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Channel: 更新情報 --- 東工大ニュース | 東京工業大学
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学生による新東工大グッズ誕生

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東工大リベラルアーツセンター「学生プロジェクト」による新たな東工大グッズが誕生しました。

リベラルアーツセンターでは、有志で集まった学生たちがさまざまなプロジェクトを自らで企画し実行することで、自分たちのアイデアを発信することができる、「学生プロジェクト」を、今まで数多く実施しています。そのうちのひとつである「東工大グッズ開発プロジェクト」が、1年以上かけて活動してきた集大成として、このたび新たな東工大グッズを考案し、近日中に販売することとなりました。

立ち上げの経緯とプロジェクトのねらい

リベラルアーツセンター 伊藤亜紗准教授の「今よりも面白い東工大グッズを作って欲しい!」という言葉に、ものつくり精神を刺激された学生たちが中心となって、このプロジェクトは始まりました。

プロジェクトのねらいとして、以下の3本の柱を立て、学生なりのアイデアや知恵を駆使し、長期間の活動を行ってきました。

  • グッズ開発を通した東工大生らしさの見直し

  • 将来のものつくり産業を担う東工大生たちの創造活動促進

  • 新しい東工大グッズによる東工大の知名度向上

新東工大グッズ考案の様子

新東工大グッズ考案の様子

公募により集まった40以上のアイデアから選択し開発しました

公募により集まった40以上のアイデアから選択し開発しました

学内外を巻き込んだ活動

自ら立てたねらいを達成するために、学生たちは学内外の人たちとつながりを持ちながら、様々な活動を行ってきました。

昨年の夏には、学内で新しい東工大グッズのアイデアを募集し、教員、留学生などから幅広くアイデアが寄せられ、その数は40以上にものぼりました。さらに、フェイスブックやツイッターなどを駆使して、「東工大生らしさとは何か」について意見を募り、それを反映したグッズ作りに取り組みました。

また、商品を自ら販売するという経験のない学生たちのこういった活動を、日ごろ学生や教職員の大学生活を支援している東工大生協が協力してくれたおかげで、こうして販売するところまでこぎつくことができました。

こうした多くの方々からのご意見・ご協力もあり、学生の手による新たな東工大グッズが誕生しました。

東工大生協総代会にてプロジェクトについてプレゼンする様子
東工大生協総代会にてプロジェクトについてプレゼンする様子

東工大オリジナルテンプレート

東工大オリジナルテンプレート

こうして完成した新しい東工大グッズが「東工大オリジナルテンプレート」です。テンプレートとは、設計図などを作成するときに、記号や図形をきれいに描くために用いる文房具です。

それを、東工大生らしさが凝縮された内容にし、学内には実用的なもの、学外には東工大を知ってもらうきっかけとなるよう開発を進めました。

日ごろの授業で使うもよし。学外の方へのちょっとしたお土産として東工大をアピールするもよし。はたまた誰も思いつかないような使い方を見つけるもよし。

1人でも多くの人がこのグッズを手に取ることで、東工大生らしさを感じ、ものつくりの意欲が湧いてくる、そんなことを期待して開発されました。

さらに詳しい本グッズ及び本プロジェクトに関する情報は、リベラルアーツセンターのwebサイトをご覧ください。

お問い合わせ先

リベラルアーツセンター 東工大グッズ開発プロジェクト
Email : office@liberal.titech.ac.jp


無重力による骨量減少メカニズムの一端を解明

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無重力による骨量減少メカニズムの一端を解明
―国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟における2ヶ月間のメダカ飼育と破骨細胞の活性化による骨量減少―

要点

  • 世界で初めて2ヶ月間におよぶメダカの長期飼育に成功
  • 骨を吸収する細胞である破骨細胞の活性化による骨量減少を確認
  • 骨粗鬆症の原因解明にも繋がる

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の工藤明教授らは、国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟で2ヶ月間飼育したメダカを分析し、無重力で骨量が減少するメカニズムの一端を世界で初めて明らかにした。破骨細胞が無重力下で活性化され、破骨細胞の特徴である多核化[用語1]がより進んでいることが分かった。また破骨細胞のミトコンドリアの形態異常が観察され、ミトコンドリアに関連している2つの遺伝子「fkbp5」と「ddit4」の特異的な発現上昇が認められた。

世界で初めて宇宙で2ヶ月間もの長期にわたり魚が飼育できたことに伴う成果であり、この研究成果を通じて無重力での骨量減少を解明する新たな手掛かりが得られた。本成果により、動物モデルが無い老人性骨粗鬆(そしょう)症の原因解明に繋がることが期待できる。

この成果は、英国の科学誌ネイチャー(Nature)の姉妹紙のオンラインジャーナル「サイエンティフィック リポーツ(Scientific Reports)」で9月21日に公開された。

研究成果

骨量減少の原因解明は、老人性骨粗鬆症の予防や長期の有人宇宙探査における重要な課題である。その解明のためには、培養細胞のみならず生物個体での観察・解析が重要であり、世界的にも注目されている研究領域である。

東工大の工藤教授らは、東京医科歯科大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)等との共同研究で、宇宙で飼育したメダカの骨組織を蛍光解析と組織解析した結果、2ヶ月間の無重力環境の影響として咽頭歯骨[用語2]の骨量減少が明らかになった。その原因として、破骨細胞の活性化、特に多核化が進んでいることが分かった。また、ミトコンドリアの形態異常が観察され、ミトコンドリアに関連する2つの遺伝子「fkbp5」と「ddit4」の特異的な発現上昇を明らかにした(図1参照)。「fkbp5」と「ddit4」はストレスに応答するグルココルチコイドの受容体(GR)の下流で発現する遺伝子で、GRはミトコンドリアで作用することが知られる。今回の破骨細胞のミトコンドリアの変形と、これら遺伝子発現上昇の相関関係については今後の更なる解析が必要であるが、無重力環境におけるミトコンドリア関連遺伝子の発現が破骨細胞の活性化を引き起こし、骨量減少に繋がったことが示唆される。

今回の論文で示された内容

図1. 今回の論文で示された内容

個体レベルで解析できる生物を用い、宇宙の無重力環境下での破骨細胞活性化、それに伴う骨量減少メカニズムの一端を定量的に示した世界で初めての成果である。

軌道上実験

国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟に搭載された、JAXAが開発した水棲生物実験装置を用いて、無重力下における骨量減少メカニズムの解明を目的に、2012年10月から12月の2ヶ月間にわたりメダカを長期飼育した。「きぼう」では星出宇宙飛行士とケビン・フォード宇宙飛行士が実験装置の設置や実験作業を行った。スペースシャトルでは2週間の魚類飼育が最長であったが、水棲生物実験装置では、給餌、飼育水の浄化と温度・流量・酸素などの環境維持、ビデオ観察などが自動化され、国際宇宙ステーションでの長期間の小型魚類飼育が初めて可能となった。

用いたメダカは、骨を造る造骨細胞と骨を吸収する破骨細胞の様子が蛍光で観察できるトランスジェニックメダカ[用語3](図2、3参照)である。メダカは無重力特有の回転遊泳行動が観察されたが、水棲生物実験装置での生育には影響がなかった。

国際宇宙ステーションで飼育したダブルトランスジェニックメダカ

図2. 国際宇宙ステーションで飼育したダブルトランスジェニックメダカ

骨形成と骨吸収が盛んな咽頭歯骨

図3. 骨形成と骨吸収が盛んな咽頭歯骨

実験試料(メダカ)

骨量減少の原因解明のための研究には、ヒトやマウスなどの哺乳類と異なり、体が透明で生きたまま体外から骨の様子を観察しやすく、また細胞の動態を蛍光で観察できるトランスジェニックメダカが有効である。工藤教授らの研究室では造骨細胞と破骨細胞の様子を同時に生きたまま観察できるダブルトランスジェニックメダカを確立し、今回の実験に用いている。

宇宙空間での動物飼育実験は難しいとされる中、小型魚類であるメダカは16匹全てが健全に維持され、交尾行動も認められたことから、メダカが宇宙環境への適応に優れたモデル脊椎動物であることが実証された。

