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ASPIREフォーラム 2019を開催 アジア・欧州10大学の学生及び研究者を含むのべ84名が参加

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本学が加盟しているASPIREリーグ※1の年次総会である「ASPIREフォーラム2019」を、7月8日から12日に東工大大岡山キャンパスで開催しました。ASPIREリーグは、アジア地域の理工系トップ大学のコンソーシアムで、アジアにおけるイノベーションハブを形成することを目的に、2009年に東工大主導により設立されました。本フォーラムはASPIREリーグの定例会として、議長校が主催することになっています。リーグ設立から10年目の節目として、議長校となる本学での開催となりました。

ASPIREフォーラム2019参加者

ASPIREフォーラム2019参加者

フォーラムは、ASPIREリーグ加盟大学から参加した学生及び副学長・シニアスタッフ・研究者に加え、近年ASPIREリーグと協力関係にある、欧州のコンソーシアムであるIDEAリーグ※2からも6名の学生を迎え、15ヵ国以上の国籍の総勢39名を迎えての開催となりました。本学からは、学生ワークショップに参加した5名の学生に加え、40名の教職員が参加し、のべ84名の参加となりました。

プログラムは、開催テーマについて理解を深め、議論する「学生ワークショップ」、各大学研究者が関連する研究成果について講演を行う「シンポジウム」、加盟大学の副学長及びシニアスタッフがリーグ活動報告や今後のリーグ活動について意見交換を行う「副学長会議」の3部で構成されています。今年のテーマである「Better Living: Innovations and Technologies to Improve Lives(ベターリビング:よりよい暮らしのための技術とイノベーション)」を通して、参加者による様々な議論や交流が行われました。

学生ワークショップ

7月8日から12日まで開催された学生ワークショップは、テーマに関連した講義、研究施設へのサイトビジット、グループワークの3つの要素で構成されています。今年のワークショップの開催校となった本学からは、以下の5名の学生が参加しました。

  • ドン・ハオヤンさん(工学院 情報通信系 修士課程1年)
  • リー・ユアンホさん(工学院 情報通信系 修士課程1年)
  • ルスファン・アンシャー・ルビスさん(情報理工学院 数理・計算科学系 修士課程1年)
  • 大川玲さん(工学院 経営工学系 修士課程2年)
  • リー・ツイさん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 修士課程1年)

東工大からの参加学生(左からドンさん、リー・ユアンホさん、ルビスさん、大川さん、リー・ツイさん)

東工大からの参加学生
(左からドンさん、リー・ユアンホさん、ルビスさん、大川さん、リー・ツイさん)

各グループは、ワークショップのテーマをより具体的に議論するため、以下の命題から一つを選び、最終日の発表に向けて活動に取り組みました。

命題A

Propose a "Universal Washroom" that promotes Better Living by incorporating concepts of affordance and care for the socially vulnerable.

社会的弱者への配慮を組み込んで多様な人々のよりよい暮らしを実現する「ユニバーサルトイレ」を提案せよ

命題B

Propose a business model that uses currently available advanced technology related to Microbiome study.

最新の体内微生物研究の技術で実現可能なビジネスモデルを提案せよ

命題C

Propose the roles Robots and Robotic Technology can play to ensure Better Living for the socially vulnerable, looking ahead to the year 2040.

2040年を見据えて社会的弱者のためによりよい暮らしを支えるロボット技術とその役割について提案せよ

ワークショップの最初の講義では、本学の教員によって、上記3つの命題に関連するレクチャーが行われました。生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授からは体内微生物の研究とその活用について、環境・社会理工学院 建築学系の安田幸一教授からは、バスルームデザインからみる産業デザインの歴史とあり方について、工学院 機械系の武田行生教授からは、人々とロボットの共存の在り方についての講演が行われました。講演の後、講師の研究室から博士後期課程の大学院生がチューターとして入り、環境・社会理工学院 融合理工学系の西條美紀教授のファシリテーションのもと3日間にわたって命題についてグループで議論を重ね、発表に臨みました。

サイトビジットではワークショップのテーマに基づいた最新の研究や技術に触れました。最初に訪問したNHK放送技術研究所では、8K技術や専用メガネを使用しない3D技術など、パナソニックセンター東京では、2020東京オリンピックを支える同社技術の展示や住空間とAIなどによる新たな生活環境の提案、産業技術総合研究所では、競技用義足の研究や、幼児・高齢者の家庭における事故を未然に防ぐための研究などを見学しました。

講義
講義

施設見学
施設見学

グループワーク
グループワーク


学生発表の様子

学生たちは、これらの講義や施設見学、また期間中に行われた「ASPIREシンポジウム(後述)」等で得た知見や自身の専門知識をもとに、選択した命題の実現のために、どのような技術やデザインを活用すべきか、グループディスカッションを重ねました。最終日には、そのグループワークの成果を新しいプロダクトの提案という形で、リーグ加盟大学の副学長・シニアスタッフの前で発表しました。

清華大学 ユアン教授の記念講演の様子
清華大学 ユアン教授の記念講演の様子

また、学生発表に先駆け、リーグ設立10周年を記念して清華大学のユアン・シー(袁驷)教授より記念講演がありました。ASPIREリーグの設立の趣旨、活動内容についての講演で、参加した学生たちは真剣に聞き入っていました。

グループ発表では、優れた発表を行ったグループに贈られる「Best Group Presentation Award(優秀グループ発表賞)」を、本学の大川さんが参加したチームが受賞しました。同グループは、「Design for Better Living(ベターリビング実現のためのデザイン)」をテーマに、ダイバーシティ社会に対応できる多様な機能を備えた、衛生的でデザイン性の高い仮設トイレについて提案しました。

優秀グループ賞受賞チーム(右から2人目が大川さん)
優秀グループ賞受賞チーム
(右から2人目が大川さん)

ワークショップを振り返って、大川さんは、「参加者は、国籍、出身大学、研究分野など非常に多様性に富んでおり、グループワークの中でいろいろなアイデアが出ました。このワークショップで、異なるバックグラウンドを持つメンバーとの協力の大切さ、共同作業の面白さについて、改めて気付くことができました」と話しました。

個人に贈られる「Best Presentation Award(優秀発表者賞)」は、南洋理工大学のイエン・シエングリディットさん、シャルマーズ工科大学のウー・ペイユさんが受賞しました。二人は、「このワークショップは終始エキサイティングで、多様性に富んだ仲間たちから多くのことを学んだ。優秀発表者賞の受賞は、グループワークの成果です」と、約1週間を共に過ごした仲間への感謝の言葉を述べていました。

優秀発表賞を受賞したイエンさん(南洋理工大学)
優秀発表賞を受賞したイエンさん(南洋理工大学)

優秀発表賞を受賞したウーさん(シャルマーズ工科大学)
優秀発表賞を受賞したウーさん(シャルマーズ工科大学)

シンポジウム

7月11日午前に開催されたシンポジウムでは、加盟大学の研究者がフォーラムのテーマに関連した技術や研究成果に関する講演を行いました。同シンポジウムには、リーグ加盟校の副学長、シニアスタッフ、学生ワークショップに参加している学生も出席しました。

本学からは、科学技術創成研究院の小池康晴教授が、「Brain Machine Interface(ブレイン・マシン・インターフェース)」というテーマで講演を行いました。人間の脳の機能をコンピュータを使って再現し、筋骨格モデルを基にしたデータ解析により、神経機構がどのように腕を制御しているかを明らかにする研究について紹介しました。

また、ASPIREリーグ研究グラントで2017年から、リーグ加盟大学の研究者と「持続可能なバイオ材料の創成を志向したタンパク質ケージの新しい精密機能化法」の共同研究を行っている生命理工学院 生命理工学系の上野隆史教授は、今までの研究交流の実績と研究成果について報告を行いました。

小池教授の講演の様子
小池教授の講演の様子

上野教授の研究グラントプロジェクト報告
上野教授の研究グラントプロジェクト報告

副学長会議

ASPIREリーグ加盟大学の副学長との記念品交換(左)アラン・チャン副学長(南洋理工大学)、(右)水本理事・副学長
ASPIREリーグ加盟大学の副学長との記念品交換
(左)アラン・チャン副学長(南洋理工大学)、(右)水本理事・副学長

7月11日午後に行われた、各大学の副学長およびシニアスタッフが出席する「副学長会議」は、議長校である本学の水本哲弥理事・副学長(教育担当)による歓迎の挨拶で始まりました。各加盟大学の副学長が、各大学でのリーグ活動について報告し、今後の活動についてのディスカッションが行われました。また、今年で終了するASPIREグラントに代わり、新しく開始されるASPIRE League Partnership Seed Fund(ASPIREリーグ加盟大学間共同研究のスタートアップ支援)に応募のあった提案書の審査が行われました。これは、それぞれの加盟大学が所属研究者の経費を負担する、新しい共同研究スキームです。

また、来年のASPIREフォーラムの開催時期についても意見交換が行われ、加盟大学の授業日程を確認の上、2020年6月に開催される方向で承認されました。

議長の水本理事・副学長は、「本フォーラムで充実したディスカッションが行われたことに感謝し、2020年6月に皆様をまたお迎えすることを今から心待ちにしています」と話し、フォーラムを締めくくりました。

※1 ASPIREリーグ

本学が発案し、2009年に設立された科学技術の発展と人材の開発を通してアジアにおけるイノベーションのハブを形成することを目的とした、アジア地域における理工系トップ大学のコンソーシアムです。加盟大学は、清華大学(中国)、香港科技大学(中国)、南洋理工大学(シンガポール)、韓国科学技術院(韓国)と東京工業大学の5大学。東工大は、設立当初より事務局を務めています。

※2 IDEAリーグ

デルフト工科大学(オランダ)、スイス連邦工科大学チューリッヒ校、アーヘン工科大学(ドイツ)、シャルマーズ工科大学(スウェーデン)、ミラノ工科大学(イタリア)のヨーロッパ理工系大学5大学で構成されたコンソーシアム。両リーグでは、2011年より各サマープログラムに学生の相互派遣を行っています。

お問い合わせ先

国際部 国際連携課

E-mail : kokuren.kik.cho@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2982


ボロフェンに類似するホウ素二次元ナノシートの発見 常圧大気下で簡便に合成できるホウ素原子層物質

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要点

  • 常圧・大気下でホウ素と酸素からなる原子層物質の合成に成功
  • 多積層結晶の異方的な電気特性を解明
  • 層間に導入されたカチオンにより簡単な原子層剥離が可能

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の神戸徹也助教、山元公寿教授らの研究グループは、ボロフェンに類似するホウ素二次元ナノシートを常圧大気下で簡便に合成することに成功した。この構造体では、ホウ素と酸素からなる単原子層がカリウムカチオン層と交互に積層しており、層間に働く結合力が弱いため、ホウ素と酸素の原子層を簡単に取り出せることが分かった。

ボロフェンは、ポストグラフェン材料として近年注目を集めているが、高真空下など特殊な環境下でしか合成できず、実際に利用することは不可能と考えられてきた。本研究で確立した手法では、溶液プロセスによりホウ素原子層物質をきわめて簡便に合成でき、様々な材料への展開が見込める。

本研究は2019年8月2日発行の米国化学会誌の「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

背景

2004年に、グラファイトからの剥離により単原子層物質[用語1]であるグラフェンが得られて以降、グラフェンの電子材料や熱電素材等への利用が盛んに研究されてきた。近年になり、ポストグラフェン材料としてボロフェンが注目されている。ボロフェンは、炭素の隣の族の元素であるホウ素からなる原子層物質であり、物理的な高強度性に加え、高い柔軟性を備えている。しかしながらボロフェンは、高真空下の金属面上でしか安定に存在できないため、それが実用化に向けた課題とされてきた。

研究成果

本研究では、水素化ホウ素カリウム(KBH4)を原料として、ボロフェンに類似する「ボロフェン類縁ホウ素二次元構造体」を、常圧大気下できわめて簡便かつ大量に合成する手法を確立した。

図1. 合成したホウ素二次元構造体の骨格構造

図1. 合成したホウ素二次元構造体の骨格構造

ホウ素二次元構造体から得られた結晶は、ホウ素と酸素からなる単原子層と、カリウムカチオン[用語2]からなる層とが交互に積層した構造であることが分かった。この結晶は、各層の面に平行な方向と、面に垂直な方向で、異なる電気特性を示した。

またこの結晶では、層間の結合力が弱いため、物理的な圧力や溶媒和[用語3]により、各層を簡単に剥離できることが分かった。この剥離法により、数ミクロンを超える大きさのホウ素シートやその単原子層を作ることができた。

図2. 液相合成したボロフェン類縁ホウ素二次元構造体の(A)合成後の写真と(B)SEM像。(C)原子層とカリウムが交互積層した結晶構造。剥離したボロフェン類縁ホウ素二次元構造体の(D)走査型透過電子顕微鏡像と(E)原子間力顕微鏡像。
図2.
液相合成したボロフェン類縁ホウ素二次元構造体の(A)合成後の写真と(B)SEM像。(C)原子層とカリウムが交互積層した結晶構造。剥離したボロフェン類縁ホウ素二次元構造体の(D)走査型透過電子顕微鏡像と(E)原子間力顕微鏡像。

