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新材料の“温めると縮む”効果、2つのメカニズムの同時発生で高まることを発見 精密位置決めが必要な工程に対応

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要点

  • 電荷移動と極性−非極性転移が同時に起こることで負熱膨張が増強されることを発見
  • 通信や半導体分野で利用できる熱膨張しない新たな物質の開発に道

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の西久保匠大学院生、酒井雄樹特定助教(神奈川県立産業技術総合研究所常勤研究員)、東正樹教授らの研究グループは、ニッケル酸ビスマス(BiNiO3)と鉄酸ビスマス(BiFeO3)の固溶体[用語1]において、金属間電荷移動[用語2]極性−非極性転移[用語3]という2つの異なるメカニズムが同時に起こることによって、温めると縮むという負熱膨張[用語4]が増強されることを発見した。

負熱膨張材料は、光通信や半導体製造装置など精密な位置決めが求められる局面で、構造材の熱膨張を打ち消した(キャンセルした)ゼロ熱膨張物質を作製するのに使われる。今回の成果は、特性がより安定した負熱膨張材料の設計につながると期待される。

研究成果は11月18日付で米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に掲載された。

研究グループには東工大の前林航紀、今井孝、尾形昂洋、横山景祐の大学院生4氏と沖本洋一准教授、腰原伸也教授、近畿大学の岡研吾講師、高輝度光科学研究センターの水牧仁一朗主幹研究員、量子科学技術研究開発機構の綿貫徹次長、町田晃彦上席研究員、九州大学の北條元准教授、早稲田大学の溝川貴司教授が参加した。

本研究成果をもとに作成されたデザインイラスト

本研究成果をもとに作成されたデザインイラスト

研究の背景

ほとんどの物質は温度が上昇すると、熱膨張によって長さや体積が増大する。光通信や半導体製造などの精密な位置決めが要求される局面では、このわずかな熱膨張が問題になる。そこで、昇温に伴って収縮する“負の熱膨張”を持つ物質により、構造材の熱膨張を補償(キャンセル)することが試みられている。

これまでに、反強磁性転移[用語5]、電荷移動、強誘電転移[用語6]などの相転移が負熱膨張の起源となることがわかってきた。しかしながら、複数のメカニズムが同時に起こることで負熱膨張を示す例はなかった。

ニッケル酸ビスマスは「Bi3+0.5Bi5+0.5Ni2+O3」という特徴的な電荷分布を持つペロブスカイト型酸化物[用語7]である。ビスマスの一部を希土類元素やアンチモン、鉛で、またはニッケルの一部を鉄で置換すると、昇温によってBi5+とNi2+の間で電荷の移動が起こるようになり、ニッケルが2価から3価に酸化される。この際、ニッケルと酸素の間の結合が収縮するため、結晶格子全体が約3%縮む。一方、代表的な強誘電体であるPbTiO3(チタン酸鉛)では、極性の構造を持つ強誘電相から非極性の常誘電相への転移に伴い、約1%体積が収縮することが知られている。最近注目を集めている強誘電体にBiFeO3(鉄酸ビスマス)がある。

研究グループはすでに、ニッケル酸ビスマスと鉄酸ビスマスの固溶体が、金属間電荷移動によって巨大な負熱膨張を示す事を発見し、2015年2月に発表した[参考文献1]

また、ニッケル酸ビスマスとニッケル酸鉛の固溶体が組成に応じて、金属間電荷移動と極性-非極性転移のいずれかのメカニズムによって負熱膨張を示す新材料であることを発見し、2019年6月に発表した[参考文献2]

研究成果

本研究では、[参考文献1]と同じ固溶体について、鉄置換の量を増やした場合の結晶構造と電子状態の変化をさらに詳細に解析した。ニッケル酸ビスマスと鉄酸ビスマスの固溶体「BiNi1-xFexO3」を作成し、第二高調波発生[用語8]大型放射光施設SPring-8[用語9]のビームラインBL02B2での放射光X線回折実験[用語10]、BL22XUでの放射光X線全散乱データPDF解析[用語11]、そしてBL09XUでの硬X線光電子分光実験[用語12]を組み合わせて、解析を行った。

この解析の結果、0.05 ≤ x ≤ 0.15(xは鉄置換量)では、ビスマスとニッケル間の電荷移動による負熱膨張のみが観測された。一方、0.20 ≤ x ≤ 0.50では、PbTiOM3と同様の、極性から非極性の結晶構造転移が電荷移動と同時に起こっており、そのために負熱膨張が増強されていることがわかった(図1)。

BiNi1-xFexO3の負熱膨張メカニズム。0.20 ≤ x ≤ 0.50では、サイト間電荷移動と極性―非極性転移が同時に起こることにより、負の熱膨張が増強される。
図1.
BiNi1-xFexO3の負熱膨張メカニズム。0.20 ≤ x ≤ 0.50では、サイト間電荷移動と極性―非極性転移が同時に起こることにより、負の熱膨張が増強される。

BiNi1-xFexO3の鉄置換では、低温で2価が安定なニッケルを、3価が安定な鉄で置換するため、鉄置換量が増えるのに伴って、電荷移動に寄与する低温相のNi2+の量は減少する。このため、低温相から高温相へ変化する場合の体積収縮の割合は、x = 0.05で2.8%であるのに対し、x = 0.15では2.5%と減少する(図2)。この減少ペースでいくと、x = 1.0では負熱膨張による体積収縮が消失することが予測される。しかし実際には、0.20 ≤ x ≤ 0.50では極性−非極性転移が電荷移動と同時に起こるため、負熱膨張が増強され、鉄置換量が増えても体積収縮は2%と一定であった(図2)。鉄置換量を変化させても体積収縮の割合が変化しないことは、負熱膨張材料の特性が安定することを意味する。

負熱膨張による体積収縮の割合。xは鉄置換量を示す。0.05 ≤ x ≤ 0.15では、電荷移動による負熱膨張が起こるが、鉄置換に伴って体積収縮の割合が減少する。一方、0.20 ≤ x ≤ 0.50では極性−非極性転移が同時に起こるため、負熱膨張が増強され、体積収縮の割合が一定になっている。
図2.
負熱膨張による体積収縮の割合。xは鉄置換量を示す。0.05 ≤ x ≤ 0.15では、電荷移動による負熱膨張が起こるが、鉄置換に伴って体積収縮の割合が減少する。一方、0.20 ≤ x ≤ 0.50では極性−非極性転移が同時に起こるため、負熱膨張が増強され、体積収縮の割合が一定になっている。

今後の展望

今回の成果では、単一の材料で、電荷移動と極性−非極性構造転移という異なるメカニズムでの負熱膨張が同時に実現し、それによって負熱膨張が増強することが確かめられた。複数のメカニズムを組み合わせることの有用性が示されたことで、今後の負熱膨張材料の設計指針構築につながると期待される。

付記

本研究の一部は、地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所・有望シーズ展開事業「次世代機能性酸化物材料プロジェクト」(リーダー・東正樹)との共同研究であり、文部科学省・科学研究費助成事業・基盤研究S「革新的負熱膨張材料を用いた熱膨張制御」(代表・東正樹東京工業大学教授)、特別推進研究「光と物質の一体的量子動力学が生み出す新しい光誘起協同現象物質開拓への挑戦」(代表・腰原伸也 東京工業大学 教授)の援助を受けて行った。

用語説明

[用語1] 固溶体 : 複数の化合物が均一に溶け合って、単相の化合物を形成した固体。

[用語2] 電荷移動 : 二つのイオンの間で電子の受け渡しが生じ、それぞれの価数が増減すること。

[用語3] 極性−非極性転移 : 陽イオンと負イオンの重心がずれるため生じる電荷の偏りである電気分極を持つ結晶構造(極性構造)から、電気分極のない結晶構造への転移。

[用語4] 負熱膨張 : 通常、物質は温めると体積や長さが増大する。これを正の熱膨張という。しかし、一部の物質は、温めることで可逆的に収縮する負熱膨張の性質を持っており、これはゼロ熱膨張材料を開発するうえで重要となる。

[用語5] 反強磁性転移 : 磁気モーメントを互いに打ち消すように、イオンが持つ小さな磁石であるスピンが揃うこと。

[用語6] 強誘電転移 : 誘電体(絶縁体)の一種で、外部電場がなくとも電気分極の方向が揃っており、外部電場によってその方向が変化する強誘電体と、電気分極を持たない常誘電体の間の転移。

[用語7] ペロブスカイト型酸化物 : 一般式ABO3で表される元素組成を持った金属酸化物の代表的な結晶構造。

[用語8] 第二高調波発生 : 極性の結晶構造を持つ物質にある波長の光を入射すると、半分の波長の光が放出されること。

[用語9] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている。

[用語10] 放射光X線回折実験 : 物質の構造を調べる方法。放射光X線を試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。

[用語11] 放射光X線全散乱データPDF解析 : 乱雑に配列した原子の並び方を解明する方法。上記X線回折に加えて、乱雑に配列した原子によって広く散乱されるX線強度までを併せて解析する。

[用語12] 硬X線光電子分光 : 4 keV以上の高いエネルギーを持つX線である、硬X線を物質に入射し、そこから放出される光電子の個数とエネルギーの関係を調べることにより、物質内部の電子構造を調べる実験的手法。従来の真空紫外光や軟X線を用いた光電子分光は表面近傍の情報しか得られなかったが、硬X線で励起することにより、固体内部の電子構造を調べることが可能になった。

参考文献

[1] 「温めると縮む」新材料を発見(東京工業大学プレスリリース:2015年2月23日付け)

[2] 2つの起源で“温めると縮む”新材料を発見(東京工業大学プレスリリース:2019年6月14日付け)

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Enhanced Negative Thermal Expansion Induced by Simultaneous Charge Transfer and Polar-Nonpolar Transitions
著者 :
Takumi Nishikubo, Yuki Sakai, Kengo Oka, Tetsu Watanuki, Akihiko Machida, Masaichiro Mizumaki, Koki Maebayashi, Takashi Imai, Takahiro Ogata, Kesuke Yokoyama, Yoichi Okimoto, Shin-ya Koshihara, Hajime Hojo, Takashi Mizokawa and Masaki Azuma
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 教授

東正樹

E-mail : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315、080-4402-5315 / Fax : 045-924-5318

神奈川県立産業技術総合研究所 有望シーズ展開事業 常勤研究員

酒井雄樹

E-mail : yukisakai@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5342 / Fax : 045-924-5318

近畿大学 理工学部応用化学科 講師

岡研吾

E-mail : koka@apch.kindai.ac.jp
Tel : 06-4307-3342(内線5246)

高輝度光科学研究センター 主幹研究員

水牧仁一朗

E-mail : mizumaki@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-0802(内線3870) / Fax : 0791-58-0830

量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 放射光科学研究センター 次長

綿貫徹

E-mail : watanuki.tetsu@qst.go.jp
Tel : 0791-58-2629 / Fax : 0791-58-0311

九州大学 大学院総合理工学研究院 准教授

北條元

E-mail : hojo.hajime.100@m.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-583-7526 / Fax : 092-583-8853

早稲田大学 理工学術院 先進理工学部 教授

溝川貴司

E-mail : mizokawa@waseda.jp
Tel : 03-5286-3230 / Fax : 03-3200-2805

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

近畿大学 総務部広報室

加藤、小林

E-mail : koho@kindai.ac.jp
Tel : 06-4307-3007 / Fax : 06-6727-5288

量子科学技術研究開発機構

(広報課)E-mail : info@qst.go.jp

(広報課 担当・中禎弘)E-mail : naka.yoshihiro@qst.go.jp
Tel : 043-206-3026 / Fax : 043-206-4062

九州大学広報室

E-mail : koho@jimu.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

早稲田大学広報室広報課

E-mail : koho@list.waseda.jp
Tel : 03-3202-5454 / Fax : 03-3202-9435

有望シーズ展開事業に関して

神奈川県立産業技術総合研究所 研究開発部

E-mail : aoki@newkast.or.jp
Tel : 044-819-2034

SPring-8 / SACLAに関すること

高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課

E-mail : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2785 / Fax : 0791-58-2786


12月の学内イベント情報

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12月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

ハシナ・カービ来日講演「シェアード・リーダーシップという新しい戦略」

ハシナ・カービ来日講演「シェアード・リーダーシップという新しい戦略」

12月1日(日) 14:30 - 16:30にハシナ・カービ氏をお迎えして、「シェアード・リーダーシップという新しい戦略」について講演を行っていただきます。(※講演は英語にて行われます。通訳はございません。)

日時
2019年12月1日(日) 14:30 - 16:30
会場
申込
必要

東浩紀氏講演会「データベース的動物は政治的動物になれるか」

東浩紀氏講演会「データベース的動物は政治的動物になれるか」

12月12日(木)17:30 - 19:00に哲学者・作家の東浩紀氏をお迎えして、講演会を行っていただきます。

日時
2019年12月12日(木)17:30 - 19:00(17:00 受付開始)
会場
申込
必要

2019年度東京工業大学テニュアトラック教員研究成果発表会

2019年度東京工業大学テニュアトラック教員研究成果発表会

東京工業大学テニュアトラック教員が2019年度の研究活動と研究成果の発表を行います。

どなたでもご参加いただけますので、お誘いあわせの上、是非お越しください。

日時
2019年12月13日(金) 15:00 - 17:00
会場
申込
不要

国際交流学生会SAGE主催「第2回留学生による日本語スピーチコンテスト」

国際交流学生会SAGE主催「第2回留学生による日本語スピーチコンテスト」

「英語で話すことだけが国際交流ではない。」そんなコンセプトのもと、生まれた日本語スピーチコンテスト。今年で第2回を迎え、書類審査を通過した東工大の留学生10名が今回のテーマ「なぜあなたは日本語を学ぶのか」に沿ってスピーチをします。

言語の中でも学ぶのが難しいといわれる日本語をなぜ彼らは学んでいるのか。その考え方を聞けば自分も何かを学ぶ意欲が上がるかもしれません。

当日は、観客による投票セクションやコンテスト後に、懇親会(参加任意・先着順)もあります。

英語だけではない国際交流をぜひ体感してください。

学外の一般の方も含め、多くの方のご参加お待ちしております。

日時
2019年12月21日(土) 13:00 - 17:00(開場12:30)
会場
参加費
コンテスト : 無料
交流会 : 一般 3,000円、学生 500円(予定)
申込
必要

Technology×Healthcare 2019 進化への挑戦。繋がるテクノロジーとヘルスケア。

Technology×Healthcare 2019 進化への挑戦。繋がるテクノロジーとヘルスケア。

東京工業大学は、アステラス製薬株式会社および株式会社みらい創造機構と共同で、アステラス製薬が進める新規ヘルスケア事業(Rx+TMプログラム)での新たな試みを支援するためのプロジェクト、Tech ARINAを実施しています。

Tech ARINAはTokyo Tech-Astellas Rx+ INnovation Awardの略で、東京工業大学の理工分野での技術シーズとアステラス製薬の持つ医療分野での知見、経験とのマッチングを通じて、アステラス製薬の戦略実現を支援するものです。

この度、「Technology×Healthcare」をテーマに、アステラス製薬のRx+TMの取組みと共に、Tech ARINAプロジェクトの成果を公表するシンポジウムを東京工業大学、アステラス製薬およびみらい創造機構の3者で開催します。

皆様のご参加をお待ちしています。

Rx+TMについて:

Rxとはprescription drug=処方箋薬の意味であり、従来のRxの概念を超えた(たとえば運動支援アプリや極小の埋め込み型医療機器のような)ヘルスケアソリューションを活用した事業を、アステラス製薬ではRx+TM事業と名付けています。

