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益学長、永年勤続の職員12名を表彰 2021年度永年勤続者表彰式

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東京工業大学は、11月17日、2021年度永年勤続者表彰式を行いました。この表彰は、永年、職務に精励した職員を対象とするものです。永年勤続とは、他の国立大学等を含む勤続20年、うち本学勤務が10年以上を指します。今回表彰された方は常勤職員9名、無期雇用職員3名の計12名でした。なお、本年度より大学教員は表彰の対象外となりました。

表彰式では、益一哉学長から一人ひとりに表彰状の授与が行われ、永年の功労に対して祝辞が贈られました。表彰式は新型コロナウイルス感染症対策のため、常勤職員、無期雇用職員に分かれて行いました。

常勤職員の表彰式
常勤職員の表彰式

益学長から表彰される永年勤続の職員
益学長から表彰される永年勤続の職員

今回表彰された方々は次のとおりです。

所属

職名

氏名

広報課広報推進グループ

グループ長

池谷大輔

広報課広報推進グループ

主任

三瓶由紀子

契約課大岡山第1契約グループ

グループ長

小倉弘樹

国際連携課企画・調整グループ

グループ長

鶴島裕子

研究推進部研究資金支援課

課長

植松明彦

研究推進部産学連携課

専門職

楠瀬悟之

情報基盤課情報セキュリティ対策グループ

主任

森谷寛

リベラルアーツ研究教育院業務推進課リベラルアーツ研究教育院事務グループ

主査

高田友秀

オープンファシリティセンター

技術専門員

庄司大

科学技術創成研究院

事務限定職員

三村育久代

主計課総務・監査グループ

事務限定職員

中村惠理子

ものつくり教育研究支援センター

事務限定職員

横小路京子

(所属順・敬称略)

常勤職員の記念撮影

常勤職員の記念撮影

無期雇用職員の記念撮影

無期雇用職員の記念撮影

お問い合わせ先

総務部 ⼈事課 労務室 ⼈材育成グループ

E-mail : jin.iku@jim.titech.ac.jp


世界初!元素種を識別して材料のミクロ構造を解析するノイズ耐性の高い新解析法を開発 将来的なデバイス材料のミクロ構造研究に活路を開く

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要点

  • 広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルから材料のミクロ構造を解析するため、電子波多重散乱理論に基づいたスパースモデリングとベイズ推定を組み合わせたノイズ耐性の高い新解析法を開発しました。
  • 本解析法は、ノイズ耐性が高いため、X線吸収強度が弱くこれまで困難であった薄膜試料のミクロ構造の解析が実現できることから、光スイッチ材料として期待されるイットリウム酸水素化物薄膜に応用し、イットリウム周りの酸素の配位構造を決定しました。
  • 本解析法は、材料の元素種の情報だけで原子間距離を正しく解析し、材料のミクロ構造を解明することができ、新しい薄膜デバイス材料の研究に貢献することが期待されます。

概要

東京工業大学 物質理工学院の清水亮太准教授、一杉太郎教授らは、熊本大学産業ナノマテリアル研究所の熊添博之 特任助教、赤井一郎 教授などの共同研究グループとともに、イットリウム酸水素化物(YHO)薄膜[用語1]広域X線吸収微細構造(EXAFS)[用語2]スペクトルに、電子波多重散乱理論[用語3]に基づいた基底関数[用語4]を用いたスパースモデリング[用語5]ベイズ推定[用語6]を組み合わせた新しい解析法を適用しました。その結果、YHO薄膜のイットリウム周りに存在する酸素原子が四面体配位[用語7]していることが明らかになり、ベイズ推定により、データに重畳するノイズをモデリングして、解析困難なノイズの大きいデータからミクロ構造[用語8]を解析することに成功しました。この手法は機能性薄膜材料を始めとする様々な物質のミクロ構造解明への応用が期待されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST 熊本大学 赤井一郎 教授(JPMJCR1861)、CREST 東京大学 岡田真人 教授(JPMJCR1761)、CREST 物質・材料研究機構 岩崎悠真 主任研究員(JPMJCR21O1)、さきがけ 筑波大学 五十嵐康彦 准教授(JPMJPR17N2)、さきがけ 東京工業大学 清水亮太 准教授 (JPMJPR17N6))、文部科学省科学研究費助成事業(東京工業大学 清水亮太 准教授(JP19H02596、JP19H04689)、東北大学 折茂慎一 教授(JP18H05513)、東京工業大学 一杉太郎 教授(JP18H05514))および旭硝子財団の支援を受け、あいちシンクロトロン光センター イエザーリ・ファビオ 研究員、同 岡島敏浩 副所長、東京工業大学 小松遊矢(博士後期課程2年)、日本原子力研究開発機構 松村大樹 研究主幹、量子科学技術研究開発機構 齋藤寛之 上席研究員、熊本大学 岩満一功 技術主任および九州シンクロトロン光研究センター 妹尾与志木 所長の共同研究にて行いました。本研究成果は米国科学雑誌「AIP Advances」に12月10日午前10時(米国東部時間)に掲載されました。

研究成果

デバイス材料の機能高度化のためにはミクロ構造の解析が必須で、広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルの計測が行われます。しかし、薄膜試料ではX線の吸収強度が弱いためEXAFSのS/N比[用語9]が小さく、ミクロ構造の高精度な解析は困難でした。

その課題を突破するために、まず複素Hedin-Lundqvistポテンシャル[用語10]による光電子波[用語11]2体多重散乱理論[用語12]に基づく基底関数を用いて、EXAFSデータのスパースモデリングを行いました。さらに、その解析結果から、ベイズ自由エネルギー[用語13]を小さくするように最適化することでデータに重畳するノイズを推定し、解釈しやすい動径分布関数[用語14]を得る方法を開発しました。多重散乱理論では、元素種によって光電子波の散乱振幅[用語15]が異なることと、散乱に伴う光電子波の位相変化[用語16]・振幅減衰を量子力学[用語17]に基づいて評価することから、原子間距離を正しく推定することが可能となりました。

この方法の有効性を示すため、光スイッチ材料[用語18]として期待されるイットリウム酸水素化物エピタキシャル薄膜[用語19]のEXAFS解析に適用しました。その結果、イットリウム原子と酸素原子を識別して、それぞれの動径分布関数を正しい原子間距離で推定することに成功しました。なお、EXAFSスペクトルは大型放射光施設SPring-8[用語20]のQST極限量子ダイナミクスIIビームライン(BL14B1)にて測定されました。

図1(a)の散布図(白丸)は計測データで、薄膜試料のため重畳ノイズが大きいことが分かります。図1(b)と(c)は、その計測データから、今回新たに開発した方法で得られたイットリウム(Y-Y)と酸素(Y-O)それぞれの動径分布関数で、イットリウム原子近傍のミクロな原子配位構造を表しています。図1(a)の赤線は、得られた動径分布関数で得られる再現データで、ノイズまでを再現する過学習[用語21]をさけて、データを適切に再現していることが分かります。図1(b)と(c)の横軸である原子間距離は、フーリエ変換[用語22]等の従来法と異なり原子間距離を正しく評価できていることから、イットリウムの最近接原子である酸素との原子間距離d1と、第二近接原子のイットリウム原子との原子間距離d2の比から、図2の様にイットリウム周りで酸素原子が四面体配位していることが推定されました。

図1 EXAFSスペクトルの解析結果。(a)実験データと解析による再現結果、(b、c)解析で得られたイットリウム(b)と酸素(c)の配位数分布。(論文の図3を簡略化のため改変)
図1
EXAFSスペクトルの解析結果。(a)実験データと解析による再現結果、(b、c)解析で得られたイットリウム(b)と酸素(c)の配位数分布。(論文の図3を簡略化のため改変)

図2 イットリウム周りで酸素原子が四面体配位している模式図。

図2. イットリウム周りで酸素原子が四面体配位している模式図。

このように、開発したEXAFS解析法は

1.
事前に結晶構造の情報を必要とせず、元素種の情報だけで解析可能
2.
2体多重散乱理論に基づくことから、原子間距離を正しく推定可能
3.
ベイズ推定の枠組みに基づきノイズ耐性が高い

の特徴を持つことから、従来法では困難であった薄膜試料中の局所構造の推定が可能となり、新たな発展が期待できます。

共同研究における各研究機関の役割

  • 東京工業大学:試料作製、データ測定、論文作成
  • 熊本大学:データ解析、論文作成
  • 筑波大学:データ解析、論文作成
  • 科学技術振興機構:データ解析、論文作成
  • あいちシンクロトロン光センター:データ解析、論文作成
  • 日本原子力研究開発機構:データ測定、論文作成
  • 量子科学技術研究開発機構:データ測定、論文作成
  • 九州シンクロトロン光研究センター:論文作成
  • 東京大学:データ解析、論文作成
  • 物質・材料研究機構:データ解析、論文作成

用語説明

[用語1] イットリウム酸水素化物(YHO)薄膜 : イットリウムに酸素と水素が結合した層状物質。

[用語2] 広域X線吸収微細構造(EXAFS) : 原子のX線吸収によって放出される自由電子波と、それが近接原子によって散乱・回折された自由電子波との干渉現象を利用した構造解析法。干渉パターンが近接原子との距離で劇的に変化することから、原子スケールのミクロ構造を解析するために汎用的に用いられています。

[用語3] 電子波多重散乱理論 : X線吸収によって放出される電子波の散乱を記述した理論。周囲には無数の散乱される対象が存在し、また複数回散乱されるような多重な散乱を扱うことができます。

[用語4] 基底関数 : 波の重ね合わせの原理に基づいて、様々な波形を基本的な波形の足し合わせで再現した際に用いられる、基本的な波形を表す関数を基底関数といいます。

[用語5] スパースモデリング : 現象を説明する要因は少数(スパース)であるという仮定に基づき、適切な規範に従ってデータに含まれる主要因を抽出する方法。少ない情報から全体像をつかむことができ、幅広い分野で利用されています。

[用語6] ベイズ推定 : 結果から原因を推定する統計学であるベイズ統計学の考え方に基づいた推定方法の1つ。データ分析では、計測データのモデルを立て、そのモデルのパラメータを求めるパラメータ推定が行われます。計測データとパラメータを共にランダムに得られるもの(確率変数)とみなし、パラメータが従う確率分布を求める手続きをベイズ推定と呼びます。パラメータの値に加えパラメータが従う確率分布を得られるため、パラメータの値が持つ不確かさを定量化できます。

[用語7] 四面体配位 : 注目原子を中心として、ある原子が四面体の頂点の位置に存在すること。この場合は、イットリウムを中心に4つの酸素が四面体の頂点に存在します。

[用語8] ミクロ構造 : 原子や分子が空間的に規則正しく配列した結晶が繰り返されている原子スケールの構造のこと。

[用語9] S/N比 : 計測スペクトルにおける信号とノイズの割合。ノイズが小さいほどS/N比が大きく信号の特徴がよく表れたデータとなります。

[用語10] 複素Hedin-Lundqvistポテンシャル : 入射粒子の散乱と吸収を表す複素数で記述されたポテンシャルで、実数部分が入射粒子の散乱を、虚数部分が吸収を表します。

[用語11] 光電子波 : 原子のX線吸収によって放出される自由電子波のこと。

[用語12] 2体多重散乱理論 : 散乱の対象をX線吸収によって放出される電子波との2体間のみに限定し、3体以上のさらに複雑な散乱経路による影響は少ないとした理論。

[用語13] ベイズ自由エネルギー : データに対する統計モデルと、パラメータに関する事前知識を表現する確率分布(事前確率分布)の組がどの程度相応しいかを表しており、情報量規準(統計モデルを評価する指標)として用います。

[用語14] 動径分布関数 : ある注目原子の周りに原子がどの様に分布しているかを表す関数。原子の分布を注目原子からの距離の関数として表します。

[用語15] 散乱振幅 : 波の特徴を表す物理量に振幅があり、振幅は波の1周期間での最大変位の絶対値で表されます。振幅は振動の大きさを表し、散乱振幅は散乱波の振幅のこと。

[用語16] 位相変化 : 波動などの周期的な現象において位相とは1周期中の位置を表す量のこと。ここでは、散乱により入射状態と散乱状態の位相が異なることを表します。

[用語17] 量子力学 : 光や電子などが粒子と波の2つの性質を併せもつことを理論づけた物理学。

[用語18] 光スイッチ材料 : 光信号の切り替えや振り分けに用いられる材料。本研究で注目しているイットリウム酸水素化物薄膜は太陽光の照射により電気抵抗率や可視光透過率が可逆的に変化するため、光スイッチ材料への応用が期待されています。

[用語19] エピタキシャル薄膜 : 種結晶となる単結晶基板上に堆積することで、下地の基板と結晶面をそろえて成長した薄膜のこと。

[用語20] SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。

[用語21] 過学習 : 学習精度がある一定まで向上すると、それ以降は学習していないデータへの対応力を失ってしまう現象。ここでは本来学習(再現)させたい特徴とは無関係なノイズまで再現することをいいます。

[用語22] フーリエ変換 : 周期的な振動波形を、余弦関数と正弦関数を基底関数として展開して再現する変換方法。振動性波形の振動周波数成分を分解するときに汎用的に用いられています。

論文情報

掲載誌 :
AIP Advances
論文タイトル :
Bayesian sparse modeling of extended X-ray absorption fine structure to determine interstitial oxygen positions in yttrium oxyhydride epitaxial thin film
著者 :
Hiroyuki Kumazoe1,*, Yasuhiko Igarashi2,3, Fabio Iesari4, Ryota Shimizu5,3, Yuya Komatsu5, Taro Hitosugi5, Daiju Matsumura6, Hiroyuki Saitoh7, Kazunori Iwamitsu8, Toshihiro Okajima4, Yoshiki Seno9, Masato Okada10,11, Ichiro Akai1,*
所属 :
1. 熊本大学 産業ナノマテリアル研究所
2. 筑波大学 システム情報系
3. 科学技術振興機構 さきがけ
4. あいちシンクロトロン光センター
5. 東京工業大学 物質理工学院
6. 日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター
7. 量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門
8. 熊本大学 技術部
9. 九州シンクロトロン光研究センター
10. 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻
11. 物質・材料研究機構 情報統合型物質・材料研究拠点
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

研究に関すること

熊本大学 産業ナノマテリアル研究所

教授 赤井一郎

E-mail : iakai@kumamoto-u.ac.jp
Tel : 096-342-3296

報道に関すること

熊本大学 総務部 総務課 広報戦略室

E-mail : sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp
Tel : 096-342-3269

筑波大学 広報室

E-mail : kohositu@un.tsukuba.ac.jp
Tel : 029-853-2040

あいちシンクロトロン光センター 管理課

E-mail : kanri@aichisr.jp
Tel : 0561-76-8331

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構
広報部 報道課長 児玉猛

E-mail : kodama.takeshi@jaea.go.jp
Tel : 029-282-0749

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構

E-mail : info@qst.go.jp
Tel : 043-206-3026

九州シンクロトロン光研究センター 利用企画課

E-mail : riyou@saga-ls.jp
Tel : 0942-83-5017

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室

E-mail : press@k.u-tokyo.ac.jp
Tel : 04-7136-5450

留学生が母国を紹介するイベント「レッツ・ゴー・グローバル」がオンラインにて再開

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東京工業大学学生支援センター未来人材育成部門は、11月より在籍する留学生が母国を紹介するイベント「レッツ・ゴー・グローバル(Let's Go Global)」をオンラインにて開始しました。
参加者は、様々な国について、本やインターネットでは得られない「リアル・ライフ」の情報に触れ、またプレゼンターの留学生自身も、母国について振り返る機会を持つことができます。

このイベントは、コロナ禍以前、東京工業大学留学生会(TISA)が対面で行っていましたが、長らく休止していました。今回、Zoomを使用したオンラインでの開催として、再開が実現しました。

11月11日のイベント当日、Zoomのミーティングルームには、事前にGoogle Formで登録をした参加者が集まり、留学生5名と教職員を含む11名が参加しました。

初回は、情報理工学院 情報工学系のウォン・ウェイジュン(Wong Wei Jun)さん(学士課程2年)がプレゼンターを務め、母国シンガポールについてスライドを用いながら英語で紹介しました。

