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華南理工大学「建築的詩学 坂本一成建築展」開幕

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5月9日から7月3日までの間、中国・広州の華南理工大学にて「建築的詩学 坂本一成建築展」が開催されています。本学の大学院理工学研究科建築学専攻および博物館の協力・共催です。坂本一成 本学名誉教授は、建築設計・建築意匠が専門です。

展示会場
展示会場

現在の華南理工大学建築学院は、1932年に設立されたジョウ勤大学建築工学科をルーツとしています。設立初期の建築教育において、東京工業大学への留学から帰国した数名の教授陣が中心的な役割を果たされたとのことで、本学との関わりは浅からぬものがあります。しかし、その後の戦争、政変といった歴史の過程において、両校の関係も長く途絶えておりました。そのような中、2013年に開催された故篠原一男 本学名誉教授の展覧会の実現を皮切りに、建築教育を通した両校の交流の再スタートが切られ、次いでこの度の坂本一成名誉教授の展覧会の開催へと至りました。

多数の来場者

多数の来場者

展覧会では、坂本名誉教授の建築作品およびプロジェクト20作品が、大判の布にプリントされた内外観の写真と模型によって紹介されています。最初期の「散田の家」(1969)から、現在中国で進行する最新プロジェクト「常州工学院国際学術中心」まで、坂本名誉教授の40年にわたる設計活動と建築論が概観できる構成となっています。

5月9日には、学生、教員、建築関係者が多く集まるなか、展覧会場の建築学院27号楼中庭にて開幕式が執り行われました。東工大からは、坂本名誉教授および塚本由晴教授(建築学専攻)、遠藤康一特任講師(博物館)が出席し、以下のオープニングイベントに参加しました。

建築的詩学 坂本一成建築展 オープニングイベント

  • 5月8日
    レクチャー「Architectural Behaviorology(建築のふるまい学)」塚本由晴教授
  • 5月9日
    オープニングセレモニー
    レクチャー「Poetics of Neutrality(中庸の詩学)」坂本一成名誉教授
    レクチャー「Archiving Activities about the Architects at Tokyo Tech(東工大の建築家に関するアーカイブ活動)」遠藤康一特任講師

開幕式における坂本名誉教授のスピーチ
開幕式における坂本名誉教授のスピーチ

なお、坂本名誉教授の展覧会は、2001年に東京で開催された「坂本一成展 住宅‐日常の詩学」をベースとし、その後、日本国内巡回展、ヨーロッパ巡回展、東工大展、中国大学巡回展と、15年にわたり規模や内容を発展・刷新させながら継続しているものです。この後は、中国国内で2都市を巡ることが決まっています。


東工大レクチャーシアターお披露目 高校生向け講義「魔法教室」開催

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5月23日、ホームカミングデイに連動し、この春竣工したばかりの「東工大レクチャーシアター」が広く一般にお披露目されました。

「粉だらけの人生」の様子

東工大では現在、2016年4月スタートに向けて、教育システムの抜本的な改革を進めています。「東工大レクチャーシアター」は、改革の一環として整備された新しい教育環境です。国内外から最先端の研究者やノーベル賞級の発見・発明者を講師に招き、主に初年次の学生を対象に、創造的討論や実験の実演を伴った講義を開講します。

高校生向け講義「魔法教室」は、お披露目の企画のひとつとして開催されました。あいにく多くの高校が中間試験と重なる日程でしたが、130名以上の高校生が熱心に足を運んでくれました。事前に本学教員が各高校を訪問して、高大連携(高校と大学の連携のもとに行なわれる教育活動)についての情報交換をしつつ、入場チケットを配付するという広報の努力も功を奏しました。

丸山俊夫理事・副学長(教育・国際担当)が本学の教育改革について紹介するオープニング・スピーチのあと、いよいよレクチャー開始です。

講演中の細谷曉夫 特命教授

講演中の細谷曉夫 特命教授

まずは宇宙へのいざない。細谷曉夫 特命教授による「月はひと月でできた」です。

「この中で月を見たことない人?」

「・・・・・・」

「いないよね、もしいたら、その人はうそツキです」

と洒脱なトークで引き込みます。太陽系のなかでこれほど大きな衛星を有しているのは地球だけで、しかもアポロが持ち帰った月の石は地球と組成がそっくりであること。そこから、45億年前に火星くらいの大きさのテイアという惑星が地球にぶつかって、そのときのバラバラの破片がしだいに集まって月になった、という学説が生まれたことが紹介されます。いかにもとんでもない説に聞こえますが、コンピュータ・シミュレーションをしたら、きちんと立証できたそうです。スクリーンいっぱいに展開する壮麗な宇宙映像を堪能しつつ、要所要所で大学院生の芝池諭人さんが適確な質問や補足説明をはさむことで、参加した高校生達はすっきり理解できたようでした。

質問タイムでは、「衝突は1回だけなの?」「宇宙は寒いのに熱源はどこから?」と、次々と手が挙がりました。

「月はひと月でできた」の様子

講演中の戸倉和 特命教授

講演中の戸倉和 特命教授

ついで身近な粉の話。戸倉和 特命教授による「粉だらけの人生」です。よく見る粉は砂時計、隠れている粉は車の塗装。いろんな粉を紹介して走査型電子顕微鏡で覗き込みつつ、ついでに走査型電子顕微鏡の原理を解説しました。パンっとざぶとんを叩いて舞い上がる埃にたとえて顕微鏡の仕組みを解説するなんて前代未聞だと驚いているうちに、もう話題は次へ。さらさらと液体のように器に収まるけれど、固体のように形も作れる粉ならではの特質が、どう製品に応用されているか。まるで粉のように変幻自在の展開でした。

「では、粉のスカスカ度を測定してみましょう。この200CCのカップに、ぎっしりお米を入れます。そして水を注ぎます。何グラム増えた?」

はかりの目盛りが、頭上カメラでスクリーンに映し出され、全員が結果に納得しました。終了後も電子顕微鏡の回りに集まって熱心に観察する高校生達に、科学ごころがしっかり刺激された様子が伺えました。

事後のアンケートの集計結果の一部を掲載します。講義内容、会場の雰囲気ともに、高い評価をいただきました。

アンケートの集計結果:レクチャー内容は?
アンケートの集計結果:雰囲気や居心地は?

アンケートの回答者の半数にのぼる60名が、自由記述欄にも熱い応援メッセージを寄せてくださいました。その一部を紹介します。

  • 顕微鏡の設備がすごくて感動しました。2年後ここで授業を受けたいです
  • 細谷教授も戸倉教授もとても興味深く面白いお話をどうもありがとうございました。
  • 「月はひと月でできた」:とても面白かった。「粉だらけの人生」:いつもの授業の3,000倍面白かった。
  • 大学の授業、研究というものがどういったものなのか、その一端をつかめたように思います。ますます貴校に行きたいという気持ちが深まりました。

まだまだ始まったばかりの東工大レクチャーシアター。内容にも機器操作にもさらに磨きをかけて、よりスリリングに、よりファンタスティックに、サイエンスとテクノロジーの最先端に親しめる機会を提供していきます。

問い合わせ先

国際フロンティア担当

Email : kokusais@jim.titech.ac.jp

「第31回 My Study Abroad 留学報告会」開催報告

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5月26日の昼休みに、My Study Abroad 留学報告会を開催しました。国際室が募集するプログラムにより留学した学生によるこの報告会は、授業期間中、月1~2回開催されています。

今回は派遣交換留学プログラムにより留学した4名の学生が発表しました。

所属・学年
氏名
留学先
大学院理工学研究科
機械制御システム専攻 修士2年
森嶋 友輔
中東工科大学/トルコ
大学院情報理工学研究科
情報環境学専攻 修士2年
田中 あずさ
シャルマーズ工科大学/スウェーデン
大学院イノベーションマネジメント研究科
技術経営専攻 修士2年
岩田 剛
チューリッヒ大学/スイス
大学院総合理工学研究科
人間環境システム専攻 修士2年
大野 耕平
スイス連邦工科大学チューリッヒ校/スイス

報告会での発表の様子
報告会での発表の様子

寮の友人と

寮の友人と

森嶋さんは元々海外での仕事に興味があり、日本と全く異なる環境に身をおきたいという志の元、トルコの中東工科大学への留学を決めました。キャンパス内には寮、図書館、銀行、ショッピングセンター等の施設が揃っているため、日常生活に困ることはなかったそうです。また、留学生との共同研究を通し、日本で忘れていた学業の楽しさを再確認するとともに、研究に対するモチベーションアップにも繋がった、との報告がありました。最後に、犬に噛まれた経験から、留学を控える学生に必ず予防接種を受けてから出発するようにアドバイスしました。

シャルマーズ工科大学に留学した田中さんは、多くの学生が夏から留学を始める一方、冬からの留学開始を選びました。そのため、日本人が少ない環境の中、英語力に磨きをかけるだけでなく、趣味の漫画の活動を通じて多くの留学生との交流に繋がった、との報告がありました。また、プロジェクト中心の授業は多忙で、気を抜けない日々を過ごした一方で、長期休暇中はスウェーデン国内や近隣諸国への旅行を満喫できたそうです。1年間の留学は、将来のことを見つめ直すきっかけとなり、また、多くの友人との絆が人生の財産になったそうです。

シャルマーズ工科大学の建築棟

シャルマーズ工科大学の建築棟

田中さんの漫画が学内誌の表紙に

田中さんの漫画が学内誌の表紙に

金融工学を学ぶ岩田さんからは、チューリッヒ大学におけるレベルの高い金融統計や分析の知識を習得できたことが、留学の大きな収穫となった、との報告がありました。周囲の学生は勉強に対する意欲が非常に高く、大きな刺激を受けたそうです。また、世界中から人が集まるチューリッヒでは、国ごとに英語の発音が異なるため、聞き取りに慣れるまで苦労しました。さらに、寮ではどのように共有スペースを清潔に保つかという問題に直面し、文化や習慣の違う人々と同じ屋根の下に生活する難しさを経験したことを報告しました。

大野さんは、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH)に1学期間留学しました。ETHの授業は、90分の間に15分の休憩をはさむので集中しやすく、双方向形式で面白かったとのことです。議論やプレゼンテーションが多いため、「英語は出来れば出来るほどよい、出発前から時間の許す限り英語力を鍛えよう!」と、これから留学を希望する東工大生たちにアドバイスしました。また、自分から積極的にコミュニケーションをとろうとする姿勢が重要であり、何よりも様々なバックグラウンドを持った人々との交流は、人生の大きな糧となった、と留学の感想を述べました。

