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ヒストンタンパク質の翻訳後修飾の可視化に成功 エピジェネティックマークを色で観察する細胞内抗体プローブ開発

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要点

  • ヒストン修飾の生細胞でのカラー計測に成功
  • 従来の細胞内局在変化を利用するプローブより明瞭な信号変化
  • 遺伝子活性化の可視化プローブとして、創薬などへの応用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の上田宏教授と鍾蝉伊(ショウ・ゼンイChung, Chan-I)研究員(研究当時)、木村宏教授らの研究グループは、ヒストンタンパク質[用語1]の特定の翻訳後修飾[用語2]ヒストンH3タンパク質の9番目リジンのアセチル化、H3K9ac[用語3])を生細胞内の蛍光色変化として可視化する技術の開発に成功した。

細胞内抗体[用語4]と蛍光タンパク質間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)[用語5]を用いてH3K9acをその蛍光波長変化として直接検出する細胞内抗体プローブH3K9ac FRET-mintbody[用語6] を開発し、生きた細胞をライブイメージングすることに成功した(図)。抗原に結合することによる細胞内抗体の微妙な構造変化と、二つの蛍光タンパク質同士の距離と配向の変化により、FRET効率が顕著に向上するプローブを構築できたと考えられる。

細胞内でDNAと結合しているヒストンタンパク質の翻訳後修飾は、遺伝子の働きを制御する重要な役割を果たしている。その中でヒストンH3のアセチル化修飾は遺伝子活性化の目印として働くと考えられており、発生や分化、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の形成過程で大きく変動することが知られていたが、これまで生きた細胞内でその修飾量の変化を蛍光色で観察する技術は報告されていなかった。

この成果は7月15日に英科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィックレポーツ)」にオンライン掲載された。

内在性のH3K9acを蛍光色変化として検出する細胞内抗体プローブH3K9ac FRET-mintbodyの模式図(上)と、ヒストン脱アセチル化阻害剤トリコスタチンA (TSA)添加の有無によるプローブ発現細胞の蛍光色変化(下)

図. 内在性のH3K9acを蛍光色変化として検出する細胞内抗体プローブH3K9ac FRET-mintbodyの模式図(上)と、ヒストン脱アセチル化阻害剤トリコスタチンA (TSA)添加の有無によるプローブ発現細胞の蛍光色変化(下)

研究成果

ヒストンH3タンパク質9番目リジンのアセチル化(H3K9ac)特異的抗体の可変領域を、両側に蛍光色の異なる2種類の蛍光タンパク質を融合させた一本鎖可変領域抗体(single-chain variable region fragment, scFv)として細胞に発現させ、 蛍光共鳴エネルギー移動型細胞内抗体プローブ(fluorescence resonance energy transfer type modification-specific intracellular antibody, FRET-mintbody)を作製した。

試行錯誤ののち、哺乳動物細胞内とその細胞抽出液を用いて構築したFRET-mintbodyがH3K9acに特異的に結合して蛍光色を変化させることを確かめた。さらに、生細胞内でのH3K9acレベルのカラーライブイメージングに成功した。この結果、同条件での蛍光観察において、mintbodyの細胞内局在変化よりも大きな色(2波長での蛍光強度比)変化を、より簡便かつ正確に定量する事に成功した。

背景

多細胞生物の体を構成する細胞では個々の細胞に特有の遺伝子が活性化している。この遺伝子発現制御には、エピジェネティック制御が重要であることが示されてきた。エピジェネティック制御とは、DNA配列の変化を伴わずに起こる遺伝子発現の制御であり、DNAのメチル化やDNA結合タンパク質であるヒストンの翻訳後修飾などにより引き起こされる。

ヒストン修飾は細胞分化過程やシグナル応答などの発現遺伝子がダイナミックに変化する際に可逆的に変化するため、特に重要な役割を果たすと考えられている。H3K9acは、がん化などの細胞増殖制御に関わる遺伝子発現活性化に関与することが報告されており、筆者のうち木村教授らは、ヒストンのアセチル化亢進に伴うプローブの細胞質から核への局在変化を指標とするH3K9ac-mintbodyプローブをすでに開発していた。しかし、この変化を蛍光色変化として検出できるプローブは開発されていなかった。

研究の経緯

タンパク質の翻訳後修飾の検出法としては、細胞を固定した後に修飾特異的抗体[用語7] を反応させる方法が最もよく用いられている。しかし翻訳後修飾の役割をより詳細に理解するためには、生きた細胞でダイナミックに変化する修飾を個々の細胞単位で調べる必要がある。木村教授らのグループはこれまで、各種修飾特異的抗体由来の生細胞プローブを開発し、生きた細胞の中で起こるヒストンタンパク質の翻訳後修飾を、蛍光顕微鏡を用いて観察するシステムを樹立してきた。

特に抗体の可変領域を蛍光タンパク質融合型scFv[用語8]として細胞内に発現させたプローブmintbodyは、遺伝子改変動物の個体レベルの解析などに応用可能であったが、修飾に伴うプローブの細胞内局在変化を検出する原理のため、蛍光強度の変化が少なく定量的評価のためには核と細胞質での蛍光定量を厳密に行う必要があった。

そこで今回、蛍光抗体プローブ構築を専門とする上田教授らにより、抗体可変領域がH3K9acに結合する事で蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するプローブの構築が試みられた。この結果、同条件での蛍光観察において、脱アセチル化阻害剤トリコスタチン添加によるmintbodyの細胞内局在変化よりも大きな色(2波長の蛍光強度比)変化を、より簡便に検出することに成功した。さらにこの変化のライブセルイメージングに成功した。

今後の展開

ヒストンの化学修飾はDNA配列の変化を伴わずに起こる遺伝子発現の制御であるエピジェネティクスで重要な役割を果たしており、なかでもヒストンのアセチル化修飾は遺伝子活性化の目印として注目されている。本研究により得られたH3K9 FRET-mintbodyにより、より高い精度で生細胞での解析が可能となり、この修飾の新たな側面が見いだされることが期待できる。また、本成果は今後、他の細胞内在性抗原検出のための抗体プローブ構築の指針になると期待される。

用語説明

[用語1] ヒストンタンパク質 : 真核生物のクロマチン(染色体)を構成する主要なタンパク質。

[用語2] 翻訳後修飾 : タンパク質は細胞内で生合成された後、アセチル化、メチル化、リン酸化など様々な化学修飾を受ける。細胞内のほとんどのタンパク質はこれらの修飾により機能や活性が調節されている。

[用語3] ヒストンH3タンパク質の9番目リジンのアセチル化(H3K9ac) : 一般的にヒストンがアセチル化されると、クロマチンと DNA の結合が緩み、転写因子が結合しやすくなって遺伝子発現が増加する。特にH3K9acは、活性化された遺伝子のエンハンサーおよびプロモーター領域で検出される。このようなアセチル化はヒストン・アセチルトランスフェラーゼ(Histone acetyltransferase; HAT)とヒストン脱アセチル化酵素(Histone acetylase; HDAC)によって調節されている。

[用語4] 細胞内抗体 : 本来細胞外タンパク質である抗体はジスルフィド結合が形成されない細胞内では天然の構造を形成しづらい。そのため今回は天然抗体に変異を導入し、細胞内でも安定な構造をとって機能する抗体を選択し利用した。

[用語5] 蛍光共鳴エネルギー移動 : 近接した二つの蛍光色素間を、無放射的にエネルギーが移動して励起した色素の蛍光波長が減衰し、通常より長い波長の蛍光が観察される現象。正確にはフェルスター共鳴エネルギー移動(Förester Resonance Energy Transfer, 短くFRET)と呼ばれる。今回は蛍光色素として細胞で発現可能な2種類の蛍光タンパク質(水色のCFPと黄色のYFP)を用いた。

[用語6] FRET-mintbody : FRET(fluorescence resonance energy transfer=蛍光共鳴エネルギー移動)、Mintbody(Modification specific intracellular antibody=修飾特異的細胞内抗体)

[用語7] 修飾特異的抗体 : 修飾されたアミノ酸を含む配列を特異的に認識して結合する抗体。修飾部位とその前後数残基を含むペプチドを抗原として動物を免疫し、作製することができる。

[用語8] 蛍光タンパク質融合型scFv : 一本鎖抗体scFvに通常1個の蛍光タンパク質を融合させたもの。蛍光によりその細胞内局在を観察できる。Mintbodyにおいてはヒストン修飾の増加に伴い、ヒストンがある核に局在するMintbodyの割合が増加する。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Intrabody-based FRET probe to visualize endogenous histone acetylation
著者 :
Chan-I Chung1,5, Yuko Sato2, Yuki Ohmuro-Matsuyama1, Shinichi Machida3, Hitoshi Kurumizaka3,4, Hiroshi Kimura2 & Hiroshi Ueda1
所属 :
1Laboratory for Chemistry and Life Science, Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology
2Cell Biology Center, Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology
3Laboratory of Structural Biology, Graduate School of Advanced Science & Engineering, Waseda University
4Present address: Institute for Quantitative Biosciences, The University of Tokyo
5Present address: Department of Pharmaceutical Chemistry, University of California San Francisco
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 上田宏

E-mail : ueda@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5248 / Fax : 045-924-5248

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


井村副学長が在英日本大使館を訪問 インペリアル・カレッジ・ロンドンとの学生交流プログラムで

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英国を訪問した東京工業大学の井村順一副学長(教育運営担当)は6月13日、ロンドンの日本大使館で岡田隆特命全権公使と面談しました。井村副学長は、本学協定校であるインペリアル・カレッジ・ロンドンと東工大博士後期課程の学生交流プログラム(インペリアルー東工大グローバルフェローズプログラム)が6月10日から14日までロンドンで行われたのに合わせて訪英し、最終報告の審査に先立ち、大使館を訪問しました。

岡田公使は様々な国際会議に出席した経験から次のように話し、インペリアル・カレッジと東工大の交流プログラムに期待を表明しました。

岡田公使(右)と井村副学長
岡田公使(右)と井村副学長

近年、「技術」が社会に与える影響はますます大きくなり、これまではTechnology(テクノロジー)といったキーワードが中心だったものが、Democracy(デモクラシー)、Sustainability(サステイナビリティ)といった理系と文系の枠を超えた問題への関心が高まっていることを実感しています。私が大学で国際関係論を専攻した当時の理工系の状況と比べ、現在の理工系の分野ではより幅広い領域を学ぶことができるようになってきています。また、日本政府もSociety(ソサエティ)5.0(超スマート社会)など様々な取り組みを行っていますが、こうした取り組みについても、日本の若者がひとつの専門にとどまらない広い視点をもって、将来の社会に向かって活躍してもらうことを希望しています。そうした社会の動きの中で、今回開催されるインペリアル・カレッジと東京工業大学のプログラムも、日本の学生が英国での教育研究に積極的に参加する機会のひとつとして成功していくことを願っています。

岡田公使との面談後、インペリアル・カレッジの日本人研究者も加わり会食の場で歓談しました。日本、アメリカ、英国の大学で医療に携わってきた高田正雄教授は、各国大学の違いや、インペリアル・カレッジが世界有数の大学になった経緯について、様々なエピソードを交えて話しました。また、田中玲子シニア・レクチャラーは、以前は井村副学長と同じ制御工学を専攻されていたこと、インペリアル・カレッジでは生命工学に集中していること、日本とは異なる英国の大学研究室での学生指導などについて話しました。二人は、インペリアル・カレッジと東京工業大学の学生交流プログラムが継続していくことは、英国と日本の大学院生の交流と将来の共同研究の良いモデルになると述べました。

同大使館の小川浩司一等書記官(科学技術担当)には、特別講演の講演者や日本学術振興会ロンドン研究連絡センターへの紹介など協力していただきました。また、大使館訪問と会食には東工大 環境・社会理工学院 社会・人間科学系の金子宏直准教授が出席しました。

(左端から)金子准教授、田中シニア・レクチャラー、井村副学長、高田教授、岡田公使、小川一等書記官

(左端から)金子准教授、田中シニア・レクチャラー、井村副学長、高田教授、岡田公使、小川一等書記官

お問い合わせ先

学務部 留学生交流課 交流推進第1グループ

E-mail : intl.sgu@jim.titech.ac.jp

「第56回外国人研究者へのオリエンテーション及び外国人研究者等との懇談会」開催報告

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東京工業大学は7月16日、第56回外国人研究者へのオリエンテーション及び外国人研究者等との懇談会を大岡山キャンパス東工大蔵前会館で開催しました。外国人研究者とその家族や受入れ教員等を含め、25ヵ国から99名が参加しました。

外国人研究者との懇談会は、学長主催により本学で教育・研究に従事している外国人研究者を招き、本学の教員及び各国の研究者の親睦を深めることを目的として、1991年から年2回開催されているイベントです。また2010年からは、本学に関する理解を深める機会としてオリエンテーションも併せて実施しています。

オリエンテーションでは、益一哉学長による大学紹介があり、その後のQ&Aセッションでは、益学長と佐藤勲理事・副学長(企画担当)、水本哲弥理事・副学長(教育担当)、渡辺治理事・副学長(研究担当)、藤野公之理事・副学長(財務担当)・事務局長の5名が回答者として登壇しました。参加者からは、大学のダイバーシティや財務に関する質問や意見があり、学長をはじめとする執行部がユーモアを交えながら、大学の現状や今後の課題について回答しました。

オリエンテーションでの益学長による大学紹介
オリエンテーションでの益学長による大学紹介

Q&Aセッションで参加者からの質問に答える執行部
Q&Aセッションで参加者からの質問に答える執行部

懇談する学長(左)
懇談する学長(左)

続いて場所を移して行われた懇談会では、水本理事・副学長の開会の辞、渡辺理事・副学長の乾杯挨拶に始まり、外国人研究者3名によるスピーチでは、自身の研究の概要や東工大での研究活動が語られました。終始和やかな雰囲気の中で交流が深められ、最後は環境・社会理工学院の中井検裕学院長による閉会の辞をもって終了しました。

次回はすずかけ台キャンパスで2020年2月7日に開催予定です。

懇談する水本理事・副学長(中央)と外国人研究者
懇談する水本理事・副学長(中央)と外国人研究者

懇談会の様子
懇談会の様子

集合写真
集合写真

お問い合わせ先

国際部 国際事業課 国際基盤グループ

E-mail : iad.events@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7690

低電圧高輝度ペロブスカイトLEDを実現 記者説明会を開催

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7月17日、元素戦略研究センターの細野秀雄栄誉教授、金正煥助教による記者説明会を大岡山キャンパスにて行いました。説明会には、7媒体、8名が出席しました。

元素戦略研究センターでは、希少元素に対する資源不安を回避するために、ブレークスルーとなる材料の創出の研究開発を行っています。今回の記者説明会では、新しく開発した亜鉛(Zn)、シリコン、酸素からなるアモルファスZn-Si-O(a-ZSO)という仕事関数(1)が小さく、しかも電子の移動度の大きな透明半導体を電子輸送層として利用することで、低電圧で高輝度のペロブスカイト(2)LEDが実現可能になったという研究成果について説明がありました。

