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Channel: 更新情報 --- 東工大ニュース | 東京工業大学
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東工大博物館・百年記念館1階リニューアル内覧会 開催報告

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8月4日、東工大博物館・百年記念館1階リニューアルに伴う、学内関係者向け内覧会が開催されました。当日は、学長をはじめ、役員、部課長、関係部局実務者、教員など70人余が出席するなか、改修により新たに整備された機能がデモンストレーションを交えて紹介されました。

内覧会の様子
内覧会の様子

三島学長と亀井副館長のセッション

三島学長と亀井副館長のセッション

コミュニケーションツールを活用したデモンストレーションの様子

コミュニケーションツールを活用したデモンストレーションの様子

リニューアル概要

東工大教育改革と国際化にむけて、新しい教育環境の場として博物館・百年記念館1階が生まれ変わりました。多様な活動を授業の内外で展開することのできる、オープンなスタイルのアクティブ・ラーニング・コモンズ、また、大学の最新情報を広報するインフォメーション・コモンズの役割を果たします。より一層学生や教職員のための活動の場を広げる、機能的かつ主体的な学修が可能な空間になりました。

プレオープン

8月17日よりプレオープンとして、ウォールビジョン前のスペースを部分開放します。

  • 開放時間
    9:30~16:30(月~金) ※休館日、イベント開催時を除く

リニューアル後の新システム

  1. 1.ウォールビジョンとスピーカー
    学内情報やテレビ会議システムを利用したイベントの放映ができます。スピーカー音場の選択により、ビジョン付近のゾーンのみ利用した小セミナーの開催等も可能です。
  2. 2.ホワイト・ウォールとコミュニケーションツール
    壁面がスクリーンとして使えるのみならず、白板としても使えます。絵を描いたり文字を書いたりしながら議論できます。
  3. 3.移動式電子黒板
    壁面以外の場所では移動式の電子黒板をつかうことで、同時に複数のディスカッション、ワークショップ、セミナーを行うことができます。
  4. 4.インフォメーションカウンター
    管理スタッフが常駐予定です。
  5. 5.展示ケース、パーテンション棚
    展示ケースにはイベントや展示会のための貸出備品を収納します。パーティション棚は、ゾーニングパーティションとして利用可能な棚です。

その他、床タイル全面張り替えなど魅力あふれる機能を備えた博物館・百年記念館に、ぜひご期待ください。

マーカー、マグネット使用可能なホワイト・ウォール

マーカー、マグネット使用可能なホワイト・ウォール

コミュニケーションツール

コミュニケーションツール

展示ケース

展示ケース

インフォメーションカウンター

インフォメーションカウンター

問い合わせ先

東京工業大学博物館・百年記念館

Email : centjim@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3340


「ゴム・プラスチックの安全、安心」(CERI寄附講座)前期分開催報告

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6月6日から8月1日までの土曜日7回にわたり、公開講座「ゴム・プラスチックの安全、安心 ―身の回りから先端科学まで―」が開催されました。会場は東工大蔵前会館ロイアルブルーホールで、学内外の10名の著名な講師による、合計14の講義が行われました。

  • 「ゴム・プラスチックの安全、安心」前期開講にあたって (高田 十志和)

  • 事故から学ぶゴム・プラスチックの安全、安心(大武 義人)

  • ゴム材料の劣化現象と寿命(仲山 和海)

  • ゴム材料の最新評価手法(仲山 和海)

  • 高分子材料と化学物質規制(窪田 清宏)

  • 炭素繊維強化複合材料の科学(塩谷 正俊)

  • プラスチックはどれだけ強いか ―超高強度高分子材料― (柿本 雅明)

  • 宇宙で使えるプラスチック・ポリイミドを拓く ―ソーラーセイルIKAROS― (横田 力男)

  • ゴムの基本と免震ゴム(西 敏夫)

  • ゴムの基本とタイヤの安全・安心(西 敏夫)

  • 材料の物性って何だろう?熱と材料の熱的性質とその計り方の話(森川 淳子)

  • 熱伝導測定から見た材料の精密設計(森川 淳子)

  • 化学物質と正しく付き合う方法(北野 大)

  • 化学物質の安全性評価と法的規制(北野 大)

各講義の概要は、パンフレットに掲載されています。

近年モノやシステムの安全・安心が社会の重要なテーマであり、様々な製品とそのもととなる材料においても、安全・安心が求められる時代です。本講座では、広く社会に浸透し、私たちの身の回りにある、化学品を含むプラスチックやゴムと、その関連製品の安全・安心を取上げました。それらに関する情報と、やさしい科学を紹介し、正しい知識を広く一般の方に持ってもらうことを目的としています。さらに、最先端の安全性評価技術、劣化と寿命予測技術、耐性向上技術、高性能・高強度化技術・材料に関する科学を紹介しました。学生を含む専門家が、将来の安心・安全な材料の設計の基礎を学べることを目的として、各講義が組まれました。

75名の募集人員に対し、一般企業の方、自営業の方、高校生など、多数の学外者を含む111名の受講者があり、各講義平均約50名が受講するという、大変盛況な結果となりました。また、それぞれの講義後の質疑応答時間には、多くの方から質問が寄せられ、講師の先生方から丁寧な回答をいただきました。

また、14講義中12回以上受講された11名の方に対し、本講座のコーディネーターを務める高田教授より修了証が授与されました。

塩谷正俊准教授(東京工業大学大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻)

塩谷正俊准教授
(東京工業大学大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻)

横田力男共同研究員(国立研究法人宇宙航空研究開発機構航空本部飛行場分室複合材センター)

横田力男共同研究員
(国立研究法人宇宙航空研究開発機構航空本部飛行場分室複合材センター)

森川淳子教授(東京工業大学大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻)

森川淳子教授
(東京工業大学大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻)

北野大教授(淑徳大学人文学部表現学科)

北野大教授
(淑徳大学人文学部表現学科)

なお、この講座は、一般財団法人 化学物質評価研究機構(CERI)の全面的な支援の下、本学の大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻とCERIが共催で実施しています。後期の講座は10月31日に開始し、2016年2月6日までの8回全16講義を予定しています。非常に役だったとのご意見が多い講座で、参加費も無料ですので、ぜひご参加ください。募集を開始する際は、東工大webサイト新着イベント情報でお知らせします。

第33回 蔵前科学技術セミナー

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活発化する火山列島・日本 セミナー開催のお知らせ

東京工業大学同窓会であります一般社団法人蔵前工業会は、科学技術及び工業の発展に資することを目的の一つとして活動しており、一般の方々を対象に東京工業大学との共催のもと、蔵前科学技術セミナーを年2回開催しております。この度、下記により、日本における火山活動に関わる東京工業大学の観測研究の歩みと成果を発表することとなりました。

火山列島である我が国は、火山の恵みを享受する一方、噴火による災害を度々経験してきました。今回のセミナーは、木曽御嶽の水蒸気爆発や草津白根山などの活発化、あるいは富士山噴火の話題に関わる最新の知見を提供し、活発化する火山列島・日本の現状を俯瞰把握する企画です。

開催概要

日時
2015年10月24日(土)13:00~17:40(受付開始12:30)
場所
東工大蔵前会館1階 くらまえホールouter
東京都目黒区大岡山2-12-1 (最寄駅:東急目黒線・大井町線大岡山駅下車1分)
会費
講演会は参加費無料です。
交流会参加費は 一般3,000円、学生・生徒は無料となります。
申込
申込フォームouterに必要事項を記入の上、お申込み下さい。
締め切り:2015年10月20日(火)

プログラム

13:00~13:35
  • 講演1:「活発化する火山列島序論」
  • 東京工業大学草津白根火山観測所長・教授 小川康雄氏
  • プレートテクトニクスとマグマの発生、火山の噴火様式に関する基本的な概念について概説する。
13:35~14:30
  • 講演2:「我が国における火山研究と東工大の果たしてきた役割」
  • 東京工業大学火山流体研究センター教授 野上健治氏
  • 東京工業大学草津白根火山観測所は本年で設立30年を迎える。本学の火山観測研究の歩みと成果を紹介する。
14:35~15:30
  • 講演3:「電磁場から探る火山の内部」
  • 東京工業大学火山流体研究センター准教授 神田径氏
  • 火山噴火を理解するために火山体の内部構造は不可欠な情報である。電磁場を利用した地下構造探査法について事例を交えて概説する。
休憩
15:45~16:40
  • 講演4:「空中と地中から探る火山の内部~御嶽山噴火・草津白根山の活発化」
  • 東京工業大学火山流体研究センター講師 寺田暁彦氏
  • 草津白根山の活発化を如何に捉えたか、接近不可能な御嶽山の噴火口を如何に観測したか、について実例を紹介する。
16:45~17:40
  • 講演5:「富士山は噴火するか」
  • 東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻教授 高橋栄一氏
  • 東工大で進めつつある富士火山のマグマだまりの実験的再現と過去1万年間の活動史をもとに富士火山の将来の噴火活動について議論する。
17:45~19:30
  • 交流会:東工大蔵前会館ロイアルブルーホール

関連ページ

取材についてのお問い合わせ先
一般社団法人 蔵前工業会 事務局長 本房文雄
Tel:03-3748-2211
Fax:03-3748-2213
E-mail:kuramae@kuramae.ne.jp

講演内容についての問い合わせ先
東京工業大学 草津白根火山観測所長・教授 小川康雄
Tel:03-5734-2639
Fax:03-5734-2492
E-mail:oga@ksvo.titech.ac.jp

TiROPサマープログラム2015交流イベント 開催報告

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TiROP(タイロップ)は、文部科学省「大学の世界展開力強化事業」の支援を受けて実施する、留学生の受入・派遣プログラムです。アジア・欧米等の世界有数の理工系17大学と本学が連携して、これらの大学から留学生を受入れ、同時に東工大生を派遣します。

今夏も、本学のサマープログラムに参加するために、TiROPの協定大学から19名の学生が来日しています。このたび、過去にTiROPで派遣された学生や本年度派遣予定の学生、ならびに留学生の生活をサポートするチューターが主体となって、7月3日に交流イベントを実施しました。執行部となる東工大生4名が、数回にわたる打合せや景品の買出しなど、イベント当日以外にも主体的に準備を進めました。当日はあいにくの大雨でしたが、総勢21名が集まり、交流を深めることができました。本イベント実施に際しては、東工大生協第1学食より、箸、丼、お盆などをお貸しいただくなどの協力を得ました。

今回のイベント執行部
ナビラ・サブリナさんの報告(通信情報工学専攻 留学生チューター インドネシア出身)

今回の交流イベントの学生代表執行部をやらせていただきました。このイベントの目的は、東工大生とTiROP留学生が親しく交流することでした。最初の事前の打ち合わせでは、他のチューター・派遣学生や、客員研究員として本学に滞在中のベルギー ルーベン・カトリック大学 ヤン・ヴァン・マール教授、東工大のクロス教授とイベント内容の協議をしました。様々な視点から、どのような交流をしていけばいいのか意見が出ました。

