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ディスプレイ用半導体の性能を左右する微量な水素の振舞いが明らかに 素粒子ミュオンで透明半導体IGZO(イグゾー)中の不純物水素の局所電子状態を解明

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要点

  • 微量水素が透明半導体IGZOの性能を左右するメカニズムの一端を、ミュオン注入により解明

概要

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の小嶋 健児 准教授(当時)、平石 雅俊 研究員、門野 良典 教授らのグループは、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の井手 啓介助教、神谷 利夫 教授、同大学 元素戦略研究センターの松石 聡 准教授、細野 秀雄 栄誉教授らのグループと共同で、ディスプレイ用として広く使われている透明半導体IGZO(イグゾー)において注目を集めている微量の不純物水素の振る舞いを明らかにしました。

本研究では、IGZO試料に水素の軽い同位体(=擬水素)としてのミュオンを注入し、ミュオン自身およびその周辺の状態をミュオンスピン回転法(µSR)[用語1]を用いて詳細に調べるとともに、第一原理計算[用語2]による結晶IGZO中の水素のシミュレーションからの情報を組み合わせることで、ミュオンを中心とした格子欠陥の局所電子構造を解明しました。これにより、不純物としての水素がIGZOの導電性に大きな影響を与える微視的なメカニズムの一端が明らかになりました。

一般に、半導体・誘電体などの電子材料では、その電気特性が微量の不純物に大きく左右されますが、中でも水素は最も普遍的に存在するにもかかわらず、最も捉えにくい不純物の一つです。本研究は、擬水素としてのミュオンからの情報と、近年発展している第一原理計算による予想とを組み合わせることが、水素を捉えるために有効であることを示し、この手法が様々な電子材料中での水素不純物の影響を調べる研究に応用されることが期待されます。

この研究成果は米国現地時間の9月17日、学術誌Applied Physics Lettersに掲載されました。

背景

インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)からなる酸化物半導体であるInGaZnO4(IGZO:イグゾー)は、高性能で均質なアモルファス薄膜形成に適しており、大型液晶テレビ・モニタからスマートフォンまで様々なディスプレイ用の薄膜トランジスタ材料として近年急速に普及しています。その一方で、長時間のバックライト照射・電圧下でのトランジスタの閾値電圧がシフトする不安定性(光照射下負バイアス負荷不安定性(Negative Bias Illumination Stress:NBIS)[用語3])など、今なお改善すべき性能上の問題も抱えています。従来の様々な研究から、これらの問題の多くに不純物としての水素が絡んでいることが明らかになっていますが、物質材料の内部に存在する微量(一般にppm以下)の水素を原子スケールで調べる手段は限られており、IGZO結晶中、さらにはアモルファスIGZO中で水素が具体的にどのような局所状態を取っているかについての実験的な情報は限定的なものにとどまっています。

研究手法と成果

ミュオンは素粒子の一つで、同じ質量で反対の電荷を持つ正ミュオン(µ+)と負ミュオン(µ-)がありますが、正ミュオン(以後こちらを単にミュオン(Mu)と呼びます)を物質に注入・停止させると、そこであたかも水素のように振る舞う(=擬水素)ことが予想されます。したがって、物質中でのミュオンの局所状態を詳細に観測することで、対応する水素についての情報を得ることができます(図1)。

そこで、本研究ではIGZOにミュオンを注入し、µSR測定によりその局所状態を詳細に観測することで、擬水素としてのミュオンの状態を調べました。具体的には、µSR測定で得られるミュオン位置での内部磁場分布(外部磁場ゼロ[=ゼロ磁場]では主に核磁気モーメントからの磁場に由来)から、ミュオンに最隣接しているIn、Ga、Zn、酸素(O)という4種類の原子の分布に関する情報を得るとともに、それと第一原理計算で結晶IGZO中の水素について予想される候補位置での分布、および形成エネルギーを比較することでミュオンの局所状態を推定しました。

なお、実験は水素濃度が低い結晶IGZOとアモルファスIGZO薄膜、および意図的に水素処理をしたアモルファスIGZO薄膜の3種類について行い、結晶IGZOについては大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)[用語4]内のミュオンS1-ARTEMIS実験装置、2種類のアモルファスIGZOについてはいずれもポール・シェラー研究所(スイス)の低エネルギーミュオン(LEM)実験装置を用いてµSR測定を行いました。

実験・解析の結果、ミュオンが感じる内部磁場の分布幅から、結晶IGZOおよびアモルファスIGZO薄膜ではミュオンがZn-Oの結合中心付近にあってMu+の状態を取っていることが分かりました(図2(a)-(c)、図3)。これは、水素が不純物として侵入した場合、その濃度が希薄であれば結晶・アモルファスいずれにおいてもZn-Oの結合中心近くに存在する(つまり水素周辺の局所構造は結晶・アモルファスの違いに影響されない)こと、さらに、いずれの場合にも水素はそこでイオン化(H → H+ + e-)して電子を供給する、つまり意図しないn型伝導を引き起こす原因となることを意味します。

一方、あらかじめ水素プラズマ処理により水素を高濃度で導入したアモルファスIGZO薄膜中に注入されたミュオンでは、未処理のIGZOの場合に比べて観測される内部磁場の分布がローレンツ分布型となって大きく乱れていることから(図2(d))、周りの原子分布も0.5ナノメートル以下の長さスケールで乱れていること、さらに内部磁場の大きさから、水素処理により注入された水素のそばにミュオンが存在している可能性が高いことが明らかになりました。これは、酸素空孔中に2つの水素が捕獲されて2H-という水素の負イオン(ヒドリド)状態を作る、という最近の理論的な予想とも整合し、水素が1個だけ存在する酸素空孔に後から来たミュオンが捕獲される(Mu-H- の対となる)傾向を示唆しています。また、この場合にはO2-イオンが抜けた後を2H-が占めるため、電子供給は起きないことも分かります。

興味深いことに、このような水素負イオンは、光励起により電子を伝導帯に供給することが知られており、同様の機構がアモルファスIGZOで現在問題となっているNBISの原因である可能性も指摘されています。今回の実験からはアモルファスIGZO薄膜中にもそのような水素負イオン状態(酸素空孔中の2H-)が実際にあり得ることを示唆していると考えられます。

本研究の意義、今後への期待

一般に、半導体・誘電体などの電子材料では、その伝導性や誘電率がppmレベルの微量不純物に大きく左右されますが、中でも材料の奥深くに存在する水素の微視的な情報を得る汎用的手段は今のところ存在しない、と言っても過言ではありません。本研究は、この困難を解決する上で、擬水素としてのミュオンからの情報と、近年発展している第一原理計算による予想と組み合わせた研究が有効であることを示し、この手法が様々な電子材料中での水素不純物の影響を調べる研究に応用されることが期待されます。

図1. 擬水素としてのミュオン。原子の大きさを決める電子軌道の直径は水素と比べて0.4%の違いしかなく、ミュオンは水素の軽い同位体元素(=ミュオジェン(Muogen)(※5))とみなせる。H. Okabe et al., Phys. Rev B 98,075210 (2018).
図1.
擬水素としてのミュオン。原子の大きさを決める電子軌道の直径は水素と比べて0.4%の違いしかなく、ミュオンは水素の軽い同位体元素(=ミュオジェン(Muogen)[用語5])とみなせる。H. Okabe et al., Phys. Rev B 98,075210 (2018).
図2. (a)結晶IGZO、(b)アモルファスIGZOで観測されたミュオン偏極度の時間変化。変化の型および分布幅ΔはIn、Ga、Znの原子核が持つ核磁気モーメントがミュオンに及ぼす内部磁場の分布とその大きさを反映し、Δは大きな核磁気モーメントを持つIn、Gaがミュオンの近くにいるほど大きな値となる(Znは核磁気モーメントが無視できるほど小さく、Oは核磁気モーメントを持たない)。(c)(a)、(b)の解析で得られたΔの温度依存性(青は結晶IGZO、赤はアモルファスIGZO)。図3で示すように、ミュオンにとって安定な原子配位はΔが小さい配位に対応するので、高温になるほどミュオンが注入後停止するまでに安定な配位を取りやすいことを示唆する。(d)水素プラズマ処理したアモルファスIGZOで観測されたミュオン偏極度の時間変化。変化が指数関数型で、ローレンツ型の分布を示す(a)、(b)よりも内部磁場分布の乱れが大きいことを示している。
図2.
(a)結晶IGZO、(b)アモルファスIGZOで観測されたミュオン偏極度の時間変化。変化の型および分布幅ΔはIn、Ga、Znの原子核が持つ核磁気モーメントがミュオンに及ぼす内部磁場の分布とその大きさを反映し、Δは大きな核磁気モーメントを持つIn、Gaがミュオンの近くにいるほど大きな値となる(Znは核磁気モーメントが無視できるほど小さく、Oは核磁気モーメントを持たない)。(c)(a)、(b)の解析で得られたΔの温度依存性(青は結晶IGZO、赤はアモルファスIGZO)。図3で示すように、ミュオンにとって安定な原子配位はΔが小さい配位に対応するので、高温になるほどミュオンが注入後停止するまでに安定な配位を取りやすいことを示唆する。(d)水素プラズマ処理したアモルファスIGZOで観測されたミュオン偏極度の時間変化。変化が指数関数型で、ローレンツ型の分布を示す(a)、(b)よりも内部磁場分布の乱れが大きいことを示している。
図3.
(a)IGZO結晶中の水素の周りの原子分布ごとの形成エネルギー(Ef)と対応する内部磁場の分布幅(Δ)。青丸、黄三角は第一原理計算の結果で、水素位置から半径0.3ナノメートル以内にある原子の種類と数(元素記号の右肩の数字)を表す(青丸は格子間位置、黄三角は酸素空孔位置の周りの配位)。In、Gaが近くに少ない原子分布ほど形成エネルギーが小さい(=負で大きい)傾向を示しているが、偶然にもIn、Gaは核磁気モーメントも大きいため、形成エネルギーの大小とΔのそれが正の相関を持っている(図中の矢印)。網掛け部分はミュオンについて得られた実験値で(図2(c)を参照:青は結晶IGZO、赤はアモルファスIGZO)、高温になるほどIn、Gaの少ない(=より安定な)配位に対応するΔを示すことが実験から示された。(b)Zn4O4サイトと(c)Ga3Zn1O6サイトにおいて第一原理計算から予想される原子配置。それぞれZnとO原子の結合中心位置、2つのGaとO原子が作る面内の中心位置に対応。グレーの球は水素から半径0.3ナノメートルの領域を表す。

用語説明

[用語1] ミュオンスピン回転法(µSR) : 物質を構成する原子の隙間に注入したミュオン(ミュー粒子)を用い、そのスピン偏極度の時間変化からミュオンが感じる内部磁場の大きさやそのゆらぎを精密に観測する実験手法。注入・停止したミュオンの周り0.5ナノメートル程度の範囲の局所的な情報に加え、擬水素としてのミュオン自身の電子状態についての情報も与える。放射光・中性子を用いて得られる物質内の長距離にわたる情報とは相補的な関係にある。

[用語2] 第一原理計算 : 第一原理(first principles)計算とは、最も基本的な原理に基づく計算という意味であり、電子-電子、原子核-原子核、および電子-原子核間のクーロン相互作用から出発し、量子力学の基本法則に基づいた理論を用いて電子分布、および物質の諸性質を計算することを指す。非経験的電子状態計算とも呼ばれる。近年における計算環境の急速な向上により、短時間で高い計算精度が得られるようになりつつある。

[用語3] 光照射下負バイアス負荷不安定性(Negative Bias Illumination Stress:NBIS) : 透明薄膜トランジスタは、ディスプレイ装置で画素のオン/オフ(スイッチング)を制御するためなどに用いられる。アモルファスIGZOで構成された薄膜トランジスタでは、長時間光照射された状態に置かれた際に、スイッチングの動作電圧(閾値電圧)が徐々にマイナス側にシフトしていく現象が知られており、特にゲート電極に負バイアスを印加すると顕著になり、光照射下負バイアス負荷不安定性と呼ばれる。これが起きるとトランジスタのオフ動作が機能しなくなり、画素のスイッチング制御ができなくなる。液晶ディスプレイなどではバックライトによる継続的な光照射が起きるため、この問題の原因究明と対策が喫緊の課題となっている。

[用語4] 大強度陽子加速器施設(J-PARC) 物質・生命科学実験施設(MLF) : 高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われている。J-PARC内の物質・生命科学実験施設(MLF)では、世界最高強度のミュオン及び中性子ビームを用いた研究が行われ、世界中から研究者が集まる。

[用語5] ミュオジェン(Muogen) : ミュオンは素粒子としての分類上は陽電子・電子の仲間だが、質量が電子の約200倍と重く、特に正ミュオンは物質中で陽子の軽い放射性同位体として振舞う。つまり、陽子(H+)が物質中で電子を捉えて水素原子(H0)、あるいは負イオン(H-)となるように、ミュオン(Mu)もこれらに対応した電子状態(Mu+、Mu0、Mu-)を取る。さらに、これら原子としての性質は束縛されている電子軌道のサイズで決まるが、HとMuではその違いがわずか0.4%と小さいため、Muは「水素そのもの」とみなすことができる。ミュオンの「元素」としての性質が水素と同じであるとも言い換えることができ、ミュオンの元素名として「ミュオジェン(Muogen)」(元素記号:Mu)が提案されている(図1)。

論文情報

掲載誌 :
Applied Physics Letters Volume 115, Issue 12, 122104 [editor's pick]
論文タイトル :
Electronic structure of interstitial hydrogen in In-Ga-Zn-O semiconductor simulated by muon(ミュオンが擬態した半導体IGZO格子間水素の電子構造)
著者 :
K. M. Kojima, M. Hiraishi, H. Okabe, A. Koda, R. Kadono, K. Ide, S. Matsuishi, H. Kumomi, T. Kamiya, and H. Hosono
DOI :
10.1063/1.5117771 outer(オンライン版 2019年9月17日 米国現地時間)
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研究内容に関するお問い合わせ先

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 教授 / J-PARCセンター物質・生命科学ディビジョン ミュオンセクションリーダー

門野良典

E-mail : ryosuke.kadono@kek.jp

Tel : 029-864-5625 / Fax : 029-864-5623(つくばキャンパス)

Tel : 029-284-4896(東海キャンパス)

