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光と熱に強いラジカル開始剤の作製

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概要

東京工業大学資源化学研究所の吉沢道人准教授と山科雅裕大学院生らは、ポリマー材料や有機化合物の合成に幅広く使用されるラジカル開始剤が、分子カプセルに内包されることで、光照射や加熱に対して顕著に安定化されることを明らかにした。また、カプセル内で安定化された開始剤を、通常のポリマー合成に使うことにも成功した。本研究成果は、分子カプセルによる“完全な閉じ込め”が鍵であり、これにより汎用的な高活性試薬を机の上で保管し、安全に使用することが可能となった。

利用した分子カプセルは1ナノメートルの内部空間を有し、水系溶媒中で1分子のラジカル開始剤(AIBNなど)を自発的かつ定量的に内包した。通常、開始剤は光や熱の刺激によりラジカル種を生じ、短時間で分解する。一方、分子カプセルに内包された開始剤はカプセル骨格の光遮蔽効果により、光照射による分解が顕著に抑制された(380倍以上の光安定化)。また、サイズの大きいラジカル開始剤は、カプセル骨格の圧縮効果で、熱による分解も抑制されることが明らかになった。さらに、内包された開始剤は、有機溶媒中でカプセル内から自発的に放出され、モノマー共存下で光照射または加熱により、ラジカル種の発生を経由して効率良くポリマーが生成した。

これらの研究成果は、最先端・次世代研究開発支援プログラムの支援によるもので、英国科学誌Nature Publishing Groupの「Nature Communications」のオンライン版に、2014年8月18日(英国時間)付けで掲載された。

研究の背景とねらい

アゾ系のラジカル開始剤[用語1]のAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)およびその誘導体は、光照射や加熱によりラジカル種を容易に生成する(図1a)。そのため、実験室から工場スケールまで、様々なポリマー[用語2]材料や有機化合物の合成に利用されている。しかしながら、光と熱に対して反応性が高く、取扱いによっては爆発の危険もあるため、それらは冷暗所で保存する必要がある。そこで吉沢准教授と山科大学院生らは、この汎用性の高活性試薬を安全に使う手段として、分子カプセルによる内包を考案した。

分子カプセルとして、吉沢准教授らの研究グループが3年前に開発した複数のアントラセン環[用語3]を含む球状構造体1を用いた(図1b,c)[文献1]。この構造体は、2つのアントラセン環を連結した湾曲型の有機分子と金属イオンを4:2の比率で加熱撹拌するだけで定量的に合成できる。その内部には、8つアントラセン環によって完全に囲まれた約1ナノメートルの空間を有し、球状のフラーレンC60[用語4]や平面状のピレンなどが強く内包される特徴を示す[文献2]。本研究では、この分子カプセルの高い分子内包能とアントラセン骨格(多環芳香族骨格)による光遮蔽効果に着目して、上記のラジカル開始剤の安定化に挑戦した。

図1 (a) ラジカル開始剤AIBNの構造式と光または熱による分解。 (b,c) 分子カプセル1の模式図とその構造式。

図1 (a) ラジカル開始剤AIBNの構造式と光または熱による分解。 (b,c) 分子カプセル1の模式図とその構造式。

研究内容

ラジカル開始剤の内包

AIBNとカプセル1を1:1の比で水系溶媒(水:アセトニトリル=9:1)に加え、室温で1分程度撹拌すると、AIBNは疎水性相互作用[用語5]を駆動力として、自発的かつ定量的に分子カプセルに内包された(図2a)。内包体の構造は核磁気共鳴装置(NMR)、質量分析およびX線結晶構造解析で決定した。結晶構造解析から、1分子のAIBNが分子カプセルに内包され、しかも8つのアントラセン環によって完全に覆われていることが明らかとなった(図2b)。同様の方法で、AIBNの誘導体である大きなラジカル開始剤AMMVNの内包にも成功した(図2c)。

図2 (a) AIBNを内包した分子カプセルの合成と光安定化。 (b) AIBN内包カプセルの結晶構造:シリンダーモデル(左)と空間充填モデル(右)。 (c) AMMVN内包カプセルの合成と光・熱安定化。

図2 (a) AIBNを内包した分子カプセルの合成と光安定化。 (b) AIBN内包カプセルの結晶構造:シリンダーモデル(左)と空間充填モデル(右)。 (c) AMMVN内包カプセルの合成と光・熱安定化。

光および熱に対する安定化

単独のAIBNは有機溶媒中、360 nmの紫外光照射で完全に分解した。これに対して、カプセル1に内包されたAIBNは同条件下で380倍以上も光安定化されることが明らかとなった(図2a)。これはカプセルのアントラセン環が紫外光を吸収するため、内部のAIBNが光の影響を受け難いことに由来する。また、室温で分解するほど高活性で大きなサイズの開始剤AMMVNでは、内包によりカプセルからの圧縮効果を受けるため、光だけではなく、50 ℃の加熱に対しても645倍以上の安定化が観測された(図2c)。

ポリマー合成

分子カプセルに内包されたラジカル開始剤は、有機溶媒中に加えるだけで簡単に取り出すことができた。実際に、水中で作製したAIBN内包カプセルの粉末を(図3a)、アクリル樹脂の原料であるMMA(メタクリル酸メチル)モノマーのトルエン溶液に添加すると、AIBNはカプセルから瞬時に放出された(図3b)。その溶液に光照射または加熱をすることで、効率よくポリマーが生成することを見出した(図3c)。得られたポリマーはAIBNを単独で用いた場合と同質であり、また、反応後のカプセルはポリマーの精製過程で簡便に除去できる。すなわち、AIBNの保存容器であるカプセルは反応を阻害せず、既存のラジカル反応に利用できることが実証された。

図3 内包されたラジカル開始剤を利用したポリマー合成: (a) 水中で作製したカプセル化開始剤、(b) 有機溶媒中でカプセルからの開始剤放出、(c) 光照射または加熱によるポリマー合成。

図3 内包されたラジカル開始剤を利用したポリマー合成: (a) 水中で作製したカプセル化開始剤、(b) 有機溶媒中でカプセルからの開始剤放出、(c) 光照射または加熱によるポリマー合成。

今後の研究展開

合成試薬のジレンマは、反応性の高い試薬はより反応性の低い基質と反応することができるが、一方で、その試薬は分解し易く、保存や使用が難しくなる傾向がある。今回の研究では、そのジレンマを解決する1つの手法が示された。すなわち、活性なラジカル開始剤を分子カプセルに内包することで、光と熱に対して顕著に安定化されるが、本来の反応性を維持しているため、開始剤の放出によりポリマー合成に利用することができた。今後は、分子カプセルによる様々な高活性試薬や反応中間体の保管と利用への挑戦が期待される。

用語説明

[用語1] ラジカル開始剤 : 外部刺激によりラジカル種(不対電子)を発生することができる試薬。反応性が高いため冷暗所で保管する必要がある。

[用語2] ポリマー : 複数のモノマー(単量体)が結合して鎖状や網状になった化合物。プラスチックなど身の回りの多くの製品に利用されている。

[用語3] アントラセン : 剛直なパネル状の多環芳香族分子。

[用語4] フラーレン : 炭素原子60個から成るサッカーボール状の分子。

[用語5] 疎水性相互作用 : 油と同様の性質をもつ化合物またはその部位は、水中で互い集まる(引き合う)現象を示す。

掲載雑誌名、論文名および著者名

雑誌名 :
Nature Communications(英国科学誌; Nature Publishing Group)
論文名 :
Safe Storage of Radical Initiators within a Polyaromatic Nanocapsule
(ナノカプセルの内包によるラジカル開始剤の安全保管法)
著者名 :
Masahiro Yamashina, Yoshihisa Sei, Munetaka Akita, Michito Yoshizawa*
(山科雅裕、清悦久、穐田宗隆、吉沢道人)
DOI :

主な研究支援

最先端・次世代研究開発支援プログラム (内閣府)

研究内容に関するお問い合わせ先

東京工業大学 資源化学研究所 准教授 吉沢道人
Email: yoshizawa.m.ac@m.titech.ac.jp
TEL: 045-924-5284
FAX: 045-924-5230


新鉱物発見、maruyamaite(丸山電気石)と命名 ―世界初、ダイヤモンドと共存し、カリウムを多量に含む特殊な電気石―

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maruyamaite (丸山電気石)とは

  • カリウムを多量に含む、世界中でも非常にまれな電気石
  • ダイヤモンドと共存できるほどの高圧下でも安定な電気石(世界初の発見)

maruyamaiteの存在は岩石がかつて地球深部の高圧を経験していることを示唆し、一方、電気石の形成には地球表層に集まる元素が必須であり、地球表層と内部の物質循環を解明する手がかりになる

概要

早稲田大学・地球物質科学研究室の博士課程学生清水連太郎(創造理工学研究科D4)および小笠原義秀教授(教育・総合科学学術院)により発見されたカリウムを含む特殊な電気石(一般にはトルマリンとも呼ばれます)が、新鉱物「学名:maruyamaite(日本語名:丸山電気石)」として国際鉱物学連合(IMA)に承認されました。高圧条件下で形成されるダイヤモンドと共存する電気石は、世界で初めての発見です。

プレートがマントルに沈み込む際に起こる大陸衝突に伴って地球表層物質も深部に運び込まれ、コース石やダイヤモンドを含む超高圧変成岩となって再び地表に戻ります。電気石が形成されるためには地球表層に濃集しているホウ素が必須であり、この丸山電気石は地球表層からマントル深部へホウ素を運搬する役割の一端を担っていると考えられ、プレート運動に伴う物質循環の一面を解明する貴重な手がかりとなります。小笠原研究室では、超高圧変成岩等の地球深部に由来する岩石を研究することで、地球内部の物質の様子やその循環を解明していくことを目指しており、今回の発見はその目的に大きく貢献するものです。

丸山電気石の特徴

丸山電気石は、カザフスタン共和国北部のコクチェタフ(Kokchetav)超高圧変成帯から採取された、約5億年前に形成された岩石から発見されました。この岩石は花崗岩に似ている鉱物組み合わせを持ちますが、電気石が岩石全体の約20%程度含まれています。発見のきっかけとなったのは、電気石中に微小なダイヤモンドを発見したことです。ダイヤモンドを含む電気石を詳しく分析したところ、K2O含有量が最高で約2.7%という、電気石として他に類を見ない多量のカリウムを含んでいることが判明しましたShimizu & Ogasawara, 2005 [6])。電気石には通常ナトリウムやカルシウムが含まれますが、カリウムを主成分として含む電気石は世界中でも非常にまれです。本岩石中の電気石は、結晶の中心から外側に向かってカリウムの含有量が減少していく組成累帯構造を示し、ダイヤモンドを含んでいる中心部分ではカリウムがナトリウム・カルシウムより非常に多くなっています。このことが新鉱物と認定される決め手となり、電気石のうちカリウムの多い部分だけが丸山電気石ということになります。

今回新鉱物として認定された丸山電気石の理想化学組成は、K(MgAl2)(Al5Mg)(BO3)3(Si6O18)(OH)3Oという複雑な化学式で表されます。

(A)丸山電気石の顕微鏡写真。茶色の電気石のうち、赤色破線で囲まれた部分が丸山電気石。(B)電気石(写真Aと同じ粒子)のカリウム元素マッピング結果。暖色系の部分ほどカリウムが多く含まれる。(C)丸山電気石に含まれるダイヤモンドの顕微鏡写真。ダイヤモンドは10µm程度と非常に細粒であり、岩石の専門家でも見つけるのは至難の業で、研究には根気と経気と経験を必要とする。

  • (A)
    丸山電気石の顕微鏡写真。茶色の電気石のうち、赤色破線で囲まれた部分が丸山電気石。
  • (B)
    電気石(写真Aと同じ粒子)のカリウム元素マッピング結果。暖色系の部分ほどカリウムが多く含まれる。
  • (C)
    丸山電気石に含まれるダイヤモンドの顕微鏡写真。ダイヤモンドは10µm程度と非常に細粒であり、岩石の専門家でも見つけるのは至難の業で、研究には根気と経験を必要とする。
  • 新鉱物認定と命名の由来