研究の経緯

当研究グループはこれまでに、典型金属クラスターの合成と構造、物性について研究し、13族元素であるアルミニウムクラスターの特性を明らかにしてきた。そこで同じ13族元素としてのホウ素にも着目した。ホウ素はクラスター化[用語4]することで平面構造をとることが理論計算から示されており、その挙動はアルミニウムとは全く異なる。こうした元素の基礎物性の差から、ホウ素の集合体はこれまでにない構造をとるのではないかと考えた。

今後の展開

簡便に大量合成が可能という利点を用いて、様々な応用研究への展開が可能となる。例えば、今回合成された単原子構造は、グラフェンのような電子部材への応用が期待できる。またこの単原子層が積層した構造体は、層間に弱い相互作用があることと、多くのカチオンを含むことから、高誘電材料等への応用も期待される。

謝辞

本研究は日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST-ERATO)、東京工業大学技術部すずかけ台分析部門、東京大学微細構造解析プラットフォーム、株式会社リガク、およびダイナミック・アライアンスの支援・協力を受けて行なわれた。

用語説明

[用語1] 単原子層物質 : 1原子の厚さを持つ物質群。グラフェンが有名。一般的なバルク物質には無い機能が発現できる。

[用語2] カチオン : 正の電荷を持った陽イオン。1価のカチオンとしては、プロトン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどがある。

[用語3] 溶媒和 : イオンなどが溶媒分子によって取り囲まれることで、溶液中に拡散されるようになること。

[用語4] クラスター化 : 原子や分子の集合体を形成すること。ここでは同一元素からなる原子の集合体(粒子)を形成することを意味している。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Solution Phase Mass Synthesis of 2D Atomic Layer with Hexagonal Boron Network
著者 :
Tetsuya Kambe, Reina Hosono, Shotaro Imaoka, Akiyoshi Kuzume, and Kimihisa Yamamoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5260

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

コンピュータサイエンスとプログラミングの基礎を学ぶ 新しいオンライン講座(MOOC)公開のお知らせ

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本学ではインターネット上で誰でも受講可能なオンライン講座(MOOC(ムーク))を2015年10月から提供しています。現在まで提供している9つのMOOCには190を超える国と地域から受講者が集まっています。

講義画面例

講義画面例

実習画面例

実習画面例

edXでの講座紹介ページ
edXでの講座紹介ページ

2019年8月には新しいMOOCとして、渡辺治理事・副学長(研究担当)による「プログラミングしながら学ぶコンピュータサイエンス入門」をMOOC配信プラットフォームのedX(エディックス)より公開しました。

このMOOCでは、日本発のプログラミング言語「Ruby(ルビー)」で実際にプログラミングを体験しながら、コンピュータサイエンスの基礎を学ぶことができます。「計算を通じてコンピュータの世界を知る」ことを目的に開発された本MOOCは、日本語で学ぶことができ、高校生や大学生、社会人一般の方々がコンピュータサイエンスを学びはじめるのに適した内容になっています。

また2020年度からの小学校プログラミング教育の実施を前に、小学校の先生方がコンピュータサイエンスの面から、基礎からプログラミングを学ぶためにも最適な内容となっています。

本講座のまとめでは、直近の話題である人工知能やデータマイニング、シミュレーションについて、コンピュータと計算の視点から考えていきます。

以下のページから無料で受講することができます。この機会に是非、東工大の授業で学んでみてください。

また本講座は、より多くの方に学んでいただけるようにYouTubeでも公開しています。

MOOC(ムーク)

(マッシブ・オープン・オンライン・コース、大規模公開オンライン講座)。インターネット上で誰もが受講できる授業です。2012年に主要なMOOC配信プラットフォームが立ち上がって以降、急速に拡大を続けており、2018年には世界の900を超える大学等の高等教育機関から11,000のMOOCが提供されています。本学のMOOC開発は教育革新センター・オンライン教育開発室が担当しており、マサチューセッツ工科大学とハーバード大学が設立したMOOC配信プラットフォームedXにて「TokyoTechX」(トーキョー テック エックス)として世界に向けて配信しています。

お問い合わせ先

教育革新センター オンライン教育開発室

E-mail : oedo@citl.titech.ac.jp

放射光でセラミックス内部の欠陥観察に成功 部材の信頼性向上、プロセス・設計・技術体系を革新

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要点

  • SPring-8でセラミックス内部にある微小欠陥の分布と3次元形状を観察
  • 製造プロセスにおける欠陥形成機構を解明、高信頼性部材の製造が可能に
  • 欠陥分布計測により局所領域の強度を予測し、強度の空間分布を把握

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の大熊学特任助教、西山宣正特任准教授、若井史博教授の研究グループは高輝度光科学研究センター、長岡技術科学大学と共同で、大型放射光施設SPring-8[用語1]の放射光マルチスケールX線CT[用語2]を用いて、セラミックスの内部に存在する亀裂状欠陥の3次元構造を高解像度で観察することに成功した(図1、2)。

セラミックス部材の性能向上には内部欠陥を低減する製造プロセス技術と、破壊源となる欠陥を検査・計測して信頼性を保証する技術が求められる。放射光マルチスケールCTでは、マイクロCTで部材内部に存在する微小欠陥の空間分布を、また、ナノCTで個々の欠陥の3次元形状を詳細に観察できる。

この技術により、粉体成形と焼結プロセスにおける欠陥形成機構を解明した。これは高信頼性部材製造技術の開発につながる成果である。さらに、部材の局所領域の欠陥分布より強度を予測した。強度の空間分布の把握が可能となり、セラミックスの信頼性工学の技術体系に革新をもたらすと期待される。

研究成果は、2019年8月12日にSpringer Nature(シュプリンガー・ネイチャー)社の科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)で公開された。

アルミナ・セラミックスの内部欠陥の3次元マイクロCT像。粗大球状気孔(I型)、分岐した亀裂状欠陥(II型)、円形亀裂状欠陥(III型)の3種類の欠陥に分類できる。アルキメデス法で測定した相対密度は98%で、内部欠陥の体積分率は約1.1%。
図1.
アルミナ・セラミックスの内部欠陥の3次元マイクロCT像。粗大球状気孔(I型)、分岐した亀裂状欠陥(II型)、円形亀裂状欠陥(III型)の3種類の欠陥に分類できる。アルキメデス法で測定した相対密度は98%で、内部欠陥の体積分率は約1.1%。

アルミナ・セラミックスの内部欠陥のナノCT像。(a) II型、(b) III型。

図2. アルミナ・セラミックスの内部欠陥のナノCT像。(a) II型、(b) III型。

研究の背景

セラミックスはエレクトロニクス、エネルギー、医療、環境、モビリティなど現代の多様な分野への応用に不可欠な先端材料である。セラミックス分野は部材産業であり、成形した粉体を加熱して複雑形状部品を製造する焼結はその根幹となる技術である。ところが、セラミックスは脆いという性質があり、小さな表面傷や内部欠陥から破壊する。

破壊源となる内部欠陥は粉体成形と焼結プロセスで生じる。すなわち、セラミック部材の強度・信頼性は製造プロセスに依存する。プロセスに起因した内部欠陥の寸法、形状、分布を計測することは、より良い製造プロセス技術を開発し、セラミックスの強度信頼性を保証するうえで不可欠である。

X線CTは、マイクロスケールからナノスケールで焼結中の微構造形成を観察するための強力なツールである。近年、高輝度光科学研究センター主幹研究員の竹内晃久氏らはマルチスケールCTを開発した。これは広視野で低分解能のマイクロCTと狭視野で高分解能のナノCTから構成される。

マルチスケールCTは、亀裂のように長さ数10マイクロメートル(µm)程度であるが、 厚みが1 µm以下と極めて小さい欠陥を観察するのに適している。ひとつの試料全体の中の欠陥分布をマイクロCTで観察して欠陥位置を特定する。さらに、ナノCTを用いて特定の位置の欠陥形状を非破壊的に詳細に観察することができる。

セラミックスの成形には乾式プレスがよく使われる。アルミナ(Al2O3)など超微粒子原料は取り扱いが難しく、成形型に充填しにくいので、さらさらと流れるように流動性の良い顆粒にして成形型に充填した後、一軸プレス加圧し、相対密度を上げた成形体を得る。 顆粒は球形あるいは「窪み」を持つ形をしており、内部に空隙(くうげき)がある場合も多い(図3)。

アルミナの顆粒の電子顕微鏡像。大きな顆粒には「窪み」がある。

図3. アルミナの顆粒の電子顕微鏡像。大きな顆粒には「窪み」がある。

この場合、成形体は図4に示す階層構造をもつ。このため、顆粒内部や顆粒間に沿って亀裂状欠陥が形成され、焼結後も残留する。しかし、従来のX線CT技術では空間分解能よりも亀裂の厚みの方が小さいため亀裂状欠陥を検出できなかった。また、光学的な計測技術や走査型電子顕微鏡に基づく計測技術では、広範囲かつ鮮明に欠陥の3次元形状を観察することはできなかった。

内部欠陥と粉末充填階層構造の関係を示した模式図。Type Iは顆粒内部に存在する丸い気孔、Type IIは顆粒間の境界、Type IIIは中空顆粒内部の空隙から形成される。
図4.
内部欠陥と粉末充填階層構造の関係を示した模式図。Type Iは顆粒内部に存在する丸い気孔、Type IIは顆粒間の境界、Type IIIは中空顆粒内部の空隙から形成される。

研究成果

研究グループは、放射光マルチスケールCT技術を用いて、アルミナ・セラミックスの複雑な3次元欠陥形成過程を大型放射光施設SPring-8のBL20XUにて観察した。図5に示すように緻密(ちみつ)なアルミナ(相対密度98%)試料の任意断面を非破壊的に観察でき、様々な形状の欠陥が存在することがわかる。マイクロCTで見た内部欠陥の3次元構造を図1に示す。これらの欠陥は、直径10 µm程度の丸い欠陥(I型)、分岐した亀裂状欠陥(II型)、加圧方向に垂直に配向した円形亀裂状欠陥(III型)の3タイプに分類できた。

II型とIII型の欠陥をナノCTで詳細に観察した例を図2に示した。これらI型、II型、III型の欠陥は、初期焼結段階(相対密度68%)ですでに形成されていた。マルチスケールCT観察をもとに内部欠陥の起源を模式図にまとめたものが図4である。粗大な丸い気孔(I型)はランダムに分散していることから、これは顆粒内部に存在する丸い気孔から生じたものと考えられる。

分岐した亀裂状欠陥(II型)は顆粒間の境界から形成される。円形の亀裂状欠陥(III型)は中空顆粒内部の空隙、あるいは、「窪み」から形成される。さらに、焼結段階で大きな亀裂状欠陥が収縮・消失せず、むしろ、わずかに成長する傾向のあることを見出し、その原因が、成形体組織の不均一性による焼結中の速度差であることを示した。以上により、成形過程で欠陥ができないような粉体プロセスを開発することが、複雑形状部材の信頼性向上には最も重要であることがわかった。

さらに、製品の強度信頼性を予測する上で不可欠な情報、つまり、欠陥の寸法と形状、 配向、分布が取得できた。I型、II型、III型の欠陥の種類に応じて、破壊強度を推定できた。

アルミナ円柱試料断面のマイクロCT像。図中矢印の軸方向が粉末の一軸加圧方向。

図5. アルミナ円柱試料断面のマイクロCT像。図中矢印の軸方向が粉末の一軸加圧方向。

本研究の一部は、東京工業大学が展開しているWorld Research Hub Initiative(WRHI)outerによって行われた。WRHIは「世界の研究ハブ」を目指す組織として、世界トップレベルの研究者を招へいし、国際共同研究の加速と分野を超えた交流を実施している。

今後の展開

放射光マルチスケールCT技術により、製造プロセスにおける内部欠陥形成の仕組みを解明できる。これから得られた知識は粉体成形で生じる内部欠陥を制御し、セラミックス部材の信頼性を高めるプロセス技術を開発することに役立つ。もちろん、この技術はアルミナだけでなく、多くのセラミックスに適用できる。例えば、低温同時焼成セラミックス(LTCC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、全固体電池といった積層材料の焼結プロセス開発に展開できる。

また、放射光X線マルチスケールCTはセラミックスの信頼性工学の技術体系に革新をもたらす。セラミックス材料の平均強度とワイブル係数[用語3]を測定するには、多数の曲げ試験を行う必要があり、多大な時間とコストを要する。セラミック部品の破壊予測では、実使用環境での応力、熱応力分布を有限要素法シミュレーションで求め、平均強度とワイブル係数から破壊確率を計算する。

しかし、複雑形状部品では、部品の角部などで成形体密度の不均一が生じ、残留欠陥の大きさ、形状、方向、数は場所によって異なる。このような空間的な強度分布を曲げ試験で調べるのは困難である。放射光X線マルチスケールCTにより場所による欠陥分布を解析すれば、局所的強度の推定も可能となる。

WRHI 大熊学特任助教(左)と若井史博教授(右)

WRHI 大熊学特任助教(左)と若井史博教授(右)

用語説明

[用語1] 大型放射光施設SPring-8 : 理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援はJASRIが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

