

用語説明

[用語1] 区画化 (compartmentalization) : 境界、隔壁によって生命の内部を外部環境から隔てること。現在の生命は、脂質膜を使ってエネルギーや物質を外部と交換しつつも、遺伝物質や代謝物を内部に止まらせる複雑な区画化を行っている。

[用語2] αヒドロキシ酸(αHA) : カルボキシル基の隣の炭素(α炭素)が水酸基を有する酸の総称。本実験では、比較的構造が単純な乳酸、グリコール酸、3-フェニル乳酸、2-ヒドロキシ-4-メチルスルファニルブタン酸、ロイシン酸の5種類のαヒドロキシ酸が用いられた。

[用語3] 両親媒性 : 水に溶けやすい「親水基」と油に溶けやすい「親油(疎水)基」の両方を持つ分子の性質。

論文情報

掲載誌 :
米国科学アカデミー紀要(PNAS: Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America
論文タイトル :
Membraneless Polyester Microdroplets as Primordial Compartments at the Origins of Life
著者 :
Tony Z. Jia, Kuhan Chandru, Yayoi Hongo, Rehana Afrin, Tomohiro Usui, Kunihiro Myojo, H. James Cleaves II
DOI :

お問い合わせ先(英語のみ)

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)

研究員 Tony Z. Jia(トニー・ズィ・ジャー)

E-mail : tzjia@elsi.jp
Tel : 03-5734- 2708 / Fax : 03-5734- 3416

お問い合わせ先(日本語のみ)

沖縄科学技術大学院大学 神経進化ユニット

リサーチユニットテクニシャン 本郷やよい

E-mail : yayoi.hongo@oist.jp

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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