箸ゲーム

箸ゲーム

2回目の打ち合わせでは、さらにイベント内容を固めていき、箸ゲーム、ジェスチャーゲーム、日本についてのクイズといった3つのゲームをすることに決めました。そして、他のチューター・派遣学生と一緒に、日本らしい景品は何か、と話し合いながら景品を買いに行きました。さらに、日本についてのクイズの問題作成などの最終の打ち合わせをしました。

ジェスチャーゲーム

ジェスチャーゲーム

TiROP派遣担当の職員や学生代表執行部のみなさんのおかげで、無事交流会を開催することができました。箸ゲームでは、普段箸を使わない留学生たちが、がんばって麦チョコを箸でつまんで、隣のボウルに移していきました。ジェスチャーゲームでは、「忍者」や「マイケル・ジャクソン」など様々なお題に対して、面白くジェスチャーをし、お題を当てました。その中でも、一生懸命「ジェットコースター」をジェスチャーをする姿がとても面白く感じました。日本についてのクイズでは、一番簡単だと思っていた問題「テレビアニメ ポケットモンスターで、さとしがいつも連れているポケモン」が、まさか難しい問題だったとは思っていませんでした。アメリカでは、主人公の名前は「さとし」ではなく「Ash」になっているそうで、「さとしって誰?」という質問がありました。最後に集合写真を撮り、みんなと楽しい時間を過ごすことができました。

表彰式

表彰式

国籍を問わず、色々な国からの人と交流するのはすごくいい機会でした。事前の打ち合わせや準備から当日まで、非常にいい経験をすることができました。異文化交流をすることで、異なる価値観を知るだけでなく、自分自身の視野も広がったと思います。何と言っても、お互いの文化を理解し合いながら接することが大切です。若いうちにいろんな人と知り合って、どんどんネットワークを広げたほうがいいかもしれません。みなさん、お疲れ様でした。

集合写真
集合写真

問い合わせ先

東京工業大学国際部留学生交流課
「大学の世界展開力強化事業」TiROP事務局

Email : tirop@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2984

貧栄養土壌でも葉と根に油脂蓄積する植物を開発

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貧栄養土壌でも葉と根に油脂蓄積する植物を開発
―地球温暖化抑制と再生可能エネルギー生産の両立への第一歩―

要点

  • 植物は通常、葉や根ではなく種子に油脂を蓄積
  • リン欠乏下で葉や根に油脂を高蓄積する植物の開発に成功
  • 葉における油脂生産で、リン欠乏土壌での植物栽培を促進、CO2削減に貢献

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の下嶋美恵准教授、円由香技術員らの研究グループは、リンが欠乏した生育環境でも葉や根で油脂(TAG[用語1])を高蓄積できる植物を開発した。リン欠乏に応答して遺伝子発現量を増大させる遺伝子発現調節領域と油脂合成酵素遺伝子を組み合わせてシロイヌナズナ[用語2]に導入し、葉や根で油脂を顕著に蓄積する形質転換体の作出に成功した。

今後、油脂に含まれる脂肪酸の改変および油脂蓄積量の増大を目指すことにより、国内外に広がっているリン欠乏土壌を有効に活用したバイオエネルギー生産および二酸化炭素(CO2)削減による地球温暖化抑制への貢献が期待される。

下嶋准教授らは先に、リン欠乏に着目して植物の葉や根における油脂蓄積を解析した。その結果、リン欠乏にさらされた植物の葉や根では顕著な油脂蓄積が起こることを発見、この成果をもとにシロイヌナズナ形質転換体を作出した。

研究成果は、スイス科学雑誌「フロンティアズ イン プラント サイエンス(Frontiers in Plant Science)」オンライン版に8月12日付で公開された。

研究成果

下嶋准教授らは、シロイヌナズナ、タバコ、トマトなどの植物をリン欠乏下で生育させると、比較的高い光合成能を保ったまま、通常ではほとんど油脂を蓄積しない葉や根に油脂を高蓄積することを発見した(図1)。また、葉における油脂蓄積量は、葉でデンプンを蓄積しないシロイヌナズナの変異体では野生株よりも顕著に多いことを明らかにした(図2)。

リン欠乏生育条件下の植物の葉と根における油脂(TAG)蓄積
図1.
リン欠乏生育条件下の植物の葉と根における油脂(TAG)蓄積
A. 植物体の新鮮重あたりのTAG含量 +Pi, リン十分条件;-Pi, リン欠乏条件;Shoot, 地上部(葉);Root, 根
B. リン欠乏下の植物細胞の電子顕微鏡写真(スケールバーは0.5μm) 白矢印, 油滴;S, デンプン;C, クロロプラスト;M, ミトコンドリア
リン欠乏生育条件下のシロイヌナズナ野生株(WT)とデンプン蓄積欠損変異体(pgm-1)における油滴蓄積の様子
図2.
リン欠乏生育条件下のシロイヌナズナ野生株(WT)とデンプン蓄積欠損変異体(pgm-1)における油滴蓄積の様子
上図:各植物葉の細胞の電子顕微鏡写真(スケールバーは2μm) S, デンプン;黒矢印, 葉緑体;白矢印, 油滴
下図:各植物葉の油滴の顕微鏡写真(スケールバーは10μm) 緑色, 油滴 (Nile red染色);赤色, 葉緑体クロロフィルの自家蛍光

これらの研究結果を受けて、研究グループはリン欠乏応答性プロモーター(リン欠乏条件下で、その下流につないだ遺伝子の発現量を増大させる遺伝子発現調節領域)を、油脂合成酵素遺伝子と組み合わせてシロイヌナズナの野生株とデンプン欠損変異体に導入した。その結果、リン欠乏生育の際に葉や根で油脂を顕著に蓄積する植物体の開発に成功した(図3)。

シロイヌナズナ形質転換体におけるTAG蓄積量
図3.
シロイヌナズナ形質転換体におけるTAG蓄積量
A. 植物体地上部(葉)におけるTAG蓄積量
デンプン蓄積欠損変異体(pgm-1)にリン欠乏で誘導されるようにTAG合成酵素遺伝子を導入した形質転換体(矢印;DGAT1#2, DGAT1#3)において顕著なTAG蓄積量の増大が見られた。
B. 植物体の根におけるTAG蓄積量
野生株(WT)またはpgm-1にTAG合成酵素遺伝子(DGAT1) を導入した形質転換体(矢印;DGAT1#2, DGAT1#3)において顕著なTAG蓄積量の増大が見られた。

研究の背景と経緯

植物油脂は通常、種子に高蓄積し、葉や根では微量にしか蓄積しない。植物において光合成で得られたエネルギーは、葉では通常はデンプンとして葉緑体中に一時的に貯蔵されるからである。しかし、バイオマスが大きい葉において、植物の光合成能を維持しながら油脂を高生産できれば、油脂に含まれる脂肪酸の改変も可能になるため実用化に一歩近づく。また、リンは植物の生長に欠かせない栄養素の1つであるが、リンが欠乏した土壌は世界中に広がっており、リン鉱石の枯渇によるリン肥料の価格上昇とリンの過剰施肥による土壌汚染がしばしば問題となっている。

これまでに、栄養が十分与えられた条件で葉に油脂を高蓄積する植物体の開発は海外のグループにより報告があるが、リン欠乏のため利用されていない国内外の農耕不適地の積極的な活用を同時に見据えた植物葉での油脂生産基盤技術の構築については国内外において例がない。

今後の展開

今後、油脂蓄積量をさらに増大させる、油脂に含まれる脂肪酸をヒドロキシ脂肪酸など付加価値性の高い脂肪酸に改変するなどの改良を加えることで、この成果を活用してリン欠乏土壌で生育させた植物の葉・根における油脂生産の実用化に結び付くことが期待できる。

用語説明

[用語1] TAG : トリアシルグリセロール。1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した中性脂肪の1つ。

[用語2] シロイヌナズナ : 学名Arabidopsis thaliana、植物分子生物学の研究分野では、全ゲノム配列が2000年に決定されており、遺伝子情報および遺伝子操作技術が整備されていることから、モデル植物として基礎研究に利用されている。

論文情報

掲載誌 :
Frontiers in Plant Science
論文タイトル :
An engineered lipid remodeling system using a galactolipid synthase promoter during phosphate starvation enhances oil accumulation in plants
著者 :
Mie Shimojima, Yuka Madoka, Ryota Fujiwara, Masato Murakawa, Yushi Yoshitake, Keiko Ikeda, Ryota Koizumi, Keiji Endo, Katsuya Ozaki, Hiroyuki Ohta
DOI :

特記事項

1.
この研究は、東工大大学院生命理工学研究科 / 地球生命研究所の太田啓之教授、バイオ技術センターの池田桂子技術員らとの共同で行った。
2.
この研究は、下嶋准教授の日本学術振興会の科学研究費、および、太田教授の科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST)「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」における「植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築」の一環として実施した。

問い合わせ先

大学院生命理工学研究科生体システム専攻

准教授 下嶋美恵
Email : mshimoji@bio.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5527

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

TiROP英国超短期派遣 事前学習会開催報告

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TiROP(タイロップ)は、文部科学省「大学の世界展開力強化事業」の支援を受けて実施する、留学生の受入・派遣プログラムです。アジア・欧米等の世界有数の理工系17大学と本学が連携して、これらの大学から留学生を受入れ、同時に東工大生を派遣します。

TiROP派遣には、以下の2つのプログラムがあります。

  • 学部4年生以上から博士課程までの学生が、協定大学において1ヶ月以上1年未満の期間、研究を中心とした留学をするプログラム
  • 学部3、4年生が10日間程度、協定大学の教員から研究室や施設の説明を受け、講義を聴講し、現地学生との交流などにより、海外大学における勉学の魅力や厳しさを体験する超短期派遣プログラム

超短期派遣には、将来の長期間にわたる留学に向けた準備を整えるという目的があります。また、グローバル理工人育成コースの単位付与対象プログラムとして、オリエンテーションや事前学習会、報告会への出席が求められます。

今年は9月に、この超短期派遣として、協定大学のインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)を拠点とし、オクスフォード大学ならびにケンブリッジ大学を、約10日間にわたり訪問することになっています。それに伴い、7月22日に事前学習会を実施しました。