    鉱物が新しい種として認定されるためには、化学組成、結晶構造、物理的特性など、必要な記載データを網羅した申請書を国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物・命名法・分類委員会(The Commission on New Minerals, Nomenclature and Classification: CNMNC)に提出し、承認される必要があります。小笠原教授らは、結晶学の第一人者であるF.C. Hawthorne教授(カナダ・マニトバ大学)らと共同で丸山電気石の申請を行いました。申請に際しては、発見者の所属する早稲田大が詳細な産状記載、化学組成分析、およびラマン分析を、マニトバ大が結晶構造解析、物性測定、および化学組成分析を分担しました。本申請は2014年2月に承認され、2014年6月にMineralogical Magazine誌に概要が発表されました(Lussier et al., 2014:IMA No. 2013-123 [2])。丸山電気石のタイプ標本は国立科学博物館に保管されています(登録番号:NSM-MF15696)。

    丸山電気石は、プルームテクトニクスを提唱するなど、変成岩岩石学・地質学に多大な功績を残され、またコクチェタフ超高圧変成帯研究プロジェクトのリーダーでもあった、丸山茂徳教授(東京工業大学地球生命研究所)にちなんで命名されました。

    丸山茂徳教授

    丸山茂徳教授

    今回の新鉱物認定と命名を受けて、丸山教授は次のようにコメントしています。

    「コクチェタフの広域変成帯は、世界最高圧の広域変成作用を受けています。そこではダイヤモンドが広域的にできていることが明らかになり、さらに、地表の大陸が、その浮力にも拘わらず地下深部に沈み込むことがわかり、地下100kmよりも深いマントルに沈み込む直接的な証拠物体であることが示され、世界を驚かせました。東京工業大学と早稲田大学を中心とした日本のグループはこの変成帯の研究に着手し、地質調査に基づき、放射性年代学やミクロ鉱物学を駆使し、変成分帯、流体移動、広域変成帯の上昇プロセスのダイナミクスに至る総合科学を迅速に展開しました。研究は、二度に及ぶ大規模な地質調査と、約9000個に及ぶ試料収集に始まり、開始後約10年でその主体は収束し、約50の研究論文が書かれました。その後、興味はミクロ鉱物学が中心となり、早稲田大学の小笠原研究室が研究の中核部を推進し、これまでに書かれた論文数は100を超えました。これらの研究は日本のグループが世界を圧倒しましたが、ロシア科学アカデミー、米国スタンフォード大学、カーネギー研究所などが、この研究を一部補佐し、幾つかの共同研究も進みました。

    この研究を通して数多くの世界初の発見がなされ、プレート収束場の性質が明らかになりました。そのことに対する評価の一つとして新種鉱物に私の名前が付けられたことを光栄に思うと共に、この共同研究プロジェクトを開拓するまでの数多くの困難を克服できた同志の皆様(特に早稲田大学OB)に深く感謝したいと思います。」

    丸山 茂徳(まるやま しげのり)略歴

    東京工業大学地球生命研究所教授。1949年徳島県生まれ。理学博士・地質学者。1977年富山大学助手、1989年東京大学助教授、1993年東京工業大学理学部教授を経て、2013年より現職。2000年 AAAS(アメリカ科学技術振興学会)フェロー、2002年日本地質学会賞、2006年紫綬褒章、2012年トムソンロイターリサーチフロント。

    ダイヤモンドを含む電気石発見の意義:地球表層から深部への物質循環

    本岩石中のダイヤモンドはいろいろな場所に万遍なく存在しているわけではなく、電気石の中でも丸山電気石の部分、およびジルコンという鉱物のみに包有物として含まれています。ダイヤモンドと共存する電気石は世界で初めての発見です。ダイヤモンドは炭素からできている鉱物ですが、高圧条件下でのみ安定であり、約4GPa以上の圧力(地球では約120km以深)という条件下で形成されます。一方、電気石のカリウムが少ない部分や周囲には、同じ炭素の鉱物でも低圧条件で安定な石墨(グラファイト)が含まれています。このことは、丸山電気石はダイヤモンドが安定な高圧条件下、言い換えれば120km以上の深さで形成され、その後岩石が地表に向かって上昇してくる途中で、カリウムに乏しい電気石が丸山電気石の周囲に成長したことを示唆しています(Shimizu & Ogasawara, 2005 [6])。

    電気石はこれまでも、複数の異なる条件下での結晶成長過程を化学組成の変化として記録していることが多いことから、変成作用の連続変化を記録する指標鉱物だと捉えられてきました。ダイヤモンドと共存できるほど高圧で安定な丸山電気石の存在は、このような電気石の性質をより明瞭にしたといえます。また電気石が形成されるためにはホウ素(元素記号:B)が必須ですが、ホウ素は地球表層に濃集している元素です。従って、超高圧変成岩の形成過程で丸山電気石が地球表層からマントル深部へホウ素を運搬する役割の一端を担っていることになり、プレート運動に伴う物質循環の一面を解明する貴重な手がかりとなります。

    丸山電気石発見による波及効果・今後の展望など

    電気石は広範な生成条件の岩石に少量含まれる言わば名脇役であり、さらに未知のことが多く残されている非常に魅力的な鉱物です。

    最初にダイヤモンドを電気石中に発見した当時は、超高圧変成岩中の電気石についてはあまり研究が進んでおらず、また電気石の高圧下での安定性やカリウム電気石の生成条件はほとんど分かっていませんでした。しかし、小笠原教授らの発見報告が契機となり、いくつかの実験岩石学研究がそれらを解明しつつあります。例えば、高温高圧実験によって泥質変成岩中の電気石の安定領域が決定され(Ota et al., 2008a [4])、丸山電気石のホウ素同位体比測定により、地球深部での地殻の部分溶融が丸山電気石形成に重要な役割を果たした可能性が示されました(Ota et al., 2008b [5])。ダイヤモンドを含む電気石の成因についてはその後も活発な議論が続き、例えば Marschall et al. (2009) [3] は電気石は低圧条件で形成されダイヤモンドとは形成時期が別であるという、小笠原教授らの見解と全く異なる解釈を発表しました。しかし、小笠原教授らは詳細な顕微鏡観察に基づく系統的な記載と精密な化学分析から、コクチェタフ超高圧変成岩に含まれる電気石中のカリウムは形成圧力が下がるにしたがって減少することを示し、改めて丸山電気石が超高圧変成作用起源であることを明確にしました(Shimizu & Ogasawara, 2013 [7])。さらに、カリウムに富む電気石が最近になって初めて合成実験で確認され、カリウム電気石の形成には高圧だけでなくカリウムに異常に富んだ流体が必須であるという、超高圧変成岩全体の成因にも関係する興味深い結果が得られています(Berryman et al., 2014 [1])。

    これら一連の研究成果は、小笠原教授らの含ダイヤモンド電気石発見が引き金となって発展したものと言えます。また、電気石の新種は丸山電気石以外にも最近続々と発見されています。しかし丸山電気石の報告は今のところコクチェタフ超高圧変成帯からのみであり、今後どこかで見つかるのか、産出が限られるのならそれを制約している地質条件がどのようなものであるのか等、興味が持たれるところです。このように、電気石の研究は今まさに注目が集まっている鉱物学・岩石学の一分野であり、今後ますますの発展が期待されます。

    お問い合わせ

    研究に関すること(午前8時~午後3時まで対応可能)

    早稲田大学教育・総合科学学術院 小笠原義秀教授
    研究室:03-5286-1514 Email:yoshi777@waseda.jp

    丸山茂徳教授に関すること

    東京工業大学広報センター
    電話:03-5734-2975 Email:media@jim.titech.ac.jp

    ※ 公開時、問い合わせ先に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(8月25日 15:30)

    平成26年度東工大挑戦的研究賞 受賞者決定

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    挑戦的研究賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開又は解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するとともに、研究費の支援を行うものです。本賞を受賞した研究者からは、数多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。

    13回目となる今回は13名が選考されました。

    平成26年度東工大挑戦的研究賞 受賞者一覧

    受賞者
    所属
    職名
    研究課題名(★は学長特別賞)
    大学院理工学研究科
    (理学系)数学専攻
    准教授
    低次元トポロジーと代数的組合せ論
    大学院理工学研究科
    (理学系)基礎物理学専攻
    助教
    突発天体のための超小型X線偏光計観測衛星の開発
    大学院理工学研究科
    (理学系)地球惑星科学専攻
    講師
    ★下部マントル鉱物の音速測定から探る地球深部の化学組成
    大学院理工学研究科
    (工学系)応用化学専攻
    助教
    電気化学トランジスタによる超伝導デバイスの実現
    大学院理工学研究科
    (工学系)電子物理工学専攻
    准教授
    超高効率ペロブスカイト・シリコンハイブリッド太陽電池の実現
    大学院生命理工学研究科
    生物プロセス専攻
    准教授
    アミノレブリン酸投与後のポルフィリンを用いたがん検診システムの開発
    大学院生命理工学研究科
    分子生命科学専攻
    准教授
    人工U1snRNAを用いた革新的遺伝子治療の開発
    大学院総合理工学研究科
    物質電子化学専攻
    講師
    微粒子の選択的多官能化と機能材料への応用
    大学院情報理工学研究科
    数理・計算科学専攻
    准教授
    ★高次元大量データにおける構造的学習の統計理論と計算手法
    精密工学研究所
    准教授
    弾性管の音響特性を利用した人にやさしい「たおやかな」触覚センサの開発
    応用セラミックス研究所
    セラミックス機能部門
    助教
    新規な水中機能触媒を用いた植物由来炭化水素からの必須化学品原料の環境低負荷合成
    元素戦略研究センター
    准教授
    電子ドナーとしての水素アニオン活用による新電子機能物質探索
    量子ナノエレクトロニクス研究センター
    助教
    紫外線硬化樹脂による光細線を用いたInP/Si ハイブリッド光集積モジュールの開発

    (所属順・敬称略)

    昨年度の同賞受賞式でのプレゼンテーションの様子
    昨年度の同賞授賞式でのプレゼンテーションの様子

    RU11「グローバル化時代における我が国の責務としての研究基盤の抜本的強化にむけて」

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    学術研究懇談会(RU11)は、日本における最先端の研究・人材育成を担う、国立・私立という設置形態を超えたコンソーシアムです。北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の11大学で構成されています。

    このたび、RU11の総長・塾長・学長は、グローバル化時代における我が国の責務としての研究基盤の抜本的強化にむけて提言をまとめました。

    平成26年8月26日

    グローバル化時代における我が国の責務としての研究基盤の抜本的強化にむけて(提言)

    学術研究懇談会(RU11)

    北海道大学総長
    山口 佳三
    東北大学総長
    里見  進
    筑波大学学長
    永田 恭介
    東京大学総長
    濱田 純一
    早稲田大学総長
    鎌田  薫
    慶應義塾長
    清家  篤
    東京工業大学学長
    三島 良直
    名古屋大学総長
    濵口 道成
    京都大学総長
    松本  紘
    大阪大学総長
    平野 俊夫
    九州大学総長
    有川 節夫

    グローバル化時代において、人類社会をより豊かなものに導くためには、人々が国家や地域の枠を越えて知恵を出し合い協働することが不可欠です。とりわけ、普遍性の追求を目的とする学術研究は、人類全体の未来を照らす灯りです。我が国は、世界の第三極となるべきアジアのリーダーとして、学術を先導してきた学術先進国です。今後とも我が国が学術研究を先導し、学術知を人類共通の資産として蓄積していくことは我が国の責務であり、国際社会の中で尊重される地位を維持していく上で重要です。特に研究大学の役割は極めて大きく、その活動基盤の強化は喫緊の課題です。我が国が世界の先頭を競っている強い分野を持続的に発展させるとともに、学際的研究や融合領域などにおいて、新しい学術を生み出し育て、学術の多様性創出においても、より一層貢献して行かねばなりません。

    現在、欧米では産業革命以降、学術研究の進展とともに国家の隆盛した歴史を踏まえ、継続的・持続的な研究発展のための公的資本の投入を続けています。中国、シンガポールなどアジア諸国では、より戦略的かつ集中的な科学技術投資が行われ、それらの国々の急伸は、論文数・被引用論文数の推移、世界大学ランキングなどにも顕著に現れています。しかしながら、日本の現状を見ると、国立大学では十年以上も続いている運営費交付金の削減、私立大学では私学助成の伸び悩みの中、教育・研究環境の劣化が急速に進んでいます。とりわけ、将来を担う若手研究人材の雇用環境の悪化は深刻です。