寮での交流
寮での交流

チューリッヒに滞在した岩田さん、大野さんからは、チューリッヒ大学とETHのキャンパスが隣接しており、交流が深いこと、前者は文系、後者は理系寄りの学業の特色があること、また、物価が高いチューリッヒではドイツまで買い出しに行くことで生活費を抑えられる等々、役立つ情報の提供もありました。

次回の報告会は6月19日です。

東工大基金

この海外派遣プログラムは東工大基金により実施されています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

問い合わせ先

国際部留学生交流課派遣担当

Email : hakenryugaku@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7645

役員会トピックス:「東工大オンラインコミュニティ」がスタート

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役員会は、東工大における最高意思決定機関です。東工大では毎月2回役員会を開催し、大学の組織、教育、研究などについて、審議し決定しています。

6月5日の会議で承認された、意欲的で新しい取り組みについて、紹介します。

「東工大オンラインコミュニティ」がスタート

東工大は、「同窓力の強化」の一環として、東工大全学同窓会である蔵前工業会との連携のもと、「東工大オンラインコミュニティ」システムをスタートしました。メンバーとなる卒業生や在学生は、インターネット経由で自らのプロフィールを登録し、他の登録者と直接連絡を取り合ったり、大学からの有益な情報を受け取ったりすることができます。大学と卒業生の連携がより一層強まることが期待されます。

ウィーン工科大学と全学レベルの交流開始

ウィーン工科大学は1815年に創立の国立大学で、 科学・技術の分野ではオーストリアにおける屈指の教育・研究機関です。これまでも大学院理工学研究科等が協定を締結していましたが、 このたび、全学レベルの交流協定を結ぶことになりました。これにより全学協定校は106大学・機関となり、各種派遣プログラムの拡充により、学生交流が加速することで、 東工大の国際化の促進が期待されます。

その他の主な審議事項

  • 国立大学法人東京工業大学組織運営規則等の改正について

  • 国立大学法人東京工業大学特定有期雇用教員等の選考に関する規則の一部改正について

"切らない手術"を実現するナノマシンを開発―がんの日帰り治療の実現に向けて―

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要点

  • ランタン系遷移金属のガドリニウム(Gd)をがん組織に選択的に送達するナノマシンを開発し、がんの磁気共鳴画像診断装置(MRI)による診断と中性子捕捉治療における有用性を実証しました。
  • ナノマシンによる切らない手術(ケミカルサージェリー)の実現によって、患者に負担の少ないがん治療、将来は入院不要の日帰り治療が可能になると期待されます。

概要

中性子捕捉治療[用語1]は患者に負担の少ない低侵襲治療法として注目されています。しかし、中性子増感分子を送達する技術の開発が大きな課題となっていました。中性子増感分子としては、既に臨床応用されているホウ素(B)の66倍の中性子吸収断面積を有するガドリニウムが大きな可能性を秘めています。東京大学大学院工学系研究科・医学系研究科の片岡一則教授(ナノ医療イノベーションセンター[用語2]・センター長兼任)、東京工業大学資源化学研究所の西山伸宏教授らの研究チームは、MRI造影剤として広く利用されているガドリニウム錯体(Gd-DTPA=マグネビスト)を患部に運ぶナノマシンの開発に成功しました。

本研究チームは、今回開発に成功したナノマシンが、がん組織に選択的に集積することによって、固形がんを選択的に造影できることを明らかにしました。さらに本ナノマシンをがんの中性子捕捉治療へと応用したところ、顕著な治療効果を確認することができました。このナノマシン治療では、イメージングで確認しながら熱中性子線を照射する治療ができるために取りこぼしの無い確実ながん治療へと繋がるものと期待されます。

ナノマシンによる切らない手術(ケミカルサージェリー)の実現によって、患者さんに負担の少ないがん治療、将来は入院不要の日帰り治療が可能になると期待されます。

研究の背景

外科手術はがん治療における第一選択肢ですが、侵襲性が高く、術後のクオリティ・オブ・ライフ(QOL=Quality of Life)の低下が大きな問題となっています。また、治療効果の面からは、患部の取りこぼしによる再発の可能性も否定できません。加えて、一般的な開腹手術では1カ月に及ぶ長期入院が必要であることや、入院に伴う経済的負担も大きな問題となります。

一方、生体にとって安全な光、超音波、熱中性子線を患部にピンポイントで照射し、そこで特定の化合物を活性化することによってがん細胞を死滅させる治療は、患者に負担の少ない低侵襲治療法として大きな注目を集めています。このような切らない手術は、ケミカルサージェリーと言われ、この技術が進歩すれば将来は入院不要の日帰り治療が可能になると期待されます。

このようなケミカルサージェリーのなかで、近年、中性子捕捉治療が注目を集めています。中性子捕捉治療では、生体に安全な熱中性子線との核反応によって細胞傷害性の放射線を出す化合物(中性子増感元素)として、ホウ素やガドリニウムなどが利用されます。ここで正常組織に傷害を与えることなく、患部をピンポイントで治療するために重要となるのが、ホウ素やガドリニウムをがん組織に特異的に送達することができるドラッグデリバリーシステム(DDS[用語3])の開発です。しかしながら、中性子捕捉治療に有用なDDSはいまだに開発されていないのが現状でした。

研究内容・成果

東京大学大学院工学系研究科・医学系研究科の片岡一則教授(ナノ医療イノベーションセンター・センター長兼任)、東京工業大学資源化学研究所の西山伸宏教授らの研究チームは、がんなどの患部に集積し、その微小環境を検知して診断および治療分子を選択的に作用させることができるナノマシンの開発を行っています。

本研究チームは、MRI造影剤として広く利用されているGd-DTPA錯体が安定に内包されたリン酸カルシウムを主成分とするナノ粒子を、生体適合性に優れた高分子材料で保護したナノマシンを開発しました。今回開発したナノマシンは、Gd-DTPA錯体のMRI造影剤としての性能を表すT1緩和能[用語4]をGd-DTPA錯体と比べて、5-6倍に増大させる効果を有することが確認されました。

さらに大腸がん細胞を皮下に移植したマウスに本ナノマシンを投与したところ、本ナノマシンは血中を長期滞留し、がん組織に選択的に集積することが明らかとなり、上記のT1緩和能の増大と相まって、MRIにおいて固形がんを選択的に造影できることが明らかになりました。このような固形がんの造影効果はGd-DTPA錯体単独では確認されませんでした。

一方、ガドリニウム錯体は、生体に安全な熱中性子線との核反応によって細胞障害性の放射線(γ線やオージェ電子)を放出します。そこで本研究チームは、上記のGd-DTPA錯体を搭載したナノマシンを中性子捕捉治療へと応用しました。

ナノマシンは、生理的pH(~7.4)環境では極めて安定ですが、腫瘍内と同様な低pH(~6.7)環境ではGd-DTPAを包んだリン酸カルシウムが溶解することによってGd-DTPAを放出する特性を有しています。がん組織への選択的集積効果と相まって、熱中性子線の照射によりがん組織に特異的な細胞傷害作用を示すことが期待されます。

本研究チームが実際に大腸がん細胞を皮下に移植したマウスに対する中性子捕捉治療を実施したところ、Gd-DTPA錯体単独による治療を行ったグループでは効果が確認されませんでしたが、ナノマシンによる治療を行ったグループでは顕著ながんの増殖抑制を確認することができました。また、ナノマシンによる治療においてマウスの体重減少などの毒性は全く確認されませんでした。

Gd-DTPA錯体を搭載したナノマシンによる固形がんのMRI(左下)と中性子捕捉治療(右下)

図. Gd-DTPA錯体を搭載したナノマシンによる固形がんのMRI(左下)と中性子捕捉治療(右下)

研究成果の新規性・重要性

本研究チームは、ナノマシンによって、MRIによるがんのイメージングが容易となり、さらに生体に安全な熱中性子線の照射によってがん組織をピンポイントで治療できることを実証しました。このナノマシン治療では、イメージングで確認しながら熱中性子線を照射する治療ができるために取りこぼしの無い確実ながん治療へと繋がるものと期待されます。

さらに、切らない手術(ケミカルサージェリー)の実現によって、患者さんに負担の少ないがん治療、将来は入院不要の日帰り治療が可能になると期待されます。

用語説明

[用語1] 中性子捕捉治療 : 生体に安全な熱中性子線とがん組織に取り込まれた中性子との反応断面積が大きい元素との核反応によって発生する粒子放射線によって、選択的にがん細胞を殺傷する原理に基づく新規がん治療法である。この治療法に用いられる中性子増感元素としては10B、157Gd等が考えられているが、現在はホウ素のみが臨床応用されている。

[用語2] ナノ医療イノベーションセンター(iCONM) : 川崎市川崎区殿町の国際戦略拠点(キングスカイフロント)におけるライフサイエンス分野の拠点形成の核となる先導的な施設として、文部科学省「地域資源等を活用した産学連携 による国際科学イノベーション拠点整備事業」の支援を受け、川崎市、公益財団法人川崎市産業振興財団が整備を進め、2015年4月に完成した研究センターです。 産学官が一つ屋根の下に集い、異分野融合体制で、革新的課題の研究及び研究成果の実用化に取り組みます。

[用語3] DDS : ドラッグデリバリーシステム(DDS) の略称。薬(核酸医薬を含む)の効果を上げ、副作用を減らすために、ターゲットとなる細胞や組織に効率的に薬を到達させ、必要量をタイミングよく放出させるシステム。

[用語4] 緩和能 : MRIは生体組織中の水の緩和時間(T1、T2)を変化(主に短縮)させて、異なる組織間のコントラストを増強し、病変部位を検出するイメージング手法ですが、造影剤の水の緩和時間を短縮する能力を緩和能と言う。

論文情報

掲載誌 :
ACS Nano
論文タイトル :
Hybrid calcium phosphate-polymeric micelles incorporating gadolinium chelates for imaging-guided gadolinium neutron capture tumor therapy
著者 :
Peng Mi, Novriana Dewi, Hironobu Yanagie, Daisuke Kokuryo, Minoru Suzuki, Yoshinori Sakurai, Yanmin Li, Ichio Aoki, Koji Ono, Hiroyuki Takahashi, Horacio Cabral, Nobuhiro Nishiyama*, Kazunori Kataoka*
DOI :

