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木村宏教授がロバート・フォイルゲン賞を日本人初受賞

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大学院生命理工学研究科の木村宏教授が、ロバート・フォイルゲン賞(Robert Feulgen Prize)を受賞しました。

木村宏教授(中央)
木村宏教授(中央)

ロバート・フォイルゲン賞は、国際組織化学学会(The Society for Histochemisty)により、組織化学・細胞化学分野で新規の方法の開発や新規の発見を行った研究者に与えられる賞で、1971に創設されました。日本人で初の受賞です。

木村教授は、第57回国際組織化学学会シンポジウム(57th Symposium of the Society for Histochemistry/24th Wilhelm Bernhard Workshop on the Cell Nucleus)で受賞講演を行いました。

受賞テーマ

生きた細胞内における蛋白質翻訳後修飾の可視化法の開発

受賞理由

細胞内の多くの蛋白質は、リン酸化、アセチル化、メチル化などの翻訳後修飾をうけることで、蛋白質間相互作用や酵素活性などの機能が制御されます。これらの翻訳後修飾を細胞レベルで検出するために、特定の修飾に特異的な抗体による免疫染色が用いられます。しかしながら、通常の免疫染色では、細胞や生体サンプルを化学固定する必要があるため、生きた細胞を用いた解析は不可能でした。木村教授らは、モノクローナル抗体由来のプローブを用いて、生きた細胞内で内在性蛋白質の翻訳後修飾を可視化し、その動態計測を行う方法を世界で始めて開発しました。木村教授らが開発した一つの方法は、抗体から抗原結合断片を調製し、蛍光標識した後に、細胞に導入する方法です。もう一つは、抗体の抗原結合部位をコードする遺伝子をクローニングして、蛍光蛋白質との融合蛋白質として発現させる方法です。これらの方法により、培養細胞中のクロマチンの主要成分であるヒストン蛋白質のリン酸化、アセチル化、メチル化、及び、転写を担う酵素であるRNAポリメラーゼIIのリン酸化の動態を明らかにしました。また、マウスやショウジョウバエの初期胚におけるヒストン蛋白質のアセチル化動態も解明しました。

今回の受賞を受けて、木村教授は以下のようにコメントしています。

ヒストンの翻訳後修飾は、遺伝子発現の制御に重要な役割を果たしていますが、その全貌は明らかになっていません。今回のロバート・フォイルゲン賞の受賞対象となった生細胞イメージング法により、細胞内や生体内においてヒストン修飾がどのようにダイナミックに変化し、転写の制御に働くのかが少しずつ分かってきました。これからも新規の方法を開発しながら、生命現象の謎に迫っていきたいと思います。

問い合わせ先

大学院生命理工学研究科 木村宏

Email : hkimura@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5742


液体金属ナノ粒子のサイズを繰り返し変えられるプロセスを開発―光を操る新材料の開発に期待―

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要点

  • 液体金属であるガリウムナノ粒子のサイズを繰り返し変えられるプロセスを開発した。
  • 液体ガリウムナノ粒子のサイズ変化に応じて表面プラズモン共鳴吸収を制御できた。
  • 用途に応じて自由に物性を制御できるプラズモニック材料の開発が期待される。

概要

JST戦略的創造研究推進事業において、東京工業大学の山口章久特任助教と彌田智一教授らは、液体金属[用語1]であるガリウム[用語2]ナノ粒子のサイズを可逆的に変化させるプロセスを開発し、金属ナノ構造体が光と相互作用して、その光を吸収する「表面プラズモン共鳴吸収[用語3]」を制御することに成功しました。

表面プラズモン共鳴吸収を制御すると、ナノ回路に光を伝えたり、波長よりもはるかに小さな空間に光を閉じ込めることができます。金、銀などの金属ナノ構造体は、表面プラズモン共鳴を利用して光を操るプラズモニック材料[用語4]や、電場増強効果[用語5]による一分子レベルの計測装置への展開が期待され、用途の開発が進められています。特性を決める金属ナノ構造体のサイズ、形状、配列など形態をより自由に変化させることは、重要な課題の1つです。熱や圧力など外部刺激や化学的処理を与えて、作製した金属ナノ粒子のサイズや形状を変化させる方法はありましたが、元に戻すことは困難でした。

研究グループは、形状を制御しやすく、紫外光領域のプラズモニック材料として注目されるガリウムに着目しました。超音波照射により液体金属がどのような挙動を示すのか、その詳細は分かっていませんでしたが、超音波照射による液体ガリウムのナノ粒子化と油と水の乳化[用語6]との類似性を明らかにしました。また、水と油の乳化と同様に分裂と融合のバランスを制御することにより、液体ガリウムナノ粒子のサイズを変化させることに成功しました。変化させたサイズを元に戻すことも可能で、サイズの変化に伴い、液体ガリウムナノ粒子の紫外光領域における表面プラズモン共鳴吸収波長が変化することも確認できました。

本研究成果により、用途に応じて自由に物性を制御できるプラズモニック材料の開発が期待されます。本研究成果は、ドイツ化学誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版で近日中に掲載されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)

  • 研究プロジェクト:
    「彌田超集積材料プロジェクト」
  • 研究総括:
    彌田 智一(東京工業大学 資源化学研究所 教授)
  • 研究期間:
    平成22年10月~平成28年3月

上記研究課題では、異種材料をナノ・マイクロスケールで「上手に混ぜる」ことにより、構成材料の単なる足し合わせでは得られない、要素間の相互作用が顕在化した「超集積材料」の創成を目指しています。

研究の背景と経緯

金、銀などの金属ナノ構造体は、表面プラズモン共鳴を利用したプラズモニック材料や、電場増強効果による一分子レベルの計測装置への展開が期待されています。その特性を決定するのが、金属ナノ構造体のサイズ、形状、配列などの形態です。金や銀では、作製した金属ナノ粒子のサイズや形状を、熱や圧力などの外部刺激や化学処理で変化させる方法が知られています。

近年、金や銀より容易に形状を変えられる金属材料として注目されているのが、室温に近い融点を持つガリウムやガリウム合金などの液体金属です。超音波照射でガリウム液滴からナノ粒子を形成する技術も開発され、液体ガリウムナノ粒子は、金、銀に代わる紫外光に応答するプラズモニック材料として期待されています。生体分子の多くは紫外光領域に吸収を持つことから、紫外光に応答するプラズモニック材料の開発により、さらに高感度な一分子レベルでの計測が可能になるからです。

しかし、変化させたサイズや形状を元に戻す技術はこれまで確立されておらず、さらに応用先を拡大するために、液体金属の形状をナノ単位でより自由に調節する技術が望まれていました。

研究の内容

研究グループは、形状を制御しやすいという、液体金属の液体としての特徴に着目しました。ガリウム液滴に超音波を照射すると、超音波の振動で破砕され、分裂と融合を繰り返しながら徐々に小さくなり、最終的にナノ粒子化します(図1)。形成された液体ガリウムナノ粒子は、有機溶媒中に保護剤として溶解したドデカンチオール[用語7]とガリウム表面に形成する自然酸化膜(厚さ約2ナノメートル)により安定化されます。強度、温度、時間依存性など超音波照射条件が粒子サイズに及ぼす影響を調べた結果、1)2時間程度の長時間照射により、超音波強度に関わらず同じ粒子サイズになること、2)高温ではバランスが融合に傾き、より大きなナノ粒子(20℃では35ナノメートル、50℃では60ナノメートル)を形成することが分かりました。これらの結果は、超音波照射で水と油を乳化させる状況と類似しています。水と油のエマルション[用語6]滴の分裂と融合のバランスでエマルション滴のサイズが決まるように、液体ガリウムナノ粒子の分裂と融合のバランスが、粒子のサイズを決める要因と考えられます。

超音波照射によるガリウムナノ粒子の形成

図1. 超音波照射によるガリウムナノ粒子の形成

(a)
ガリウム液滴への超音波照射による液体ガリウムナノ粒子の形成。
(b)
走査型電子顕微鏡で観察すると、平均35ナノメートルのナノ粒子が形成されていることが分かる。
(c)
透過型電子顕微鏡で観察すると、形成された液体ガリウムナノ粒子の表面に酸素および炭素が存在し、保護剤であるドデカンチオールと液体ガリウムナノ粒子表面の自然酸化膜によりナノ粒子が安定化されていることが分かる。

これらの知見をもとに、1)液体ガリウムナノ粒子を安定化するドデカンチオールの添加量、2)自然酸化膜を除去してナノ粒子の融合を促す塩酸の濃度、3)温度を調節することで、粒子の分裂と融合のバランスを制御した結果、粒子サイズをナノメートル単位で可逆的に制御することに成功しました(図2a、b)。さらに、この液体ガリウムナノ粒子のサイズ変化に伴い、紫外光領域における表面プラズモン共鳴吸収波長が変化することを確認しました(図2c)。

液体ガリウムナノ粒子の可逆的サイズ制御

図2. 液体ガリウムナノ粒子の可逆的サイズ制御

(a)
保護剤および塩酸の添加と温度調節による、超音波照射下における液体ガリウムナノ粒子の融合と分裂の可逆的制御のイメージ図。融合と分裂のバランスが、融合に傾くとより大きな粒子が形成され、分裂に傾くと小さな粒子が形成される。
(b)
液体ガリウムナノ粒子の可逆的なサイズ変化。添加する保護剤および塩酸の量と温度の条件を変えることで、粒子サイズが35ナノメートルと60ナノメートルに繰り返し変化した。
(c)
液体ガリウムナノ粒子のサイズ変化に伴う表面プラズモン共鳴吸収の変化。粒子サイズを変化させることによって吸収する波長を制御できるため、応用先が広がることが期待される。

今後の展開

今回開発した、液体ガリウムナノ粒子のサイズ制御技術により、金、銀など固体金属では困難だった、可逆的でより自由な形態制御が可能となり、用途に応じて光学特性を操るような新しいプラズモニック材料への展開が期待されます。

用語説明

[用語1] 液体金属 : 室温以下あるいは室温付近で液体状態を示す金属のこと。例えば、水銀(融点マイナス38.8℃)、ガリウム(融点29.8℃)がある。

[用語2] ガリウム : 原子番号31の元素。金属の中では、水銀、セシウムに次いで融点が低い。水銀と異なり毒性は低い。ガリウム合金の1つであるガリンスタンは、体温計など水銀の代替材料として使用される。また、ヒ化ガリウムや窒化ガリウム半導体は、発光ダイオードの材料である。

