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平賀良さんが凸版印刷主催の新事業コンテストで「特別賞」受賞

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物質理工学院 材料系の平賀良さん(修士課程1年)が9月17日に開催された凸版印刷株式会社(以下、凸版印刷)主催のビジネスコンテスト「新事業共創プログラムco-necto(コネクト) 2019」で、「特別賞」を受賞しました。ほかに3企業が優秀賞、2企業が特別賞で、平賀さんは唯一の学生として受賞しました。

co-nectoとは

新事業共創プログラムco-nectoのロゴ
新事業共創プログラムco-nectoのロゴ

凸版印刷によると、co-nectoはスタートアップ企業と凸版印刷の共創を通じて、イノベーティブな事業・サービスを世に送り出すためのオープンイノベーションプログラムです。スタートアップ企業の斬新なアイデアと凸版印刷の豊富なリソースをコネクトし、これまでにない価値の創出を目指します。今回募集したアイデアは、8つの領域(食品・流通・自治体・通販・金融・エネルギーインフラ・医療ヘルスケア・スポーツ)を対象とし、SDGs 17(持続可能な開発目標の17項目)の目標を達成するアイデアです。

今回、平賀さんが受賞したアイデアはSDGsのうち、自治体を対象とした「住み続けられるまちづくりを」に該当します。

受賞した「道路異常検知システム」

これまでは、目視または高価な機材を使用しないと不可能だった「道路の異常検知」を、どこにでもあるスマートフォンと、新開発のアプリ・ウェブ技術を使って、簡単に検出可能にしました。スマートフォンに内臓されているXYZ軸加速度センサーとジャイロセンサーを用いて、スマホの揺れ度合を波形表示させ、データと画像による解析が可能なシステムを作りました。

車に搭載して「道路の異常検知」を測定することにより、効率的な道路調査が可能になります。

これから老朽化する道路や、減っていく作業者、削減される予算といった課題を前に、効率の良いITサービスを提供するシステムとして提案されました。

「道路異常検知システム」の事業概要

「道路異常検知システム」の事業概要

「道路異常検知システム」の事業概要

平賀良さんのコメント

「特別賞」を受賞し、細田秀樹教授含め細田研究室の仲間や家族に喜んでもらい、とても嬉しかったです。研究室では、金属材料の研究をしており、そこで培った知識や専門を極めるという体験が、今回の受賞に繋がったと感じています。皆さんの応援あっての受賞だと思っています。これをきっかけに、11月にGoMA株式会社を設立し、代表取締役として励むつもりです。GoMAとは「go marketing」の略で、我々が作ったサービスを世の中へ広め、 Marketing(市場)を加速させるという意を込めています。これから凸版印刷さんと各自治体とで実証実験に向けて、取り組む所存です。このサービスを導入することによって、住み続けられる街づくりを、皆さんが 「笑顔」になれるような社会を構築します。

平賀さん
平賀さん

GoMA株式会社のロゴ
GoMA株式会社のロゴ

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


世の中で広く用いられる強制対流冷却において「物体を冷やしながら発電する」新技術を創出 熱電気化学発電の強制対流冷却への統合とコンセプト実証

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要点

  • データセンター・発電所・エンジンなど、積極的な冷却は社会を支えている。
  • 積極的な冷却とは「熱エネルギーの電気可換分」を失う行為で、現状未対処。
  • 強制対流冷却に発電を統合し、この対処を与える基本技術を創出、実証した。

概要

現代文明は冷却に支えられている。世界の発電量の2%を消費するに至ったデータセンターはCPU群の正常動作のために、発電所のタービンは効率を上げるために、積極的な冷却が必須である。冷却とは多量の熱エネルギーを高温側(排熱源)から低温側(作動流体)に移す作業だが、このとき「熱エネルギーの電気(仕事)への可換分」の多くが失われる。これまでの強制対流冷却では、冷却の必要上このロスは仕方ないとし、冷却の世の中での広い使用にも関わらず、対処がされてこなかった。

東京工業大学 工学院 機械系の村上陽一准教授の研究グループは、「強制対流冷却」と「熱電気化学発電」という、これまで別々に発展してきた技術を統合することにより、「物体を冷やしながら発電する」新技術を創出し、実証することに成功した。

本成果で重要なのは、実証セル部分に冷媒を流して通過させるのに要するポンプ仕事より多い発電量を得たこと(すなわち、発電のゲインが1を超えたこと)であり、この発見は、本コンセプトの妥当性を証明した極めて重要なものである。本成果は、これまで未対処だった上述の「強制対流冷却に伴うロス」を回収しうる、新世代冷却技術への転換マイルストーンとなる革新的な基本技術である。

本成果は王立化学会(英国)の学術誌「Physical Chemistry Chemical Physics」に11月15日に掲載された。本論文outerはオープンアクセスで無料公開されている。

背景

現代の我々の便利な生活は、電力と情報技術によって支えられている。それらを生み出す現場では、冷却が本質的に必要である。

遠隔地に建設されることの多いデータセンターでは、CPU群の動作と故障回避のために積極的な冷却が必須であり、多くは水の循環冷却(強制対流冷却[用語1])によって行われている。さらにその冷却水の循環にも電力(ポンプ仕事)が投入されている。一方、発電所では、火力・原子力を問わず、熱力学の原理法則によって、排熱面を積極的に冷却することが発電効率の維持に必須である。すなわち、冷却とは、我々の文明を支える根幹である。

ところが、熱を高温側(=排熱源)から低温側(=水などの冷却の作動流体)に移すと、熱エネルギーの電気(仕事)への可換分[用語2]の多くが失われるという原理的事実がある。平たく言えば、「積極的な冷却」とは「熱をどんどん低温側に移す作業」であり、それが積極的であるほど「本来電気に変えられたはずの熱の価値が壊される」ということである。この問題点は、緊急度の高い冷却の必要性に隠れ、これまで仕方ないものと考えられてきた。あるいは、当たり前すぎて気づかれることのなかった盲点といえる問題点であった。

実は、原理的に、温度差があり熱流がある場所からは、電力を産み出すことができる。強制対流冷却が広く社会で用いられていることを考えれば、この問題点の対処がこれまで効果的に取り組まれてこなかったのは、現代技術の盲点であり、空白であった。

研究成果

本学の研究グループ(研究主任:村上陽一准教授)は、この問題を認識した上で、その解決の一般的方法を与える技術の創出に向け研究を行ってきた。その指針としたのが、既存の固体熱電変換技術とは対照的な、「液体側で熱→電気変換を行う」ということ、および、その液体を冷却の作動流体に用いることであった。これは、流体ならば流れや流路の柔軟なデザインが可能で、また、温度境界層という固体面上での流れ中に急峻な温度差がつく層を利用することで、短距離間で発電に有利な大きな温度差を得やすい、という利点に着目したことによる。

この流体側での発電の具体的方法として、研究グループは、従来、強制対流冷却とは無関係に追究されてきた、静的な排熱利用技術の一種である「熱電気化学発電」に注目した。これは、冷却の義務が課せられていない「廃熱」に適用し、電力を回収するという技術であり、酸化還元対[用語3]という化学種を溶かした液中に、異なる温度の2本の電極を挿入し、温度差から電極間に起電力を生じさせる技術である。この技術の研究は、ほぼすべての場合について、密閉容器内で静的な状況(温度差による自然対流のみが存在する状況)で行われてきた。撹拌などを伴う準・動的な研究もあったが、この技術を強制対流冷却と結び付け、積極冷却の義務が存在する状況に統合する試みは従来存在しなかった。

本研究グループは、強制対流冷却に熱電気化学発電を統合することで、上述の「物体を冷やしながら発電する」のコンセプトを創出し、実証した。図1にこのコンセプトの模式図に示す。具体的に、作動流体には実用上不揮発・不燃とみなせる安全性の高いイオン液体[用語4]を選んで100 ℃以上の高温排熱面にも適用可能とし、酸化還元対には高い性能が知られていたコバルト錯体塩を使用した。

現状の冷却の状況と、その解決を行う本成果のコンセプトの模式図。

図1. 現状の冷却の状況と、その解決を行う本成果のコンセプトの模式図。

そして、この着想の実証セルを設計し、実験を行ったところ、上述の狙い通り、強制対流冷却をしながらの発電に成功した。具体的には、流路形状の最適化がされていない状態にも関わらず、620 W/(m2K)という十分に高い熱伝達率(固体表面冷却の性能指標)を達成した。この冷却と同時に、約2.5 cm角の小さな電極サイズにも関わらず、0.26 mWの発電に成功した。試験セルが小型であるために今回の発電量は大きくないが、これは今後、スケールアップや、酸化還元対濃度の増大、流体粘度を低下などの、様々な方策によって改善が見込める数値である。

重要なのは、発電量が、このセルに冷却流体を流すのに必要な流体駆動仕事を上回ったという点である。すなわち、本コンセプトにより創出した技術は、原理上、冷却ユニット部に流体を通過させる仕事よりも多くの電力を発生できる(=ゲインが1を超えている)ことが示された。この点が、本成果の極めて重要な側面であり、本コンセプトの妥当性を裏付けるとともに、今後、本創出技術に対する興味を喚起する重要な発見となっている。

「背景」で述べたように、年々消費電力が増加するデータセンターでは、CPU群自体の消費電力に加え、それを水冷するための冷却システムの稼働電力も大きなものとなっている。本成果は、今まで無駄に捨てていた、積極冷却に伴う「熱の電気(仕事)への可換分のロス」の一部を取り戻し、それを水冷のポンプ仕事に充てることが原理上可能であることを示したものであり、上述の従来技術の空白を埋め、新世代冷却技術への転換マイルストーンとなる基本技術となっている。

研究の経緯

本研究グループは、2014年にこのコンセプトの着想を得て、2015年4月より公益財団法人 東電記念財団の研究助成支援[参考文献1]を受けて研究を開始し、2017年5月には、解釈が十分ではない段階の予備結果を第54回日本伝熱シンポジウムにおいて発表PDFした。このたび、実験結果に対する十分な解釈を得、対外的に説得力をもって結果を公表できる段階に至ったこと、および、上述の「ゲイン > 1」という本コンセプトの妥当性を証明した重要知見を得たことを受け、下記の英文学術雑誌への論文掲載をもって、本プレスリリースを行うに至った。

今後の展開

本成果は実験室レベルの小型の実証セルによって得られたもので、その発電量は少ない。しかし、これは、上述のように様々な方策で増大が可能なものである。今後の展開として取り組むべき事項は、(1)スケールアップとその影響の検証、(2)流路形状と流れのデザインの最適化、(3)発生電力量に直結する、高い溶解濃度を達成できる新規な酸化還元対種の開発である。(1)と(2)は本研究グループにおいて引き続き研究を進める予定である。(3)については、共同開発パートナーとなる化学メーカーまたは化学研究者を募り、本技術の飛躍的な性能向上に向け、今後、中~長期的に展開してゆく予定である。

用語説明

[用語1] 強制対流冷却 : 流体(液体または気体)を駆動し、高温の固体面に接触させて流すことにより、固体面からの除熱を行う方法。

[用語2] 電気(仕事)への可換分 : 熱エネルギーは乱雑な原子・分子の運動の集まりなので、そのすべてを(整然として有用なエネルギーである)電気に変換することはできない。電気も仕事の一種である。熱エネルギーから電気(仕事)に変換できる割合は、「同量の熱エネルギーでも、高温にある熱エネルギーほど高く、低温にある熱エネルギーほど低い」という原理がある。これは熱力学の第2法則とよばれ、「熱エネルギーは、それが高温にあるほど有用」とも表現できる。

[用語3] 酸化還元対 : 物質から電子を奪うことを「酸化」、電子を与えることを「還元」という。電子をこれから受け入れる分子は「酸化体(Ox)」、電子をこれから他に与える分子は「還元体(Red)」という。これら両種分子の組(RedとOx)を酸化還元対と呼び、これらのペア間では、電子をキャッチボールするように、「Ox + 電子 ⇄ Red」の反応によって、繰り返し電子の受け渡しを行うことができる。

[用語4] イオン液体 : イオンのみからなる常温溶融塩。高い熱安定性と極めて小さい蒸気圧によって実用上不揮発・不燃とみなせるために、安全性の高い流体として、近年、バッテリーへの応用を含む、様々な応用が提案されている、比較的新しいジャンルの液体である。

参考文献

[1]
公益財団法人 東電記念財団outer 研究助成(基礎研究,平成27年4月~平成30年3月)
東電記念財団 財団ニュースouter No.51, 2018年8月発行.

論文情報

掲載誌 :
Physical Chemistry Chemical Physics(王立化学会、英国)
論文タイトル :
Integration of thermo-electrochemical conversion into forced convection cooling
著者 :
Yutaka Ikeda, Kazuki Fukui, and Yoichi Murakami
DOI :
10.1039/c9cp05028k outer(オープンアクセス)
(対応するプレプリント:arXiv:1908.08646 outer

参考:本成果のコンセプトに関する解説記事

村上 陽一,電気評論,vol. 103, pp. 66-69, 2018.(T2R2 東京工業大学リサーチリポジトリ)PDF

本解説記事は、なぜ従来からある固体熱電変換材料によってはこのコンセプトの実現が難しいかを、システムの観点から説明している。

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 機械系

准教授 村上陽一

E-mail : murakami.y.af@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3836

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大ヨット部 全日本470級ヨット選手権大会に出場決定

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東京工業大学ヨット部の男子部員2名が11月20日から24日まで江の島ヨットハーバー(神奈川県藤沢市)で開かれる第48回全日本470級ヨット選手権大会に出場します。全日本大会は学生だけでなく実業団チームに所属する社会人も出場し、国内トップを決める最高レベルのレースです。東工大ヨット部が他大学の強豪と競い、全日本大会の出場権を獲得したのは2005年以来、14年ぶりの快挙です。

出場を決めたのは470級のスキッパー、八鍬(やくわ)祐樹さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程2年)とクルー、渡辺博之さん(工学院 機械系 学士課程4年)のペアです。二人は5月18、19日に江の島ヨットハーバーで行われた関東470級選手権大会予選および6月29、30日に葉山港(神奈川県三浦郡葉山町)で行われた全日本470級選手権大会関東水域予選レースで優秀な成績をおさめました。レースの成績に応じて与えられるポイントにより、関東水域枠から全日本大会に進む28艇の中に選ばれました。

全日本470級選手権大会は、予選シリーズ5レース、決勝シリーズ最大6レースとメダル・レースが予定されています。

週末の合宿練習で全国へ

東工大ヨット部の活動は主に週末。活動拠点となる葉山には合宿所があり、土日は1泊2日で共同生活をしながら練習に励みます。様々な学年・性別のメンバーで構成されたグループにわかれ、海上練習後のミーティングや日々の体力づくりの自主練習の中で、上級生が下級生を指導し、選手としての成長を助けます。 週末の練習時間を確保するため、平日や合宿所での自由時間には集中して学修に取り組んでいます。

今回出場する八鍬・渡辺ペアも、チームワークとメリハリのある生活によって、限られた練習時間の中で全国レベルの大会に出場するほどの実力を付けることができました。

八鍬・渡辺ペアのコメント

八鍬祐樹さん

今回の大会に出場出来たのは、日頃から励んできた練習のおかげです。土日をフルに使って行うヨット部の活動はある意味ハードで、僕自身も1年の頃は土日を欠いた生活を辛いと感じたこともありました。しかし、だからこそ平日は勉強、週末はヨットと割り切ることで、どちらにも集中して取り組めるようになりました。

正直に言うと、本当に出場できるとは思ってもみなかったので、緊張すると同時にとても楽しみにも感じています。ヨット部の活動を支えてくださる方々のためにも、自分たちの実力が通じるかは分かりませんが、渡辺さんと出られる最後の大会を悔いの残らないものにできるよう頑張りたいと思います。

渡辺博之さん

14年ぶりの全日本に出場できることに対して緊張よりも期待が強く、楽しみで仕方がありません。4年になり、7月までは研究で忙しく部活と研究の二足のわらじを履くのはかなり難しく、特に6月後半からの1か月半は学士特定課題研究の追い込みで大変でした。そのため例年4年の部活の参加率は低下しますが、その中でも暇を見つけては練習に参加し、結果として6月末の全日本予選の突破につなげることができたのは誇らしく思います。そして7月まで勉学に励んだ分、夏季休業期間は部活に集中して練習を重ねることができました。学生最後のレースで良い結果を残せるよう全力で精進していきますので、応援よろしくお願いします。

渡辺博之さん
渡辺博之さん

八鍬祐樹さん
八鍬祐樹さん

レース中は2人の良いところを生かすよう役割を分担し、互いに信頼し合うことが重要

レース中は2人の良いところを生かすよう役割を分担し、互いに信頼し合うことが重要

東工大ヨット部とは

部活動としても歴史が古く、一般社団法人くらまえ潮会という会員数400名を誇る体育会ヨット部OB/OG会が、「一人前のセーラーを育てることは、すなわち一人前の社会人を育てること」をモットーに、現役部員の活動を全面的に支援しています。

ヨットレースと470級

ヨットレースは、ディンギーと呼ばれる2人乗りのエンジンのないヨットに乗り、風や潮といった気まぐれな流体の中をどう早く進むか、高度な戦略と戦術が要求される頭脳スポーツです。レースは参加艇が一斉にスタートし、海上に設置されたブイを決められた順序で、決められた回数を回りフィニッシュの順位を競います。

470(ヨンナナマル)級は艇体の全長が4.7 mであることに由来して命名されました。2人乗りで帆が3枚のレーシング・ディンギーを用いて戦うレースです。オリンピックのセーリング種目にも採用されました。乗員の適正体重は2人の合計で130 kg前後と小柄な日本人の体格に適していることから、国内で最も盛んに行われています。

舵と主帆(メインセール)を操るスキッパーと前帆(ジブセール、470級ではスピネーカーも使う)を操るクルーがペアを組みます。

河合(後)・津田(前)ペア

八鍬(後)・渡辺(前)ペア

東工大基金

ヨット部の活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

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田町キャンパス再開発により国際的な産学官連携拠点を形成 土地活用事業の事業予定者を募集開始

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要点

  • 産学官連携を強化する開発コンセプトで新産業へつながる機能を導入
  • 民間事業者の不動産開発に係るノウハウ・経験・資金等を最大限活用した大規模再開発
  • JR田町駅周辺の魅力的なまちづくりや東京都の都市再生、国際競争力の強化にも貢献

概要/背景

田町キャンパス

東京工業大学は、2018年3月に文部科学大臣により指定国立大学法人に指定されました。指定国立大学法人は「国内の競争環境の枠組みから出て、国際的な競争環境の中で、世界の有力大学と伍し、社会や経済の発展に貢献する取組の具体的成果を積極的に発信し、国立大学改革の推進役としての役割を果たすこと」が期待されており、教育研究基盤発展の自立化や財務基盤の強化を目指していくことが重要となっています。

田町キャンパスが位置する品川駅-田町駅周辺地域では、大規模開発による新たなまちづくりが進展しており、羽田空港の国際化、羽田空港アクセス線の計画、高輪ゲートウェイ駅の開業及びリニア中央新幹線の開通などにより、地域全体での立地性の向上も見込まれています。その中で田町キャンパスは再開発等促進区を定める地区計画、都市再生緊急整備地域及び国際戦略総合特別区域(東京都アジアヘッドクォーター特区)に位置づけられているなど、非常に高い開発ポテンシャルを有しています。

本学では、2015年に「3キャンパスの総合的利用方針」を定め、田町キャンパスを「敷地の高度利用を図り、教育研究スペースを拡充するとともに、田町駅前という立地を活かし、大学間・産学官・国際連携のためのスペースを確保することにより、社会連携・国際化等の拠点とする」ことを決定し、再開発の可能性について検討を進めてきました。