今後の展開

今回論文で発表した長期飼育実験の後、2014年2月に無重力への骨代謝の初期応答を調べる実験を「きぼう」で行っている。これは、今回同様のダブルトランスジェニックメダカを用い、メダカが生きたままの状態で1週間連続で蛍光顕微鏡観察する実験であり、無重力下での造骨細胞、破骨細胞の動態をリアルタイムで観察したものである。その結果は現在論文として準備中である。

「きぼう」の水棲生物実験装置では、メダカ以外にもゼブラフィッシュを用いた筋萎縮の実験も行われており、宇宙での筋・骨量の減少等に関する研究を通して、地上での健康維持や高齢化社会への対応等への貢献が期待されている。

用語説明

[用語1] 破骨細胞の多核化 : 破骨細胞は細胞融合によって単核の細胞が多核の細胞に分化する。この多核化によってより広い面積で、より深部までの骨吸収が可能になるため、多核化は活性化の1指標となる。

[用語2] 咽頭歯骨 : メダカののどの奥に500本以上ある咽頭歯を支える骨。歯の再生に伴ってこの骨が再生され、古い骨の上に破骨細胞が存在し、骨吸収を行っている(図3参照)。

[用語3] トランスジェニックメダカ : 細胞特異的に発現するメダカの遺伝子に蛍光タンパク質を発現する遺伝子を繋げ、このコンストラクト(構築されたプラスミド)をメダカ卵に注入して遺伝子組み換えメダカを作成する。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Microgravity promotes osteoclast activity in medaka fish reared at the international space station.
著者 :
Chatani, M., Mantoku, A., Takeyama, K., Abduweli,D., Sugamori, Y., Aoki, K., Ohya, K., Suzuki, H., Uchida, S., Sakimura, T., Kono, Y., Tanigaki, F., Shirakawa, M., Takano, Y. and Kudo, A.
DOI :

研究全般に関するお問い合わせ先

東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生命情報専攻

教授 工藤明
Email : akudo@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5718 / Fax : 045-924-5718

国際宇宙ステーション・「きぼう」を使った水棲生物実験に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 広報部

Tel : 050-3362-4374 / Fax : 03-3258-5051

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京工業大学地球生命研究所(ELSI)新棟竣工記念式典開催

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東京工業大学大岡山キャンパスに地球生命研究所の新棟"ELSI-1"が完成いたしました。鉄筋コンクリート造地上3階地下1階建で、国内外の世界トップレベルの研究者が連携し、異分野融合研究を展開できる研究施設です。

10月1日(木)に竣工記念式典を開催しました。

式典内容

  • 日時:
    2015年10月1日(木)14:00~19:00
  • 会場:
    東京工業大学地球生命研究所(ELSI-1)1階ELSIホール

プログラム

  • 挨拶
    地球生命研究所長 廣瀬敬
    東京工業大学長 三島良直
  • 来賓祝辞
    日本学術振興会学術システム研究センター相談役 黒木登志夫
    文部科学省大臣官房審議官(研究振興局担当) 生川浩史
    科学技術振興機構 顧問 相澤益男
  • 記念講演
    地球生命研究所長 廣瀬敬
    地球生命研究所 主任研究者・教授 Eric Smith
    東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻教授 塚本由晴
  • 施設見学
  • 祝賀会

研究所概要

「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」は、高いレベルの研究者を中核とした世界トップレベルの研究拠点を形成するため、文部科学省が平成19年度に開始した事業です。

平成24年度にWPIに採択された地球生命研究所(ELSI)は、地球と生命の起源と進化の解明を目指し、地球惑星科学と生命科学の分野融合的な研究アプローチで、研究成果をあげています。本年7月には、米国財団から約6億7000万円の寄付を受け生命起源に関わる世界中の研究者同士をつなぐネットワークの強化と拡大を目的とする「EON(ELSI Origins Network)プロジェクト」をスタートさせました。

地球生命研究所の新棟“ELSI-1”の概要

地下1階には実験室が並び、2階と3階には研究者のための居室が設けられました。さらに、開放的なコミュニケーションスペース「ELSI AGORA」を設け、国内外・異分野同士の研究者が、普段から自然な形で異分野交流を深め、融合研究を促進します。

また、1階ホールは研究セミナーやワークショップの他、一般向け講演会でも使用します。同じく1階には情報発信のためのスペースを設け、さまざまなイベントで活用していきます。

  • 構造
    鉄骨鉄筋コンクリート造 地上3階地下1階建
  • 面積
    延べ面積 4973.54m2
  • デザインアーキテクト
    東京工業大学 塚本由晴研究室、竹内徹研究室
ELSI-1外観

ELSI-1外観

ELSI AGORA

ELSI AGORA

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email: media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

東京工業大学 地球生命研究所 広報室

Email: pr@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163

TBSテレビ「未来の起源」に浅輪研究室の押尾晴樹特別研究員が出演

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本学総合理工学研究科 環境理工学創造専攻 浅輪研究室の押尾晴樹特別研究員が、TBS「未来の起源」に出演します。「航空機リモートセンシングにより、都市の樹木がもたらす熱環境緩和の効果を明らかにする研究」について紹介されます。

左:浅輪貴史准教授 右:押尾晴樹特別研究員
左:浅輪貴史准教授 右:押尾晴樹特別研究員

  • 番組名
    「未来の起源」
  • タイトル
    「空から見る、景色以外の街の姿」
  • 放送日
    TBS: 10月4日(日) 22:54~23:00
    (再放送)BS-TBS: 10月11日(日) 20:54~21:00

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

東京工業大学COIシンポジウム

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文部科学省・科学技術振興機構が進めるセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラムの採択拠点、東京工業大学COI拠点がCOIシンポジウムを開催いたします。

本拠点では、皆が多様な絆で結ばれ、共感の輪が広がる社会(ハピネス共創社会)を目指し、世代・文化・言語の違いを超えて真意と感情を伝える『以心電心』コミュニケーションサービス実現のため研究開発を進めています。

この活動を一般の方々を含め広く社会にアピールするため、シンポジウムを開催し、将来のビジョンや研究開発活動を紹介すると共に、東京工業大学COI拠点が目指すハピネス共創社会への夢を語ります。

日時
2015年10月20日(火) 13:00~17:30
(12:30より受付開始、開場)
会場
参加費
無料
参加申込
どなたでもご参加いただけます。参加申請フォームouterよりお申込ください。
※定員250名

東京工業大学COIシンポジウム ―『以心電心』ハピネス共創社会の実現に向けて― パンフレット

お問い合わせ先
東京工業大学 『以心電心』ハピネス共創研究推進機構
Tel: 03-5734-3891
Email: coi.info@coi.titech.ac.jp

TBSテレビ「未来の起源」に鈴森・遠藤研究室の学生が出演

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本学理工学研究科 機械宇宙システム専攻 鈴森・遠藤研究室の博士前期課程1年生・車谷駿一さんが、TBS「未来の起源」に出演しました。車谷さんが研究している「人工筋肉」について紹介されました。

鈴森康一教授

鈴森康一教授

車谷駿一さん

車谷駿一さん

  • 番組名
    「未来の起源」
  • タイトル
    人工筋肉が実現する筋骨格ロボット
  • 放送日
    TBS: 10月11日(日) 22:54~23:00
    (再放送)BS-TBS: 10月18日(日) 20:54~21:00
  • 筋骨格ロボット
  • 筋骨格ロボット
  • 筋骨格ロボット

筋骨格ロボット

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

役員会トピックス:ブランドマークを統一

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役員会は、東工大における最高意思決定機関です。東工大では毎月2回役員会を開催し、大学の組織、教育、研究などについて、審議し決定しています。

10月2日の会議で承認された、意欲的で新しい取り組みについて、紹介します。

ブランドマークを統一

2016年4月の東工大教育改革を機に、ブランドマークを統一化することになりました。本学のシンボルマーク及びその使用等に関するマニュアルを定め、これからも本学の象徴として、東工大ブランドを世界中に広める役割を担います。

シンボルマーク

ヨーク大学と全学協定の開始

英国のヨーク大学は1963年に創立され、THE100under50(創立50年以内の世界大学ランキング)では2012年に8位、2013年に7位に選出された躍進めざましい大学です。このたび本学と学生交流に関した全学協定(授業料等不徴収含む)を締結します。