[用語3] 表面プラズモン共鳴吸収 : 金属ナノ粒子に光を当てると、金属内部の自由電子が集団的に揺さぶられるプラズモンと呼ばれる状態が誘起される。この状態は、金属微粒子の表面で見られるため、表面プラズモンと呼ばれる。この表面プラズモンの振動と光の振動が共鳴すると、その光は金属に吸収される。これを表面プラズモン共鳴吸収と呼ぶ。共鳴する波長は、金属の種類や金属ナノ粒子のサイズ、形状、配列に依存する。ステンドグラスは、ガラスにさまざまな金属のナノ粒子を混ぜ、金属ナノ粒子固有の表面プラズモン共鳴吸収により生じる色の違いで赤や緑など鮮やかな色を表現している。

[用語4] プラズモニック材料 : 表面プラズモンなどの金属ナノ構造体と光との相互作用を利用する材料のこと。表面プラズモンを制御して光の伝搬を制御したり、波長よりも小さな空間に光を閉じ込めたりすることが可能となる。また、自然界には存在しえない光学応答を示す人工物質は、メタマテリアルとも呼ばれ注目されている。高感度センサー、ナノレベルの光学素子などへの応用が期待されている。

[用語5] 電場増強効果 : 金属微粒子への光照射によって、金属表面でのみ自由電子が揺さぶられるため、金属微粒子表面では、入射した光電場に対して数十倍の大きさの光電場が誘起される。

[用語6] 乳化、エマルション : 分離している2つの液体をエマルションにすること。エマルションとは、液体に液体が分散している溶液のこと。油と水の場合、水滴が油中に分散した油中水滴型エマルションと油滴が水中に分散した水中油滴型エマルションなどがある。マヨネーズや生クリームもエマルションである。水分と油脂が安定して存在するため、ドレッシングのように時間が経つと分離してしまうことがない。

[用語7] ドデカンチオール : 水素化された硫黄を末端に持つ有機化合物チオールの1つ。無色透明の液体で、有機合成材料やエポキシ樹脂の硬化剤などに使用される。本研究のように、金属ナノ粒子の凝集を防ぎ安定させる保護剤としても利用されている。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Reversible Size Control of Liquid Metal Nanoparticles Under Ultrasonication
(超音波照射下における液体金属ナノ粒子の可逆的サイズ制御)
著者 :
Dr. Akihisa Yamaguchi, Yu Mashima, Prof. Dr. Tomokazu Iyoda
DOI :

問い合わせ先

研究に関すること

ERATO彌田超集積材料プロジェクト 研究総括
東京工業大学 フロンティア研究機構

教授 彌田智一
Email : iyoda.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5277 / Fax : 045-924-5277

ERATO彌田超集積材料プロジェクト 研究員
東京工業大学 フロンティア研究機構

特任助教 山口章久
Email : yamaguchi.a.af@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5277 / Fax : 045-924-5277

JST事業に関すること

科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部 水田寿雄

Email : eratowww@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3528 / Fax : 03-3222-2068

報道担当

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

科学技術振興機構 広報課

Email : jstkoho@jst.go.jp
Tel : 03-5214-8404 / Fax : 03-5214-8432

高大連携サマーチャレンジ2015開催報告

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12年目の夏が来た

東京工業大学では、大学レベルの講義を高校の生徒に体験してもらって「未知の分野への挑戦から何かをつかみとる」というユニークな夏の合宿サマーチャレンジを2004年度以来、1年も欠かさずに継続しています。基礎学力はもちろんのこと、発想力・独創性・グループワーク力こそが未来の科学技術を担う人材に必要と考え、高校生のうちからそうした力を涵養したいと意図してのことです。

進化するサマーチャレンジの歴史にふさわしく、今年は従来の連携先である東工大附属とお茶の水女子大附属に加えて新たに学芸大学附属高校を迎え、また一般参加校も10校へと拡大しました。参加校13校、参加生徒数64名、うち女子生徒28名、いずれも過去最大記録です。多彩なバックグラウンドを有するパワフルな生徒たちが賑やかに集い、嵐山の森に、たくさんの知的冒険と出会いの花が咲きました。そんな熱い3日間をリポートします。

2015実施記録

  • 日時
    2015年8月2日~4日
  • 場所
    埼玉県比企郡嵐山町 国立女性教育会館
  • 参加生徒
    64名
    (東工大附属35名、お茶大付属9名、学芸大附属10名、一般参加校10名)
  • 参加教員
    41名
    (東工大教員23名、引率高校教員12校18名)
  • 事務職員
    9名
  • 114名

チャレンジ1 コラムランド

大学院社会理工学研究科社会工学専攻 山室恭子教授

事前に各自が執筆してきた短い文章を、匿名の状態でディスカッションして評価しあうという、東工大の名物講義をそのまま持ち込んで、初対面のメンバー同士のアイスブレイクとしました。

今年のお題は「花」。ひまわりを咲かせたり蝶々を飛ばしたりと個性が咲きそろったなか、意表を衝いた「小麦粉フラワー」ネタが一等賞でした。自分たちが書いた文章を議論することで、メンバー同士の親しみも湧き、なだらかなテイク・オフをどの班も達成できたようです。

チャレンジ2 Let's 地底旅行 ――地球のおなかはフシギでいっぱい

大学院理工学研究科地球惑星科学専攻 太田健二講師

含水リングウッダイト

含水リングウッダイト

「さあてお立ち会い、ここなる装置でぐぐっと圧力をかけて、常温の氷をつくってみましょう。スクリーンいっぱいに生成される氷。で、この氷、なんと水に沈むんです!」

とんでもなく高圧で高温な地球の内部では、いったいどんなフシギ現象が起きているのか。どろどろのマグマが渦巻いていると思ったら大間違いです。深さ410kmまでの上部マントルは宝石箱、きらきらとグリーンに輝くかんらん石が詰まっています。もっと潜ったマントル遷移層は、さながら貯水湖、石のなかに水がぎゅうっと凝縮されて入っています。海水の何倍になるか、計算してみましょう。

地球のコアを目ざす旅。それは私たちの惑星が、どんな豊かなドラマを内に秘めているかを解き明かす旅でもありました。

チャレンジ3&4 チクタクカチカチ大解剖 ――機械づくりの原点

大学院理工学研究科材料工学専攻 上田光敏准教授

メトロノーム解体中

メトロノーム解体中

初日の夜は恒例の「身近なグッズを3つ分解してみよう」。今年はまずメトロノーム、音楽室の高価な常備品です。潔くバラバラにして、リズムを刻むメカニズムを解明しましょう。「あれ、ぽーんとヘンな部品が飛び出してきたよ」「金属の板のぐるぐる巻き。何これ?」見学の先生たちからは「今の子はゼンマイを知らないのね」の声が漏れます。

2品目は、バードウォッチングの必需品である数取器(かずとりき)です。ケタが繰り上がる仕組みはどうなっているのでしょう。

そして、ラスト1品はマブチモーター株式会社製の小型モーター。これには見学の先生たちのほうが夢中になっていたというのは、ここだけの話です。

チームワークで乗り切った一夜が明けて、翌日の午前は得られた知見をたったの5分でプレゼンテーション。タイムマネジメント力が試されます。チクタクチクタク、1秒のたいせつさを全員が身を以て味わったのでありました。

チャレンジ5 0と1が綾なす世界 ――A code is beautiful

大学院理工学研究科通信情報工学専攻 植松友彦教授

ツリー構造

ツリー構造

カオスな現実をすっきり整理して他者に伝える――それは言葉のたいせつな機能です。その言葉を思いっきりシンプルにすると「0」と「1」という、たった2つのcode(符号)で用が足りてしまうのです。たったの2つ。もちろん、カンマもピリオドも無しです。それでも、とある工夫を施せば、0と1だけの長い長い数列のどこに切れ目があるか、きちんと識別できる仕掛けがつくれるのです。

より速く、より正確に、そしてよりコンパクトに。コンピュータを使って人と人とが意思疎通するために編み出された究極の人為言語には、どんな先人の智恵や苦労が込められているのか、あざやかに説明してもらえて、とても頭の中がすっきりしました。まさかエントロピーさんに、ここでお目にかかれるとは。

チャレンジ6 笑撃の燃料電池 ――情熱に勝る触媒なし

大学院理工学研究科物質科学専攻 山中一郎教授

客席は笑いの渦

客席は笑いの渦

「これ、なあに?」と生徒たち。いきなり黒くて薄く平らなコイン状の物質を手渡されました。教授からは「さあ、班ごとに解答をどうぞ。携帯型ブラックホールとか、ブッ飛んだ答えを考えてね。あ、食べないで~」講義か、はたまた化学漫談か。

ハイテンションでジョークを連発する教授の勢いに圧倒されつつ、電池の仕組み、プラチナの触媒反応から水素と酸素を反応させる燃料電池へと、講義内容は怒濤のように展開します。マスコミの報道では燃料電池は「環境にやさしい」と説明されることが多いですが、この説明は厳密にいうと正しくありません。しかし、燃料電池はエネルギー変換効率の高さなどのすぐれた特性を備えており、ぜひ研究が必要なのです。

猛スピードで駆け抜けて、「そうそう、ブラックホールの正体はナフィオンと白金/炭素の接合体、つまり燃料電池の中枢部だよ」と、最後に種明かしがありました。他のチャレンジと比べて、90分間のうち笑っている時間がいちばん長かったのは確実です。

チャレンジ7 ご家庭でがん検診 ――赤い蛍光が人類を救う

大学院生命理工学研究科 小倉俊一郎准教授

赤く光るがん細胞物質

赤く光るがん細胞物質

「ドラえもんは生物か?」と、いきなり問いが放り込まれます。「どら焼き食べるし、道具使ってるし、生物かな」「でも年とらないし、繁殖もしないよ」

わいわいがやがやと身近な話題から入って、「生物の定義って何?」「細胞が死ぬって、どんな状態を指すの?」「他の班と違う答えを思いついた人は?」とどんどん奥へ進みます。

そして、人類の最大の敵、がん細胞との戦いの現場へ。患者にアミノレブリン酸を投与すると、がん細胞にプロトポルフィリンIXという物質が蓄積され、これに光をあてると赤く光ります。おかげで、手術でがん細胞をきれいに除去することが可能になりました。各テーブルのサンプルで確認してみましょう。

夢はドラッグストアで買えるがん検査キットの開発です、と熱く語る先生の科学者魂に、全員が感動しました。

高校教員の眼

参加いただいた高校教員は18名。全員から評価シートを通して、たくさんの有益な御意見をいただくことができました。一部をご紹介します。

コラムランド

  • 一人一人の感性を出し合い、スタートのチャレンジとして互いにメンバーの人となりを知りあうことのできる活動課題。
  • 講師のFacilitator力はGreat!!!