シンガポールで話されている英語「シングリッシュ」について説明するウォンさん

シンガポールで話されている英語「シングリッシュ」について説明するウォンさん

初めにシンガポールという国の場所や気候、使用されている言語等の基本的な情報について説明しました。その後、母国にいる友人に撮影を依頼したという、現地のマーケットや一般的な住宅、サンセットが美しいビーチ等の写真を披露し、参加者はさながら現地で海外旅行をしている気分を味わいました。

後半には、現在海外へ行くことが難しい中でシンガポールを体験できる方法を提案し、日本でも気軽に購入できる食品、本格的な料理が味わえるレストラン、あるいはお薦めのYouTubeチャンネルやシンガポールの映画などについて紹介し、シンガポールを身近に感じられるような情報も多く盛り込まれていました。

日本で体験できるシンガポールの魅力を紹介するウォンさん

日本で体験できるシンガポールの魅力を紹介するウォンさん

プレゼン後には、引き続き英語でのQ&Aセッションも設けられました。参加者からは「シンガポールの若者として、留学に行くことをどう思うか」や「シンガポールと東京では、どちらの方が生活費がかかるか」等の質問があがり、ウォンさんは自身の意見と客観的な視点を含めながら真摯に答え、参加者との積極的な交流が見受けられました。

なお、司会進行はペルー出身の留学生で、理学院物理学系のタパラ・テハダ・ジュリオ・セサル(Tapara Tejada Julio Cesar)さん(学士課程3年)が務め、オープニングの挨拶からQ&Aセッションでのファシリテーションなど、イベントを快活に進行しました。

12月7日にはカメルーンからの留学生がプレゼンターとなり2回目が開催され、好評を博しました。今後もこのイベントは不定期で開催される予定です。

「レッツ・ゴー・グローバル」開催案内ポスター日本語

「レッツ・ゴー・グローバル」開催案内ポスター英語

「レッツ・ゴー・グローバル」開催案内ポスター

お問い合わせ先

学生支援センター 未来人材育成部門

E-mail : internationalstudentsupport@jim.titech.ac.jp

遺伝子の転写の「伸長」場所は動きやすいことを発見 生きた細胞の核の中で遺伝子が転写される場所のリアルタイム可視化に成功

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要点

  • 遺伝子のRNAへの転写は遺伝子発現の最初のステップである。今回、その転写を行う酵素(RNAポリメラーゼII)の活性化状態を、生きた細胞で検出し可視化するための遺伝子コード型蛍光プローブを開発した。
  • この蛍光プローブにより、生きた細胞の核の中における転写の場所と動態を解明することができた。特に、転写の「開始」と「伸長」は核の中でも別の場所で行われていることが示唆された。
  • 開発したプローブを組み込んだモデル動物の作製が可能となり、生体における個体発生や病態変化に伴う遺伝子発現の制御機構の解明が期待できる。

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の内野哲志大学院生(博士後期課程2年/科学技術創成研究院リサーチフェロー)、伊藤由馬助教(徳永万喜洋研究室)、科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの木村宏教授らは、九州大学 生体防御医学研究所の大川恭行教授との共同研究により、遺伝子のRNAへの転写を担う酵素であるRNAポリメラーゼIIの活性化型を、生きた細胞の核の中で可視化する蛍光プローブの開発に成功した。具体的には、活性化型のRNAポリメラーゼIIはリン酸化されており、このリン酸化を選択的に観察することで、生きた細胞の核の中で転写が行われる場所の動態を明らかにできた。特に、転写の「開始」と「伸長」は、核の中でも別の場所で行われていることを示唆する観察結果が得られた。

本研究で開発したプローブは、遺伝子コード型であるため、遺伝子発現の研究に広く応用可能であり、組織や個体レベルでの転写制御解析への活用、生体における個体発生や病態変化に伴う遺伝子発現の制御機構の解明が期待される。

本研究成果は2021年12月2日、細胞生物学雑誌「Journal of Cell Biology」にオンライン掲載された。

背景

生命を形作っている細胞においては、細胞の核の内部にある長大なDNAから、必要に応じて特定の遺伝子をRNAに読み取り(「転写」という)、その転写された遺伝情報を用いて、タンパク質を作り出す(「翻訳」という)作業が行われている(図1A)。ヒトなどの多細胞生物では、異なる機能を持つ多種類、かつ、数多くの細胞が働いているが、それらの中は、種類に応じて異なる遺伝子が読み取られ、異なるタンパク質が作り出されている。この転写から翻訳に至る遺伝子発現の過程をさかのぼり、それぞれの細胞において、どの遺伝子が発現するかをリアルタイムで観察できれば、その細胞の働き(機能)や形質がどのように維持・制御されているかを知ることができる。

多細胞生物の細胞核において、ほとんどの遺伝子の転写は、RNAポリメラーゼII(RNAP2)というタンパク質によって行われることが知られている。しかし、これまでの研究により、細胞核中に存在するRNAP2のうち、転写反応を行っているのは僅か20~25%程度であることが分かっている。そのため、蛍光タンパク質を融合したRNAP2を用いても、転写が行われている場所を追跡し特定することは困難だった。一方、転写に必要な活性化型のRNAP2は、C末端の繰り返し配列がリン酸化を受けており(図1B)、このリン酸化に特異的に結合する抗体を用いて化学固定した細胞(化学固定しているため生きてはいない細胞)を染色することで、転写中のRNAP2が検出できる。このような固定細胞を用いた免疫染色や転写直後のRNAの観察などから、転写は「転写ファクトリー」と呼ばれる核内の特定の場所で行われることが示唆されていた。転写される遺伝子は転写ファクトリーに集められ、転写の「開始」から「伸長」、「終了」まで、その過程に必要な一連の工程が効率よく進められるというモデルである。しかし、このような転写部位が生きた細胞内で実際に形成されているのかについては、不明だった。

図1 転写伸長型RNAポリメラーゼII(RNAP2) (A)DNAの遺伝情報はRNAへ転写される。(B)RNAを転写中のRNAポリメラーゼII(RNAP2)は、C末端領域の繰り返し配列中の2番目のセリン(S2)がリン酸化を受けている。S2がリン酸化されたRNAP2を特異的に検出することで、転写の場所を検出することができる。

図1. 転写伸長型RNAポリメラーゼII(RNAP2)

(A)DNAの遺伝情報はRNAへ転写される。(B)RNAを転写中のRNAポリメラーゼII(RNAP2)は、C末端領域の繰り返し配列中の2番目のセリン(S2)がリン酸化を受けている。S2がリン酸化されたRNAP2を特異的に検出することで、転写の場所を検出することができる。

研究成果

生きた細胞で、転写に必要な活性型RNAP2を検出するプローブ“RNAP2 S2ph-mintbody”の開発に成功

生きた細胞で活性化型RNAP2を特異的に検出するため、活性化の指標であるRNAP2繰り返し配列中の2番目のセリン(S2)のリン酸化(RNAP2 S2ph)(図1)に特異的な抗体をもとに、遺伝子コード型の生細胞プローブを開発した。このRNAP2 S2ph-mintbody(modification-specific intracellular antibody)と名付けられたプローブは、抗体の抗原結合部位を蛍光タンパク質と融合したもので、それをコードするDNAを細胞に導入することで、タンパク質として発現させることができる(図2A)。

抗体の多くは、その抗原結合部位を細胞内で安定に機能する形として発現させることができず、RNAP2 S2ph抗体の場合も18種類の中で機能したのは1つだけだった。また、その1つも安定性が十分でなかったため、いくつかのアミノ酸変異を導入して初めて実用化できた。

図2 mintbodyによる生きた細胞内の転写場所の可視化 (A)RNAP2 S2リン酸化(S2ph)修飾特異的生細胞プローブ。抗体の抗原結合にかかわる部位(可変領域、マゼンタ)のDNA配列に、蛍光タンパク質の配列を融合した。作製したRNAP2 S2ph-mintbodyをコードするDNAを細胞に導入すると、mintbodyが作られる。(B)生きたHeLa細胞核での転写の場所。RNAP2 S2ph-mintbodyの輝点に、RNAを転写中の活性化(S2リン酸化)型RNAP2が存在すると考えられる。スケールバーは5 µm。

図2. mintbodyによる生きた細胞内の転写場所の可視化

(A)RNAP2 S2リン酸化(S2ph)修飾特異的生細胞プローブ。抗体の抗原結合にかかわる部位(可変領域、マゼンタ)のDNA配列に、蛍光タンパク質の配列を融合した。作製したRNAP2 S2ph-mintbodyをコードするDNAを細胞に導入すると、mintbodyが作られる。(B)生きたHeLa細胞核での転写の場所。RNAP2 S2ph-mintbodyの輝点に、RNAを転写中の活性化(S2リン酸化)型RNAP2が存在すると考えられる。スケールバーは5 µm。

RNAP2 S2ph-mintbodyが、生きた細胞で正しく転写部位を検出できることを証明

開発したRNAP2 S2ph-mintbodyを生きたヒトHeLa細胞に発現させ、高解像度の共焦点顕微鏡で観察すると、核内で多数の輝点として検出できた。RNAP2 S2ph-mintbodyの輝点の数と大きさは、これまで固定細胞で解析された転写部位と類似していた。つまり、RNAP2 S2ph-mintbodyが、生きた細胞の中で転写部位を正しく検出していると推定できる。

また、それらの輝点は、細胞分裂時の染色体形成とともに消失し、細胞が2つに分裂して核が形成されたときに再び現れた。ヒト細胞では、細胞分裂時に転写が抑制されることから、RNAP2 S2ph-mintbodyの輝点は転写活性化されたRNAP2が存在する場所を正しく検出できていると推察した。このことを確認するため、細胞をRNAP2の転写伸長反応を阻害する薬剤やRNAP2の分解を促進する薬剤で処理したところ、RNAP2 S2ph-mintbodyの輝点は速やかに消失した。また、生化学的手法によってもRNAP2 S2ph-mintbodyの結合特異性が確認された。これらのことから、RNAP2 S2ph-mintbodyによって標識されている部位は、転写の場所であることが確認された(図2B)。

遺伝子の転写の「開始」と「伸長」は細胞の核の中でも別の場所で行われていることを発見

生きた細胞の核の中での転写の場所の性質を調べるために、RNAP2 S2ph-mintbodyとクロマチン[用語1]の動きを比較した。クロマチンは、凝縮し転写が抑制されているヘテロクロマチンと脱凝縮し転写されうるユークロマチンに大別されるが、RNAP2 S2ph-mintbodyの輝点(転写の場所)は、どちらのクロマチンよりも高い運動性を示した。また、RNAP2 S2ph-mintbodyの輝点と転写に関わる因子の局在との関係について解析したところ、RNAP2 S2ph-mintbodyの輝点は、転写の伸長に関係する因子と共局在する傾向がみられたのに対して、転写の開始に関係する因子とは離れて局在することが分かった。

これまで、「転写ファクトリー」では巨大な複合体中で転写の開始と伸長の両方が行われていると考えられていたが、本研究により、転写開始複合体形成の場所と実際に転写が行われている場所が異なることが示唆された(図3)。この知見は、生きた細胞内での転写の制御機構の基本原理の解明に一歩近づくものである。

図3 転写ファクトリー 転写が行われている場所(黄色)は細胞核内で動きやすく、転写準備(開始)中のRNAP2がいる場所(緑)とは異なっていると考えられる。

図3. 転写ファクトリー

転写が行われている場所(黄色)は細胞核内で動きやすく、転写準備(開始)中のRNAP2がいる場所(緑)とは異なっていると考えられる。

今後の展開

今回、生細胞で活性化型RNAP2のリアルタイム可視化に成功した。しかし、いつ、どこで、どのようにRNAP2がリン酸化を受けてRNAを転写しはじめるのか、転写を活性化させる因子はどのようにRNAP2のリン酸化に関与しているかなど、様々な疑問が残されている。今後も、生きた細胞内での動態解析を主軸に、転写制御機構の解明を行っていきたい。

また、本研究で開発したmintbodyプローブは遺伝子コード型であるため、そのプローブの遺伝子コードを組み込んだモデル生物を作製することができ、培養細胞だけでなく、組織や個体での転写活性化の検出も可能となる。このことは、今後、生体における個体発生や病態変化に伴う遺伝子発現の制御機構の解明に役立つと考えられる。

付記

本研究の成果は、運営費交付金、科学研究費助成事業[JP17H0417, JP17K17718, JP17KK0413, JP18H05527, JP19H03192, JP20H00456, JP20H04846, JP20K15755, JP20K06484, JP21H00232, JP21H04764]、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業( CREST )[JPMJCR16G1, JPMJCR20S6]により得られたものである。

用語説明

[用語1] クロマチン : 真核生物の細胞核では、DNAはタンパク質と共に巨大な複合体として存在しており、この複合体をクロマチンと呼ぶ。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Cell Biology
論文タイトル :
Live imaging of transcription sites using an elongating RNA polymerase II–specific probe
著者 :
Satoshi Uchino, Yuma Ito, Yuko Sato, Tetsuya Handa, Yasuyuki Ohkawa, Makio Tokunaga, and Hiroshi Kimura
DOI :

生命理工学院

生命理工学院 ―複雑で多様な生命現象を解明―
2016年4月に発足した生命理工学院について紹介します。

生命理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター

教授 木村宏

E-mail : hkimura@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5742 / Fax : 045-924-5973

九州大学 生体防御医学研究所

教授 大川恭行

E-mail : yohkawa@bioreg.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-642-4534 / Fax : 092-642-6526

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

九州大学 広報室

E-mail : koho@jimu.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

「港区と国立大学法人東京工業大学との連携協力に関する基本協定」を締結 地域社会および学術研究の更なる発展をめざして

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東京工業大学と港区は、各分野で専門的な知見を有する教員の港区の会議体への参加や、東京工業大学附属科学技術高等学校による港区の地域事業への参画など、連携した取組を進めてきました。

これまでの連携協力関係をより強固で継続的なものとし、さらに発展させるため、「港区と国立大学法人東京工業大学との連携協力に関する基本協定」を12月13日に締結しました。両者が互いに有する資源を活用し、積極的に連携協力することにより、地域活性化及び産業振興、教育活動等を展開し、地域社会及び学術研究の発展につなげます。

締結式(左から益一哉学長、武井雅昭港区長)

締結式(左から益一哉学長、武井雅昭港区長)

主な連携分野の概要

  • 地域活性化に関する分野
    東工大附属高校による港区の地域事業への参画や、港区の取組への東工大の知見の提供など、地域活性化に関する連携を推進
  • 産業振興に関する分野
    港区立産業振興センター(港区芝5丁目:2022年4月開設予定)と東工大の田町キャンパス内の起業家支援拠点※1、2 の連携など、両者の資源を活用し、産業振興に関する取組を推進
  • 教育活動に関する分野
    東工大が保有する科学技術の先進的な知見やノウハウを活用し、港区立みなと科学館や学校教育に関する連携など、教育活動に関する取組を推進

東工大附属高校が参画する区の事業の様子(企業等への取材を通じSDGsの理解を深める)
東工大附属高校が参画する区の事業の様子
(企業等への取材を通じSDGsの理解を深める)

※1
東工大の田町キャンパスでのスタートアップエコシステムの取組
※2
キャンパス・イノベーションエコシステム構想(キャンパス革新オフィス)

お問い合わせ先

企画・国際部 社会連携課 社会連携グループ

E-mail : sya.sya@jim.titech.ac.jp

取材申込先

総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

酵素反応が可能な細胞サイズの相分離DNAカプセルの構築に成功 多機能な細胞型分子ロボット・人工細胞の構築に期待

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要点

  • DNAを材料に細胞サイズのカプセル構造(DNAカプセル)の構築に成功
  • DNAカプセルの表面には相分離現象で形成された様々な模様があり、形成される模様を変えられることを初めて実証
  • DNAカプセルは酵素反応で分解することが可能
  • 将来的には微小な環境で働く分子システム開発への貢献に期待