すでに、2011年に本学資源化学研究所がヨーク大学化学科と部局間協定を締結し、このほか複数の部局で共同研究等を通じた交流を進めておりましたが、今後は、全学的な学生の交流促進が見込まれます。

これにより、本学の全学及び授業料等不徴収協定の数は99となり、東工大の国際化のますますの促進が期待されます。

その他の主な審議事項

  • 東京工業大学における学外研究機関等との連携協力制度に関する規則等の制定について

  • 学院等運営体制に関する規則の制定等について

  • 東京工業大学大学院特別専門学修プログラム実施要項等の制定について

東工大教育改革

2016年4月、東工大の教育が変わります。現在推進中の教育改革の骨子と進捗をまとめた特設ページをオープンしました。

東工大教育改革

「コンピュータビジョン、ヒューマンビジョン、あなたのビジョン2015」開催報告

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8月7日~8日、大岡山キャンパス石川台1号館において、高校生向け体験授業「コンピュータビジョン、ヒューマンビジョン、あなたのビジョン2015」が開催されました。このプログラムは、独立行政法人日本学術振興会による「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI」事業の支援を受け、実施されました。

コンピュータビジョン、ヒューマンビジョン、あなたのビジョン2015

「コンピュータビジョン、ヒューマンビジョン、あなたのビジョン」は、機械系を専門とする葭田貴子准教授と田中正行准教授が、互いに異なる専門知識を生かして2014年から実施している体験型講義のシリーズです。機械に外界環境を認識させたり、機械を人にとって安全で使いやすいものにするためには、コンピュータビジョンと、人の視覚の脳科学(ヒューマンビジョン)を両方知ることが重要です。

始めに脳が3次元を感じる仕組みを説明
始めに脳が3次元を感じる仕組みを説明

両眼立体視システムの安全性についても説明

両眼立体視システムの安全性についても説明

今年は、大きなオーロラの3D立体映像をバーチャルリアリティで体験することを通じて、ヒトが3Dの飛び出す映像を感じる脳の仕組みや、3Dの情報を伝える機器の原理と安全性を、高校生に考えてもらいました。講師からは特に、立体視の原理を用いて高さを測定する原理や、人が頭部を動かすことにより世界を認識する仕組みを説明しました。その上で、機械系にコンピュータやヒトに関する複数の視覚の研究室がある意味や、これらの研究室が相互に協力することで実現できるコミュニケーションやサービスの可能性を理解してもらうことに主眼が置かれました。

赤青アナグリフ眼鏡用画像を自分で描く実習

赤青アナグリフ眼鏡用画像を自分で描く実習

きちんと飛び出て見えるか確認

きちんと飛び出て見えるか確認

カメラで赤青の立体動画をリアルタイムに実演
カメラで赤青の立体動画をリアルタイムに実演

段ボールのバーチャルリアリティ装置(ルクラス)登場

段ボールのバーチャルリアリティ装置(ルクラス)登場

また、2次元の平らなディスプレイから3次元の立体が感じられるという、ヒトの主観的体験を扱う内容であるため、講義は全て、高校生が自らの身体と視覚、脳で感じながら学ぶ体験型で行われました。参加者には、赤青フィルムによるアナグリフ眼鏡と、スマートフォンにより簡易ヘッドマウントディスプレイを作るためのレンズのついた小さな箱が配布されました。どのような視覚経験が論じられているか、自身の身体で体感する仕組みです。さらに、これらを持ち帰ることで、大学で得た体験を、自宅に帰ってからも家族や学校関係者と共有し、夏休みの宿題等今後の科学活動にも活用することができます。結果、文系・理系双方の学生から好評価が得られたほか、主催者側も研究室を超えた議論や機材の交換が続き、充実した2日間となりました。

使用した一部機材の作成方法は、以下で紹介されています。

Like Silk: DIY3D

このようにスマートフォンを中にいれると...

このようにスマートフォンを中にいれると...

ヘッドマウントディスプレイになる

ヘッドマウントディスプレイになる

コンテンツはインターネットからダウンロード

コンテンツはインターネットからダウンロード

カメラとパソコンを繋ぐとリアルタイム立体映像機に

カメラとパソコンを繋ぐとリアルタイム立体映像機に

さらに本物のヘッドマウントディスプレイを体験

さらに本物のヘッドマウントディスプレイを体験

頭を動かしてもどこまでもオーロラがみえる

頭を動かしてもどこまでもオーロラがみえる

テーマに合わせたスタッフTシャツも好評
テーマに合わせたスタッフTシャツも好評


10月の学内イベント情報

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2015年10月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

2015年10月の学内イベント情報

「産学官による未来創造対話」シンポジウムに三島学長が参加

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文部科学省が主催するシンポジウム「産学官による未来創造対話」が8月28日、東京ビッグサイトにおいて開催され、本学の三島学長が参加しました。

このシンポジウムは、産業界と大学・研究機関が、それぞれの成長を支え合い、日本の未来を共同で切り開いていくためのパートナーシップをどのように構築していくかを真剣に議論する場として企画されたものです。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

当日はまず、以下の2つの基調講演がありました。

  • 久間和生 総合科学技術・イノベーション会議常勤議員による
    「我が国の科学技術イノベーション戦略 -産学官によるオープンイノベーションの推進-」

  • 上山隆大 政策研究大学院大学副学長による
    「産業界にとってのシナジーとしての大学改革:アメリカの経験から学ぶ」

その後、産学官を代表する6名のパネリストが参加し、パネルディスカッションが行われました。以下の3つを柱に、それぞれの立場からディスカッションが展開されました。

  1. 1.「個と個」から「組織対組織」の連携への変革
  2. 2.新領域研究、社会実装、人材育成の一体的実施
  3. 3.工業教育の変革
発言する三島学長(中央)

発言する三島学長(中央)

パネリストの一人として参加した三島学長からは、産業界との連携や人材の育成について、本学で推進している教育・研究改革を交えた発表がありました。ディスカッションは、各パネリストの発言を受けて、予定時間を大幅に越えて活発に行われました。会場に集まった全国の大学、研究機関、経済団体等の関係者も、白熱した議論に熱心に聞き入っていました。

白熱する会場
白熱する会場

最後に、経済産業省大臣官房審議官から、産業界と大学の連携や今後の協力体制の構築に向けた力強い発言があり、閉会となりました。

問い合わせ先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

T2R2の論文公開件数が4000件を突破

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T2R2システム(Tokyo Tech Research Repository)は、東工大の学術研究論文等の一元的な蓄積・管理・発信を目的としたシステムです。東工大所属の全ての研究者が執筆した学術研究論文等の書誌情報や、PDFファイル形式の論文本文を登録・保存・公開するための機能を備えています。また、T2R2システムに登録された論文・著書は、T2R2システムの検索サイトを通して、広く学内外の利用者による検索・閲覧が可能です。

7月13日、このT2R2システムにて学外公開されている論文等の本文ファイルが4000件を突破しました。今後もT2R2システムを通じ、本学の研究成果を世界へ向けて発信していきます。

4000件目の論文を登録した小西玄一准教授(大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻)に、T2R2で公開している論文について聞きました。

ピレン色素によるミトコンドリアの染色のイメージ図(J. Mater. Chem. B, Vol.3 No.2表紙から)
ピレン色素によるミトコンドリアの染色のイメージ図
(J. Mater. Chem. B, Vol.3 No.2表紙から)

論文名
著者名
Yosuke Niko, Hiroki Moritomo, Hiroyuki Sugihara, Yasutaka Suzuki, Jun Kawamata and Gen-ichi Konishi
掲載誌
Journal of Materials Chemistry B
巻号頁
Vol. 3 No. 2 pp. 184-190

論文の概要を教えてください。

小西玄一准教授

小西玄一准教授

二光子励起顕微鏡(TPFM)は、特に医療分野で期待されている光学技術であり、低侵襲・高深度で生体を観察することを可能とします。この分野では、高性能蛍光色素の開発が強く求められています。我々は、小さなサイズで細胞等に取り込むことができ、生体の中でも最もよく光を透過する領域(650-1100 nm)で強く二光子を吸収し、近赤外領域で高い発光効率を示す色素の開発に成功しました。実際にミトコンドリアの染色において、従来の色素よりも高感度のイメージングに成功し、さらに最近開発された汎用光源であるファイバーレーザーでも使用できることを示しました。

T2R2システムで公開されたファイルをどのような方々に読んでほしいですか?