Let's 地底旅行

  • 常温での氷の話は、原理を理解させるのによいと思いました。さわらせて下さったのも実体験をともなえてうれしいものでした。
  • 地学的事項をテーマに選んだのは、数学や化学の基礎的事項で対応できるという点で新鮮であった。

チクタクカチカチ大解剖

  • 身近にあるものを好きなだけ分解できる。こんなに楽しいものはない。
  • プレゼンテーションが紙とペンであるのは、頭で考えていることを最も適切に示し易く、大切にして行きたい。

0と1が綾なす世界

  • ヒントを与えられると生徒たちから気づきののような音が聞かれることに新鮮さを感じとれた。
  • 「対数」が受験問題的な用法でなく、研究の中で用いられている様子を見せていただけたのがうれしかったです。

笑撃の燃料電池

  • 燃料電池の話がこんな面白くできるんだなと思いました。
  • 高校の内容からだんだん大学の内容へ深く引き込んでいかれて化学の教員として大変参考になりました。

ご家庭でがん検診

  • 医学・薬学以外からの医療へのアプローチを示していただき、進路選択の幅が広がる。
  • 生物を履修していない生徒が多い中で、まずはドラえもんから生と死を考えさせ、最新の研究話題にも触れ、とても面白かった。

全体を通して

  • ポテンシャルのある生徒が生き生きと学んでいけるための期待感に結びつくチャレンジであると思います。
各テーブルで作業中

各テーブルで作業中

全員の夏の想い出

全員の夏の想い出

フィンランド アールト大から13名が精密工学研究所を訪問

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8月21日、フィンランド アールト大学 生産技術クラブ(Aalto University Club of Production Technology)のメンバーが、日本研修旅行の訪問先のひとつとして、本学精密工学研究所を訪問しました。

集合写真
集合写真

手術支援ロボットについて説明する吉木さん

手術支援ロボットについて説明する吉木さん

アールト大学は、2010年にヘルシンキ工科大、ヘルシンキ経済大、ヘルシンキ美術大の3大学が合併してできた新しい大学です。近年教育先進国として常に世界ランキングトップにあげられるフィンランドで、それぞれに歴史と実績のある3大学を1つにまとめ、フィンランド高等教育のイノベーションを目指してできたこの大学は、世界的な注目を集めています。

フィンランドの教育では、学生の自主性や実践性を伸ばすシステムが特に有名ですが、今回の訪問も学生自らの企画・発案で実施されているとのことだったので、本学での受け入れ対応も、博士課程学生を中心に学生のみで準備を進めました。

藤原さんによる研究内容のプレゼンテーション

藤原さんによる研究内容のプレゼンテーション

アールト大学の学生リーダー トミ・ヌルミさんを始めとする、教授、大学院生、学部生総勢13名は、約3週間かけてトヨタ、ファナックなど日本企業や大学研究室等、さらに中国に移動して現地企業も巡りました。そのような精力的なスケジュールのため、本学への訪問は時間的には短いものとなってしまいましたが、得難い国際交流体験の場をもつことができました。

精研実験室レーザー加工機関連研究の説明

精研実験室レーザー加工機関連研究の説明

津野田さんによるロータ研究の説明

津野田さんによるロータ研究の説明

本学からは、大学院総合理工学研究科メカノマイクロ工学専攻の以下の学生が参加しました。

アールト大学から届いた見学証明書

アールト大学から届いた見学証明書

  • 只野・香川研
    博士1年 吉木均さん、周 東博さん

  • 佐藤海二研
    博士1年 浜維志さん

  • 吉田・金研
    博士2年 三好智也さん

  • 進士研
    博士2年 藤原良元さん
    修士2年 鈴森雄基さん、津野田亘さん、冨岡洸太さん
    修士1年 田中駿也さん、吉田博貴さん

学生の感想を以下にいくつか紹介します。

只野・香川研 博士1年 吉木均さん

工学・経済・芸術の学生間でのイノベーションを狙うアールト大の取り組みは、医工連携を進める私たちの研究に近いものがあり、異分野連携に関する意見交換ができて大変有意義でした。また、本訪問は50年来の歴史ある学生団体による学生主導のプロジェクトであり、日本だけでなく、米国、中国、欧州も訪問する地球一周学習旅行であることや、資金は学生自身が拠出していることなど、その主体性と学習意欲には大変感銘と刺激を受けました。

進士研 博士2年 藤原良元さん

アールト大学は旧ヘルシンキ工科大学ということもあり、設備や教育が非常に充実していることに加え、女子学生が少なく募集に力を入れていることまで本学と似ており、とても親近感がわきました。逆に、飛行機やホテルの予約だけでなく、訪問先のアポ取りまで全てを学生だけで行う彼らの積極性は、見習わなければいけないと感じました。

進士研 修士2年 冨岡洸太さん

今回の旅行の全てを学生が主体となり企画し、実行したということを聞き、その行動力と向上心の高さに驚かされ、刺激を受けました。このような積極で学習意欲の高い学生達と意見交換できる場に参加できたことを、非常にうれしく思います。

お問い合わせ先

精密工学研究所 教授 進士忠彦
Email : shinshi@pi.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5095

役員会トピックス:教育研究組織改革の全体的な方針を取りまとめ

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役員会は、東工大における最高意思決定機関です。東工大では毎月2回役員会を開催し、大学の組織、教育、研究などについて、審議し決定しています。

9月4日の会議で承認された、意欲的で新しい取り組みについて、紹介します。

教育研究組織改革の全体的な方針を取りまとめ

東工大は、「2030年を目処に世界のトップ10に入るリサーチユニバーシティに位置する」という大目標に基づき、学長のリーダーシップの下、大学の総力を結集して世界のトップスクールに比肩しうる教育研究体制を構築することとしています。この実現に向け、2016年4月に実施する教育研究組織の改革についての全体的な方針を取りまとめました。改革開始後も、絶えず教育研究内容を見直すことが可能な組織を構築することを基本としています。

インド工科大学マドラス校と全学レベルの交流開始

インド工科大学は、教育水準や研究水準の高さが国際的にも認められ、インド国内で最高の評価を受けている国立の高等教育機関です。このたび、同大学16校のうち4番目(1959年)に創設されたマドラス校と、全学レベルの学術交流協定及び学生交流協定を結ぶことになりました。インドの大学としては唯一の全学協定校となります。

これまで、学術国際情報センターと同校バイオテクノロジー専攻が2011年に部局間協定を締結した他、資源化学研究所や情報生命博士教育院においても各種交流を進めてきました。また、インド工科大学マドラス校は昨年、本学も加盟するAOTULE(Asia Oceania Top University League)の加盟校となりました。全学協定締結に伴い、今後さらに交流が拡大することが見込まれています。

なお、これにより本学の全学協定の件数は98となりました。協定に基づく交流プログラムの拡充等による海外機関との連携が加速することで、東工大の国際化の促進が期待されます。

日立製作所との共同研究部門を設置

再生可能エネルギーを含む複数エネルギーの統合制御に関する研究として、日立製作所からの共同研究の申込を受け、2016年10月から本学ソリューション研究機構先進エネルギーセンターに「日立/エネルギー統合制御システム共同研究部門」を設置します。この共同研究部門は、国内外の地区向けスマートエネルギー事業提案強化を目的とし、電力・熱・ガスエネルギー及び水の統合制御システムのシミュレータ開発等の研究を行う予定です。

その他の主な審議事項

  • 平成28年4月に実施する大学運営組織の改革について

  • 助教の職務の見直し及び大学院調整額の支給基準の見直しについて

微細藻類にオイルをつくらせるスイッチタンパク質を発見―バイオ燃料生産実現に向けた基盤技術として期待―

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要点

  • TORタンパク質が微細藻類のオイル生合成をON/OFFすることを発見
  • TORタンパク質活性を抑制しオイル生合成の簡便な誘導に成功
  • 微細藻類を用いたオイル生産実現に向けた基盤技術となる

概要

東京工業大学資源化学研究所の今村壮輔准教授と田中寛教授らの研究グループは、ラパマイシン[用語1]の標的(TOR=target of rapamycin[用語2])タンパク質が、微細藻類におけるオイル生合成のON/OFFを決定付ける因子であることを発見した。藻類は一般に、培養液中の栄養量を減少させると、オイルを合成・蓄積する。そこで、窒素などの栄養源を感知するTORタンパク質に着目、オイル生合成との関わりを研究した。その結果、栄養源が豊富な条件においても、TOR の活性を人為的に阻害すると、オイルの生合成が引き起こされることを突き止めた。

この発見は、微細藻類におけるオイル生合成の中枢調節機構を明らかにしたといえ、微細藻類全般に当てはまると考えられる。またTOR 活性阻害によってオイルを蓄積させる方法は、培養液から栄養源を取り除く従来法に比べて簡便であり、微細藻類を用いたバイオ燃料生産実用化の基盤技術になると期待される。

成果は9月8日、オランダの分子生物科学誌「プラント・モレキュラー・バイオロジー(Plant Molecular Biology)」オンライン版に掲載される。

背景

持続可能なエネルギー生産は、地球温暖化対策や化石燃料の枯渇などの理由により、急務となっている。中でも、微細藻類を用いたオイル生産が近年注目を集めている。その理由は単位面積あたりのバイオマス生産性が高い、食糧と競合しない、などが挙げられる。しかし、微細藻類を用いた商業的なオイル生産のためには、高い生産性を有する藻類の育種が必須であるが、オイルの生合成を調節する基本的な仕組みは不明な点が多く、藻類育種の障害となっていた。

研究の経緯

微細藻類は一般に、培養液中の窒素などの栄養源の枯渇条件でオイルを合成する。今村准教授らの研究グループは、窒素などの栄養源を感知するタンパク質に着目した。仮に栄養源を感知するタンパク質がオイルの生合成に関与しているならば、その活性を人為的に操ることにより、オイル生合成を任意のタイミングで誘導できるのではないかと考えたからだ。