ACS Nano について

ACS Nanoouterは、2007年に創刊された米国化学会発行のナノテクノロジー専門誌であり、インパクトの大きい論文が数多く発表されています。ナノサイエンス・ナノテクノロジーの分野では世界トップクラスの学術誌として、高いインパクト・ファクターを獲得しています(IF=12.033)。

問い合わせ先

東京工業大学 資源化学研究所

教授 西山伸宏
Email : nishiyama@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5240

東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻
大学院医学系研究科疾患生命工学センター
臨床医工学部門

教授 片岡一則
Email : kataoka@bmw.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-7138

放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター

チームリーダー 青木 伊知男
Email : aoki@nirs.go.jp
Tel : 043-206-3272

公益財団法人 川崎市産業振興財団COINS支援事務局

松枝温子
Email : jimukyoku-coins@kawasaki-net.ne.jp
Tel : 044-589-5785

細野秀雄教授が井上春成賞を受賞

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細野秀雄教授が、井上春成賞を受賞しました。

「井上春成賞」は、国立研究開発法人科学技術振興機構の前身の一つである新技術開発事業団の初代理事長で、工業技術庁初代長官でもあった井上春成氏が日本の科学技術の発展に貢献した業績に鑑み、新技術開発事業団の創立15周年を記念して創設された賞です。

  • 研究題目
    「酸化物半導体In-Ga-Zn-Oスパッタリングターゲットの開発」
  • 研究者
    東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授 細野秀雄
  • 開発企業
    JX日鉱日石金属株式会社 代表取締役社長 大井 滋
    (推薦者:JX日鉱日石金属株式会社 電材加工事業本部 ユニット長 鈴木 章仁)

本技術は、フラットパネルディスプレイの画素電極を駆動する薄膜トランジスタ(TFT)の半導体層に用いられる酸化物半導体In-Ga-Zn-O(インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物)、略してIGZOのターゲット材に関するものです。

細野秀雄教授は、高い電子移動度を有する透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)の設計指針を1995年に独自に提唱し、2004年には、TAOSの一つであるIGZOを活性層に使ったTFTをプラスチック基板上に作製し、従来のアモルファスシリコンの約20倍という高い移動度が得られることをNatureに報告しました。本論文は、酸化物半導体で容易に高性能TFTができるということを初めて示したもので、これをきっかけに国内外の多くの会社がIGZOに注目しIGZO-TFTの実用化に向けた研究開発が始まりました。

そのような状況で、JX日鉱日石金属は、高純度、高密度、均一微細な微構造のターゲットの開発を進め、2011年には他社に先駆け、初めて、8.5世代成膜装置に対応する大型スパッタリングターゲット(長さ2.7メートル)の量産化に成功しました。

JX日鉱日石金属のターゲット材を用い、国内外のパネルメーカが、欠陥の少ないIGZO薄膜を高い歩留りで制作できることを確認できたことにより、IGZO-TFTを用いたディスプレイの実用化が本格的に始まりました。IGZO-TFT搭載のディスプレイは、高精細、低消費電力といった優れた性能により評価され、今後ますますの市場拡大が見込まれています。また、IGZO-TFTは有機ELディスプレイやフレキシブルディスプレイへの適用も期待されており、製造プロセスの上流にあるIGZOターゲット材料の開発の重要性も増しています。

細野秀雄教授のコメント

細野秀雄教授

細野秀雄教授

「IGZO-TFTは、2003年に結晶についてScience誌に、2004年にはアモルファスについてNature誌に最初の論文を掲載しました。また、その前にJSTから特許申請を済ませました。IGZO-TFTのディスプレイ応用には、大型ガラス基板上にスパッタリングでその薄膜を形成するための、大型で緻密なセラミックスのターゲットが不可欠です。今回、共同受賞するJX日鉱日石金属は、最初にその技術を完成させ、2010年で東工大が主催した国際ワークショップ(TAOS 2010)の際に実物を展示しました。これによって実用化の準備が整いつつあることが参加者に伝わりました。また、特許ライセンスを最初に受け製品化に成功しました。その後、内外の多くの企業がそれに倣っています。同社の高い技術力とモラルに敬意を表します。」

お問い合わせ先

広報センター
Email : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

硬さと割れにくさ両立したセラミックス実現に道―わずかな亀裂進展で靭性が急激に増すことを発見―

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要点

  • 1μm以下の亀裂進展で、セラミックスが割れにくくなる
  • 二酸化ケイ素の高圧相「スティショバイト」の微小試験で突き止める
  • 高靭化メカニズムの探索と実証ができ、強度と靭性を両立したセラミックスの実現に威力

概要

東京工業大学応用セラミックス研究所の若井史博所長と吉田貴美子大学院学生、ドイツ電子シンクロトロン研究所の西山宣正博士らの研究グループは、1μm(マイクロメートル)以下のわずかな亀裂(きれつ)進展で、セラミックスが割れにくくなることを突き止めた。二酸化ケイ素の高圧相であるスティショバイト[用語1]を集束イオンビーム加工[用語2]した微小試験片を用い、靭性(割れにくさ)が急激に増すことを見出した。スティショバイトの高靭性の起源は「破壊誘起アモルファス(多結晶)化」であるが、この仕組みが1μm以下の領域でも働くことを明確に示した。

セラミックスは硬いが、小さな傷(亀裂)から割れて破壊する脆(もろ)さがある。強度を保つためには、亀裂は小さくなければいけない。一方、破壊に対する抵抗性(靭性)は亀裂が進んで長くなるほど増す。このため、硬さと高強度を両立したセラミック材料を実現するには、亀裂がわずかに進むだけで靭性が大きくなる仕組みを見つけなければならない。しかし、これまでに知られている仕組みでは、靭性を増すためには亀裂が数μmから数十μm以上進む必要があった。

今回の技術を応用すれば、ナノメートル領域で働く新タイプの靭性強化機構の探索と実証が可能となり、高強度と高靭性を両立したセラミックスの実現に大きく近づく。研究成果は6月8日発行の科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィック・レポート)」オンライン版に掲載された。

背景

砂や岩石の主成分である二酸化ケイ素(シリカ、SiO2)はありふれた物質であり、石英(水晶)やシリカガラスとして利用されているが、脆く、割れやすいという欠点がある。シリカの高圧相であるスティショバイトは酸化物の中で最も硬く、ダイヤモンドと立方晶窒化ホウ素(c-BN)に次ぐ硬さをもつ優れた材料である。だが、その単結晶は石英やシリカガラスと同様に割れやすいものであった。

2012年に西山博士は愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC、入舩徹男 センター長=愛媛大学教授)で、ナノ多結晶スティショバイトの合成に成功し、割れにくさの指標である破壊靭性が10~13 MPa・m1/2[用語3]とセラミックスの中で最も高い値をもつ材料であることを発見した。図1に示すとおりセラミックスは一般的に硬いものほど割れやすい傾向があるが、ナノ多結晶スティショバイトは硬さと割れにくさを併せもつセラミックスである。つまり、シリカという地球上にありふれている物質から優れた機能をもつセラミックスが合成でき、資源の制約のない持続可能社会に適した材料であるといえる。ナノ多結晶スティショバイトの高い破壊靭性の起源は常圧で準安定なスティショバイトが亀裂先端の巨大な引張応力によって局所的に結晶相からアモルファス相に相変態する「破壊誘起アモルファス化」[用語4]と関連している。スティショバイトの破壊した表面には数十nm(ナノメートル)の厚さのアモルファス相が存在することがX線吸収端近傍構造(XANES[用語5])で観察されている。

破壊誘起アモルファス化はスティショバイト以外の多くの高圧相の物質でも起こりうるので、今後、類似の関連物質でさまざまな高靭性材料が発見され、高強度・高靭性セラミックスの開発が大きく進むものと期待されている。しかし、なぜ強く、丈夫になるのかという理由は明らかになっていなかった。

ビッカース硬度と破壊靱性の関係

図1. ビッカース硬度と破壊靱性の関係

研究成果

若井所長らの研究グループは、集束イオンビーム(FIB)により加工した微小試験片(図2(a))を用いて、ナノ多結晶スティショバイトの破壊に対する抵抗が亀裂進展とともにどのように増加するかを調べた。ナノ多結晶スティショバイトの破壊抵抗はわずか1μmの亀裂進展で8 MPa・m1/2まで上昇し、その飽和値は10 MPa・m1/2近く、セラミックスの中でも高い破壊靭性をもつジルコニア(二酸化ジルコニウム)や窒化ケイ素よりもはるかに高かった(図2(b))。また、ナノ多結晶スティショバイトの亀裂進展にともなう破壊抵抗の初期増加率も極めて高かった。

FIBで作製した微小試験片

図2(a). FIBで作製した微小試験片

破壊抵抗と亀裂進展長さとの関係

図2(b). 破壊抵抗と亀裂進展長さとの関係

ジルコニアの高い破壊靭性は、亀裂進展に伴って準安定相である正方晶相から単斜晶相への応力誘起変態がおこり、亀裂の周辺に相変態領域が形成されることが、その起源である。破壊抵抗が飽和値に達するまでに亀裂が進まなければいけない距離は相変態領域の厚みに比例する(図3)。一方、二酸化ケイ素の低圧相である石英やクリストバライトではケイ素(Si)原子は4個の酸素原子に囲まれた4面体構造をとるが、高圧相であるスティショバイトではSi原子は6個の酸素原子に囲まれた8面体構造をとる(図4)。

破壊誘起アモルファス化による亀裂進展抵抗の増加

図3. 破壊誘起アモルファス化による亀裂進展抵抗の増加

二酸化ケイ素の結晶構造

図4. 二酸化ケイ素の結晶構造

破壊誘起アモルファス化によって、亀裂先端の高い引張応力によりスティショバイトがアモルファス化する際に100%近い大きな体積膨張が起こる。ナノ多結晶スティショバイトで破壊抵抗が飽和値に達するまでに進まなければならない距離が極めて短かったのはアモルファス化領域の厚みが数10nmと、ジルコニアの相変態領域の厚み数μmに比べてはるかに小さかったためである。

相変態強化が働くときには、相変態に伴う体積変化が大きいほど、また、アモルファス化領域が厚いほど、破壊抵抗の増加量は大きくなる。アモルファス化領域の厚みは薄いけれども、アモルファス化による体積変化率の高いことが、ナノ多結晶スティショバイトの優れた靭性の理由であることがわかった。