記者説明会の様子

記者説明会の様子

開発のポイント

テレビやスマートフォンなどのディスプレイとして有機EL(エレクトロルミネッセンス)が普及してきました。有機ELは自己発光型で高い画質を提供できるという魅力があります。一方で、寿命が短く、駆動電圧が高いといった課題があり、新たな発光材料の研究開発が進められています。

ディスプレイに求められる性能として、高い解像度とありのままの色を再現できることがあげられます。色の再現性の観点から、ペロブスカイトLEDが注目されています。ペロブスカイトLEDは、高い色純度とともに、製造に溶液プロセスが使えるという利点もあります。

現在、多くの研究者が低次元ペロブスカイトの研究を行っているのに対し、細野栄誉教授と金助教は光でなく電流を注入して発光させるLEDの場合には、電子と正孔が移動しやすい3次元ペロブスカイトの方が適していると考え、電極から発光層に電子を注入するのに適した半導体であるa-ZSOと隣接させてペロブスカイトLEDを作製しました。

作製した緑色のLEDは、2.9Vで10,000 cd/m2、5Vで500,000 cd/m2の輝度を達成しました。通常のスマートフォンの最大輝度は400 cd/m2程度ですので、驚異的な明るさであることがわかります。

元素戦略研究センターの概要を説明する細野栄誉教授
元素戦略研究センターの概要を説明する細野栄誉教授

ペロブスカイトLEDについて説明する金助教
ペロブスカイトLEDについて説明する金助教

今後の展望

現状では、緑色と赤色に関しては高輝度を達成できていますが、青色については、まだ改善の余地があります。今回明らかにした概念は非常に有効であることがわかりましたので、これを応用して新たな材料を開発することで、次世代のLED誕生につながると期待できます。

(1)仕事関数

物質内の電子を外に移すのに必要な最小エネルギーの値。金属表面からの熱電子放出や、電場による電子放出は、仕事関数の大きい金属ほど起こりにくい。

(2)ペロブスカイト

ペロブスカイト構造は結晶構造の一つ。さまざまな原子が組み合わさった構造をしており、光吸収や電荷輸送促進などの性質をもつため、LEDとしての使用が検討されている。

資料

お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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藻類のオイル生産を制御する因子を同定 有用脂質生産の自在制御に向け大きな一歩

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要点

  • 藻類はリンや窒素などの欠乏時に細胞内にオイルを高蓄積
  • 藻類で栄養欠乏時に起こるオイルの高蓄積を制御する制御因子を発見
  • 制御因子の改変により、オイル生産を自在に制御する仕組みへの活用に期待

概要

東京工業大学 生命理工学院のNur Akmalia Hidayati(ヌル・アクマリア・ヒダヤティ)博士後期課程3年、堀孝一助教、太田啓之教授、下嶋美恵准教授、岩井雅子特任助教と京都大学 福澤秀哉教授、東北大学 大学院情報科学研究科 大林武准教授、かずさDNA研究所 櫻井望チーム長(現所属・国立遺伝学研究所)らの研究グループは、バイオ燃料をはじめとする有用脂質生産に活用が期待される藻類の一種「クラミドモナス[用語1]」で、リンや窒素の栄養欠乏時に起こるオイルの蓄積を制御する因子の同定に成功した。またこの制御因子は、特に栄養欠乏時の細胞内にオイルが大量に蓄積する時期に機能する主要な制御因子であることも突き止めた。

今回、種々の藻類で広く見られる栄養欠乏時のオイルの大量蓄積を制御する制御因子を見出したことで、明らかになった脂質蓄積の制御の機構や制御因子自体を、藻類で生産する有用脂質の種類や生産の時期を自在にコントロールするための仕組みづくりに活用することが期待される。

藻類はリンや窒素などの栄養欠乏時に細胞内にオイルを多量に蓄積することが広く知られている。この仕組みの解明が藻類で様々な有用脂質を自在に生産するための大きな手掛かりになると考えられていた。

研究成果は7月27日発行の英国科学雑誌「プラント ジャーナル(The Plant Journal)」に掲載された。

(注)この研究は、科学研究費基盤研究A、科学技術振興機構 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA) 「ゲノム編集による革新的な有用細胞・生物作成技術の創出」研究領域(研究総括:山本卓(広島大学教授))における研究の一環として行った。

研究の背景と経緯

これまで石油資源から生産されている様々な有用脂質を、光合成を行う藻類や植物で生産するバイオ燃料などで代替して製造し、石油資源への高い依存から脱却することが期待され、世界中で研究が進められている。中でも藻類は単位面積あたりの生産性が高いことや食用作物と競合しないという利点を持つ。

藻類が作り出すオイル(油脂、トリアシルグリセロール)は液体燃料として直接転用可能な原料となり、単位容積あたりのエネルギー効率も高いことから、ディーゼル燃料や航空燃料の代替として最適なバイオマスと期待されている。とりわけ、藻類はリンや窒素の欠乏時に細胞内に多量のオイルを蓄積することが広く知られており、その仕組みの解明に向けた研究が行われてきた。

藻類の栄養欠乏時におけるオイル蓄積を制御する仕組みを解明することができれば、その知見や制御を担う因子を活用することで、藻類で様々な有用脂質を適当な時期に自在に生産するシステムを構築することができると期待されている。しかし、特に栄養欠乏時のオイルの蓄積が顕著になる時期に油脂合成を制御する制御因子はこれまで全く同定されておらず、藻類の応用を見据えた基礎研究の推進が急務となっていた。

研究成果

太田教授らの研究グループは、モデル藻類のクラミドモナスを用いてオイル合成の最終段階を担う酵素「ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)[用語2]」の遺伝子の一つであるDGTT1[用語3]と同調的に遺伝子の発現が起こる転写因子の候補を網羅的に探索[参考1]した。その中から、特にリン欠乏条件移行後のオイルが大量に貯まる時期に強く発現する転写因子LRL1(Lipid Remodeling reguLator1)[用語4]の遺伝子を候補として見出し、解析をした。

LRL1の機能を明らかにするため、京都大学福澤研究室と共同で、遺伝子の発現が抑制された変異体を1ライン単離し、またクラミドモナスの遺伝子変異体のライブラリからLRL1の機能が抑制された変異体をもう1ライン単離して、それらの性質を詳細に解析した。その結果、変異体ではいずれもリン欠乏時にみられるオイルの蓄積が大きく抑制されていることが分かった。

さらにこれらの変異体では、栄養が十分ある際には細胞分裂が促進されて細胞のサイズが小さくなること、栄養が欠乏すると逆に細胞の増殖が抑制され、野生型に比べて細胞の色がやや薄緑色になることなどが分かった。またリン欠乏時に細胞内で不足したリンを生体膜のリン脂質から切り出して補い、リン脂質の代わりにリンを含まない糖脂質などを合成するリン欠乏時の膜脂質転換[用語5]と呼ばれる仕組みにも異常が起こっていることが分かった。

LRL1がこれらの現象に関わる遺伝子を直接制御しているかどうかを明らかにするため、タバコの葉を利用した遺伝子の一過的な発現系を用いて、藻類の転写因子が、藻類の膜脂質転換に関わる遺伝子を直接制御しているかどうかを解析した。その結果、LRL1は、クラミドモナスに存在する別の転写因子(bHLH2)と二つの転写因子の結合を促進するタンパク質(TTG1)と共同することで、リン欠乏時に起こるダイナミックな脂質代謝の変動を直接制御していることが明らかになった。

また、LRL1は、リン欠乏応答の早期に関わる転写因子として広く知られるPSR1[用語6]と同様な遺伝子を制御するが、PSR1とは異なり、リン欠乏のみならず窒素欠乏時にも発現が誘導されることから、栄養欠乏時の比較的後期に顕著にみられるオイルの蓄積や細胞分裂の抑制を制御する重要な制御因子であると考えられる。

今後の展開

今回の研究成果により、藻類の栄養欠乏時に広く見られるオイルの蓄積や膜脂質転換など脂質代謝の大きな変動(脂質転換)を制御する重要な制御因子の存在が明らかになった。今後、今回明らかになったLRL1の機能の仕組みやLRL1自体の活用により、藻類で大量生産が望まれる様々な有用脂質を必要な時期に自在に誘導蓄積する仕組みの構築が可能になることが期待される。

LRL1変異体ではリン欠乏時の生育が抑制される。

図1. LRL1変異体ではリン欠乏時の生育が抑制される。

上図:LRL1の二つの変異体、lrl1-1lrl1-2のタグ挿入部位、下図:リン欠乏時の培養の様子。lrl1-1lrl1-2では、いずれもリン欠乏時の細胞の増殖が抑制され、培養液がやや薄緑色になる。

LRL1の二つの変異体のオイルの蓄積と細胞サイズの変化

図2. LRL1の二つの変異体のオイルの蓄積と細胞サイズの変化

赤:葉緑体のクロロフィル蛍光 緑:油滴

リン欠乏条件(-P)への移行後、野生型(C9とCC4533)では細胞のサイズが肥大し、オイルの蓄積に伴い油滴の肥大や数の増加が起こるが、二つの変異体lrl1-1lrl1-2では、オイルの蓄積が抑制され、細胞のサイズも小さい。

リン欠乏時におけるLRL1の機能のモデル

図3. リン欠乏時におけるLRL1の機能のモデル

LRL1は、他の転写因子bHLH2や、制御因子の連結に関わる因子TTG1と共同してリン欠乏応答遺伝子の発現誘導に直接働いていることが明らかになった。

用語説明

[用語1] クラミドモナス : モデル藻類として様々な研究に用いられる単細胞性の緑藻。窒素やリンの欠乏時に細胞内にデンプンとオイルを多量に蓄積することから、栄養欠乏時のオイル蓄積の研究のモデルとしても広く用いられている。

[用語2] ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT) : 植物や藻類、動物など様々な生物でオイル(triacylglycerol,TAG)の合成の最終段階を担う重要な酵素。TAGの合成の前駆体であるジアシルグリセロール(グリセロール骨格に脂肪酸が2つエステル結合したもの)にさらにもう一つ脂肪酸を結合させる反応を触媒する。大きく分けてDGAT1とDGAT2の2つのタイプがある。

[用語3] DGTT1 : クラミドモナスには、5種類のDGAT2遺伝子が存在し、その中で、特に窒素やリンの欠乏時に遺伝子の発現が著しく上昇する遺伝子。

[用語4] LRL1(Lipid Remodeling reguLator1) : クラミドモナスで今回見出されたMYB型と呼ばれる転写因子の一種。MYB型の転写因子は藻類や植物、動物に広く存在することが知られており、それぞれの生き物で特定の代謝系の制御などを行うMYB型転写因子が多数存在する。それらの生き物では、MYB型転写因子をはじめとする種々の転写因子などの制御のネットワークにより、複数の代謝系や様々な生理現象が巧妙に維持されている。

[用語5] リン欠乏時の膜脂質転換 : 藻類や植物のリン欠乏時には細胞内に不足したリンを補うため、生体膜の主要構成成分であるリン脂質を分解して細胞内にリンを供給するとともに、リン脂質の代わりとしてリンを含まない糖脂質やベタイン脂質などを用いることで、リンの欠乏時への適応を行っている。また、リン欠乏時や窒素欠乏時には、細胞の増殖を抑制するとともに、栄養が十分に得られるようになった時に迅速に対応できるよう光合成で得られた余剰の炭素を貯蔵脂質(トリアシルグリセロール、オイル)として蓄積する。このような脂質代謝の変動は、生体膜とは異なり細胞質の脂質で起こるため、栄養欠乏時における膜脂質転換と合わせて「栄養欠乏時の脂質転換」と呼ばれている。

[用語6] PSR1 : リン欠乏時に起こる様々な現象を制御する中心的な制御因子。LRL1と同様MYB型の転写因子に属するが、LRL1とはサブグループが異なる。PSR1はR1型MYB、LRL1はR2R3型MYBのサブグループにそれぞれ属する。

参考情報

[1] 2016年に大林准教授、太田教授らが共同で開発した共発現データベースALCOdbを活用したものである。
Aoki Y, Okamura Y, Ohta H, Kinoshita K, Obayashi T. ALCOdb: Gene Coexpression Database for Microalgae. Plant Cell Physiology, 57, e3 (2016)

論文情報

掲載誌 :
The Plant Journal
論文タイトル :
LIPID REMODELING REGULATOR 1 (LRL1) is differently involved in the phosphorus-depletion response from PSR1 in Chlamydomonas reinhardtii
著者 :
Hidayati, Nur Akmalia; Yamada-Oshima, Yui; Iwai, Masako; Yamano, Takashi; Kajikawa, Masataka; Sakurai, Nozomu; Suda, Kunihiro; Sesoko, Kanami; Hori, Koichi; Obayashi, Takeshi; Shimojima, Mie; Fukuzawa, Hideya; Ohta, Hiroyuki
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系
教授 太田啓之

E-mail : hohta@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5736 / Fax : 045-924-5527

京都大学 大学院生命科学研究科 微生物細胞機構学分野
教授 福澤秀哉

E-mail : fukuzawa@lif.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-4298 / Fax : 075-753-9228

東北大学 大学院情報科学研究科
准教授 大林武

E-mail : obayashi@ecei.tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-7161 / Fax : 022-795-7179

国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJセンター
特任准教授 櫻井望

E-mail : sakurai@nig.ca.jp
Tel : 055-981-6895 / Fax : 055-981-9448

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東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

京都大学 総務部広報課 国際広報室

E-mail : comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
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東北大学 大学院情報科学研究科 広報室

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低電圧高輝度ペロブスカイトLEDを実現

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要点

  • 高性能ペロブスカイトLED実現に向けた新概念を提案
  • 新アモルファス酸化物半導体で、励起子をペロブスカイト層内に閉じ込める
  • 5 Vで500,000 cd/m2の緑色発光素子を実現

概要

東京工業大学 元素戦略研究センターの沈基亨大学院生、金正煥助教、細野秀雄栄誉教授らは、近年、新たな発光材料として注目を集めているペロブスカイト型ハロゲン化物を用い、低電圧駆動で超高輝度のペロブスカイトLED(PeLED)[用語1]の開発に成功した。電極からのキャリアの注入と発光層内での移動の両方を促進するという新たなアプローチでLEDの高性能化を達成した。

開発したアモルファスZn-Si-Oは、CsPbX3[用語2] の伝導帯下端よりも浅い位置に伝導帯下端を持つことで励起子の閉じ込めが可能で、しかも高い電子移動度により効率的な電子注入が期待できる。この指針により作製されたCsPbBr3の緑色発光素子は2.9 Vで10,000 cd/m2[用語3]、5 Vで500,000 cd/m2に及ぶ低電圧超高輝度を実現した(電力効率は33 lm/W[用語4])。さらに赤色発光素子では20,000 cd/m2の世界最高輝度が得られた。この成果はPeLEDの実用化に向けた新たな方向性を提案するものである。

