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Channel: 更新情報 --- 東工大ニュース | 東京工業大学
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東工大初のネーミングライツ契約を株式会社千代田テクノルと締結

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東京工業大学は、株式会社千代田テクノルと、学内施設のネーミングライツに関する契約を6月22日に締結しました。
これにより、大岡山キャンパス大岡山北実験棟1の1階にあるコバルト照射施設の名称が、2024年3月31日までの間「千代田テクノル コバルト照射施設」となります。
10月29日にネーミングライツ契約締結式が行われ、千代田テクノルの井上任代表取締役社長と益一哉学長が対談をしました。

ネーミングライツの看板を持つ益学長(右)と井上社長(左)

ネーミングライツの看板を持つ益学長(右)と井上社長(左)

ネーミングライツ制度は、「大学の保有する資産等の有効利用を通じて、自己収入を拡大し、大学の教育研究環境を向上させること」を目的とし、2020年12月より導入しています。
東工大が学内施設のネーミングライツに関する契約を締結するのは、今回が初めてです。本契約を機に、教育研究環境の一層の充実に取り組み、産学連携の機会拡大につなげていきます。

コバルト照射施設の前に立つオープンファシリティセンター安全管理・放射線部門の依田功部門長(左)と井上社長(右)

コバルト照射施設の前に立つオープンファシリティセンター安全管理・放射線部門の依田功部門長(左)と井上社長(右)

お問い合わせ先

財務部主計課総務・監査グループ

E-mail : syu.som.kan@jim.titech.ac.jp


東工大学生ボランティアグループが「未来ドラフト2021」準グランプリBIGLOBE賞を受賞

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東工大学生ボランティアグループ(以下、東工大VG)が9月26日、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン主催(ビッグローブ株式会社協賛)の「未来ドラフト2021」で準グランプリBIGLOBE賞を受賞しました。

表彰状を手にする東工大VGメンバー(左から、大河原さん、松村さん、市村さん)

表彰状を手にする東工大VGメンバー(左から、大河原さん、松村さん、市村さん)

未来ドラフトは、若い世代とともに難民問題に取組む日本初のアイデア・コンペティションとして2018年から毎年開催されています。2021年の課題テーマは「みんなが安心して学校に通い続けられるように、異なる境遇で育った子ども同士が互いに分かり合えるアイデア」でした。100チームの応募があり、書類審査を通過した9チームが決勝大会に進出しました。決勝大会はWeb会議サービスZoomを用いてオンラインで開催され、事前に作成したプレゼンテーションビデオの上映とそれについての質疑応答をもとに審査が行われました。

東工大VGのメンバー3名を中心に「描こう未来!互いを記(知る)す交換ノート」というタイトルで、シリア難民の子どもたちと、シリア難民の受け入れ国となっているヨルダン人の子どもたちが、交換ノートのやり取りを通じて互いの心の距離を近づけていくアイデアを提案しました。

子どもたち同士だけでなく、親への影響も考慮した企画内容とし、文章でのやり取りだけでなく写真を共有してつながりあうというオンラインでの実施、最終的には子どもたち同士が実際に会う機会を設けるといった今後の展望も織り込みました。現地の状況に配慮した有効的なアイデアだったことに加え、これまでの被災地支援やこども食堂での活動から学んだことを活かしたアイデアだったこと、低コストで実現性が高いことなどが評価されました。

アイデアの概要説明

アイデアの概要説明

「継続して活動に取り組むことに意味があるのではないか」「お互いの生活を紹介しあって共通のことを知ることで親近感が得られる、あるいはお互いの生活の差異が見えて、子どもたちにとって大事な学びとなるのではないか」といったコメントがありました。

準グランプリ発表の瞬間

準グランプリ発表の瞬間

東工大VGメンバーのコメント

松村慶さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 学士課程3年)

3人で考えたアイデアがこのようなかたちで評価を頂けたことをうれしく思います。2年前に東日本大震災の被災地である南三陸町を訪れた際に貴重な体験をさせていただきましたが、その後のコロナ禍により被災地復興支援の経験を活かせる場が限られてしまいました。アイデアとしてこれまでの経験を活かせる機会を提供してくださったことを大変ありがたく思っています。私が専攻している土木では災害や環境といったグローバルな問題にどう対応するか、というのが一つの議論になります。未来ドラフトという場で考えたことは、人々の生活に寄り添いながら考えることの難しさや楽しさを知るきっかけとなりました。広い視野をもって考えるという教訓を今後の学業に活かしていきたいです。大河原さん、市村さんはもちろん、先生方や先輩方、ワールド・ビジョン・ジャパンの方々に大変お世話になりました。心より感謝申し上げます。

市村知輝さん(環境・社会理工学院 建築学系 修士課程2年)

未来ドラフトには、2018年第1回大会に個人で出場しました。当時は決勝大会まで進んだものの入賞することはできず、決勝大会では「他人ではなく、なぜ自分がそのプロジェクトを行うのかという想いを伝えてほしい」という厳しいコメントをいただいたことが印象に残っています。それから東工大VGメンバーとして福島スタディツアーの開催や南三陸町スタディツアーへの参加など、東北での被災地復興支援ボランティア活動に従事してきました。今回はその実体験をもとに、メンバーとアイデアを発想することができたと感じています。またコロナ禍におけるオンラインのみの活動という制約がある中でも、それぞれが役割意識をもって臨むことができたからこその成果だと思います。「これまでの経験から、自分には何ができるのか」と考える視点は、日々の研究の方向性を決めるうえでも役立ったと感じています。今回の活動が東工大VGの新たな活動につながることを願っています。これまで東工大VGの活動を支えてくださった先生方や先輩方、大会関係者の方々、そしてメンバーの2人に感謝申し上げます。

大河原早紀さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 学士課程2年)

未来ドラフトは、私が東工大VGメンバーとして臨んだ初めての対外的な活動であり、そこで準グランプリという評価をいただけたことを非常に嬉しく思います。また、様々な規制の下でも私たちがベストを尽くせるよう、先輩方や先生方など多くの方にご支援いただいたこと、そのような環境に身を置けていることのありがたさを改めて実感しました。一方、自分ができることに全力で取り組んだからこそ、グランプリとしてアイデアを実現させたかったという悔しさも残っています。今後はこの経験をバネに、「国際」という引き出しも加わった東工大VGの活動をさらに活発化させるとともに、自らの関心や学業の幅も広げていきたいと感じています。

東工大VGとは

学生支援センター未来人材育成部門の支援を受け、学内外でのボランティア活動の企画・運営を行っています。2011年3月11日の東日本大震災の復興支援のために被災地に赴いて活動していた学生有志を中心に、同じ志を持つ者同士が声を掛け合い、東工大VGの種が芽生えました。その後、同年9月から始まった「東京工業大学写真洗浄プロジェクト」への参加を通じてキャンパス内におけるボランティアの機運が高まり、様々な活動を企画・実施する今日の姿へと結実しました。「誰かのために、社会のために東工大生としてできることはないか?」「新しいことに挑戦したい」などの思いを抱く学生が活動しています。

お問い合わせ先

学生支援センター未来人材育成部門

E-mail : siengp@jim.titech.ac.jp

東工大ANNEXバークレーがコロキウム「見知らぬ者たちの音が聞こえてくる」を開催 戦前の「白豪主義オーストラリア」における日系コミュニティの音楽と舞踊を中心に

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東京工業大学は、9月8日、カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)主催、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院(ILA)共催のコロキウム「見知らぬ者たちの音が聞こえてくる ― 戦前の「白豪主義オーストラリア」における日系コミュニティの音楽と舞踊を中心に(The Audibility of Strangers: Music and Disparate Japanese Communities in Prewar 'White Australia')」をオンラインにて開催しました。10月1日に東工大ANNEXバークレーが新たに設立されるのを機に、今後の両大学の研究や教育の協働のきっかけづくりとして企画されたもので、今回は、ILAのヒュー・デフェランティ(Hugh de Ferranti)教授がスピーカーを務めました。UCバークレー校東アジア研究所の山中啓子講師がディスカッサントを務め、10分間のコメントで、デフェランティ教授の研究を「国際移民学」の観点から評価しました。

開催当日は、アメリカ、日本、オーストラリア、ニュージーランド、イタリアなど世界各国から70名を超える参加者が、共にテーマについての考察を深めました。

Credit left: Tomitaro Fujii: Pearldiver of the Torres Strait, by Linda Miley (Southport, Queensland: Keeaira Press, 2013, p.34) Credit right: The North Queensland Register (Monday, July 31 1905: 33)

Credit left: Tomitaro Fujii: Pearldiver of the Torres Strait, by Linda Miley (Southport, Queensland: Keeaira Press, 2013, p.34)
Credit right: The North Queensland Register (Monday, July 31 1905: 33)

下記のリンクから映像をご覧いただけます。

The Audibility of Strangers: Music and Disparate Japanese Communities in Prewar "White Australia" | YouTube - Cjs Departmental

デフェランティ教授の講演

デフェランティ教授
デフェランティ教授

この発表では主に、白豪主義(White Australia Policy)のさなかにオーストラリアに滞在した日本人たちの音楽活動が、彼らとアングロ・ケルティック社会やその他の諸民族との関係に及ぼした影響について紹介しました。同時に、この事例と、現在の日本社会におけるニューカマー移民たちの状況の類似点を考察しました。彼らは、様々な目的で音楽活動をしていますが、日本は彼らを移民と認めない「単一文化」社会であり、増加し続ける外国人の存在は、人種と文化の整合性を脅かす「脅威」とみなされ、彼らの不安は広がっています。

第二次世界大戦前の、自称単一民族社会であった「白人」のオーストラリア社会において、人種に基づいたヒエラルキーは当然とされていました。そのような時代を生きた日本人たちと、その他の民族や人種との関係に対して、音楽(歌うこと、音楽を奏でること、踊ること)が果たした役割について取り上げました。現在ではオーストラリア人も日本人もほとんど知らない時代と環境における音楽的体験です。大戦が残した多くの傷痕と同様に、オーストラリアにおける日本人の歴史は真っ二つに分けられ、その前半はほとんど誰も知らないものとなってしまいました。

大掴みにいうと、オーストラリアの日系移民コミュニティは、大陸北部の海産物採取企業で働く労働者階級と、シドニーの貿易会社で働く中流階級・エリート階級の2つに分かれていました。それらのコミュニティの様子が写っている写真や文字資料(新聞記事、日記など)を元に発表をしました。大陸の北部地域では、先住民族のアボリジニやトーレス海峡の島民、アジアの諸民族に比べて、ヨーロッパ系の民族はほぼいつも少数派でした。北部では労働力不足が切迫していたため、他の地域よりも柔軟性のある移民政策が必要でした。そのような状況下で、真珠貝採取などの危険な仕事をこなす技術を持っている日本人男性ダイバーと、彼らを支える様々な日本人たちは、白豪主義に基づく移民排斥政策から免除され、ブルーム、ダーウィン、木曜島やケアンズに居住することができました。

発見できた資料からは次のことが言えます。北部の日本人たちが地元社会で公に上演した音楽や舞踊は、主に日本や「東洋」の芸能として確認できるものが多かったようです。一方、シドニーではそのような「民族的な」演奏はほぼなく、クラシックや流行の「洋楽」や西洋風社交ダンスによって、日本人たちは国際主義的でコスモポリタンなスタンスを示していました。それは、白豪主義時代のオーストラリアで自分たちが同化可能な非西洋人であることを証明し、「他者化される」ことを妨げる作戦の一部でした。

山中講師のコメント

山中講師
山中講師

戦前オーストラリアの日本人移民も、彼らの音楽活動も滅多に取り上げられることはなく、この研究は、その両方の側面において刺激的なものです。日系コミュニティの数少ない女性や子供たちの音楽、特に「からゆき・唐行さん」と呼ばれた売春婦の女性たちの音楽活動については、今後も研究の発展が期待されます。現在の日本社会では、「沈黙する(silent)」移民たちは政治政策に反映されておらず、また大抵の日本人からも公的な認知を得ていませんが、彼らの音楽活動は、今日の、そしてこれからの「多文化共生」の実現化にたいして、重要な役割を果たす可能性をもっていると言えるでしょう。

埼玉県川越市内写真 下段中央のみ © Jürgen Horn / for91days.com

埼玉県川越市内写真 下段中央のみ © Jürgen Horn / for91days.com

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

リベラルアーツ研究教育院(ILA)outer

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

企画・国際部 国際事業課 国際事業グループ

E-mail : kokuji.jig@ jim.titech.ac.jp

東工大生への食料品無料配布イベント開催

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東京工業大学は、11月5日に大岡山キャンパスTaki Plaza地下2階のイベントスペースにて、東工大生への食料品無料配布イベントを開催しました。東工大発ベンチャーであるオーロラ株式会社の張琦社長より、コロナ禍の影響で困っている東工大生に食料を支援したいとの申し出をいただき、今回の企画が実現しました。

あらかじめ用意した、米2 kgの袋を100個、各1,000個ずつの食料品(味噌汁、レトルトカレー、カップ麺、缶詰、お菓子など)を1人につき5個以内として、先着順で配布しました。全員マスク姿の学生の入場人数制限を行いながら、午後1時から3時間あまりで約1,100名に全てを配り終えました。

配布会場の様子

配布会場の様子

Taki Plazaに集まる学生たち
Taki Plazaに集まる学生たち

本企画は、オーロラ株式会社、一般社団法人蔵前工業会、学務部学生支援課の共催で行われ、搬入、配布列設定、会場整理等含め、東工大生アルバイト5名にも手伝ってもらいました。多くの学生が来場しましたが、大きな混乱もなく無事に終了しました。

集まった学生たちからは、「本当にありがたい」「おいしい新米が食べられる!」との声が多くありました。また、様子を見に来た教職員からは、「久しぶりに、元気な学生たちの姿をたくさん見られてうれしい」との感想も寄せられました。

東工大では、引き続き学生への支援を行っていく予定です。

お問い合わせ先

学務部学生支援課支援企画グループ

E-mail : gak.sie@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3011

水に溶解した高分子の検出・同定に成功 ペプチドセンサーの蛍光シグナルを教師有り機械学習によりパターン解析

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要点

  • 環境リスクが懸念される水溶性高分子を検出可能なペプチドセンサーを開発
  • ペプチドセンサーの蛍光シグナルを機械学習によりパターン解析することで、水に溶解した様々な高分子の検出・同定に成功
  • 実際の環境中の高分子を同定・定量し、環境汚染経路を解明できる手法として期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の芹澤武教授、鈴木星冴大学院生(研究当時)、澤田敏樹准教授らは、水に溶解した様々な高分子に特有の蛍光シグナルを示すペプチド[用語1]センサーを開発し、そのシグナルを機械学習によりパターン解析することで、それぞれの高分子を同定できることを明らかにした(図1)。