[用語2] X線CT: : 対象物内をX線が透過する際の「透過しやすさ」「吸収されやすさ」の違いを利用して、物体の内部構造を非破壊的に調べるための技術。

[用語3] ワイブル係数 : 物体の脆性破壊に対する強度を統計的に記述するための形状パラメータ。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
3D multiscale-imaging of processing-induced defects formed during sintering of hierarchical powder packings
著者 :
Gaku Okuma, Shuhei Watanabe, Kan Shinobe, Norimasa Nishiyama, Akihisa Takeuchi, Kentaro Uesugi, Satoshi Tanaka, Fumihiro Wakai
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
教授 若井史博

E-mail : wakai.f.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5361

長岡技術科学大学 工学研究科 物質材料工学専攻
准教授 田中諭

E-mail : stanaka@vos.nagaokaut.ac.jp
Tel : 0258-47-9337

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

SPring-8 / SACLAに関すること

公益財団法人 高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課

E-mail : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2785 / Fax : 0791-58-2786

長岡技術科学大学 総務部 大学戦略課 企画・広報室

E-mail : skoho@jcom.nagaokaut.ac.jp
Tel : 0258-47-9209 / Fax : 0258-47-9010

2019年度 東京工業大学 基金奨学金 授与式・懇親会を開催

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7月17日、東工大蔵前会館(くらまえホール)にて、2019年度東京工業大学基金奨学金授与式・懇親会を開催しました。

授与式集合写真

授与式集合写真

本学では創立130周年を契機として、2008年に「東京工業大学基金」を創設しました。この基金には創設以来、企業・団体、同窓生、本学関係者ご家族などの本学に縁の深い方々より、学生の奨学を使途とした篤いご寄附をいただいています。2012年3月には、寄附者の意思を尊重し「東京工業大学基金奨学金」制度を設けるとともに、本学の発展に寄与した方および寄附者の方に深い敬意と感謝の意を表し、個人名・企業名を冠した奨学金を設立しました。

設立時より開始した「手島精一記念奨学金」、「青木朗記念奨学金」、「草間秀俊記念奨学金」に加え、今年度新たに「三原正一女子学生活躍支援奨学金」、「パラマウントベッド奨学金」が創設されました。

寄附者ご家族の青木篤様、本学卒業生の三原正一様、パラマウントベッド株式会社の木村恭介代表取締役社長ご出席のもと、授与式は和やかな雰囲気の中執り行われ、計13名の新たな奨学生が益一哉学長より奨学生証の授与を受けました。

三原正一氏は「若者の未来は、国を超えて、限りなく広がっていることから、小さな志の芽を秘めている人たちを支援していきたい」と考え「将来、国際的に活躍できる女性の養成に資すること」を目的に新たに奨学金を創設されました。

また、パラマウントベッド(株)は、病院用ベッドの業界トップであり、様々な事業を拡大展開していますが、今回の奨学金創設を契機に、多方面にわたって東工大との連携による社会貢献拡大を目指しています。

来賓挨拶 石田理事長
来賓挨拶 石田理事長

奨学生謝辞 濱田さん
奨学生謝辞 濱田さん

証書の授与後、本学同窓会組織である一般社団法人蔵前工業会理事長の石田義雄理事長よりご挨拶をいただき、新奨学生を代表して工学院 電気電子系の濱田拓也さん(博士後期課程1年)より「近年の技術進歩の加速に取り残されることなく、むしろ私自身が社会をより良い方向に導く技術の発展に携われるよう今後も専門性と人間性を磨いていきたい。今回このような素晴らしい奨学金を頂くことで、これまでより安定した生活を送ることが可能になり、今後は一層、学業に専念する所存です。」と謝辞が述べられました。

新採用奨学生による自己紹介
新採用奨学生による自己紹介

懇親会の様子
懇親会の様子

授与式後開催された懇親会からは昨年、一昨年より基金奨学金の支援を受けている奨学生も加わり、世代や立場を超えた交流が繰り広げられました。

東工大基金

この活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

学務部 学生支援課

E-mail : gak.kei@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3014

循環共生圏農工業研究推進体 キックオフシンポジウムを開催

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原田環境大臣による来賓挨拶
原田環境大臣による来賓挨拶

8月19日、循環共生圏農工業研究推進体(代表:山村雅幸 情報理工学院 情報工学系 教授)のキックオフシンポジウムを大岡山キャンパス東工大蔵前会館にて行いました。第1部では、山村代表の挨拶に続き、原田義昭環境大臣による来賓挨拶および益一哉学長の挨拶がありました。その後、環境省の川又孝太郎環境計画課長、農業・食品産業技術総合研究機構の白戸康人温暖化研究統括監および帯広畜産大学の西田武弘教授による基調講演が行われました。第2部では、本学の8名の研究推進体メンバーによる関連研究紹介がありました。100名を超える参加者による活発な意見交換が行われ、終了後には新聞社からの取材もあり、充実したキックオフシンポジウムとなりました。

キックオフシンポジウムのポイント

「効率重視」から「持続性重視」へ。科学技術の根本思想が、今、大きく転換しようとしています。化学肥料や農薬を用いた現代農業は、微生物、草、昆虫、動物の共生がもたらす炭素の循環を分断し、大地の疲弊ひいては大気中の二酸化炭素やメタンガスの増加による地球温暖化の要因の一つとなっています。本キックオフシンポジウムでは、「循環共生圏」という視点から、土壌細菌や植物による土壌への炭素貯留、微生物による反芻家畜のメタン抑制など、生命を中心とした炭素循環による地球に易しい農工業について議論しました。本キックオフシンポジウムでは、参加した学生や社会人の方々にとって地球環境に関心をもつきっかけとなりえる議論が展開されました。

今後の展望

循環共生圏農工業研究推進体では、今回、基調講演を頂いた帯広畜産大学ならびに農業・食品産業技術総合研究機構と循環共生圏農工業に関する共同研究を企画、推進するとともに、研究推進体の活動を支援するための共同研究の募集ならびに企業コンソーシアムの立ち上げを企画しています。

お問い合わせ先

情報理工学院 教授 小長谷明彦

E-mail : kona@c.titech.ac.jp

南極の海洋生物起源の硫酸塩エアロゾルは氷期に減少していた 南極ドームふじアイスコア分析データの解析から

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国立極地研究所(所長:中村卓司(なかむらたくじ))の東久美子(あずまくみこ)教授を中心とする研究グループは、南極のドームふじで掘削されたアイスコア(図1)のイオン分析データを用いて、南極海の植物プランクトンに由来する硫酸塩エアロゾルの変動を、過去72万年間にわたって推定しました。その結果、植物プランクトン由来の硫酸塩エアロゾルは、これまでの説とは異なり、氷期に減少し、間氷期に増加していた可能性が高いことが分かりました。

硫酸塩エアロゾルは日射を遮ったり、雲をできやすくしたりすることで、気候に影響を及ぼすと考えられています。本研究成果は南極海における生物活動と気候変動の関わりや、光合成と深い関係のある二酸化炭素濃度の変動要因を解明するための重要な手がかりになります。

ドームふじで掘削されたアイスコア

図1. ドームふじで掘削されたアイスコア

研究の背景

大気中に浮遊する固体や液体の微粒子をエアロゾルと言い、そのうち、硫酸イオン(SO42-)を陰イオンに持ったエアロゾルは「硫酸塩エアロゾル」と呼ばれます。硫酸塩エアロゾルはそれ自体が日射を遮る働きをするほか、雲ができるときの凝結核となりうるため、気候に大きな影響を及ぼします。そのため、硫酸塩エアロゾルの濃度の変動やその要因を明らかにすることは、気候変動メカニズムの解明や将来予測への重要な手がかりとなります。

硫酸塩エアロゾルの主な起源としては、(1)化石燃料の燃焼によるもの、(2)火山噴火の噴出物、(3)海洋の植物プランクトンによって作られる物質が光化学反応によって変化したもの、(4)海塩が考えられますが、産業革命前の南極では(1)は無視できます。また、(2)と(4)の割合も小さいことが分かっています。そのため(3)が一番重要ですが、(3)の硫酸塩エアロゾルが過去の気候サイクルにおいてどのように増減していたかについては議論が続いていました。

1990年代、フランスの研究グループは南極内陸のボストーク基地やドームCで掘削されたアイスコアの分析により、南極海の植物プランクトンに由来する硫酸塩エアロゾルが氷期に増加すると発表しました。この説は現在でも支持している研究者が多くいます。

一方で、2000年代中盤にヨーロッパの研究グループが、ドームCで新たに掘削したアイスコアの分析から、硫酸塩エアロゾルのフラックス(ここでは、氷床の単位面積あたりの年間堆積量)が80万年を通じてほぼ一定であることを見いだしました。彼らはまた、南極海の植物プランクトン由来の硫酸塩エアロゾルの生成量は氷期・間氷期サイクルを通じてほとんど変化せず、気候変動に依存しないという見解を示しました。

ところが、これらの見解は海底堆積物の研究者が得た結果と矛盾します。海底堆積物のデータは、南極付近の海域で海洋の生物生産が氷期に減少し、間氷期に増えていたことを示していたのです。アイスコアと海底堆積物が示す結果が矛盾する原因はよく分かっていませんでした。

そこで本研究では、日本の南極地域観測隊が南極ドームふじで掘削したアイスコアのデータを用い、植物プランクトン由来の硫酸塩エアロゾルのフラックスを推定することに挑みました。

研究成果

研究グループはまず、南極ドームふじ(図2)で掘削したアイスコアの過去72万年間のイオン分析の結果から、硫酸塩エアロゾルの増減を示す硫酸イオンの変動を復元しました。その結果、ドームふじでは非海塩性硫酸イオン(硫酸イオンの総量から海塩起源のものを差し引いたもの)のフラックスが気候変動に伴って変化したことを突き止めました(図3)。フラックスは気温変動の指標である酸素同位体比が-58‰よりも低い寒冷なときは寒冷なほど増加し、酸素同位体比が-57‰よりも高い温暖な時は温暖なほど増加していました(図4a)。また、寒冷期には非海塩性硫酸イオンと非海塩性カルシウムイオンのフラックスの間の相関が高いことも分かりました(図4b)。この結果から、寒冷期の非海塩性硫酸イオンの起源として、従来考えられていた海洋生物起源よりも、南米から鉱物ダストとして飛来する石膏(硫酸カルシウム・2水和物、CaSO4・2H2O)が大きな割合を占めると考えられました。

本研究でデータを使ったアイスコアの掘削地点(星印)。

図2. 本研究でデータを使ったアイスコアの掘削地点(星印)。

過去72万年間を通じてのドームふじコアの酸素同位体比、および非海塩性カルシウムイオンと非海塩性硫酸イオンのフラックスの変動。ドームふじコア(DF)との比較のためにドームCコア(EDC)のデータも示す。酸素同位体比は気温変動の指標で、値が大きいほど温暖だったことを意味する。aに番号で示したのは、海底堆積物から決められた酸素同位体ステージであるが、ここでは間氷期のみに番号をつけた。非海塩性カルシウムイオンは、カルシウムイオンの総量から海塩起源のものを差し引いたもので、鉱物ダストの指標とされる。
図3.
過去72万年間を通じてのドームふじコアの酸素同位体比、および非海塩性カルシウムイオンと非海塩性硫酸イオンのフラックスの変動。ドームふじコア(DF)との比較のためにドームCコア(EDC)のデータも示す。酸素同位体比は気温変動の指標で、値が大きいほど温暖だったことを意味する。aに番号で示したのは、海底堆積物から決められた酸素同位体ステージであるが、ここでは間氷期のみに番号をつけた。非海塩性カルシウムイオンは、カルシウムイオンの総量から海塩起源のものを差し引いたもので、鉱物ダストの指標とされる。
ドームふじコアの非海塩性硫酸イオンのフラックスの変動。aは酸素同位体比との関係を、bは非海塩性カルシウムイオンのフラックスとの関係を示す。非海塩性硫酸イオンのフラックスはある酸素同位体比(aのハッチをつけた部分)、つまりある気温を境に、それよりも温暖な時は気温の上昇とともに増加するが、それよりも寒冷な時は気温の低下とともに増加する。bの赤点は境目となる気温よりも温暖だったとき、青点は境目となる気温よりも寒冷だったときのデータ。寒冷だったときは、非海塩性硫酸イオンと非海塩性カルシウムイオンの相関が高い。
図4.
ドームふじコアの非海塩性硫酸イオンのフラックスの変動。aは酸素同位体比との関係を、bは非海塩性カルシウムイオンのフラックスとの関係を示す。非海塩性硫酸イオンのフラックスはある酸素同位体比(aのハッチをつけた部分)、つまりある気温を境に、それよりも温暖な時は気温の上昇とともに増加するが、それよりも寒冷な時は気温の低下とともに増加する。bの赤点は境目となる気温よりも温暖だったとき、青点は境目となる気温よりも寒冷だったときのデータ。寒冷だったときは、非海塩性硫酸イオンと非海塩性カルシウムイオンの相関が高い。

さらに、本研究グループは非海塩性硫酸イオンのフラックスから鉱物ダスト由来のものを差し引くことで、硫化ジメチル(DMS)由来の非海塩性硫酸イオンのフラックスを見積もりました(図5)。DMSは海の植物プランクトンの光合成により発生し、大気中での光化学反応で硫酸に変化する物質です。すると、従来の説とは異なり、DMS由来、つまり海洋生物起源の硫酸イオンのフラックスは温暖な間氷期に高く、氷期の寒冷期に低くなっていました。これは、DMS放出量が間氷期に増加し、氷期に減少することを示唆しており、海底堆積物の結果とも整合性があります。同じ方法でドームCのアイスコアと東南極のEDMLで掘削したアイスコアのイオン分析データからDMS起源の硫酸イオンのフラックスを計算してみると、ドームふじと同様に、間氷期に高く、氷期に低くなっていました。