概要

細胞のようなマイクロ(100万分の1メートル)サイズの小さな機能的システムを作るためには、自己の内外を隔てる区画構造(カプセル構造)が重要です。従来の研究では、人工細胞膜がカプセル構造として用いられてきました。しかし、人工細胞膜を構成するリン脂質は、設計性に乏しいという弱点がありました。

東北大学 学際科学フロンティア研究所 佐藤佑介 助教、東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 瀧ノ上正浩 准教授の研究グループは、情報分子DNAを人工的に設計することで、細胞サイズのカプセル構造「DNAカプセル」の構築に成功しました。DNAカプセルの表面には相分離現象で形成された“模様”(水玉やストライプ)があり、模様を利用してDNAカプセルの一部に望みの機能(分子計算機や分子駆動装置)を導入することなどが期待できます。また、研究グループは、DNAの塩基配列設計や混ぜる量などを変えることで、カプセル表面の模様を変えられることを初めて実証しました。さらに、人工細胞膜の裏側にDNAカプセルを形成したり、酵素によりDNAカプセルを分解できたりすることも示しました。これらの成果は、将来的に、薬剤送達システム(DDS)や医療用分子ロボットの開発、人工細胞の構築などへ寄与が期待できます。

この研究成果は米国化学会刊行の「JACS Au」誌のオンライン版で2021年11月29日に先行公開され、 2022年1月24日発行の第2巻1号に掲載される予定です。また同号の表紙(図1)に選ばれています。

図1. DNAカプセルのイメージ図。配列を人工的に設計したDNAで作られたナノメートル(10億分の1メートル)サイズの構造(図中青と緑色のY字型の構造)が互いに結合することで、DNAカプセルが作られる。DNAカプセルはその表面に様々な模様を持っており、DNAの配列設計や混ぜる比率などによって模様が変化する。DNAカプセルは、人工細胞膜の裏側に作ったり(図中左上)、酵素で分解したり(図中上)することもできる。
図1.
DNAカプセルのイメージ図。配列を人工的に設計したDNAで作られたナノメートル(10億分の1メートル)サイズの構造(図中青と緑色のY字型の構造)が互いに結合することで、DNAカプセルが作られる。DNAカプセルはその表面に様々な模様を持っており、DNAの配列設計や混ぜる比率などによって模様が変化する。DNAカプセルは、人工細胞膜の裏側に作ったり(図中左上)、酵素で分解したり(図中上)することもできる。

背景

細胞膜は、細胞の中と外を隔てるために必要不可欠な構造です。細胞膜には細胞に必要なものを取り込んだり、細胞間で情報をやり取りしたりなど、重要な機能が多く備わっています。そして、細胞膜で覆われたマイクロサイズのカプセル内で起こる化学反応を利用して、細胞は様々な機能を実現しています。

細胞のような人工物を作る研究は、合成生物学や人工細胞工学、分子ロボティクスなどの研究分野で進められてきました。従来の研究では、リン脂質を主成分に持つ人工細胞膜を使ったカプセル構造を用いていました。天然の細胞膜が持つ特徴の一つに構成分子の不均一な分布があり、脂質やタンパク質などの分子が局所的に集まって膜ミクロドメイン[用語1]と呼ばれる領域を形成していると考えられています。人工細胞膜でもリン脂質の相分離[用語2]により、リン脂質が不均一に分布した“模様”を観察することができます。その一方で、リン脂質は分子自体を設計することが難しく、人工細胞膜を使ったカプセル構造を機能的にするには、機能性分子をリン脂質に修飾したり、機能を持ったリン脂質を特別に合成したりする必要がありました。そのため、機能を持ったカプセル構造を構築するためには、より設計性の高い分子でカプセル構造を作る方法の開発が必要でした。

DNAは一般に遺伝情報を担う分子として知られています。DNAが持つ性質に、4種類の塩基(A、 T、 G、 C)の配列に従って二重らせんを形成するというものがあります。この性質をうまく利用することで、DNAをモノづくりのための材料として使うことができます。例えば、複数のDNAのどことどこが結合するかを配列設計で指定すれば、ほぼ任意の形のナノメートルサイズの構造を作ることができます。さらに、ナノ構造どうしが結合するように設計すれば、マイクロサイズの構造もDNAで作ることができます。そこで、研究グループはDNAが持つ設計性をうまく利用することで、DNAを材料に細胞サイズのマイクロカプセル(DNAカプセル)を構築できるのではないかと着想しました。

研究成果

今回、研究グループは2種類のY字型のDNAナノ構造(Yモチーフと直交Yモチーフと名付けた単位構造)を設計しました(図2)。材料は同じDNAでも、塩基配列を緻密に設計することでナノ構造どうしの結合関係を制御することができます。具体的には、YモチーフはYモチーフとのみ結合し、直交Yモチーフは直交Yモチーフとのみが結合する設計(直交性[用語3]がある設計)となっています(図2)。

研究グループは、カプセル構造を構築するため球状の油中水滴の界面[用語4]を鋳型として、界面上でDNAナノ構造どうしを結合させました(図2)。正電荷を持つ界面活性剤[用語5]で油中水滴を覆うことで、負電荷を持つDNAを油中水滴の界面に吸着させることができます。この方法により、研究グループは、DNAナノ構造をカプセル状に組み上げることに成功しました。また、 Yモチーフと直交Yモチーフが相分離し、カプセル表面に様々な模様が形成されることを初めて発見しました(図2)。そして、Yモチーフと直交Yモチーフの混ぜる比率を変えたり、直交性を解消するようなDNAナノ構造を用いたりすることで、形成される模様を変更できることを示しました。これは、細胞膜のような不均一な性質を持つカプセル構造を人工的に設計・制御するための足掛かりとなる成果です。

図2. DNAカプセルの作製方法の模式図と油中水滴を鋳型として作られたDNAカプセルの顕微鏡画像。2種類のDNAナノ構造(Yモチーフと直交Yモチーフ)が油中水滴の界面上で結合することで、DNAカプセルが形成される。また、Yモチーフと直交Yモチーフは互いに結合しないため相分離し、DNAカプセル表面には様々な模様が形成される。
図2.
DNAカプセルの作製方法の模式図と油中水滴を鋳型として作られたDNAカプセルの顕微鏡画像。2種類のDNAナノ構造(Yモチーフと直交Yモチーフ)が油中水滴の界面上で結合することで、DNAカプセルが形成される。また、Yモチーフと直交Yモチーフは互いに結合しないため相分離し、DNAカプセル表面には様々な模様が形成される。

さらに、研究グループは、油中水滴を鋳型とする方法を発展させることで人工細胞膜の裏側でもカプセル構造を形成できることを示しました(図3)。加えて、形成されたDNAカプセルを油中水滴や人工細胞膜といった鋳型から取り出す方法を確立し、鋳型がなくてもDNAカプセルは壊れず構造が保たれることを証明しました(図4)。また、DNAカプセルは文字通りDNAのみで形成されているため、研究グループはDNA分解酵素を利用することでDNAカプセルを分解することに成功しました(図4)。これの結果から、DNA分解酵素に限らず、他の様々な生化学反応とDNAカプセルを組み合わせられる可能性が示されました。

図3. 人工細胞膜の裏側で形成されたDNAカプセル。リン脂質で覆われた油中水滴を用いることで、DNAカプセルを裏打ちに持つ人工細胞膜を調製できる。
図3.
人工細胞膜の裏側で形成されたDNAカプセル。リン脂質で覆われた油中水滴を用いることで、DNAカプセルを裏打ちに持つ人工細胞膜を調製できる。
図4. 鋳型から取り出されたDNAカプセルと酵素による分解。 DNAカプセルは鋳型から取り出された後も相分離により形成された模様を維持していた(図左側)。DNAカプセルを含む溶液にDNA分解酵素を加えると、数分でDNAカプセルが分解される様子が確認された(図右側)。
図4.
鋳型から取り出されたDNAカプセルと酵素による分解。 DNAカプセルは鋳型から取り出された後も相分離により形成された模様を維持していた(図左側)。DNAカプセルを含む溶液にDNA分解酵素を加えると、数分でDNAカプセルが分解される様子が確認された(図右側)。

今後の展開

DNAを利用することで、ナノ・マイクロ構造の構築にとどまらず、情報処理デバイスや刺激に応答して変形するデバイスを作ることもできます。このようなDNAデバイスとDNAカプセルを組み合わせることで、将来的には、刺激に応答した運動や、標的を認識してカプセルの中身を放出するなど、様々な機能を持ったDNAカプセルへの発展が期待され、医学、工学など多くの研究分野への寄与が見込めます。

この研究は、日本学術振興会・科学研究費助成事業(若手研究、国際共同研究加速基金、基盤研究(A)、基盤研究(S)、学術変革領域(A)「分子サイバネティクス」、学術変革領域(A)「ゲノムモダリティ」:Grant Number JP19KK0261, JP20K19918, JP20H05970, JP20H00619, JP20H05701, JP20K21828, and JP20H05935)、「東工大の星」支援【STAR】、NICAフェロー制度、旭硝子財団研究奨励の支援のもとで得られた成果です。また、この研究は、SDGsの目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に関連するものです。

用語説明

[用語1] 膜ミクロドメイン : 細胞膜中に形成していると考えられている斑点上の小さな領域のこと。特定の分子を斑点の中に集めることで、細胞膜は様々な機能を実現していると考えられている。代表的な例として、「脂質ラフトモデル」が挙げられる。

[用語2] 相分離 : 区別できる複数の相が形成される物理現象のこと。身近な例として、水と油の相分離がある。元々混じり合っていた混合物が、温度や圧力などを変えることで相分離する場合もある。

[用語3] 直交性 : 学問分野によって意味合いが異なるが、DNAの配列の場合、2種類の配列の間に高い選択性・排他性があることを意味する。

[用語4] 界面 : 2つの異なる物質が接する境界面のこと。コップに入れた水を考えた場合、水が空気に触れている部分が界面であり、水とコップが触れている部分も界面である。今回の研究の場合は、油の中にある水滴における「水と油の境界面」のことを指している。

[用語5] 界面活性剤 : 水と油のどちらにもよく馴染む性質を持つ分子のこと。両親媒性分子と呼ばれることもある。洗剤は界面活性剤の一種である。界面活性剤を含む油と少量の水を混合すると、界面活性剤に覆われた油中水滴が形成される。界面活性剤があることで、水と油の界面が安定になる。

論文情報

掲載誌 :
JACS Au
論文タイトル :
Capsule-like DNA hydrogels with patterns formed by lateral phase separation of DNA nanostructures
著者 :
Yusuke Sato, Masahiro Takinoue (佐藤佑介、瀧ノ上正浩)
DOI :

情報理工学院

情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に発足した情報理工学院について紹介します。

情報理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東北大学 学際科学フロンティア研究所

助教 佐藤佑介

E-mail : ysato@tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-5849

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系

准教授 瀧ノ上正浩

E-mail : takinoue@c.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5680

取材申し込み先

東北大学 学際科学フロンティア研究所

特任准教授 藤原英明

E-mail : hideaki@fris.tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-5259

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大関係者4名が令和3年秋の叙勲を受章

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令和3年(2021年)秋の叙勲において、長年に渡る教育研究の功労に対し、岩本正和名誉教授、齋藤彬夫名誉教授、橋爪弘雄名誉教授、渡邉利夫名誉教授が瑞宝中綬章を受章しました。

岩本正和名誉教授 瑞宝中綬章

コメント

岩本正和名誉教授
岩本正和名誉教授

最近の触媒の世界では量子化学計算や最先端分析機器が大活躍していますが、私が研究を始めた頃の触媒化学では最適触媒を絨毯爆撃で探すことが多かったように思います。私の研究生活は、固体触媒上の酸素の吸着挙動の解明という極めて基礎的な研究からスタートしました。研究を初めてまもなく銅イオン交換ゼオライトが容易に酸素を放出する現象が見つかり、それに基づいて一酸化窒素の接触分解を実現できました。さらに、銅ゼオライトの触媒活性を改善する研究の途上で炭化水素による一酸化窒素の選択還元を見出しました。後者は、その後の自動車触媒開発の嚆矢となりました。一方、バイオエタノールの研究ではナノ多孔体-ニッケルイオン-テンプレートイオン交換という三つの因子の組み合わせでプロピレン合成を達成できました。いずれの研究においても混沌とした世界から基礎的な新事象を抽出し、新しい反応系の創出まで昇華できたことは本当に幸運だったと思っています。ここに至るまでにたくさんの先輩、同僚、後輩の方々からご鞭撻・ご協力・ご助力をいただきました。改めて感謝申し上げるとともに、これからも社会の発展に貢献していきたいと願っています。

略歴

1971年3月

九州大学 工学部 卒業

1973年3月

同 大学院工学研究科 修士課程 修了

1976年6月

同 大学院工学研究科 博士課程 単位修得退学(1978年10月 修了)

1976年7月

長崎大学 工学部 助手

1978年7月

同 工学部 講師

1981年4月

同 工学部 助教授

1987年4月

宮崎大学 工学部 教授

1990年4月

北海道大学 触媒化学研究センター 教授

1990年4月

同 大学院工学研究科 教授(併任、~2000年3月)

1994年7月

東京工業大学 資源化学研究所 教授(併任、~1995年3月)

1997年4月

北海道大学 触媒化学研究センター長(~2000年3月)

2000年4月

東京工業大学 資源化学研究所 教授

2003年4月

同 大学院総合理工学研究科 化学環境学専攻長

2010年3月

北海道大学 名誉教授

2010年4月

東京工業大学 フロンティア研究機構 教授

2013年4月

同 資源化学研究所 教授

2014年3月

定年により退職

2014年4月

東京工業大学 名誉教授

2014年4月

中央大学 研究開発機構 教授

2017年10月

早稲田大学 理工学術院総合研究所 研究院客員教授

2019年4月

早稲田大学 理工学術院総合研究所 招聘研究員(~現在に至る)

主な受賞・受章歴

1991年

新技術開発財団 市村学術賞 貢献賞

1994年

英国機械学会 Crompton Lanchester Medal

1995年

日本化学会 学術賞

2001年

触媒学会 学会賞

2007年

平成19年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)

2009年

東レ科学技術賞

齋藤彬夫名誉教授 瑞宝中綬章

コメント

齋藤彬夫名誉教授
齋藤彬夫名誉教授

周囲の多くの方々に支えられての受章と、感謝しています。
大学院では、熱伝導の数値解析法の研究で博士の学位を取得しましたが、卒業後は、蓄熱技術の基礎研究を中心に、様々な視点から研究を行いました。特に、固体がその融点より温度の高い面に接触して溶融する接触溶融現象に関する一連の研究と、氷核生成現象を確率的な視点で捉えた、過冷却水の凝固に関する一連の研究は、先駆的な成果と自負しています。
50歳の頃に転機があり、教務部長を2期4年つとめました。教務、厚生補導、留学生、入試に関連した多数の会議と実務で毎日が忙しく、研究時間を確保するのに大変苦労した記憶があります。その後さらに、理事・副学長(教育担当)を4年つとめることとなり、通算8年間、学務部(教務部)の仕事に関わりました。その間、阪神淡路大震災と、東日本大震災が起こり、実家が被災した学生さん達への対応と支援に没頭したことは、最も記憶に鮮明な出来事です。東日本大震災の翌日に、混乱の中、後期日程入試をなんとか実施できたことは、忘れることが出来ません。
振り返りますと、常に多くの素晴らしい人達に囲まれて、研究活動や様々な業務を続けられたことは、誠に幸せでした。

略歴

1965年3月

東京工業大学 機械工学科 卒業

1967年3月

同 大学院機械工学専攻 修士課程 修了

1970年3月

同 大学院機械工学専攻 博士課程 修了、工学博士

1970年4月

山梨大学 工学部 講師

1970年10月

同 工学部 助教授

1978年10月

東京工業大学 工学部 助教授

1987年2月

同 工学部 教授

1993年11月

同 教務部長(併任、〜1995年10月)

1997年11月

同 教務部長(併任、〜1999年10月)

2000年4月

同 大学院理工学研究科 教授

2000年4月

同 工学部 機械科学科長(併任、〜2001年3月)

2001年4月

同 附属図書館長(併任、〜2003年3月)