近年、マイクロプラスチックの流出とともに、水に溶解した高分子が環境に与える潜在的なリスクも懸念され、新たな検出・同定手法の確立が求められていた。そこで研究グループは、様々な高分子と相互作用する人工ペプチドに、周囲環境に応じて蛍光発光挙動が変化する環境応答性の蛍光色素[用語2]を連結させて、ペプチドセンサーを構築した。このペプチドセンサーは、水溶液中の高分子の種類によって、異なる蛍光強度や蛍光波長を示した。得られた蛍光シグナルを教師有り機械学習の一種である線形判別分析[用語3]を用いて分類することにより、それぞれの高分子を同定できた。さらに、複数の高分子を混合した場合や、実際の排水を用いた場合でも分類が可能であることが確認でき、環境中の高分子の検出や同定、環境への高分子の流出経路の解明につながることが期待される。

この検出・同定手法は、他のペプチドや蛍光色素にも適用可能であり、今後は、今回は用いなかった他の高分子や、より複雑な高分子混合溶液での検出・同定手法へ展開する予定である。

本研究成果は、2021年11月4日(現地米国東部時間)に国際科学雑誌「ACS Applied Materials & Interfaces」オンライン版に掲載され、Supplementary Coverに選出された。

掲載誌のSupplementary Coverに採用

掲載誌のSupplementary Coverに採用

図1. ペプチドセンサーによる高分子同定の模式図

図1. ペプチドセンサーによる高分子同定の模式図

背景

マイクロプラスチックによる海洋汚染問題は、近年ますます大きな注目を集めている。最近ではそうした水不溶性の固体高分子に加えて、水に溶解する高分子が、土壌や水環境に与える潜在的なリスクが指摘されるようになってきている。そうした水溶性高分子は、工業用途だけでなく消費者用途にも利用されている。

そうした汚染の実態を正確に把握して発生を防ぐためには、海洋環境における水溶性高分子の発生源や分布を推定することが不可欠である。従来、水溶性高分子を検出・識別するためには、水を蒸発させて固体化し、熱分解した後に解析する手法が一般的であり、持ち運びできない大型装置が必要になる点などが問題となっていた。

一方で、哺乳類の嗅覚や味覚といったシステムでは、匂いや味に含まれる多様な化学種が、様々な受容体タンパク質と多重に相互作用し、それによって生じる多数のシグナルをパターン認識するというユニークな機構によって、膨大な種類の匂いや味が識別される。これまでに、このシステムに着想を得た研究で、人工的に構築された受容体(センサー)が発するシグナルを訓練データとして用いる、機械学習による解析手法を適用することで、タンパク質やがん細胞、また金属イオンなどを識別できることが報告されている。しかし対象が合成高分子の場合には、適切に相互作用することでセンサーとしてはたらく分子がなく、そうした解析手法を適用することができなかった。

研究の経緯と成果

芹澤教授・澤田准教授らの研究グループはこれまでの研究で、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)と呼ばれる合成高分子に選択的に結合する性質をもつペプチドを、ファージディスプレイ法[用語4]を利用した人工的な試験管内分子進化によって独自に獲得した。本研究では、水に溶解した高分子の検出と識別をおこなうためのセンサーとして、このペプチドに着目した。このペプチドと様々な高分子との相互作用を可視化してシグナルを得るために、周囲環境に応答して蛍光強度と蛍光波長が変化するN-(1-アニリノナフチル-4)マレイミド(ANM)をペプチドに導入し、ペプチドセンサーとして用いた(図2a)。ペプチドは様々な化学構造をもつアミノ酸の重合体であるため、このペプチドセンサーでも、PNIPAM以外の高分子に対してもそれぞれ相互作用がはたらき、固有のシグナルが得られると予想された。

ペプチドに導入したANMは一般に、他の分子との相互作用を通して周囲環境の変化に鋭敏に応答し、蛍光挙動が変化することが知られている。そこで研究グループは、PNIPAMに加えて、4種類の合成高分子と4種類の生体高分子それぞれを2つの水溶液(pH 7.0ならびにpH 8.5)に溶解させ、ペプチドセンサーの蛍光を測定した。その測定結果から特定の波長の蛍光強度や比に着目してデータ抽出した結果、それぞれの高分子が異なる挙動を示した(図2b)。この得られたシグナルを訓練データとして、教師有り機械学習の一種である線形判別分析を利用し、次元削減して二次元平面にプロットした。その結果得られたスコアプロットでは、一部を除いてそれぞれの高分子が良く判別されるクラスターが形成されたことから、ペプチドセンサーによって高分子を識別できることがわかった(図2c)。

図2. (a)ペプチドセンサーの模式図 (b)蛍光スペクトルから抽出した4つのシグナルのヒートマップ (c)線形判別分析により得られる二次元スコアプロット PVP:ポリ(ビニルピロリドン) 、PEG:ポリ(エチレングリコール)、PVA:ポリ(ビニルアルコール)、PAA:ポリ(アクリル酸)
図2.
(a)ペプチドセンサーの模式図
(b)蛍光スペクトルから抽出した4つのシグナルのヒートマップ
(c)線形判別分析により得られる二次元スコアプロット
PVP:ポリ(ビニルピロリドン) 、PEG:ポリ(エチレングリコール)、PVA:ポリ(ビニルアルコール)、PAA:ポリ(アクリル酸)

この8種の高分子とPNIPAMについて、それぞれのサンプル名を隠したブラインドシグナルを取得してテストデータとし、作成した二次元スコアプロットの精度(信頼性)を評価した結果、ほとんどのサンプルを正しく識別することができた。このことから、本研究で開発したペプチドセンサーと線形判別分析を利用した高分子の同定手法が有用であることがわかった(図3a)。

重要な点は、二次元スコアプロットが重なるような、特性が類似した高分子であっても、塩化ナトリウムやエタノールを添加した高分子水溶液中で測定した蛍光シグナルを用いて機械学習することで、それらを厳密に判別することが可能であることだ(図3b)。さらに、実際の排水に溶解した高分子の識別や、複数の高分子を混合した水溶液での識別も可能であったことから、ペプチドセンサーと機械学習に基づいて高分子の検出・識別を目指す本戦略の有用性が明らかとなった。

図3. (a)テストデータによる二次元スコアプロットの精度評価 (b)塩化ナトリウムとエタノールを添加した高分子水溶液を利用した二次元スコアプロット
図3.
(a)テストデータによる二次元スコアプロットの精度評価
(b)塩化ナトリウムとエタノールを添加した高分子水溶液を利用した二次元スコアプロット

今後の展開

今回の研究では、特定の高分子に選択的に結合するペプチドが、様々な高分子と多様な相互作用を発現することを利用し、蛍光色素と組み合わせてセンサーとして利用した。このペプチドセンサーと高分子それぞれの相互作用を蛍光シグナルとして抽出し、機械学習によりパターン解析することで、高分子の検出や識別に成功した。本研究グループでは、これまでに様々な高分子に結合するペプチドを獲得しており、それらと様々な蛍光色素を組合せて利用することで、多くの種類のセンサー構築につながる。ペプチドセンサーと機械学習の組み合わせにより、多様な高分子をより厳密に識別可能なシステムの構築が期待され、環境汚染経路の解明につながると期待される。

用語説明

[用語1] ペプチド : アミノ酸が数個~数十個つながった重合体の総称。アミノ酸の組合せや配列に応じて様々な機能を示す。

[用語2] 環境応答性の蛍光色素 : 周囲の環境(主として疎水性)に応じて蛍光強度や蛍光波長を変化させる蛍光分子。

[用語3] 線形判別分析 : 教師有り特徴抽出の手法の一つであり、主に次元削減に使われる。同じラベルのデータをなるべく近くに固めながら、異なるラベルのデータをなるべく遠くに離すようにデータが射影される。

[用語4] ファージディスプレイ法 : 遺伝子工学を利用し、繊維状ウイルスの一種であるファージの表層に望みのペプチド(場合によってはタンパク質)を提示させる手法。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル :
Identification of Water-Soluble Polymers through Discrimination of Multiple Optical Signals from a Single Peptide Sensor
著者 :
Seigo Suzuki, Toshiki Sawada, Takeshi Serizawa
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

教授 芹澤武

E-mail : serizawa@mac.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-2128

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

2021年秋季第一弾IoT導入教育セミナーを開催

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東京工業大学ものつくり教育研究支援センターと学生支援センターは、2021年度秋季IoT導入教育セミナー第一弾として、10月6日と13日にアクロクエストテクノロジー株式会社による「機械学習セミナー」を開催しました。

IoTとはInternet of Things(モノのインターネット)の略で、パソコン以外のモノ(家電等)をインターネットに接続し、より便利に活用することを意味します。このセミナーは、IoT、プログラミング、AI、セキュリティなどの知識・技術の初歩を実践的に学ぶ機会を学生に提供するため、東工大卒業生が活躍している企業の協力を得て、2018年から開催しています。10月6日を「初級者向け」、10月13日を「中級者向け」として、難易度を分けて2週にわたってオンラインで開催し、それぞれ23名(うち留学生5名)と15名(うち留学生4名)の東工大生が参加しました。

10月6日の「初級者向け機械学習セミナー」は、ものつくり教育研究支援センターの齊藤卓志副センター長による開会のあいさつで始まりました。セミナーのテーマは画像解析で、初級者でも理解できるように、機械学習の意味、用途、作業の流れの説明から実施しました。その後、学生はジュピターノートブック(Jupyter Notebook)を使用し、画像に映っている衣類の種類を特定するプログラムを、講師の丁寧な説明のもと、実装しました。

Jupyter Notebookの使い方を学ぶ学生たち
Jupyter Notebookの使い方を学ぶ学生たち

セミナー後に実施したアンケートには、「機械学習の概念的な知識はあるが実際に自分で実装したことが無いという状態だったので大変ためになった。」「まっさらの状態から雰囲気をつかむことができて満足です。」等のコメントが寄せられ、機械学習を学ぶ良いきっかけとなりました。

10月13日の「中級者向け機械学習セミナー」では、グーグルコラボラトリー(Google Colaboratory)を使って、ピクセル単位で画像の分類をするセマンティックセグメンテーション(Semantic Segmentation)を学びました。また、画像内の画素を複数のクラスに分割して特定する技術を体験しました。

Google Colaboratoryにコードを書き込む学生たち

Google Colaboratoryにコードを書き込む学生たち

学生からは、「中級者向けということでついていけるか不安だったが、わかりやすい説明で最後までできてよかった。学習の精度が良くなり、画像を確認することができて達成感があった。」「自分で手を動かして実装する体験ができてよかった。」とのコメントが寄せられました。

両日とも、セミナーのかなりの時間が実際にコードを書きこむ演習時間に充てられ、満足感のあるものとなりました。

最後に、ものつくり教育研究支援センターの間中孝彰センター長による閉会のあいさつで、2日間のセミナーは締め括られました。

今回講師を担当したアクロクエストテクノロジー株式会社の古賀匠氏と、アシスタントとして参加学生のサポートを担った奥井貴之氏、野村優太氏はいずれも東工大の卒業生です。頭を使う内容にも関わらず、和気あいあいとした雰囲気でセミナーは進み、参加学生がセミナー途中に積極的に質問したり、1対1で講師陣と話したり、といった様子も多く見られました。

10月13日のセミナー終了後、笑顔で記念撮影に応じる学生、アクロクエストテクノロジー社社員、東工大教職員

10月13日のセミナー終了後、笑顔で記念撮影に応じる学生、アクロクエストテクノロジー社社員、東工大教職員

講師陣(上段3名)とZoomのリアクション機能を使って反応を見せる学生たち

講師陣(上段3名)とZoomのリアクション機能を使って反応を見せる学生たち

学生からは「実際に企業で働いている方の話が聞けてよかった。」との感想もありました。企業の第一線で活躍している現役エンジニアから、今回の講義で学んだ内容が社会のどのような場面で実際に活かされているかを聞くことができ、学びの多いセミナーとなりました。

2021年度は、秋季IoT導入教育セミナー第二弾として12月に、また第三弾として1月に、それぞれ別の企業の協力を受け、同様のセミナーを開催する予定です。

お問い合わせ先

学生支援センター未来人材育成部門

E-mail : internationalstudentsupport@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2760

麻生尚文助教が2020年度日本地震学会「若手学術奨励賞」を受賞

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東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の麻生尚文助教が日本地震学会の2020年度若手学術奨励賞を受賞しました。受賞対象研究は「多角的な視点による地震波動源物理学」です。
授賞式は6月16日の総会にて、受賞記念講演は10月16日の秋季大会にて行われました。

日本地震学会によると、同賞は、すぐれた研究により地震学の分野で特に顕著な業績をあげた若手研究者を対象とした賞です。

受賞記念講演の様子

受賞記念講演の様子

受賞コメント

この度は、たいへん名誉ある賞をいただき、光栄です。受賞対象研究をすすめるにあたり、沢山の方々にお世話になりましたが、その中でも、東工大にてクリエイティブな研究に取り組めているのは、活発な学生達を含め、恵まれた研究環境のおかげです。
私の取り組む、理学としての地震学は、必ずしも社会への実装が最終目標ではなく、地震という自然現象を理解する、知の探求です。そうした中で、防災に役立つ知見が社会から期待されていることも事実です。これからも、地震現象の解明を通して、皆様の期待に応えられるよう、尽力して参ります。

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

理学院 地球惑星科学系

助教 麻生尚文

E-mail : aso@eps.sci.titech.ac.jp

難治性疾患クッシング病の発症分子機構の一部を解明 新たな治療薬の開発に向け前進

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要点

  • クッシング病の発症との関連が知られる脱ユビキチン化酵素USP8の内部に自己阻害ドメインを発見
  • クッシング病で見られる変異によってこの自己阻害ドメインが十分に働けない状態になり、USP8が過剰に活性化することを解明
  • この分子機構に基づいてUSP8阻害物質を開発すれば、クッシング病の治療薬になると期待

概要

東京工業大学の柿原慧遵リサーチフェローと福嶋俊明助教、横浜市立大学の森次圭特任准教授を含む研究グループは、難治性疾患クッシング病の発症分子機構の一部を明らかにした。

クッシング病は下垂体のホルモン分泌異常によって起こる。本研究グループはこれまでの研究で、クッシング病患者の下垂体の多くでは脱ユビキチン化酵素USP8に変異が生じており、この変異が疾患発症の原因であることを突き止めていた。今回の研究では、USP8の内部に自己の活性を阻害する領域(自己阻害ドメイン)があり、正常なUSP8ではこの自己阻害ドメインが働いて酵素活性が一定の強さに抑えられていることを発見した。一方、クッシング病患者のUSP8では、変異によって自己阻害ドメインが十分に働かず、USP8が過剰に活性化することを明らかにした。この結果は、USP8の過剰な活性を抑える物質を開発すれば、クッシング病の新たな治療薬になる可能性を示している。

本研究成果は英国の科学誌「Communications Biology」11月8日(現地時間)に掲載された。

背景

クッシング病は、脳の直下に存在する下垂体に腫瘍が生じ、そこから副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)[用語1]が過剰に分泌され、それに応じて腎臓のそばにある副腎から糖質コルチコイド[用語2]が過剰に分泌されて起こる疾患である(図1)。患者には満月様顔貌、中心性肥満などの特徴的な外見的変化が起こり、免疫力低下、高血圧、糖尿病などの合併症のリスクも高まる。治療をしないと5年生存率が50%まで低下し、厚生労働省の指定難病の1つとされている。国内推定患者数は約500人で、希少疾患である。治療の第一選択は下垂体腫瘍切除術であるが、高度な医療技術を要するうえ、寛解に至らない、または再発する場合も多い。糖質コルチコイドの合成阻害剤などが治療に利用される場合もあるが、コントロールが難しく、かつ副作用も大きいため、新薬の開発が切望されている。