今後の展望

亀裂が1μm以下のわずかな距離を進むだけで破壊抵抗が上昇することが見出され、硬くて脆いセラミックスを丈夫にする新しい仕組みが存在することが明らかになった。この発見は微小試験片による破壊抵抗測定技術の進歩により初めて可能になった。この技術を応用して、複雑なナノ構造、サブミクロンスケールの構造をもつセラミックスやナノコンポジットに適用すれば、さまざまな未知の靭性強化機構が見出される可能性があり、高強度・高靭性セラミックスの研究開発に新たな飛躍と展開をもたらすと期待される。

用語説明

[用語1] スティショバイト : 二酸化ケイ素(SiO2)の高圧相。1961年にロシアでスティショフらによって人工的に合成された。天然には隕石孔の周囲などでわずかに産出し、これは地表の石英が隕石衝突の衝撃で相変態したものと考えられる。石英は地表に豊富に存在することから、地下300kmより深い部分には多量のスティショバイトが存在していると考えられている。

[用語2] 集束イオンビーム加工 : 電界で加速したGaイオンビームにより試料の表面原子がはじき出されるスパッタリング現象を利用して、ミクロンからナノ領域での微細加工が可能。

[用語3] MPa・m1/2 : 靭性の単位。一般的なセラミックスでは3~5程度の値をとる。

[用語4] 破壊誘起アモルファス化 : 西山博士が提唱した新しい高靭化の仕組み。材料中を進む亀裂の先端に生じる巨大な引張応力によって、局所的に結晶相から非晶相(アモルファス相)への相変態が起きる。この相変態によって体積が膨張することで、亀裂が進みにくくなる。ジルコニアで類似の現象「応力誘起相変態」が知られているが、結晶相から結晶相ではなく結晶相からアモルファス相へ相変態することで、大幅に靭性が向上する。

[用語5] XANES : X線吸収端近傍構造。X線吸収スペクトルの低エネルギー領域に現れる吸収端構造から局所的な原子の電子状態(価数等)に関する情報が得られる。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Large increase in fracture resistance of stishovite with crack extension less than one micrometer
(和訳: 1ミクロン以下の亀裂進展によるスティショバイトの大幅な破壊抵抗の上昇)
著者 :
K. Yoshida, F. Wakai, N. Nishiyama, R. Sekine, Y. Shinoda, T. Akatsu, T. Nagoshi, M. Sone
DOI :

ナノ多結晶スティショバイトの合成、EXAFSによる破壊面の解析は、以下の事業・研究課題によって行われた。

戦略的創造研究推進事業 さきがけ(個人型研究)

研究領域 :
新物質化学と元素戦略(研究総括 細野秀雄 東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授、元素戦略研究センター センター長)
研究課題名 :
SiO2ナノ多結晶体:超高靭性高硬度を有する新材料の開発
研究者 :
西山宣正 ドイツ電子シンクロトロン研究所 放射光施設 ビームラインサイエンティスト
Email : norimasa.nishiyama@desy.de

問い合わせ先

東京工業大学 応用セラミックス研究所
所長 若井史博

Email : wakai.f.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5301 / Fax: 045-924-5339

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax: 03-5734-3661

シンシナティ大学の学生が東工大でThink Aloud! LUNCHに参加

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5月13日、シンシナティ大学学生の教員が東工大を訪問し、国際室のディスカッションイベントThink Aloud! LUNCHに参加しました。

シンシナティ大学は、1819年に創立され、アメリカ合衆国オハイオ州の都市部に位置し、研究大学としてはトップレベルの大学です。今回は、Japanese Experiential Learning Program(和訳:日本体験学習プログラム)の一環として本学を訪問しました。

Think Aloud! LUNCHでのシンシナティ大学と東工大の参加者
Think Aloud! LUNCHでのシンシナティ大学と東工大の参加者

Think Aloud! LUNCHとは

Think Aloud! LUNCHは、留学生センターのトム ホープ准教授が行う、英語でディスカッションをするイベントで、毎週水曜日、西9号館1階のHUB-インターナショナル・コミュニケーションズ・スペース(略称HUB-ICS)にて開催されています。毎回トピックが与えられ、短いビデオクリップを観た後、グループにわかれて英語でディスカッションを行います。トピックは「動物実験」や「ノーベル賞」、「エボラ出血熱」など、時事問題を含め興味深いものが用意されます。自分の考えを他者に伝え、他者の考えに耳を傾けることで、深く考える能力を養うことが目的です。名前の通り昼食時のイベントですので、参加者はお弁当を食べながら議論しています。

5月13日ののThink Aloud! LUNCH

お弁当を食べながら、exoskeletonsについてディスカッション

お弁当を食べながら、exoskeletonsについてディスカッション

当日のテーマは「exoskeletons(パワードスーツ)」という、技術的に高度で、社会的にも意味のあるトピックでした。シンシナティ大学の学生は、東工大の学生と意見を交換しました。身体能力を高めるために、身体に装着する機械であるexoskeletonsは、製造業、医療、そして戦争を含む幅広い分野での応用の可能性を秘めています。参加者は、exoskeletonsの活用法や社会への影響、そしてこの技術を用いることに対しての、自分の意見などについて、話し合いました。

このイベントが行われているHUB-ICSは、本学が提供する国際交流の場です。今回Think Aloud! LUNCHに参加した本学の学生にとって、意見交換を行ったり、互いの国の文化や社会政策を理解したりする、またとない機会となりました。シンシナティ大学の学生たちも、多くは初めての訪日のようでしたが、皆東工大の学生・教職員に会って、本学の魅力を体験し、大いに楽しんでいる様子でした。

イベント終了後は、SAGE(東工大国際交流学生会)outerのメンバーが、キャンパスを案内しました。シンシナティ大学の本学への訪問は、今回で2回目でしたが、また近い将来再訪されることを期待します。

シンシナティ大学の参加者とホープ准教授
シンシナティ大学の参加者とホープ准教授

問い合わせ先

国際部国際事業課国際基盤グループ

Email : ics@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7652


合成高分子でナノの七宝文様ができた―高分子で創る「かたち」が生化学、幾何学にもインパクト―

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要点

  • 高分子トポロジー化学の里程標となる高分子設計・合成技術を確立
  • 五環4重縮合トポロジー(七宝文様)高分子の合成に成功
  • 高分子合成化学から生化学・トポロジー幾何学まで広いインパクト

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の平郡寛之氏(平成23年度修士課程修了)、山本拓矢助教、手塚育志教授らの研究グループは、独自に開発した高分子反応プロセス(ESA-CF法[用語1])を発展させ、きわめて複雑な多環縮合構造の七宝文様[用語2]高分子の合成に成功した。ESA-CF法と最近の有機合成化学の成果である高分子を連結するクリック法[用語3]および高分子を折りたたむクリップ法[用語4]を駆使して実現した。

七宝文様(図1)は高度の対称性から古来わが国の意匠デザインとして家紋などに用いられてきただけでなく、トポロジー(位相)幾何学でもD4グラフとして知られ、また最近、ユニークな生理活性を示す多重折りたたみ環状オリゴペプチド(cyclotide)の構造との関連でも注目されている。したがって、ナノスケールでの七宝文様の構築は高分子合成化学領域だけでなく、生化学からトポロジー幾何学にまで広くインパクトを与えると期待される。

この成果は6月8日発行のドイツ化学会誌・国際版「Angewandte Chemie, International Edition(アンゲバンテ ケミー)」のオンライン速報に掲載された。

研究の背景と経緯

やわらかな「ひも」状の高分子セグメントで組み立てられる「かたち」には限りない設計の自由度がある。このため、高分子の「かたち(トポロジー)」に基づく高分子材料設計指針の確立はサイエンスとしての意義だけでなく、革新的な産業基盤技術を創出する途を拓くものと期待される。

とりわけ、直鎖状、分岐状、さらに多環状構造高分子を精密かつ自在に設計する合成プロセスに基礎を置いた、高分子の「かたち」に基づくブレークスルー物性・機能の創出は高分子材料化学・工学を超えて、ナノテクノロジーによる新材料創製を推進する基礎技術としても期待されている。

同研究グループはこれまで、多種・多様な単環状・多環状トポロジー高分子を効率的に合成する反応プロセスの開発を進めてきた(図1)。その結果、独自に分子設計した末端官能性高分子前駆体(テレケリクス[用語5])による高分子間静電相互作用を駆動力とする自己組織化と、さらに選択的共有結合変換を統合した画期的方法(ESA-CF法:Electrostatic Self-Assembly and Covalent Fixation)を確立した。

五環4重縮合トポロジーの七宝文様高分子(赤で表示)と関連する多環状多重縮合構造高分子の「かたち」(なお、当研究室でこれまでに合成された高分子を緑で表示している)
図1.
五環4重縮合トポロジーの七宝文様高分子(赤で表示)と関連する多環状多重縮合構造高分子の「かたち」(なお、当研究室でこれまでに合成された高分子を緑で表示している)

さらにこのESA-CF法と新しい有機合成化学手法(クリック法やクリップ法など)を組み合わせ、新奇トポロジー高分子を自在に提供するブレークスループロセスの開発を進めてきた。

今回、高分子の「かたち」を究める途の里程標としてきわめて挑戦的な、五環4重縮合トポロジーの七宝文様高分子の合成に挑戦した。七宝文様(図1)は古来わが国の意匠デザインとして家紋などに用いられてきただけでなく、トポロジー幾何学でもD4グラフとして知られている。

また、最近ユニークな生理活性を示す多重折りたたみ環状オリゴペプチド(cyclotide)の構造との関連でも注目されている。したがって、ナノスケールでの七宝文様(図1)の構築は、高分子合成化学領域だけでなく生化学からトポロジー幾何学にまで広くインパクトを与えるものと期待される。

研究成果

今回の研究では、まずクリック法およびクリップ法に必要な官能基(アルキン基、アジド基およびオレフィン基)を有する単環状および双環状高分子前駆体をESA-CF法を用いて合成した(図2)。次いで、アジド基とオレフィン基を一つずつ有する単環状高分子と、アルキン基を二つ有する双環状高分子のクリック反応を銅触媒の存在下で行い、両端にオレフィン基を有する四環スピロ型高分子(図2)を合成した。