CsPbX3は発光中心となる励起子の束縛エネルギーが小さいので、非発光型遷移[用語5]が起こりやすく、低い発光効率の原因と考えられていた。そのため量子閉じ込め効果を持つ低次元の発光材料[用語6]が専ら研究されてきた。しかし、低次元材料は電子や正孔が動きにくく、電流注入での発光効率が高くなりにくいという問題が生じる。今回の研究ではCsPbX3を発光層とし、これに適した電子輸送層を用いることで、電極からのキャリア注入と発光層内での移動の両方を促進する新たなアプローチでLEDの高性能化を狙った。

研究成果は文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>によって得られたもので、7月30日(現地時間)に米国応用物理学会「Applied Physics Reviews」に掲載された。

研究の背景

近年、スマートフォーンやテレビなどに有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイが急速に普及しつつある。有機ELは自己発光型で低温プロセスなどを特徴としており、高い画質やフレキシブルエレクトロニクスなどの観点で非常に魅力的である。しかし、短い寿命や高い駆動電圧などの弱点を伴うことが問題とされており、新たなEL用発光材料の探索が広く行われている。

ペロブスカイト型ハロゲン化物(CsPbX3、ここではX=Cl、Br、I)は、その候補として新たに注目を集めている発光材料であり、高い色純度や溶液プロセスで作製が可能などを特徴とする。近年は量子閉じ込め効果を有する低次元系のハロゲン化物が多く研究されており、従来の三次元構造のCsPbX3よりも優れたEL特性が得られるといった例が多数報告されている。

このような背景から、低次元性材料>3次元材料という関係式が当然視されている。しかし、これには非常に重要な事実が見逃されている。発光材料の評価として一般的に用いられるのは蛍光量子効率(PLQY)[用語7]である。従って、量子閉じ込め効果を有する低次元材料が高いPLQYを示すのが一般的である。しかしながら、このPLQYは光で励起した際の発光効率の値であり、電極から電子と正孔を注入して、発光体のなかで再結合して光らせるEL素子に適しているかどうかは別の話である。

つまり、いくら高いPLQYを有する発光材料だとしても、電子と正孔の供給がない限りELでは決して光らない。さらに局在性の高い低次元性材料では、有効質量が大きいため電子と正孔が移動しにくく、再結合の確率が低下するので高い効率での発光が難しい。今回の研究ではCsPbX3の持つ優れた電気的性質を利用しつつ、優れた特性を有する電子輸送層を用いて、励起子の生成濃度の増大とその閉じ込め効果によって特性の大幅な向上を試みた。

研究成果

CsPbX3は当初、太陽電池として注目された材料であり、小さい励起子束縛エネルギー[用語8]や小さい電子と正孔の有効質量を特徴とする。これは励起子が容易に電子と正孔に解離し、電極まで速やかに移動できることを示唆する。このような特性は太陽電池で高い短絡電流を得るために重要であるが、EL発光の観点からは非発光型遷移(消光)の要因になってしまう。

太陽電池とELの素子構造は非常に似ているが、実際に要求される物性が大きく違う。つまりCsPbX3のように励起子束縛エネルギーが小さい発光材料は消光確率が高く、EL素子には適さないという結果が予想される。研究グループは実際にCsPbX3の消光現象を調べるため次のような実験を行なった。

図1に示したように電子親和力[用語9]が異なる透明酸化物半導体をガラス基板上に成膜し、その上のCsPbBr3薄膜の発光特性を調べた。ここで透明酸化物半導体として当研究室が開発したアモルファスZn-Si-O(a-ZSO)を用いた[参考文献1]。a-ZSOはZnとSiの割合によって電子親和力を連続的に変化させることが可能である (図1a)。

図1bのように、PL寿命がCsPbBr3に隣接した層のエネルギー準位[用語10]に大きく左右されることが明らかである。つまり、隣接したZSO層の伝導帯下端の位置がCsPbBr3のそれよりも深いと励起子が容易に解離し、隣接層に逃げてしまうことが示唆される。

また、a-ZSOのZn/Si比が80/20に達してからは、ガラス基板上の寿命とほとんど変わらないことから、隣接層の伝導帯下端の位置がCsPbBr3のそれと同等、もしくはより浅いときには消光現象が生じないとことが分かる。一方、0次元的電子構造[用語11]を有するCs3Cu2I5[用語12] [参考文献2]では、隣接層に関係なく同様なPL特性が得られており(図1c)、これは隣接層由来の消光現象と励起子束縛エネルギーが強く相関していることを示唆する。

(a)ITO、90ZSO、85ZSO、80ZSO及び75ZSO薄膜の電子親和力。(b) ITO、90ZSO、85ZSO、80ZSO、75ZSO、及びガラスに成膜されたCsPbBr3薄膜のPL 寿命及び発光写真(励起波長:365 nm)(c)各基板に製膜したCs3Cu2I5 薄膜の発光写真(励起波長:254 nm)
図1.
(a)ITO、90ZSO、85ZSO、80ZSO及び75ZSO薄膜の電子親和力。(b) ITO、90ZSO、85ZSO、80ZSO、75ZSO、及びガラスに成膜されたCsPbBr3薄膜のPL 寿命及び発光写真(励起波長:365 nm)(c)各基板に製膜したCs3Cu2I5 薄膜の発光写真(励起波長:254 nm)

図1の実験結果からは隣接した層とペロブスカイト層とのエネルギーの違いに伴う、消光現象や励起子の閉じ込め効果を明確にみることができた。また、Zn/(Zn+Si)<80 %のZSOを用いることで、ペロブスカイト層の励起子の閉じ込め効果が期待される。そこで80ZSOを電子輸送層(ETL)に用いたPeLEDを作製した。発光層にはCsPbBr3(緑色発光)を80ZSO ETL上にスピンコート法で成膜した。

図2のように80ZSOを電子輸送層(ETL)として用いたPeLEDは2.9 V、10,000 cd/m2という低電圧駆動で、33 lm/Wの高い電力効率を示した。また、最高輝度としては5 Vで500,000 cd/m2の超高輝度が確認され、これまで報告されたPeLEDよりも非常に優れた特性を得ることができた。また、a-ZSOは成膜条件や組成によって導電性の調整が容易であるため、発光層に注入される電子と正孔の電荷バランスを制御できる。

図2bのように電導性を調整することで電力効率は7.5 lm/Wから22 lm/Wまで大きく上昇することがわかる。ペロブスカイト層と隣接した層のエネルギーアライメント[用語13]の重要性の視覚化のため、図2eのようにZSO ETL上に部分的にZnO(酸化亜鉛)を成膜した電子注入層を使ってPeLEDを作製した。その結果、ZSOと隣接している面のみが明確に発光しており、エネルギーアライメントが極めて重要であることが実証された。このコンセプトをさらに赤色や青色のPeLEDを作製し優れたEL特性を確認できた(図3d)。

この研究で得られたPeLEDの特性は、これまでに報告された低次元性ペロブスカイト発光材料を用いたLEDのそれを大きく上回っており、3次元性CsPbX3の励起子束縛エネルギーが小さくても、隣接層を用いた閉じ込め効果を得ることができれば、非常に優れたPeLEDが実現するという研究グループの戦略の妥当性を裏付ける(図3c)。

(a)PLとエレクトロルミネッセンス(EL)のスペクトル比較、(b)80ZSO薄膜を ETLを用いたPeLED素子の電圧-EL、電圧-電流特性、(c)電流効率および電力効率(d) ZSO ETLの電導性によるPeLEDのEL特性比較、(e)ZSO ETL上に“Tokyo Tech”模様のZnOを部分成膜したPeLEDの素子構造および(f)発光写真。
図2.
(a)PLとエレクトロルミネッセンス(EL)のスペクトル比較、(b)80ZSO薄膜を ETLを用いたPeLED素子の電圧-EL、電圧-電流特性、(c)電流効率および電力効率(d) ZSO ETLの電導性によるPeLEDのEL特性比較、(e)ZSO ETL上に“Tokyo Tech”模様のZnOを部分成膜したPeLEDの素子構造および(f)発光写真。
(a)発光材料の構造的次元性に伴う励起子の閉じ込め効果と電荷輸送特性のトレードオフ関係、(b)隣接層を利用した3次元性ペロブスカイトの量子閉じ込め効果の増大、(c)3次元性ペロブスカイト及び低次元性ペロブスカイトのPL特性及びEL特性の比較、(d)ZSO ETLを用いたPeLEDの最高輝度、ELスペクトル、発光写真、そしてCIE1931色空間座標。sRGB:1998年に国際標準化団体のIEC(国際電気標準会議)が決めた色再現範囲、現在使われているディスプレイほとんどがsRGBの色再現性を示す。一方、本研究で作製されたPeLEDはこのsRGBよりも極めて広い領域での色再現が可能であることがわかる。
図3.
(a)発光材料の構造的次元性に伴う励起子の閉じ込め効果と電荷輸送特性のトレードオフ関係、(b)隣接層を利用した3次元性ペロブスカイトの量子閉じ込め効果の増大、(c)3次元性ペロブスカイト及び低次元性ペロブスカイト[参考文献3]のPL特性及びEL特性の比較、(d)ZSO ETLを用いたPeLEDの最高輝度、ELスペクトル、発光写真、そしてCIE1931色空間座標。sRGB:1998年に国際標準化団体のIEC(国際電気標準会議)が決めた色再現範囲、現在使われているディスプレイほとんどがsRGBの色再現性を示す。一方、本研究で作製されたPeLEDはこのsRGBよりも極めて広い領域での色再現が可能であることがわかる。

今後の展開

本研究からは高性能PeLEDを実現するための有効な指針を得たと考えている。今後は同様な概念に基づき、新たな発光材料の探索に繋げていくことが何よりも重要だと考えている。

用語説明

[用語1] ペロブスカイトLED(PeLED) : ペロブスカイト構造を持つCsPbX3発光材料からなるEL素子のこと。

[用語2] CsPbX3(X=Cl、Br、I) : 通常のぺロブスカイト構造をとる物質で、太陽電池材料としてよく研究されている。

[用語3] cd/m2 : カンデラ毎平方メートル、国際単位系(SI)における輝度の単位。

[用語4] lm/W : ルーメン・パー・ワット。全光束を消費電力で割った数値。1ワットあたり、どれだけの光束を発生させることができるかを示す特性値。

[用語5] 非発光型遷移(消光) : 子と正孔が再結合すると発光するが、欠陥や不純物があると、再結合のエネルギーが発光以外のエネルギーとなり発光に至らない。

[用語6] 量子閉じ込め効果を持つ低次元の発光材料 : 電子、正孔、あるいは正孔と電子が対になった励起子が0、1あるいは2次元のポテンシャルのなかに閉じ込めることができる発光材料。電子と正孔の再結合によって発光が生じるので、高い発光効率が得られる。

[用語7] 蛍光量子効率(PLQY) : 外部から光をあてることで発光する効率で、発光する光子の数/あてる光子の数。

[用語8] 励起子束縛エネルギー : 励起子は電子と正孔が対をつくった状態(励起子)から電子と正孔に解離させるのに必要なエネルギー。

[用語9] 電子親和力 : 真空準位から測った伝導帯下端(最低非占有分子軌道)までのエネルギー差。

[用語10] エネルギー準位 : 電子の軌道が持つエネルギー。

[用語11] 0次元的電子構造 : 電子の存在する場所が原子の大きさと同じくらい狭い領域になっており、「点」と見做すことができるような構造のこと。

[用語12] Cs3Cu2I5 : 発光するサイトであるCu-Iが0次元的に閉じ込められている結晶。青色発光し、90 %という高い蛍光量子効率を示す。

[用語13] エネルギーアライメント : 真空準位を基準に伝導帯の底と価電子帯の頂上のエネルギーを様々な物質で並べたもの。異なる物質を接触したときに電子や正孔がどちらに移動するかが判断できる。

論文情報

掲載誌 :
Applied Physics Review
論文タイトル :
Performance Boosting Strategy for Perovskite Light-Emitting Diodes
著者 :
Kihyung Sim, Junghwan Kim, Taehwan Jun, Joonho Bang, Hayato Kamioka, Hidenori Hiramatsu, Hideo Hosono(上岡隼人氏の所属は日本大学 文理学部、他は東京工業大学)
DOI :

参考文献

[1] H. Hosono, J. Kim, Y. Toda, T. Kamiya, S. Watanabe, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 114, 233 (2017): N.Nakamura, J. Kim, and H.Hosono, Adv. Electron. Mater., 4, 1700352, (2018).

[2] T. Jun, K. Sim, S. Iimura, M. Sasase, H. Kamioka, J. Kim, H. Hosono, Adv. Mater. 30, 1804547 (2018).

[3] Y. Tian, C. Zhou, M. Worku, X. Wang, Y. Ling, H. Gao, Y. Zhou, Y. Miao, J. Guan, B. Ma, Adv. Mater. 30, 1707093 (2018).