事前学習会では、以下の特別講義が行われました。

ケンブリッジ大学 下英恵 研究員

ケンブリッジ大学 下英恵 研究員

  • ケンブリッジ大学の見学先研究室に所属する下英恵 慶應義塾大学研究員による、研究室紹介、及び、参加学生が見学希望するプログラムなどのヒアリング
  • TiROPサマープログラムで、現在ICLから東工大に留学中の学生、ポーリーン・アブンドさんによる、ICLやロンドンについての情報提供
  • 英国通商産業省、英国議会科学技術部門、英国大使館科学分野などでの経歴をもち、その後本学にて教鞭を取っているマイケル・ジョージ・ノートン教授による、日英の大学比較やイギリス文化に関する講義
ICL ポーリーンさん

ICL ポーリーンさん

ノートン教授

ノートン教授

その後、中原街道沿いにある自動車MINIの正規ディーラー MINI 大田のショールームを見学させていただきました。今回の訪問は、英国超短期派遣中にオクスフォード郊外にあるMINIの製造ラインの見学が予定されているため、その事前学習として行われたものです。MINIの歴史や製品の特徴などを阿美光之 店長に説明していただき、また、実際にMINIに試乗することで、大変有意義な時間となりました。

MINI 大田にて
MINI 大田にて

MINI 大田にて

工学部 土木・環境工学科3年 清水悠太さんの感想

前半のプレゼンテーションではまず、ケンブリッジ大学に留学している下さんからお話がありました。率直な感想として、滑らかにとても聞き取りやすい英語を話されていてすごいと思いました。

次に、ICLやロンドンの環境について、また、東工大との違いについてなどをポーリーンさんから詳しく知ることができました。寮に格安のバーがあるというお話がとても印象に残っています。

ノートン教授の講義は、イギリスの大学と東工大との比較や、留学する上で気をつけなければならないことといった内容でした。「興味を持ってもらうような自己紹介が大事」というお話が印象的で、自分も留学までに考えておかなければと思いました。

後半はMINIのディーラーであるMINI 大田を訪問しました。車好きの私としてはMINIを間近で見られただけでも嬉しかったですが、歴史や特徴を細かく説明していただきMINIの魅力がよくわかりました。パーツなども多様なものが売られていて、自分だけの個性を表現できるという意味も理解でき、オクスフォード工場の見学がますます楽しみになりました。

MINI 大田 阿美光之 店長と
MINI 大田 阿美光之 店長と

問い合わせ先

東京工業大学国際部留学生交流課
「大学の世界展開力強化事業」TiROP事務局

Email : tirop@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2984

地球と生命の起源と進化解明への新たな展開―地球生命研究所が米財団からの研究資金をもとに研究者ネットワークを強化―

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左からPiet Hutディレクター(EON)、廣瀬敬所長、三島良直学長(東京工業大学)、岩渕秀樹室長(文部科学省研究振興局基礎研究振興課基礎研究推進室)
左からPiet Hutディレクター(EON)、廣瀬敬所長、三島良直学長(東京工業大学)、
岩渕秀樹室長(文部科学省研究振興局基礎研究振興課基礎研究推進室)

概要

東京工業大学地球生命研究所(所長:廣瀬敬、以下「ELSI」という。)は、文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(通称WPI)の1拠点として、地球と生命の起源と進化の解明を目指しています。ELSIは、2012年12月の発足以来、地球惑星科学と生命科学の分野融合的な研究アプローチで、研究成果をあげています。

ELSIは、このたび、米国のジョン・テンプルトン財団(本部:米国ペンシルバニア、理事長:ヘザー・テンプルトン・ディル(Heather Templeton Dill)、以下「テンプルトン財団」という。)から、本年7月から2018年3月にかけて、総額5百50万ドル(約6億7千万円)の研究資金を獲得しました。この金額は、ELSIの年間予算の総額の約50%に相当します。ELSIは有力なグローバルファンドの獲得により、研究基盤の一層の強化を図り、地球と生命の起源と進化の解明の研究を加速することができます。

この資金をもとに、ELSIがハブとなり生命起源に関わる世界中の研究者同士をつなぐネットワークの強化と拡大を目的とする「EON(ELSI Origins Network)プロジェクト」を開始しました。EONプロジェクトの第一弾として8月26日から、国際ワークショップを開催します。

EONプロジェクトについて

背景

ELSIが掲げる「地球と生命の起源と進化の解明」の中でも、生命の起源の分野は、生物学だけでなく化学や地球惑星科学など幅広い視点でのアプローチが必要不可欠であり、これまで世界中で様々な専門性を持った研究者が、生命の起源という共通課題の解明に向かって研究を進めていました。

一方で、必要なアプローチや専門性の多彩さゆえに研究者間・分野間の十分な連携が難しいことや、それにより研究コミュニティの規模が拡がりにくいことも認識されてきました。

ELSIは発足以来、地球と生命の起源と進化の解明をテーマとし、2014年度には幅広い分野の研究者が集う国際シンポジウムを1回、ワークショップ・セミナーを41回行うなど、コミュニティの拡大を目指し、ハブ拠点としてネットワーク形成に力を入れてきました。

EONプロジェクトとして新たな取り組み

こうした背景の中、ELSIはテンプルトン財団から約6億7千万円の研究資金を獲得し、その財源を使って、ネットワークをさらに強化・拡充するため、「EONプロジェクト」をスタートさせました。具体的な試みとして以下を行います。

  • 研究助成の支援(33か月で8件)
  • 研究員の国際公募と雇用(33か月で10名)
  • 国際ワークショップの開催(33か月で9回)
  • 招へいプログラム(33か月で約30名)
  • 交流掲示板のようなフォーラムページを備えたウェブサイトの構築

特に、研究助成の支援は新たな取り組みとして、総額約5千万円を投資するもので、世界中に眠る生命の起源の解明につながる研究の種の発見が期待されます。

EONプロジェクトの今後の予定

8月26日からEON国際ワークショップを開催します。このワークショップにはNASAの研究プロジェクト長はじめ国内外から36人が参加し、研究ロードマップについての議論を行います。

展望

ELSIでは、今回の資金とプロジェクトを礎とし外国からのファンド獲得を積極的に行う予定です。EONプロジェクトによって得られた成果は、ELSIの研究へと活かされ、人類の長年の謎である地球と生命の起源と進化の解明に向け、研究がさらに加速されることとなります。

問い合わせ先

地球生命研究所 広報室

Email : pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

2次元磁性体が示す特異な時間反転対称性の破れ―自然界に存在しない粒子「エニオン」と相転移現象の関係を発見―

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要点

  • 大規模数値計算を行い、カイラルスピン液体[用語1]が熱揺らぎに対して安定に存在することを見出した
  • スピン液体中に潜む自然界には存在しない粒子「エニオン[用語2]」の統計的な性質の違いに応じて異なるタイプの相転移[用語3]を示すことを解明
  • 特異な統計性を持つ非可換エニオンを用いた量子計算への応用に期待

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年(もとめ ゆきとし)准教授は、キタエフ(Kitaev)模型[用語4]と呼ばれる理論模型に対して量子モンテカルロ法[用語5]による大規模な数値計算を行うことにより、低温のカイラルスピン液体と高温の常磁性状態との間に、ある温度で相転移が存在することを明らかにした。またカイラルスピン液体中に存在する特殊な粒子であるエニオンの統計性[用語6]の変化に呼応して、相転移の性質も大きく変化することを発見した。

この研究結果は、非可換エニオンを持つカイラルスピン液体が絶対零度以外でも安定に存在することを明確に示しており、非可換エニオンを用いるトポロジカル量子計算[用語7]への応用が期待される。

研究成果は8月21日発行の米国物理学会誌「フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)誌」に掲載された。

研究の背景

多くの物質は低温においてはその構成粒子が整然と並んだ固体になるが、温度を上げていくとバラバラになり、液体を経て気体へと変化を遂げる。磁性体でも同様に、電子の持つ小さな磁石であるスピンの向きが秩序立って整列した強磁性体などの磁気秩序[用語8]状態から温度を上げていくと、スピンの向きがバラバラな常磁性状態となる。

この常磁性状態は時間反転対称性[用語9]を持っているが、低温の磁気秩序 状態では、時間反転対称性が自発的に破れている。すなわち従来の磁性体では、時間反転対称性の自発的な破れには磁気秩序が伴うというのが常識だった。

しかし、分数量子ホール効果でノーベル賞を受賞したロバート・ラフリンらは1987年に、時間反転対称性が破れているにも関わらず、磁気秩序を伴わない奇妙な量子状態としてカイラルスピン液体を提唱した。この状態中のスピンはその向きがバラバラであるにもかかわらず互いに強く影響を及ぼし合っているドロドロした液体的な状態にある。

一方で、常磁性状態はスピン同士が影響しあわずにバラバラになっているスピンの気体であり、カイラルスピン液体とは本質的に異なる状態である。さらに、このカイラルスピン液体の中にはエニオンと呼ばれる特殊な粒子が潜んでいることが指摘された。

自然界に存在する粒子はすべて、その統計性によってフェルミオンかボソンのどちらかに分類されるが、エニオンはそれらとは全く異なる統計性を持つ特殊な粒子である。このエニオンを用いれば、エラーを起こしづらいとされるトポロジカル量子計算を用いた量子コンピュータが可能となるという指摘がなされており、多くの研究者の興味を集めている。

しかし、これまでにカイラルスピン液体の絶対零度の性質に関して多くの研究がなされてきたが,応用面でも重要となる温度を上げたときの性質に関しては謎のままだった。特に、カイラルスピン液体の相転移は通常の磁性体の相転移と同じものなのか,それとも水が水蒸気に変わるときのような気体・液体転移と同じものなのかは興味深い問題として残されていた。

研究成果

東工大の那須助教と東大の求准教授は、Kitaev模型と呼ばれる理論模型(図1左図)に対して量子モンテカルロ法を用いた大規模な数値計算を行うことで、温度を上昇させたときのカイラルスピン液体の性質を調べた。

その結果、カイラルスピン液体状態が温度による熱揺らぎに対して安定に存在することを見出した。また、ある臨界温度で相転移を起こし、高温の常磁性状態へ変化する様子も明らかにした(図1右図)。この相転移温度の前後でスピンの向きは整列しないにもかかわらず、時間反転対称性が自発的に破れることになる。

このようなカイラルスピン液体状態を記述するKitaev模型という理論模型には興味深い特徴がある。エニオンには可換エニオンと非可換エニオンという2種類の統計性が異なるものが存在するが、スピン間の相互作用の強さを変えることで、カイラルスピン液体の中に存在するエニオンの統計性を変化させることができるのである。

このエニオンの性質の変化がカイラルスピン液体の性質にどのような影響を与えるかを明らかにするため、特に相転移の性質を詳しく調べた。その結果、エニオンの統計性の変化に伴って、カイラルスピン液体と常磁性の間の相転移の性質も大きく変化することがわかった(図1右図)。可換エニオンを持つカイラルスピン液体の場合は通常の磁性体における強磁性から常磁性への相転移と類似した連続的な変化(二次の相転移[用語10])になる。