日時
2019年12月23日(月) 14:00 - 19:30(13:30開場)
会場
申込
必要

ひらめきときめきサイエンス2019(12月)

ひらめきときめきサイエンス2019(12月)

ことばは時代につれて変化していきます。今の私たちの知っていることばの意味は今の意味で、昔のことばの意味とまったく同じではありません。もしタイムマシンに乗って昔の日本語が聞けたなら、「何か変だぞ、ちがうぞ?」と思うことでしょう。今では大昔の録音は残っていませんから、実際に聞くことはできません。しかし、昔の文章から、ことばの使い方を図に描いて目で見ることはできます。そんな目で見てわかる昔のことばの世界について、みんなでおしゃべりしましょう。

日時
2019年12月26日(木) 10:00 - 17:15(受付9:50 - 10:00)
会場
申込
必要

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

麹菌A. oryzaeの進化と家畜化の関係 大規模比較ゲノム解析で新たな仮説を提唱

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要点

  • 日本全国から収集した麹菌82株の全ゲノムレベルの多様性を解読
  • 祖先株間で複数の有性生殖が起こっていたことが明らかに
  • 人間による家畜化が麹菌のゲノム進化に及ぼす影響を提唱

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授、渡来直生大学院生らは、ぐるなびとの共同研究により、日本全国5社の種麹屋[用語1]から収集した麹菌「Aspergillus oryzae」(アスペルギルス・オリゼー=ニホンコウジカビ、以下A. oryzaeと表記)の大規模比較ゲノム解析[用語2]を通じ、人間による家畜化と麹菌のゲノム進化の関係性について新たな仮説を提唱した。

麹菌A. oryzaeは長らく無性生殖のみを行うと考えられてきたが、ゲノム解析の結果、A. oryzae祖先株[用語3]間で複数の有性生殖[用語4]が起こっていたことが明らかになった。一方で、人間による家畜化の過程では有性生殖は起こらず、発酵特性に関わる一部の遺伝子変異の集中が起こっていることが明らかとなった。

研究成果は2019年11月22日、「DNA Research」(ディーエヌエー・リサーチ)に掲載された。

研究の背景

東京工業大学 山田研究室とぐるなびは2016年から共同研究を行っている。山田研究室が得意とするバイオインフォマティクスを活かし、ぐるなびの「日本の食文化を守り育てる」という企業使命の一環となる研究として、和食を特徴付ける発酵食品に着目したテーマに取り組んできた(「微生物ゲノム×地域」で食のブランディング―ぐるなびとの共同研究講座が本格始動)。

麹菌 A. oryzaeは味噌や醤油など、和食に欠かすことのできない発酵食品の製造を担う重要な微生物である。A. oryzaeは強力な分解酵素活性を持ち、東アジアを中心に発酵食品の製造に用いられてきた真菌(カビ)の一種である。中国で3000年ほど前に産業利用が始まり、日本では室町時代の頃より日本全国に点在する種麹屋によって管理されてきた経緯がある。

種麹屋は発酵特性の異なる独自の株を多数所有しているが、ゲノムとの関係は明らかにされていなかった。また、A. oryzaeは有性生殖に必要な遺伝子群をほとんど持っているものの、実験的に有性生殖に成功した例はなく、有性生殖の可能性については明らかになっていない。これらの問題を解決するため、多様な株のゲノム解析が必要とされていた。

研究成果

今回の研究ではA. oryzaeの単離株82株を日本全国5社の種麹屋から収集し、全ゲノム解読を行った。近縁種の既知のゲノムを含めた比較解析の結果、産業用株は系統樹[用語5]上でゲノム構造の異なるいくつかのクレード[用語6]を形成することが明らかとなった。

それぞれのクレードは産業用途(醤油用または酒・味噌用)で分類され、採取元では分類されなかった。また、系統樹上の位置関係とMAT型[用語7]の関係に不整合が見られたことから、これらのクレードの分化は、ある一つの祖先株の変異[用語8]の蓄積によるものではなく、有性生殖によるものであることが明らかとなった。

一方で、産業用株間のゲノムで有性生殖の痕跡を見つけることはできなかった。このことから、人間による家畜化の過程では有性生殖は起こらなかったことが示唆された。家畜化の過程で起こった遺伝子の変異に対する解析では、生育や色素、二次代謝[用語9]関連遺伝子に変異が見られたものの、産業用重要とされる分解酵素遺伝子への変異蓄積がほとんど見られなかった。これは、種麹屋が麹菌の育種をする一方で、重要な遺伝子が変異しないように守り通してきた結果が反映されていると考えられる。

また、A. oryzaeの近縁種に99.5%類似したゲノムをもつAspergillus flavus(アスペルギルス-フラブス、以下A. flavus)がある。A. flavusは、一部の菌株がアフラトキシン[用語10]などの真菌毒素を産生することから、食品衛生上重要であり研究が進んでいる種である。

A. oryzaeA. flavusは非常に近縁でありながら対照的な特性をもつため、人間の家畜化によってA. flavusが無毒化されA. oryzaeが生まれたとする説があった。しかし、今回の研究によってアフラトキシン合成遺伝子クラスターと全ゲノムの系統は無関係であることが明らかとなり、この説は否定された。

Aspergillus oryzae全ゲノム系統樹、A-Hは日本の産業用株が属するクレード

図1. Aspergillus oryzae全ゲノム系統樹、A-Hは日本の産業用株が属するクレード

TK-22株(クレードA)ゲノムの交雑解析

図2. TK-22株(クレードA)ゲノムの交雑解析

今後の展開

A. oryzaeの多種のゲノムが解読され、かつ祖先株間での有性生殖が示唆されたことから、有性生殖を用いたA. oryzaeの新たな育種方法の確立が期待される。また、変異解析によって抽出された遺伝子の中から産業用重要な遺伝子が同定され、産業界に活かされていくことが望まれる。

用語説明

[用語1] 種麹屋 : 種麹は醸造食品の製造に使う麹を製造する際に、蒸米などに加えるもの。種麹屋は種麹を販売する店。

[用語2] ゲノム解析 : ゲノムは生物が持っているすべての遺伝子の集合(遺伝情報)のこと。その遺伝情報を総合的に解析することをゲノム解析という。

[用語3] 祖先株 : 現存しないものの、以前に存在していたと推定される菌株。

[用語4] 有性生殖 : 異なる属性(カビでは交配型)をもつ2株が細胞融合し、ゲノムDNAを交換して組み替えることで新たな遺伝子型の個体を生み出す生殖。

[用語5] 系統樹 : 生物の進化の道筋を描いた図。系統発生(分化:divergence)が枝分かれとして表現される。

[用語6] クレード : 系統樹上で一つの枝より下に存在する近縁な株のまとまり。

[用語7] MAT型 : 系一部の真菌類がもつ交配型(mating type)。哺乳類の性別にあたる概念であり、異なる交配型をもつ2株の間でのみ交配が行われる。A. oryzaeではMAT1-1とMAT1-2のいずれか一方の遺伝子をもつことが知られている。

[用語8] 変異 : 遺伝子のDNA配列が変化すること。

[用語9] 二次代謝 : 生存に必須ではない代謝系。発酵においては味や香りに関わるとされる。

[用語10] アフラトキシン : 1960年に英国で発生した七面鳥の大量死の原因物質のカビがアスペルギルス・フラブス(カビの一種)だったことから、毒(トキシン)と合わせてアフラトキシンという。

論文情報

掲載誌 :
DNA Research
論文タイトル :
Evolution of Aspergillus oryzae before and after domestication inferred by large-scale comparative genomic analysis
著者 :
Naoki Watarai, Nozomi Yamamoto, Kazunori Sawada, and Takuji Yamada
DOI :
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お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 山田拓司

E-mail : takuji@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3591 / Fax : 03-5734-3591

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

株式会社ぐるなび 広報グループ

E-mail : pr@gnavi.co.jp
Tel : 03-3500-9700 / Fax : 03-3500-9731

2019年度 3学院サマープログラム 活動報告

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今夏、工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の3学院が主催する各種のサマープログラムに参加する留学生が6月から7月にかけて来日し、9月までの約3ヵ月間、各学生が設定した研究を行いました。世界各地の25大学から44名の学生が参加しました。

 
プログラム名
2019年 参加校(順不同)
1
Asia-Oceania Top University League on Engineering: AOTULE
アジア・オセアニア工系トップ大学リーグ
1)清華大学
2)香港科技大学
3)国立台湾大学
4)KAIST
5)南洋理工大学
6)バンドン工科大学
7) チュラロンコン大学
8)ハノイ工科大学
9)インド工科大学マドラス校
10)モラトゥワ大学
2
Summer Exchange Research Program: SERP
夏期短期学生交流プログラム
1)ウィスコンシン大学
2) アーヘン工科大学
3) マドリード工科大学
4) カールスタード大学
5) ソルボンヌ大学
6) USサンタバーバラ
7) ウォーリック大学
8) オックスフォード大学
3
Asia-Oceania Strategic Universities Exchange Program: AOSU
アジア・オセアニア重点大学交流プログラム
1) 国立台湾科技大学
2) 国立成功大学
3) 武漢理工大学
4) タマサート大学
5) シンガポール工科デザイン大学
4
Student Exchange Program for School of Materials and Chemical Technology
物質理工学院 学生国際交流プログラム
1)ジェノバ大学
2)国立台湾科技大学

工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院は、欧米やアジア・オセアニアの先進理工系大学と独自に協定を締結し、これらの大学から留学生を受け入れ、同時に東工大からも学生を派遣しています。学生交流を中心とした協定校とのネットワークを構築・確立することで、3学院はさらなる国際化を推進し、国際的な舞台で活躍できる人材の育成を目指しています。

留学生たちは、それぞれ自身の専門分野の研究室に所属して、受入教員の指導のもとで短期研究プロジェクトを行うと共に、日本語の基礎を学ぶ授業を履修しました。また、日本を代表する先端企業の見学や日本文化に関わる活動など、日本の技術や文化への理解を深めるためのイベントにも参加しました。

研究活動

参加学生 : ヘレン・レビーさん(夏期短期学生交流プログラム:SERP)

在籍大学 : カリフォルニア大学サンタバーバラ校(学士課程4年)

東工大での所属 : 工学院 機械系

研究題目 : 人力車ロボットの設計と制御

私の参加したプロジェクトは非常に興味深く、やりがいのあるものでした。受入指導教員や研究室の仲間から多くのことを学びました。皆さんはいつも親切でしたし、皆さんがやっている仕事を見て刺激を受けました。研究室では新しくて有益なテーマをたくさん学びました。ロボットの連動システムと、それらをどのように数値実行や数値最適化のために分析するかについて多く学ぶことが出来ました。

また、今まで理論的にしか知らなかったモーター・エンコーダをプログラミングする実地経験を積むこともできました。修士課程に進学するにあたって、何に焦点を当てるべきかを見つけ出す目的で来日しましたが、ここの研究室に所属し、私は本当にロボットと制御システムを学び続けたいと決意を新たにしました。

受入指導教員 : 岩附信行教授(工学院長)

ヘレンさんには「人力車ロボットの設計と制御」と題する研究プロジェクトに取り組んでもらいました。これは2足歩行ロボットが従動2輪のカートを牽引して移動するロボットで、たった2個のモーターで転倒することなく、直進・旋回を実現することが課題です。わずか3ヵ月弱で、用いる機構の運動解析、ロボットの設計・試作、マイコンによる制御系の設計・実装を成し遂げ、人力車ロボットの走行実験に成功し、その走行性能を明らかにしました。彼女が独力で黙々と研究する姿には、研究室の学生も感銘を受けたものと思います。

ヘレンさんと、自身が製作した自動人力車
ヘレンさんと、自身が製作した自動人力車

華厳の滝にて(右からブルクハルト・コーヴズ特任教授(アーヘン工科大学)、ヘレンさん、岩附教授)
華厳の滝にて(右から
ブルクハルト・コーヴズ特任教授
(アーヘン工科大学)、ヘレンさん、岩附教授)

特別講義

サバイバル・ジャパニーズ(日本語集中講座)/小学校訪問

本講座は、日本語初級レベルの学生向けの日本語クラスです。講義では、日常生活場面で用いる会話表現を学び、実際に会話できるようになり、また、日本社会についてのプレゼンテーションを行い、日本の文化や社会について理解を深めることを目指します。また授業の一環として、地元の小学校を訪問し、児童たちと交流する機会もありました。

参加学生 : ルマイシャー・コディジャー・コリスさん(アジア・オセアニア工系トップ大学リーグ)

在籍大学 : インドネシア バンドン工科大学(修士課程2年)

東工大での所属 : 工学院 機械系

小学校訪問当日は、楽しく心温まる歓迎をしていただきました。5年生の児童たちは、私にかわいらしい名札を作ってくれたり、校内見学に連れていってくれたりしました。そして、中に折り紙が仕組まれたポップアップカードの作り方も教えてくれました。どの児童も英語の練習を頑張っていて、私にたくさんの質問をしてくれて嬉しかったです。4年生の教室では、洗足池公園について素晴らしい紹介をしてくれました。さらには、私に「じゃんけん」を教えてくれる子どもたちもいました。給食の時間になり、私は子どもたちの中に入って、とても美味しい給食をいただきました。給食のメニューのひとつ、「わかめサラダ」は、日本食の中でも私の好物のひとつになりました。私は子どもたちと過ごす時間がこんなにも楽しいものだと長い間忘れていたように思います。親しくなるのに、難しい話題を話す必要はありません。子どもたちは私を楽しい世界に連れていってくれました。研究で忙しい中、しばし研究のことを忘れることができました。子ども時代を大いに楽しんで、将来、夢をかなえて欲しいです。

おしゃべりする児童
おしゃべりする児童

見送り
見送り

ハイテク・ジャパン(工場・企業見学)

本講義は、研究所や工場の見学を通して様々な分野の日本企業の先端技術を概観することを目的としています。本年度は、理化学研究所、JFEスチール株式会社、TDK株式会社、そして鉄道総合技術研究所を訪問しました。

参加学生 : ティラカラトゥン・サリカさん(AOTULE)

在籍大学 : スリランカ モラトゥワ大学(修士課程2年)

東工大での所属 : 環境・社会理工学院 土木・環境工学系

見学先 : TDK株式会社

社内では、距離や気温、湿度など、あらゆる気候を正確に測定できるセンサーが展示されていました。正確なデータは研究の仮説を立証するのに不可欠なものです。私の修士学位研究は、データ収集の段階での測定データの多くが、信頼性が高いものとは言えませんでした。関連各所にも確認したところ、使用した機材は期待できるものでないと判明しました。TDK製品を使用できたなら、私の研究も大幅に改善できただろうと思います。この訪問でTDKの研究方法論や研究結果判定の方法も学ぶことが出来ました。TDKは従業員に新しい研究へのアイディアを考えることを働きかける環境であり、それは私の母国における課題だと思いました。

TDKのホールにて
TDKのホールにて

TDK職員による講義
TDK職員による講義

第11回 多専門領域にわたる国際学生ワークショップ(MISW 2019)

ポスターセッション
ポスターセッション

8月6~8日、工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の修士・博士後期課程学生、国際大学院プログラムの3学院に所属する留学生およびAOTULEサマープログラム参加留学生を主な対象として「第11回多専門領域にわたる国際学生ワークショップ(MISW 2019)」を開催しました。

このワークショップは、議論や懇親会を通じて、それぞれの方法論・価値観・世界観の交流を行い、多文化共生と新たなイノベーションへの手掛りを模索することを目的としています。本ワークショップの発表者の中から、特に優秀な学生に優秀講演賞を授与しました。参加した学生たちにとっては、日ごろの研究の成果を存分に発表し、プログラムや国籍、年齢を超えて意見交換しあう実りある機会となりました。