国立大学法人 東京工業大学 元素戦略研究センター

センター長 細野秀雄

E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5009

取材申し込み先

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構

広報室長 引野肇

E-mail : press@kek.jp

Tel : 029-879-6047 / Fax : 029-879-6049

J-PARCセンター

広報セクションセクションリーダー 阿部美奈子

E-mail : pr-section@j-parc.jp

Tel : 029-284-4578 / Fax : 029-284-4571

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


IDCロボコン2019に本学学生が参加

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ロボコンの舞台となるグレートドームを持つMITの建物
ロボコンの舞台となるグレートドームを持つMITの建物

世界からロボット工学を学ぶ学生が集まるIDCロボットコンテスト大学国際交流大会2019(以下、IDCロボコン)が7月29日から8月9日にかけて米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)で行われ、東工大の学生4名も参加しました。今回は大会設立から30周年の記念大会となり、10ヵ国から大学生54名が参加しました。初対面の学生たちは出身国や言葉、文化の違いを越えた11の混成チームに分かれてロボットの設計・製作を競いました。最終日は、アポロ11号の月面着陸50周年にちなんだ“Moonshot”(ムーンショット)をテーマにした競技を行い、東工大生が加わったチームが優勝しました。

IDC(International Design Contest)ロボコンは1990年、東工大とMITの共催で始まり、毎年、世界各地の大学で開かれます。2018年は東工大が会場となりました。今年の参加国は日本、米国、メキシコ、ブラジル、韓国、中国、タイ、シンガポール、インド、エジプトの10ヵ国でした。

各国の参加人数は次の通りです。なお、エジプトからの参加者が多いのは、MITとエジプトがハンズオン教育に関するスキル移転協定を今年から結んだためです。

日本 : 東工大4名、東京電機大学6名

米国 : MIT2名

メキシコ : メキシコ工科大学2名

ブラジル : サンパウロ大学2名

韓国 : ソウル大学5名

中国 : 清華大学3名、上海交通大学3名、浙江大学4名

タイ : タイ選抜5名

シンガポール : シンガポール工科・デザイン大学2名

インド : アムリタ大学4名

エジプト : エジプト選抜12名

東工大からは次の4名が参加しました。

木村陽太(工学院 システム制御系)

小泉光(工学院 システム制御系)

高橋啓太(工学院 システム制御系)

畑中倫也(工学院 システム制御系)

開会式

MITのフレイ教授の歓迎スピーチ
MITのフレイ教授の歓迎スピーチ

初日には開会式が行われ、ホスト大学のMITを代表してダン・フレイ(Dan Frey)教授より歓迎のスピーチがありました。その後、くじ引きによって11の混成チームが結成され、ルールの発表がありました。4~5名で構成された各チームにはブルー、オレンジなど色の名前がつき、メンバーはチーム名の色のTシャツを着ました。ルール発表後、各チームは早速、ロボットの設計を始めました。

競技ルール

今回のゲームのテーマは“Moonshot”で、コンテストフィールド(図1)は月面、月着陸船(Luna Module:LM)、旗を立てる巨石棚、APS(Ascent Propulsion System、月着陸船用上昇エンジン)充電器、アンオブタニウム(Unobtainium、入手不可能を意味する架空の素材)、月の石からなっています。中央手前にある三角形の領域は共有領域ですが、その左右はそれぞれのチームの領域で対戦相手のロボットは入ることができません。また、各チームの領域の一番手前には、月面に固定された月の石が1つあります。得点の方法は大きく分けて次の7つで、さらに達成の度合いによって得点が変わります。

図1. コンテストフィールド

図1. コンテストフィールド

1.
巨石棚の旗穴に旗を立てる。
2.
月の石を回収ボックスに入れる。
3.
アンオブタニウムを回収ボックスに入れる。
4.
APS充電器の回転ハンドルを回して発電する。
5.
補助燃料モジュールをLMより取り外す。
6.
アンテナ補修ハンドルを引っ張る。
7.
ロボットをLMのスタートエリアに戻す。

ゲームの時間は150秒で、最初の30秒間は自律モードで動かなければなりません。この時間内の得点は2倍になります。その後の120秒間は無線による遠隔操作で動かすこともできます。150秒の短い競技時間の中で、7通り全ての得点を得ることは困難なため、各チームはどの得点を目指すかを十分に考えてマシンを設計する必要があります。

各動作の得点の詳細は以下の通りです。

1.
下の旗穴から順番に、7、24、48、72ポイント
2.3.
それぞれの1個当たり
種類
下回収箱
上回収箱
スタートボックス
月の石
5
15
10
アンオブタニム
15
45
25
4.
次の計算式
(最大電圧)2/2
5.
下、上の補助燃料モジュールに対して、15、49ポイント
6.
アンテナの回転角度に応じて、全得点に次の倍率を掛ける
1.2倍、1.5倍、2.0倍、3.0倍

アンテナの角度に応じて点数に乗算されます

アンテナの角度に応じて点数に乗算されます

7.
ロボットをLMのスタートエリアに戻すと40ポイント追加

各チームは基本的には何台でもロボットを製作することができますが、使って良いのは与えられた材料だけです。ゲームスタート時には、LMのスタートエリアから出発するものは10インチ立方、月面のスタートエリアから出発するものは16インチ立方に収まっていなければなりません。

ロボットの設計と製作

アイデアプレゼンテーションの様子
アイデアプレゼンテーションの様子

3日目の午後に、各チームがインストラクターの前でロボットのアイデアを披露するアイデアプレゼンテーションが行われました。ここでは披露したアイデアに対して、インストラクターからロボットの改良点などのアドバイスがもらえます。中には、LMと巨石棚の間に渡したブリッジを通って旗を旗穴に立て、ブリッジに戻って腕を反転して下に伸ばし、下のロボットから月の石をもらってLMのスタートエリアに持って行くというユニークなアイデアのロボットもありました。

大会期間はわずか12日間なので、参加学生は連日、ロボットの製作や動作の調整に懸命に取り組んでいました。

製作されたロボットを調整するアクアチーム
製作されたロボットを調整するアクアチーム

プログラミングとマシンの調整を行うイエローチーム
プログラミングとマシンの調整を行うイエローチーム

最終日の競技会

最終日8月9日の競技会では、まず11チームを3つのリーグに分けて総当たり戦を行い、得点の一番低いチームが予選敗退となります。勝ち残った8チームはトーナメントで優勝チームを決します。リーグ戦で敗退したのはテラコッタ、ダークグリーン、アクアの3チームでした。テラコッタチームはリーグ戦で唯一アンテナを上げることに成功しましたが、総得点で敗退となり残念でした。どのチームもスロープを転落しないように操縦して素早く上ることに苦労していました。確実に旗の得点を得て、さらに月の石を多くLMに運搬することができるロボットを作成したブルーチームとマロンチームが勝ち上がり、決勝戦で対決しました。決勝戦では、ブルーチームが多くの月の石を集めてLMに戻り優勝しました。ブルーチームには東工大の高橋啓太さんが、マロンチームには東工大の畑中倫也さんがいました。

表彰式に先立ち、IDCロボコンの創始者の1人であるハリー・ウエスト博士から、IDCがどのように始まり、30年にわたってどう発展してきたかの説明がありました。

真剣な表情でロボットを操縦する選手
真剣な表情でロボットを操縦する選手

IDCロボコンの成り立ちを話す創始者の一人のウエスト博士
IDCロボコンの成り立ちを話す創始者の一人のウエスト博士

優勝したブルーチームにはウエスト博士より、MITのマスコットであるビーバーを象った優勝メダルが贈られました。

また、マロンチームには準優勝のメダルが手渡されました。

優勝メダルを掛けて喜ぶブルーチーム(中央が高橋さん)
優勝メダルを掛けて喜ぶブルーチーム(中央が高橋さん)

準優勝のマロンチーム(右から2番目が畑中さん)
準優勝のマロンチーム(右から2番目が畑中さん)

コンテスト終了後は参加者全員で記念撮影をした後、さよならパーティが行われました。さよならパーティでは、恒例となっている国ごとのパフォーマンスが披露され、日本の学生はソーラン節のダンス・パフォーマンスを演じました。また、エジプトの学生とインストラクターによって、伝統的なダンスが披露されました。

参加者全員での記念写真
参加者全員での記念写真

さよならパーティでエジプトの伝統的踊りを披露する学生とインストラクター
さよならパーティでエジプトの伝統的踊りを披露する
学生とインストラクター

今年のIDCロボコンは、例年通り各国の学生が言葉や文化の壁を乗り越えてアイデアや実現方法について熱い議論を戦わせる、という貴重な経験をしました。MITで開かれた30周年記念大会となり、さらに国際的な経験ができたようです。

2020年は中国・北京の清華大学で、2021年はエジプト・カイロのアイン・シャムス大学で開催される予定です。

世界10ヵ国のトップ大学の学生が、混成チームをつくりマシンデザインを行うIDCロボコンは、他に類を見ないユニークなプロジェクトです。

より詳しい報告は、以下のIDCロボコン公式ホームページからご覧になれます。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 & 東京工業大学基金

お問い合わせ先

工学院システム制御系 ロボコン担当

E-mail : yamakita@ctrl.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3307

高校生・大学院受験生向け広報誌「TechTech」36号発行

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東京工業大学広報誌「Tech Tech(テクテク)」36号を発行しました。

Tech Techは、学士課程・大学院課程受験生向けに、東工大の最新の研究や、学生生活、研究室の様子、卒業生の活躍など本学のさまざまな面を豊富な画像とわかりやすい文章でご紹介する広報誌です。

最新号では、「テクノロジー×エンターテインメントの新時代」と題して、科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の長谷川晶一准教授とライゾマティクスリサーチの石橋素ディレクターとの対談や、本学のキャリアアドバイザーにインタビューした「東工大生の就職最前線」などを特集しています。

裏表紙にある「頭の体操QUIZ」も人気コンテンツですので、ぜひ挑戦してください。

TechTech No.36

TechTech No.36

CONTENTS

テクノロジー×エンターテインメントの新時代

長谷川晶一准教授(科学技術創成研究院)× 石橋素さん(ライゾマティクスリサーチ)

やさしいあたらしい合成化学

松田知子准教授(生命理工学院)

キャリアアドバイザーに聞く!東工大生の就職最前線

守島利子キャリアアドバイザー

博士たちのキャリアデザイン論

野村研二さん(カリフォルニア大学サンディエゴ校 Assistant Professor)

学生企画

色々な学び@他大学 四大学連合 複合領域コース

学内の配布場所や、郵送での請求方法については、以下のページをご確認ください。

バックナンバーはこちら

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

電話 : 03-5734-2976

E-mail : publication@jim.titech.ac.jp

10月の学内イベント情報

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10月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

科学技術創成研究院 研究院公開 2019

科学技術創成研究院 研究院公開 2019

東京工業大学科学技術創成研究院は、10月11日に「先端研究成果の社会実装に向けて」をテーマに研究院公開を開催します。

最近話題のAIコンピューティングやマテリアルズインフォマティクスに関して、それぞれ本村真人教授と大場史康教授による講演会や、研究所ごとの12件の最先端研究のセミナーと併催して、研究室のポスター展示や、普段は立ち入ることのできない研究室もご見学いただけます。

この機会にぜひ、科学技術創成研究院の先端研究の現場をご体験ください。

日時
2019年10月11日(金) 10:00 - 17:00(16:30 受付終了)
会場
申込
不要(入退場自由)

工大祭2019

工大祭2019

工大祭は、大岡山キャンパスが1年で最も熱気に包まれる2日間のお祭りです。例年在学生や受験生、そして近隣住民の方々など、約50,000人の来場者を迎えています。

講義室では様々な展示や発表が行われ、キャンパスにはたくさんの模擬店が並びます。野外ステージではバンドコンサートやお笑いライブなど、様々なイベントが催され、大いに盛り上がります。最先端の研究や技術を体験できる、恒例の研究室公開もあります。

2019年のテーマは、公募により決定した「Hello World!!(ハローワールド)」です。

東工大は現在、国内の枠を超えて世界を目指した教育をすすめ、グローバルに活躍できる技術の開発や研究をしています。そんなグローバル化、世界への繋がりを感じられるテーマになればと思い、「Hello World!!」という代表的なプログラミングの言葉を用いて表しました。この言葉は、プログラミングにおいて最初に作る動作確認としても有名なもので、工大祭が世界の無限な可能性へと踏み出す第一歩になれば、という思いがあります。

世界を目指す東工大の今を様々な人に見ていただけるような学園祭になることを願っています。

日時
2019年10月12日(土)、13日(日) 10:00 - 18:00
会場
東京工業大学 大岡山キャンパス

2019年度 先導原子力研究所・原子核工学コース 施設公開/オープンスクール(工大祭)

2019年度 先導原子力研究所・原子核工学コース 施設公開/オープンスクール(工大祭)

先導原子力研究所では、日頃より実施している将来の安定したエネルギー供給を目指した原子力システム研究、癌治療などの高度化を目指した高度放射線医療研究の他に、福島第一原子力発電所の廃炉を促進するためのロボット開発や周辺環境の除染など福島の復興に向けた研究を進めるとともに、これからの日本を支える学生の教育を行っています。

今年も工大祭の企画として学生が中心となり、ポスターによる最新研究紹介、施設公開ツアー、原子力オープンスクール、模型展示などを企画しています。

原子力オープンスクール 概要

日時
2019年10月13日(日)
会場
大岡山キャンパス 本館 H111講義室
申込
必要

施設公開・展示 概要

日時
2019年10月12日(土) - 13日(日)
会場
大岡山キャンパス 北1号館 1F会議室
申込
不要

第41回 蔵前科学技術セミナー 激甚災害に挑む科学技術 ~ 国土強靱化への東工大の取り組み ~

第41回 蔵前科学技術セミナー 激甚災害に挑む科学技術 ~ 国土強靱化への東工大の取り組み ~

一般社団法人蔵前工業会は、国立大学法人東京工業大学との共催により、時宜に適した技術テーマを皆様と考える「蔵前科学技術セミナー」を、年2回開催しています。

今回のテーマは、「激甚災害に挑む科学技術」です。建物の耐震に関する研究や、大規模な水害への予測と備えに関する研究、及び密集市街地における被害の様相と対応策を紹介いただき、巨大化する自然災害(地震、津波、水害)に対する、行政の取り組みと大学での研究の現状を知る機会とします。

日時
2019年10月19日(土)講演会 13:00 - 17:30(受付開始12:30)/交流会 17:50 - 19:20
会場
東工大蔵前会館outer1階 くらまえホール(講演会)、ロイアルブルーホール(交流会)
参加費
無料(交流会参加費 一般3,000円、学生無料)
申込
必要

ToTAL OPENプログラム「d.school comes to Tokyo Tech 2019」

ToTAL OPENプログラム「d.school comes to Tokyo Tech 2019」

ToTAL科目「リーダーシップ・グループワーク基礎F」の単位対象プログラムで、OPENプログラムでもある「d.school comes to Tokyo Tech」のOPEN参加者を募集します。

