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ワンポットの短工程で有機フッ素医農薬中間体を合成―アセチレン類からの立体選択的な合成に成功―

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要点

  • 医農薬品として期待できる有機フッ素化合物の短工程合成法の開発
  • 四置換CF3アルケンの簡便(ワンポット)かつ立体選択的合成法
  • 温和な条件で実施でき多様な官能基に対して有効な触媒システム

概要

東京工業大学資源化学研究所の小池隆司助教、穐田(あきた)宗隆教授、富田廉大学院生らは、医農薬品中間体として有用な多置換トリフルオロメチルアルケン類を、入手容易な内部アセチレン類から短工程かつ立体選択的に合成することに成功した。フォトレドックス触媒[用語1]と呼ばれる光触媒とクロスカップリング反応[用語2]に有効なパラジウム触媒を連続して一つの反応容器内で作用させ、反応中間体を精製することなくアセチレン類から合成できるワンポット反応系を開発した。

トリフルオロメチル基[用語3]は、医農薬品の化学・代謝安定性、脂溶性や結合選択性などに大きな影響を与え、薬物活性の向上をもたらすことが知られている。このため、新反応は医農薬品開発の分野で、今後広く使われていくことが見込まれる。

研究成果は、ドイツ化学会誌「アンゲバンテ・ヘミー国際版」のオンライン版に9月11日に掲載された。

研究成果

東工大の小池助教、穐田教授らは、フォトレドックス触媒の触媒作用を活用し、求電子的トリフルオロメチル化剤[用語4]と入手容易な内部アセチレン類から、立体選択的なトリフルオロメチルアルケニルトリフラートの合成に成功した。この反応の特徴は、導入されるトリフルオロメチル基とトリフラート基が、トランス付加型[用語5]の生成物が高い選択性で得られることである。

得られた生成物を中間体として、パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応を適用することで、四置換トリフルオロメチルアルケンを立体選択的に合成できることがわかった。さらに、この反応は、フォトレドックス触媒反応後、中間体を精製せずに同じ反応容器内にパラジウム触媒とカップリング剤を加えるワンポット合成が可能であった(図1(a))。このようにプロセスが簡略化できグリーンケミストリーの観点からも好ましい。

従来、四置換トリフルオロメチルアルケン類はあらかじめトリフルオロメチル基を含む原料を調製して合成されるのが一般的だったが、今回の研究成果によりアセチレン類を原料として短工程かつ簡便に合成できるようになった(図1(b))。また、この反応系を利用することで多様な有機フッ素医農薬品合成への応用が期待される。

(a)本研究成果:アセチレン類からのワンポット立体選択的四置換トリフルオロメチルアルケン合成
(b)従来法と本方法の比較
図1.
(a)本研究成果:アセチレン類からのワンポット立体選択的四置換トリフルオロメチルアルケン合成、(b)従来法と本方法の比較

背景と経緯

四置換アルケン類は、生物活性な天然物や医薬品、機能性分子にもみられる重要な構造モチーフである。多置換アルケン類は置換基の位置によって立体異性体が存在し、その機能や性質も異なる。そのため、異性体の生成を制御した合成法、すなわち立体選択的な合成法の開発が求められている。

置換基のひとつがトリフルオロメチル基であるトリフルオロメチルアルケン類も医薬品や機能性材料として近年注目されている。とくに、フッ素原子は結合している有機分子の化学・代謝安定性や、脂溶性、結合選択性に大きな影響を与えることから、有機フッ素化合物は医農薬品として注目されている。

それと同時に、いかに簡便に、工程数を少なくフッ素ユニットを有機分子骨格に導入するかも重要な研究課題となっている。小池助教、穐田教授らは、フォトレドックス触媒をトニ試薬や梅本試薬などの求電子的トリフルオロメチル化剤とアルケン類に作用することで、効率よくアルケン類のトリフルオロメチル化反応が進行することを見いだした。加えて本方法は、青色LEDを光源に室温という温和な条件で実施可能であり、様々な官能基をもつ多置換アルケン類のトリフルオロメチル化に有効であった。この知見をもとに、アセチレン類のトリフルオロメチル化から立体選択的な四置換トリフルオロメチルアルケンの合成が可能であると着想し、今回の研究成果に至った。

今後の展開

小池助教、穐田教授らの開発した反応の特徴は、炭素-炭素三重結合にトリフルオロメチル基とトリフラート基を立体選択的に導入できる。トリフラート基はパラジウム触媒によって様々な官能基へと変換可能である。今後は、ヘテロ元素やπ共役系ユニットとのカップリング反応を検討し、多様な四置換トリフルオロメチルアルケンを立体選択的に合成し、その医農薬品や有機機能性材料としての利用をめざす。

用語説明

[用語1] フォトレドックス触媒 : 下図に示すようなビピリジン配位子を有するルテニウム錯体誘導体やフェニルピリジンを有するイリジウム錯体誘導体など。可視光領域に吸収帯を有し、太陽光や蛍光灯、青色LEDランプなどを光源に一電子酸化還元反応を触媒することができる。

フォトレドックス触媒

[用語2] パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応 : 2010年 ノーベル化学賞の受賞対象となった本反応は、遷移金属パラジウム錯体が、活性化基(ハロゲンやトリフラートなど)を有する有機分子と有機金属反応剤の有機基を選択的に結びつける強力な合成ツールとして様々な分野で活用されている。

[用語3] トリフルオロメチル基 : メチル基の水素原子(H)をフッ素原子(F)に置換したもの。フッ素原子の特異な性質に起因して分子全体の性質が上述のように大きく変化する。医農薬品だけでなく機能性材料においても注目されている官能基。

[用語4] 求電子的トリフルオロメチル化剤 : 室温で固体、扱いやすいトリフルオロメチル化剤として下図の試薬が知られている。これらの試薬が開発されたことにより、トリフルオロメチル化反応が飛躍的に進歩した。

求電子的トリフルオロメチル化剤

[用語5] トランス型 : X-CR=CR-YのアルケンにおいてXとYが二重結合に対して同じ側に あるものをシス型、違う側にあるものをトランス型とよぶ。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition (ドイツ化学会誌国際版)
論文タイトル :
"Photoredox-Catalyzed Stereoselective Conversion of Alkynes into Tetrasubstituted Trifluoromethylated Alkenes"
著者 :
Ren Tomita, Takashi Koike, and Munetaka Akita (富田廉、小池隆司、穐田宗隆)
DOI :

研究支援

JSPS科研費(15J12072)、内藤記念科学振興財団奨励金・研究助成

問い合わせ先

資源化学研究所 助教 小池隆司

Email : koike.t.ad@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5229 / Fax : 045-924-5230

資源化学研究所 教授 穐田宗隆

Email : makita@res.titech.ac.jp

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


地球の自転に合わせて観測のバトンを渡す~国際共同研究教育パートナーシップ

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東京工業大学がカリフォルニア工科大などとともに提案した国際共同研究「GROWTH」が、日本学術振興会が米国国立科学財団と連携して実施する国際共同研究教育パートナーシッププログラム(PIRE)に採択されました。このプログラムの援助を受けて、2016年から5年間にわたり7カ国13機関による共同研究を実施します。

本プロジェクトGROWTH(Global Relay of Observatories Watching Transients Happen)は、米国、アジア、ヨーロッパを結んで地球の北半球を一巡りするように位置する天体望遠鏡のネットワークを結成し、地球の自転に合わせて観測のバトンを渡していくことによって、一箇所では夜が明けるために不可能な長時間連続天体観測を実現します。

PIREプログラムとは、一国のみでは解決が困難な課題に対して、若手研究者に国際共同研究の機会を提供することを目的として、米国国立科学財団が日本学術振興会など世界各国の機関と連携して実施しているものです。2005年に開始され、5回目にあたる今回は、全部で17課題が採択されました。本プロジェクトは、日本が参加する2課題のうちの一つです。

望遠鏡と研究者のネットワークGROWTHは日の出によって観測が中断されません。米国パロマ山ZTFで発見された突発天体は、消えるまでに国から国へとバトンのようにリレー観測されます。

望遠鏡と研究者のネットワークGROWTHは日の出によって観測が中断されません。米国パロマ山ZTFで発見された突発天体は、消えるまでに国から国へとバトンのようにリレー観測されます。

近年特に注目されている分野である時間領域天文学※1、特に突発天体※2現象の研究においては、発生してから最初の1日の間に何が起こるのかが非常に重要です。例えば、超新星は数カ月にわたって輝きますが、未解明の点の多い爆発前の星の正体を調べるためには、爆発直後の衝撃波の観測が有用です。

※1
時間領域とは横軸を時間にして信号を観察(表現)する世界のこと。時間領域天文学では天体を時系列で追う。
※2
突発天体とは、急激に増光や減光を示すなどの激しい光度変化を、突発的に示す天体のこと。代表的な突発天体現象には、ガンマ線バースト、超新星等が挙げられる。

他にも、中性子星※3同士、あるいは中性子星とブラックホールの連星の合体で起きる爆発から、宇宙に存在する金や白金が生まれたという説が有力ですが、この爆発は極めて稀なため、その後短時間に進行する元素合成の現場が捉えられたことはありません。このような現象を見つけて直ちに対応するために、GROWTHが必要となります。カリフォルニア工科大が、パロマ山天文台の広視野天体望遠鏡PTFの広天域掃天観測によって突発天体を見つけたら、日本、台湾、インド、イスラエル、スウェーデン、ドイツと連携して連続観測を行います。特に興味深い場合には、すばる望遠鏡やケック望遠鏡のような、ハワイの大望遠鏡も動員します。広視野望遠鏡PTFは2017年にはさらに高感度、広視野のZTFへと増強される予定です。

※3
超新星爆発を起こした質量の大きな星の核が残ったもので、大きさは10km程度と小さいが、重さは太陽と同程度と非常に密度が高い。

また、今年から動き出す米国のLIGOや日本のKAGRAなどの重力波※4望遠鏡が、近い将来に他の銀河で発生する中性子星合体からの重力波を検出すると期待されています。しかし、重力波の到来方向を精度よく決めることはできません。PTFやZTFで、発生源の存在する可能性のある広い点域を探し、可視光や赤外線で光る対応天体を見つけることは、GROWTHの大きな目標です。ただ、広い天域では、多数の紛らわしい候補も同時に見つかることが予想されます。新しい情報処理技術を活用したソフトウェアを用いて候補を少数に絞り込み、GROWTHの追跡観測の対象とすることになります。東京工業大学は、日本での観測とデータ処理技術において共同研究を分担する予定です。