今回は、チームラボ株式会社 山田剛史氏を招聘し、“Relationships Among People”(人々の関係性を変化させ、他者の存在をポジティブな存在に変える)と題した基調講演を行っていただきました。

集合写真

集合写真

参加学生 : ラヴィシャンカー・サミュクタさん (AOTULE)

在籍大学 : シンガポール 南洋理工大学(博士後期課程3年)

東工大での所属 : 物質理工学院 応用化学系

MISWに参加でき、光栄でした。世界中の学生と交流が出来る素晴らしい機会をいただきました。発表テーマは機械工学から土木工学まで様々な分野でしたが、それぞれの分野における革新的な新しい考えや学びがありました。

私の口頭発表は、様々なバックグラウンドの聴衆の前で行うという点で、今までの発表とは違っていました。自分の研究活動を、分かりやすく、かつ研究の背後にある科学に通じるよう説明することは難しかったですが、やりがいのある素晴らしい経験でした。また、10分間では発表できる内容にも限度がありました。しかし、与えられた時間内で簡潔に経緯を説明することも勉強になりました。

表彰式で受賞したサミュクタさん
表彰式で受賞したサミュクタさん

私は会の一つを進行する機会をいただき、実りある討議が生まれました。間違いなく私にとっては挑戦でした。私の経歴や予備知識が少しでも発表者に近ければ、おそらくもっと役に立てたと思いますが、観客に質問するよう呼びかけ、積極的に討論を促そうと努めました。改善点としては、私自身が様々なトピックについて事前に学び、他のAOTULEの参加者にも事前に集中講義のような時間を作ってもらう方が、より面白くなったのではないかと思います。

最後は、折り紙で橋を架けるという楽しいグループワークで締めくくった素晴らしいプログラムでした。私たちのチームは最長の橋を架けることから程遠かったですが、とても簡単な技術で長い橋を建設したチームに驚き感心しました。私はこの研究活動を締めくくる素晴らしい方法を、世界中から来た学生やスタッフと共有することが出来たことを生涯大切にしたいと思います。

文化・交流イベント

日本文化体験(生け花・茶道)

7月11日、公益財団法人 目黒区国際交流協会の協力の下、目黒区総合庁舎にて生け花と茶道の体験をしました。短い時間の間に、基礎的な作法のみならず、おもてなしの心や歴史的背景も学ぶことが出来ました。

陳さんの作品
陳さんの作品

参加学生 : 陳 學毓さん(アジア・オセアニア重点大学交流プログラム:AOSU)

在籍大学 : 国立台湾科技大学(博士後期課程3年)

東工大での所属 : 物質理工学院 材料系

生け花はとても面白く、作品は美しく出来上がったと思います。たくさんの情熱と季節感が必要な伝統芸でした。幸運だと思ったのは、研究室に戻ったとき、私の日本人チューターは生け花をやったことがなかったそうで、私のことを「すごい」と褒めてくれました。また、伝統的な方法で抹茶をいただくだけでなく、どのようにして抹茶を点てるのかも講師の相馬尊子先生に教えていただきました。本物の抹茶はお茶の表面に無数の泡が立つことを知り、とても興味深かったです。お茶菓子も大変美味しくて、台湾へ帰る時に持ち帰りたいと思っています。質疑応答の時間に、相馬先生は着物についても説明してくれました。とても優美でしたので、いつか着る機会があればと願っています。

指導してくださった相馬先生と

指導してくださった相馬先生と

指導してくださった相馬先生と

キャンパス・ツアー

交換留学プログラムの特徴を生かし、留学生と東工大派遣学生による交流イベントも企画・運営されました。留学生が出席するオリエンテーションの一環として、図書館ツアー、そして本年度協定校に派遣予定および過年度に派遣された東工大生が中心となり、大岡山キャンパス・ツアーを実施しました。

  • 派遣学生と学食でランチ
    派遣学生と学食でランチ
  • 派遣学生とのキャンパス・ツアー
    派遣学生とのキャンパス・ツアー
  • 図書館ツアー
    図書館ツアー

歓送迎会

各プログラムで、歓送迎会が開催されました。自国や在籍大学の紹介、工系学生国際交流プログラム派遣生たちとの交流、日本を象徴するようなお楽しみイベントなど、賑やかな時間を過ごしました。

  • 福笑い
    福笑い
  • 7月23日SERP・AOSU留学生と工系派遣生の歓送迎会
    7月23日SERP・AOSU留学生と
    工系派遣生の歓送迎会
  • 8月29日AOTULE留学生の送別会
    8月29日AOTULE留学生の送別会
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お問い合わせ先

工系国際連携室

E-mail : ko.intl@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3969

2019年度永年勤続者表彰式にて職員46名を表彰

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東京工業大学の2019年度永年勤続者表彰式が11月22日、大岡山キャンパスで行われました。この表彰は、永年(他国立大学等を含む勤続20年(うち本学勤務10年以上))職務に精励した職員を対象とするものです。今回表彰された方々は常勤職員39名、無期雇用職員7名の計46名でした。

表彰式では、益一哉学長から一人一人に表彰状の授与と記念品の贈呈が行われ、永年の功労に対して祝辞が贈られました。続いて表彰された職員を代表して、理学院 山田光太郎教授が謝辞を述べました。

今回表彰された方々は次のとおりです。

学長祝辞
学長祝辞

代表謝辞
山田教授による代表謝辞

2019年度東京工業大学永年勤続被表彰者一覧

常勤職員

所属
職名
氏名
理学院
教授
山田光太郎
理学院
教授
後藤敬
理学院
教授
二宮祥一
理学院
助教
石川忠彦
理学院
助教
椎野克
理学院
助教
原田誠
工学院
教授
肖鋒
工学院
准教授
中田和秀
工学院
准教授
塚越秀行
工学院
准教授
青木洋貴
物質理工学院
准教授
松本秀行
物質理工学院
准教授
伊藤繁和
物質理工学院
准教授
豊田栄
物質理工学院
准教授
髙尾俊郎
物質理工学院
准教授
脇慶子
情報理工学院
准教授
藤井敦
生命理工学院
准教授
清尾康志
環境・社会理工学院
教授
中﨑清彦
環境・社会理工学院
教授
鼎信次郎
環境・社会理工学院
教授
齊藤滋規
環境・社会理工学院
教授
藤井晴行
環境・社会理工学院
准教授
WIJEYEWICKREMA ANIL
環境・社会理工学院
助教
杉田早苗
科学技術創成研究院
教授
岩﨑博史
科学技術創成研究院
准教授
長井圭治
総務部 人事課
専門職
角和真沙美
総務部 人事課 すずかけ台人事グループ
スタッフ
北守恵
財務部 経理課 収入グループ
グループ長
西原瑞穂
国際部 国際事業課 国際事業グループ
グループ長
坂本桃子
国際部 国際事業課 国際基盤グループ
主任
吉原英恵
学務部 教務課 教育プログラム推進室
超スマート社会卓越教育院推進グループ
スタッフ
浅井善朗
学務部 入試課 大学院入試グループ
グループ長
濱本真人
研究推進部 情報図書館課 すずかけ台図書館グループ
主任
津久井祐子
施設運営部 施設整備課 建築グループ
グループ長
佐久間武史
すずかけ台地区事務部 会計課 外部資金執行グループ
グループ長
扇谷理絵
工学院業務推進課 すずかけ台工学院事務グループ
主任
牧野弘枝
物質理工学院業務推進課 物質理工学院系担当事務グループ
主任
原加代子
技術部 教育支援部門
技術専門員
金井貴子
技術部 安全管理・放射線部門
技術専門員
武沢一夫

(所属順・敬称略)

無期雇用職員

所属
職名
氏名
理学院
技術限定職員
青砥禎彦
理学院
事務限定職員
黒岩朋子
工学院
事務限定職員
粟田詠里子
工学院
事務限定職員
船橋多江
情報理工学院
事務限定職員
片貝奈津子
環境・社会理工学院
事務限定職員
林葉庫
すずかけ台地区事務部 会計課
事務限定職員
丸山裕子

(所属順・敬称略)

常勤職員の記念写真

常勤職員の記念写真

常勤職員の記念写真

無期雇用職員の記念写真

問い合わせ先

総務部 人事課 労務室

Email : jin.iku@jim.titech.ac.jp

グラフェンと光ナノ導波路で超高速・低消費エネルギーの 全光スイッチングを実現 超高速な光情報処理集積回路へ向けて前進

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日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田純、以下 NTT)は、国立大学法人東京工業大学 理学院 物理学系の納富雅也教授(東京都目黒区、学長:益一哉、以下 東工大)と共同で、ピコ秒(1兆分の1秒)以下の超高速領域で動作する全光スイッチを世界最小の消費エネルギーで実現しました。従来の全光スイッチ技術では、超高速性と低消費エネルギーを両立させることは困難であると考えられてきました。本研究グループでは、プラズモニック導波路[用語1]と呼ばれる幅と高さが数十ナノメートルサイズの光導波路に、非線形光学材料として近年注目されているグラフェン[用語2]を組み合わせることによって、超高速かつ低消費エネルギーで動作する全光スイッチを実現しました。達成した動作速度は電気を利用した光スイッチでは到達不可能な領域にあり、将来の超高速な光情報処理集積回路への応用が期待されます。また、本成果は極限的に小さな光導波路の実装を可能とするプラズモニック導波路技術の研究を更に深化させるものです。

本研究成果は、2019年11月25日(英国時間)に英国科学誌「Nature Photonics」のオンライン版で公開されました。

なお、本研究の一部は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成金の助成を受けて行われました。

研究の背景

将来の光情報処理集積回路実現に向けて重要な素子の一つに光スイッチがあります。光スイッチは光の信号をON/OFF、もしくは光の行先を切り替えるものですが、その制御を電気で行うか光で行うかで、その原理的な速度限界が異なります。光で光信号を制御する全光スイッチでは処理を全て光で行うため、電気回路で遅延の原因になるRC時定数[用語3]による制限を受けません。そのため、電気制御より高速に動作することが期待できます。しかし、従来の全光スイッチは、比較的大きなエネルギーを必要としてきました。光情報処理集積回路では、光素子が高密度集積されることが想定され、個々の素子の消費エネルギーを小さくしなければならいため、この問題は重要です。図1に示すように、従来の全光スイッチでは、スイッチング時間の短縮と消費エネルギーの削減とを同時に達成することは困難でした。そのため、両者の間には越えられないトレードオフが存在するものと想定されてきました。しかし、NTTでは2010年にフォトニック結晶共振器を用いて、この想定を打ち破り、超低消費エネルギーで動作する全光スイッチを実現することに成功しました。その一方で、電気制御では到達不可能なピコ秒以下の超高速スイッチングの領域では依然としてトレードオフを破ることはできない状態が継続していました。

全光スイッチの比較

図1. 全光スイッチの比較

研究成果

今回NTTと東工大は、プラズモニクス[用語4]の原理を応用した極めて小さなナノ光導波路と優れた非線形光特性を有するグラフェンとを結合させることで、ピコ秒以下の超高速領域で動作する全光スイッチを低消費エネルギーで実現することに成功しました(図2左)。本成果のポイントを下記に説明します。

1. プラズモニック導波路によるグラフェンの光吸収と非線形光学効果[用語5]の増強

光で光信号を制御するには、光の通り道に配置した物質の特性を光によって変化させることが必要となりますが、この物質の応答速度がスイッチング時間を決める大きな要因となります。そこで、我々は非常に高速な非線形光学応答を示すグラフェンを採用しました。グラフェンは高速性だけでなく、広い波長域で高い吸収係数[用語6]を有し、非常に優れた非線形光学材料と期待されています。しかし、その一方で、厚さが単原子層分しかないため、効率的に光と相互作用させることが難しく、素子長が非常に長くなってしまい、その結果大きなエネルギー消費をもたらすという問題点がありました。我々は、本成果でプラズモニック導波路を用いて光をナノサイズの領域に強く閉じ込めることにより、グラフェンと光の相互作用を飛躍的に増強し、この問題を解決しました。

今回我々は、NTTが保有するナノ加工技術を用いて導波路コアの断面サイズが30 nm×20 nmと非常に小さなプラズモニック導波路を作製し、この上面にグラフェンを貼りつけました(図2右)。その断面積は従来小型導波路として用いられてきたシリコン導波路に比べて100分の1程度であり、単一モード光ファイバと比べるとおよそ10万分の1にもなります。その結果、シリコン導波路にグラフェンを貼りつけた素子に比べ、グラフェンによる光吸収の効率が1桁向上し、非線形光学効果を引き起こすために必要なエネルギーを4桁低減することに成功しました。これは素子の小型化と省エネルギー化を同時にもたらします。

グラフェンとプラズモニック導波路を結合させた素子の概念図(左)と電子顕微鏡像(右)

図2. グラフェンとプラズモニック導波路を結合させた素子の概念図(左)と電子顕微鏡像(右)

2. 超高速全光スイッチングの実現

全光スイッチングでは、制御光によって信号光のON/OFFを切り替えます(図3左)。本素子では、制御光がグラフェンにおける非線形光学効果を引き起こし、光吸収の度合を変化させることにより、信号光のON/OFF状態が制御されます。図3右は35 fJという光エネルギーで260 fsのスイッチング時間が実現されていることを示しています。従来のグラフェンを用いた光スイッチング素子に比べて動作速度が1桁、消費エネルギーが4桁改善されています。また、図1に示されているように、本結果はピコ秒以下の超高速領域で他のあらゆる光スイッチの中で最も低消費エネルギー(従来の1/100)の光スイッチとなっており、世界で初めてフェムト秒領域の応答時間でかつフェムトジュール領域の消費エネルギーで動作するスイッチを実現したことを意味します。更に、前述のトレードオフを決めるスイッチング時間とエネルギーの積に関しても従来記録の更新に成功しています。

超高速全光スイッチングの実証(左:実験の概念図、右:スイッチング特性)

図3. 超高速全光スイッチングの実証(左:実験の概念図、右:スイッチング特性)

今後の展開

NTTと東工大では、プロセッサチップ内に光のネットワークを導入することでエレクトロニクスにおける速度や消費エネルギーの限界を打破することに取り組んでいます。ここで示した全光スイッチは、電気制御では到達不可能な超高速なスイッチ動作を低消費エネルギーで実現しており、将来の光情報処理集積回路において超高速制御を担うことが期待されます。プラズモニクスの技術には損失等の課題があり、実用化にはまだ時間を要すると考えられてきましたが、本結果でナノサイズの物質と組み合わせることにより格段に優れた性能を発揮できることが示され、今後、ナノ物質の特性を活かした超高速光素子を実装するためのプラットフォームとしての活用が期待されます。ナノワイヤや二次元層状物質に代表されるナノ物質の研究は非常に活発であり、今後プラズモニック導波路がその応用のためのプラットフォームを提供することが期待されます。更に、計算機アーキテクチャ分野で光ニューラルネットワークの研究が非常に活発に進められていますが、本素子の動作はその活性化関数部にも組み込めるものと期待されます。今後は、全光スイッチの更なる高性能化に取り組むとともに、受光器等の他の光素子への応用、他のナノ物質への展開を進め、これまでにない優れた性能の光素子の実現をめざしていきます。