米国スタンフォード大学d.schoolのファシリテーター・チームによる「デザイン思考」の本質を理解する2日間のワークショップを開催します。本ワークショップは2014年から毎年行っており、昨年に引き続き、今回で6回目となります。

デザイン思考の「総本山」とも言える米国スタンフォード大学d.schoolの現役tutorsによるワークショップを毎年開催しているのは、本学だけです。この貴重な機会を、ぜひご活用ください。

日時
2019年10月26日(土)、27日(日) 9:00 - 18:00
会場
対象
学生(本学、他大学問わず)
参加費
無料(飲食代 3,000円)
申込
必要(10月7日(月)締切、定員36名)

海外大学院進学説明会 2019

海外大学院進学説明会 2019

文部科学省の「日本人の海外留学促進事業」を委託された、一般社団法人 海外留学協議会(JAOS)が東工大で海外の大学院への進学説明会を今年も実施いたします。

海外大学院への進学を進路の選択肢として検討する上で参考となる情報を提供する機会ですので、海外の大学院進学に関心のある方は是非ご参加ください。

日時
2019年10月28日(月) 17:00 - 18:30
会場
申込
不要

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

NHK Eテレ「100分de名著」にリベラルアーツ研究教育院の若松英輔教授が出演

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本学 リベラルアーツ研究教育院の若松英輔教授が、NHK Eテレ「100分de名著」に出演します。

「100分de名著」は、誰もが一度は読みたいと思いながらも、なかなか手に取ることができない古今東西の「名著」を、25分×4回の計100分で読み解く番組です。

今回は、西田幾多郎の『善の研究』を取り上げます。

若松英輔教授
若松英輔教授

若松教授のコメント

哲学とは、叡智によって世界をとらえようとすることにほかなりませんが、そのとき人は「言葉」を扉にして世界と向き合います。近代日本の哲学は、西田幾多郎の『善の研究』から始まったというのが定説です。しかし、彼の前に哲学論文を書いた人がいなかったのではありません。それでもなお、『善の研究』をもって「最初」である、とされるのは西田が、表面上は従来と変わらない言葉に、これまでとは異なる語感をさぐり、一書をなすに至ったからです。

日本における哲学の言葉の誕生と西田幾多郎という哲学者の生涯は不可分の関係にありました。近代日本の哲学をめぐる言葉と人生の軌跡を考えてみたいと思います。

番組情報

  • 番組名
    NHK Eテレ「100分de名著」
  • タイトル
    西田幾多郎『善の研究』
    第1回 生きることの「問い」、第2回 「善」とは何か、第3回 「純粋経験」と「実在」、第4回 「生」と「死」を超えて
  • 放送予定日
    2019年10月7日、14日、21日、28日(月)/22:25 - 22:50
  • (再放送)
    2019年10月9日、16日、23日、30日(水)/5:30 - 5:55、12:00 - 12:25
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お問い合わせ先

リベラルアーツ研究教育院 文系教養事務

Email : ilasym@ila.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7689

取材申込先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

有機薄膜太陽電池を使った高活性光触媒の作成に成功 可視光に応答する光触媒の性能向上に期待

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要点

  • 有機薄膜太陽電池の片側の電極を剥がし、有機材料を付与して有機光触媒を作成
  • 可視光照射で高効率の光酸化反応を実現
  • 一方向の高効率電子輸送を酸化に利用

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の長井圭治准教授、金沢大学 理工研究域 物質化学系の故桑原貴之准教授、髙橋光信教授、同 ナノマテリアル研究所の辛川誠准教授らの研究グループは、遷移金属を含まない有機薄膜太陽電池(OPV)[用語1]アノード電極[用語2]を物理的に剥がし、触媒を付与することで高効率な光触媒として作用させることに成功した。

現在用いられている酸化チタンを使用する光触媒は、紫外線にしか応答しないため、東京工業大学の研究グループはこれまで、遷移金属を全く含まない有機材料で、可視光に応答する光触媒を開発してきた。本研究では、金沢大学で開発された逆型有機薄膜太陽電池[用語3]のアノード電極を物理的に剥離させ、この表面に有機材料であるフタロシアニン[用語4]という青色色素を蒸着させることで、大きな酸化力を持つ光触媒を得ることに成功した。

今回開発された独創的な新手法は、可視光照射で高効率に光酸化反応を起こすことを可能にするものであり、従来にない用途を持つ新しい光触媒の設計につながると期待される。

本成果は2019年10月1日付(英国時間)の英国王立化学会速報誌『Chemical Communications』電子版に掲載された。

背景

近年、地球に降り注ぐ莫大な量の太陽光エネルギーの有効活用が求められる中で、太陽光発電や光触媒による水素生成などが実用化され、普及が進められている。

しかし、現在実用的に用いられている酸化チタンを使用する光触媒は紫外線にしか応答しない。そのため、可視光に応答する光触媒の研究が盛んに行われており、さまざまな遷移金属の複合化が検討されている。一方で有機材料は、可視光応答化が容易な一方で不安定であるという理由から、これまで水中や空気中で光触媒として働かせることは困難であった。

研究成果

研究グループでは、フタロシアニンという有機材料を用いたp型半導体とn型半導体の接合が、光触媒として利用できることを発見し、この10年以上検討を進めている。近年は、欧州のグループもこの分野に本格参入する中、東京工業大学の長井准教授は、さらなる低コスト化を図った大量生産法を開発し、企業に技術移転している。

一方で金沢大学では、逆型有機薄膜太陽電池という太陽電池の開発を進め、社会実装試験を進めてきた。これは、大気中で製造可能で封止をせずに安定に作動するタイプであり、これまでの太陽電池に比べて圧倒的に材料・製造コストが低く、軽量で、毒性が低いという特徴がある。

今回の研究では、この両技術を複合化し、酸化電位の利得を大きく得ることに成功した。具体的には、逆型有機薄膜太陽電池の電極の片側であるアノード電極を物理的に剥離させ、この表面にフタロシアニンを8 nm蒸着させた。その結果、通常のp-n接合よりも大きな酸化力を持つ有機光触媒[用語5]が得られた。この有機光触媒は、銀塩化銀標準電極に対して-0.35 Vという、通常は酸化反応の起こりにくい負の電位で酸化反応を起こすことが確認された。太陽電池骨格を母材とするため、一方向的な電子輸送が起こる。そのため、表面では酸化反応のみが起こる。

逆型有機薄膜太陽電池(左)と今回用いた光触媒電極(右)

図1. 逆型有機薄膜太陽電池(左)と今回用いた光触媒電極(右)

今回開発した有機光触媒を用いた有機分子(チオール)の酸化反応を示す電流電位曲線フタロシアンを付与しない場合(左図)、光照射有り無しのどちらでも酸化反応が起こらない。フタロシアニンを付与させた場合(右図)、可視光照射で-0.35 V(銀塩化銀電極標準)からチオールの酸化が観測された。
図2.
今回開発した有機光触媒を用いた有機分子(チオール)の酸化反応を示す電流電位曲線フタロシアンを付与しない場合(左図)、光照射有り無しのどちらでも酸化反応が起こらない。フタロシアニンを付与させた場合(右図)、可視光照射で-0.35 V(銀塩化銀電極標準)からチオールの酸化が観測された。

今後の展開

新たに作成された新型の有機光触媒は、可視光照射で高効率に酸化反応を引き起こす能力を有する。この成果により、設置と片付けが容易なため、従来にない用途を持つ新しい光触媒の設計が可能になると期待される。

付記

本研究は、文部科学省の「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出 ダイナミック・アライアンス事業」等の助成を受けて実施した。

用語説明

[用語1] 有機薄膜太陽電池(OPV) : 現在用いられているシリコンではなく、プラスチックなどの有機材料で太陽電池を作る試みは、ノーベル賞受賞者の白川英樹博士による導電性高分子の発明直後から始まった。今世紀になって、新材料の開発やナノ構造の精密な制御により、著しく効率が上昇することが明らかになり、「軽くて曲げられる太陽電池を塗布プロセスで」製造する研究が社会実装レベルで進められている。

[用語2] アノード電極 : 酸化反応が行われる電極。

[用語3] 逆型有機薄膜太陽電池 : OPV研究では、効率を重視した構造の最適化が行われてきたが、近年は長時間の安定性が重視されている。OPVでも正極と負極があるが、金沢大学の髙橋教授や故桑原准教授らは、この積層順番を従来開発のOPVと入れ替えた逆型有機薄膜太陽電池では安定性が極めて向上し、生産を大気下で行えるとともに、長時間使用時の安定性が高いことを世界に先駆けて明らかにした。

[用語4] フタロシアニン : 新幹線の青色に用いられている有機色素である。紫外線や放射線にも抜群の耐候性を示すことから、航空機表面の塗装にも使われて効果をあげている。フタロシアニンの多くがp型半導体となる。

[用語5] 有機光触媒 : 現在開発されている光触媒のほとんどは遷移金属を主成分とする無機光触媒であるが、東京工業大学の長井准教授らは、金属を含まない有機光触媒の開発を進めてきており、高分子膜型やナノ粒子型の有機光触媒で悪臭の分解が可能なことを実証してきた。少量の遷移金属触媒を付与することにより、水分解も可能である。またナノ粒子型は市販もされている。

論文情報

掲載誌 :
Chemical Communications
論文タイトル :
High performance photoanodic catalyst prepared from an active organic photovoltaic cell - high potential gain from visible light
著者 :
Keiji Nagai, Takayuki Kuwabara, Mohd Fairus Ahmad, Masahiro Nakano, Makoto Karakawa, Tetsuya Taima, Kohshin Takahashi
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所 准教授 長井圭治

E-mail : nagai.k.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5266

金沢大学 ナノマテリアル研究所
准教授 辛川誠

E-mail : karakawa@staff.kanazawa-u.ac.jp
Tel : 076-264-6292

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

金沢大学 総務部広報室

Email : koho@adm.kanazawa-u.ac.jp
Tel : 076-264-5024 / Fax : 076-234-4015

発生過程の胚での最初の遺伝子発現のきっかけを作る重要なヒストン修飾を発見

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要点

  • 発生過程の生きたままの胚で、転写活性化とヒストン修飾の変化を追跡することに成功。
  • 胚ゲノムからの最初の転写に、ヒストンH3の27番目リシン残基のアセチル化修飾が重要な役割を果たしていることを確認。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの木村宏教授の研究グループ(佐藤優子助教、小田春佳日本学術振興会特別研究員)は、マックスプランク研究所(ドイツ)、ジャネリア・リサーチキャンパス(米国)、ニューヨーク大学(米国)の研究グループとの国際共同研究により、発生過程の生きたゼブラフィッシュ胚において、転写活性化とヒストン修飾の変化を観察することに成功しました。さらに、取得した画像の定量解析により、ヒストンH3の27番目リシン残基のアセチル化修飾が胚ゲノム活性化に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

今回の研究により、生物個体の発生や分化の過程での遺伝子発現の制御には、ヒストンのアセチル化が重要であることが示されました。また、研究チームが開発したタンパク質修飾の生細胞観察手法の有用性が実証され、アセチル化修飾の詳しい仕組みの解明を目指す今後の研究への活用が期待されます。

この成果は9月30日付でDevelopment誌に掲載されました。

発生過程の胚での最初の遺伝子発現のきっかけを作る重要なヒストン修飾を発見

研究の背景

有性生殖[用語1]では、卵子と精子が受精すると、それぞれが持つDNAが混ざり合い、「胚ゲノム」となります。受精後しばらくの間は、この胚ゲノムが眠った状態(転写活性がない状態[用語2])で胚発生が進みます。この間は、卵子に蓄積されていたRNAやタンパク質(母性因子)を使って細胞機能が営まれます。母性因子の貯蓄がなくなるころ、胚ゲノムは目覚め、大規模な転写の活性化がおこり、細胞の分化[用語3]が始まります(図1)。この胚ゲノムの活性化は古くから知られた現象ですが、それがどのように制御されているのかについては、未だ不明な部分が多く残されています。最近の研究から、ヒストン修飾[用語4]による活性化の制御が重要であることが示唆されていました。

ゼブラフィッシュ発生過程

図1. ゼブラフィッシュ発生過程


精子と卵子が受精して受精卵を形成すると、胚発生が始まる。ゼブラフィッシュの場合、受精後およそ3時間で1,000細胞まで分裂する。この間は、胚ゲノムからの遺伝子発現は起こらず、卵子に蓄積されたRNAやタンパク質を利用して細胞機能が営まれている。1,000細胞期になると胚ゲノムからの大規模な転写活性化が起こり、細胞の分化が始まる。

研究成果

木村教授の研究グループはこれまで、RNAポリメラーゼ(転写を行う酵素)やヒストン(DNAと強く結合するタンパク質)などの翻訳後修飾を、部位特異的に認識するモノクローナル抗体を作出してきました。また、これらのモノクローナル抗体から生細胞プローブ[用語5]を開発し、修飾動態の変化を計測するシステムFabLEM(Fab-based Live Endogenous Modification Labeling)を構築しました。今回木村教授の研究グループは、ゼブラフィッシュ胚にFabLEMを適用し、転写活性化とヒストン修飾のダイナミクスを、発生過程の生きた胚の中で追跡することに成功しました(図2)。さらに、国際共同研究により取得した蛍光顕微鏡画像の定量解析を行い、胚ゲノムの活性化において、ヒストンH3の27番目リシン残基のアセチル化修飾が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。特に、胚ゲノム活性化の初期に高レベルで発現するmiR-430遺伝子クラスター[用語6]上で、アセチル化修飾と活性型RNAポリメラーゼが順番に濃縮する様子を詳しく観察することができました(図3)。また、RNAポリメラーゼを阻害してもヒストンのアセチル化修飾が集積するのに対して、アセチル化ヒストンに結合するタンパク質を阻害すると転写が起こらなくなることも確認しました。

本研究は、生物個体の発生や分化の過程における遺伝子発現の制御にヒストンのアセチル化が重要であることだけでなく、研究グループが開発したタンパク質修飾の生細胞観察手法が広く応用可能であり、今後の研究に有用であることも示しました。