2003年4月

同 大学院理工学研究科 機械物理工学専攻長

2007年4月

大学評価・学位授与機構 特任教授(~2007年9月)

2007年10月

東京工業大学役員着任のため退職

2007年10月

同 理事、副学長、教育推進室長、国際室長

2008年4月

東京工業大学 名誉教授

2011年10月

任期満了により理事・副学長退職

2014年4月

長岡技術科学大学 監事(~2020年8月)

主な受賞・受章歴

1965年

日本機械学会 畠山賞

1989年

日本冷凍協会 学術賞

1991年

日本冷凍協会 学術賞

1994年

日本冷凍協会 学術賞

1998年

日本冷凍空調学会 学術賞

2021年

瑞宝中綬章

橋爪弘雄名誉教授 瑞宝中綬章

コメント

橋爪弘雄名誉教授
橋爪弘雄名誉教授

このたびの栄誉にやや戸惑っています。18年間お世話になった東京工業大学で長と名の付く役職に就いたことがない私が受章したからです。思い返せば、大学院に入学した1964年から2005年の定年まで、研究・教育一辺倒でした。東京大学では菅野猛先生から格子欠陥論について、次いで恩師高良和武先生から動力学的X線回折について教えを受け、優れた人格者の両先生の許で計15年間を過ごせたのは、本当に大きな喜びです。東京工業大学では丸茂文幸先生から固体界面や無機結晶の構造研究、円偏光X線共鳴磁気散乱法の開発に多大のご支援をいただきました。44年間の研究生活で最大の出来事は、強力なX線源であるシンクロトロン放射が実用化され、わが国では放射光実験施設PF(現:高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所)、続いて、大型放射光施設SPring-8が建設されて一般共同利用に付され、凝縮系物質のミクロ構造研究に飛躍的進歩がもたらされたことです。この時代に巡り合わせたのは、幸運でした。PFの建設に参加し、小角X線回折ステーションを立ち上げたのは貴重な経験です。海外から客員教官や多数のポスドク生を工業材料研究所(後:応用セラミックス研究所)の研究室に受け入れ、また、フランス、ロシア、オーストラリア、ブラジル、インド、韓国、アメリカなどの研究者と国際共同研究を行ないました。優れた先生、先輩、後輩、研究生、学生諸君に深く感謝しております。ありがとうございました。

略歴

1964年3月

東京大学 工学部 物理工学科 卒業

1970年4月

工学博士(東京大学)

1971年9月

東京大学 工学部 助手

1974年6月

同 講師

1982年5月

東京工業大学 工業材料研究所 助教授

1989年10月

同 教授

1996年5月

同 応用セラミックス研究所 教授(改組)

1999年5月

奈良先端科学技術大学院大学 物質科学教育研究センター 教授

2000年4月

東京工業大学 名誉教授

2005年3月

定年により退職

2005年4月

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 共同研究員(〜2008年3月)

主な受賞・受章歴

1985年

日本結晶学会賞

2021年

瑞宝中綬章

渡邉利夫名誉教授 瑞宝中綬章

コメント

渡邉利夫名誉教授
渡邉利夫名誉教授

東工大価値システム専攻で2000年に定年を迎えました。久方ぶりに東工大からご連絡を受け、当時のことをなつかしく思い起こしています。本館4階の一番奥まった、旧図書館長の部屋を長らく使わせてもらっていました。大きな部屋を二つに分け、一方は院生との共同研究室でした。西4号館からすぐ近くの官舎には、家族ともども8年間も住まわせていただきました。
受章につきましては改まってのコメントなどありません。東工大の後、拓殖大学に移りそこの学部長、学長、総長などをやっておりました。そういう職を長年やっていればおのずとこういうことになるのか、といった感じです。いろいろご配慮、ありがとうございました。

略歴

1970年3月

慶應義塾大学 大学院経済学研究科 博士課程 単位取得退学

1980年

経済学博士(慶應義塾大学)

1967年4月

関東学院大学 助手

1973年4月

同 助教授

1975年10月

筑波大学 助教授

1986年1月

同 教授

1988年4月

東京工業大学 工学部 教授

2000年4月

東京工業大学 名誉教授

2000年4月

拓殖大学 国際開発学部 学部長

2005年4月

同 学長

2011年12月

同 総長

2015年12月

同 学事顧問

2021年1月

同 顧問

主な受賞・受章歴

1985年10月

吉野作造賞

1987年7月

大平正芳記念賞

1990年10月

アジア・太平洋賞 大賞

1996年4月

開高健賞 正賞

2006年7月

外務大臣表彰

2011年11月

正論大賞

2021年11月

瑞宝中綬章

関連リンク

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

「映画セミナー」を2年ぶりに対面にて開催 未来人材育成部門主催第5回イブニングセミナーで『コンテイジョン』を鑑賞

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東京工業大学学生支援センター未来人材育成部門では、不定期で学修コンシェルジュ・ジュニア(学生支援センター未来人材育成部門に所属するTA)が企画するイブニングセミナーを開催しています。その第5回目となる「映画セミナー」を11月17日、感染対策を万全に行い、約2年ぶりに対面で開催しました。学士課程1年から博士課程まで幅広い学年の学生15名が参加し、スティーブン・ソダーバーグ監督の『コンテイジョン』(2011)を鑑賞しました。

本セミナーのポスター

本セミナーのポスター

映画鑑賞の前後に、リベラルアーツ研究教育院・リーダーシップ教育院の小泉勇人准教授による予習・解説の時間があり、より映画を楽しむことができるプログラムとなっていました。
小泉准教授は映画を用いた大学英語教育に精通しており、第3回イブニングセミナーの『バットマン・リターンズ』(1992)に続き、今回講師として2度目の登壇をされました。
会場は、2021年春にオープンしたTaki Plaza地下2階ワークショップエリアで、プロジェクター及び音響設備を初めて活用したイベントでした。

2011年に公開された『コンテイジョン』は新種のウイルスの拡大と、それに伴う人間社会の混乱を描いた作品です。映画の中で登場する「ウイルス・ハンター」や「CDC」という用語の紹介とともに、「家を出てから今まで、何回ほど自分の手で公共物に触れましたか?」、「家を出てから何回ほど自分の顔に手で触れましたか?」といった質問があり、受講者が答えていました。映画について意識すべきポイントや深く考えるべき点を事前に知った上で鑑賞を開始することができました。

講師の小泉准教授
講師の小泉准教授

上映前の予習セミナーの様子
上映前の予習セミナーの様子

観賞後、講師はこの作品について「徹底的に『クリシェ』(お約束)を外し、リサーチを徹底してリアルさを追求した映画だ」と解説しました。また、スティーブン・ソダーバーグ監督が自らカメラマンを務めるほどカメラワークにこだわりがあることや、静止画的なショットを連続で見せることで感染拡大の早さを表現したことを聞き、受講者は映画鑑賞の新たな楽しみを発見しました。

スティーブン・ソダーバーグ監督について学ぶ受講生

スティーブン・ソダーバーグ監督について学ぶ受講生

受講者のコメント

  • 映画を見て考察するということはよくやりますが、セミナーという形で先生が授業にできるレベルの内容の考察を聴くという体験は非常に新鮮で楽しかったです。
  • 監督の話など、普段あまり気にかけないことに対しての内容も多く、興味が湧いた。
  • 好きな映画について熱弁される様子から、講師のこの映画への愛が伝わった。
  • 名優揃いの作品ですが、題名すら知らなかったので、解説付きで観ることができてよかった。
  • 新しく知ったことがあったので、参加できてよかった。

セミナーでは時間の都合上、質疑応答の時間を設けることができませんでした、一部の受講者は終了後に講師のもとへ集まり、質問をする関心の高さが見られました。学修コンシェルジュ・ジュニアは、今後も、映画セミナーをはじめ、学生の目線でイブニングセミナーを開催していく予定です。

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

リベラルアーツ研究教育院(ILA)outer

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

学生支援センター 未来人材育成部門
学修コンシェルジュ窓口

E-mail : concierge.info@jim.titech.ac.jp


初の「東京工業大学統合報告書」2021を発刊 東工大の「高み」を社会へ、そして世界へ

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初の統合報告書「東京工業大学統合報告書2021」を発行

初の統合報告書「東京工業大学統合報告書2021」を発行

東京工業大学は、「世界最高峰の理工系総合大学」の実現を目指して改革に取り組んでいます。このたび、その現状と課題を幅広いステークホルダーにご理解いただき、社会と対話しながら改革を進めていくことを目的として「東京工業大学統合報告書 2021」を発刊しました。
発刊にあたり、益一哉学長は「この統合報告書を通じて、本学がどのように変革しようとしているのか、世界最高峰の理工系総合大学をどのように目指していくのかといった道筋の一端をご紹介できればと考えております」と述べています。

本報告書のメインテーマは、「対話」です。
学長、理事・副学長、研究者、学生に加え、学外の経営者や有識者による7つの対談や鼎談、座談会を通じて、東工大の経営戦略、教育、研究、産学連携、ダイバーシティなどの取り組みについて議論を交わし、どのような改革を進めているかを紹介しています。

まず、巻頭の日本電気株式会社(NEC)取締役会長の遠藤信博氏と益一哉学長との対談では、企業経営と大学経営を比較し、社会の未来を創造する大学像について、産業界からの期待と大学のビジョンを提示しています。本学の気鋭の研究者達による鼎談では、東工大のリベラルアーツ教育から、人材育成やリーダー論まで幅広い議論を展開しています。

未来を創造する大学像について語り合う遠藤NEC会長と益学長

未来を創造する大学像について語り合う遠藤NEC会長と益学長

 議論を展開する気鋭の研究者たち 左より:阪口啓教授(超スマート社会卓越教育院長)、上田紀行教授(リベラルアーツ研究教育院長)、細野秀雄特命教授(元素戦略研究センター長)

議論を展開する気鋭の研究者たち

左より:阪口啓教授(超スマート社会卓越教育院長)、上田紀行教授(リベラルアーツ研究教育院長)、細野秀雄特命教授(元素戦略研究センター長)

また、ダイアローグと題して、経営と教育・研究の連携、オンライン教育を含めた教育革新、オープンイノベーションによる産学連携、田町キャンパス再開発を契機としたキャンパスイノベーション、女性リーダー人材の育成、といったホットなテーマで対話を重ねています。

それぞれの対談・鼎談・座談会は、報告書に要点を掲載するとともに、本学ウェブサイト上に全文を公開しています。

併せて「研究力強化」、「充実した教育」、「成長戦略」、「ファイナンス」、「グローバル/ダイバーシティ」、「先駆的なガバナンス」の分野ごとに主な活動を紹介しています。本報告書が、幅広いステークホルダーに向けて東工大を包括的に理解する有用な情報となることを願っています。

なお、本報告書を補完するものとして、財務状況、財務情報を明示することに特化した「財務データブック2021」を発行し、「財務情報」のページで公開していますので、あわせてご覧ください。

統合報告書

統合報告書 ―東工大の「高み」を社会へ、そして世界へ―
財務情報に加え、社会貢献やガバナンス、知的財産等の非財務情報を統合して、ステークホルダーの皆様にご報告します。

統合報告書|情報公開|東工大について

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email : media@jim.titech.ac.jp

東工大とANAグループが連携 歩行支援ロボットを利用した初の実証実験を実施 健康に歩き続けられる新たな旅スタイルをめざして

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概要

東京工業大学とANAグループ(以下「ANA」)は、12月3日、ロボットの歩行支援によって旅行者が元気になる、新たな旅スタイルの創出をめざす連携について発表しました。東工大の三宅美博研究室が研究・開発を進め、東工大発ベンチャーのWALK-MATE LAB株式会社が製品化した歩行支援ロボット「WALK-MATEを装着して歩行する実証実験を、ANAのプロデュースにより「旅」を舞台に初めて実施します。移動や旅行を躊躇していたシニアなどの方々が、自分の足でしっかりと歩ける楽しさを再発見することで元気と自信を取り戻し、歩行の改善が図られることで、健康寿命の延伸につながることが期待されます。

歩行支援ロボット「WALK-MATE」

歩行支援ロボット「WALK-MATE」

第1弾として、香川県善通寺市の四国八十八ヶ所72番札所である曼荼羅寺から73番札所の出釈迦寺までの上り坂(約500 m)を、「WALK-MATE」を装着して歩く実証実験を12月13日に実施しました。一般の参加者6名にご協力いただくことで、歩行支援ロボットを装着して旅をすることの効果と課題を検証します。

四国八十八ヶ所を巡るお遍路は、弘法大師と一緒に旅をする「同行二人」と言われています。「WALK-MATE」は総本山善通寺法主である真言宗善通寺派の菅智潤管長より「同行二人」ロボットと認定され、今回の取り組みは歩行支援ロボットによって「同行二人」を実現する新たなお遍路の形となります。シニアを中心に人気のある四国八十八ヶ所参りが、最新技術によって注目され、より多くの人が四国を訪れるきっかけとなって旅行者が増えれば、地元の地域創生にもつながります。

ANA

東工大とANAは、最新テクノロジーを適用した新たな旅スタイルを創出することにより、今後全国の地域が活性化し、人と社会を元気にすることに貢献していきます。また、高齢化が進む日本社会において、シニアに元気になってもらうきっかけを提供するとともに、健康寿命の延伸とシニアの移動促進を推進してまいります。

歩行支援ロボット「WALK-MATE」:東工大発ベンチャーのWALK-MATE LAB株式会社にて製品化された、人と「間(ま)」が合う歩行支援ロボット。一般的なパワースーツとは違い、四肢の動作のアシストだけではなく、自力での歩行をリズムで支援し、自然で活発な歩行に改善するための機器。2018年より医療機関に歩行トレーニング用として提供されている。

香川県善通寺市での実証実験について

1. 背景

「WALK-MATE」は三宅研究室が長年研究を重ね、医療機関や介護施設などでリハビリ用に利用され、2021年8月からは保険診療ともなった歩行分析機能が追加された、歩行支援ロボットである。これをさらに広く社会で利用し、多くの人の健康寿命を延ばすことに貢献したいという三宅研究室の想いと、高齢化社会の日本において、シニアをはじめすべての方々が元気になることで新たな旅行や移動の需要を開拓し、地域を活性化したいというANAの想いが一致し、今般、産学連携で取り組むこととなった。

2. 実施概要・検証ポイント

初めての実証実験では、一般の参加者6名に、四国八十八ヶ所72番札所である曼荼羅寺から73番札所の出釈迦寺までの500mの上り坂を「WALK-MATE」を装着して歩いていただく。歩行データとアンケートを分析し、効果と課題を検証していく。

3. 東工大三宅研究室とANAの役割

東工大三宅研究室

研究成果の提供、全体のコンセプトキープ、アンケート作成&分析、歩行支援ロボット準備、当日の機器対応、結果データ分析。

ANA

総合プロデュース、プロジェクトマネジメント、全体調整、事前の現地調整、参加者募集、当日の運営、アンケート実施。

株式会社ANA総合研究所が中心となり、ANAあきんど株式会社 高松支店と連携して対応

4. 社会へのインパクト

本企画を推進することにより、参加者や社会へ新たな価値の提供が期待できる。

ステークホルダー

メリット

参加者

新たな体験。参加をきっかけとして日常の歩行が改善され自信と元気を取り戻す。新たな旅スタイルで楽しさを再発見する。

地域社会

地域のPRと交流人口の拡大による地域創生。地域のシニアが元気になることによる地域の活性化。

5. 今後の予定

  • 更なる実証実験の企画
  • モニターツアー実施
  • ツアー販売

など。実験実施結果の分析の上、ツアー以外の展開も含め、可能性を探っていく。

情報理工学院

情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に発足した情報理工学院について紹介します。

情報理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

ANAホールディングス株式会社
広報・コーポレートブランド推進部

Tel : 03-6735-1111

東京工業大学 総務部広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

東工大基金「2021年度 感謝の集い」初のオンラインで開催

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東京工業大学では、東京工業大学基金(以下、東工大基金)へのご寄附など、本学をご支援いただいた方々を招き、感謝の意を表する「感謝の集い」を年に1度開催しています。
2020年度はコロナ禍により開催が中止となりましたが、2021年度は11月2日にオンラインにて開催しました。
本集いのオンラインでの開催は初めてとなりましたが、ご寄附いただいた個人/企業(団体)の方々をはじめ、卒業・修了生、在学生のご家族、退職教職員および学内関係者の約180名にご参加いただきました。