DMS起源の硫酸イオンのフラックス変動(a、c)と酸素同位体比の変動(b、d)。黒線、赤線、青線はそれぞれドームふじ、ドームC、EDMLのデータを示す。b、dのグレーのハッチは、図4で示した境目の気温に対応する。a、bは過去72万年、c、dは過去15万年のデータを示す。

DMS起源の硫酸イオンのフラックス変動(a、c)と酸素同位体比の変動(b、d)。黒線、赤線、青線はそれぞれドームふじ、ドームC、EDMLのデータを示す。b、dのグレーのハッチは、図4で示した境目の気温に対応する。a、bは過去72万年、c、dは過去15万年のデータを示す。

図5.
DMS起源の硫酸イオンのフラックス変動(a、c)と酸素同位体比の変動(b、d)。黒線、赤線、青線はそれぞれドームふじ、ドームC、EDMLのデータを示す。b、dのグレーのハッチは、図4で示した境目の気温に対応する。a、bは過去72万年、c、dは過去15万年のデータを示す。

ドームCで非海塩性硫酸イオンのフラックスが氷期・間氷期サイクルを通じてほぼ一定だったのは、氷期にDMS起源の硫酸イオンが減少したにも関わらず、鉱物ダスト起源の硫酸イオンが増加していたためだと考えられます。ドームふじは、ドームCよりも鉱物ダストの発生源である南米大陸に近く、氷期の鉱物ダストがドームCよりも多かったために、気候変動に伴う氷期の非海塩性硫酸イオンのフラックス増加がよりはっきりと見えました。そのため、寒冷期での鉱物ダスト起源の硫酸イオンの寄与が従来考えられていたよりも大きかったことが分かりました。

今後の展望

本研究では氷期のアイスコア中に含まれる硫酸イオンの起源として石膏が重要であることを指摘しましたが、鉱物ダストには石膏だけでなく、炭酸カルシウムも多量に含まれていると考えられます。硫酸カルシウム(CaSO4)には石膏由来のものだけでなく、炭酸カルシウムとDMS起源の硫酸が反応によって生成されるものもあると考えられるので、その起源を定量的に明らかにして、DMS起源の硫酸塩の割合を正確に求めることが必要です。ドームふじコアの研究グループでは、硫酸塩の硫黄や酸素の同位体比の詳細な分析を実施することで、非海塩性硫酸の起源を更に詳しく調べる計画です。

また、本研究は南極海におけるDMSの放出量やDMSから派生する硫酸塩エアロゾルが温暖な時に増えることを示唆しています。硫酸塩エアロゾルは日射を遮ったり、雲が生成される時の核となって雲の形成を促すことで、気温を低下させる可能性があると考えられています。本研究の結果は温暖化に伴って植物プランクトンの光合成が活発になって大気中の硫酸塩エアロゾルが増加し、温暖化が抑制されるというCLAW仮説と呼ばれる説と整合的です。光合成が活発になれば大気中の二酸化炭素濃度が減少して温暖化は更に抑制されるので、DMSと気候変動の関係を調べることは重要です。将来の地球温暖化でDMS放出量が増えるのか減るのか、また、その変化が雲のできやすさや二酸化炭素の濃度にどう影響するのか、エアロゾルのモデルや気候モデルなどを使って予測する必要があります。氷期・間氷期スケールの気候変動と、今後の地球温暖化によって生じるDMS放出量の変化を単純に同じものと考えることはできませんが、本研究の成果は、エアロゾルのモデルや気候モデルを検証するために貢献できると考えられます。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Reduced marine phytoplankton sulphur emissions in the Southern Ocean during the past seven glacials
著者 :

東久美子(国立極地研究所 気水圏研究グループ、総合研究大学院大学)

平林幹啓(国立極地研究所 気水圏研究グループ)

本山秀明(国立極地研究所 気水圏研究グループ、総合研究大学院大学)

三宅隆之(研究当時・国立極地研究所 気水圏研究グループ)

倉元隆之(国立極地研究所 気水圏研究グループ、現在、東海大学 教養学部)

植村立(国立極地研究所 気水圏研究グループ、現在、名古屋大学 大学院環境学研究科)

五十嵐誠(国立極地研究所 気水圏研究グループ)

飯塚芳徳(北海道大学 低温科学研究所)

櫻井俊光(国立極地研究所 気水圏研究グループ、現在、国立研究開発法人 土木研究所寒地土木研究所)

堀川信一郎(北海道大学 低温科学研究所、現在、名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山研究センター)

鈴木啓助(信州大学 理学部)

鈴木利孝(山形大学 学術研究院)

藤田耕史(名古屋大学 大学院環境学研究科)

近藤豊(国立極地研究所 国際北極環境研究センター)

服部祥平(東京工業大学 物質理工学院)

藤井理行(国立極地研究所 名誉教授)

DOI :
論文公開日 :
2019年7月19日

研究サポート

本研究は科研費(JP15101001、JP21221002、JP15H01731、JP17H06316)及び国立極地研究所の研究プロジェクト(KP305)の助成を受けて実施されました。

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お問い合わせ先

研究内容について

国立極地研究所 気水圏研究グループ

教授 東久美子

E-mail : kumiko@nipr.ac.jp
Tel : 042-512-0674

取材申し込み先

国立極地研究所 広報室

E-mail : kofositu@nipr.ac.jp
Tel : 042-512-0655 / Fax : 042-528-3105

東海大学 大学広報部企画広報課

E-mail : pr@tsc.u-tokai.ac.jp
Tel : 0463-50-2402 / Fax : 0463-50-2215

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

日本の法律を英語で学ぶ 新しいオンライン講座(MOOC)公開のお知らせ

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本学ではインターネット上で誰でも受講可能なオンライン講座(MOOC)を2015年10月から提供しています。

オンライン講座画面(1)

オンライン講座画面(1)

オンライン講座画面(2)

オンライン講座画面(2)

2019年7月には新しいMOOCとして「Basic Japanese Civil Law」(ベーシック・ジャパニーズ・シビル・ロー)をMOOC配信プラットフォームのedX(エディックス)より公開しました。このMOOCでは契約や財産、労働、家族など、生活に密接に関わる日本の法律を英語で学ぶことができます。

日本に暮らす外国人の方、日本への留学や日本で働くことを目指す外国人の方に最適な内容になっています。また講義動画のなかでは、本学MOOCのマスコットキャラクター「大岡山さくら」が受講者の学習を支援します。

edX コース紹介
edX コース紹介

大岡山さくら
大岡山さくら

本MOOCの開発を担当した環境・社会理工学院社会人間系の金子宏直准教授は、「このMOOCは、本学で開講している英語開講科目(Law (Civil Law) A:法学(民事法)A )を元に開発されました。講義ではほぼ同数の留学生(6ヵ国)と日本人学生がディスカッションを通じて一緒に英語で法律を学習しています。教育革新センターの全面的な支援によりMOOCが制作されたことで、学外の多くの方に日本の法律を学んでいただくとともに、本学学生の予習復習に大変役立つと期待しています」と述べています。

Law (Civil Law) A授業風景

Law (Civil Law) A授業風景

Law (Civil Law) A授業風景

以下のページから、無料で受講することができます。この機会に是非、東工大のオンライン授業で学んでみてください。

MOOC(マッシブ・オープン・オンライン・コース、大規模公開オンライン講座)

インターネット上で誰もが受講できる授業です。2012年に主要なMOOC配信プラットフォームが立ち上がって以降、急速に拡大を続けており、2018年には世界の900を超える大学等の高等教育機関から11,000のMOOCが提供されています。本学のMOOC開発は教育革新センター・オンライン教育開発室が担当しており、マサチューセッツ工科大学とハーバード大学が設立したMOOC配信プラットフォームedXにて「TokyoTechX」(トーキョー テック エックス)として世界に向けて配信しています。

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お問い合わせ先

教育革新センター オンライン教育開発室

E-mail : oedo@citl.titech.ac.jp


デイビッド・スチュワート特任教授による日本近代建築史のオンライン講座(MOOC)がリニューアルして再公開

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東工大のMOOC(Massive Open Online Courses:大規模オンライン公開講座)として2016年の開講以来、世界中から約19,000人の受講者を集めた「Modern Japanese Architecture(MJA:日本近代建築史)」が、今年7月24日にリニューアルして再公開されました。

東工大MOOC「Modern Japanese Architecture Part 1: From Meiji Restoration to the Pacific War」

東工大MOOC「Modern Japanese Architecture Part 1: From Meiji Restoration to the Pacific War」

昨今、インターネット環境があれば誰もが世界最高峰の大学の講座を受講することができるMOOCが世界において普及しました。東工大では、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学によって共同設置されたMOOCプラットフォーム「edX(エディックス)」上に、2016年度から合計で10講座を公開してきました。その中でも、特に反響の大きかったMJAは、1976年から東工大で教鞭をとっている工学院のデイビッド・スチュワート特任教授が担当する人気講座です。

MJAでは、1,500枚以上の豊富な写真資料を用いて、幕末・明治からモダニズム・ポストモダニズムにかけての約150年にわたる日本の建築デザインの歴史を通じ、日本近代建築の特徴とその思想について描き出します。今回のリニューアルでは、前回講座(全6週分)が前半パートと後半パートに分割され、明治維新~太平洋戦争までをカバーした前半パートがMJA Part 1として再公開されました。また、1週あたりにかかる学習の負荷が軽減され、より自身のペースに合わせて学習を進めることが可能となりました。スチュワート先生の元、日本の建築デザインの歴史を学ぶ良い機会としてみてはいかがでしょうか?

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教育革新センター オンライン教育開発室

E-mail : oedo@citl.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3445

東工大マイスターが出場する「鳥人間コンテスト2019」が読売テレビ・日本テレビ系で放送

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東工大のものつくりサークル「マイスター(Meister)」が、7月28日に滋賀県彦根市の琵琶湖にて行われた「第42回鳥人間コンテスト2019」の人力プロペラ機部門に出場しました。

同コンテストの模様は、2019年8月28日(水)午後7時から読売テレビ・日本テレビ系「鳥人間コンテスト2019」にて放送予定です。

東工大マイスターが出場する「鳥人間コンテスト2019」が読売テレビ・日本テレビ系で放送

マイスター代表 佐藤綾音さん(工学院 機械系 学士課程3年)のコメント

今年は3・4年生が主体となり活動し、学業・研究を両立し本大会では無事怪我無くフライトすることができました。

来年も応援してくださる皆様の期待にこたえられるような素晴らしい機体を製作しますので、今後も応援よろしくお願いします。

テレビの前で応援してくださった方、わざわざ現地まで応援に来てくださった方、部員一同を代表して感謝申し上げます。

東工大マイスターが出場する「鳥人間コンテスト2019」が読売テレビ・日本テレビ系で放送
  • 番組名
    読売テレビ・日本テレビ系「鳥人間コンテスト2019」
  • 放送予定日
    2019年8月28日(水)19:00 -

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : pr@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2976

東工大剣道部主将齋藤海晟さんが、東京地区国公立大学剣道大会 男子個人戦で優勝

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6月1日、第67回東京地区国公立大学柔剣道大会(以下、国公立大会)が東工大大岡山キャンパスにおいて開催され、東京工業大学剣道部主将の齋藤海晟さん(物質理工学院 材料系 学士課程2年)が男子個人戦で優勝を果たしました。

閉会式後の齋藤さん

閉会式後の齋藤さん

男子個人戦2回戦に挑む齋藤さん

男子個人戦2回戦に挑む齋藤さん

国公立大会は、東京都の国公立大学剣道部が一堂に会して行われる大会です。団体戦と個人戦があり、団体戦は10大学でトーナメント戦、個人戦は各大学3名ずつ出場してトーナメント戦を行います。男子個人戦には10大学から30名が参加する中、齋藤さんは決勝戦で首都大学東京の学生と戦い2対1で勝利を収めました。

優勝した剣道部主将 齋藤さんのコメント

今回、国公立大会において男子個人戦で優勝することができ、大変嬉しく思っております。男子団体戦では2回戦敗退という悔しい結果に終わったので、個人戦で最高の結果を残すことができ主将として安堵しております。

今年度の国公立大会は東工大での開催ということもあり、各方面において様々な方のご協力を頂き、大会を無事に終えることが出来ました。ご協力して下さった教職員の皆様、審判員の先生方、OBの諸先輩方にはこの場を借りて御礼申し上げます。

また勉学面において、私個人としては材料系に所属し少しずつ講義の内容が難しくなりつつありますが、これからも文武両道を目指し、チーム一丸となり六工大連覇に向けて練習に励んでいきたいと思っております。

剣道部とは

全国国立工業大学柔剣道大会優勝と、関東学生剣道大会の全日本大会出場を二大目標に、部員一丸となって稽古に取り組んでいます。本学大岡山キャンパス武道場にて、学士課程学生を中心に男子学生10名が活動しています。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

科学教室「植物の葉について学ぼう ―葉脈のしおりを作ろう―」ほか 2019年度開催報告

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8月3日と4日の2日間、大岡山キャンパスにおいて、小学4・5・6年生の親子を対象とした科学教室を開催しました。今回の科学教室は、東工大基金による支援事業「理科教育振興支援」の助成を受け、東京工業大学博物館と生命理工学院の共催で実施し、両日とも29組(58名)の親子が参加しました。昨年に引き続き、濱口幸久名誉教授、濱口研究室の卒業生及び博物館のスタッフが参加者の実験をサポートしました。

葉の働きについて座学で学ぶ様子

葉の働きについて座学で学ぶ様子

「植物の葉について学ぼう ―葉脈のしおりを作ろう―」

3日は「植物の葉について学ぼう ―葉脈のしおりを作ろう―」を実施しました。まず、植物の色素が重曹やお酢で変化し、pHと関係のあることを、アントシアニン系色素を含む紫キャベツの煮汁で観察しました。つぎに、植物の葉の役割を学びました。葉脈の構造を理解するため、サクラ・イチョウ・クワなどの学内で採集された植物の葉を、マーカーペンに使われている蛍光色素溶液を入れた試験管に刺して水分を吸収させ、蛍光色素の広がりを観察し、葉脈が水の通り道であることを確認しました。

最後に、サクラ・ヒイラギ・サザンカの葉肉を取り除いて葉脈の標本を作製し、「しおり」に仕上げました。

  • クワの葉脈の蛍光染色
    クワの葉脈の蛍光染色
  • 葉脈のしおり
    葉脈のしおり
  • 標本のマイしおりをスタンドにして明かりを灯して完成!
    標本のマイしおりをスタンドにして
    明かりを灯して完成!