FabLEMによる転写活性化およびヒストン修飾動態観察

図2. FabLEMによる転写活性化およびヒストン修飾動態観察


(A)FabLEMの概要。リン酸化型RNAポリメラーゼやヒストンの翻訳後修飾に特異的な抗体の抗原結合部位(Fab)を、蛍光色素で標識したうえで、1細胞期のゼブラフィッシュ胚にマイクロインジェクションにより導入する。4細胞期まで発生させた胚をアガロースに埋めこんで、ライトシート蛍光顕微鏡(SiMView)および共焦点蛍光顕微鏡(FV1000)を用いて観察する。(B)胚ゲノム活性化の可視化。Ser2リン酸化型RNAポリメラーゼ(RNAP2 Ser2ph)とヒストンH3 Lys9アセチル化(H3K9ac)を認識するFabを導入した胚を、SiMViewを用いて観察した。転写活性化の指標であるRNAP2 Ser2phのシグナルは、8細胞期(8-cell)では核内(拡大図中、点線枠)に見られないが、1,000細胞期(1k-cell)まで発生が進むと核内に集積する様子が見られた(拡大図中、黄色矢印)。一方で、H3K9acシグナルは発生の早い段階(8細胞期;8-cell)からすでに細胞核内に濃縮されていた。スケールバーは100 μm。

miR-430遺伝子クラスターにおけるヒストンアセチル化と転写活性化

図3. miR-430遺伝子クラスターにおけるヒストンアセチル化と転写活性化


Ser2リン酸化型RNAポリメラーゼ(RNAP2 Ser2ph)とヒストンH3 Lys27アセチル化(H3K27ac)を認識するFabを導入した胚を、共焦点蛍光顕微鏡(FV1000)を用いて観察した。512細胞期の1個の核に注目し、細胞分裂直後から次の分裂期間まで経時的に画像を取得した。撮影開始からの経過時間を各画像の上方に表示した(分:秒)。H3K27acシグナルは分裂期直後(1:28)から2箇所に集積する様子が見られた(2つのうちの片方をマゼンタ色矢印で表示)。RNAP2 Ser2phシグナルは、H3K27acよりも遅れて同じサイトに集積した(6:19、緑色矢印)。拡大図は、H3K27ac(マゼンタ)とRNAP2 Ser2ph(緑)のシグナルが集積した場所(重ね合わせ)。スケールバーは10 μm。

今後の展開

今回、ヒストンのアセチル化修飾が胚ゲノムの転写活性化を引き起こすことが明らかになりました。しかし、アセチル化修飾によって胚ゲノムに具体的にどのような変化が起きているのか、アセチル化修飾がどのようなきっかけで上昇するのかなど、まだたくさんの疑問が残されています。今後も生細胞プローブを使って、このような問題をひとつずつ紐解いていく予定です。

用語説明

[用語1] 有性生殖 : 有性生殖をおこなう生物は、生殖のための特別な細胞「配偶子」(例えば、精子と卵子)を作り、異なる性の個体同士で配偶子を合体させることにより、両親とは違う新しい個体を作り出します。

[用語2] 転写活性がない状態 : 遺伝子からRNAポリメラーゼにより遺伝暗号(コドン)が読み取られ、メッセンジャーRNAが作られる過程を「転写」と呼びます。メッセンジャーRNAが翻訳されることでタンパク質が作られます。タンパク質合成は細胞機能に必須であるため、初期胚の発生過程でゲノムがいったん目覚めたあとは、生きている細胞では常に転写が行われています。

[用語3] 細胞の分化 : 細胞が、特定の機能や形態を持つ状態へ変化することを「分化」と呼びます。発生初期の分化していない状態(未分化)の細胞は、きっかけを与えることで神経細胞や表皮細胞へ分化します。我々の体は、1個の受精卵が増殖と分化を繰り返すことで生じた、多様な細胞から成り立っています。

[用語4] ヒストン修飾 : 真核生物のDNAは細胞核の中で、ヒストンたんぱく質と強く結合してヌクレオソーム構造を作っています。近年の研究から、アセチル化やメチル化などのヒストン修飾による遺伝子制御は、様々な細胞機能の基盤であることが分かってきています。

[用語5] 生細胞プローブ : 生きた細胞の中の物質の動態を追跡するツールを「生細胞プローブ」と呼びます。

[用語6] miR-430遺伝子クラスター : DNAから転写されて生成したRNAのうち、翻訳されないRNAを「ノンコーディングRNA」と呼び、そのうちのひとつに「マイクロRNA」があります。miR-430は、ゼブラフィッシュの胚ゲノム活性化の初期に転写され、卵子由来のRNAの分解に関与しています。

論文情報

掲載誌 :
Development
論文タイトル :
Histone H3K27 acetylation precedes active transcription during zebrafish zygotic genome activation as revealed by live-cell analysis
著者 :
Yuko Sato, Lennart Hilbert, Haruka Oda, Yinan Wan, John M. Heddleston, Teng-Leong Chew, Vasily Zaburdaev, Philipp Keller, Timothee Lionnet, Nadine Vastenhouw, and Hiroshi Kimura
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター

教授 木村宏

E-mail : hkimura@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5742 / Fax : 045-924-5973

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ケンブリッジ大学の学生が東工大を訪問

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9月17日、ケンブリッジ大学ナノテクノロジー分野 (NanoDTC)の博士課程学生20人が本学を訪問し、情報理工学院 情報工学系の瀧ノ上正浩准教授、物質理工学院 応用化学系の原正彦教授を始めとする教員、学生とポスターセッションや研究室ツアーを通じて議論を行いました。

大岡山キャンパスELSI棟前での集合写真

大岡山キャンパスELSI棟前での集合写真

一行はケンブリッジ大学EPSRC※1 CDT※2 in Nanoscience and Nanotechnology(NanoDTC)の大学院生により構成され、日本の学術研究機関と先端企業を訪問し、その1つとして本学を訪問しました。

※1
EPSRC=Engineering and Physical Sciences Research Council
※2
CDT=Centre for Doctoral Training

当日のプログラムは、本学の瀧ノ上准教授と原教授のアレンジにより行われました。

午前中は、すずかけ台キャンパスにて、瀧ノ上准教授より歓迎の辞および全体説明として本学の沿革や学生交流プログラムの紹介を行いました。その後、瀧ノ上准教授の研究室のツアーでは、人工細胞や分子ロボティクスに関する最先端の生物物理学の研究成果を学び、実験室を見学しました。また、原教授の研究室のツアーでは、表面科学やナノテクノロジーに関する解説を受け、研究施設を見学しました。

瀧ノ上准教授による東工大概要説明
瀧ノ上准教授による東工大概要説明

瀧ノ上研究室での説明(右:瀧ノ上准教授)
瀧ノ上研究室での説明(右:瀧ノ上准教授)

午後に一行は2グループに分かれ、一つのグループは、すずかけ台キャンパスにて、瀧ノ上研究室、物質理工学院 応用化学系の脇慶子准教授の研究室の学生とポスターセッションを行い、研究ディスカッションを行いました。もう一方のグループは、大岡山キャンパスに移動し、原研究室、生命理工学院 生命理工学系の林宣宏准教授の研究室、工学院 電気電子系の小寺哲夫准教授の研究室の学生とポスターセッションを行い、研究ディスカッションを行いました。ポスターセッションの後、両グループは、大岡山キャンパスの地球生命研究所(ELSI)に集合し、原教授によるELSIの研究所のツアーを行いました。解散後は、学生同士の交流会を行いました。

研究室ツアーやポスターセッションの間、訪問学生との熱心な質疑応答と議論が行われ、ポスターセッションでは1時間半の予定時間では足りないほどの盛り上がりでした。また、訪問学生の優秀さと積極的な参加には、本学の学生も刺激を受け、大変有意義な研究交流となりました。

すずかけ台キャンパスでのポスターセッションの様子

すずかけ台キャンパスでのポスターセッションの様子

すずかけ台キャンパスでのポスターセッションの様子

すずかけ台キャンパスでのポスターセッションの様子

大岡山キャンパスでのポスターセッションの様子

大岡山キャンパスでのポスターセッションの様子

大岡山キャンパスでのポスターセッションの様子

原教授によるELSI概要説明と見学ツアー

原教授によるELSI概要説明と見学ツアー

原教授によるELSI概要説明と見学ツアー

記念品贈呈(右が原教授)
記念品贈呈(右が原教授)

記念品贈呈
記念品贈呈

参加した本学教員および学生

瀧ノ上正浩准教授 情報理工学院 情報工学系

原正彦教授 物質理工学院 応用化学系

脇慶子准教授 物質理工学院 応用化学系

林宣宏准教授 生命理工学院 生命理工学系

瀧ノ上研究室

Marcos K. Masukawa(マルコス K マスカワ)さん 情報理工学院 情報工学系 博士課程1年

津村希望さん 工学院 システム制御系 修士課程1年

阪本哲郎さん 情報理工学院 情報工学系 修士課程2年

中島裕司さん 同 修士課程2年

山本陽大さん 同 修士課程1年

原研究室

Sebastian Sanden(セバスチャン サンデン)さん 物質理工学院 応用化学系 博士後期課程1年

Abouzeid Mervat Armin(アブザイド メルバット アミン)さん 同 博士後期課程1年

川瀬 道啓さん 同 修士課程2年

金 旻宣さん 同 修士課程2年

丸一 優理子さん 同 修士課程2年(ポスター展示参加)

Fiansyah Reiza Bidari(フィアンシャ レイザ ビダリ)さん 同 修士課程1年

真鍋 護さん 同 修士課程1年

平岡 侑馬さん 同 修士課程1年

堀之内 公香さん 同 修士課程1年

越野 広大さん 同 修士課程1年

増田 雅子さん 同 修士課程1年

山下 和誼さん 同 修士課程1年

脇研究室

Chen Jie(チェン ジェ)さん 物質理工学院 応用化学系 博士後期課程3年

Xu Tangliang(ジョ トウリョウ)さん 同 修士課程1年

Lian Yuen(レン ゲン)さん 同 修士課程1年

林研究室

Frans Johan Rodenburg(フランス ヨハネ ローデンバーグ)さん 生命理工学院 生命理工学系 博士課程2年

Wong Sing Ying(ワン シン イン)さん 同 博士課程2年

野村 舞さん 同 修士課程2年

石橋 克哉さん 同 修士課程1年

河口 徳真さん 同 修士課程1年

清田 雅哉さん 生命理工学院 生命理工学コース 学士課程4年

小寺研究室

西山 伸平さん 工学院電気電子系 修士課程2年

太田 俊輔さん 同 修士課程1年

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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : pr@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2976


「夏の電脳甲子園」第25回スーパーコンピューティングコンテスト開催報告

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「夏の電脳甲子園」として、高校生・高専生が4日間をかけて難題を解くプログラムを作成し、その性能を競う「スーパーコンピューティングコンテストSuperCon(スーパーコン)2018」(以下、スーパーコン)の本選が、8月19日から8月23日にかけて東京工業大学学術国際情報センターで開催されました。

東京工業大学学術国際情報センターと大阪大学サイバーメディアセンターが主催するスーパーコンは、高等学校もしくは高等専門学校の高校相当学年の学生からなる2~3人のチームが、スーパーコンピュータを駆使して難問を解くプログラミングコンテストで、今年は本学のTSUBAME3.0が使用されました。27校から34チームの応募があり、予選により22チーム(東日本12チーム、西日本8チーム)が選抜されました。本学の会場には東日本12チームが、大阪大学サイバーメディアセンターの会場には西日本8チームが集まり、本選を戦いました。

今年の本選問題

多体問題を考える。すなわち、N個の物体の万有引力の相互作用を考えて、その加速度を計算する。物体の個数N=100,000,00とその物体の初期配置、質量が与えられたときのすべての点に働く加速度を求めるプログラムを作成せよ。求める計算結果は、所定の誤差以下であることが条件として課されている。

本選課題の詳細はSupercomputingContest2019outerからご覧いただけます。

発表会・表彰式

発表会・表彰式は8月23日に、東工大蔵前会館くらまえホール(東京会場)において開催されました。大阪大学サイバーメディアセンター豊中教育研究棟7階会議室にテレビ会議システムで中継を行い両会場で同時実施しました。東工大 学術国際情報センター長の伊東利哉教授(情報理工学院)の開会の挨拶に始まり、東工大の益一哉学長からの主催校挨拶(東京会場)、大阪大学サイバーメディアセンター長の下條真司教授の挨拶(大阪会場)、情報処理学会情報処理教育委員会の萩谷昌己委員長の来賓挨拶に続いて、参加チームの紹介を実施委員会委員長である東工大 学術国際情報センターの西崎真也教授が行いました。本選課題・審査方法の説明等については、東工大 情報理工学院情報工学系の横田理央准教授が行いました。また、第25回を記念して、これまでの本選出場経験者が発表会・表彰式に参加し、高校生たちに熱いエールを送りました。

本選結果

上記発表会・表彰式において、1位から3位までのチームにメダルと賞状が、益一哉学長から贈呈されました。

また優れたアルゴリズムやプログラムを作成したチームに贈られる学会奨励賞(電気情報通信学会通信・システムソサイエティスーパーコンピューティング奨励賞、情報処理学会若手奨励賞)は2位のチーム「aTKoder」が受賞しました。

優勝チーム「Nerv」のメンバーからは、「本選問題は、予選問題との難易度の差が桁違いで難しかった」という感想がありました。

順位
チーム名
学校名
1
Nerv
静岡県立浜松工業高等学校
2
aTKoder
筑波大学附属駒場高等学校
3
supercon
開成高等学校

優勝チームNerv

優勝チームNerv

東京会場での集合写真

東京会場での集合写真

大阪会場での集合写真

大阪会場での集合写真

お問い合わせ先

学術国際情報センター

E-mail : sc19query@gsic.titech.ac.jp

大隅良典記念奨学金に「ファーストジェネレーション枠」を創設

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大隅良典栄誉教授

東京工業大学では優れた人材を全国から集め、将来リーダーとして国際的に活躍できる人材の育成を目的として2018年度に「大隅良典記念奨学金」を設立しました。この度、この奨学金の新たな枠として「ファーストジェネレーション枠」を創設し、奨学生の募集を開始しました。

一般的に、「ファーストジェネレーション」とは家族の中で初めて大学に進学する世代のことを呼びます。本学では、親が4年制の大学を卒業していない方を「ファーストジェネレーション」として、新たに奨学金の対象としました。

概要

「ファーストジェネレーション枠」の大きな特徴は親が4年制の大学を卒業していない方を対象とする点です。奨学金の給付により対象学生の大学進学を後押しすることが狙いです。

2020年4月に学士課程に入学する新入生を対象としており、応募の受付は10月より開始しました。本学の入試前に申請受付、選考、内定者の決定を行います。内定者のうち本学に入学した者が来年4月に正式採用となります。

本学が世界の未来を拓くためにどのように取り組んでいくかを「東工大コミットメント2018」として発表しました。そのひとつに「多様性と寛容」があります。この新しい奨学金により、様々な環境で育ち異なる視点を持った学生が集い、交わることによって、学生の思考・発想が広がることを期待しています。