技術のポイント

1. グラフェンの超高速な非線形光学効果を利用

超高速な動作を実現するための非線形光学材料として、我々はグラフェンを用いました。グラフェンは可視から赤外までの広い波長領域で単層あたり2.3%の光を吸収します。これを吸収係数として考えると、一般的な半導体に比べて極めて大きな値です。また、グラフェンは非線形光学効果の一つである可飽和吸収[用語7]を示し、その応答時間は最短で100 fs以下に達します。これはグラフェンキャリアの緩和が一般的な半導体に比べて非常に高速であることに起因します。今回提案した全光スイッチはグラフェン光吸収の飽和状態と非飽和状態を光励起によって切り替えることで透過率変化を引き起こし、それをスイッチのON/OFFの状態として使用するというものです。そのため、超高速な全光スイッチを実現する上で上述の特長は非常に重要となります。

2. プラズモニクスによって光とグラフェンの相互作用を増強

グラフェンは非常に優れた非線形光学材料ですが、光素子に応用するには薄すぎるという問題がありました。ここでは光とグラフェンの相互作用を大きく増強するため、数十ナノメートルサイズのプラズモニック導波路を利用しました。プラズモニック導波路は極限的な光閉じ込めを可能にし、例えば導波路コアの断面サイズが30 nm×20 nmの場合、閉じ込めの効果はλ2/4,000(λ:光の波長であり、1,550 nmを想定)に達します。一般的なシリコン導波路をプラットフォームとしたとき、光とグラフェンの重なりが小さいため相互作用は弱く、光吸収は0.089 dB/μm(1 μmあたりの2%程度)であると計算から予測されました(図4)。これは光の透過強度を半分にするためには30 μm以上の素子が必要であることを示しています。一方、プラズモニック導波路型では2.0 dB/μm(1 μmあたりの37%程度)であり、劇的に光吸収が大きくなっていることを示しています。これによって、素子の短尺化が実現されます。また、プラズモニック導波路型では光の密度が圧倒的に高く、グラフェン位置での光強度はシリコン導波路型に比べて310倍にもなることが分かりました。こちらは、スイッチとしての動作エネルギーを劇的に低減することを可能にします。

シリコン導波路型とプラズモニック導波路型の比較

図4. シリコン導波路型とプラズモニック導波路型の比較

これらの増強効果は実験的にも確認されました。導波路コアの断面サイズが30 nm×20 nmの場合、1.7 dB/μmという大きな光吸収が得られました。一方、光強度の増強効果は可飽和吸収における飽和エネルギーの低減効果と読み替えることができます。実際に得られた飽和エネルギーは12 fJであり、シリコン導波路で報告されている値よりも4桁もの低減が確認されました。これは、光強度が4桁増強されたことを意味します。

3. モード変換器でプラズモニクスの問題点を解決

プラズモニック導波路は極限的な光閉じ込めを可能にする一方で、大きな伝搬損失を持ち、サイズが波長よりも非常に小さいが故に光の入出力が困難であることが課題とされています。そこで我々は、プラズモニック導波路をグラフェンとの相互作用部にのみ用い、プラズモニックモード変換器(図5)によってシリコン等の低損失な誘電体導波路に結合させるという手法を取りました。本構造の作製には高い加工技術が必要となりますが、NTTでは2016年、世界に先駆けて深サブ波長領域のプラズモニック導波路とシリコン導波路を結合させるプラズモニックモード変換器を報告しています。本技術は、光集積回路内においてプラズモニック導波路、そしてグラフェンの利点を最大限に活用することを可能にします。

プラズモニックモード変換器の電子顕微鏡像

図5. プラズモニックモード変換器の電子顕微鏡像

用語説明

[用語1] プラズモニック導波路 : 金属表面において光は金属中の電子と結合した状態(「表面プラズモンポラリトン」と呼ばれる)で存在し、それは金属表面の極近傍に強く局在する。この特性を活用した導波路はプラズモニック導波路と呼ばれ、光をナノメートルレベルの領域に閉じ込めた状態で導波させることができる。

[用語2] グラフェン : 炭素原子が六角形格子構造上に並んだ単一原子層厚のシート状物質。低次元性に起因した特異なバンド構造を持つことが知られ、光学的・電気的に優れた特性を有しており、盛んに研究が進められている。ここでは特に、可視から赤外までの広い波長領域で単一原子層厚あたり2.3%も光を吸収すること、キャリア緩和が超高速であることが重要であるが、これらの性質はグラフェンの特異なバンド構造に起因する。

[用語3] RC時定数 : 電気回路などで、入力信号の変化に対する出力の応答時間の目安となる定数を時定数と呼ぶ。特にRC回路においては、電流を流し始めてから定常電流に至るまでの応答時間が、抵抗Rと電気容量Cの積(RC)によって決まり、RC時定数と呼ばれる。一方、電気回路を用いない全光素子ではRC時定数による応答速度の制限がないため、超高速動作が可能となる。

[用語4] プラズモニクス : 光をナノメートルレベルの空間で扱い、光によるエレクトロニクスの限界打破を一つの目標としているのがナノフォトニクスである。その中でプラズモニック導波路※1等の金属ナノ構造を導入することで、これを実現していこうとする分野をプラズモニクスと呼ぶ。

[用語5] 非線形光学効果 : 高強度の光を入射したときに物質の応答が強度に比例しなくなる効果。可飽和吸収等の様々な現象が生じる。

[用語6] 吸収係数 : ある物質がどの程度光を吸収するのかを示す定数。

[用語7] 可飽和吸収 : 高強度の光を入射したときに光吸収が飽和する現象。

論文情報

掲載誌 :
Nature Photonics
論文タイトル :
Ultrafast and energy-efficient all-optical switching with graphene-loaded deep-subwavelength plasmonic waveguides
著者 :
Masaaki Ono, Masanori Hata, Masato Tsunekawa, Kengo Nozaki, Hisashi Sumikura, Hisashi Chiba and Masaya Notomi
DOI :
<$mt:Include module="#G-03_理学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当

E-mail : science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
Tel : 046-240-5157

東京工業大学 理学院 物理学系

教授 納富雅也

E-mail : notomi@phys.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3831

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

クラリベイト・アナリティクス社の引用論文著者リストに細野秀雄栄誉教授と前田和彦准教授

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世界中で引用された論文が多い科学者を調べるクラリベイト・アナリティクス社の2019年版Highly Cited Researchers(高被引用論文著者)リストが11月19日、発表され、東京工業大学から細野秀雄栄誉教授(選出分野:クロスフィールド(複合領域))と理学院 化学系の前田和彦准教授(選出分野:化学)の2人が選出されました。細野栄誉教授と前田准教授は2018年も同リストに選ばれています。

クラリベイト・アナリティクス社によると、このリストは同社の学術文献データベースWeb of Science(ウェブ・オブ・サイエンス)をもとに、世界のすべての論文のうち引用された回数が上位1%に入る論文を発表した著者を、高い影響力を持つ研究者として選出しています。2019年は計6,216名の著者が選ばれました。

同リストによると、対象となった細野栄誉教授の出版件数は1,138件、引用総件数は60,681件、前田准教授の出版件数は208件、引用総件数は26,242件です。

細野栄誉教授のコメント

細野秀雄栄誉教授
細野秀雄栄誉教授

これまでは鉄系高温超伝導とIGZO-TFT関係の論文が対象になっていたようですが、今回はそれにエレクトライド系のアンモニア合成触媒の論文も含まれたようで、複合領域で選定されています。分野横断型の研究を目指しているので良かったと思います。共同研究者の方々とスポンサーに感謝いたします。

論文の引用数は研究の価値を計る一つの指標ですが、物質・材料の研究では、どれだけ社会的インパクトがあったかの方が遥かに重要です。

IGZO-TFTは大型有機ELテレビなど最新型のディスプレイの駆動を実現しました。アンモニア合成触媒も社会に見える形にしたいと思います。

前田准教授のコメント

前田和彦准教授
前田和彦准教授

私が継続して行っている光触媒の研究に関連して、昨年に続き2年連続でHighly Cited Researchersに選出されたことを誇りに思います。選出の重要な要素でもある“Top1%論文”を振り返ると、共同研究者と酒宴の席で交わした何気ない会話の中での気付き、あるいは学生の優れた着想に端を発して論文発表に至ったものが多数あります。素晴らしい環境で研究活動ができることに感謝し、国内外の共同研究者とうまく協働しながら、学生諸氏が自由な発想で研究に打ち込める環境を提供できる研究者・指導者であり続けたいと考えています。

そしてこれからも、関連分野の研究者に使ってもらえる新しい物質や要素技術を生み出し、時として異分野の研究者や一般の方にもひらめきと感動を与える成果の創出を目指すことで、本学の(ひいては我が国の)研究力を世界にアピールしていく所存です。

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前田准教授 関連情報

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Tel : 03-5734-2975

ロボット技術研究会が水中ロボットコンベンションフリー部門で3位入賞 附属高校はジュニア部門で準優勝

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「水中ロボットコンベンション in JAMSTEC 2019~海と日本プロジェクト~」が8月23日から8月25日にかけて、神奈川県横須賀市の国立研究開発法人「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」横須賀本部で開かれ、東京工業大学のものつくり学生サークル、ロボット技術研究会アクア研(水中ロボットチーム)の3チームと附属科学技術高校の2チームが出場しました。フリー部門でロボット技術研究会チームが3位に入賞し、ジュニア部門で附属高校1年生チームが準優勝しました。

この大会は、水中ロボットに関して自由にアイデアや技術を競うフリー部門、水中に設置された風船を自律制御によって割るAIチャレンジ部門(今年新設)、中高生向けのジュニア部門の3部門に分かれています。海洋研究開発機構の多目的プールで水中ロボットが競技しました。

東工大ロボット技術研究会と附属高校から出場したチームとロボット名は次の通りです。

フリー部門

自作の機体を持参し、オリジナリティを競います。重量点、プレゼン点、競技点の合計で勝敗が決まります。10チームが出場しました。

  • 東工大附属科学技術高校 13期機械科 水中ロボット製作チーム「ドレパナ初号機」
  • ロボット技術研究会 アクア研gen班「gen4」=3位入賞
  • ロボット技術研究会 アクア研18「水鉄砲太郎」

AIチャレンジ部門

事前に提供された機体、もしくは自身で製作した機体に各チームの開発したアルゴリズムを搭載し、その処理能力を競います。プレゼン点と競技点の合計で勝敗が決まります。7チームが出場しました。

ロボット技術研究会 アクア研 AIチャレンジチーム「Mark3」

ジュニア部門

中学生、高校生、高専生を対象とし、無償で提供される水中ロボットキットを組み立て、改造して競います。競技は制限時間内に多くの缶を回収する缶拾い競争です。12チームが出場しました。

東工大附属科学技術高校 ぴよぴよソウル=準優勝

フリー部門3位 ロボット技術研究会アクア研gen班 チームリーダー斎藤天丸さんの話

フリー部門3位に入賞したロボットは、本来、AUV(自律制御で航行する水中ロボット)として開発され、安定して長距離かつ長時間の運転にも耐えられるよう設計されました。例えば、長距離航行中はロボットをスリムな形に維持して水の抵抗を減らす必要があります。目的地に到着したら内部の機器を展開したり、子機を射出できるようにする必要があります。今回製作したロボットには、前方のカバーを自動で開閉できる変形機構が搭載されています。また、水に潜るためにスクリューを回さなくてもすむように、水を自動で注排水する機構を制作しました。

水中ロボットで重要な要素の一つは防水技術です。ロボットに必要な電気回路やバッテリー、モーターといった要素は水に触れると壊れてしまうので、水中ロボットでは防水が不可欠になります。特にモーターからプロペラへ動力を伝える部分は、回転する軸が防水すべき部分とそうでない部分をまたぐため、最も防水が難しい箇所の一つです。この点について我々のチームでは、磁石を用いて非接触で動力を伝える、マグネットカップリングと呼ばれる機構を自作しました。用いられている磁石は特別なものではなく、100円ショップで購入できるものを使用しています。

このような、複雑な機構に挑戦するチャレンジ精神と、それを実現する技術力が評価され、3位入賞という結果を得ることが出来ました。

当日の機体コンディションが大変良く、たくさんある機構を操縦者が説明に合わせてちょうど良いタイミングで動かしました。色々詰め込んで、全て動いているということを理解してもらえたのだと思います。機体やスクリューの形状は、大学の講義で得た知識を活かして設計されています。座学で学んだ内容を実際に応用できたことは、非常に良い経験となりましたし、それによって開発した機体が評価されたことは大変うれしく思います。

今後は、ロボットアーム等を搭載し水中での作業が可能なロボットや、自律制御によって課題を達成する水中ロボットの開発を目指します。

アクア研gen班のメンバーは次の4人です。

守家岳志さん(工学院 機械系 学士課程3年)、源元颯人さん(同)、斎藤天丸さん(同)、水上勇佑さん(理学院 学士課程1年)

AIチャレンジ部門に出場した機体
AIチャレンジ部門に出場した機体

フリー部門で3位に入賞した機体
フリー部門で3位に入賞した機体

3位のアクア研gen班メンバーとメンテナンス中の機体 左手前から(時計回りに)水上さん、源元さん、斎藤さん

3位のアクア研gen班メンバーとメンテナンス中の機体
左手前から(時計回りに)水上さん、源元さん、斎藤さん

ジュニア部門準優勝 東工大附属科学技術高校科学・技術科1年 ぴよぴよソウル チームリーダー佐藤諒弥さんの話

ジュニア部門で準優勝した機体
ジュニア部門で準優勝した機体

私たちは、附属高校1年C組の有志で集まったメンバーです。製作は、ロボットが組み上がっても動かない日が続くなど、トラブル続きでした。学校のプールで動かすことができたのは、なんと大会2日前。本番では皆で協力して機体の調整を行い、作戦を練って勝ち進みました。決勝戦は、モーターが1機しか動かず2位という結果になってしまいました。

製作を進める中で学んだことは、普段、学校で学んでいるプログラミングや与えられた問題を解くために協力して考える力などを活用することで、難題にぶつかっても解決できるということでした。来年は、更なるアイデアで、どうしたら故障が減るか、どうしたら思い通りに移動するかなど工夫を重ね優勝を目指したいと思います。

ぴよぴよソウルのメンバーは次の8人です。

佐藤諒弥さん、池田こころさん、岡部碧さん、角田雪衣さん、山口海音さん、濵中一星さん、平野祥太郎さん、川島琉太郎さん

ジュニア部門で準優勝した「ぴよぴよソウル」のメンバー 前列左から山口さん、佐藤さん、岡部さん、角田さん、後列左から平野さん、池田さん、濵中さん、川島さん

ジュニア部門で準優勝した「ぴよぴよソウル」のメンバー
前列左から山口さん、佐藤さん、岡部さん、角田さん、後列左から平野さん、池田さん、濵中さん、川島さん

ロボット技術研究会(ロ技研)とは

日本がその最前線を担うロボット技術(ロボティクス)を中心に、回路技術、ソフトウェア技術などについての研究開発を行う、東工大生184名が所属する公認サークルです。

小さいながらも学内に部室を持ち、フライス盤、旋盤、ボール盤などの工作機械と、オシロスコープやパソコンなどの電子回路・ソフトウェア開発のサポート機材を揃えています。また、ロボットづくりという枠組みにとらわれず、「何をやってもいい」というのがこのサークルの特徴です。

知識がなくても、ゼロから設計に必要な数学的観点と、回路・工作の実学的観点を学べる環境があります。ロボット技術研究会には、研究室と呼ばれるグループがあり、それぞれのテーマを設けるなどして、様々なことを研究しています。

東工大基金

ロボット技術研究会の活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


2019年度東京工業大学防災訓練(大岡山地区)を実施

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11月13日に大岡山キャンパスにて震度6弱の地震を想定した防災訓練を実施しました。

総合訓練では、各建物・地区に自衛防災地区隊を編成し、安否確認を行うとともに、益一哉学長を本部長とする非常災害対策本部を設置しました。 その後、各班に分かれて施設の安全点検、特殊ガス等の漏洩確認、避難人数の把握、臨時救護所訓練、非常食の炊き出し等の訓練を行いました。