図1 クッシング病の徴候と症状

図1. クッシング病の徴候と症状 [designua] © 123RF.com

研究の経緯

多細胞動物の体を構成する細胞は、増殖因子と呼ばれる細胞外のタンパク質の指令を受けることにより、増殖が誘導される。増殖因子にはいくつかの種類があるが、細胞膜上にはそれぞれの種類に特異的な受容体が存在している。増殖因子がこうした特異的な受容体に結合することにより、細胞増殖が起こる。また、増殖因子は細胞増殖だけではなく、ホルモンの分泌も誘導するなど多様な働きがある。

今回の研究グループの1人である東京工業大学の駒田教授は長年、そうした増殖因子受容体の輸送を研究してきた。増殖因子の1つである上皮成長因子(EGF)が対応する受容体(EGF受容体)に結合すると、EGF受容体はユビキチンという別のタンパク質によって修飾される。この反応をユビキチン化といい、ユビキチン化されたEGF受容体は細胞膜から細胞の内部へ輸送される。駒田教授はこれまでの研究で、細胞内部のEGF受容体からユビキチンをはずす(脱ユビキチン化する)酵素としてUbiquitin-specific protease 8(USP8)を同定し、脱ユビキチン化されたEGF受容体は細胞内部から細胞膜へリサイクリングされることを明らかにしてきた(図2)。現在では、増殖因子受容体の多くについて、細胞膜上の存在量がユビキチン化と脱ユビキチン化のバランスによって調節されることがわかっている。このようなしくみによって、細胞は適切な感度で増殖因子の刺激を受けとることができ、増殖するか否かが正しく決定されるようになっている。

図2 ユビキチン化と脱ユビキチン化による増殖因子受容体の輸送の制御

図2. ユビキチン化と脱ユビキチン化による増殖因子受容体の輸送の制御

駒田教授を含む国際研究チームは数年前、クッシング病患者の下垂体腫瘍細胞に含まれる遺伝子の配列を網羅的に調査した。その結果、USP8タンパク質の設計図として働く遺伝子に、非常に高い頻度で異常が起きていることが明らかになった。この発見以降、世界の複数のグループにより調査が進められ、最新の集計では患者の約50%にこの遺伝子の異常がみとめられている。この遺伝子の異常は、USP8の特定部位のアミノ酸配列の欠失や置換を引き起こす。

下垂体細胞は、EGFの指令を受けると盛んにACTHを分泌する。駒田教授らは、クッシング病で見られる異常な配列のUSP8(変異型USP8)を下垂体細胞に発現させると、EGFによって起こるACTHの分泌が強められることを見出した。すなわち、変異型USP8が生じることがクッシング病の原因であることを突き止めたのである。この変異型USP8が発現した細胞では、EGF受容体の細胞膜へのリサイクリングが著しく促進していたことから、変異型USP8ではEGF受容体を脱ユビキチン化する活性が異常に強くなっていると予想されたが、詳細は明らかではなかった。

研究成果

本研究グループは今回、USP8のアミノ酸配列の異常がこのタンパク質の機能にどのような影響を与え、それによってどのような分子機構を介してクッシング病が発症するかを解明することを目指した。その結果、USP8の内部に自己の酵素活性を阻害する領域(自己阻害ドメイン)を発見した。さらに、生化学実験とタンパク質構造シミュレーションを組み合わせた分析により、正常なUSP8では、EGF受容体などからユビキチンを取りはずす反応に使われるユビキチン結合ポケットを自己阻害ドメインが塞いでおり、酵素活性が一定の強さに抑えられていることを明らかにした(図3左)。一方、クッシング病患者のUSP8では、特定の部位のアミノ酸の欠失や置換が起きているため、自己阻害ドメインがユビキチン結合ポケットを塞ぎにくくなり、USP8が過剰に活性化することを解明した(図3右)。これにより、クッシング病発症の根本的なメカニズムとして、アミノ酸配列の異常によってUSP8が過剰に活性化する詳細な分子機構をはじめて明らかにすることができた。

図3 クッシング病で見られるUSP8の機能異常

図3. クッシング病で見られるUSP8の機能異常

この成果とこれまでの研究をあわせることにより、次のようなクッシング病の発症メカニズムが明らかになった。(1)アミノ酸配列の異常が起きたUSP8では、自己阻害ドメインがユビキチン結合ポケットをうまく塞ぐことができないため、ユビキチンを認識する能力が高まり、脱ユビキチン化酵素としての活性が過剰となる、(2)過剰に活性化したUSP8はEGF受容体の細胞膜へのリサイクリングを著しく促進し、細胞膜上のEGF受容体の量を増加させる、(3)下垂体細胞にはEGFに反応してACTHを分泌する性質があるので、細胞膜のEGF受容体が多くなることによってACTHの分泌が過剰となり、クッシング病が発症する。

今後の展開

今回の研究では、USP8の過剰な活性化によるクッシング病の発症メカニズムが明らかになった。このメカニズムでは、EGF受容体のほかにも、USP8によって脱ユビキチン化される未知のタンパク質が存在し、クッシング病発症に寄与している可能性も考えられるため、さらに研究を進める必要がある。

今回の研究から、USP8の過剰な活性化を抑制することができれば、約半数のクッシング病患者の症状を根本から改善できる可能性が示された。今後は、USP8にもともと備わっている自己阻害ドメインの構造を詳しく調べることなどによって、USP8を阻害する物質を創出し、新しい作用機序で働くクッシング病の新薬開発に結びつけたい。

用語説明

[用語1] 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) : 下垂体から分泌されるペプチドホルモン。下垂体が副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンやバソプレシン、EGFなどの刺激を受けると、分泌が促進される。副腎皮質に作用し、糖質コルチコイドの分泌を促進する。

[用語2] 糖質コルチコイド : 副腎皮質から分泌されるステロイド骨格構造をもつホルモン。副腎皮質がACTHの刺激を受けると、分泌が促進される。肝臓からの糖新生の促進など代謝を調節する作用や、炎症を抑えるなどの免疫を調節する作用がある。

論文情報

掲載誌 :
Communications Biology
論文タイトル :
Molecular basis of ubiquitin-specific protease 8 autoinhibition by the WW-like domain
著者 :
柿原慧遵 浅水謙吾 森次圭 久保正英 北口哲也 遠藤彬則 木寺詔紀 池口満徳 加藤明 駒田雅之 福嶋俊明
DOI :

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「東京工業大学 環境報告書2021ダイジェスト英語版」を発行

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東京工業大学は、9月に公表した「東京工業大学 環境報告書2021」(日本語版のみ)の概要を英語で要約した「東京工業大学 環境報告書2021ダイジェスト英語版」を作成しウェブサイトで公表しました。「環境報告書2021」は、2020年度のSDGsを意識した大学活動に伴う環境負荷低減に向けた取組み及び環境保全への取組みについてまとめました。

2004年、環境報告書の普及活動、信頼性向上のための制度的枠組みを整備し、環境報告書を社会全体として積極的に活用していくため「環境配慮促進法」が制定されました。これにより、独立行政法人や国立大学法人等の特定事業者は、毎事業年度、「環境報告書」の作成と公表が義務づけられました。報告書では、事業者が経営責任者の緒言、環境保全に関する方針・目標・計画、環境マネジメントに関する状況(環境マネジメントシステム、法規制遵守、環境保全技術開発等)、環境負荷の低減に向けた取組の状況(CO2排出量の削減、廃棄物の排出抑制等)等について取りまとめます。本学では2005年度より日本語版を公表し、2019年度からはダイジェスト英語版もあわせて公表しています。

Contents(目次)

  • President's Greeting(ごあいさつ)
  • Environmental Policy(環境方針)
  • Scientific and Technological Research Contributing to the Environment(環境に貢献する科学技術研究)
  • Environmental Education and Talent Development(環境教育と人材育成)
  • Social Contribution Activities(社会貢献活動)
  • Environmental Management(環境マネジメント)
  • Environmental Performance(環境パフォーマンス)
  • Editorial Note(編集後記)

英語版の表紙

目次

お問い合わせ先

総合安全管理部門 安全企画グループ

E-mail : kankyouhoukoku@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3407

工大祭2021「Reversi!」オンラインで開催

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10月30日と31日の2日間、東京工業大学の学園祭「工大祭2021」をオンラインで開催しました。

2021年のテーマは「Reversi!(リバーシ)」です。2019年は台風、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により2年連続で開催を断念した工大祭に、今年こそ逆転の一手を打ち、逆境をひっくり返せるようにという願いが込められています。

各企画への入り口となった工大祭公式サイトトップページ

各企画への入り口となった工大祭公式サイトトップページ

工大祭公式ウェブサイトでは、参加サークルや研究室などが個別に作成した企画ページを10月6日から順次公開しました。公式ウェブサイトは10月25日から31日までの1週間で約40,000PVの閲覧数を記録しました。

10月30日、31日の2日間には、YouTube工大祭公式チャンネルでライブ配信を行いました。学生団体の歌やダンスパフォーマンスなどのステージ配信企画、ミスター東工大コンテスト2021、東工大の教員による公開講義などを配信しました。ステージ配信企画のアーカイブは、2日間で合計5,000回以上再生されました。

ストリートダンスサークルH2Oのパフォーマンス

ストリートダンスサークルH2Oのパフォーマンス

ミスター東工大コンテストのライブ配信

ミスター東工大コンテストのライブ配信

YouTube工大祭公式チャンネルには配信のアーカイブだけでなく、工大祭実行委員による受験生向けの動画「東工大現役生による入試問題実況」やバラエティ風の動画「とある東工大生の1日」などもアップロードされています。こちらもあわせてお楽しみいただけます。

工大祭公式チャンネル【東京工業大学】|YouTube

工大祭実行委員会2021年度委員長 千脇彰悟さん(工学院 情報通信系 学士課程3年)のコメント

3年ぶりの開催であり、オンラインでの開催であった工大祭2021は開催のため、新しいことに対する挑戦が必要でした。例えば、対面での広報が難しい現状で、動画の制作や例年以上のSNSでの広報といった、オンライン上で見ることのできる広報活動を行いました。
新しいことに挑戦した経験は今後の研究活動にも通じるものがあるように感じています。
工大祭2021を無事に形にすることができたのは、サイトを訪れていただいた方々、さまざまな形でご協力くださった企業の皆様、ご支援いただいた大学関係者の方々、そして参加団体として工大祭を盛り上げてくれた研究室やサークルの皆さんのおかげです。
新しい形態での開催にご協力いただけたことをこの場を借りて心よりお礼申し上げます。
開催形態が予想できない部分もありますが、来年度の工大祭にもご参加ご協力くださいますと幸いです。

お問い合わせ先

工大祭実行委員会

E-mail : info@koudaisai.jp

金属と絶縁体を重ねて熱電変換電圧を10倍に増大 熱電変換材料の性能向上に向けた新たな指針

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要点

  • 厚さ1 nmのLaNiO3を、絶縁体のLaAlO3で人工的に挟み込むことで、高性能な熱電変換材料を開発
  • 上下に重ねたLaAlO3を流れるフォノン(結晶の格子振動)がLaNiO3の電子を引っ張ることで、熱から得られる起電力を10倍に増大
  • 異種物質を重ねた新構造で熱電性能を大きく向上させ、電子機器の発電素子や冷却機器への利用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の片瀬貴義准教授、神谷利夫教授、元素戦略研究センターの細野秀雄栄誉教授らの研究グループは、電気を良く通す酸化物のLaNiO3(ニッケル酸ランタン)を、電気を通さない酸化物のLaAlO3(アルミン酸ランタン)で人工的に挟み込むことによって、熱を電気に変える熱電変換[用語1]の起電力を10倍に増大させることに成功した。

熱電変換材料は、温度差を与えると発電し、逆に電気を流すと温度差を発生するという性質を持つことから、電子機器の発電素子や小型冷蔵庫などの冷却機器への利用が期待されている。ただし、実用化には小さな温度差から大きな電圧を発生させる性質を持つ熱電変換材料が必要であり、これまで高温で高い性能を出す熱電変換材料は数多く開発されてきたものの、室温に近い低温で高い性能を示す熱電変換材料は例が少なかった。

本研究では、1 nmまで薄くしたLaNiO3の極薄膜を、電気を通さない絶縁体のLaAlO3で挟み込んだ人工構造を作製した。上下に接するLaAlO3フォノン[用語2]がLaNiO3の電子を引っ張る「フォノンドラッグ効果[用語3]」によって、1℃あたりの温度差で得られる熱起電力が10倍に増加することを発見した。さらに、このフォノンドラッグ効果はこれまで-240℃など極低温でしか発現しないとされてきたが、-53℃と比較的室温に近い温度でも働き、室温に近い低温で高い変換性能を示す材料の作製に役立つことも明らかになった。

異なる物質を重ねた構造を設計することで熱電変換材料の性能を大きく向上させたこの発見は、熱電変換技術の普及に向けた材料開発の新たな指針となることが期待される。

本研究成果は米国科学雑誌「Nano Letters」に、10月28日付(現地時間)でオンライン掲載された。

背景

“熱”エネルギーを“電気”エネルギーに直接変換できる性質を持つ熱電変換材料は、環境中の廃熱を電力に変えて再利用する「エナジーハーベスティング」技術への応用が期待され、現在、積極的に研究が進められている。さらに、この熱電変換材料は、上記とは逆に、電気を流すと冷却できる性質も持っており、環境負荷の大きいフロンガスを必要としない冷却機器として用いることも期待されている。特に近年では、電気抵抗ゼロの超電導現象を利用したリニアモーターカーの実用化も進みつつあり、超電導磁石を極低温まで冷す冷却機器の利用価値が高まっている。

以上のような用途へ熱電変換材料を大規模に利用するためには、高い効率の熱電変換材料が必要である。しかし、既存の熱電変換材料は、一般に高温で高い性能を発現しやすいという性質があるため、室温から低温の領域での変換性能は低いという問題があり、この分野における新しい熱電変換材料の設計指針が求められていた。

熱電変換では、電気を通す半導体に温度差を与え、両端の電極に電位差(電圧)を発生させることで、熱を電気に変換する。1℃あたりの温度差で得られる熱起電力はゼーベック係数[用語4]Sで評価され、この数値が大きいほど、小さな温度差でも大きな電圧を取り出すことができ、高い変換効率を得ることができる。

片瀬准教授らの研究グループは、特定の材料に温度差を与えると、高温から低温に向かって流れるフォノンが電子を引っ張り、起電力を発生させる「フォノンドラッグ効果」という特殊な現象を利用し、ゼーベック係数を上げて、熱電変換材料の性能を高めることを目指した。

研究の手法と成果

大きなフォノンドラッグ効果を発現させる、新たな熱電変換材料の設計

「フォノンドラッグ効果」は、低温でのゼーベック係数を増大させる一つの方法として知られている。しかし、既存の熱電変換材料で、フォノンドラッグ効果を示す材料はほとんど無く、これまで-240℃など室温とはほど遠い非常に低温でしか発現しないとされており、その性能向上に向けてフォノンドラッグ効果を活用することは注目されてこなかった。