ケミカルバイオロジー、医学、化学の研究者だけでなく、他の分野の研究者や学生にもぜひ読んでいただきたいです。

今後の研究活動のご予定を教えてください。

1050 nmのファイバーレーザー光源を用いて、取り出した細胞や生体組織だけでなく、生きている個体そのものの深部の観察に取り組んでいます。将来、癌や様々な病気の早期発見のための二光子励起顕微鏡を用いた内視鏡が製作できると思います。

問い合わせ先

リサーチリポジトリWG(事務担当)

Tel : 03-5734-2099

英国科学実験講座2015クリスマス・レクチャー日本公演 開催報告

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英国王立科学研究所(Royal Institution、以下 Ri)で毎年クリスマスの季節に開かれるクリスマス・レクチャーが、読売新聞社主催、東京工業大学共催により、この春竣工したばかりの東工大レクチャーシアター(TLT)で開催されました。

ジョージ教授と公演の様子
ジョージ教授と公演の様子

クリスマス・レクチャーは英国で190年前に始まり、日本でも1990年から毎年夏に開催されており、25回目となる本年、東工大で開かれることになりました。

内容は、昨年Riで開催された本場のクリスマス・レクチャーのうちの一つである「電話」を、日本風、東工大風にアレンジされました。「『すごい』を伝えよう」と改題し、歴史的装置・技術、原理的実験、先進技術等を交えながら、五感の伝達を目標とするものです。

公演は9月12日・13日の両日、午前・午後の1回ずつ計4回行われ、講師はRiと同じ、マンチェスター大学のダニエル・ジョージ教授が務めました。10数回にも及ぶ台本の推敲を重ねながら、実験装置の準備・調整と並行してTLTの設備・機器の習熟も兼ねて、6回ものリハーサルを重ね本番に臨みました。

前日9月11日には本番さながらの最終リハーサルで確認を終えると、18時からジョージ教授、Riスタッフ、本学、読売新聞社、英国大使館等からの関係者出席のもと、レセプションが開かれ、本番に向けての雰囲気が盛り上がりました。

公演第1回目は、東工大関係者向けに特別に設けられた部で、学生、教職員、卒業生などが一般の参加者に混じって参加しました。公演の開始にあたっては、三島学長、英国大使館、ついで来年度から始まる新教育システムの、とくに1年生の教育プログラムを検討するグループの代表者である大竹教授から挨拶がありました。そして、いよいよジョージ教授による公演が始まりました。

ジョージ教授はまず、グラハム・ベルが発明した電話をとりあげ、ベルが用いた装置を再現し、音声(聴覚)の伝達をクリアすることから始めました。次に視覚に移り、バケツとお手玉で映像記録センサーの作動原理を説明した後、最新デバイスによる映像抽出の実演を行い、映像の送信に使われる光ファイバーの原理について、バケツと懐中電灯による簡単な実験で示しました。

ここから、楽屋裏に待機した本学修士課程2年のマイケルさんとジョージ教授のやりとりが始まります。マイケルさんの映像を、薄い板状に立ち昇る霧でできたスクリーン(fog screen)に投影することで、ステージから離れた場所にいるマイケルさんが、あたかもステージにいるかのような感覚を観客に味わわせました。つづいて触覚に移り、マイケルさんが離れた場所からステージのロボットハンドを操作するタイプのパワーアシストハンドを登場させ、fog screenを介しながら、楽屋裏とステージとの間で触覚が伝達できるということを示しました。

残りの味覚・嗅覚についても、楽屋裏とステージとを結びながら、イギリスで開発された電気デバイスにより味覚を体験させる実験が行われました。そして、携帯のイヤホンジャックに差し込むことで、特定の匂いを噴射できる装置を用い、匂い(嗅覚)を伴うことで味覚が強調されるということが示されました。

このように1時間15分程度の間、次から次へと参加者を飽きさせない実験、実演が連続しました。その都度、クリスマスレクチャー実行委員会副委員長の齋藤卓志准教授が、軽妙な司会で参加者に協力を呼びかけました。そのため、会場全体が一体感で盛り上がり、楽しく魅力ある公演となりました。

いずれの実験にも子どもたちをはじめとする参加者の積極的な協力があり、クリスマス・レクチャー本来のねらいである、参加型講義のスタイルを維持することができました。

東工大教育改革

2016年4月、東工大の教育が変わります。現在推進中の教育改革の骨子と進捗をまとめた特設ページをオープンしました。

東工大教育改革

問い合わせ先

ものつくくり教育研究支援センター
国際フロンティア理工学教育プログラム担当
特命教授 津田 健

Email : tsuda.k.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3170

トポロジカルな電子構造をもつ新しい超伝導物質の発見 ~トポロジカル新物質の探索に新たな指針~

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ポイント

  • 新規パラジウムビスマス超伝導体(PdBi2)の電子構造の直接観測に成功。
  • 通常の物質とは異なるトポロジカルな性質[用語1]をもつ表面の電子を検出し、その起源を解明。
  • 新しい量子現象や機能が期待されるトポロジカルな超伝導の研究にむけて前進。

発表概要

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の坂野昌人大学院生、同研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 物理工学専攻の石坂香子准教授らの研究グループは、東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授、広島大学放射光科学研究センターの奥田太一准教授らと共同で、新しい超伝導物質PdBi2がもつトポロジカルな電子構造を実験的に検出するとともに理論的に証明し、トポロジカル超伝導の研究やさらなるトポロジカル新物質の探索にむけて大きく貢献しました。

私たちの身の回りの物質はこれまで電気的性質により金属、半導体、絶縁体、超伝導体などに分類されてきました。ところが近年トポロジー[用語2]という数学的概念を電子状態に対して考慮することにより、真空と異なるトポロジカルな性質をもつ「トポロジカル物質」というそれまでにない分類が出現し、物理学、数学だけでなく化学、工学の広い分野にわたり注目を集めています。トポロジカル物質のもつ本質的な特徴として、固体内部とは異なる特殊な電子が表面に存在し、それらが新しい電気的・磁気的機能の担い手となる可能性があるからです。その中でもトポロジカル超伝導体では表面にマヨラナ粒子[用語3]と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており、その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています。

今回研究グループは、パラジウム(Pd)とビスマス(Bi)で構成される新規超伝導体PdBi2がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにしました。先端的なスピン分解・角度分解光電子分光法[用語4]を用いて特異な表面の電子状態を実験的に直接検出するとともに、その表面状態がPdBi2のもつトポロジカルな性質により出現するものであることを第一原理電子構造計算[用語5]により証明しました。本研究成果をもとに、新たな指針に基づくトポロジカル超伝導体の研究やトポロジカル新物質の探索が大きく進展することが期待されます。

本研究成果は、英国科学雑誌『Nature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)』(10月13日電子版)に掲載されました。

発表内容

1. 背景

近年、表面に特殊な電子構造(トポロジカル表面状態)をもつトポロジカル物質が注目を集めています。トポロジカル物質研究の発展は、2005年のトポロジカル絶縁体の予言と、それに続く発見に端を発します。トポロジカル絶縁体は、内部は電気を通さない絶縁体である一方、表面では電気が流れる金属となっており、通常の絶縁体とは異なる新しい絶縁体に分類されます。このトポロジカル表面状態においては、質量ゼロの電子(ディラック電子)が出現するとともにその電子スピン(電子自身がもつ微小な磁石)の向きが電子の運動に垂直な方向にそろっており、これまでにない電気的磁気的機能の創出が期待されています。その後、理論的、実験的研究が進むにつれ、絶縁体に限らず金属や超伝導体においても物質のもつトポロジカルな性質や表面状態が重要視されるようになっています。特に、トポロジカル超伝導と呼ばれる状態においては、その表面状態にマヨラナ粒子と呼ばれる、いまだその存在が未検証な理論上の粒子が出現することが予言されています。トポロジカル超伝導を実現するための物質科学的指針の1つとして、これまでは主にトポロジカル絶縁体に対して化学的に電子をドープしたり強い圧力をかけたりすることによって超伝導体へと変化させる戦略が取られてきました。しかし、このようなチューニングにより得られる超伝導体の種類や質、堅牢さには厳しい制約があり、新たな物質開拓の指針が望まれていました。