お問い合わせ先

東京工業大学 元素戦略研究センター

助教 金正煥

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東京工業大学 元素戦略研究センター

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本学名誉教授ら4名が電子情報通信学会の2018年度業績賞などを受賞

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電子情報通信学会はこのほど、電子工学および情報通信に関する学術または関連事業の業績を表彰する2018年度の選奨を発表し、東京工業大学からは松澤昭名誉教授、工学院 電気電子系の岡田健一教授、科学技術創成研究院の小山二三夫教授の3名が業績賞を、荒井滋久名誉教授が教育功労賞を受賞しました。業績賞の表彰式は6月6日、教育功労賞の表彰式は3月21日に行われました。

本学の受賞者を紹介します。

業績賞

電気情報通信学会の選奨規定によると、業績賞は「電子工学及び情報通信に関する新しい発明、理論、実験、手法などの基礎的研究で、その成果の学問分野への貢献が明確であるもの」「電子工学及び情報通信に関する新しい機器、又は方式の開発、改良、国際標準化で、その効果が顕著であり、近年その業績が明確になったもの」など3分野の業績を表彰します。

  • 松澤昭 名誉教授、岡田健一 工学院 電気電子系 教授 :
    「CMOSミリ波無線機の先導的研究開発」
  • 小山二三夫 科学技術創成研究院 教授 :
    「垂直共振器型面発光レーザの実用化への貢献および機能構造集積化の研究開発」
  • 松澤昭 名誉教授
    松澤昭 名誉教授
  •  岡田健一 教授
    岡田健一 教授
  •  小山二三夫 教授
    小山二三夫 教授
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教育功労賞

教育功労賞は「電気情報通信学会の教育に関わる組織活動において特に大きな功労が認められた個人」を表彰します。

  • 受賞業績 : 「レーザ・量子エレクトロニクス研究会活動を通じた若手研究者教育への貢献」
  • 受賞者 : 荒井滋久 名誉教授
  • 荒井滋久 名誉教授
    荒井滋久 名誉教授

推薦理由については、電気情報通信学会ウェブサイトの2018年度各賞受賞者ページouterの名誉員欄にある「Click」からご覧ください。

お問い合わせ先

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E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

8月の学内イベント情報

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8月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

超スマート社会推進国際フォーラム「AIが実現する超スマート社会」

超スマート社会推進国際フォーラム「AIが実現する超スマート社会」

超スマート社会推進コンソーシアムでは、超スマート社会に関する最新動向および最新技術を紹介するとともに、国際的なネットワーキングの場をご提供することを目的に、この度国際フォーラムを下記の様に開催する運びとなりました。

第一部は「AIが実現する超スマート社会」をテーマに、医療・製造・サービスなど多様な現場でのAI(人工知能)の活用やその応用によって実現する超スマート社会への展望を、様々な分野の研究者・専門家を国内外から講師としてお招きし、講演を頂きます。第二部では、講演会終了後に、参加者の皆様の交流・情報交換の場として懇親会を開催いたします。

日時

2019年8月2日(金)

(第一部)講演会 13:00 - 17:45 ※講演は英語で行います

(第二部)懇親会 18:00 - 19:30

会場
参加費
(第一部)無料
(第二部)一般 5,000円、コンソーシアム会員 3,000円、学生 1,000円
申込
必要(7月25日(木)締切)

科学教室「植物の葉について学ぼう ―葉脈のしおりを作ろう―」

科学教室「植物の葉について学ぼう ―葉脈のしおりを作ろう―」

植物の葉の形の構造、働きを知って比べてみよう。葉の骨組みの葉脈を取り出そう。

日時
2019年8月3日(土) 13:00 - 15:00
会場
対 象
小学4、5、6年生の親子(薬品を使いますので親子でご参加ください)
申込
必要(7月24日(水)締切、定員20組)

科学教室「棘皮動物の運動とウニランプの作成」

科学教室「棘皮動物の運動とウニランプの作成」

棘皮動物(ウニ、ヒトデ)の形態や生態を学習しましょう。ウニの殻からランプを作りましょう。

日時
2019年8月4日(日) 13:00 - 15:00
会場
対象
小学4、5、6年生の親子(工作をしますので親子でご参加ください)
申込
必要(7月24日(水)締切、定員20組)

ひらめきときめきサイエンス2019 ―目で見てわかる昔の日本語と今の日本語:タイムマシンに 乗らずに行ける昔の世界―

ひらめきときめきサイエンス2019

ことばは時代につれて変化していきます。今の私たちの知っていることばの意味は今の意味で、昔のことばの意味とまったく同じではありません。もしタイムマシンに乗って昔の日本語が聞けたなら、「何か変だぞ、ちがうぞ?」と思うことでしょう。今では大昔の録音は残っていませんから、実際に聞くことはできません。しかし、昔の文章から、ことばの使われ方を図に描いて目で見ることはできます。そんな目で見てわかる昔のことばの世界について、みんなでおしゃべりしましょう。

日時
2019年8月6日(火) 10:00 - 17:15(受付9:50 - 10:00)
会場
対象
中学生
参加費
無料(交流会:500円)
申込
必要(7月15日(月)締切、定員20名)

高校生・受験生のためのオープンキャンパス2019(大岡山キャンパス)

高校生・受験生のためのオープンキャンパス2019(大岡山キャンパス)

この夏も大学での学びや学生生活について体験し、深く知ってもらうためのオープンキャンパスを開催します。

Lead the future

東工大は、1人1人が「高度な専門知識×自由な発想×多様性」を強みに、誰も見たことのない未来をつくりだそうと、あくなき挑戦を続けています。

オープンキャンパスは、そんな活気ある研究風景や最新の研究成果に触れる絶好のチャンスです。

模擬講義や講演会、そして研究室公開を通じて、教員と学生が東工大の魅力を皆さんにわかりやすく伝えます。

東工大入試に関する最新情報についての説明会も行いますので、ぜひご来場ください。

日時
2019年8月10日(土)10:00 - 16:00
会場
東京工業大学 大岡山キャンパス
申込
一部の企画は事前申込みが必要(7月29日(月)締切)

中高生のためのプログラミング教室(2019年 夏)

中高生のためのプログラミング教室(2019年 夏)

夏休みは新しいことに挑戦することのできる時期でありますから、「プログラミング」を初めてみたいという方は多くいらっしゃると思われます。

しかし、「プログラミング」といっても難しそうでわからない、どうしていいかわからないという方はいませんか?

東京工業大学デジタル創作同好会traPは、そうした初心者のお悩みを解決する「プログラミング教室」を開催します。

日時
2019年8月24日(土)10:00 - 17:00
会場
参加費
無料
申込
必要(定員50名前後)

夏休み特別企画「地球とあそぼう2019」

夏休み特別企画「地球とあそぼう2019」

「地球とあそぼう2019」では、次の実習が体験できます。

1.
きれいな鉱物をタガネで宝石のような形にけずって、その形や色を観察しよう
2.
砂利の中から南アメリカ・ボリビア産の化石を探し出そう
3.
重液という薬品を使って重い石と軽い石に分ける実験を行おう
4.
椀かけ用の椀を使って砂の中から金を取り出そう
日時
2019年8月29日(木)
会場
対象
小学5、6年生
申込
必要

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975


第25回スーパーコンピューティングコンテスト

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スーパーコンピューティングコンテスト(以下、スーパーコン)は、スパコン上で行う高校生・高専生対象のプログラミングコンテストです。

予選を通過した高校生・高専生の20チームがスパコンを使い、難しい出題に対し、試行錯誤しながら4日間をかけプログラムを作成し、その性能を競います。1995年より毎年夏に行われ、「夏の電脳甲子園」という名で、プログラミングが大好きな若者をひきつけてきました。このコンテストから毎年、様々なドラマが生まれています。

スーパーコンピューティングコンテスト

  • 予選を通過した強豪20チームが東工大と阪大に集結、本選 (8月19日~23日)に挑む
  • 東京工業大学のスーパーコンピュータTSUBAME3.0を使用
  • 成果発表会・表彰式を8月23日に東工大・阪大で同時開催

最終日の成果発表会・表彰式では、その奮闘の様子を紹介いたします。成果発表会・表彰式にお越しいただき、若者たちの熱い戦いをご覧ください。(要事前連絡)

本選

日時
2019年8月19日(月) - 23日(金)
場所

成果発表会・表彰式

日時
2019年8月23日(金) 10:00 - 12:00
場所

東京工業大学 蔵前会館 くらまえホールouter

大阪大学 豊中キャンパス サイバーメディアセンター 豊中教育研究棟 7階outer

25周年を記念し、産業界・研究機関で活躍しているOB・OGも成果発表会・表彰式に参加します。

お問い合わせ先

スーパーコン19実施委員会(東京工業大学学術国際情報センター、大阪大学サイバーメディアセンター)

E-mail : sc19query@gsic.titech.ac.jp

鼻の中でタイプの異なる匂いセンサーができる仕組みを解明 遺伝子制御で匂いの感じ方が大きく変化

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要点

  • 水棲型と陸棲型のタイプの異なる匂いセンサーができるメカニズムを解明
  • たった一つの遺伝子の制御でマウスが感じとる「匂いの世界」は大きく変化
  • 水棲から陸棲へ、匂い感覚の陸棲適応を解明する手がかりを見出す

概要

東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センターの廣田順二准教授と榎本孝幸研究員(研究当時)らは、生命理工学院の梶谷嶺助教、伊藤武彦教授、米国モネル化学感覚研究所の松本一朗博士らと共同で、鼻の中でタイプの異なる2種類の匂いセンサー細胞(嗅神経細胞)が作り出されるメカニズムを世界で初めて明らかにした。

様々な匂い物質を感知する嗅覚受容体はゲノム上で最大の遺伝子ファミリー[用語1]を形成している。嗅覚受容体ファミリーは、魚類から哺乳類に至る脊椎動物に共通して存在するクラスI(水棲型)と陸棲動物に特異的なクラスII(陸棲型)の2種類に大きく分類される。つまり鼻の中では発現する受容体のタイプによって異なる2種類の嗅神経細胞が作り出されるが、そのメカニズムは長年未解明のままだった。

今回研究グループは、2種類の嗅神経細胞[用語2]を作り分けるのに必要な転写因子[用語3]を発見し、その生体内での機能を明らかにして、2タイプの嗅神経細胞ができる仕組みを解明した。さらに、この転写因子の発現を人為的に操作するだけで、鼻の中が主に水棲型の嗅神経細胞もしくは陸棲型の嗅神経細胞からなるマウスの作出に成功した。興味深いことに、水棲型と陸棲型のバランスが崩れたマウスは、例えば、食べ物の腐った臭いに極端に敏感になる一方、天敵の臭いをあまり嫌がらなくなるなど、感じとる「匂いの世界」が大きく変化することがわかった。

研究成果はSpringer Nature(シュプリンガー・ネイチャー)社の科学誌『Communications Biology』(オンライン版)に8月7日に公開された。

研究の背景

嗅覚は環境中の匂い物質を感知し、食物探索・天敵からの回避・生殖など個体の生存や種の保存に必要な行動を誘導する重要な感覚である。多種多様な匂い物質を受容する嗅覚受容体はゲノム上最大の遺伝子ファミリーを形成し、その数はマウスで約1,100個にも及び、実にマウスの全遺伝子の約5%を占める(ヒトでは約400個、ヒト全遺伝子の約2%)。

この巨大な嗅覚受容体ファミリーは、大きくクラスI型とクラスII型の2種類に分類される。クラスIは「魚類から哺乳類に共通したタイプ(水棲型)」で水に溶けやすい親水性の匂い分子を、クラスIIは「陸棲動物特異的なタイプ(陸棲型)」でより水に溶けにくい疎水性の高い匂い分子を受容すると考えられている。

両者は神経解剖学的にも明確に区別される。クラスI嗅覚受容体を発現する嗅神経細胞(クラスI嗅神経細胞)は嗅上皮[用語4]の背側に限局して存在し、嗅球(脳の一部)の背側領域に神経接続する。一方、クラスII嗅神経細胞は嗅上皮全体に分布するが、嗅球のクラスIより腹側の領域に接続する。

嗅神経細胞が作り出される過程では、細胞はまずクラスIかクラスIIかのいずれかの運命を選択し、その運命決定に従い、対応するクラスの嗅覚受容体レパートリーから、1種類の受容体のみを選択的に発現する。こうして嗅神経細胞は発現する嗅覚受容体が異なる多様な個性を有する細胞集団として産生される。

この多様性こそが複雑な匂い情報の感知・識別を可能にする分子基盤を形作っている。リンダ・バック(Linda・Buck)とリチャード・アクセル(Richard・Axel)の嗅覚受容体の発見(2004年ノーベル生理学医学賞)以降、嗅神経細胞における「1細胞1受容体」の発現機構の解明が大きく進展してきた一方で、その前段階である「嗅覚受容体のクラス選択」は嗅覚機能の基盤をなす重要なプロセスであるにもかかわらず、その分子メカニズムは長年未解明のままだった。

研究成果

(1)嗅覚受容体のクラス選択を制御する転写因子の発見

細胞の運命決定は転写因子と呼ばれるタンパク質によって制御されることが知られている。今回、研究グループは「嗅覚受容体のクラス選択は、クラス特異的に発現する転写因子によって制御される」との仮説のもと、トランスクリプトーム解析[用語5]を通じてクラスII嗅神経細胞のみに発現する転写因子Bcl11bを同定した。

この転写因子Bcl11bの機能を明らかにするために、マウスにおいてBcl11b遺伝子を欠損させたところ、変異マウスの鼻の中ではクラスI嗅神経細胞の数が大幅に増加し、一方クラスII嗅神経細胞の数が激減していることを見出した(図1)。逆にすべての嗅神経細胞にBcl11bを強制的に発現させたところ、今度はクラスI嗅神経細胞がほぼ消失してしまった。

つまり嗅神経細胞は、Bcl11b非存在下ではクラスIの運命を選択し、Bcl11b存在下ではクラスIの運命選択は抑制され、クラスIIの運命選択が可能になることが示された。この一連の実験により、嗅覚受容体のクラス選択を制御する転写因子がBcl11bであることを世界で初めて明らかにした。

では、Bcl11bがクラスIの運命選択(クラスI嗅覚受容体の発現)をどのように抑制しているのか。今回の研究は、その分子メカニズムも解明した。ゲノム上に長大な単一の遺伝子クラスター[用語6]を形成するクラスI嗅覚受容体遺伝子の発現は、J-エレメント[用語7]と名付けられた超長距離作用性のエンハンサー[用語8]によって制御されることが同研究グループによって明らかにされている(Iwata et al., Nature Communications 2017)。今回の研究のBcl11bとJ-エレメントの機能相関を明らかにする実験から、Bcl11bがJ-エレメントのエンハンサー活性を負に制御することで、クラスI嗅覚受容体の全体の遺伝子発現を抑制していることが明らかになった。

図1.転写因子Bcl11bによる嗅覚受容体のクラス選択の制御

図1. 転写因子Bcl11bによる嗅覚受容体のクラス選択の制御


(A)転写因子Bcl11bを欠損したマウス(Bcl11b-/-)の嗅上皮では、嗅神経細胞の多くがClass I嗅覚受容体(Class I OR)を発現し、Class II嗅覚受容体(Class II OR)の発現は激減する。
(B)嗅神経細胞の脳(嗅球)への投射領域はBcl11bの欠損によって大きく変化する。コントロールでは、Class I嗅神経細胞は嗅球の最も背側の特定の領域(黄色の蛍光)に投射し、Class II嗅神経細胞はそれを避けた部分(青色の染色)に投射する。Bcl11b欠損によって水棲型の鼻になったマウス(Bcl11b-/-)では、嗅球のほとんどがClass I嗅神経細胞(Class I OSN)で支配され、Class II嗅神経細胞(Class II OSN)の軸索投射はほとんど認められなくなる。

(2)水棲型の鼻と陸棲型の鼻〜遺伝子制御で匂いの感じ方をコントロール

研究グループは嗅覚受容体のクラス選択の分子メカニズムを明らかにしたことで、人為的に転写因子Bcl11bの発現を制御することで嗅神経細胞の運命をコントロールできることを示した。その結果、主にクラスI嗅神経細胞からなる水棲型の鼻をもったマウス(図1)と、主にクラスII嗅神経細胞からなる陸棲型の鼻をもったマウスを作り出すに成功した。

これら遺伝子改変マウスが感じる「匂いの世界」がどのように変わるのかを明らかにするために、2種類の匂い物質を用いて、マウスの匂いに対する行動を解析した。用いた匂い物質は、クラスI嗅覚受容体が感知するとされる腐敗臭の原因物質2-メチル酢酸、もう1つはクラスII嗅覚受容体が感知すると考えられている天敵臭TMT(トリメチルチアゾリン)である。

野生型マウスは両方の臭いを嫌がる行動を示すが、興味深いことに、水棲型の鼻をもったマウスは腐敗臭を極端に嫌がる一方で、天敵臭をあまり嫌がらなくなった(図2)。逆に陸棲型の鼻のマウスは、腐敗臭をあまり嫌がらなくなり、天敵臭は野生型と同様に嫌がることがわかった。つまり鼻の中の異なる2つのタイプの嗅神経細胞のバランスが崩れることで、マウスが感じる匂いの世界は大きく変わることがわかった。