そこで本研究グループは、室温に近い温度で大きなフォノンドラッグ効果を発現する新たな熱電変換材料の開発に挑戦した。フォノンドラッグ効果の強さは、「電子の有効質量」と、「電子とフォノンの相互作用の大きさ」に比例する。つまり、物質中にある電子を重たくし、かつ、その電子と結晶中を流れるフォノンの相互作用を強くすることができれば、フォノンドラッグ効果を増大させる可能性がある。本研究では、この可能性を検証する材料として、組成がランタン-ニッケル-酸素の酸化物であるLaNiO3に着目した。

LaNiO3は電子がよく流れる金属であり、通常のバルク結晶[用語5]のままでは、電子とフォノンの相互作用は弱い。そのためフォノンドラッグ効果は小さく(図1左下)、温度差を与えても小さな熱起電力しか発生しない(図1左上)。一方で、LaNiO3は1 nm以下に極薄膜化させると、電子が流れる空間が制限されるため、電子と電子の電気的な反発力が強くなることが知られている。そして電子間の反発力が強くなった結果、電子が動きにくくなり、電子の有効質量が増加する。つまり、電子が“重く”なる。そのため、LaNiO3を極薄膜化すると、フォノンドラッグ効果を強化する1つ目の条件である、「物質中にある電子を重くする」を満たすことができる。

フォノンドラッグ効果による熱電変換のイメージ図。(左)LaNiO3バルク結晶の場合:電子とフォノンの相互作用が小さく、フォノンドラッグ効果を発現しないため、得られる熱起電力は小さい。(右)LaAlO3で挟み込んだLaNiO3極薄膜の場合:LaNiO3の電子を狭い空間に閉じ込めることで“重く”しながら、上下に接するLaAlO3から拡散するフォノンを強く相互作用させることによってフォノンドラッグ効果が増強され、大きな熱起電力を発生させることができる。
図1.
フォノンドラッグ効果による熱電変換のイメージ図。(左)LaNiO3バルク結晶の場合:電子とフォノンの相互作用が小さく、フォノンドラッグ効果を発現しないため、得られる熱起電力は小さい。(右)LaAlO3で挟み込んだLaNiO3極薄膜の場合:LaNiO3の電子を狭い空間に閉じ込めることで“重く”しながら、上下に接するLaAlO3から拡散するフォノンを強く相互作用させることによってフォノンドラッグ効果が増強され、大きな熱起電力を発生させることができる。

しかし、単純にLaNiO3を極薄化させるだけでは、フォノンが流れる空間も制限されて、フォノンが流れにくくなってしまう問題がある。そこで本研究では、極薄LaNiO3の電子とフォノンとの相互作用を増強させるために、LaNiO3を電気絶縁体であるLaAlO3で挟み込むことを考えた(図1右上)。LaNiO3とLaAlO3は同じ結晶構造を持っているため、両者を上下に重ねても、乱れのないきれいな接合界面を形成することができる(図1右下)。これにより、LaNiO3の電子を狭い空間に閉じ込めたまま、LaAlO3のフォノンをLaNiO3中に浸入させることで、電子とフォノンを強く相互作用させ、フォノンドラッグ効果を増強できるという仮説を立てた。

LaNiO3極薄膜をLaAlO3で挟み込んだ人工構造の作製とその熱起電力の検証

上記のアイデアを実証するため、原子1層ずつを制御しながら、人工的に結晶構造を作製できるパルスレーザー堆積法[用語6]を利用した。まずLaAlO3基板上に、厚さ1 nmのLaNiO3極薄膜を成長させ、さらにその上部をLaAlO3薄膜で覆った人工構造(図2の右側上段のモデル)を作製した。その上で、ゼーベック係数Sの温度変化について、この新材料と、LaNiO3バルク結晶(図2の右側下段のモデル)、およびLaAlO3の基板上に50 nmの厚さで成長させたLaNiO3薄膜(図2の右側中段のモデル)との比較を行った。その結果を図2左側のグラフに示す。

LaNiO3バルク結晶(グラフ内の青線、右側下段のモデル)、LaAlO3基板上に成長させたLaNiO3薄膜(グラフ内の緑線、右側中段のモデル)、LaAlO3を上下に挟み込んだLaNiO3極薄膜(グラフ内の赤線、右側上段のモデル)のゼーベック係数Sの温度変化(左)。点線は通常の熱電効果によるSの寄与を示しており、ピンクと緑で塗られた領域は、フォノンドラッグ効果によるの増分を示している。
図2.
LaNiO3バルク結晶(グラフ内の青線、右側下段のモデル)、LaAlO3基板上に成長させたLaNiO3薄膜(グラフ内の緑線、右側中段のモデル)、LaAlO3を上下に挟み込んだLaNiO3極薄膜(グラフ内の赤線、右側上段のモデル)のゼーベック係数Sの温度変化(左)。点線は通常の熱電効果によるSの寄与を示しており、ピンクと緑で塗られた領域は、フォノンドラッグ効果によるSの増分を示している。

バルク結晶のLaNiO3(図2の右側下段のモデル)では、既存の熱電変換材料と同様に、温度が低くなるほどゼーベック係数が単調に減少し、性能が低下してしまう。一方、今回比較対象としてLaAlO3基板上にLaNiO3を成長させた薄膜(図2の右側中段のモデル)は、温度低下とともにゼーベック係数は減少するものの、温度100ケルビン(-173℃)でフォノンドラッグ効果が発現して、温度低下とともにゼーベック係数が増加し(図2の左図の緑矢印)、30ケルビン(-243℃)付近で最大値を取ることが分かった。

さらに、LaNiO3の厚みを1 nmに薄くし、上下をLaAlO3で挟み込んだ新材料(図2の右側上段のモデル)では、フォノンドラッグ効果が大きく増強され、30ケルビン(-243℃)付近に見られるゼーベック係数の最大値が、バルクと比べて最大10倍に増加することが分かった。また、フォノンドラッグ効果により、ゼーベック係数が増加し始める温度が220ケルビン(-53℃)まで大きく高温化する性質も明らかになった(図2の左図の赤矢印)。これは、LaNiO3に比べて、LaAlO3のフォノンが高温でも流れるために、フォノンドラッグ効果を促進させたためだと考えられる。

これまでフォノンドラッグ効果は極低温でしか発現しないとされてきたが、上記のようなアイデアを適用することによって、室温に近い温度でも、フォノンドラッグ効果がゼーベック係数を増加させることを示すことができた。

今後の展開

本研究では、電気を通しやすい酸化物の電子を狭い領域に閉じ込めて、上下に重ねた絶縁体の酸化物を流れるフォノンが電子を引っ張ることで、熱起電力が増大することを明らかにした。この発見は、異なる物質を積み重ねた構造を設計することによって、熱電変換の性能を大きく向上させる材料開発の全く新しい指針に繋がると考えられる。今後は、室温から低温域における熱電性能をより大きく向上させていくことによって、熱電変換が汎用的なエネルギー源や冷却機器として普及していくことが期待される。

謝辞

この成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出」(JPMJPR16R1)により助成されたものである。

用語説明

[用語1] 熱電変換 : 電気を通す金属などの導体や半導体の一部に熱エネルギーを加え、温度差を与えることによって電圧を発生させ、そこから電気エネルギーを取り出す技術。

[用語2] フォノン : 結晶格子を構成する原子やイオンは、安定を保った位置において小さな振動(=格子振動)を行っている。この格子振動は音波と同じ性質を持っており、その「波」としての動きを量子力学の視点から「粒子」としてとらえたものをフォノンという。熱電変換において電気を発生する源となる熱は、このフォノンの流れとして運ばれる。

[用語3] フォノンドラッグ効果 : 物質に温度差を加えると、高温から低温に向けてフォノンの流れとして熱が伝搬する。このフォノンが電子を引きずることによって、熱起電力を発生させる現象をフォノンドラッグ効果という。

[用語4] ゼーベック係数 : 温度差によってどれだけの熱起電力=電圧が得られるかを表す指標。

[用語5] バルク結晶 : 表面の効果などが無視できるほど大きな塊状の結晶。一方、薄膜は基板や表面の効果を受けやすい。

[用語6] パルスレーザー堆積法 : 原料物質に対して紫外パルスレーザーを照射し、蒸発気化させながら基板上に堆積させることによって、原料物質の薄膜を成長させる合成法。

論文情報

掲載誌 :
Nano Letters
論文タイトル :
Large phonon drag thermopower boosted by massive electrons and phonon leaking in LaAlO3/LaNiO3/LaAlO3 heterostructure
(和訳:LaAlO3 / LaNiO3 / LaAlO3ヘテロ構造における重い電子とフォノンの染み出しにより増強された巨大なフォノンドラッグ熱電能)
著者 :
Masatoshi Kimura1, Xinyi He1, Takayoshi Katase1,2,*, Terumasa Tadano3, Jan M. Tomczak4, Makoto Minohara5, Ryotaro Aso6, Hideto Yoshida7, Keisuke Ide1, Shigenori Ueda3, Hidenori Hiramatsu1,8, Hiroshi Kumigashira9, Hideo Hosono8, and Toshio Kamiya1,8,*
(木村公俊1、ホー・シンイ1、片瀬 貴義1,2,*、只野央将3、トムザック・ジャン4、簑原誠人5、麻生亮太郎6、吉田秀人7、井手啓介1、上田茂典3、平松秀典1,8、組頭広志9、細野秀雄8、神谷利夫1,8,*
所属 :

1 東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

2 科学技術振興機構 さきがけ

3 物質・材料研究機構

4 ウィーン工科大学 物性研究所

5 産業技術総合研究所

6 九州大学 工学研究院

7 大阪大学 産業科学研究所

8 東京工業大学 元素戦略研究センター

9 東北大学 多元物質科学研究所

DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

准教授 片瀬貴義

E-mail : katase@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5314

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

2021年度「東工大特別賞」を3名に授与

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東京工業大学は、11月17日、2021年度の「東工大特別賞」表彰式を大岡山キャンパスにて行いました。この賞は、多年にわたって研究教育の円滑な推進に寄与し、大学への貢献が顕著、かつ、勤務成績が優秀と認められた大学職員に与えられるものです。
今年度は主任技術専門員の高田綾子さん、技術専門員の清悦久さんと安良岡由規さんの3名が表彰されました。
表彰式では、益一哉学長より表彰状の授与、報奨金目録が贈呈されました。

2021年度「東工大特別賞」受賞者

オープンファシリティーセンター バイオ部門 主任技術専門員 高田綾子

受賞理由:
長年の生命系教育研究支援とOFCバイオ部門への多大な貢献

オープンファシリティーセンター 分析部門 技術専門員 清悦久

受賞理由:
分析部門における研究支援と学内共用部門運営に対する多大な貢献

オープンファシリティーセンター 情報基盤支援部門 技術専門員 安良岡由規

受賞理由:
GSICホスティングサービスの企画・立案・運営・保守及びTSUBAMEコンピュータシステム運用への貢献

東工大特別賞の表彰式
東工大特別賞の表彰式

益学長から表彰される受賞者(右)
益学長から表彰される受賞者(右)

受賞者の記念撮影

受賞者の記念撮影

お問い合わせ先

総務部人事課労務室人材育成グループ

E-mail : jin.iku@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3345

未来の国際的リーダーたる7人を選出 2021年度「東工大学生リーダーシップ賞」受賞者決定

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東京工業大学は10月27日、2021年度「東工大学生リーダーシップ賞」を7名の学生に授与しました。

懇談会後の記念撮影(左から、タンピパットさん、吉田さん、伊藤さん、石沢さん、奥山さん、ディンさん、松永さん)

懇談会後の記念撮影(左から、タンピパットさん、吉田さん、伊藤さん、石沢さん、奥山さん、ディンさん、松永さん)

東工大学生リーダーシップ賞は、本学学生の国際的リーダーの育成を目的として、知力・創造力・人間力・活力などのリーダーシップの素養に溢れる学生を表彰しています。年に1度、本学学士課程の2年目から4年目の学生を対象とし、2002年度から実施しています。

授与式はTaki Plazaにて行われ、益一哉学長が受賞者に賞状を授与し副賞を贈呈しました。授与式終了後は、学長と受賞者で懇談を行いました。

今回表彰された学生は以下の通りです。

2021年度「東工大学生リーダーシップ賞」受賞者コメント

吉田拓暉さん(理学院 物理学系 4年)

主な受賞理由

  • 全学生から要望を取りまとめ、大学側へ提言する学勢調査の代表を2年間務める
  • オープンキャンパス2020で、女子高校生向け企画を男子学生側からの視点でまとめあげる

吉田さんのコメント

東工大学生リーダーシップ賞という名誉ある賞を頂くことができ、大変光栄に思っております。私がこの賞を受賞することができたのは、学勢調査学生スタッフや立志会などにおいて一緒に活動して、私を支えてくれたメンバーや、教職員等、様々な方々からのご支援があったからです。この場を借りて深く感謝を申し上げます。また、今回の受賞は自分が恵まれた環境にあったことを強く自覚するきっかけとなり、身が引き締まる思いです。今後もより一層のリーダーシップを磨くとともに、培ってきたコミュニケーション能力を活用して、活発に研究活動を行っていきたいと思います。

タンピパット・コーンヴィク(Tanpipat Kornvik)さん(工学院 システム制御系 4年)

主な受賞理由

  • IDCロボットコンテスト大学国際交流大会2021で、留学生6人を率いて優勝
  • 本学の工学院が主催するピッチコンテストで、「ピッチミクロン賞」を受賞

タンピパットさんのコメント

この度はリーダーシップアワードをいただき、誠にありがとうございました。私にとってこの賞は、過去を振り返り、未来に何ができるかを考え直す良い機会です。また、チームメイトの皆さんにも感謝しています。彼らのおかげで今の自分に至りました。いくつかのボランティア活動を行ったことで、世界をより良い場所にするために自分ができることはたくさんあるのだと実感しました。これからも、社会に良い影響を与え続けていきたいと思います。この賞の名に恥じないように最善を尽くします。

伊藤龍寿さん(物質理工学院 材料系 4年)

主な受賞理由

伊藤さんのコメント

この度は東工大学生リーダーシップ賞という名誉ある賞をいただき、大変嬉しく思います。また、一緒に活動してきた仲間を始め、活動を支えていただいた先生方、職員の皆さまにこの場を借りてお礼申し上げます。仲間の存在が時には活動の動機に、時には支えになりました。そして、教職員の皆様のサポートがなければ活動自体が実現しないものもありました。
受賞にあたり、今までの活動を振り返り、今後を考えるきっかけとなりました。活動を通して経験したこと、得た学びを糧に、現在所属している研究室での研究、学業をはじめとする活動に、より一層精進してまいりたいと思います。

石沢涼太さん(情報理工学院 情報工学系 4年)

主な受賞理由

  • 台風及びコロナで中止になった工大祭を工大祭実行委員会副委員長として、難しい判断を行った
  • 蔵前工業会学生分科会のオンライン企画「キャンパスツアー」や「新入生歓迎会」をチームリーダーとして成功させた