その後、高大連携の強化の点から現在田町キャンパスに位置している本学附属科学技術高校を大岡山キャンパスに移転することを前提として、対話型PPP(Public Private Partnership:公民連携)手法の一環としてRFI(Request For Information:情報提供依頼)を行うなど民間事業者の意見を積極的に取り入れながら具体的な事業スキームの検討を進め、このたび、事業予定者の募集を開始する運びとなりました。

事業スケジュール(予定)

今後、募集要項等に対する質問応答、現地見学会、対話等を経て、応募者から提案書を受け付け、2020年8月頃に事業予定者を選定することを予定しています。

事業スケジュール

事業の詳細

事業概要

所在地
東京都港区芝浦三丁目17-1他
事業敷地面積
事業敷地A:22,678.63 m2 事業敷地B:544.52 m2
貸付期間

2025年から75年間

※事業敷地Aに借地借家法第22条に規定する一般定期借地権を設定

貸付先用途

業務系施設(事務所)を主とし、生活利便施設(保育施設、商業施設等)及び産学官連携等に関する施設を付加した複合施設を想定

※公募における企画提案による。

大学専有面積

約22,000 m2(大学施設A+大学施設B)

※共用部を除く。

事業者選定方式
公募型企画競争方式

本事業敷地の位置図

本事業敷地の位置図

本事業敷地の位置図

本事業における施設構成イメージ

本事業における施設構成イメージ

本事業における施設構成イメージ

本事業のねらい

東京工業大学は、本事業の実施に向けて以下の開発コンセプト及び誘導目標を策定しました。これらの実現に向け、事業者と連携して田町キャンパスの活用を図っていきます。

開発コンセプト
科学技術とビジネスの融合により、才知溢れた人々と洗練された情報が集積し、新たな価値創造をリードしていく、国際的な産業・研究拠点を形成
誘導目標 1
国内外の大学・研究機関やグローバル企業を集積し、大規模な組織間連携を推進する国際ビジネス・産学官連携拠点を形成
1.
国際的なビジネス・産学官連携拠点の形成
2.
情報・モノづくり産業の集積を活かしたビジネス・交流拠点の形成
誘導目標 2
新たな知を発信し、未来社会を牽引する新産業を創出する、世界トップレベルの研究イノベーション国際拠点を形成
1.
新しい価値を生み出す未来社会のデザインと新産業の創出拠点を形成
2.
国際交流・情報発信拠点の形成と高度人材育成機能の導入
誘導目標 3
地域の利便性や環境に配慮した魅力あふれる都市空間を創出し、地域に開かれた新たな都市型環境・防災拠点を形成
1.
交通結節点となる広場空間及び快適な歩行者ネットワークの形成
2.
周辺地域の利便性を向上させる商業等機能の導入
3.
多面的な環境負荷低減と田町駅周辺の安全・安心機能の拡充
4.
周辺地域の継続的価値向上に資するエリアマネジメントの実施

産学官連携機能の導入

本事業の公募に当たっては、誘導目標2に示す新産業の創出拠点を形成するための機能の一つとして、最先端の研究教育を推進している本学と再開発事業者が連携し一体的に整備・運営していく産学官連携機能の導入を要件としています。

この産学官連携機能は、大学専有部と民間専有部を合わせて10,000 m2を超える規模の都心型の大型コミュニティ・ワーキングスペース、インキュベーション施設及び新技術等の情報発信スペース等を想定しており、国内外の大学、企業及び研究機関等との戦略的パートナーシップと共創型コミュニティを形成することで、田町から新たなオープンイノベーションを生み出していきます。

募集に関する詳細情報

募集要項等を掲載していますので、ウェブサイトをご覧下さい。

関連リンク

お問い合わせ先

施設運営部 田町キャンパス再開発準備室

E-mail : tcr.office@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2411

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

iPS細胞における放射線応答の遺伝子発現変化を解明 iPS細胞はゲノムDNAを守る仕組みが強く再生医療応用に期待

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要点

  • iPS細胞に放射線を照射したときの遺伝子発現変動を解明
  • iPS細胞におけるゲノムDNAを守る遺伝子の仕組みが明らかに
  • 再生医療におけるiPS細胞の品質管理に重要

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所の島田幹男助教、松本義久准教授、環境・社会理工学院 融合理工学系 原子核工学コースの塚田海馬大学院生、香川望大学院生(当時)の研究グループはヒト皮膚由来線維芽細胞[用語1]からiPS細胞[用語2]を作成し、iPS細胞の放射線応答に関する遺伝子発現[用語3]の変化を明らかにした。

ヒト初代継代線維芽細胞からiPS細胞を作成、神経幹細胞に分化誘導し、細胞に対して放射線照射後、次世代シークエンサーによるRNAシークエンス技術[用語4]により、それぞれの細胞の遺伝子発現変化を解析。その結果、iPS細胞では通常の体細胞と比較してDNA修復や細胞周期チェックポイントなどゲノムDNAを守る仕組みが強くなり、一方である程度DNAに損傷を持つ細胞は積極的に細胞死によって排除される傾向があることを見出した。

ヒトの体細胞からiPS細胞へと変化させる技術はリプログラミングと呼ばれ、ヒトの臓器移植や疾患の治療などの再生医療分野で期待されている。一方で細胞内のゲノムDNA[用語5]は細胞内外からの様々な刺激により常に損傷を受けているため、これらを修復する分子機構が存在するが、iPS細胞におけるDNA修復の分子メカニズムは不明な点が多かった。

研究成果はOxford Journal(オックスフォードジャーナル)出版社による日本放射線影響学会の学会誌「Journal of Radiation Research」(オンライン版)で10月28日に公開された。

研究の背景

ヒトをはじめとした生物の細胞のゲノムDNAは常時、紫外線や放射線といった細胞内外からの刺激により損傷を受けている。DNAの損傷は突然変異や細胞のがん化の原因となるために直ちに修復されなければならない。このため細胞にはDNA修復機構が備わっており、ゲノムDNAを守っている。

一方でiPS細胞は様々な細胞に変化する能力を持ち、臓器再生や疾患治療などへの応用が期待されるが、同時にiPS細胞自身ががん化する懸念が残っており、がん化するメカニズムの解明が急務となっている。一般的に細胞のがん化の原因はDNAに生じた「傷」が原因であり、通常はDNA修復機構により修復されるが、iPS細胞におけるDNA修復機構の制御機構は不明だった。そこでiPS細胞におけるDNA修復機構などDNAを守る分子の仕組み解明を試みた。

図1. 今回の研究で用いた細胞の明視野顕微鏡像

図1. 今回の研究で用いた細胞の明視野顕微鏡像

左がヒト皮膚由来の線維芽細胞、中央がマウスの胎児線維芽細胞上で培養している(オンフィーダー培養)iPS細胞、右がiPS細胞のみで培養している様子。

研究成果

研究グループはヒト線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、ゲノム安定性に関与する遺伝子グループの発現解析を実施。またiPS細胞から神経幹細胞を樹立することにより皮膚線維芽細胞→iPS細胞→神経幹細胞といった細胞の分化による遺伝子発現の変化も同時に解析した。

まず、細胞に放射線(ガンマ線)を5 Gy(グレイ)照射、1時間後に細胞からRNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いて遺伝子発現を比較した。その結果、線維芽細胞からiPS細胞へと初期化[用語6]することにより、DNA修復、細胞周期チェックポイントといった遺伝子を正常に保つための分子の発現が高くなっていることがわかった。

一方、アポトーシスという細胞死に関する遺伝子発現も高くなっていたことから、ある程度のDNA損傷を持つ細胞は積極的に細胞死によって排除されることもわかった。特に興味深いのはCDKN1A[用語7]という遺伝子はp21というタンパク質を産生するが、iPS細胞ではこの発現量が大幅に低下していた。 p21はDNAに傷が生じた際に細胞分裂の周期を一度停止して、DNA修復にかかる時間を維持する役割を持つが、p21が少ないということは細胞周期を停止しないということを示している。すなわち、細胞分裂の周期を停止しなくても修復できる程度の損傷の場合はすぐに修復し、ある一定の閾値を超える損傷の場合はアポトーシスにより細胞死を起こすことが考えられる。

また、放射線の照射の有無によって遺伝子発現が増加する場合も確かめられたがこれらの傾向はiPS細胞特異的というよりは通常の細胞とよく似た傾向であった。

図2. iPS細胞におけるゲノム安定性関連遺伝子の発現変化

図2. iPS細胞におけるゲノム安定性関連遺伝子の発現変化

ヒト皮膚線維芽細胞(fibroblasts)、iPS細胞、神経幹/前駆細胞(NPCs)に放射線を照射(IR ガンマ線5 Gy照射1時間後)および非照射(NT)の細胞からRNAを抽出し次世代シークエンサーで解析した結果。縦軸は FPKMで遺伝子発現量の比を表す。iPS細胞ではDNA修復、細胞周期チェックポイント、アポトーシスに関係する遺伝子全てで発現量が増加していることがわかる。一方で、神経幹細胞に分化させると、発現量が増加する場合と、減少する場合で分かれる。これはそれぞれ神経系で必要な遺伝子かどうかを示しており、神経発生との関連が考えられる。

iPS細胞は多能性幹細胞という様々な臓器に変化することができる細胞の一種であり、遺伝子の設計図であるゲノムDNAがより安定に維持されていなければならない。今回の研究成果によりiPS細胞が遺伝子発現制御を通じて巧みにゲノムDNAの安定性を維持し、それが困難だと判断した場合は即座に細胞死により排除するメカニズムが明らかになった。

図3. 今回明らかになった研究結果

図3. 今回明らかになった研究結果

iPS細胞は初期化した後、ゲノム安定性に関与する遺伝子発現を増加させることにより、ゲノムの安定性を維持することが明らかになった。

今後の展開

今回研究グループはiPS細胞における網羅的な遺伝子発現解析により放射線や紫外線から体を守る遺伝子調節の仕組みを明らかにした。今後は、分子生物学的なアプローチによってそれぞれの遺伝子の機能を明らかにし、再生医療への貢献や放射線防護の発展に貢献することが期待される。

用語説明

[用語1] 皮膚線維芽細胞 : 皮膚細胞から採取した線維芽細胞。結合組織を構成する代表的な細胞で、皮膚が損傷した際などに細胞分裂し、治癒に貢献する。

[用語2] iPS細胞(Induced Pluripotent Stem Cells) : 体細胞から樹立可能な多能性幹細胞。様々な組織の細胞に分化することが可能である。

[用語3] 遺伝子発現 : 細胞の遺伝子はゲノムDNAに保存されているが、実際にはRNAを経てタンパク質に変換されないと機能しない。細胞は必要に応じて遺伝子をタンパク質に変換して機能しており、それを遺伝子発現という。

[用語4] RNAシークエンス技術 : 次世代シークエンサーを用いて細胞内に発現している遺伝子量を網羅的に解析することができる技術。

[用語5] ゲノムDNA : 細胞内で遺伝子情報がコードされているDNA。

[用語6] 初期化 : 体細胞からiPS細胞を樹立する際に、遺伝子発現やクロマチン制御の状態が個体発生の初期状態の戻るために初期化という。

[用語7] CDKN1A : p21というタンパク質をコードしている遺伝子。p21は細胞周期停止を促進するタンパク質で、細胞のがん化や老化などと深い関わりを持つ。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Radiation Research
論文タイトル :
Reprogramming and differentiation-dependent transcriptional alteration of DNA damage response and apoptosis genes in human induced pluripotent stem cells
著者 :
Mikio Shimada, Kaima Tsukada, Nozomi Kagawa, Yoshihisa Matsumoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所

助教 島田幹男

E-mail : mshimada@lane.iir.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3703 / Fax : 03-5734-3703

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

フッ素とネオンの同位元素の存在限界を初めて決定 原子核の地図の境界線を20年ぶりに更新

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理化学研究所(理研)仁科加速器科学研究センター 実験装置運転・維持管理室の稲辺尚人先任技師、福田直樹技師、久保敏幸協力研究員、東京工業大学 理学院 物理学系の中村隆司教授らの国際共同研究グループは、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)[用語1]」を用いて、フッ素(陽子数9)とネオン(陽子数10)の「中性子ドリップライン[用語2](各元素において中性子数が最も多い同位元素[用語3]の存在限界)」が、それぞれフッ素-31(31F:中性子数22、質量数31)とネオン-34(34Ne:中性子数24、質量数34)であることを初めて同定しました。

本研究成果は、中性子数が過剰な極限付近にある放射性同位元素(RI)[用語4]の原子核構造の解明に貢献するとともに、宇宙における元素合成過程などを理解する上で重要な原子核の質量モデルの有効性を検証する試金石になると期待できます。

今回、国際共同研究グループは、大強度重イオンビームや高効率のRIビーム分離生成装置BigRIPS[用語5]など、RIBFにおける卓越した実験条件により、酸素(陽子数8)の中性子ドリップラインが酸素-24(24O:中性子数16、質量数24)と同定されて以来20年ぶりに、中性子ドリップラインの位置をネオン(陽子数10)まで拡張し、原子核の地図の境界線を更新することに成功しました。

本研究は、米国の科学雑誌『Physical Review Letters』のEditors' SuggestionとViewpointouterに選ばれ、オンライン版(11月18日付:日本時間11月19日)に掲載されました。

背景

元素の同位体(原子核)に、中性子は何個まで付け加えられるでしょうか。例えば酸素(O:陽子数8)の場合、酸素-16(16O:中性子数8、質量数16)、酸素-17(17O:中性子数9、質量数17)、酸素-18(18O:中性子数10、質量数18)の3種が天然に存在する同位体(安定核)です。これに中性子を付け加えた同位体である酸素-19(19O:中性子数11、質量数19)、酸素-20(20O:中性子数12、質量数20)などは、ベータ崩壊[用語6]によって時間をかけて中性子から陽子へ変換されていくものの、酸素-24(24O:中性子数16、質量数24)までは陽子と中性子は結合し、原子核として存在できます。

しかし、さらに中性子を加えて酸素-25(25O:中性子数17、質量数25)を作ろうとしても結合せず、直ちに中性子を放出して崩壊してしまいます。こうした原子核としての存在限界を、原子核の地図(核図表[用語7])上で「中性子ドリップライン」と呼んでいて、核図表上では、右側(中性子過剰側)の境界線にあたります。

したがって、最初の問いは、「限界となるライン(線)はどこに引かれるのか」に置きかえてもいいでしょう。これは、原子核物理学において重要で基本的な問題ですが、いまだに解決されていません。中性子ドリップラインの近傍にある極限原子核は、中性子ハロー[用語8]のような特異な構造を持ち、原子核の中で陽子と中性子を結び付けている力、すなわち湯川秀樹博士が発見した「核力」は、天然に存在する安定な原子核とは異なる性質を持つ原子核構造を出現させると考えられています。

中性子数が過剰な原子核(中性子過剰核)の生成は、今日の加速器技術や生成技術を用いても容易ではありません。実際、中性子ドリップラインは1999年に陽子数8の酸素で、酸素-24(24O:中性子数16、質量数24)と決定されて以来20年間も、酸素より陽子数が多い元素については定まっていませんでした(図1)。これは、重い元素になればなるほど、中性子ドリップライン近傍の同位元素の中性子数が格段に多くなるため、天然に存在する安定同位元素の重イオンビームを使った反応では生成率が減少し、生成が極めて難しくなるからです。この困難を乗り越え中性子ドリップラインに到達するには、高い生成効率をもたらす優れた実験条件の実現が不可欠でした。

今回、国際共同研究グループは、従来の施設・装置に比べて卓越した生成効率を持つ、RIビームファクトリー(RIBF)が供給する大強度重イオンビームと次世代型の大口径超伝導RIビーム分離生成装置BigRIPSを用いて、20年ぶりに酸素より重い元素であるフッ素(F:陽子数9)とネオン(Ne:陽子数10)の中性子ドリップラインの決定に挑みました。

本研究の対象領域と成果を示す原子核の地図(核図表)

図1. 本研究の対象領域と成果を示す原子核の地図(核図表)


本研究においてフッ素(F)とネオン(Ne)元素の中性子ドリップライン探索を行った領域を示す。升目が縦方向上側に行くと陽子数が増加し、横方向右側に行くほど中性子数が増加する。本研究で決定したドリップライン(青)、並びに約20年前もしくはそれ以前に決定された酸素とそれより軽い元素のドリップライン(橙)が示されている。緑の線は、Aを質量数、Zを陽子数としたとき、A = 3Z + 4の式を満たす同位元素を結んだ直線を示している。

研究手法と成果

本研究では、RIBFの加速器から供給される、光速の約70%まで加速された大強度カルシウム-48(48Ca、陽子数20、質量数48)ビームを厚さ20 mmのベリリウム(Be)標的に照射し、入射核破砕反応[用語9]によって中性子過剰放射性同位元素ビーム(RIビーム)を生成しました。さらに、大口径超伝導RIビーム分離生成装置BigRIPSを用い、生成されたRIビームを収集・分離し、観測される放射性同位元素の粒子識別(同定)を行いました(図2、3)。本研究は、大強度48Caビームの使用とBigRIPSの持つ高いRIビーム収集能力により、中性子ドリップライン近傍の同位元素に対して高い生成効率を実現しました。

RIビームファクトリー(RIBF)の配置

図2. RIビームファクトリー(RIBF)の配置


RIBFは、重イオンビームを供給する加速器系(サイクロトロンのRRC、fRC、IRC、SRCなど)、超伝導RIビーム分離生成装置のBigRIPSからなるRIビーム生成系、そして生成系で生成したRIビームを用いて多角的な研究・利用を行う基幹実験装置系から構成される。

超伝導RI ビーム分離生成装置(BigRIPS)

図3. 超伝導RI ビーム分離生成装置(BigRIPS)


BigRIPS は常伝導偏向電磁石6台と大口径の超伝導三連四重極電磁石14台から構成される二段階型のRIビーム生成装置である。一段目の第1ステージでは、生成標的で生成されたRIビームを収集・分離し、二段目の第2ステージでは、さらなる分離とRIビームの高分解能粒子識別(同定)を行うことができる。この二段階ステージの構成と高効率のRIビーム生成を強く意識した大口径・高磁場仕様が大きな特長である。

粒子識別は、RIビームの飛行時間(速度)、磁気剛性[用語10]、物質通過中のエネルギー減衰を測定し、放射性同位元素の陽子数(Z)および質量数(A)と陽子数の比(A/Z)を事象ごとに導出することによって行いました。図4はその粒子識別図で、観測された事象を二次元プロットしたものです。

ドリップラインの探索は、中性子ドリップライン付近の同位元素が観測されるか否かを調べることにより行いました。その結果、フッ素(F)については、フッ素-31(31F:中性子22、質量数31)の事象が多く観測されましたが、それより中性子数の多いフッ素-32(32F:中性子23、質量数32)とフッ素-33(33F:中性子24、質量数33)は全く観測されませんでした。ネオン(Ne)については、ネオン-34(34Ne:中性子24、質量数34)の事象は観測されましたが、それより中性子数の多いネオン-35(35Ne:中性子25、質量数35)とネオン-36(36Ne:中性子26、質量数36)は観測されないことが分かりました(図4)。

フッ素とネオン元素の中性子ドリップライン探索実験時の粒子識別図

図4.フッ素とネオン元素の中性子ドリップライン探索実験時の粒子識別図


フッ素-31(31F)とネオン-34(34Ne)の事象が明瞭に観測されたにもかかわらず、フッ素-32、33(32F, 33F)とネオン-35、36(35Ne, 36Ne)の事象(図中赤点線に現れるはずの事象)は全く観測されなかった。