また、地震の後に本館で火災が発生した想定で、田園調布消防署による梯子車を使用した救助訓練や放水訓練並びにレスキュー部隊による降下訓練が行われ、放水訓練では益学長が梯子車より放水開始の指揮を執りました。

個別訓練では、消火器の取扱訓練をはじめ、地震体験車による地震時の初期対応訓練や煙体験ハウスによる火災時の避難訓練等を実施しました。

さらに、大岡山北地区では、目黒消防署指導によるAED取扱訓練が行われました。

学生・教職員等多数の参加があり、様々な訓練を通して改めて防災への意識を高める機会となりました。

放水開始の指揮を執る益学長
放水開始の指揮を執る益学長

放水演習
放水演習

地震体験車
地震体験車

煙体験ハウス
煙体験ハウス

お問い合わせ先

安全企画室安全管理グループ

E-mail : sog.anz.kan@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3408

腰原伸也教授が第39回島津賞を受賞

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東京工業大学 理学院 化学系の腰原伸也教授が2019年度の第39回島津賞を受賞したと12月10日、島津科学技術振興財団が発表しました。同財団によると、島津賞は「科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究および応用・実用化研究において、著しい成果をあげた功労者」を表彰する賞です。株式会社島津製作所が拠出した基金により設立された公益財団法人・島津科学技術振興財団が1981年度から毎年、表彰しています。受賞者は、推薦を依頼した学会から推薦のあった候補者を財団が設置する選考委員会が選考し、財団理事会が決定します。授賞式は、2020年2月19日(水)に行われます。

受賞テーマ

超短パルスレーザー光と放射光を用いた動的構造解析法の開拓と光誘起相転移の研究

受賞理由

放射光とフェムト秒パルスレーザーを組み合わせた専用測定装置を、動作原理を含めその初期段階から開発・活用し、光で物質の性質を超高速かつ劇的に変化させる「光誘起相転移現象」という従来の概念を突破する研究分野を世界に先駆けて開拓した。これにより超高速での情報処理や、高効率なエネルギー利用、さらには情報処理の(量子)過程制御が可能な材料開発への新しい道を切り拓いたことを高く評価した。

今回の受賞について腰原伸也教授は次のようにコメントしています。

腰原伸也教授
腰原伸也教授

測定科学、物質科学の両面で評価を頂く形で、大変重要な賞をいただき、光栄に感じると同時に、いままでの研究を支えていただいた多くの関係者、特に本学の学生さんたちも含む若手の皆さんに心からお礼を申し上げたいと思います。今日まで、周囲の方々ともっぱら基礎研究にまい進しておりましたので、このような高い評価をいただいたことに驚き、また今後の研究展開への責任も感じております。動的構造解析の手法も、放射光に加えて自由電子レーザー、超短パルス電子線も加わり大きな変貌を遂げつつあります。さらにレーザーもテラヘルツ領域までの高強度光の登場など新たな段階を迎えております。今回の受賞を、物質科学と測定科学の新たな出会いのきっかけとするべく、今後も「新しい世界の海図なき航海」に励んでゆきたいと思います。

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お問い合わせ先

理学院化学系 教授 腰原伸也

E-mail : skoshi@cms.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2449

導電性を制御可能な新しいナノシート材料の開発に成功 水素とホウ素の特異な構造と有機分子吸着がカギ 分子応答性センサーや触媒応用へ期待

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概要

1.
NIMS、筑波大学、JASRI、東京大学、東工大細野秀雄栄誉教授らの研究チームは、ホウ素と水素のみからなる導電性を持つ新たなナノシート材料を開発しました。またJASRIと共同で、ナノシートを構成する水素原子が特殊な配置を取っており、その構造が原因で分子が吸着することにより導電性が大きく変化することを明らかにしました。軽量かつフレキシブルで、導電性を制御できる本材料は、ウェアラブルな電子デバイスや新しいメカニズムのセンサーなどへの応用展開が期待できます。
2.
グラフェンに代表される原子・分子レベルの非常に薄い導電性ナノシート材料は、柔軟性や特異な電子状態を持つことから、キャパシターなどの電子デバイスへの応用が期待されています。その中で、グラフェンを超える優れた電子特性を持つと理論的に予想されていたものが、ホウ素と水素のみからなるホウ化水素ナノシートです。この材料は合成が非常に困難であることが知られていましたが、2017年に筑波大学やNIMSなどの研究チームが、ホウ化水素ナノシートの合成に世界で初めて成功しました。ところがその特性を調べたところ、予測とは異なり導電性を持たない絶縁体でした。そこで、なぜ理論的な予測と違って導電性を持たないのかを明らかにすることで、導電性を持つホウ化水素ナノシートの合成を目指した研究が進められてきました。
3.
今回研究チームは、導電性を持たない原因が表面に吸着する不純物にあることを明らかにし、試料の純度を高める適切な前処理をすることで、安定して導電性を発現するホウ化水素ナノシートの合成に成功しました。さらに、導電性発現に関するメカニズムを詳細に調べるため、大型放射光施設SPring-8を利用してホウ化水素ナノシートの構造を解析したところ、水素原子が特殊な配置を取っており、その構造によって電気的な偏りが発生し、そこに微量の有機分子が吸着することで導電性が安定していなかったことを明らかにしました。
4.
本成果は、有機分子の吸着によって導電性を制御できる可能性を示しており、ホウ化水素ナノシートの大きな特徴の1つと考えられます。この特徴を生かすことで、分子の吸着性を利用した分子応答性のセンサー材料や触媒材料など、導電性ナノシート材料の全く新しいデバイス応用が期待できます。
5.
本研究は 、国立研究開発法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)ソフト化学グループ 冨中悟史 主任研究員と、国立大学法人筑波大学 数理物質系 近藤剛弘 准教授、公益財団法人高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 尾原幸治 主幹研究員、国立大学法人東京大学 物性研究所 松田巌 准教授および国立大学法人東京工業大学 元素戦略研究センター 細野秀雄 栄誉教授らの共同研究チームによって行われました。また、本研究は、文部科学省科学研究費補助金事業(18H03874、18K05192、19H02551、19H05046)および文部科学省元素戦略プロジェクト(研究拠点形成型)東工大元素戦略拠点(TIES)による支援の下で行われました。
6.
本研究成果は、Chem誌にて現地時間12月9日午前11時(日本時間10日午前1時)にオンライン先行公開されました。

研究の背景

電気が流れる特性(以下、導電性)は、金属を除くと限られた材料でのみ見られるものであり、分子・原子レベルの厚みを有するナノシート材料では、グラフェンや酸化ルテニウムナノシートなどの限られた材料でのみ報告されています。導電性はキャパシターなどの電子デバイスなどに必須であり、電子・情報化社会において非常に重要な特性です。さらに、1種類のナノシート材料のみではなく、異なるナノシート材料を組み合わせて利用することで、新たな機能の発現が期待できるため、これまでにないデバイスの誕生も期待されます。NIMSの国際ナノアーキテクトニクス研究拠点を初め、世界中で活発に研究が行われてきました。

ホウ素と水素のみからなるホウ化水素ナノシートはボロファンという通称名で知られ、理論的に多様な原子配置を取りうることや導電性を有することが予想されてきました。新しい水素吸蔵材料や電子材料としての優れた特性が期待されていましたが、実際に合成をすることは困難でした。しかし、筑波大学が中心となりNIMSを含む研究機関と共同で、2017年に世界で初めて、そのホウ化水素ナノシートの生成に成功しました(参考 新しいシート状物質「ホウ化水素シート (ボロファン) 」の誕生outer)。

理論的にホウ化水素ナノシートはさまざまな構造が予想されており、非常に魅力的な材料群の先駆的な合成の成功と言えます。しかし、実際に合成した試料は計算による予測とは異なり、結晶ではありませんでした。そこで、化学的に合成したホウ化水素ナノシートに関して、「導電性を有するのか?」という問いと、「なぜ非晶質なのか?」という問いに答えることが本研究の学術的な目的です。

研究内容と成果

導電性の計測実験では、研究を開始した当初は、計算の予測とは異なり、ホウ化水素ナノシートは絶縁体でした。NIMSが主体となり、前処理を変えた計測を繰り返し、導電性の発現には試料の純度を高めることが極めて重要であることを見出し、筑波大学と連携し、高純度試料の測定を繰り返し行いました。試料の合成は筑波大学が中心となり、東京大学、東京工業大学、NIMSが共同で、高純度のホウ化水素ナノシートの合成に成功しました。その試料をNIMSが繰り返し測定し、導電性が発現する前処理を発見しました。微量ではあるものの合成に用いた有機分子が残存し、その吸着により導電性が発現しないことが分かり、適切な前処理を行うことで、安定して高い導電性(ホウ化水素としては最高レベル、0.13 S/cm)が得られるようになりました。

残存分子は微量であり、通常の導電材料の評価では問題になるものではありませんでした。興味深いことに、残存分子が存在する時には導電性が発現していても、温度上昇とともに30 ℃付近で絶縁体に変化する現象が見られました。この現象は可逆的であり、温度の低下で元の導電性が回復しました。そこに化学的に重要なことが隠されていると考えられました。

詳細な理解のためには、原子の配置を明らかにする必要がありますが、この材料は非晶質であり、構造解析の一般的な手法の回折法が利用できません。X線散乱データから得られる二体分布関数[用語1]であれば、非晶質であっても構造に関する情報が得られるため、NIMSとJASRIが共同で、大型放射光施設SPring-8[用語2]のBL08WにてX線散乱実験を行い、二体分布関数の導出を行いました。非常に複雑なデータであり、通常の手法では解析は困難ですが、NIMSが実験データを機械的に解析するベイズ最適化[用語3]を用いたプログラムと、結合電子も含めた全電子状態を解析する全電子二体分布関数解析法[用語4]を世界で初めて開発したことで、水素が特殊な配置を取っていることが明らかとなりました。これらの解析により、特殊な水素原子の配置により微量の有機分子の吸着が可能となり、結果的に導電性が安定していなかったことが分かりました。

ホウ化水素ナノシートを化学的に合成。分子レベルの厚みのシート状物質で、特殊な水素の配置を有する。電気が流れ、その導電性は分子の吸着に敏感。
図.
ホウ化水素ナノシートを化学的に合成。分子レベルの厚みのシート状物質で、特殊な水素の配置を有する。電気が流れ、その導電性は分子の吸着に敏感。

今後の展開

軽量かつフレキシブルなホウ化水素ナノシートは、ウェアラブルな電子デバイスへの応用が期待できます。さらに、ホウ化水素ナノシートの大きな特徴の1つとして分子の吸着性を考えると、分子の吸着で導電性が大きく変わる材料として使うことが可能です。実際に30 ℃以上で、6桁も抵抗が大きくなる現象が見られました。分子応答性のセンサー材料の開発に繋がる基礎特性と考えられます。また、特殊な水素の配置により、酸点と塩基点が存在するため、触媒材料への応用も期待できます。現在、研究チームは、さまざまな応用を目指して、この新しい材料の研究を続けています。これまでにはない特性を持つ材料の開発により、全く新しいデバイスの誕生が期待できます。

用語説明

[用語1] 二体分布関数 : 原子ペアの距離と密度の関係を表すヒストグラムである。結晶にのみ有効な伝統的な回折データとは異なり、全ての物質の指紋に当たる情報として近年、物質・材料の研究で注目されている。

[用語2] 大型放射光施設SPring-8 : 理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援はJASRIが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

[用語3] ベイズ最適化 : データの解析の際に、これまではランダムな試行の繰り返しによる最適化が一般的であったが、近年、機械的に最適な値へと導く手法が検討されている。ベイズ最適化はその中でも広く知られた方法で、ランダムではなく、過去の試行結果を学び、如何に最適値へと導くかを機械的に調整しながら試行を繰り返す手法で、今回は二体分布関数の解析に初めて導入した。

[用語4] 全電子二体分布関数解析法 : 二体分布関数の解析は、孤立した原子が分布していることを仮定して解析するのが一般的である。しかし、原子同士の結合を作る結合電子が無視できない場合、従来の手法では解析が困難である。NIMSでは物質の全電子位置と数を計算し、それに対する二体分布関数をシミュレーションして実験データの解析を行う新しい手法の開発を行った。これにより、水素とホウ素、ホウ素とホウ素の結合電子まで考慮した解析が可能になった。

論文情報

掲載誌 :
Chem
論文タイトル :
Geometrical Frustration of B-H bonds in Layered Hydrogen Borides Accessible by Soft Chemistry
著者 :
Satoshi Tominaka, Ryota Ishibiki, Asahi Fujino, Kohsaku Kawakami, Koji Ohara, Takuya Masuda, Iwao Matsuda, Hideo Hosono, and Takahiro Kondo
DOI :

お問い合わせ先

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 ソフト化学グループ

主任研究員 冨中悟史

E-mail : TOMINAKA.Satoshi@nims.go.jp
Tel : 029-860-4594

国立大学法人 筑波大学 数理物質系

准教授 近藤剛弘

E-mail : takahiro@ims.tsukuba.ac.jp
Tel : 029-853-5934

取材申し込み先

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
経営企画部門 広報室

E-mail : pressrelease@ml.nims.go.jp
Tel : 029-859-2026 / Fax : 029-859-2017

国立大学法人 筑波大学 広報室

E-mail : kohositu@un.tsukuba.ac.jp
Tel : 029-853-2039 / Fax : 029-853-2014

国立大学法人 東京大学 物性研究所 広報室

E-mail : press@issp.u-tokyo.ac.jp
Tel : 04-7136-3207

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

SPring-8 / SACLAに関すること

公益財団法人 高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課

E-mail : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2785 / Fax : 0791-58-2786

「土木インフラ維持管理計画の作成支援技術」を開発 道路・鉄道管理者の意図に沿った維持管理計画を容易に作成

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東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系の岩波光保教授と三菱電機株式会社(以下、三菱電機)、鹿児島大学は、道路・鉄道管理者の意図に沿った、土木インフラの長期にわたる維持管理計画が容易に作成できる「土木インフラ維持管理計画の作成支援技術」を開発しました。

本技術は鹿児島県薩摩川内市の協力を得て開発しており、同市が管理する橋梁を対象とした実証を2019年11月から開始しました。本開発成果の詳細は、土木学会建設マネジメント委員会の「第37回建設マネジメント問題に関する研究発表・討論会」で12月2日に発表しました。

図1. 維持管理計画作成支援の概要

図1. 維持管理計画作成支援の概要

開発の特長

1.損傷の種類に着目した「劣化進行モデル」により、インフラごとに最適な補修時期を予測

  • ひび割れやコンクリートの剥離、鉄筋露出などの損傷の種類に着目し、劣化の進行速度を予測する独自の「劣化進行モデル」を考案
  • 健全度が同じ土木インフラから早期に劣化するインフラを見つけ、最適補修時期を予測

2.「劣化・コストモデル」により、予防保全に必要なコストと効果を見える化

  • 損傷の種類と度合いに応じて補修コストを算出する「補修コストモデル」を考案
  • 「劣化進行モデル」を統合した「劣化・コストモデル」により、劣化の進行に応じた補修コストの見積もりが可能
  • 劣化の進行に応じた補修コストをもとに、予防保全に必要なコストと効果を見える化

3.維持管理目的指標を重みづけし、管理者が優先する目的を的確に計画に反映

  • 多様な維持管理目的を指標化し、「劣化・コストモデル」と組み合わせた最適化問題として解くことにより、管理者の多様な維持管理目的を考慮した複数の維持管理計画案を作成
  • 維持管理目的に応じた指標の重みづけにより、優先する目的を的確に反映し、管理者の意図に沿った維持管理計画を作成