一方で、非可換エニオンを持つカイラルスピン液体の場合は、水から水蒸気へ変化する際に起こる気体・液体相転移と類似した不連続な変化(一次の相転移[用語10])になることを見出した。

このようなエニオンの統計性の変化は、相転移の性質以外にも現れる。特に非可換エニオンを持つカイラルスピン液体には新奇な効果が期待される。今回の研究では温度勾配がある場合に、温度勾配の方向と垂直方向に熱の流れが発生する現象である熱ホール効果を計算し、相転移温度以下でこの効果が生じることを見出した。一方で、可換エニオンを持つ場合には熱ホール効果は生じないことも示した。

左図:Kitaev模型が定義された拡張された蜂の巣格子。右図:Kitaev模型の有限温度相図。

図1. 左図:Kitaev模型が定義された拡張された蜂の巣格子。右図:Kitaev模型の有限温度相図。

今後の展開

非可換エニオンを持つカイラルスピン液体が絶対零度以外でも安定して存在することを明らかにしたことで、非可換エニオンを演算要素として用いるトポロジカル量子計算への応用が期待される。また、この状態における熱ホール効果の振る舞いを明らかにしたことで、今後の実験研究が活性化することが期待される。

用語説明

[用語1] カイラルスピン液体 : 強磁性体のような物質の中の電子スピンが秩序立って整列している状態(磁気秩序状態)でないにもかかわらず、時間反転対称性が破れた状態。

[用語2] エニオン : 自然界に存在するすべての粒子は、その統計性の違いによりボソンとフェルミオンに分類されるが、これらのどちらとも異なる統計性を持つ特殊な粒子。2次元の系において実現する。このエニオンは、その統計性の違いに応じて可換(アーベリアン)エニオンと非可換(ノンアーベリアン)エニオンに大別される。

[用語3] 相転移 : ある物質の状態(相)が別の状態に変わる現象。氷から水への状態変化である融解や、その逆の凝固は相転移の一例。一般に、相転移の際には、比熱などの熱力学的な物理量に発散や不連続な振る舞いが現れる。

[用語4] キタエフ(Kitaev)模型 : A. Kitaevによって2006年に提案された電子スピンに関する理論模型。2次元蜂の巣格子上に並んだ電子スピンの間に、結合の方向に強く依存する相互作用を仮定したモデル。図1左図で示したような拡張された蜂の巣格子など、様々な格子構造への拡張がなされている。

[用語5] 量子モンテカルロ法 : 乱数を用いて実現確率の高い状態を重点的に抽出することで効率的な計算を行う手法。場合によっては計算誤差が発散的に大きくなってしまう負符号問題が生じる可能性があるが、今回の研究では、量子スピンをマヨラナ粒子として書き換えることによって、この問題が全く現れない。

[用語6] 粒子の統計性 : 量子力学においては、同じ種類の粒子同士を区別することはできない。自然界に存在する粒子は、同じ量子状態にいくつでも入ることができる粒子(ボソン)と、ひとつしか入ることができない粒子(フェルミオン)の2種類存在する。このような複数個の同種粒子を考えたときに現れる性質を粒子の統計性と呼ぶ。

[用語7] トポロジカル量子計算 : 連続的な変形で変化しないような性質に注目するトポロジーの概念を応用した量子計算。エラーを起こしづらいという特徴を持つ。

[用語8] 磁気秩序 : 磁石の起源である電子のスピンが整列した状態。その中でも特に、固体の中のほとんどの電子のスピンが同じ方向を向いて整列している状態は強磁性秩序と呼ばれ、いわゆる磁石としての性質を示す。

[用語9] 時間反転対称性 : 時間の流れを逆向きにしたとしても状態が変化しないこと。磁石の起源である電子のスピンが整列した磁気秩序状態では、時間反転対称性が破れている。

[用語10] 一次の相転移と二次の相転移 : 水から水蒸気に変化するとき、温度の関数として沸点で密度が不連続に変化するように、転移点において物理量に(正確にはエントロピーに)不連続な変化を伴う相転移を一次の相転移と呼ぶ。一方で、強磁性体を加熱して常磁性体に変化するとき、通常、磁化は連続的に変化する。このように物理量が(正確にはエントロピーが)相転移点で連続的に変化する相転移を二次の相転移と呼ぶ。これら2つの相転移が移り変わる点は三重臨界点と呼ばれる。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Thermodynamics of Chiral Spin Liquids with Abelian and Non-Abelian Anyons
著者 :
Joji Nasu and Yukitoshi Motome
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学 大学院理工学研究科物性物理学専攻

助教 那須譲治
Email : nasu@phys.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2724 / Fax : 03-5734-2739

東京大学 大学院工学系研究科物理工学専攻

准教授 求幸年
Email : motome@ap.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-6815 / Fax : 03-5841-8897

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


13大学対校陸上競技大会で3連覇―陸上競技部

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陸上競技部は7月5日、八王子市上柚木公園陸上競技場にて開催された「第12回13大学対校陸上競技大会」男子の部において総合優勝し、2013年から三連覇を達成しました。当日は、小雨で涼しく無風という好条件で、トラック、フィールドの様々な競技で選手たちが躍動し、自己記録更新も多数ありました。

集合写真
集合写真

なかでも、走高跳では1~3位を本学選手が独占し、特に1位になった主将の小林拓己さん(電気電子工学科3年)は、三段跳と併せて2冠を達成しました。また、110mハードルの永島唯哉さん(機械知能システム学科2年)と、1500mの松井将器さん(機械宇宙学科4年)も大会記録を塗り替えました。その結果、他大学の追随を許さず、総合優勝の栄冠を勝ち取りました。

小林拓己さん(跳躍者)

小林拓己さん(跳躍者)

永島唯哉さん(写真中央左青いユニフォーム)

永島唯哉さん(写真中央左青いユニフォーム)

お問い合わせ先

東京工業大学陸上競技部 杉野暢彦
Email : sugino@ip.titech.ac.jp

第25回大岡山蔵前ゼミ「かまぼこ屋のやぶにらみ―これからの消費社会と企業のあるべき姿―」開催報告

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大岡山蔵前ゼミは、東工大の全学同窓会である蔵前工業会の東京支部が主催する、卒業生と学生の交流の場です。日本社会や経済をリードしている先輩を講師に迎え、これから社会に出る大学生・大学院生に、講演会・懇親会をとおして、様々な情報提供、意見交換を行っています。

7月3日、大岡山蔵前会館くらまえホールにて第25回大岡山蔵前ゼミが開催されました。今回は「かまぼこ屋のやぶにらみ—これからの消費社会と企業のあるべき姿—」と題して鈴廣かまぼこ株式会社 代表取締役社長 鈴木博晶氏(本学卒業生)より講演がありました。学生62名、社会人60名(教職員4名、一般5名を含む)が参加しました。鈴廣かまぼこは小田原の誇る老舗かまぼこ屋です。

講演の様子
講演の様子

講師 鈴木博晶氏

講師 鈴木博晶氏

冒頭、かまぼこ900年の歴史にふれ、ペリー提督のもてなしにも利用された由緒ある食物であることを話しました。また、食という漢字は人を良くする、あるいは人が良くなるという新解釈を語り、食を本業とする経営者の理念を披露しました。

かまぼこは、20種類すべてのアミノ酸を含んでいます。最近の医学の研究では活性酸素除去、がん抑制、血糖値上昇抑制効果の科学的根拠が言われており、鈴木氏が新解釈を話した「食」という意味でかまぼこは最適な食べ物であると述べました。また、企業の社会的責任についても触れ、経済活動を優先したいというエゴを超えて、エコな企業である大切さと、そのためにはどうすべきかを示唆しました。例えとして、かつて小田原の海岸にはサーカスのテントを抱擁するほどの大きな砂浜を有していたが、自治体のある種のエゴ(ダムによる取水)により消失した話をしました。また、効率よく化学的に抽出された調味料や人工甘味料が子どもの味覚を狂わせてしまうことや、精製塩にはホルモンの基となるミネラルが欠如していることなどを話し、自然食品が重要であると力説しました。

一般的には企業経営という立場からエゴが入る曲面は避けられないものですが、経営者の健全な理念と強力なリーダシップの下では、「食」の社会的責任が果たされることに、大きな期待を持てると参加者は感じ取ったようです。

講演会に引き続き、学生と卒業生の懇親会がロイアルブルーホールにて開催され、活発な交流が行われました。

懇親会
懇親会

問い合わせ先

一般社団法人 蔵前工業会 東京支部事務局

Email : kuramae-tokyo@deluxe.ocn.ne.jp
Tel : 03-3748-4447 / Fax : 03-3748-4448

丸山理事・副学長がASPIREフォーラム2015に出席

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7月18日~24日に「ASPIREフォーラム2015」が香港科技大学(中国・香港)で開催され、丸山俊夫理事・副学長(教育・国際担当)、関口秀俊副学長(国際連携担当)、ASPIRE事務局より三原久和教授(大学院生命理工学研究科長)等が出席しました。このフォーラムは、本学が加盟しているASPIREリーグ※1が毎年開催しているものです。丸山理事・副学長一行は、7月23日~24日に行われたシンポジウムと副学長会議に出席しました。

※1
ASPIRE(アスパイア)リーグ : 本学が発案し、2009年に設立されたアジア地域における理工系トップ大学のコンソーシアム。科学技術の発展と人材の開発を通して、アジアにおけるイノベーションのハブを形成することが目的。加盟大学は、清華大学、香港科技大学、南洋理工大学、韓国科学技術院と東工大の5大学。東工大は、設立当初より事務局を務める。

(左から)関口秀俊副学長(東工大)、ソンヒョン・メン副学長(韓国科学技術院)、アー・ミーン・ホワ副学長(南洋理工大学)、ジョセフ・HW・リー副学長(香港科技大学)、丸山俊夫理事・副学長(東工大)、リ・ジンリャン教授(清華大学)
(左から)関口秀俊副学長(東工大)、ソンヒョン・メン副学長(韓国科学技術院)、アー・ミーン・ホワ副学長(南洋理工大学)、
ジョセフ・HW・リー副学長(香港科技大学)、丸山俊夫理事・副学長(東工大)、リ・ジンリャン教授(清華大学)

ASPIREフォーラムは、加盟大学の副学長やシニアスタッフが各大学のリーグ内での活動について報告する「副学長会議」や、テーマに沿った研究成果を各大学の研究者が発表する「シンポジウム」、学生向けの「ワークショップ」で構成されています。今年のテーマは「Smart Green Cities(スマートグリーンシティ)」でした。

副学長会議

各大学の副学長及びシニアスタッフが出席した「副学長会議」では、リーグ内の学生交流や研究交流活動の報告と、今後の活動に関する提案がなされ、活発な意見交換が行われました。