2. 研究内容

本研究グループは、トポロジカル絶縁体に手を加えるのではなく、パラジウムとビスマスで構成される超伝導体PdBi2(図1)に着目しました。良質な結晶を作製して最先端のスピン分解・角度分解光電子分光法を用いることにより、PdBi2の電子構造の直接観測に成功し、トポロジカルな性質を理論的に証明するとともにその起源を解明しました。

具体的には、スピン分解・角度分解光電子分光法(図2)によりPdBi2の固体内部と表面状態における電子構造と電子スピンの向きをそれぞれ詳細に調べました。観測された表面状態の電子はディラック電子とよく似た特徴を示しており、さらにその運動方向と電子スピンが直交している様子も検出されました(図3)。この結果から、PdBi2における表面状態がトポロジカル絶縁体表面に現れるものと酷似していることが明らかになりました。しかし、これだけではこの表面状態が真にトポロジカルな性質に由来するものであると証明されたわけではありません。研究グループはさらに第一原理計算により、PdBi2の電子構造とそれを構成する電子の波動関数を解析しました。この計算結果は実際に観測された電子状態を非常によく再現するとともに、この表面状態がトポロジカル表面状態であることを証明するものとなりました。

パラジウムビスマス超伝導体PdBi2の結晶構造と電気抵抗率
図1.
パラジウムビスマス超伝導体PdBi2の結晶構造と電気抵抗率
左図はPdBi2の結晶構造を示しています。パラジウム原子の周りを8個のビスマス原子が囲み、それらが層状に積層した結晶構造を形成します。右図は電気抵抗率の温度依存性です。絶対温度5.3ケルビンにおいて金属状態から超伝導状態に相転移する様子を表しています。
スピン分解・角度分解光電子分光法の概念図
図2.
スピン分解・角度分解光電子分光法の概念図
物質に光を照射すると、物質の表面から電子(光電子)が真空中へ脱出します。スピン分解・角度分解光電子分光法は、その光電子の運動エネルギー、脱出角度およびスピンを調べることによって、物質の電子構造を観測できる実験手法です。本研究では、スピンを調べる際に広島大学放射光科学研究センターの実験装置(ESPRESSO)を用いました。この装置のスピン検出器(VLEED)では鉄の磁石の性質を利用することにより、従来に比べて100倍の効率で光電子のスピンを調べることができます。
スピン分解・角度分解光電子分光で得られた電子構造と電子スピン
図3.
スピン分解・角度分解光電子分光で得られた電子構造と電子スピン
左図・中央図はPdBi2のトポロジカル表面状態を示す角度分解光電子分光の結果です。質量ゼロのディラック電子が示す円錐状の電子構造が見られます。右図は同じ領域のスピン分解・角度分解光電子分光の結果です。上向きスピン(赤)と下向きスピン(青)が電子の運動方向(運動量の符号)と結びついている様子を示しています。

3. 今後の展望

本研究により、PdBi2がトポロジカルな性質と表面状態をもつ超伝導物質であることが明らかになりました。今回の実験では超伝導転移温度(5.3ケルビン)以下での測定を行うことができませんでしたが、冷却性能の高い実験装置やその他の多様な実験手法を用いることにより超伝導状態の詳細な観測が可能となります。これにより、現段階では理論研究が圧倒的に先行しているトポロジカル超伝導の検出や解明を目指す実験が大きく進展する可能性があります。また、本研究で用いた実験・計算手法は新しいトポロジカル物質の探索とその評価の指針を提示するものであり、これまで通常の金属や超伝導体と思われてきた物質の再考も含め、幅広い新物質群の開拓へとつながることが期待されます。

用語説明

[用語1] トポロジカルな性質 : ここでは、トポロジーで分類した際に真空状態と同じ物質を「通常の物質」、異なる物質を「トポロジカルな性質」をもつ「トポロジカル物質」と呼んでいます。

[用語2] トポロジー(位相幾何学) : 連続的に変形できるか否かにより形を分類する数学の学問です。一例としてよく挙げられるのがドーナツとマグカップです。これらはいずれも穴の数が1つであり、連続的に変形させたときに互いに行き来することができるので同じ分類になります。一方で饅頭には穴が無いためマグカップやドーナツへと連続的に変形することはできず、異なる分類になります。

[用語3] マヨラナ粒子 : 物理学者マヨラナによって提案された電荷を持たない素粒子で、自分自身の反粒子となる特殊な性質をもっています。素粒子物理学でニュートリノとの関連が議論されていますが、マヨラナ粒子の確たる実験的証拠はいまだ提示されていません。

[用語4] スピン分解・角度分解光電子分光法 : 物質に光を照射すると、電子(光電子)が試料から真空中へ放出されます。その光電子の運動エネルギー、および脱出角度を調べることによって、物質中の電子のエネルギーと運動量を直接観測できる実験手法です。さらに、スピン検出器を用いて光電子のスピンを測定することにより、物質中の電子スピンの向きを調べることもできます(図2)。物質中の電子の運動量、エネルギーとスピンが分かると、電子構造を完全に理解することができます。

[用語5] 第一原理電子構造計算 : 量子力学の基礎的な方程式を用いて、物質を構成する原子の種類と位置の情報から電子構造を計算する手法です。結晶構造さえ決まれば非経験的に電子構造を得ることができるため、性質の不明な新物質に対しても威力を発揮します。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications 6, 9595 (2015年10月13日電子版)
論文タイトル :
Topologically protected surface states in a centrosymmetric superconductor β-PdBi2 symmetry
(和訳:空間反転対称な超伝導体β-PdBi2におけるトポロジカルに保護された表面状態)
著者 :
  • 坂野 昌人(東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 博士後期課程3年)
  • 大川 顕次郎(東京工業大学 応用セラミックス研究所 博士後期課程2年)
  • 奥田 太一(広島大学 放射光科学研究センター 准教授)
  • 笹川 崇男(東京工業大学 応用セラミックス研究所 准教授)
  • 石坂 香子(東京大学 大学院工学系研究科 附属量子相エレクトロニクス研究センター 物理工学専攻 准教授)
DOI :

問い合わせ先

東京大学 大学院工学系研究科
附属量子相エレクトロニクス研究センター

准教授 石坂 香子(いしざか きょうこ)
Email: ishizaka@ap.t.u-tokyo.ac.jp
Tel / Fax: 03-5841-6849

東京工業大学 応用セラミックス研究所

准教授 笹川 崇男(ささがわ たかお)
Email: sasagawa@msl.titech.ac.jp
Tel / Fax: 045-924-5366

広島大学 放射光科学研究センター

准教授 奥田 太一(おくだ たいち)
Email: okudat@hiroshima-u.ac.jp
Tel: 082-424-6293

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel: 03-5734-2975 / Fax: 03-5734-3661

精密工学研究所公開2015

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電子工学・情報工学・機械工学・材料工学の幅広い研究分野の最新成果を紹介する研究所公開を開催致します。

企業や大学において研究開発に携わっている方々をはじめとした皆様に向け、精密工学研究所の研究が産業界を通じて社会に役立つための一助となりますよう、最新の研究成果を紹介する研究室公開(9:30~17:00)、技術講演会(13:30~15:20)、および各研究室を実際に見学いただけるラボツアー(第1回 11:00~、第2回 15:40~)を行います。この公開は本学産学連携推進本部とも協力して産学連携に結びつく研究所公開を目指しております。

開催概要

開催日時
2015年10月30日(金) 9:30~17:00
開催場所
東京工業大学 すずかけ台キャンパス 精密工学研究所outer
参加申込
事前登録はこちらouterから。
Web締切は10月29日(木)13:00です。
当日受付、Faxでのお申し込みも可能です。詳細は関連ページouterをご覧ください。

プログラム

9:30~17:00 各研究室公開

11:00~ ラボツアー I (各コース定員30名)