そのタンパク質候補として選んだのが、TORである。TORは酵母やヒトにおいて、窒素を含む種々の栄養量の感知とその応答に中心的な働きをしていることが知られているタンパク質リン酸化酵素である。そのため、藻類でも同様な機能を有し、オイル生合成に関わっていのではないかと考えた。

研究成果

同研究グループはまず、TORの活性をラパマイシンにより阻害した条件をつくり、窒素が欠乏した条件と比べ、同様の応答が引き起こされるかについて解析した。その結果、培養液中に窒素源が豊富に存在しているにも拘らず、ラパマイシンを培養液に添加すると、窒素欠乏時に検出される遺伝子の発現が観察された。

このことより、TORを不活性化することによって、栄養源が豊富な培養条件においても、オイル生合成が誘導される可能性が考えられた。その可能性を検証する実験を行った結果、ラパマイシン添加によるTORの不活性化により、オイルの蓄積が誘導されることが明らかになった(図1)。

TOR阻害によるオイル蓄積の誘導

図1. TOR阻害によるオイル蓄積の誘導

上段は明視野、下段は中性脂質を特異的に認識する色素で染色した画像。矢印で示した緑色のドット上のシグナルが藻類内で蓄積した中性脂質。赤色は葉緑体の自家蛍光。バーは2μmを示す。

オイルの中でも、バイオディーゼルの原料となるトリアシルグリセロールは、ラパマイシン非添加条件に比べて約9倍に上昇した。この様にTORの活性をラパマイシンにより人為的に阻害することにより、藻類オイルの生合成を任意のタイミングで誘導することに成功した。

栄養が充足した条件でTORは、細胞増殖を促進する中心的な機能を担っていることが知られている。従って、TORは栄養源の有無により、細胞増殖を促進するのか、オイル生合成を誘導するのかを切り替える"スイッチタンパク質"であることが考えられる(図2)。

TOR阻害によるオイル蓄積の誘導

図2. TORによるオイル生合成のON/OFF

ラパマイシン非存在下(栄養源が豊富な条件)では、TORはオイルの生合成に対して抑制的に、細胞増殖に対しては促進的に作用している。しかし、ラパマイシンによりTORの活性が阻害されると、オイル生合成への抑制が解除され、オイルの生合成が誘導されると考えられる。

この発見は微細藻類におけるオイル生合成の中枢調節機構を明らかにしたといえる。さらに、このTORの不活性化によるオイル蓄積が、単細胞紅藻シゾン[用語3]と単細胞緑藻クラミドモナス[用語4]においても観察されたことから、真核藻類一般で引き起こされる現象であると考えられる。

今後の展開

TORの活性をラパマイシンにより人為的に阻害し、オイルを蓄積させる方法は、細胞培養液に化合物を添加するだけである。従来行われてきた、培養液から栄養源を除く方法に比べて非常に簡便だ。しかし、TOR の活性阻害はオイル蓄積のみならず細胞の増殖阻害も引き起こすため(図2)、バイオマス生産性という観点からは解決すべき課題である。

今後は、TORを介したオイル生合成のさらに詳しい分子機構を明らかにし、それらの情報を基にして、細胞増殖とオイル生産を両立させた藻類株の育種を試みる。このように、今回の成果は、藻類を用いたオイル生産実現に向けた基盤技術となることが期待される。

用語説明

[用語1] ラパマイシン : TORに結合してTORの活性を特異的に阻害する化合物。医療現場では、免疫抑制剤として用いられている。

[用語2] TOR(target of rapamycin) : 真核生物に広く保存されたタンパク質リン酸化酵素。アミノ酸やグルコースなどの栄養源により活性が制御されている。標的分子のリン酸化を通してタンパク質合成を調節し、細胞の成長(大きさ)を制御している。

[用語3] シゾン : 学名はCyanidioschyzon merolae(通称シゾン)。イタリアの温泉で見つかった単細胞性の紅藻(海苔の仲間)。真核生物として初めて100%の核ゲノムが決定されるなど、モデル藻類、モデル光合成真核生物として用いられている。

[用語4] クラミドモナス : 和名はコナミドリムシ。淡水や土壌に生息する単細胞性の緑藻。ゲノム解析が進みモデル藻類として用いられている。

共同研究グループ

今回「Plant Molecular Biology」誌に掲載された内容は、東京工業大学大学院生命理工学研究科太田啓之教授、下嶋美恵准教授、国立遺伝学研究所宮城島進也特任准教授のグループとの共同研究の成果である。

研究サポート

この研究は、JST・CREST「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」と科学研究費補助金の支援を受けて実施した。

論文情報

掲載誌 :
Plant Molecular Biology
論文タイトル :
Target of rapamycin (TOR) plays a critical role in triacylglycerol accumulation in microalgae
著者 :
Sousuke Imamura, Yasuko Kawase, Ikki Kobayashi, Toshiyuki Sone, Atsuko Era, Shin-ya Miyagishima, Mie Shimojima, Hiroyuki Ohta, Kan Tanaka
DOI :

問い合わせ先

資源化学研究所 准教授 今村壮輔

Email : simamura@res.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5859

資源化学研究所 教授 田中寛

Email : kntanaka@res.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5274

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

大学の世界展開力強化事業サマープログラム2015閉講式報告

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8月21日、東工大レクチャーシアターで、大学の世界展開力強化事業によるサマープログラム2015の閉講式が行われました。

大学の世界展開力強化事業参加学生、教員、スタッフの集合写真
大学の世界展開力強化事業参加学生、教員、スタッフの集合写真

大学の世界展開力強化事業は、2011年に文部科学省が開始したプログラムで、国際的に活躍できるグローバル人材の育成と大学教育のグローバル展開力の強化を目指しています。本学からは、TKT CAMPUS Asia(日中韓先進科学技術大学教育環)とTiROP(グローバル理工系リーダー養成協働ネットワーク)の2件が採択されています。

プレゼンテーションを行うKAIST キムさん

プレゼンテーションを行うKAIST キムさん

今年のサマープログラムには、TKT CAMPUS Asiaによる中国・清華大学、韓国・KAISTからの9名と、TiROPによる欧米等の先導理工系17大学からの19名、計28名が参加しました。そして、受入指導教員のもと、チューターや研究室の学生達と共に母国とは異なる環境で研究にいそしみ、サマースクールでの様々な授業に参加しました。

同時に、日本が誇る先端企業の見学や、英語による落語、バスツアーといったイベントを通じて、日本への理解を深めました。さらに、チューターをはじめとする東工大生や、プログラムに参加する他の留学生達と交流しました。

閉講式では、最初に、留学生の研究成果の発表があり、セッションごとにチューターの東工大生が司会を務める中、それぞれが7分間のプレゼンテーションを行いました。続く質疑応答では、他の留学生らから活発な質問がありました。また、研究室の学生達の多くも発表を見に会場を訪れ、活気に包まれました。

プレゼンテーションを行うKAIST カクさん

プレゼンテーションを行うKAIST カクさん

プレゼンテーションを行うカリフォルニア工科大学 クマールさん

プレゼンテーションを行うカリフォルニア工科大学 クマールさん

プレゼンテーションを行うカリフォルニア大学バークレー校 ロシェさん

プレゼンテーションを行うカリフォルニア大学バークレー校
ロシェさん

発表について質問・コメントを行う様子

発表について質問・コメントを行う様子

発表を聞く学生たち
発表を聞く学生たち

最後に、TiROP構想責任者である岸本喜久雄教授から、留学生に対し参加証の授与が行われ、丸山俊夫理事・副学長からは、サマープログラム修了への祝辞が送られました。

参加証授与される清華大学 チェンさん

参加証授与される清華大学 チェンさん

参加証授与されるウィスコンシン大学マディソン校 マチーさん

参加証授与されるウィスコンシン大学マディソン校 マチーさん

お問い合わせ先

留学生交流課事業推進グループ
Email : ryu.jig@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2984

日本留学アワーズ「留学生に勧めたい進学先」国公立大学部門(東日本)を受賞

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東京工業大学が、日本留学アワーズ「日本語学校の教職員が選ぶ留学生に勧めたい進学先」の2015年国公立大学部門(東日本)トップ校に選ばれました。

表彰式の様子
表彰式の様子

受賞理由

  • 理工系最高峰の名にふさわしい設備と教育内容は、学生を成長させてくれていると感じる。
  • 教授が学生をよく把握しており、留学生にもきめ細かく指導してくれる。
日本留学アワーズ

「日本留学アワーズ」は、一般財団法人日本語教育振興協会「日本語学校教育研究大会」が主催しています。2012年8月に開催された同大会において、自校の留学生に勧めたい進学先アンケートが実施され、その結果発表として開催された授賞式が、この賞の始まりです。

国公立大学部門賞

以来、毎年調査と投票を実施し、夏の「日本語学校教育研究大会」において表彰式を行っています。日本全国にある400校以上の日本語学校に呼びかけ、各校で直接学生の進学サポートを行っている教職員にWebによる投票を実施し、その結果から、大学・専門学校それぞれ上位校を選出し、さらに表彰式の場でトップ校を発表し表彰しています。評価基準については、日本語教育だけではなく教育一般・研究施設・環境等、幅広く項目が設定されています。

集合写真
集合写真

お問い合わせ先

野原佳代子
Email : knohara@ryu.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3521


光で働く細胞内のカゴ状スイッチ―炎症抑制効果をもつたんぱく質の活性化とCOの関係を解明―

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要点

  • 光の照射により一酸化炭素ガスを出す細胞内システムを開発
  • 分子カゴから放出された一酸化炭素により、炎症抑制分子の活性化機構を解明
  • 分子カゴをスイッチとする新しい細胞研究手法を確立

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の上野隆史教授と藤田健太大学院生らは、合成した分子のカゴをスイッチとした細胞内一酸化炭素(CO)放出システムの開発に成功した。具体的には、フェリチン[用語1]と呼ばれるカゴ状のたんぱく質の中に、COが結合した金属を閉じ込め、光を当てることによって、COがカゴから抜け出す仕組みを作り出した。

この手法を用いることにより、細胞内でCOを出すタイミングや量を自在に調節することが可能となった。また炎症抑制効果をもつたんぱく質NF-κB[用語2]の活性化とCOの関係を明らかにした。

今回の成果は、内閣府の最先端・次世代研究開発支援プログラムの支援によるもので、化学分野において最も権威のある学術誌の一つである「Angewandte Chemie International Edition(ドイツ化学会誌)」のオンライン版で9月2日にHot Paperとして公開された。