    今後、世界との競争に打ち勝ち、世界から優秀な研究者、留学生を引き付けるためには、我が国の弱点を克服する大胆な対策を迅速に講じる必要があります。すなわち、数十年から五十年にわたる未来の方向と道筋について、社会全体でビジョンを共有し、そこから今行うべき学術活動を見定め、その推進・ビジョン実現の方策を明確にし、大学政策、学術政策、科学技術・イノベーション政策にかかわる諸施策を相互に整合性をとって連動させながら推進することが求められています。

    そこでは、「質の高い多様な学術研究をコアにした社会的な価値創出のための知的循環」を共有すべき理念として確立する必要があります。平成 28 年度からスタートする第5期科学技術基本計画においては、この理念が全体を通じた重要な柱として位置付けられるべきです。さらに、同時にスタートする国立大学法人第3期中期計画などにおいて、それを実現する仕組みが大学に装着されるべきです。

    先端的学術研究を指向する研究大学の連携体である学術研究懇談会(RU11)は、総合科学技術・イノベーション会議や科学技術・学術審議会等ともしっかりと議論を重ね、この理念の実現を図りたいと考えます。このような大学を取り巻く状況に鑑み、国立・私立という設置形態を問わず、大学における学術研究の継続的発展が、今後の我が国の発展にとって極めて重要、不可欠であるとの認識のもとに、特に、以下の点について提言致します。

    I 研究大学を支える財務基盤の強化

    (1) 自律的改革を促すための、資金の安定化と効率化を高める方策の実施

    運営費交付金や私学助成の充実・確保と研究環境整備の原資となる間接経費の拡充により、研究大学の財政基盤を安定化し強化する。これにより、教育研究組織の再編成、学内資源の再配分など資源を効率的に活用するための大学改革を加速するとともに、競争的資金改革と大学改革を一体的に推進する環境を構築する。

    (2) 基盤的研究からその成果の社会実装への切れ目のない研究資金の改革・拡充

    我が国が国際社会の中で存在感を示し続けるためには、研究における国際的競争力を抜本的に強化する必要がある。まず、イノベーション創出の土壌としての自由な発想による質の高い基礎研究の広さと深さを充実させなければならない。このような基盤的研究を幅広く支える、科学研究費補助金の拡充が極めて重要である。若手支援、分野融合、国際共同研究等の推進により研究を発展、深化させる。さらに、基礎研究の成果を社会に着実に実装するために、産学官連携支援を強化するべきである。安定した研究環境を確保するための基盤的資金、幅広い多様な研究を支える研究費、研究成果を社会実装するための戦略的な競争的プロジェクト研究資金をバランス良く組み合わせるべきである。これにより、世界をリードする研究力とイノベーションを効果的に創出する環境を実現する。

    なお、科学研究費補助金は、全国の研究者の活動を幅広く底支えすると共に、能動的に活動している研究者を可視化・選別することに資する。

    II 研究人材を取り巻く環境の整備

    (3) 人事制度の抜本的改革

    研究者の雇用の安定化と流動性の両立を図るとともに、研究者の明確なキャリアパスの確立を図ることが重要である。その為、大学や研究機関を越えて研究者を雇用する研究人材プール制度の検討に加えて、研究者の多様性確保、特に女性研究者の充実が重要となる。さらに、研究支援人材育成と活用による研究環境の整備を図る必要がある。

    (4) 若手研究人材育成のための雇用増員計画実施と卓越した大学院形成に向けた改革

    若手研究者育成・雇用のため、彼らが確実に将来を展望できる大胆な雇用増員計画の構築・実施は最重要課題である。加えて、社会の幅広い分野で活躍する優秀な人材を高度博士として育成するための支援制度の確立、競争的資金による大学院生支援の制度化、さらに、国際的求心力のある大学院への転換を図り、先端研究、新しい融合学術の創出のための卓越した大学院教育研究拠点整備を行う必要がある。そのため、研究大学における大学院定員の再設定を行い、大学院学生定員充足管理と教員ポスト管理を廃した基礎財源措置システムの構築を行うべきである。

    お問い合わせ先
    研究推進部研究企画課研究企画グループ
    電話 03-5734-3803
    E-mail pro.sien@jim.titech.ac.jp

    英文ニュースレター Bulletin No. 35 配信

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    Tokyo Institute of Technology Bulletinは3か月に一度本学が配信している英文ニュースレターです。 東京工業大学の研究成果やニュース記事、学生の活動などを国内外へ広くメールで配信をしております。

    この度、Tokyo Institute of Technology Bulletin No. 35 が発行されました。

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    Tokyo Institute of Technology  Bulletin|Research and education at Japan's foremost university dedicated to science and technology

    Materials scientists and mathematicians benefit from newly crafted polymers

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    Materials scientists and mathematicians benefit from newly crafted polymers

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    Through Students' Eyes

    Tokyo Institute of Technology Bulletin No.35

    3つの新しい鉄カルコゲナイド系超伝導体を発見 ―液体アンモニアを使った低温合成で実現―

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    要点

    • 鉄カルコゲナイドの層間にナトリウムとアンモニア分子を挿入してTc(超伝導臨界温度)=45, 42, 37Kの超伝導物質を合成
    • これらの超伝導物質は通常の高温プロセスでは不安定で分解してしまう。今回は液体アンモニアを溶媒として用いる合成法による成果
    • Tcは鉄層間隔の増加に伴って単調には増加しないことが判明

    概要

    東京工業大学フロンティア研究機構の細野秀雄教授と郭建剛、雷和暢両博士研究員らは、液体アンモニアを溶媒とする低温合成法(アンモノサーマル法)により、鉄系超伝導体の一つである鉄セレン化合物(FeSe:Tc=8K、Kは絶対温度)にナトリウム(Na)とアンモニア(NH3)を層間挿入してTc=37Kから45Kの新しい超伝導体を発見し、その組成、構造を決定した。

    また、銅酸化物系超伝導体で見られた層間距離とTcとの関係が、今回発見した物質系には見られないことを突き止めた。これは新たな超伝導物質探索指針につながる知見と言える。

    FeSe系は特殊な薄膜系において100Kを超えるTcが報告されるなど、注目を集めている素材であり、バルク材料(かたまり)でも高いTcが得られることが期待される。またこの物質系は通常の高温焼成法で作ることができず、今回用いたアンモノサーマル法は超伝導体合成法としても有効な手段になっていくと考えられる。

    研究の背景

    細野教授らにより、2008年に発見された鉄系超伝導体は世界中の超伝導研究者を巻き込んで、より高いTcを持つ物質の探索、高い臨界電流(Jc)を持つ線材の開発、超伝導デバイスの開発などが進められている。

    電子は、負の電荷をもち、それが自転することで磁気モーメントをもっている。超伝導の発現には2つの電子が瞬間的に対をつくることが必要だが、大きな磁気モーメントを持つ元素では電子スピンの規則的な配列により強磁性(または反強磁性)体になってしまう。このため、大きな磁気モーメントをもつ元素である鉄の化合物は、超伝導にはならないというのが常識だった。2008年に細野教授らは、LaFeAsO(ランタン・鉄・ヒ素酸化物)いう反強磁性体に、電子をドープ(添加)していくと磁性が消失したところで、超伝導が発現することを見出した。その時のTcは26Kで、高圧をかけると43Kまで上昇し、銅酸化物の高温超伝導体を除くと最高のTcを示した。その後、世界中で数多くの研究者が参入しTcは56Kまで上昇している。

    鉄系超伝導体の構造上の大きな特徴は、FeX44面体(Feが中心を占め、4つのXがそれに結合して作られる4面体。Xはセレン(Se), テルル(Te), リン(P), ヒ素(As)など)が連なった層があり、中心のFe2+(鉄イオン)が正方形に配列していることである。このような層を含む層状物質ならば、超伝導体の候補になると考えられ、これを起点に層間をどのように修飾するかによって、物質の特徴が現れる。実際に現在まで60以上の同様な超伝導体が報告されているが、その基本的な結晶構造は7種に大別できる[用語1]

    鉄カルコゲナイドFeChCh=S,Se,Te[用語2] はその一つ(11型)で、Tc=8Kだが最も簡単な構造を持つ。大きなサイズの一価の陽イオン(カリウム(K), ルビジウム(Rb), セシウム(Cs), タリウム(Tl)など)を、その結晶構造を保ったまま、その物質の層間に挿入すること(インターカレーション)で30KくらいまでTcを増大させることができることが分かってきた。しかし、Naのような小さなイオンはインターカレーションができなかった。また、上記の超伝導物質には、数十%の鉄イオンの欠損が存在し、かつ微視的なスケールでは、絶縁体と超伝導体に空間的に分離しているために、その解明が遅れていた。

    今回の成果

    液体アンモニア(沸点:-33℃)はアルカリ金属(元素周期律表1族(水素を除く)の6元素)もFeSeも溶かすことができることに注目し、-50℃に保った耐圧容器内に金属ナトリウムと鉄カルコゲナイドを入れて、そこにアンモニアガスを注入し、-50 〜 -40℃の温度に保って反応させた。この手法はアンモノサーマル法と呼ばれている。(溶媒に水を用いた場合は水熱法と呼ばれ、よく知られた合成手法である。)

    この研究では、液体アンモニア中に溶解する金属ナトリウムや鉄カルコゲナイドの割合を変えることで、Tcの異なる3つの超伝導物質(2つは新物質)を合成し、その化学組成と結晶構造を決定した。

    図1 FeSeへのNa-NH3インターカレーションによる層間の状態上から、何も入っていない状態、Naのみが入った状態(Phase I)、Naと少量のNH3が入った状態(Phase II)、Naと多量のNH3が入った状態(Phase III)

  • 図1:
    FeSeへのNa-NH3インターカレーションによる層間の状態
    上から、何も入っていない状態、Naのみが入った状態(Phase I)、Naと少量のNH3が入った状態(Phase II)、Naと多量のNH3が入った状態(Phase III)
  • 最も興味深いのは、Na0.65Fe1.93Se2という組成のTc=37Kの物質(Phase I)で、FeSeの層間にNaイオンだけが挿入されたものである。この物質はこれまでの高温での固相反応法では合成できず、今回の手法によって初めて得ることができた。また、鉄の欠損が極めて少ないことも大きな特徴である。

    また、ナトリウムイオンと一緒にアンモニア分子が層間に挿入された物質も合成し、アンモニア量が少ない物質(Phase II)でTc=45K、多い物質(Phase III)でTc=42Kで超伝導が出現した。

    図2 合成した各試料の磁化率(χ)の温度変化。超伝導は完全反磁性(外部磁場の物質内への侵入を排除する)を伴う現象であり、超伝導状態で磁化率は負となる。この負に変化する温度がTcとなる。また縦軸4πχは遮蔽体積分率(磁場が侵入していない体積の分率)であり、-1.0は磁場が100%遮蔽されていることを意味する。 NH3-free: Phase I, NH3-poor: Phase II, NH3-rich: Phase III

  • 図2:
    合成した各試料の磁化率(χ)の温度変化。超伝導は完全反磁性(外部磁場の物質内への侵入を排除する)を伴う現象であり、超伝導状態で磁化率は負となる。この負に変化する温度がTcとなる。また縦軸4πχは遮蔽体積分率(磁場が侵入していない体積の分率)であり、-1.0は磁場が100%遮蔽されていることを意味する。
    NH3-free: Phase I, NH3-poor: Phase II, NH3-rich: Phase III
  • 今回、見出した3つの超伝導物質は、Fe層間の距離が6.83Å (Phase I、Åはオングストローム、1Åは0.1ナノメートル), 8.71Å (Phase II), 11.07Å (Phase III)であるのに対し、Tcは37, 45, 42Kと単調には増大せず、Tcが層間距離とともに増大する銅酸化物超伝導体とは異なる挙動を示すことが明らかになった。