※4
質量をもつ物体はすべて時空のゆがみを引き起こす。物体が運動すればゆがみも運動し、その運動が波となって伝わる。重力波とはこの波のことを指す。

さらに、GROWTHは大きさ140m以下の小さな小惑星が地球近傍で見つかったときに、その起源と軌道を調べることができます。これらは小さいために、通常監視の対象になっていませんが、もし地球に衝突すれば大災害を起こしうるものです。

なお、これらの研究を推進するとともに、その研究を支える若手研究者の育成も、本プロジェクトの大きな柱です。研究テーマの基礎となる教材・教育コースを協力して製作し、学部学生、大学院生、博士研究員の国際交流も進めていきます。

GROWTHコンソーシアムを結成する、参加機関と各機関の主要研究者は次の通りです。

  1. 1.アメリカ カリフォルニア工科大 [幹事機関]: マンシ M.カスリワル博士(GROWTH代表)、シュリ・クルカルニ教授、トム・プリンス教授、リン・ヤン博士
  2. 2.アメリカ ポモナ大学: ブライアン・ペンプレーズ教授
  3. 3.アメリカ サン・ディエゴ州立大学: ロバート・クインビー准教授
  4. 4.アメリカ ロス・アラモス国立研究所: プルゼメク・ウォズニアク博士
  5. 5.アメリカ メリーランド大学カレッジパーク校: スチュアート・ヴォーゲル教授
  6. 6.アメリカ ウィスコンシン大学ミルウォーキー校: デイヴィッド・カプラン教授
  7. 7.日本 東京工業大学: 河合誠之教授
  8. 8.台湾 台湾国立中央大学: 饒兆聰博士
  9. 9.インド インド宇宙物理学研究所バンガロール: G. C. アヌパマ教授
  10. 10.インド インド天文学天体物理学大学連携センター: ヴァルム・バレラオ教授
  11. 11.イスラエル ワイツマン科学研究所:エラン・オフェク博士
  12. 12.スウェーデン アルバノヴァ大学センター: アリエル・グーバー教授
  13. 13.ドイツ フンボルト大学: マレク・コワルスキー教授

問い合わせ先

国際部国際事業課

Email : kokuji.jsps@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7690

常識を覆し、光で電気の流れを止める

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常識を覆し、光で電気の流れを止める
―10兆分の1秒の高速光スイッチングデバイスに道―

要点

  • これまで困難とされていた光による金属から絶縁体への変化を実現
  • 梯子構造を有する銅酸化物超伝導体の特異な電気の流れを利用
  • 1ピコ秒以内で絶縁体⇄金属の双方向光スイッチ動作に成功

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の深谷亮産学官連携研究員(現高エネルギー加速器研究機構特任助教)、沖本洋一准教授、腰原伸也教授、同応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授、東北大学大学院理学研究科の石原純夫教授らの研究グループは、銅酸化物超伝導体中の電気の流れをレーザー光でオフ・オンする方法を発見した。

光を使って金属的物質(導体)を絶縁体にする(電気の流れを止める)ことは困難とされていたが、梯子(はしご)構造を有する材料の特異なホールペアの動きを利用して、光励起による電気の流れのオフ・オンを初めて実現した(「隠れた絶縁体状態」[用語1]と呼ばれる)。

さらに光パルス列を対象試料に照射することで、室温を含む広い温度域で1ピコ(1ピコは1兆分の1)秒以内に絶縁体⇄金属の変化を双方向で切り替えることにも成功した。これにより、室温かつ10兆分の1秒以下で超高速動作する次世代光スイッチング[用語2]デバイス開発へ道を拓くことが期待される。

研究成果は10月20日発行の英国科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)」オンライン版に掲載される。

背景

光を利用して物質中の電子の動きを自在に制御する技術、および物質の光学的・磁気的・電気的性質などを光で変化させる光機能性材料の開発・探索研究が世界中で精力的に行われている。電気的には実現不可能な応答速度で物質の特性を高速に切り替えられれば、次世代の高速光スイッチングデバイスへの応用展開が期待されるためである。

とりわけビッグデータの取り扱いなどに向けた超高速通信、大規模計算のための新デバイスへの要請が、この数年高まっている。このような要請を背景に、特に光キャリアドーピング[用語3]技術を利用した電気伝導性の光制御は高速かつ非接触で電気的な性質を変換できるため、光スイッチングデバイスとして応用展開する上で単純かつ最も適した方法であると考えられ、期待されている。

しかし、一般的には、物質に照射された光エネルギーは電子の数や運動エネルギーを増やす方向に変換されるため、物質の電気伝導性は必然的に増加する(図1(a)-1の変化)。そのため、逆に光を使って動いている電子の流れを抑制し、金属から絶縁体へと変化(図1(a)-2の変化)させることは常識的に困難であると認識されていた。したがって光による金属から絶縁体への変化は、この常識を根底から覆す新概念であり、その現象を発見するためには、最先端の光源を利用した光機能性材料の探索的研究が必要だった。

(a)光を使った電気特性制御のスキーム、(b)光で生成した絶縁体状態および(c)金属状態におけるホールペアの流れ。

図1. (a)光を使った電気特性制御のスキーム、(b)光で生成した絶縁体状態および(c)金属状態におけるホールペアの流れ。

研究成果

東工大の深谷研究員(現高エネ機構)らの研究グループは、笹川准教授らが合成した金属状態の梯子型銅酸化物結晶(Sr4Ca10Cu24O41=ストロンチウム・カルシウム・銅酸化物)の電気伝導性を0.1ピコ秒の時間幅を持つパルスレーザー光照射で瞬時に抑制することに成功した。これまで光照射では実現困難とされてきた、金属から絶縁体へ変化する(通常の光伝導ではなく、光抵抗とも呼べる)新奇な現象を発見した。

対象の物質は高温超伝導の舞台である銅と酸素で構成されたCuO2ユニットが梯子状に連なった構造を有しており、低次元銅酸化物で唯一超伝導を示すことが知られている。この物質の金属状態は、電気伝導を担うホール(正孔)がペアを組み、結晶中をペアを組んだ状態でお互いに位相(間隔)をそろえて動いていると推測され (図2(c))、この波としての周期的性質が高温超伝導発現の鍵を握っていると考えられている。したがって、ホールの数とホールペアの動きをコントロールすることにより、電気伝導性を制御することが可能となる。

この物質では、ホールペアの波としての周期的性質が強い金属状態とその性質が弱い絶縁体状態への変化が、赤外線領域の大きな反射率の増大によって特徴づけられる。そこで同研究グループは、0.1ピコ秒の光パルスを使ったポンプ―プローブ分光と呼ばれる測定手法[用語4]を用いて、金属状態の試料における光照射後の反射率スペクトルの変化を測定した。

同研究グループが先行して行った絶縁体の試料を使った実験(掲載論文: Journal of Physical Society of Japan, 82, 083707 (2013))では、光キャリアドーピングにより物質中のホール数の増加を反映して、光照射直後に反射率の増大(絶縁体から金属への変化)が観測される。しかし、金属状態で観測された反射率スペクトルの変化はそれとは全く逆の、反射率が減少する応答(金属から絶縁体への変化)を示した(図2(a))。

この特異なスペクトル変化を理解するため、石原教授らの協力のもと新しい理論モデルを構築した。このモデル計算で得られた光照射後の反射率スペクトルにおいても、実験結果と同様に赤外線域の反射率が減少した(図2(b))。

(a)実験および(b)理論計算により得られた光照射前後の反射率スペクトル。

図2. (a)実験および(b)理論計算により得られた光照射前後の反射率スペクトル。

この現象は、ホールペアの周期性が光キャリアドーピングで生成されたホールの影響で壊され、伝導性が抑制されることを意味しており、この状態は、温度や化学的な元素置換では実現し得ない「隠れた絶縁体状態」であることが明らかとなった(図1(b))。

同研究グループによる先行研究及び今回観測された光による絶縁体―金属間の変化を利用して、光パルス列を用いた単一試料による絶縁体⇄金属の双方向光スイッチングを試みた。具体的には、第一光パルスで図1(a)-1の変化を起こし、生成された金属状態下にさらに第二光パルスを照射することで図1(a)-3の変化を起こす。図3(a)は金属状態の試料に単一の光パルスを照射したとき、および図3(b)は第一パルスで生成した金属状態にさらに第二光パルスを照射したときの赤外線域の反射率の時間変化を示している。

両者とも非常に類似した変化を示すことから、光で生成した金属状態に光を照射してもそのホールペアの伝導性が抑制されることが明らかとなり、光パルス列を用いて、0.1ピコ秒での単一方向スイッチングに加えて、1ピコ秒以内で絶縁体⇄金属の双方向光スイッチングにも成功した。またこの双方向光スイッチング現象は低温から室温にわたる広い温度領域で実現可能であることを示した。

(a)金属状態の試料に単一の光パルスを照射したとき、及び(b)第一光パルスで生成した状態にさらに第二光パルスを照射したときの反射率の時間変化。光照射直後(0ピコ秒)の塗りつぶされている応答が、金属から絶縁体の変化に対応している。(b)では、第一光パルスによる反射率変化を除いている。
図3.
(a)金属状態の試料に単一の光パルスを照射したとき、及び(b)第一光パルスで生成した状態にさらに第二光パルスを照射したときの反射率の時間変化。光照射直後(0ピコ秒)の塗りつぶされている応答が、金属から絶縁体の変化に対応している。(b)では、第一光パルスによる反射率変化を除いている。

今後の展開

ホールペアの動きを光制御することにより実現する「隠れた絶縁体状態」を利用した絶縁体⇄金属双方向光スイッチングは、これまでの概念を覆す新しい光制御機構である。このような原理を確立することにより、新規な光制御技術・光機能性物質の開発に明確な指針を与えるだけでなく、室温を含む広範囲の温度域で高速に動作する次世代光スイッチングデバイスへの応用展開に向けて大きく前進すると期待される。