研究背景

ヒトのからだは、体内に存在する様々なガス分子が伝達する信号によって保護されている。1998年に一酸化窒素ガスによる信号伝達機構についての研究がノーベル賞を受賞して以来、多くの研究者が、生体内でガス分子を扱う技術の開発に尽力している。

ガス分子の中でも特に一酸化炭素(CO)ガスは、生体内での取り扱いが難しい分子だったが、近年、金属カルボニル錯体と呼ばれる金属にCOが結合した分子からのCO放出反応を利用して、生体内へCOを輸送することが可能となり、COが抗炎症作用や細胞増殖などの細胞を保護する機能を持つことが徐々に明らかにされている。しかし実際には、COの放出のタイミングや量を人工的にコントロールすることが困難であったため、COが細胞内で伝達する信号を詳細に理解するには至っていなかった。

研究内容

上野教授らは、光を当てたときにのみCOを放出させる性質を持つマンガンカルボニル錯体[用語3](図1a)の細胞内輸送に着目し、COの放出のタイミングや量をコントロールすることを目指した。カルボニル錯体は毒性や細胞内環境での不安定性が問題点とされるが、同教授らはこれまでに8ナノメートル(nm)の内部空間をもつカゴ状たんぱく質フェリチン(図1b)への内包によって改善されることを見出している。今回の研究においても、マンガンカルボニル錯体をフェリチンのカゴの中に集積させた複合体(図1c)で細胞内へ輸送することにした。

マンガンカルボニル錯体の化学構造(a)、フェリチンのX線結晶構造(b)及びマンガンカルボニル錯体が集積したフェリチンのX線結晶構造(c)。
図1.
マンガンカルボニル錯体の化学構造(a)、フェリチンのX線結晶構造(b)及びマンガンカルボニル錯体が集積したフェリチンのX線結晶構造(c)。

(1)光照射による複合体からのCO放出

合成した複合体に光を照射し、CO放出実験を行ったところ、光刺激によって望んだタイミングでCOを放出できること、その放出量を光の照射時間によって変化させることができることが分かった(図2)。つまり、複合体は、光に応答するCO放出スイッチとしての機能を有しており、COの放出のタイミングや量を人工的に制御できる性質を持つことが明らかになった。

光照射時間に対するCO放出量の変化

図2. 光照射時間に対するCO放出量の変化

(2)COのNF-κBへの作用

NF-κBの活性化因子であるTNF-αと呼ばれる分子を添加したヒト胎児腎臓細胞(HEK293細胞)へ複合体を導入し、光を当てることによって、細胞内でのCO放出を誘導した。結果として、NF-κBを効率的に活性化させるには、1. 光照射によってCOが放出され、その信号が伝達された後に、2. NF-κBの活性化因子であるTNF-αの刺激が加えられることが重要であると分かった(図3)。

さらに、より多くのCOが放出されることもNF-κB活性化の向上に寄与していることを見出した。以上のCOの効果は、細胞内でCO放出スイッチとして機能する、今回合成したマンガンカルボニル錯体とフェリチンとの複合分子を用いることによってはじめて明らかにされた。

細胞内放出COによるNF-κB活性化機構

図3. 細胞内放出COによるNF-κB活性化機構

今後の展開

今回の研究では、COがTNF-αとNF-κBが関与する経路に着目したが、細胞内にはさらに様々な信号伝達経路が存在しており、今回、作製したスイッチを作動させるタイミングを調節することで、今後より詳細にCOの作用機構についての解明が進められていくと期待される。さらに、カゴ状たんぱく質を用いた細胞内で機能するスイッチの設計指針は、将来的にガスの放出以外の様々な化学反応を細胞内で進行させるために適用可能であると考えられる。

用語説明

[用語1] フェリチン : 24個の単量体から構成される外径8 nmのカゴ状のたんぱく質であり、天然では、そのカゴの内部に細胞内の鉄を貯蔵する役割を果たしている。近年、フェリチンのカゴを用いて、鉄以外の天然に存在しない金属化合物を集積させ、化学反応に利用する研究が進められている。

[用語2] 核転写因子NF-κB(エヌエフカッパービー) : 細胞内の核に存在する転写因子の一種。核内のDNAに結合することによって、標的となるたんぱく質の産生をコントロールする機能を有する。具体的には、抗炎症や抗アポトーシスなど、細胞を保護する役割をもつたんぱく質を標的としている。

[用語3] マンガンカルボニル錯体 : 一酸化炭素が結合した遷移金属錯体の一種。本研究で利用したマンガン型の錯体は光刺激によって一酸化炭素を放出するが、他の金属をもつ錯体では、光に対して安定なものも存在する。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
A Photoactive Carbon-Monoxide-Releasing Protein Cage for Dose-Regulated Delivery in Living Cells
著者 :
Kenta Fujita, Dr. Yuya Tanaka, Dr. Satoshi Abe and Prof. Dr. Takafumi Ueno
DOI :

問い合わせ先

大学院生命理工学研究科生体分子機能工学専攻

教授 上野隆史
Email : tueno@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5844 / Fax : 045-924-5806

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校学長が東工大を訪問

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8月26日、カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校(UCSB)のヘンリー・T・ヤン学長が東工大を訪問しました。同学長の今回の来訪の目的は、同日から28日まで開催された「東工大-UCSB合同シンポジウム」に出席するためのもので、同シンポジウムは2014年4月の全学協定締結後、初めて開催された合同イベントでした。

(左から)佐藤副学長、ヤン学長夫人、ヤン学長、三島学長、チェン副学長補佐、関口副学長
(左から)佐藤副学長、ヤン学長夫人、ヤン学長、三島学長、チェン副学長補佐、関口副学長

アメリカ合衆国ロサンゼルスの北西約160キロに立地するUCSBのキャンパスには、約23,000人の学生(そのうち、70%が学部生)と約1,060人の教員が在籍しています。UCSBは、その先駆的な研究と卓越した教育プログラムで、世界的に高く評価されています。2013年には三島良直学長が同キャンパスを訪れ、ヤン学長と面談しました。

合同シンポジウムに先駆けて行われた、三島学長との懇談には、UCSBからはヤン学長夫妻とティム・チェン研究担当副学長補佐、本学からは関口秀俊副学長(国際連携担当)、佐藤勲副学長(国際企画担当)等が出席しました。

懇談では、三島学長が、東工大が取り組んでいる「教育改革」や世界トップレベルの研究大学との連携強化を目指す「スーパーグローバル大学創成支援事業」の概要説明を行い、今後の教育・研究交流について意見交換をしました。両学長は今回の合同シンポジウムが両学の研究者及び学生の交流促進のきっかけとなることを期待し、共同研究を推進するために今後も協力することを確認しました。

懇談後、一行はキャンパス内の附属図書館outer東工大レクチャーシアター、さらに地球生命研究所(ELSI)outerの新棟を訪れました。

東工大レクチャーシアターを訪問
地球生命研究所を訪問

東工大レクチャーシアター、地球生命研究所を訪問

キャンパス・アジア サマープログラム2015アカデミック・ツアー実施報告

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キャンパス・アジア サマープログラム参加学生が、アカデミック・ツアーとして、8月3日から8月10日までの間、3日間に渡り計4か所を訪問しました。

  • 8月3日:
    理化学研究所 和光事業所
  • 8月4日:
    ソニースクエア
  • 8月10日:
    首都圏外郭放水路 及び 宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センター

キャンパス・アジアとは、韓国科学技術院(KAIST)(韓国)、清華大学(中国)と協力し、文部科学省「大学の世界展開力強化事業」の支援を得て運営されている、交換留学プログラムです。

今年のアカデミック・ツアーには、キャンパス・アジアの留学生だけでなく、彼らのチューターである東工大生や、過去にキャンパス・アジアでKAISTや清華大学に留学した東工大生、そしてTiROPAOTULEouter清華大大学院合同プログラム等、他プログラムによる留学生も参加しました。

理化学研究所 和光事業所

東工大よりバスで約1時間30分で到着。まずは理研についての概要説明を受け、その後、仁科加速器研究センター及びナノサイエンス棟を見学しました。また、中村特別研究室の中村振一郎氏にも研究内容の説明をしていただきました。

概要説明を聞く学生たち

概要説明を聞く学生たち

超伝導リングサイクロトロン「SRC」の見学

超伝導リングサイクロトロン「SRC」の見学

ソニースクエア

ソニースクエアはVIP専用の展示スペースで、写真撮影は一切できません。参加した学生たちは皆、常に「新しさ、便利さ、愉快さ」を提供する数々の製品に熱心に見入っていました。世界におけるSONYブランドの知名度の高さを感じる光景でした。

SONY本社前にて
SONY本社前にて

首都圏外郭放水路

朝7:30の待ち合わせにもかかわらず、29名の学生が参加しました。首都圏外郭放水路は、埼玉県の東部に建設された、世界最大級の地下河川です。「地下神殿」と呼ばれる巨大な調圧水槽を見学しました。

まずは放水路の仕組みを理解

まずは放水路の仕組みを理解

「地下神殿」にて

「地下神殿」にて

宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センター

まず、様々な人工衛星の試験モデルや、国際宇宙ステーションと「きぼう」日本実験棟の船内実験室が展示されている「スペースドーム」を訪問しました。その後、「きぼう」の運用が24時間体制で行われている管制室を見学しました。

「きぼう」日本実験棟

「きぼう」日本実験棟

H-II ロケットの実機の前で

H-II ロケットの実機の前で

キャンパス・アジアのサマープログラムで毎年実施されているアカデミック・ツアーは、企業及び研究機関への見学自体が貴重な体験となるだけでなく、様々な留学プログラムで来ている世界各国からの学生や東工大生と交流できることも魅力のひとつとなっています。

お問い合わせ先

東京工業大学国際部留学生交流課
「大学の世界展開力強化事業」キャンパス・アジア事務局
Email : campusasia@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2984

英文ニュースレター Bulletin No. 39 配信

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Tokyo Institute of Technology Bulletinは3か月に一度本学が配信している英文ニュースレターです。 東京工業大学の研究成果やニュース記事、学生の活動などを国内外へ広くメールで配信をしております。

この度、Tokyo Institute of Technology Bulletin No. 39 が発行されました。

メールでの配信をご希望の方は申込フォームからご登録ください。

※Tokyo Institute of Technology Bulletinは英語で配信を行っていますがコンテンツは全て日英両方でご覧頂けます。

Tokyo Institute of Technology  Bulletin | Research and education at Japan's foremost university dedicated to science and technology

Self-assembled aromatic molecular stacks, towards modular molecular electronic components

Topics

Self-assembled aromatic molecular stacks, towards modular molecular electronic components

FEATURE

RECENT RESEARCH

News

Through Students' Eyes

Tokyo Institute of Technology Bulletin No.39

立川志の春英語落語会2015開催報告

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連日35度を越える猛暑日が続いた8月5日、今年も立川志の春さんによる英語落語会が開催されました。

たくさんの参加者
たくさんの参加者

この落語会は、大学の世界展開力強化事業サマープログラムの一環として2012年にスタートしたものです。4回目ともなると「常連さん」としてこの会を楽しみにしてくださる方もいらっしゃいます。その一方で、上記のサマープログラムに参加している各国からの留学生は、日本に来ることが初めてで、RAKUGOという言葉そのものを聞いたことがない人が大半です。志の春さんご自身も、落語初心者から落語がお好きな方々まで満足していただくことには常に気を配っているそうです。ましてや英語でやる落語となると...