「棘皮動物の運動とウニランプの作製」

翌4日の「棘皮動物の運動とウニランプの作製」では、まずウニをはじめとする棘皮動物のからだの構造や働きを学びました。つぎに参加者は、海水中のウニが砂や砂利の中に潜る運動、ヒトデが体を柔らかくして反転する様子、ウミホタルが蛍光を発する様子を観察しました。さらに、ウニの一種であるタコノマクラ・ハスノハカシパン・バフンウニの殻を用いてランプを作製しました。ウニの殻に空いた多数の微細孔からLEDの光が漏れ、幻想的な灯りをともしました。

世界でたった一つのオリジナルのウニランプ

世界でたった一つのオリジナルのウニランプ

幻想的な作品の灯り
幻想的な作品の灯り

作品の発表会
作品の発表会

科学教室は、子どもたちの笑顔と笑い声にあふれ、明るい雰囲気に包まれて好評のうちに終了しました。参加者は親子で共同作業をしながら夏の思い出作りを楽しみました。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

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お問い合わせ先

東京工業大学 博物館

E-mail : centcafe@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3340

「未来社会と自身の研究との繋がりを考えるワークショップ」を開催 広域塾の若手研究者がDLabの手法で未来のシナリオ作り

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科学技術創成研究院基礎研究機構の広域基礎研究塾は7月18日、大岡山キャンパス百年記念館において未来社会DESIGN機構(以下、DLab)と共催で「未来社会と自身の研究との繋がりを考えるワークショップ」を開催しました。

はじめに大竹広域基礎研究塾長から概要説明

はじめに大竹広域基礎研究塾長から概要説明

基礎研究機構は、最先端研究領域を開拓し、世界の研究ハブの地位を維持・発展させるために必須な若手研究者を育成する場として、科学技術創成研究院に設置されました。世界をリードする最先端研究分野で顕著な業績を有する傑出した研究者が塾長に就任した「専門基礎研究塾」と、本学の全ての新任の若手研究者が塾生として3ヶ月間研鑽を行う「広域基礎研究塾」(以下、広域塾)から構成されています。

DLabは「人々が望む未来社会とは何か」を東工大と社会の皆さんが一緒になって考えデザインするための組織で、2018年9月に発足しました。東工大の教職員、学生、卒業生、さらには学外者も参加したキックオフイベントやワークショップなどで議論を重ねています。2020年の年明けには未来を俯瞰できる装置としての「東工大未来年表(仮称)」と東工大が考える豊かな未来社会像を発信する予定です。DLabのワークショップでは、キックオフイベントや研究者のワークショップなどで出たアイデアを基に作成した「未来要素」のカードを見ながら意見を交わします。KJ法(ケージェイ法。多種多様な情報を効率良く整理し、その過程を通じて新たなアイデアの創出や本質的問題の特定を行う手法)を用いてカードを整理して、「未来のシナリオ」として仮説を組み立てます。

今回のワークショップでは、広域塾の塾生15人がDLabと同様の方法を用い、「未来要素」から「未来のシナリオ」を作成することで、自身の研究内容と未来社会との繋がりについて新たな気づきを得るとともに、チーム毎に分かれて共同作業を行うことで、俯瞰力、想像力、他者と協働する力を強めるのが狙いです。

未来要素を共有し、ふせん紙でコメントを付していく

未来要素を共有し、ふせん紙でコメントを付していく

未来要素を共有し、ふせん紙でコメントを付していく

テーマを「極限(宇宙、地底・海洋、スピードなど)」「職業と産業」「教育と大学」の3つに絞って未来要素を分類し、テーマ毎にチームに分かれて議論をしました。はじめに「未来要素」のカード内容をメンバーで共有しました。カードの意味することや可能性について意見を交換し、新しいアイデアや意見をふせん紙に書いてカードに貼っていきます。1枚のふせん紙に1つの情報というルールのため、議論が白熱したチームではカードに何枚ものふせん紙が重なり、ほとんど隠れてしまうほどでした。30枚前後のカード内容を30分間で共有するというハードなスケジュールでしたが、どのチームも集中して全てのカードに目を通し、議論を深めていました。

未来シナリオ作成と全体共有

未来シナリオ作成と全体共有

未来シナリオ作成と全体共有

次にKJ法で未来要素を整理して未来のシナリオを作成し、チーム毎に発表を行って作成されたシナリオを全体で共有しました。自分の研究分野と離れたテーマであっても、普段の研究で得られた視点を基に分析するなど、研究者ならではの発想が随所にみられました。たとえば、「教育と大学」チームでは「生活を豊かにするシンクロトロン学習」というシナリオを導きだしました。シンクロトロンは加速器の一種です。発表時には「どこがシンクロトロンなのか」との質問もありましたが、「大学の中、社会、大学の外と円形加速器のように学習が加速していく」との答えに笑いが起き、終始リラックスした雰囲気のワークショップとなりました。

ワークショップを終えた塾生

ワークショップを終えた塾生

今回のワークショップは参加者全員が理工系の研究者ということで、これまでのDLabでのワークショップとは異なり、研究者ならではの発想や視点に基づく未来のシナリオが出来上がりました。今回作成されたシナリオはDLabの活動にもフィードバックされる予定です。広域塾にとってもDLabにとっても実りのあるワークショップとなりました。

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お問い合わせ先

総務部企画・評価課総合企画グループ

E-mail : kik.sog@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2011

硫黄同位体組成が解き明かす南極硫酸エアロゾルの起源 氷期に海洋生物起源の硫酸エアロゾルが減少した新証拠を発見

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要点

  • 硫黄同位体組成を南極硫酸エアロゾルの起源推定の有用な指標として確立
  • 氷コア硫黄同位体記録が氷期に海洋生物活動の低下を物語っていることを示唆
  • 南極大陸に中低緯度地域からの硫酸エアロゾル長距離輸送を発見

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 吉田尚弘研究室の石野咲子大学院生(研究当時。現・国立極地研究所 日本学術振興会特別研究員PD)、服部祥平助教らはフランス・グルノーブルアルプス大らとの国際共同研究により、南極沿岸と内陸のエアロゾルの硫黄安定同位体組成[用語1]に差異がなく、両者ともに硫黄の起源の変化に応じて変動していることを発見した。

この発見は硫黄同位体組成が起源推定に有用な指標であることを意味する。南極氷コア[用語2]の硫黄同位体組成記録にこの手法を適用すると、最終氷期[用語3]における海洋生物起源の硫酸エアロゾルは現在の半分程度だったことが明らかとなった。この知見は硫酸エアロゾルによる雲生成を通じた海洋生物活動と過去の気候変動との関係を解明するうえで重要な一歩である。

これまで南極の氷コアに保存される硫酸エアロゾルは主に海洋生物活動由来と考えられてきたが、この前提に基づくと氷コア記録と海洋堆積物コア記録の間に矛盾が生じていた。氷コアの硫黄安定同位体組成の変化は硫黄起源の変化を反映するため、この矛盾の原因を解明するカギとなると期待される。だが、この指標が輸送過程の変化にも依存する可能性が指摘されていたため指標適用の足かせとなっていた。

研究成果は8月27日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィック リポーツ)」に掲載された。

南極基地での観測オペレーションの様子
南極基地での観測オペレーションの様子

エアロゾル試料の採取装置
エアロゾル試料の採取装置

研究の背景

硫酸エアロゾルは雲の相互作用に重要な役割を果たし、日射に影響する。南極大陸では他の大陸上で発生する人為的な硫黄起源からほぼ隔離されており、硫酸の主な発生源は周辺の海洋に生息する植物プランクトンや藻類が放出する硫化ジメチル(DMS)[用語4]である。このため、南極の氷コアに保存されている硫酸は過去の海洋生物活動の指標として注目され、気候変動に対する海洋生物活動の応答及びフィードバック機構と関連づけて議論されてきた。

これまで、欧米を中心とした南極の氷コアの研究から「過去の8つの氷期-間氷期サイクルで硫酸フラックス(大気から雪への硫酸の年間沈着量)は有意に変化していない」とされてきた。しかし、これは「現在の温暖期よりも最終氷期の南緯50 °以南の生物活性が低かった」という海洋堆積物コア[用語5]が示す知見と矛盾した結論だった。

この矛盾の原因を解明するために、氷コア中に保存される硫酸の起源が本当に海洋生物由来のみであったかを確かめることが重要である。硫酸の硫黄同位体組成(δ34S値)はその起源によって変化し、異なる値を有するため、この指標の変化から硫酸の起源が氷期と温暖期で変化していたかを調べたいと考えられてきた。事実、15年前に発表された東南極ボストーク氷コアのδ34S値記録では、最終氷期のδ34S値は現在の温暖期の値よりも4 ‰(1,000分の4=0.4%程度に相当)低いことが知られていた。

しかし、δ34S値の低下要因が仮説1:輸送中にδ34S値が変化(これを同位体分別という)した、仮説2:氷期と間氷期に南極に輸送される硫黄の起源の割合が変化した―のどちらによるものかが不明だったことが、δ34S値の変化が何を物語っているかを解釈するうえで足かせとなっていた(図1)。

南極における硫黄安定同位体組成(δ34S値)の変動要因に関する2つの仮説

図1. 南極における硫黄安定同位体組成(δ34S値)の変動要因に関する2つの仮説

研究の経緯

そこで服部助教らの研究チームは、上述した仮説1及び2を検証することとした。研究チームのうちフランスのメンバーが南極の沿岸及び内陸の2つの基地で週1回エアロゾルを採取し、東工大を中心としたメンバーがエアロゾル試料の硫黄同位体分析を実施した。もし、沿岸と内陸でδ34S値に有意な差があれば仮説1を支持し、差がなければ仮説2を支持する、ということを検証することが本研究の目的になる。

本研究におけるエアロゾル試料採取サイト。撮影:石野咲子

図2. 本研究におけるエアロゾル試料採取サイト。撮影:石野咲子

また、従来法では分析に必要な試料量を満たさなかったため、近年開発されたマルチコレクター誘導プラズマ質量分析計(MC-ICP-MS)[用語6]を用いた微量硫黄同位体組成分析法による分析を、フランスのリヨン高等師範学校の協力で実施した。

研究成果

【仮説の検証】内陸と沿岸での硫黄同位体組成の差異は極めて小さい

図3に示すとおり、南極の沿岸と内陸の2つの地点間のδ34S値は、夏に高く冬に低いという季節変動を示すものの、その差異が統計的に0 ‰から逸脱しないことが明らかとなった。この結果は、δ34S値が輸送中の同位体分別に支配される仮説1よりも、硫黄源の相対寄与率によって制御されるという仮説2を支持する。すなわち、δ34S値の分析から硫黄の起源がδ34S値の高い海洋生物由来であるか、δ34S値の相対的に低い他の起源に由来するかを区別できることが示された。また、夏に高く冬に低いというδ34S値の季節変動は、夏に海洋生物由来による硫酸エアロゾル生成が卓越する一方、冬には非海洋生物由来の硫酸エアロゾルの寄与が相対的に高まった結果であることが初めて明らかになった。

内陸部、沿岸部における(a)硫酸濃度と(b)δ34S値の季節変動。下部は内陸サイト沿岸サイトの差分を示す。

図3. 内陸部、沿岸部における(a)硫酸濃度と(b)δ34S値の季節変動。下部は内陸サイト沿岸サイトの差分を示す。

【氷期-間氷期の硫黄起源の変化】氷期の海洋生物活動低下に関する新証拠

ボストーク深層氷コアの結果に今回のδ34S値による起源推定法を適用したところ、全硫酸量に対する海洋生物由来の割合が、温暖期にあたる現在では86±3%であるのに対し、最終氷河期前後の温暖期平均で59±11%、最終氷期には48±10%と減少していることがわかった。すなわち、氷期では海洋生物活動が有意に低下し、その活動に由来する硫酸エアロゾルも減少していることを意味する(図4)。このことは先に説明した海洋堆積物コアの記録が示す氷河期における南緯50°以南の生物活動の減少とも整合性が高い。

2019年7月28日付でNature Communication誌に発表されたドームふじ氷コアの硫酸及びカルシウムイオン濃度の変化(Goto-Azuma et al. 2019)からも、寒冷期における海洋生物由来の硫酸エアロゾルは24%(硫酸がすべて陸起源の石膏(CaSO4)由来の一次生成物と仮定した場合)、または52%(硫酸が、石膏由来の一次生成物と、炭酸カルシウム(CaCO3)と海洋生物由来硫酸エアロゾルとの反応で生成した二次生成物の両者を含むと仮定した場合)に減少する、と同様の結論が報告されている。

今回の研究で見積もられた48±10%という値は、この後者と一致することから、氷期の硫酸エアロゾルは一次生成物と二次生成物の両方が含まれている可能性を示唆する。氷期の硫酸エアロゾルの起源の理解はその気候影響を理解するため不可欠であるため、今後もさらなる検証が必要である。

過去の気候変動に伴う南極の硫酸エアロゾルの硫黄起源の変化

図4. 過去の気候変動に伴う南極の硫酸エアロゾルの硫黄起源の変化

【新たな発見】中低緯度から硫酸エアロゾルが南極に到達している?