集合場所:R2棟1階公開受付前 ※要登録

  • 知能化工学部門コース
    見学先:奥村・高村研究室、中本研究室、佐藤誠・長谷川研究室
    見学内容:知能・情報・インターフェース
  • 精機デバイス部門コース
    見学先:新野・吉岡研究室、北條・松村研究室、精密工作技術センター
    見学内容:マイクロ工学・超精密加工・メカトロニクス
  • フォトニクス集積システム研究センター・セキュアデバイス研究センターコース
    見学先:小山・宮本研究室、小池・吉村研究室、金研究室
    見学内容:光デバイス・光通信・マイクロデバイス、安心・安全工学、MEMS、バイオデバイス
  • 医用工学コースA
    見学先:進士研究室、只野研究室、中村・田原研究室
    見学内容:体内埋め込みデバイス、手術支援ロボット、医用応用超音波デバイス

13:30~15:20 技術講演会

場所:大学会館2階 集会室1

  • 「VR環境とハプティックインターフェース」
    精密工学研究所 知能化工学部門 教授 佐藤誠
  • 「精研における基盤機械要素研究 ―動力を伝える歯車―」
    精密工学研究所 精機デバイス部門 教授 北條春夫

15:40~ ラボツアー II (各コース定員30名)

集合場所:大学会館2階ロビー ※要登録

  • 極微デバイス部門コース
    見学先:益・伊藤研究室、植之原研究室、中村・田原研究室
    見学内容:電子・光・波動
  • 高機能化システム部門コース
    見学先:吉田研究室、初澤・柳田研究室、半導体MEMSプロセス技術センター
    見学内容:アクチュエータ・コントロール・バイオメカノシステム
  • 先端材料部門コース
    見学先:細田・稲邑研究室、堀江研究室、佐藤(千)研究室、曽根研究室
    見学内容:設計・極限機能・評価
  • 医用工学コースB
    見学先:進士研究室、只野研究室、小池・吉村研究室
    見学内容:体内埋め込みデバイス、手術支援ロボット、ヒューマンインターフェース

精研公開2015パンフレット表

精研公開2015パンフレット裏

問い合わせ先

精密公開研究所 精研公開2015事務局

E-mail : seiken-koukai2015@pi.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5963、5964

高校生のための生命理工学レクチャー2015

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次世代を担う若者(主に高校生)を対象に、2015年のガードナー国際賞・国際生物学賞を受賞した大隅良典教授をはじめとする東工大教授陣が、実演を交えた講義を通じて生命理工学の魅力を伝えます。

講義は、今年完成したばかりの「レクチャーシアター」でおこないます。皆様のご参加をお待ちしております。

開催概要

日時
2015年11月23日(月)※勤労感謝の日 13:00~17:00
場所
東京工業大学 大岡山キャンパス
講演会:レクチャーシアター(西5号館 531教室)
交流会:東工大蔵前会館 蔵前ホール
参加費
無料(参加者にはオートファジー・東工大グッズをプレゼント)
申し込み
参加希望者は、「高校生のための生命理工学レクチャー2015」outerより、申込みフォームのページに進んでください。

プログラム

13:00~14:00
ガードナー国際賞・国際生物学賞受賞記念講演会
酵母から始まったオートファジー研究 ―生命科学研究の楽しさ―
大隅良典教授
14:00~15:05
生命理工学の魅力
(14:05~14:20)
講演「進化する分子進化学」
二階堂雅人准教授
(14:20~14:35)
講演「化学合成による創薬」
秦猛志准教授
(14:35~14:50)
講演「幹細胞生物学 (ES細胞とiPS細胞)」
粂昭苑教授
(14:50~15:05)
講演「バイオインフォマティクスと未来社会」
黒川顕教授
15:30~17:00
交流会 ―東工大の先生と直接話してみませんか?
・生命理工学部における最先端研究(ポスターセッション)
・入試説明(相談ブース)

高校生のための生命理工学レクチャー2015

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学研究科事務室
Tel: 045-924-5940
Email: h-lecture@bio.titech.ac.jp


螺旋状に束ねたチューブによる管内推進装置

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概要

東京工業大学大学院総合理工学研究科メカノマイクロ工学専攻の高山俊男准教授は、複数のチューブを螺旋状に束ねるだけで製作可能な「管内推進装置」を開発した。

研究の背景

身の回りには様々な管があり、これらは定期的なメンテナンスを必要とする。管内の検査には内視鏡が有効であるが、細く曲がった管の奥まで入れることが難しく、管内推進装置が求められている。

研究成果

2本の柔軟なシリコーンチューブを伸びない糸を挟んで接着し、1本に空気圧をかけて伸ばすと、伸びたチューブが外側にくるような円弧形状に変形する。この原理を応用して、3本の柔軟なシリコーンチューブを伸びない糸を中心に螺旋状に束ねて互いに接着し、1本に空気圧をかけて伸ばすと、伸びたチューブが外側にくるような螺旋形状に変形する。3本のチューブを順に加圧すると、おなじ螺旋形状のまま外側になるチューブが順に入れ替わる。すなわち螺旋形状を維持したまま、体軸を中心とした回転運動を行う螺旋捻転運動となる。これを管内で行なうと、胴体が管内壁に斜めに押し付けられたまま回転運動を行うため、螺旋状の軌跡を描いて推進する。柔軟な構造であるため特に複雑な制御をしなくても屈曲部を容易に通過できる。外径6mmの寸法の試作機で内径9mmから25mmの管を移動可能で、内径20mmの管で最大毎秒45mmで移動可能であった。また接着時に束ねる螺旋の捻じれ角度によって変形可能な最大直径が変わることも確認した。

今後の展開

安価であるため汚れた環境下で使い捨てにでき、密閉性が高く電気も使わないため可燃性のガスのある管内で利用でき、生体内で利用できる可能性もある。今後、実用化のために、物理モデルを構築して変形可能な最大直径を予測し、目的に応じた推進装置の設計手法を求める予定である。

2本のチューブによる基本原理

図1. 2本のチューブによる基本原理

3本のチューブを螺旋状に束ねて1本を加圧した場合

図2. 3本のチューブを螺旋状に束ねて1本を加圧した場合

螺旋捻転運動の転がる方向と装置先端の描く軌跡

図3. 螺旋捻転運動の転がる方向と装置先端の描く軌跡

螺旋捻転管内推進装置の作り方

図4. 螺旋捻転管内推進装置の作り方

管内推進の様子(屈曲部も容易に通過可能)

図5. 管内推進の様子(屈曲部も容易に通過可能)

論文情報

掲載誌 :
IEEE/ASME Transactions on Mechatronics
論文タイトル :
A twisted bundled tube locomotive device proposed for in-pipe mobile robot
著者 :
高山俊男、竹島啓純、堀智之、小俣透
DOI :

問い合わせ先

大学院総合理工学研究科 メカノマイクロ工学専攻
准教授 高山俊男

Email : takayama@pms.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5468 / Fax : 045-924-5468

TAIST学生交流プログラム2015実施報告

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今年度からTAIST-Tokyo Tech(以下、TAIST(タイスト))を活用した学生交流プログラム「TAIST-Tokyo Tech Student Exchange Program」が始まり、初回となる今回は、東工大生3名が9月下旬から10月上旬にかけ、タイで2週間を過ごしました。

優れた設備と環境~プログラムの概要

タイランドサイエンスパーク正門

タイランドサイエンスパーク正門

本プログラムは、本学とタイ国立科学技術開発庁(NSTDA)及びタイの大学群とで展開している国際連携大学院TAISTを活用したもので、バンコク中心部から北へ40キロの所にあるタイランドサイエンスパーク(TSP)内の各施設で実施されます。豊かな緑に囲まれた約30万m2に及ぶ広大な敷地の中には、本学タイオフィスのあるNSTDAを始め、TAIST講義を行う講義棟、各種研究機関、学生用宿舎、さらに飲食店、銀行、生活雑貨店まで備わっており、滞在者が不自由なく過ごせる環境となっています。学生たちは、学生用宿舎Sirindhorn Science Homeに滞在し、講義受講とインターンシップに取り組みます。

学生用宿舎
学生用宿舎

各自で計画するプログラム~事前準備

インターシップ受入教員と打合せ

インターシップ受入教員と打合せ

今回留学した3名は、TAIST自動車工学コースの講義を受講するとともに、NSTDAでのインターンシップに取り組むべく、各自であらかじめ受講したい講義とインターンシップ先を決めました。そして、渡航1~2か月前からメールで、タイ側の受入教員と演習内容についての打ち合わせを行いました。