図2.Bcl11bの機能欠損変異と機能獲得変異によってマウスが感じる匂いの世界は大きく変化

図2. Bcl11bの機能欠損変異と機能獲得変異によってマウスが感じる匂いの世界は大きく変化


通常、野生型のマウスの鼻はClass I(水棲型)が15%、Class II(陸棲型)が85%を占める。Bcl11b機能欠損変異(Bcl11b cKO)マウスではほぼClass I嗅神経細胞が占める水棲型の鼻に、一方、Bcl11b機能獲得変異(Bcl11b Overexpression)マウスの鼻からはClass I嗅神経細胞がほぼ消失し、陸棲型(Class II)の鼻となる。水棲型の鼻をもったマウスは、腐敗臭(2MBA)を極度に嫌がり、壁をよじ登って逃げようとする(点線)一方で、天敵臭(TMT)はあまり嫌がらなくなる。陸棲型の鼻をもつマウスは腐敗臭をあまり嫌がらなくなってしまう。

(3)本発見の生物学上の意義〜嗅覚の陸棲適応のメカニズムの解明へ

比較的変化の少ない水中の環境と比べて、陸上の環境は多種多様で変化に富んでいる。水棲から陸棲への進化の過程で動物を取り巻く環境は大きく変化し、その結果クラスII(陸棲型)嗅覚受容体が陸棲動物特異的にその数を爆発的に増やし、分子進化したと考えられている。すなわち嗅覚の陸棲適応である。

今回解明したBcl11bによる嗅覚受容体のクラス選択の分子メカニズムは、嗅覚の陸棲適応時に動物が獲得した可能性が考えられる。この仮説を検証するために、単一の個体で水棲から陸棲へと生活環境を変える両生類のカエルに着目した。これまでの研究から、水中で生活するオタマジャクシの鼻にはクラスI(水棲型)嗅覚受容体のみが発現している。成体のカエルの鼻では、空中にでる部分(air nose)にクラスII(陸棲型)嗅覚受容体が、水に浸かっている部分(water nose)にクラスI(水棲型)嗅覚受容体が発現する。

転写因子Bcl11bのカエルでの発現パターンを解析したところ、水中で生活するオタマジャクシの嗅神経細胞ではBcl11bは発現しておらず、変態期になって初めて将来air noseとなる部分でBcl11bが発現し始め、成体となったカエルではクラスII嗅神経細胞が存在するair noseにのみにBcl11bが発現していることがわかった(図3)。これは、Bcl11bが嗅覚の陸棲適応に深く関わっていることを示唆する結果であり、今回の研究成果の生物学的、進化学的重要性を示すものとなっている。

図3.Bcl11bによる嗅覚受容体クラス選択と嗅覚の陸棲適応モデル

図3. Bcl11bによる嗅覚受容体クラス選択と嗅覚の陸棲適応モデル


転写因子Bcl11bはClass II嗅神経細胞特異的に発現する。本研究によってBcl11bは水棲型のClass I嗅覚受容体の発現を抑制することで、陸棲型のClass II嗅覚受容体の発現を可能にすることが明らかになった。Class II嗅覚受容体は陸棲動物特異的な受容体であることから、この分子メカニズムは嗅覚の陸棲適応を解く鍵になると考えられる。実際、オタマジャクシ(水棲)からカエル(両棲)への生活環境の変化に伴い、Bcl11bは空中にでる鼻においてClass II嗅覚受容体と共発現しており、嗅覚の陸棲適応との相関が認められた。

今後の展開

研究グループは、嗅覚受容体の発見以来、四半世紀以上未解明であった嗅覚受容体のクラス選択の分子メカニズムを明らかにした。さらに末梢神経である嗅神経細胞の運命を変えるだけでマウスが感じる匂いの世界と嗅覚行動は大きく変化することを示した。しかし、嗅覚受容体のクラス選択、つまり末梢から中枢への感覚入力の変化が、脳内の神経回路形成や情報処理に及ぼす影響はブラックボックスのままである。

今後、Bcl11bによる嗅覚受容体のクラス選択の遺伝学的操作を通じ、これらを明らかにすることで、嗅覚受容体クラス選択と動物の嗅覚行動を繋ぐ神経基盤が解明できるものと期待される。

論文情報

掲載誌 :
Communications Biology
論文タイトル :
Bcl11b controls odorant receptor class choice in mice
著者 :
Takayuki Enomoto, Hidefumi Nishida, Tetsuo Iwata, Akito Fujita, Kanako Nakayama, Takahiro Kashiwagi, Yasue Hatanaka, Hiro Kondo, Rei Kajitani, Takehiko Itoh, Makoto Ohmoto, Ichiro Matsumoto, and Junji Hirota*
DOI :

用語説明

[用語1] 遺伝子ファミリー : 進化上同一の祖先遺伝子に由来すると考えられる、配列や機能が類似した遺伝子群。嗅覚受容体遺伝子ファミリーは、7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体という特徴を共有する巨大ファミリーである。

[用語2] 嗅神経細胞 : 鼻腔内で匂いを感知する器官(嗅上皮)に存在し、匂い物質の感知に特化した神経細胞。一つの嗅神経細胞は膨大な嗅覚受容体ファミリーから一種類のみを選択的に発現する。

[用語3] 転写因子 : ゲノムDNA上の特定の塩基配列に結合するタンパク質の総称。転写因子は、DNAが有する遺伝情報の読み出しを促進、または逆に抑制し、遺伝子発現を調節する。

[用語4] 嗅上皮 : 鼻腔の上部にある嗅覚器官。匂いを感知する嗅神経細胞があり、粘膜に覆われている。

[用語5] トランスクリプトーム解析 : 特定の細胞や組織で発現している遺伝子を網羅的に解析すること。数千から数万の遺伝子を一度にプロファイリングして、細胞機能の全体像を把握するための解析。

[用語6] 遺伝子クラスター : 同様の機能を有する多数の遺伝子が、染色体上の同じ位置に直列して位置している状態(遺伝子集団)。クラスI嗅覚受容体遺伝子クラスターは、129個の遺伝子が約300万塩基対の範囲内に密集して存在する、極めて巨大な遺伝子クラスターの1つ。

[用語7] J-エレメント : クラスI嗅覚受容体遺伝子の発現を制御する転写調節領域(エンハンサー)。J-エレメントはクラスI嗅覚受容体クラスター全体を制御し、制御する遺伝子の数とゲノム上の距離において、これまでに類をみない規模で遺伝子発現を調節する。

[用語8] エンハンサー : ゲノム上には、タンパク質をコードする遺伝子領域のほかにも様々な機能を持つ配列が存在する。その一つである「エンハンサー」は、遺伝子発現を促進する配列として、遺伝子が発現するタイミングや組織を規定する。

謝辞

本研究は文部科学省科研費「新学術領域研究」(JP21200010、18H04610、19H05256)、日本学術振興会科研費「基盤研究C」(JP20570208、JP16K07366)、「基盤研究B」(JP19H03264)、「若手研究B」(JP25840085、JP16K18361、17K14932)、千里ライフサイエンス財団、稲森財団、住友財団、倉田記念日立科学技術財団の支援を受けて行われた。

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お問い合わせ先

東京工業大学 バイオ研究基盤支援総合センター

准教授 廣田順二

E-mail : jhirota@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5830 / Fax : 045-924-5832

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

大気下での安定性に優れた電子輸送型高分子トランジスタの開発に成功 有機エレクトロニクス研究における標準物質としての利用を期待

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要点

  • アクセプター性骨格のみからなる高分子構造を設計
  • 環境負荷が低い直接アリール化重縮合による効率的な合成に成功
  • 異性体構造によるトランジスタ性能の違いを実証
  • 室温大気下で1ヵ月保存後でも十分な電子移動度を保持する安定な高分子トランジスタの開発に成功

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の王洋博士研究員(現在、理化学研究所)と道信剛志准教授らは、環境負荷が低い直接アリール化重縮合法を用いて、電子アクセプター性の芳香環構造だけからなる電子輸送型(n型)の有機半導体高分子[用語1]を合成した。

従来のn型の有機半導体高分子は、作製したトランジスタなどの安定性の低さが問題となっていた。しかし、今回得られた有機半導体高分子では、最低空軌道(LUMO)準位[用語2]が深く、水との副反応が起こりにくいため、大気下での長期保存が可能なn型高分子トランジスタを作製できた。この高分子トランジスタを室温大気下で1ヵ月保存しても、十分な電子移動度を保持していることが確かめられた。また、引加電圧に対しても優れた安定性を示した。

今回、環境負荷が低い経路によって合成された有機半導体高分子は、有機エレクトロニクス研究における新しい標準物質として利用できると期待される。

この成果は6月18日発行の「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。

背景

最近、電子移動度が高い有機半導体高分子が開発されるようになっている。こうした有機半導体高分子は通常、ドナー性モノマーとアクセプター性モノマー[用語3]が交互に連結するような設計になっている。例えば、現在市販されている汎用の電子輸送型(n型)高分子「N2200」は、ビチオフェン(ドナー)とナフタレンジイミド(アクセプター)からなる。しかし、このアプローチで得られる高分子は、最低空軌道(LUMO)準位が十分に深くないため、有機トランジスタを作製して作動させた際、大気中の水分の影響によって性能が徐々に劣化するという問題があった。この安定性の低さは応用研究の障壁となっており、解決策として、LUMO準位が深い有機半導体高分子の開発が挙げられていた。具体的には、アクセプター性骨格のみからなる高性能な半導体高分子の合理的な設計指針が求められてきた。

研究成果

本研究では、アクセプター性骨格だけからなるn型有機半導体高分子を新たに設計した。基本骨格として、電子アクセプター性の強いモノマーであるナフタレンジイミドとチエノピロールジオンを選択し、πスペーサーとして電子吸引性のチアゾールを採用して、チアゾールの向きが異なる2種類の高分子(P1とP2)を設計した(図1(A))。有機半導体高分子は一般的に、パラジウム(Pd)触媒を用いたクロスカップリング重合[用語4]で合成されることが多いが、本研究のモノマーに含まれるチアゾール部位には、ハロゲンやトリアルキルスズのような官能基を導入することはできなかった。そこで、チアゾールの炭素-水素結合を官能基として利用するクロスカップリング重合である、直接アリール化重縮合[用語5]を試したところ、重合が進行することを見出した。重合条件を最適化した結果、P1とP2の両方で高分子量体を得ることに成功した。

このP1とP2は、チアゾールの向きが異なるだけで、他の構造がほぼ等しい異性体であるにも関わらず、吸収スペクトルや結晶性が大きく異なることが確かめられた。例えば、P1の薄膜の吸収極大は578 nmで観測されたが、P2の薄膜では535 nmに短波長シフトしていた(図1(B))。また、P1の薄膜のX線回折では1次回折しか観測されなかったが、P2の薄膜では5次回折まで見られ、結晶性が高いことが示された(図1(C))。一方、P1とP2の主鎖骨格はともにアクセプター性の芳香環構造のみからなるため、LUMO準位が-4.0 eV以下と非常に深いことも分かった。

図1.(A)既存の電子輸送型高分子と本研究で開発したアクセプター骨格のみからなる高分子の比較、(B)P1とP2の吸収スペクトル、(C)P1とP2の薄膜X線回折像
図1.
(A)既存の電子輸送型高分子と本研究で開発したアクセプター骨格のみからなる高分子の比較、(B)P1とP2の吸収スペクトル、(C)P1とP2の薄膜X線回折像

さらに、P1とP2の薄膜トランジスタを作製して、電子移動度を評価したところ、結晶性が高いP2の方が高い電子移動度を示した。P2の電子移動度は、薄膜トランジスタの作製直後には2.18 cm2 V-1 s-1であった。このP2トランジスタを室温大気下で保管したところ、1ヵ月経過後でも電子移動度は1.0 cm2 V-1 s-1で、大きな劣化は見られなかった(図2(A)および(B))。さらに、60 Vの電圧を1,000秒間印加した後でも電圧-電流特性に変化は見られず、高い安定性を示した。

図2.(A)室温大気下で保管されたP2トランジスタの電子移動度の時間依存性、(B)実際のトランジスタの伝達特性の変化
図2.
(A)室温大気下で保管されたP2トランジスタの電子移動度の時間依存性、(B)実際のトランジスタの伝達特性の変化

今後の展開

今回の成果は、環境負荷が低い合成経路を採用しているため、新しい電子輸送型高分子を開発する際の有用な方法論となる。またP2は、実験室レベルでの物性研究において、N2200に代わる新しい標準物質として用いることできると期待される。

用語説明

[用語1] 有機半導体高分子 : 溶液から薄膜デバイスを作製できる有機材料であり、有機エレクトロニクスの鍵になる材料として期待されている。この高分子の薄膜内には、正孔(プラスの電荷)と電子(マイナスの電荷)と呼ばれるキャリアを流すことができ、それによって電流が生じる。キャリアの伝導は分子間のホッピングを介して起こるため、半導体高分子の結晶性を向上させることが重要である。

[用語2] 最低空軌道(LUMO)準位 : 電子は2つずつ対になってエネルギーが低い軌道から占有していくが、電子が入っていない軌道の中で最もエネルギーが低い軌道のことを指す。

[用語3] アクセプター性モノマー : 電子を受け取りやすい性質を持ち、かつ高分子を構成する原料成分のこと。

[用語4] クロスカップリング重合 : Ni錯体やPd錯体等を触媒として用いるクロスカップリング反応を、2官能性モノマー間の重合に応用し、高分子を得る方法。触媒の設計や重合条件の最適化が高分子量体を得るための鍵となる。

[用語5] 直接アリール化重縮合 : クロスカップリング重合の一種であり、芳香環の炭素-水素結合を官能基として用いる点が新しい。従来型のモノマーを準備するよりも合成段階を短縮でき、毒性が高い副生物が生成しないため、環境負荷が低い重合法として注目されている。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Significant Difference in Semiconducting Properties of Isomeric All-Acceptor Polymers Synthesized via Direct Arylation Polycondensation
著者 :
Yang Wang, Tsukasa Hasegawa, Hidetoshi Matsumoto, and Tsuyoshi Michinobu
DOI :
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お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 物質理工学院 材料系

准教授 道信剛志

E-mail : michinobu.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3774 / Fax : 03-5734-3774

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東都大学野球2019春季リーグ戦で首位打者(硬式野球部)

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東工大硬式野球部の淵脇空輝さん(工学院 電気電子系 学士課程4年)が東都大学野球連盟2019年春季リーグ戦4部リーグで首位打者を獲得しました。春季リーグ戦は4月および5月に一橋大学グラウンド、上智大学グラウンドにおいて熱戦が展開され、東工大チーム自体の成績は最下位に甘んじたものの、淵脇さんは8試合に出場、38打席、31打数13安打、打率0.419にて首位打者に輝きました。13安打のうち6本が2塁打と、高い長打率でした。