今回の研究ではさらに、11月の第2週に非海洋生物由来硫酸の顕著な増大が内陸・沿岸の双方で発見された(図5 左)。さらに、推定された非海洋生物由来の硫酸エアロゾル量と、大陸地殻に起源を有する鉛同位体(210Pb)濃度との間に有意な相関が発見された(図5 右)。このことは、他の大陸から非海洋生物由来の硫酸エアロゾルが突発的に長距離輸送されていることを示唆する。

この硫黄起源の特定には至っていないが、中低緯度の陸域に起源を持つ硫黄化合物は、南米大陸上の火山由来、もしくは人為的な化石燃料の燃焼由来である可能性が高い。大気中の硫酸は、エアロゾル-雲生成を通じて気候に影響を及ぼす可能性がある。人間活動起源の硫酸エアロゾルが南極の気候に与える影響をより正確に評価するためにも、この非海洋生物由来の硫酸エアロゾルの起源の特定は今後重要な課題である。

現在の南極大気中における非海洋性の硫酸エアロゾルの季節変動(左)と、その210Pbトレーサー(大陸地殻起源物質)との関係(右)
図5.
現在の南極大気中における非海洋性の硫酸エアロゾルの季節変動(左)と、その210Pbトレーサー(大陸地殻起源物質)との関係(右)

今後の展開

今回の研究結果から、海洋生物活動は温暖期に増加し、氷期に減少することが明らかとなった。つまり、温暖期に海洋生物活動が増加し、その結果放出されるDMSに由来する硫酸エアロゾルも増加していたと考えられる。硫酸エアロゾルは雲生成を促進する効果を有するため、日射を遮り、負の放射収支(=気温を下げること)に寄与する。

これは、気候が温暖化すると海洋植物プランクトンの活動が活発化することで大気中の硫酸エアロゾルが増加し、温暖化が抑制されるというフィードバックが存在するという仮説 (CLAW仮説)と一部整合的である。ただし、硫酸エアロゾルの化学形態や粒子径の解析から、硫酸エアロゾルによる気候冷却効果は温暖期の方が低いとする研究(Iizuka et al., 2012 Nature)もある。このため、海洋生物由来の硫酸エアロゾルの増減のみでは、CLAW仮説が立証されたわけではないことは注意したい。今後はこれらの関係に着目し、さらに硫酸エアロゾルの起源及び生成過程が温暖期と氷期でどのように変化したかを詳細に理解することが重要である。

研究グループは今年度より、同様の観測を日本が有する南極・昭和基地においても実施し、本研究で対象としたフランス所有のDome(ドーム)C基地、Dumont d'Urville(デュモン・デュルヴィル)基地のエアロゾル試料と合わせて解析を進める。こうした南極における物質動態の理解には、南極に基地を有する国同士の国際連携が欠かせない。研究グループは引き続き日仏の密接な研究協力を継続し、さらに研究を発展させる予定である。

謝辞

JSPS(日本学術振興会)

日仏二国間交流事業

SAKURAプログラム:代表 服部祥平 2014~2015年

CNRS(フランス国立科学センター):代表 服部祥平2018~2019年

科学研究費助成事業

新学術領域「南極の海と氷床」公募研究(JP18H05050):代表 服部祥平 2018~2019年度

若手研究A(JP16H05884):代表 服部祥平 2016~2019年度

特別研究員奨励費(JP17J08978):代表 石野咲子 2017~2018年度

特別研究員奨励費(JP19J00682):代表 石野咲子2019~2021年度

基盤研究S(JP17H06105):代表 吉田尚弘 2017~2022年度

用語説明

[用語1] 硫黄安定同位体組成(δ34S値) : 質量数の異なる原子で、放射壊変せず安定に存在するものを安定同位体といい、安定同位体組成はその比率のことを指す。硫黄は質量数32、33、34および36の4種類が存在しており、δ34S値はマイナーな同位体である34Sの32Sに対する比率を指す。

[用語2] 氷期 : 氷河時代のうち、特に気候が寒冷となり中緯度圏の非山岳地域にも氷河の発達した時期のこと。氷期と氷期の間の気候温暖な時期は間氷期という。

[用語3] 氷コア(ice core) : 氷河や氷床から取り出された筒状の氷の試料。古気候や古環境の研究に用いられる。氷コアを用いて、過去の季節変化や古気候・古環境、過去の気温や大気の成分などを推定・復元できる。

[用語4] 硫化ジメチル(DMS) : 硫黄を含む揮発性有機化合物の一種。海洋表層に生息する植物プランクトンや藻類によって大気中に放出される。海で感じる「磯の香り」の正体であることと言われている。

[用語5] 海洋堆積物コア : 海底の堆積物を筒状に掘削して得た試料。氷コアと同様に、古気候や古環境の研究に用いられる。

[用語6] マルチコレクター誘導プラズマ質量分析計(MC-ICP-MS) : 質量分析計の一種。従来の硫黄安定同位体組成の分析手法に比較して高感度化が達成できるため、必要試料量が1/10~1/100程度に削減できる。本研究では、リヨン高等師範学校との共同研究によって分析が行われた(Albalat et al., 2016)。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Homogeneous sulfur isotope signature in east Antarctica and implication for sulfur source shifts through the last glacial-interglacial cycle
著者 :

石野咲子(東京工業大学 物質理工学院(研究当時)、現 国立極地研究所 日本学術振興会特別研究員PD)

服部祥平(東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 助教)

Joel Savarino(グルノーブルアルプス大学)

Michel Legrand(グルノーブルアルプス大学)

Emmanuelle Albalat(リヨン高等師範学校)

Francis Albarede(リヨン高等師範学校)

Susanne Preunkert(グルノーブルアルプス大学)

Bruno Jourdain(グルノーブルアルプス大学)

吉田尚弘(東京工業大学 物質理工学院 教授/地球生命研究所 主任研究員)

DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 理物質理工学院 応用化学系

助教 服部祥平

E-mail : hattori.s.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5419、045-924-5506 / Fax : 045-924-5413

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

国立極地研究所 広報室

E-mail : kofositu@nipr.ac.jp
Tel : 042-512-0655

光触媒反応中の電子と分子の超高速な動きを世界初観測 次世代のクリーンエネルギー人工光合成技術の進展に結びつく成果

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研究成果のポイント

  • 人工光合成[用語1]光触媒[用語2]反応)において、時間分解テラヘルツ(THz)[用語3]全反射分光法[用語4]を用いて、光触媒分子(レ二ウム(Re)錯体)と還元剤TEOA溶液の分子間相対運動および電荷移動の観測に初めて成功。
  • 光触媒反応がピコ(10-12)秒という極めて短い時間の中でどのように起こっているかを直接観測することはこれまで不可能だった。
  • 光触媒反応における還元剤の役割を解明することで、高効率の光触媒分子の探索が期待される。

概要

ベトナム物質科学研究所のPhuong Ngoc Nguyen研究員(研究当時:大阪大学 大学院理学研究科 博士後期課程)、大学院生命機能研究科(理学研究科兼任)の渡邊浩助教、木村真一教授、東京工業大学 理学院 化学系の石谷治教授、玉置悠祐助教らの研究グループは、人工光合成に用いられる光触媒分子(Re錯体)が還元剤TEOA溶液中において、光照射後しばらくしてRe錯体へ隣のTEOA分子が近づき、電子を渡す様子を、時間分解THz全反射分光法を用いて、ピコ秒の時間スケールで観測することに初めて成功しました。この成果は、光触媒反応の詳細な理解とより効率の高い光触媒分子の探索に重要な役割を果たすことが期待されます。また本研究で用いた時間分解THz全反射分光法は、液体中の2つの分子間の位置関係の変化を知ることができるため、光触媒反応プロセスだけでなく、生物・化学分野における反応プロセスの理解に役立つものと期待されます。

本研究成果は、8月13日(火)18:00(日本時間)にNatuRePublishing Group「Scientific Reports」(オンライン版)で公開されました。

研究の背景

二酸化炭素と光から化学エネルギーを作り出す人工光合成(光触媒反応)は、太陽電池と並び、次世代のクリーンエネルギー源として期待されており、特に、レニウム(Re)錯体を用いた光触媒反応は、効率がとても高いことが知られています。その光触媒反応は、ピコ(10-12)秒~ミリ(10-3)秒という極めて短い現象の間に起こり、その中で『光を吸収する』、『隣の分子から電子を受け取る』、『二酸化炭素を還元する』など様々な現象が起こっています。より高効率な光触媒分子を作るためには、ピコ秒という極めて短い時間の中で光触媒反応が開始される現象がどのように起こっているかを調べる必要があり、パルスレーザー[用語5]を使った可視光や赤外線での研究がこれまでは主に行なわれてきました。しかし、触媒反応で重要な、 『光を吸収』した後に『隣の分子』がどのように近づいてきて、『電子を受け取った』のか、つまり分子間の相対運動や電荷移動を直接観測することは不可能でした。

そこで本研究では、可視光や赤外線より周波数が低いテラヘルツ(THz)光を用いることを思い立ちました。THz光を用いることでゆっくり振動する大きな分子間の振動が観測でき、その周波数変化を調べることで、隣り合う分子との間の相対位置の変化や電荷移動の情報を得ることができます。しかし、THz光は液体に吸収されやすくうまく観測できないため、新たな観測手法を用いる必要がありました。

本研究の内容

本研究では、人工光合成材料として用いられている光触媒分子[Re(CO)2(bpy){P(OEt)3}2](PF6)(Re錯体)において、光触媒反応がどのように起こっているかを時間分解THz全反射分光法という方法を用いて観測を行いました。光触媒分子は光を吸収することでCO2をCOへと還元しエネルギーを取り出すことができるものですが、この過程には、

  • Re錯体が光を吸収し、Re原子内の電子が周りの配位子原子へと移動する。
  • Re錯体が周りの還元剤(TEOA)から電子を受け取る。
  • 二酸化炭素(CO2)を一酸化炭素(CO)へと還元する。

というプロセスが存在します。我々はこれらのうち2番目の還元剤とRe錯体への電荷移動過程に着目し、この過程がどのように起こっているかを調べました。触媒反応の観測は、これまで主に近・中赤外の光を用いて行われてきました。近・中赤外光は分子内振動という、分子の中の隣り合う二つの「原子」の結合力の変化を見ることができます。一方我々が用いたTHz光は分子間振動という隣り合う二つの「分子」の結合力の変化を見ることができるため、Re錯体の周りのTEOA分子が光照射後にどのように動き、どのように電子をやり取りするかを観測することが可能です。しかしTHz光は液体に吸収されやすいという性質を持っているため、TEOA溶液中のRe錯体を観測しようとすると溶液の吸収に邪魔されてうまく観測できないという問題がありました。そこで新たに、全反射分光という方法とTHz分光を組み合わせる(図1)ことで溶液のTHz分光を可能にしました。

THz全反射分光のセットアップ

図1. THz全反射分光のセットアップ

我々はさらにTHz全反射分光法に、超高速の時間分解測定を行うため、波長400 nmのパルス光を試料に当てた後、少し時間を遅らせてTHzパルスを照射するポンプ・プローブ分光法[用語6]という手法を組み合わせた時間分解THz全反射分光で、ピコ秒の時間スケールで紫外線照射後の光触媒反応の観測に初めて成功しました。

その結果、光照射直後から9ピコ秒までは、光を吸収することでRe錯体の温度が急激に上がった後、図2(Ⅰ)に示すように周りのTEOA分子へと熱を渡し、冷えていく過程を見ていると考えられます。次に9~14ピコ秒では、図2(Ⅱ)に示すようにTEOA分子が回転し、Re錯体との間の距離が短くなったことが分かりました。最後に14ピコ秒以降では、図2(Ⅲ)に示すように、TEOA分子からRe原子へ電荷移動が起こり、共に正へと帯電したためクーロン反発[用語7]により離れてしまったため、分子間振動自体がなくなったと考えられます。