    今後の展開

    鉄カルコゲナイド系は、鉄ニクタイド系[用語2] に比べ、構造は単純だがTcは低かった(~8K)。最近の研究で、高圧をかけるとTc>40Kまで増大することや、SrTiO3:Nb(ニオブを添加したチタン酸ストロンチウム)基板上にFeSeを1分子層だけをエピタキシャル成長させた試料では、100K付近でゼロ抵抗が報告されるなど著しい進展を見せている。ニクタイド系とは超伝導の発現機構が異なることも考えられ、予断を許さない展開になりつつある。

    アンモノサーマル法による試料合成は、低温のソフトプロセスであることから、非平衡相の合成に適しており、さらなる新超伝導物質の発見が期待できる。

    この研究成果は内閣府総合科学技術会議により制度設計された最先端研究開発支援プログラム(FIRST)により、日本学術振興会を通した支援の下で実施された。また一部は、文部科学省元素戦略プロジェクト(拠点形成型)の支援を受けた。

    用語説明

    [用語1] 鉄系超伝導体の型 : 鉄系超伝導体は主に組成比により分類される。最初に見つかり現在まで最も高いTcが見出されているLaFeAsO(ランタン・鉄・ヒ素酸化物)ような1111型、異方性が小さく実用に有利なBaFe2As2の(バリウム・鉄・ヒ化物)ような122型、最近発見されたCaFeAs2(カルシウム・鉄・ヒ化物)のような112型といった分類である。この研究で取り上げたFeChCh=S(イオウ), Se, Te)は11型と呼ばれている。

    [用語2] カルコゲナイドとニクタイド : 周期律表16族のO, S, Se, Te, Po(ポロニウム)をカルコゲン元素、15族のN(窒素), P, As, Sb(アンチモン), Bi(ビスマス)をニクトゲン元素と呼び、それらの化合物をそれぞれカルコゲナイド、ニクタイドと呼んでいる。

    論文情報

    掲載誌 :
    Nature Communications 5, 4756 (2014).
    題目 :
    Superconductivity and phase instability of NH3-free Na-intercalated FeSe1-zSz
    (和訳:NH3を含まずにNaをインターカレートしたFeSe1-zSzの超伝導と相の不安定性)
    著者 :
    Jiangang Guo, Hechang Lei, Fumitaka Hayashi and Hideo Hosono
    (郭建剛、雷和暢、林文隆、細野秀雄)
    (所属はすべて東工大フロンティア研究機構)
    DOI :

    お問い合わせ先

    細野 秀雄
    東京工業大学フロンティア研究機構 教授
    (応用セラミックス研究所教授兼任)
    〒226-8503 横浜市緑区長津田町4259 郵便箱S2-13
    TEL: 045-924-5009
    FAX: 045-924-5196
    Email: hosono@msl.titech.ac.jp

    スタンフォード大学デザインスクール講師による「デザイン思考」講演会 開催報告

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    7月18日から20日の3日間にわたり、米国スタンフォード大学デザインスクール(d.school)の講師3名を招聘し、「デザイン思考」に関する講演会とワークショップを行いました。

    「デザイン思考」とは、イノベーションを起こす人材を生み出すことを目的にして設立されたスタンフォード大学のd.school(Institute of Design at Stanford)が提唱している発想法です。論理性を超えた直感的な発想と、ユーザーのニーズを構成する要素の理解を軸にしています。数多くの有力ベンチャー企業を生み出しているシリコンバレーのエコシステムを背景に、社会に受け入れられてこその「イノベーション」を生み出す基本的なコンセプトとして注目を浴びています。

    今回は、18日に学内外向けの講演会「LECTURE」、19・20日にグローバルリーダー教育院(AGL)中心の学生を対象としたワークショップ「DESIGN CHALLENGE」を行いました。

    1.講演会「LECTURE」

    本学の学生・教員、学外合わせて、約200名の参加があり、関心の高さを示していました。講師のThomas Both、Scott Wittouft、David Jankaからの「隣の人の好きな事を聞こう」との指示のもと、聴衆が互いの意見を言い合うアイスブレイクから、カジュアルな雰囲気でスタートしました。
    デザイン思考の5つのステップ、すなわち、Empathize(相手の目線・立場にたった嗜好)/Define(嗜好に再定義)/Ideate(再定義に基づいた解の提案)/Prototype(解の可視化)/Test(ユーザーのフィードバック)について、d.schoolでの例を交えながら説明していきます。 後半の約1時間は、質疑応答の時間で活発な意見交換がなされ、あっという間の2時間でした。

    LECTURE(1)
    LECTURE(2)

    LECTUREの様子

    LECTURE質疑応答(1)
    LECTURE質疑応答(2)

    質疑応答

    2.ワークショップ「DESIGN CHALLENGE」

    AGL所属の学生を中心に、学内、AGLに協力いただいている一橋大学、そして慶応大学の学生含め45名の学生を対象に、まるまる2日間の濃密なワークショップとなりました。
    「自由が丘というコミュニティーを感じる仕組みをリ・デザインする」というテーマで、自由が丘を訪れる人々のニーズや思いを掘り起こし、新たな価値を提供するサービス・仕組み・機器を提案するワークショップです。「デザイン思考」の5つのステップを、3人の講師のアドバイスを受けながら、体験します。自由が丘を訪れる人々が意識している「問題点」をあぶり出し、その意味を解明し、解を提案して、可視化をしていきます。

    • DESIGN CHALLENGE Empathize作業

      Empathize

    • DESIGN CHALLENGE Prototype作成

      Prototype

    • DESIGN CHALLENGE Test

      Test

    「デザイン思考」は、新たな設計やサービスの提供、新規事業を起こす事だけでなく、研究、NGO/NPOの活動含めあらゆるイノベーテイブな活動の基本的な考え方と捉えることが可能です。そして、実際の活動をより創造性を持った活動にすることができます。人によっては「起業マインド:entrepreneurship」と言い換える人もいますが、それが実際にはどんな活動の事をさすのか、今回の講演会やワークショップを通して、ヒントになったのではないでしょうか。また、全編英語で行ったことで、スタンフォード大学での実際の進め方の一端を経験してもらうことができました。

    DESIGN CHALLENGE
    DESIGN CHALLENGE

    グローバルリーダー教育院とは

    グローバルリーダー教育院(AGL)は、2011年に設立された全学組織で、国際社会を牽引する博士リーダー人材の育成を目的にしており、現在、各専攻に所属しながら約35名の学生がAGLにも所属しています。AGLには、人文社会系道場と科学技術道場が各2つずつあり、所属生はそれぞれから1つずつ選択し、後期博士課程修了までの間所属します。各道場は、道場主と呼ばれる教員がいて、学生がリーダシップを自ら学ぶ場を提供します。
    人文社会系道場の1つである山田道場では、「アントレプレナーシップ(起業マインド)」をリーダシップの根幹機能とし、それを支える基本的なコンセプトとして「デザイン思考」を位置づけています。さらに、「発想」の部分をメインにし10数年後の未来社会を設計する「未来洞察」や、「デザイン思考」のアドバンスコース的な位置づけで事業モデル開発を行う「Lean Launchpad」等のワークショップを実施しています。山田道場のカリキュラムは、これらのワークショップを中心にして、起業マインドの本質的な醸成を行っています。

    お問い合わせ先
    グローバルリーダー教育院
    特任教授 山田圭介
    Tel: 03-5734-2323
    Email: yamada.k.be@m.titech.ac.jp

    「第23回 My Study Abroad 留学報告会」開催報告

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    報告会の様子

    7月22日の昼休みを利用して、My Study Abroad 留学報告会を開催しました。国際室が募集する留学プログラムで留学した学生によるこの報告会は、授業期間中、月1~2回開催されています。

    今回は、派遣交換留学を利用して留学した4名の学生が発表しました。大学院総合理工学研究科メカノマイクロ専攻修士2年の齋藤泉さん(スウェーデン王立工科大学)、大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻修士2年の安藤鷹太郎さん(カリフォルニア大学バークレー校)、大学院理工学研究科土木工学専攻修士2年の谷田栞さん(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)、工学部国際開発工学科4年の李 安琪さん(リンシェーピン大学/スウェーデン)です。

    スウェーデン王立工科大学に留学した齋藤さんは、履修登録や課題の提出などインターネット上で手続きを行うことが多い学習スタイルに驚き、多数の学外授業を体験できたことが非常に貴重だったとの報告がありました。また、休み期間中にはヨーロッパ各国を旅行し、異文化に触れ合うことができ、ヨーロッパ留学ならではの醍醐味を満喫したようです。今回の留学を経験したことで、さらに長期の学位留学も視野に入れているという決意で発表を締めくくりました。

    カリフォルニア大学バークレー校に留学した安藤さんは、日々膨大な課題に追われながらも、尊敬する教授の指導のもとで専門分野をより実質的に学習することで、大変有意義な1年間を過ごせたようです。また、留学前の準備として銀行のオンライン口座をつくることのメリット等、これから留学する学生に向けて役立つ様々な報告がありました。

    安藤さん資料より

    カリフォルニア大学バークレー校

    カリフォルニア大学バークレー校 安藤さん資料より

    スイス連邦工科大学チューリッヒ校に留学した谷田さんは、留学当初慣れない講義形式や語学の壁にとても苦戦したようです。しかし、積極的に他の学生と協力し合い授業を進める中で、英語力の上達だけでなく、異文化への理解も深まったとの報告がありました。また、物価が高いことが唯一の難点ではあったものの、治安が良く、街もきれいなスイスはとても住みやすかったそうです。

    谷田さん資料より

    • ETH Main campus
    • ETH Hönggerberg campus
    • 谷田さん資料より

    スイス連邦工科大学チューリッヒ校 谷田さん資料より

    リンシェーピン大学に留学した李さんからは、大自然に囲まれたキャンパスに隣接した寮の中で、他の留学生と多くのアクティビティーに参加することで、決して1人になることのない有意義な時間を過ごすことができたとの報告がありました。また、総合大学ならではのメリットを活かし、自身の専門外の様々な分野における授業を履修することができたことも貴重な体験であったようです。

    お問い合わせ先
    国際部留学生交流課派遣担当
    Tel: 03-5734-7645
    Email: hakenryugaku@jim.titech.ac.jp


    すずかけ台地区自衛消防隊「第39回緑区自衛消防隊操法技術訓練会」優勝

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    2014年6月25日、鴨居自動車学校にて第39回緑区自衛消防隊操法技術訓練会が開催され、屋内消火栓操法(男性又は混成の部)において、すずかけ台事務部チームが優勝、大学院総合理工学研究科吉田研究室チームが2位の成績を収めました。
    すずかけ台事務部チームは、昨年の初優勝に続く連覇となり、10月に開催される横浜市自衛消防隊操法技術訓練会への出場を決めました。今年度は区内20事業所(約120名)が参加し、日頃の訓練の成果を披露しました。

    第39回緑区自衛消防隊操法技術訓練会

    • 屋内消火栓操法(男性又は混成の部)
      優勝 すずかけ台事務部チーム
      2位 大学院総合理工学研究科吉田研究室チーム
    • 参加者
      会計課安全衛生推進グループ
      有山弘行
      会計課調達グループ
      扇谷理絵
      総務課総務・研究所グループ
      上里義之
      総務課人事グループ
      池谷大輔
      会計課調達グループ
      野勢竜平
    • 学長への優勝報告
      学長への優勝報告
    • 優勝の事務部チーム、2位研究室チーム
      優勝の事務部チーム、2位研究室チーム
    • 放水の様子(すずかけ台事務部チーム)
      放水の様子(すずかけ台事務部チーム)
    • 放水の様子(吉田研究室チーム)
      放水の様子(吉田研究室チーム)

    高分子1本鎖からの電界発光を観測 ―高分子ELディスプレイや照明の高耐久性に寄与―

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    概要

    東京工業大学大学院理工学研究科のバッハ・マーティン教授と総合理工学研究科の彌田智一教授らは、共役系高分子[用語1]の1つであるポリフルオレン[用語2]単一鎖からの電界発光の観測に成功した。ブロック共重合体[用語3]のミクロ相分離[用語4]状態で見られるナノシリンダー構造[用語5]の中に、ナノシリンダー材料と相溶性が良いポリフルオレンを導入することで、個々のポリフルオレン鎖を高密度に分離して実現した。