石沢さんのコメント

この度はこのような名誉ある賞をいただき、心より感謝申し上げます。私はこの4年間、さまざまな活動に携わらせていただきました。私が所属した組織は、どこも人材不足という課題を抱えておりました。各組織のメンバーの意見を傾聴し、メンバーの力を最大限発揮できるよう努力をしてきました。一緒に頑張ってくださったメンバーの方々には頭が上がりません。このような経験をさせていただけたのは、東京工業大学の、学生の自治を重んじてくださる環境があってこそだと感じております。携わってくださった教職員の皆さまには、この場を借りて感謝申し上げます。この経験から培ったスキルを社会に出てからも活かし、精進してまいります。

奥山滉太さん(生命理工学院 生命理工学系 4年)

主な受賞理由

  • 高校生バイオコンを例年とは異なる方法で実施し、参加者から高評価を受けた
  • コロナ禍の影響で交流が減っている中、1年生に向けた生命系交流会を開き、成功させた

奥山さんのコメント

この度は東工大学生リーダーシップ賞に選出していただき、誠にありがとうございます。このような賞をいただくことができたのも、ひとえにサークルの活動に携わっていただいた先生方、バイオ創造設計室の方々、そして優秀なBCS部員一同のおかげです。この場をお借りして感謝申し上げます。今回の受賞を糧に、研究を始めとした今後の活動に一層励んでまいります。引き続きご指導のほどよろしくお願いいたします。

ディン・ティ・タン・タン(Dinh Thi Thanh Thanh)さん(環境・社会理工学院 融合理工学系 4年)

主な受賞理由

チームリーダーとして、Junction Tokyo 2019 という国際ハッカソン(ソフトウェア開発)や、Slush Tokyo 2019 というビジネス・スタートアップの国際コンテストで活躍

ディンさんのコメント

この賞を受賞できてうれしく思います。 私にとって、過去4年間に経験した道を振り返る絶好の機会でした。 東京工業大学で4年間勉強してきましたが、そのほとんどを外国人、特に日本に住むベトナム人を中心に活動してきました。 私の夢のひとつは、日本に住むベトナム人にとってより良い環境を作り、その一方で、ベトナム人の美しいイメージを広めることです。日本に来てからずっと支えてくれる友達や家族、先輩に感謝します。 現在、開発途上国の輸送に関する研究を行っており、開発途上国の輸送に貢献したいと考えています。 改めて、この名誉ある賞をありがとうございました。これからも夢を叶えるために成長していきます。

松永葵さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 4年)

主な受賞理由

地元の静岡県の自然災害リスクが高いため、自然災害での死者数を「0」にしたいという志を抱き、将来、災害マネジメントの現場において、強いリーダーシップを発揮できる人材になるべく、多くの演習や実験科目でチームリーダーを務めてきた

松永さんのコメント

この度は、このような素敵な賞をいただき大変光栄です。ありがとうございます。土木・環境工学系での学びをはじめ、大学生活での経験は大きな財産です。日々の活動を評価していただいたことを大変うれしく思っています。ここまで導いてくださった先生方や先輩方に感謝申し上げます。今回は、今後の活躍にも期待していただけたうえでの受賞であると感じています。これからも将来の目標を達成するため、より一層の経験と努力を重ねていきます。今後ともよろしくお願いいたします。

授与式後の記念撮影(前列左から、吉田さん、コーンヴィクさん、伊藤さん、益学長、松永さん、ディンさん、奥山さん、石沢さん)

授与式後の記念撮影(前列左から、吉田さん、コーンヴィクさん、伊藤さん、益学長、松永さん、ディンさん、奥山さん、石沢さん)

お問い合わせ先

学務部 学生支援課 支援企画グループ

E-mail : gak.sie@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3012

東工大留学生のリアルな日常生活とは? 留学生がキャンパスライフを紹介する英語動画「My Tokyo Tech」シリーズを公開

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東京工業大学は、東工大を志望する、主に海外からの留学希望者へ向けた英語動画シリーズ「My Tokyo Tech」シリーズを公開しました。

この動画は、東工大で学ぶ留学生が出演し、東工大での研究生活、寮生活、学生生活、日本での出来事など、様々なトピックスを取り上げます。将来、東京工業大学への留学を希望する方々が東工大の学生生活を想像していただけるよう、留学生の視点で制作されました。

研究生活—Research Life

一杉・清水研究室
Joshua Chon at Hitosugi & Shimizu Lab

留学生の視点から、物質理工学院 応用化学系の一杉・清水研究室での研究生活を紹介します。一杉・清水研究室の壮大な実験機器が見どころです。

寮生活—Dormitory Life

緑が丘ハウス(男子寮)
Midorigaoka House (Men's dormitory)

モダンな外観が際立つ緑が丘ハウスの個室、キッチン&ダイニング、共用スペースなどでの過ごし方を3名の寮生が紹介します。

洗足池ハウス(女子寮)
Senzokuike House (Women's dormitory)

緑あふれる洗足池公園の近く、閑静な住宅街に佇む洗足池ハウスでの寮生活を楽しむ3名の女子寮生が寮の設備とともに、それぞれの寮での過ごし方を紹介します。

学生生活—Student Life

大岡山キャンパス周辺—洗足池公園
Favorites around Ookayama Campus – Senzokuike Park

授業や研究の合間に、自然に触れられる東工大生に人気の洗足池公園を紹介します。散歩やジョギング、ベンチからの景色で気分転換に最適です。

大岡山キャンパス周辺—ベーカリー
Favorites around Ookayama Campus – Bakeries

地元の人や東工大生に大変人気のベーカリーを紹介します。

大岡山キャンパス周辺—カフェ
Favorites around Ookayama Campus – Cafes

東工大生お勧めのカフェやケーキショップを紹介します。

大岡山キャンパス周辺—ラーメン屋
Favorites around Ookayama Campus – Ramen shops

お昼時には行列も見られるほど、東工大生に人気のラーメンショップを紹介します。

「My Tokyo Tech」シリーズは、今後も「東工大生の今」を紹介する様々な動画を発信していきます。

お問い合わせ先

教育・国際連携本部アドミッション部門

E-mail : admission.bumon@jim.titech.ac.jp

前田和彦准教授が4年連続でクラリベイト社の高被引用論文著者に選出

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東京工業大学理学院 化学系の前田和彦准教授が、11月16日に発表されたクラリベイト社の2021年版高被引用論文著者(Highly Cited Researchers)に選出されました(選出分野:化学)。前田准教授は2018年から4年連続で同リストに選ばれています。
また、本学関係者として、工学院 経営工学系の増井利彦特定教授(国立研究開発法人 国立環境研究所 社会環境システム研究センター 統合環境経済研究室室長)も選出されました(選出分野:クロスフィールド(複合領域))。

クラリベイト社の発表によると、このリストは、過去10年間に各分野で活躍し同社のWeb of Science Core Collection(ウェブ・オブ・サイエンス・コア・コレクション)の特定の分野・出版年における論文のうち被引用数が上位1%に入る論文の著者から選ばれています。
2021年版では、2010年1月から2020年12月までの11年間に発表された被引用数の多い論文の著者について、科学と社会科学の21分野、および複数の分野を合算した業績を評価するクロスフィールド(複合領域)カテゴリーで活躍する計6,602人の研究者が選ばれました。
同リストによると、前田准教授の出版件数は240件、引用総件数は34,490件です。

前田准教授のコメント

前田和彦准教授
前田准教授

幸運にも、4年連続で化学分野のHighly Cited Researcherに選出されたことを喜んでいます。コロナ禍中にあっても、共に歩んでくれた共同研究者の皆様に感謝するとともに、挫けることなく努力し続けた学生諸氏を誇りに思います。成果発信を強力にサポートしてくださった本学広報関係者の方々にも、この場をお借りして御礼申し上げます。

今回の選出対象となった論文のほとんどは、自身が長年研究してきた光触媒に関するものですが、今後は光触媒に限定することなく、近い分野の学内外研究者と協働して新領域を開拓していきたいと考えています。広い意味で「皆に役立つ」論文を、これからも数多く発表していきたいと意気込んでいます。様々なレベルでの活動を通じて若い世代の参入者を増やし、本学ならびに我が国の研究力を世界にアピールしていく所存です。

関連リンク

前田和彦准教授

増井利彦特定教授

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


ガーデニングで彩る国際交流 ことばの壁を越えて園芸活動を楽しみました

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植え込みを完了したプランター
植え込みを完了したプランター

東京工業大学は学生支援センター 未来人材育成部門の主催で、11月9日、国際交流を目的としたガーデニングイベントを大岡山キャンパス西1号館留学生ラウンジで開催しました。

この催しは、英語使用者と日本語使用者が2人1組になって1つのプランターを受け持ち、チューリップ球根の植え付け作業を通して親交を深め、開花までの期間、植物の生長を観察しながら交流を継続させることを狙いに企画したものです。

当日は、不運にも開催時刻を狙ったかのように厚い雨雲が上空を覆い、雨が強まる一方でしたが、悪天候にもかかわらず学生18名が参加しました。

ペアの組み合わせは、参加学生に受付でくじを引いてもらい決めました。イベント当日への期待感が増すようにとの工夫です。この日は英語使用者と日本語使用者が同数で、9組のペアができました。

最初の作業はプランターに取り付けるラベルの作成でした。はじめはやや緊張気味だった参加者にも、協働作業を通して段々と会話が弾んでいく様子が見られました。各ペアともカラフルなラベルに仕上げていました。

プランターラベル作成

プランターラベル作成

次に、国際教育推進機構の齋藤宏文特任准教授から植物の生長に関するミニレクチャーがあり、続いて留学生交流課スタッフが球根の植え方を説明しました。植え付け作業は、3組ずつ交代で、西1号館入口のアーチ下のスペースで行いました。土はどれくらい入れるか、球根10個の配置はどうするかなど、それぞれのペアが工夫しながら作業を進めていました。久しぶりの対面交流の機会を、参加者全員がとても貴重に感じ、楽しんでいた様子でした。

チューリップ球根

チューリップ球根

現在、プランターは西1号館前に設置されています。チューリップは、順調に育てば1月か2月ごろに芽を出し、5月ごろに開花してキャンパスを彩ることとなります。今回の参加者の親睦も、チューリップと共にゆっくりと育って花開くことが期待されます。

集合写真

集合写真

参加学生の声

カビール&怜央

カビール&怜央

11月の「ガーデニングで彩る国際交流」のイベントは、東工大のキャンパスで新しい人々と出会い、一緒にチューリップを植えることを楽しむユニークな機会だったと思います。バングラデシュにいた時は、小さな家庭菜園をしていましたが、チューリップを植えるのは初めてで、チューリップの球根の大きさに驚きました!キンセンカの種のような小さな種を植えるだろうと思っていました。当日は、私のガーデニングパートナーの永井さんに対面でお会いすることができ、嬉しく思いました。自己紹介をしたりバングラデシュと日本でのガーデニングの経験についてお話をしたりできてとても良かったです。そして、齋藤先生からいただいたチューリップの生態についての簡明な講義も面白かったですし、この楽しい活動を通してガーデニングについて新たなことを学ぶこともできました。すごく楽しかったです!
(工学院電気電子系 博士後期課程2年 カビール・シャリアル)

今回このイベントに参加しようと思ったのは、留学生と交流したりガーデニングをしたりするのが楽しそうだと思ったからです。イベント当日は、バングラデシュ出身のカビールさんとペアになりました。カビールさんとの会話ではバングラデシュでの生活のことや大学の専攻に関することなどを聞くことができました。特に国ごとの文化の違いについての話が印象的でした。例えば、日本とバングラデシュの違いとして、カビールさんは学校の授業で自然について外で実際に学ぶ機会は日本の方がたくさんあるとおっしゃっていました。私も小学校の頃にアサガオを観察したりミニトマトを育てたりしていましたが、国ごとの違いについて考えたことは無かったので、面白い文化の違いだと思いました。また、留学生との交流だけでなく齋藤先生のミニ講義やガーデニングも楽しむことができました。チューリップを植えるのは幼稚園の時以来だったので、球根が思ったよりも小さいなと感じました。1時間ほどの短いイベントでしたが、普段は交流できない留学生の方と活動することができてとても充実した時間を過ごすことができました。
(工学院 学士課程1年 永井怜央)

晶子&ナヴィン

晶子&ナヴィン

国際交流イベントに参加するのは初めてで、留学生の方と上手くコミュニケーションを取れるか不安でしたが、ペアのナヴィンさんと楽しく交流できました。お互いに自己紹介をし合った後、まずは自分たちのプランターに挿すラベルを作りました。その後、チューリップの花が咲くまでの過程についての講義や、球根の植え方についてのビデオを見ました。チューリップの球根に平らな面とカーブしている面があることは初めて知りました。ガーデニングは小学校の時に朝顔を育てて以来のことだったので、久しぶりの土いじりが楽しかったです。球根の平らな面を同じ方向に向けて植えると花が同じ方向を向いて綺麗に咲くと教えてもらったのですが、ナヴィンさんと話し合って、5個を同じ方向に揃え、残りの5個をそれとは逆方向に揃えて植えてみました。チューリップを植えるのは初めてでしたが、先生たちが細かく説明してくださって、上手く植えることができました。春になってカラフルなチューリップを見ることができるのを楽しみにしています。ガーデニングも楽しかったですし、素敵な留学生の友人もできて、このイベントに参加して良かったと思います。
(工学院機械系 学士課程3年 目見田晶子)

最近、他国の人と会って楽しい活動をする機会を探していたところ、この異文化交流ガーデニングイベントを見つけました。このイベントで私は、一緒にチューリップガーデニングをする晶子さんとペアを組みました。私の日本語はあまり上手ではないですが、晶子さんとよく話すことで、日本語で話す自信が高まりました。2人で面白い話をした後で、チューリップガーデニングについて紹介されました。チューリップについてとチューリップの植え付け技術を学ぶのは面白かったです。チューリップガーデニングの紹介の後で、私と晶子さんはプランターラベルをかわいいチューリップの花の絵で飾りました。さらに、チューリップの球根をジグザグパターンで植えました。球根の半分を一方向に向けて、他の球根の半分を反対方向に向けました。このイベントでパートナーとガーデニングをして、とても楽しかったです。私はこの素晴らしいイベントの主催者に感謝します。将来、より多くの東工大の異文化交流イベントに参加するのを楽しみにしています。
(物質理工学院材料系 博士後期課程2年 ラジャプリヤ・インバラジ・ナヴィン)

お問い合わせ先

留学生交流課

E-mail : ryu.kor3@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2984

10日間の東南アジア短期留学をオンラインで体験 Tokyo Tech-AYSEAS 2021 Online 開催報告

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東京工業大学の学生と東南アジアの大学生をつなぐTokyo Tech-AYSEAS(東工大・アジア理工系学生派遣交流プログラム)が開催されました。本プログラムは2013年から続く短期留学プログラムです。2021年度は初めてオンラインでの開催となり、東工大生11名、AYSEASメンバー大学からは24名が参加し、交流を深めました。

プログラム概要

TokyoTech-AYSEAS(Asia Young Scientist and Engineer Advanced Study Program)は、東工大生が東南アジアの国に赴き、現地・近隣諸国の大学生とともに、施設見学、ディスカッションを行う10日間の海外派遣プログラムです。