本成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」研究領域における研究課題「光技術が先導する臨界的非平衡物質開拓」(研究代表者:腰原伸也、平成21年度~平成26年度)によって得られたものであり、東京工業大学応用セラミクス研究所笹川崇男准教授、東北大学 大学院理学研究科橋本博志博士課程3年、石原純夫教授らとの共同研究である。

用語説明

[用語1] 隠れた絶縁体状態 : 温度による相転移では到達できない、光励起でのみ実現可能な物質の状態。2011年、今回の共同研究者である腰原教授らによって、ペロブスカイト型構造のマンガン酸化物薄膜で「隠れた物質相」が初めて発見された。

[用語2] 光スイッチング : 光信号を電気信号に変換することなく、光により直接オン・オフを選択する方法。

[用語3] 光キャリアドーピング : 光のエネルギーを利用して物質中に電子や正孔(ホール)を注入する方法。

[用語4] ポンプ―プローブ分光法 : ポンプ光(励起光)を物質に照射することで起こる電子状態や構造の変化を計測するため、続けてプローブ光(計測光)を物質に照射してその反射率や透過率の変化を調べる計測手法。ポンプ光とプローブ光の間の時間間隔を変えることによって、物質の特性が変化していく様子をスナップショットのように刻々と追跡することが可能である。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Ultrafast electronic state conversion at room temperature utilizing hidden state in cuprate ladder system
著者 :
R. Fukaya, Y. Okimoto, M. Kunitomo, K. Onda, T. Ishikawa, S. Koshihara, H. Hashimoto, S. Ishihara, A. Isayama, H. Yui, and T. Sasagawa
DOI :

問い合わせ先

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
特任助教 深谷亮

Email : ryo.fukaya@kek.jp
Tel : 029-879-6185 / Fax : 029-879-6187

東京工業大学 大学院理工学研究科 物質科学専攻
教授 腰原伸也

Email : skoshi@cms.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-2449

東北大学 大学院理学研究科 物理学専攻
教授 石原 純夫

Email : ishihara@cmpt.phys.tohoku.ac.jp
Tel / Fax : 022-795-6436

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東北大学 大学院理学研究科
特任助教 高橋亮

Email : r.takahashi@m.tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-5572 / Fax : 022-795-5831

服部祥平助教が日本地球化学会奨励賞を受賞

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9月17日に横浜国立大学で行われた2015年度日本地球化学会第62回年会において、本学大学院総合理工学研究科化学環境学専攻の服部祥平助教が、奨励賞を受賞しました。

この賞は、地球化学の進歩に寄与するすぐれた研究をなし、なお将来の発展を期待しうる、満35才未満の日本地球化学会会員に送られる賞です。

日本地球化学会会長と受賞者の集合写真(服部助教は左端)
日本地球化学会会長と受賞者の集合写真(服部助教は左端)

  • 受賞題目
    「硫化カルボニルの硫黄同位体情報を用いた成層圏硫酸エアロゾルの生成過程に関する研究」

今回の受賞を受けて、服部助教は以下のようにコメントしています。

この度、日本地球化学会より奨励賞をいただきました。大学1年生の時に地球化学という講義で興味を抱き、あれこれ回り道をしながらも、現在に至るまで地球化学を続けています。たくさんの憧れの先生方と出会った「ふるさと」である地球化学会から栄誉ある賞をいただけたことは本当に嬉しいです。今後もより一層努力し、研究に精進する所存です。この賞をいただくにあたり、ご指導及び共同研究をしていただいてきた本学の吉田尚弘教授、上野雄一郎准教授にはこの場を借りて御礼申し上げます。

服部助教による日本地球化学会でのプレゼンテーション

服部助教による日本地球化学会でのプレゼンテーション

日本地球化学会会長から表彰状を受け取る服部助教

日本地球化学会会長から表彰状を受け取る服部助教

問い合わせ先

大学院総合理工学研究科 化学環境学専攻 服部祥平

Email : hattori.s.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5506

地球初期の大気環境復元に手がかり―二酸化硫黄の紫外吸収スペクトルを全同位体で決定―

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概要

東京工業大学理工学研究科の上野雄一郎准教授らは、四つすべての硫黄安定同位体を含む二酸化硫黄(SO2)の同位体分子種(32SO233SO234SO2および36SO2)の紫外吸収スペクトルを世界ではじめて決定した。この同位体分子種情報を用いれば、25億年以上前の堆積物に残された同位体異常を用いて、地球初期の大気化学過程を解読することができる。

背景

硫黄は四つの安定同位体を持ち、それぞれの存在度は32S(95.05%)、33S(0.75%)、34S(4.21%)および36S(0.02%)である。最も多い32Sに対する希少な三つの同位体比の存在比率は天然ではわずかに変化する。通常、様々な物理化学過程において33Sの濃縮度は34Sに対しておよそ半分となる。

しかし、例外的に紫外線によるSO2分子の光化学反応はこのルールが破られることが知られており、同位体異常を生じる。無酸素大気中では、火山から供給されたSO2分子がこの硫黄の同位体異常を獲得し、その異常は各種の硫黄エアロゾルを通して海洋から堆積物中へと輸送される。

この硫黄同位体異常は25億年以上前の堆積物に限って発見されており、当時の大気が無酸素状態であったことを意味している。同位体異常を作る大気条件をさらに詳しく調べれば、初期大気の組成や、その変動について、より多くの情報が得られると期待されている。

しかし、これまでの古大気研究では主に33Sの同位体異常に焦点が当てられたものであり、存在度の最も低い36Sの同位体異常が持つ情報は十分に引き出されていなかった。

成果

今回、上野准教授らは初めて、36SO2を含むすべてのSO2同位体分子種について、それらの紫外吸収スペクトルを決定した。この情報を使うことにより、いかなる環境因子が同位体分別のパターンを変えるのかを予測することが可能となった。また、同位体分子種ごとのスペクトルの差は非常に小さいために高精度の分析が必要となるが、今回は計測法を改良することにより、同位体分別を解析するのに十分な高精度のスペクトルデータを取得することに成功した。

計測の結果、 SO2分子の光解離が引き起こす同位体異常は、太陽光と同様のスペクトルをもつ紫外線が照射されたと仮定すると、地層に記録されている33Sおよび36Sの異常と良く一致することが明らかになった。さらに、同位体分別のパターンは大気SO2濃度などの環境因子によって変化することが示された。従って、地層に記録された同位体異常から、当時の大気環境(潜在的にはSO2濃度、大気全圧および酸化還元状態)を復元することが可能になると期待される。

展望

同位体分別を左右する大気化学的な要因がSO2分子の反応に由来することが明らかになったことで、今後はこれらの環境因子がどれだけの同位体異常を引き起こすかを実験的に明らかにすることで、地球初期大気のSO2濃度、大気全圧および酸化還元状態を定量的に推定することが可能になると期待される。

SO2同位体分子種ごとの吸収スペクトル。

図1. SO2同位体分子種ごとの吸収スペクトル。

同位体ごとに吸収波長がシフトしていると同時に吸収断面積の大きさも異なる。そのため、照射される紫外線のスペクトルに応じて、それぞれの同位体分子種の光解離反応速度が変わり、同位体異常を生じる原因となる。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Geophysical Research, Atmosphere
論文タイトル :
Photoabsorption cross-section measurements of 32S, 33S, 34S and 36S sulfur dioxide from 190 to 220 nm
著者 :
Endo Y, Danielache S, Ueno Y, Hattori S, Johnson MS, Yoshida N, Kjaergaard HG
DOI :
掲載誌 :
Origins of Life and Evolution of the Biosphere
論文タイトル :
Decoding redox evolution before oxygenic photosynthesis based on the Sulfur-Mass Independent Fractionation (S-MIF) record
著者 :
Ueno Y, Danielache S, Yoshida N
DOI :

問い合わせ先

大学院理工学研究科地球惑星科学専攻
准教授 上野雄一郎

Email : ueno.y.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2618

結晶の鎧まとう酵素?!―酵素の簡便な合成と長期保存を一挙に実現―

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ポイント

  • 酵素の合成から単離、保護までを細胞内で一貫して完結
  • 酵素をタンパク質結晶の鎧に包むことで、長期安定保存を達成
  • 不安定な酵素保存やタンパク質のリサイクル触媒、経口薬、ワクチンへの応用期待

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の安部聡助教、上野隆史教授と京都工芸繊維大学の森肇教授らの研究グループは、細胞内で生じるタンパク質結晶化現象[用語1]を利用し、酵素の合成、単離保護までを一貫して細胞内で行う手法を開発した。これまで、酵素の産業利用で問題とされていた、煩雑な操作性と長期安定保存の困難さを一挙に解決する技術として期待される。

具体的には、昆虫ウィルス[用語2]が細胞感染時に作り出す多角体[用語3]と呼ばれるタンパク質が細胞中で結晶化するのと同時に、同じ細胞で、多角体結晶に親和性の高いタグペプチドを組み込んだ酵素を作り出し、結晶に内包させた。さらに、多角体のアミノ酸置換によって、酵素の活性を保持したまま、結晶から放出することに成功した。

一連の反応は単一の細胞内で完結されるため、タンパク質精製などの煩雑な操作は完全に不要となり、熱やpH変化に弱い酵素や低収量の酵素合成に利用できるだけでなく、結晶からの放出制御を利用し、経口薬やワクチンへの応用が期待される。

今回の成果は、内閣府の最先端・次世代研究開発支援プログラムの支援によるもので、化学・材料分野において最も権威のある学術誌の一つである「アドバンスドマテリアルズ(Advanced Materials、先端材料誌)」のオンライン版で10月23日に公開された。