さらにこの四環高分子前駆体を用い、ルテニウム触媒存在下、希釈条件でクリップ反応(分子内オレフィンメタセシス)を行い、五環4重縮合トポロジー構造(七宝文様)高分子の選択的構築に成功した。反応の進行と合成の確認は、化学構造(1H NMR)、分子量(SEC)、末端官能基(IR)および絶対分子量(MALDI-TOF MS)の測定により行った。

ESA-CF法によって得られる単環状および双環状高分子前駆体を用いたクリック法およびクリップ法による七宝文様高分子の合成経路
図2.
ESA-CF法によって得られる単環状および双環状高分子前駆体を用いたクリック法およびクリップ法による七宝文様高分子の合成経路

今後の展開・波及効果

ESA-CF法、クリック法およびクリップ法を組み合わせることで、環状ポリペプチドの折りたたみをモデルとする多環縮合型構造の選択的構築が可能となることを示した。この手法はさらに複雑な構造の高分子や複数セグメントから成るブロック共重合体の合成にも応用可能であり、「かたち」に基づいた新物性高分子の創出につながると期待される。

さらに、基礎数学(トポロジー幾何学)と高分子化学を融合する新たな基礎研究領域としての「高分子トポロジー化学」体系の構築に向け一歩を踏み出すことができた。こうした基礎研究領域の創出は世界に発信する重要な学術的貢献となるだけでなく、革新的な産業基盤技術を創出する途を拓くものと期待される。

とりわけ高分子材料科学・工学への直接的なインパクトとして、高分子の「かたち」ライブラリーの構築によって高分子材料設計の基礎となる種々の分析・計測・シミュレーションに不可欠な「標準試料」の提供が実現する。これにより、直鎖状および分岐状高分子とは基本的に異なる環状および複環状構造を含む「かたち」からはじめる高分子設計の自由度を大きく拡大できよう。

用語説明

[用語1] ESA-CF法 : カチオン性テレケリクスと多価アニオンとの静電相互作用による自己組織化を利用し、単環状・多環状などの複雑なトポロジー高分子を選択的に合成する手法。

[用語2] 七宝文様 : 同じ大きさの円の円周を四分の一ずつ重ねて繋いでいく文様。

[用語3] クリック法 : 温和な条件で選択的かつ高効率に進行するクロスカップリング(異なる構造の二つの分子を結合させて一つの分子にする)反応。代表的な例として、今回の研究で用いたアルキン-アジド間のHuisgen反応(ヒュスゲン反応、環化付加反応)が挙げられる。

[用語4] クリップ法 : C=C不飽和結合の組み換え反応。2つの末端オレフィン間でこの反応が起こると、環状分子を形成し内部オレフィンが生成する。

[用語5] 末端官能性高分子前駆体(テレケリクス) : ギリシア語の「遠く離れた位置」および「爪・鉤」からの造語で、高分子の末端に特定の機能を持った官能基を導入したもの。複雑な高分子構造を組み立てる前駆体として有用。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie, International Edition
論文タイトル :
Folding Construction of A Pentacyclic Quadruply-fused Polymer Topology with Tailored kyklo-Telechelic Precursors
著者 :
Hiroyuki Heguri, Takuya Yamamoto, and Yasuyuki Tezuka
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学 大学院理工学研究科 有機・高分子物質専攻
教授 手塚育志

Email : ytezuka@o.cc.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2498 / Fax : 03-5734-2876

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

エジプト日本科学技術大学との学術交流協定の締結

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エジプト日本科学技術大学(E-JUST)が、本学の学術交流協定校に新たに加わりました。これで本学は、学生交流や研究者交流推進のための学術交流協定(全学協定)を世界28の国・地域、105機関と結んでいることとなります。

E-JUSTは、エジプト・アラブ共和国が日本政府に支援を要請し、2010年アレキサンドリアに新設された大学です。日本型の工学教育の特長を活かした「少人数、大学院・研究中心、実践的かつ国際水準の教育提供」をコンセプトとしています。

E-JUST学長室での調印式
E-JUST学長室での調印式

東工大とE-JUSTの間では、2011年12月末に大学院理工学研究科(工学系)と大学院社会理工学研究科による部局間協定が締結されていました。このたび、それ以来念願であった全学協定の調印式が、5月25日にE-JUST学長室にて行われました。

全学協定書を手にする三島学長(左)と市村特命教授(右)

全学協定書を手にする三島学長(左)と市村特命教授(右)

調印式には、東工大から市村禎二郎特命教授が学長代理として出席しました。さらに市村特命教授は日本に帰国後、三島良直東工大学長と面会し、同調印式にて署名された書類を手渡すと共に、同式について報告を行いました。

この協定は、東工大とE-JUSTの将来にわたる教育・研究分野での協力関係を約束するものであり、今後の両大学間の更なる共同活動の活発化が期待されています。

問い合わせ先

東工大E-JUST支援室

Email : ejust@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2558

第24回大岡山蔵前ゼミ「持続的成長への道筋を考える」開催報告

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大岡山蔵前ゼミは、東工大の全学同窓会である蔵前工業会の東京支部が主催する、卒業生と学生の交流の場です。日本社会や経済をリードしている先輩を講師に迎え、これから社会に出る大学生・大学院生に、講演会・懇親会をとおして、様々な情報提供、意見交換を行っています。

講師 本多均氏

講師 本多均氏

5月29日、大岡山蔵前会館くらまえホールにて第24回大岡山蔵前ゼミが開催されました。今回は「持続的成長への道筋を考える」と題して株式会社三菱総合研究所の本多均専務執行役員(本学卒業生)より講演がありました。学生83名、社会人40名が参加しました。

三菱総合研究所は1970年創業のシンクタンクの老舗ともいえる会社です。経済・経営から科学技術、環境・エネルギー、社会基盤、情報通信、教育、医療、福祉など多面的な分野での事業展開をしており所属する研究員も広い分野の人材を有しています。研究員の7割程度が理工系という特徴があり、その内の1割が東工大の卒業生です。

質疑応答

質疑応答

事業内容の紹介では、地方創生に向けた取り組みを中心に、これからの日本の課題解決に向けてヒントになりそうな事例が多く紹介されました。高齢化が進んだ地方の島嶼部において若い学生が島外から流入するようになった事例、地元の産業が疲弊していく中で、東京で働いている企業家が集まるようになった事例、シャッター街となった商店街について所有権と利用権を分離したことによって再生した事例などです。

成功のポイントは地域社会が持っている地域資源を再発見することであると、本多氏からのアドバイスもありました。また、学生に対して「社会に出て年齢を重ねるにつれて他流試合をして行かなければならない、そのためには自分の専門性だけでは生きていけない」とのメッセージと共に「今の学生は、認知能力は上がっているが非認知能力(判断する力や人を説得する力など)が下がっている」との指摘もありました。

講演会に引き続き、学生と卒業生の懇親会がロイアルブルーホールにて開催され、活発な交流が行われました。

懇親会
懇親会

問い合わせ先

一般社団法人 蔵前工業会 東京支部事務局

Email : kuramae-tokyo@deluxe.ocn.ne.jp
Tel : 03-3748-4447 / Fax : 03-3748-4448

平成28年4月入学大学院修士課程及び専門職学位課程「募集要項」を公表

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平成28年4月入学大学院修士課程及び専門職学位課程入学試験の募集要項を下記のとおり公表します。

本年4月に「入試案内」で公表した内容から、日程の詳細、教員の追加等教員一覧の一部変更があるほかは、大きな変更はありませんが、必ず募集要項を確認のうえ、出願してください。

2016年4月から開始する教育改革に伴い、本学はより充実した教育システムを提供します。
新しい教育システムでは、多様性をより一層尊重しており、国内外に広く志願者を募集します。
様々な環境で学部教育を修めた学生が集まることで、お互いを刺激し合いながら学修する相乗効果が生まれることを期待しています。

募集要項(冊子)配布開始: 2015年6月25日(木)

配布場所

  • 大岡山キャンパス
    西8号館E棟2階入試課 9:00~17:00(平日のみ)
    守衛所(正門入りすぐ左)7:00~22:00(平日、土日可)
  • すずかけ台キャンパス
    J1棟1階学務課ロビー 9:00~17:00(平日のみ)
  • 田町キャンパス
    CIC912号室 9:00~17:00(平日のみ)

郵送による請求

下記住所宛ての封筒に、募集要項名「平成28年4月入学大学院修士課程・専門職学位課程募集要項」と朱書し、次の2点を同封のうえ送付してください。封筒の裏面には必ず請求者の住所、氏名を記入して下さい。

  • 返信用封筒(角型2号 24cm × 33cm に郵便番号、住所、氏名を明記し、350円分の切手を貼付)
    封筒の見やすい所に「ゆうメール」と朱書すること
  • 連絡先(電話番号)を記入したメモ

出願締切まで期間が短いので、早めに請求してください。また、海外への発送はできません。日本国内在住の代理の方が請求してください。

〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1-W8-103
東京工業大学学務部入試課宛

出願書類受付期間: 2015年7月1日(水)~7月7日(火)(必着)

(入試課窓口受付時間: 10:00~12:00、13:00~15:00

日程の詳細及び募集要項(閲覧用pdf)は、下記を参照してください。

閲覧用pdfは入学志願票等を含みません。出願の際は必ず冊子版を取り寄せてください。
4月公表の「入試案内」に基づき、募集要項の送付希望の手続きをされた方で6月24日(水)までに入試課に到着したものについては、25日(木)に送付します。6月29日(月)までに届かない場合は、6月30日(火)までに入試課下記連絡先へ必ず連絡してください。連絡がない場合は、受領済みとさせていただきますので、ご注意ください。

東工大教育改革

2016年4月、東工大の教育が変わります。現在推進中の教育改革の骨子と進捗をまとめた特設ページをオープンしました。

東工大教育改革

お問い合わせ先

学務部入試課
Email : nyushi.daigakuin@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3990
(平日9:00~17:15[12:15~13:15を除く])

TiROPサマープログラム参加の留学生へキャンパスツアーを実施

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6月2日、東工大のサマープログラムに参加するためにTiROPの協定大学から事前に来日した学生を対象としたオリエンテーションが行われ、その一環として、過去にTiROPで東工大から派遣された学生や、本年度派遣予定の学生たちが主体のキャンパスツアーが実施されました。