さらに、本実験では、放射性同位元素の生成量について系統的測定も行い、FとNeの同位元素の生成量の質量数依存性を導出しました。得られた質量数依存性のカーブを外挿し、観測されなかった32Fと33F、35Neと36Neが存在すると仮定した場合に期待されるそれぞれの生成量を求めました。この生成量の期待値は約10~100個と評価され、それをもとに統計的検定[用語11]を行った結果、100%に近い、高い信頼度でこれらの同位元素が存在しないと結論づけることができました。

以上により、FとNe元素の中性子ドリップラインをそれぞれ31F(中性子数22、質量数31)、34Ne(中性子数24、質量数34)と決定しました(図1)。

今後の期待

今回の新たな中性子ドリップラインの位置決定は、まず、この中性子過剰極限に特徴的な原子核構造や核力の解明に寄与すると期待できます。

宇宙の爆発的な現象によって引き起こされるr過程[用語12]と呼ばれる元素合成過程には、中性子過剰核が介在しますが、その解明にはそれらの質量予想が重要です。今回の成果は、こうした中性子過剰核の質量モデルの有効性を検証する上で重要な試金石になると期待できます。さらに、正しい質量モデルは、中性子星[用語13]の構造の解明に必要な中性子過剰核の状態方程式[用語14]の決定にも重要な役割を果たします。

次の挑戦としては、さらに重い陽子数11~13の元素(ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム)の中性子ドリップライン探索を行う予定です。2020年代半ばまでに、欧米にも大型のRIビーム施設が誕生します。理研のRIBFも増強を目指しています。世界中で中性子過剰極限に向けた研究が進むことで、核図表の境界線の確定が進みます。こうして、極限状態にある原子核の謎、宇宙の物質の起源などがより明らかにされるものと考えられます。

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金新学術領域研究「量子クラスターで読み解く物質の階層構造(研究代表者:中村隆司)」、米国国立科学財団などによって一部支援されています。

用語説明

[用語1] RIビームファクトリー(RIBF) : 水素からウランまでの全元素の放射性同位元素(RI)を世界最大強度のRIビームとして発生させ、それを多角的に利用することにより、基礎から応用にわたるまで幅広い研究と産業技術の発展に貢献することを目的とする次世代加速器施設。施設はRIビームを生成するために必要な重イオンビームを供給するfRC、IRC、SRCなどからなる「加速器系」、RIビーム分離生成装置のBigRIPSからなる「RIビーム生成系」、生成系で生成したRIビームを用いて多角的な研究・利用を行う「基幹実験装置系」で構成される。RIBFは、以前の施設に比べ卓越した性能を持ち、これまで生成不可能だったRIビームを多種生成できるようになっている。RIビームは原子核の構成メカニズムの解明、元素の起源解明に有用であるとともに、RI利用による産業発展に寄与することも期待され、ドイツ、アメリカなど世界の主だった重イオン加速器施設でも同様な計画が進行中で、国際競争も激しい状況にある。

[用語2] 中性子ドリップライン : 同じ元素(同一の陽子数)に中性子数を増やしていくと、束縛エネルギーが減少していき、やがて非束縛状態になり原子核として存在できなくなる。この存在限界を中性子ドリップラインと呼び、同じ元素において、中性子数の最も多い放射性同位元素(原子核)に対応する。例えば、酸素元素の場合、酸素-24(陽子数:8、中性子数:16)が中性子ドリップラインである。さらに中性子数を増やすと束縛エネルギーがゼロを切ってしまい、中性子数が16より多い酸素の同位元素は存在しない。

[用語3] 同位元素、同位体 : 同じ元素には、異なる中性子数を持つものが複数存在する。これらを同位元素や同位体と呼ぶ。それらのうち、自然界に存在する安定なものを安定同位元素、時間とともに放射線を出し崩壊する不安定なものを放射性同位元素と呼ぶ。

[用語4] 放射性同位元素(RI)、中性子過剰放射性同位元素 : 物質を構成する原子核には、構造が不安定なため時間とともに放射線を放出しながら崩壊していくものがある。このような原子核を放射性同位元素と呼ぶ。放射性同位体、不安定同位体、不安定原子核、不安定核、ラジオアイソトープは同義語である。同じ元素において、中性子の数が異なる放射性同位元素が多数存在する。このうち、中性子数が陽子数より多いものを中性子過剰放射性同位元素と呼ぶ。RIは、Radioactive Isotope、Rare Isotope、Radioisotopeの略。

[用語5] BigRIPS : RIBFで使用される超伝導RIビーム生成分離装置。重イオンビームを生成標的に照射することによって生成されるさまざまな放射性同位元素(RI)を収集・分離・識別し、放射性同位元素ビーム(RIビーム)として供給する。大口径・高磁場の超伝導電磁石を使用し、第1、第2の二段階のステージから構成される次世代型RIビーム生成装置である。高効率のRIビーム生成、高分解能の粒子識別など卓越した性能を持ち、これまで生成不可能であった多数のRIビームの生成を可能にしている。

[用語6] ベータ崩壊 : 弱い相互作用によって、原子核内の中性子が陽子と電子と反電子ニュートリノに(あるいは陽子が中性子と陽電子と電子ニュートリノに)崩壊し、原子核がゆっくりとより安定なものに変換していく過程をいう。

[用語7] 核図表 : 縦軸に陽子数、横軸に中性子数をとり、原子核の核種(同位元素の種類)を示した配置図。原子核の地図。

フッ素とネオン元素の中性子ドリップライン探索実験時の粒子識別図

[用語8] 中性子ハロー : 通常の安定な原子核では、陽子と中性子が均一に混ざり合って分布し、陽子の占める体積と中性子の占める体積はほぼ等しいと考えられている。しかし、ドリップライン近傍の中性子過剰不安定核には、通常のこのコアの部分と遠方まで広がる過剰な中性子の部分とに分かれた分布構造を持つものが存在する。この過剰な中性子が、異常に大きな半径を持ってコアの周りに薄く広がっている状態を中性子ハローと呼ぶ。

[用語9] 入射核破砕反応 : 高速に加速された入射原子核(重イオンビーム)が標的の原子核に衝突したとき、複数の破砕片が速度を保って前方(ゼロ度方向)に放出される原子核反応をいう。この破砕片には、陽子過剰側から中性子過剰側まで広範囲な領域にわたるさまざまな放射性同位元素が含まれる。

[用語10] 磁気剛性 : 電荷を持った粒子が磁場中を運動するときの曲がりにくさを表す量。粒子の運動量(質量数と速度の積)に比例し、電荷に反比例する。磁気剛性の大きな粒子は大きな軌道半径、小さなものは小さな軌道半径で曲がる。

[用語11] 統計的検定 : 同位元素が存在したとしても事象が観測されない確率を、事象の期待値とポアッソン確率分布から求める検定。この確率が小さければ小さいほど、非存在の信頼度が高くなる。

[用語12] r過程 : 中性子星合体など宇宙の爆発的な現象のときに起こると考えられている元素合成過程のモデル。鉄よりも重い元素(重元素)のほぼ半分は、r過程(rapid process)で生成されると考えられている。

[用語13] 中性子星 : 原子核の構成粒子である中性子がぎっしり詰まった超高密度の天体。大質量の恒星が一生を終える際、超新星爆発によってその中心部が圧縮されることにより形成される。

[用語14] 原子核の状態方程式 : 原子核の状態量であるエネルギー(温度)、密度、対称度の間の関係式をいう。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Location of the Neutron Dripline at Fluorine and Neon
著者 :
D.S. Ahn, N. Fukuda, H. Geissel, N. Inabe, N. Iwasa, T. Kubo, K. Kusaka, D.J. Morrissey, D. Murai, T. Nakamura, M. Ohtake, H. Otsu, H. Sato, B.M. Sherrill, Y. Shimizu, H. Suzuki, H. Takeda, O.B. Tarasov, H. Ueno, Y. Yanagisawa, and K. Yoshida
DOI :

国際共同研究グループ

理化学研究所 仁科加速器科学研究センター

  • 実験装置運転・維持管理室 RIビーム分離生成装置チーム

    先任技師:稲辺尚人(いなべ なおひと)

    技師:福田直樹(ふくだ なおき)

    協力研究員:安得順(アン デュック スン)

    協力研究員:鈴木宏 (すずき ひろし)

    協力研究員:清水陽平(しみず ようへい)

    技師:竹田浩之(たけだ ひろゆき)

  • 実験装置運転・維持管理室

    協力研究員:久保敏幸(くぼ としゆき)

東京工業大学 理学院 物理学系

教授:中村隆司(なかむら たかし)

本研究には、理化学研究所、東京工業大学、東北大学、立教大学、ドイツGSI研究所、米国ミシガン州立大学より、総勢21人の研究者から構成される国際研究チームが参加しました。

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お問い合わせ先

理化学研究所 仁科加速器科学研究センター

実験装置運転・維持管理室 RIビーム分離生成装置チーム

先任技師 稲辺尚人、技師 福田直樹

実験装置運転・維持管理室

協力研究員 久保敏幸

E-mail : kubo@ribf.riken.jp
Tel : 048-462-7946 / Fax : 048-462-4464

東京工業大学 理学院 物理学系

教授 中村隆司

E-mail : nakamura@phys.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2652 / Fax : 03-5734-2751

取材申し込み先

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

現場利用のための「理研小型中性子源システム RANS-II」 容易に移設可能な加速器中性子源の開発

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理化学研究所(理研)光量子工学研究センター 中性子ビーム技術開発チームの小林知洋専任研究員、池田翔太研究員、大竹淑恵チームリーダー、池田裕二郎特別顧問と東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所の林崎規託教授の共同研究チームは、容易に移設できるコンパクトサイズの「理研小型中性子源システムRANS-II(ランズ・ツー)」を開発し、計測実験に十分な中性子線の発生に成功しました。

本研究成果は、コンクリートインフラ構造物内部の現場における劣化診断や、一般企業の研究所や工場に必要な期間だけ設置して原料や製品の解析に使用するなど、機動的な中性子利用が期待できます。

今回、共同研究チームは、2013年に発表した「理研小型中性子源システムRANS(ランズ)[用語1]」をさらに小型軽量化したRANS-IIを開発しました。RANS-IIではRANSよりも陽子線の加速エネルギーを小さくし、標的をベリリウムからリチウムにすることで、加速器重量を1/2に、標的を囲む遮蔽体重量を1/7程度に、装置の長さを1/3に抑制できました。2019年7月の施設検査合格以降、加速器の調整を重ね、各種計測実験が可能な状態になっています。

本研究は、台湾で開催される『第3回アジア・オセアニア中性子散乱に関する会議AOCNS2019』(11月18日)において発表されます。

RANS-II (手前:中性子ビーム出射口を備えた遮蔽体、奥:RFQ加速器)

図. RANS-II (手前:中性子ビーム出射口を備えた遮蔽体、奥:RFQ加速器)

※ 研究支援

本研究の一部は、文部科学省「光・量子融合連携研究開発プログラム」、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術(藤野陽三プログラムディレクター)」(管理法人:科学技術振興機構)による支援を受けて行われました。

背景

理研では現場で利用可能な中性子源の開発に取り組んでおり、2013年に「理研小型中性子源システムRANS(ランズ)」を開発しました[参考文献12]。RANSは、線形加速器で加速させた7 MeV陽子線(1 MeVは100万電子ボルト)をベリリウム(Be)標的に照射し、9Be(p, n) 9B反応[用語2]と呼ばれる核反応により、最大5 MeVのエネルギーを持つ中性子線を発生させることができます。

これまでRANSは、国内で数少ない中性子照射施設として実験の機会を提供してきました。また、陽子線の短パルス化などに取り組み、中性子イメージング[用語3]中性子回折[用語4]を利用した産業応用、高速中性子による大型構造物非破壊観察実験[参考文献34]中性子誘導即発ガンマ線分析[用語5]を利用したコンクリート中の塩分濃度解析実験[参考文献5]などを実施してきました。

一方で、共同研究チームは、2016年度より中性子源のさらなる小型軽量化を目指し、「理研小型中性子源システムRANS-II(ランズ・ツー)」の開発を始めました。

研究手法と成果

小型軽量化された中性子源システムの構築には、加速器や標的を囲む遮蔽体の重量をRANSよりも軽くする必要がありました。そのためにRANS-IIでは、陽子線エネルギーを7 MeV から2.49 MeVに絞り、標的をリチウム(Li)にしました。RANSよりも低い陽子線エネルギーでは、Li標的の方がBe標的よりも中性子発生量が多くなるからです。また、RANSでは加速器2台を連結していましたが、RANS-IIでは高周波四重極線形加速器(RFQ加速器)[用語6]だけにすることで[参考文献6]、加速器の長さと重量を1/2(5 mから2.5 m、5トンから2.5トン)に抑制できました。さらに、Li標的にしたことで中性子線の発生が前方へ指向することから、遮蔽体重量を1/7程度(20トンから3トン)に大きく減量できました。図1にRANS-IIシステムの全体模式図を、表1にRANSおよびRANS-IIのパラメータ比較を示します。

理研小型中性子源システムRANS-IIの全体模式図

図1. 理研小型中性子源システムRANS-IIの全体模式図


RANS-IIは、電源・制御装置、イオン源、RFQ加速器、高周波アンプ、ビーム輸送系、ターゲット遮蔽からなる。ターゲット遮蔽の中には、中性子発生リチウム標的が入っている。まず、イオン源では水素ガス(H2)にマイクロ波を照射し、水素イオン(H+)に分解する。水素イオンはRFQ加速器に導かれ、2.49 MeVまで加速される。ビーム輸送系では、広がろうとするビームを電磁石で収束して標的に到達するよう位置調整を行う。リチウム標的に到達した水素イオン(陽子)は、核反応により中性子を発生させる。中性子線出射口の前方に、測定物と検出器が置かれる。

表1. RANS および RANS-IIのパラメータ比較


RANS-IIでは、陽子線のエネルギーを2.49 MeVに絞り、標的をリチウム(Li)にしたことで、RANSと比べて加速器重量は1/2、遮蔽体重量は1/7程度にできた。装置全体の長さも1/3(5 m)に短くなった。

RANS および RANS-IIのパラメータ比較

十分な厚さを持つ標的を想定した場合、RANSの条件である7 MeV陽子線による9Be(p, n)9B反応の中性子収率は、陽子1マイクロクーロン(μC、1μCは100万分の1クーロン)あたり約100億個となります。一方、RANS-IIで使用する2.49 MeV陽子線による7Li(p, n)7Be反応[用語7]の中性子収率は、陽子1μCあたり約10億個となり、RANSの1/10しかありません。しかし、RANSでは検出器位置が標的から2~5 m程度離れてしまうのに対し、RANS-IIでは標的から1 m以内と近くなるので、単位面積あたりの中性子数は多くなります。またRANS-IIでは、中性子発生が等方的ではなく前方に偏っているため無駄になる中性子が少なくなります。これらのことが有利に働き、十分な中性子量が検出器に到達すると考えられます。

図2は、2.49 MeV陽子線が80マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)厚のLi標的に衝突した際に放出される中性子線の前方1m位置におけるエネルギー分布を、PHITSコード[用語8](Ver2.82, ENDF/B-VII.1の断面積を使用)により計算した結果です。モデレータ[用語9]なしの場合、中性子線の最大エネルギーは約0.7 MeV、平均エネルギーは約0.6 MeVとなります。RANS-IIで予定されている最大陽子電流(100μA)を考慮すると、前方1m位置における全中性子束(単位時間、単位面積あたりの中性子数)は1.7×105 cm-2s-1となり、高速中性子イメージングに関しては十分に実行可能な量であると判断されます。

RANS-IIのLi標的前方1 mにおける中性子エネルギースペクトル(計算値)

図2. RANS-IIのLi標的前方1 mにおける中性子エネルギースペクトル(計算値)


中性子の最大エネルギーは約0.7 MeV、平均エネルギーは約0.6 MeVと計算された。

また、RANSでは米国AccSys社より購入した加速器(型式名PL-7)を使用していますが、RANS-IIでは国産RFQ加速器を使用して自主開発しました。頻繁に移設することを考慮し、剛性の高い鉄を基材としています。加速空洞内は電気伝導性の高い銅をメッキした後、再度精密加工を施しています(加工製造:タイム株式会社)。組立中のRFQ加速器を図3に示します。本加速器は本体構造部品が3点のみと少なく、さまざま部品の調節が非常に容易かつ狂いにくいという特長を持ちます。具体的には、通常RFQ加速器はまず真空容器を製作し、その中に加速電極を設置していきます。一方、本加速器は三枚の鉄板を重ね合わせ、内部を機械加工でくり抜いて真空容器を形成していますが、このくり抜く過程で、加速電極となる部分を残してあります。つまり、真空容器と加速電極が三枚の鉄板からの削り出しで形成されています。部品点数が少ない、かつ剛性が高いことが本加速器の特長です。なお、加速器に入力する高周波の増幅には、200 kWの半導体アンプ(アールアンドケー株式会社製)を採用しました。本アンプは48個の小型アンプユニットが並列接続されており、予備ユニットを準備することにより現場での故障対応を迅速に行うことができます。

RANS-IIのRFQ加速器内部(加速電極の一部)

図3. RANS-IIのRFQ加速器内部(加速電極の一部)


機械加工を行った鉄材に銅メッキを施し、再度精密加工を行っている。画面中央奥へと向かう波状の電極は加速電極の一部で、上下左右の四列(右下図)で加速器を構成する。三枚の部材を重ね合わせることにより、右下のような上下左右の加速電極を形成する。これらに高周波を印加すると、イオンを加速する電場を形成するように設計されている。

RANS-IIは現在、理研和光事業所の中性子工学施設内に設けた専用スペースに設置され調整を行っています。Li標的に到達している陽子電流は約30μA(時間平均)で、中性子発生量は計算上毎秒2.7×1010個(全方向積分値、2019年10月末現在)であり、各種計測実験が可能な状態になっています。

今後の期待

本研究により、全長5 mの小型中性子源システムRANS-IIによる中性子線の発生に成功しました。現在、RANS-IIから発生される中性子線の特性計測(エネルギースペクトル計測)を実施しています。

RANS-IIの重要な役割は二つあります。一つは、インフラ非破壊計測を目指した可搬型小型中性子源のプロトタイプとしての役割です。この開発により、さらなる小型軽量化が可能となり、最終的には橋梁などの内部劣化を可視化する屋外非破壊計測システムの実現につながります。もう一つは、企業などの計測現場で手軽に利用可能なことを最終目標とした、普及型中性子源システムを実現する据置型モデルという役割です。

今後は中性子散乱計測を含めた総合システムへと開発ステップを進め、実用化へ向けたさらなる開発へと発展させる予定です。

用語説明

[用語1] 理研小型中性子源システムRANS(ランズ) : 理研が開発し、現在高度化を行っている普及型の小型中性子源システムで、中性子ビームが2013年1月に取り出された。J-PARCに代表される大型中性子源より手軽な装置として、中性子線利用に適した金属材料や軽元素を扱うものづくり現場への普及を目指している。RANSは、RIKEN Accelerator-driven compact Neutron Sourceの略。

[用語2] 9Be(p, n) 9B反応 : ベリリウム(9Be)にある一定以上のエネルギーを持つ陽子(proton)線を照射すると、中性子(neutron)線が放出される核反応。その結果、ホウ素(9B)が生成される。

[用語3] 中性子イメージング : 中性子線を測定対象に照射し、透過または反射した中性子線を検出器で二次元的に測定することにより非破壊で内部の情報を得る方法。

[用語4] 中性子回折 : 中性子線の持つ波の性質を利用して、結晶の格子面間隔のような整列した原子で回折を起こし、その間隔を測定する手法。回折の強度から結晶の向きや量を測ることができる。回折法では測定したい間隔(鋼材では0.05~0.3ナノメートル程度)に近い波長を持つ放射線を使用し、中性子線の他にもX線や電子線を用いた回折法が有名。中性子線は鋼材に対して比較的透過性が高く、数ミリから数センチメートル程度の内部まで測定できる。