今後の展開

今後、鹿児島県薩摩川内市にて橋梁を対象とした実証を進め、モデルの精度向上を図ります。また、開発の対象を他の地域や他の種類のインフラ維持管理にも広げていく予定です。

開発体制

名称
担当内容
三菱電機
計画作成支援機能の全体設計、システム化、最適化アルゴリズム開発、実証とりまとめ
東京工業大学
計画作成支援機能の全体設計、補修コストのモデル化および、劣化進行モデルとの統合
鹿児島大学
計画作成支援機能の全体設計、インフラ点検データの解析、劣化進行のモデル化

開発の背景

近年、高度経済成長期に建設された国内の多くの土木インフラが一斉に老朽化し、更新時期を迎えています。2014年には国土交通省が自治体や道路会社に対して、橋梁やトンネルなどの5年に1回の目視による定期点検を義務付け、壊れてから補修する事後保全から、壊れる前にこまめに補修する予防保全への転換を推進しています。

予防保全には長期にわたる維持管理計画の作成が必要ですが、管理対象となる土木インフラの数は膨大で、現在のような人手による適切な計画の作成は容易ではありません。

例えば、道路橋の健全度は点検結果により4段階に区分されており、同一の健全度と診断されるインフラが多数存在するため、適切な補修順位の設定は困難です。さらに、予算の制約に加え、災害時の避難経路の確保や落下物による第三者被害の防止など、インフラの維持管理目的も多岐にわたるため、維持管理計画に管理者の複数の意図を的確に反映することも困難です。

今回、橋梁を対象として、劣化進行のモデル化と多様な維持管理目的の指標化を行い、最適化問題として解くことで、維持管理目的指標の重みづけに応じた補修時期や補修コストを算出し、維持管理計画案として提示できる技術を開発しました。また、さまざまな視点で指標の重みづけを変更できるようにしたため、管理者の意図に沿った計画が作成できるようになりました。

特長の詳細

1.損傷の種類に着目した「劣化進行モデル」により、インフラごとに最適な補修時期を予測

今回、鹿児島県薩摩川内市が管理する538本のコンクリート橋の橋梁データと点検結果を解析し、コンクリート橋の劣化進行に大きく影響する、ひび割れとコンクリートの剥離、鉄筋露出といった損傷に着目し、劣化の進行速度を予測する独自の「劣化進行モデル」を考案しました。

例えば定期点検の結果、現在は健全度が同じと診断されれば、劣化進行の速度も同じであると仮定して補修時期を推定していますが、実際にはその後の劣化進行速度が異なる場合もあります。今回、「劣化進行モデル」により、現在の健全度だけではわからなかった早期に劣化する土木インフラを見つけられるようになり、個々のインフラに応じた適切な補修時期を予測できます(図2)。

図2. 劣化進行モデルからの補修時期の予測

図2. 劣化進行モデルからの補修時期の予測

2.「劣化・コストモデル」により、予防保全に必要なコストと効果を見える化

ひび割れの深さやコンクリートの剥落面積など、損傷の種類と度合いによって補修工法が異なり、それに応じて補修コストも変化します。今回、損傷の種類と度合いに応じて補修コストを算出する「補修コストモデル」を作成し、「劣化進行モデル」と組み合わせた「劣化・コストモデル」により、劣化進行に対応した補修コストの見積もりが可能になりました(図3)。補修時期に達した時点での補修コストを一律に決定するのではなく、補修時期に達する前後の時期でも、劣化の進行度合に対応した補修コストがわかるため、劣化が深刻になる前に補修して寿命を延ばす予防保全に必要なコストと効果を見える化できます。

図3. 劣化進行に対応した補修コストがわかる劣化・コストモデル

図3. 劣化進行に対応した補修コストがわかる劣化・コストモデル

3.維持管理目的指標を重みづけし、管理者が優先する目的を的確に計画に反映

管理者は、「災害時の避難経路確保を最優先にしたい」「コンクリート片落下による第三者被害を防ぎたい」など、インフラに対するさまざまな維持管理目的を持っています。これらの目的を、要補修レベルや、落下物の第三者被害による経済損失などの指標に変換し、「劣化・コストモデル」と合わせて定式化することで、最適化問題として解くことが可能になりました。

これにより、例えば、比較のために複数の予算案を作成するなど、人が考えるよりはるかに多種多様な案を容易に作成できます。また、膨大な数のインフラの劣化進行や補修時期、補修コストを算出し、管理者の多様な維持管理目的を考慮した、複数の維持管理計画案を容易に作成・提示できるため、計画案に対する多面的な評価も可能になります。さらに要補修レベルの引き上げなど、指標の重みづけを変えることができるため、管理者が優先する目的を的確に反映し、管理者の意図に沿った維持管理計画を作成できます。

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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

「環境報告書2019ダイジェスト」英訳版も発行

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2018年度における東京工業大学の研究・教育活動に伴う環境負荷低減の取り組み・環境保全活動をまとめた「環境報告書2019」(日本語版のみ)のダイジェスト英訳版を作成しました。環境報告書の英訳版公表は初めてです。

環境報告書は、企業など事業者が、環境保全に関する方針・目標・計画、環境マネジメントに関する状況、環境負荷の低減に向けた取り組みの状況などについて取りまとめ、公表するものです。国立大学法人は環境配慮促進法(2004年)により、事業年度ごとに環境報告書を作成し公表することが義務づけられています。東工大は2005年度から毎年度、日本語版の環境報告書を公表しています。「環境報告書2019」の日本語版は9月に発行し、キャンパスマネジメント本部総合安全管理部門ウェブサイトouterでご覧いただけます。このたび、英語で要約したダイジェスト英訳版を新たに作成し、同じサイトでご覧いただけるようになりました。

英訳版の表紙と目次は以下の通りです。

「環境報告書2019」ダイジェスト英訳版

Contents(目次)

  • President's Greeting(学長ごあいさつ「社会と共に未来をデザイン」)
  • Environmental Policy(環境方針)
  • Scientific and Technological Research Contributing to the Environment(環境に貢献する科学技術研究)
  • Environmental Education and Talent Development(環境教育と人材育成)
  • Social Contribution Activities(社会貢献活動)
  • Environmental Management(環境マネジメント)
  • Environmental Performance(環境パフォーマンス)

お問い合わせ先

総合安全管理部門 環境報告書作成事務局

E-mail : kankyouhoukoku@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3407

2019年度「東工大特別賞」を2名に授与

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大学の研究教育の円滑な推進に寄与し、大学への貢献が顕著な東京工業大学職員を表彰する2019年度の「東工大特別賞」表彰式が11月22日、大岡山キャンパスで行われました。

この表彰は、多年にわたって研究教育の円滑な推進に寄与し、かつ、勤務成績が優秀と認められる大学職員に対し行われているものです。

今年度は主任技術専門員、長峯靖之さんと技術専門員、源関聡さんの2名が表彰されました。

表彰式では、益一哉学長より表彰状の授与と報奨金目録の贈呈が行われました。

今回受賞した職員は次のとおりです。

2019年度「東工大特別賞」受賞者

  • 技術部すずかけ台設計工学部門 技術職員(主任技術専門員) 長峯靖之

    受賞理由「技術部設計部門における長年の管理運営業務への多大な貢献」

  • 技術部大岡山分析部門 技術職員(技術専門員) 源関聡

    受賞理由「多年にわたる分析系共用施設の運営及び研究支援に対する多大な貢献」

(前列左から)受賞した源関さん、益学長、長峯さん

(前列左から)受賞した源関さん、益学長、長峯さん

お問い合わせ先

総務部 人事課 労務室

E-mail : jin.iku@jim.titech.ac.jp

東工大基金「令和元年度(2019年度)感謝の集い」開催報告

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東京工業大学では、東京工業大学基金(以下、東工大基金)へのご寄附など、本学を支援いただいた方々を招き、感謝の意を表する「感謝の集い」を年に一度開催しています。今年は、10月30日に大岡山キャンパス東工大蔵前会館にて開催されました。卒業・修了生、在学生の家族、寄附いただいた個人/企業(団体)の方、退職教職員及び学内関係者の約180名が出席しました。

東工大基金とは

2011年の創立130周年を契機に、財政基盤の強化を目的として創設され、これまで個人や企業(団体)の多くの方々から多大なご支援をいただきました。皆様からのご支援は、各種奨学金の充実、学生の海外派遣・留学生の受け入れ支援、若手研究者への大型支援、理科教育の振興支援等に活用しています。

令和元年度(2019年度)感謝の集い

特別講演

小池教授による特別講演
小池教授による特別講演

科学技術創成研究院の小池康晴教授が「脳の情報を読み取る」と題して講演しました。

小池教授は、人間の脳の機能を知り、コンピュータを使ってその機能を再現することを目標に、脳の中で行なわれている方法を模倣して機能を再現する研究をしています。なんらかの事情で腕や手が失われた方々が、再び自由を手にするという希望につながる講演内容は、出席者からも好評で、活発な質疑応答が行われました。

報告会

特別講演に続き、報告会を行いました。まず、益一哉学長から開会挨拶があり、つぎに、日置滋副学長(基金担当)から東工大基金についての報告がありました。さらに、基金からの支援事業に参加した教員・学生からの活動報告がありました。

発表する栗原さん
発表する栗原さん

海外留学奨学生

「ボローニヤ留学」(環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程2年 栗原悠太さん)

本学派遣交換留学生プログラムでイタリア・ボローニヤ大学へおよそ1年間留学した際の、大学での授業や課外活動など現地での体験について報告がありました。この留学で得た貴重な体験・経験、身に付けた積極性を活かし、将来国際舞台で活躍できる人材となれるよう引き続き研鑽していきたいとの報告がありました。

発表する関根さん
発表する関根さん

理科教育振興支援 採択事業

「『ものつくり』のための自動発泡スチロールカッターの開発」(工学院 学士課程1年 関根史人さん)

市販のカッターでは細部まで処理できないなか、今回の装置開発では、手書きの絵をスキャンすることでイメージ通りの成型が可能になるという未知の可能性を秘めた内容に、会場からは感嘆の声が上がりました。質疑応答では、特に特許関係についての助言などがありました。本支援により、より多くの時間と資金を開発に投入できたことについて発表者の関根さんから謝意がありました。

発表する安田研究員
発表する安田研究員

学生起業教育支援(学生スタートアップ支援) 採択事業

「世界初、来店不要のフルオーダーメイド靴」(情報理工学院 情報工学系 安田翔也研究員)

スマートフォンで足回りをぐるっと撮影して送ることで、来店による採寸を行うことなくフルオーダーメイドの靴が製作できるという技術革新についての画像を交えての説明に、こちらも会場から感嘆の声が上がりました。安田研究員は採択当時総合理工学研究科知能システム科学専攻の博士課程学生でしたが、本事業をもとに「ビネット&クラリティ合同会社」を起業し、東工大発ベンチャーにも認定されています。

「東工大の星」研究支援 採択事業

「オートファジーの仕組みはどこまで分かったか」(生命理工学院 生命理工学系 中戸川仁准教授)

発表する中戸川准教授
発表する中戸川准教授

中戸川准教授は、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授から直接指導を受けた「お弟子さん」にあたります。大隅栄誉教授による酵母でのオートファジー発見がきっかけとなり、日本で発展した研究。そんな日本発の研究分野に挑む、将来を嘱望されるスター研究者の1人、中戸川准教授の研究成果が紹介されました。

交流会

報告会の後、会場を移して交流会を行いました。まず、本学の同窓会組織である一般社団法人蔵前工業会の滝久雄相談役から開会挨拶があり、つぎに、岡田清名誉教授(前理事・副学長(企画・人事・広報担当))による乾杯の発声がありました。会場では、東工大基金が支援した3事業の実施担当者が、報告のパネルや活動で使用した作品などを展示しました。特許関係も含めた参加者からの熱心な質問がやむことなく、活発な交流会となりました。そして、佐藤勲総括理事・副学長の挨拶をもって閉会しました。

事業報告のブースで、参加者からの熱心な質問に答える実施担当者

事業報告のブースで、参加者からの熱心な質問に答える実施担当者

今回の「感謝の集い」は、2018年8月1日から2019年7月31日までに東工大基金に寄附いただいた方、これまでに多大な寄附をいただいた方やサポーターズ会員の皆様を招待して行われました。

今後も、東工大基金への寄附者の皆様に対し、本学に親しんでいただくためのイベントを積極的に開催し、幅広い交流を目指して活動していく予定です。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学 基金室

E-mail : bokin@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2415


小門宏名誉教授が令和元年秋の叙勲を受章

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令和元年秋の叙勲において、小門宏名誉教授が瑞宝中綬章を受章しました。長年にわたる教育と研究への多大な貢献が評価されたものです。

小門宏名誉教授

小門宏名誉教授

経歴

小門宏名誉教授(1992年4月称号授与)は、早稲田大学 第一理工学部 応用化学科を経て東京工業大学 大学院理工学研究科に学び、1958年3月に同博士課程(化学専攻)を修了、同年5月に本学助手に採用されました。助教授を経て、1970年11月に工学部附属印写工学研究施設教授となり、のちには工学部附属像情報工学研究施設長、附属図書館長津田分館長の任も務めました。教育面では、大学院総合理工学研究科 物理情報工学専攻を担当。1991年4月からは千葉大学工学部画像工学科に移籍し、1997年に定年退職しました。

この間、現用事務複写機の基本技術である電子写真技術、さらにコンピュータの出力情報の可視化技術の材料面での研究に従事。学会活動では、電子写真学会(現、日本画像学会)会長、日本写真学会会長などを務めました。

コメント

受章通知に接して驚き、思いもよらぬ光栄に戸惑った、というのが私自身の最初の気持ちでした。次いで、いくつかの祝電や電話を頂戴するにつれ、今までご指導やお励ましをくださったたくさんの方々を思い浮かべ、感謝の思い、懐かしい思いが沸いてきました。思えば、学生時代を含め、本学で過ごした35年間、非常に良い環境で楽しく仕事をさせていただきました。仕事だけでなく、生き方の面でも、諸先輩から多くを学びました。教職員、学生、そして研究と関わりのあった学外の人たちとの出会いは、私の生涯の大事な宝となりました。そして、一人ひとりを大切にしながら、皆で協力して新しい世界を切り拓いて行く、本学のそんな雰囲気が、とても好きでした。

こうした環境を築き上げてこられた諸先輩のご努力に頭が下がります。今後、本学を取り巻く社会情勢が変わることがあっても、この雰囲気がいつまでも保たれることを望んでおります。

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

サイクリング部サイクルサッカー班が全日本学生選手権大会で14年ぶりの優勝

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自転車に乗って2人一組でサッカーのようにゴールを狙う室内競技、サイクルサッカーの全日本学生選手権が11月16、17日に東京工業大学大岡山キャンパスで開かれ、東工大サイクリング部サイクルサッカー班が優勝しました。東工大チームの優勝は14年ぶりです。

大会終了後の集合写真

大会終了後の集合写真

全日本学生サイクルサッカー選手権大会

2019年度の全日本学生サイクルサッカー選手権大会(通称インカレ、公益財団法人 日本室内自転車競技連盟主催)は学生最高峰の大会であり、昨年度優勝を果たした大阪経済大学や大阪大学など計20チームが出場しました。

サイクルサッカー班の増田翔さん(工学院 システム制御系 学士課程4年)と市橋啓太さん(環境・社会理工学院 建築学系 学士課程3年)のチームが優勝を飾り、池田賢さん(環境・社会理工学院 建築学系 学士課程4年)と番場崇さん(環境・社会理工学院 建築学系 学士課程4年)のチームは第3位でした。準決勝は東工大同士が対戦しました。決勝は増田さん・市橋さんチームが昨年度優勝の大阪経済大学と対決し、なかなか決着がつかずPK戦サドンデスまでもつれ込んだ熱戦を制しました。