TAIST学生によるサポート~現地到着

参加学生は、バンコクの空港でTAIST学生の出迎えを受け、TSP内の宿舎に向かいました。英語の通じない場面でもタイ人学生に意思疎通をサポートしてもらえたおかげで、とてもスムーズに現地の生活に馴染めた様子でした。

講義のクラスメイト
講義のクラスメイト

TAIST学生と交流~講義・インターンシップ

プログラム期間中は、本学教員によるTAIST集中講義を受講するかたわら、同敷地内の研究機関MTEC(タイ国立金属材料技術研究センター)でインターンシップを行いました。

また、講義で知り合ったタイ人ほか各国のTAIST学生と行動を共にし、英語を共通語としたコミュニケーションを日々実践しました。専門分野を英語で学べたことも新鮮かつ貴重な経験となったようです。

TAIST自動車工学コースの講義を受講

TAIST自動車工学コースの講義を受講

スタディツアーで古都アユタヤへ

スタディツアーで古都アユタヤへ

プログラムを終えて~参加学生の声

  • 受入教員の方がとても気さくに相談に応じてくれたので、リラックスした雰囲気の中で演習を進めることができました。
  • 食事は、近隣のU-SQUAREやタマサート大学のカフェテリアをよく利用しました。種類が多く美味しい上に安くて大満足でした。
  • クラスメイト、受入研究室の方々、指導教員、宿舎のスタッフ、東工大タイオフィスのスタッフなど周囲の方々が親切にサポートしてくれたので、楽しく安心して過ごすことができました。
本学タイオフィス

本学タイオフィス

クラスメイトに連れて行ってもらったU-SQUARE

クラスメイトに連れて行ってもらったU-SQUARE

今後の展開

「TAIST-Tokyo Tech Student Exchange Program」は、今回の自動車工学コースだけでなく、組込情報システムコースでも実施していく予定です。今後の展開にぜひご期待ください。

問い合わせ先

国際部国際事業課 TAIST事務室

Email : taist@jim.titech.ac.jp

ニュースレター「AES News」No.3秋号発行

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ソリューション研究機構先進エネルギー国際研究(AES)センターouterが、ニュースレター「AES News」No.3秋号を発行しました。

AESセンターは、従来の大学研究の枠組みを越えて、企業、行政、市民などが対等な立場で参加する、開かれた研究拠点「イノベーションプラットフォーム」です。低炭素社会のエネルギーシステム実現に向けたソリューション研究開発を推進しています。

また、学内外の教員と会員が連携し、既存の社会インフラを活かしながら革新的な省エネ・新エネ技術を取り入れ、安定したエネルギー利用環境を実現する先進エネルギーシステムの確立を目指しています。

こうした日ごろの活動を、より多くの方々にご理解いただき、また、AESセンター企業・自治体会員および本学教職員の連携を深めるために、AESセンターではニュースレター「AES News」を、今年度より季刊誌として発行しています。今回は第3号となる秋号のご案内です。

ニュースレター「AES News」No.3秋号

第3号・2015秋号

  • 黒川浩助特任教授
    巻頭記事「多面的に拡大していく太陽光発電産業バリューチェーン」
  • AES活動報告(2015年7月~9月)
  • 共同研究部門紹介(ENEOS共同研究部門、NTTファシリティーズ共同研究部門)
  • 新共同研究部門の設置のお知らせ
  • AES行事開催予定
     第8回AESシンポジウム告知

ニュースレターの入手方法

PDF版

PDF版は以下のサイトからダウンロードできます。なお、バックナンバーも掲載しています。

冊子版

  • 大岡山キャンパス:東工大百年記念館1階 広報棚

  • すずかけ台キャンパス:すずかけ台大学会館1階 広報コーナー

お問い合わせ先

ソリューション研究機構 先進エネルギー国際研究(AES)センター
Email : aescenter@ssr.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3429

河野行雄准教授が第14回ドコモ・モバイル・サイエンス賞を受賞

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量子ナノエレクトロニクス研究センターの河野行雄准教授が、第14回ドコモ・モバイル・サイエンス賞 基礎科学部門を受賞しました。ドコモ・モバイル・サイエンス賞は、50歳未満の若手研究者等を対象に、日本国内における移動通信の発展と若手研究者の育成を目的とし、優れた業績を挙げた研究者に対し与えられるものです。授賞式が、10月16日にANAインターコンチネンタルホテル東京にて実施されました。

河野行雄准教授
河野行雄准教授

受賞テーマ

ナノ構造を用いたテラヘルツ電磁波の画像化技術の開拓と応用

受賞理由

テラヘルツ技術は、医療、産業、科学への幅広い応用が期待されていますが、計測における基本的な性能(検出感度、空間解像度、分光帯域等)が不十分のため、特にナノ領域の画像・分光計測が未開拓でした。河野准教授らは、半導体量子構造やカーボンナノチューブ・グラフェンを用いて、従来よりも格段に高い性能を持つ高感度テラヘルツ検出・高解像度イメージング・広帯域分光技術を開発しました。さらに、これを電子材料・分子・デバイス研究に応用して、物質・生体ナノ分析への有用性を実証しました。このような学問的貢献だけでなく、今後は、計測のシステム化・実用化も期待されています。

今回の受賞を受けて、河野准教授は以下のようにコメントしています。

テラヘルツ波は、電磁波の広大なスペクトルの中で最後の未開拓領域と言われ、基礎科学から産業・医療等に至る幅広い分野での応用が期待されています。未知の分野に挑戦する喜びと新規な応用可能性を追求する楽しさがあります。今回の栄誉ある賞の受賞を励みに、今後も共同研究者の方々や研究室のメンバーと研究の楽しさを分かち合いながら、邁進したいと思います。お世話になりました皆様に深く感謝申し上げます。

授賞式の様子(前列左から2人目が河野准教授)
授賞式の様子(前列左から2人目が河野准教授)

問い合わせ先

量子ナノエレクトロニクス研究センター 河野行雄

Email : kawano@pe.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3811

クロム酸鉛の「価数の謎」解き明かす―50年来の常識覆し、巨大負熱膨張材料の開発に手掛かり―

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概要

東京工業大学応用セラミックス研究所の東正樹教授、于潤澤博士研究員、北條元助教らの研究グループは、ペロブスカイト[用語1]型酸化物PbCrO3(クロム酸鉛)の価数分布が、50年間信じられてきたPb2+Cr4+O3ではなく、「Pb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3」であることを発見した。放射光X線と電子顕微鏡を用いた解析で50年来の謎を解いた。

PbCrO3は2価の鉛と4価の鉛が長距離秩序[用語2]を持たず、乱雑に存在する「電荷グラス」という状態を持つ。また、圧力下ではPb4+とCr3+の間で電荷の移動が起こり、10%もの体積収縮を伴ってPb2+Cr4+O3へと変化することも突き止めた。同様の変化を示すBiNiO3(ビスマス・ニッケル酸化物)は、改質することで巨大な負熱膨張[用語3]を示すため、PbCrO3を元にした巨大負熱膨張材料の開発も期待される。

同研究グループは東工大チームのほか、日本原子力研究開発機構の綿貫徹研究主幹、安居院あかね研究主幹、町田晃彦研究主幹、高輝度光科学研究センターの水牧仁一朗副主幹研究員、早稲田大学の溝川貴司教授、中央大学の岡研吾助教、学習院大学の森大輔助教、稲熊宜之教授で構成されるのに加え、東京大学、産業技術総合研究所、米国オークリッジ国立研究所、独国マックスプランク研究所、独国ユーリッヒ研究所が参画した。

研究成果は米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

研究の背景

ペロブスカイト酸化物は、強誘電性、圧電性、超伝導性、巨大磁気抵抗効果、イオン伝導など、多彩な機能を持つため、盛んに研究されている。PbCrO3(クロム酸鉛)は、強誘電体として良く知られているPbTiO3(チタン酸鉛)からの類推で、Pb2+Cr4+O3の価数状態を持つと50年間もの間信じられてきた。しかし、PbTiO3に比べて約2%大きな体積を持つこと、また、Cr4+を含む化合物に期待される金属伝導性を示さず、絶縁体であることなどが長年の謎であった。さらに最近、2万気圧への加圧で10%もの巨大な体積収縮が起こることが発見され、そのメカニズムの解明が望まれていた。