研究背景

酵素は、生体内で様々な化学反応を温和な条件で高選択、高効率で行うタンパク質であり、工業的にも注目を集めている。しかし、多くの酵素はpHの変化や溶媒環境に活性が大きく影響され、活性を維持したまま長期保存することは困難である。近年、酵素の耐熱向上や有機溶媒中での安定性や活性向上のために、メソポーラスシリカやリポソームなどの高分子材料への固定化が注目を集めているものの、単離精製した酵素を共有結合や物理吸着により固定化するため、精製や固定化反応の煩雑な操作が必要となる。これらの問題点を解決するため、酵素の合成から固定化までを簡便かつ大量に行い、酵素の活性を維持したまま長期にわたって保存可能な酵素固定化技術の開発が求められていた。一方、昆虫ウィルスは自然界で自らを保護するために多角体を形成し、その中にウィルス粒子を内包することが知られている。本研究グループはこの現象に着目し、カイコに感染する昆虫ウィルスが作る多角体結晶へウィルスの代わりに様々なタンパク質を内包することを試みてきた。これらの研究を踏まえ、昆虫ウィルスの多角体結晶形成の現象を上記の課題克服にうまく利用できるのではないかと考えた。

研究内容

本研究グループは、昆虫細胞内で合成されるタンパク質結晶である多角体結晶のウィルス内包機構に着目し、多角体結晶へ細胞内で別途合成した酵素を内包し、酵素の安定保存と多角体の溶解を利用した酵素の放出制御を試みた。多角体結晶は、ウィルス保護という本来の機能のため、乾燥、有機溶媒に高い耐性を示し、pH2-10の緩衝溶液中でも溶解しない高い安定性を有しているため、内部に固定化した酵素の長期保存が期待できる。

多角体は、結晶を構成する多角体タンパク質を培養細胞で発現するとウィルスを含まない結晶を合成することができる(図1a, b)。多角体タンパク質とリン酸化酵素(PKC)を細胞内で同時に合成することにより、自発的にPKCが固定化した多角体を合成した(図1c)。さらに、遺伝子工学的にアミノ酸置換を施し、pH8.5で溶解し、PKCを放出する多角体変異体を合成した。PKC固定化多角体の酵素活性とこれらを乾燥状態で保存した際の酵素の安定性について評価した。

(a)細胞内で合成される多角体結晶、(b)多角体結晶の走査型電子顕微鏡像、(c)酵素内包多角体の細胞内合成

図1. (a)細胞内で合成される多角体結晶、(b)多角体結晶の走査型電子顕微鏡像、(c)酵素内包多角体の細胞内合成

(1)酵素固定化タンパク質結晶の合成

多角体タンパク質を昆虫細胞内で合成するのと同時に、多角体タンパク質と高い親和性をもつタグペプチド[用語4]を組み込んだPKCを同じ細胞内で合成することにより、多角体内部へのPKCの内包を行った。野生型では、pH8.5で酵素は放出されないのに対し、多角体の安定性に大きく関与していると思われるアルギニン13をアラニンやリシンに置換したR13A、R13K変異体[用語5]は、pH8.5で溶解し、固定化している酵素を放出することがわかった(図2)。

PKC内包多角体の溶解による酵素の放出量

図2. PKC内包多角体の溶解による酵素の放出量

(2)酵素活性反応

PKCを固定化した多角体を用いてpH7.5とpH8.5の条件下でペプチドのリン酸化反応を行った。また、多角体に固定化したPKCの安定性を評価するため、PKC固定化多角体を1週間風乾した後の活性を測定した。その結果、R13A、R13K変異体は、pH8.5で活性を維持したまま酵素を放出すること、多角体に固定化していないPKC(free PKC)が失活する乾燥状態でも活性を維持できることがわかった(図3)。

以上より、多角体のアミノ酸置換によりpH8.5で溶解する結晶を作成し、内包した酵素を放出することに成功した。多角体に固定化されたPKCは乾燥に対しても活性を維持したまま保存可能であることがわかり、多角体がタンパク質の固定化材料として有用であることを示した。

(a)PKC内包多角体の酵素活性、(b)乾燥前後での活性評価

図3. (a)PKC内包多角体の酵素活性、(b)乾燥前後での活性評価

今後の展開

今回の研究では、結晶を形成する多角体タンパク質と酵素を一つの細胞内で同時に合成することによって酵素を固定化した多角体の合成に成功した。したがって、タンパク質精製や材料への固定化といった煩雑な操作が不要であるため、不安定な酵素や低収量のタンパク質合成に利用できる。さらに、多角体結晶に内包したタンパク質の安定保存と必要な時に結晶を溶解し、内包した酵素やタンパク質放出が可能なことから経口薬やワクチンへの応用が期待される。

用語説明

[用語1] 細胞内タンパク質結晶化現象 : タンパク質結晶は通常、タンパク質と結晶化を促進する沈殿剤とを混合することにより結晶化を行う。一方、細胞内タンパク質結晶は、タンパク質自身の安定化や細胞内分子の貯蔵や運搬のために、細胞内で自発的に結晶を形成する。1960年代からこの現象は確認されているものの、細胞内での詳細な結晶化機構は未だ明らかになっていない。

[用語2] 昆虫ウィルス : 本研究では昆虫ウィルスの一種、細胞質多角体病ウィルスを研究対象としている。このウィルスは二本鎖核酸RNAを有する球状ウィルスで大きさは直径70nm程である。このウィルスに昆虫が感染すると細胞質に多角体タンパク質からなる結晶が合成され、ウィルス自身が内部に封入される。

[用語3] 多角体 : 細胞質多角体病ウィルスの感染後期に合成される多角体タンパク質が自発的に集合し結晶化したタンパク質の構造体である。水中、有機溶媒中においても結晶が溶解しない高い安定性を有している。pH10以上のアルカリ溶液にのみ溶解し、内部に固定化していたウィルス粒子を放出する。

[用語4] タグペプチド : 多角体結晶に酵素やタンパク質を内包させるためのペプチド。内包する酵素やタンパク質のN末端に多角体タンパク質の一部分の30残基からなるペプチド配列を組み込むことにより多角体に内包できる。

[用語5] アルギニン13をアラニンやリシンに置換したR13A、R13K変異体 : 低いpHで多角体を溶解させるために作成した変異体結晶。多角体タンパク質の13番目のアルギニンは、周辺のタンパク質と水素結合を形成しており、多角体の安定化に重要な役割を果たしている。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials
論文タイトル :
Design of Enzyme-Encapsulated Protein Containers by In Vivo Crystal Engineering
著者 :
Satoshi Abe, Hiroshi Ijiri, Hashiru Negishi, Hiroyuki Yamanaka, Katsuhito Sasaki, Kunio Hirata, Hajime Mori,* and Takafumi Ueno*
DOI :

問い合わせ先

東京工業大学
大学院生命理工学研究科生体分子機能工学専攻
教授 上野隆史

Email : tueno@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5844 / Fax : 045-924-5806

京都工芸繊維大学
理事・副学長(応用生物学系教授) 森肇

Email : hmori@kit.ac.jp
Tel : 075-724-7005 / Fax : 075-724-7100

取材申し込み先

東京工業大学 広報センター

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

京都工芸繊維大学企画課広報室

Email : koho@jim.kit.ac.jp
Tel : 075-724-7016 / Fax : 075-724-7029

タンパク質だけの汎用蛍光バイオセンサーを開発

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概要

東京工業大学資源化学研究所の上田宏教授と鍾蝉伊(チュン チャンイ)研究員らは、二つの蛍光タンパク質と抗体[用語1]断片を巧妙に用いた、汎用性の高いバイオセンサーの構築に成功した。

この手法を用いることで、細胞内外の多くのタンパク質の濃度を、混ぜて蛍光色(スペクトル)を測定するだけで簡便迅速に測ることが可能となり、基礎的な生物学の実験から病気の診断まで、幅広い分野での応用が期待される。

研究成果

抗体は、我々の体内でさまざまな外敵分子(抗原)を認識・結合し我々を守ってくれるタンパク質である。しかしこれまで、試験管の中に入れた抗体が抗原に結合したかどうかを知ることは、手間暇をかけて実験するか、大変高価な測定機を用いて検出しない限り不可能であった。上田教授らは、この抗体断片に緑色蛍光タンパク質「GFP」[用語2]の色が異なる二つの変異体を結合させ、血清アルブミン(SA)[用語3]をその場で検出できるバイオセンサーを作ることに成功した。

これら二つの蛍光タンパク質(シアン蛍光タンパク質「CFP」と黄色蛍光タンパク質「YFP」)は、両者の間の距離が遠い時には水色(シアン)の蛍光を発するが、距離が短いと、蛍光共鳴エネルギー移動[用語4]と呼ばれる機構により黄色の蛍光を発するようになる。これらのタンパク質を抗体の抗原結合部位を形作る二つの断片のそれぞれに注意深く結合させることで、抗原であるSAの有無で顕著に蛍光色が変化することを見いだした。このセンサーはタンパク質のみからできているにも関わらず、サンプルと混ぜて蛍光色を測るだけで診断に十分な感度でSAが検出できる。今後用いる抗体を変えることで様々なタンパク質の検出に応用できると考えられる。

今回作られたバイオセンサーによる検出の模式図。別名オープンフラワー免疫測定法。

図. 今回作られたバイオセンサーによる検出の模式図。別名オープンフラワー免疫測定法。
Copyright (2015) American Chemical Society.