銘酒を飲む

銘酒を飲む

さて、多彩な魅力をもつ落語ですが、今年度は「想像の芸としての落語」が強調されました。

例年通り、落語の成立や演技の基本などについて触れた後、今年は「寿限無」からスタートしました。あまりにポピュラーな噺でありますが、英語で聴くとまた一味違った新鮮な面白さが溢れています。落語がまったく初めての留学生たちも、何度も繰り返される Jugemu に笑い出してしまいます。次の噺は「ちりとてちん」。志の春さんのバージョンでは、素直な男が素晴らしいごちそうに大感激して、ひとつひとつ丁寧に平らげるシーンがたっぷり描かれます。次に、知ったかぶりで皮肉屋の男が登場して台湾からの珍品「ちりとてちん」を口にすると、素直な男との描写のコントラストが際立ちます。みな想像の中のごちそうにうっとりし、想像の中のちりとてちんの味に悶絶し、のけぞって大笑いしました。

ここまでは古典を2作でしたが、最後の一席として志の春さんのオリジナル新作落語「だいじなもの」を演じてくださいました。これは、アメリカに出発前のちいさい孫息子に、格言に見せかけた愉快なホラを吹き込むおじいさんを中心とした人情噺です。おじいさんのホラに思う存分笑った後、最後に意外な展開が待っていました。噺が終わった後、涙ぐむお客さんもいるほど会場は深い感動に包まれました。

爆笑する会場
爆笑する会場

締めくくりは会場と志の春さんの間のQ&Aタイムです。毎年とくに留学生からユニークな質問が寄せられ、これに志の春さんが鮮やかに答えていくというコーナーになっています。今回は、「落語には今日演じた以外の形式はないのか」という質問がありました。志の春さんはすかさず「あります!」と答え、人の言葉が理解できる猿の小噺を披露してくださいました。猿が人の質問に表情と身振りそぶりでテンポ良く答えていくさまに、会場は爆笑しました。今年は「想像の芸としての落語」にフォーカスしていたせいか、「日本語の微妙な表現やニュアンスを翻訳することをめぐる問題」について、興味と質問が集まっていました。このような芸をどのように身に付けるか、という「落語の修業」についても関心が寄せられました。

最後に、実際に会場に来た参加者の感想を紹介します。

  • 正直に言うと参加する前は、時代や文化背景が異なる自分たちが、この種の日本の伝統的なパフォーマンスを魅力的に感じるとは期待していませんでした。しかし実際には、落語と一種の恋に落ちたと言っても過言ではありません。志の春さんが言っていたように、落語の人気の理由は、落語が庶民の共通の生活に触れているからかもしれません。落語の物語は、すべての年齢や国籍の人が共有でき、観客に笑いと暖かさをもたらしてくれます。そういった意味で、落語は私にとってお茶のようなものです。アルコールのように強く、ソーダのようにシャープではありませんが、長く素敵な後味を楽しむことができます。(中国/清華大学 ヤンズさん)

  • 私は「落語」という単語も今日初めて聞きました。でもこれが最初で最後にはならないはずだと確信しています!今回の落語会は私にとって非常に豊かな経験となりました。私は自身でも、劇場で即興劇を行っています。志の春さんがひとりで、複数の登場人物を演じ分け、時間や空間をジャンプする様は、ただただ素晴らしかったです。英語で演じる落語を見られるなんて、とてもユニークな機会です。強くお勧めします、終了後も、落語に含まれていたジョークを思い出し、たくさん笑ってしまうことでしょう!(スウェーデン/シャルマーズ工科大学 エレーナさん)

  • 落語のパフォーマンスは、すべての文化が同じように笑い、同じように学ぶことができると教えてくれました。日本と西洋の文化の類似性が強調されました。私は、志の春さんのパフォーマンスの質の高さと、聴衆に合わせる能力に感銘を受けました。彼の普段からの努力や勉強の賜物であることは明らかです。私は特に猿についての話が気に入りました!ぜひ皆さん、落語とうい日本文化を経験してみてください。(アメリカ/カーネギーメロン大学 ブラッドさん)

  • 有名な上方落語「ちりとてちん」も改めて英語で聴くと新鮮に感じられました。また、子弟制度や、どの演目も伝承だけで台本がないことなど、落語界のしきたりに会場の留学生達がとても驚いているのが印象的でした。来年もぜひまた観たいです。(本学職員)

  • 落語は生で聞いたのは初めてです。なぜ、一人語りの落語が芸になるのかとてもよくわかりました。コミュニケーション、イマジネーションという言葉を久しぶりに実感しました。複数の人間を演じ、どうコミュニケーションをとるのかが、表情もふくめ、とてもよくわかる芸でした。そして演じる者と観る者 のコミュニケーションもとても身近でした。イマジネーションという意味では、お酒を飲む、肴を食べるなどの仕草は本当にうまい!私も一緒に飲食したくなりました。最後に修行についての話しは印象的でした。違う世界で自分の生き方を見つけていく方法は賛否あるかもしれませんが、智恵の一つのあり方を示していると考えさせられました。(本学職員)

お問い合わせ先

西野可奈
Email : nishino.k.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3785

大隅良典栄誉教授が第20回慶應医学賞を受賞

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東京工業大学フロンティア研究機構 大隅良典栄誉教授が第20回慶應医学賞を受賞しました。

慶應医学賞は世界の医学・生命科学の領域において、医学を中心とした諸科学の発展に寄与する顕著、かつ創造的な研究業績をあげた研究者を顕彰するものです。1996年から研究者を顕彰し、過去には、本賞受賞者からノーベル賞受賞者を6名輩出しています。

大隅良典栄誉教授
大隅良典栄誉教授

授賞研究テーマ

オートファジーの分子機構の解明

授賞理由

生命を維持するためには細胞内のタンパク質を適切に分解・処理するシステムが必須です。大隅良典教授は、細胞が自分自身のタンパク質等の細胞成分を分解し再利用する「オートファジー現象」を出芽酵母の遺伝学的手法を用いて解析し、世界に先駆けてオートファジーに不可欠な遺伝子群を同定し、それらの機能と生物学的意義について明らかにされました。APGと名付けて報告されたこれらの遺伝子群は現在ATGと呼ばれていますが、この発見によってオートファジーの具体的な分子機構が明確になりました。そして、大隅教授の発見を発端として、これらの出芽酵母のATGに相当する遺伝子が哺乳動物細胞にも存在し、オートファジーは高等動物においても発生・恒常性維持に必須の役割を果たしていることが解明されました。更に、オートファジー機構の異常は、神経変性疾患や悪性腫瘍の病態や進展においても重要な機能を果たしていることが見出されました。

このように大隅教授の先駆的な研究から、オートファジーを基軸とする生命科学研究という新しい分野が創出され、教授自身も継続的に分野を牽引する研究成果を上げておられます。以上のような大隅教授の独創的な研究内容と、他の追随を許さない業績は、慶應医学賞に相応しいものです。

大隅良典栄誉教授のコメント

この度、慶應医学賞を受賞することになり、身に余る光栄の至りに存じます。ご推薦頂いた先生方、選考委員、慶應義塾医学振興基金の方々に深く御礼申し上げます。私はこの27年間、酵母を用いて細胞内の分解系の一つであるオートファジーの分子機構と生理的役割の解明を目指して研究を進めて参りました。近年オートファジーが様々な生命機能に関わっていることや、病態との関係も注目を集め、目覚ましい展開をしています。我々の研究がそのきっかけとなったとすれば、研究者としてこの上もなく嬉しく思います。これまでの研究が、素晴らしい共同研究者達に恵まれたことと、彼らのたゆまぬ努力の賜物であることに心から感謝の意を表します。

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

インスパイアリング・レクチャー・シリーズ2 「情報通信と社会」開催報告

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東京工業大学は、大学で行われている最先端研究のダイナミズムを紹介する講演会シリーズ 「インスパイアリング・レクチャー・シリーズ」を開催しています。そのシリーズの第2回が6月12日、大岡山キャンパス東工大蔵前会館くらまえホールにて行われました。

講演会場の様子
講演会場の様子

挨拶をする三島学長

挨拶をする三島学長

第2回のテーマは、「情報通信と社会—IT社会のための革新的光通信—」です。光通信の世界的研究者として知られる末松安晴・東京工業大学栄誉教授(元学長)を中心に、スウェーデン、デンマークからも著名研究者を招へいし、光通信を中心に情報通信分野をテーマとした講演会を開催しました。

講演会は、160名を超える参加がありました。参加者層も幅広く、大学生から社会人の方まで多くの方にご来場いただきました。講演は英語(同時通訳あり)で行われたこともあり、国際色豊かな内容になりました。

今回は4名の講演が行われました。

1. Optical Fiber Communication for the Information Society

東京工業大学 栄誉教授(元学長)
末松安晴博士

末松安晴栄誉教授は、光ファイバ通信の勃興期から光ファイバ通信の発展を生み出した革新的研究について、新しい情報通信技術(ICT)社会創出の観点から振り返りました。 豊富な写真やデータをもとに聴衆を引きつけるご講演で、1963年の東京工業大学全学祭において、世界で初めて行われたレーザ光を光ファイバで送る「光"ファイバ"通信」実験などの貴重な記録も紹介しました。引き続き、同氏が先導され、大容量長距離光ファイバ通信を可能にした動的単一モードレーザの一連の研究成果とそのインパクトについて講演しました。