特別講演で講演する柳瀬博一教授

特別講演で講演する柳瀬博一教授

東工大基金とは

2011年の創立130周年を契機に、財政基盤の強化を目的として創設され、これまで個人や企業(団体)の多くの方々から多大なご支援をいただきました。皆様からのご支援は、各種奨学金の充実、学生の海外派遣・留学生の受け入れ支援、若手研究者への大型支援、理科教育の振興支援等に活用しています。

2021年度 感謝の集い

益一哉学長による開会のあいさつ後、特別講演としてリベラルアーツ研究教育院の柳瀬博一教授が「国道16号線について」と題して講演しました。
その後、特別講演に続き、活動報告会が行われました。

開会あいさつする益学長

開会あいさつする益学長

活動報告会のプログラムは、次のとおりです。

活動報告会

  • 東京工業大学基金報告(日置滋副学長(社会連携担当))
  • 国際交流支援(留学支援)
    「ドイツ超短期派遣を終えて」(物質理工学院 材料系 博士後期課程1年 本間千柊さん)
  • 『東工大の星』研究支援 採択事業
    「計算機を用いた材料学の新展開」(科学技術創成研究院 熊谷悠准教授)
  • 理科教育振興支援 採択事業
    「出張ものつくり実習授業「飛び出せ工学君!」の実施」(工学院 機械系 岩附信行教授)
  • 学生起業教育支援(学生スタートアップ支援) 採択事業
    「メンヘラ向けチャット相談サービスの開発と運営」(環境・社会理工学院 社会・人間科学系 修士課程2年、株式会社メンヘラテクノロジー代表取締役 高桑蘭佳さん)

活動報告会で留学報告する本間さん

活動報告会で留学報告する本間さん

今後も、東工大基金への寄附者の皆様に対し、ご支援していただいている活動の報告と、本学に親しんでいただくためのイベントを積極的に開催し、幅広い交流を目指して活動していく予定です。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学 企画・国際部社会連携課

E-mail : syaren@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2415

世界初となる「カーボン空気二次電池システム」の提案と開発 再生可能エネルギーの大量導入に必要となる固体酸化物型大容量蓄電システム

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要点

  • CO2電気分解を利用した蓄電と、炭素と空気を用いた化学反応による発電を組み合わせた固体酸化物型の大容量蓄電システムを世界で初めて開発
  • 理論放電効率は100%であり、水素ガスを用いた既存のシステムよりも高い理論体積エネルギー密度1,625 Wh/Lを有する
  • 再生可能エネルギーの大規模利用において必要となる、大容量蓄電システムとしての活用に期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の亀田恵佑大学院生(博士後期課程3年)と伊原学教授らは、二酸化炭素(CO2)の電気分解により炭素(C)として蓄電し、その炭素と空気中の酸素(O2)を用いて発電する「カーボン空気二次電池(Carbon/air secondary battery、CASB)システム」を提案し、その充放電の実証に成功した。CO2の電気分解に関する研究と、炭素と酸素を用いて発電する研究は、それぞれこれまでも報告されていたが、両者を組み合わせたシステムの開発は、本研究が初となる。

今回開発されたCASBシステムは、再生可能エネルギーの大量導入に必要な大容量蓄電技術として注目される水素/水-power-to-gas-to-power (H2/H2O-P2G2P)[用語1]と比較して、理論体積エネルギー密度[用語2]が1,625 Wh/Lと圧縮水素(379 Wh/L、20 MPa)よりも高く、全体反応C+O2⇆CO2基準の理論放電効率[用語3]が100%である。また、蓄電システムの出力と蓄電容量を独立に制御できることから、次世代大容量蓄電システムとして期待できる。放電時に生成するCO2は貯蔵されるため、システムとしてはCO2を排出しないことも特徴である。

固体酸化物燃料電池/電解セル(SOFC/EC)[用語4]を使用した充放電実験ではクーロン効率[用語5]84%、充放電効率[用語6]38%を達成した。

本研究成果は「Journal of Power Sources」オンライン版に11月5日付で掲載された。

背景

再生可能エネルギーの導入が進められているが、大きな課題として電力需給バランスにどう対応するか、という点が挙げられる。すなわち、天候や状況に左右されやすい太陽光発電や風力発電は発電量が安定しないため、需要に対する過剰な発電や、大電力が必要な時の発電量不足が生じることなどが懸念される。この課題に対応するために求められているのが「大容量蓄電技術」である。

大容量蓄電の技術開発・設備設計において考えるべきポイントはいくつか存在する。例えば、可能な限りコンパクトな設備で、できるだけ多くの蓄電量を確保することが求められる。また、充電や放電をする際にロスが生じないこと(充放電効率)も重要となる。そのほか、充放電にかかる時間が少ないことや、取り出せるエネルギーが大きいことなどの要素を踏まえて、蓄電技術の開発・導入について検討が進められている。

数ある技術の中で、近年注目が集まっているのが「水素」を用いた充放電手法である。水を水素に電気分解し、水素ガスとして電力を貯めることができ、水素ガスを用いて発電することで再度電力を取り出す。水素ガス(Gas)と電力(Power)を相互に変換することから、水/水素 - Power to Gas to Power(H2/H2O-P2G2P)と呼ばれている。H2/H2O-P2G2Pでは蓄電容量と出力を独立に設定できる利点があるものの、水素の酸化に伴う反応エントロピー変化[用語7]や水の蒸発潜熱[用語8]が大きいことから、充放電効率が低くなってしまうことが課題として挙げられる。また、ガスは固体に比べて体積が大きく、体積あたりのエネルギー密度が小さくなるため、貯蔵に場所を要するといった点も課題となってくる。

H2/H2O-P2G2Pの高効率化や設備のコンパクト化に向けた研究も進められている中で、さらに高い性能を持つ充放電方式を開発・検討することも重要であり、本研究室では特に炭素(C)を用いた手法に着目してきた。これまでに、炭化水素の熱分解で炭素を供給し、炭素を燃料に繰り返し発電するRechargeable Direct Carbon Fuel Cell(RDCFC)を開発してきた[参考文献1、2]

本研究では新たに、エネルギー密度が高く、エントロピー変化が 2 kJ/mol未満と小さい炭素とCO2の酸化還元反応C+O2⇄CO2を活用することに着目した。具体的には、CO2の電解反応とBoudouard反応による熱化学平衡を利用して炭素を析出し、析出した炭素をRDCFCと同様な反応で発電することで充放電を行う。

研究成果

本研究では、SOFC/ECを使用してCO2の電気分解により炭素として蓄電し、その炭素を利用して発電可能な大容量蓄電システムとしてCASBシステムを提案し、その充放電の実証に成功した。

図1にCASBシステムの充放電方法を示す。

図1 CASBシステムの充放電方法

図1. CASBシステムの充放電方法

【充電(CO2電気分解)時】
CO2は液体状態で貯蔵しておき、充電時は気化して使用する。システム内に送られたCO2は、SOECに投入した電力によって炭素に電気分解され、その炭素はSOFC/EC内部に貯蔵される。充電時間の経過に伴い一酸化炭素(CO)の分圧を増加させ、Boudouard反応による熱平衡反応(2CO⇆C+CO2)を利用して炭素を析出させる。
【放電(発電)時】
内部に貯蔵された炭素と、システムに送り込んだ空気中のO2を用いた反応を進行させ電力を得る。この際に生成したCO2を再び液体で貯蔵することで充放電サイクルとなる。そのためCASBシステムの充放電においてCO2は排出されない。

図2に各蓄電技術の体積及び重量基準のエネルギー密度と出力密度の関係を示す。CASBシステムの理論体積エネルギー密度は1,625 Wh/L、理論重量エネルギーは2,500 Wh/kgである。CASBシステムは定置型の蓄電システムと想定しているため、体積エネルギー密度の方が重要な指標となり、圧縮水素(理論体積エネルギー密度 379 Wh/L、20 MPa)やリチウムイオン電池より高い体積エネルギー密度がCASBシステムでは期待される。またH2/H2O-P2G2Pと同様に、貯蔵する炭素やCO2の容量(=蓄電容量)と燃料電池/電解セルの出力を独立に設定できるため、CASBシステムは大容量蓄電システムとしての活用も見込まれる。

図3にCASBシステムの充放電特性と性能を示す。SOFC/ECを使用した本実験では、800℃、100 mA/cm2の条件で電極が劣化することなく充放電サイクル(10回)にも世界で初めて成功した。結果として、クーロン効率84%、充放電効率38%、出力密度80 mW/cm2を達成した。

図2 蓄電技術の体積(a)及び重量(b)基準のエネルギー密度と出力密度の関係。 リチウムイオン電池(Li-ion)、ナトリウム―硫黄電池(NaS)、鉛二次電池(Lead-acid)、ニッケル―カドミウム電池(NiCd)、バナジウムレドックスフロー電池(VRFB)は文献値。

図2. 蓄電技術の体積(a)及び重量(b)基準のエネルギー密度と出力密度の関係。

リチウムイオン電池(Li-ion)、ナトリウム―硫黄電池(NaS)、鉛二次電池(Lead-acid)、ニッケル―カドミウム電池(NiCd)、バナジウムレドックスフロー電池(VRFB)は文献値。

図3 CASBシステムの充放電特性(a)と性能(b)。 図3aにおいて縦軸は端子電圧と出力密度PD、横軸は経過時間と容量を示す。点線は理論起電力。図3bにおいて赤色の丸はクーロン効率ηC、青色の三角は充放電効率ηcd、緑色のひし形は放電時の出力密度PDを示す。

図3. CASBシステムの充放電特性(a)と性能(b)。

図3aにおいて縦軸は端子電圧と出力密度PD、横軸は経過時間と容量を示す。点線は理論起電力。図3bにおいて赤色の丸はクーロン効率ηC、青色の三角は充放電効率ηcd、緑色のひし形は放電時の出力密度PDを示す。

今後の展開

本研究で実証に成功したCASBシステムの充放電効率38%は概算したH2/H2O-P2G2Pの充放電効率(20%~54%)に匹敵する結果を得ることができた。実用化に向けては、さらなる高効率化が望まれるため、今後システムの改善・発展を進めていく。効率を高めるためには、炭素の効率的な利用が可能で、かつ炭素析出下でも過電圧が低い電極の開発が必要となる。またCASBシステムの実装に向けて、体積エネルギー密度や充放電効率が高くできるシステム全体の充放電プロセスの検討が必要となる。

付記

本研究は、JSPS科学研究費助成事業(JP20K20364)の支援によって実施された。

用語説明

[用語1] 水素/水-power-to-gas-to-power (H2/H2O-P2G2P) : 水の電気分解により水素として蓄電(充電)し、その水素を燃料電池で発電(放電)する蓄電システム。

[用語2] 体積エネルギー密度 : 体積当たりの取り出し可能なエネルギーの密度。

[用語3] 理論放電効率 : 化学反応で生成する熱(エンタルピー変化)に対する電気として取り出し可能な最大エネルギー(ギブズエネルギー変化)の割合。水素の酸化反応H2+1/2O2⇆H2Oの理論放電効率は800℃で76%。

[用語4] 固体酸化物燃料電池/電解セル(SOFC/EC) : SOFC/ECはsolid oxide fuel cell/electrolysis cellの略。SOFCは酸化物イオンが伝導するセラミックを利用した燃料電池。SOECはSOFCに電流(電圧)を印加して発電の逆反応(電気分解)を進行させるデバイス。作動温度は一般的に600℃~1,000℃と燃料電池の中で最も高温で作動する。

[用語5] クーロン効率 : 充電に要した電気量[Ah](=電流[A]と時間[h]の積)に対する放電できた電気量の割合。

[用語6] 充放電効率 : 充電に要した電力[Wh]に対する放電で取り出すことができた電力の割合。

[用語7] エントロピー変化 : 定圧定温における理想的なエネルギー変換において、仕事ではなく、熱として放出(吸収)してしまう最小量を決定する指標と理解できる。

[用語8] 蒸発潜熱 : 液体の物質が気体に相変化(蒸発)する際に吸収される熱量。

参考文献

[1] M. Ihara and S. Hasegawa, Quickly Rechargeable Direct Carbon Solid Oxide Fuel Cell with Propane for Recharging, Journal of The Electrochemical Society, 153, (2006), A1544-A1546

[2] S. Hasegawa and M. Ihara, Reaction mechanism of solid carbon fuel in rechargeable direct carbon SOFCs with methane for charging, Journal of The Electrochemical Society, 155, (2008), B58-B6

論文情報

掲載誌 :
Journal of Power Sources
論文タイトル :
Carbon/air secondary battery system and demonstration of its charge-discharge
著者 :
Keisuke Kameda, Sergei Manzhos, Manabu Ihara
DOI :

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 教授
(東工大 InfoSyEnergyコンソーシアム 代表)

伊原学

E-mail : mihara@chemeng.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-3918

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

マイクロ波による固体触媒のμm~nmスケールの局所選択的な加熱機構を解明 非平衡局所加熱によって固体触媒反応を加速する新技術

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要点

  • マイクロ波によって固体触媒に生じるμm~nmスケールの局所高温場の形成機構を解明
  • マイクロ波によって、固体触媒粒子の接触点や、担持金属触媒上の金属ナノ粒子に特異的な局所加熱が生じる条件を解明
  • マイクロ波による固体触媒反応加速現象を用いた新触媒反応プロセスにより、再生可能エネルギーを源にした新しい化学プロセスの実現に貢献

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の和田雄二特任教授 (兼 名誉教授、マイクロ波化学株式会社フェロー)、大阪大学 大学院 工学研究科 応用化学専攻 椿俊太郎特任講師(常勤)(兼 JSTさきがけ)、豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学系 藤井知教授らの研究グループは、マイクロ波[用語1]による固体触媒の局所選択的な加熱発生機構として、「接触点加熱」と「担持金属選択加熱」の2つの加熱モデルの存在を実証しました(図1)。

図1 マイクロ波照射による、触媒粒子接触点および担持金属ナノ粒子の局所発熱

図1. マイクロ波照射による、触媒粒子接触点および担持金属ナノ粒子の局所発熱

電子レンジにも用いられるマイクロ波は、特定の物質を高速かつ高選択的に加熱することができます。マイクロ波を触媒反応に用いた場合、電磁波エネルギーが直接固体触媒を加熱し、触媒反応に必要な熱エネルギーを供給することで、触媒反応が促進します。マイクロ波を用いた触媒反応プロセスは、再生可能エネルギー由来の電力を効率的に熱エネルギーに変換して、触媒反応を駆動することができます。そのため、次世代のカーボンニュートラルな新化学プロセスの一翼を担う技術として、注目されています。

これまで、マイクロ波による固体触媒の反応加速には、「非平衡局所加熱[用語2]」や「ホットスポット」と呼ばれる、微小領域で生じる局所高温場が関与されていると考えられてきました。しかし、固体触媒の充填層内部にどのように温度分布が生じ、ホットスポットが形成されているのか、十分に理解されていませんでした。そこで、顕微サーモグラフィー[用語3]などを駆使して、「接触点加熱」と「担持金属選択加熱」の2つの局所加熱機構について、明らかにしました。

これらの研究成果は、ElseveirのChemical Engineering Journal(オンライン版)、およびAmerican Chemical SocietyのJournal of Physical Chemistry Cに掲載されました。

背景

これまで、マイクロ波によってさまざまな固体触媒反応が加速されることが報告されてきました。こうした反応加速は、マイクロ波によって微小な領域で生じる「非平衡局所加熱」や「ホットスポット」と呼ばれる局所高温場が関与していると考えられてきました。しかし、従来、温度計として用いられてきた赤外放射温度計[用語4]光ファイバー温度計[用語5]では、局所の温度を測定することができませんでした。そのため、固体触媒の「どの部分」に「どの程度」の温度勾配が生じているのか、理解されていませんでした。