    具体的には、ポリフルオレン1本鎖からの電界発光(EL)[用語6]スペクトルを観察することで、青色高分子ELの劣化時に観測される緑色発光の発現の新たな要因を発見。また量子化学計算[用語7]により、緑色発光がEL素子内に存在する電荷によってポリフルオレン鎖の凝集状態が促進されて生じることを明らかにした。高耐久性の青色発光共役系高分子の設計、そして高分子ELディスプレイや照明の高耐久性に寄与すると考えられる。

    この研究は日本学術振興会の支援で行った。成果は国際学術雑誌「ネイチャーコミュニケーションズ(Nature Communications)」オンライン版に英国時間14日に掲載された。

    研究成果

    バッハ、彌田両教授らは、ポリフルオレン鎖の一本鎖の光電子物性に関する研究を実施した。ポリフルオレン1本鎖を高密度、かつ個々に分離するために、ブロック共重合体の垂直ナノシリンダーの相分離構造を有する薄膜を用いた。この薄膜から成るEL素子を作製し、個々のポリフルオレン鎖からの電界発光を観察したところ、青色と緑色発光を繰り返す単一鎖の存在を発見した。この発光色の変化はポリフルオレン鎖にトラップされた電荷によってポリフルオレン鎖の凝集状態が促進されることによって生じることを突き止めた。

    ポリフルオレンを用いた有機ELの研究分野における発光色変化の問題の解決は、次世代のディスプレイや照明を開発していく上で重要な課題である。本研究で発光色の変化の要因が解明されたことにより、ポリフルオレンや共役系高分子を用いた光電子デバイスの長寿命化が期待される。

    研究の背景

    ポリフルオレンは優れた電導特性や青色発光特性を示すため有機ELディスプレイや照明などの光電子デバイスへの応用が期待されている。しかし、駆動時間の経過と共に発光色が青色から緑色へ変化するという問題があり、効率の低下や駆動の不安定性につながっていた。このような問題は十年来議論されており、ポリフルオレン鎖の酸化や鎖間同士の凝集などが原因として考えられてきたが、依然として整合性のある説明がなされていなかった。

    研究の経緯

    バッハ、彌田両教授らは、ポリフルオレン鎖の電界発光時に観測される緑色発光に関する新しい発光メカニズムを見出した。ブロック共重合体のナノサイズの垂直配向シリンダー構造の中に、個々のポリフルオレン鎖を閉じ込めることで、ポリフルオレン鎖1本1本が高密度に分離された薄膜を作製し、この薄膜に電極を付けることでEL素子を作製した。

    個々に分離されたポリフルオレン鎖の電界発光を高解像顕微鏡[用語8]で観察したところ、青色と緑色が可逆的に振動するものが存在することを発見した。また、この緑色発光は電界を印加した時のみ顕著に観測されることを見出した。さらに、東工大理工学研究科有機高分子物質専攻の川内進准教授のグループとの共同研究により、緑色の電界発光の発現が、ポリフルオレン鎖中にトラップされた電荷によりポリフルオレン1本鎖の凝集が加速化されることで生じることを明らかにした。

    今回の成果

    この成果は、高耐久性の青色発光共役系高分子の作製に寄与する。さらに、このような電界発光特性を示す単一分子鎖に関する研究結果は、単一分子を用いた光電子デバイスの実現に向けた一歩になると考えられる。

    用語説明

    [用語1] 共役系高分子 : 二重結合と単結合とが交互に連なっている化学構造を有する高分子のことを指す。

    [用語2] ポリフルオレン : 下記のような構造の繰り返しを有する共役系高分子の総称。優れた電気伝導特性と青色発光を示す共役系高分子として知られている。

    ポリフルオレン : 下記のような構造の繰り返しを有する共役系高分子の総称。優れた電気伝導特性と青色発光を示す共役系高分子として知られている。

    [用語3] ブロック共重合体 : 異種の高分子同士を共有結合で結合した分子。

    [用語4] ミクロ相分離 : ブロック共重合体では異種の高分子鎖間に働く斥力により相分離が生じる。しかし、異種の高分子が強制的に結合しているため、相分離構造の大きさは通常マイクロメートルサイズ以下になる。

    [用語5] ナノシリンダー構造 : ブロック共重合体では組成や温度などの条件によって球状,ラメラ状,シリンダー状などの特徴的な周期構造を形成する.比較的相分離の周期が小さい結果、ナノサイズのシリンダー構造が形成された構造のことを指す。

    [用語6] 電界発光(EL) : 電圧を印加することで発光する物理現象のことを指す。発光ダイオード(LED)や有機発光ダイオード(有機EL)などで広く観測される現象である。

    [用語7] 量子化学計算 : 経験的なパラメータを用いて計算によって分子構造に起因する分光学的物性を推定する手法である。近年ではコンピューターの処理速度の増加から、分子の形状や分子固有のさまざまな定数、さらに分子集合体における形状や定数などが推定できるようになってきている。

    [用語8] 高解像顕微鏡 : 1分子が発する程度の微弱な光強度を検出することが可能な光学顕微鏡のことを指す。通常、通常材料を発光させるためにレーザーを高倍率のレンズを通して1W/cm2以上のパワーとなるように材料に入射させ、材料からの微弱な発光の検出に高感度CCDを用いて検出する。

    図. (A) 作製したEL素子の構造; (B) ELスペクトルの時間変化; (C) 各時間におけるELスペクトル; (D) 用いたポリフルオレンの化学構造; (E) 個々のポリフルオレンのELスペクトルのピーク波長のヒストグラム

  • 図.
    (A) 作製したEL素子の構造; (B) ELスペクトルの時間変化; (C) 各時間におけるELスペクトル; (D) 用いたポリフルオレンの化学構造; (E) 個々のポリフルオレンのELスペクトルのピーク波長のヒストグラム
  • 掲載雑誌名

    掲載誌 :
    Nature Communications (2014) 5:4666
    題目 :
    Single molecule electroluminescence and photoluminescence of polyfluorene unveils the photophysics behind the green emission band
    著者 :
    Yoshihiro Honmou, Shuzo Hirata, Hideaki Komiyama, Junya Hiyoshi, Susumu Kawauchi, Tomokazu Iyoda, and Martin Vacha
    (本望圭紘、平田修造、込山英秋、日吉淳也、川内進、彌田智一、バッハ・マーティン)
    DOI :

    研究支援

    本研究は以下の支援を受けて行われました。

    • 日本学術振興会・挑戦的萌芽研究「共役系高分子の単一分子電界発光計測」(2011〜2013年度)、代表:東京工業大学 バッハ・マーティン、 課題番号23651107 outer
    • 日本学術振興会・基盤研究(B)「共役系高分子一本鎖のコンフォメーション制御による光電子物性の能動的制御」(2014〜2017年度)、代表:東京工業大学 バッハ・マーティン、課題番号26287097 outer

    お問い合わせ先

    バッハ・マーティン
    大学院理工学研究科 有機高分子物質専攻 教授
    Email: vacha.m.aa@m.titech.ac.jp
    TEL: 03-5734-2725
    FAX: 03-5734-2725

    9月の学内イベント情報

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    2014年 9月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

    9月の学内イベント情報

    東工大・清華大学大学院合同プログラム学位記授与式典 報告

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    東工大・清華大学大学院合同プログラム8期生の学位記授与式が、7月5日に清華大学で行われました。

    この合同プログラムは、東工大と中国トップクラスの大学である清華大学が共同で大学院の学生教育を行うことで、専門の知識と技能をもち、日本語と中国語、そして英語を駆使できる語学力、日中双方の文化・習慣に精通した若い人材を育成することを目的として誕生しました。2004年に開設した修士課程は、東工大と清華大の2つの学位が取得できる、ダブル・ディグリープログラムです。一方、2007年にスタートした博士課程では、3年間の共同指導の後、どちらか一方の学位を取得することになっています。

    今年は10周年を迎える記念の年のため、修了したプログラム生と清華大学執行部の先生方をはじめ、合同プログラム関係者が一堂に介し、彼らの修了を祝福しました。

    清華大側指導教員との記念写真 清華大学材料学院潘偉教授と東工大8期生松原幸平

    清華大側指導教員との記念写真
    清華大学材料学院潘偉教授と東工大8期生松原幸平

    卒業を祝う帽子投げ 東工大8期生

    卒業を祝う帽子投げ
    東工大8期生

    記念集合写真

    記念集合写真

  • 後列:
    研究生院高策理副院長、楊艦社会理工コース長、林紅ナノコース長、邢新会運営委員長、王釗バイオコース委員、魯志バイオコース委員、国際交流処李宇紅副処長、王婉莹社会理工コース委員、李正操ナノコース委員、留学生事務室スタッフ章燕
  • 中列:
    研究生院劉恵琴主任、研究生院高虹副院長、袁駟副学長、薛其坤副学長、謝維和副学長、韓景陽党委副書記、陳吉寧学長、陳旭党委書記、姜勝耀副学長、学長補佐・研究生院楊斌院長、研究生院培養事務室スタッフ劉麗霞、国際交流処プログラム事務室李紅宇主任、東工大・清華大合同プログラム北京事務室王亜民
  • 前列:
    清華8期生郝文艶、劉辰洋、東工大8期生鍛代聡、清華8期生李斌、東工大8期生村岡利之、田中英貴、松原幸平、関博子、尾田良晶、清華7期生于皓月、東工大8期生石川博規、清華8期生劉慧凝(すべて左から)
  • お問い合わせ先

    国際部留学生交流課事業推進グループ

    清華事務室
    Tel: 03-5734-7650
    Email: seika@jim.titech.ac.jp

    北京(清華大)事務室

    〒100084 中国・北京市海淀区清華園
    清華大学紫荊公寓23号楼328号室
    Tel:+86+10-51533146
    Email:yaminwang-china@tsinghua.edu.cn

    東工大・清華大学大学院合同プログラム10周年記念懇談会 開催報告

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    2004年秋よりスタートした東工大・清華大学大学院合同プログラム(以下、合同プログラム)は、東工大と中国トップクラスの大学である清華大学が共同で大学院の学生教育を行い、日本初の日本と海外2つの学位を授与するダブル・ディグリー(双方学位)プログラムです。ナノテクノロジーコース、バイオコース、社会理工学コースの3つのコースがあります。今年秋に10周年を迎えるにあたり、記念行事として、まずは清華大学で7月11日に「10周年記念懇談会」を開催しました。

    • 袁清華大副学長

      袁清華大副学長

    • 丸山東工大理事・副学長

      丸山東工大理事・副学長

    • 邢新会清華大運営委員長

      邢新会清華大運営委員長

    清華大学からは袁駟副学長を始め、邢新会運営委員長(兼バイオコース長)、林紅ナノテクノロジーコース長、楊艦社会理工学コース長、ナノテクノロジーコース謝続明委員、国際交流処プログラム事務室李紅宇主任が出席しました。本学からは丸山俊夫理事・副学長、関口秀俊副学長、大学院理工研究科史蹟教授のほか、国際部スタッフ2名が出席しました。さらに、合同プログラムの学生や修了生の代表も参加しました。

    まず、清華大邢新会運営委員長が、合同プログラムの10年間の歩みを紹介しました。東工大と清華大学が協力して、幅広いバックグラウンドを備え、国際的リーダーシップを発揮できる理工系人材を養成することを目指し、10年間に160名近くの学生を育てた実績が挙げられました。

    懇談会のメインは、合同プログラムの学生による、自己紹介やプログラム参加体験談、将来の抱負の発表です。最初に相手国言語で話し、その後自国言語に訳すという形で披露しました。次から次へと面白いエピソードや体験、本音話が真剣に語られ、会場は一気に和やかな雰囲気に包まれました。時には笑いや歓声が上がり、合同プログラムの集大成である若手人材教育の成果が垣間見られました。

    最後に、丸山東京工業大学理事・副学長と清華大学袁副学長から挨拶がありました。両副学長とも、合同プログラムは年月をかけた両校間の信頼関係のもとに、共同して国際的な人材を育成する目標を実現していると高く評価しました。そして、合同プログラムの発展に尽力して来た関係者に感謝の意が表されました。素晴らしい未来を見据えた合同プログラムの今後の更なる発展を期待すると共に、学生や若手研究者には各分野で活躍する日中間の架け橋となるよう、との激励の言葉がありました。