今後の展開

抗原タンパク質と混合し、蛍光を測定するだけでその定量が可能になる今回の技術は、検出に特殊な技術を要しないことから生物学や生物工学における基礎的な実験法としての利用のみならず、各種のタンパク質、例えば食品中のアレルゲンや体液中のバイオマーカーの迅速検出に大いに役立つと考えられる。

用語説明

[用語1] 抗体 : 我々の体内で外敵から身を守ってくれるタンパク質。抗原結合部位でターゲット(抗原=外敵)を認識し、結合する。

[用語2] 緑色蛍光タンパク質(GFP) : 下村脩氏が発見された、オワンクラゲ由来のタンパク質。変異導入により、多数の発光色の異なる変異体が作られている。

[用語3] 血清アルブミン(SA) : 血中総タンパク質の約6割を占める。この濃度は栄養状態の良い指標となることが知られている。

[用語4] 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET) : 二つの蛍光色素が近くに位置する時、短波長の色素を励起してもエネルギーが移動して長波長の蛍光が観察される現象。

論文情報

掲載誌 :
Analytical Chemistry
論文タイトル :
Open flower fluoroimmunoassay: a general method to make fluorescent protein-based immunosensor probes
著者 :
鍾 蝉伊1、牧野良史1、董 金華2、上田 宏2
所属 :
1東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻、2資源化学研究所
DOI :

問い合わせ先

資源化学研究所プロセスシステム工学部門
教授 上田宏

Email : ueda@res.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5248

TAIST-Tokyo Tech 2014年度修了式開催

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8月31日、タイ王国パトゥムタニー県タイランドサイエンスパーク内のタイ国立科学技術開発庁(NSTDA)において、TAIST-Tokyo Techの2014年度修了式が挙行され、33名の学生が修了証書を授与されました。当日は多数の来賓のご列席を賜り、盛大に修了生の門出を祝しました。

丸山理事、オムジャイ副長官と記念撮影
丸山理事、オムジャイ副長官と記念撮影

TAIST-Tokyo Tech(TAIST)は、タイ政府からの要望により、理工系分野での高度な「ものつくり人材」の育成と研究開発のハブを目指して、2007年に設立された国際連携大学院です。タイの先端研究機関であるNSTDAouter、タイの4大学(キングモンクット工科大学ラカバン校outerキングモンクット工科大学トンブリ校outerタマサート大学シリントーン国際工学部outerカセサート大学outer)、および東工大の連携により運営され、2016年には開講10周年を迎えます。今回の修了生33名を加え、これまでに163名の修了生を輩出しました。

NSTDAのオムジャイ副長官

NSTDAのオムジャイ副長官

修了式では、NSTDAからオムジャイ副長官、本学から丸山俊夫理事・副学長、タイの4大学から代表者が出席し、修了生たちに祝辞を述べました。また、在タイ日本国大使館から恩賀一一等書記官のご出席を賜り、修了生へのお祝いの言葉を頂戴しました。

修了生たちは、丸山理事からプログラム修了証書を、オムジャイ副長官から記念品を授与されました。また、式典の最後には、修了生およびTAIST協力教員らが集合写真に納まりました。修了生たちの進路は、東工大を含む博士課程への進学、民間企業や政府機関への就職など様々です。TAISTで学んだ知識や経験を活かし、大いに活躍することが期待されます。

本学の丸山理事・副学長

本学の丸山理事・副学長

在タイ日本国大使館の恩賀一等書記官

在タイ日本国大使館の恩賀一等書記官

修了生(前2列)と協力教員ら
修了生(前2列)と協力教員ら

東工大基金

このプログラムは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

国際部国際事業課 TAIST事務室
Tel : 03-5734-2237
Email : taist@jim.titech.ac.jp


大隅良典栄誉教授が平成27年度文化功労者に

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本学フロンティア研究機構 大隅良典栄誉教授が、平成27年度文化功労者に選ばれました。文化功労者とは、文化の向上発達に関し特に功績顕著な者を顕彰するものです。

大隅栄誉教授は、細胞が栄養環境などに適応して自らの細胞内のタンパク質を分解する自食作用「オートファジー」に関して、その分子機構や多様な生理的意義を解明する優れた業績を上げました。オートファジー研究を生命科学研究の先端的研究へと牽引し、細胞生物学の発展に多大なる貢献をしました。

大隅良典栄誉教授
大隅良典栄誉教授

大隅良典栄誉教授コメント

この度、文化功労者として顕彰されることとなり、誠に有り難く存じます。私は中々先が見えにくい基礎研究の道を一貫して歩んでまいりました。そして酵母の液胞の研究からオートファジーという細胞内タンパク質分解の理解を深めることができました。ようとして全容のみえない奥の深い課題に、じっくりと取り組むことができたことを幸運に思っております。これまでの研究を支えて頂いた方々のご支援と、日々の研究をともにした優れた共同研究者たちに心から感謝の意を表します。今後、若い次の世代が、残された課題に挑戦し、病気の克服などへと展開されることを心から願っています。またそのような環境作りに微力を尽くしたいと思います。

問い合わせ先

広報センター

Email : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

末松安晴栄誉教授・元学長が平成27年度文化勲章を受章

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末松安晴栄誉教授・元学長が、平成27年度文化勲章を受章することが決定しました。文化勲章は、科学技術や芸術など、文化の発達に卓絶した功績のある者に授与される勲章です。

末松安晴栄誉教授・元学長
末松安晴栄誉教授・元学長

末松安晴栄誉教授は、光通信工学の分野において、光ファイバーの伝送損失が最小となる波長の光を発し、かつ、高速に変調しても波長が安定した動的単一モードレーザーを実現しました。現在のインターネット社会を支える大容量長距離光ファイバー通信技術の確立に大きく寄与するなどの優れた業績を挙げ、本領域の発展に多大な貢献をしました。

末松安晴栄誉教授コメント

この度、文化勲章を拝受する栄に浴し、歴代ご受章された泰斗各位の末席をけがすことになり、恐縮致しております。

ここに改めて、お導きを賜った師の恩、人類の叡智を授かった古典の恩、革新の流れに生まれ合わせた時の恩、ご支援を頂いた研究費の恩、その時々の段階で卓越した貢献をされた弟子の恩、切磋琢磨させていただいた仲間の恩、父母兄弟妻子供達など家族の恩、そして文化を育み伝承して倶に歩む社会の恩、を噛みしめ、深甚の感謝に浸っております。

研究概要

単一波長・単一モード光ファイバー通信

図1. 単一波長・単一モード光ファイバー通信

光は人類が制御出来る最高周波数の電磁波で、大容量の通信には電波よりも格段に有利であります。光通信の研究が日米英を中心に行われました中で、大容量の情報を長距離にわたって世界中に隈なく伝送できそうなところに光ファイバー通信の本質が見定められました。そしてこの本質を具現するために、

1.
長距離伝送のために、光ファイバーの損失が最低になる波長1.5ミクロン帯(この波長帯は研究を進める途中で明確になった)で働き、
2.
単一モード光ファイバーの伝搬定数分散による伝送帯域制限の問題を乗り越えるために、単一波長で安定に動作し、
3.
さらに、多波長の通信に対応するために、波長が同調により可変できること、

の3つの特徴を同時に持った、動的単一モードレーザー(DSMレーザー)の開拓に専念しました。

位相シフト分布帰還(DFB)レーザー ~温度同調の動的単一モード(DSM)レーザー
図2.
位相シフト分布帰還(DFB)レーザー
~温度同調の動的単一モード(DSM)レーザー

まず、GaInAsP/InP混晶の材料を開拓して、光ファイバーの損失が最低になる波長1.5ミクロン帯において働く半導体レーザーを実現し、その室温連続動作を達成しました。この間に、二つの分布反射器を半波長だけ位相シフトさせて結合させる単一モード共振器を発案しました。また、光回路を一体集積しうる集積レーザーを実現しました。こうした準備の下に、1980年に、1.5ミクロン帯の材料を用い、分布反射器を一体化した集積レーザーを創り、高速直接変調の下でも安定に単一モード動作する動的単一モードレーザーを実現し、室温連続動作に成功しました。このレーザーは温度を変えても動作モードが安定なので、波長を温度で同調することができました。こうして、温度同調の動的単一モードレーザーが誕生しました。他方では、日米を始めとする企業において、光ファイバー、光回路、光デバイス、変調方式やシステム構成、そして電子デバイスなどの研究開発が進み、動的単一モードレーザーの実現が一つの契機となって、大容量長距離光ファイバー通信技術が開拓され、1980年代の後半から商用化が進みました。

この中で、1974年に発案して1983年に実証した位相シフト分布帰還(DFB)レーザーは、温度同調の動的単一モードレーザーで、生産の歩留まりが高く、1990年の初頭から長距離用の標準レーザーとして一貫して広く商用され、筆者は一応の安堵を味わいました。これに対して、筆者が最終形態と考えた電気同調の動的単一モードレーザーは、1980年に提案して1983年に実証した波長可変レーザーで、このレーザーは使われるまでに随分長くかかりました。この波長可変レーザーが、関係者の努力で開拓され、高密度波長分割多重(DWDM)システムにおいて商用されるようになったのは2004年頃で、2010年頃には本格的に活用されるようになりました。このことを知ったのは、ごく最近の3-4年前のことで、やっと自分の仕事に納得できた次第であります。

波長可変レーザー ~電気同調の動的単一モード(DSM)レーザー
図3. 波長可変レーザー ~電気同調の動的単一モード(DSM)レーザー

光通信用半導体レーザーの研究でもう一つ特記したいのは、伊賀健一前東工大学長が1988年に開拓したVCSELと呼ばれる半導体レーザーであります。このレーザーも適切な設計の下では動的単一モードレーザーとなります。小電力動作を特徴として、本研究の長距離通信を補完し、小中距離光ファイバー通信用として内外で広く用いられています。

本研究の社会的な貢献

1.5μm波長帯の大容量・長距離光通信は、動的単一モードレーザー、DSMレーザー、を光源とし、光デバイスや変調方式などの研究・開発につれて発展しました。本研究で開拓した温度同調のDSMレーザーは、陸上の幹線システム(1980後期)や大陸間海底ケーブル(1992)の長距離用に商用化されて、インターネットの発展を支えて今日に至っています。さらに2004年ごろからは、電気同調のDSMレーザー、波長可変レーザー、が高密度波長分割多重(DWDM)システムの高度化やコヒーレント通信の光源に用いられています。

光ファイバー当たりの伝送容量の経年増加
図4. 光ファイバー当たりの伝送容量の経年増加

現在、光ファイバー通信は地球を数万回取り巻く高密度の情報ネットワークを形成しており、中距離のイーサーネット等にも広く用いられています。さらに、FTTHによる家庭の光回線では、局から家庭への回線に1.5μm帯のDSMレーザーが用いられています。

こうして光ファイバー通信の情報伝送性能は、それ以前の同軸ケーブルの性能の数十万倍に達し、情報伝送のコストを格段に低下させました。これを反映して、1990年代の中葉には、Googleや楽天などのネットワーク産業が続出しました。光ファイバー通信が進歩してインターネットが発展し、大容量情報の即時伝送が日常的となりました。1960年代の電気通信時代は文明を担う文書などの大容量情報は、書物などとして流布されていました。これに対して、大容量長距離光ファイバー通信の普及は、書物などの大容量情報を即時に双方向で利用することが出来るように成りました。光ファイバ通信の研究は、未来と考えられていた情報通信技術文明をこの世に引き寄せるのに貢献したといえるのではないでしょうか。