リーグ戦で活躍する淵脇選手

リーグ戦で活躍する淵脇選手

首位打者を獲得した淵脇さんのコメント

淵脇選手(左)と硬式野球部部長の中村健太郎教授(右)
6月27日に開催された東都大学野球連盟の表彰式で
首位打者の楯を受ける淵脇選手(左)。
右は硬式野球部部長の中村教授。

個人タイトルの獲得は今回が初めてだったのでとてもうれしく思います。

練習時間や練習場所といった面でほかのチームより制約が大きい中で、練習の質にこだわってやってきた結果であると考えています。しかし、チームとしては最下位に終ったことを悔しく思っています。

現在、特定課題研究で、硬式野球部部長でもある中村健太郎先生(科学技術創成研究院 未来産業技術研究所教授)のもとで超音波の応用に関する研究に取り組んでおります。練習と研究を両立させながら、秋のシーズンはチームとしてよい報告ができるように頑張っていきたいと思います。

東工大硬式野球部について

部報創刊号(昭和29年)に初代野球部長・植村琢先生が寄稿された一文によると、「野球部が設置されたのは大正11年」です。戦前は東京商科大学(現・一橋大学)、東京文理科大学(現・筑波大学)、千葉医科大学(現・千葉大学医学部)などと対抗戦を行っていたようです。昭和21年春から東都大学リーグに加盟し、今日に至っています。現在、東都大学リーグは4部に分かれて全21校が参加していて、1部、2部にはプロ野球に選手を毎年送り込むような強豪校がひしめいています。東工大は昭和23年春から25年秋までの3年6シーズンは1部にいましたが、それ以後は3部や4部での戦いとなっています。最近10年ほどは4部に甘んじていますが、授業や実験の合間、早朝の練習を工夫するなどして技術とチーム力の向上に励んでいます。創部以来100年近い歴史の中で卒業生は450名程度と考えられます。先輩たちの応援のもと、東工大らしい野球を追究して3部昇格を目指しています。

お問い合わせ先

硬式野球部部長 中村健太郎

Tel : 045-924-5052

E-mail : knakamur@sonic.pi.titech.ac.jp

循環共生圏農工業研究推進体 キックオフシンポジウム 開催のご案内

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世界の「生産性至上主義」による「搾取(収奪)型近代文明・農業科学」は「環境土壌汚染・土壌機能の低下・地球環境(生態系)物質循環系の破壊」、すなわち、「地球温暖化と生物多様性減少」の二大環境問題の根源の一つとなっています。この問題を解決するために、「循環共生圏農工業研究推進体」は東京工業大学の最先端科学技術を領域横断的に総動員し、畜産・畑作複合体をモデルとしたSDGs時代の循環型農業の基盤技術および社会制度設計を確立を産学連携で取り組んでまいります。

日時
2019年8月19日(月) 13:30 - 18:00(12:30受付開始)
場所
対象
学外一般、企業・研究者、卒業生、在学生、教職員
参加費
無料
申し込み

事前参加登録申し込みフォームouter(当日受け付け可)

循環共生圏農工業研究推進体 キックオフシンポジウム

お問い合わせ先

循環共生圏農工業研究推進体
山村雅幸(研究代表者)

E-mail : my@c.titech.ac.jp

全学横断型の「社会的課題解決型データサイエンス・AI研究推進体(DSAI)」を設立 キックオフシンポジウムを開催

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東京工業大学は2019年4月、データサイエンスと人工知能(AI)に関するトップレベルの研究のハブとして、情報理工学院を中心に「社会的課題解決型データサイエンス・AI研究推進体(DSAI)」を設立しました。全学的な横断組織で先端研究に取り組む「イノベーション研究推進体」(2019年4月現在、8推進体が活動中)の新しい組織です。多くの教員が協力し、産業界とも連携しながら、データサイエンスとAIについて多面的なアプローチで社会的課題の解決を目指します。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

この研究推進体設立に伴い、キックオフシンポジウムを6月18日に東工大大岡山キャンパス大岡山西8号館で開催しました。学内外から約130名が出席し、データサイエンスとAI研究の最先端の動向を話し合いました。

第1部は、益一哉学長、渡辺治理事・副学長(研究担当)、情報理工学院の横田治夫学院長のあいさつに続き、「計算の進化と科学・工学」というタイトルで株式会社Preferred Networks(プリファードネットワークス)の丸山宏フェローが基調講演を行いました。

ポスターセッションで発表する情報理工学院 情報工学系のレー・ヒェウ・ハン助教
ポスターセッションで発表する
情報理工学院 情報工学系のレー・ヒェウ・ハン助教

益学長
益学長

第2部の「本学のデータサイエンス・AIの研究事例」に関する研究発表セッションでは、情報理工学院 情報工学系の村田剛志准教授が「深層学習による桜島噴火予測」について、情報理工学院 情報工学系の小野功准教授が「進化計算によるブラックボックス最適化」について、情報理工学院 情報工学系の下坂正倫准教授が「時空間ビックデータを用いた街の異常混雑予測」についてそれぞれ講演を行いました。

  • 情報工学系の下坂准教授
  • 情報工学系の小野准教授
  • 情報工学系の村田准教授

左から上から情報工学系の下坂准教授、小野准教授、村田准教授

さらに、第3部は「日本におけるデータサイエンス・AIの未来」をテーマにパネルディスカッションを開きました。パネリストとして丸山氏、国立情報学研究所の喜連川優所長、産業技術総合研究所人工知能研究センターの麻生英樹副センター長、理化学研究所革新知能統合研究センターの杉山将センター長、統計数理研究所 統計的機械学習研究センターの福水健次センター長が参加し、活発な討論が繰り広げられました。

その後、百年記念館に場所を移し、ポスターセッション及び情報交換会を開きました。若手教員や大学院生が最新の研究成果のポスター発表を行い、来場者と熱心に議論しました。

会場の様子(パネルディスカッション)
会場の様子(パネルディスカッション)

講演の様子
講演の様子

社会的課題解決型データサイエンス・AI研究推進体の研究分野

基盤的研究の推進とともに、外部資金の獲得、産学連携および大型プロジェクト等の活動拠点の形成、関連する分野の人材育成に取り組みます。

対象分野は「データサイエンス」「数理、統計的モデリング」「探索・最適化(量子アニーリング等を含む)」「人工知能、機械学習」「次世代データ統合、ヘテロ情報統合」「ビッグデータ解析、可視化」「セキュリティ、プライバシー」「情報倫理、ポリシー」「研究成果の技術移転等を通じた社会実装」の9分野です。研究分担者として情報理工学院など7学院・研究院の教員42名が所属しています。

英語名は「Data science & artificial intelligence research group for solving socially important problems」、略称はDSAIです。

イノベーション研究推進体とは

国際的研究拠点の形成基盤となるように、部局の組織を越えて個別に実施している研究分野をグループ化し、全学的な横断組織として設置される本学独自の研究組織です。設置期間は原則として5年以内で、2002年に最初の研究推進体が設置されて以降、多くの推進体が活動してきました。中には本学の共通研究センターとして発展したり、外部資金を獲得するなど、研究の核として機能しています。

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お問い合わせ先

社会的課題解決型データサイエンス・AI研究推進体 事務局

E-mail : harada@c.titech.ac.jp

人の体温環境でDNA信号を5,000倍以上に増やす人工細胞を構築 人間の思い通りに動く「分子システム」の実現に一歩前進

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発表のポイント

  • 37 ℃という人の体温と同等の温度環境で、DNAを合成し5,000倍以上に増やすことができる人工細胞の構築に成功しました。
  • DNAを増やす反応の開始を、光を使って人間が制御することもできます。
  • 生命システムの再構成や分子ロボット[用語1]の開発に貢献するものと期待されます。

概要

東北大学 大学院工学研究科 野村 M. 慎一郎准教授、同大学院生 佐藤佑介氏(研究当時、現:東京工業大学 情報理工学院 日本学術振興会特別研究員(SPD)) らの研究グループは、東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 小宮健助教らと共同で、体温と同等の温度(37 ℃)で人が設計したDNAを5,000倍以上に増やすことのできる人工細胞を構築しました。

今回構築した人工細胞は、外からの刺激や標的となるDNAに応じて、DNAを増やすことのできる「分子回路」が組み込まれています。そして、この分子回路は37 ℃で適切に動作するよう設計されており、体内と同等の温度環境でDNAを増やすことができます。将来的には、微量の標的分子を検出し、がんを診断・治療したり細胞の世話をしたりする人工細胞や分子ロボット開発のための要素技術としての発展が期待できます。

これらの研究成果は英国王立化学協会刊行の国際学術雑誌「Chemical Communications」にオンライン版で先行公開され、2019年8月11日(日)に発行された63号の裏表紙(The outside back cover、図1)に掲載されました。

DNAを増やす人工細胞のイメージ

図1. DNAを増やす人工細胞のイメージ

研究の背景

私たち生命の機能の大部分は、細胞膜の中で起こる生化学反応によって制御されています。これまでにも、生命現象の理解や有用な人工細胞を創ることを目指して多くの研究が行われています。人工細胞を創りその機能を制御することは、病気の診断・治療技術の開発などの発展が考えられます。

人工細胞の機能を制御する上で、DNAは有用な材料の一つです。DNAは一般に、遺伝子をコードする分子として認識されています。一方で、DNAの塩基配列を人の手で設計することで、人工細胞や分子ロボットの機能を制御するための「信号分子」として使うこともできます。

しかし、従来は人工細胞や分子ロボットの機能を制御するためには、多量の信号DNAが必要でした。つまり、微量の信号DNAしか存在しない環境では、人工細胞はうまく働くことができません。そのため、微量の信号DNAを検出し、その信号を人工細胞内部で増やすことのできる仕組みが必要でした。

研究成果

今回、研究グループは 37 ℃という人の体温と同等の温度で、DNA を5,000倍以上に増やすことのできる人工細胞を構築しました(図1)。今回構築した人工細胞には、 人工細胞膜の内部に「DNA増幅回路」が組み込まれています(図2a)。この回路は、 増幅回路のスイッチを ON にする「入力信号DNA」を検出すると、「出力信号DNA」を産出・増幅することができます。このような反応回路では、しばしばエラーが起こってしまいますが、LNA[用語2]という人工核酸をうまく組み込む事で、エラーを防ぐことに成功しています。

研究グループは、人工細胞の中にあらかじめ加える信号DNAの量を様々に変えながら、人工細胞の中で起こる増幅回路の性能を評価しました。そして、人工細胞が約2時間で5,000倍以上のDNAを増幅可能であることを確認しました。

さらに、研究グループは、人工細胞内部でのDNA増幅反応の開始を光の照射で制御することにも成功しました(図2b)。この成果は、人工細胞の時空間的制御へと繋がるものであり、構築した人工細胞を人の手で制御するための技術としての発展が期待されます。

本成果は、将来的には増やしたDNAを薬として使ったり、ミクロな世界で働く分子ロボットを制御するための機構として使ったりなど、人工細胞研究のみならず、医学、 工学などの他分野へと波及していくものと期待できます。

(a)DNAを増幅する人工細胞の模式図。人工細胞膜の中にDNA増幅回路が封入されている。入力信号DNAに応じて回路が動作し、37 ℃下で出力信号DNAを産出・増幅する。(b)光刺激によるDNA増幅開始制御の様子を撮影した顕微鏡画像。人工細胞膜はマゼンタ色で示されている。
図2.
(a)DNAを増幅する人工細胞の模式図。人工細胞膜の中にDNA増幅回路が封入されている。入力信号DNAに応じて回路が動作し、37 ℃下で出力信号DNAを産出・増幅する。(b)光刺激によるDNA増幅開始制御の様子を撮影した顕微鏡画像。人工細胞膜はマゼンタ色で示されている。

謝辞

この研究は、日本学術振興会・科研費、新学術領域「分子ロボティクス」、日本医療研究開発機構(AMED-CREST)、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の助成を受けて遂行されたものです。

論文情報

掲載誌 :
Chemical Communications
論文タイトル :
Isothermal amplification of specific DNA molecules inside giant unilamellar vesicles
「巨大単層膜小胞の内部における特定DNA分子の等温増幅」
著者 :
Yusuke Sato1, Ken Komiya2, Ibuki Kawamata3, Satoshi Murata3, and Shin-ichiro M. Nomura3
所属 :
1東北大学 大学院工学研究科(現所属 東京工業大学 情報理工学院)
2東京工業大学 情報理工学院 情報工学系
3東北大学 大学院工学研究科
DOI :

用語説明

[用語1] 分子ロボット : センサ(感覚装置)、プロセッサ(計算機)、アクチュエータ(駆動装置)などのロボットを構成するデバイスが分子レベルで設計されており、それらを一つに統合することで構成される分子のシステム。

参考 :

1.
Sato, Y. et al., Science Robotics 2017, 2, eaal3735.
DOI: 10.1126/scirobotics.aal3735outer
2.
「分子ロボティクス概論 ~分子のデザインでシステムをつくる」、分子ロボティクス研究会(著)、村田智(編集)、CBI学会出版outer

[用語2] LNA : Locked Nucleic Acidの略。LNAとは架橋型人工核酸のひとつで、リボ核酸と呼ばれる部位における 2'位の酸素原子と 4'位の酸素原子がメチレンを介して架橋されている。

参考 :

1.
1. Komiya, K. et al., Organic & Biomolecular Chemistry, 2019,17, 5708-5713.
DOI: 10.1039/C9OB00521Houter
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お問い合わせ先

東北大学 大学院工学研究科

准教授 野村 M. 慎一郎

E-mail : nomura@molbot.mech.tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-6910

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担当 沼澤みどり

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留学生向けイベントを開催(2019年度前期) ウェルカムコーヒーアワーズ、折り紙、どら焼き、七夕

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海外から東京工業大学で学ぶ留学生が増えています。全体で1,700人を数え、大学院では、修士課程の17%、博士課程の36%が留学生です(2018年5月1日現在)。毎月開く国際交流イベントは留学生が日本文化を気軽に体験できることに加え、専攻や研究室を超えて交流する場となっています。4月の新入生を迎える「ウェルカムコーヒーアワーズ」には59名が参加し、5月~7月に計3回開催したイベントでは、のべ39名が折り紙や七夕といった日本の伝統を経験しました。2019年度前期の活動を紹介します。

4月 ウェルカムコーヒーアワーズ

新入留学生を入学式の後に歓迎する茶話会、ウェルカムコーヒーアワーズは年2回開いています。井村順一副学長(教育運営担当)の歓迎の挨拶で始まりました。来日したてで異文化の環境への不安がまだ大きい新入生ですが、コーヒーを飲みながらリラックスした雰囲気で交流しました。先輩の留学生から大学生活に関する情報を教えてもらい、ストレスや不安は軽くなったようです。

茶菓子を交えた歓談に加え、留学生会TISA(ティサ)や学生の国際交流グループSAGE(セージ)、国際問題に取り組む起業コンペティションHULT PRIZE(ハルト・プライズ)に関わる学生が活動を説明しました。リベラルアーツ研究教育院日本語セクションの教職員も加わり、日本語の授業や履修について相談する留学生もいました。

会場の様子
会場の様子

お茶を飲んで、ほっと一息
お茶を飲んで、ほっと一息

5月 折り紙

カラフルな紫陽花が完成!
カラフルな紫陽花が完成!