決勝戦の様子(赤のユニホームが東工大)

決勝戦の様子(赤のユニホームが東工大)

優勝した増田さんのコメント

まず大会を運営してくださった連盟の方々、審判の方々にこの場を借りて感謝申し上げます。最後の全日本学生選手権で日本一になることを目標に取り組んでいたので心から嬉しいです。昨年度の悔しい経験が接戦になった時の粘りある試合展開に繋がったと思います。今年は東工大体育館での開催ということでホーム感があり、先輩方や後輩、同期の熱い応援が力になりました。決勝点となったPK戦での得点は最後まで信じてくれたみなさんのおかげだと思っています。残りわずかとなった学士課程だけではなくこれからの人生でこの経験を生かせるように走り続けたいと思います。

延長戦残り4分、東工大のコーナーキックで同点に追いつく

延長戦残り4分、東工大のコーナーキックで同点に追いつく

優勝した市橋さんのコメント

今大会で優勝できてとても嬉しいです。部員のみんなと切磋琢磨し、OBの方々に教えていただくことで実力をつけることができたと思うので、みなさんにはとても感謝しています。サイクルサッカーは前半後半7分ずつの合計14分で試合が行われる、試合時間が短いスポーツです。時間が短いので、一瞬でも気を抜くとピンチになってしまい失点してしまうスポーツで、集中力が必要になります。サイクルサッカーを通して集中力を身に付けることができたのは良かったです。この集中力を生かして、大学での学びを充実させ、社会に出て活躍をしていきたいと思っています。

PK戦の末、ゴールキーパーの市橋さんが相手チームのシュートを止めて優勝を決める

PK戦の末、ゴールキーパーの市橋さんが相手チームのシュートを止めて優勝を決める

サイクルサッカーとは

サイクルサッカーは、2人1チームとなって自転車に乗って行うサッカーのようなスポーツで、体育館などで行われる室内自転車競技の一種です。競技には専用の自転車を使い、主に前輪を使ってドリブルやパス、シュートをします。ほとんど立ちこぎでプレーするため、自転車はハンドルが上を向き、ギアは固定ギアになっています。

使用するボールは表面が布製で直径は17~18 cm、重さは500~600 g。コートの広さは11 m×14 mで、試合は2対2で行います。試合時間は前半7分、後半7分の合計14分。試合中、選手は地面に足を着いてはいけません。サイクルサッカーは自転車を巧みに操りながら、ゴールを狙うスポーツです。日本ではほとんどの選手が大学から始めます。

全日本学生選手権大会では、決勝トーナメント以降、前半後半の計14分で決着が付かなかった場合に延長戦を7分1本のみ行います。それでも決着が付かない場合、PK戦を1選手2本ずつ打ち合います。1チーム4本ずつ終了しても決着が付かな場合はPK戦のサドンデスを行います。本大会決勝ではPK戦サドンデスまでもつれ込む白熱した試合展開の末、東工大が勝利しました。

東工大サイクリング部とは

東工大の公認サークルとして、東京工業大学、お茶の水女子大学、東京外国語大学の学生を中心に活動しています。主にツーリング班、サイクルサッカー班、レーサー班の3班に分かれて100名ほどが活動しています。今回メンバーが優勝したサイクルサッカー班は東工大大岡山キャンパスの屋内運動場で週2回練習しています。

東工大基金

サイクリング部の活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

サブナノ粒子の新計測法の開発に成功 サブナノ領域の未解明の構造・活性に迫る新技術

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要点

  • これまで観測できなかったサブナノ粒子の振動分光の直接計測に成功
  • 振動スペクトルの理論解析によって、サブナノ粒子の構造と組成を決定
  • サブナノ粒子の物性や触媒活性を理論・実験双方から解明する新たな指針

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の葛目陽義特任准教授、山元公寿教授らの研究グループは、高感度化したシリカ被覆ナノ粒子増強ラマン分光法(SHINERS)[用語1]を開発し、新しいナノ材料素材として潜在的な触媒機能を有するものの、これまで観測できずにその特異的な物性評価ができなかった粒子径0.5~1.5 nm(ナノメートル)からなるサブナノ粒子[用語2]の微弱な分子振動の計測に成功した。

得られた分子振動の結果を理論計算的手法により振動分光シミュレーション[用語3]することにより、サブナノ粒子の原子構造や表面組成を明らかにした。さらにサブナノ粒子の構成原子数が減少することによる反応活性の著しい増加の原因を実験的・理論的双方から解明した

この成果は今後、サブナノ領域における新規素材の物性・活性評価法の指針となることが期待される。

この研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「山元アトムハイブリッドプロジェクト(山元公寿研究総括)」で実施した。研究成果は米国東部時間2019年12月13日付の米国科学振興協会(AAAS)の「Science Advances」オンライン版に掲載された。

研究の背景

山元教授らの研究グループは、これまでに分子鋳型を用いた精密金属集積法[用語4] により、構成原子数を制御した各種のサブナノ粒子の合成に成功している。中でもガスセンサーなどに利用される酸化スズのサブナノ粒子は、構成原子数が60個、28個、12個と減少することにより、一酸化炭素の酸化反応活性が増加することを解明している。

しかし、その構成原子数と反応活性の相関は解明されていなかった。触媒の結晶構造や表面における結合構造を解明するには振動分光法が有効だが、サブナノ粒子の観測は振動信号が微弱であるため従来の分析法では検出が困難だった。

研究の経緯

サブナノ粒子の振動分光スペクトルを得るために、同研究グループはシリカ被覆ナノ粒子増強ラマン分光法(SHINERS)に注目した。しかし、従来のSHINERS法は感度不足からサブナノ粒子の検出はできなかった。

そこで、金の増強素子の表面にラマン信号の増強能が最も高い元素である銀を被覆し、さらにシリカで被覆した金銀コアシェル増強素子[用語5]を開発した(図1)。増強素子の粒子径が100 nmのとき、ラマン信号増強能が最も高くなることを実験的に明らかにし、理論計算を用いて実証した。

図1. 鋳型合成法で作成されたサブナノ粒子が、シリカ被覆金銀コアシェルナノ粒子増強素子の粒子間ギャップに入ることで、ラマン信号が増強され、超高感度な直接計測に成功した
図1.
鋳型合成法で作成されたサブナノ粒子が、シリカ被覆金銀コアシェルナノ粒子増強素子の粒子間ギャップに入ることで、ラマン信号が増強され、超高感度な直接計測に成功した

この金銀コアシェル増強素子を用いて酸化スズのサブナノ粒子を観測したところ、ラマンスペクトルの計測に成功し、さらにサブナノ粒子の構成原子数に依存した微弱なスペクトル挙動変化を捉えることにも成功した(図2)。

図2. (A)金銀コアシェルSHINERS法によって直接計測された酸化スズサブナノ粒子のラマンスペクトルと、(B)構成原子数変化によるピークトップ位置と(C)ピーク半値幅値の変化
図2.
(A)金銀コアシェルSHINERS法によって直接計測された酸化スズサブナノ粒子のラマンスペクトルと、(B)構成原子数変化によるピークトップ位置と(C)ピーク半値幅値の変化

酸化スズサブナノ粒子の化学組成式を決定するために、X線光電子分光法(XPS)[用語6]を用いて酸化状態を調査し、得られたスズ(Sn)と酸素(O)の組成式を求めた。得られた組成式に水分子を適当数添加したそれぞれの化学組成式(Sn12O25H16, Sn28O48H12, Sn60O112H24)について、理論計算的手法で構造安定化後の構造に対してラマンスペクトルをシミュレーションし、実験で得られた振動スペクトルと一致することを明らかにした(図3)。

図3. 実測されたラマンスペクトル(実線)と構造安定化された構造からシミュレーションされたラマンスペクトル(点線)との比較と、それぞれの構造安定化されたクラスターの原子構造
図3.
実測されたラマンスペクトル(実線)と構造安定化された構造からシミュレーションされたラマンスペクトル(点線)との比較と、それぞれの構造安定化されたクラスターの原子構造

こうして得られた酸化スズサブナノ粒子の構造から、スズ-酸素結合の平均結合距離を算出すると、構成原子数の小さいサブナノ粒子ほど、結合距離が長くなり、酸素供給能力が高くなることが示された。これは構成原子数が小さくなることで、触媒活性が向上する原因を直接的に解明する結果である。

研究成果

今回の研究ではシェル被覆金銀コアシェルナノ粒子を増強素子として高感度化した表面増強ラマン分光法を開拓し、既存の分光法では計測することができなかったサブナノ粒子の振動分光スペクトルの直接計測に成功した。さらに構成原子数の変化による微弱なスペクトル挙動の変化を捉えることにも成功した。

得られた各スペクトル挙動を理論計算的手法により振動分光シミュレーションすることで、サブナノ粒子の原子構造・表面組成を解析し、これまで現象学的[用語7]にのみ確認されていたサブナノ粒子の特異的な反応活性の起源について、その構造や物性から論理的に説明することに成功した。

今後の展開

分子鋳型を用いて原子数や原子の種類を精密制御したサブナノ粒子は、山元教授らにより多数開発されており、新たな機能を持つ電子材料や高活性触媒材料の開発へ展開されている。今回、開発した超高感度ラマン分光法が、サブナノ科学の新領域において未知材料の、物性・活性の解明につながる評価指針となることが期待される。

用語説明

[用語1] シリカ被覆ナノ粒子増強ラマン分光法(Shell-isolated nanoparticle-enhanced Raman spectroscopy: SHINERS) : ラマン分光法は入射光と試料との相互作用による散乱光(ラマン散乱光)を分光解析することで、試料の化学結合・分子構造を分析する分光法である。特にラマン分光法は金属と非金属原子間の低波数振動信号を検出できる直接分光法で、中でも増強素子を導入することで信号強度を顕著に高めたものが表面増強ラマン分光法(Surface-enhanced Raman spectroscopy: SERS)である。さらに増強素子の表面を化学的に不活性な物質(今回はシリカ=二酸化ケイ素)で被覆することで、観測する物質が増強素子と直接接触しないSHINERS法は、サブナノ粒子に必要な観察環境に適している。

[用語2] サブナノ粒子 : 粒子径1 nm程度の極微小な粒子。構成するほぼすべての原子が表面に露出するため、特異的な結晶構造や電子状態を示し、新奇な物性発現が期待されるナノ材料素材である。その一方、粒子間での凝集を抑制するため、広い粒子間距離を確保できるようにするなどの必要がある。

[用語3] 振動分光シミュレーション : コンピューターシミュレーションを駆使することで、化学構造から振動スペクトルを予想する方法。分光計測で得られるスペクトルを精緻に解釈したり、新たな振動モ―ドや化学構造を予測したりすることで、物質の性質を明らかにする理論計算的方法論。

[用語4] 分子鋳型を用いた精密金属集積法 : 規則的に分岐した樹状構造の高分子で、コアと呼ばれる中心分子と、コアから樹状に延びるデンドロンと呼ばれる側鎖部分から構成されるデンドリマーをナノサイズの分子鋳型として利用し、1 nm程度のサブナノ粒子を合成する手法。本研究では、デンドリマーの側鎖部分にイミンと呼ばれる炭素と窒素の二重結合からなる化学結合部位を組み込むことで、窒素上の電子が塩基として働き、金属イオンと結合することで、デンドリマー分子内部に金属イオンを集積する独自設計のデンドリマーを採用した。この取り込んだ金属イオンを化学的に還元することで目的のサブナノ粒子を得る。本研究では12個、28個、60個の塩化スズをデンドリマー内部に集積した。

[用語5] 金銀コアシェル増強素子 : 金を核(コア)として、銀で表面を覆った(シェル)、ラマン信号を増強する粒子径約100 nmのナノ粒子。

[用語6] X線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy: XPS) : X線を照射することで試料表面から放出される光電子のエネルギーを分光分析することで、試料の元素分析、酸化状態や結合状態を評価する固体表面分析法。

[用語7] 現象学的 : 自然科学により実証された普遍的・客観的本質ではなく、感覚的経験による主観的な記述や理解。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances(サイエンス・アドバンシーズ)
論文タイトル :
Ultrahigh sensitive Raman spectroscopy for subnanoscience: Direct observation of tin oxide clusters(サブナノサイエンスのための超高感度ラマン分光法:酸化スズクラスターの直接観察)
著者 :
Akiyoshi Kuzume, Miyu Ozawa, Yuansen Tang, Yuki Yamada, Naoki Haruta, Kimihisa Yamamoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5260

JST事業に関するお問い合わせ先

科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部

古川雅士

E-mail : eratowww@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3528 / Fax : 03-3222-2068

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

E-mail : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

超分子化学:分子で分子を包む プレスセミナーを開催

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11月21日、理学院 化学系の山科雅裕助教によるプレスセミナーを大岡山キャンパスにて行いました。

一般に、分子は強い共有結合で構成され、分子単体で機能します。一方で、複数の原子あるいは分子が静電相互作用などの弱い結合で集合したものを超分子とよびます。ナノサイズの空間を持つ分子(ホスト分子)は、超分子的な力を使って他の分子を捕まえることができます。これら超分子は、単分子と異なり集合体として新たな性質と機能をもつようになります。

今回のセミナーでは、以下の3つのトピックスについて説明がありました。

1.
超分子化学の概要(身の回りの超分子化学)
2.
最新の研究成果「分子カプセルのナノ空間が魅せる特異な空間機能」
3.
最新の研究成果「反芳香族分子に囲まれたナノサイズの異空間」

山科助教は、分子カプセルの模型を使いながら、新しい分野の研究成果をわかりやすく説明しました。メディアの方々の関心も非常に高く活発な議論が行われました。

プレスセミナーの様子

プレスセミナーの様子

1. 超分子化学の概要(身の回りの超分子化学)

1967年、チャールズ・ペダーセンが王冠状のホスト分子、クラウン・エーテル[用語1]を発見したことを機に超分子化学の研究分野は始まりました。

生活に使われているホスト分子の一つにシクロデキストリンがあります。シクロデキストリンはブドウ糖がドーナツ状に結合した構造をもち、親油性の空洞部分にいろいろな有機分子を取り込むことができます。例えば、食事中の余分な脂分を取り込んで体外に排出し、また、苦みのある成分を取り込んで苦みを感じないようにするといった機能をもちます。このようにナノ空間を有するホスト分子は、(1)他の分子を包み込み、(2)包んだ分子の性質を変える、というユニークな性質をもっています。そのため、現在も世界中の研究者によって様々なホスト分子が作られ、その性質を解明する研究が進められています。

2. 最新の研究成果「分子カプセルのナノ空間が魅せる特異な空間機能」

東京工業大学 科学技術創成研究院の吉沢道人准教授は、2011年にアントラセン[用語2]で構成されたカプセル状のホスト分子(分子カプセル)を作ることに成功しています。山科助教は吉沢准教授と共同で、この分子カプセルが他の分子を包みこむことにより、次のような機能をもたらすことがわかりました。

不安定分子の安定化・特異蛍光性・精密分子認識・生体機能模倣・特異構造変換・空間内反応

不安定分子の安定化の例:

光や熱に不安定な分子(ラジカル開始剤)は、分子カプセルに取り込まれることで飛躍的に安定化することが分かりました。これは、包まれた化合物が、分子カプセルがもつ光を吸収する作用(光遮蔽効果)により、光から保護されたためです。また、熱に不安定な化合物の場合、熱によって化合物の化学結合が伸び、ある段階を超えると結合が切れて分解されます。ところが分子カプセルの限られた大きさの空間内では、結合を伸ばすことができないため熱にも安定になります。これを圧縮効果といい、通常の700倍以上の安定性を示しました。