このように我々は時間分解THz全反射分光を用いることで、光触媒反応においてピコ秒と極めて速い時間スケールで還元剤がどのように動き、電子が移動するのかを観測することに初めて成功しました。

光触媒反応における光照射後のRe錯体とTEOA分子の位置関係の変化の模式図

図2. 光触媒反応における光照射後のRe錯体とTEOA分子の位置関係の変化の模式図

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

次世代のクリーンエネルギーの一つとして期待される高効率の光触媒分子を探索するうえで、その反応過程を詳細に調べることは、高いエネルギー変換効率を得るために極めて重要です。本研究は、二つの分子間の結合力と電荷移動を知ることができるTHz光を用いて、光触媒分子と還元剤の動きを観測することに成功しました。このことは光触媒還元反応における還元剤の役割をより詳細に観測可能であることを示しており、今後高効率の光触媒過程を作り出すうえで、この測定法が大きな助けとなると考えられます。また光触媒反応以外においても、多くの生物・化学における反応は、溶液中において二つの分子の間で起こるものが多く、時間分解THz全反射分光の手法は多様な反応過程の研究の発展へとつながっていくことが期待されます。

特記事項

この研究は、文部科学省国家課題対応型研究開発推進事業「光・量子融合連携研究開発プログラム」の研究課題「レーザー・放射光融合による光エネルギー変換機構の解明」および科学研究費補助金基盤研究C(18K04836)の補助を受け行われました。

用語説明

[用語1] 人工光合成 : 植物が葉緑体内で行う光を用いて二酸化炭素を還元することで化学エネルギーを作り出す過程を人工的に行うこと。光を電気に変換する太陽電池に比べ、安定な高エネルギー物質へと変換するため、貯蔵・運搬の面で優れている。

[用語2] 光触媒 : 光を吸収して触媒作用を示す物質。通常では起こらないような反応を常温で起こすことができる。有名な光触媒は酸化チタンなど。光合成も天然の光触媒反応である。

[用語3] テラヘルツ(THz)光 : 波長が約30 μm~3 mmの光で赤外線と電波の間の性質をもつ光。X 線などの放射線と同様に透過性能が高いが人体への影響が少なく安全なため、医療や薬学、セキュリティなどの分野への応用が期待されている。

[用語4] 全反射分光法 : 光が境界で全反射した時にしみだすエバネッセント光といわれる光を用いた分光。本研究では図1に示すような逆三角形のシリコンプリズムに光を入射させ、屈折により曲がった光がプリズム上部に当たり全反射した時に出るエバネッセント光を、液体試料と反応させた。実際に液体試料内部を光が通らないため、吸収の強い試料の測定に向いている。

[用語5] パルスレーザー : 連続的ではなくパルス的に短い時間だけ発光するレーザー。本研究では、50フェムト(10-15)秒の時間だけの発光が 1秒間に1,000回発生するパルスレーザー装置を用いた。

[用語6] ポンプ・プローブ分光法 : パルスレーザーを二つ用い、最初の光で物質に変化を起こした後、少し遅らせた二発目の光でその変化を観測する方法。二つの光の時間間隔を少しずつ変えて何度も観測することで、光による物質の変化をフェムト秒からピコ秒の時間スケールで知ることができる。

[用語7] クーロン反発 : 正と正もしくは負と負の電荷を帯びた物の間に働く反発力を用いて遠ざかること。正と負の電荷の場合は逆に引力となる。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports 9, 11772 (2019). 8月13日(日本時間)掲載
論文タイトル :
Relaxation dynamics of [Re(CO)2(bpy){P(OEt)3}2](PF6) in TEOA solvent measured by time-resolved attenuated total reflection terahertz spectroscopy
著者 :
Phuong Ngoc Nguyen(大阪大学、博士後期課程(当時)、現 ベトナム物質科学研究所 研究員),Hiroshi Watanabe(渡邊浩、大阪大学、助教),Yusuke Tamaki(玉置悠祐、東京工業大学、助教),Osamu Ishitani(石谷治、東京工業大学、教授),Shin-ichi Kimura(木村真一、大阪大学、教授)
DOI :
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お問い合わせ先

大阪大学 大学院生命機能研究科 光物性研究室

助教 渡邊浩、教授 木村真一

E-mail : hwata@fbs.osaka-u.ac.jp(渡邊浩)
kimura@fbs.osaka-u.ac.jp(木村真一)
Tel : 06-6879-4604、4600 / Fax : 06-6879-4601

大阪大学生命機能研究科 庶務係

E-mail : seimei-syomu@office.osaka-u.ac.jp
Tel : 06-6879-4692

東京工業大学 理学院 化学系

教授 石谷治

E-mail : ishitani@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2240 / Fax : 03-5734-2284

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


9月の学内イベント情報

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9月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

グローカルサマースクール2019 in Tokyo Tech

グローカルサマースクール2019 in Tokyo Tech

本学大学院生(博士課程、修士課程、専門職学位課程)、交流協定校、社会人の約40名が、学問分野を問わずに世界規模の課題について考える約3日間の課題解決・創発力育成のための集中プログラムです。

“グローカル”とは、ローカルでの優れた技術や発想をグローバルに展開していく、国際化の新しい視点です。

今回「人によりそうを形にする ―食べる と 喜び」をプログラムテーマとし、博士課程・修士課程の混合グループでのディスカッションや、アクティビティ、モデリング、ポスター発表等を通して、研究者・起業者としてチームを率いるリーダーシップ、学際性・コミュニケーション力を身に付けること、他分野の研究者との協働、ネットワーク構築、専門外の知見、異文化交流を通じた新しいモノの見方の獲得を目指します。

最終日にはチームによるポスタープレゼンテーションを行い、意欲ある提案をしたチームの表彰が予定されています。

日時
2019年9月2日(月) - 9月4日(水)
会場
対象

3日間午前午後全日程に参加できる、修士課程、専門職学位課程、博士後期課程に在籍する学生、科目等履修生、特別聴講学生、海外交流学生

詳細は募集要項を確認
申込
必要(7月31日(水)締切、定員40名程度)

日本神経回路学会第29回全国大会(JNNS2019)

日本神経回路学会第29回全国大会(JNNS2019)

日本神経回路学会第29回全国大会(JNNS2019)および、プレワークショップが東京工業大学大岡山キャンパス蔵前会館にて開催されます。本大会は、JNNS主催による年1回の定期大会であり、神経情報処理に関する最新の研究発表と議論を目的としています。今回は学会設立30周年の記念大会となります。

JNNS2019では、脳神経系に関わる生理学、心理学、脳イメージング、感覚・知覚、認識、運動、認知科学、人工知能、ロボティクス、数理モデル、学習理論、信号処理、データ計測・解析技術、機械学習、ハードウエア技術・ソフトウェア技術、高性能計算、アルゴリズムなど幅広い分野の研究発表が行われます。

日時
2019年9月3日(火) - 9月6日(金)
会場
申込
必要

東工大コンサートシリーズ2019年夏「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団首席フルート奏者 ワルター・アウアーを迎えて」

東工大コンサートシリーズ2019年夏「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団首席フルート奏者 ワルター・アウアーを迎えて」

東工大コンサートシリーズは、科学者を触発し続けてきた芸術を愉しむ会です。科学だけでなく、芸術の花咲く大学であるという矜持を示す意味もあります。今回は、世界中で5億人が視聴するという1月1日のニューイヤーコンサートでおなじみのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席フルート奏者ワルター・アウアーさんをお迎えしてお送りします。モーツァルトとシューベルトというウィーンにゆかりのある作曲家の屈指の名曲に加え、フルートの魅力を味わえる魅力的なプログラムとなっています。さらに、演奏会の前に東工大学生およびプロのフルート奏者を対象としたマスタークラスを行います。こちらは、非公開です(参加方法についてはイベントページ参照)。世界最高峰のオーケストラの演奏家が理工系大学でコンサートと学生へのレッスン?とびっくりされるかもしれませんが、オーストリアの東工大ともいえるウィーン工科大は、ヨゼフ・シュトラウスやヨハン・シュトラウス2世、そして音楽の帝王と呼ばれたヘルベルト・フォン・カラヤンが学んだ学校です。2015年のニューイヤーコンサートでは、ウィーン工科大に関係する4曲が取りあげられ、バレエの舞台にもなりました。ウィーン・フィルのメンバーが日本を代表する工科大・東工大に登場するのは、自然なことなのです。

ピアノは、ウィーン国立音大に留学中の吉兼加奈子さん(当コンサートシリーズでは、ヴァイオリニスト小林美樹さんとのデュオでおなじみ)にお願いしました。

日時
2019年9月12日(木)19:00開演(18:30開場)
会場
対象
どなたでも参加できますが、未就学児童はお断りしています。
申込
不要(定員320名、当日先着順)

フレデリック・ラルー氏(「ティール組織」著者)来日記念公開講座

フレデリック・ラルー氏(「ティール組織」著者)来日記念公開講座

ベストセラー著書『ティール組織』(原題:Reinventing Organizations)の著者、フレデリック・ラルー氏を迎え、東京工業大学 リーダーシップ教育院(ToTAL)主催の公開講座を行います!

『ティール組織』は、発行部数が世界で40万部に達し、「マネジメントの常識を覆す次世代型組織」「変化の激しい時代における生命体型組織」としてポスト資本主義における組織進化論の重要なモデルとして注目を浴びている本です。 日本においても、Amazon売り上げランキング3位、日本の人事部「HRアワード2018」優秀賞、読者が選ぶビジネス書グランプリのマネジメント部門大賞を獲得した著書です。

公開講座では、本の内容にとどまらず、著者の考える「(仮題)新しい時代とリーダーシップ」についてのレクチャーを著者から直接聞くことができる貴重な機会です。ゲストパネリストとのパネルディスカッションも予定しております。

日時
2019年9月13日(金) 15:00 - 18:30(14:30 受付開始)
会場
参加費
無料
申込
必要(一般参加定員50名、本学の学生・教職員優先)

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

オランダのデルフト工科大学 優秀学生派遣団が東工大を訪問

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7月17日、本学と授業料不徴収協定を結んでいるオランダのデルフト工科大学の電子数理情報工学部の学生30名が本学を訪問し、情報理工学院 情報工学系のクサビエ・デファゴ教授を始めとする教員、学生と議論を行いました。

本館前での集合写真

本館前での集合写真

一行はデルフト工科大学 電子数理情報工学部の学部、修士の学生団体「クリスティアーン・ホイヘンス(Christiaan Huygens)」により構成され、日本の学術研究機関と先端企業を訪問し、その1つとして本学の情報理工学院を訪問しました。

当日のプログラムは本学 科学技術創成研究院 特任准教授(WRHI)を兼任する石原良一デルフト工科大学 電子数理情報工学部准教授と本学 情報理工学院 情報工学系のデファゴ教授のアレンジにより行われました。

まずデファゴ教授より歓迎の辞、本学の沿革、学生交流プログラム、およびデファゴ研究室で行っている分散システムの研究についての紹介がありました。

途中、石原特任准教授が、デルフト工科大学を含む世界トップレベルの理工学大学より学生を受け入れ研究プロジェクトを行うサマープログラムを紹介する場面もありました。

本学および情報理工学院の研究の紹介をするデファゴ教授
本学および情報理工学院の研究の紹介をするデファゴ教授

サマープログラムの紹介をする石原特任准教授
サマープログラムの紹介をする石原特任准教授

研究紹介をする田村助教
研究紹介をする田村助教

熱心に議論するデルフト工科大学の学生とフランソワ特任准教授
熱心に議論するデルフト工科大学の学生とフランソワ特任准教授

次いで、情報理工学院 情報工学系の田村康将助教、ボネ・フランソワ特任准教授からそれぞれ自身の研究について紹介を行いました。

最後に情報理工学院 情報工学系 修士課程2年の片平遥香さん、亀山聖太さん、奥村圭祐さんが現在行っている修士論文研究について紹介しました。

学生団体よりデファゴ教授に記念品贈呈
学生団体よりデファゴ教授に記念品贈呈

研究紹介と休憩時間の間、訪問学生と熱心な質疑応答と議論が行われ、予定時間を越えてしまうほどの盛り上がりでした。参加した教員からは訪問学生の優秀さと積極的な参加に驚きの声が上がっていました。

一行は来訪前には国立情報学研究所(NII)、深層学習の研究開発を行うプリファード・ネットワークス、アニメ制作ソフトを開発するオー・エル・エム、楽天技術研究所などを訪問し、本学訪問後に京都大学および韓国を訪問しました。

参加した本学教員および学生

デファゴ・クサヴィエ(Defago,Xavier) 教授 情報理工学院 情報工学系

石原 良一 特任准教授 科学技術創成研究院 量子コンピューティング研究ユニット(WRHI)

ボネ・フランソワ(Bonnet,François) 特任准教授 情報理工学院 情報工学系

田村康将助教 情報理工学院 情報工学系

片平遥香さん 情報理工学院 情報工学系 修士課程2年

亀山聖太さん 情報理工学院 情報工学系 修士課程2年

奥村圭祐さん 情報理工学院 情報工学系 修士課程2年

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お問い合わせ先

科学技術創成研究院 WRHI事務室

E-mail : wrhi-office@iir.titech.ac.jp

写真でたどる「東京工業大学オープンキャンパス2019」

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夏休み期間中の8月10日、「高校生・受験生のための東京工業大学オープンキャンパス2019」が開催されました。真夏の大岡山キャンパスに15,000名を超える高校生・受験生とその保護者が来場しました。