研究成果

今回の研究では、PbCrO3が、Pb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3の価数状態を持つこととともに、図1に示す様に、2価の鉛と4価の鉛がランダムに存在する「電荷グラス」状態であることが分かった。異なる価数のイオンがランダムに凍結する「電荷グラス」は、価数を整数からずらした銅酸化物やマンガン酸化物で見つかっているが、整数価数の酸化物で観測されるのはこれが初めてである。

加圧するとクロム(Cr)の電子が一つ4価の鉛(Pb)に移ることで、クロムの価数が3から4価に変化し、酸素をより強く引きつけるようになる。このため、ペロブスカイト構造の骨格をつくるクロム(Cr)-酸素(O)の結合が縮み、約10%もの体積収縮が起こる。また、絶縁体から金属への転移が起こる。

同様の圧力印加による電荷の移動と約3%の体積収縮は、BiNiO3(ビスマス・ニッケル酸化物)でも観察されている。ビスマス(Bi)の一部をランタン(La)で置換したBi1-xLaxNiO3、あるいはニッケル(Ni)を鉄(Fe)で置換したBiNi1-xFexO3は、昇温で体積が収縮する、負の熱膨張材料である。BiNiO3の体積収縮が約3%であるのに対し、PbCrO3の圧力下での体積収縮は約10%にも達するので、同様の元素置換を行うことにより、BiNiO3以上の巨大な負熱膨張をしめす材料を開発できると期待される。

大型放射光施設SPring-8[用語4]のビームラインBL02B2での放射光X線粉末回折実験[用語5]と、BL22XUでの放射光X線全散乱データPDF解析[用語6]、BL47XUでの硬X線光電子分光測定[用語7]により、Pb2+とPb4+が存在し,それらが乱雑に配列していることが分かった。鉛イオンが整然と配列していないことは、走査透過電子顕微鏡観察(HAADF-STEM[用語8])でも確かめた。また、BL14B1での圧力下X線解析実験で格子定数[用語9]の変化を観察し、圧力下では約10%の体積収縮が起きることを確認した。また、この圧力で絶縁体から金属への転移が起こるため、高圧相はPb2+Cr4+O3であると考えられる。

ペロブスカイト酸化物ABO3の一般的な結晶構造(左)と、PbCrO3の電荷グラス構造(右)

図1. ペロブスカイト酸化物ABO3の一般的な結晶構造(左)と、PbCrO3の電荷グラス構造(右)

PbCrO3の結晶構造と電気抵抗、格子定数の圧力変化。Pb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3からPb2+Cr4+O3への転移に伴い、格子定数と電気抵抗の急激な減少が起きている。
図2.
PbCrO3の結晶構造と電気抵抗、格子定数の圧力変化。Pb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3からPb2+Cr4+O3への転移に伴い、格子定数と電気抵抗の急激な減少が起きている。
PbCrO3の電子顕微鏡像。白丸で示された、電荷グラスを形成する鉛の位置に乱れがあることが分かる。

図3. PbCrO3の電子顕微鏡像。白丸で示された、電荷グラスを形成する鉛の位置に乱れがあることが分かる。

今後の展開

今回そのメカニズムを解明したPbCrO3では、圧力印加により10%もの巨大な体積収縮が観察されることから、研究を進め、同様の性質を持つBiNiO3(ビスマス・ニッケル酸化物)で行われたのと同様の元素置換を施すことで、超巨大負熱膨張材料が開発できるとの期待が持たれる。負の熱膨張材料は、精密光学部品や精密機械部品など、精密な位置決めが要求される場面で、熱膨張による位置決めのずれを抑制するのに使えると考えられており、今回の発見は、こうした材料開発の進展につながるものと注目されている。

付記

本研究は産業技術総合研究所のHyunjeong Kim博士、榊浩司博士、中村優美子博士、東京大学工学系研究科総合研究機構の幾原雄一教授、米国オークリッジ国立研究所の松田雅昌博士、Jie Ma博士、Stuart Calde博士、独国マックスプランク研究所の磯部正彦博士、独国ユーリッヒ研究所のMartin Schlipf博士、Konstantin Rushchanskii博士、Marjana Ležaić博士との共同で行われた。

本研究の一部は、神奈川科学技術アカデミー・戦略的研究シーズ育成事業「革新的巨大負熱膨張物質の創成」(代表・東正樹東京工業大学教授)、文部科学省・科学研究費補助金・新学術領域研究「ナノ構造情報のフロンティア開拓—材料科学の新展開」(代表・田中功京都大学教授)、日本学術振興会・科学研究費補助金・若手研究B「電界誘起の構造相転移を用いた巨大な圧電応答の実現」(代表・北條元東京工業大学助教)、「巨大な正方晶歪みのもたらす特異的な物性の探索」(代表・岡研吾中央大学助教)の援助を受けて行った。

用語説明

[用語1] ペロブスカイト : 一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。

[用語2] 長距離秩序 : 原子の配列が整然としていて、繰り返し周期があること。

[用語3] 負の熱膨張 : 通常の物質は温めると体積や長さが増大する、正の熱膨張を示す。しかし、一部の物質は温めることで可逆的に収縮する。こうした性質を負の熱膨張と呼び、ゼロ熱膨張材料を開発する上で重要である。

[用語4] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理と利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

[用語5] 放射光X線回折実験 : 物質の構造を調べる方法。放射光X線を試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。

[用語6] 放射光X線全散乱データPDF解析 : 乱雑に配列した原子の並び方を解明する方法。上記X線回折に加えて、乱雑に配列した原子によって広く散乱されるX線強度までを併せて解析する。

[用語7] 硬X線光電子分光 : 4keV以上の高いエネルギーをもつ X線である、硬X線を物質に入射し、そこから放出される光電子の個数とエネルギーの関係を調べることにより、物質内部の電子構造を調べる実験的手法。従来の真空紫外光や軟X線を用いた光電子分光は表面近傍の情報しか得られなかったが、硬X線で励起することにより、固体内部の電子構造を調べることが可能になった。

[用語8] 走査透過電子顕微鏡 : 電子顕微鏡の一種。0.1ナノメートル(1億分の1センチメートル)程度まで細く絞った電子線を試料上で走査し、試料により透過散乱された電子線の強度で試料中の原子を直接観察する。

[用語9] 格子定数 : 結晶構造中の原子の繰り返し周期の長さ。この変化が、物質の巨視的な長さの変化につながる。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society, 137 (2015)
論文タイトル :
Melting of Pb charge glass and simultaneous Pb-Cr charge transfer in PbCrO3 as the origin of volume collapse
著者 :
Runze Yu, Hajime Hojo, Tetsu Watanuki, Masaichiro Mizumaki, Takashi Mizokawa, Kengo Oka, Hyunjeong Kim, Akihiko Machida, Kouji Sakaki, Yumiko Nakamura, Akane Agui, Daisuke Mori, Yoshiyuki Inaguma, Martin Schlipf, Konstantin Rushchanskii, Marjana Ležaić, Masaaki Matsuda, Jie Ma, Stuart Calder, Masahiko Isobe, Yuichi Ikuhara, and Masaki Azuma
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学 応用セラミックス研究所
教授 東正樹

Email : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315、080-4402-5315 / Fax : 045-924-5318

日本原子力研究開発機構
研究主幹 綿貫徹

Email : wata@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2629 / Fax : 0791-58-0311

高輝度光科学研究センター
副主幹研究員 水牧仁一朗

Email : mizumaki@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-0802(内線3870) / Fax : 0791-58-0830

早稲田大学 理工学術院 先進理工学部
教授 溝川貴司

Email : mizokawa@waseda.jp
Tel : 03-5286-3230 / Fax : 03-3200-2805

中央大学 理学部
助教 岡研吾

Email : koka@kc.chuo-u.ac.jp
Tel : 03-3817-1922 / Fax : 03-3817-1922

学習院大学 理学部
教授 稲熊宜之

Email : yoshiyuki.inaguma@gakushuin.ac.jp
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取材申し込み先

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学習院大学 学長室広報センター

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公益財団法人高輝度光科学研究センター
利用推進部 普及啓発課

Email : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2785 / Fax : 0791-58-2786

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