[用語5] 中性子誘導即発ガンマ線分析 : 中性子線を照射する試料中の特定の原子核と中性子が反応すると、複数の特有のエネルギーを持ったガンマ線(即発ガンマ線)が、特有の量(ガンマ線強度)で放出される。この即発ガンマ線を検出し、そのエネルギーおよび強度から、試料中に存在する元素の同定と定量を行う分析手法。基本的に非破壊で試料の再利用が可能なため、考古学上の貴重なサンプルや、隕石などの微量分析などに使われている。

[用語6] 高周波四重極線形加速器(RFQ加速器) : 四つの電極に対して、向き合う電極に同電位、隣り合う電極に逆電位がかかるように高周波電圧をかけ、電極の形状に変調をかけることにより、ビームのバンチ化、収束と加速を同時に行うことができる加速器。RFQはRadio Frequency Quadrupoleの略。

[用語7] 7Li(p, n)7Be : リチウム(7Li)にある一定以上のエネルギーを持つ陽子(proton)線を照射すると、中性子(neutron)線が放出される核反応。その結果、ベリリウム(7Be)が生成される。

[用語8] PHITSコード : さまざまな放射線挙動を、核反応モデルや核データなどを用いて模擬するモンテカルロ計算コード。日本原子力研究開発機構が中心となって開発された。PHITSはParticle and Heavy Ion Transport code Systemの略。

[用語9] モデレータ : 水素を主とした軽元素を含む物質中性子線を衝突させることにより、中性子線のエネルギーを低下(減速)させることを目的としたデバイス。水やポリエチレンが代表的な物質である。減速した中性子線は物質透過力が減少するものの、検出効率は増大する。

参考文献

[1] Y. Otake Encyclopedia for Analytical Chemistry, R. A. Meyers, eds (John Wiley, 2018)

[2] 大竹淑恵『パリティ』Vol.34 No.05 2019-5 p.42-52

[3] 2013年9月9日プレスリリース「小型中性子源システムで鋼材内部腐食を非破壊で可視化することに成功outer

[4] 2016年11月1日プレスリリース「中性子によるコンクリート内損傷の透視outer

[5] 2018年10月25日プレスリリース「中性子によるコンクリート内塩分の非破壊測定outer

[6] 林崎規託, 服部俊幸, 石橋拓弥, 山内英明『四重極型加速器および四重極型加速器の製造方法』(特許第 5317062 号)国立大学法人東京工業大学, タイム株式会社

発表情報

小林知洋
小林知洋

発表タイトル :
Development of accelerator-driven compact neutron source RANS-II
発表者 :
小林知洋
学会名称 :

お問い合わせ先

理化学研究所

光量子工学研究センター 中性子ビーム技術開発チーム

チームリーダー 大竹淑恵

専任研究員 小林知洋

特別研究員 池田翔太

光量子工学研究センター

特別顧問 池田裕二郎

E-mail : t-koba@riken.jp(小林)
Tel : 048-462-1111 ex.5066(小林) / Fax : 048-467-9649

科学技術創成研究院 先導原子力研究所

教授 林崎規託

E-mail : hayashizaki.n.aa@m.titech.ac.jp

取材申し込み先

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

令和3年度(2021年度)東京工業大学入学者選抜について

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令和3年度(2021年度)東京工業大学入学者選抜につきましては、3月22日付け及び10月11日付けで予告として公表しましたが、11月1日の文部科学省の大学入試英語成績提供システム導入の見送りに関する決定を受け、現時点で修正することが決定している内容につきまして、次のとおりお知らせします。

1.本学の個別学力検査(一般選抜)における英語科目の配点

修正前 : 150点の内訳は、筆記試験120点、大学入試センターが設定した「資格・検定試験」(以下「認定試験」)30点とする。

修正後 : 筆記試験150点とし、民間試験の結果は活用しない。

2.出願資格

修正前 : 認定試験の成績がCEFR対照表のA2以上を取得していること。

修正後 : 民間試験の成績を出願資格とはしない。

通常の大学入学資格に加え、本学が指定した共通テストの教科・科目をすべて受験することを出願資格とする。

お問い合わせ先

東京工業大学 学務部 入試課

E-mail : nyu.gak@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3990

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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5Gなどの新たな超高速・広帯域無線通信システムに対応可能な「時間・空間電波伝搬推定法」の国際標準化を達成

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東京工業大学工学院 電気電子系の藤井輝也・表英毅研究室とソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)は、第5世代移動通信システム(5G)などの新世代対応の超高速・広帯域無線通信システムの設計や評価に不可欠な電波伝搬モデルを新たに開発しました。開発したモデルは、国際電気通信連合 無線通信部門(ITU-R)[用語1]の「時間・空間電波伝搬推定法[用語2]」に追加・改訂され、国際標準化を達成しました。

この推定法は、時間・空間電波伝搬特性(電波の伝搬遅延時間特性と電波の水平および垂直方向からの到来角度特性)を同時に推定できるもので、今後の超高速・広帯域移動通信システムの設計や評価などに不可欠な電波伝搬推定法です。都市構造や基地局アンテナの高さ、送受信機間の距離などを考慮できる実用的な推定式であり、この推定法を用いることで、通信事業者はより効率的な移動通信ネットワークシステムの構築が可能になります。

図1. 時間空間電波伝搬モデル(電波の伝搬遅延特性と到来角度特性)

図1. 時間空間電波伝搬モデル(電波の伝搬遅延特性と到来角度特性)

IMT-2020(ITUにおける5Gの呼称)などの新世代無線システムでは、アンテナ素子を水平方向だけではなく、新たに垂直方向にも配置して周波数利用効率を向上させるMassive MIMO(Multiple-Input-Multiple-Output)技術などの活用が見込まれており、基地局側における垂直方向の電波到来角度特性の推定が必要になります。そこで、藤井・表研究室とソフトバンクは共同で、基地局側における電波の垂直面内到来角度推定法を開発しました。国内での審議を経て日本案として提案し、2019年9月にITU-R勧告 P.1816-4[用語3]として国際標準化されました。

図2 Massive MIMOによる空間分割多重技術

図2. Massive MIMOによる空間分割多重技術

ソフトバンクはこれまで、新たな移動通信システムに合わせて、システム設計や評価に必要な電波遅延時間推定法や水平面内の電波到来角度推定法などの「時間・空間電波伝搬推定法」を2004年の標準化活動開始から15年間にわたり開発し、国際標準化してきました。

藤井・表研究室とソフトバンクは今後も「時間・空間電波伝搬推定法」のような基礎的な研究開発やその成果の国際標準化活動を通して、通信業界の発展に貢献していきます。

これまでの取り組みは以下をご参考ください。

次世代移動通信方式対応「時間・空間電波伝搬推定法」の国際標準化について|ソフトバンク株式会社outer

高速・広帯域移動通信システム対応の「時間・空間電波伝搬推定法」の国際標準化を達成|ソフトバンク株式会社outer

SoftBankおよびソフトバンクの名称、ロゴは、日本国およびその他の国におけるソフトバンクグループ株式会社の登録商標または商標です。
その他、このプレスリリースに記載されている会社名および製品・サービス名は、各社の登録商標または商標です。

用語説明

[用語1] 国際電気通信連合 無線通信部門(International Telecommunication Union Radiocommunications Sector) : 国際電気通信連合(ITU)の部門の一つ。無線通信に関する標準化や勧告を行う機関で、衛星通信のような国をまたがる電波の平等で経済的な割り当てや、異なる方式の無線電波による相互干渉を防ぐための基準制定など、電気通信の標準化と促進活動を行っており、対象となるシステムはテレビ放送、移動体通信、無線通信や衛星放送などがあります。傘下に数々のStudy Group(SG)を持ち、Recommendation(勧告)を策定しています。SG3は電波伝搬を担当します。数年に1度、世界無線通信会議(WRC)を開催し、無線通信規則(RR)を改定します。RRには法的な拘束力があり、ほぼそのまま電波法に反映されることになります。

[用語2] 時間・空間電波伝搬推定法 : 無線通信における電波伝搬の基本特性である電波の伝搬遅延時間特性(一般に「時間特性」と呼ぶ)と、基地局および移動局への電波の到来角度特性(一般に「空間特性」と呼ぶ)を同時に推定する方法。周波数利用効率の高い広帯域移動通信を実現するためには、伝搬路の周波数相関特性と空間相関特性の高精度な推定が不可欠となります。伝搬路の周波数相関特性は電波伝搬遅延時間特性から、空間相関特性は電波到来角特性から求めることができます。

[用語3] ITU-R勧告 P.1816-4 : ITU-Rで「時間・空間電波伝搬推定法」に対して発行された勧告番号。「P」は伝搬を表す「Propagation」の頭文字で、1816は勧告の識別番号を指します。「-4」は改訂番号であり、「4」は 4回目の改訂であることを表しています。今回の勧告について、ITU-Rのホームページでは「ITU-R Recommendation P.1816-4: The prediction of the time and the spatial profile for broadband land mobile services using UHF and SHF bands」として掲載されています。

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東京工業大学インドネシアコミットメントアワード(2019)

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東京工業大学で学ぶインドネシア人学生団体、東工大インドネシア留学生協会は10月5日、東工大大岡山キャンパスで、論文発表・講演会「東京工業大学インドネシア コミットメント アワード(以下、TICA)を開催しました。

TICAは駐日インドネシア大使館が協力し、毎年開かれています。10年前、インドネシアの留学生が科学技術の知識を共有するセミナーとして始まり、インドネシアの大学の学部学生を日本に招き科学論文を発表する大会に発展しました。

審査結果1位となったヴィクリ・プラマナンダさんの発表
審査結果1位となったヴィクリ・プラマナンダさんの発表

2019年のTICAのテーマは「インドネシアのゴールデンイヤーに向けた若者のイノベーションとコラボレーション」です。ゴールデンイヤーというのは、生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の比率が上昇し、老齢人口や若年人口の比率が下がる人口ボーナスの時期をさします。労働人口の増加が経済の成長につながり、インドネシアでは2025年~2030年に起こると予想されています。東工大インドネシア人留学生協会は今年の論文発表大会で、インドネシアの人口ボーナスに備え、人材の質の向上に貢献したいと考えました。

リスダ・アイニヤさんの発表の様子
リスダ・アイニヤさんの発表の様子

ソラー・ファリドッディンさんの発表の様子
ソラー・ファリドッディンさんの発表の様子

インドネシアの大学で論文を提出した学生の中から選ばれた優秀なファイナリスト5人が日本に招かれました。 論文発表大会は、TICA実行委員会の代表者ディマス・ドウィナンダさん、インドネシア大使館の代表者アリンダ・フィテリヤニ・マリク・ザイン博士、環境・社会理工学院 融合理工学系の佐藤由利子准教授が挨拶し、始まりました。続いてファイナリスト5人が論文を発表しました。審査員は、バイオエナジーの会社で働いているアジェン・プラモノさん(東工大卒業生)、スリカンディ・ノヴィアンティさん(東工大 環境・社会理工学院 融合理工学系 ポスドク研究員)、アンバラ・R・プラディプタさん(理化学研究所研究員・東工大 物質理工学院 応用化学系 助教)、サトリア・ズルカーナエン・ビスリさん(理化学研究所研究員・東工大 物質理工学院 材料系 客員准教授)の4名です。

挨拶する佐藤由利子准教授
挨拶する佐藤由利子准教授

挨拶するインドネシア大使館のアリンダ・フィテリヤニ・マリク・ザイン博士
挨拶するインドネシア大使館のアリンダ・フィテリヤニ・マリク・ザイン博士

審査結果は次の通りです。

1位
ヴィクリ・プラマナンダさん
北スマトラ大学
グリセロール精製の吸着剤としてのパッションフルーツ果皮由来の活性炭
2位
リスダ・アイニヤさん
カリマンタン工科大学
全固体リチウムイオン電池のカソード材料としての(Li3PO4)0.5(LiI)0.25(AgI)0.25添加前後のLiFePO4/Cの影響
3位
ソラー・ファリドッディン
インドネシアイスラム大学
廃水から染料を除去するための吸着剤としての可能性のある磁性複合Fe203/活性炭バナナ果実束

論文発表に続く講演会には科学や技術の発展に業績を上げた2人のインドネシア人を招きました。インドネシアで電気自動車の開発に携わり、技術とコミュニティ開発の分野で活動する会社レンテラ・ブミ・ヌサンタラ社を設立したリッキー・エルソン氏と、横浜国立大学のディオニュシウス・シリンゴリンゴ准教授が話しました。

特別講演の様子
特別講演の様子

ファイナリスト及び審査員と講演者
ファイナリスト及び審査員と講演者

10周年を迎えたTICAは、東工大やインドネシア大使館、多くの関係者が支援する大きな行事に成長しました。東工大インドネシア人留学生協会は今後もTICAを開催し、インドネシアの科学技術の発展と若い研究者を支援していきます。

TICA2019を支援した方々

TICA2019を支援した方々

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Tel : 03-5734-2975

全固体リチウム電池を応用した情報メモリ素子を開発:超低消費エネルギー化と多値記録化に初めて成功 省エネルギーコンピューティングに向けた大きな一歩

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要点

  • 全固体リチウム電池を応用したメモリ素子を開発し、超低消費エネルギー動作に成功
  • 3つの異なる電圧を記録する3値記録メモリとしての動作を実現
  • 開発したメモリ素子の特徴が、酸化ニッケルとリチウムの反応に起因することを確認

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の一杉太郎教授、清水亮太助教、渡邊佑紀大学院生(修士課程2年)らは、東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻の渡邉聡教授らと共同で、全固体リチウム電池と類似した薄膜積層構造を持ち、超低消費エネルギーと多値記録を特徴とするメモリ素子の開発に成功しました。

コンピュータの利用拡大とともにエネルギー消費量は増大し続けており、半導体素子の消費エネルギー低減は喫緊の課題です。研究グループは、全固体リチウム電池の構造と動作メカニズムに注目し、情報を電圧として記憶する低消費エネルギーの電圧記録型メモリ素子の開発に取り組みました

本研究では、ニッケルを電極として用いた、全固体リチウム電池と同じ構造のメモリ素子を作製しました。その結果、消費エネルギーの低減に加えて、3種類の異なる電圧を記憶する3値記録メモリとしての動作を実現しました。これらの特徴は、界面に自発的に生成した極薄の酸化ニッケル膜とリチウムイオンの多段階反応によるものです。この成果は、超低消費エネルギーメモリ素子の実用化に向けた重要な指針となるだけでなく、固体内におけるリチウムイオン移動についての理論構築にもつながります。

本研究成果は11月20日(米国時間)に米国化学会誌「ACS Applied Materials and Interfaces」オンライン版に掲載されます。

背景

情報化社会の急速な進展に伴い、コンピュータは目覚ましい発展を遂げています。それに伴い、コンピュータの利用拡大とともにエネルギー消費量は増大し続けており、半導体素子の消費エネルギー低減が求められています。

このような状況の中、研究グループは、一杉教授らがこれまで研究してきた全固体リチウム電池をもとにした低消費エネルギーの電圧記録型メモリ素子を着想しました。この素子は、電池における充電状態と放電状態をメモリの“1”と“0”に対応させるものであり、開放端電圧[用語1]が変化するメモリ素子と考えることができます。

全固体リチウム電池は、正極材料、固体電解質、リチウム金属負極が積層した構造と見なすことができ、正極材料にリチウムイオンが出入りすることによって、開放端電圧が変化します。携帯電話等で利用するリチウムイオン電池では、電池容量[用語2]が大きいほど、正極材料に出入りするリチウムイオンの量が大きくなるため、電池の持ちが良くなり、利便性が高まります。そのため、通常の電池応用では電池容量を大きくすることが求められますが、メモリ素子への応用を考える場合には、電池容量が小さいほど消費エネルギーが小さくなり、優れたメモリ素子となります。電池容量は正極材料によって決まるため、低消費エネルギー化を実現するには、正極材料として適切な材料を選択する必要があります。

研究の成果

本研究では、半導体素子作製技術として汎用的なスパッタリング法などの薄膜作製手法を活用しました。また、低電池容量を実現するための正極材料として、リチウムと合金を形成しないニッケルを選択しました。ニッケル下部電極(Ni)上に固体電解質薄膜(Li3PO4)を形成し、その上にリチウム薄膜(Li)を形成することで、積層構造のメモリ素子を作製しました(図1)。その結果、ニッケル下部電極上に極薄の酸化ニッケル(NiO)が自発的に形成し、非常に容量が小さい全固体リチウム電池として動作することが明らかになりました。つまり、メモリ素子として動作することを実証したことになります。

メモリ動作に要した消費エネルギーを算出したところ、8.8 × 10−11 J/µm2となり、これは、現行のパソコンに使用されているDRAM(> 4 × 10−9 J/µm2)の1/50程度の値に相当します(表1)。また、このメモリが3種類の異なる電圧状態を記録でき、3値記録メモリ[用語3]としての動作を実現していることがわかりました(図2)。これは記録の高密度化に繋がる結果です。

本研究で作製した電圧記録型メモリ素子の概略図(a)と写真(b)

図1. 本研究で作製した電圧記録型メモリ素子の概略図(a)と写真(b)

表1. スイッチングに要したリチウムイオン移動量(電池容量)と消費エネルギー

 
リチウムイオン移動量 [C/µm2]
消費エネルギー[J/µm2]
本メモリ素子
4.4 × 10−11
8.8 × 10−11
DRAM
> 4 × 10−9

3値記録メモリとしての動作の状況

図2. 3値記録メモリとしての動作の状況

黒線が印加電圧、曲線が開放端電圧を表しており、1.1 V未満の領域を低電圧状態、1.1-1.8 Vを中電圧状態、1.8 V超過を高電圧状態と定義している。

こうした3種類の安定状態(低電圧、中電圧、高電圧状態)のうち、最も安定な状態を探るために、作製したメモリ素子を加熱し、60 ℃と100 ℃でメモリ動作を試みました。その結果、中電圧状態が最も安定であることを確認しました。

また、ラマン分光測定を用いて消費エネルギーの低減と多値記録の発現が、ニッケル電極上に生じた極薄の酸化ニッケル膜と、固体電解質内を移動するリチウムイオンの間で発生する多段階反応に起因していることを明らかにしました。

今後の展開

今回の研究では、電圧記録型メモリ素子の基盤を構築することができました。さらに、多段階反応を伴う電極材料を用いることで、多値記録メモリとしての動作が可能になることを明らかにしました。メモリ素子の消費エネルギー低減や記録の高密度化は、コンピュータの省エネルギー化の鍵であり、今回の成果は、そうした特性をそなえたメモリ素子の実用化を目指す上での大きな一歩です。今後は、電池容量を究極に小さくした電池を作製することにより、電圧記録型メモリ素子のさらなる低消費エネルギー化が可能になります。さらに、人工知能技術のさらなる発展に向け、人間の脳の動きを模倣した脳型コンピュータへの応用も期待されます。

本成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST、さきがけ)、日本学術振興会(JSPS)科研費の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] 開放端電圧 : 回路を電流が流れていない時の2電極間(正極-負極間)の電位差のこと。一般には、起電力と同義である。

[用語2] 電池容量 : 電池が溜めることのできる電気量のこと。ここでは、(メモリ素子の消費エネルギー)=(印加電圧)×(電池容量)となるため、電池容量を少なくすることは消費エネルギー低減につながる。

[用語3] 3値記録メモリ :一般的なメモリ素子は“0”と“1”の2つの状態を保持するのに対し、保持する状態が3状態あるメモリ素子のこと。1素子で3つの値を記録することができるため、記録の高密度化が期待できる。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials and Interfaces
論文タイトル :
Low energy consumption three-valued memory device inspired by solid-state batteries
著者 :
Yuki Watanabe, Shigeru Kobayashi, Issei Sugiyama, Kazunori Nishio, Wei Liu, Satoshi Watanabe, Ryota Shimizu, and Taro Hitosugi
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 教授