略歴

  • 1960年3月
    東京工業大学大学院理工学研究科修了(工学博士)
  • 1960年~1973年
    東京工業大学助手、助教授
  • 1973年~1988年
    東京工業大学教授、工学部長
  • 1989年~1993年
    東京工業大学学長
  • 1992年~1993年
    電子情報通信学会会長
  • 1994年~2000年
    総理府宇宙開発委員会委員
  • 1997年~2005年
    高知工科大学学長
  • 1997年~2005年
    日本学術会議会員
  • 2001年~2005年
    国立情報学研究所所長
  • 2003年~2005年
    文部科学省科学技術・学術審議会会長
  • 2009年~現在
    高知工科大学 顧問
  • 2010年~現在
    公益財団法人 高柳記念財団理事長
  • 2011年~現在
    東京工業大学 栄誉教授
  • 2012年~現在
    公益財団法人 放送文化基金理事長

主な受賞歴

  • 1983年
    ワルデマ-・ポ-ルセン金メダル(デンマーク)
  • 1986年
    デビッド・サーノフ賞(米国)
  • 1989年
    東レ科学技術賞
  • 1993年
    ジョン・チンダル賞(米国)
  • 1994年
    NEC C&C賞
  • 1994年
    放送文化賞
  • 1996年
    紫綬褒章
  • 1997年
    エドワード・ライン賞(ドイツ)
  • 2003年
    文化功労者
  • 2003年
    IEEEエヂュケーション・メダル(米国)
  • 2005年
    中津川市名誉市民
  • 2006年
    瑞宝重光章
  • 2006年
    大川賞
  • 2014年
    日本国際賞
  • 2014年
    東海テレビ文化賞

問い合わせ先

広報センター

Email : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

10月30日16:50 タイトルと本文に誤字がありましたので、修正しました。

シンポジウム「ビジネス価値創出のための成熟度フレームワーク:IT-CMF」

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このたび、東京工業大学社会人教育院では、IVIの統括マネージャーであるMartin Delany氏を迎え、下記の通り講演会を開催することになりました。万障お繰り合わせの上、ご参集ください。

IT-CMFは、インテルによって開発された、企業におけるIT利活用の度合いを、35の重要活用力について、5段階の成熟度で評価するというものです。現在、アイルランド国立メヌース大学にあるIVIで、教育および研究が行われています。

IT-CMFにより、各企業は、IT利活用に関する組織の強みと弱みを知ることができ、検討すべき活用力がどこにあるのかを知り、また成熟度を向上する指針を得ることができます。

概要

日時
2015年11月27日(金) 13:20~16:50 (受付開始 12:50)
場所
参加費
無料
定員
100名(満席となり次第受付を締め切ります)
お申込
お申込受付期間:2015年10月9日(金)~2015年11月25日(水)
お申込方法:氏名、ご所属を記入の上、ivi@kyoiku-in.titech.ac.jpまでご連絡ください。
追って参加のご案内をメールにてお送りします。
そのメールが参加票となります。当日、受付までご提示ください。

スケジュール

13:20
開会
13:25~14:55
Martin Delany氏による講演および質疑(使⽤言語:英語)
14:55~15:10
休憩
15:10~15:50
ケース1:「IT-CMFによるアセスメントの実際」(東京工業大学 飯島淳一)
15:50~16:30
ケース2:「医療機関におけるIT-CMF適⽤の事例と課題」(久留米大学 下川忠弘)
16:30~16:45
「わが国でのIT-CMF普及活動」(IVI日本支部設立準備委員会事務局長 近野章二)
16:45
閉会

シンポジウム「ビジネス価値創出のための成熟度フレームワーク:IT-CMF」 ポスター

問い合わせ先

東京工業大学 社会人教育院 事務室

E-mail : ivi@kyoiku-in.titech.ac.jp
Tel : 03-3454-8722、8867

第11回ACLSグローバルキャリアセミナー(住友商事)開催報告

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東京工業大学 情報生命博士教育院(ACLS)では、学生のキャリア指導の一環として、産業界で活躍されている博士人材を招いて博士取得者のキャリアパスについて語ってもらう場「グローバル・キャリアセミナー」を開催しています。第11回は、日本を代表する総合商社である住友商事株式会社にセミナーをお招きしました。

「情報生命博士教育院」は、生命科学と情報科学の複合領域でグローバルに活躍するリーダー人材の養成を目指して設置された教育組織です。大学院生命理工学研究科、総合理工学研究科、情報理工学研究科の教員が密接に協力して、学際的な教育プログラムを実施しています。

はじめに、人事部採用チーム長の高橋勇氏が、「グローバル企業で働くこと」というテーマで講演しました。総合商社の活動について、「全世界に広がるフィールド」、「幅広い事業領域」および進化する「ビジネスモデル」という観点から説明がありました。

福岡徹氏
福岡徹氏

住友商事では、常に3人に1人が海外で勤務しており、国内勤務であっても海外出張が頻繁に行われているそうです。現場に足を運ぶことで、顧客の本当のニーズを知ることができるとのことです。また、日本の総合商社のビジネスの幅は広く、金属事業部門からメディア・生活関連事業部門まで幅広い分野で、シーズの発掘から商品の流通・販売までをサポートしています。商社については、海外の資源会社と国内メーカーとをつなぐ、橋渡しのようなビジネスを行っているというイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし現在は、ビジネスの各フェーズにおいて、資金だけではなく人も積極的に派遣したり、「事業投資」を積極的に行ったりするなど、新しいビジネスモデルの構築に積極的です。この姿勢が、グローバル企業の真髄といえるでしょう。高橋氏の講演は、「グローバル人材とは異なる環境下で常に成長しつづけることができる人である」という言葉で締めくくられました。

高橋勇氏

高橋勇氏

後半は、本学卒業生である、ネットワーク事業本部の福岡徹氏による「理工系出身者であることの強み」についての講演がありました。福岡氏はまず、世界のビジネスフィールドでは理工系出身者があふれており、理工系出身であることがビジネスにおいて強みになっている、と述べました。実際のビジネスでは、経験や感性ももちろん大切ですが、最近の傾向として、「データ」も重視されるようになってきているそうです。理工系出身者のもつ新しい技術に対する感度と合わせて、データに基づく論理的思考は、今後ますますビジネスの世界で求められるとのことでした。

質疑応答も活発におこなわれました。総合商社の魅力についての質問に対しては、日々戦場ともいえる過酷なビジネスの連続から得る刺激が成長の源泉力となる、という回答とともに、キャリアは自分で作るものである、というアドバイスをいただきました。

住友商事では採用において、「創造性」「情報発信力」および「協働ができること」という3つの資質を重視するそうです。ACLSでは今後も、社会で活躍できる博士人材を輩出していけるよう、色々な取組みを予定しています。

お問い合わせ先

情報生命博士教育院 原田隆
Email : harada@acls.titech.ac.jp

第6回Techカフェ開催報告

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東京工業大学 産学連携推進本部と蔵前工業会は、10月13日、大岡山キャンパス西9号館のコラボレーションルームにて、第6回Techカフェを開催しました。Techカフェは、東工大の技術を紹介し、ベンチャー企業の創出と成長を促進するイベントです。

第6回Techカフェ

産学連携推進本部 下田隆二 本部長代理による開会挨拶

産学連携推進本部 下田隆二 本部長代理による開会挨拶

今回は、 東工大発ベンチャー第72号の株式会社メタジェン 取締役COOの水口佳紀氏に、同社のサービスやビジネスモデルについてご講演いただきました。 同社は、下記2つの技術を組み合わせた「メタボロゲノミクスTM」により、腸内環境を解析し、健康情報の抽出・還元を行っています。

1.
腸内環境を、代謝物レベルで網羅的に調べるメタボロミクス
2.
腸内細菌叢を、遺伝子レベルで網羅的に調べるメタゲノミクス

株式会社メタジェンについての講演
株式会社メタジェンについての講演

また、経口摂取する全てのマテリアルを対象として、これらが与える腸内環境の変動を捉え、分子レベルでのエビデンスを提供しています。さらに、得られた解析データを元に、科学的根拠に基づく腸内環境を標的とした新製品の開発や研究成果の論文化を行っています。

現在立ち上げつつあるビジネスモデルのコアは、

1.
食品会社・製薬会社・畜産会社などを対象としたB2B(企業間での電子商取引)型の受託解析、及び研究デザイン・コンサルティング
2.
個人向けの腸内環境解析サービス

の2つです。

取締役COO 水口佳紀氏

取締役COO 水口佳紀氏

水口COO は、本学大学院生命理工学研究科の大学院生です。従前よりあたためていたビジネス構想を、福田真嗣CEO(慶應義塾大学特任准教授)、山田拓司CTO(本学大学院生命理工学研究科講師)との出会いを通じてブラッシュアップし、「第1回バイオサイエンス・グランプリ」を受賞したのち、メタジェン社は設立されました。

現在は B2B型のビジネスを行っていますが、将来的にはB2C(企業と個人消費者間の商取引)型の受託解析サービスを展開し、万人の健康維持への寄与を目指します。水口COOの講演後は、技術的な側面から今後のビジネスの展開まで、さまざまな観点から活発な質疑応答が行われました。

畠山昭一氏

畠山昭一氏

つづいて、「ショートプレゼン」のコーナーでは、東工大発ベンチャー第60号の株式会社レゾニック・ジャパン 畠山昭一氏より、同社の近況についてご講演をいただきました。第4回Techカフェでもご登壇いただいた同社は、きわめて短時間で物体の剛体特性を計測することができる、独創的な装置を開発しています。 着実にビジネス基盤を築いてきた同社は、今後、より大型の装置(2トン~3トンクラス)や小型の装置(20kg以下)をラインアップに加え、さらなるマーケットの拡大を試みます。

今回のTechカフェへの参加者は35名でした。講演の終了後も20時すぎまで、ネットワーキングと意見交換が行われました。

名刺交換によるネットワーキング
名刺交換によるネットワーキング

お問い合わせ先

東京工業大学 産学連携推進本部 Techカフェ事務局 鈴木
Email : techcafe@sangaku.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2445