2. Playing with Photons and Electrons "Bringing light to life"

デンマーク工科大学
クリスチャン・ストブケジャー教授

クリスチャン・ストブケジャー教授は、光ファイバ通信を可能にしたいくつかの革新的技術について講演しました。同氏が博士課程学生時代に滞在した東京工業大学での懐かしい経験も紹介され、その後同氏が精力的に取り組んだ光信号処理の一連の研究とともに、最近のヨーロッパで展開されるフォトニクスに関する国家プロジェクトについても紹介しました。

3. Tunable lasers from research to production - a personal view

Altitun社・Syntune社 共同創業者/スウェーデン戦略的研究財団 プログラム委員長
ビョルン・ブローベルグ博士

ビョルン・ブローベルグ博士は、同氏のライフワークともいうべき、現在の光通信ネットワークで広く使われる波長可変半導体レーザの研究開発、また、波長可変レーザについてのベンチャー起業についての貴重な経験について講演しました。さらに、同氏の半導体レーザ研究の出発点は、東京工業大学に在籍した1年間が貴重な基盤となっていることを懐かしい写真を交えて語りました。ベンチャー起業に関する失敗談、成功の秘訣など実体験をもとに、若い学生諸君にメッセージを送りました。

4. Terahertz Science and Technology: Innovation with Nanoelectronics

東京工業大学量子ナノエレクトロニクス研究センター
河野行雄准教授

河野行雄准教授は、光領域と電波領域の中間に位置するテラヘルツ波(THz波)を用いた新しいセンシング、イメージング技術について講演しました。半導体中の2次元電子ガスやカーボンナノチューブ・グラフェンなどの低次元ナノ電子材料が持つ特徴を活かした最先端の研究成果を紹介しました。THz波を活用した単一バイオ・分子解析など、新しい分野の開拓への展望と抱負を述べました。

  • 講演中の末松栄誉教授

    講演中の末松栄誉教授

  • 質問に答えるストブケジャー教授

    質問に答えるストブケジャー教授

  • 講演中のブロバーグ博士

    講演中のブローベルグ博士

  • 講演中の河野准教授

    講演中の河野准教授

講演後に行われた質疑応答は、ベンチャーの起業や、プロジェクトリーダーとして研究室をけん引する姿勢、情報通信とエネルギー問題、若手研究者へのアドバイスなどがあり、大いに盛り上がりました。

学生の質問に答える末松栄誉教授

学生の質問に答える末松栄誉教授

閉会の挨拶をする安藤理事・副学長

閉会の挨拶をする安藤理事・副学長

今後も東工大の最先端研究をご紹介する「インスパイアリング・レクチャー・シリーズ」を開催予定です。どうぞご期待ください。

問い合わせ先

研究推進部研究企画課研究企画グループ

Email : ru.lecture@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2327


TBSテレビ「未来の起源」に太田・下嶋研究室の学生が出演

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本学、生命理工学研究科 太田・下嶋研究室の博士前期課程1年生・藤原亮太さんが、TBS「未来の起源」に出演しました。藤原さんが研究している「貧栄養土壌でも葉と根に油脂蓄積する植物の開発」について紹介されました。

下嶋美恵准教授と藤原亮太さん
下嶋美恵准教授と藤原亮太さん

  • 番組名
    「未来の起源」
  • タイトル
    畑で油を育てる
  • 放送日
    TBS: 9月20日(日) 22:54~23:00
    (再放送)BS-TBS: 9月27日(日) 20:54~21:00

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

「環境報告書2015」発行

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環境報告書2015

環境保全に向けた2014年度における本学の研究・教育活動,環境負荷低減のための取り組みや活動をまとめ、「環境報告書2015」として発行しました。

環境報告書とは、企業などの事業者が、経営責任者の緒言、環境保全に関する方針・目標・計画、環境マネジメントに関する状況、環境負荷の低減に向けた取組の状況等について取りまとめ、名称や報告を発信する媒体を問わず、定期的に公表するものです。

環境報告書の普及促進、信頼性向上のための制度的枠組みを整備し、環境報告書を社会全体として積極的に活用していくための「環境配慮促進法」が2004年に制定され、独立行政法人や、国立大学法人などにおいて発行が義務付けられています。

環境報告書2015

目次

  • ごあいさつ
  • 第1章
    東京工業大学の概要
    • 1-1
      組織図
      教職員・学生数
      環境配慮の取組体制
    • 1-2
      基本的要件
  • 第2章
    環境・安全衛生マネジメント
    • 2-1
      環境・安全衛生方針
    • 2-2
      環境・安全衛生マネジメントの目標と行動
    • 2-3
      省エネルギーとCO2対策のマネジメント活動
    • 2-4
      一般廃棄物による環境負荷低減のマネジメント活動
    • 2-5
      化学物質による環境負荷低減のマネジメント活動
    • 2-6
      キャンパス整備における環境マネジメント
    • 2-7
      環境・安全衛生の両面に配慮したマネジメント活動
  • 第3章
    環境負荷の低減
    • 3-1
      研究・教育活動と環境負荷の全体像
    • 3-2
      省エネルギーの推進
    • 3-3
      エネルギー使用量
    • 3-4
      化学物質管理
    • 3-5
      特別管理産業廃棄物と実験系産業廃棄物
    • 3-6
      その他環境負荷低減のための取組
  • 第4章
    環境に貢献する科学技術研究
    • 4-1
      世界をリードする環境研究の推進
    • 4-2
      最先端の環境関連研究内容 ~トピックス~
  • 第5章
    環境教育と人材育成
    • 5-1
      講演会・講習会
    • 5-2
      環境関連カリキュラムの充実
    • 5-3
      附属科学技術高等学校における環境教育の取組
    • 5-4
      サークル活動
    • 5-5
      在学生からのメッセージ
    • 5-6
      卒業生からのメッセージ
  • 第6章
    環境の社会貢献活動
    • 6-1
      公開講座・学園祭等
    • 6-2
      学生の環境保全活動
    • 6-3
      東京工業大学生活協同組合の環境保全活動
  • 「環境報告ガイドライン2012」との対照表
  • 第三者意見
  • 「東京工業大学 環境報告書2015」作成にあたって

詳細は、総合安全管理センターwebサイトでご覧いただけます。
また、各インフォメーション等に冊子体を置きましたので、ご一読ください。

問い合わせ先

総合安全管理センター

Email : sog.anz.kik@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3407

ひらめき ときめきサイエンス「目で見てわかる昔の日本語、今の日本語」開催

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8月5日朝10時から夕方5時まで、中学生向けの言語学セミナー「目で見てわかる昔の日本語と今の日本語:タイムマシンに乗らずに行ける昔の世界」が開催されました。このプログラムは、独立行政法人日本学術振興会による「ひらめき☆ときめきサイエンス」事業の支援を受け、実施されました。

はじめに

会場となった東京工業大学大岡山キャンパスの西1号館に、17名の中学生とその保護者の方々が集まりました。

「ひらめき☆ときめきサイエンス」は、科学研究費による研究成果を、社会に還元・普及するための事業です。小・中・高校生に研究成果をわかりやすく伝える体験プログラムを募集・支援しています。

「ひらめき☆ときめきサイエンス」に採択されたプログラムの多くは、理系の研究テーマを取り扱っていますが、本セミナーは歴史言語学がテーマです。理系の学問は、難しさはあるものの、実験を通してその変化を見せることがごく普通ですが、人文系の学問はとかく概念的で、どこで何が行われたのかわかりにくいものです。参加者の多くが「いったい何が行われるのかわからないが、とにかく参加してみた」と述べていました。言語の移り変わりを参加者にいかに伝えるかがポイントとなりました。

計量言語学っていったい何?「うぐいす」と「ほととぎす」どう違う?
計量言語学っていったい何?「うぐいす」と「ほととぎす」どう違う?

セミナーを楽しくわかりやすくするために

セミナーに先立ち全員(参加者、協力者、保護者)で自己紹介をし、互いに話しやすい雰囲気が作られました。また、受け身で聴講するだけにならないよう、3~4名のグループでディスカッションをしながら、セミナーは進みました。

さらに、参加者自身が考え、一つ一つ自分で研究の要所を書き込めるように、専用のワークブックが配布されました。このワークブックに全て書き込むと、自由研究のレポートができあがっているようになっています。また、大学の研究は決して中学校の勉強とかけ離れているわけではないので、中学校の勉強と関係づけながら説明が進んでいきました。

大学の勉強って何?

はじめに「今日は1日、大学生になったつもりで勉強しよう」と呼びかけられた中学生たち。「大学の勉強には答えがあるかどうかわからない、いや、むしろ答えよりも問題を作るのが大学の勉強だ」との説明に、一足早く大学生の気分を味わいました。研究内容だけでなく、言語学の基礎(世界に言語はいくつあるか)、数学の基礎(対数とは、感覚尺度とは)、研究の基礎(「特徴とは何か」、「似ている」と「同じ」「違う」とは)など、さまざまな問いをグループで話し合い、ワークブックに鉛筆を走らせました。

本セミナーの題材と方法

はじめて使う関数電卓。なぜ和歌の研究で電卓を?

はじめて使う関数電卓。なぜ和歌の研究で電卓を?

セミナーのテーマは、平安時代の言語の意味が現在の意味とどう違っているのか、それを可視化を通して見てみようというものです。分析対象は平安時代の古今和歌集です。和歌については中学の国語資料集が用いられました。具体的にページ数を示し、学校や自宅で復習できるよう、工夫されました。また、言語学でも数学を使うことを示し、関数電卓を用いて、単語の重み計算を実習しました。参加した中学生たちは、国語の本を開いたり、数学の対数を勉強したりと、学校の勉強ではあまり経験したことのない文理融合型の学習を経験しました。

もっともっと大学のキャンパスを見て歩こう!