応募資格

1.
2020年4月に本学学士課程に入学を希望する者。
2.
親が4年制の大学を卒業していない者。
(両親のいずれかが4年制の大学を卒業している場合は不可。母子父子家庭の場合は扶養している親のみの学歴による。)
3.
学業成績が特に優秀(高等学校等の第1年次から申込時までの全履修科目の評定平均値が4.3以上相当)で、更に学業の発展向上が期待できる者。
4.
本人が属する世帯の税込年収の合計が、給与所得の場合支払金額が800万円未満の者、給与所得外の場合所得金額が337万円未満の者。
5.
日本国籍である者及び永住者等の在留資格を持つ者。

奨学生採用予定人数

ファーストジェネレーション枠と地方出身者枠(※)あわせて20名程度

奨学金の額

月額 5万円

給付期間

奨学金を授与する期間は、原則として学士課程の標準修業年限以内とする。

ただし、学士課程卒業後引き続き本学修士課程に入学し、資格を満たす場合は、申請に基づき、修士課程の標準修業年限以内で支給を継続する。

スケジュール(予定)

2019年10月~11月上旬
奨学生募集
2019年11月
選考
2019年12月
内定通知
2019年12月~2020年3月
本学出願・受験・合格発表・入学手続き
2020年4月
正式採用

募集に関する詳細情報

本学ウェブサイト(以下URL参照)に2020年度募集要項を掲載していますので、応募資格の詳細、提出書類、申請方法などは募集要項をご確認ください。

大隅良典記念奨学金 地方出身者枠
2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授からの多額の寄附を原資として、将来の日本を支える優秀な人材を育成するため、経済的支援が必要な学生が本学で学ぶための修学支援等を目的として、東京工業大学基金の中に「大隅良典記念奨学金」を設立しました。 「地方出身者枠」は、全国から多様な人材が集まるようにという大隅栄誉教授の意思を受け、高等学校等の所在地域を限定した応募資格のものです。この募集枠についても、以下ウェブサイトに掲載しています。
<$mt:Include module="#G-33_ノーベル&大隅基金モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

学務部 学生支援課 経済支援グループ

E-mail : gak.kei@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3014

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

10月4日 本文の誤記を修正しました。

本学所蔵の光ファイバ通信実験装置が「重要科学技術史資料~未来技術遺産~」に登録

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国立科学博物館の「重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)」に、東京工業大学博物館が所蔵する「世界初の光ファイバ通信実験に用いられた変調素子(ADP結晶)」が登録されました(登録番号:第00272号)。9月10日には東京・上野の国立科学博物館講堂で登録証及び記念盾授与式が行われました。

集合写真

国立科学博物館による「未来技術遺産」の登録制度は、2008年に始まり今年度で12回目を迎えました。日本の科学技術(産業技術を含む)の発展を示す貴重な歴史資料や、国民の生活や経済、社会、文化のあり方に顕著な影響を与えた科学技術に関する史資料を、国の「重要科学技術史資料台帳」に登録。定期的にアフターケアをしていくことで、それぞれの所蔵先(企業や博物館など)での保存を応援するとともに、WEBによる情報公開によって科学技術の開発を担ってきた先人たちの経験を広く伝え、次世代に継承することを目的に創設された制度です。

未来技術遺産 登録パネル展(国立科学博物館 上野本館、9月10日~9月23日開催)

未来技術遺産 登録パネル展(国立科学博物館 上野本館、9月10日~9月23日開催)

今回は、一眼レフカメラの完成形として世界的に評価の高い「ニコンF」(1959年製作)、国産初の使い捨てプラスチック製注射器「無菌注射器 ジンタンシリンジ 5 mL」(1963年製作)、カシオ計算機の耐衝撃腕時計「G-SHOCK」の一号機(1983年製作)など、新たに26件が未来技術遺産に登録されました。

「世界初の光ファイバ通信実験に用いられた変調素子(ADP結晶)」展示パネル
「世界初の光ファイバ通信実験に用いられた変調素子(ADP結晶)」
展示パネル

そしてこれらと並び登録されたのが、東工大博物館2階の常設展示室に展示している光ファイバを用いた通信実験装置です。1963年5月の東工大全学祭において、末松安晴助教授(現 東京工業大学栄誉教授)の指導のもと、世界初の光ファイバ通信の公開実験が行われました。この実験では、マイクロフォンからの音声信号を、ADP(リン酸二水素アンモニウム、Ammonium Dihydrogen Phosphate)結晶を用いた光変調器でHe-Ne(ヘリウム-ネオン)レーザ光にのせガラスの光ファイバ束に通し、受信側では光電子増倍管の受光素子で電気信号に戻して(復調)、その音声信号をアンプで増幅しスピーカーを鳴らしました。

この通信実験が「基本原理は現代のインターネットを支える光ファイバ通信技術と同等であり、通信インフラを支える光通信の可能性を最初期に示したものとして重要である」と評価され、光ファイバ通信時代の幕開けを告げる技術として登録されました。

東京・上野の国立科学博物館講堂で行われた登録証授与式には、末松名誉教授と佐藤勲理事・副学長(企画担当)が出席し、登録証と記念盾が授与されました。

(左)末松名誉教授(右)佐藤理事・副学長(企画担当)
(左)末松名誉教授(右)佐藤理事・副学長(企画担当)

(左)林 国立科学博物館長(右)佐藤 東京工業大学博物館長
(左)国立科学博物館長 林氏(右)東京工業大学博物館長 佐藤氏

なお、常設展示室の実験装置は2008年7月に再現実験を行った際のものであり、今回の登録対象となった資料は当時使用されたADP結晶のみとなります。

お問い合わせ先

東京工業大学 博物館

E-mail : centshiryou@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3340

サリドマイドが手足や耳に奇形を引き起こすメカニズムを解明 安全なサリドマイド系新薬の開発へ

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要点

  • サリドマイドは胎児に催奇形性を示す薬剤ですが、サリドマイドはp63というタンパク質の分解を誘導することで手足や耳の発生を阻害していることがゼブラフィッシュのモデル実験系により明らかとなりました。
  • サリドマイドは本研究グループが以前に同定したサリドマイド標的タンパク質、セレブロンに結合し、セレブロンの働きを乗っ取ることで、p63の分解を誘導します。
  • 本成果により、サリドマイド催奇形性の詳細なメカニズムが判明しました。本研究の知見を活かして、サリドマイドの副作用を軽減した新薬が開発されることが期待されます。

東京医科大学 ナノ粒子先端医学応用講座(現・ケミカルバイオロジー講座)の半田宏特任教授(東京工業大学 名誉教授)および伊藤拓水准教授、東京工業大学 生命理工学院の山口雄輝教授、イタリア ミラノ大学のルイーサ・ゲリーニ(Luisa Guerrini)博士らの国際共同研究グループは、サリドマイドの深刻な奇形がp63というタンパク質の分解によって引き起こされることを明らかにしました。

研究グループは2010年、セレブロンというタンパク質がサリドマイドの主要な細胞内標的因子であることを明らかにし、その後の研究から、セレブロンがサリドマイドの多様な薬効の発現に不可欠であることが証明されました。セレブロンはタンパク質の分解を司るユビキチンリガーゼ[用語1]の構成因子であり、サリドマイド系の化合物がセレブロンに結合するとセレブロンの基質特異性が変化して、通常は分解されないタンパク質が分解されるようになります。このように、薬剤依存的に分解されるタンパク質をセレブロンの「ネオ基質」と呼びますが、サリドマイドの催奇形性に関わるネオ基質は未解明でした。

研究グループは本研究で、サリドマイドの催奇形性に関わるネオ基質がp63というタンパク質であることを見出しました。p63タンパク質には大小の2つのタイプがありますが、胎児の発生過程で小さい方が手足の形成に、大きい方が耳の形成に重要な役割を果たしています。脊椎動物のモデル生物であるゼブラフィッシュを用いた解析により、サリドマイドがセレブロンに結合するとp63の大小両方の分解が誘導され、その結果、手足や耳の奇形が引き起こされることが明らかとなりました。

近年、サリドマイド骨格をもつ医薬品の研究開発が精力的に進められていますが、催奇形性のないサリドマイド系化合物はいまだに見つかっておらず、それらの処方は各国の法規に基づく厳格な統制のもと行われています。本研究によりp63の分解が副作用の原因であることが判明しました。p63の分解を誘導しないサリドマイド系化合物を探索することにより、安全性の高い新薬の開発が可能になると考えられます。

研究の背景

サリドマイドは、1950年代に鎮静剤として開発され、日本を含む40数ヵ国で販売されました。しかし、妊娠初期の女性が本薬剤を服用すると胎児の手足や耳などに奇形が生じたことから、世界的な薬害事件に発展し、サリドマイドは1960年代前半に市場から撤退しました。しかしその後、サリドマイドはハンセン病や血液がんの一種である多発生骨髄腫などの難治性疾患に対して優れた治療効果を示すことが分かり、厳格な統制の下での投与が再び認可されるに至りました。しかし、サリドマイド催奇形性のメカニズムは長い間謎に包まれていました。

研究グループは独自技術を用いた薬剤標的因子の探索・同定に長年携わり、2010年にはサリドマイドの主要な細胞内標的因子がセレブロン(CRBN)というタンパク質であることを突き止めました(Science 2010)。セレブロンはタンパク質分解に関わるユビキチンリガーゼという酵素の構成因子です。その後の研究から、サリドマイド系の化合物がセレブロンに結合するとセレブロンの基質特異性が変化して、通常は分解されないタンパク質が分解されるようになることが明らかとなりました。たとえば最近、研究グループは、CC-885というサリドマイド系化合物がセレブロンに結合するとGSPT1というタンパク質の分解が引き起こされ、このことがCC-885の急性白血病に対する治療効果に関わっていることを見出しました(Nature 2016)。GSPT1のようなタンパク質をセレブロンの「ネオ基質」と呼びます。しかし、サリドマイドの催奇形性に関わるセレブロンのネオ基質は未発見でした。

本研究で得られた結果・知見

イタリア・ミラノ大学のルイーサ・ゲリーニ博士は長年にわたって手足や耳の発達を担うp63タンパク質の研究を行ってきました。東京医科大学と東京工業大学の研究グループとゲリーニ博士はp63とサリドマイド催奇形性の関係を検証するために国際共同研究を開始しました。

まずヒト培養細胞を用いた研究により、サリドマイドによってp63の分解が誘導されることや、この分解にはセレブロンによるp63のユビキチン化が関わっていることなどを明らかにしました。

次に、p63が実際にサリドマイドの催奇形性に関与するかどうかについて、ゼブラフィッシュを用いた解析を行いました。p63には大小2つのタイプ(TAp63とΔNp63)が存在しますが、サリドマイドに耐性を与える点変異をもった変異体タンパク質をゼブラフィッシュに強制発現させたところ、TAp63変異体の発現はサリドマイド処理による耳の奇形を抑制し、ΔNp63変異体の発現はサリドマイド処理による胸びれ(手足に相当)の奇形を抑制するという結果が得られました。

過去の研究結果から、TAp63は聴覚の形成に関わることが知られていましたが、本研究によりサリドマイドはTAp63の下流にある聴覚形成関連因子Atoh1の発現を抑制することが分かりました。一方、ΔNp63は手足・胸びれの形成に必須な増殖因子、Fgf8の発現を制御していますが、本研究によりサリドマイドはΔNp63の下流にあるFgf8の発現も抑制することが分かりました。以上の結果から、手足や耳の奇形は、サリドマイドと結合したセレブロンがTAp63とΔNp63の分解を誘導することにより引き起こされるという結論が得られました。

今後の研究展開および波及効果

本研究はサリドマイドの催奇形性に関わるセレブロンのネオ基質がp63であることを明らかにしたものであり、サリドマイド催奇形性に関する長年の謎の解明を一層推し進めるものです。近年、サリドマイド骨格をもつ医薬品の研究開発が精力的に進められており、例えば米国セルジーン社が開発した抗がん剤レブラミドとポマリストは合わせて年間1兆円の世界売上をあげています。しかしこれまでは副作用に関与するネオ基質が不明だったため、催奇形性のない薬剤の開発は困難でした。本研究の成果により、p63の分解を誘導しない安全なサリドマイド系新薬の開発が今後期待されます。

A. ゼブラフィッシュにおけるサリドマイド催奇性の指標。 B. ゼブラフィッシュ胚にサリドマイド(Thal)処理をすると40%以上の個体に深刻な胸びれ形成異常が生じるが、サリドマイドによる分解を受けないΔNp63 G506A変異体を発現させると、胸びの異常が抑えられる。なお野生型ΔNp63の過剰発現でも部分的に奇形は抑えられる。C. サリドマイド処理により耳の形成不全が生じるが、 野生型のTAp63の過剰発現で抑えられる。サイズを計測したところ、サリドマイドによる分解を受けないTAp63 G599A変異体を発現するゼブラフィッシュでは耳の形成不全は抑えられていた。
図1.
A. ゼブラフィッシュにおけるサリドマイド催奇性の指標。 B. ゼブラフィッシュ胚にサリドマイド(Thal)処理をすると40%以上の個体に深刻な胸びれ形成異常が生じるが、サリドマイドによる分解を受けないΔNp63 G506A変異体を発現させると、胸びの異常が抑えられる。なお野生型ΔNp63の過剰発現でも部分的に奇形は抑えられる。C. サリドマイド処理により耳の形成不全が生じるが、 野生型のTAp63の過剰発現で抑えられる。サイズを計測したところ、サリドマイドによる分解を受けないTAp63 G599A変異体を発現するゼブラフィッシュでは耳の形成不全は抑えられていた。
サリドマイド催奇形性のモデル図。まずサリドマイドがセレブロン(CRBN)に結合すると新たにp63タンパク質(ΔNp63、TAp63)を認識し、分解を誘導する。ΔNp63が分解されると四肢・胸びれの形成に重要なFgf8などの発現が低下し、手足の奇形が引き起こされる。一方、TAp63が分解されると、聴覚神経の形成に重要なAtoh1などの発現が低下し、耳の形成異常が引き起こされる。
図2.
サリドマイド催奇形性のモデル図。まずサリドマイドがセレブロン(CRBN)に結合すると新たにp63タンパク質(ΔNp63、TAp63)を認識し、分解を誘導する。ΔNp63が分解されると四肢・胸びれの形成に重要なFgf8などの発現が低下し、手足の奇形が引き起こされる。一方、TAp63が分解されると、聴覚神経の形成に重要なAtoh1などの発現が低下し、耳の形成異常が引き起こされる。