一杉太郎

E-mail : hitosugi.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2636

東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 教授

渡邉聡

E-mail : watanabe@cello.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-7135

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京大学 大学院工学系研究科 広報室

E-mail : kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-6295 / Fax : 03-5841-0529

天体衝突イベント由来の新たなエジェクタ層を中新世の深海堆積物から発見 約1,160万年前の生物大量絶滅イベントの原因解明か

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発表のポイント

  • 北西太平洋南鳥島沖の深海堆積物から、中新世天体衝突イベント由来のエジェクタ層(放出物質の堆積層)を発見した。エジェクタ層にはオスミウム同位体比の負異常、白金族元素の異常濃集、ニッケルに富むスピネルを多数含む球状粒子(スフェルール)の産出などの天体衝突イベント由来の証拠が確認された。
  • エジェクタ層の堆積年代は約1,100万年前と推定され、陸上に大きなクレーターが存在しないことから、世界で2例目の海洋天体衝突イベントの発見である可能性が高い。
  • エジェクタ層の堆積年代は、約1,160万年前(中新世)に起こった最も年代の新しい生物大量絶滅イベントと誤差の範囲で重なることから、中新世生物大量絶滅イベントを引き起こした可能性がある。

概要

国立研究開発法人 海洋研究開発機構(理事長 松永是)海洋機能利用部門 海底資源センターの野崎達生グループリーダー代理らは、国立大学法人 東京大学、国立大学法人 神戸大学、学校法人 千葉工業大学、国立大学法人 九州大学、国立大学法人 東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の石川晃准教授、学校法人 早稲田大学と共同し、2014年10月に海洋地球研究船「みらい」を用いて南鳥島周辺で採取されたピストンコア試料[用語1](図1、2)を詳細に記載および分析した結果、中新世の深海堆積物に天体衝突イベント由来のエジェクタ層[用語2]が含まれていることを明らかにしました。

本研究に用いたピストンコア試料(MR14-E02 PC11)の位置図

図1. 本研究に用いたピストンコア試料(MR14-E02 PC11)の位置図

本研究に用いたピストンコア試料の半割断面写真。エジェクタ層は、Section 4の中央部に位置する。

図2. 本研究に用いたピストンコア試料の半割断面写真。エジェクタ層は、Section 4の中央部に位置する。

このエジェクタ層は、オスミウム同位体比(187Os/188Os)[用語3]が約0.2まで低下する明瞭な負異常を示します(図3、4)。また、オスミウム濃度やイリジウム濃度はそれぞれ最高で約2.2 ppbおよび約3.2 ppbに達し、上部大陸地殻の平均値の数十倍を示すことから白金族元素[用語4]濃度の異常濃集を伴います(図3、4)。さらに、本堆積物には天体衝突によって生成された球状粒子(スフェルール)が多数含まれており、スフェルールはカンラン石の仮像[用語5]と推定される粘土鉱物および最大でNiO濃度が23.3%に達するスピネル[用語6]粒子から構成されています(図5、6)。これらはいずれも地球上への天体衝突イベントと、それに伴う隕石および被衝突物の溶融と冷却によって生成される物質に特有の記載学的・地球化学的特徴です。

ピストンコア試料の(a)レニウム-オスミウム組成と(b)オスミウム年代。海底下320 - 360 cmにオスミウムの異常濃集とオスミウム同位体比の負異常が認められる。オスミウム同位体比層序から、エジェクタ層の堆積年代は約1,100万年前と推定される。
図3.
ピストンコア試料の(a)レニウム-オスミウム組成と(b)オスミウム年代。海底下320 - 360 cmにオスミウムの異常濃集とオスミウム同位体比の負異常が認められる。オスミウム同位体比層序から、エジェクタ層の堆積年代は約1,100万年前と推定される。
ピストンコア試料の(a)レニウム-オスミウム組成、白金族元素濃度および(b)コンドライト規格化白金族元素パターン。オスミウムの異常濃集とオスミウム同位体比負異常のピークと、白金族元素濃度の濃集ピークが一致する。白金族元素パターンは、PPGEに富むやや右上がりのパターンを示し、上部大陸地殻に比べるとPPGE(Pt:白金、Pd:パラジウム、Re:ロジウム)よりもIPGE(Os:オスミウム、Ir:イリジウム、Ru:ルテニウム)の濃集度合いが高いことがわかる。
図4.
ピストンコア試料の(a)レニウム-オスミウム組成、白金族元素濃度および(b)コンドライト規格化白金族元素パターン。オスミウムの異常濃集とオスミウム同位体比負異常のピークと、白金族元素濃度の濃集ピークが一致する。白金族元素パターンは、PPGEに富むやや右上がりのパターンを示し、上部大陸地殻に比べるとPPGE(Pt:白金、Pd:パラジウム、Re:ロジウム)よりもIPGE(Os:オスミウム、Ir:イリジウム、Ru:ルテニウム)の濃集度合いが高いことがわかる。
オスミウム濃度が最も高く、オスミウム同位体比が最も低いピストンコア試料の(a)3次元X線顕微鏡画像。数十μm~数百μmサイズのスフェルールが多数散見される。(b)、(c)は視野の中で最大のスフェルールを拡大した画像で、カラースケールが異なる。
図5.
オスミウム濃度が最も高く、オスミウム同位体比が最も低いピストンコア試料の(a)3次元X線顕微鏡画像。数十μm~数百μmサイズのスフェルールが多数散見される。(b)、(c)は視野の中で最大のスフェルールを拡大した画像で、カラースケールが異なる。
オスミウムの異常濃集とオスミウム同位体比負異常を示すピストンコア試料の粗粒部(62 μm以上)をふるい分けした物から作成した研磨片の(a - c)反射顕微鏡画像および(d - i)後方電子散乱(BSE)画像。スフェルールの外側は遠洋性堆積物に覆われているが(a)、内部はカンラン石の仮像を持つ六角板状の粘土鉱物が卓越する(a、d)。粘土鉱物の中には自形~樹枝状~球状のスピネル粒子が多数産出する(a - i)。樹枝状のスピネル粒子は、自形のスピネル粒子の先端から延びて成長している様子が観察される(c、f - h)。まれに球状のスピネル粒子(破線白丸)が観察され、最大で23.29 wt%と高いNiO濃度を示す(i)。
図6.
オスミウムの異常濃集とオスミウム同位体比負異常を示すピストンコア試料の粗粒部(62 μm以上)をふるい分けした物から作成した研磨片の(a - c)反射顕微鏡画像および(d - i)後方電子散乱(BSE)画像。スフェルールの外側は遠洋性堆積物に覆われているが(a)、内部はカンラン石の仮像を持つ六角板状の粘土鉱物が卓越する(a、d)。粘土鉱物の中には自形~樹枝状~球状のスピネル粒子が多数産出する(a - i)。樹枝状のスピネル粒子は、自形のスピネル粒子の先端から延びて成長している様子が観察される(c、f - h)。まれに球状のスピネル粒子(破線白丸)が観察され、最大で23.29 wt%と高いNiO濃度を示す(i)。

今回発見されたエジェクタ層は、オスミウム同位体(187Os/188Os)層序[用語7]からその堆積年代が約1,100万年前と推定されます(図3)。年代決定手法が持つ誤差を考えても、陸上に大きなクレーターが存在しない年代であることから、これまでに見つかっていない地球上への新たな天体衝突イベントの証拠と考えられます。また、陸上に同年代の証拠がないことから、約251万年前に南太平洋に衝突したEltanin天体衝突イベントに次ぐ、世界で2例目の海洋天体衝突イベントの可能性が高いと考えられます。さらに、約1,160万年前に起こったとされる最も年代の新しい生物大量絶滅イベント[用語8]は長年その原因が謎とされてきましたが、本発見はその解明への糸口となる可能性があります。今後、他の海域の深海堆積物についても調査を行い、新たに発見された中新世天体衝突イベントの詳細を解明していく予定です。

本成果は、英国のNature Publishing Group(NPG)が発行する学術雑誌「Scientific Reports」に11月20日付け(日本時間)で掲載されました。

背景

日本は世界第6位の広さの排他的経済水域(EEZ)を有し、その中にはマンガン団塊、海底熱水鉱床、マンガンクラスト、レアアース泥[用語9]に分類される海底鉱物資源やメタンハイドレート、海底油田などのエネルギー資源が分布しています。2011年7月には、総レアアース濃度が400 ppmを超えるレアアース泥が、太平洋の広範囲に分布していることが発見されました。さらに、2013年3月には南鳥島のEEZ内から総レアアース濃度が6,500 ppmに達する超高濃度レアアース泥が発見されました(2013年3月21日既報outer)。その後、レアアース泥の分布・成因を解明するために、音波探査やピストンコアラーによる採泥航海が2013年から毎年実施されてきており、最近では超高濃度レアアース泥が広く分布する南鳥島南方約250 kmの海域について、ArcGISを用いたレアアース資源の3次元分布やレアアース濃度を高めるためのハイドロサイクロンの有用性が報告される(2018年4月10日既報outer)など、さまざまな成果が発表されています。このようにレアアース泥の特徴が次々と明らかにされつつありますが、レアアース泥の成因を考えるうえで重要な生成年代がいまだにわかっていません。

そこで、国立研究開発法人海洋研究開発機構および国立大学法人東京大学が中心となって、オスミウム同位体層序によるレアアース泥の生成年代決定を進めています。その過程において、2014年10月に海洋地球研究船「みらい」を用いて北西太平洋の南鳥島周辺で行われたMR14-E02航海で採取されたピストンコア試料から、オスミウム同位体比の負異常とオスミウムの異常濃集を伴う層が発見されました。オスミウム同位体比の負異常とオスミウムの異常濃集は、カンラン岩の混入あるいは宇宙起源物質の混入の2つの可能性でしか説明できないことから、本研究では高精度の全岩化学組成分析・同位体分析や顕微鏡観察および鉱物組成測定などの詳細な記載を行い、その由来の特定を試みました。

成果

南鳥島周辺で採取されたピストンコア試料であるMR14-E02 PC11(図1、2)(水深5,647 m、コア長1,311.5 cm)について、詳細な記載、鉱物組成測定および全岩化学分析を行いました。その結果、320 - 360 cmbsf(cm below seafloor:海底面からのcm表記の深さ)の地層に、オスミウムの異常濃集およびオスミウム同位体比の明瞭な負異常を発見しました(図3、4)。約357 cmbsfをピークとしてオスミウム濃度は最高で約2.2 ppbに達し、オスミウム同位体比は約0.2まで低下します(図3、4)。このオスミウム濃度は上部大陸地殻平均値の約70倍に達し、約0.2という低いオスミウム同位体比を伴うことから、カンラン岩のような超苦鉄質岩の混入か、隕石などの宇宙起源物質の混入の2つの可能性でしか説明できません。ピストンコア試料の記載、主成分元素および微量元素組成の結果からは、カンラン岩のような超苦鉄質岩混入の可能性は見つかりませんでした。そこで、オスミウム濃度と同位体比異常のピークを中心にさらなる密な試料のサンプリング、白金族元素濃度の定量分析およびコア試料の62 μm以上の粗粒部をふるい分けし、研磨片の作成、反射顕微鏡観察、鉱物組成測定などを行いました。

白金族元素濃度の最大値はオスミウムが2.2 ppb、イリジウムが3.2 ppb、ルテニウムが3.1 ppb、白金(プラチナ)が13.4 ppb、パラジウムが4.3 ppbを示し、上部大陸地殻の平均値の数十倍に達します(図3、4)。特に、イリジウム濃度は恐竜絶滅を引き起こした白亜紀-古第三紀境界(6,600万年前)の天体衝突イベントに伴うエジェクタ層よりやや低いものの、カナダに直径90 kmのクレーターを生じさせた三畳紀後期(約2億1,500万年前)の天体衝突イベントのエジェクタ層(2013年9月17日既報outer)に匹敵する高い値です。また、球状の石質隕石であるコンドライト[用語10]で規格化したレニウムおよび白金族元素パターンは、ややPPGE(白金、パラジウム、ロジウム)に富む右上がりのパターンを示します(図4)。オスミウムおよびイリジウム濃度の最大値から、このパターンは99.5%の遠洋性堆積物と0.5%のCIコンドライトの混合でおおむね説明できますが、遠洋性堆積物とCIコンドライトの単純な混合ではPPGEに比べてよりIPGE(オスミウム、イリジウム、ルテニウム)に富む点が説明できません。しかし、“遠洋性粘土”と“CIコンドライト+海洋地殻+遠洋性粘土のメルト”の混合を考えれば、レニウムおよび白金族元素パターンが整合的に説明できます。つまり、隕石、地球表層の地殻および堆積物の混合により説明できるということです。

オスミウム同位体比と白金族元素濃度に異常が認められた試料について、粗粒部分をふるい分けして作成した研磨片を反射顕微鏡、走査型電子顕微鏡および3次元X線顕微鏡で観察すると、直径数十μm~数百μmの球状粒子(スフェルール)が多数観察されます(図5、6)。スフェルールの外側は遠洋性粘土の構成物である石英、イライト、沸石、緑泥石-スメクタイト、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、輝石などからなりますが、内側はカンラン石由来と考えられる六角板状の仮像を示す粘土鉱物が卓越し、その中には自形~樹枝状~球状のスピネル粒子が産出します(図5、6)。樹枝状のスピネル粒子は、自形のスピネル粒子の先端から延びるように成長している物が多く、自形および樹枝状のスピネルは0.04 - 4.78 wt% NiO濃度を、球状スピネルは3.30 - 23.29 wt% NiO濃度を示します。より初生的な情報を記録していると期待されるCr2O3濃度に富む(クロムスピネル成分に富む)スピネルについて、集束イオンビーム-走査型電子顕微鏡とイオンミリング装置により数μm四方の研磨片を作成し透過型電子顕微鏡で観察すると、クロムに富むコア部と鉄に富むリム部(周縁部)に分かれており、鉄に富むリム部から磁鉄鉱成分に富む樹枝状スピネル粒子が成長している様子が観察されます(図7)。これらのスピネル粒子の形状および組織、NiO濃度、元素の累帯構造およびスピネル成分(化学組成)は、天体衝突イベントによる自形スピネル粒子の部分溶融とその後の急冷現象により、すべて整合的に説明されます。したがって、約357 cmbsfの地層を中心に宇宙起源物質(隕石)の深海堆積物への流入量が異常に増大したことが、記載学的・地球化学的に明らかとなりました。また、スピネル粒子の化学組成は、約251万年前に地球上に衝突した小惑星の破片であるEltanin隕石に含まれるスピネル粒子とは異なる組成を示し、炭素質コンドライト、あるいは普通コンドライトに含まれるスピネル粒子と類似した組成を示します(図7)。NiO濃度(トレボライト成分)の高い球状スピネル粒子は、隕石に含まれていた鉄-ニッケル金属の溶融と酸化によって生成したと考えられます。

ピストンコア試料のスフェルールに含まれるスピネル粒子の走査型電子顕微鏡画像、透過型電子顕微鏡による元素マッピング(クロム、鉄)、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)および透過型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光器(TEM-EDS)で測定したスピネル粒子の化学組成。スピネル粒子は、クロムに富むコア部と鉄に富むリム部(周縁部)から構成され、リム部からは磁鉄鉱成分に富む樹枝状スピネル粒子の成長が観察される。本研究のスフェルールに含まれるスピネル粒子の化学組成は、Eltanin隕石とは異なる化学組成を有し、炭素質コンドライトあるいは普通コンドライト中に含まれるスピネルの化学組成と類似している。
図7.
ピストンコア試料のスフェルールに含まれるスピネル粒子の走査型電子顕微鏡画像、透過型電子顕微鏡による元素マッピング(クロム、鉄)、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)および透過型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光器(TEM-EDS)で測定したスピネル粒子の化学組成。スピネル粒子は、クロムに富むコア部と鉄に富むリム部(周縁部)から構成され、リム部からは磁鉄鉱成分に富む樹枝状スピネル粒子の成長が観察される。本研究のスフェルールに含まれるスピネル粒子の化学組成は、Eltanin隕石とは異なる化学組成を有し、炭素質コンドライトあるいは普通コンドライト中に含まれるスピネルの化学組成と類似している。

今後の展望

このエジェクタ層の堆積年代は、ピストンコア試料のオスミウム同位体層序から、約1,100万年前と推定されます(図3)。オスミウム年代に含まれる年代値の誤差を考慮しても、陸上に大きなクレーターが存在しない年代であることから、これまで認知されていなかった新しい天体衝突イベントの可能性があります。さらに、天体衝突イベントの証拠が陸上になく深海堆積物のみに残っていることから、Eltanin天体衝突イベントに次ぐ世界で2例目の『海洋天体衝突イベント』の可能性が高いといえます。

ペルム紀後期から現在までに、少なくとも11回の生物大量絶滅イベントが起こったことが知られています。それらの中で、約1,160万年前に起こったとされる最も年代の新しい生物大量絶滅イベントのみが、巨大火成岩岩石区の噴出や海洋無酸素事変との関連性がなく、長年その原因が謎とされてきました。今回、北西太平洋の深海堆積物から見つかった中新世天体衝突イベントは、年代値の誤差範囲で中新世の大量生物絶滅イベントとタイミングが重なるため、残された最後のピースを埋める研究となる可能性があります。今後、他の海域のピストンコアあるいは掘削コア試料の研究を進め、中新世天体衝突イベントの規模や地球環境に及ぼした影響などの詳細を解明していく予定です。

用語説明

[用語1] ピストンコア試料 : ピストンコアラー(ピストン式柱状採泥器)によって採取された堆積物コア試料。採泥器本体が自由落下し海底面に突き刺さった際、ピストンは海底面に止まり、パイプが貫入するため吸引力が生じ、底質を吸い込んで長い柱状試料を得ることが可能。本研究に用いたピストンコアは採泥管長15 mで採取された。

[用語2] エジェクタ層 : エジェクト(eject)は英語で『放出する』という意味。本文中では、天体衝突イベント末期にクレーター内から低角度で放出された物質が、地表物質と混じり合って移動して生じた堆積層のことを指す。

[用語3] オスミウム同位体比(187Os/188Os) : オスミウムには質量数184、186、187、188、189、190、192の7つの同位体が存在するが、その同位体同士の比を取ったものがオスミウム同位体比。特に、187Os/188Osは地球上の構成物質によって異なる値を持つことが知られているため、宇宙起源物質(隕石)の検出やサイズ見積りなどに使われている。

[用語4] 白金族元素 : ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金(プラチナ)の6元素を総称した呼び名。白金族元素は地球内部物質や隕石などの未分化な岩石に多く含まれる一方、地球表層物質には枯渇しているので、宇宙起源物質(隕石)の検出に有用である。

[用語5] 仮像 : 温度・圧力・化学的状態の変化によって、その外形を保ったまま、成分の一部あるいは全部が置換してまったく新しい鉱物になったもの。仮晶ともいう。

[用語6] スピネル : 尖晶石とも呼ばれる。鉱物名としても、広い固溶範囲を示す鉱物のグループ名としても使われる。広義のスピネル鉱物グループを指す場合には『AB2O4』の組成を持ち、スピネル系列(BがAl、AがMg、Fe、Zn、Mn)、磁鉄鉱系列(BがFe3+、AがMg、Fe2+、Zn、Mn、Ni)、クロム鉄鉱系列(BがCr、AがMg、Fe2+)の3系列がある。狭義のスピネル系列はAlスピネルとも呼ばれ、Aの位置のMg、Fe、Zn、Mnは相互に完全に置換し、鉄スピネル(FeAl2O4)、亜鉛スピネル(ZnAl2O4)、マンガンスピネル(MnAl2O4)からなる。