精密分子認識の例:

男性ホルモンのテストステロン、女性ホルモンのプロゲステロン、エストラジオールは非常に似た構造をしています。タンパク質はこのわずかな違いを厳密に識別しますが、人工のホスト分子ではほとんど達成されていませんでした。これに対し、吉沢准教授が作成した分子カプセルは、98%以上の精度でテストステロン(男性ホルモン)を包みこむことがわかりました。この性質を利用して蛍光分子と組み合わせることで、尿中に含まれるぐらいのわずかの量(ナノグラム)のテストステロンも検出できることがわかりました。

3. 最新の研究成果「反芳香族分子に囲まれたナノサイズの異空間」

本研究は、ケンブリッジ大学のジョナサン・ニチケ教授のもとで行われました。

これまで報告されたほとんどのホスト分子は、芳香族分子[用語3]を使って作られていました。一方で、芳香族と真逆の性質をもつ反芳香族分子[用語4]は、極めて不安定であるため、ホスト分子の材料に使われることはありませんでした。近年開発された「ノルコロール[用語5]」という分子は、反芳香族分子ですが比較的安定です。そこで山科助教とニチケ教授らは、ノルコロールを使って、反芳香族分子からなる分子ケージを作り、その空間性質を調べました。

反芳香族分子からなる分子ケージの内部空間は、反芳香族分子の磁気的な影響で「反遮蔽空間」という特殊な性質を持つことが分かりました。この空間に取り込まれた他の分子は、芳香族分子からなるホスト分子の空間(遮蔽空間)とは、真逆の挙動を示しました。このようなホスト分子を構築し、その性質を実験的に解明した研究は前例がなく、世界で初めての成果です。

分子模型を使って説明する山科助教

分子模型を使って説明する山科助教

今後の展望

分子で分子を包む。今回紹介した例も含め、ナノサイズの空間は他の分子の性質を改変する力をもっています。つまり、同じ分子でも、ホスト分子の形状や空間性質を変えれば、全く異なる性質を引き出すことが可能であり、その組み合わせ数は膨大にあります。今後は、なんの変哲のない分子から高付加価値機能の創出に加え、自己修復性材料や超高感度薬物検出法への応用など、幅広い分野でナノ空間が活用されていくことが期待されます。

分子カプセルの模型

分子カプセルの模型

山科助教からのコメント

山科助教
山科助教

私達が環境によって異なる心理的影響を受けるように、分子も取り囲まれた空間の影響を受けて様相を変えます。前者の環境(例えば内装など)は主に空間デザイナーが設計し、職人が施工します。一方で、我々超分子化学者は「ナノ空間デザイナー」として、分子のための極小環境を設計かつ施工することができるわけです。とても小さな空間デザインですが、人類社会を豊かにする大きな力を秘めていると確信しているため、今後もナノ空間がもつ可能性を探求していきます。

用語説明

[用語1] クラウン・エーテル : 一般構造式(-CH2-CH2-O-)nで表される環状のエーテル。空間の大きさに合った金属を包み込むことができ、金属を必要とする有機合成などに使われます。

[用語2] アントラセン : 剛直なパネル状の多環芳香族分子。蛍光性があり、様々な材料の素材に使われています。

[用語3] 芳香族分子 : 一般に、ベンゼン環を含む分子を芳香族分子といいます。これらの分子は、π電子数が4n+2個になり、非常に安定な分子になります。医薬品など様々な材料として使われています。

[用語4] 反芳香族分子 : π電子数が4nで表される環状の分子で、一般的に不安定です。そのため、性質など不明な点が多い分子です。

[用語5] ノルコロール : 反芳香族分子に属する化合物。名古屋大学の忍久保洋教授らによって合成されました。反芳香族でありながら高い安定性を示します。

クラウン・エーテル、アントラセン

芳香族分子、反芳香族分子、ノルコロール

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お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

人工細胞の免疫センサー化に成功 分離ステップ不要のデジタル免疫測定系の実現へ

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要点

  • 人工細胞を用い膜を介して信号伝達、外部分子濃度を蛍光プロトセル数で検出
  • ターゲット抗体の膜上タグ配列への結合で人工細胞の酵素スイッチが活性化
  • 膜外からタグと共有結合する抗体断片付加で水溶性抗原カフェインを定量化

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の上田宏教授と蘇九龍研究員、シンガポール科学技術研究庁(以下、A*STAR)分子工学研究室のShawn Hoon(ショーン・フーン)上級研究員らの研究グループは膜外にリガンド[用語1]検出部位を持ち、内部にリガンド結合により活性化する酵素を持つ人工細胞(巨大単層膜リポソーム、プロトセル)を構築し、外部に存在する抗体などのターゲット分子を高感度に蛍光検出可能な技術の開発に成功した。

リガンド検出部位としてプロトセル膜上に提示した短いペプチドタグ配列を用い、これらを例えばタグに結合する抗体でクロスリンク[用語2]することで、人工細胞内で発現させた不活性な2量体酵素(βグルクロニダーゼ変異体[用語3])が4量体になって活性化し、蛍光を発する(図1)。その後、蛍光陽性細胞の数を蛍光顕微鏡やFACS[用語4] で数えることで、抗体濃度が定量できた(図2)。この方法で、がん治療用ヒト型抗体Herceptin[用語5]の濃度を、治療時の血中濃度が検出可能な感度で定量できた。さらに膜外からタグと結合し抗原カフェイン依存的に二量体を形成する抗体断片(Nanobody[用語6])を付加することで、水溶性物質であるカフェインを定量することにも成功した(図3)。

均一かつ微小なサイズの人工細胞アレイを構築し、1分子由来の結合シグナルを増幅・検出できれば、分離ステップ不要なデジタル免疫測定系を構築できる可能性がある。

研究成果は12月3日に英科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィックレポーツ)」にオンライン掲載された。

この成果は科学技術振興機構 国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム:SICORP)「日本-シンガポール共同研究」平成27年度新規課題「細胞信号伝達機構を模倣した人工細胞系バイオセンサーの開発」(日本側研究代表者:上田宏)によるものである。

今回構築したプロトセル型抗体センサーの模式図

図1. 今回構築したプロトセル型抗体センサーの模式図

研究成果

洗浄・分離操作が不要な微量分子検出系を構築するため、上田教授らはこれまで報告例のない抗体などの外部分子に対するセンサーとして働く人工細胞(プロトセル)の構築を試みた(図1)。このプロトセルは単層リン脂質膜の外側にアンテナとなる6~15アミノ酸程度の認識タグ配列を出した直径10 µm程度の脂質小胞(リポソーム)であり、その下流に上皮細胞増殖因子由来の膜貫通配列を介してセンサー酵素であるβ-グルクロニダーゼ(GUS)変異体(GUS IV5_KW)が結合されている。

この酵素はもともと4量体であるGUSに安定化変異と二量体間界面変異[用語7]を施したものであり、通常は極めて低活性だが抗タグ抗体[用語8]などを用いて強制的に近接させると野生型とほぼ同じ活性を示す (Su et al., J. Biosci. Bioeng. 128, 677-682, 2019)。これを精製成分からなる試験管内たんぱく質合成系PURE System[用語9]を用いてプロトセル中で合成することで、合成されたタンパク質のタグ部分が自発的に膜を透過して膜外に提示されることを期待した。

この結果、期待通り6残基のヒスチジンが連なったHisタグ[用語10]を提示した場合、抗Hisタグ抗体を加えることで、蛍光を発するプロトセルが多数出現した。なおこの際、膜貫通配列を付加しないタンパク質を同時に発現させることで、おそらく酵素の多量体構造が安定化して提示効率が向上した。さらに代表的ながん治療用抗体であるハーセプチン(Herceptin, Trastuzumab)のミモトープ[用語11]を提示してFCMで陽性細胞をカウントした場合、加えたハーセプチン濃度に応じて蛍光陽性プロトセル数が増加した(図2)。すなわち、開発したプロトセル系で数種の抗ペプチド抗体の検出に成功するとともに、血中治療用抗体濃度測定への応用の可能性が示された。

Herceptinセンサーによる検出結果

図2. Herceptinセンサーによる検出結果

さらに上田教授らはこのシステムが抗体のみならず各種抗原の検出に使えないか検討した。このためタグとしてSpyTag[用語12]という14残基のペプチドを提示する膜結合型酵素をプロトセル内で合成し、プロトセル外から、SpyCatcherというSpyTagと混ぜると自発的に共有結合するタンパク質をカフェイン結合Nanobody[用語13]と融合したVHH(Caf)-SCタンパク質を加えることで、カフェインセンサーとなるプロトセルを調製した。

この結果、陽性コントロールであるHisタグ抗体あるいはカフェインにより、FACSで数えた蛍光陽性細胞の数が濃度依存的に増加した。すなわち抗原カフェインによりNanobodyの二量体形成が誘導され、センサーを活性化した。なおこの際の検出感度はコーヒー、紅茶あるいは各種清涼飲料水中のカフェイン量を十分検出可能なものであった(図3)。

カフェインセンサーによる検出結果

カフェインセンサーによる検出結果

カフェインセンサーによる検出結果

図3. カフェインセンサーによる検出結果

背景

近年、臨床診断や食品衛生における病原体検出などの分野において、微小空間で一分子のターゲット由来の信号を検出し、陽性微小空間の数を数えることで、PCR[用語14]ELISA[用語15]など各種測定の検出感度を飛躍的に向上できるデジタル測定系[用語16]が注目されている。しかし、ミセルのような閉鎖空間で反応させて陽性ミセルをカウントするだけでよいPCRと異なり、デジタルELISAにおいては通常のELISAと同様ビーズ上で免疫反応と洗浄を行ったあと、それぞれのビーズを微小空間に分離して酵素反応を行い、陽性ビーズのカウントを行う必要があり、手間と時間がかかることから広く普及するには至っていない。

このような洗浄操作が不要で、微小空間で実施可能な抗原・抗体測定法が開発されれば、簡便なデジタル免疫測定系構築の基盤技術となりうることから、今回の国際共同研究を開始するに至った。

研究の経緯

本研究成果は抗体工学を専門とする上田教授のグループと生体分子工学に関して幅広い知見を有するA*STARのDr. Shawn Hoonグループの共同研究によるもので、独自のアイディアをもとに約4年間の試行錯誤を経て実現した。獲得免疫系のB細胞においては細胞表面の受容体で抗原をキャッチし、その信号を細胞内に伝達、分化と増殖を誘導して多数の抗体産生細胞が生じ、抗原の不活化を行う。

これまでこのプロセスを動物細胞あるいは大腸菌で模倣してセンサー細胞化した報告例は数例あるが、人工細胞を用いてこれを実現した例は我々が知る限り存在しない。特に今回特筆すべきは遺伝子発現を介さずに受容体型酵素そのものをセンサー化し、酵素活性のOn/Off制御を、膜を介した外部抗体の結合によって行えたこと、また細胞膜外に抗体断片を含むアダプター分子を加えることによって抗原の検出にも成功したことである。今後、用いるアダプター分子の抗体断片を変更することにより低分子のみならず病原菌やウィルスなど、多くの抗原検出系を構築できる可能性がある。

今後の展開

今回構築されたプロトセルは界面透過法によって作られた大きさが不均一な集団であり、このため検出感度もELISAよりやや良い程度に留まっている。今後はプロトセルの大きさと内部のセンサーたんぱく質量をより均一にし、アダプター分子の構造についても最適化してデバイス上に効率よくアレイ化することによって、FACSを用いる必要のない迅速高感度な検出系が実現できるものと期待される。

用語説明

[用語1] リガンド : 特定の受容体(レセプター)に特異的に結合する物質のこと。リガンドが対象物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を発揮する。例えば、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体などが顕著な例である。特にタンパク質と特異的に結合するリガンドは、微量であっても生体に対して非常に大きな影響を与える。 そのため薬学や分子生物学の分野では重要な研究対象になっている。

[用語2] クロスリンク : 結合によって2つ以上の分子を連結させるプロセス。ここでは抗体の2つの抗原結合部位で、膜上の2つのタグ配列を近づけている。同様の方法で色々な細胞表面受容体を活性化できることが知られている。

[用語3] βグルクロニダーゼ変異体 : βグルクロニダーゼ(GUS)は植物のレポーターとしてよく用いられる。今回は熱安定化変異体GUS IV5をベースに、二量体間にある2残基に変異(KW)を導入し、強制的に四量体化させた場合にのみ活性を示す変異体を利用した。

[用語4] FACS : セルソーターあるいはフローサイトメトリー。通常は細胞の、今回はプロトセルの蛍光強度測定に用いた。Fluorescence activated cell sorter。

[用語5] Herceptin : 乳がん細胞上のHer2タンパク質を標的とする抗体医薬の商品名。正式名称Trastuzumab。

[用語6] Nanobody : ラクダ類が持つ、軽鎖を持たない単鎖抗体由来の抗原結合ドメイン。小さくて安定なため、最近各方面から注目されている。

[用語7] 安定化変異と二量体間界面変異 : 当初は野生型GUSに二量体間界面変異を導入した酵素を用いたが、このたんぱく質は不安定で、分解しながら高いバックグラウンド活性を示す問題が生じた。そこで、ランダム変異導入により得られた耐熱性GUSであるGUS IV5をもとに、数種の二量体間界面変異体から応答の高いものをスクリーニングし、GUS IV5(KW)を得た。

[用語8] 抗タグ抗体 : タグ配列を認識する抗体。分子生物学実験においてたんぱく質の検出・精製に多用される。今回は3種類のタグ(His, Myc, HA)とその抗体で実験を行い、同様の結果を得た。

[用語9] PURE System : 上田卓也東京大学名誉教授(現早稲田大学教授)らにより開発された、精製成分のみからなる無細胞たんぱく質合成系。

[用語10] Hisタグ : 6個の連続したヒスチジンからなるタグ配列。ニッケルなどの金属アフィニティカラムに結合するためしばしば組換えたんぱく質の精製に用いられる。

[用語11] ミモトープ : 抗体のパラトープ(抗原結合部位)に結合するペプチド。立体構造を模するため必ずしもエピトープ配列とは一致しない。

[用語12] SpyTag : SpyCatcherとともに、英国のMark Howarthらにより開発された。両者を共存させると自発的に強固なイソペプチド結合を形成するため、分子構築の新たな方法論として注目されている。

[用語13] カフェイン結合Nanobody : カフェインを認識するNanobody。今回用いたものはカフェインを介して、二つのNanobodyが二量体を形成する珍しい性質を持つ。

[用語14] PCR : Polymerase chain reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略。

[用語15] ELISA : 酵素免疫測定法。マイクロプレートやビーズなどの固相を用いて反応と洗浄を繰り返し測定する。Enzyme-linked immunosorbent assay。

[用語16] デジタル測定系 : 通常のアナログ測定ではどうしてもバックグラウンド信号が残るため、測定限界が低くならない。デジタル測定においては一分子のターゲットの有無を微小空間での反応で検出し、陽性サンプルの数をカウントする。これにより検出限界を顕著に下げる事ができる。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Transmembrane signaling on a protocell: Creation of receptor-enzyme chimeras for immunodetection of specific antibodies and antigens
著者 :
Jiulong Su, Tetsuya Kitaguchi, Yuki Ohmuro-Matsuyama, Theresa Seah, Farid J. Ghadessy, Shawn Hoon and Hiroshi Ueda
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 上田宏

E-mail : ueda@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5248 / Fax : 045-924-5248

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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