会議の様子
会議の様子

シンポジウム

中井検裕教授

中井検裕教授

7月23日に行われた「シンポジウム」では、今年のテーマについて研究を行っている加盟大学の研究者が、発表を行いました。本学からは、中井検裕教授(大学院社会理工学研究科長)が、「Planning Towards Smart and Resilient Cities: Challenges of the Japanese Cities(スマートで強靭な都市づくり:日本の都市の挑戦)」というテーマで講演しました。東日本大震災以降の日本のエネルギー事情や、最新のエネルギー技術を導入している日本の都市を紹介しました。

また、和田雄二教授(大学院理工学研究科応用化学専攻)、中島信孝准教授(大学院生命理工学研究科生命情報専攻)も各自の共同研究について報告をしました。ASPIREリーグでは、2011年から東工大が創設した研究グラント(助成金)をもとに共同研究を行っており、東工大の研究代表者とASPIREリーグの加盟大学の共同研究者との間で活発な研究交流が行われています。

学生ワークショップ

技術賞受賞チーム

技術賞受賞チーム

学生ワークショップには、ASPIREリーグ及びIDEAリーグ※2から28名の学生が参加し、本学からは5名の学生が参加しました。約1週間にわたって、テーマに沿った講義を受講し、関連施設を訪問しました。さらに、ホスト校である香港科技大学が主催する「Innovation & Entrepreneurship Training Camp(イノベーション&起業家トレーニングキャンプ)」に参加しました。そこで、起業に必要な事業プランの立て方、新しい価値を生み出すイノベーションの考え方、プレゼンテーションスキルなどを学びました。

最終日には、学生たちが副学長の前でワークショップ期間中にグループワークで作成したプレゼンテーションを発表する場が設けられました。大学混成6チームに分かれてのプレゼンテーションでは、技術賞、発表賞、発表者賞の3つがチーム及び個人に授与され、本学の参加学生も受賞しました。

発表賞受賞チーム

発表賞受賞チーム

発表者賞受賞者

発表者賞受賞者

※2
IDEA(アイデア)リーグ : デルフト工科大学、ETHチューリッヒ、アーヘン工科大学、シャルマーズ工科大学のヨーロッパ理工系大学で構成されたコンソーシアム。ASPIREリーグとの間では、2011年より各サマープログラムに学生の相互派遣を行っている。

応用分光学におけるインペリアル・カレッジ・ロンドンとの多面的連携

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東京工業大学では、「『世界のトップスクールとしての教育システム』を構築する」「『学び』を刷新する」「大胆な国際化を推進する」という3つの柱を基本方針として教育改革を進めており、その一環として、平成26年度から「世界トップレベルの海外大学教員招聘プログラム」を開始しています。最先端研究について解説する特別講義を開講し、学生に世界トップレベルの研究に触れる機会を提供するためのプログラムです。この実施により、学生の研究に対する意欲向上や国際的視野を拡げ、本学教員と世界トップクラスの大学教員との教育や研究の交流を促進し、両大学間の関係を深めることを目的としています。

平成27年度新規招聘第1弾として、大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻においてインペリアル・カレッジ・ロンドンのセルゲイ・カザリアン教授を本学の特任教授として招聘いたしました。

左から キンバー博士・カザリアン教授(インペリアル・カレッジ・ロンドン)、東工大の学生、ザメンゴ助教(東工大)、ガヴェリーナ(ボルドー大学博士学生)
左から キンバー博士、カザリアン教授(インペリアル・カレッジ・ロンドン)、東工大の学生、ザメンゴ助教(東工大)、ボルドー大学博士学生

森川研究室、居室におけるカザリアン教授

森川研究室、居室におけるカザリアン教授

最先端の応用分光学において著名なカザリアン教授は、分光イメージング※1に関する研究をリードしてこられました。たとえば、チップ増強ラマン散乱法※2によるナノスケール空間分解能のラマンマッピング法に成功しておられます。また、材料や医薬品のプロセス解析への応用において、その独創性と応用例の広さは、世界を駆る精力的な仕事ぶりを象徴するものとして知られています。教育面においては、イギリス国内外の大学からの依頼を受け、講義を行っているほか、国際的な共同研究の審査員や科学技術審議団体の審査員を務めており、英国内外の研究者の支援や育成に力を注いでいます。研究室には、欧州や南米、アジアからの多くの留学生が在籍し、多彩な人材の育成、基礎科学に基づいた教育を行っています。

このことから、研究・教育の両面において、本プログラムの特任教授として最適任であり、森川淳子教授を受入教員として、本学の特任教授として招聘することとなりました。

4月3日には、ATR-FTIR 分光イメージング※3を主題に幅広い分野の測定手法及びトピックスについてのシンポジウム「分光イメージングおよび関連する測定方法の最近の進歩」として、Joint Symposium of Imperial College London and Tokyo Institute of Technologyを開催し、東工大の関係教員や大学院の学生、国内の関係大学、民間企業、海外の大学から約30名が参加しました。カザリアン教授の講演のほかに、カザリアン教授の研究室に所属しているキンバー博士や京都大学、東北大学、スウィンバーン大学(オーストラリア)等からの参加者の講演も行われ、活発な研究交流の場となりました。

4月8日 講義において 赤外分光のスペクトルを実験しながら説明するカザリアン教授

4月8日 講義において
赤外分光のスペクトルを実験しながら説明するカザリアン教授

特別講義としては、4月8日から平成27年度前期の大学院講義「Applied Vibrational Spectroscopy」を開講しました。大岡山・すずかけ両キャンパスを遠隔講義システムでつなぎ、講義内で赤外スペクトルをATR-FTIR法で実験するなどの6回の講義は、30名の参加学生にとって大変充実したものとなったようです。また、シンポジウムで講演したキンバー博士が実験助手を務めるなど、研究としての交流だけではなく、教育としての交流も行われました。

その他、招聘期間中には、本学教員との研究打ち合わせ・共同実験を重ね、すでに実験結果を得たテーマや共同実験を開始したテーマが多数あり、研究・教育の両面において確かな交流関係を築くことができました。カザリアン教授が本学理工学研究科工学系との交流についても関心を持ったことがきっかけで、インペリアル・カレッジ・ロンドンへの工学系長訪問が9月に予定されています。

なおカザリアン教授は、シンポジウムや特別講義でも解説があったATR-FTIR 分光イメージングに関する長年の実績が評価され、5月5日にSir George Stokes Award 2015を受賞されました。

※1
分光イメージング : 赤外線アレイ検出器を用いた、透過および全反射フーリエ変換赤外分光(FTIR/ATR-FTIR)イメージングは、種々の複雑系材料のケミカルイメージング法として、特性解析に用いられる。
※2
チップ増強ラマン散乱法 : 原子力顕微鏡(AFM)高空間分解能と、ラマン分光法のケミカルインフォメーションを組み合わせた測定法。
※3
ATR-FTIR 分光イメージング : 錠剤溶解や薬剤放出、高分子拡散、生細胞ケミカルイメージング、その他生物医学的な系における動的過程の研究に特に適する。

問い合わせ先

大学院理工学研究科 有機・高分子物質専攻 教授 森川 淳子 /
「世界トップレベルの海外大学教員招聘プログラム」担当 総務部企画・評価課

Email : kik.sog@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2011

9月の学内イベント情報

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2015年9月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

2015年9月の学内イベント情報

「平成27年度原子炉工学研究所研究交流・発表会」開催報告

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東京工業大学 原子炉工学研究所が、6月3日、大岡山北3号館1階多目的ホールで、研究交流・発表会を開催しました。

原子炉工学研究所は現在、第2期中期目標・計画に従って、4つの重点研究分野、及び、それらを支える基礎・基盤技術分野の研究を組織的に推進しています。また、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故以降は、除染技術の研究開発をはじめ、福島復興に向けた取り組みにも積極的に貢献しています。昨年度からは、研究所の資源である実験装置、ソフトウエア、データベース等を基盤とした、他大学・研究機関との共同研究をバックアップするため、「共同利用・共同研究」の制度をスタートさせています。学界・産業界・社会のニーズに広く応えるための新しい研究体制を整備しました。

今回の研究交流・発表会では、昨年度の「共同利用・共同研究」課題の成果、及び所内各研究室の研究活動が披露されました。参加人数は、学外からの参加者も含め61人でした。

矢野所長による開会挨拶

矢野所長による開会挨拶

矢野豊彦所長による開会挨拶、及び、研究所の近況報告に引き続き、まず第1部では、研究所の代表的なミッション研究が紹介されました。物質工学部門の竹下健二教授より「東電福島第一原発事故の終息に向けた先進的廃棄物処理・減容技術」、続いて物質工学部門の小原徹教授より「エネルギー・資源・環境問題の解決に資する革新的原子力システム」と題する講演がありました。それぞれ、原子力に関わる喫緊の課題に対する対応、及び、今後の長期的な人類の生存に関わる原子力の役割が議論されました。

休憩をはさみ、第2部として共同利用・共同研究の学外共同研究者による2件の招待講演がありました。札幌医科大学医学部の染谷正則講師よる「DNA修復の分子メカニズムに基づく放射線感受性・癌罹患性予測の展望」に対しては、国民の関心が極めて高いガンの発生・治療に関わるテーマでもあり、会場との間で活発な質疑応答が交わされました。日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターの井上利彦研究員よる「制御棒吸収材料B4Cの照射後試験」についても、高速炉開発を含む今後の原子力技術の発展に不可欠な材料開発の観点から、いくつかの専門的で高度な議論が交わされました。

これらの講演の終了後、第3部として所員による共同利用・共同研究課題及び原子炉工学研究所各研究室の研究活動に関するポスターセッションが開催され、学外者も含めた活発な意見交換が行われました。ポスターの発表件数は27件でした。最後に情報交換会に移行し、盛会のうちに閉会となりました。

ポスターセッションでの質疑応答ポスターセッションでの質疑応答

問い合わせ先

研究交流・発表会事務局

Email : atom2015@nr.titech.ac.jp

Tel: 03-5734-3052

「夏の電脳甲子園」第21回スーパーコンピューティングコンテスト開催報告

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高校生・高専生が4日間をかけて難題を解くプログラムを作成し、その性能を競う「スーパーコンピューティングコンテスト(SuperCon)」。本年度は予選を勝ち抜いた20チームが東京工業大学・大阪大学に集結し、8月17~20日に本選、8月21日に成果発表会と表彰式を行いました。

東京会場全体記念写真
東京会場全体記念写真

SuperConとは

SuperCon は、1995年より始まったプログラミングコンテストです。予選を通過したチーム(1チーム2~3名)が大阪大学、東京工業大学の会場に分かれ、スーパーコンピュータを使ったプログラミングを行います。数日間かけて本選課題の問題を解くプログラムを作成し、作成最終日に提出されたプログラムの正確さ・速度を審査委員会が評価し、コンテスト最終日の成果報告会で発表します。本選課題には、科学技術の様々な分野から最先端の話題が選ばれ、それを高校生にもわかりやすい問題にして挑戦してもらいます。