[用語7] オスミウム同位体(187Os/188Os)層序 : 海水の187Os/188Osは、高い値を持つ河川水フラックスと低い値を持つ熱水・宇宙起源物質の3つのフラックスの相対的バランスで決まり、当時の地球環境に支配されながら時間とともに変化する。レアアース泥やマンガンクラストなどは、堆積した当時の海水187Os/188Osを保持する性質があるため、コア試料の187Os/188Os変化とグローバルな古海水187Os/188Os変動曲線をフィッティングすることで、堆積年代を決定することができる。このような手法をオスミウム同位体層序(Os isotope stratigraphy)と呼ぶ。

[用語8] 生物大量絶滅イベント : 3億年前から現在までに、少なくとも11回の生物大量絶滅イベントが起こったことが知られている。生物大量絶滅の原因は以下のように推定されている。

年代
生物大量絶滅の原因
約1,160万年前
-
約3,600万年前
隕石衝突
約6,600万年前
隕石衝突、火成活動、海洋無酸素事変?
約9,420万年前
火成活動、海洋無酸素事変
約1億1,600万年前
火成活動、海洋無酸素事変
約1億4,500万年前
隕石衝突
約1億8,270万年前
火成活動、海洋無酸素事変
約2億130万年前
火成活動、海洋無酸素事変
約2億1,500万年前
隕石衝突
約2億5,220万年前
火成活動、海洋無酸素事変
約2億5,980万年前
火成活動、海洋無酸素事変

[用語9] レアアース泥 : レアアースに富み、総レアアース濃度が400 ppmを超える深海堆積物。Kato et al. (2011) により太平洋の広範囲におけるレアアース泥の分布が報告され、マンガン団塊、海底熱水鉱床、マンガンクラストに次ぐ第4の海底鉱物資源と注目されている。レアアース泥のうち、総レアアース濃度が5,000 ppmを超えるものは超高濃度レアアース泥と呼ばれ(Iijima et al., 2016)、2013年に南鳥島南方約250 kmの海域から発見された。

[用語10] コンドライト : 石質隕石のうちコンドルールを含むことで特徴付けられる一群のことで、球状隕石とも呼ばれる。地上に落下する隕石の約80%を占め、揮発性成分を除いた化学組成が太陽大気の元素存在度に概して近いこと、形成年代が約45.5億年前であること、全体として溶融・分化していない組織を示すことなどから、太陽系の始原物質を最も良く保存したものと考えられている。化学組成および酸化還元状態からエンスタタイト(E)、H、L、LL、炭素質(C)の5つの化学的グループに細分化される。CIコンドライトは炭素質コンドライトの1種。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
A Miocene impact ejecta layer in the pelagic Pacific Ocean
著者 :
野崎達生1、2、3、4、大田隼一郎4、2、5、6、野口高明7、佐藤峰南4、1、石川晃8、1、4、髙谷雄太郎9、1、4、木村純一6、常青6、島田和彦10、石橋純一郎10、安川和孝2、5、4、木元克典11、飯島耕一1、加藤泰浩2、5、4、1
所属 :
1海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター
2東京大学 大学院工学系研究科 エネルギー・資源フロンティアセンター
3神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻
4千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター
5東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻
6海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター
7九州大学 基幹教育院 自然科学実験系部門
8東京工業大学 理学院 地球惑星科学系
9早稲田大学 大学院創造理工学研究科 地球・環境資源理工学専攻
10九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門
11海洋研究開発機構 地球環境部門 地球表層システム研究センター
DOI :
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貴金属使わずアンモニア合成触媒となる新物質発見

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要点

  • BaCeO3の酸素の一部を窒素と水素に置き換えた新物質を低温で合成
  • ルテニウムなどの貴金属を使わずに高いアンモニア合成の触媒活性を発見
  • 窒素イオンと水素イオンが活性点として働く新しい反応メカニズムを提唱

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の鯨井純(修士課程1年)、元素戦略研究センターの北野政明准教授と細野秀雄栄誉教授らは貴金属を使わずに低温でアンモニア合成活性を示す物質を見いだすことに成功した。ペロブスカイト型[用語1]酸化物(BaCeO3)の酸素の一部を窒素や水素(ヒドリドイオン[用語2]に置き換えた新物質「BaCeO3-xNyHz」の合成により実現した。

BaCeO3のような金属酸化物だけではアンモニア合成触媒の活性を示さないためルテニウムなどの貴金属ナノ粒子を表面に固定していたが、BaCeO3-xNyHzはルテニウムなどを固定しなくても触媒として働くことを解明した。さらにBaCeO3-xNyHz表面に鉄やコバルトなど安価な金属ナノ粒子を固定すると、ルテニウム触媒より低温で優れたアンモニア合成活性を示すことも見いだした。

近年、温和な条件下で高いアンモニア合成活性を示す触媒としてルテニウム触媒の開発が盛んだが、希少で高価な金属のルテニウムを用いない新触媒技術として重要な成果であり、アンモニア合成プロセスの大幅な省エネルギー化に繋がるものである。また詳細な反応メカニズム解析の結果からBaCeO3-xNyHz上の窒素および水素(ヒドリドイオン)の働きにより、不活性な窒素分子を活性化し、低温で優れたアンモニア合成活性を実現していることも明らかにした。

アンモニアは窒素肥料原料として重要な物質で、最近は水素エネルギーキャリア[用語3]としても期待が高まっており、注目される研究成果といえる。

研究成果は米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版に11月22日付で公開された。

研究の背景と経緯

人工的にアンモニアを合成する技術「ハーバー・ボッシュ法(HB法)」は約100年前にハーバーとボッシュによって見いだされ、工業化された現在でも人類の生活を支えるのに必要不可欠となっている。またアンモニア分子は分解することで多量の水素発生源となり、かつ室温・10気圧で液体になることから、燃料電池などのエネルギー源である水素を運搬する物質としても期待されている。

一方、HB法は高温(400 - 500 ℃)、高圧(100 - 300気圧)の条件が必要であるため、温和な条件下でのアンモニア合成技術が求められている。温和な条件下で働く触媒としてこれまで、ルテニウム触媒の開発が盛んに行われてきた。しかしルテニウムは高価な貴金属であり、豊富に存在する安価な金属を利用し、温和な条件下で作動する触媒の開発が望まれていた。

研究の内容

北野准教授らの研究グループはペロブスカイト型の混合アニオン材料[用語4]に着目し、新たな合成方法を見いだした。近年、ペロブスカイト型酸水素化物など酸素サイトの一部をヒドリドイオン(Hイオン)に置き換えたような混合アニオン化合物がいくつか報告されており、その一部はアンモニア合成触媒として機能することが報告されている。

通常、ペロブスカイト型酸化物の合成には900 ℃以上の高温での加熱処理が必要であり、酸素サイトの一部をヒドリドイオンに置き換えるために、CaH2(水素化カルシウム)などと550 ℃付近の温度で一週間程度加熱する多段階の合成プロセスとなっている。またペロブスカイト型酸窒化物の合成も光触媒など様々な分野で合成が行われているが、ペロブスカイト型酸化物をアンモニア雰囲気中で800 ℃以上の高温で加熱することにより合成されている。これは、ペロブスカイト型酸化物の酸素が非常に安定であり、他のアニオンで置換することが困難であることに由来している。

一方、北野准教授らはCeO2(酸化セリウム)とBa(NH2)2(バリウムアミド)を直接反応させることにより、ペロブスカイト型酸窒素水素化物(BaCeO3-xNyHz)の一段合成に成功した(図1)。これまでこの物質は合成例がなく、新物質であることも明らかとなった。

新規ペロブスカイト型酸窒素水素化物の合成スキーム

図1. 新規ペロブスカイト型酸窒素水素化物の合成スキーム

原料であるBa(NH2)2は200 ℃程度の低温から分解するためCeO2とよく反応し、ペロブスカイト構造を形成すると同時に、酸素のサイトにBa(NH2)2由来の窒素および水素が導入される。この手法を用いると、ペロブスカイト構造が300 ℃という非常に低温から形成され550 ℃でほぼ均一な材料が得られる。

これは一般的なBaCeO3の合成温度(約1,000 ℃)と比べてもかなり低温で合成できていることがわかる。一方、BaCeO3をアンモニア雰囲気、900 ℃で加熱しても酸素のサイトにほとんど窒素が導入されないこともわかった。これらのことから、北野准教授らが開発した合成方法が、ペロブスカイト型混合アニオン材料の合成に有用であることがわかる。

このペロブスカイト型酸窒素水素化物(BaCeO3-xNyHz)はルテニウムなどの金属ナノ粒子を固定しなくても安定したアンモニア合成活性を示すことがわかった(図2)。一般的にBaCeO3などの金属酸化物はまったくアンモニア合成活性を示さないことから、アニオン(陰イオン)サイトに導入された窒素イオンや水素イオン(ヒドリドイオン)が触媒活性に寄与していることがわかる。

BaCeO3-xNyHzとBaCeO3のアンモニア合成活性(反応温度:400 ℃、圧力:9気圧)

図2. BaCeO3-xNyHzとBaCeO3のアンモニア合成活性(反応温度:400 ℃、圧力:9気圧)

さらに、BaCeO3に鉄やコバルトを固定した触媒では、ほとんどアンモニア合成活性を示さないのに対し、BaCeO3-xNyHzの表面に鉄やコバルトを固定すると、既存のルテニウム触媒よりも低温で優れたアンモニア合成活性を示すことも明らかとなった(図3)。窒素や水素の同位体ガスを用いた実験から、BaCeO3-xNyHz中の窒素および水素イオンがアンモニア合成に直接関与するユニークなメカニズムで反応が進行することも明らかとなった。

CoやFeを固定したBaCeO3-xNyHzのアンモニア合成活性と他の触媒との比較(反応温度:300 ℃、圧力:9気圧)

図3. CoやFeを固定したBaCeO3-xNyHzのアンモニア合成活性と他の触媒との比較
(反応温度:300 ℃、圧力:9気圧)

今後の展開

開発した触媒は低温低圧条件下で優れたアンモニア合成活性を示し、貴金属フリーなアンモニア合成触媒としてきわめて有望な材料であることが示された。今後、触媒の調製条件などを最適化することでさらなる活性向上が見込まれ、アンモニア合成プロセスの省エネルギー化に大きく貢献することが期待される。

用語説明

[用語1] ペロブスカイト型 : 化学組成がABX3の無機化合物に見られる結晶構造の一つであり、AやBは金属カチオンでXは酸素などのアニオンからなる。Aが単位格子の中心に、Bが各格子点に、Xが各稜の中心に位置した構造である。

[用語2] ヒドリドイオン : 負の電荷を持った水素イオン(Hイオン)であり、ほかに水素は電荷を持たない原子状水素(H0)や正の電荷を持った水素イオン(プロトン、H+イオン)の形態を持つ。

[用語3] エネルギーキャリア : エネルギーを貯蔵・輸送するための担体となる物質。例えば、アンモニアは、窒素分子1つに水素分子が3つ付いており、多くの水素を貯蔵できる。さらに、水素と比べて、簡単に液化できるため、水素の貯蔵・輸送を行うために便利な物質として注目されている。

[用語4] 混合アニオン材料 : 例えば、金属酸化物の酸素サイトの一部が窒素や水素などの異種元素で置換され、複数のアニオンが存在する物質。

今回の研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。

JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ

研究領域:
「電子やイオン等の能動的制御と反応」
研究総括:
関根泰 早稲田大学 理工学術院 教授
研究課題名:
「ヒドリドイオンの光励起により駆動するアンモニア合成触媒の開発」
研究者:
東京工業大学 元素戦略研究センター 准教授 北野 政明
研究実施場所:
東京工業大学
研究開発期間:
平成30年10月~令和4年3月

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Low-Temperature Synthesis of Perovskite Oxynitride-Hydrides as Ammonia Synthesis Catalysts(アンモニア合成触媒のためのペロブスカイト型酸窒素水素化物の低温合成)
著者 :
Masaaki Kitano, Jun Kujirai, Kiya Ogasawara, Satoru Matsuishi, Tomofumi Tada, Hitoshi Abe, Yasuhiro Niwa, Hideo Hosono
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 元素戦略研究センター

准教授 北野政明

E-mail : kitano.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5191 / Fax : 045-924-5191

東京工業大学 元素戦略研究センター

栄誉教授 細野秀雄

E-mail : hosono@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5339

JST事業の事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部

グリーンイノベーショングループ

中村幹

E-mail : presto@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3525 / Fax : 03-3222-2066

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

マイクロ波を用いバイオマスの超急速熱分解を実現 精密制御の半導体マイクロ波発振器による高効率加熱

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要点

  • マイクロ波発振器とシングルモード型空洞共振器でバイオマスを高効率加熱
  • 稲わらを最大毎秒330 ℃で超急速に昇温し熱分解に成功
  • 共振周波数測定によりマイクロ波加熱中に急速熱分解による炭素化を観測

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の椿俊太郎助教、和田雄二教授らは産業技術総合研究所マイクロ化学グループの西岡将輝上級主任研究員とともに、マイクロ波[用語1]を用いてバイオマスの超急速熱分解に成功した。半導体式マイクロ波発振器[用語2]円筒型空洞共振器[用語3]を用い、マイクロ波の照射条件を精密制御してバイオマスに強電界を印加することにより、稲わらを最大毎秒330 ℃に急速昇温することができた。

従来のマグネトロン式のマイクロ波装置[用語4]を用いたバイオマスの熱分解では、バイオマスに集まる電界強度が低いため、マイクロ波の吸収性が高い熱媒体を添加する必要があった。今回は半導体式のマイクロ波を用いて高い共振状態を作り出すことにより、熱媒体を用いることなくバイオマスを600 ℃以上に急速昇温することができた。

研究成果は英国王立化学協会の「Green Chemistry(グリーン・ケミストリー)」オンライン版に11月22日(英国時間)に掲載された。

研究の背景

バイオマスの急速熱分解によって、合成ガス(一酸化炭素および水素の混合気体)、バイオオイル(タール)、バイオチャー(炭素材料)などの有用な化学物質を得ることができる。しかし、バイオマスは熱伝導率が低く、水分含有量が高いため、効率的に加熱するためにはバイオマスを微粉末化して熱伝導性を高めつつ、高温に加熱した熱媒体と接触させる必要があり、プロセスの効率向上が求められていた(図1A)。

マイクロ波加熱はバイオマスの加熱効率を高める方法として検討されてきた。だが、従来のマグネトロンを用いたマイクロ波加熱方式では高い電界強度を得ることができないため、マイクロ波吸収性のよい熱媒体として炭素やシリコンカーバイド(SiC)を添加する必要があった(図1B)。

そこで本研究チームは、半導体式のマイクロ波発振器を用いてマイクロ波の照射条件を精密に制御することにより、高強度のマイクロ波をバイオマスに集中し、熱媒体を用いることなく、省電力での急速なバイオマスの熱分解を検討した(図1C)。

従来の外部加熱方法およびマグネトロン式のマイクロ波加熱と、本研究における半導体式のマイクロ波を用いたバイオマスの加熱方法の比較
図1.
従来の外部加熱方法およびマグネトロン式のマイクロ波加熱と、本研究における半導体式のマイクロ波を用いたバイオマスの加熱方法の比較

研究成果

今回の研究ではバイオマスのモデル原料(セルロースとアルカリリグニン)と実際に排出されるバイオマス原料(稲わら)に対して、共振周波数[用語5]の自動追跡が可能な半導体発振式のマイクロ波加熱の効果を検証した。この装置を用いた場合、マイクロ波照射後12秒以内に稲わらが600 ℃以上に加熱され、最大の昇温速度毎秒330 ℃に達した(図2A)。

また、バイオマスの熱分解反応中に炭素化が進行する過程を共振周波数の変化を追跡することで、直接観測することができることを見出した。急速昇温が生じる間に共振周波数が大きく低下していることから、昇温に伴いバイオマスの急激な炭素化が進行していることが確認された(図2B)。

これらの結果から、半導体式のマイクロ波発振器を用いて高度に制御したマイクロ波を用いることにより、熱媒体を使用せずにマイクロ波のエネルギーをバイオマスに直接伝送し、超高速に熱分解できることを実証した。

半導体式マイクロ波装置を用いた稲わらの急速昇温。マイクロ波加熱時の(A)温度変化、および(B)共振周波数の変化
図2.
半導体式マイクロ波装置を用いた稲わらの急速昇温。マイクロ波加熱時の(A)温度変化、および(B)共振周波数の変化

今後の展開

今回、開発した技術は林地残材や農業残滓などのバイオマスだけでなく、プラスチックや食品、汚泥、医療系ゴミなどの廃棄物の分解にも応用することができる。今後、化石資源由来のエネルギーから太陽光や風力発電などによる再生可能エネルギーへの転換が期待されている中、マイクロ波加熱は電気エネルギーを用いて駆動することができる。クリーンなエネルギーを用いた効率的なマイクロ波加熱により、低消費電力で二酸化炭素の排出削減が可能なプロセスで未利用炭素資源から有用化合物が製造できるようになると期待される。

半導体式マイクロ波加熱装置を用いた未利用バイオマス資源から有用炭素化物の製造

図3. 半導体式マイクロ波加熱装置を用いた未利用バイオマス資源から有用炭素化物の製造

用語説明

[用語1] マイクロ波 : 電磁波の一種で周波数が300 MHz~300 GHzの帯域のものを指す。2.45 GHzは電子レンジでも利用される。

[用語2] 半導体式マイクロ波発振器 : 従来のマイクロ波の発振方式は、マグネトロン(電子管)式が主流であった。窒化ガリウム(GaN)などの半導体を用いた増幅器が開発され、省エネルギー化が可能なマイクロ波デバイスとして普及が進んでいる。

[用語3] 円筒型空洞共振器 : 内部に単一のマイクロ波の定在波が生じる、シングルモード型の空洞共振器。本研究ではTM010モードと呼ばれるモードが生じ、電場の最大点に試料を配置することで効率的な加熱が可能となる。

[用語4] マグネトロン式のマイクロ波装置 : いわゆる電子レンジと同じ構造をしたマルチモード型のマイクロ波加熱装置。庫内に単一のモードが存在しない。マグネトロンの発振周波数がブロードであることや、金属製羽根を用いて定在波を防ぐことにより、試料の均一な加熱が可能である。一方、加熱効率はシングルモード型に劣る。

[用語5] 共振周波数 : シングルモード型の空洞共振器の内部に生じる共振周波数。空洞共振器に非加熱物質を装荷した場合、共振するマイクロ波を入力することで高い加熱効率を得ることができる。共振周波数は温度や試料の化学的変化によって大きく変動する。入力するマイクロ波の周波数をダイナミックに変化させることで、高い加熱効率を維持することができる。

謝辞

本研究は環境研究総合推進費 革新研究開発(若手枠)「マイクロ波加熱を利用した未利用バイオマスの高速炭化システムの開発」のほか、科学研究費助成事業基盤研究(S)および若手研究(A)の支援を受けて実施した。

論文情報

掲載誌 :
Green Chemistry
論文タイトル :
Ultra-fast pyrolysis of lignocellulose using highly tuned microwaves: Synergistic effect of cylindrical cavity resonator and frequency-auto-tracking solid-state microwave generator
著者 :
Shuntaro Tsubaki, Yuki Nakasako, Noriko Ohara, Masateru Nishioka, Satoshi Fujii, Yuji Wada
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系
助教 椿俊太郎

E-mail : tsubaki.s.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3735/ Fax : 03-5734-2879

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

超高圧で合成される機能性酸化物の薄膜化に成功 新たな電気・磁気機能材料の開発につながる成果

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要点

  • 超高圧合成でしか得られなかった四重ペロブスカイト酸化物の薄膜化に成功
  • 堆積する下地の材料を変えながら格子に与える歪みを制御
  • 磁気異方性を変化させて垂直磁化を実現