論文情報

掲載誌 :
Nature Chemical Biology
論文タイトル :
p63 is a cereblon substrate involved in thalidomide teratogenicity
著者 :
Tomoko Asatsuma-Okumura, Hideki Ando, Marco De Simone, Junichi Yamamoto, Tomomi Sato, Nobuyuki Shimizu, Kazuhide Asakawa, Yuki Yamaguchi, Takumi Ito, Luisa Guerrini* & Hiroshi Handa*(*共同責任著者)
DOI :

主な競争的研究資金

文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究(S)17H06112(半田宏、山口雄輝)

文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)18H05502(伊藤拓水)

文部科学省 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「疾患における代謝産物の解析および代謝制御に基づく革新的医療基盤技術の創出」(伊藤拓水)

ケミカルバイオロジー講座(旧・ナノ粒子先端医学応用講座)

東京医科大学に発足した産学連携講座であり、米国セルジーン社がスポンサーを務めています。

用語説明

[用語1] ユビキチンリガーゼ : ヒトが誕生し成長し死を迎えるように、タンパク質にも合成から分解に至るまでの一生がある。生命活動を行っていく上で、個々のタンパク質の分解は合成と並んで大変重要である。この分解過程に関わる酵素の一種がユビキチンリガーゼである。この酵素は、分解すべきタンパク質にユビキチンと呼ばれる廃棄処理用の目印をくっつける役割を果たす。

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お問い合わせ先

東京医科大学 ケミカルバイオロジー講座

特任教授 半田宏

E-mail : hhanda@tokyo-med.ac.jp
Tel : 03-5323-3250

東京工業大学 生命理工学院

教授 山口雄輝

E-mail : yyamaguc@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5798

取材申し込み先

東京医科大学 総務部広報・社会連携推進課

Tel : 03-3351-6141(代表)

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

クリスマスレクチャー日本公演2019開催報告 人類(ヒト)の誕生(WHO AM I ?)―DNAで探る私たちの起源―

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クリスマス・レクチャー2019日本講演を、9月14日、15日に大岡山キャンパス西講義棟1のレクチャーシアターで開催しました。計4回行い、延べ約800名が参加しました。

「クリスマス・レクチャー」は、英国王立科学研究所(The Royal Institution of Great Britain。以下、RI)が青少年向けに開催するイベントで、190年以上続く人気の科学実験講座です。このクリスマス・レクチャーを日本で再現するイベントは1990年から毎年開催されており、東工大では5回目の開催となりました。

キング博士の登場、生命の樹でヒトへの進化を説明

キング博士の登場、生命の樹でヒトへの進化を説明

東工大は、2016年度からスタートした教育改革の取り組みの一つとして、新入生を対象とした「科学・技術の最前線」や「科学・技術の創造プロセス」などの実演・実験つき授業を開講しています。これらの授業はクリスマス・レクチャーを手本としており、レクチャーシアターを最大限活用した臨場感あふれる個性的な授業を展開しています。

今年のクリスマス・レクチャーは2018年12月にロンドンで開催されたレクチャーを日本向けにアレンジしたもので、遺伝学が専門のレスター大学教授トウーリ・キング博士が講師を務めました。今回は「人類(ヒト)の誕生(WHO AM I ?)-DNAで探る私たちの起源-」と題し、進化の歴史のなかでどのようにしてヒトは今の姿になったのか、実験を交えて紹介しました。東工大からも生命理工学院の田中幹子准教授が登壇し、今まさに研究が進められているトラザメのヒレから長い時間を経てどのようにしてヒトの手に進化したのか、実際の生きたトラザメを用いて説明し、合わせて約1時間半にわたる充実した内容のレクチャーとなりました。

キング博士がチンパンジーを紹介
キング博士がチンパンジーを紹介

田中准教授がトラザメを説明
田中准教授がトラザメを説明

9月11日にRIのスタッフ2名が来日して物品等を運び込み、講演に使われる機器の準備・調整が始まりました。9月12日には講師であるキング博士を迎え、打ち合わせおよびリハーサルを行いました。東工大の学生スタッフ7名が要領よく準備を整え、また子供たちを誘導するときのスムーズな動きはRIスタッフをはじめ読売新聞社の担当の方々からも好評でした。9月13日の最終リハーサル終了後には、キング博士、RIの職員、本学、読売新聞社、日本ガイシ等の関係者出席のもと歓迎レセプションが開かれ、参加者全員で親交を深めながら翌日からの講演に備えました。

講演第1回目は、一般の参加者に加え、東工大関係者にも100席の優先席が設けられました。各回の講演開始前には、司会の齊藤卓志准教授による注意事項やボランティア(講師の呼びかけによりステージで講師の実験に協力する参加者)への要望などの説明が行われました。講演に先立ち、第1回目は水本哲弥理事・副学長(教育担当)から、2回目は英国大使館から、そして3回目と4回目はものつくり教育研究支援センターの工藤明特命教授から挨拶がありました。

水本理事・副学長の挨拶
水本理事・副学長の挨拶

司会を務めた齊藤卓志准教授
司会を務めた齊藤卓志准教授

サーマルカメラによる温血動物の撮影
サーマルカメラによる温血動物の撮影

キング博士は親しみを感じる笑顔とわかりやすい英語で観客をとりこにし、「ヒトはどうやって遙か昔の生物から進化したのでしょう」と生命の樹を使いながら観客に語りかけました。そして各生物種に応じた実験を通して進化の歴史を説明し、大人から子どもまで誰もが熱心に聞き入っていました。本講演はすべて英語で行われましたが、一人ひとりに同時通訳の機器が配られ、英語が分からない人でも安心して楽しめるような配慮がなされました。この同時通訳の設備が整っていることは、レクチャーシアターの特徴の一つです。また、登壇するボランティアにはキング博士がやさしく話しかけ、緊張気味の子どもたちを上手にリラックスさせていました。多くの子供たちが英語で自分の名前を紹介し、日本の子供たちの急速な英語への適応を垣間見ることができました。

今回の講演では、最初に風船を使って細胞とDNAについて説明し、そして、動物は1500万年に渡る3回の突然変異で異なる動物に変化したことを説明しました。次に、進化の順番を示す生命の樹を用いて、初期に進化した動物として昆虫を示しました。会場には昆虫の代表として本物のショウジョウバエが持ち込まれ、紹介されました。次いで進化した動物は魚です。その代表としてトラザメが登場し、田中先生は、水槽内のこのサメを使ってサメのヒレの骨がどのように形を変えてヒトの手のようになっていったのか、田中研究室の最新成果をわかりやすく子供たちに説明しました。さらに鳥類の代表としてダチョウの卵が持ち込まれ、類人猿の代表であるチンパンジーとヒトのDNAが1%しか違わないこと、動物には環境に応じた自然選択が起こったこと、実際に地図上を歩行しながら人類はアフリカから世界中に広がったことを紹介、そしてヒトによる牛乳に対する耐性や味覚の感受性の違いは、DNAの違いによることを示しました。これらの実験には、多くの子どもたちが積極的にボランティアとして参加しました。 最後に、キング博士の研究の主要テーマであるリチャード3世の骨の発見について、DNA鑑定により子孫のDNAと一致したこと、DNAから想定される髪と目の色が残っている肖像画と一致したことなどから本人であると証明したことを紹介し、本講演が終了しました。

DNAの違い異
DNAの違い

突然変異
突然変異

DNA塩基に見立てたレゴペアリング
DNA塩基に見立てたレゴペアリング

核内のDNAを取り出す様子
核内のDNAを取り出す様子

細胞内器官に見立てた風船
細胞内器官に見立てた風船

人類の広がり
人類の広がり

講演の終了時には、東工大学生スタッフらが全員登壇し、観客の大きな拍手に包まれました。講演終了後、キング博士は質問や写真撮影の要望に喜んで応えたので、子どもたちにとっては素晴らしい思い出となりました。このレクチャーから、将来科学者になることを目指して東工大で学ぶ子どもたちが生まれることを祈ります。

集合写真

集合写真

お問い合わせ先

国際フロンティア理工学教育研究プログラム

E-mail : kokusais@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3190

分子機械の集団運動制御に世界で初めて成功 省エネルギーな小型デバイスの実現に大きく前進

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ポイント

  • 物理的な刺激を加えることで、自走する約1億個の分子機械の集団運動の制御に成功。
  • 分子機械の行動パターンは変調可能で、自己修復する機能も有する。
  • 省エネルギーな小型デバイスの実現や分子群ロボットの制御への応用に期待。

概要

北海道大学 大学院理学研究院の角五彰准教授、井上大介博士、佐田和己教授、岐阜大学 工学部 応用物理コースの新田高洋准教授、東京工業大学 情報理工学院のGreg Gutmann助教、小長谷明彦名誉教授、コロンビア大学 医用生体工学部のHenry Hess教授らの研究グループは、自走する約1億個の分子機械の集団運動を、単純な物理刺激で制御することに成功しました。

群れ(集団)で行動する鳥や魚、細胞などは様々なスケールで自発的にパターンを形成します。タンパク質からなる分子機械も、集団となることで様々なパターンを形成します。これらの分子機械は、電気や熱のエネルギーではなく、化学エネルギーで駆動するのが特徴です。集団運動する分子機械は、優れたエネルギー変換効率と高い比出力特性を有しているため、分子群ロボットや超小型 デバイスなどの動力源として期待されています。しかし、これまでそのような分子機械の群れのパターンを制御することは出来ていませんでした。

本研究では、自走する約1億個の分子機械に伸張や圧縮などの単純な物理刺激を加えることで、群れのパターンを制御できることを見出しました。また、この群れのパターンをかき乱しても、直ちに自己修復されることもわかりました。

本成果は、省エネルギーな小型デバイスの実現を前進させるだけでなく、研究グループが開発してきた分子群ロボット制御への応用も期待されます。

なお、北海道大学が集団運動する分子機械の制御法を考案・実証し、岐阜大学、東京工業大学、コロンビア大学がコンピューターシミュレーションなどによる理論構築を担当しました。

また、本研究成果は、2019年10月4日(金)公開のアメリカ化学会刊行ACS Nano誌に掲載されました。

外部刺激による分子機械の集団運動制御のイメージ図

外部刺激による分子機械の集団運動制御のイメージ図

背景

「分子機械」は、SF映画の中の用語でした。しかし、近年発展したナノテクノロジーによって様々な分子機械が実現され、さらに2016年には分子機械を設計・合成した欧米の研究者3名がノーベル賞を受賞し、現在注目を集めています。ただ、自走する分子機械についての研究はまだ新しい分野であり、体系的な学問もありません。

研究グループは、これらの分子機械に着目し、自発的に群れを形成する世界最小のロボット(分子群ロボット)を開発してきました(Nature Communications 2018, 9,453outer)。これらの分子群ロボットは、キネシン/微小管[用語1]というタンパク質からなる分子機械によって駆動されています。この分子機械は、化学エネルギー(アデノシン三リン酸:ATP)を高効率に利用して動く特徴があります(単位重さあたりの出力が一般的な電磁モーターの20倍)。このように分子群ロボットの群れを利用することで、単体では成しえないような仕事をさせることができます。

しかし、分子群ロボットのサイズはマイクロメートルと小さく、分子群ロボットの群れを制御する方法論の確立が課題となっていました。本研究では、自走する約1億個の分子機械に伸張や圧縮などの物理刺激を加えることで、その集団運動を制御可能であることを世界にさきがけて実証しました。

研究手法及び研究結果

本研究で用いた分子機械は、バイオエンジニアリングにより作られたタンパク質「キネシン」と「微小管」から構成されています。伸縮可能な基板表面にキネシンを固定し、ATP存在下で微小管を基板上で自走させます(図1)。次に、この基板を伸縮させることで、基板表面で自走する約1億個の微小管に物理的な刺激を与えて微小管の運動方向を制御します。基板を1.3倍以上伸縮すると、約1億本の微小管のほぼ全てが伸縮方向に対して垂直に並び、基板を1.3倍以下で繰り返し伸縮すると、対角線方向に並んで運動することがわかりました(図2、3)。さらに、基板を放射線状に伸縮すると微小管が同心円状に並ぶことも見出しました(図4)。この微小管の運動パターンは、新たな物理刺激を与えることにより変調可能で、微小管の配列に欠陥が生じても自己修復されることも見出しました。また、シミュレーションにより、微小管の規則的な配列メカニズムは微小管の変形と関係があることや、微小管の集団運動が微小管の配列を促進していることもわかりました(図5)。