    なお、東工大では11月に10周年記念式典を開催する予定です。

    10周年記念懇談会記念集合写真

    10周年記念懇談会記念集合写真

    お問い合わせ先

    国際部留学生交流課事業推進グループ

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    北京(清華大)事務室

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    Art at Tokyo Tech 2014 Summer 開催報告

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    Art at Tokyo Techは、毎年大学院社会理工学研究科が主催して行っている一般向けのイベントです。

    今年は「軽く目を閉じて」と題し、西9号館2階ディジタル多目的ホールを会場として、6/4にコンテンポラリーダンス、6/24に薩摩琵琶演奏会、7/16に学生ラテンジャズバンド ロス・ガラチェロスの演奏会を行いました。ダンス及び琵琶演奏会は60~70名の参加者、ロス・ガラチェロス演奏会には学内からの聴衆に加え近隣住民も多数訪れ、160名を超える参加者が夏の夜のひとときを楽しんでいました。
    また、これに先立ち、6/6、6/16、7/2には、西9号館2階のエントランスホールにおいて、昼休みを利用したミニ・コンサートも行われ、オーディションを受けた学生等が見事な演奏を披露しました。

    • コンテンポラリーダンスコンテンポラリーダンス
    • 薩摩琵琶演奏会薩摩琵琶演奏会
    • ラテンジャズコンサートラテンジャズコンサート
    エントランスホールコンサート

    エントランスホールコンサート

    お問い合わせ先
    大学院社会理工学研究科 社会理工等グループ
    Tel: 03-5734-2107
    Email: art.jim@jim.titech.ac.jp

    RAKUGO Live at Tokyo Tech 2014 開催報告

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    Tachikawa Shinoharu

    8月5日、落語家立川志の春さんをお招きして RAKUGO Live at Tokyo Tech 2014 を開催しました。
    大学の世界展開力強化事業によるサマープログラムの一環として2012年にスタートしたこの英語落語会も、今年で3回目となりました。
    とくに留学生や外国の方々に日本文化を紹介するための企画ですが、ご覧になった皆さんが伝統文化の紹介を超えた何かを「おみやげ」に持っていっていただけるとうれしいですね、と志の春さん。

    まずは落語そのものについての簡単な紹介から始まります。江戸時代にルーツを持ち、そのとき出来た噺が少しずつ改編されながらも現代まで伝わっていること、扇子や手ぬぐい程度の小道具で様々なシチュエーションを演じること等々。実際に扇子を使って熱々のおそばを食べる様子や、声色だけで子どもからお年寄りまで演じ分ける様子を目の当たりにしてお客様も大いに感心したところで、

    「これはハオリといいます。下がキモノです。ハオリを脱ぐのは噺が始まる合図です...」

    とTENSHIKI(転失気)が始まりました。観客席の大半の皆さんにとって初めて聴く落語となるこの噺は、小僧さんと見栄っ張りの和尚さんのやりとりが面白い一席です。クライマックスに向かうくだりでは、おなかを押さえて笑うお客様がいらっしゃいました。

    Rakugo Live

    この後、毎年恒例のQ&A Timeへ。客席からユニークな質問がたくさん飛び出し、これに的確に愉快に答えてくださる志の春さんのやりとりが楽しい時間です。落語がいかにミニマムな所作や表現で世界を作り上げるかということについてひとしきり質問があったあと「あなたにとっての大きな夢や目標はなんですか?」という意外な質問が。「東京ドームで一席...ということはなく、目の前の仕事をコツコツこなしていくことですね」と志の春さん。東京ドームでの全員正座のライブを想像しておかしくなりました。

    Q&A Time

    最後の一席は「禁酒番屋(The Liquor Gate)」。 ある武家で酒をめぐって刃傷沙汰となり、以来酒が一切禁じられ、屋敷の門に番屋も設けられて酒の持ち込みも厳しく取り締まられることとなりました。ある日屋敷内に住む大酒飲み近藤が、行きつけの酒屋に無理を言って酒を注文します。この酒をなんとかして届けようとする酒屋の小僧と番人の丁々発止のやりとりが、この噺のメインです。酒屋側は2回も酒を番人に取り上げられ飲まれてしまう。3回目はもう酒を届けることはどうでも良い、タダ酒を飲んだ番人に一矢報いたい。ではどうやって・・・?

    愉快ながらも緊張感の漂う酒屋の小僧と番人のやりとりに耳を澄ませ、いよいよ3回目ともなると皆さんもこらえきれない様子でサゲ(結末)まで笑いの連続でした。今回の二席を通じて、ご来場の皆さんの心にはどんな「日本」「日本人」イメージが刻まれたでしょうか。 少なくとも皆さん満面の笑顔でお帰りになられました!

    お問い合わせ先
    国際部留学生交流課事業推進グループ
    Tel: 03-5734-2984
    Email: campusasia@jim.titech.ac.jp


    附属図書館大岡山本館 開館3周年記念企画 実施報告

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    7月4日、附属図書館大岡山本館は開館3周年を迎えました。開館日を記念して実施した企画を紹介します。

    大岡山新図書館 開館3周年記念展示

    7月4日から22日まで、大岡山本館地下1階にて記念展示を行いました。展示したのは建築設計の過程で作成された新図書館の模型と、東工大レゴ同好会が制作した新図書館のレゴ作品です。

    模型は、設計を担当した本学大学院理工学研究科建築学専攻の安田研究室が作成したものです。図書館周囲の道路や建物も含まれており、建築計画の中で考慮されたキャンパス内の交通動線を俯瞰することができます。

    レゴ作品は、2013年の工大祭で展示されたものを東工大レゴ同好会から借用しました。2・3階の学習棟とその周辺が再現されています。

    図書館の入館ゲートを入ってすぐの場所に展示したため、期間中に図書館を訪れた多くの方が足を止めてご覧になっていました。中には展示机の周囲を回りながら展示物をじっくりご覧になる方もいらっしゃり、展示は大変好評でした。

    レゴ作品

    大岡山新図書館模型

    大岡山新図書館模型

    展示風景(写真左側:模型、右側:レゴ作品)

    展示風景(写真左側:模型、右側:レゴ作品)

    開館3周年記念版 附属図書館webサイト

    7月4日から28日まで、開館3周年記念バージョンのロゴおよび画像を附属図書館webサイトに掲載しました。地上の学習棟が東工大生に「チーズケーキ」の愛称で親しまれていることから、チーズケーキをイメージして図書館職員がデザインしました。

    開館3周年記念バージョンのロゴ

    開館3周年記念画像

    また、公式行事ではありませんが、図書館サポーターの学生が毎年開館記念日に有志で集まり、「チーズケーキを食べる会」を開催しています。今年も9人の図書館サポーターがチーズケーキとともに図書館の誕生日を祝いました。

    グランドオープンから4年目に入り、新しい図書館もキャンパスに馴染んできたのではないでしょうか。これからも、利用者にもっと便利で快適な場所やサービスを提供するとともに、図書館に親しみを持ってもらえるような活動をしていく予定です。

    アジアの高校生が東工大を訪問

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    独立行政法人科学技術振興機構(JST)による「日本・アジア青少年サイエンス交流事業」(さくらサイエンスプラン)は、優秀なアジアの青少年を短期間日本に招へいし、未来を担うアジアと日本の青少年が科学技術の分野で交流を深めることを目的としています。

    この事業の一環として、この夏アジア諸国から高校生300人を招へいし、日本の最先端の研究を体験する1週間のプログラムが実施され、東工大にも2つのグループが来訪しました。

    高校生にレクチャーするピート・ハット教授

    高校生にレクチャーするピート・ハット教授

    7月28日(月)の午前中に来訪した中国からの高校生31名は、地球生命研究所(ELSI)で東工大とELSIの概要説明を受けた後、インターナショナル・ワークショップに参加しました。
    ワークショップでは、イタリア、スペイン、アメリカなど各国からやってきた客員研究員たちが、ピート・ハット教授(ELSI参与、プリンストン高等研究所 宇宙物理学教授)を囲んでディスカッション中でしたが、来訪した高校生のために、科学という学問の進化や、何故自分たちが地球の研究をしているのかなどについてレクチャーを実施しました。

    ELSI研究員と高校生たち

    ELSI研究員と高校生たち

    高校生からは質問が相次ぎ、白熱したレクチャーになりました。 その後、ELSI研究員との懇談や実験室の見学を実施し、最後に、東工大の学生たちと一緒に学食の体験をして、東工大の訪問を終了しました。

    TSUBAMEマシンルーム見学の様子

    TSUBAMEマシンルーム見学の様子

    8月4日(月)の午後には、インドネシア、ベトナムなどのアジア各国からの高校生80名が訪問しました。
    東工大の概要説明の後、大学生によるキャンパス案内を交えながら、環境エネルギーイノベーション棟およびスーパーコンピュータTSUBAMEの見学を実施しました。

    環境エネルギーイノベーション棟では、建物内の研究室に所属する大学生の案内のもと、建物全面に設置された太陽電池パネルや、研究室および実験室を見学しました。

    TSUBAME見学ではスーパーコンピュータのマシンルームを見学し、担当者からは学内の研究をはじめ、企業との共同研究などにTSUBAMEが活用されているなどの説明があり、参加した高校生は熱心に説明を聞いていました。

    その後、本館前で記念写真を撮影し、東工大の訪問は終了しました。

    両日とも猛暑の中、わずか半日の訪問でしたが、参加した高校生が東工大での経験を通じて日本の科学技術に関心を高め、将来、東工大をはじめ、日本の大学に進学するなど日本とアジア諸国の若い世代の国際交流が促進されることを期待しています。

    記念の集合写真
    記念の集合写真

    記念の集合写真

    公開時 誤植がありましたので、修正しました。

    第20回 スーパーコンピューティングコンテスト 開催報告

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    高校生が4日間をかけて難題を解くプログラムを作成し、その性能を競う「スーパーコンピューティングコンテスト(SUPERCON)」。本年度は20回目の開催を記念して、予選を勝ち抜いた21チームが東京工業大学に集結し、8月18~21日に本選、8月22日に成果発表会と表彰式が行われました。

    本年度の課題は「テトリス風パズルゲーム」です。テトリスよりも複雑なピースセットが100~200個与えられ、最終的に積み重なったピースの高さがなるべく低くなるように、ピースの順番、位置、回転角度を解答するという内容でした。

    競技結果の発表に先立ち、優れたプログラムを作成したチームに贈られる学会奨励賞が発表されました。

    学会奨励賞(電子情報通信学会、情報処理学会)

    チーム MamaGoto (大阪府立大学工業高等専門学校)

    (受賞理由は「MPIを用いた並列化アルゴリズムの工夫」です。)

    チーム MamaGoto の解答による出力(問題3)

    競技結果

    本選審査ではピースが積み重なった高さをスコアとしました。順位は3つの審査例題に対する、そのスコアの合計の小さい順で決めました。

     
    チーム名
    スコア(高さ)
    学校名
    1位
    MamaGoto
    1, 1, 5 合計 7
    大阪府立大学工業高等専門学校
    2位
    nicotoum
    5, 5, 10 合計 20
    渋谷教育学園渋谷高等学校
    3位
    sontaku
    6, 1, 16 合計 23
    香川県立高松高等学校

    1位から3位までのチームには東京工業大学 大谷清 理事・副学長より賞状、盾、メダル、記念品が授与されました。

    1位 MamaGoto (大阪府立大学工業高等専門学校)
    1位 MamaGoto (大阪府立大学工業高等専門学校)

    2位 nicotoum (渋谷教育学園渋谷高等学校)

    2位 nicotoum (渋谷教育学園渋谷高等学校)

    3位 sontaku (香川県立高松高等学校)

    3位 sontaku (香川県立高松高等学校)

    なお、以下のサイトで優勝チームの出力結果によるゲームの可視化版を閲覧できます。次に落とされたピースが赤く表示されています。また、本選問題と同じ問題で実際にプレイすることも出来ます。

    SUPERCON2014の本選問題と優勝チームMamaGotoの解答outer

    では来年もまた「夏の電脳甲子園」、スーパーコンピューティングコンテストでお会いしましょう。

    第20回 スーパーコンピューティングコンテスト (SUPERCON 2014) 全体記念写真 第20回 スーパーコンピューティングコンテスト (SUPERCON 2014) 全体記念写真