オンラインでの開催となった今年度、さまざまな団体、企業、個人の皆様の協力を得て、バーチャル見学やお話を伺う機会に恵まれました。

10年前にAYSEASの前身プログラムに参加した社会人2人には、海外の大学院への進学や現在の研究生活についてお話しいただきました。独立行政法人国際協力機構(JICA)ベトナム事務所と一般社団法人コペルニク・ジャパンからは国際援助の現場で大切なことについて教えていただき、参加者からたくさんの質問が寄せられました。また、株式会社日立製作所の鉄道プロジェクトバーチャル見学では、ホーチミン市がロックダウンとなったため工事現場からの中継はかなわなかったものの、多くの写真と動画を使ってプロジェクトについて説明いただき、臨場感ある見学となりました。さらに、環境・社会理工学院 融合理工学系の髙木泰士准教授によるアジアの開発と防災をテーマにした講義がありました。

プログラム最終日に行われるグループプレゼンテーションのため、参加学生は6つのグループに分かれ、プログラム中に設けられたグループディスカッションの時間やプログラム外の時間に話し合いました。今年の発表テーマは「企業やNGOを作ることを計画し(もしくはサービスや製品を考案し)、それについて発表しなさい」というものでした。最終日に発表されたグループプレゼンテーションの分野は、教育、観光産業、パンデミック下での災害対策、頭脳流出、公衆衛生など多岐にわたり、さまざまな制約がある中、参加者の努力と結束がうかがえる内容となりました。

AYSEASは本来、さまざまな国から参加する学生が寝食を共にして濃密な時間を過ごすことが魅力であるため、プログラム開始前にはオンラインでどれくらい親しくなれるのか、グループディスカッションはやりにくくないか、という危惧する声もありました。しかし、参加学生は、様々なツールを使ってプログラムの時間外にもプレゼンについて話し合ったり一緒に遊んだりしたようでした。修了式では、プログラムへの感謝のメッセージを集めて動画を作成し、サプライズで公開してくれる学生もいて、学生の工夫によりオンラインでも交流を深めることが可能であることが感じられる結果となりました。

修了式での記念撮影

修了式での記念撮影

スケジュール

7月

事前学習(東工大生のみ/オリエンテーション、英語ディスカッション練習、アジア理解講座)

8月23日(月)

オンラインによる事前交流イベント

8月30日(月)

プログラム初日
オリエンテーション、アイスブレイキング
過去のプログラム参加者によるトークセッション

8月31日(火)

国際協力機構(JICA)ベトナム事務所バーチャル訪問
コペルニク・ジャパン バーチャル訪問

9月1日(水)

日立製作所バーチャル訪問、グループディスカッション

9月2日(木)

講義「Development and Natural Disaster in Asia」
グループディスカッション

9月3日(金)

グループディスカッション、東工大への留学説明会

9月6日(月)

最終プレゼンテーション、修了式

AYSEAS 2021参加大学

  • 日本:東京工業大学
  • インドネシア:ガジャマダ大学、バンドン工科大学
  • タイ:カセサート大学、キングモンクット工科大学トンブリ校、キングモンクット工科大学ラカバン校
  • フィリピン:デラサール大学、フィリピン大学ディリマン校
  • ベトナム:ハノイ工科大学、ベトナム国家大学ホーチミン市校工科大学

参加学生の体験談

飯干成美さん(環境・社会理工学院 学士課程1年)

「英語は使えるようになりたいけど、留学に実際に行くとなると少しハードルが高い。」と感じていたときにオンラインで他の国の学生と交流する機会が得られると知り、応募してみました。
初めは「オンラインだからそんなに他の学生と交流を深めることもできないのではないか。」と予想していましたが、予定されていたディスカッションや企業訪問だけでなく、プログラムの時間外にグループのメンバーとオンラインでディスカッションを行ったり、オンラインゲームを一緒にやったりと想像以上に交流を深められました。また、得意な楽器の演奏を披露するなど、家にいるからこそできるような交流の仕方もあり、とても楽しい時間になりました。
今回のプログラムを通して、アジアの他の国の文化や、海外で働く人達がどういった仕事をしているか、など多くのことを学びました。それと同時に、自分の語学力が不足していたり、日本の文化をうまく説明できなかったりと多くの課題点も見つかり、これからの学習のモチベーションを上げることにつながりました。
とても良い経験ができたと思います。ありがとうございました!

川口万太郎さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)

自由な海外渡航が難しいこの時期に何かしら国際的なプログラムに参加できないかと考え、見つけたのがこのコースでした。オンラインということで気軽に参加できるようになっていたこともあり、迷わず応募しました。
プログラムは少人数での討論を主なコミュニケーションの場としており、グループのメンバーには大いに助けられました。自分は英語のみでのディスカッションの経験がなく、序盤は会話に入ることもままなりませんでした。しかし、プログラムの時間外にも何度もコミュニケーションの場を設け、密に接していくうちに、次第に打ち解けて会話に参加できるようになっていきました。プログラムのためのグループメイトというだけでなく、初めての海外の友人と言える関係を築くことができたことを非常に嬉しく思います。また、今はコロナウイルスという世界共通の話題があったからこそ、各国の対応の違いから始まり、異文化理解へとスムーズに移行できたと感じています。
もちろん、企業紹介やOB/OGの方による講演といった、グループワーク外でのアクティビティも有意義なものでした。自分のキャリアについて見直す機会も多々ありました。現地に行けない中、最大限の成果を得られるプログラムだったと思います。
今後はこのプログラムで学んだことを見つめ直し、実際の海外渡航への土台を作っていきたいと思っています。そして、プログラムで出会った友人たちと直接話せる機会が来ることを願っています。ありがとうございました。

グループを越えて盛り上がる参加者の様子
グループを越えて盛り上がる参加者の様子

プログラム終了後に自主的に行った最後の交流会の様子
プログラム終了後に自主的に行った最後の交流会の様子

ジャスティン・マージェリン・グアンゾンさん(ベトナム国家大学ホーチミン市校工科大学 修士課程1年)

学士課程でフィリピン大学ディリマン校に在籍しているころから東工大のAYSEASプログラムに興味がありました。幸運なことに、現在在籍しているベトナム国家大学ホーチミン市校工科大学(HCMUT)もAYSEASのメンバー大学で、プログラムに参加することができました。数多くの応募者から選ばれたことに感謝しています。
AYSEAS運営チームからプログラムのしおりが送られてきたときには、HCMUTからの参加者が自分だけとわかり、少し不安になりました。私は内気なので、知らない人たちと話すことが苦手だからです。しかし、事前交流イベントでハノイ工科大学からの参加者と話したときに私の不安は消え去りました。彼らとは自分の経験や知識を共有できただけでなく、様々な話題について自分の意見や考えを存分に話すことができました。アイスブレイキングセッションのためのベトナム紹介ビデオを一緒に作るのは本当に楽しく、新型コロナ蔓延後の生活をひととき忘れることができました。オンラインで開催されるプログラムであっても楽しむことができたのです。
最終プレゼンテーションのためのグループは、様々な国からの参加者で構成されていました。メンバーたちとアイデアを出し合ってプレゼンの準備をしたのですが、同じ国の参加者のみのチームであれば考え付かないような素晴らしいアイデアがでてきました。また、プログラム中は様々な団体、企業、NGOで働くプロフェッショナルの刺激的なお話を聞くことができました。大学で研究する若者として、たとえ理工系分野であっても文化に対する深い理解が大切であることを学びました。
また、AYSEASは、深く考えたことのなかった社会問題に気付かせてくれました。教育、公共交通機関、健康、文化など、さまざまな分野の問題について、短期、長期両面の解決策がなぜ必要なのかについても理解できました。たとえ自分はその問題から深刻な影響を受けていないとしても、私たちにはやるべきことがあり、自分には関係ないと見ないふりをすることはできません。技術者、そして科学者として、今こそ社会問題解決のために行動しなければなりません。
AYSEASでただひとつ残念だったことは、プログラムが1週間しかなかったことです。新しい友人たちともっと長く過ごしたかったですが、私にとって今年最良の経験となりました。プログラム運営チームに心からの感謝を送ります。プログラムで知り合えた皆さんに実際に会える日が待ち遠しくてなりません。

お問い合わせ先

学務部 留学生交流課 AYSEAS担当

E-mail : ayseas@jim.titech.ac.jp

低温ポリシリコン(LTPS)に匹敵する高性能で安定なアモルファス酸化物薄膜トランジスタ(TFT)を実現

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要点

  • 高移動度の酸化物TFTで不安定性が生じるメカニズムを解明。
  • LTPSに匹敵する高い移動度と実用レベルの安定性を両立した酸化物TFTを実現。
  • 均質な薄膜を容易に作製でき、レーザー照射も不要である点がLTPSよりも圧倒的に有利。

概要

東京工業大学 元素戦略研究センターの金正煥(Junghwan Kim、キム・ジョンファン)助教、細野秀雄栄誉教授らは、性能の高さと実用レベルの安定性を両立させたアモルファス酸化物薄膜トランジスタ(TFT)の開発に成功した。

2004年に東京工業大学の研究チームが発表した、高い移動度をもつアモルファス酸化物半導体InGaZnO(IGZO)の薄膜トランジスタ(TFT)は、既に有機ELテレビや高精細液晶ディスプレイなどで実用化されている。一方で近年では、次世代ディスプレイやメモリー向けに、低温ポリシリコン(LTPS)TFTに匹敵する高い移動度をもつ酸化物TFTが求められている。しかし、高い移動度が得られる酸化物TFTでは、長時間の使用により深刻な不安定性が生じてしまうことが大きな技術的障害になっていた。

今回の研究ではそうした「移動度-安定性トレードオフ現象」のメカニズムの解明に成功した。それに基づいて作製プロセスを工夫した結果、LTPS-TFTに匹敵する高い移動度と、実用レベルの安定性を両立した酸化物TFTを実現した。特に長年の謎であった「移動度-安定性トレードオフ現象」が解明されたことで、アモルファス酸化物TFTの実用化に向けて大きく前進することが期待される。

本研究成果は英国科学誌「Nature Electronics」に2021年11月22日付で公開された。

研究の背景と経緯

薄膜トランジスタ(TFT)は、ゲート電極が2つの電極と絶縁体薄膜を介して半導体薄膜に電圧をかける構造の素子である。ゲート電極に小さな電圧をかけることで、2つの電極に間に流れる電流を大幅に変化させられるため、電子回路でスイッチの役割を担う基幹デバイスになっている。2004年に報告されたアモルファス酸化物InGaZnO(IGZO)TFTは、アモルファスシリコン(a-Si)のTFTよりも移動度が10倍以上高く(10~15 cm2/Vs)、かつ汎用のスパッターリングによって低温で容易に作製できるという優位性をもつ[参考文献1]。そのため、ディスプレイへの応用が世界中で行われ、2012年には液晶ディスプレイへの搭載が開始された。2015年からは有機ELディスプレイの駆動にも使われて、現在に至っている。

一方で近年では、次世代ディスプレイやメモリー応用などに向けて、より高い移動度が要求されるようになった。しかし酸化物TFTには「移動度-安定性トレードオフ現象」という長年の未解決問題があることが技術的障害になっている。この現象は、高い移動度を示す化学組成(インジウムやスズが主成分)の酸化物TFTでは、繰り返して使用していると、スイッチとして働く電圧(閾値)が大幅に動いてしまうという不安定性(閾値シフト)がみられるというものである。TFTの閾値シフトが起こると、同一の電圧下で得られる電流の値が変わるため、有機ELディスプレイでは輝度のばらつきが生じてしまう。そのため、いくら高い移動度を示すTFTがあっても、閾値シフトがある限り実用化は不可能である。閾値シフトには大きく分けて、Negative Bias Temperature Stress(NBTS)[用語1]Positive Bias Temperature Stress(PBTS)[用語2]Negative Bias Illumination Stress(NBIS)[用語3]の3種類が知られている。このような閾値シフトは、酸化物TFTの移動度を10 cm2/Vs程度に制限する主な原因となっている。

 トランジスタにおける閾値シフトは、1960年代からのMOSFET[用語4]の研究で本格的に調べられた結果、ゲート絶縁膜の電荷トラップに起因することがわかっており、酸化物TFTでも同様に考えられてきた。しかし研究グループでは、そうした考え方では「移動度-安定性トレードオフ現象」を説明する上で矛盾が生じることに気づき、根本的な原因究明に取り組んできた。TFTの閾値は半導体層のキャリア濃度によって決まるため、半導体層のキャリア濃度が初期状態から変動するならば、これも閾値シフトの説明になる。しかし、初期のドーピング濃度で決まるキャリア濃度が後から変動することは一般的には起こりえない現象であり、このような例外的主張は実験的証拠がない限り受け入れられない。さらに、実験で観測されるものはTFTに印加される電圧と電流の関係であり、これだけでは閾値シフトがゲート絶縁膜の電荷トラップと半導体層のキャリア濃度変化のどちらに起因するのかを見極めることは困難だった。

研究の内容

本研究では最初に、「移動度-安定性トレードオフ現象」のメカニズムを明確にするための新たな手法を開発した。具体的には、NBTSに対して安定な材料(InGaO、IGO)とNBTSに対して不安定な材料(InSnZnO、ITZO)の二層からなるTFT(図1(ア))を作製し、その電気的特性を調べた。この二層構造TFTの電界効果移動度を解析することで、動作中のTFTの電流がどちらの層に起因しているかを明らかにし、さらにその層の閾値シフト量を評価することが可能になる。解析では、ゲート絶縁膜に電荷がトラップされている場合と、キャリア濃度を変動させた場合について、それぞれの層がどのような挙動を示すかを調べるため、デバイスシミュレーション(Silvaco社 ATLAS)を行った。

その結果、ゲート絶縁膜に電荷トラップがある場合には、電界効果移動度曲線の全体的な平行移動がみられた(図1(ウ))。一方で、不安定な材料であるITZO層のキャリア濃度を変化させた場合、電界効果移動度が最高値に達した後の曲線には変動がみられず、固定されていることがわかった(図1(エ))。移動度が最高値に達した後に再び減少しているのは、移動度が比較的小さいIGO層の寄与が大きくなるためであり、右下がりの曲線が固定されていることは、IGO層の閾値が変動しないことを示唆する。これはゲート絶縁膜に電荷トラップがないことを裏付ける結果でもある。実際に得られた実験結果(図1(イ))にも同様の傾向があり、ITZOのような高移動度酸化物TFTでみられる閾値シフト(NBTS)現象は、ITZO層のキャリア濃度の上昇に起因すると結論できる。

図1. (ア)不安定性問題を究明するために考案された二層構造のTFT。NBTSに安定な材料と不安定な材料を積層した構造。(イ)二層構造TFTのゲート電圧―電界効果移動度の関係。(ウ)ゲート絶縁膜電荷トラップモデルと(エ)活性層のフェルミレベルシフトモデルにおける、デバイスシミュレーションによるゲート電圧―電界効果移動度の関係。
図1.
(ア)不安定性問題を究明するために考案された二層構造のTFT。NBTSに安定な材料と不安定な材料を積層した構造。(イ)二層構造TFTのゲート電圧―電界効果移動度の関係。(ウ)ゲート絶縁膜電荷トラップモデルと(エ)活性層のフェルミレベルシフトモデルにおける、デバイスシミュレーションによるゲート電圧―電界効果移動度の関係。