(a)キネシンを固定したソフトゴム基板上で微小管を運動させる方法の模式図。黒矢印は微小管の運動方向を示す。(b)小規模なウェーブ状の配列を形成して運動する微小管の蛍光顕微鏡画像。※ スケールバー:50 μm
図1.
(a)キネシンを固定したソフトゴム基板上で微小管を運動させる方法の模式図。黒矢印は微小管の運動方向を示す。
(b)小規模なウェーブ状の配列を形成して運動する微小管の蛍光顕微鏡画像。
※ スケールバー:50 μm
(a)運動する微小管に伸縮刺激を与える方法。(b)刺激の種類に応じた微小管の異なる運動モード。※ (i)伸縮軸に対して垂直方向に配列して動く微小管及び(ii)対角線上に並んで動く微小管の蛍光顕微鏡画像。伸縮刺激の条件はそれぞれ(i)伸び率:75%、伸縮速度1.2%/s, (ii)伸び率:20%、伸縮周波数0.5 Hz。黒い両矢印は伸縮軸を示す。スケールバー:50μm。顕微鏡の視野に対して、微小管全体のスケールが大きすぎるため、(i)(ii)いずれも全体の一部のみを表示している。
図2.
(a)運動する微小管に伸縮刺激を与える方法。(b)刺激の種類に応じた微小管の異なる運動モード。
※ (i)伸縮軸に対して垂直方向に配列して動く微小管及び(ii)対角線上に並んで動く微小管の蛍光顕微鏡画像。伸縮刺激の条件はそれぞれ(i)伸び率:75%、伸縮速度1.2%/s, (ii)伸び率:20%、伸縮周波数0.5 Hz。黒い両矢印は伸縮軸を示す。スケールバー:50μm。顕微鏡の視野に対して、微小管全体のスケールが大きすぎるため、(i)(ii)いずれも全体の一部のみを表示している。
新たな刺激を与えたことによる微小管の運動モードの変調。繰り返し与えた伸縮刺激によって、対角線上に並んで動く微小管に対し、より大きな伸縮刺激を与えた。刺激後、微小管は伸縮軸に対して 垂直方向に並んで動いた。スケールバー:50 μm。
図3.
新たな刺激を与えたことによる微小管の運動モードの変調。繰り返し与えた伸縮刺激によって、対角線上に並んで動く微小管に対し、より大きな伸縮刺激を与えた。刺激後、微小管は伸縮軸に対して垂直方向に並んで動いた。スケールバー:50 μm。
微小管円運動の発現。(a)伸縮刺激の模式図。ソフト基板の中心を押し上げ、その後、初期状態に戻した。基板の伸縮軸は押し上げた部位を中心に放射状になる。(b)同心円状に配列して円運動をする微小管の蛍光顕微鏡画像。円運動する微小管全体の直径は、使用した基板のサイズである1.5 cm。スケールバー:1 mm。(c)同心円状配列内に生じた欠陥の自己修復。同心円に並ぶ微小管の一部を削り、破損させた(黒破線の右側)。破損部位は、欠陥部位の周囲の微小管によって時間と共に自己修復された(青破線は修復部位の前線)。スケールバー:250 μm。
図4.
微小管円運動の発現。
(a)伸縮刺激の模式図。ソフト基板の中心を押し上げ、その後、初期状態に戻した。基板の伸縮軸は押し上げた部位を中心に放射状になる。
(b)同心円状に配列して円運動をする微小管の蛍光顕微鏡画像。円運動する微小管全体の直径は、使用した基板のサイズである1.5 cm。スケールバー:1 mm。
(c)同心円状配列内に生じた欠陥の自己修復。同心円に並ぶ微小管の一部を削り、破損させた(黒破線の右側)。破損部位は、欠陥部位の周囲の微小管によって時間と共に自己修復された(青破線は修復部位の前線)。スケールバー:250 μm。
微小管の配列シミュレーション。微小管ははじめランダムな配列。伸縮刺激がない場合を仮定すると、微小管は実験と同様、不規則なウェーブ状の配列で動く。伸縮刺激がある場合を仮定すると、刺激により一部の微小管が特定の方向に向く(赤)と想定される。この一部の配列した微小管は周りの配列していない微小管(緑)を牽引し、最終的に全体の微小管(緑+赤)が同一方向に配列して運動する。
図5.
微小管の配列シミュレーション。微小管ははじめランダムな配列。伸縮刺激がない場合を仮定すると、微小管は実験と同様、不規則なウェーブ状の配列で動く。伸縮刺激がある場合を仮定すると、刺激により一部の微小管が特定の方向に向く(赤)と想定される。この一部の配列した微小管は周りの配列していない微小管(緑)を牽引し、最終的に全体の微小管(緑+赤)が同一方向に配列して運動する。

今後への期待

本研究成果は、集団運動する分子機械の学問体系の構築に貢献するだけでなく、化学エネルギーで高効率に動き、自己修復など優れた機能を持つ小型デバイスの実現や、研究グループが開発してきた分子群ロボット制御への応用にも期待が持たれます。

謝辞

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業新学術領域研究「分子ロボティクス」(24104004)、「発動分子科学」(18H05423)、基盤研究(A)(18H03673)及び日本学術振興会特別研究員奨励費(14J02648)の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] キネシン/微小管 : 分子機械は、遺伝子工学的に作られたモーター「キネシン」と繊維状タンパク質の「微小管」がセットになって動くことで機能する。キネシンと微小管は、細胞内における物質輸送システムなどを構築する細胞の動力。微小管は直径25 nm、長さ約数十μ mの細胞内に存在する非常に細い繊維(図1)(1 nmは10億分の1 m、1μ mは100万分の1 m。参考:髪の毛の直径が60~100 μmで、微小管は髪の毛の3,000分の1程度の太さ)。本研究で用いられたキネシンは、全長が15 nm程度のタンパク質で、2つの微小管結合部位をもつ。この微小管結合部位が、生物燃料であるATPを消費して交互に微小管に結合することで、微小管表面を二足歩行する。

論文情報

掲載誌 :
ACS Nano(アメリカ化学会の専門誌)
論文タイトル :
Adaptation of Patterns of Motile Filaments under Dynamic Boundary Conditions(動的境界条件下における運動性フィラメントのパターン適応)
著者 :

井上大介1、Greg Gutmann2、新田高洋3、Arif Md. Rashedul Kabir1、小長谷明彦2、徳楽清孝4, 佐田和己1、Henry Hess5、角五彰1

所属 :
1北海道大学 大学院理学研究院
2東京工業 大学情報理工学院
3岐阜大学 工学部応用物理コース
4室蘭工業大学 大学院工学研究科
5コロンビア大学 医用生体工学部
DOI :
公表日 :
2019年10月4日(金)(オンライン公開)
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お問い合わせ先

北海道大学 大学院理学研究院 化学部門 准教授 角五彰

E-mail : kakugo@sci.hokudai.ac.jp

Tel : 011-706-3474 / Fax : 011-706-3474

岐阜大学 工学部 応用物理コース 准教授 新田高洋

E-mail : nittat@gifu-u.ac.jp

Tel : 058-293-2551 / Fax : 058-293-2415

東京工業大学 情報理工学院 名誉教授 小長谷明彦

E-mail : kona@c.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5655 / Fax : 045-924-5655

配信元

北海道大学 総務企画部 広報課

E-mail : kouhou@jimu.hokudai.ac.jp

Tel : 011-706-2610 / Fax : 011-706-2092

岐阜大学 総合企画部 総務課 広報室

E-mail : kohositu@gifu-u.ac.jp

Tel : 058-293-3377 / Fax : 058-293-2021

配信元 及び 取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

9月26日から大岡山キャンパスでキッチンカーの本格運用を開始

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東京工業大学では、学生の声を集めた学勢調査でも要望があがっていたキッチンカーの出店を、6月18日より大岡山キャンパスにおいて試験運用してきました。

当初は毎週火曜日のみの実施でしたが、利用好調が続いたため、夏休み明けの9月26日からは土日祝日を除く毎日、本館北西側に2店舗が出店し、本格運用を開始しました。

料理販売風景

料理販売風景

曜日ごとに異なる2店舗が出店することで、昼食の選択肢が広がりました。

9月26日現在、以下のようなメニューが提供されています。

月曜日

キッチンカー メニュー写真

THE TACO SHOP

・ オリジナルタコライス

野菜とチーズたっぷりのオリジナルタコライス。辛さの選択可能です。

キッチンカー メニュー写真

market

・ オリジナルボロネーゼ

・ 渡り蟹のトマトクリーム生パスタ

ボロネーゼは黒毛和牛と黒豚、有機野菜をじっくり煮込んでいます。

火曜日

キッチンカー メニュー写真

ANADOLU☆KEBAB

・ 大盛りケバブ丼

・ 大盛りケバブ

・ のび~るアイス

本場トルコの味とパフォーマンスを提供します。

キッチンカー メニュー写真

エイトプリンス

・ メガザンギ丼

・ スタミナ丼

・ ザンスタ丼

できたてのザンギがてんこ盛り。

水曜日

キッチンカー メニュー写真

Kitchen Kanaloa

・ ホットサンド

・ しらす丼

・ ローストビーフ丼

・ タピオカミルクティー

湘南名物の釜揚げしらす丼や自家製のローストビーフ丼を提供します。

キッチンカー メニュー写真

KaZoo

・ チキンオーバーライス

・ ビーフオーバーライス

アメリカ ニューヨーク生まれのメニューを、日本人好みに味付けしています。

木曜日

キッチンカー メニュー写真

es.tokyo

・ ナシゴレン

・ ガパオライス

・ アジアンミートライス

特製ナシゴソースで味に深みをだし、具沢山なナシゴレンです。

キッチンカー メニュー写真

串焼きチキン Tori-hachi

・ 焼き鳥丼

・ 鳥そぼろ丼

国産鶏に秘伝のタレを使用した焼き鳥丼

金曜日

キッチンカー メニュー写真

窯焼きピッツァ ラナーヴェ

・ ピッツァメニュー全4種

イタリア政府認定職人が焼く本格石窯焼きナポリピッツァです。

キッチンカー メニュー写真

NEW NEW YORK CLUB

・ チキンオーバーライス

・ ファラフェルオーバーライス

お店の看板メニュー、チキンオーバーライスを中心に提供します。

店舗やメニューは予告なく変更する場合があります

出店スケジュールやメニュー等の詳細は、TLUNCH(トランチ)のアプリで確認できます。

また、一部の店舗で、アプリ内のQRコード支払いによるキャッシュレス決済が可能となりました。アプリ内のメニュー写真の左下に「pay」アイコンがある店舗はキャッシュレス決済に対応しています。

今後の販売食数によっては、大岡山キャンパス内の他地区やすずかけ台キャンパスでの出店の可能性もありますので、皆様ふるってご利用ください。

キッチンカー出店情報

  • 出店場所
    大岡山キャンパス本館北西側(本館横駐輪禁止スペース、スロープ脇)
  • 出店時間
    平日11:30 - 13:30
  • 平均価格帯
    500円~750円
出店スケジュール・メニューはTLUNCHアプリで確認できます。

※ 学勢調査とは:

本学の全学生を対象として2年に1回、学生スタッフが主体となって行うアンケート調査です。ほかに例を見ない本学独自の取り組みで、国勢調査になぞらえ「学勢調査」と名付けられました。生活、学習、キャンパスライフなどの現状を把握し、寄せられた意見を分析して、大学への提言を行うことを目的としています。学勢調査2018では、メニューの多様化や食堂の混雑解消を目的として、「キッチンカーの誘致」が提言されました。本学ではこれを受け、空きスペースと移動型店舗(フードトラック)を結びつけるTLUNCHというサービスを利用して、キッチンカーの導入を行いました。

お問い合わせ先

学務部学生支援課

E-mail : gak.sei@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3015


令和元年度9月 東京工業大学入学式を挙行 日本と45か国・地域から計503名が入学 78%が留学生

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46の国と地域から迎えた新入生

9月25日、大岡山キャンパス東工大蔵前会館で令和元年度(2019年度)9月 東京工業大学入学式が行われました。9月入学の新入生総数は503名(学士課程2名、修士課程321名、専門職学位課程12名、博士後期課程168名)です。入学式には新入生約370名とそのご家族約50名の計約420名が出席しました。

新入生503名の出身は日本から113名、45か国・地域からの留学生390名で、78%が留学生です。女性は145名で、29%を占めます。修士課程の新入生は日本と38か国・地域から入学し、中国174名、日本55名、インドネシア21名の順です。博士課程は日本と28か国・地域から入学し、中国59名、日本46名、インドネシア16名の順です。東工大が掲げる多様性を反映し、多彩なルーツを持つ新入生が「チーム東工大」のメンバーに加わりました。入学式の式辞や挨拶はすべて英語で行われました。

46の国と地域から迎えた新入生

46の国と地域から迎えた新入生

学長式辞(益学長)
学長式辞(益学長)

大学歌斉唱に続き、式辞に立った益一哉学長は、新入生の78%を外国から迎えたことを強調し「多様性に富んだ多文化のコミュニティで皆さんはユニークな経験を積むことだろう」と述べました。さらに、益学長は東工大の改革を実行するため2018年に打ち出した三つのコミットメント―「多様性と寛容」「協調と挑戦」「決断と実行」―を説明し、「多様性は創造力とイノベーションの源となる。東工大の仲間と協調することで、新しいアイデアが生まれる。行きたい方向を決めたら、行動しよう。東工大の学びと研究の環境は、行動する者に報われるよう設計されている」と新入生を励ましました。

部局長式辞(横田情報理工学院長)
部局長式辞(横田情報理工学院長)

役員や学院長など、列席する大学関係者や来賓の紹介の後、横田治夫情報理工学院長が各学院を代表して式辞を述べ、科学技術の進展に貢献するよう新入生に促しました。国連で開催されたばかりの気候行動サミットや16歳の活動家グレタ・トゥーンベリさんの国連スピーチに触れ、「気候温暖化問題の解決は科学技術にかかっている」と、持続可能な地球の重要性を訴えました。また、研究倫理に責任を果たすよう求めました。

蔵前工業会理事による祝辞(井戸業務執行理事)
蔵前工業会理事による祝辞(井戸業務執行理事)

さらに、本学同窓会の「一般社団法人蔵前工業会」を代表して、井戸清人業務執行理事(昭和48年理学部数学科卒)が祝辞を述べました。井戸理事は東工大の卒業生がさまざまな分野のリーダーとして活躍していることを紹介し、科学技術だけでなくリベラルアーツにも関心を深め、国際的な視野を広げるよう激励しました。

新入生総代リオさんによる答辞
新入生総代リオさんによる答辞

最後に、新入生総代の生命理工学院生命理工学系の博士後期課程、リオ・シルビア・ハンユン(LEO Sylvia Han Yun)さんが答辞を述べました。リオさんは、2017年9月、東工大修士課程に入学し、今回、博士後期課程に進んだシンガポールからの留学生です。東工大の優れた環境で最先端の研究に取り組める「特典」を生かしたいと抱負を語り、科学技術は環境に害をもたらす可能性もあると自戒を込めて語りました。2020年東京オリンピック・パラリンピックに最新技術がどう使われるか間近で体験できると東京で学ぶ期待を述べ、地球全体にインパクトを持つ科学と技術をもっと学びたいと話しました。

新入生のみなさん、ようこそ東工大へ。ご入学おめでとうございます。

線形加速器を用いた透過型電子顕微鏡を開発 コンパクトな装置で高い加速の電子ビームによる顕微観察に成功

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今回の発見

1.
マイクロ波を用いて電子を加速する線形加速器を導入した透過型電子顕微鏡を開発し、顕微観察に成功しました。
2.
従来問題であった加速エネルギーのばらつきの問題を解決する新しい高周波チョッパを開発し、線形加速器の導入と顕微鏡分解能を両立させました。
3.
試料部の前後に線形加速器と線形減速器を導入し、試料部だけを高加速化するコンパクトな超高圧電子顕微鏡の原理実証に成功しました。

概要

高い加速エネルギーの電子ビームを用いる超高圧電子顕微鏡は、厚い試料を透過観察でき、細胞などの内部構造を3次元的に再構成できるなど、極めて有用な観察手法です。従来、電子ビームの加速には直流高電圧を使用するため、大型で専用の建屋を必要とするなど、極めて高価な装置となる問題がありました。今回、東京工業大学 物質理工学院 材料系の三宮工准教授、テラベース株式会社の新井善博代表取締役、生理学研究所の永山國昭名誉教授、高エネルギー加速器研究機構の永谷幸則特別准教授らの研究グループは、日本電子株式会社の協力により、小型でありながら効率的に電子ビームを加速する線形加速器と、新規な精密ビーム制御技術を電子顕微鏡に導入することにより、既存の研究室にも収容可能な程にコンパクトな超高圧電子顕微鏡を開発、顕微鏡像観察が可能であることを実証しました。本成果は、2019年10月9日(日本時間)に米国Physical Review Letters誌に掲載されました。