米国エネルギー省シャーウッド・ランドール副長官が東工大を訪問

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10月14日、米国エネルギー省のエリザベス シャーウッド・ランドール副長官とスタッフ10名が本学を訪問しました。

一行はまず、東工大蔵前会館2階の大会議室において、安藤真理事・副学長(研究担当)、丸山俊夫理事・副学長(教育・国際担当)、岸本喜久雄工学系長等と懇談を行いました。安藤理事の挨拶にはじまり、工学基礎科学講座のクロス・ジェフリー・スコット教授が本学のエネルギー・環境分野の取り組み等を、環境エネルギー協創教育院(ACEEES)outer教育院長である波多野睦子教授がACEEESでの教育活動状況を紹介し、質疑を行いました。

懇談の様子
懇談の様子

講演中のシャーウッド・ランドール副長官

講演中のシャーウッド・ランドール副長官

その後、1階のロイアルブルーホールに移動し、シャーウッド・ランドール副長官から「気候変動の枠組みと低炭素社会への移行」という演題でご講演をいただきました。本学からは、教員24名、学生85名、職員10名余、計約120名が聴講しました。副長官は、低炭素社会の構築に向けては、研究面でも政策面でも日米の連携が重要であると強調しました。

続いて、ACEEES教育プログラムを通じてエネルギー・環境分野の国際的課題に関しても幅広い見識を身につけた以下の博士課程学生4名が、副長官と膝を付き合わせて質疑を行いました。

  • 石尾淳一郎さん(大学院理工学研究科国際開発工学専攻 博士課程3年)
  • 三原麻未さん(大学院理工学研究科材料工学専攻 博士課程2年)
  • 久澤大夢さん(大学院総合理工学研究科材料物理科学専攻 博士課程2年)
  • 中田明伸さん(大学院理工学研究科化学専攻 博士課程2年)

ACEEES所属学生4名との質疑
ACEEES所属学生4名との質疑

市民のエネルギー節約意識を高めるための情報通信技術の活用、2011年の福島第一原発事故が米国の社会・政策に与えた影響、太陽光発電等の再生可能エネルギーの長期的展望等に関する学生からの質問に対して、副長官は明快に回答くださいました。

また、副長官から会場の学生に向けて、「世界で何を変えたいか、夢を語ってほしい」と質問が投げかけられました。挙手した3名の学生が、それぞれの専門分野を活かして発展途上国や国際社会の経済発展と環境保全に貢献したいと熱く語りました。

丸山理事・副学長との記念品交換

丸山理事・副学長との記念品交換

最後に、丸山俊夫理事・副学長(教育・国際担当)が閉会の挨拶をしました。その中で、来年度の教育改革において、エネルギーコースや環境・社会理工学院を設立し、エネルギー・環境分野の教育・研究をさらに強化していくので、米国エネルギー省やその傘下の国立研究所との緊密な連携をお願いしたいと述べました。

なお、翌日には講演会の様子が、シャーウッド・ランドール副長官及び在日米国大使館の公式ツイッターに掲載されました。

お問い合わせ先

環境エネルギー協創教育院
Email : aceees-staff@eae.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3955

11月の学内イベント情報

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2015年11月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

2015年11月の学内イベント情報


プラフェス2015 in ELSIを開催

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10月17日、東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の新棟である石川台7号館(ELSI-1)で、日本惑星科学会一般向けアウトリーチイベント「プラフェス2015 in ELSI」が開催されました。

プラフェスとは、Planetary Festivalの略で、研究者と一般の方との双方向交流イベントです。

トークショー「火星と氷衛星」 (左から臼井寛裕助教、関根康人准教授、玄田英典准教授)
トークショー「火星と氷衛星」 (左から臼井寛裕助教、関根康人准教授、玄田英典准教授)

1階のELSIホールでは、ELSIの玄田英典准教授の司会で、東京工業大学 臼井寛裕助教と東京大学 関根康人准教授によるトークショー「火星と氷衛星」が行われました。

液体の水の存在が示唆されて注目を集めている火星。その研究者である臼井助教と、木星の衛星エンケラダスなどの氷衛星を研究対象としている関根准教授が、それぞれの研究手法や今後の展望などを語りました。さらに、2人は米国のNASAに在席経験があったため、どのような流れでNASAで働くことになったかなど、体験した2人ならではのエピソードも披露しました。若手惑星科学者としてメディアなどでも注目を集める研究者ということで、トークショー後も2人の周りには直接質問をするお客様で列ができていました。

レンタルはかせ
レンタルはかせ

スノーボールアース時代の生き物について説明する関根康人准教授

スノーボールアース時代の生き物について説明する関根康人准教授

ELSIホールに隣接するELSIギャラリーでは、若手研究者と1対1で自由に会話を楽しむことが出来る「レンタルはかせ」と、スマートフォンアプリ「LINE」のスタンプ作りワークショップが行われました。

「レンタルはかせ」コーナーでは、系外惑星の捜し方、大陸移動説、スノーボールアース時代の生物についてなど科学的な質問から、大岡山周辺の美味しいラーメン屋さんについてなど、気軽な質問に博士らが回答しました。

「LINEスタンプ作りワークショップ」コーナーには、2歳前後の小さなお子様から大人の方までが幅広く参加し、架空の惑星にいる生命体のイラストを思い思いに描きました。集まったイラストは、年内にLINEスタンプとして、参加者の方に配布予定です。

LINEスタンプ作りワークショップ

LINEスタンプ作りワークショップ

3時間という短い開催時間でしたが、多くのお客様にご来場いただき、最新の研究成果の発表、若手研究者と一般の方の交流、小さなお子様へのサイエンスに対する興味喚起といった、本アウトリーチイベントのねらいを達成することができました。

地球生命研究所では、今後も積極的にアウトリーチイベントを行う予定です。

お問い合わせ先

地球生命研究所 広報室
Email : event@elsi.jp
Tel : 03-5734-3163

三島学長が第1回 日本・スウェーデン学長サミットに出席

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「第1回 日本・スウェーデン学長サミット」が10月3日に東京のスウェーデン大使公邸にて開催され、本学からは三島良直学長が出席しました。同サミットには、両国の主要大学22校の学長、副学長が参加し、両国における高等教育研究機関の国際化戦略と大学間の積極的交流に向けた展望をテーマに活発な議論を交わしました。

出席者集合写真

三島学長(中央)

三島学長(中央)

同サミットは、午前、午後の2部で構成され、午前の部では、両国の大学、政府関係者が国際化への取り組みについてプレゼンテーションを行いました。午後の部で行われたラウンドテーブルディスカッションでは、三島学長が本学とスウェーデンの大学間で行われている研究・学生交流の状況と今後の展望について説明しました。

会議の様子
会議の様子

本学は現在、スウェーデン王立工科大学、シャルマーズ工科大学、リンシェーピン大学の3校と全学協定を、他2校と部局間協定を結び、学生、研究者交流を活発に行っています。昨年9月にはウプサラ大学との合同シンポジウムを同大学で開催し、本年11月には、第2回目となる合同シンポジウムを本学で開催するなど、スウェーデンの大学とのさらなる連携が期待されています。

博物館特別展示「ノート考 ―古いノートに学ぶ教育の本質―」開催報告

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10月10日から23日まで、東京工業大学博物館で特別展示「ノート考 ー古いノートに学ぶ教育の本質ー」が開催されました。期間中、延べ6,474人が来場しました。

実際のノートが入った展示ケース

実際のノートが入った展示ケース

明治期の産業・工業教育のさきがけである東京高等工業学校は当初、教科書と板書は英語、そして秋入学でした。日本の近代化にともない指導的立場の人材育成に専念し、数多くの卒業生たちが全国で活躍しました。今回は、そんな日本の産業を興すべく設立された本学の前身校で学んだ3人の学生ノートを展示しました。

彼らには教科書がなく、道案内役である先生の話を板書に耳と眼を傾け、ノートの上に体系化することこそが、開拓者への第一歩でした。これらのノートからは、自分の理解を見える形にするという、現代のアクティブ・ラーニングに通じる学びの基本の姿をうかがうことが出来ました。

展示室の壁にもノートが映し出される
展示室の壁にもノートが映し出される

熱心に鑑賞する見学者

熱心に鑑賞する見学者

さらに今回の展示は、日本の近代化が押し進められていた明治~大正期における社会情勢を色濃く示唆するという点でも、大変興味深い内容でした。機械に関連する学科が多く、機械を扱える技術者養成が急務であったということを伺い知ることができるなど、数々の発見がありました。ノートは関連する科目ごとにまとめて製本され、それを通して教鞭をとった教員の授業・実習の様子も垣間見る事ができました。

教科書がなかった時代のノートを通して、学びの基本に立ちかえり、その当時の歴史・文化に対する造詣を深めるよい機会になりました。彼らの教育への道しるべとも言える、今回展示されたノートは、現代の若者たちにも印象深く、心に刻まれたことでしょう。

お問い合わせ先

東京工業大学博物館
Email : centjim@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3340

RU11「自由な発想に基づく独創性豊かで多様な研究を継続的に支援することの重要性について」(提言)

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学術研究懇談会(RU11)は、日本における最先端の研究・人材育成を担う、国立・私立という設置形態を超えたコンソーシアムです。北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の11大学で構成されています。

このたび、RU11の総長・塾長・学長は、自由な発想に基づく独創性豊かで多様な研究を継続的に支援することの重要性について提言をまとめました。

平成27年11月6日

自由な発想に基づく独創性豊かで多様な研究を継続的に支援することの重要性について(提言)

学術研究懇談会(RU11)

北海道大学総長
山口 佳三
東北大学総長
里見  進
筑波大学学長
永田 恭介
東京大学総長
五神  真
早稲田大学総長
鎌田  薫
慶應義塾長
清家  篤
東京工業大学学長
三島 良直
名古屋大学総長
松尾 清一
京都大学総長
山極 壽一
大阪大学総長
西尾 章治郎
九州大学総長
久保 千春

学術研究懇談会(RU11)は、設置形態を超えた11の大学による学術の発展を目的としたコンソーシアムであり、研究及びこれを通じた高度な人材の育成に重点を置き、世界的にも独創性豊かで多様な研究成果を発信し続けています。また、これまで学術研究の重要性を訴え、数多くの提言を社会に発信してきました。