次に研究グループは、こうした閾値シフト(NBTS)によって酸化物層のキャリア濃度がどのように上昇するかを調べた。その結果、フォトリソグラフィプロセス[用語5]の後に、酸化物半導体層には電気的に無視できない濃度のカーボン系の不純物(CO)が残っており、閾値シフト量はこのカーボン不純物の量に比例して大きくなることがわかった[参考文献2]。フォトリソグラフィ直後と熱処理でカーボン不純物量を調整後のITZO薄膜に対して熱脱離分析をおこなうと、CO不純物を完全に除去するには約350℃以上の熱処理が必要であることがわかる(図2(ア))。また、CO不純物量とNBTS不安定性の間には明らかな相関がみられる(図2(イ-エ))。さらに、CO不純物が完全に除去された試料は非常に高い閾値安定性を示す(図2(エ))。

図2. (ア)フォトリソグラフィ直後および異なる温度での熱処理後のITZO薄膜の熱脱離分析結果。 (イ) フォトリソグラフィ直後のITZO TFT、(ウ) フォトリソグラフィ後に300℃で熱処理されたITZO TFT、(エ)400℃で熱処理されたITZO TFTのNBTS試験結果。
図2.
(ア)フォトリソグラフィ直後および異なる温度での熱処理後のITZO薄膜の熱脱離分析結果。 (イ) フォトリソグラフィ直後のITZO TFT、(ウ) フォトリソグラフィ後に300℃で熱処理されたITZO TFT、(エ)400℃で熱処理されたITZO TFTのNBTS試験結果。

さらに、このCO不純物の生成と不安定性の発生が化学組成に依存するかを確認した(図3)。熱脱離分析の結果、CO不純物は化学組成に依存せずに、フォトリソグラフィ後にはどの酸化物でもほぼ同量が形成されるが(図3(ア))、不安定性はITZO TFTのみ顕著に現れることがわかった(図3(イ)(ウ))。この結果は「移動度-安定性トレードオフ現象」そのものであり、これまで経験的に知られていた、高移動度酸化物TFTの不安定性を裏付けたことになる。

図3. (ア)2種類の代表的な酸化物の熱脱離によるCO不純物量測定、(イ)IGZO TFTおよび(ウ)ITZO TFTのNBTS試験結果。両者では、CO不純物の濃度はほとんど同じだが、不安定性は全く異なっている。
図3.
(ア)2種類の代表的な酸化物の熱脱離によるCO不純物量測定、(イ)IGZO TFTおよび(ウ)ITZO TFTのNBTS試験結果。両者では、CO不純物の濃度はほとんど同じだが、不安定性は全く異なっている。

酸化物TFTの不安定性問題について、実験で得られた結果をまとめると以下のようになる。

1.
NBTS不安定性は酸化物半導体層のキャリア濃度の上昇に起因する。
2.
フォトリソグラフィ後にCOを含む不純物が残存し、負電圧が印加されると吸着していたCOから酸化物半導体層に電子が供与される。
3.
CO不純物からの電子供与は、移動度が高い半導体層ITZOでは起きやすいが、移動度が低いIGZOでは生じない。

こうした結果を説明する上では、「電子供与」が重要だと考えられる。酸化物半導体側では、伝導体下端の位置が下がるほど電子が受け取りやすくなる。アモルファス酸化物半導体では、インジウム(In)、スズ(Sn)の含有量を増やすほど高い移動度が得られる(図4(ア))。また、Inや Snの含有量が増えると、カチオン同士の空間的重なり合いが大きくなり、これによって伝導帯におけるバンド分散が増大して、伝導体下端の位置が深くなる(図4(ウ))。つまり、移動度が高い酸化物半導体ほど、伝導体下端の位置が深く、電子を受け取りやすいことになる。こうした説明によって、同量のCO不純物があっても、IGZOより伝導体下端の位置が深いITZOでは、顕著な閾値シフトが生じてしまう原因が理解できる。

図4. (ア)アモルファス酸化物半導体の候補元素、(イ)高移動度と低移動度酸化物半導体の電子構造比較、(ウ)様々なアモルファス酸化物半導体のエネルギーレベル(紫外光電子分光を用いた実測値)。
図4.
(ア)アモルファス酸化物半導体の候補元素、(イ)高移動度と低移動度酸化物半導体の電子構造比較、(ウ)様々なアモルファス酸化物半導体のエネルギーレベル(紫外光電子分光を用いた実測値)。

本研究の知見を基に作製法を最適化したところ、移動度が高く、かつ安定性に優れたITZO TFTが得られた。このTFTでは、移動度70 cm2/Vsを達成し、さらに実用化にあたって必須とされるNBTS、PBTS、NBISのすべての動作条件において、非常に優れた安定性が実現している(図5)。

図5. ITZO TFTの(ア)NBTS(-20V、60℃)、(イ)PBTS(20V、60℃)、(ウ)NBIS(-20V、室温)試験結果。
図5.
ITZO TFTの(ア)NBTS(-20V、60℃)、(イ)PBTS(20V、60℃)、(ウ)NBIS(-20V、室温)試験結果。

今後の展開

本研究では、酸化物TFTにおける移動度と安定性の両立に向けた明確な指針が確立することができた。今回の成果では、フォトレジスト由来のCO不純物による電子供与性を議論したが、実際の量産環境ではさらに多くのCO関連不純物が混入する可能性があると考えられる。このような観点から、酸化物半導体を用いた次世代エレクトロニクスの実現には、より活発な産学連携が必須になるだろう。

研究グループは今回、低温ポリシリコン(LTPS)のTFTに匹敵する移動度と安定性をもつアモルファス酸化物半導体のTFTを実現するという、20年来の念願をようやく果たすことができた。アモルファス酸化物半導体はLTPSに比べると、アモルファスの性質から、均質で大面積の薄膜が低温で容易に作製でき、レーザー照射による結晶化処理も不要という大きなメリットがある。これまで高移動度と高安定性が両立できなかったため、論理回路などLTPSが使われている応用には展開できなかった。アモルファス酸化物半導体であるIGZOは、アモルファスシリコンのTFTを置き換えつつあるが、今回の成果によってLTPS-TFTを置き換えられる可能性が出てきた。

付記

本成果は、以下の事業・研究課題によって得られた。
文部科学省 元素戦略プロジェクト<拠点形成型>
研究課題名:「東工大元素戦略拠点」
代表研究者:東京工業大学 元素戦略研究センター センター長 細野秀雄
PM:元素戦略研究センター 雲見日出也 特任教授
研究実施場所:東京工業大学
研究開発期間:平成25年7月~令和4年3月

用語説明

[用語1] Negative Bias Temperature Stress(NBTS) : ゲートに負バイアスを印加し続けたときに閾値が負の方向にシフトする現象(温度は60℃固定)。

[用語2] Positive Bias Temperature Stress(PBTS) : ゲートに正バイアスを印加し続けたときに閾値が正の方向にシフトする現象(温度は60℃固定)。

[用語3] Negative Bias Illumination Stress(NBIS) : 半導体層に光を照射、ゲートに負バイアスを印加し続けたときに閾値が負の方向にシフトする現象。

[用語4] MOSFET : Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor の略。現在、DRAMやCMOSイメージセンサーなどに使われている単結晶シリコンベースの素子。動作原理は薄膜トランジスタ(TFT)と基本的に同じである。

[用語5] フォトリソグラフィプロセス : 感光性の物質を塗布した物質の表面を、パターン状に露光することで、露光された部分と露光されていない部分からなる微細パターンを生成する技術。本研究でみられるCO不純物は、感光性の物質であるフォトレジストから生成されることがわかった。

参考文献

[1] K Nomura, H Ohta, A Takagi, T Kamiya, M Hirano, H Hosono, Nature 432 (2004) 488-492.

[2] Y. Shiah, K. Sim, S. Ueda, J. Kim, H. Hosono, IEEE Electron Device Letters 42 (2021) 1319.

論文情報

掲載誌 :
Nature Electronics
論文タイトル :
Mobility–Stability Trade-Off in Oxide Thin-Film Transistors
著者 :
Y. Shiah, K. Sim, Y. Shi, K. Abe, S. Ueda, M. Sasase, J. Kim*, H. Hosono*
(安部氏の所属はSilvaco Japan、上田氏の所属は物質・材料研究機構(NIMS)、他は東工大)
DOI :

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マーカー不要で高度な運動物体への投影が可能な プロジェクションマッピング用高速プロジェクタを開発 可視のRGB画像と不可視のIR画像を個別に同時制御

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要点

  • 約1,000 fpsの高速で、可視の24 bitカラー(RGB)画像と不可視の8 bit赤外(IR)画像を個別に制御しながら、同時に投影可能なプロジェクタを開発
  • 独自開発の光学系によりRGB画像とIR画像の正確な同軸位置合わせを達成
  • 人間には見えない波長域での空間センシングを用い、目に見える映像を素早く制御するプロジェクションマッピングの新たな基盤技術となることが期待される

概要

東京工業大学 工学院 情報通信系の渡辺義浩准教授、東京エレクトロンデバイス株式会社の湯浅剛、Fraunhofer Institute for Applied Optics and Precision Engineering(フラウンホーファー応用光学・精密機械工学研究所)のUwe Lippmann(ウーヴェ リップマン)、ViALUX GmbH(ヴィアラックス)のPetra Aswendt(ペトロ アシュエンド)らの日本・ドイツ国際産学連携チームは、目に見えるカラー画像と、人間の目には見えない赤外線[用語1]を用いた画像を、個別かつ同時に制御しながら超高速で投影できる、プロジェクションマッピング[用語2]用の高速プロジェクタを開発した。

このプロジェクタでは、約1,000 fps[用語3]という非常に高いフレームレート[用語4]で、RGB[用語5]方式 による24 bitの可視カラー画像と、IR[用語6](赤外線)による8 bitの不可視画像を個別かつ同時に制御できる。さらに、独自に開発した光学系システムにより、プロジェクタから投影されたRGB画像とIR画像の正確な同軸位置合わせ[用語7]が達成されている。そのため、目に見えないIR画像を投影してセンシングを行いながら、そのセンシング結果を利用して、目に見えるRGB画像によるディスプレイ映像をリアルタイムで制御していくことができ、動くものを対象としたダイナミックプロジェクションマッピング[用語8]での利用も可能。エンターテイメント、アート、広告などのビジネス分野、さらに作業支援や医療支援など、社会でのプロジェクションマッピングの応用範囲の拡大にもつながる技術として期待される。

この成果は、第28回ディスプレイ国際ワークショップ (28th International Display Workshops)で12月2日に発表された。

背景

凹凸のある壁面、また建物やオブジェといった立体物にプロジェクタを使って映像を投影し、さまざまな視覚効果を実現するプロジェクションマッピングは、東京駅への映像投影による大規模イベントなどで広く知られるようになり、イベントなどのアミューズメント、またコンサートや舞台の演出、企業広告、さらには各種作業支援など多様なシーンで活用されている。

プロジェクションマッピングという言葉は「projection(投影)」と「mapping(位置づけること)」の合成語で、近年の応用では、立体物の形状に合わせて3次元的な補正をかけた映像を、立体物の上に重ね合わせることにより、例えば金属のような質感を持たせる(図1)など、高いリアリティをもって外観を操作することも可能になった。

このように、さまざまな色と形を備えた実世界上の物体に対して、投影する映像があたかもその表面上にあるかのような外観をつくりだすには、センシングによって投影像を立体物に合わせた形で制御する作業が必要となる。そこで求められるのが、(1)対象の形状を捉える、(2)投影用の映像が立体物に上手く重ねて貼り合わせられるよう、対象に合わせた変形・陰影情報を持たせる、(3)映像をプロジェクタで投影するという手順だ。

図1. 近年は立体物の形状に合わせて細かく補正した画像を投影する高度なプロジェクションマッピングにより、高いリアリティをもって外観の印象を操作できるようになっている。動いている物体への投影も可能。しかし、投影対象となる物の位置を把握するため、対象物にマーカーを付ける必要があった。写真のウサギの人形表面に見える白い点がマーカー。

図1. 近年は立体物の形状に合わせて細かく補正した画像を投影する高度なプロジェクションマッピングにより、高いリアリティをもって外観の印象を操作できるようになっている。動いている物体への投影も可能。しかし、投影対象となる物の位置を把握するため、対象物にマーカーを付ける必要があった。

図1.
近年は立体物の形状に合わせて細かく補正した画像を投影する高度なプロジェクションマッピングにより、高いリアリティをもって外観の印象を操作できるようになっている。右側写真のウサギの人形のように動いている物体への投影も可能。しかし、投影対象となる物の位置を把握するため、対象物にマーカーを付ける必要があった。左側写真のウサギの人形表面に見える白い点がマーカー。

特に、最新の技術として、動いている物体に対してプロジェクションマッピングを行うダイナミックプロジェクションマッピングが注目を集めているが、その実現の決め手になるのがスピードである。

このダイナミックプロジェクションマッピングは、(1)カメラなどで動いている投影対象の位置や形状を認識(センシング)し、(2)捉えた対象物にぴったりと重なり合う変形・陰影情報を持たせた映像をリアルタイムで生成し、(3)刻々と移り変わる対象物の位置に合わせて映像を投影するという手順で行われる。リアリティのある投影を行うには、素早いセンシング、画像生成、投影によって、投影像と運動物体の間のずれを、人間が知覚できない範囲に収めることが重要となる。

そこで従来では対象物を平面に限定したり、センシングを高速化したりするために、図1に示すように対象にマーカーを付けなければならないといった制約があった。

本研究グループではこうした制約を解消するため、プロジェクタを映像提示だけでなく、センシング用途にも併用することに着目。プロジェクタとカメラを連携するセンシングは、強力な役割を果たすことを知られていながら、ダイナミックプロジェクションマッピングでは十分に活用されてこなかった。このようなセンシングを導入し、マーカー不要で、動いている対象にも高度なプロジェクションマッピングが行えるプロジェクタの開発を目指した。

研究の手法と成果

(1)RGB画像とIR画像を同時に、高速で投影できるプロジェクタの考案と設計

プロジェクタとカメラを並べたプロジェクタ・カメラシステム[用語9]は3Dセンシングの基本的な手法であり、プロジェクタで既知のパターンを空間中に投影しながら、その反射像をカメラで撮像することによって、さまざまな空間情報を、マーカーを使わず効率的に取得することができる。

しかし、ダイナミックプロジェクションマッピングにおいては、こうしたセンシングが今まで十分に利用されてこなかった。その理由は、センシングと投影を高速で処理するため、センシング用の投影と映像ディスプレイ用の投影を同時に実施しようとする際に、従来の技術では互いを阻害しない形で実現するのが難しかったためである。

本研究グループでは、センシング用の投影に、人の目では知覚できない赤外線を使ったIR画像を用いることで、この課題が解決できるのではないかと考え、RGB画像とIR画像を同時に、高速で投影できるプロジェクタの設計に取り組んだ。図2が、そのプロジェクタの光学系システムである。