研究の背景と成果

透過型電子顕微鏡は、試料に電子ビームを当て透過した電子ビームに含まれる試料の情報を高い分解能の像として取得する方法として、広く用いられている観察手法です。しかし通常の透過型電子顕微鏡では電子ビームは厚い試料を透過できないため、試料を数百ナノメートル未満に極薄片化しておく必要があります。より厚い試料を透過観察するには、500 keV[用語1]以上の高いエネルギーまで加速した電子を用いる超高圧電子顕微鏡が用いられます。超高圧電子顕微鏡は、試料を回転させながら複数の透過撮影像と、コンピューターによる再構成(トモグラフィ)によりナノスケールの3次元的な構造を観ることができるため、物質材料科学研究や医学生物学研究などで使用される極めて有用な観察手法です。

しかしながら超高圧電子顕微鏡は直流の高電圧を用いて電子ビームを加速する手法を採っているため、装置が巨大化し高額な装置となってしまう問題点があり、現に稼働中の超高圧電子顕微鏡は国内に数台しかありません。直流の高電圧を保持するには、圧縮した絶縁ガスを詰めた大型タンクの内部に電子ビーム源や加速電極を収納する必要があり、さらにそのタンクを地面の振動から隔離するため除振台に載せる必要などから、専用の建屋までもが必要となり、普及を阻んできました。

そこで研究グループは線形加速器[用語2]を用いて電子ビームを加速する方法に注目しました。マイクロ波を用いて電子ビームなどを波乗り的に加速する線形加速器は、小型でありながら高いエネルギーまでビームを加速する能力があり、素粒子実験に用いられる巨大な加速器施設から医療用の小型加速器まで、広く利用されています。

この線形加速器を電子顕微鏡に導入することにより、研究グループは、既存の研究室にも導入できるコンパクトな電子顕微鏡の開発を自然科学研究機構 生理学研究所において進めてきました。図1に開発された装置の写真および構造を示します。この際に最大の問題となるのが電子ビームの加速エネルギーの安定性の問題でした。図2の赤曲線で示す様に、線形加速器は電子をマイクロ波への波乗りで加速するため、波に乗れた電子と乗れなかった電子で加速エネルギーに差異が生じます。電子顕微鏡は磁場を用いて電子ビームを収束し結像させる電子レンズを用いますが、加速エネルギーが揃っていない電子ビームでは磁場による曲がり方にもばらつきが生じ、色収差[用語3]によりピンボケ像となってしまいます。これまで、電子顕微鏡に線形加速器が導入されてこなかった最大の理由は、この加速エネルギーが一定でないことによる色収差の問題を解決できないことにありました。

開発した電子顕微鏡の写真および構成図

図1. 開発した電子顕微鏡の写真および構成図


最上部の電界放出型電子銃で生成された高い品質(高い時空間コヒーレンス)をもつ100 keVの電子ビームは、2台の高周波偏向空洞、チョッパスリットおよびチョッパレンズから構成される高周波チョッパにより、その品質を保ったまま、2.45 GHzのマイクロ波に同期したサブピコ秒のパルス電子ビームとして切り出されます。同一のマイクロ波源で駆動される線形加速器に最適のタイミングで入射された電子は安定して500 keVまで加速され、試料を透過します。試料を透過した電子ビームは、試料の像を保ったまま線形減速器で200 keVまで減速されます。直流高電圧は最高でも100 kVまでしか用いず、試料部だけが高加速でその前後は低加速なため、装置全体がコンパクトになります。写真の青色部分に線形加速器と線形減速器が収納されており、その間が試料部となります。

エネルギーのばらつき問題とチョッパによる解決

図2. エネルギーのばらつき問題とチョッパによる解決


線形加速器において、電子は加速器の内部の空洞で共振する強いマイクロ波の電場により加速されます。マイクロ波はまさしく「波」であり、図の赤曲線で示す様にその電場は最大加速から最大減速まで振動しています。このため、単に電子を投入しただけでは、その投入タイミングにより最大加速されることもあれば最大減速されることもあり、加速エネルギーは大きくばらついてしまい、電子顕微鏡には使えません。これを解決するため、加速が安定する山の頂上付近だけに電子を投入する装置が高周波チョッパです。マイクロ波の周波数(2.45 GHz)の周期で訪れる、サブピコ秒の時間帯にのみ電子を線形加速器に供給し、最大加速に電子のエネルギーを揃えます。

研究グループは、高分解能の電子顕微鏡に使われている電界放出型電子銃を用い、そこから得られる高い品質の電子ビームから、波に乗れる電子だけを切り出す高周波チョッパ[用語4]を開発し、これを線形加速器の前に挿入することにより、色収差の問題を解決しました。開発した高周波チョッパは、電子ビームの品質を示す時間コヒーレンス[用語5]と空間コヒーレンスを維持したまま、周波数が2.45 GHzのマイクロ波に同期して、サブピコ秒のパルスを切り出す事ができます。2つの高周波偏向空洞[用語6]とスリットを含むレンズ光学系の組み合わせにより実現された革新的な技術です。この新開発した高周波チョッパを用いて、線形加速器で200 keVまで加速した電子ビームを用いて電子顕微鏡観察した結果、サブナノメートルの分解能が得られる事を実証しました。

また、電子顕微鏡において電子ビームを収束させたり、拡大・結像させたりする電子レンズの光学系は、高いエネルギーに加速された電子ビームでは大型化してしまう問題があります。これを解決するため、試料を透過した電子ビームを減速させてから、後段の電子光学系に投入する方法を採用しました。線形減速器[用語7]はマイクロ波を用いて電子ビームを効率的に減速できます。そこで、研究グループは線形減速器を使用して試料の像に対応する電子ビームの波動関数の情報を保ったまま電子ビームを減速させました。その結果、試料を透過した電子ビームを線形減速器で減速した後の低加速のビームからも、試料の像が得られることを実証しました。

今回の研究では、試料部の前に線形加速器、後に線形減速器を導入することで、試料部だけを高加速化し、それ以外は低加速で構成する、コンパクトな超高圧電子顕微鏡の開発に成功しました。開発された装置の全高は3.75 mとなり、多くの既存の研究室に設置可能な大きさとなりました。これまで超高圧電子顕微鏡は、その有用性にもかかわらず、設備投資的な問題点から普及が阻まれてきましたが、今回の研究によって、超高圧電子顕微鏡の広い普及につながると期待されます。

この研究の社会的意義

専用建屋を必要とする大型で高額な超高圧電子顕微鏡が、既存の研究室に導入できる程にコンパクトになり、これまでは国内に数台しかなかった超高圧電子顕微鏡が広く普及すると期待されます。細胞や材料など厚い試料の透過型電子顕微鏡観察が一般化すると考えられます。

助成金などの情報

本研究は文部科学省科学研究費補助金、JSTさきがけ、日本電子株式会社の協力を受けて行われました。

用語説明

[用語1] keV : 粒子のエネルギーの単位。500 keVの電子ビームは、電子を50万V(ボルト)の電位差で加速することで得られ、その速度は光の速度の86パーセント程となる。

[用語2] 線形加速器 : マイクロ波などの高周波の電磁波を用いて荷電粒子を直線的に加速する装置。空洞への電磁波の共鳴による強い電場を利用する。

[用語3] 色収差 : 電子顕微鏡などに用いられる電子レンズの焦点距離が、電子ビームのエネルギーに依存して変動する現象。エネルギーの高い電子ビームほど磁場で曲がりにくい事が原因である。電子ビームのエネルギーにばらつきがあると、それに応じて電子レンズの焦点距離もばらつき、焦点ボケが生じる。

[用語4] チョッパ : 特定のタイミングで、時間的に連続するビームからパルスを切り出す装置。

[用語5] コヒーレンス : ビームの波としての干渉性とその尺度。時間的コヒーレンスと空間的コヒーレンスに分けられる。ビームのエネルギーが揃っていると時間コヒーレンスが高く、ビームの向きが揃っていると空間コヒーレンスが高い。電子顕微鏡は電子ビームの干渉性を利用して像を得るため、時間的および空間的な両方のコヒーレンスの高いビームを用いる必要がある。

[用語6] 高周波偏向空洞 : 高周波の電磁波を用いて荷電粒子の向きを左右に振る装置。空洞への電磁波の共鳴による強い電場を利用し、電磁波に同期してビームを振る。

[用語7] 線形減速器 : 線形加速器の配置を前後逆にし、ビームの加速ではなく減速に用いる装置。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Transmission Electron Microscope Using a Linear Accelerator.
著者 :
Takumi Sannomiya, Yoshihiro Arai, Kuniaki Nagayama, and Yukinori
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 材料系

准教授 三宮工

E-mail : sannomiya.t.aa@m.titech.ac.jp

テラベース株式会社

代表取締役 新井善博

E-mail : arai@terabase.co.jp

自然科学研究機構 生理学研究所

名誉教授 永山國昭

E-mail : nagayama@nips.ac.jp

所長 鍋倉淳一

E-mail : nabekura@nips.ac.jp

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所

特別准教授 永谷幸則

E-mail : nagatan@post.kek.jp

取材申し込み先

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室

E-mail : pub-adm@nips.ac.jp
Tel : 0564-55-7722 / Fax : 0564-55-7721

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 広報室

E-mail : press@kek.jp
Tel : 029-879-6047 / Fax : 029-879-6049

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大水泳部玉城旭さんが2019年度関東学生水球リーグ戦で2部得点王獲得

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2019年度関東学生水球リーグ戦において、東京工業大学水泳部の玉城旭さん(工学院 経営工学系 学士課程3年)が男子2部リーグ得点王を獲得しました。

リーグ戦は5月18日から6月23日にかけて、日本体育大学健志台プール(神奈川県横浜市青葉区)、慶應義塾大学日吉プール(神奈川県横浜市港北区)ほか3会場の合計5会場で行われ、男女あわせて23チームが出場しました。東工大水泳部は、9大学構成の男子2部に出場し、玉城さんは公式戦7試合中計35得点をあげました。今大会で、東工大チームは予選リーグ戦を勝ち上がり、上位4チームによる決勝リーグの結果4位という成績を収めました。

最終戦後の東工大水泳部員

最終戦後の東工大水泳部員

得点王を獲得した玉城さんのコメント

昨年は惜しくも得点ランキング2位でタイトルを逃したので、今回の受賞はとても嬉しく思います。チームとしても、ここ数年出場できていなかった決勝リーグに進出できたことで、チーム全体の成長も感じています。

夏から新チーム体制となりました。4年生の抜けた穴は大きいですが、昨年以上のチームを創るべく部員一丸となって練習に励んでいきます。

また、学業も手を抜かずに両立できるよう1日1日を大切に過ごしていきます。

試合中の玉城旭さん

試合中の玉城旭さん

東工大水泳部について

設立60年以上の歴史ある東工大公認サークルです。現在は男子部員16名、女子部員14名、マネージャー6名で活動しています。指導者はおらず、部員が自ら必要なことを考え、練習メニューを作成し、個人として、チームとしてのレベルアップを図っています。女子は競泳のみ、男子は競泳と水球の2種目の練習を行っています。水球では、9大学構成の関東学生水球リーグ男子2部に所属しており、上位3チームに入賞することを目標としています。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

台風19号接近に伴う対応について

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大型で猛烈な台風19号が北上しており、10月12日から13日にかけて本州に上陸のおそれがあるとの予報が出ています。

イベント等で東工大へお越しの方

工大祭2019(10月12日(土)、13日(日))の開催・実施情報について

台風の進路状況に応じて、内容や開催時間の変更および、単日・両日中止となる可能性があります。

今後の詳細情報については、「工大祭2019公式サイト」にて随時お知らせします。

その他のイベントについて

学内で開催予定のイベントの実施については、各イベント主催者へお問い合わせください。

関連リンク

TAIST-Tokyo Tech 2018年度修了式を開催

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TAIST (Thailand Advanced Institute of Science and Technology)-Tokyo Tech(以下、TAIST)は、タイ政府からの要望により、理工系分野での高度な「ものつくり人材」の育成と研究開発のハブを目指して、2007年に設立された国際連携大学院プログラムです。8月29日、タイ王国パトゥムタニー県タイランドサイエンスパーク内のタイ国立科学技術開発庁(NSTDA)において、TAISTの2018年度修了式が挙行され、44名の学生がプログラムを修了しました。うち6名の学生は、副専攻コースである鉄道カリキュラム(Rail Transportation Curriculum)もあわせて修了しました。当日は多数の来賓が出席し、盛大に修了生の門出を祝しました。

修了生とTAIST教職員等

修了生とTAIST教職員等

水本理事・副学長(左)、チャダマス副長官(右)と記念撮影
水本理事・副学長(左)、チャダマス副長官(右)と記念撮影

TAISTは、タイの先端研究機関であるNSTDA、タイの4大学(キングモンクット工科大学ラカバン校(KMITL)、キングモンクット工科大学トンブリ校(KMUTT)、カセサート大学(KU)、およびタマサート大学シリントーン国際工学部(SIIT))、および本学の連携により運営されています。2018年4月には、マヒドン大学(MU)の協力を得て、新たに副専攻コースである鉄道カリキュラムも開始しました。今回の修了生44名を含め、これまでに395名の修了生を輩出してきました。

修了式では、NSTDAからチャダマス・ツバセタクル副長官、本学から水本哲弥理事・副学長(教育担当)、MUを含むタイの5大学から代表者が出席し、修了生たちに祝辞を述べました。また、在タイ日本国大使館から久芳全晴一等書記官が出席し、修了生へのお祝いの言葉を述べました。

  • NSTDAのチャダマス・ツバセタクル副長官
    NSTDAのチャダマス・ツバセタクル副長官
  • 水本理事・副学長
    水本理事・副学長
  • 在タイ日本国大使館の久芳一等書記官
    在タイ日本国大使館の久芳一等書記官

修了生たちは、水本哲弥理事・副学長(教育担当)からプログラム修了証書を、チャダマス・ツバセタクル副長官から鉄道カリキュラムの修了証書(該当者のみ)と記念品を授与されました。また、式典の最後には、修了生およびTAIST教職員等が集合写真に納まりました。修了生たちの進路は、本学を含む博士課程への進学、民間企業や政府機関への就職など様々です。TAISTで学んだ知識や経験を活かし、大いに活躍することが期待されます。

お問い合わせ先

国際部国際事業課 TAIST事務室

E-mail : taist@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-7607

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