今年度は紫陽花づくりに挑戦しました。花の1ピース1ピースを色とりどりの折り紙・千代紙で作りました。当初、花と葉のみで作る予定でしたが、参加者の自由な発想のもと、鶴を加えて台紙に貼り、みんなで一つの作品として完成させました。参加した留学生からは「折り紙が以前から好きだったので、イベントに興味を持った。楽しかった」という声が寄せられました。

6月 どら焼きづくり

参加者は、どら焼きの生地作りのデモンストレーションを見学した後、ホットプレートで思い思いの形や大きさの皮を焼きます。あんこ、カスタードクリーム、クリームチーズの3種類のうちから好きなものを塗り、皮にはさんで味わいました。中には4人合同でお好み焼きほどの大きさの重さ500 gもある大作を作るチームも現れました。参加者は「他の学生と日本の食べ物を作る経験ができた」「日本の伝統的なお菓子のどら焼きを作るのは初めての体験だった」と喜んでいました。

こんがり焼けました!
こんがり焼けました!

一番人気はカスタードクリームどら焼き
一番人気はカスタードクリームどら焼き

7月 七夕

七夕の起源や風習に関する動画を見て説明を聞いた後、おのおの短冊に願いごとを書き、笹に吊るしました。自分の書きたいことを日本語でどのように表現すればよいのか懸命にスマートフォンで検索し、願いごとを書き上げた学生もたくさんいました。願いごとを吊るした後は、折り紙で思い思いに七夕飾りを作りました。折り紙の変形や伸縮する様子について工学的な観点から興味を持つ学生も多くいました。参加者からは「七夕は初めての経験だったのでやってみてとても楽しかったし、新しい文化体験ができた」「日本文化についてさらにたくさんのイベントで学びたい」といった感想が聞かれました。

七夕をみんなで楽しみました
七夕をみんなで楽しみました

願いを込めて
願いを込めて

2019年度後期も、留学生と日本人学生、教職員との交流が深まるイベントを開催します。

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お問い合わせ先

東京工業大学 学生支援センター国際交流支援部門

E-mail : ryu.kor3@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3027

量子干渉効果と格子欠陥が磁気準粒子に及ぼす作用を中性子散乱で観測

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要点

  • 量子反強磁性体中で量子干渉効果により磁気準粒子が動けなくなることを中性子散乱実験で観測
  • この磁性体の相互作用のフラストレーションが完全であることを確認
  • 格子欠陥の作用によって形成される量子力学的励起状態を観測
  • 量子磁性材料の開発に期待

概要

東京工業大学 理学院 物理学系の栗田伸之助教、田中秀数教授、青山学院大学 理工学部 物理・数理学科の山本大輔助教、古川信夫教授、理工学研究科 理工学専攻基礎科学コース博士前期課程の金坂拓哉大学院生(研究当時)、日本原子力研究開発機構 J-PARCセンターの河村聖子研究副主幹、中島健次研究主席の研究グループは、量子反強磁性体Ba2CoSi2O6Cl2の中性子散乱実験により、この磁性体中ではトリプロンと呼ばれる磁気準粒子[用語1]が、相互作用のフラストレーション[用語2](図1)による量子干渉効果[用語3]によって全く動けなくなることを確認した。また、格子欠陥による不対スピンとトリプロンが量子力学的励起状態を形成することを明らかにした。

通常の磁性体では、磁気準粒子は波のように結晶中を伝搬し、一般にその励起エネルギーは波の波長と進行方向によって異なる値をとる。しかし、磁気準粒子に働く相互作用のフラストレーションが完全な場合には、磁気準粒子は磁性体中を全く動けなくなり、その励起エネルギーが一定になることが理論的に示されていた。本研究では、この現象がBa2CoSi2O6Cl2で起こることを実証するとともに、通常は観測できない格子欠陥の効果が明確になることを示した。今回の結果は、今後の量子磁性材料の開発につながると期待される。

この成果は7月13日付けの米国の学術誌「Physical Review Letters」電子版に掲載された。

図1. スピンのフラストレーション
図1.
スピンのフラストレーション
矢印の向きは電子スピンの向きを表す。スピン1を上向き、スピン2を下向きにすると、スピン3はどちらを向いて良いかわからなくなる。

背景

磁性体の磁気は磁性原子のもつ電子のスピン[用語4]が担っている。電子のスピン間にはスピンを平行(強磁性)、あるいは反平行(反強磁性)にする働きをもつ交換相互作用[用語5]が働いている。このためにほとんどの磁性体では、温度を下げると、スピンが平行に揃った強磁性状態や、反平行に揃った反強磁性状態への相転移が起こる。このような磁気秩序状態をもつ磁性体では一般に、スピンを古典的なベクトル(矢印)のように考えても、磁性を理解することができる。相転移は矢印の向きの秩序と考えることができるし、スピンの運動は矢印の変動として理解できる。これに対して、磁性体を量子力学的粒子の集団と考える方がより的確に磁性を理解できる場合がある。本研究の対象であるBa2CoSi2O6Cl2はこの場合に当たる。

Ba2CoSi2O6Cl2は、反強磁性的な強い交換相互作用で結ばれたスピンの対(ダイマー)が、他のダイマーと弱い交換相互作用を及ぼし合う磁性体である(図2(a))。スピンダイマーの量子力学的状態には、磁気が消えたシングレット状態と、磁気をもつトリプレット状態の2つがあり、磁場がない場合にはシングレット状態のエネルギーの方が低い。このため、スピンダイマーから構成される磁性体では、ゼロ磁場において磁気相転移は起きず、絶対零度では磁気が消えたシングレット状態になる。このような量子力学的効果を強く示す磁性体は、量子磁性体と呼ばれる。

スピンダイマーから構成される量子磁性体での磁気励起は、シングレット状態からトリプレット状態への励起であり、これはトリプロンと呼ばれる準粒子で説明される。一般に、ダイマー上に生成されたトリプロンは、ダイマー間の弱い交換相互作用によって隣のダイマー上に移動することができるので(図2(b))、波として磁性体中を伝搬することができる。波のエネルギーは波長や進行方向によって異なるので、トリプロンの波は分散関係[用語6]をもち、励起のエネルギーは有限な幅をもつ。一方、ダイマー間に2種類の交換相互作用(赤い線と青い線)がある場合(図2(a))には、この交換相互作用を経由して隣のダイマー上に移動するトリプロンの波が逆位相になるため、干渉効果によって、トリプロンが移動する確率が減少する。この図2(a)の場合のように、逆の効果をもつ2種類の相互作用が競合している状況をフラストレーションと呼ぶ。2種類の相互作用エネルギーが全く同じ場合には、トリプロンが隣のダイマー上に移動する確率がゼロになり、トリプロンは全く動けなくなる。このような完全なフラストレーションが起こると、磁化曲線[用語7]は階段状になり、飽和磁化の半分の値のところで磁化が磁場によらず一定になる平坦領域(プラトー)が現れることが知られていた。この磁化プラトー領域では、トリプロンが互いの斥力を避けるように一つおきにダイマー上に配列する結晶化が起きている(図2(c))。Ba2CoSi2O6Cl2でも、実際にそのような磁化曲線が観測されたことから、完全なフラストレーションが起こっているのではないかと考えられていた[参考文献1]

図2. Ba2CoSi2O6Cl2の磁気模型と準粒子トリプロンの模式図
図2.
Ba2CoSi2O6Cl2の磁気模型と準粒子トリプロンの模式図
(a)Ba2CoSi2O6Cl2の磁気模型。スピン(白丸)が反強磁性的交換相互作用(太い実線)で結ばれてスピン対(ダイマー)を形成し、隣りあうダイマーが反強磁性的交換相互作用(赤い線と青い線)で弱く結ばれている。(b)磁気準粒子トリプロンの運動の模式図。ダイマー間の交換相互作用によって、トリプロンは量子力学的粒子のようにダイマーを移動する。(c)磁化プラトー状態で予想されるトリプロンの配列(結晶化)。トリプロンは互いの斥力を避けるように一つおきに配置する。

研究の経緯

フラストレーションと量子力学の効果によって、磁気準粒子が磁性体中で動くことができなくなり、磁化曲線にプラトーが現れる巨視的量子現象の観測は、これまでほとんど例がなく、他の理論模型で表される量子磁性体での一例しかない[参考文献2]。したがって、このような顕著な量子効果が、図2(a)の理論模型で表される実際の物質で起こることを示すことは重要である。本研究グループは、Ba2CoSi2O6Cl2の磁気励起に着目した。中性子散乱[用語8]は、広い波長領域とエネルギー領域の磁気励起を調べる唯一の実験手段である。研究グループは、60個以上のBa2CoSi2O6Cl2の薄い結晶を結晶方位が揃うように並べ、中性子散乱実験を行なった。使用した装置は、大強度陽子加速器施設「J-PARC[用語9]」の物質・生命科学実験施設に設置された冷中性子ディスクチョッパー分光器AMATERAS(アマテラス)(図3)で、低エネルギーの励起を高精度に検出できる世界有数の装置である。

本研究では東京工業大学と日本原子力研究開発機構 J-PARCセンターのグループが試料育成と中性子散乱実験を行い、青山学院大学のグループが理論解析を行った。

図3. J-PARC物質・生命科学実験施設に設置された冷中性子ディスクチョッパー分光器AMATERASの見取り図
図3.
J-PARC物質・生命科学実験施設に設置された冷中性子ディスクチョッパー分光器AMATERASの見取り図
2つのチョッパーの回転数を調整することによって、特定のエネルギーの中性子のみが試料に入射できるようになっている。

研究成果

この中性子散乱実験の結果、鮮明な3種類の励起スペクトルが得られた(図4(a))。これらはいずれも、励起エネルギーが波数に依存しないことから、波として伝搬する励起ではなく、結晶中の特定の位置に局在する励起である。特徴的なことは、図4(c)-(e)のように、実験で得られた3種類の励起について、結晶のab面に平行な波数空間に励起強度をマップすると、励起強度の波数依存性が全て異なることである。

まず、励起スペクトル(図4(a))で中間に位置する励起(E = 5.8 meV)は、強度が最大で、強度の波数依存性がない(図4(d))。これは結晶本来の励起である。この励起が1つしかないことから、全てのダイマーが等価であることがわかる。この結果と、以前観測された磁化プラトーのある階段状の磁化曲線から、Ba2CoSi2O6Cl2ではダイマー間交換相互作用のフラストレーションが完全で、トリプロンが全く動くことができなくなっていることが明らかになった。

次に問題になるのは、励起スペクトル(図4(a))の上と下に位置し(E = 6.6、4.8 meV)、励起強度に波数依存性がある励起(図4(c)と(e))の起源であるが、これは、格子欠陥による不対スピンとダイマーが結合して形成される、2種類の量子力学的励起状態である。これは、不対スピンとダイマーの結合模型(図4(b))に基づいて計算した励起強度のマップ(図4(f)と(h))が、実験結果(図4(c)と(e))の波数依存性を非常によく再現することからわかる。格子欠陥は多くの磁性体結晶に存在するが、その効果は、磁性体本来の波数依存性のある磁気励起に隠されて、ほとんど観測できない。一方、Ba2CoSi2O6Cl2では、励起エネルギーに波数依存性がないため、結晶本来の励起と格子欠陥が関与する励起がはっきりと分離しているので、格子欠陥の効果の観測が可能になったと言える。

図4. グラフ(a)はAMATERASで測定したBa2CoSi2O6Cl2の磁気励起スペクトル。(b)は格子欠陥(破線の丸)によって生じた不対スピンとダイマーの結合模型。(c)-(h)は、励起エネルギーがそれぞれE = 6.6、5.8、4.8 meVの磁気励起の強度マップ。このうち(c)(d)(e)は実験結果、(f)(g)(h)は理論計算結果の強度マップである。QaとQbはそれぞれ結晶のa軸とb軸方向の波数。測定温度は4.0 Kである。
図4.
グラフ(a)はAMATERASで測定したBa2CoSi2O6Cl2の磁気励起スペクトル。(b)は格子欠陥(破線の丸)によって生じた不対スピンとダイマーの結合模型。(c)-(h)は、励起エネルギーがそれぞれE = 6.6、5.8、4.8 meVの磁気励起の強度マップ。このうち(c)(d)(e)は実験結果、(f)(g)(h)は理論計算結果の強度マップである。
QaとQbはそれぞれ結晶のa軸とb軸方向の波数。測定温度は4.0 Kである。

今後の展開

本研究は、フラストレーションが強い量子反強磁性体Ba2CoSi2O6Cl2がもつ新奇な磁気励起を明らかにし、磁場中で磁気をもったトリプロンの結晶化が起こることを裏付けた。今回のような純良単結晶を用いた精密な中性子散乱実験から、今後も多くの新しい現象が発見され、物性研究のフロンティアが拓かれていくものと考えられる。磁性体は、磁気記録、磁気ヘッド、永久磁石など様々な応用がなされているが、これまでは主に古典的磁性が用いられてきた。磁性体の量子効果を応用できれば、新しい磁気デバイスの開発につながる。本研究は、今後の量子磁性材料の開発につながると期待される。

本研究は、科学研究費補助金基盤研究(A)(26247058及び17H01142)、基盤研究(B)(17H02926)、基盤研究(C)(16K05414及び18K03525)の支援を受けている。また、中性子散乱実験はJ-PARC物質・生命科学実験施設でのユーザープログラム(課題番号2015A0161)の下で行った。

参考文献

[参考文献1] H. Tanaka, N. Kurita, M. Okada, E. Kunihiro, Y. Shirata, K. Fujii, H. Uekusa, A. Matsuo, K. Kindo and H. Nojiri, J. Phys. Soc. Jpn. 83, 103701 (2014).

[参考文献2] H. Kageyama, K. Yoshimura, R. Stern, N. V. Mushnikov, K. Onizuka, M. Kato, K. Kosuge, C. P. Slichter, T. Goto, and Y. Ueda, Phys. Rev. Lett. 82, 3168 (1999).