TiROP(グローバル理工系リーダー養成共同ネットワーク)は、文部科学省の「大学の世界展開力強化事業」としての採択を受けている留学生の受入・派遣プログラムです。このプログラムでは、アジア・欧米等の世界トップレベルの理工系大学と東工大が連携して、それら大学から留学生を受入れ、同時に東工大生を派遣します。学生交流を通じてネットワークを構築することで、大学の国際化を推進し、国際的な舞台で活躍できる人材の育成を目指しています。

構内を移動する参加者

構内を移動する参加者

一同は、始めに第二食堂を訪れ、メニューを見たり学食の雰囲気を味わいました。隣にある生協では、東工大グッズや専門書などを手に取っていました。その後、第一食堂に向かい参加者で昼食を楽しみました。留学生は日本のカレーライスに興味を示していました。昼食が終わると附属図書館に移動しましたが、一同は外観や、整った設備に驚いていた様子でした。次のHUB-ICSでは、東工大の学生たちと交流が行われました。最後に体育館に行き、トレーニング施設などを見学しました。

昼食の様子
昼食の様子

昼食の様子

今回のキャンパスツアーのリーダー チャン・ズイ・タックさん(ベトナム出身 国際開発工学専攻博士課程1年 平成27年度ジョージア工科大学へ派遣予定)からの報告

TiROP留学生、留学生チューター、TiROP派遣生の皆さんは一緒に話しながら、大岡山キャンパス内を視察して、有意義な時間を過ごしました。

TiROP留学生の皆さんは、この日東工大へ来るのが初めてだったため、東工大の様々な施設を見ることができ、興味が尽きない様子でした。特に図書館を見学する時がそうでした。また、TiROP留学生同士もこの日は初対面だったこともあり、このツアーを通じて、より仲よくなったのではないかと思います。

留学生チューターの皆さんも、それぞれの授業や研究室で勉学や研究に励んでいるため、なかなか交流する機会がないとは思いますが、この機会に、他の国の新しい友達を作り、交流することができ、とてもよい経験になったと思います。

参加者の集合写真
参加者の集合写真

HUB-ICS : 言語やコミュニケーション、国際化に興味がある学生と教職員が利用できる空間。
英語やその他の言語で会話やディスカッションをし、様々な国籍の人とのつながりを作ること可能です。また、テレビで英語のニュースを見ることができ、コンピューターの利用ができる施設でもあります。

問い合わせ先

東京工業大学国際部留学生交流課
「大学の世界展開力強化事業」TiROP事務局

Email : tirop@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2984

エジプト日本科学技術大学(E-JUST)学長が三島学長を表敬訪問

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4月16日、エジプト日本科学技術大学のエルゴハリ学長、鈴木正昭第一副学長等が東工大を訪問し、三島良直学長、丸山俊夫理事・副学長、関口秀俊副学長等と懇談しました。

本学は、準備段階からE-JUST設立プロジェクトに積極的に貢献し、設立後は、同大大学院に設置された8つの専攻のうち3専攻に専攻幹事校として協力しています。2014年2月、第2フェーズ開始時にE-JUST国内支援大学の総括幹事大学に就任したことを機に、2014年4月には「東工大エジプトE-JUSTオフィスouter」をエジプト、ボルグエルアラブのE-JUSTキャンパス内に設立し、支援体制を強化しています。同オフィスは本学4番目の海外オフィスであり、アフリカ・アラブ地域では最初です。

懇談では、エルゴハリ学長から、設立から現在までの本学から同大への協力に対して三島学長に感謝の意が述べられました。2017年を目標に、学部生向けのプログラムを開校する準備を進めていることが伝えられるとともに、本学へのさらなる支援が要請されました。

懇談後、一行は、本学キャンパス内のE-JUST支援室に移動し、今後の連携について本学関係者と懇談を行いました。

三島学長(右から4人目)とエルゴハリ学長(右から3人目)、鈴木正昭第一副学長(右から2人目)
三島学長(右から4人目)とエルゴハリ学長(右から3人目)、鈴木正昭第一副学長(右から2人目)

大隅良典栄誉教授 ガードナー国際賞受賞祝賀レセプションが開催

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2015年ガードナー国際賞を受賞する東京工業大学フロンティア研究機構の大隅良典栄誉教授らの祝賀レセプションが、6月18日、マッケンジー・クラグストン駐日カナダ大使、ジョン・ダークス ガードナー財団理事長の出席の下、在日カナダ大使公邸において開催されました。

左から、大谷理事・副学長、ダークス理事長、大隅栄誉教授、三島学長
左から、大谷理事・副学長、ダークス理事長、大隅栄誉教授、三島学長

大隅良典栄誉教授

クラグストン大使の歓迎の挨拶と大隅教授らの業績の紹介に続いて、ダークス理事長より日本人のガードナー受賞者数は12人を数え、生命科学分野における日本の研究水準の高さへの賞賛がありました。大隅教授は「オートファジーの研究を始めたころは、なかなか理解されず役に立つかどうかも分かりませんでした。27年間研究を続けてきて、様々な分野の研究領域に広がりつつあることを大変嬉しく思います。研究者として基礎研究の重要性を改めて強調したいと思います」と挨拶しました。

レセプションには、同時に受賞した大阪大学免疫学フロンティアセンターの坂口志文教授や過去のガードナー賞受賞者、三島良直学長、大谷清理事・副学長ら約100名が参加し、梅雨の合間の美しい公邸の庭園を楽しみました。

授賞式は2015年10月29日にカナダ・トロントで開催されます。

公邸の庭園にて

公邸の庭園にて

レセプションの様子

レセプションの様子


「東工大ホームカミングデイ2015」開催報告

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ホームカミングデイが、今年も大岡山・すずかけ台の両キャンパスでそれぞれ開催されました。今年で4回目を迎え、卒業生同士・卒業生と大学・卒業生と現役学生の交流を促す年間行事として定着してきています。今回は、家族や地域の皆様にもご参加いただける企画を設けたことで、交流の場として、さらに充実したものとなりました。特に今年の大岡山開催は、将来、東工大の同窓生になるであろう若い世代を対象とした小中学生向けの工作・実験教室、高校生向けの講義を企画し、多くの児童、生徒、保護者の方々に来場していただきました。

5月16日には、すずかけ祭との同時開催で「ホームカミングデイ2015すずかけ台」として、JFE鋼板株式会社代表取締役社長 小倉 康嗣氏による特別講演会「鐵の魅力 ~安くて最も機能性のある材料~」及び全体交流会が開催されました。多くの卒業生、教職員、現役学生が集まり盛況でした。

小倉康嗣氏による特別講演会

小倉康嗣氏による特別講演会

すずかけ台全体交流会

すずかけ台全体交流会

サークル等の模擬店

サークル等の模擬店

5月23日には、「ホームカミングデイ2015大岡山」が開催されて天気にも恵まれ、こちらも多くの卒業生、教職員、現役学生が集まりました。昨年は日曜開催でしたが今年は土曜日に変更し、各同窓会の講演会を開催しました。また、小中学生向け、高校生向け、在学生・家族向け、さらには地域や一般の方にも参加いただける企画を充実させ、多くのサークルがイベントを実施しました。OB、OGと現役との集まりや、サークル等有志による模擬店も開催されました。様々なイベントを企画し、対象の幅を広げたことにより、多くの方々に来場していただき、活気溢れる催しとなりました。

スーパーコンピューター「TSUBAME」の見学ツアーでは、ビデオを交えた分かり易い説明で、優れた性能を紹介しました。ツアーは、20名限定で5回実施し、約100名の方に参加していただきました。図書館の見学ツアーでは、約20分間隔で合計34回のツアーを行い、274名の方に館内をご覧いただきました。

コミュニケーション・ラウンジでの展示

コミュニケーション・ラウンジでの展示

大学食堂2階のコミュニケーション・ラウンジでは、理学部、工学部、生命理工学部のスライドやパネル展示による学部紹介が行われ、多くの高校生に来場していただきました。同じフロアでは、以下の学生グループによるポスター展示も行われ、東工大を学生の力で変えて行こうという活動が紹介されました。

Meisterによる人力飛行機の組立

Meisterによる人力飛行機の組立

ポスター展示以外にも、学生サークル等による企画は盛りだくさんで、日頃の活動の成果を披露しイベントを盛り上ました。たとえば、東工大ScienceTechnoと「蔵前理科教室ふしぎ不思議」(略称:くらりか)はともに、小中学生向けの工作教室を行い、現役を引退したOBの方と、現役学生が相談をしながら、それぞれの出し物を決めて、協力して小学校、中学校向けのパンフレットを作製し、配布する世代を超えた共同作業を行いました。また、東工大ボランティアグループは東北物産展を開催し、その収益を震災復興のために寄附しました。参加した学生サークル等は以下の通りです。

東工大Science Technoによる工作体験教室

東工大Science Technoによる工作体験教室

「くらりか」による工作・実験教室

「くらりか」による工作・実験教室

この他に、学生サークル等のOB、OG総会も数多く開催されました。

高校生向け講義「魔法教室」

高校生向け講義「魔法教室」

西5号館531講義室を改修し、新しい教育環境としてオープンした「東工大レクチャーシアター」では、高校生向け講義「魔法教室」が行われました。丸山俊夫 理事・副学長が本学の教育改革について紹介するオープニング・スピーチのあと、初めに、細谷曉夫 特命教授による「月はひと月でできた」の講義が行われました。細谷特命教授は、スクリーン一杯に展開する壮麗な宇宙映像を交えて、月はどうやってできたのかを解説しました。次いで、戸倉和 特命教授による「粉だらけの人生」の講義が行われました。戸倉特命教授は、身近にある粉を題材に、電子顕微鏡の仕組みを解説しました。参加した高校生達は、これらの講義で科学への関心が大いに刺激され、大学への進学意欲が高まったようです。

馬渕清資教授による特別講演会

馬渕清資教授による特別講演会

続いて「東工大レクチャーシアター」では、北里大学医療衛生学部医療工学科臨床工学専攻 馬渕清資 教授による特別講演会「科学技術と文化」が開催されました。馬渕教授は、専門の人工関節の滑りの研究の延長として、「バナナの皮の滑り」に興味を持ちました。バナナの皮の摩擦測定、滑りに対する粘液の影響といった研究が元となり、2014年にイグノーベル賞物理学賞を受賞されています。講演では、バナナの皮の研究から他の果物の皮や人工関節の話まで広がり、「文化の華が咲き、科学技術が実る」ことについてユーモアを交えてお話しいただきました。最後には「I Will Follow Him(映画「天使にラブ・ソングを」主題歌)」のパロディを熱唱していただき、素晴らしい講演で大変に好評でした。