研究の内容

接触点加熱機構

研究グループの既往の研究において、電磁界シミュレーションを用いて固体触媒が接触する界面に電磁波が集中し、周囲よりも高温の領域が生じることが予測されていました(Haneishi et al. Scientific Reports, 9, 222, 2019)。しかし、実触媒反応系においては、上記の現象は確認されていませんでした。そこで、マイクロ波照射中に高分解能な顕微サーモグラフィーを用いて、酸化バナジウム触媒のマイクロ波加熱条件下における温度勾配を解析しました。球状のシリカ担体に酸化バナジウムを担持した触媒を接触ないしは0.5~1 mm離して配置し、マイクロ波を照射したところ、触媒粒子を接触した際に、接触点の近傍が局所的に高温化しました(図2)。一方、粒子間距離が離れるにつれて、温度の不均一な分布は見られなくなりました。これは、触媒充填層のマイクロ波加熱において、粒子接触点での加熱が重要であることを示しています。

図2 酸化バナジウム担持シリカ触媒の粒子接触点におけるマイクロ波局所発熱

図2. 酸化バナジウム担持シリカ触媒の粒子接触点におけるマイクロ波局所発熱

さらに、局所の温度勾配の形成に伴って、酸化バナジウム触媒の酸化状態が、不均一に変化していきました(図3)。酸化バナジウムは2-プロパノールの脱水素反応中に還元されます。還元された酸化バナジウム触媒は、よりマイクロ波加熱特性が高く、さらに高温化されていることがわかりました。このことにより、固体触媒間の接触点加熱のみならず、不均一な温度分布によって触媒の酸化状態が局所的に変化していくことで、触媒上の局所高温場がダイナミックに変化することがわかりました。

図3 酸化バナジウム触媒の酸化状態に応じた、マイクロ波局所発熱

図3. 酸化バナジウム触媒の酸化状態に応じた、マイクロ波局所発熱

担持金属選択加熱機構の解明

上記の固体触媒粒子の接触点に加えて、さらに微小なnmスケールでの加熱も生じると考えられています。当グループのこれまでの研究において、マイクロ波照射下のin situ X線吸収微細構造(XAFS)により、固体触媒に担持された金属ナノ粒子の局所が高温化していることを実証しました(Ano et al. Communications Chemistry, 3, 86, 2020)。金属ナノ粒子の種類やサイズ、担体の種類を変えることでマイクロ波加熱挙動が大きく変化することがわかっていましたが、どのような触媒構造がマイクロ波の吸収特性に有効であるのか、わかっていませんでした。そこで、マイクロ波加熱に適した触媒材料を明らかにするため、種々の金属ナノ粒子と金属酸化物担体の組み合わせについて、マイクロ波加熱特性を検証しました。

異なる粒子サイズの白金(Pt)を金属酸化物の単結晶基板(Al2O3, MgAl2O4, TiO2, SrTiO3)に担持した材料を作製しました。基板材料を用いることで、前述の触媒粒子接触点での発熱を回避し、触媒材料の加熱特性を評価することができます。担体の種類に着目すると、担体の比誘電率が低いほど加熱特性が優れることがわかりました(図4左)。比誘電率の低いAl2O3やMgAl2O4ではPtの担持により発熱量が増加しますが、より比誘電率の大きいTiO2やSrTiO3ではPt担持の効果は小さくなりました(図4右)。これは、比誘電率の低い金属酸化物担体の方がマイクロ波透過性に優れ、担持金属へ効率的にマイクロ波エネルギーが伝送されることによるものと考えられます。さらに、マイクロ波による発熱量は担持された金属ナノ粒子のサイズや担持量、担持金属種の酸化状態にも大きく依存することがわかりました。

金属酸化物基板の比誘電率に依存した担持金属ナノ粒子基板のマイクロ波加熱挙動

金属酸化物基板の比誘電率に依存した担持金属ナノ粒子基板の加熱のイメージ

図4. 金属酸化物基板の比誘電率に依存した担持金属ナノ粒子基板の()マイクロ波加熱挙動、および()加熱のイメージ

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、マイクロ波による局所選択加熱を利用した、再生可能エネルギー時代の新触媒反応プロセスの実現が期待されます。本研究では、マイクロ波によって固体触媒に生じる特徴的な局所温度分布について、μmサイズで生じる接触点発熱と、nmサイズで生じる担持金属選択加熱の効果を明らかにすることができました。実際の触媒反応系においては、μm~nmのマルチスケールで生じる「ホットスポット」の相乗作用によって、固体触媒反応の加速が生じていると考えられます。これらの結果から、マイクロ波加熱に適した触媒構造の設計指針が得られます。マイクロ波プロセスに最適化された固体触媒を設計することで、マイクロ波エネルギーを効率的に用いた固体触媒反応が可能となります。

椿俊太郎 大阪大学 特任講師(常勤)のコメント

マイクロ波加熱は、これまでにさまざまな化学反応に用いられ、反応加速効果が認められてきました。近年では、広い産業プロセスに利用されつつあります。しかし、マイクロ波によってなぜ化学反応が加速されるのか、まだまだよく分からない点が多いのが実情です。マイクロ波によって化学反応が加速される機構を体系的に理解し、新しい学術分野として確立していくことが目標です。

付記

本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(S)17H06156、同 基盤研究(A)25249113、若手研究(A)17H05049、同 特別研究員奨励費17J09059、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけJPMJPR19T6、および稲盛研究助成の支援を得て行われました。

用語説明

[用語1] マイクロ波 : 300 MHzから30 GHzの電磁波の総称。通信やレーダー、電子レンジに用いられる。マイクロ波が物質に照射されることにより、物質の内部から急速に発熱が生じ、効率的な加熱が可能となる。マイクロ波加熱を化学反応プロセスに用いた場合、従来の外部加熱と比較して短時間・低温・低消費エネルギーで反応することが可能となる。

[用語2] 非平衡局所加熱 : マイクロ波によって生じる、局所高温。ホットスポットとも呼ばれる。従来、温度計測に用いられてきた赤外放射温度計や、光ファイバー温度計では観測することができない、微小な高温領域。

[用語3] 顕微サーモグラフィー : 赤外線を用いて温度分布を可視化する装置。近年では、体温測定などでも広く用いられる。顕微サーモグラフィーは、赤外線を透過する拡大レンズを搭載し、数十μmの分解能で温度分布をイメージングすることができる。

[用語4] 赤外放射温度計 : 物質から発せられる赤外線を基に温度を計測する装置。物質表面の平均的な温度を非接触で測定することができる。

[用語5] 光ファイバー温度計 : 光ファイバー先端の蛍光物質の蛍光緩和時間をもとに温度を計測する方法。光ファイバーを目的の場所に接触させることで、近傍の温度を計測することが可能である。マイクロ波加熱下では、従来広く用いられる熱電対は、金属製であるため使用することが難しいため、その代替として用いられる。

論文情報

掲載誌 :
Chemical Engineering Journal, 2021, in press.(オンライン掲載)
論文タイトル :
Determining the influence of microwave-induced thermal unevenness on vanadium oxide catalyst particles
著者 :
Shuntaro Tsubaki, Tomoki Matsuzawa, Tomoki Higuchi, Satoshi Fujii, and Yuji Wada
DOI :
掲載誌 :
Journal of Physical Chemistry C 2021, 125, 43, 23720–23728 (Highlighted in Supplementary Cover).
論文タイトル :
Designing local microwave heating of metal nanoparticles/metal oxide substrate composites
著者 :
Taishi Ano, Shuntaro Tsubaki, Satoshi Fujii, and Yuji Wada
DOI :

お問い合わせ先

大阪大学 大学院工学研究科

特任講師(常勤) 椿俊太郎

E-mail : stsubaki@chem.eng.osaka-u.ac.jp

東京工業大学 科学技術創成研究院

特任教授 和田雄二

E-mail : wada.y@mac.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5205

豊橋技術科学大学

教授 藤井知

E-mail : fujii@ee.tut.ac.jp
Tel : 06-6105-6483

取材申し込み先

大阪大学 工学研究科 総務課 評価・広報係

E-mail : kou-soumu-hyoukakouhou@office.osaka-u.ac.jp
Tel : 06-6879-7231 / Fax : 06-6879-7210

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

豊橋技術科学大学 総務課 広報係

E-mail : kouho@office.tut.ac.jp
Tel : 0532-44-6506 / Fax : 0532-44-1270

消しゴムハンコで「年賀状つくり」、国際交流イベントを開催

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11月30日、東京工業大学留学生ラウンジにて国際交流イベント「年賀状つくり」を実施しました。感染症対策を講じながら、イベントは同日2回(第1部13:30 – 14:30、第2部15:00 – 16:00)にわたり行われ、留学生と日本人学生合わせてのべ38名が参加し、久しぶりの対面イベントを楽しみました。

消しゴムハンコで作成した年賀状

消しゴムハンコで作成した年賀状

「年賀状つくり」イベントは例年行われていましたが、コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、約2年ぶりの実施となりました。感染症対策として密をさけるため、会場は2部屋に分けられました。
2つのそれぞれの部屋はオンラインで繋げられ、参加した学生は大型モニターを通して別の部屋の様子を知ることができました。各部屋では、リベラルアーツ研究教育院日本語教育セクションの教員が、「今は何を作っていますか?」「このスタンプの絵は何でしょうか?」と学生にインタビューしました。その様子はモニターに映り、参加者にとってはまるでテレビ中継を見ているようでした。

モニター中継の様子

モニター中継の様子

消しゴムハンコづくりでは、オリジナルの絵、好きなキャラクター、東工大のシンボルマーク、来年の干支にちなんだトラの絵、などと多様なデザインの作品がありました。また、とても精緻なデザインを器用に消しゴムに掘る学生もいて、参加者同士で作品をほめあう場面も見られました。

ハンコが出来上がると、それを使って、オリジナルの年賀状やグリーティングカードを作成しました。お互いのハンコを年賀状に押しあったり、母国にいる大切な人に贈るメッセージを丁寧に書いたり、年賀状に書く言葉を自国の言語で紹介しあうなど、それぞれ楽しそうな様子でした。

消しゴムハンコ作成中の様子
消しゴムハンコ作成中の様子

完成した年賀状を手に
完成した年賀状を手に

出来上がった年賀状を手に全員で集合写真を撮り、イベントは締めくくられました。

第1部の集合写真は屋外で撮影
第1部の集合写真は屋外で撮影

第2部の集合写真
第2部の集合写真

参加学生の感想(アンケートより抜粋)

  • 消しゴムスタンプを作ること自体も初めての経験で楽しかったのですが、何より留学生とおしゃべりが出来たのが楽しかったです。オンラインで話すよりもこのように対面のほうが話も弾み、お互いの理解も深められたと思います。ありがとうございました。
  • 新しいことに挑戦し、自作のハンコを使って年賀状を作ることは楽しかったです。
  • とても楽しかったのでまた来年もやってほしいです。

山元啓史教授(リベラルアーツ研究教育院)のコメント

10名程度のグループで開催する計画でしたが、希望者が増えたため、結果的に、2つの時間帯で2セッション、オンラインで2つの部屋を結んで、当初の4倍の参加者となりました。
アンケートを読み返しますと、友だちに実際に会えたこと、おしゃべりができたこと、他の人の作品が見られたこと、など楽しく参加していただけたことがわかります。
日常生活でしたら、会うこと、話すこと、見ることは、どれも「当然」のことですが、これまで、私たちの生活から欠落していたことに気づかされます。
留学生に会ってみたかった、オンラインでしか会ったことのない友だち・先生に会えて良かった、新しい体験がしてみたかった、なども対面だからこそできたことがらです。
今更ではありますが、「当然の日常」をバランスよくとりもどす工夫が必要だなと感じております。
留学生交流課スタッフ、日本語スタッフが協働して、さまざまな点に気を配り、準備してきたことが正解だったと思うと同時に、これからも、感染対策に留意しつつ、留学生交流活動を通して日常を取り戻すことに努めたいと思います。
今後とも、留学生へのご支援いただけますよう、お願い申し上げます。

リベラルアーツ研究教育院

リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。

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学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

留学生交流課交流推進第1グループ

E-mail : center@jim.titech.ac.jp

女子高校生が東工大での学び、キャンパスライフを体験 「Web東工大体験2021」を開催

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東京工業大学は、11月14日、女子高校生を対象に東工大での学びやキャンパスライフを体験できるオンラインイベント「Web東工大体験2021」を開催しました。
毎年「一日東工大生」として高校生が実際に大岡山キャンパスを訪れ、さまざまな体験をするイベントですが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、昨年度は中止、今年度はオンライン形式での実施となりました。
オンラインという環境でしたが、首都圏各地の女子校および共学校から15校が参加しました。参加生徒は127名、また、10校から10名の高校教員も参観し、Web上で東工大を体験しました。

概要

当日のプログラムと参加校は以下の通りです。

プログラム

9:40 - 10:40 模擬講義

「動物の体の形づくりの設計図を探る」田中幹子教授(生命理工学院)

10:40 - 10:50 休憩

10:50 - 12:00 先輩と語ろう

学院・内容に分かれて座談会
理学院/工学院/物質理工学院/情報理工学院/生命理工学院/環境・社会理工学院/お悩み相談・キャンパスライフ

12:00 - 12:30 東工大生によるバーチャルキャンパスツアー

東工大生によるTaki Plaza・図書館の紹介

参加校(五十音順)

  • 浦和明の星女子中学・高等学校
  • 桜蔭中学校高等学校
  • 鷗友学園女子中学高等学校
  • 大妻中学高等学校
  • お茶の水女子大学附属高等学校
  • 川越女子高等学校
  • 吉祥女子中学・高等学校
  • 渋谷教育学園渋谷中学高等学校
  • 頌栄女子学院中学校・高等学校
  • 女子学院中学校・高等学校
  • 洗足学園中学高等学校
  • 東京学芸大学附属高等学校
  • 豊島岡女子学園中学校・高等学校
  • 雙葉中学校・高等学校
  • 横浜共立学園中学校高等学校

開催レポート

はじめに益一哉学長よりウェルカムスピーチがあり、参加した女子高校生たちに向けて本学の女性研究者、女子学生の活躍を紹介しながら、思う存分に東工大を体験してほしいと歓迎しました。

模擬講義「動物の体の形づくりの設計図を探る」

「動物の体の形づくりの設計図を探る」について講義をする田中教授
「動物の体の形づくりの設計図を探る」について講義をする田中教授

生命理工学院 生命理工学系 田中幹子教授
最初に、田中教授から海外での研究経験や進学先を選んだエピソード等を交えた自己紹介があり、参加者は、女性研究者の歩みを真剣に聞き入っていました。
模擬講義「動物の体の形づくりの設計図を探る」がスタートすると、図や写真を交えた動物の進化過程のわかりやすい講義に、参加者は夢中になって聞いていました。講義の後の質疑応答では、予定していた時間では足りないくらいの質問が殺到しました。田中教授も参加者の質問に至る思考や好奇心に興味を持ちつつ答えていました。

先輩と語ろう

各学院や相談内容ごとに、28名の東工大生が相談に応じるというプログラムで、6学院(理学院/工学院/物質理工学院/情報理工学院/生命理工学院/環境・社会理工学院)と「お悩み相談・キャンパスライフ」のグループに分かれて、座談会を実施しました。Zoomのブレイクアウトルーム機能を活用し、参加者は少人数の話しやすい環境で先輩たちとの座談会を楽しみました。各グループの構成は、先輩(東工大学生)3~5名、高校生15~30名程度で、大学生の日常生活から専門分野の話、受験勉強の経験談など、幅広い話題で盛り上がりました。

東工大の先輩たちは、性別も学年も所属する系もばらばらでしたが、高校生たちは、いろいろな話を聞く中で、自分の大学生活を少しイメージできたようでした。

東工大生によるバーチャルキャンパスツアー

このプログラムは、東工大生が自らキャンパスを案内する企画です。画面越しに、少しでも東工大キャンパスの魅力が伝わるよう、ガイド役の学生たちは時間をかけて準備をしました。今回は、今年オープンした国際学生交流施設「Taki Plaza」をTPG(Taki Plaza Gardener、タキプラザ・ガーデナー)の学生たちが紹介し、国内でも有数の理系図書の蔵書を誇り、ガラス張りの学習棟が通称“チーズケーキ”として親しまれている「大岡山図書館」を図書館サポーターの学生たちが紹介しました。両施設は優れた建築物としても見どころが多く、施設の特徴とともにデザインや内装についても詳しく説明がありました。