用語説明

[用語1] 磁気準粒子 : 磁気をもった仮想的粒子をいう。スピンの歳差運動の波であるスピン波(マグノン)やスピン対(ダイマー)からなる磁性体のシングレット状態からトリプレット状態への励起を表すトリプロンは、代表的な磁気準粒子である。

[用語2] フラストレーション : 幾何学的配置や逆の効果をもつ相互作用の競合によって、全ての相互作用エネルギーを最低にすることができない状況(どこかの相互作用に必ず不満が残る状況)。これを物理学では「フラストレーションがある」という。

[用語3] 量子干渉効果 : 量子力学的粒子は結晶中を波として伝わる。各場所での波の振幅が粒子の存在確率に対応する。粒子の波の山と山あるいは山と谷が重なり合って、波が強め合ったり弱め合ったりする現象が量子干渉効果である。

[用語4] スピン : 粒子の自転運動に対応する物理量で、電子は大きさが1/2のスピンをもっている。自転の向きに右ねじを回したとき、ねじの進む向きがスピンの向きである。電子は負の電荷をもつので、自身の自転によって小さな磁石の性質(磁気モーメント)をもつ。スピンは量子力学の法則(不確定性原理)に従うので、スピンの向きを完全に決定することはできない。

[用語5] 交換相互作用 : 電子のスピン間に働く量子力学的相互作用で、近接する磁性原子上の電子が互いに位置を交換し合うことによって生じる。交換相互作用は電子のスピンを平行、あるいは反平行にする働きをもつ。磁性原子のスピンを平行にする交換相互作用をもつ物質を強磁性体、反平行にする交換相互作用をもつ物質を反強磁性体という。

[用語6] 分散関係 : 一般に固体中の励起は波として結晶全体を伝搬する。トリプロンはその一つの形態である。励起に必要なエネルギーは波の波長と進む向きによって異なる値をもつ。波長の逆数を大きさにもち、波の進行方向を向きにもつベクトルを波数ベクトルといい、励起エネルギーと波数ベクトルの関係を分散関係という。

[用語7] 磁化曲線 : 磁気の強さを表す磁化と、加えた磁場の関係を表す関数をいう。通常の反強磁性体の磁化曲線では、磁化は飽和するまで磁場と共に増加し、飽和すると一定になる。

[用語8] 中性子散乱 : 中性子は粒子の性質と波動の性質をもっている。波動としての性質を利用した実験が中性子散乱である。中性子は磁気モーメントをもつので、固体に入射した中性子は原子を構成する原子核からの核力によって散乱されるだけでなく、磁性原子のもつ磁気モーメントによっても散乱される。入射中性子と散乱中性子のエネルギーに変化がない場合が弾性散乱で、ブラッグの法則に基づいて結晶構造の決定や磁性体中の磁気モーメント配列の決定に利用される。これに対して、入射中性子と散乱中性子のエネルギーに変化が生じる場合が非弾性散乱で、磁気励起をはじめとして固体中の励起現象の研究に用いられる。この場合、入射中性子と散乱中性子のエネルギーの差が励起エネルギーになる。

[用語9] J-PARC : 大強度陽子加速器施設(Japan Proton Accelerator Research Complex)。高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われている。J-PARC内の物質・生命科学実験施設では、世界最高強度の中性子およびミュオンビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まっている。

発表論文

掲載誌 :
Physical Review Letters 123 (2019) 027206
論文タイトル :
Localized Magnetic Excitations in the Fully Frustrated Dimerized Magnet Ba2CoSi2O6Cl2
著者 :
N. Kurita, D. Yamamoto, T. Kanesaka, N. Furukawa, S. Ohira-Kawamura, K. Nakajima and H. Tanaka
DOI :
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東京工業大学 理学院 物理学系

助教 栗田伸之

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東京工業大学 理学院 物理学系

教授 田中秀数

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益学長が大連理工大学の創立70周年記念式典と世界大学学長フォーラムに出席

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本学と全学協定を結んでいる大連理工大学の「世界大学学長フォーラム」が6月15日に大連市(中華人民共和国)で開催され、本学から益一哉学長と工学院材料系の史蹟教授が出席しました。

また、翌日には「大連理工大学70周年記念式典」にも出席しました。

本フォーラムは世界各国の大学、政府機関及び企業から170名以上が参加しました。益学長は、「国際的トップ人材育成のための大学間ジョイントプログラムの取り組み」をテーマに基調講演を行い、本学の教育改革や大連理工大学との連携、また新しい未来に貢献できる人材を育成するための国際的な大学連携による共同プログラムなどについて講演を行いました。

世界大学学長フォーラムで発言する益学長
世界大学学長フォーラムで発言する益学長

大連理工大学は本学材料工学専攻(現:物質理工学院)金属分野との連携のもと、2007年に同大学金属材料学部に日本語強化クラスを設立し、毎年約30名の学生が同クラスを履修しています。また、2018年より同クラスの優秀な学生を本学に転入学させる取り組みを試行しており、本取り組みについても講演内で紹介されました。

続いて、益学長は同テーマによるパネルディスカッションに参加し、「大学間の国際交流についてはまず教員間の交流が必要で、国際会議など地道な日々の協力が国際的な一流人材の育成につながるのではないか」と述べました。

郭東明(グォドンミン)学長を表敬訪問
郭東明(グォドンミン)学長を表敬訪問

翌日の大連理工大学70周年記念式典では、益学長は来賓として参加しました。併せて、大連理工大学の郭東明(グォドンミン)学長を表敬訪問し、両大学における連携について意見を交わしました。

式典後に、益学長は中国東北蔵前会総会にも参加し、中国東北蔵前会員や大連理工大学材料系日本語強化班の学生十数名と交流し親睦を深めました。中国東北蔵前会は中国東北地区出身の本学卒業生が中心となって構成されています。日本語強化班の中には、将来東工大に進学したいと考えている学生もいました。

総会では、益学長より「東京工業大学の現状」についての紹介があり、本学が卒業生との連携を大切にしていることを伝えました。また、中国東北蔵前会メンバーからも同会の活動報告がありました。

中国東北蔵前会の集合写真

中国東北蔵前会の集合写真

大連理工大学材料系日本語強化班の見学
大連理工大学材料系日本語強化班の見学

6月17日には益学長が大連理工大学材料系日本語強化班の見学を行いました。1~4年生の学生が集まり、益学長による激励の言葉の後、学生からも活発に質問があり、質疑応答を行いました。

お問い合わせ先

国際部 国際連携課

E-mail : kokuren.kik.cho@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2982

東京工業大学のスパコン「TSUBAME3.0」にGPUを利用したVDI環境を導入 遠隔からのスーパーコンピューターの利活用を拡大

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東京工業大学では文部科学省の平成30年度卓越大学院プログラムとして物質・情報卓越教育院において「『物質×情報=複素人材』育成を通じた持続可能社会の創造」の教育・研究を実施しています。

この設備のひとつとして、GPUを採用するVDI(Virtual Desktop Infrastructure)[用語1]システムを国内に先駆けて導入しました。VDIシステムは学術国際情報センターのスパコン「TSUBAME3.0[用語2]」と同じ建物内に設置され、スパコンとVDIシステムが連携することにより、スパコン利用者の利便性が大きく向上します。

東京工業大学のスパコン「TSUBAME3.0」にGPUを利用したVDI環境を導入

今回導入するVDIシステムは、最大240人のユーザにワークステーションクラスの仮想デスクトップ環境を提供可能です。VDIはクラウドの技術であり、ネットワーク経由で画面イメージのみを転送するため、手元のPCやタブレットなどの機種や性能に依存せず、スパコンを高性能ワークステーションから接続しているような感覚で利用できます。

「TSUBAME3.0」の大容量ストレージ上にある大規模シミュレーション等で生成された膨大なデータをダウンロードすることなく、仮想デスクトップ内で計算結果の確認、可視化やデータ処理を行うことによってデータの移動を最小化します。これにより研究室や学内のネットワーク環境だけでなく、遠隔地からもストレスなくスパコンが利用できるようになります。またセキュリティの観点でも安全性が向上します。

物質・情報卓越教育院ではスパコンを用いた教育を行うため、学術国際情報センターと連携し、「TSUBAME3.0」を利用した物質・情報の演習でVDIシステムを利用しますが、年内を目途にTSUBAMEの学内利用、学外利用、産業利用へと順次展開して行く予定です。

今回導入するVDI環境は、AMD EPYCプロセッサ(32コア)を2基、NVIDIA V100 Tensor Core GPUを3基搭載したサーバを5台、により構成されています。

今回導入されるVDIシステム構成図

今回導入されるVDIシステム構成図

ネットワークインターフェイスとしてMarvell Semiconductor, Inc.製のFastLinQ 100G NICまたは25G NICを搭載します。仮想GPUソフトウェアには、 NVIDIA GRID Quadro 仮想データセンター ワークステーション (Quadro vDWS)、仮想化ソフトウェアには、VMware vSphere、VDI製品には、VMware Horizon、バックアップ製品にはVeeam Backup & Replicationを採用しています。

用語解説

[用語1] VDI(Virtual Desktop Infrastructure) : PCデスクトップ環境を仮想化しサーバ上で稼働するシステムです。利用者はネットワーク経由でデスクトップ画面を転送し、手元の端末に表示し操作することができます。利用者は場所や使用する端末にかかわらず、GPUを搭載した高性能なワークステーションが手元にある感覚で利用できる環境です。

[用語2] スパコンTSUBAME3.0 : 東京工業大学学術国際情報センターが運用するスパコンで、2,160個の GPU を搭載し、12.15 ペタフロップスのピーク演算性能を持つ。最先端の研究教育の基盤として、広く学内外に計算資源を提供しています。また、産業利用にも大きく貢献しています。

お問い合わせ先

東京工業大学 学術国際情報センター 共同利用推進室

E-mail : kyoyo@gsic.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2085

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ジョージア工科大の招聘教員による2019年度「グローバルリーダーシップ実践」を開催

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6月4日から6月14日まで大岡山キャンパスで、本学の協定校である米国のジョージア工科大学より講師を招き、昨年度に引き続き「グローバルリーダーシップ実践-Global Leadership Practice」の集中講義(90分×8回)を開講しました。本講義ではリーダーシップ能力を育成するワークショップや、事例研究、ディスカッション、自己分析等を通じて、グローバルな環境において自身の価値や目的を実現するためのリーダーシップに必要な要素について学ぶことを目的としています。

「グローバルリーダーシップ実践」は本学の修士課程学生向けの授業として昨年度より開講され、今年度が2回目です。グローバル理工人育成コース上級の選択必修科目ともなっています。

グローバル理工人育成コースouterは、世界の様々な分野で活躍できる人材を育成するために2013年度に開設しました。現在2088名(上級47名)がコースを履修しています。

国際色豊かな受講生

合計10名の受講生の出身国は日本7名、イタリア1名、ウクライナ1名、チュニジア1名でした。2名のティーチングアシスタント(TA)はブラジルとインドネシアで、講師はアメリカ人2名、ゲストスピーカーはベトナム出身の本学卒業生です。日本人学生は2019年3月にジョージア工科大学にて実施したリーダーシッププログラムの参加者や留学経験者のほか、本学協定校への留学が決まっている学生や、近い将来留学を予定している学生が多く、留学生や講師に対し活発に話しかけている姿が印象的でした。

クラスメンバー

クラスメンバー

講義の様子

講義の様子

講義の様子

参加型の講義・アクティブラーニング

本講義は、ジョージア工科大学で実践されているリーダーシップの講義を基に、昨年度1回目の講義参加学生からのフィードバックを反映し講義内容を発展させたものです。

アメリカ型の授業では、入念な予習と復習を基に、授業では積極的に発言することが求められます。本講義も、講義開始以前から、リーダーシップに関する教科書を一冊読みこなし、その上で自身のリーダーシップやチームワークに関するブログを毎回アップロードするという多くの準備と課題が課されました。また、学生には講義に先んじてオリエンテーションを行い、計8回の講義に対し各回の講義内容のポイントや課題を1冊にまとめた英文のマニュアルを配布しました。マニュアルを事前に読んでおくことで、日本人学生もグループワーク・ディスカッションを効果的に行うことができました。講義はすべて英語で行われましたが、教室内を歩いて様々な学生と話をしたり、100枚のカードを用いたグループワーク、各国の挨拶の仕方をロールプレイングしたりと、笑顔が多いリラックスした雰囲気の中、講義が展開されていきました。

講義ではまずFamily Tree(ファミリー・ツリー)というテーマで自身の本質を振り返り、自身の長所・価値観・適正能力等の気づきを通じリーダーシップに必要な能力を養成する方法を主体的に学びました。

各国の挨拶(フォーマル・インフォーマル)の紹介
各国の挨拶(フォーマル・インフォーマル)の紹介

文化の違いについて話し合う学生
文化の違いについて話し合う学生

異文化でのチームワークから学ぶ

各種災害時にも適応可能なホームレスの為の家の模型
各種災害時にも適応可能なホームレスの為の家の模型

次に、チームワークについて学習しました。本セッションでは目標実現のためにはメンバーの長所や強みを生かし、協力して取り組むことが不可欠である、という前提のもと、異文化および分野横断的な環境の中でグループをまとめ、課題解決、調整する能力を身に付ける取り組みを行います。各チームは提供された材料全てを用いて画期的な設備を作ることに挑戦し、共通のゴールを達成するために必要なリーダーシップの方法を学びました。

水を浄化するシステムの制作風景

水を浄化するシステムの制作風景

水を浄化するシステムの制作風景

また、各国のリーダーシップのスタイル(平等主義、階級主義)について、その国の歴史、文化、習慣も前提とした違いについても学びました。組織内での意思決定の方法は国によって大きく異なっており、各国のリーダーシップスタイルの特徴と、その中で起こりうる意識的あるいは無意識的な偏見への対処法などについて学びました。

チームビルディングのセッションでは、グーグルジャパンに勤務する本学卒業生のミン・グエン(Minh Nguyen)氏による講義を受けました。受講生たちはミン氏の実体験に基づく日本企業とグローバル企業の比較や、様々な環境の中で自分の能力を活かし目標を実現するための沢山のヒントを伺い、自身の将来の方向性を考える参考となりました。

本学卒業生のミン氏

本学卒業生のミン氏

最終発表セッション

最終発表の様子

最終発表の様子

最終日には3グループが、それぞれ世界各国のリーダー2名を選んで事例研究を行い、相違点やリーダーシップに必要な要素について分析を発表しました。ここでも履修生の多様な国籍を活かし、ソフトバンクのCEOであり日本を代表する実業家の孫正義さん、イタリアの物理学者であるファビオラ・ジャノッティ(Fabiola Gianotti)さん、日本人女性宇宙飛行士の山崎直子さん、トロント大学の心理学の教授でありベストセラー作家のジョーダン・ピーターソン(Jordan Peterson)さん、チュニジアの女性起業家・人権擁護活動家のアミラ・ヤヒアウイ(Amira Yahyaoui)さんといったリーダーを取り上げ、社会変革をもたらす方法について共有しました。

学生は最後に学んだことを今後どのように自分の将来に適用していくかを具体的に示しメンバーと共有しました。講師はこの集中講義後も彼らのリーダーシップ実践について個別にフォローアップをしていきます。

学生にとっては毎回の授業が刺激的でチャレンジを積み重ね、大きく成長につながった2週間となりました。

グローバル理工人育成コースでは引き続き、ジョージア工科大学に約2週間訪問しリーダーシップについて学ぶ短期留学プログラムとして「ジョージア工科大学リーダーシッププログラム」も2020年3月に開催予定です。今後も世界の企業、大学、研究所、国際機関など、様々な分野で活躍できる科学者・エンジニア・技術者=「グローバル理工人」を育成するためのカリキュラムを企画・提供していきます。

お問い合わせ先

グローバル人材育成推進支援室

E-mail : ghrd.info@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3520

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