    光合成反応の場を作る膜脂質の機能を解明 ―光合成膜脂質のこれまでの常識を覆す―

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    静岡大学の粟井光一郎准教授ら研究グループは、光合成反応を行う光合成膜に普遍的に存在するガラクト脂質が、これまでの常識と異なり光合成に必須ではないことを明らかにしました。

    ポイント

    • 植物や藻類などの光合成を行う生物では、光合成膜は主に糖の一種であるガラクトースを持つ脂質(ガラクト脂質)でできており、ガラクト脂質は光合成膜に必須であると考えられてきた。
    • しかし、その常識は下記の成果により覆された。
      シアノバクテリアのガラクト脂質合成に関わる糖変換酵素遺伝子mgdEを世界で初めて同定し、mgdE遺伝子破壊株を作成した。
      このmgdE遺伝子破壊株では、光合成膜中のガラクト脂質がなくなり、代わりにグルコースを持つ脂質に置き換わっていたが、光合成活性や光合成膜の構築に大きな異常はなかった。
    • 本成果により、光合成膜の機能理解の進展、エネルギー生産の効率化への寄与が期待される。

    植物や藻類、シアノバクテリア[用語1] などの酸素発生型光合成をする生物では、光合成反応の場である光合成膜[用語2] は、ガラクト脂質[用語3] でできています。植物では脂質の骨格にガラクトース[用語4] を転移してガラクト脂質を合成するのに対し、シアノバクテリアでは脂質の骨格に一度グルコースを転移した後、ガラクトースに変換して合成することが知られています。

    粟井准教授らは、これまで不明であったグルコースからガラクトースに変換する酵素の遺伝子mgdE[用語5] を明らかにし、その遺伝子破壊株[用語6] を作成しました。遺伝子破壊株では、ガラクト脂質の代わりにグルコースを持つ脂質が蓄積していましたが、光合成膜が形成され、光合成活性も維持していることがわかりました。このことは、ガラクト脂質が光合成膜に必須ではないことを示しています。

    今回の発見は、ガラクト脂質が光合成に必須であるという、これまでの常識を覆す結果であり、光合成膜の機能解明に大きな進展をもたらす成果です。今後、光合成に必須のタンパク質群の構造や安定性に膜脂質が与える影響を明らかにすることで、光合成システムの精密な理解を促進し、エネルギー物質生産の効率化に役立つことが期待されます。

    本研究は、東京大学の佐藤直樹教授、東京工業大学の太田啓之教授と共同で行ったものです。

    本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)のオンライン速報版で2014年9月1日の週(米国東部時間)に公開される予定です。

    本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

    戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

    研究領域 : 「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」
    (研究総括:松永是 東京農工大学 学長)

    研究課題名 : 「ラン藻ポリケチド合成酵素を用いた脂質生産」

    研究者 : 粟井光一郎(静岡大学 大学院理学研究科生物科学専攻 准教授)

    研究期間 : 平成24年10月〜平成28年3月

    JSTはこの領域で、藻類・水圏微生物には、高い脂質・糖類蓄積能力や多様な炭化水素の産生能力、高い増殖能力を持つものがあることに着目し、これらのポテンシャルを活かした、バイオエネルギー創成のための革新的な基盤技術の創出を目指しています。

    研究の背景と経緯

    植物や藻類など、我々の身近に存在する光合成生物は、酸素発生型と呼ばれる光合成反応、つまり光エネルギーを使って水から酸素を作り、二酸化炭素を取り込む反応を行います。この反応は、植物や藻類では細胞中の葉緑体のなかにある光合成膜(チラコイド膜)と呼ばれる膜を介して行われます。このチラコイド膜は、光合成反応を行うタンパク質複合体と膜脂質と呼ばれる分子からできていて、その比率はおよそ5:5であるといわれています。膜脂質は膜を形作る役割を担っていることから、光合成反応を行うためには、反応を行うタンパク質だけでなく、膜脂質も必要です。

    チラコイド膜を作る膜脂質の種類は、他の膜とは異なることが知られています。たとえば、ヒトの細胞にある膜のほとんどはリン脂質と呼ばれる、分子の中にリンを含む膜脂質でできています。一方、チラコイド膜のほとんど(全体の9割)が分子の中に糖を含む膜脂質(糖脂質)でできています。中でもガラクトースを持つ糖脂質(ガラクト脂質)は全体の8割を占めており、このうち1分子のガラクトースを持つ糖脂質モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)がチラコイド膜のおよそ5割、2分子のガラクトースを持つ糖脂質ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)が3割を占めています。地球上には、地表の植物や海中の藻類など、非常に多くの光合成生物が存在していることから、特にMGDGは地球で最も多く存在する膜脂質であると言われています。この特徴的な脂質組成は酸素発生型光合成を行う生物に保存されていることから、ガラクトースを持つ膜脂質は光合成反応に必須であると考えられてきました。しかし、なぜガラクトースを持つ糖脂質が多量に存在するのかは、わかっていませんでした。

    ガラクトースは、生体内ではそれほど多く存在する糖ではありません。生体内では、特にグルコースの存在量が多く、ガラクトースはグルコースの数百分の一しか存在していません。ガラクトースとグルコースの違いはわずかで、C4位の水酸基の配位が異なるだけです(図1)。ガラクトースの存在量は、植物や藻類の細胞だけ少ないわけではなくヒトの細胞でも同様で、実際ヒトが食物から吸収するガラクトースのほとんどは、MGDGやDGDGなどのヒトが食べる植物や藻類に含まれるチラコイド膜糖脂質由来だといわれています。

    図1 ガラクトースとグルコースの構造。C4位の水酸基の向きが異なる(矢印)。左:ガラクトース、右:グルコース

    図1 ガラクトースとグルコースの構造。C4位の水酸基の向きが異なる(矢印)。左:ガラクトース、右:グルコース

    チラコイド膜にガラクト脂質が必須かどうかを調べるため、研究グループは植物や藻類と同じ酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアに着目しました。シアノバクテリアはMGDGとDGDGを持ち、チラコイド膜を構築して光合成を行いますが、これらガラクト脂質の合成経路が植物と異なることがわかっていました(図2)。植物では膜脂質の骨格であるジアシルグリセロール(DAG)にガラクトースを転移してMGDGを合成するのに対し、シアノバクテリアではDAGにまずグルコースを転移し、合成されたモノグルコシルジアシルグリセロール(GlcDG)を糖異性化酵素によってMGDGへと変換します。シアノバクテリアのガラクト脂質合成経路のうち、この糖異性化酵素の遺伝子(mgdE)が不明でした。そこで、この遺伝子を同定し、遺伝子破壊株を作成することでMGDGへの異性化反応を止め、MGDGがGlcDGで置き換え可能かを調べることで、ガラクトースを持つ膜脂質が光合成に必須であるかを調べることを計画しました。

    図2 植物とシアノバクテリアにおけるガラクト脂質合成経路の違い。植物や藻類ではジアシルグリセロール(DAG)にガラクトースを付加することでMGDGを合成するが、シアノバクテリアでは、まずグルコースを転移し、それを異性化することでMGDGを合成する。矢印下の黄色の楕円は、その反応を担う酵素の名前を示す。MgdA:DAGにグルコースを転移する酵素、MgdE:GlcDGのグルコースをガラクトースに異性化する酵素、DgdA:MGDGにもう1分子のガラクトースを付加する酵素。下段は膜脂質の構造を模式化した図。ピンク部は脂肪酸、水色部はグリセロール、橙色部はグルコース、緑色部はガラクトースを示す。

  • 図2
    植物とシアノバクテリアにおけるガラクト脂質合成経路の違い。植物や藻類ではジアシルグリセロール(DAG)にガラクトースを付加することでMGDGを合成するが、シアノバクテリアでは、まずグルコースを転移し、それを異性化することでMGDGを合成する。矢印下の黄色の楕円は、その反応を担う酵素の名前を示す。MgdA: DAGにグルコースを転移する酵素、MgdE: GlcDGのグルコースをガラクトースに異性化する酵素、DgdA: MGDGにもう1分子のガラクトースを付加する酵素。下段は膜脂質の構造を模式化した図。ピンク部は脂肪酸、水色部はグリセロール、橙色部はグルコース、緑色部はガラクトースを示す。
  • 研究の内容

    本研究では、シアノバクテリア Synechocystis sp. PCC 6803 を用いて、mgdE遺伝子の同定を行いました。まず、詳細なデータベース解析の結果、最近明らかとなった Paulinella chromatophora のクロマトフォアゲノムでも、シアノバクテリア型の脂質合成酵素遺伝子が全て保存されていることを見出しました。 P. chromatophora はリザリア下界ケルコゾア門ユーグリファ目に分類される単細胞動物で、細胞は30µm程度のアメーバ状であり、ケイ酸質の鱗片で構築された卵型の外殻を持ちます。この生物の特徴的な点は、細胞内にクロマトフォアと呼ばれる青緑色の共生シアノバクテリア様の構造が存在することです。このクロマトフォアには約800遺伝子がコードされているゲノムDNAが保存されており、解析の結果これまでに明らかとなっているシアノバクテリア型の脂質合成酵素遺伝子が全て保存されていることがわかりました。そこで、このゲノムにも目的のmgdE遺伝子が保存されていると考え、約800遺伝子のうち、他のシアノバクテリアゲノムでも保存されている遺伝子を抽出し、その中から糖代謝関連モチーフを持つもの、糖異性化反応と関係する酸化還元モチーフを持つものを選び出し、その遺伝子破壊株をシアノバクテリアで作成しました。その結果、遺伝子破壊株ではMGDGの蓄積が見られず、GlcDGが多量に蓄積していることが確認できました。この結果から、この遺伝子が目的のGlcDG異性化酵素遺伝子(mgdE)であることが明らかとなりました。

    単離したmgdE遺伝子破壊株は、野生株と比べ成育速度がおよそ半分程度であり、クロロフィル含量も7割程度に低下していました。実際、顕微鏡で観察するとクロロフィルの含量が少ない白化した細胞も散見されます(図3)。次に、脂質組成がどのように変化しているかを調べたところ、MGDGとDGDGが検出されず、それに代わりGlcDGが多量に蓄積していることがわかりました。次に、mgdE遺伝子破壊株の光合成活性を調べたところ、飽和光下では野生株と同等の酸素発生能を持つことが分かりました。さらに、電子顕微鏡を用いて内部構造を観察したところ、野生株と同様、mgdE遺伝子破壊株でもチラコイド膜が形成されていました(図4)。これらの結果は、GlcDGがMGDGとDGDGの機能を相補して、光合成活性をはじめとするシアノバクテリアの機能を維持しているだけでなく、チラコイド膜の構築でもガラクト脂質の機能を相補できること、つまりチラコイド膜にはガラクト脂質が必須ではないということを示しています。

    図3 mgdE遺伝子破壊株(∆mgdE株)の形態。∆mgdE株では、緑色と白色の細胞が観察された。 WT:野生株

    図3 mgdE遺伝子破壊株(ΔmgdE株)の形態。ΔmgdE株では、緑色と白色の細胞が観察された。 WT:野生株

    図4 mgdE遺伝子破壊株(∆ mgdE株)の内部構造。電子顕微鏡による観察から、遺伝子破壊株でもチラコイド膜が構築されていることがわかる(矢印)。WT:野生株、Mu:∆ mgdE株。

  • 図4
    mgdE遺伝子破壊株(ΔmgdE株)の内部構造。電子顕微鏡による観察から、遺伝子破壊株でもチラコイド膜が構築されていることがわかる(矢印)。WT: 野生株、Mu: ΔmgdE株。
  • 今後の展開