地下2階イベントスペースを紹介するTaki Plazaツアー
地下2階イベントスペースを紹介するTaki Plazaツアー

Taki Plaza2階テラスでの質疑応答
Taki Plaza2階テラスでの質疑応答

地下1階集密書架を紹介する図書館ツアー
地下1階集密書架を紹介する図書館ツアー

学習棟2階を紹介する図書館ツアー
学習棟2階を紹介する図書館ツアー

コロナ禍で直接キャンパスに来ることができない参加者の高校生たちにも、東工大キャンパスの雰囲気が十分に伝わるプログラムとなりました。

最後に、水本哲弥理事・副学長の講評で「Web東工大体験2021」は締めくくられました。
参加者の高校生たちの進路選択において、なにかのきっかけになるような「東工大体験」を今後も開催していきます。

アンケート結果

たくさんの参加者アンケートから一部を紹介します。

模擬講義「動物の体の形づくりの設計図を探る」

- 胚の時点では魚類もほ乳類も似ているのに、発現の量や位置によって形態が変わっていくのが、実例とともに示してくださったおかげで視覚的に分かりやすく、面白かったです。
- 自分が不思議だと思っていることを大事にして、勉強していきたいと思いました。
- 先生が楽しそうに講義をされていて、好きなことを突き詰められる環境に憧れを持ちました。

先輩と語ろう

- なかなか知ることのできない大学生活を知れて益々東工大に入学したいと思うようになりました。
- 東工大生の方々が、話しやすい雰囲気を作って下さったので、質問しやすかったです。
- 個人の具体的な経験を語って下さったので、自分がどうしたらよいか、思い浮かべることができました。

東工大生によるバーチャルキャンパスツアー

- コロナ禍で1度も東工大に行けていなかったのですが、オンライン上で見て、東工大生の説明を聞くことができたのは良い経験になりました。
- マップやホームページの写真だけでは見られない施設の隅々まで見せて下さり、本当に東工大生として校内を歩いた気分でした。
- 学生の雰囲気がとても楽しそうで、このような快適な環境の中で勉強できることに惹かれました。

お問い合わせ先

学務部 入試課

E-mail : nyu.event@jim.titech.ac.jp


プラスチックから肥料をつくる 次世代リサイクルシステムを開発 青木大輔助教が記者説明会を開催

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市販されているポリカーボネートの保護メガネと植物を持つ論文責任著者の青木助教(左)と第一著者の阿部さん(右)市販されているポリカーボネートの保護メガネと植物を持つ論文責任著者の青木助教(左)と第一著者の阿部さん(右)

市販されているポリカーボネートの保護メガネと植物を持つ論文責任著者の青木助教(左)と第一著者の阿部さん(右)

東京工業大学は、10月28日、物質理工学院 応用化学系の青木大輔助教による記者説明会をオンラインで行いました。テーマは、プラスチックを植物肥料に変換する技術の開発です。世界規模の課題であるプラスチック廃棄問題や食糧問題の解決、CO2削減への貢献が期待されます。

テレビ会議システムを使った記者説明会には5媒体の記者6名の他、共同研究などの関係者を加えた約20名が出席し、質疑応答や研究成果への期待、社会課題などに向けた活発な議論が行われました。

本研究のコンセプト

本研究のコンセプト

研究の背景

プラスチックは70%以上が廃棄、リサイクルは15%程度にとどまる

プラスチックは日々の生活のいたるところで使われている素材の一つです。安価で軽量な特徴を活かして、スーパーのレジ袋、ペットボトルをはじめ、乗り物の材料としても使われています。プラスチックは熱を加えると変形する性質があり、自由に形を作れるため大量生産が容易です。材料となる樹脂は炭素を含む高分子です。この高分子の化学構造と分子鎖全体のトポロジー(形状)を変化させることで、柔軟性や強靭性を用途に応じて作り分けることができるため、プラスチックによって私たちの生活はより豊かになっています。

プラスチックの有用性と課題を説明する青木助教

プラスチックの有用性と課題を説明する青木助教

新しい性質を持つプラスチック素材が日夜研究されていますが、昨今は新機能開発の課題に加え、素材がもつ分解性や、リサイクル特性に注目が集まってきています。一般にプラスチックの70%以上がそのまま廃棄され、リサイクルは15%程度にとどまるためです。また、プラスチックの小さな破片、マイクロプラスチックが海洋に漂流する問題が起きています。青木助教は「プラスチックの需要は非常に大きいため、プラスチックの廃棄を削減し、有効利用することが世界中で喫緊の社会課題である」と指摘しました。

研究のポイント

(1)植物由来のプラスチックをアンモニア水で分解し尿素を生成

研究グループは、従来のように廃プラスチックを燃やすのではなく、CO2排出を極限まで抑えた分解方法を開発し、それをリサイクルするシステムを提案しました。すなわち、植物由来のプラスチックを用い、使用後の廃棄物をアンモニア水で分解することで、分解物を肥料として使用します。アンモニア水で分解する際に、CO2を大量に発生する高エネルギーを使用することも、高価な貴金属からなる触媒も不要です。さらに、分解物をそのまま肥料として使用できるため、究極なエコサイクルの一つとも言えます。

なお、プラスチックの出発原料は無害で毒性のないものが条件であり、従来の石油由来のものではなく、植物を原料とする有機資源「バイオマス」を取り入れることがポイントです。具体的には、ポリイソソルビドカーボネートと呼ばれるプラスチックを利用します。青木助教は、「このコンセプトは、『企業に研究開発してほしい未来の夢』アイデア・コンテストに応募した学生時代から着想し、10年の時を経て実証することで今回学術論文にて発表できた」と説明しました。

植物由来のプラスチックリサイクルシステムの概要

植物由来のプラスチックリサイクルシステムの概要

プラスチックの一種であるポリカーボネート(カーボネート結合からなる高分子)は、アンモニアで完全に分解でき、多数の「分子単体(モノマー)」が化学結合で連結している高分子(ポリマー)を「分子単体(モノマー)」と「尿素」に変換することができます。そのため、無害なモノマーを使ってポリカーボネートを作れば、分解すると無害なモノマーと尿素の混合物が得られます。そこで、バイオマス資源であるイソソルビド(グルコースから合成される無毒な化合物)をモノマーとすることで、ポリイソソルビドカーボネート(イソソルビドがカーボネート結合で連結した高分子)を作りました。

モノマー(分子単体)とポリマー(連結した分子)の模式図

モノマー(分子単体)とポリマー(連結した分子)の模式図

リサイクルシステムを実証するために、合成したカーボネートをアンモニア水と反応させ、分解する状況を調査したところ、濁っているプラスチックの分散液がクリアな液体となりました。これは、カーボネート結合によって結びついていた分子同士がアンモニア水で切断されバラバラになる、すなわち、分解した結果で、プラスチックがモノマーと尿素に変換されたことを意味しています。青木助教は「カーボネートを分解する反応条件を最適化したところ、90度に熱したアンモニア水による分解が最も効果的であった」と説明しました。

ポリカーボネートがアンモニア水で分解され変化していく様子

ポリカーボネートがアンモニア水で分解され変化していく様子

(2)分解して得られた尿素とイソソルビドの生成物が肥料として働くことを実証

尿素は、農作物の肥料として世界中の人口の約半分を養っていると言われている最も重要な化学合成物の一つです。研究チームは、分解された尿素などの成分を用いて、植物の育成効果を実験しました。イソソルビドのみ、尿素のみ、分解生成物すべての3条件でシロイヌナズナ(ぺんぺん草)の育成状況を調査したところ、分解生成物すべてを与えたぺんぺん草が最も成長したことを実証しました。

シロイヌナズナ(ぺんぺん草)を用いた育成実験

シロイヌナズナ(ぺんぺん草)を用いた育成実験

また、今回の論文には掲載していない予備的な検討結果として、野菜として身近な三つ葉の育成状況も紹介しました。

実験室では三つ葉の生育状況を検証、今後その詳細なメカニズムの解明と本システムが適用できる植物の種類について検討する

実験室では三つ葉の生育状況を検証、今後その詳細なメカニズムの解明と本システムが適用できる植物の種類について検討する

最後に、青木助教は、「空気中の窒素を水素と直接反応させて肥料の原料であるアンモニアを生産するハーバー・ボッシュ法の発明は、『空気からパンを作る』と形容されるほど画期的な発明として注目されたが、本研究は『プラスチックからパンを作る』手法につなげたい」と話しました。

青木大輔助教、阿部拓海さん(物質理工学院 応用化学系 修士課程1年)のコメント

今回実証したリサイクルシステムを適用できるプラスチックは、植物由来のポリカーボネートであり、現在市場で広く流通しているプラスチックとしてはそのボリュームは限られています。しかし、植物由来のポリカーボネートを焼却して廃棄するのではなく、ケミカルリサイクルで分解し肥料に変える本コンセプトは、プラスチックを使用しつつ二酸化炭素を削減するカーボンニュートラルを超えた次世代リサイクルシステムの実現を期待させます。これによって、脱炭素社会の実現、プラスチック問題や食料問題、SDGsに掲げられた目標達成への貢献が期待できます。産学官で連携してこのリサイクルシステムの社会実装を目指していきたいと考えています。プラスチックから肥料を作り、小麦を作ってパンを焼く。使用後のプラスチックからパンを作る。そんな時代が来るかもしれません。

プラスチックの使用と二酸化炭素削減を両立した次世代リサイクルシステム

プラスチックの使用と二酸化炭素削減を両立した次世代リサイクルシステム

発表資料

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

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お問い合わせ先

総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

生物はどのように効率的に匂い源を探索するのか? 昆虫用VRで明らかになった複数感覚の情報統合

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要点

  • 効率的な匂い源探索に複数感覚の情報統合が必要であることを発見
  • これまで複雑環境下での匂い源探索行動を観察する方法がなかったが、VRシステムを開発したことで可能に
  • ガス漏れ探索機やレスキューロボットへの応用に期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の大学院生の山田真由さん(博士前期課程)、大橋ひろ乃特任研究員(常勤)、細田耕教授、志垣俊介助教、東京工業大学工学院システム制御系の倉林大輔教授の研究グループは、効率的な匂い源探索に複数感覚の情報統合が必要であることを世界で初めて明らかにしました。

これまで、生物の匂い源探索行動に風や視覚情報を使うことが知られていましたが、それらの情報がどのような状況下でどのように行動に反映されているかについては解明されていませんでした。

今回、志垣俊介助教らの研究グループは、昆虫用VRを開発することで、複雑環境下での匂い源探索行動を解析することを可能にしました。この行動解析により、効率的な匂い源探索に複数感覚の情報統合が必要であることを明らかにしました。これにより、ガス漏れ探索機やレスキューロボットへの応用が期待されます。

本研究成果は、オープンアクセス学術雑誌「eLife」に、2021年11月25日(木)に公開されました。

図1 昆虫用VRを用いた行動実験からモデル検証までの一連の流れ

図1. 昆虫用VRを用いた行動実験からモデル検証までの一連の流れ

背景

生き物が匂い源にたどり着くことは、餌場や交尾相手と遭遇するための重要な能力です。特に、昆虫は匂いを様々なコミュニケーションツールとして用いることが知られています。昆虫は哺乳類と比べ神経細胞の数が少ないにも関わらず、優れた匂い源探索能力を有することから、匂い源探索行動の仕組みを解明するため研究対象として広く用いられています。これまでの研究から、昆虫の匂い源探索は風や視覚情報により変化することが明らかになっていました。しかし、それらがどのように情報統合され、匂い源探索行動として発現するのかはまだわかっていませんでした。さらに、実験で得られた情報から匂い源探索行動をモデル化し、ロボットに実装する試みは数多くなされていますが、人工システムが昆虫と同じ能力を得るには至っていませんでした。

研究の内容

志垣助教らの研究グループでは、昆虫の適応的な匂い源探索行動を解明するために、複数の種類の環境情報(匂い・風・光)を同時かつ連続的に提示できる昆虫用VRシステムを構築しました。そして、昆虫用VRシステムを用いて雄のカイコガが雌のカイコガを探索する際にどのように情報を統合しているかを調べました。生物学的解析から、匂い情報および風情報は歩行・回転速度の速度調整に、視覚情報は姿勢制御に寄与することを解明しました。さらに、生物学的データからモデルを構築し、シミュレーションにより機能評価しました。その結果、これまでに提案された匂い源探索モデルより高い探索成功率を示し、なおかつ生物と同様の探索軌跡を発現することが分かりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は生物分野と工学分野への貢献が期待されます。

多くの生物は、環境から様々な刺激を受け取り、その都度適切な行動を選択し生存しています。刺激のなかでも匂いは、餌場や仲間に遭遇するための重要な情報です。つまり、匂い源探索行動は、生存や種の存続に必要不可欠な行動の一つであるといえます。今後このVR装置をほかの生物にも応用することで、生物の生存戦略についての知見が深まると考えています。

匂い源探索行動の仕組みを理解することは、生物学だけでなく工学分野においても重要です。匂いを利用した探索は、生物に有害なガス漏れ源探索ロボットや災害地域での人命救助ロボットへの応用が期待されます。

研究者のコメント

生物学的実験に仮想現実やロボット工学の技術を導入することで、新しい切口で生物が持つ適応的なシステムの理解が進んできました。これにより、今まで以上に生物の知的機能の解明が期待できるだけでなく、生物の適応行動をロボットに実装できれば活動範囲を格段に広げ、人間社会にロボットが溶け込める日が来るかもしれません。(志垣俊介 大阪大学 助教)

付記

本研究は、JSPS科学研究費(若手)19K14943、新学術領域研究(研究領域提案型)19H04930、基盤研究(B)19H02104の支援を受けて行われました。

論文情報

掲載誌 :
eLife (オンライン)
論文タイトル :
Multisensory-motor integration in olfactory navigation of silkmoth, Bombyx mori, using virtual reality system
著者 :
Mayu Yamada, Hirono Ohashi, Koh Hosoda, Daisuke Kurabayashi, Shunsuke Shigaki
DOI :

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

大阪大学 大学院基礎工学研究科

助教 志垣俊介

E-mail : shigaki@arl.sys.es.osaka-u.ac.jp
Tel : 06-6850-5026

東京工業大学 工学院 システム制御系

教授 倉林大輔

E-mail : dkura@ctrl.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2548

取材申し込み先

大阪大学 大学院基礎工学研究科 庶務係

E-mail : ki-syomu@office.osaka-u.ac.jp
Tel : 06-6850-6131

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

巨大な磁場応答を示す三角格子磁性半導体 三拍子揃った稀有な磁性材料の発見

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要点

  • 従来の磁性半導体とは異なり、スピンが非共面的に並ぶ三角格子磁性半導体の開発に成功。
  • 開発した磁性半導体では、磁気秩序温度よりもはるかに高い温度から巨大な異常ホール効果が現れることを発見。
  • 巨大な磁場応答の利用に向けた、磁性半導体材料の新たな設計指針につながると期待。

概要

東京工業大学 理学院 物理学系の打田正輝准教授、石塚大晃准教授らの研究グループは、東京大学大学院工学系研究科の川﨑雅司教授、理化学研究所創発物性科学研究センターの永長直人グループディレクター、東京大学物性研究所の徳永将史准教授、中島多朗准教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の有馬孝尚教授、総合科学研究機構の大石一城副主任研究員らの研究グループと共同で、磁性を担う元素が三角格子をなす新しい磁性半導体[用語1]を開発し、磁気秩序温度[用語2]よりもはるかに高温から巨大な異常ホール効果[用語3]を発現させることに成功した。