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の重松圭助教、清水啓佑博士研究員、Hena Das(ダス・ヘナ)特任准教授、東正樹教授らの研究グループは神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)と共同で、マンガン・銅・セリウム・酸素からなる超高圧相[用語1]の酸化物(化学式:CeCu3Mn4O12)を高品質な薄膜として合成することに成功した。

実験による合成と第一原理計算[用語2]による予測によって、CeCu3Mn4O12薄膜の結晶格子に与える歪みの影響を調べ、面内に圧縮歪みを印加することで垂直磁化膜になることを発見した。垂直磁化膜は高記録密度磁気メモリーやスピントロニクス[用語3]に重要な特性であり、新たな電気・磁気機能材料の開発につながると期待される。

研究グループには上記のほか、東京工業大学 物質理工学院 材料系の山本一理、西久保匠の大学院生2氏と科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所のSergey A. Nikolaev(ニコラフ・エイ・セルゲイ)特任助教、神奈川県立産業技術総合研究所の酒井雄樹常勤研究員が参加した。

研究成果は10月22日に米国化学会誌「Applied Electronic Materials(アプライド・エレクトロニック・マテリアルズ)」のオンライン版に掲載された。

研究の背景

四重ペロブスカイト酸化物AA'3B4O12[用語4](図1)は、巨大常誘電性や電荷移動、負熱膨張特性や触媒機能、ハーフメタル特性といった興味深い物性が相次いで発見されている物質群である。四重ペロブスカイト酸化物は非常に密な構造をもつため、高圧合成法[用語5]による合成と相性が良く、近年、急速に研究が進んでいる。しかし、高圧合成法はコストが高く、また一回の合成で得られる量が限られているため、上記の機能を実用化するためには、より簡便な合成方法で高品質な材料を得る必要がある。

四重ペロブスカイト酸化物AA'3B4O12の結晶構造

図1. 四重ペロブスカイト酸化物AA'3B4O12の結晶構造

研究成果

研究グループは室温フェリ磁性体[用語6]であるマンガン・銅・セリウム・酸素からなる四重ペロブスカイト型酸化物(CeCu3Mn4O12)を、パルスレーザー堆積法[用語7]という手法を用い、薄膜形態にて作製した。基板の種類や結晶成長の温度などのパラメータを最適化した結果、ペロブスカイト酸化物YAlO3(アルミン酸イットリウム)基板上において高品質な薄膜が得られた。

また、得られた薄膜の磁気異方性[用語8]を調べたところ、薄膜面内で最も引っ張られている方向に強い一軸の磁気異方性が発現していることを発見した。加えて、第一原理計算によって、歪みを受けた薄膜と同じCeCu3Mn4O12結晶を再現し、その磁気異方性エネルギーを計算したところ、結晶格子が伸びた方向に磁化容易軸が向いたときにエネルギー的に有利であり、実験と合致する結果が得られた。これらの結果から、CeCu3Mn4O12薄膜に圧縮歪みを印加すれば、薄膜に垂直な方向が最も結晶方向が引き伸ばされ、垂直磁化膜となることが予想された。

圧縮歪みを受けたCeCu3Mn4O12薄膜を実現するためには、CeCu3Mn4O12よりも結晶格子が小さい物質を下地にする必要があるが、適する基板が存在しない。そこで、薄膜と基板の間に、より面内の格子定数が小さく、ペロブスカイトと類似した構造をもつYCaAlO4(アルミン酸イットリウム・カルシウム)をバッファ層[用語9]として挿入する工夫を施すことで、薄膜に印加する歪みを引張りから圧縮に切り替えることに成功した。この薄膜で磁気特性を調べたところ、面内方向の一軸磁気異方性が消失すると同時に面直方向の磁気異方性が強くなり、垂直磁化膜が実現していることが確かめられた。

四重ペロブスカイト酸化物AA'3B4O12の結晶構造
図2.
異なる下地を用いて格子歪みを制御したCeCu3Mn4O12薄膜の模式図(左)と磁化測定(右)。磁化測定は、図中で定義したabc軸に沿ってそれぞれ外部磁場を印加した結果である。このカーブが縦軸方向に長方形に近い形を示すほど磁化容易軸になる。YAlO3基板上のCeCu3Mn4O12薄膜は、最も強く引っ張られた面内a軸方向が磁化容易軸であるが、YCaAlO4層を挿入することでc軸が磁化容易軸に変わる。

今後の展開

四重ペロブスカイト酸化物の薄膜育成手法が確立したことで、巨大常誘電性や電荷移動、負熱膨張特性や触媒機能、ハーフメタル特性を持つ類似物質の大面積合成が可能となると期待される。また、格子定数の小さい化合物の層を挿入することで垂直磁化を実現する手法も、他の強磁性薄膜に応用可能と期待される。

用語説明

[用語1] 超高圧相 : 物質に圧力を加えると結晶構造(相)が変化するが、その中でおよそ1万気圧以上の高圧下で安定な相を指す。

[用語2] 第一原理計算 : 経験によらず、量子力学の基本原理に立脚して、物質の結晶構造や電子状態を予測する理論計算。

[用語3] スピントロニクス : 物質中の電子が持つ磁気モーメント(スピン)を制御しエレクトロニクスのように利用する研究分野。

[用語4] 四重ペロブスカイト酸化物 : 化学式AA'3B4O12で表記され、単純ペロブスカイト(化学式:ABO3)の4倍の化学式で表記される名称の由来となる。A'サイトを銅、マンガンなどの遷移金属元素が占め、Bサイトに含まれる遷移金属元素との相互作用によって複雑で特殊な性質が発現する。

[用語5] 高圧合成法 : 大気圧よりも高い圧力(無機物質では通常数万気圧以上)をかけることで、大気圧条件では合成できない様々な物質を得る合成方法。

[用語6] フェリ磁性体 : 物質中に大きさが異なる磁気モーメントが互いに反対方向に向いているが、完全に磁気モーメントが打ち消されず、物質全体として磁化を示す磁性材料。CeCu3Mn4O12では銅とマンガンが磁気モーメントを持つ。

[用語7] パルスレーザー堆積法 : 紫外パルスレーザーによって蒸発気化させた原料物質を基板上で反応させて薄膜を成長させる合成法。

[用語8] 磁気異方性 : 物質の磁化が特定の方向を向きやすい性質。結晶構造や磁性体の形状に由来する。

[用語9] バッファ層 : 薄膜作成の際に、下地の格子定数と大きく異なる物質を堆積させるため、格子定数の差を緩衝する目的で挿入される層。

付記

本研究の一部は、地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所・有望シーズ展開事業「次世代機能性酸化物材料プロジェクト」(リーダー・東正樹)との共同研究であり、文部科学省・科学研究費助成事業・基盤研究S「革新的負熱膨張材料を用いた熱膨張制御」(代表・東正樹東京工業大学教授)、若手研究B「軌道秩序が引き起こす巨大正方晶歪ペロブスカイトの薄膜合成」(代表・重松圭東京工業大学助教)、特別推進研究「光と物質の一体的量子動力学が生み出す新しい光誘起協同現象物質開拓への挑戦」(代表・腰原伸也東京工業大学教授)、Tokyo Tech World Research Hub Initiative、学際・国際的高度人材育成ライフイノベーションマテリアル創製共同研究プロジェクト、笹川科学研究助成、豊田理研スカラーの援助を受けて行った。

論文情報

掲載誌 :
Applied Electronic Materials
論文タイトル :
Strain Manipulation of Magnetic Anisotropy in Room-Temperature Ferrimagnetic Quadruple Perovskite CeCu3Mn4O12
著者 :
Kei Shigematsu, Keisuke Shimizu, Kazumasa Yamamoto, Takumi Nishikubo, Yuki Sakai, Sergey A. Nikolaev, Hena Das, and Masaki Azuma
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

助教(兼)神奈川県立産業技術総合研究所 非常勤研究員 重松圭

E-mail : kshigematsu@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5380 / Fax : 045-924-5318

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

教授(兼)神奈川県立産業技術総合研究所 プロジェクトリーダー 東正樹

E-mail : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315 / Fax : 045-924-5318

有望シーズ展開事業に関すること

地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 研究開発部 青木智子

E-mail : t-aoki@kistec.jp
Tel : 044-819-2034

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


Tokyo Tech-AYSEAS 2019 実施報告 インドネシアで5か国24名が交流

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東京工業大学の学生が東南アジアに滞在し、アジア各国の学生と交流し議論を深めるTokyo Tech-AYSEAS(東工大・アジア理工系学生派遣交流プログラム)が8月27日から9月6日まで、インドネシアで開かれました。今年は、バンドン工科大学(インドネシア)がホスト大学となり、東工大生11名に、バンドン工科大学、ガジャマダ大学(以上インドネシア)、デラサール大学(フィリピン)、キングモンクット工科大学ラカバン校(タイ)、ハノイ工科大学(ベトナム)からの参加学生13名が加わり、参加者は5か国から計24名となりました。

バンドン工科大学のキャンパスツアー

バンドン工科大学のキャンパスツアー

プログラム概要

Tokyo Tech-AYSEASは、東工大生が東南アジアの国に赴き、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム等現地・近隣諸国の大学生とともに、施設見学、ディスカッションを行う10日間の海外派遣プログラムです。インターカルチュラルコミュニケーションを通して、急速な発展段階にあるASEAN各国のダイナミズムを体感します。

AYSEASはAsia Young Scientist and Engineer Advanced Study Programの略語です。

インドネシアで開かれたAYSEAS 2019では、学生たちは先ず首都ジャカルタでアジアの大都市の活気を肌で感じたあと、学園都市バンドンに移り、涼しい気候の下、様々な活動に取り組みました。現地の日系企業やインドネシア企業、ODA事業の建設現場等を見学し、経済成長が続いているインドネシアの現状や、ASEAN諸国と日本との関係について学びました。

バンドンへ向かう列車
バンドンへ向かう列車

文化交流会
文化交流会

毎日行われるグループディスカッションでは、訪問先で得た知見に基づき、経済成長と格差、健康・医療と人口過多、技術移転の功罪、技術革新と国際競争、インドネシアの農業等、それぞれの国が抱える問題とその改善策について意見を交わし、最終日にプレゼンテーションを行いました。

休日には、インドネシア特産のコーヒー「コピ・ルアック」の製造所を見学したり、インドネシアの伝統楽器「アンクルン」のショーを鑑賞したりしました。他にも、参加学生5ヶ国の文化を紹介する文化交流会を行い、東南アジアの国々の歴史・文化への理解を深めました。10日間寝食を共にした仲間とは、国籍・文化・宗教の違いを超えて信頼関係を築き、強い絆を感じつつ現地を後にしました。

企業訪問
企業訪問

現地での最終報告会
現地での最終報告会

10月16日に、本学において帰国報告会を実施し、現地で行ったプレゼンテーションをさらに発展させ、本プログラムの成果として発表しました。その後、水本哲弥理事・副学長(教育担当)より、東工大の参加者全員に修了証書が授与されました。

スケジュール

6月 - 7月
国内学習(本学教員及び外部講師による講義、現地文化学習、荏原製作所藤沢工場見学、訪問先事前調査及びプレゼンテーション)
8月27日(火)
インドネシアへ出発、顔合わせ会
8月28日(水)
ノムラ・リサーチ・インスティテュート・インドネシア事業説明
GnBアクセラレータ事業説明、起業家によるシンポジウム
MPPプロジェクト(高層ビル)建設現場見学
8月29日(木)
鉄道でバンドンへ移動
バンドン工科大学にて開講式、キャンパスツアー
8月30日(金)
ケムコ・ハラパン・ヌサンタラ(ブレーキ部品)工場見学
味の素インドネシア工場見学
8月31日(土)
コピ・ルアック製造所、水上マーケット見学
9月1日(日)
アンクルン村見学
9月2日(月)
文化交流会
9月3日(火)
パティンバン港開発事業(アクセス道路・新港)現場見学
9月4日(水)
アストラ・ホンダ・モーター工場見学
海外協定校学生向け留学説明会
9月5日(木)
最終プレゼンテーション、閉会式
9月6日(金)
日本へ帰国
10月16日(水)
帰国報告会

AYSEAS 2019参加大学

日本 : 東京工業大学

インドネシア : バンドン工科大学(ホスト大学)、ガジャマダ大学

タイ : キングモンクット工科大学ラカバン校

フィリピン : デラサール大学

ベトナム : ハノイ工科大学

参加学生の体験談

多々見理緒さん(生命理工学院 学士課程1年)

大学初めての夏休みをどう過ごそうか、そう考えているときにこのTokyo-Tech AYSEASプログラムに出会いました。英語力の向上はもちろん、視野を広げ海外の友人も作りたい、そんな思いから参加を決めました。AYSEASは、ホスト大学のキャンパスツアー、企業訪問、工場見学、ディスカッション、プレゼンテーションなど、盛りだくさんの内容が短期間にぎゅっと詰まったプログラムでした。今回、いろいろな方からお話を伺うことができ、とても貴重な経験になりました。インドネシアをはじめとする参加した国内外の学生達は皆とてもフレンドリーかつ個性的でした。おかげで何気ない会話もはずみ、一緒に過ごすうちに緊張がほぐれて、自然と英語力が身についてきたと思います。

海外の学生達とのディスカッションでは文化、立場、考え方の違いを感じ、とても刺激を受けました。また、私がインドネシアについて調べてわかっていたつもりのことも、異なる立場から見れば違うのだということを身をもって感じました。最終日のプレゼンテーションではチームごとに内容だけでなく、中には発表方法にもオリジナリティーがあるものがあり、魅せる見せ方についての新たな視点を得ることができました。今後はこうしたディスカッションのテクニックや内容の深め方についてもスキルアップしていきたいと思います。

ありがとうございました!Terima Kasih!

コピ・ルアック製造所見学
コピ・ルアック製造所見学

プレゼンテーション終了後の集合写真
プレゼンテーション終了後の集合写真

久保田健太さん(工学院 機械系 学士課程2年)

昔から海外留学に興味があって「英語力を向上させたい!」、「海外に友達作りたい!」と思っていたところ、偶然このAYSEASを見つけました。正直最初はプログラムの内容もよくわかっていませんでしたし、留学に対する恐怖は少なからずありましたが「勢い」で応募しました。

プログラムの内容は「ホンダ」や「味の素」など誰もが一度は聞いたことがあるような、日本の大企業の工場を見学したり、現地で活躍している日本人の方のお話を聞いたり、プレゼンテーションをしたりなど枚挙にいとまがありません。本当に濃密です。

ただ一番自分の記憶に残っているのは海外の学生と交流した時間です。AYSEASには派遣先(インドネシア)以外からも様々な国から学生が来ます。実際に僕のルームメイトはタイ人で彼とは11日間同じ部屋で過ごしました。会った初日はなかなか打ち解けることができなかったのですが、一緒に過ごしているうちにどんどん仲良くなることができました。最後の別れは本当につらくて、まだ誰にも言っていませんが、バスで泣きそうになっていました(笑)。彼らとは今でも連絡を取り合っています!

たった11日間という短い期間ではありますが、民族や国、文化の壁は崩れ去り、個人的には宗教の壁が粉々に壊れました。またお金を貯めて留学へ行きたいと思います。

バンドンの洒落た通りでの記念撮影
バンドンの洒落た通りでの記念撮影

バンドン郊外のレストランでの様子
バンドン郊外のレストランでの様子

松江博文さん(物質理工学院 材料系 学士課程4年)

色々な国から来たメンバーとのふれあいはTokyo Tech-AYSEASの大きな特徴の一つです。今回の留学先はインドネシアでしたが、参加メンバーは東工大生とインドネシア人学生だけではなく、ベトナムやフィリピンやタイから来た学生もいました。

訪問先が東南アジアの非英語圏の国であるのにもかかわらず、メンバー同士のコミュニケーションは基本的に英語で行われます。このような環境で、自分と同じ非英語圏出身の人と英語で交流ができ、英語圏出身の人々とは異なるコミュニケーションのとり方が体験できました。

工場の製造プロセスを見学した時は、自分が大学で学んだ知識が色々なところで役に立っていることがわかりました。また、最終日のプレゼンテーションのための参考文献の検索やスライド作りに、研究室で学んできたことが役立ち、達成感を得ました。

Tokyo Tech -AYSEAS2019のリーダーを務めて最も心に残ったことは、参加者24人がプログラム終了までにすばらしい友情を築けたことです。

パティンバン港見学
パティンバン港見学

コーヒーショップで仲間とおしゃべり
コーヒーショップで仲間とおしゃべり

お問い合わせ先

学務部留学生交流課交流推進第1グループ

E-mail : ayseas@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3433

2019年度「東工大学生リーダーシップ賞」授与式挙行

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2019年度の「東工大学生リーダーシップ賞」授与式が、10月29日に学長室で行われました。

授与式後、益学長(前列中央)と受賞学生

授与式後、益学長(前列中央)と受賞学生

この賞は、本学学士課程の2年目から4年目の学生を対象とし、学生の国際的リーダーシップの育成を目的としています。知力、創造力、人間力、活力など、リーダーシップの素養に溢れる学生を表彰し、さらなる研鑽を奨励するために平成14年度から実施されています。

授与式では、益一哉学長から学生6人に賞状の授与と副賞の贈呈が行われました。授与式終了後は、学長、理事・副学長と受賞者で歓談しました。

今回表彰された学生は以下の通りです。

2019年度「東工大学生リーダーシップ賞」受賞者

所属・学年
氏名
主な受賞理由
工学院
システム制御系 4年
木村 亮仁
  • 国際開発サークルでの義足開発プロジェクトにおける主体的な活動
  • グローバル人材育成フォーラム2016における学生英語プレゼンテーション大会でチームリーダーを務め、優勝
  • VRを用いた小学生向け宇宙教室を主催
工学院
経営工学系 3年
林 雪佳
  • 2017年度「一日東工大生」の司会進行・学生代表としての活動
  • 体育会ハンドボール部マネージャー代表としての活動
  • 子ども食堂(ボランティアグループ)の企画・参加
  • 海外研修(TASTEプログラム)に参加、最終プレゼンテーションにて最高成績
生命理工学院
生命理工学系 4年
藤田 創
環境・社会理工学院
建築学系 3年
長谷川 翔紀
  • Mars City Design Competition 2019に宇宙建築学サークルTNLとして作品を提出し、ファイナリストに選出
  • NASA及びヒューストン大学でのイベントに宇宙建築学サークルTNL代表として参加
  • 評論クラブ部長としての活動
環境・社会理工学院
融合理工学系 4年
小林 萌
  • デンマーク工科大学への留学、インターンシップ先(北欧研究所)での活動
  • 国際交流学生会SAGEにおいて、東京オリエンテーリング、SAGE Special survivalのプロジェクトリーダーとして活躍
  • トライアスロン部の部長としての活動
環境・社会理工学院
融合理工学系 4年
Maythawee Ratchatawijin
  • 在日タイ留学生協会TSAJにおいて、研究発表会の企画責任者として活躍
  • サイエンス・コミュニケーション・インターンシップ(ロンドン)、ワシントン大学の短期プログラム、ジョージア工科大学との連携プログラムへ主体的かつ積極的に参加

受賞した学生 左から、Maythawee Ratchatawijinさん、小林萌さん、長谷川翔紀さん、藤田創さん、林雪佳さん、木村亮仁さん

受賞した学生 左から、Maythawee Ratchatawijinさん、小林萌さん、長谷川翔紀さん、藤田創さん、林雪佳さん、木村亮仁さん

お問い合わせ先

学務部 教務課 総務グループ

Tel : 03-5734-3003
E-mail : kyo.som@jim.titech.ac.jp

益学長が、アジア工科大学院の創立60周年記念式典及び大学学長フォーラムに出席

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ウーン学長(AIT)と益学長
ウーン学長(AIT)と益学長