図2. RGB+IR画像を高速で同時に投影する、本プロジェクタの光学系システム
図2.
RGB+IR画像を高速で同時に投影する、本プロジェクタの光学系システム

同プロジェクタは、DLP®(Digital Light Processing)[用語10]投影方式を用いた、DLP®デジタルマイクロミラーデバイス[用語11]を2基搭載しており、各デバイスにはそれぞれ1,024×768個の鏡を使用している。これらのデバイスにより、24 bitのRGB画像と8 bitのIR画像を、同時に制御することができるようにした。さらに、RGB画像とIR画像の照明光学系を分離し、デジタルマイクロミラーデバイスの反射後に像を統合することによって、コンパクトな構成と高輝度の投影を達成した。

図3. 今回新たに開発した高速RGB+IRプロジェクタ。46 cm×28 cmのコンパクトなボディに、RGB画像とIR画像の同時投影に必要なデバイスが搭載されている。
図3.
今回新たに開発した高速RGB+IRプロジェクタ。46 cm×28 cmのコンパクトなボディに、RGB画像とIR画像の同時投影に必要なデバイスが搭載されている。

(2)RGB画像とIR画像の同軸位置合わせ技術の新規開発と、高速投影を可能にする技術の開発

プロジェクタの応用展開を踏まえた場合、2種の別々のデバイスから生成されたRGB画像とIR画像を高い精度で重ね合わせる必要がある。そこで本研究では、両画像を重ね合わせる同軸位置合わせのシステム開発に取り組み、本プロジェクタに組み込まれる光源やデジタルマイクロミラーデバイスに最適化された光学系を独自に設計することによりこれを達成。RGB画像とIR画像を、ほぼずれることなく投影できるようにした。

また、応用展開に必須のスピード化を実現するため、超高速のデジタルマイクロミラーデバイスの制御と光源の変調を高精度に連携させ、最大925 fpsまでの高フレームレート投影を実現。さらに独自の通信インタフェースにより、映像データの転送も高速化し、わずか数ミリ秒でコンピュータからプロジェクタへの映像転送から投影までを完了することができるようにした。

(3)開発プロジェクタを使った投影と機能検証

最後に、開発プロジェクタを用いた投影と、機能検証を行った。

図4は、本プロジェクタを用い、立体物にRGB画像とIR画像の投影を同時に行った結果を撮影した写真である。中央の写真は人間の目では知覚できないIR画像は感知せずにRGB画像のみを捉えるカメラで撮影したもので、実際の人間の目にも同じような映像が見えることとなる。しかし実際は、右側のIR画像のみを感知するカメラが撮影した写真のように、IR画像の投影が行われており、その投影結果をプロジェクタに搭載されたカメラで撮影することによって、マーカーを使わずにセンシングが行えるようになっている。

  • 本プロジェクタによる画像投影を行った立体物
  • 本プロジェクタによる画像投影を行った立体物にRGB画像とIR画像を同時に投影しながら、RGB画像のみを撮像可能なカメラで撮影した写真
  • 本プロジェクタによる画像投影を行った立体物にRGB画像とIR画像を同時に投影しながら、IR画像のみを撮像可能なカメラで撮影した写真
図4.
本プロジェクタによる画像投影を行った立体物()と、同立体物にRGB画像とIR画像を同時に投影しながら、それぞれRGB画像のみを撮像可能なカメラで撮影した写真(中央)、およびIR画像のみを撮像可能なカメラで撮影した写真()。

図5は、本プロジェクタを用い、人の目に見えるRGB画像と目に見えないIR画像として、格子状をしたチェスボードのパターンを同時に投影し、RGB画像とIR画像の双方を撮影できるカメラで捉えた写真である。

14倍に拡大した右の写真を見てもずれはごくわずかで、2枚のチェスボードのパターンを、高精度で重ね合わせながら投影できていることが確認できる。

図5. 同じチェスボードのパターンのRGB画像とIR画像を同時に投影した結果を捉えた写真(左)。右は写真の一部を14倍に拡大したもので、2枚のチェスボードのパターンが、ほぼずれることなく投影できていることが分かる。
図5.
同じチェスボードのパターンのRGB画像とIR画像を同時に投影した結果を捉えた写真(左)。右は写真の一部を14倍に拡大したもので、2枚のチェスボードのパターンが、ほぼずれることなく投影できていることが分かる。
図6. RGB画像とIR画像を、本プロジェクタを用いてスクリーン上に925 fpsで投影している様子。右側のモニタ上には、RGB画像のみを捉えるカメラで撮影した投影像(モニタ内右)と、IR画像のみを捉えるカメラで撮影した投影像(モニタ内左)が表示されている。このように、スクリーンには2種類の画像が投影されているが、IR画像は人間には見えないため、この不可視の投影像を空間センシングに利用することができる。
図6.
RGB画像とIR画像を、本プロジェクタを用いてスクリーン上に925 fpsで投影している様子。右側のモニタ上には、RGB画像のみを捉えるカメラで撮影した投影像(モニタ内右)と、IR画像のみを捉えるカメラで撮影した投影像(モニタ内左)が表示されている。このように、スクリーンには2種類の画像が投影されているが、IR画像は人間には見えないため、この不可視の投影像を空間センシングに利用することができる。

以上で示したように、本プロジェクタではRGB画像とIR画像を、高速に、重ね合わせながら投影することに成功した。その結果、目に見えない赤外線によるIR画像を使ったプロジェクタ・カメラシステムによるセンシングを行いながら、その結果に基づいた目に見えるRGB画像の制御が行えるようになった。

今後の展開

センシングのための投影映像とディスプレイのための投影映像を赤外域のIR画像と可視域のRGB画像に分けながら、両者を互いに阻害しない形で同時かつ高速に実行することができる本プロジェクタの最初の応用事例として、ダイナミックプロジェクションマッピングへの導入を検討している。

これまでのダイナミックプロジェクションマッピングでは、マーカーが付けられた対象物しか外観を変えられないなどの制約があったが、そうした制約を打破することで、応用範囲が広がることが期待できる。

また、プロジェクタ・カメラによるセンシングは、さまざまな空間・物理情報の取得に利用可能であるため、プロジェクションマッピングのさらなる強化も今後の展開として目論んでいる。

さらに応用分野として、エンターテイメントやアート、広告やファッションなどのビジネス分野、拡張現実分野、作業支援や医療支援など、幅広い社会実装にも着手していく予定である。

付記

本研究成果は、日本のJST SICORP JPMJSC1808とドイツのBMBF 01DR18009A and 9Bの支援のもとで行われた。

用語説明

[用語1] 赤外線 : 可視光線よりも長い波長を持ち、人間の目では見ることができない光線(電磁波)。

[用語2] プロジェクションマッピング(projection mapping) : 凹凸のある壁面、また建物やオブジェといった立体物にプロジェクタを使って映像を投影する技法。「projection(投影)」と「mapping(位置づけること)」の合成語。投影対象となる立体物に合わせ、投影画像をあらかじめ変形して投影することで対象物と投影像をぴったり重ね合わせるなどして、実世界の対象の外観を変容することもできる。

[用語3] fps(frame per second) : 日本語に訳せば、「1秒あたりのコマ数」。フレームレート(用語4)を表す単位。

[用語4] フレームレート : 動画などにおいて、1秒間あたりに何コマ(frame)を表示できるかを示す画面表示速度のこと。fps(frame per second)(用語3)という単位で表す。映画では24 fps、テレビでは30 fpsが多い。

[用語5] RGB(Red-Green-Blue color model) : 光の三原色である赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)を混色し、その配合比率を変えることによって、さまざまな色を映し出す色の表現方法の一種。コンピュータやカラーテレビなどで画像を出力するのに用いられている。

[用語6] IR : 英語の「infrared(赤外線の)」「infrared ray(赤外線)」「infrared radiation(赤外線放射)」などを表す略語。

[用語7] 同軸位置合わせ : 異なる光学系から生成された2つ以上の画像の投影方向と投影範囲が完全に一致するように合わせること。

[用語8] ダイナミックプロジェクションマッピング : 変形したり動いたりしているものを対象として行われるプロジェクションマッピング。対象と投影像の間でずれが生じないようにするためには、高速でのセンシングと投影が必須となる。上記の今後の展開で述べられたマーカーレスの手法として、本研究チームが提案したDepth-aware dynamic projection mapping(※)がある。
(※)参考:渡辺研究室「高速RGB・IRプロジェクタを用いた深度情報に基づくダイナミックプロジェクションマッピング」

[用語9] プロジェクタ・カメラシステム : プロジェクタを使って既知のパターンを空間中に投影しながら、カメラで撮影したその反射像を分析することによって、立体物のセンシングを行うシステム。

[用語10] DLP®(Digital Light Processing) : アルミニウム製の小さな鏡を縦横の列状に並べ、それぞれの鏡の傾きを個別に制御することによって、投影画像を変化させるテキサス・インスツルメンツ社の技術。

[用語11] DLP®デジタルマイクロミラーデバイス : DLP®(用語10)技術を用いた映像投影用のデバイス。縦横の列状に並んだアルミニウム製の小さな鏡を個別制御して投影画像を変化させることができる。

発表情報

発表会議 :
発表タイトル :
High-Speed RGB+IR Projector based on Coaxial Optical Design with Two Digital Mirror Devices
著者 :
Uwe Lippmann, Petra Aswendt, Roland Höfling, Kiwamu Sumino, Kunihiro Ueda, Yoshihide Ono, Hidenori Kasebe, Tohru Yamashita, Takeshi Yuasa, Yoshihiro Watanabe

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「多様性」について徹底的に「考える」 「第1回Taki Plaza講演会」を実施

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東京工業大学は、10月27日、Hisao & Hiroko Taki Plaza(ヒサオ・アンド・ヒロコ・タキ・プラザ 以下、Taki Plaza)において、第1回Taki Plaza講演会『「多様性」について徹底的に「考える」』を、学生支援センター未来人材育成部門、学務部学生支援課支援企画グループ、一般社団法人蔵前工業会共催のもと開催しました。

この講演会は、本学の卒業生で、株式会社ぐるなび取締役会長・創業者の滝久雄氏の支援を受けて立ち上げた、Taki Plazaを拠点として活動する東工大生を応援する「未来人材応援プロジェクト」の4つのSessionの内の「Session2 講演会」となります。

「未来人材応援プロジェクト」ポスター 屋嶋さん作
「未来人材応援プロジェクト」ポスター 屋嶋さん作

講演会ポスター 柳瀬さん作
講演会ポスター 柳瀬さん作

Taki Plazaのコンセプトである「多様性」に鑑み、『「多様性」について徹底的に「考える」』をテーマとし、多様な分野の専門家による講演を行いました。対面で62名、オンライン配信で153名、延べ215名の参加がありました。

講演会の会場となった Taki Plaza B2Fイベントスペース

講演会の会場となった Taki Plaza B2Fイベントスペース

司会は、プロジェクトのメンバーであり、Taki Plaza活用検討として開催された学生ワークショップ「東工大グランプリ」の立ち上げに関わった理学院化学系化学コースの屋嶋悠河さん(修士課程2年)と、Taki Plazaを運営する学生団体・Taki Plaza Gardener(タキプラザ・ガーデナー)のリーダーで環境・社会理工学院融合理工学系の柳瀬梨紗子さん(学士課程2年)が務め、開会を宣言しました。
次に水本哲弥教育担当理事・副学長が、「新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、思うような交流イベントが消化しきれない時期が続きましたが、今後Taki Plazaがにぎやかで多くの学生の集まる空間になることに思いを馳せ、第1回目のTaki Plaza講演会を開催することといたしました」と開会の言葉を述べました。

開会宣言をする屋嶋さん(右)と柳瀬さん(左)
開会宣言をする屋嶋さん(右)と柳瀬さん(左)

開会挨拶をする水本理事・副学長
開会挨拶をする水本理事・副学長

第1部では、滝氏、株式会社隈研吾建築都市設計事務所主宰の隈研吾氏、元素戦略研究センターの細野秀雄特命教授が登壇し、『「多様性」について徹底的に「考える」』について話しました。

学生帽姿の滝氏
学生帽姿の滝氏

はじめに、Taki Plaza創設にあたり寄付及び多大な尽力をした滝氏が、卒業式以来に被ったという学生帽姿で、「授業以外でも留学生に積極的に声をかけ、共に食事をし、お互いの文化について話し合うなど、日々の生活の中で自然に留学生とつながることが東工大生の多様性にもつながっていくことだと思います」とユーモアたっぷりに話し、会場は大いに盛り上がりました。

Taki Plaza設計者である隈氏は、「コロナ禍で、都市で多様性とは真逆のストレスにあふれた世界に住んでいた人たちの生活が変わり始めました。超高層ビルによって失われた「野原」が戻ってき始めています。「野原」とは、いろいろ人が自由に歩きまわることができ、多様性が許容できる場所です。Taki Plazaにはその「野原」になってほしい」と話し、実際、Taki Plazaの屋根に植えた緑が、オープン当初より育ち、日々「野原」に近づいている様子を大変喜ばれていました。

第1部の最後は、細野特命教授が登壇し、学生との質問形式で、物質と材料について、元素戦略、IGZO薄膜トランジスタ(TFT)、つばめBHB等、自身の研究について話しました。また、優れた研究者の育つ条件として、魅力的な課題(大きな社会的インパクトと未開拓でワクワクする新領域)、開放性(自由で徹底的な議論ができる学会)、下克上(若くても成果次第で大きな自由度)の3つを挙げ、学生に「生意気になってほしい」、「生意気というのは自分の意見を強く言えるということ。強く言ったことに責任を持つために一生懸命研究に励んでほしい」と伝え、学生にエールを送りました。

参加した学生はメモをとったり、スライドをみて感嘆の声を上げたり、登壇者の話に熱心に耳を傾けていました。

シンガポールの「Founders’ Memorial」の説明をする隈氏
シンガポールの「Founders’ Memorial」の説明をする隈氏

元素戦略について説明する細野特命教授
元素戦略について説明する細野特命教授

第2部では、事前に学生から集めた質問をもとに、司会の屋嶋さんと柳瀬さんがモデレーターを務め、第1部の講演者、滝氏、隈氏、細野特命教授に加え、水本理事・副学長を交えてパネルディスカッションを実施しました。
バトンリレー式にパネラーに質問しながら進めていく形式をとり、「建築と材料では全く分野が異なると思いますが・・」、「いえいえ、材料でイノベーションがあることでよい建築ができるので材料と建築は実は非常に関係が深いのです」等、専門分野の異なるトップランナー同士が楽しそうにコメントをし、この講演会でこその貴重な話をたくさん聞くことができました。

パネルディスカッション

パネルディスカッション

閉会挨拶をする岡村副学長
閉会挨拶をする岡村副学長

最後に、学生支援センター長・岡村哲至副学長が「多様性について考えると、個についても考えなければならないことに気付きました。多様性のなかで自分自身はどの立ち位置にいるのか改めて考え直す良い機会となりました」と述べました。
Taki Plaza講演会は学生を対象に今後も継続的に開催していく予定です。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

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お問い合わせ先

学務部 学生支援課 支援企画グループ

E-mail : gak.sie@jim.titech.ac.jp

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