パソコンが乗用車ならば、スーパーコンピュータはレーシングカーです。けれども、原理はパソコンと一緒。プログラミング大好きな高校生ならば十分使えます。ただし、そのスーパーな性能を引き出すには、技術やアイデアが必要です。技術については、事前の資料や講習会で学べます。また、コンテスト中にもチューターの大学院生がアドバイスします。けれどもアイデアは、参加者本人のもの。いかに斬新なアイデアを出し、それをうまくプログラムに結びつけるかがポイントとなります。

大阪会場全体記念写真
大阪会場全体記念写真

本選課題

今年の本選課題は、「化学振動のパターンを見つけよう」です。

この問題は、化学振動を循環的セルオートマトン(CCA)でモデル化し、(a)CCAの最初の盤面、(b)CCAをあるステップ数だけ進めた盤面の一部でぼやけた画像、の2つが与えられ、(b)は(a)を何ステップ進めたどの位置に出現するかを解答するという内容でした。以下で詳しく解説します。

現在のカメラは、リアルタイムで人の笑顔を認識し、自動的にシャッターチャンスを判別するなど、高度な機能を備えています。また、自動運転技術では、自動車の周囲に設置されたカメラに映された映像から、標識や障害物、歩行者や他の車などを識別し、適切に運転を行います。これらの技術の背景では、刻一刻と変化するファインダーの中の映像を、実時間で画像解析する高度な処理が行われています。今年のSuperCon本選では、その画像解析技術を擬似的に再現し、解析の正確さと処理速度が競われました。

まず、カメラのファインダーの中で変化する動画として CCAを用いました。CCAは、シャーレの中の化学振動を単純化して、計算機上にモデル化したものです。化学振動とは、化学反応が波のように生じ、進行波、同心円状、螺旋状などのパターンを描き、様々な時間的変化をする現象のことです。本質的には同様の原理が、心臓の拍動などにも働いていると考えられている、生命現象を理解するうえで非常に重要な現象です。

CCAは、格子状に区切った平面上のひとつひとつの格子(セル)が、周囲のセルと相互作用しながら時間変化する、単純なルールで記述されます。ルールは単純ですが、実際にプログラミングして動きを見てみると、化学振動と類似した多様な現象が再現できることがわかります。

課題では、CCAの時間発展(動画)の中に現れる、あるパターンの一部分をぼかした画像が与えられました。この画像が、CCAのどの時刻にどの場所で現れるかを特定することが課題でした。これは、前述した画像解析技術の例えでいうと、笑顔を判定する部分に相当します。

今回の課題の第1のポイントは、高速なCCAをプログラムで実現することでした。そのためには、ベクトル化といわれる技術を駆使すること、計算を並列に処理させる工夫が必要になります。また、与えられた画像はぼやけているため、CCAの動画と完全に一致するわけではありません。高速に処理するために、いかに「だいたい一致しているのか」を判定するアルゴリズムを考えられるか、がもうひとつのポイントとなりました。

本選問題で用いた循環的セルオートマトン(CCA)の動画

競技結果

競技結果の発表に先立ち、優れたプログラムを作成したチームに贈られる学会奨励賞が発表されました。

学会奨励賞(電子情報通信学会、情報処理学会)

  • チームgomaba(筑波大学附属駒場高等学校)

続いて、本選審査では、全3問中の正解数の多い順、正解数が同じ場合は総実行時間が少ない順により、順位を決定しました。今大会で用いられた大阪大学のスーパーコンピュータ、SX-ACEのコンパイラの特性をよく理解し、より上手にベクトル化を行なったチームが上位を飾りました。

順位
チーム名
学校名
正解数
総実行時間
1
gomaba
筑波大学附属駒場高等学校
3問
104秒
2
WestDiv
久留米工業高等専門学校
3問
280秒
3
ReewNen
明石工業高等専門学校
3問
316秒

1位から3位までのチームには、大阪大学サイバーメディアセンター 下條真司副センター長より、賞状とメダルが授与されました。

では来年もまた「夏の電脳甲子園」、スーパーコンピューティングコンテストでお会いしましょう。

チームgomaba
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フレームカー耐久レース(金属工学科)開催報告

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7月21日、大岡山キャンパス本館前ウッドデッキにて、平成27年度「フレームカー耐久レース」が開催されました。このレースは金属工学科3年の講義「金属工学創成プロジェクト」の一環として毎年開催されている恒例イベントです。

  • チーム「SUPERCUB50」前輪1輪・後輪2輪のコンパクトなフレームカー

    チーム「SUPERCUB50」
    前輪1輪・後輪2輪の
    コンパクトなフレームカー

  • チーム「デカ4駆」座席シートが可動することで乗り心地を重視した設計に

    チーム「デカ4駆」
    座席シートが可動することで
    乗り心地を重視した設計に

  • チーム「AOTULE」両手足で前後輪を操舵

    チーム「AOTULE」
    両手足で前後輪を操舵

フレームカーは、鉛電池で駆動する電気自動車です。各チームには、アルミパイプ、タイヤ、電動モータ、鉛蓄電池が与えられます。これら限られた材料から、いかにオリジナリティー溢れるフレームカーを設計・製作できるかがキーポイントです。「フレームカー耐久レース」は、走行性能・デザイン性・耐久性を評価する最終発表会の場です。

各車一斉にスタート!
各車一斉にスタート!

チーム「SUPER CUB 50」鮮やかなコーナリング

チーム「SUPER CUB 50」鮮やかなコーナリング

レースは、ウッドデッキに設置したコース1周のタイムを競うタイムトライアルと、30分間にコースを何周出来るかを競う耐久レースの2部門です。今年度は、金属工学科3年生(5チーム計16名)が設計・製作したフレームカーに加えて、株式会社エスユーエスから2台のフレームカーが参戦し、猛暑のなか白熱したレースが繰り広げられました。

  • チーム「192 Racing」レースを強く意識した低重心(車高5cm)で最軽量のフレームカー

    チーム「192 Racing」
    レースを強く意識した低重心(車高5cm)
    で最軽量のフレームカー

  • チーム「LUMPUHN(株式会社エスユーエス)」

    チーム「LUMPUHN
    (株式会社エスユーエス)」

  • チーム「YAMADA発動機 (株式会社エスユーエス)」ディファレンシャルギアを搭載

    チーム「YAMADA発動機 (株式会社エスユーエス)」
    ディファレンシャルギアを搭載

  • パイロンに接触しないよう、速やかなコーナリング

    パイロンに接触しないよう、
    速やかなコーナリング

  • 白熱したレース展開、他のフレームカーに接触すると減点

    白熱したレース展開、
    他のフレームカーに接触すると減点

  • 株式会社エスユーエス製作のフレームカーに試乗

    株式会社エスユーエス製作の
    フレームカーに試乗

表彰式にて、耐久レースで見事優勝したチーム「SUPER CUB 50」

表彰式にて、耐久レースで見事優勝したチーム「SUPER CUB 50」

各チーム、個性的な形のフレームカーには学生の技術と工夫が詰まっています。タイムトライアルレースでは、エスユーエスのフレームカー2台が金属工学科5チームを抑えて1位と2位を独占、チームLAMPHUNがポールポジションを獲得しました。耐久レースでは金属工学科チームが善戦し、総合力でチームSUPERCUB 50が優勝の栄冠に輝きました。

なお、今回出走したフレームカーの一部は10月の工大祭で来場者も試乗できる予定です。

レース終了後の金属工学科 集合写真
レース終了後の金属工学科 集合写真

国立科学博物館「夏休みサイエンススクエア」出展報告

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東京・上野 国立科学博物館にて開催された「夏休みサイエンススクエア」に、8月14日~16日の3日間、大学院生命理工学研究科 山田拓司講師の研究室が出展しました。出展テーマは「腸内細菌ってなんだ?」です。

  • 子ども達に説明する学生スタッフ
  • 子ども達に説明する学生スタッフ

子ども達に説明する学生スタッフ

ヒトの腸内には、1000種100兆個体の細菌が共生していると言われています。近年、腸内細菌の解析技術が飛躍的に向上し、これらの細菌を網羅的に調査する事が可能になり、様々な発見が相次いでいます。そうした目に見えない細菌達の活動や仕組みを子ども達に分かりやすく学んでもらおうと、生命理工学部の学部生たちが開発した腸内細菌ボードゲームを使用しました。

夏休み中の国立科学博物館は子どもたちがたくさん来場しており、大変な賑わいでした。山田研究室のブースには、保護者も含め各回20名、3日間で200名程が参加しました。最初に山田講師が腸内細菌の仕組みについて解説をした後、各テーブルに同席したホスト役の東工大学生スタッフが、参加者にボードゲームのルールを説明しました。そしていよいよゲームがスタート。はじめは緊張気味だった参加者も、次第にゲームを通じ和やかな雰囲気になり、あっという間に打ち解けて笑い声が聞こえるようになります。対象年齢は小学5年生以上としていましたが、ボードゲームに興味を持った対象年齢以下の子が「ぼくも参加したい!」と泣き出したり、楽しくて何度も参加する人がいたりと大変な盛況ぶりでした。

  • 会場の様子

    会場の様子

  • 山田講師によるレクチャー

    解説する山田講師

  • 参加した東工大生

    山田講師と学生スタッフで集合写真

山田研究室による、ボードゲームを使ったアウトリーチ(社会連携)活動は今回で4回目となりましたが、回数を重ねる度に新しい発見や子ども達の発想に驚かされ、本学の学生達にも良き学習の場となっています。山田講師は、「今後も定期的にこのような活動を続けることで、多くの方々が、科学やバイオをより身近に感じるきっかけになればと思います。」と話しています。

東工大基金

この活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

大学院生命理工学研究科 生命情報専攻 山田研究室
Email : info@jchm.co.jp
Tel : 03-5734-3629

ビスマス薄膜が半導体に変わることを実証―次世代高速デバイスの有力材料に浮上―

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要点

  • 高品質のビスマス薄膜を作成し、その電気的性質を測定
  • 半金属であるビスマスが薄膜化によって半導体になる理論を実証
  • 次世代の高速デバイス開発へ新たな道

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の平原徹准教授は、東京大学の長谷川修司教授、自然科学研究機構分子科学研究所の田中清尚准教授、木村真一准教授(現大阪大学教授)、お茶の水女子大学の小林功佳教授らと共同で、半金属[用語1]のビスマスを薄膜にするとその電気的な性質を半導体に変えられることを実証した。