    本研究では、長らく未知であったGlcDG異性化酵素遺伝子を同定し、その遺伝子破壊株を作成、解析することでチラコイド膜においてガラクト脂質は必須ではないということを証明しました。これは、酸素発生型光合成生物のチラコイド膜にはガラクト脂質が必須であるというこれまでの常識を根本から覆す成果です。今後は、酸素発生型光合成生物全般でのガラクト脂質の必須性を明らかにするため、シアノバクテリアのガラクト脂質合成経路を藻類や植物に導入し、合成経路を置き換えた株を作出・解析することで、それらの生物でもグルコ脂質で機能代替が可能かを検証していきたいと考えています。また、ガラクト脂質は、チラコイド膜の構築だけではく、光合成反応を行うタンパク質複合体の内部にも存在し、それらタンパク質複合体の活性や構造に影響を与えていることが明らかとなってきました。今回単離した遺伝子破壊株を解析することで、糖の構造変化が光合成に必須のタンパク質群の構造や安定性に与える影響を明らかにし、それが光合成システムの精密な理解、ひいてはエネルギー物質生産の効率化に繋がることも期待されます。

    参考図

    用語説明

    [用語1] シアノバクテリア : 植物や藻類と同じ酸素発生型光合成を行うバクテリア。葉緑体と共通の起源を持つ(祖先が同じ)と考えられている。

    [用語2] 光合成膜 : 光合成反応を行う生体膜。チラコイド膜と呼ばれる。ガラクト脂質が8割を占める。

    [用語3] ガラクト脂質 : 生体膜を形作る膜脂質のうち、糖の一種であるガラクトースを持つもの。植物や藻類、シアノバクテリアなどの酸素発生型光合成を行う生物に広く保存されている。

    [用語4] ガラクトース : 糖の一種。化学式はグルコースと同じだが、4番目の炭素原子に付く水酸基(-OH)の向きが異なる。図1参照。

    [用語5] mgdE : 今回明らかにした糖脂質異性化酵素遺伝子。遺伝子を示す場合は3文字目までを小文字で斜体(mgdE)、タンパク質を示すときは1文字目を大文字にし正体で示す(MgdE)

    [用語6] 遺伝子破壊株 : 目的の遺伝子を破壊し、その機能を阻害した株。今回の研究では、糖脂質異性化酵素遺伝子(mgdE)の遺伝子破壊株を用いている。

    掲載雑誌名

    掲載誌 :
    Proceedings of the National Academy of Sciences
    題目 :
    Oxygenic photosynthesis without galactolipids
    著者 :
    Koichiro Awai, Hiroyuki Ohta, and Naoki Sato
    DOI :

    お問い合わせ先

    広報センター
    Email: media@jim.titech.ac.jp
    TEL: 03-5734-2975 / FAX: 03-5734-3661

    レーザーコンプトン散乱ガンマ線を用いて50年前に予言された光核反応理論を実証

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    本研究成果のポイント

    高エネルギーのガンマ線が原子核に入射すると光核反応が発生し中性子が放出される。直線偏光したガンマ線が入射した場合、放出された中性子は角度によって強度が異なり、その強度IはI=a+b・sin(2φ)(φは直線偏光面からの角度)という非常に簡単な式になることが1957年に理論的に予言されていた。しかし、高輝度の直線偏光ガンマ線を発生させる装置が存在しなかったため、この理論は実証されていなかった。近年、レーザーコンプトン散乱ガンマ線装置[用語1]が開発され、直線偏向したガンマ線を容易に生成可能になった。そこで、ニュースバル放射光[用語3]において、直線偏光したガンマ線を金、銅、ヨウ化ナトリウムの物質にそれぞれ別に照射し、そこから放出される中性子の強度を計測した。その結果、3種類の物質において、中性子の角度に対する強度が、I=a+b・sin(2φ)になることが判明し、理論的予言が正しいことが証明された。

    本研究成果は、原子核物理学における50年以上にわたって実証されていなかった理論を実証するものである。さらに、原子核物理学や宇宙核物理学の発展に貢献する。例えば、この光核反応を用いて、ニュートリノと原子核の相互作用の強さを評価することが可能である。この相互作用の強さは、超新星爆発の初期に恒星の中心部で発生したニュートリノが鉄やケイ素と反応して、超新星爆発の引き起こすメカニズムの解明に必要な物理量である。また、この手法は、不正に密輸出入されようとする核物質の探知などにも将来的に応用が期待される。なお、本研究は Physics Letters B 2014年8月下旬に出版予定である。

    補足説明

    約10MeV(メガ電子ボルト)[用語2]以上のエネルギーを有するガンマ線が原子核に照射されると、原子核がガンマ線を吸収して、代わりに中性子が放出される(図1右)。ガンマ線も含む光には、光を構成する電場と磁場の向きが固定された状態である直線偏光した状態が存在する。1957年にイタリアの理論物理学者Agodi博士は、直線偏光したガンマ線を吸収した原子核から放出される中性子は、ガンマ線の進行方向に対して90°の角度では、中性子の角度毎の強度Iが、原子核の種類に関係なく、I=a+b・sin(2φ)(φは直線偏光面からの角度)の式になることを予言した(図1左)。しかし、これまで直線偏光した高輝度ガンマ線を生成することができなかったので、この理論的予言は実証されていなかった。また、Agodi博士の予言も現在ではほとんど忘れ去られてしまっていた。

    図1 ガンマ線を吸収して中性子を放出する模式図と実験の配置図

    図1 ガンマ線を吸収して中性子を放出する模式図と実験の配置図

    近年、高エネルギーの電子にレーザーを散乱させて生成するレーザーコンプトン散乱ガンマ線が開発された(図2参照)。現在MeV領域のレーザーコンプトン散乱ガンマ線は、世界で 2か所、デューク大学(米)と兵庫県立大学が管轄するニュースバル放射光で定常的に稼働している。そこで、ニュースバル放射光で本実験を行った。

    図2 レーザーコンプトン散乱ガンマ線の生成方法。

    図2 レーザーコンプトン散乱ガンマ線の生成方法。

    3種類(金、ヨウ化ナトリウム、銅)の物質に対して、直線偏光したガンマ線を照射した。光核反応で放出された中性子を、90度の角度に設置したプラスティックシンチレーション検出器[用語4]で測定し、一定時間に放出された中性子の数を数えた。中性子の角度に対する強度を計測するために、ガンマ線の直線偏光の面の角度を30度刻みで変更して、それぞれの角度における中性子の数を測定した。この測定を3種類の物質に対して行った。その結果、図3に示すように、全ての物質で、中性子の強度の角度依存性が理論的に予言された通りになっていることが判明した。この結果をもって、約50年前にAgodi博士によって予言された理論を初めて実証したと言える。

    図3 金、ヨウ化ナトリウム、銅ターゲットに直線偏光したガンマ線を照射したときに放出される中性子の強度と、直線偏光の面の角度の相関。黒丸が実験値。赤い線は、最小二乗法で求めた I=a+b・sin(2φ)関数式。

  • 図3
    金、ヨウ化ナトリウム、銅ターゲットに直線偏光したガンマ線を照射したときに放出される中性子の強度と、直線偏光の面の角度の相関。黒丸が実験値。赤い線は、最小二乗法で求めたI=a+b・sin(2φ)関数式。
  • 本研究成果は、原子核物理学の上では、磁気双極子遷移強度を計測することに応用できると期待されている。原子核がガンマ線を吸収して励起する(エネルギーが高くなる)モードには、電気双極子遷移と、磁気双極子遷移[用語5]がある。一般に、10〜30MeVのエネルギーのガンマ線を原子核に照射すると、強い電気双極子遷移が発生することが知られている。一方、磁気双極子遷移が存在すると理論的には予測されていたが、10〜30MeVのガンマ線を吸収した場合に発生する磁気双極子の強度(確率)を実験的に計測する確立した手法は存在していない。本手法を応用すると、中性子の角度に対する強度を計測することで、磁気双極子遷移の強度を計測することが可能になると理論的に予測されている。

    磁気双極子遷移を様々な原子核に対して計測できれば、超新星の爆発メカニズムの解明等に寄与する(図4)。太陽より質量が8倍以上重い恒星は、最後に超新星爆発を引き起こす。その初期では、中心部の鉄が重力崩壊して、原始中性子星[用語7]を形成する。この中性子星から多量のニュートリノが外部に放出される。その約99%は全く反応せずに透過して宇宙空間に去っていくが、残りの約1%が中性子星の外側にある鉄、ケイ素といった物質と相互作用することで、超新星爆発を引き起こすと考えられている。このニュートリノと鉄やケイ素との相互作用の強さは、未解明の問題であり、現在も研究が続けられている。ニュートリノと(鉄やケイ素などの)原子核との反応する強さは、原子核の磁気双極子遷移の強さと関係することが判っている。そのため、本手法を用いることで、ニュートリノと鉄等の原子核との相互作用の強さを評価でき、超新星爆発の理解に貢献できる。

    図4 超新星爆発とニュートリノの模式図

    図4 超新星爆発とニュートリノの模式図

    その他の応用例として、核セキュリティーへの応用が挙げられる。現在、アメリカを中心に空港、港湾などの重要施設のゲートにおいて、トラック等で密かに運搬される核物質(ウラン235など)や放射性同位体[用語6]を非破壊で検知する装置が、テロ対策の一環として研究開発されている。レーザーコンプトン散乱ガンマ線による光核反応も、このような技術に応用可能である。小型のレーザーコンプトン散乱ガンマ線発生装置と中性子検出器の組み合わせによる装置をゲート等に設置して、テロリストが密かに運搬しようとする核物質等の検知を行うことが考えられる。そのような検知方式において、中性子の角度による強度の違いが有益な情報をもたらす可能性がある。

    用語説明

    [用語1] レーザー・コンプトン散乱ガンマ線 : 加速器で加速した数十MeVから数GeVのエネルギーを有する電子と、レーザー光をコンプトン散乱させることで発生させるガンマ線。エネルギーの高い領域では、レーザー光を光子(粒子)と見なすことができる。光子と電子の散乱によって、光子は高いエネルギーを電子からもらい、数十MeVから数GeVのエネルギーを持つ光子(ガンマ線)に変換される。入射したレーザー光は指向性が高くエネルギーが一定であるため、生成されたガンマ線も高い指向性と比較的狭いエネルギー幅を有する。二重結合と単結合とが交互に連なっている化学構造を有する高分子のことを指す。

    [用語2] MeV : メガ電子ボルト。エネルギーの単位。1Vの電圧が印加された状態で、1個の電子が加速されることで得られるエネルギーが1eV。1keVはその1,000倍。1MeVはその1,000,000倍。1GeVはその1,000,000,000倍。

    [用語3] ニュースバル放射光 : SPring-8には、SPring-8放射光以外に、兵庫県立大学が管理するニュースバル放射光がある。ニュースバル放射光では、1GeVないし1.5GeVのエネルギーを有する電子が蓄積され、様々な波長の光が生成され、産業利用や基礎研究に提供されている。その一部にレーザーコンプトン散乱ガンマ線発生装置が設置されている。

    [用語4] プラスティックシンチレーター検出器 : 放射線検出器の一種。蛍光物質を含むプラスティックに放射線が入射すると可視領域の光を発する。この光を測定することで放射線を測定する。

    [用語5] 磁気双極遷移 : 光(ガンマ線も光の一種である)は、電磁場であり磁場と電場の変化する波で構成される。原子核における磁気双極遷移とは、光(ガンマ線)が原子核に入射した場合、主に磁場が原子核と相互作用する反応である。また、電気双極遷移は、主に電場と原子核が相互作用する反応である。

    [用語6] 同位体 : 個々の元素は、質量の異なる同位体から構成される。例えば、安定に存在する炭素は炭素12、炭素13 から構成される。同位体の違いはその原子核に含まれる中性子の数の違いである。

    [用語7] 原始中性子星 : 太陽より質量が8倍以上の恒星の寿命の最期に、中心部が重力崩壊して生成される高密度の天体。超新星爆発によって外層が吹き飛ばされる前の状態のものを原始中性子星と呼ぶ。

    掲載雑誌名

    掲載誌 :
    Physics Letters B 737 (2014) 109
    題目 :
    Neutron angular distribution in (γ,n) reactions with linearly polarized γ-ray beam generated by laser Compton scattering
    著者 :
    K. Horikawa, S. Miyamoto, T. Mochizuki, S. Amano, D. Li, K. Imasaki, Y. Izawa, K. Ogata, S. Chiba, T. Hayakawa
    DOI :

    お問い合わせ先

    広報センター
    Email: media@jim.titech.ac.jp
    TEL: 03-5734-2975 / FAX: 03-5734-3661

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