セミナーの合間をぬって、散歩の時間を設け、学内を見学しました。鳥人間コンテストや、ロボットコンテストで有名なサークルの協力を得て、人力飛行機、ロボットに触れることができました。人力飛行機の翼とプロペラを抱えて「わぁ!こんなに軽いってびっくり」との感想がたくさん寄せられました。

人力飛行機の実物に触れる
人力飛行機の実物に触れる

保護者もディスカッション

保護者の方々にも座席を用意し、参加者と同じワークブックを配布し、ご見学いただきました。ワークブックに沿って、自主的に保護者同士でディスカッションをしてくださっていました。また中学生の参加者が考えている間、保護者の方々には研究内容や大学で行われている活動の紹介が行なわれました。

おわりに

未来博士号(言語学)の授与式

未来博士号(言語学)の授与式

1日の終わりには未来博士号の授与とアンケートを実施し、終了しました。アンケートでは「学校の授業とは異なり、考える作業で頭をフル回転できた」「東工大で、なぜ和歌を?と思って参加したが、その意味がわかり、目からウロコ」などのご意見をいただきました。

みんなで記念写真
みんなで記念写真

なお、本セミナーの内容を復習できるよう、山元研究室のwebサイトに、当日の記録とワークブックのpdfが掲載されています。

お問い合わせ先

山元啓史
Email : yamagen@ryu.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2324

結晶でもグラフェン凌ぐ2次元電子機能を実現―電子のスピンも調整でき次世代デバイス実現に威力―

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ポイント

  • 二セレン化タングステンでグラフェン超える2次元電子機能を容易に実現
  • 結晶表面へのルビジウムの希薄蒸着で、特異な単原子層電子ガスの生成を発見
  • 2次元電子ガスにおけるスピン状態間のエネルギー差を、蒸着量により巨大かつ自在に調整可能なことを実証
  • 常識に反した“増量で縮む”という電子状態が関与していることを解明
  • スピンや光を利用するトランジスタ応用につながる新技術

概要

東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授、英セント・アンドルーズ大学のフィリップ・キング(Philip King)講師らの国際共同研究チームは、二セレン化タングステン(WSe2)の単結晶表面にルビジウム(Rb)を希薄に蒸着することで、電子のもつ磁気的性質(スピン)を巨大に変化できる単原子層の電子ガスが生成することを発見した。これにより、グラフェン[用語1]を超える2次元電子機能を簡便に実現することができる。

電界効果トランジスタ(FET[用語2])の根幹部分(ゲート)で行っている静電ドーピング[用語2]を化学的に模倣して、通常のゲート電圧効果より2桁大きなスピン変化を自在に調整できることを実証した。静電ドーピング効果で誘起される2次元電子ガスは、"水を注ぐと水位が下がる"ことに相当するような「負の圧縮率」と呼ばれる特異な状態をもつことも解明した。本成果は、次世代半導体の基礎学理に重要な知見を与えるとともに、室温で動作するスピントロニクス・デバイスの実現などに向けて大きな弾みとなる。

以上の成果は、英国の科学誌「Nature Nanotechnology(ネイチャー・ナノテクノロジー)」においてオンラインで先行出版(9月21日発行:日本時間9月22日)された。

研究の背景と経緯

グラフェンのノーベル賞(2010年)を契機に、原子レベルの厚さをもつシート状物質や、それらがもつ2次元電子機能の開発が活発に行われている。グラフェンに追いつき追い越せる可能性をもつ物質の筆頭として注目されているのが、遷移金属ジカルコゲナイドと総称されるMX2の組成(M = 遷移金属、X = カルコゲン)をもつ層状物質である。

遷移金属ジカルコゲナイドの中でも、重たい(大きな原子番号をもつ)元素で構成されている二セレン化タングステン(WSe2)は、電子の運動と電子の磁石的性質(スピン)とが強く影響しあった状態をもつことから、グラフェンにはないスピンを電圧で制御するというような新機能の実現への期待も大きい。

一方でWSe2は、単原子層ではスピン機能を発揮できる電子状態をもつものの、複数層では各層のもつ機能を打ち消すように積層した構造になってしまうことから、バルク単結晶は利用できないと考えられていた。しかしながら、単原子層を簡便に大面積で作製できる方法はこれまでに開発されていない。

研究成果

今回、積層化で失われていたWSe2単原子層に固有な電子スピン機能を、単結晶の最表面に復活させ、容易に利用できる方法の開発に成功した。これは「結晶表面にアルカリ金属のルビジウム(Rb)を希薄に蒸着するだけ」という非常に単純な方法である。本手法の効果を模式的に表したのが図1である。

蒸着したRbは、最表面のWSe2単原子層にのみ電子キャリアを供給し、2次元電子ガスを形成する。この際、数原子レベルの限られた距離に電気分極が発生し、単原子層の電子状態には巨大な電界効果が引き起こされることが判明した。通常のゲート電極を用いて外部電圧で誘起させる電界効果の場合と異なって、今回の手法では電荷蓄積層がむき出しになっているという特徴がある。そこで、最先端の分光手法を用いて、Rb蒸着前後の電子状態変化を直接に観察することにより、以上の「結晶表面単原子層への選択的な化学的静電ドーピング効果」を実験で発見することができた。

本研究で開発した手法:WSe2単結晶にRbを希薄蒸着することで、化学的静電ドーピング効果により、結晶最表面にスピン機能をもった2次元電子ガスが作製できる
図1.
本研究で開発した手法:WSe2単結晶にRbを希薄蒸着することで、化学的静電ドーピング効果により、結晶最表面にスピン機能をもった2次元電子ガスが作製できる

Rb蒸着量に比例して電子キャリア量(N [cm-2])は増加し、1.5桁の幅広い範囲で制御できることが分かった。角度分解光電子分光と呼ばれる電子の運動方向とエネルギーの関係を直接観測できる手法を用いて、キャリア量を変化させた際にどの様に電子構造が発達するかを観察した結果を図2に示す。キャリア量の増加とともに、電界効果によってスピンの上向きと下向きとでエネルギー差が生じ、N ~ 9×1013 cm-2の時にはエネルギー差は180 meV にも及んだ。この値は通常のゲート電圧で引き起こせる効果に比べて2桁も大きい。この巨大変化をRb蒸着量で自在に制御できることも相まって、本手法は室温で動作するスピントロニクス・デバイスを実現するための重要な技術になるものと期待される。

Rb蒸着量で制御できる電子キャリア量(N)に応じて、異なるスピン方向の電子状態間にエネルギー差が生ずる様子を直接観察した結果
図2.
Rb蒸着量で制御できる電子キャリア量(N)に応じて、異なるスピン方向の電子状態間にエネルギー差が生ずる様子を直接観察した結果

さらに、結果を詳細に解析し理論計算によるシミュレーションと比較検討することによって、WSe2単結晶の最表面に形成される単原子層の電子ガスは、“水を注ぐと水位が下がる”ことに相当するような、直感に反した特異な性質をもつことも発見した。このような「負の圧縮率」と呼ばれる電子状態は、従来の半導体における2次元電子ガスにおいても、非常に低い電子キャリア量の時には観測されていた。これと比べてWSe2の単原子層電子ガスでは、3桁におよぶ驚異的に高い電子キャリア量まで負の電子圧縮率が観測された。

この原因として、WSe2は電子の運動エネルギーを小さくするような電子状態(マルチバレーと呼ばれる電子構造や比較的大きな電子の有効質量)をもち、これによって電子と電子との相互作用が大きくなっていることが関与していると考えられる。単原子層の遷移金属ジカルコゲナイドを用いて電界効果トランジスタを作製する試みが世界中で行われているが、ゲート電圧誘起の電子状態の発達過程は謎だらけである。従って、今回の結果はそれらにも本質的な知見を与えるものとして重要である。

用語説明

[用語1] グラフェン : 蜂の巣構造をもつ炭素の単原子層の薄膜。積層したものが黒鉛(グラファイト)。電子が超高速に動き回れるなどの性質をもつことから、次世代の電子材料として期待され、これを対象とした研究が2010年のノーベル賞に輝いた。

[用語2] 電界効果トランジスタ(FET)・静電ドーピング : ソース電極とドレイン電極間の電流をゲート電極の電圧で制御できるトランジスタ。ゲート電圧の静電界によって、ゲート電極の下部にある絶縁体を介した半導体界面に電子キャリアが誘起(ドープ)されることを利用している。

論文情報

掲載誌 :
Nature Nanotechnology, Published Online (21 Sep. 2015).
論文タイトル :
"Negative electronic compressibility and tunable spin splitting in WSe2"
(二セレン化タングステンにおける負の電子圧縮率と調整可能なスピン分裂)
著者 :
J. M. Riley, W. Meevasana, L. Bawden, M. Asakawa, T. Takayama, T. Eknapakul, T. K. Kim, M. Hoesch, S.-K. Mo, H. Takagi, T. Sasagawa, M. S. Bahramy, and P. D. C. King
DOI :

問い合わせ先

応用セラミックス研究所
総合理工学研究科物質科学創造専攻
准教授 笹川 崇男

Email : sasagawa@msl.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5366

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

「大学入試改革の真のねらいを問う」シンポジウムに三島学長が参加

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公開シンポジウム「いまなぜ高校が変わるのか-大学入試改革の真のねらいを問う-」が8月30日、法政大学において開催され、本学の三島学長が参加しました。

公開シンポジウム「いまなぜ高校が変わるのか-大学入試改革の真のねらいを問う-」

三島学長

三島学長

このシンポジウムは、文部科学省の専門家会議「高大接続システム改革会議」が今夏に「中間まとめ」を公表予定であることを受け、企画されたものです。特定非営利活動法人NPO 学校支援協議会が主催しました。

第1部では、ハーバード大学大学院でベストティーチャーに選ばれたことのある柳沢幸雄 東大名誉教授による公開授業が行われました。その後に開催された第2部の公開シンポジウムに、三島学長がパネリストの一人として登壇しました。

パネリストは中等教育・高等教育・経済界など各界の有識者が務め、関心の高い大学入試改革を中心に、議論を展開しました。三島学長の他に、鎌田薫 早稲田大学総長、柳沢幸雄 開成中学校・高等学校校長、廣田康人 三菱商事株式会社代表取締役常務執行役員、また母親代表として成島由美 大妻学院理事が登壇しました。

パネリスト
パネリスト

コーディネーターとして早川信夫 NHK解説委員がディスカッションを進行し、各パネリストはそれぞれの立場から、アクティブ・ラーニングの取り組みや課題、グローバル化の推進、求める人材像などを発表しました。三島学長からは、教育の質の向上や国際化を目指した本学の教育改革の取組の事例が紹介されました。各パネリストの発表を受け、予定時間を越えてディスカッションは展開していきました。

最後に、参加した高校生などからパネリストへの質問もあり、つきることのない質問に教育とは何かということを参加者全員が改めて考えさせられたシンポジウムでした。

会場の様子
会場の様子

なお、この模様は10月3日(土)午後2時~3時 NHK Eテレ「TVシンポジウム」で放映予定です。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

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