午前9時の開門と同時にキャンパスは参加者の熱気に包まれ、午前10時から各プログラムがスタート。入試説明会や各学院の個別ブース相談に多くの人が訪れました。

東工大オープンキャンパスの醍醐味はなんといっても模擬講義や実験体験、研究室公開など、東工大の教員や学生たちと交流しながら科学技術の最先端を間近で体験できること。わくわくどきどきする東工大の魅力を肌で感じてもらうために、200を超えるプログラムをご用意しました。

大いに盛り上がった東工大オープンキャンパス2019の様子を写真で振り返ります。

全学入試説明会

学長挨拶
学長挨拶

全学入試説明会
全学入試説明会

キャンパス建物探訪

キャンパス建築ツアー
キャンパス建築ツアー

蔵前会館エントランス
蔵前会館エントランス

図書館見学ツアー

図書館見学ツアー

講義・研究室公開

環境・社会理工学院 広大な設備
環境・社会理工学院 広大な設備

環境・社会理工学院 模擬講義
環境・社会理工学院 模擬講義

最新機器の紹介
最新機器の紹介

環境・社会理工学院 展示
環境・社会理工学院 展示

「熱で“もの”を動かす」体験
「熱で“もの”を動かす」体験

情報理工学院 研究紹介
情報理工学院 研究紹介

理学院 体験企画
理学院 体験企画

理学院 研究室公開
理学院 研究室公開

工学院 研究室公開
工学院 研究室公開

情報理工学院 研究室公開
情報理工学院 研究室公開

物質理工学院 研究室公開
物質理工学院 研究室公開

生命理工学院 研究室公開
生命理工学院 研究室公開

入試相談会・学院別個別相談会 / キャンパスライフ相談会

入試個別相談会
入試個別相談会

キャンパスライフ相談会
キャンパスライフ相談会

各学院個別相談会

各学院個別相談会

東工大でお待ちしています!

東工大でお待ちしています!

東工大でお待ちしています!

益一哉学長によるスピーチ

益一哉学長によるスピーチ

例年好評をいただいている東工大オープンキャンパスは、今年も充実の一日となりました。多くの方にご来場いただき誠にありがとうございました。

お問い合わせ先

アドミッション部門・学務部入試課

E-mail : opencampus@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3990

複数の原子からなる高次の物質の周期律を発見 未知物質の探索に活用できる新たな周期表の誕生

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要点

  • 分子などの形状と性質を予測する新たな理論モデルを開発
  • 複数の原子からなる高次の物質の間に新たな周期律を発見
  • まだ確認されていないナノ物質の存在を予見

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の塚本孝政助教、春田直毅特任助教(現 京都大学 福井謙一記念研究センター 特定助教)、山元公寿教授、葛目陽義准教授、神戸徹也助教らの研究グループは、コンピューターシミュレーションを用いた理論化学的手法[用語1]に基づき、分子などの微小な物質(ナノ物質)が持つエネルギー状態[用語2]を記述する「対称適合軌道モデル[用語3]」を開発した。このモデルは、ナノ物質が持つ様々な幾何学的対称性[用語4]に着目することで、それらの形状や性質などを正確に予測する。さらに、この理論モデルにより、複数の原子からなる高次の物質の間にも元素のような周期律が存在することを発見し、この周期律を元素周期表[用語5] と類似の「ナノ物質の周期表[用語6]」として表すことに初めて成功した。

今回の研究により、元素周期表の発見から150周年の節目にあたる国際周期表年に、全く新しい高次の周期表が発見されたことになる。この周期表に従ってナノ物質の設計や探索を行うことで、将来的には、今まで発見されてこなかった未知の物質や新たな機能材料の創出が期待できる。

この研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「山元アトムハイブリッドプロジェクト(山元公寿 研究総括)」で実施された。本成果は、2019年8月19日発行の英科学雑誌Nature Publishing Groupの「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

背景と経緯

メンデレーエフが元素周期表を提案してから150周年を迎えた2019年は、「国際周期表年」として宣言されている。原子が持つ物理的・化学的性質の周期的な変化(周期律)を表す元素周期表は、これまで自然科学の発展に大きく貢献してきた。現在までに、118種類もの元素が発見され、元素周期表に加えられている。今日では、この周期律の起源は、原子の電子配置[用語7]にあることが明らかになっている。

従来の周期表では、単一の原子の性質が扱われているが、複数の原子からなる高次の物質でもこのような周期律が発見されれば、物質科学の世界において非常に有用な指標となる。しかし、このような原子より大きなスケールの物質では、その性質を支配する原理や法則は見出されていなかった。原子とは異なり、大きさ・組成・形などの様々な要素を持っており、単純には分類できないためである。

研究成果

塚本孝政助教、春田直毅特任助教、山元公寿教授らの研究グループは、微小な物質(ナノ物質)が持つ幾何学的対称性(形)に着目し、コンピューターシミュレーションと群論[用語8]を応用することで、様々なナノ物質のエネルギー状態(電子軌道)を正確に予測する「対称適合軌道モデル」を開発した。このモデルに基づき、ナノ物質を評価することで、形状・性質・安定性などの系統的な予測が可能となった。

またこうした取り組みの中で、ナノ物質の持つ複数の電子軌道が幾何学的対称性ごとにある一定の法則に従うこと、つまり周期律があることも明らかになった(図1)。原子の場合と同様に、ナノ物質の性質も電子配置(すなわち電子軌道の埋まり方)によって決まる。今回発見された新たな周期律を、ナノ物質が持つ要素(原子数・電子数・元素種など)ごとにまとめることで、元素周期表に類似した「ナノ物質の周期表」として表すことに初めて成功した(図2)。この「ナノ物質の周期表」は、従来の元素周期表に現れる「族」「周期」に加え、「類」「種」という新たな軸を持つ多次元の周期表で、既に知られている実在の化学物質や天然物に加えて、未発見のナノ物質も含まれている。こうした高次の周期表は、ここに示すものだけでなく、ナノ物質の持つ幾何学対称性ごとに異なるものが存在する。

図1. ナノ物質のエネルギー状態(電子軌道)は、その幾何学的対称性ごとに異なり、ある一定の法則に従う。理想的には球体が最も高い幾何学的対称性を持つが、実在するナノ物質には球対称のものは存在しない。
図1.
ナノ物質のエネルギー状態(電子軌道)は、その幾何学的対称性ごとに異なり、ある一定の法則に従う。理想的には球体が最も高い幾何学的対称性を持つが、実在するナノ物質には球対称のものは存在しない。
図2. 正四面体型の対称性を持つ「ナノ物質の周期表」の一例。このような「族」「周期」「類」「種」の四つの次元を持つ高次の周期表が、幾何学的対称性(形)ごとに存在する。天然に存在する物質や、未発見のナノ物質もこの中に含まれる。
図2.
正四面体型の対称性を持つ「ナノ物質の周期表」の一例。このような「族」「周期」「類」「種」の四つの次元を持つ高次の周期表が、幾何学的対称性(形)ごとに存在する。天然に存在する物質や、未発見のナノ物質もこの中に含まれる。

今後の展望

ナノ物質を構成する原子の個数や元素の種類、元素の比率には、無限大の組み合わせが存在する。今回見つかった「ナノ物質の周期表」を指針とすることで、その無限大の組み合わせの中から、今まで検討されてこなかった未知の物質や新たな機能材料の発見が期待できる。

用語説明

[用語1] 理論化学的手法 : 数学や物理学、コンピューターシミュレーションなどを駆使することで、実験室で実験を行うことなく、物質の性質を明らかにする方法論のこと。実験で得られるデータを精緻に解釈したり、新たな化学現象を予測したりするのに用いられる。

[用語2] エネルギー状態 : 原子や分子などの物質は、正電荷を持つ原子核と負電荷を持つ電子の集まりで構成される。各電子は、原子核の周りに広がる軌道に収まる。軌道には様々な形があり、それぞれが異なるエネルギーを持つ。このように軌道は、電子がとりうる各エネルギー状態という意味を持つ。2個の電子までが同じ軌道に入ることができる。

[用語3] 対称適合軌道モデル : ナノ物質が持つ幾何学的対称性に着目し、群論を応用することで構築された理論モデル。ナノ物質のエネルギー状態を予測し、また特定の形や性質を持ったナノ物質の設計を行うこともできる。

[用語4] 幾何学的対称性 : 物質が持つ対称性は、左右対称といった幾何学的な性質で測られることから、幾何学的対称性と呼ばれる。正四面体・正八面体・正二十面体などの形をした物質は、特に幾何学的対称性が高い。最も高い幾何学的対称性は球対称(球)であり、物質を構成する最小単位である原子は球対称である。一方で、分子などのナノ物質は複数の原子から構成されるため、球対称よりも低い幾何学的対称性しか持つことはできない。

[用語5] 元素周期表 : 元素の物理的・化学的性質は、原子番号に従ってある一定の周期で変化することが知られている。これを基に、「族」と「周期」という二つの軸を持たせて、元素を分類・配置したものを元素周期表という。1869年にロシアの化学者メンデレーエフにより提唱された。2019年は、元素周期表の発見からちょうど150周年であり、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)により「国際周期表年(IYPT2019)」として宣言されている。

[用語6] ナノ物質の周期表 : 「対称適合軌道モデル」から見出される、大きさ・組成・形に関する周期律に基づいて、ナノ物質を分類・配置した表。「族」「周期」「類」「種」という複数の軸を持つ、多次元の周期表である。従来の周期表と同様に「族」「周期」はナノ物質の電子配置を識別し、加えて「類」はナノ物質の構成原子数、「種」は構成元素種を識別する。ナノ物質の幾何学的対称性(形)ごとに異なる周期表が存在する。

[用語7] 電子配置 : 元素固有の性質は、原子が持つ軌道にどのように電子が入るかによって決まる。これを電子配置と呼び、元素の性質に周期性が現れる要因ともなっている。一方で、ナノ物質の性質も電子配置によって決まるが、物質によって電子軌道の持つエネルギーが大きく異なるため、その性質に周期性は現れない。

[用語8] 群論 : 代数学の概念の一つである「群」を取り扱う学問。「群」とは、ある条件を満たす数学的集合のことで、フランスの数学者ガロアにより着想された。群論は数学の世界にとどまらず、物理学や化学をはじめとする幅広い分野で応用されている。本研究では、ナノ物質の持つ幾何学的対称性と電子軌道との関係について、群論を用いて考察することで、ナノ物質の新たな分類に成功した。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)
論文タイトル :
Periodicity of molecular clusters based on symmetry-adapted orbital model(対称適合軌道モデルに基づいた分子クラスターの周期律)
著者 :
Takamasa Tsukamoto, Naoki Haruta, Tetsuya Kambe, Akiyoshi Kuzume, Kimihisa Yamamoto
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5260

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

2019年度おおた区民大学「東京工業大学提携講座」実施報告 宇宙(そら)は広いな、大きいな

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今年度も5月29日から7月3日までの毎週水曜日19:00より、大岡山キャンパス本館で「東京工業大学提携講座」が開催されました。

今年は「宇宙(そら)は広いな、大きいな」と題して、今多くの関心を集めている宇宙とその探索の最新成果について、6名の教員がそれぞれ専門とする研究分野の宇宙科学全体における役割、並びに私たちの世界・物質観との関わりを説明しました。今年も6回すべて参加者は抽選となり、定員90名程の教室が各回とも出席者で一杯となって大変にぎやかな講座でした。

講座内容は以下のとおりです。

講演テーマ
学習支援者

宇宙の歴史と謎

山口昌英

理学院 物理学系 教授

重力波望遠鏡の開発

宗宮健太郎

理学院 物理学系 教授

アルマ電波望遠鏡で探る惑星形成の現場

野村英子

理学院 地球惑星学系 特定教授 <国立天文台 科学研究部 教授>

太陽系の最果てを探る

関根康人

理学院 地球惑星学系 教授

太陽系外惑星の探索

佐藤文衛

理学院 地球惑星学系 准教授

超小型システムによる宇宙開発

松永三郎

工学院 機械系 教授

おおた区民大学「東京工業大学提携講座」は、東工大側の窓口として理学院化学系の腰原伸也教授が学習コーディネーターをつとめ、20年以上にわたって大田区と東京工業大学が連携協力して開催してきました。

この講座の特徴としては、「自然科学交流会」という大田区社会教育関係団体が地元大田区と連携しながら、独自のアイデアに基づいてボランティアでテーマの企画、立案、本学教員からの講師の選択、区が配布するチラシの準備などを運営しています。

また、毎回区側がアンケートを行っており、聴衆層やその要望の把握に努めています。退職後の新たなる知的活動を楽しまれる方々、仕事の帰り道に寄る方を中心に、大学生、制服姿の高校生も多く、幅広い聴衆層となりました。そのため、教員は表現の仕方に工夫を凝らした熱気あふれる講義を行い、出席者から非常に高い評価をいただきました。

今後も区民の皆さんと協力し、学習の機会を提供をしたいと考えています。

おおた区民大学の講義風景

お問い合わせ先

理学院 化学系
腰原伸也(おおた区民大学学習コーディネーター)

E-mail : koshihara.s.aa@m.titech.ac.jp

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