また、以下の本学同窓会組織が開催した総会・講演会等には、多くの同窓生及び関係者が参加しました。

学長主催の昼食会に参加した各同窓会代表及び関係者
学長主催の昼食会に参加した各同窓会代表及び関係者

三島良直学長挨拶

三島良直学長挨拶

夕方からは、東工大蔵前会館(TTF)1階全フロアで全体交流会を開催し、会場には学科・分野別のテーブルに加え、サークルや学生交流プログラムのテーブルも用意されました。懐かしい顔ぶれによる旧交を温める場面に加え、現役学生とOB、OGによる世代を超えた交流も、会場の至るところで見られました。交流会冒頭、三島良直 学長、石田義雄 蔵前工業会副理事長の挨拶に続き、男声合唱団シュヴァルベンコールOBによる合唱が、交流会に華を添えました。

シュヴァルベンコールOBによる合唱

シュヴァルベンコールOBによる合唱

大岡山全体交流会

大岡山全体交流会

東工大と蔵前工業会共催によるホームカミングデイ2015は、岡田 清 理事・副学長による全体交流会の閉会の挨拶とともに締めくくられ、卒業生と大学の絆を強める象徴的なイベントが終了しました。

最後に、東京工業大学ホームカミングデイ2015運営委員会 篠崎和夫 委員長より、ご挨拶申し上げます。

東工大ホームカミングデイ2015に御参加いただいた皆様

東京工業大学ホームカミングデイ2015は、すずかけ台・大岡山ともに成功裏に終了しました。ご来場いただいた同窓生およびご家族の皆様をはじめとして、小中学生、高校生、あるいは近隣の皆様にはお楽しみいただけたでしょうか。

東京工業大学は社会に開かれた大学として、様々な催し物を設けており、ホームカミングデイもそのひとつです。ご来場になられて、お気づきの事などがありましたら、どのようなことでも結構ですのでご意見をいただければ、来年以降の参考にさせていただきます。よろしく御願いいたします。

なお、来年の東工大ホームカミングデイ2016は、すずかけ台と大岡山を一元化し、2016年5月21日(土)に大岡山キャンパスで実施する予定にしております。更に楽しい会にすべく準備を進めて参りますので、来年も是非、御参加下さい。

篠崎和夫

問い合わせ先

東工大ホームカミングデイ事務局

Email : hcd@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2414

EPFL及びアーヘン工科大学との国際産学連携ワークショップ

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6月8日~12日に、東京工業大学の教職員がスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)及びアーヘン工科大学を訪問し、各大学の関係者と研究発表、意見交換を行うワークショップを開催しました。

EPFL ブロイラー教授による説明

EPFL ブロイラー教授による説明

アーヘン工科大学 ワークショップ(左からブレッテル副学長、ディンター氏、岸本工学系長、武田教授、グリース教授)

アーヘン工科大学 ワークショップ(左からブレッテル副学長、
ディンター氏、岸本工学系長、武田教授、グリース教授)

東工大は、「世界のトップ10に入るリサーチユニバーシティ」を目指して、様々な取り組みを行っています。中でも国際化は、今後の成長・発展になくてはならない要素です。具体的には、大学・企業の国際的な研究者・技術者の育成と、世界的なイノベーションにつながる研究の実践、これらを踏まえて交流強化が強く求められています。

EPFL 国際部長フロマンタン博士

EPFL 国際部長フロマンタン博士

この一環として、欧州の有力理工系大学であるEPFL及びアーヘン工科大学との交流を活発化させるため、今回のワークショップ開催へと至りました。東工大教員7名と日本の企業関係者3社が参加し、欧州に拠点を有する9社が現地参加しました。両大学とも産学連携活動やベンチャー企業の創出を積極的に進めていて、ワークショップでは大学発のベンチャー企業からもプレゼンテーションがあり、有意義な会合となりました。

アーヘン工科大学 ブレッテル副学長挨拶

アーヘン工科大学 ブレッテル副学長挨拶

東工大ではすでにMITとの国際連携の取組みを進めていますが、今回訪問したEPFLやアーヘン工科大学とは、それぞれの特色を活かしたスキームを構築して連携を進めていく計画です。この取り組みが新たな共同研究や製品開発プロジェクトにつながり、東工大と、EPFLやアーヘン工科大学と、日本や欧州の企業が協業することで、新たな大型国際共同研究へ繋がることが期待されます。また、東工大は、両大学とすでに授業料等不徴収協定を含む学術交流協定(全学協定)を締結済みで、相互の学生交流を行っています。両大学ともこの交流をさらに拡大することを希望しており、今後のさらなる交流の発展が見込まれます。

決められた人数内の学生をお互いに受入、派遣する際に、在籍大学に授業料を支払うことで、留学先大学での授業料・検定料等が免除される取り決め

両大学について

EPFL

  • 1869年設立。スイスに2校ある国立理工系大学の一つ。(他の一つはスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH))
  • 学生数約1万人。総予算859百万フラン(約1,030億円)国際化が進んでおり、学生、教員の50%は外国人。
  • 2014-2015 THE世界大学ランキング総合 34位、工学 12位(東工大はそれぞれ141位、59位)。
  • ベンチャー企業の創出が盛んで、2000-2014年までの合計192社設立。
  • 企業との連携(Innovation Squareへの企業の入居)が盛んで、164社が進出。

EPFL キャンパス
EPFL キャンパス

アーヘン工科大学

  • 1870年設立。ドイツ ノルトライン・ヴェストファーレン州立大学。
  • 学生数約42,000人、うち工学部が2.3万人、機械工学科のみで1万人を超え、欧州最大を誇る。総予算890百万ユーロ(約1,220億円)。
  • 2014-2015 THE世界大学ランキング総合 156位、工学 54位
  • EPFLと同様積極的に企業をキャンパス内に誘致(Innovation Factory)し、120社以上が拠点を置いている。
アーヘン工科大学 本部建物

アーヘン工科大学 本部建物

アーヘン工科大学 ブックス教授研究室見学

アーヘン工科大学 ブックス教授研究室見学

問い合わせ先

産学連携推進本部

Email : sangaku@sangaku.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3886

大腸菌に潜む「マクスウェルのデーモン」の働きを解明―情報と熱力学の融合による生体情報処理の解析への第一歩―

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要点

  • 餌に反応する大腸菌の行動と細胞内に流れる情報量の定量的な関係を解明
  • 従来の情報理論ではなく物理学の新理論である「情報熱力学」を応用
  • 生体情報処理のメカニズムを人工情報処理に応用できる可能性も

概要

東京大学工学系研究科の沙川貴大准教授と東京工業大学大学院理工学研究科の伊藤創祐日本学術振興会特別研究員は、大腸菌が餌(えさ)に反応する際に生体内で情報が果たす役割を定量的に解明した。生体内の情報の伝達と活用は生命の維持に不可欠だが、従来の情報通信のための情報理論が単純には適用できないため、情報理論と熱力学を融合させた新しい物理理論である「情報熱力学」を駆使して実現した。

生体内では単一分子レベルで情報処理が行われ、その働きが19世紀の物理学者マクスウェルが考えた「マクスウェルのデーモン」[用語1]と類似していることに着目、「デーモン」についての物理理論である情報熱力学を適用した。

情報理論の枠組みを超えて生命の情報処理メカニズムを解明することは、生物物理学の大きな挑戦であり、この成果は生体内の情報処理メカニズムを解明するための物理学による新しいアプローチの第一歩といえる。

研究実施当時の所属は、沙川准教授が東大総合文化研究科広域科学専攻 准教授、伊藤学振特別研究員が東大理学系研究科物理学専攻 博士課程学生である。

研究の背景

絶えず変動する外界についての情報を取得し、それを活用することは生体システムの維持にとって不可欠である。たとえば、大腸菌が細胞内で情報をうまく処理することで、環境の変化に適応しながら餌を探す「走化性」[用語2]と呼ばれる現象が知られている。

このような生命の情報伝達メカニズムは、コンピュータによる人工的な情報通信とは異なっている。実際、私達の生活を支えるインターネットの通信では、高度な誤り訂正を用いて正確な情報通信を実現しているが、一方で生体内ではそのように複雑な誤り訂正が行われているわけではない。にもかかわらず、生体内では柔軟かつ正確な情報伝達が実現している。

このような生体内での情報伝達には人工的な情報通信のために発展した情報理論を単純には適用できない。したがって、従来の情報理論の枠組みを超えて生命の情報処理のメカニズムを解明することは、生物物理学の大きな挑戦だった。

近年、情報理論と熱力学を融合させた「情報熱力学」という物理学の分野が活発に研究されている。これは19世紀の物理学者マクスウェルが考えた「マクスウェルのデーモン」という物理学の大問題と密接に関係している。

この「デーモン」とは、分子を一つ一つ観測してその情報を使ってフィードバック制御をすることで、一見すると熱力学の第二法則を破ることができるように見える存在である。かつては、デーモンは理論上の仮説と考えられていた。

しかし近年、デーモンは実際に実験で実現されている。さらに、生体内での情報伝達には、デーモンと類似の働きが組み込まれている場合がある。とくに、大腸菌の走化性におけるシグナル伝達にはフィードバック制御[用語3]が組み込まれており、これがデーモンと類似の働きをしているとみなすことができる。

研究成果

研究グループは、この類似性に着目し、情報熱力学によって生体内の情報伝達のメカニズムを解明することに成功した。その結果として、大腸菌の細胞内を流れる情報量が、大腸菌の適応行動が外界からのノイズに対してどのくらい安定であるかを決める、という関係を明らかにした。

その際、情報量を定量化するために「移動エントロピー」と呼ばれる量を用いることが重要であることが分かった。さらに、大腸菌の適応のメカニズムは、通常の熱機関としては非効率(散逸的)だが、情報熱機関としては効率的であることを突き止めた。

今後の展開

これらの成果は、生体内でも定量化可能な物理量を用いて生体内の情報処理メカニズムを解明するための、新しいアプローチの第一歩になる。また近年、「マクスウェルのデーモン」が実験的に実現されていることから、生体内の「デーモン」のメカニズムを人工的な情報処理に応用できる可能性がある。