打田准教授らは、希土類元素であるユウロピウムが特徴的な三角格子を形成しているヒ化ユウロピウムEuAsに着目し、分子線エピタキシー成長[用語4]によるEuAs単結晶薄膜の作製に成功した。系統的な測定の結果、EuAsが1)低いキャリア密度[用語5]、2)強い交換相互作用、3)有限のスピンカイラリティ[用語6]という、巨大な異常ホール効果の実現に必要な三拍子が揃った稀有な材料であることを発見した。さらに、理論計算が予測する通り、異常ホール効果により電流が曲げられる割合を示す異常ホール角[用語7]が0.1を超え、この巨大応答が磁気秩序温度よりもはるかに高い温度から現れることを明らかにした。今回の成果は、図3右に示すようなスピンが非共面的に並んだ構造が、半導体において巨大な磁場応答を生み出すことを示しており、トポロジカルな磁気秩序構造を持つ磁性半導体の材料開拓と、その巨大磁場応答を利用したスピントロニクスデバイス応用につながると期待される。

本研究成果は、米国科学誌「Science Advances」に日本時間12月23日(米国東部時間12月22日)に掲載された。

背景

少数のキャリアによる電流の流れ方とスピンの並び方が互いに関係した磁性半導体は、これまでも盛んに研究が進められてきたが、そのスピンの並び方は単純な強磁性・反強磁性状態に限られていた。一方、近年スキルミオン[用語8]に代表されるような、スピンが非共面的に並んだトポロジカルな磁気秩序構造に注目が集まっているが、そうした構造に関連する伝導特性の研究は大量のキャリアを持つ金属に限られてきた。そこで打田准教授らは、スピン配置に強く影響する格子構造に着目して、磁性半導体の研究を開始した。

研究の経緯

代表的な磁性半導体には、EuOなどユウロピウムカルコゲナイドや、磁性元素で一部を置換した (Ga,Mn)As(ヒ化ガリウム(GaAs)のガリウムをマンガンで置換)などの半導体(図1上)があり、その磁気特性や伝導特性が長年にわたり研究されてきた。一方、本研究で対象としたヒ化ユウロピウムEuAsについては、これまで1970年代に結晶構造が報告されているのみであり、磁性体であるのか、さらには半導体であるのかという点すら一切明らかになっていなかった。打田准教授らは、他の希土類モノニクタイド[用語9]が単純な塩化ナトリウム型構造をとるのとは異なり、EuAsではユウロピウムが特徴的な三角格子を形成している点に注目した。

図1 (上)代表的な磁性半導体である(Ga,Mn)AsとEuOの結晶構造。(下)本研究で対象としたEuAsの結晶構造。巨大なスピンを持つEu2+イオンが、異なる大きさの三角形からなる三角格子をなす。
図1
(上)代表的な磁性半導体である(Ga,Mn)AsとEuOの結晶構造。(下)本研究で対象としたEuAsの結晶構造。巨大なスピンを持つEu2+イオンが、異なる大きさの三角形からなる三角格子をなす。

研究成果

EuAsはこれまで多結晶のみが合成されていたが、本研究では、面内格子定数が近いAl2O3(アルミナ)を基板に用いることで、分子線エピタキシー成長によるEuAs単結晶薄膜の作製に成功した。この薄膜について電子エネルギー損失分光測定[用語10]を実施したところ、薄膜中のユウロピウムは巨大なスピンモーメントを持つEu2+イオンとして歪んだ三角格子面(図1下)を形成し、ヒ素は面直方向に二量体を形成し[As-As]4-として安定に存在することがわかった。

このEuAs薄膜の電気伝導特性を調べたところ、抵抗率が半導体的な温度依存性を示し、23 Kで磁気秩序を示すことがわかった(図2左)。また、磁場をかけながら同じ測定をおこなったところ、磁気秩序温度よりもはるかに高温の200 K程度から巨大な磁気抵抗効果[用語11]が現れ始め、伝導キャリアと局在スピン間に強い結合があることが明らかになった。さらに大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)[用語12]の中性子小角・広角散乱装置(大観)で偏極中性子を用いて磁気構造を調べたところ、ゼロ磁場ではユウロピウムのスピンモーメントが三角格子面に平行に配列しており、三角格子面内で隣接するスピンモーメントの間には反強磁性的な相関があることが分かった。これは磁気秩序温度以上において、面直方向に磁場を加えることでスピンが三角格子面から起き上がり非共面的に並ぶようなスピンゆらぎがあることを示唆している。これはEuAsが、近年新たに提唱された理論において巨大な異常ホール応答の実現に必要とされている、1)低いキャリア密度、2)強い交換相互作用、3)有限のスピンカイラリティという3つの条件を満たす物質であることを示す結果である。

実際に、パルス強磁場を用いてEuAs薄膜のホール抵抗率を測定したところ、磁場及び磁化に比例しない異常ホール抵抗成分が現れ、温度低下とともに急激に増大することが明らかになった(図2右)。その成分の大きさは、異常ホール角0.1を超える巨大なものであり、磁気秩序温度よりもはるかに高温から現れる(図3左)。このことは、歪んだ三角格子上においてスピンカイラリティのゆらぎがキャンセルせずに残り(図3右)、少数のキャリアと強く結びつくことで、巨大な異常ホール応答を生み出していると理解できる。半導体中におけるキャリアのホッピング伝導を考慮したモデルにおける理論計算でも、スピンカイラリティに比例した巨大な異常ホール効果が現れることが確認でき、EuAsの実験結果とよく一致することが明らかになった。

図2 (左)磁場をかけながら測定したEuAsの抵抗率の温度依存性。(右)様々な温度におけるホール抵抗率の磁場依存性。磁場及び磁化に比例しない成分の増大が確認できる。
図2
(左)磁場をかけながら測定したEuAsの抵抗率の温度依存性。(右)様々な温度におけるホール抵抗率の磁場依存性。磁場及び磁化に比例しない成分の増大が確認できる。
図3 (左)磁化に比例しない異常ホール抵抗成分の温度磁場相図上の強度。(右)有限のスピンカイラリティを持つ非共面的なスピン配置におけるホッピング伝導を考慮した異常ホール効果の理論。
図3
(左)磁化に比例しない異常ホール抵抗成分の温度磁場相図上の強度。(右)有限のスピンカイラリティを持つ非共面的なスピン配置におけるホッピング伝導を考慮した異常ホール効果の理論。

今後の展開

今回の成果は、これまで単純な強磁性・反強磁性状態が研究対象とされてきた磁性半導体において、スピンが非共面的に並んだ磁気秩序構造が異常ホール応答の巨大化に有効であることを示している。今後、元素置換や電界効果によるキャリア制御の研究や、より高い磁気秩序温度を持つ材料の開拓によって、巨大な磁場応答を持つ半導体デバイスの利用が実現すると期待される。

付記

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ「薄膜技術を駆使したトポロジカル半金属の非散逸伝導機能の開拓」(No. JPMJPR18L2)、CREST「トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成」(No. JPMJCR16F1)、日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(B)(No. JP18H01866, No.JP19H01856, No.JP17H02815, and No.JP21H01804)、公益財団法人 稲盛財団の支援を受けて行われた。

用語説明

[用語1] 磁性半導体 : 磁性体と半導体の性質をあわせ持つ材料系。少数の電荷キャリアによる電流の流れ方と局在したスピンの並び方が互いに強く結合しており、電場や磁場などの外場によって両者をあわせて制御することが可能である。

[用語2] 磁気秩序温度 : スピンがある規則に従って配列する温度のこと。

[用語3] 異常ホール効果 : 面直磁場下において縦方向に電流を流すと横方向に電圧が生じ、これを一般にホール効果と呼ぶ。磁性体ではホール電圧にスピンとの相互作用による寄与が加わり、これを異常ホール効果と呼ぶ。

[用語4] 分子線エピタキシー成長 : 主に半導体に用いられてきた結晶成長手法で、高真空中において各元素の供給量を独立に制御することで、非常に高品質の薄膜を作製することができる。

[用語5] キャリア密度 : 体積あたりの電荷キャリアの密度。

[用語6] スピンカイラリティ : 隣り合う3つのスピンがなす立体角(の半分)のこと。図 3右のような非共面的なスピン配置の場合に有限となる。

[用語7] 異常ホール角 : 異常ホール抵抗率を縦抵抗率で割ったものと定義され、縦方向に流した電流のうちどれだけの成分が異常ホール効果によって横方向に曲げられるかを表している。

[用語8] スキルミオン : 渦状の模様を形成するようにスピンが配列した構造のこと。

[用語9] 希土類モノニクタイド : 希土類元素をR (=Sc, Y, La-Lu)、第15族元素をA=(N, P, As, Sb, Bi)として、RAで表される化合物のこと。

[用語10] 電子エネルギー損失分光測定 : 電子が試料を透過する際に原子との相互作用により失うエネルギーを測定することで、物質に含まれる元素やその価数を分析することができる。

[用語11] 磁気抵抗効果 : 物質に磁場をかけた際に電気抵抗が変化する現象のこと。

[用語12] 大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF) : 大強度陽子ビームを炭素標的及び水銀標的に衝突させることで発生する大強度パルスミュオン及び中性子を用いて、物質科学、生命科学、素粒子物理学等の最先端の学術及び産業利用研究を行う施設。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Above-ordering-temperature large anomalous Hall effect in a triangular-lattice magnetic semiconductor
著者 :
M. Uchida*, S. Sato, H. Ishizuka, R. Kurihara, T. Nakajima, Y. Nakazawa, M. Ohno, M. Kriener, A. Miyake, K. Ohishi, T. Morikawa, M. S. Bahramy, T. Arima, M. Tokunaga, N. Nagaosa, M. Kawasaki
DOI :

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東京工業大学と日鉄ソリューションズが連携を強化 講義室に謝意ネーミングプレート「NSSOL Lecture Room」を設置

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設置された謝意ネーミングプレート
設置された謝意ネーミングプレート

東京工業大学は、日鉄ソリューションズ株式会社(以下、NSSOL)との連携を強化し、本学の教育研究環境充実のためにNSSOLが継続的な支援を行うことに対する本学の謝意として、大岡山キャンパス南2号館(S221)講義室に謝意ネーミングプレートを設置しました。

大岡山キャンパス南2号館にある講義室前には、「NSSOL Lecture Room」のプレートや、NSSOLの企業紹介ボードを2021年4月から2026年3月まで掲示します。

4月13日、NSSOLの森田宏之代表取締役をはじめ関係者が本学を訪れ、益一哉学長、佐藤勲総括理事・副学長(企画担当)、日置滋副学長(社会連携担当)と懇談し、本施設を視察しました。

東京工業大学とNSSOLは、これからも連携を強化して活動していきます。

NSSOL森田社長(左)と益学長(右)

NSSOL森田社長(左)と益学長(右)

お問い合わせ先

企画・国際部社会連携課

E-mail : sya.kik@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2415

アーティストとアートを体験するセミナー2021秋 ~初のすずかけ台キャンパスでの対面開催~

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東京工業大学学生支援センター未来人材育成部門は、毎年春と秋に「アーティストとアートを体験するセミナー」を開催し毎回好評を博しています。このセミナーでは、東工大生がアートを通して新たな知識と発想を得て、独自の創造的表現方法を見つけ出すことを目的としています。

11月17日、講師は前回と同じく、元東工大非常勤講師で画家・詩人のツーゼ・マイヤー(Zuse Meyer)氏をお招きし、初めてすずかけ台キャンパスでのアートセミナー開催が実現しました。

すずかけ台キャンパスには、研究室所属の学生が多く在籍しているため、参加者は修士課程と博士後期課程の学生がほぼ半数ずつを占めていました。セミナーが英語・日本語の併用で行われることもあり、参加者17名のうち11名が留学生と、多様な背景を持つ学生たちが集まりました。また、岡村哲至学生支援センター長も飛び入りで参加し、学生たちとの交流を楽しみました。

セミナー当日は、テーマに沿った講義、いくつかのタスクに分けての演習、最後に、講師と参加者相互の講評という流れで進みました。

講義:「ゴッホの半生」

今回のテーマ「ヨーロッパの風景画/ゴッホ」にちなみ、マイヤー氏がゴッホの作品を時系列に紹介しながら、その半生について解説する講義からセミナーは始まりました。

ゴッホの初期の少し不格好な絵を取り上げ、「テクニックはアートとは関係ない。機械ではできないような、心から湧き上がってくるものが人々を惹きつける」というマイヤー氏の力強い言葉に、学生たちは引き込まれました。学生からも積極的に質問があがり、続く演習の前に、アートに関する知見を十分に広げました。

ゴッホの肖像画を用いながら講義をする講師のツーゼ・マイヤー氏

ゴッホの肖像画を用いながら講義をする講師のツーゼ・マイヤー氏

続いての演習は4つのタスクに分かれており、それぞれ美しいフランスの風景を題材とし、多彩な方法で絵を描くことにチャレンジしました。

演習

タスク1:一筆書きで描いてみよう

初めに、スクリーンに映し出されたゴッホの風景画を鉛筆で描写するよう指示があり、さらに「一筆書きで描いてみましょう」というマイヤー氏の一言に、皆一瞬驚いた様子でしたが、すぐに各々のスケッチに取りかかりました。
参加者は時々首を傾げながらも、手は止めずに一筆書きを進め、作品が完成した頃には皆達成感を味わいました。

一筆書きのスケッチにチャレンジする学生たち

一筆書きのスケッチにチャレンジする学生たち

タスク2:利き手でない手で描いてみよう

続いて、利き手と反対の手で行うスケッチの指示がありました。こちらも最初は戸惑いつつも、参加者は題材の南仏の風景を熱心に描き始めました。
利き手でない手を使うことで、「上手く描こうとする気持ちよりも、心から湧き出てくるものが描ける」というマイヤー氏の言葉通り、同じものを題材としてもそれぞれ個性的な作品が仕上がりました。

スケッチを2枚書き終わった時点で、皆でお互いの作品を見て回り、インスピレーションを受けた後、後半のタスクに取りかかりました。

お互いのスケッチを鑑賞して回る参加者

お互いのスケッチを鑑賞して回る参加者

タスク3:クレパスで描いてみよう

ここでは色を使った絵を描く演習を行いました。題材の風景写真には、木々が写っていましたが、「全て必ずしも緑を使う必要はない。自分が感じる好きな色を使って良い」というマイヤー氏のアドバイスもあり、参加者は思い思いの色を選び、伸び伸びと絵を描くことを楽しみました。

タスク4:クレパスで利き手でない手で描いてみよう

最後のタスクでは、描くことにも意外な指示にも少し慣れた様子で、学生たちは迷うことなく活き活きと描き進めました。同じ題材を使用しても個性が際立つ作品が並びました。

全てのタスクを終え、最後には全員で1人1人の作品を見て回りながら、互いにコメントし合い、マイヤー氏からも温かく丁寧な講評を受けました。コメントをもらった学生は、少し照れくさいような表情を浮かべながらも、自信に満ちた面持ちとなりました。
マイヤー氏は、「東工大生は、パッションとエネルギーに溢れていて素晴らしいチームになれた」と絶賛しました。参加した学生は、国籍や専攻を越えて、アートを通して交流を深めました。

参加者全員で1人1人の絵をじっくりと鑑賞
参加者全員で1人1人の絵をじっくりと鑑賞

マイヤー氏の熱心な講評を真剣な眼差しで聞く学生たち
マイヤー氏の熱心な講評を真剣な眼差しで聞く学生たち

参加した学生のコメント

  • 普段触れないアートについて知り、手を動かせたことや、留学生を含めた多くの学生の作品を鑑賞できたことが本当に良かったです。絵を描くことは思った以上に疲れましたが、それ以上に満足度があり、学びもあって良い機会でした。また参加したいです!
  • 複数の学生とアートを通して交流できるため、素直な視点で共感できるところ、自分と違う面白さを発見できると思いました。Difficult is wonderful(難しいことは素晴らしい)! 研究にまた新鮮な気持ちで自信を持って取り組めそうです!
  • 対面の交流ができて最高の気分でした。時間が経っていることに気づかないくらいでした。

参加した学生と和やかにコミュニケーションを交わすマイヤー氏
参加した学生と和やかにコミュニケーションを交わすマイヤー氏

お問い合わせ先

学生支援センター未来人材育成部門

E-mail : internationalstudentsupport@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2760

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