高品質のビスマス薄膜を作成して、分子科学研究所の放射光施設UVSORで偏光可変の角度分解光電子分光[用語2]測定を行い、ビスマス薄膜が半導体になっていることを確認した。さらに、理論では予想されていなかった表面や界面の電子が関係した新しい現象も発見した。これらの成果により、次世代高速電子デバイス開発に新たな道を拓くことが期待できる。

ビスマスは近年盛んに研究されているグラフェンなどと同様に、シリコンなどの半導体中の電子より高速に移動できるディラック電子[用語3]を有している。しかし、このディラック電子をデバイス応用する上ではエネルギーギャップ[用語4]が開いた半導体にすることが必要になる。1960年代にビスマスを薄膜にすることで半導体化できることが理論的に予想されたが、これまで実験的にははっきりとした結論は出ていなかった。

本研究成果は9月3日に米国物理学会誌「フィジカルレビューレターズ(Physical Review Letters)」で公開された。

研究の背景

高速に動作するデバイスの作製には、用いる物質中の電子の速度が速い(移動度が大きい)ことが必要である。最近、通常の電子と異なったエネルギーと運動量の分散関係を持つディラック電子が大きな移動度を持つ電子として注目され、研究が活発に行われている。例えば、ディラック電子を持つ物質として知られている炭素一層からなるグラフェンの電子の移動度は、シリコンのおよそ10倍の15,000cm2/Vs(平方センチメートル毎ボルト毎秒)である。

ビスマスは固体中でディラック電子が存在することが分かった最初の物質で、1960年代から研究されてきた。グラフェンの研究が盛んになったのは2005年以降であることを考えると、その歴史は非常に古いことが分かる。

デバイス動作のための重要な条件の一つは、その電気的性質がバンドギャップを有する半導体であることである。しかし、上記のグラフェンもビスマスも半金属でバンドギャップがないために、何らかの方法で半導体にしなければならない。

1967年に旧ソ連の理論物理学者V. B. サンドミルスキー(V. B. Sandomirskii)は、ビスマスを30nm(ナノメートル)程度の厚さの薄膜にし、量子サイズ効果[用語5]を利用することで、半導体に変えられる(半金属半導体転移、図1)ことを予想した。しかし、今日まで約50年間多くの研究が行われたものの、実際にビスマス薄膜で半金属半導体転移が起きているという明確な実験証拠はなかった。

ビスマス薄膜の半金属半導体転移(理論)。3次元の厚いビスマスは(a)のような半金属だが、30nm程度の厚さの薄膜にすると(b)のような半導体になることが予想された。
図1.
ビスマス薄膜の半金属半導体転移(理論)。3次元の厚いビスマスは(a)のような半金属だが、30nm程度の厚さの薄膜にすると(b)のような半導体になることが予想された。

研究成果

今回、東工大の平原准教授らの研究グループは、高品質のビスマス薄膜を作成し、その電気的特性を分子科学研究所のシンクロトロン放射光施設UVSORで測定した。UVSORの偏光可変の低エネルギー角度分光電子分光(図2)装置を用いることにより、これまで報告例がほとんどなかったビスマス薄膜の内部の電子状態を高精度で観測することに成功した。

角度分解光電子分光法の原理

図2. 角度分解光電子分光法の原理

その結果、当初の理論よりも膜厚が厚い、70nmの厚さの薄膜でエネルギーギャップが開き、半導体になっていることを実証した(図3)。一方、10nm以下のビスマス超薄膜は、理論の予想と反してエネルギーギャップがない半金属であることも分かった。これは、厚さ10nm以下では表面・界面の効果が重要であり、これを考慮した新たな理論が必要なことを示している。

測定された実験データ。(a)はエネルギーと運動量のイメージを示しており、(b)が光電子分光強度のスペクトル。内部状態はフェルミ準位(EF)にピークがなく半導体だが、表面状態はフェルミ準位を横切る金属である。内部状態は通常は測定条件(光エネルギーや光の偏光)を変えるとピーク位置が変化するが、薄膜では量子サイズ効果により測定条件を変えてもピーク位置が変化しない。
図3.
測定された実験データ。(a)はエネルギーと運動量のイメージを示しており、(b)が光電子分光強度のスペクトル。内部状態はフェルミ準位(EF)にピークがなく半導体だが、表面状態はフェルミ準位を横切る金属である。内部状態は通常は測定条件(光エネルギーや光の偏光)を変えるとピーク位置が変化するが、薄膜では量子サイズ効果により測定条件を変えてもピーク位置が変化しない。

今後の展開

今回の研究は、量子サイズ効果を利用してビスマスの電気的性質を制御できることを明確に示したものである。そして厚さが10nm以下の極薄の薄膜では表面や界面に存在している電子が、物質の内部の電子の性質に大きな影響を及ぼしていることも分かった。

今後はビスマス内部の高移動度のディラック電子を利用した高速デバイスの開発、さらにビスマスの表面や界面に存在する電子を利用した極薄ナノデバイス開発という応用研究へと進展することが期待できる。

用語説明

[用語1] 半金属 : 元素は通常、その一般的な化学的、物理的性質によって金属もしくは非金属(半導体や絶縁体)に分類される。しかし、いくつかの元素はその中間の性質を持ち、その特性による分類が難しくなる。そのような元素を半金属と言う。

[用語2] 角度分解光電子分光 : 固体に光を照射すると物質の表面から電子が放出される。放出された電子は光電子と呼ばれ、光電子のエネルギーや運動量を測定すると、物質がどのような電子状態をとっているかが分かる。

[用語3] ディラック電子 : 通常の電子と異なり、英国の物理学者ディラックが1928年に発表した相対論的量子力学に従う高速電子のこと。

[用語4] エネルギーギャップ : シリコンに代表される半導体では、電子が占有する最高のエネルギー準位と、電子が非占有となる最低のエネルギー準位の間にエネルギー差が存在する。このエネルギー差をエネルギーギャップと言い、半導体を電界効果等で制御する上での重要なパラメータになる。

[用語5] 量子サイズ効果 : 物質の厚さを薄くしていくと、内部の電子がその狭い領域に閉じ込められるため、量子力学に従う振る舞いを見せるようになることを指す。今回のような数10nmの厚さのビスマス薄膜では、量子サイズ効果によって、3次元の厚いビスマスの場合と異なった電子の状態になった。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Role of Quantum and Surface-State Effects in the Bulk Fermi-Level Position of Ultrathin Bi Films
著者 :
T. Hirahara, T. Shirai, T. Hajiri, M. Matsunami, K. Tanaka, S. Kimura, S. Hasegawa, and K. Kobayashi
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学 大学院理工学研究科物性物理学専攻

准教授 平原徹
Email : hirahara@phys.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-2365

東京大学 大学院理学系研究科物理学専攻

教授 長谷川修司
Email : shuji@surface.phys.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4161

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京大学大学院理学系研究科・理学部

特任専門職員 武田 加奈子
准教授・広報室副室長 横山 広美
Email : kouhou@adm.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-8856

NHK Eテレ サイエンスZEROに大隅良典栄誉教授が出演

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フロンティア研究機構大隅良典栄誉教授がNHK Eテレの科学番組、「サイエンスZERO」のオートファジー特集に出演します。

撮影の様子
撮影の様子

撮影の様子

大隅教授は、細胞が自身の一部を分解したり、内部の不要物を除去し、侵入者を排除して、健全な細胞を維持するオートファジー現象を世界で初めて肉眼で観察することに成功しました。

オートファジーは細胞のリサイクルシステムで、体の恒常性を維持する機能を持っており、アルツハイマー病などの神経変性疾患、癌、加齢に伴う病気などを治療する医療への応用が期待されています。

大隅教授は、オートファジーに関わる遺伝子群を明らかにし、その分子機構を解明しました。その研究が評価され、今年、ガードナー国際賞や国際生物学賞を受賞しています。

番組では、サイエンス作家の竹内薫さんと女優の南沢奈央さんの進行で、VTRやコンピュータグラフィックスを駆使してオートファジーについてわかりやすく解説しておりますので、ぜひご覧ください。

フロンティア研究機構大隅良典栄誉教授

フロンティア研究機構大隅良典栄誉教授

油脂高生産藻の脂質量と組成を改変する技術を開発―藻による油脂やバイオ燃料の生産性向上に期待―

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要点

  • 海産性の油脂高生産藻類ナンノクロロプシスで、蓄積する脂質の量と脂肪酸組成を改変する技術を開発
  • ナンノクロロプシスのリン欠乏に応答した遺伝子発現制御の仕組みが、種の異なる藻類クラミドモナスと類似することを見出し、その仕組みを活用
  • リン欠乏に応答する遺伝子プロモーターを種々の脂質合成遺伝子とセットでナンノクロロプシスに導入することで、様々な種類の有用脂肪酸の生産へ応用することを期待

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の岩井雅子CREST研究員、太田啓之生命理工学研究科/地球生命研究所教授らは、海産性の油脂高生産藻類として注目されるナンノクロロプシス[用語1]を用い、油脂の蓄積量と油脂中の脂肪酸組成を改変する技術を開発した。

多くの藻類では窒素欠乏時に油脂を蓄積することが知られている。その一方、窒素欠乏条件では藻類の生育が著しく阻害されることから、有用油脂の生産においては、生育しながら油脂を貯める手法の開発が課題となっている。岩井らは、高密度な細胞培養が可能で細胞中に油脂だけを多量に貯める海産性の藻類ナンノクロロプシスで、リンの欠乏条件では窒素欠乏条件と比べ、生育を維持しながら油脂を高蓄積することを発見した。さらに、リン欠乏時に、細胞の膜中のリン脂質を糖脂質に転換する緑藻クラミドモナス[用語2]と同様な仕組みがナンノクロロプシスで働いていることも見出した。そこで緑藻クラミドモナスから取得したリン欠乏応答性の糖脂質合成遺伝子プロモーター[用語3]と油脂合成遺伝子を結合してナンノクロロプシスに導入した結果、脂質の蓄積を増強させるとともに、脂肪酸の組成を改変することに成功した。今後、リン欠乏応答プロモーターと種々の脂質合成遺伝子とをセットで藻類に導入することで、様々な高付加価値の油脂が工業規模で生産できると期待される。

この研究は太田教授が科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST) 「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」研究領域(研究総括:松永是(東京農工大学 学長))における研究課題「植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築」の一環として、東工大大学院生命理工学研究科の下嶋美恵准教授、堀孝一CREST研究員と佐々木結子地球生命研究所特任助教との共同で行った。成果の内容は9月7日発行のスイス科学雑誌「フロンティアズ イン マイクロバイオロジー(Frontiers in Microbiology)」に掲載された。