大腸菌のシグナル伝達の模式図。餌となる化学物質からの入力情報が伝えられ、それが受容体のメチル化レベルにいったん記憶されたあと、フィードバックによる安定化が行われている。
図1.
大腸菌のシグナル伝達の模式図。餌となる化学物質からの入力情報が伝えられ、それが受容体のメチル化レベルにいったん記憶されたあと、フィードバックによる安定化が行われている。
大腸菌のシグナル伝達の情報熱力学的な効率のシミュレーション結果。入力信号に対して、情報熱力学的な効率を表す性能指数を示している。性能指数が1に近いほど、通常の熱効率と比べて情報熱力学的な効率が高くなる。
図2.
大腸菌のシグナル伝達の情報熱力学的な効率のシミュレーション結果。入力信号に対して、情報熱力学的な効率を表す性能指数を示している。性能指数が1に近いほど、通常の熱効率と比べて情報熱力学的な効率が高くなる。

用語説明

[用語1] マクスウェルのデーモン : 熱力学のもっとも重要な法則は、熱力学第二法則である。これは熱機関(エンジン)によって使えるエネルギーの上限を決める法則で、とくに第二種永久機関(一様な温度の熱源から仕事を取り出して、他に何もしないような熱機関)は不可能であることを示している。しかし、19世紀の物理学者マクスウェルによって、「マクスウェルのデーモン」がいれば第二法則が破られるのではないか、ということが示唆された。ここでデーモンとは、分子を一つ一つ観測し、その観測結果の情報を使って分子を操作する存在である。現代的観点から言うと、これはフィードバック制御の一種であると言える。19世紀当時、デーモンは理論上の仮説に過ぎず、一見すると物理学の根本原理と矛盾しているので、「パラドックス」であると考えられた。しかし近年の技術の進歩により、マクスウェルの提案から150年近くを経て、実際に実験でデーモンを実現することができるようになった。また、「情報量」の概念を熱力学に取り入れることで、デーモンが熱力学第二法則と矛盾しないことも明らかになった。これらの研究成果は、情報処理過程にも適用できるように拡張された熱力学である「情報熱力学」と呼ばれる分野の発展につながっている。情報熱力学によって、分子レベルでの情報処理をする際のエネルギーコストを明らかにすることができる。本研究では、情報熱力学を生体内の分子レベルの情報処理に応用した。

[用語2] 大腸菌の走化性 : 大腸菌は餌(リガンド)が濃い方向に向かって進む性質がある。リガンドは大腸菌の受容体に結合し、大腸菌の細胞内で化学反応を引き起こす。その結果、鞭毛モーターが回転し、大腸菌は餌の方向に進む。

[用語3] フィードバック制御 : 大腸菌のシグナル伝達において、餌の濃度が受容体のメチル化レベルにいったん記憶され、その情報に基づいて大腸菌の細胞内の化学反応が起こる。これは「測定結果に基づいて制御する」というフィードバック制御の一種と言える。ここで受容体のメチル化レベルが、「マクスウェルのデーモン」の役割を果たしている。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Maxwell's demon in biochemical signal transduction with feedback loop
著者 :
Sosuke Ito and Takahiro Sagawa
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻

特別研究員 伊藤創祐
Email : sosuke@stat.phys.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2073

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻

准教授 沙川貴大
Email : sagawa@ap.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-6809

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

書き換え可能な電子素子を分子一つだけで開発―究極の微細化と低消費電力の電子回路へ一歩―

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要点

  • 単分子を用いた書き換え可能な電子素子を開発
  • かご状分子の中に積層する分子を選び、導電性ワイヤ、ダイオードを作製
  • 積層させた分子は出し入れでき、単分子素子の機能を自由に変えられる

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の藤井慎太郎特任准教授と木口学教授、元素戦略研究センターの多田朋史准教授、東京大学工学系研究科の藤田誠教授らは、分子一つ(単分子)を用いた書き換え可能な電子素子の開発に成功した。かご状分子の中に同種の分子を積層させることで導電性が、異種の分子を積層させることで整流性が発現することを、単分子計測を用いて明らかにした。

かご中に積層させた分子は、化学処理によってかごの中から出し入れ可能で、1分子を用いた電子素子の機能を自由に変えることができる。今回は導電性ワイヤ(配線)と抵抗、ダイオード[用語1]を作製したが、今後、単分子のトランジスタなどを開発し、究極の微細化と低消費電力の電子回路の実現を目指す。5月13日発売の「Journal of American Chemical Society」で発表された。

研究の背景

コンピュータやスマートフォンをはじめとする電子機器の高機能化はシリコンの微細加工技術によって支えられている。だが、微細化の限界が近づいており、新たな原理に基づく微小電子素子の開発が急務となっている。単分子に素子機能を付与する単分子素子は、究極サイズの省電力微小電子素子として注目を集めている。

単分子素子は微小なだけでなく、単分子が金属電極間に架橋した構造となっており、金属と分子の接合界面での相互作用、低次元性、ナノサイズを反映して、孤立分子や分子集合体とは異なる物性の発現も期待できる。これらの新規物性を利用できるのも単分子素子の特徴である。そこで、東京工業大学の藤井特任准教授、東京大学の藤田誠教授らは、機能を自由にデザイン、取り替え可能な単分子素子の開発を目指した。

研究成果

実験には、かご状の分子に電子を出しやすいドナー分子のトリフェニレン、電子を受け入れやすいアクセプター分子のナフタレンジイミドを積層させた超分子を用いた。積層させた分子はトルエンなどを用いて、化学処理によってかごの中から抽出可能である。

走査型トンネル電子顕微鏡(STM[用語2])を用いて、金電極間に単一の超分子を架橋させて単分子接合を作製した。具体的には、分子を含む溶液中で金(Au)のSTM探針をAu単結晶基板に一度ぶつけて引き離すプロセスを繰り返した。探針をぶつけると金の接合ができるが、それを引き離すと接合が破断し、探針と基板間にギャップが形成される。ギャップ形成後、多数の分子が電極間を架橋するが、引き離すに従い、架橋分子数が減少し、最後は単分子を架橋させることができる。

かご分子内に積層させる分子を選択することで、単分子を用いた抵抗、導線、ダイオードを作りわけることができる。また、積層させる分子はかごから出し入れ可能であるので、機能を自由に変えられる。
図1.
かご分子内に積層させる分子を選択することで、単分子を用いた抵抗、導線、ダイオードを作りわけることができる。また、積層させる分子はかごから出し入れ可能であるので、機能を自由に変えられる。

図2に作製した単分子接合の電流―電圧特性を示す。ドナー分子とアクセプター分子を積層させた場合では正側で伝導度が高いこと、ドナー分子を2枚積層させた場合では伝導性が極性に依存しないことが分かる。かご内に分子を積層させないと、伝導度は検出限界以下となった。この結果は、ドナー分子を積層させると高い伝導性を示す導電性単分子ワイヤとなり、ドナーとアクセプター分子を積層させると単分子ダイオードとなることが分かる。

理論計算を行うことで、実験で観測された整流特性は再現され、電子の流れる方向はドナー分子からアクセプター分子であることが分かった。さらにドナー分子とアクセプター分子を積層させた場合、ドナー分子側の分子軌道が金の電極により強く相互作用し、片側の電極電位の影響を強く影響をうけるため整流特性が発現することも明らかとなった。

電極間に架橋させた単一超分子の電流―電圧特性。(左)ドナー分子とアクセプター分子を積層させた場合の結果。正側の方が高い伝導度を示す。(右)ドナー分子を積層させた場合の結果。正負共に同程度の伝導性を示す。
図2.
電極間に架橋させた単一超分子の電流―電圧特性。(左)ドナー分子とアクセプター分子を積層させた場合の結果。正側の方が高い伝導度を示す。(右)ドナー分子を積層させた場合の結果。正負共に同程度の伝導性を示す。

今後の展開

今回の研究により、1分子を用いた機能を自由にデザインし、変えることのできる電子素子を開発した。最終的には、基板上に集積化して、かご内に積層する分子を目的に応じて選択し、自由にプログラミング可能な回路の作製を目指す。まずは、個々の素子の性能の向上および新たな機能をもった素子開発を行う。

今回得られた単分子ダイオードの整流性は最大でも10であった。積層させる分子やかごの大きさなどを最適化することで、さらなる整流比の向上を目指す。分子でコンピュータをつくるには、配線、ダイオード、トランジスタ、メモリが必要な要素となる。今回、かご分子内に積層する分子を選択することで、配線、ダイオードをつくりわけることができた。光や電気化学電位によって、構造や酸化状態の変わる分子を積層することによって、トランジスタやメモリ機能を有する単分子素子の開発を目指す。

用語説明

[用語1] 単分子ダイオード : ダイオードとは、電圧をかける向きによって電気の流れやすさが異なる電子素子であり、単分子でダイオードをつくったものを単分子ダイオードと呼ぶ。1974年にアビラムとラトナーによって理論提案され、単分子を用いたエレクトロニクスのさきがけとなった。

[用語2] 走査型トンネル電子顕微鏡 : 原子レベルで導電性の基板の表面構造を観察出来る顕微鏡。金属の探針を導電性の基板表面に数nm以下まで近づけると、トンネル効果によって、探針と基板間にトンネル電流が流れる。トンネル電流は探針と基板間の距離に敏感なため、電流の大きさを一定になるように探針を上下させる。探針の動きから表面の凹凸に関して情報を得ることができる。

論文情報

掲載誌 :
Journal of American Chemical Society, 2015, 137 (18), pp 5939-5947
論文タイトル :
Rectifying Electron-Transport Properties through Stacks of Aromatic Molecules Inserted into a Self-Assembled Cage
著者 :
Shintaro Fujii*1, Tomofumi Tada*2, Yuki Komoto1, Takafumi Osuga3, Takashi Murase3, Makoto Fujita*3, and Manabu Kiguchi*1
所属 :
1: Department of Chemistry, Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology
2: Materials Research Center for Element Strategy, Tokyo Institute of Technology
3: Department of Applied Chemistry, School of Engineering, The University of Tokyo
DOI :

問い合わせ先

大学院理工学研究科 化学専攻
特任准教授 藤井慎太郎
Email : fujii.s.af@m.titech.ac.jp
教授 木口学
Email : kiguti@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2071 / Fax : 03-5734-2071

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

7月の学内イベント情報

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2015年7月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

2015年7月の学内イベント情報

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