このたび、大村智北里大学特別栄誉教授がノーベル医学生理学賞を、また梶田隆章東京大学教授がノーベル物理学賞を、それぞれ受賞されましたことに、心よりお祝い申し上げます。これで、日本人のノーベル賞授賞者は(米国籍の2人を含め)24人となり、2001年以降の自然科学分野での受賞者数については、世界2位となっています。ノーベル賞の受賞テーマの多くは、自由な発想に基づく独創性豊かな研究であり、当初は価値の定まっていない研究を忍耐強く長い年月をかけて深めていった帰結として、知の地平を拡大し、さらに人々への福祉に資する社会的価値を生みだすことで、人類社会全体に大きな貢献を果たしたものです。今回の両博士の受賞においても、個人の自由な発想を起点とする独創性豊かで多様な研究を大学において推進することが如何に重要であるかを示すものとなりました。こうしたノーベル賞の受賞テーマをはじめ、多様な分野にわたる学術研究は、社会・経済の長期的・持続的な発展に大きく寄与しており、この意味からも学術研究の振興は重要であります。

しかし、研究においてグローバル化が急速に進展し国際競争が激化する中で、日本の大学をとりまく環境は厳しさを増し、とりわけ研究を支える財政的基盤は年々縮小しています。このままでは将来に渡ってノーベル賞を生み出し続ける状況を維持できるか、強い危惧を抱かざるを得ない状態となっております。

RU11としては、今回のノーベル賞受賞を受け、日本の独創性豊かで多様な研究をより一層発展させる環境を整備するために、以下の研究支援策について提言致します。

1. 基盤的研究費(国立大学運営費交付金ならびに私学助成の確保)

独創的な研究成果の源泉は、自由な発想に基づく多様な研究を粘り強く進めることであり、それを生みだす土壌を支えることは最優先されるべきです。国立大学法人の運営費交付金は、法人化以降毎年減額され続け、平成27年度の10,945億円は平成16年度と比較して1,470億円(13.4%)の削減となりました。私立大学についても、経常費補助金における補助割合は50%が目標のところ、昭和55年度の29.5%をピークに減り続け、平成27年度は推計で10.1%にとどまっております。

これら交付金あるいは私学助成は、独創的な基礎研究を下支えするとともに、教育、運営、施設の維持・管理等の必須の財源として活用されてきました。各大学においては、運営の効率化を進め、外部資金の獲得を拡大する等様々な対策を講じ、厳しい財務状況に対応して参りました。しかし、新たな発想に基づく研究への支援、若手人材の雇用などの未来への投資や、施設の安全確保など、基盤的研究にとって不可欠な安定した財源が枯渇しています。RU11は、運営費交付金ならびに私学助成のこれ以上の削減は行わず、文部科学省が要求しているこれらの確保を確実に実現するよう、強く要望するものです。

2. 科学研究費補助金の充実

前述のように、大学には、自由な発想に基づく独創性豊かで多様な研究の推進が求められます。このような研究には、研究者の自由な発想によるテーマ設定と研究の進展状況に合わせた柔軟な研究進捗管理が重要となります。今回のノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章教授らのカミオカンデ、スーパーカミオカンデにおける一連の研究では、当初の目的である陽子崩壊の観測において、雑音とされていた大気ニュートリノの観測データの解析が、受賞理由であるニュートリノ振動の発見につながりました。この一連の研究は、約25年に渡ってほぼ継続する形で文部科学省の科研費による支援を受けております。また、大村智特別栄誉教授も科研費の助成を受けており、科研費は研究者を支える基盤的な研究支援制度として、他の競争的研究費にはない極めて重要な機能を果たしています。

また科研費は、研究者からの提案をピアレビューに基づく評価で厳正に審査し、大学の優れた研究を支える中核的な財源であるとともに、制度的にもいち早く基金化を導入し、研究の進捗に合わせた費目間流用も認めるなど、研究者にとって使い易く柔軟性の高いものとなっています。このように科研費は、独創性豊かで多様な研究を進める上で、極めて重要かつ有効な研究資金制度となっています。

しかし、この科研費でも、平成24年度以降予算額の横ばい状態が続いています。ノーベル賞受賞テーマに限らず、社会において大きな価値創造につながった研究についても、研究者の自由な発想に基づく提案型の研究が発端となったものは枚挙にいとまがありません。研究成果の指標である論文生産の質と量の向上の観点では、他の競争的研究費と比べても科研費が特に役立っていることを示す具体的なデータもあります。RU11としては、科研費の予算額が拡充されることに加えて、その本来的な機能が今後も十分に維持されるとともに、研究者が、継続的に、独創性豊かな多様で挑戦的な研究を粘り強く推進できるように、より充実した優れた制度へと展開されることを、強く望むものです。

3. 競争的研究費における間接経費の適切な措置

各研究者は研究費確保のため、各種競争的研究費の獲得に努力しています。競争的研究費は、基本的に、申請時に設定された具体的なテーマに固有で直接必要な物品の購入や、旅費、研究に直接関わる人件費等に充当されます。一方、個々の研究課題を遂行するためには、大学が自ら積み上げ維持してきた研究環境や設備機器も活用しています。学術文献の拡充、光熱水費、設備や建物の維持管理費、研究を支援する多様な人員の配置等、大学で研究活動を遂行する際に必ず必要とする、これら間接的な研究環境の整備も必須となります。これらは、一般に競争的研究費で直接措置することは難しい為、運営費交付金、私学助成、ないしは寄付金等で賄うこととなります。しかし、前述のように、削減される基盤的研究費でこれらを賄うことは、極めて難しい状況にあります。競争的研究費を獲得したとしても、大学は研究を支える財政的余裕がない状況が生じています。

このような問題を改善するためには、競争的研究費への間接経費の適切な措置が不可欠です。RU11ではこれまでも例年、間接経費を拡充するよう提言してきました。RU11の提言に応えて、文部科学省も間接経費の拡充を検討しています(「研究成果の持続的創出に向けた競争的研究費改革について(中間取りまとめ)」平成27年6月24日)。RU11は、文部科学省のこのような方針を強く支持するとともに、平成28年度予算において、全ての競争的研究費について直接経費に外付けされる形で、30%の間接経費が措置されることを強く要望するものです。

日本の基礎研究を中核的に担うRU11では、こうした研究支援策の拡充を求めるとともに、「世界的にも独創性豊かで多様な研究成果を発信し続ける」ことに加えて、国際共同研究の拡大、人事交流、留学生の派遣・受入れの促進、教育体制の改善などにもより一層努め、それら成果の正確な分析ならびに評価指針の構築を進めることにより、自らを革新する努力を進めて、国民の皆様の期待に応えて参ります。

お問い合わせ先

研究推進部研究企画課研究企画グループ
Email : pro.sien@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3803

「2015夏 実践型海外派遣プログラム報告会」開催報告

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東京工業大学 グローバル理工人育成コースによる実践型海外派遣プログラムで、10日間~1ヶ月間海外に留学した計60名の学生による報告会が、10月19日、21日、28日と3日間に分けて開催されました。今年の夏の実践型海外派遣プログラムでは、8つの超短期海外派遣プログラムと、1つの海外英語研修プログラムが実施されました。

インド派遣プログラムにて
インド派遣プログラムにて

インドの現地女子学生との交流

インドの現地女子学生との交流

本学は、「卓越した専門性」と「リーダーシップ」を併せもち、グローバル社会で活躍できる人材を育成するため、様々な海外派遣プログラムを開発・実施しています。

「グローバル理工人育成コース」は、国際水準の教育研究活動を行い得る、高度な能力を身に付けさせることを目的として設置されました。「国際意識醸成プログラム」、「英語力・コミュニケーション力強化プログラム」、「科学技術を用いた国際協力実践プログラム」、「実践型海外派遣プログラム」の4つのプログラムにより構成されています。実践型海外派遣プログラムのうち、アジア、欧米等への各国の大学、研究機関、企業、NPO等を受入れ先とした1ヶ月以内のプログラムを、「超短期海外派遣プログラム」と位置づけています。

今回は留学先の地域別に、各プログラム参加学生からの報告が行われました。

  • 10月19日・21日:理工系学生のための海外英語研修プログラム報告会(オーストラリアでのホームステイ型語学研修プログラム)

  • 10月21日:アジア超短期派遣プログラム報告会(台湾/インド/インドネシア/スリランカ)

  • 10月28日:欧州超短期派遣プログラム報告会(英国/フランス/ドイツ・オーストリア/スウェーデン)

ストックホルム大学にて日本語授業に参加

ストックホルム大学にて日本語授業に参加

皆で楽しんだ折り紙

皆で楽しんだ折り紙

各回ともに多くの学生が参加し、活発な質疑応答が交わされました。特に28日の報告会には、スペシャルゲストとして、スウェーデン大使館商務部及びアトラスコプコ社から計4名の方のご参加もあり、報告会後には、スウェーデン派遣参加学生及び企業インターンシップ参加学生との座談会も開かれました。

超短期派遣プログラムに参加した学生からは

  • 多くの事柄・考え方に触れたことで、自分が何をしたいのか、将来どのような人間になりたいのか、今の自分には何が足りていないのかを深く考えるきっかけを得ることができた
  • 実際に現地に訪れたことでわかったことが多く大変貴重な経験ができた。今後は研究だけでなく、言語力も身につけ多くの人と交流できるようにしたい

など、本プログラムが今後の学生生活や将来設計の参考になったといった声が多く聞かれました。

オーストラリア メルボルンの教会にて
オーストラリア メルボルンの教会にて

2016年春には、米国、英国、オーストラリア、シンガポール、タイ、フィリピンの6つの実践型超短期海外派遣プログラムと、オーストラリアで行われる海外英語研修プログラム、合計7つのプログラムを実施します。今後も、海外経験を積みたい、語学力を強化したいという東工大生のニーズに応えていきます。

お問い合わせ先

東京工業大学 国際室 / グローバル人材育成推進支援室
Email : intl.sgu@jim.titech.ac.jp / ghrd.sien@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3433 / 03-5734-3520

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