本学と全学協定を結んでいるアジア工科大学院(タイ、以下AIT)の創立60周年記念式典が10月24日に開催され、益一哉学長が出席しました。益学長は、続いて行われた大学学長フォーラムのパネルディスカッションにも参加しました。

式典には、世界各国32の大学・研究機関からの参加者に加え、AITの卒業生であるシリントーン王女殿下も出席されました。AITのエデン・Y・ウーン学長は、式典の挨拶で「どんな組織も過去の栄光にこだわり旧来のやり方にとらわれたままでは成功はあり得ない、AITは様々な新しい取り組みを通して、今後も研究・教育の分野で発展していく」と述べました。

記念式典に引き続き行われた大学学長フォーラムでは、“How university collaborates globally with academia, governments, multinationals, and non-profit organizations in social impact research(社会に変革をもたらすような研究において、大学は教育機関・政府・多国籍企業・非営利団体等とどのように国際的連携をはかれるか)”というテーマのもと、参加大学の学長が各大学の取組やアイデアなどを議論しました。益学長は理工系の学生にこそ、専門教育に有機的に関連付けられた教養教育が必要であると話し、本学におけるリベラルアーツ教育について紹介をしました。益学長の講演は参加者からの高い関心を集め、講演後には積極的な質問が出ました。

本学のリベラルアーツ教育について説明をする益学長(右から2人目)

本学のリベラルアーツ教育について説明をする益学長(右から2人目)

(左)プラシット理事(NSTDA)、(中央)ツバセタクル副長官(NSTDA)、益学長
(左)プラシット理事(NSTDA)、
(中央)ツバセタクル副長官(NSTDA)、益学長

翌25日には、タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)を訪問し、Tokyo Tech ANNEX Bangkok(東工大アネックスバンコク)を通じた今後ますますの教育・研究交流・社会連携向上の可能性について、チャダマス・ツバセタクル副長官と懇談を行いました。

その後、在タイ日本国大使館で、佐渡島志郎特命全権大使と面談を行い、タイにおける本学の教育・研究活動について説明をし、来年2020年3月9日(月)にバンコクで行われるリサーチ・ショーケースの紹介を行いました。

さらに26日に、益学長と蔵前工業会の小倉康嗣業務執行理事、鈴木規子国際部長がタイ蔵前会の総会に参加し、タイ国内の本学卒業生と親睦を深めました。本学同窓会であるタイ蔵前会は、タイの本学卒業生のネットワーク化のために1990年に設立され、同窓生の交流を深めています。総会では、益学長より「東工大の新しい取り組みとキャンパスの変化」について紹介があり、同窓生からは高い関心が寄せられました。

タイ蔵前総会での集合写真

タイ蔵前総会での集合写真

お問い合わせ先

国際部 国際連携課

E-mail : kokuren.kik.cho@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2982

東工大 工系学生国際交流プログラム 2020年度説明会 2019年度留学報告会

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東京工業大学の工系3学院は海外の大学に学生を派遣する「工系学生国際交流プログラム」を進めています。2020年度の派遣募集説明会および2019年度夏季に留学した学生による報告会を11月6日、大岡山キャンパス本館で開催しました。

工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の3学院は、国際的感覚を持つ工学を専門とする高度技術者を養成するため、所属学生を海外の大学等に派遣する支援を合同で行っています。この学生国際交流プログラムは、海外で様々な国の研究者や学生と共に研究を行うことで専門性を深め、さらには、より広範な先端科学技術と知識を学びながら異文化に触れることで、学生自身の修学意欲の一層の向上と国際意識の涵養を図ることをねらいとして実施しています。

工系国際交流委員会主査の竹村准教授による募集説明
工系国際交流委員会主査の竹村准教授による募集説明

グローバル人材育成推進支援室の太田特任教授による「グローバル理工人育成コース」上級の説明
グローバル人材育成推進支援室の太田特任教授による
「グローバル理工人育成コース」上級の説明

前半に行われた募集説明会では、工系国際交流委員会主査の竹村次朗准教授(環境・社会理工学院 土木・環境工学系)がプログラムの概要ならびに、この日から募集開始となった2020年度の夏期派遣について説明を行いました。また、グローバル人材育成推進支援室 太田絵里特任教授から、当プログラムによる留学は、科学・技術の力で世界に貢献する人材の育成を目的とする教育カリキュラムである「グローバル理工人育成コース」上級の修了要件の一部を満たす、との説明がありました。

後半には2019年度の工系留学報告会が行われました。これは、当プログラムで2019年夏季・秋季に短期留学した学生が履修対象となっている講義「国際研究研修」の一環として実施されたものです。

派遣先大学と発表者(計11名)は以下の通りです。(順不同、敬称略)

派遣先大学
発表者(所属・学年は発表当時)
留学期間
アーヘン工科大学(ドイツ)
木村直人(工学院 機械系 博士課程2年)
2019年6月~8月
丸一優理子(物質理工学院 応用化学系 修士課程2年)
2019年6月~9月
オックスフォード大学(英国)
伊藤由実子(物質理工学院 応用化学系 修士課程2年)
2019年7月~9月
呉晗(物質理工学院 応用化学系 修士課程2年)
2019年7月~8月
ケンブリッジ大学(英国)
芦葉舞(物質理工学院 材料系 修士課程1年)
2019年6月~9月
カールスタード大学(スウェーデン)
岡朋宏(工学院 機械系 修士課程2年)
2019年6月~9月
加藤千尋(物質理工学院 材料系 修士課程1年)
2019年6月~9月
ソルボンヌ大学(フランス)
金旻宣(物質理工学院 応用化学系 修士課程2年)
2019年5月~7月
マドリード工科大学(スペイン)
松島弘樹(環境・社会理工学院 建築学系2年)
2018年8月~2019年8月
カリフォルニア大学サンタバーバラ校:UCSB(米国)
蒲田瑞季(物質理工学院 応用化学系 修士課程1年)
2019年6月~9月
ハワイ大学マノア校(米国)
角廣泰生(環境・社会理工学院 融合理工学系1年)
2019年6月~9月

報告会では、留学経験者が留学生活について英語で発表を行いました。

留学経験者の報告

物質理工学院 応用化学系の伊藤由実子さん(修士課程2年)/ オックスフォード大学留学

留学ではアウトプットも大切

今回、私は留学環境に大変恵まれ、研究室にも寮にも日本人が1人もいない環境で2ヵ月半過ごしました。そして、日本の文化や政治、歴史など多くの事柄について興味を持ち尋ねてくれる人に多く出会い、日本の生活について話したり、他のアジア諸国との違いを話したりする機会が頻繁にありました。

その中で、私は現地の多くの人にとって、唯一の日本人の友達となったため、自分の話す内容や態度までもが日本人全体の印象となり得ると感じていました。仮に、日本人に関してネガティブな印象を与えたとしたら、次に来る日本人留学生をまともに扱ってくれなくなるかもしれません。日本という国に対してもネガティブな印象ができてしまえば、彼らが日本の科学技術や産業を見る目も変わってしまうかもしれません。大げさではありますが、日本を背負っているのだという思いがいつも頭の片隅にあり、世の中で起きていることをより大きな視点で考えた上で、自分の考えを伝えるよう意識するようになりました。

また、派遣先の研究所では日本製の実験装置も多く使われており、中には30年以上経った今も壊れる事なく精密なデータを提供している装置があることに驚きました。そして、そのような日本の技術力を守り発展させていくには、国内で研究活動が活発に行われているだけでなく、新たな技術を多くの場所で利用されるよう発信する取り組みも必要ではないかと感じました。国際化が進み、また情報に溢れる今の社会では、個人の小さな出来事さえも大きな反響を呼び、ちょっとした印象が世の中の流れを大きく変えることもあり得るようになりました。私たちの些細な行動や発言が誰かの考え方を変え、それが広まることもあるかもしれません。得意不得意に関わらず様々な情報に触れ、必要なタイミングで意見できることの重要性を感じました。

留学は、これまでと全く異なる環境に身を置くことで、学業や文化、さらには人生について新たに学ぶ、インプット重視の経験という印象がありました。しかし今回の派遣を経て、留学では必要な時にきちんとアウトプットすることも大切だと強く感じました。その際にまず重要なのは、語学に優れていることでも博学であることでもなく、諦めずに自分の考えを伝え、相手の意見を聞き、互いを良く知ろうとする積極的な姿勢だと思います。これから留学する皆さんには、ぜひ日本を代表する意気込みで渡航して欲しいです。その先にはきっと眼を見張るような世界が待っていますよ!

研究室のメンバーと(前列最右が伊藤さん)
研究室のメンバーと(前列最右が伊藤さん)

オックスフォードの眺め
オックスフォードの眺め

物質理工学院 材料系の加藤千尋さん(修士課程1年) / カールスタード大学留学

日本から出たことのない私にはすべて新鮮

そもそも私は海外に行くのはこれが2回目で、プライベートでの海外旅行に行ったことがなく、海外に対する馴染みが全くといっていいほどない方だったと思います。

今回留学して最もよかったことは、自分が外国人という自覚をもった上で現地の生活をこなせたことでした。今まで日本で生活している間は自分が大多数に属していて、なんとなく絶対的な安心感の中で生きてきました。はじめて外国人という立場で母国語が英語ではない国で生活してみて、些細ながらも様々な場面で困ることや不安に思うことが多々ありました。

たとえば洗濯機がうまく動かなくなってしまったとき、エラーがスウェーデン語表記で出てきます。わからない。電車に乗るとき、遅延した際の放送がスウェーデン語。わからない。生活圏が田舎だったこともあり人に聞いても英語が話せない方もいて、日本では直面しないような場面に何度もあいました。また当然文化の違いもあり、日本で当たり前だと思っていたことが決して当たり前ではないということをまじまじと思い知らされました。それは実際に生活してみないと分からないことであり、ほとんど日本から出たことのない私にとってそれらはすべて新鮮でしたが、受け入れて生活することができました。また英語圏ではない国であるからこそ、英語がより身近に感じられるほか、現地の言葉にも愛着を持てるようになりました。大変ではありましたが、非常に良い経験になったと思います。

研究面でも収穫がありました。私が東工大で行っている研究は材料工学の分野で実際に手を動かして実験を行いますが、今回の研究はシミュレーションのためのコードをいじったり、お金の計算をしたり、ずっとパソコンの前でデスクワークをする研究で、普段とは全く違うタイプの研究をすることができました。実際やってみて分かったのですが、私は手を動かして実験するほうが好きです。今まで何が好きなのかよくわからないあやふやな部分がありましたが、一度離れて違う研究をすることで自分を見つめ直すことができました。また全く分野の違う人に自分の研究を伝えることの難しさも痛感し、より自分の研究をわかりやすく伝えたいという気持ちにもなりました。

3ヵ月という期間は私にとってちょうどいい長さの留学でした。渡航前は、一度も親元を離れずに育ってきた私にとって割と長い期間だと思っていましたし、正直不安も大きかったです。実際過ぎてみると本当に一瞬のように感じますが、思い返してみると経験したことはかなりたくさんありました。そして様々な場面で多くの人に支えられた留学生活でした。

地元新聞に掲載(左が加藤さん、右が岡さん)
地元新聞に掲載(左が加藤さん、右が岡さん)

カールスタード大学入口
カールスタード大学入口

工学院 機械系の木村直人さん(博士後期課程2年)/ アーヘン工科大学留学

研究所に雇用される修士・博士課程の学生

アーヘン工科大学では、日本における研究室にあたるものはInstitute(研究所)と呼ばれており、日本の研究室よりもずっと大きな規模を持っています。私の派遣先のIGMR(Institute of Mechanism Theory, Machine Dynamics and Robotics)では、建物1つを研究所が所有し、そこで多くの学生が機構学、機構のダイナミクス、ロボティクス(ロボットの動作計画やセンシング等)といった幅広いテーマで研究を行っています。

日本の研究室とは異なり、研究所における研究の主体は十数人の博士課程の学生たちです。彼らは研究所に雇用される形で給料を得ており、その分学生の指導や産学連携プロジェクト等、博士論文研究と異なる仕事もこなしています。一方、修士課程の学生はリサーチ・アシスタント(研究助手)として雇用され、博士課程の学生の研究の手伝いをしています。このようなシステムであるがゆえ、彼らにとっての研究のモチベーションは「学び」というよりはむしろ「仕事」です。そのため、彼らはまるで会社で働くがごとく、朝早く研究所に来て、定時には帰宅します。私も、日本にいた頃とは異なり、彼らに合わせてこのような規則正しい研究生活を送ることになりました。1日に研究できる時間が決まっているものの、それがかえって気を引き締めることになり、研究に集中できました。また、研究を行うオフィスは、2~3人ごとに割り当てられる個室であるため、研究に集中しやすい非常に良い環境でした。そのため、3ヵ月という短期間でもそれなりに研究成果を出すことができました。

私が在籍している東工大の研究室では、博士後期課程学生も研究室のミーティングでプレゼンを行い、研究に関するフィードバックを教授から直接受けることができます。しかし、派遣先の研究所では、博士課程の学生が教授から直接そのような指導を受けることは少ないそうです。そのため、学生間で研究のディスカッションがよく行われています。私も研究がうまくいかなくなった時は、同じ専門分野の博士課程の学生たちとディスカッションを行っていました。専門分野に関して互いにディスカッションする博士課程の仲間がたくさんいる環境は私にとって非常に心地よく、また羨ましく感じました。

研究室の仲間とランチ(左から2番目が木村さん)
研究室の仲間とランチ(左から2番目が木村さん)

ポーランド クラクフで開催された国際会議(IFToMM World Congress)での口頭発表
ポーランド クラクフで開催された国際会議
(IFToMM World Congress)での口頭発表

工系国際交流委員のクロス・ジェフリー教授(環境・社会理工学院 融合理工学系)による閉会の辞
工系国際交流委員のクロス・ジェフリー教授
(環境・社会理工学院 融合理工学系)による閉会の辞

本イベントは、留学プログラムについての理解を深めるとともに、帰国して間もない留学経験者からの新鮮な現地情報や感想に触れることができる機会でした。本プログラムへの応募を検討している学生も積極的に質問し、意見交換や情報交換が活発に行われました。

参加者に配布したアンケートには「留学に対してのイメージがつかみやすかった」「プレゼンターが全員楽しそうに発表している姿に感化された」「研究について違った側面から考えることができるのは素晴らしい」といった感想もあり、留学を検討している学生にとって、大変有意義な時間となりました。

夏期派遣は一年の中でも特に人気があります。その理由としては、(1)夏季休暇を利用できるため、本学でのカリキュラムとの調整がしやすい、(2)留学やその準備が就職活動等と両立して進められる、(3)年に1回のみの募集および派遣の対象である3学院夏期短期学生交流プログラム(Summer Exchange Research Program:SERP)が含まれ、ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、カリフォルニア大学サンタバーバラ校などの欧米先進大学へ留学できること等が挙げられます。工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の3学院は、欧米や豪州・アジアの有力大学との学生国際交流協定締結を推し進め、派遣先の質と量を確保できるように活動を拡大しています。

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お問い合わせ先

工系国際連携室

E-mail : ko.intl@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3969

留学生の日本語学習をサポート ―学生パートナーも参加する「にほんご相談室」活動報告―

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日本語をもっと上手に話したい。分からないことばの使い方を教えてほしい。気軽におしゃべりしたい。東京工業大学に留学している外国人学生は38ヵ国・地域から1,700人を超えています。日本語を使いこなすことは留学生活のベースです。そんな留学生を応援する「にほんご相談室」が開設から1年たち、新たに話し相手のパートナーとして本学学生も加わる仕組みを始めました。留学生は1対1あるいは少人数で学生パートナーと会話を楽しみながら日本語を身に着けています。

ランゲージパートナーと留学生の交流

東工大リベラルアーツ研究教育院の日本語セクションは、留学生の日本語学習支援を目的とした「にほんご相談室」を2018年度後期から実施しています。当初は、教職員のみによる支援でした。利用者の増加に伴い、2019年度後期から本学学生もランゲージパートナーとして活動に参加しています。現在、大岡山キャンパス大岡山西1号館にある留学生ラウンジで毎週水曜日と木曜日(12:30 - 14:00)に開き、日本語学習に関するアドバイス、日本語での会話練習や文章添削など様々な要望に応えています。

ランゲージパートナーと留学生の交流
ランゲージパートナーと留学生の交流

教員に質問
教員に質問

ランゲージパートナーからのメッセージ

工藤美奈子さん(環境・社会理工学院 社会・人間科学系 修士課程2年)

タイやアメリカで日本語を教えていた経験があり、現在も留学や国際交流に興味があるので活動に参加しています。東工大には世界中から留学生が来ていることに驚きました。身近な場所で留学生と交流ができ、知り合いが増えていくのが嬉しいです。にほんご相談室では、日本文化についてよく質問されるのですが、日本人の自分でも知らないことがたくさんあるので、留学生と一緒に調べながら楽しく話しています。

タイムール・ハンドークさん(環境・社会理工学院 社会・人間科学系 修士課程1年)

自国のヨルダンでは日本語教師として活動していたので、にほんご相談室の活動を通じてまた日本語教育と携わることができて本当に嬉しく思います。にほんご相談室の一番いいところは、自分も他の留学生の国や文化を知ることができて、貴重な学びの機会を得ていることです。留学生が気軽に日本語で会話したい時や少し深い学びをしたい時に足を運んでほしいです。

米倉玲奈さん(理学院 数学系 学士課程3年)

私は主に日本語の会話の練習を担当しています。みんな日本語のレベルが違う中で自分のできる限りの表現を駆使して会話を練習しています。会話の中では参加者それぞれの母国の文化や食事を話題にすることが多く、その都度、本やテレビからは知り得ない今まで知らなかったことにたくさん出会うことができました。留学生の方々だけでなく、にほんご相談室を通して私も日々学ばせてもらっています!

ランゲージパートナーのみなさん(左から工藤さん、タイムールさん、米倉さん)

ランゲージパートナーのみなさん(左から工藤さん、タイムールさん、米倉さん)

「にほんご相談室」を利用している留学生の声

  • 日常生活で日本語を使う自信がないので、にほんご相談室で練習できて、参加するのが楽しい。
  • 日本語で話す機会ができて嬉しい。レベルに合わせて話してくれるので理解できる。
  • 説明が分かりやすい。利用可能な時間数や曜日が増えたら、もっと通いたい。
  • ランゲージパートナーがいて、日本語の専門の先生にも見てもらえるので、安心した。
  • 日本語の授業が週1回なので教室以外は自分で勉強している。一人で勉強すると時間がかかることでも、にほんご相談室では先生に教えてもらえて効果があると感じている。

にほんご相談室

にほんご相談室

運営担当教職員からのメッセージ

佐藤礼子准教授

森田淳子准教授

小松翠講師

若松史恵非常勤講師(にほんご相談室ランゲージパートナー)

野原由季子事務支援員(留学生交流課)

本学における留学生の増加や「教室以外でも日本語に関する質問や相談ができる場所があれば嬉しい」という声を受け、「にほんご相談室」を開始しました。少しずつ利用者が増え、できるだけ一人一人の要望に応えるため、本学学生にランゲージパートナーとして活動に参加してもらうことになりました。留学生は、ランゲージパートナーと日本語での会話練習、教員に日本語学習相談や質問など、目的に応じて利用しています。会話と笑顔が溢れるアットホームな空間です。今後も、留学生・日本人学生の双方を国際的な人材に育む教育の場を提供していきたいと思います。

教職員

教職員

※試験期間中や年末年始など「にほんご相談室」のお休みについては、留学生メールニュースouterでお知らせしています。

にほんご相談室 チラシ

にほんご相談室 チラシ

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お問い合わせ先

東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 日本語セクション

Tel : 03-5734-2679

E-mail : nihongo@js.ila.titech.ac.jp

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