研究の背景と経緯

多くの藻類は窒素欠乏などの栄養欠乏条件下でトリアシルグリセロール(TAG;油脂[用語4])を蓄積することが知られており、近年、藻類が生産するTAGやTAGに含まれる脂肪酸が化学工業用油脂やバイオ燃料の原材料として注目されている。藻類油脂をこのような原材料として活用するためには、利用目的に合った油脂や有用脂肪酸などを大量に生産させる技術の開発が必要となる。しかしながら、本来光合成膜[用語5]や細胞膜などに存在しない有用脂肪酸や油脂を大量に生産させようとすると、それらが光合成膜などに蓄積し、光合成を阻害するという問題がある。これを回避するには、適切な条件下で有用脂肪酸や油脂を生産させながら、それを細胞内に油滴として高蓄積させることが有効である。しかし、一般的に藻類の油脂生産の条件とされる窒素欠乏条件では、光合成や新規脂肪酸合成が抑制され、細胞がほとんど増殖しないため、このような手法を用いることは難しい。

岩井研究員らは、以前の研究で、緑藻クラミドモナスを増殖させながら光合成の場である葉緑体を維持してTAG蓄積をできる条件を探索し、リン欠乏条件では窒素欠乏条件ほど劇的な細胞増殖抑制は見られないことを見出した。さらにその条件下でのTAG蓄積を遺伝子操作によって強化することに成功した。しかし、クラミドモナスの場合、栄養欠乏時にTAGだけでなくデンプンも蓄積し、また高密度での細胞培養が難しいため、藻類での効率的な油脂生産を目指すためには、より高密度で細胞培養ができ、細胞中に油脂だけを多量に貯めることができるナンノクロロプシスなどの油脂高生産藻での生産技術の開発が期待されていた(図1)。

藻類の栄養欠乏による油脂の蓄積と油脂高生産藻類を用いた生産技術開発
図1.
藻類の栄養欠乏による油脂の蓄積と油脂高生産藻類を用いた生産技術開発
MGDGは光合成を行う葉緑体に最も主要な膜脂質。窒素欠乏時の藻類では、TAGが蓄積する一方、MGDGなど光合成の膜脂質が減少し、光合成が抑制される。藻類で利用目的に応じた有用脂質を工業規模で生産するためには、油脂の生産性に優れた藻類を活用して、光合成を維持したまま有用な油脂を高生産する技術の開発が必要となる。

研究内容

岩井研究員らはナンノクロロプシスでの窒素欠乏条件とリン欠乏条件の比較(図2)から、ナンノクロロプシスのリン欠乏下では光合成の場である葉緑体を維持したままTAGを蓄積することを見出した。そこでクラミドモナスなどの藻類や植物がリン欠乏に適応する際に起こすリン脂質から糖脂質への膜脂質の転換が、クラミドモナスとは異なり二次共生藻[用語6]に属するナンノクロロプシスでも機能していると予測し、リン欠乏時の膜脂質の変動や膜脂質転換に関わる遺伝子の応答を調べた。その結果、ナンノクロロプシスでもリン欠乏時に糖脂質合成酵素遺伝子の発現が誘導され、リン脂質と糖脂質が置き換わることでリン欠乏に適応することを見出した。

ナンノクロロプシス培養の写真
図2.
ナンノクロロプシス培養の写真
窒素欠乏条件では細胞の増殖が著しく抑制されているのに対して、リン欠乏では通常条件と同様に緑が濃くなり、細胞が増殖して葉緑体が発達しているのが判る。

図3の通常培養条件に示すように、リンを十分含む条件では葉緑体や細胞の膜脂質(図のMGDGやDGDG、PCなど)が細胞に含まれる脂質の多くを占めるが、リン欠乏条件ではTAGの含量が著しく増大する。また、リン欠乏条件ではTAGの増大と同時に葉緑体の糖脂質の一つであるSQDGが増加しており、別の実験からSQDGの合成にかかわるSQD2遺伝子の発現が顕著に誘導されていることも分かった。そこで、その仕組みを活用して新規脂肪酸を合成させながらTAG蓄積を増強するため、先のクラミドモナスの研究で取得したリン欠乏条件下で発現上昇するクラミドモナスSQDG合成遺伝子(CrSQD2)のプロモーター「pCrSQD2」[用語7]とクラミドモナスのTAG合成酵素「CrDGTT4」の利用を試みた。pCrSQD2とCrDGTT4のセットをナンノクロロプシスに導入したところ、遺伝子を導入した形質転換株では、CrDGTT4遺伝子を導入していない比較対照株(コントロール株)と比べ、リン欠乏条件下でのTAG蓄積がさらに増加した(図3形質転換株参照)。またTAG中の脂肪酸にはCrDGTT4が基質として好むオレイン酸(C18:1(9)=炭素数が18で二重結合を9位の位置に一つ持つ脂肪酸)がコントロール株の約2倍含まれていた(図4)。これらの結果は、二次共生藻として緑藻とは分類上も全く異なる油脂高生産藻ナンノクロロプシスで、緑藻クラミドモナス由来のリン欠乏応答性プロモーターを用いることによりTAG蓄積の増強と脂肪酸組成の改変ができることを示している。

またこの結果は、リン欠乏条件に適応する仕組みそのものが種の異なる緑藻と二次共生藻の間で広く保存されていることを示しており、進化的な観点からも興味深い。

細胞中に含まれるTAGと膜脂質の量
図3.
細胞中に含まれるTAGと膜脂質の量
全て培養4日目。MGDG、DGDG、SQDGは葉緑体の膜に含まれる糖脂質。PG、PE、PC、PS、PIは葉緑体や細胞の膜に含まれるリン脂質。DGTSは藻類細胞の膜に特有のベタイン脂質。リン欠乏時に細胞中のリン脂質が減少し、TAGやSQDG、DGTSが増加する。特にTAGの増大が顕著で、形質転換株ではコントロール株に比べその増大がさらに強化されているのが判る。
形質転換株とコントロール株のそれぞれの脂質に含まれるオレイン酸(C18:1)の量(培養4日目)
図4.
形質転換株とコントロール株のそれぞれの脂質に含まれるオレイン酸(C18:1)の量(培養4日目)
オレイン酸は通常培養条件では細胞中にあまり見られないが、リン欠乏時にTAGに蓄積する。形質転換株のオレイン酸はコントロール株の更に2倍に増加した。

今後の展開

本研究により、海産性の油脂高生産藻ナンノクロロプシスで、ナンノクロロプシスと分類上全く種が異なる緑藻クラミドモナスのリン欠乏応答プロモーターを用いてTAG生産の増強と脂肪酸組成の改変ができることが明らかになった。ナンノクロロプシスは他の藻類に比べ、細胞に多量の油脂を蓄積すると同時に、高密度での培養が可能であることが知られており、また海産性藻類であることから海水を用いて培養できる。リン欠乏応答性プロモーターを機能の異なる種々の脂質合成遺伝子と結合して用いることで、ナンノクロロプシスで様々な有用脂肪酸を含む油脂を大量に生産できることが期待される。今回そのプロモーターを利用した糖脂質合成遺伝子SQD2は藻類に広く保存されることが分かっており、他の藻類で同様な手法が活用できることも期待される。

用語説明

[用語1] ナンノクロロプシス : 海産性の油脂高生産藻類。細胞内に細胞の重さの50%を超える脂質(トリアシルグリセロール、TAG)を蓄積することで知られる。このような油を多量に生産する藻類としては他にボトリオコッカスなどがよく知られているが、ボトリオコッカスは、TAGではなく長鎖の炭化水素やテルペンを合成する。長鎖の炭化水素はその性質上ガソリンの代替として期待されているが、ナンノクロロプシスなどが生産するTAGは、軽油の代替としての利用が可能であるといわれており、生産する油によって用途が異なる。

[用語2] クラミドモナス : 緑藻綱クラミドモナス目に属する単細胞藻類。ゲノム解析が進みモデル藻類として用いられる。

[用語3] 栄養(リン)欠乏応答性プロモーター : 栄養(リン)欠乏時に遺伝子の発現が誘導される糖脂質合成酵素遺伝子などの上流域に存在し、下流の遺伝子のリン欠乏時の誘導を制御する働きを持つ。

[用語4] TAG : トリアシルグリセロール。1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した中性脂肪の1つ。藻類や植物の細胞内に油滴として蓄積する。

[用語5] 光合成膜 : 光合成細菌、藻類、植物など、光合成を行う生物の光合成反応をつかさどる高度に発達した細胞内部の膜を示す。特に藻類や植物の細胞に存在する光合成器官である葉緑体は、その内部にチラコイド膜という光合成を担う発達した膜を持つが、このチラコイド膜のことを光合成膜ともいう。

[用語6] 二次共生藻 : 緑藻や高等植物など、原始シアノバクテリアの細胞内共生により光合成器官である葉緑体を獲得した生物を一次共生生物と呼ぶのに対して、緑藻や植物とは全く起源の異なる生物が、葉緑体を持つ他の藻類を細胞内に丸ごと取り込んで光合成の能力を獲得した場合、そのような藻類を二次共生藻と呼ぶ。コンブやワカメも二次共生藻であり、これらの生物は光合成を行うが、緑藻や植物とは全く起源が異なる。

[用語7] クラミドモナスSQD2遺伝子のプロモーター「pCrSQD2」 : SQD2は、藻類や植物の葉緑体に含まれる主要膜脂質スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)の合成酵素。SQDGは硫黄を含む糖脂質で、リン欠乏時に特に増加して、葉緑体に含まれるリン脂質であるホスファチジルグリセロール(PG)の代替を担う。クラミドモナスや植物のSQD2遺伝子はリン欠乏時にその発現が強く誘導されるが、遺伝子の上流にあるプロモーター領域がその制御を担う。

論文情報

掲載誌 :
Frontiers in Microbiology
論文タイトル :
Manipulation of oil synthesis in Nannochloropsis strain NIES-2145 with a phosphorus starvation-inducible promoter from Chlamydomonas reinhardtii
著者 :
Masako Iwai, Koichi Hori, Yuko Sasaki-Sekimoto, Mie Shimojima and Hiroyuki Ohta
DOI :

東京工業大学地球生命研究所について

地球生命研究所(ELSI)は、文部科学省が平成24年に公募を実施した世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択され、同年12月7日に産声をあげた新しい研究所。「地球がどのように出来たのか、生命はいつどこで生まれ、どのように進化して来たのか」という、人類の根源的な謎の解明に挑んでいる。

世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は、平成19年度から文部科学省の事業として開始されたもので、システム改革の導入などの自主的な取組を促す支援により、第一線の研究者が是非そこで研究したいと世界から多数集まってくるような、優れた研究環境ときわめて高い研究水準を誇る「目に見える研究拠点」の形成を目指している。

問い合わせ先

東京工業大学 大学院生命理工学研究科

教授 太田啓之
Email : ohta.h.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5736 / Fax : 045-924-5527

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

JST事業に関すること
科学技術振興機構 戦略研究推進部 川口 哲

Email : crest@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3524 / Fax : 03-3222-2064

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